説明

応力発光解析装置、応力発光解析方法、応力発光解析プログラムおよび記録媒体

【課題】応力発光体の発光現象に基づいて、当該応力発光のひずみパターンを精度よく推定することができる応力発光解析装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る応力発光解析装置100は、応力発光体の発光パターンを特定するパラメータ、および、応力発光体を賦活状態に遷移させる賦活光の照射パターンを特定するパラメータおよび賦活光の照射終了時刻から応力発光の検知時刻までの経過時間を入力情報とし、応力発光体のひずみパターンを出力情報する、学習により予め最適化されたニューラルネットワークを用いた算出部140を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力発光体における発光現象に基づいて、当該応力発光体のひずみパターンを解析する応力発光解析装置および応力発光解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造体に欠陥が発生すると欠陥周辺に異常ひずみが生じ、構造体自体の破壊に繋がる場合がある。例えば、高架橋、橋梁、トンネルなどの大型構造体のみならず、圧力容器、住宅の支柱、パイプラインなどの様々な構造体にとって、欠陥は安全性を妨げる原因となる。そのため、構造体の欠陥やひずみを測定(検知)する技術は、多数開発されている。
【0003】
このような欠陥を検知する技術としては、応力発光体を利用する技術を挙げることができる。具体的には、ひずみエネルギーを受け取って発光する応力発光体を含有する膜(発光膜)を構造体の表面に設けることによって、構造体と同じく発光膜を歪ませることによって、応力発光体を発光させる。そして、この発光を測定することによって、構造体の欠陥を検知することが可能となる。
【0004】
非特許文献1には、応力発光体の発光強度とひずみとの間の相関関係について開示されている。
【0005】
非特許文献1には、格子欠陥(トラップ)制御型の応力発光体において、出力する光エネルギー(応力発光強度Iと残光強度Iの差I−I)が入力した歪エネルギー(∫σ(t)dε)に比例することが開示されている。ここで、応力発光強度、残光強度の値は格子欠陥(トラップ)に充填させたキャリアの状態(賦活化条件)により変化する(下記式(1)参照)。
【0006】
【数1】

【0007】
ここで、励起条件一定の場合、Kは一定である。
【0008】
また、出力エネルギーおよびひずみエネルギーは、それぞれ下記式(2)および(3)により算出される。
【0009】
【数2】

【0010】
【数3】

【0011】
なお、上記式(3)中、Yはヤング率である。
【0012】
これらに基づけば、出力する光エネルギーは、下記式(4)を用いて算出される。
【0013】
【数4】

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Mel Schwartz, ENCYCLOPEDIA OF SMART MATERIALS, “COATINGS” C.N.XU, John Wiley & Sons, Inc., Vol.1, pp190-201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、非特許文献1に記載されているような応力発光体の発光強度とひずみとの相関関係は、所定の条件下において測定した場合の例である。すなわち、測定条件が様々に変化した場合には必ずしも非特許文献1に開示されているような相関関係になるとは限らない。
【0016】
図4および図5においてその一例を示す。図4は、応力発光体の発光強度とひずみ速度との相関を示す図であり、図5は、応力発光体の発光強度とひずみ量との相関を示す図である。
【0017】
ここで、図4中の「●」は、応力発光体を賦活状態とする賦活光の照射終了後、ひずみ速度を60秒後に353〜31889μST/secの範囲で変化させて応力発光体をひずませた場合の発光強度をプロットしたものであり、非特許文献1に開示されているグラフと同等のものである。これに対して、図4中の「△」は、ひずませる時刻を賦活光の照射終了後、10〜20000秒の範囲で変化させた場合の発光強度をプロットしたものである。また、図4中の「×」は、ひずみ量(μST)を52〜1106μSTの範囲で変化させた場合の発光強度をプロットしたものである。
【0018】
