説明

応力緩和層を有する積層はんだ材の製造方法および製造装置

【課題】Sn基合金のように、低温での接合を可能とする接合特性、および、Pb基合金のように、半導体チップとパッケージの熱膨張係数の差による機械的ストレスを吸収することを可能とする応力緩和特性という2つの特性を同時に満たす、積層はんだ材からなる接合材料を提供する。
【解決手段】PbあるいはPb基合金からなるフープ状の応力緩和材に、該応力緩和材と略同一幅であり、該応力緩和材より薄く、かつ、該応力緩和材より低い融点を有するフープ状の接合材を、該応力緩和材の厚さ方向両側に重ね、かつ、1つ以上の横型ガイドロールおよび1つ以上の縦型ガイドロールにより、両材の位置合わせを行って供給し、圧下率を50%以上として冷間圧接(および仕上げ圧延)することにより、応力緩和層の厚さが50μm以上、接合層の厚さが20μm以上である積層はんだ材を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品接合用の積層はんだ材、特に、応力緩和層を有する積層はんだ材の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通電に伴って多量の熱が発生するパワートランジスタなどの半導体チップは、その発熱の程度によっては、強制冷却手段などを用いて効率的に冷却させながら作動させる必要がある。
【0003】
特許文献1は、このような半導体装置の冷却構造に関するが、その中で、使用される部材間に熱膨張係数の差がある場合には、部材間に用いられる金属接合材の厚さを50〜300μmとすることにより、実用的に応力緩和効果を発揮しつつ、熱抵抗を低く抑えることが可能であることが教示されている。
【0004】
かかる半導体チップの接合用材料(金属接合材)としては、SnおよびPbを主成分とするはんだ材が常用されている。特に、Sn−37質量%Pb共晶はんだ(Sn/37Pbはんだ)は、融点が183℃と低く、260℃以下のはんだ接合温度で接合することが可能であるため、電子部品の実装用はんだ材として好適である。
【0005】
また、Sn−Ag系、Sn−Sb系のようなSn基合金は、耐クリープ特性に優れ、半導体の低温接合用に用いられている。これらのPbを含まないSn基合金は、融点が200〜250℃程度であるため、Sn/37Pbはんだに代わるPbフリーはんだとしても着目されており、実用的には、例えば特許文献2に開示されているSn−Sb系はんだが使用されている。
【0006】
一方、Pbを主成分とするPb基合金は、Pbの含有量が85質量%以上の場合、融点が260〜400℃と高いものの、一般に軟質であるため、一定の厚さが確保されれば、基板に半導体チップを接合する場合において、熱膨張係数の差により発生する機械的ストレスを吸収することができる。このように、Pb基合金は、はんだ接合の熱疲労強さに優れることから、パワートランジスタのように面積の大きな半導体チップを、Cuベース材に接合する際の使用に適している。
【0007】
このように、用途に応じて様々な種類のはんだ材が使い分けられているが、例えば、サーバ用CPUなどの半導体チップとパッケージの接合においては、接合時の熱ダメージを極力抑えるために、低いはんだ接合温度により接合することが要求されるとともに、接合後のはんだ層に、ある一定の厚さを保持させることにより、半導体チップとパッケージとの熱膨張係数の差による機械的ストレスを吸収することが要求される場合がある。しかし、このように接合材および応力緩和材としての両方の特性が求められる場合、1種類のはんだ材で対応することは困難である。
【0008】
ところで、従来、コバールや42アロイなどの合金をベース材として、これにはんだ材をクラッドしたはんだクラッド材が、ヒートシンク用やパッケージ封止用に用いられている。これらの一般に使用されるはんだクラッド材は、図5に概略を示すような圧接機により、フープ(帯板)状のベース材と、その両面を覆うフープ状のはんだ材を、両側からワークロールで押圧して、冷間圧接することにより製造されている。このようなはんだクラッド材におけるベース材は、はんだ材と比較して硬い合金であり、前処理として、はんだ材との接合面をブラッシングによる荒らし処理やめっきなどにより接合しやすくしてから、製造に供されることが多い。一方、ベース材が比較的硬いことから、冷間圧接時におけるベース材とはんだ材とのズレは、圧接機のフォアテンションおよびバックテンションで調整することが可能である。
【0009】