図4において「●」を用いて示したグラフを一見すると、応力発光の発光強度からひずみ速度を容易に推定することができるようにみえる。しかし、図4において「×」および「△」を用いて示したように、賦活光の照射終了からの時間が異なるか、または同じひずみ速度であってもひずみ量が異なる場合には、応力発光の発光強度とひずみ速度との間の相関関係は崩れることになる。すなわち、上記式(4)を用いてひずみ速度を精度良く推定することは非常に困難である。
【0019】
また、図5中の「●」は、応力発光体を賦活状態とする賦活光の照射終了後、ひずみ量を60秒後に52〜1106μSTの範囲で変化させて応力発光体をひずませた場合の発光強度をプロットしたものであり、非特許文献1に開示されているグラフと同等のものである。これに対して、図5中の「△」は、ひずませる時刻を賦活光の照射終了後、10〜20000秒の範囲で変化させた場合の発光強度をプロットしたものである。また、図5中の「×」は、ひずみ速度(μST/sec)を353〜31889μST/secの範囲で変化させた場合の発光強度をプロットしたものである。
【0020】
図4の場合と同様に、図5の場合も「●」を用いて示したグラフを一見すると、応力発光の発光強度からひずみ量を容易に推定することができるようにみえる。しかし、図5において「×」および「△」を用いて示したように、賦活光の照射終了からの時間が異なるか、または同じひずみ量であってもひずみ速度が異なる場合には、応力発光の発光強度とひずみ量との間の相関関係は崩れることになる。すなわち、ひずみ速度の場合と同様に、上記式(4)を用いてひずみ量を精度良く推定することも非常に困難である。
【0021】
このように、応力発光体における発光強度は、様々な要因に起因して変化するため、限定された条件下において測定した発光パターンでない限り、応力発光の発光パターンからひずみパターン(ひずみ量およびひずみ速度)を精度良く推定することは、非常に困難であるという問題がある。
【0022】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、応力発光体の発光現象に基づいて、当該応力発光体のひずみパターンを精度よく推定することができる応力発光解析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本願発明者らは、応力発光体の発光に関するパラメータからひずみパターンを精度よく算出するための方法について鋭意検討した結果、ひずみパターンを算出する際の入力情報として所定のパラメータの組み合わせを用いることにより、ひずみパターンを精度良く推定することができることを見出した。
【0024】
本発明は、係る新たな知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を含む。
【0025】
本発明に係る応力発光解析装置は、上記課題を解決するために、応力発光体のひずみパターンを解析する応力発光解析装置であって、応力発光体の発光パターン、および、当該応力発光体を賦活状態に遷移させる賦活光の照射パターンに基づいて、上記応力発光体のひずみパターンを算出する算出手段を備えていることを特徴としている。
【0026】
本発明に係る応力発光解析装置は、応力発光体の発光パターンおよび当該応力発光体を賦活状態に遷移させる賦活光の照射パターンに基づいて、上記応力発光体のひずみパターンを算出する。
【0027】
すなわち、本発明に係る応力発光解析装置では、応力発光体を賦活状態に遷移させる賦活光の照射パターンを用いることにより、従来なしえなかった応力発光体のひずみパターンの推定を高い精度で行うことができる効果を奏する。
【0028】
このように、本願発明者らは、ひずみパターンを算出する際に従来用いられていた発光パターンを表すパラメータに加えて、従来のひずみパターンの算出には用いられていないような照射パターンのパラメータをひずみパターンを推定するための入力として用いた場合に、ひずみパターンを精度良く推定することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0029】
本発明に係る応力発光解析装置では、さらに、上記発光パターンは、賦活状態の上記応力発光体から出射される光の発光強度、上記応力発光体において生じた応力発光の発光強度、および当該応力発光の検知時刻により特定され、上記照射パターンは、上記賦活光の照射強度、上記賦活光の照射時間、および上記賦活光の照射終了時刻により特定され、上記算出手段は、上記発光パターン、上記照射パターン、および上記照射終了時刻から上記検知時刻までの経過時間に基づいて、上記ひずみパターンを算出することが好ましい。
【0030】
本発明に係る応力発光解析装置では、さらに、上記算出手段は、上記発光パターン、上記照射パターンおよび上記経過時間を入力情報とし、上記応力発光体のひずみパターンを出力情報とするニューラルネットワークであって、学習により予め最適化されたニューラルネットワークを用いることが好ましい。
【0031】
上記の構成によれば、本発明に係る応力発光解析装置では、ひずみパターンの算出のために、予め学習により最適化されたニューラルネットワークを用いている。
【0032】
ニューラルネットワークは、多入力多出力であり、かつ、非線形モデルにおける演算を非常に好適に実行することができる。したがって、入力情報および出力情報が多次元であり、かつ、発光パターンとひずみパターンとの関係が非線形となる本発明に係る応力発光解析装置においても、好適な出力情報(ひずみパターン)を算出することができる効果を奏する。
【0033】
本発明に係る応力発光解析装置では、さらに、上記算出手段として用いるニューラルネットワークは、階層型ニューラルネットワークであることが好ましい。
【0034】
本発明に係る応力発光解析装置では、さらに、上記階層型ニューラルネットワークは、誤差逆伝播法を用いて学習させた階層型ニューラルネットワークであることが好ましい。
【0035】
本発明に係る応力発光解析装置では、さらに、上記算出手段は、上記発光パターンおよび上記照射パターンに加えて、上記応力発光体の塗布された材質を示す材質情報により特定される環境パターンに基づいて、上記応力発光体のひずみパターンを算出することが好ましい。
【0036】
上記の構成によれば、発光パターンおよび照射パターンに加えて、応力発光体の塗布された材質を示す材質情報を含む環境パターンをひずみパターンを推定するための入力として用いている。
【0037】
これによって、応力発光体のひずみパターンの推定をより一層高い精度で行うことができる効果を奏する。
【0038】
本発明に係る応力発光解析装置では、さらに、上記材質情報は、上記応力発光体の塗布された材質の種類、ならびに、当該材質の形状および大きさを含むことが好ましい。
【0039】
本発明に係る応力発光解析方法は、上記課題を解決するために、
応力発光体のひずみパターンを解析する応力発光解析装置における応力発光解析方法であって、
応力発光体の発光パターン、および、当該応力発光体を賦活状態に遷移させる賦活光の照射パターンに基づいて、上記応力発光体のひずみパターンを算出する算出ステップを含むことを特徴としている。
【0040】
上記の構成によれば、本発明に係る応力発光解析装置と同様の作用効果を奏する。
【0041】
また、本発明に係る応力発光解析装置を動作させるためのプログラムであって、コンピュータを上記の各手段として駆動させることを特徴とするプログラムおよびそれらのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も本発明の範疇に含まれる。
【発明の効果】
【0042】
以上説明したように、本発明に係る応力発光解析装置は、応力発光体の発光パターン、および、当該応力発光体を賦活状態に遷移させる賦活光の照射パターンに基づいて、上記応力発光体のひずみパターンを算出する。
【0043】
これによって、応力発光体を賦活状態に遷移させる賦活光の照射パターンを用いることにより、従来なしえなかった応力発光体のひずみパターンの推定を高い精度で行うことができる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る応力発光解析装置の要部構成を示すブロック図である。
【図2】応力発光体における応力発光パターンを示す図であり、(a)は、賦活した後の残光強度および応力発光強度とひずみ量との関係を示す図であり、(b)は応力発光が生じた時のピークを詳細に示した図である。
【図3】実施例1において算出したひずみパターンと、実測したひずみパターンとの相関を示す図であり、(a)はひずみ量に関する相関を示す図であり、(b)はひずみ速度に関する相関を示す図である。
【図4】応力発光体の発光強度とひずみ速度との相関を示す図である。
【図5】応力発光体の発光強度とひずみ量との相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明に係る応力発光解析装置の一実施形態について、図1および図2を参照しつつ以下に説明する。まず、本実施形態に係る応力発光解析装置の要部構成を図1を参照して説明する。図1は、応力発光解析装置100の要部構成を示すブロック図である。
【0046】
(応力発光解析装置100の構成)
応力発光解析装置100は、図1に示すように、発光パターン取得部110、照射パターン取得部120、環境パターン取得部130および算出部140を備えている。なお、検知装置200、賦活光源300および表示装置400は、応力発光解析装置100の構成に含まれるものではないが、便宜上、応力発光解析装置100と併せて図1に図示している。これらの各部材の詳細について、以下に説明する。
【0047】
(発光パターン取得部110)
発光パターン取得部110は、検知装置200において検知された応力発光体の発光を表す発光パターンを取得する。発光パターン取得部110において取得した発光パターンの詳細については、下記に詳述するため、ここではその説明を省略する。
【0048】
(照射パターン取得部120)
照射パターン取得部120は、応力発光体を賦活状態に遷移させる賦活光源300において出射される賦活光の照射パターンを取得する。照射パターン取得部120において取得した照射パターンの詳細については、下記に詳述するため、ここではその説明を省略する。
【0049】
(環境パターン取得部130)
環境パターン取得部130は、応力発光体の周辺環境を示す環境パターンを取得する。環境パターン取得部130において取得した環境パターンは、例えば、材料情報により特定される。
【0050】
ここで、材質情報は、材質の種類、材質の形状および大きさに関するパラメータを含む。応力発光体を塗布する材質としては、特に限定されるものではないが、例えば、コンクリート、ステンレスおよびアルミニウムなどを挙げることができる。
【0051】
なお、材質情報は、ユーザーが操作入力部を介して予め入力した情報を参照すればよい。また、環境パターンは、材質情報以外にも、応力発光体の周囲の明るさ、および応力発光を生じたときの応力発光体の温度により特定されるようにしてもよい。
【0052】
(算出部140)
算出部140は、発光パターン取得部110において取得した発光パターンを特定するパラメータおよび照射パターン取得部120において取得した照射パターンを特定するパラメータ、および発光パターンを特定するパラメータおよび照射パターンを特定するパラメータに基づいて算出される時間情報を入力情報として、ひずみパターンを算出する。算出されたひずみパターンは、表示装置400に出力されて表示される。
【0053】
ここで、本明細書等における「ひずみパターン」とは、ひずみ量およびひずみ速度を意味している。また、ひずみ量とは、応力発光体に生じたひずみのピーク値を指しており、ひずみ速度とは、ひずみが生じてからピーク値に達するまでの単位時間あたりのひずみ量を指している。
【0054】
なお、算出部140の詳細については、下記に詳述するため、ここではその説明を省略する。
【0055】
(検知装置200)
検知装置200は、応力発光体からの発光を検知するためのセンサである。検知装置としては、例えば、フォトンカウンターを用いることができる。この場合、検知装置200は、応力発光体から発せられるフォトン数をカウントすることにより、発光強度を測定する。検知装置200としては、応力発光体から発せられた光を電流に変換することにより発光強度を測定するセンサであってもよい。このような装置としては、例えば、フォトダイオードまたはCCDカメラなどを挙げることができる。
【0056】
(賦活光源300)
賦活光源300は、応力発光体を賦活状態に遷移させるための光源である。賦活光源300として用いることができる光源としては、例えば、LED光源などを挙げる。しかし、応力発光体を賦活状態に遷移させる光(賦活光)を出射する光源であれば、LED光源に限定されるものではない。
【0057】
(表示装置400)
表示装置400は、応力発光解析装置100(における算出部140)において算出されたひずみパターンを表示するディスプレイである。
【0058】
なお、本実施形態では、検知装置200と、賦活光源300と、表示装置400とは、いずれも応力発光解析装置100とは別体の装置としているが、これに限定されるものではない。すなわち、検知装置200、賦活光源300および表示装置400は、応力発光解析装置100の一部となっていてもよい。
【0059】
(応力発光解析装置100の利点)
このように、応力発光解析装置100は、応力発光体の発光パターン、および、当該応力発光体を賦活状態に遷移させる賦活光の照射パターンに基づいて、応力発光体のひずみパターンを算出する。
【0060】
すなわち、応力発光体を賦活状態に遷移させる賦活光の照射パターンを用いることにより、従来なしえなかった応力発光体のひずみパターンの推定を高い精度で行うことができる。
【0061】
応力発光解析装置100においてひずみパターンの推定に用いられる発光パターンおよび照射パターンの詳細について、以下に説明する。
【0062】
(発光パターン取得部110の取得する情報の詳細)
次に、発光パターン取得部110が取得した発光パターンから抽出される情報の詳細について説明する。ここで、発光パターンを特定するパラメータは、応力発光の発光強度、応力発光が生じる直前の残光の発光強度、応力発光における単位時間あたりの発光増加率および応力発光の検知時刻である。これらのパラメータの算出方法について、図2(a)および(b)を参照しつつ、以下に説明する。図2(a)および(b)は、応力発光体における発光パターンを示す図であり、(a)は、賦活した後の残光強度および応力発光強度とひずみ量との関係を示す図であり、(b)は応力発光が生じた時のピークを詳細に示した図である。
【0063】
応力発光体は、賦活光源300から出射される賦活光により賦活状態に遷移すると、図2(a)における(1)のグラフにおいて示されるように、応力発光が生じていない場合であっても、光を発する。本明細書等では、賦活状態に遷移した応力発光体から出射される光であって、応力発光により出射される光ではない光を、「残光」と称し、残光の発光強度を残光強度(あるいは残光レベル)と称する。
【0064】
この残光強度は、図2(a)における(1)のグラフにおいて示すように、賦活光の照射を終了した直後が最も強く、時間の経過と共に徐々に弱くなっていく。この残光強度が、応力発光が生じたときの応力発光の発光強度を算出する際のベースラインとなる。なお、図2(a)における(1)のグラフは、応力発光体から出射される光の発光強度を示すグラフであり、(2)のグラフは、応力発光体のひずみ量を示すグラフである。また、図2(a)における縦軸は、応力発光体から出射される光の発光強度または応力発光体のひずみ量を示しており、横軸は、賦活光の照射を終了してからの時間を示している。
【0065】
ここで、図2(a)に示すように、賦活光の照射を終了してから10秒後に応力発光体にひずみを生じさせた場合、応力発光体は残光よりも強い強度の光を発する。これが、応力発光である。
【0066】
応力発光が生じた時の発光ピークについて図2(b)を参照して説明する。図2(b)に示すベースラインは、上述したように、応力発光が生じたときの残光強度(残光レベル)となる。すなわち、応力発光を生じた際の発光強度には、残光強度の分の発光強度が含まれている。したがって、応力発光における真の発光強度は、応力発光が生じた際の発光強度のピーク値から、この残光強度の値を引いた値となる(図2(b)参照)。本実施形態では、応力発光における真の発光強度を、発光ピークレベルと称する。
【0067】
さらに、本実施形態では、応力発光が生じた時点の時間から、応力発光が生じた際の発光強度のピーク値に達するまでの時間における単位時間あたりの発光強度の増加量を発光増加率と称する(図2(b)参照)。
【0068】
すなわち、検知装置200において検知され、発光パターン取得部110において取得された発光パターンからはまず、残光強度、応力発光の生じた際の発光強度、および発光の生じている時刻を特定することができる。そして、これらの各パラメータに基づいて、発光パターン取得部110は、応力発光体の発光ピークレベルおよび応力発光の発光増加率を算出を算出して取得する。これにより、発光パターン取得部110では、冒頭において記載した発光パターンを特定するパラメータである応力発光の発光強度、応力発光が生じる直前の残光の発光強度、応力発光における発光増加率および応力発光の検知時刻を取得することができる。
【0069】
(照射パターン取得部120の取得する情報の詳細)
続いて、照射パターン取得部120が取得する照射パターンを特定するパラメータの詳細について説明する。ここで、照射パターンを特定するパラメータは、賦活光源における賦活光の照射強度、照射時間および賦活光の照射終了時刻である。これらの照射パターンを特定するパラメータは、賦活光源300において設定されているため、賦活光源300から各パラメータを取得するようにすればよい。なお、応力発光解析装置100が賦活光源300を制御可能である場合には、自装置において設定されている賦活光の照射強度、照射時間、および照射終了時刻を取得するようにすればよい。
【0070】
(算出部140の詳細)
次に、算出部140の詳細について説明する。算出部140は、発光パターンを特定するパラメータ、照射パターンを特定するパラメータを入力情報とし、ひずみパラメータを出力情報とするニューラルネットワークを用いている。算出部140において用いるニューラルネットワークは、学習により予め最適化されていることが好ましい。
【0071】
算出部140において入力情報として用いられる発光パターンを特定するパラメータは、発光パターン取得部110において取得された応力発光の発光ピークレベル、応力発光が生じる直前の残光強度、応力発光における発光増加率の各パラメータである。また、照射パターンを特定するパラメータは、照射パターン取得部120において取得された賦活光源における賦活光の照射強度および照射時間の各パラメータである。
【0072】
さらに、算出部140において入力情報として用いられる時間情報は、発光パターン取得部110において取得されたパラメータである応力発光の検知時刻と、照射パターン取得部120において取得されたパラメータである賦活光の照射終了時刻とから算出した賦活光の照射終了からの経過時間である。すなわち、この時間情報は、図2(a)において示されている賦活光の照射終了後の経過時間に相当するものである。
【0073】
すなわち、本願発明者らは、精度よくひずみパターンを推定するための方法を鋭意検討した結果、発光パターンを上述した各パラメータにより特定し、かつ、照射パターンを上述した各パラメータにより特定することにより、ひずみパターンを精度良く推定できることを見出したものである。
【0074】
算出部140において用いるニューラルネットワークは、階層型ニューラルネットワークであることが好ましい。すなわち、算出部140において用いるニューラルネットワークには、入力信号を受け取り、他のニューロンへ分配するための入力用ニューロンと、出力信号を外部へ出力する出力用ニューロンと、入力用ニューロンと出力用ニューロンとの間において信号の受け渡しをするニューロンの3種類のニューロンが存在する。それぞれの区分に属するニューロン総称して、入力層、中間層、出力層とする。算出部140において用いるニューラルネットワークの構造は、出力層において好適な値が出力されるような構造であれば特に限定されるものではないが、4層構造であることが好ましい。4層構造とは、入力層および出力層がそれぞれ1層であり、中間層が2層である構造である。
【0075】
また、各層におけるユニット数(ニューロン数)は、ニューラルネットワークの構造に応じて適宜設定すればよい。なお、ニューラルネットワークの構造を4層構造とする場合のユニット数は、入力層側から順に、4、15、14、2とすることが好ましい。
【0076】
算出部140において用いるニューラルネットワークを最適化するための学習法は、用いるニューラルネットワークの構造に応じて適宜設定すればよい。算出部140において用いるニューラルネットワークが階層型ニューラルネットワークである場合には、学習法として誤差逆伝播法を用いることが好ましい。
【0077】
また、発光パターンを特定するパラメータ、照射パターンを特定するパラメータに加えて環境パターンを特定するパラメータを入力情報としてもよい。応力発光体の環境(例えば、応力発光材料の塗布されている材質の種類、形状および大きさに関するパラメータ)を入力情報として用いることにより、ひずみパターンをより一層精度良く推定することができる。
【0078】
(プログラムおよび記録媒体)
最後に、応力発光解析装置100に含まれている算出部140は、ハードウェアロジックによって構成すればよい。または、次のように、CPU(Central Processing Unit)を用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0079】
すなわち、算出部140は、各機能を実現するプログラムの命令を実行するMPUなどのCPU、このプログラムを格納したROM(Read Only Memory)、上記プログラムを実行可能な形式に展開するRAM(Random Access Memory)、および、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)を備えている。
【0080】
そして、本発明の目的は、算出部140のプログラムメモリに固定的に担持されている場合に限らず、上記プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、または、ソースプログラム)を記録した記録媒体を応力発光解析装置100に供給し、応力発光解析装置100が上記記録媒体に記録されている上記プログラムコードを読み出して実行することによっても、達成可能である。
【0081】
上記記録媒体は、特定の構造または種類のものに限定されない。すなわちこの記録媒体は、たとえば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などとすることができる。
【0082】
また、算出部140(または応力発光解析装置100)を通信ネットワークと接続可能に構成しても、本発明の目的を達成できる。この場合、上記のプログラムコードを、通信ネットワークを介して算出部140に供給する。この通信ネットワークは算出部140にプログラムコードを供給できるものであればよく、特定の種類または形態に限定されない。たとえばインターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(Virtual Private Network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等であればよい。
【0083】
この通信ネットワークを構成する伝送媒体も、プログラムコードを伝送可能な任意の媒体であればよく、特定の構成または種類のものに限定されない。たとえばIEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
【0084】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0085】
以下、実施例を示し、本発明の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な様態が可能である。
【実施例】
【0086】
〔実施例1〕
本実施例では、ステンレス製の板(幅40mm、長さ20mm、厚さ2mm)を構造物の一部と見立ててモニタリングの対象とした。
【0087】
ステンレス製の板の一端を固定すると共に、対向する一端をリニアスライダ(LT150CGS、日本トムソン社製)を用いて移動させ、板全体に曲げひずみを生じさせた。このとき、リニアスライダは、ランプ関数に従って移動させた。
【0088】
応力発光体は、固定端から5mmの位置に矩形状(縦40mm、横40mm)に塗布した。応力発光材料を塗布した直上には、フォトンカウンタ(C9692、浜松フォトニクス社製)を設置し、応力発光体からの発光の計測を行った。また、応力発光材料を塗布した直上には、応力発光体の賦活を行うためのLED光源(MDRL-CB31/MLEK-A080W1LR-100V、モリテックス社製)を設置した。なお、LED光源は、最大定格電流が0.5Aのものを用い、板より5cm離した位置から賦活光を照射した。
【0089】
応力発光材料を塗布した位置の背面には、ひずみゲージセンサを貼り付け、当該位置に生じるひずみパターンをアンプ(NR-500、キーエンス社製)により計測した。すなわち、フォトンカウンタによる応力発光を計測すると同時に、ひずみゲージによるひずみパターンの実測も行った。
【0090】
算出部140において用いるニューラルネットワークは、階層型のニューラルネットワークを用いた。ネットワークの構造は、4層構造とし、各層のユニット数は、入力層側から順に4−15−14−2とした。
【0091】
すなわち、算出部140において用いるニューラルネットワークにおける入力情報は、(1)応力発光のピークレベル、(2)応力発光の発光増加率、(3)応力発光を生じる直前の残光強度、(4)賦活終了後の経過時間の4つのパラメータとし、出力情報は、(1)ひずみ量および(2)ひずみ速度の2つのパラメータとした。
【0092】
なお、入力情報とする応力発光体の発光パターンを計測すると同時に、ひずみゲージにおいてひずみ量およびひずみ速度を計測した。ひずみゲージにおいて計測したひずみ量およびひずみ速度は、ネットワークにおける教師パラメータとして用いた。
【0093】
ニューラルネットワークを最適化する学習法としては、誤差逆伝播法を用いた。ここで、ニューラルネットワークの学習のためのサンプルとして、想定される発光パターンの計測値の特性をできる限り広範に含む学習サンプルを抽出することが望ましいため、本実施例では、賦活光の照射終了からの経過時間を10〜20000秒、ひずみ量を40〜1120μST、ひずみ速度を300〜30000μST/秒の範囲で変化させた際のひずみパターンと発光強度との関係をサンプルとして抽出した。
【0094】
抽出したサンプルを2等分し、一方を誤差逆伝播法を用いた学習に用いてニューラルネットワークを最適化した。
【0095】
誤差逆伝播法を用いて最適化したニューラルネットワークに、抽出したサンプルのうち、学習に用いていないサンプルを用いて、ひずみパターンを算出した。そして、算出されたひずみパターン(算出値)とひずみゲージにおいて計測されたひずみパターン(実測値)との相関を求めた。
【0096】
求められた算出値と実測値との相関関係について、図3(a)および(b)に示す。図3(a)および(b)は、応力発光解析装置100を用いて算出したひずみパターンの推定値と、ひずみゲージを用いて計測したひずみパターンの実測値との相関関係を示す図であり、(a)はひずみ量における推定値と真値(実測値)との相関を示す図であり、(b)はひずみ速度における推定値と真値(実測値)との相関を示す図である。
【0097】
図3(a)に示すように、ひずみ量において、本実施例により算出した推定値と真値(実測値)とは非常に高い相関関係を示すことが示された。また、図3(b)に示すように、、ひずみ速度においても、本実施例により算出した推定値と真値(実測値)とは非常に高い相関関係を示すことが示された。この結果から、本実施例に用いたひずみパターン算出手法を用いることにより、発光現象に基づいたひずみパターンの推定を、非常に高い精度で行うことができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明に係る応力発光解析装置は、構造体のひずみを測定する機器として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0099】
100 応力発光解析装置
110 発光パターン取得部
120 照射パターン取得部
130 環境パターン取得部
140 算出部
200 検知装置
300 賦活光源
400 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
応力発光体のひずみパターンを解析する応力発光解析装置であって、
応力発光体の発光パターン、および、当該応力発光体を賦活状態に遷移させる賦活光の照射パターンに基づいて、上記応力発光体のひずみパターンを算出する算出手段を備えていることを特徴とする応力発光解析装置。
【請求項2】
上記発光パターンは、賦活状態の上記応力発光体から出射される光の発光強度、上記応力発光体において生じた応力発光の発光強度、および当該応力発光の検知時刻により特定され、
上記照射パターンは、上記賦活光の照射強度、上記賦活光の照射時間、および上記賦活光の照射終了時刻により特定され、、
上記算出手段は、上記発光パターン、上記照射パターンおよび上記照射終了時刻から上記検知時刻までの経過時間に基づいて、上記ひずみパターンを算出することを特徴とする請求項1に記載の応力発光解析装置。
【請求項3】
上記算出手段は、上記発光パターン、上記照射パターンおよび上記経過時間を入力情報とし、上記応力発光体のひずみパターンを出力情報とするニューラルネットワークであって、学習により予め最適化されたニューラルネットワークを用いることを特徴とする請求項2に記載の応力発光解析装置。
【請求項4】
上記算出手段として用いるニューラルネットワークは、階層型ニューラルネットワークであることを特徴とする請求項3に記載の応力発光解析装置。
【請求項5】
上記階層型ニューラルネットワークは、誤差逆伝播法を用いて学習させた階層型ニューラルネットワークであることを特徴とする請求項4に記載の応力発光解析装置。
【請求項6】
上記算出手段は、上記発光パターンおよび上記照射パターンに加えて、上記応力発光体の塗布された材質を示す材質情報により特定される環境パターンに基づいて、上記応力発光体のひずみパターンを算出することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の応力発光解析装置。
【請求項7】
上記材質情報は、上記応力発光体の塗布された材質の種類、ならびに、当該材質の形状および大きさにより特定されることを特徴とする請求項6に記載の応力発光解析装置。
【請求項8】
応力発光体のひずみパターンを解析する応力発光解析装置における応力発光解析方法であって、
応力発光体の発光パターン、および、当該応力発光体を賦活状態に遷移させる賦活光の照射パターンに基づいて、上記応力発光体のひずみパターンを算出する算出ステップを含むことを特徴とする応力発光解析方法。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか1項に記載の応力発光解析装置を動作させるプログラムであって、コンピュータを上記の各手段として機能させるためのプログラム。
【請求項10】
請求項9に記載のプログラムを記録しているコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−190865(P2010−190865A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38306(P2009−38306)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.EEPROM
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人科学技術振興機構「応力発光体を用いた安全管理ネットワークシステム」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】