一方、特許文献3には、Pb濃度の高いはんだ材の接合性を改善する目的で、Pb板をベース材とし、Sn−Pb合金を両面にクラッドして、3層構造のはんだクラッド材とすることが開示されている。しかし、かかるはんだクラッド材では、Sn−Pb合金層の厚さが1μm〜6μmしかなく、260℃以下のはんだ接合温度で接合することは困難であり、接合温度をPb板の融点まで上げる必要がある。また、加熱により、ベース材であるPb板も溶融してしまうため、溶融後は3層ではなく、全体に均一の組成の単一層となる。よって、3層のそれぞれが果たすべき役割の区別がなくなる上に、3層の厚さを制御することも不可能である。
【0010】
このように、従来、軟質のはんだ材同士を圧接するための技術は開示されておらず、上述のような半導体チップとパッケージとの接合などにおいては、応力緩和材および接合材となるはんだ材を個別に生産し、これらを使用時に組み合わせて接合するという作業を行なっており、手間を要するなど作業効率の点で問題がある。
【特許文献1】特開平9−275170号公報
【特許文献2】特開2002−321084号公報
【特許文献3】特公昭61−25471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、Sn基合金のように、低いはんだ接合温度で接合することができるという特性、および、Pb基合金のように、半導体チップとパッケージの熱膨張係数の差による機械的ストレスすなわち熱応力を吸収することができるという特性を同時に具備する接合用材料を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、かかる2つの特性を具備する接合用材料を、接合後も応力緩和層と接合層が保持され、かつ、接合を効率的に行うことができる積層はんだ材として提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る積層はんだ材の製造方法は、フープ(帯板)状の応力緩和材に、該応力緩和材と略同一幅であり、該応力緩和材より薄く、かつ、該応力緩和材より低い融点を有するフープ状の接合材を、該応力緩和材の厚さ方向両側に重ねて供給し、冷間圧接することを特徴とする。
【0014】
前記応力緩和材および前記接合材を重ねる際に、1つ以上の横型ガイドロールおよび1つ以上の縦型ガイドロールにより、両材の位置合わせをすることが好ましい。
【0015】
また、前記冷間圧接の後、少なくとも1段の仕上げ圧延を行い、該冷間圧接と該仕上げ圧延による合計の圧下率を50%以上とすることが好ましい。
【0016】
さらに、前記冷間圧接の後、または、前記冷間圧接および前記仕上げ圧延の後に、前記応力緩和層の厚さが50μm以上となり、かつ、前記接合層の厚さが20μm以上となるようにすることが好ましい。
【0017】
前記応力緩和材としては、PbあるいはPb基合金が用いられる。一方、前記接合材としては、SnあるいはSn基合金、または、InあるいはIn基合金が用いられる。
【0018】
本発明に係る積層はんだ材の製造装置は、フープ状の応力緩和材を供給するための応力緩和材供給リールと、該応力緩和材と略同一幅である、フープ状の接合材を供給するための接合材供給リールと、該応力緩和材と該接合材が重ね合わされた状態で、厚さ方向両側から押圧し、これらを冷間圧接するためのワークロールと、冷間圧接された積層はんだ材を巻き取る巻取りリールとを備え、前記応力緩和材と前記接合材が重ね合わされた位置に、1つ以上の横型ガイドロールと、1つ以上の縦型ガイドロールとを、交互に配置していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、剛性の低い軟質のはんだ材同士を確実に接合し、応力緩和特性と接合特性の両者に優れた積層はんだ材からなる接合材料を提供できる。
【0020】
かかる積層はんだ材においては、応力緩和層および接合層について、所定の厚さを保証することができる。よって、接合時および接合後において、両層がそれぞれの特性を発揮するため、低いはんだ接合温度で接合することができるという特性、および、半導体チップとパッケージの熱膨張係数の差による機械的ストレスすなわち熱応力を吸収することができるという特性の両立を1つの接合材料で達成できる。
【0021】
また、このような積層はんだ材を一段圧延で効率よく製造することが可能となる。
【0022】
これにより、従来、個別に製造され、使用時に組み合わせて使用していた複数の種類のはんだ材を、クラッド材として一体化したことで、従来の作業の煩雑さや、品種の取り違いなどの不都合をなくすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明について、図面を参照して説明する。図4に、応力緩和層を有する積層はんだ材の一態様について、はんだ接合の前と後を断面図で示す。
【0024】
応力緩和層を有する積層はんだ材は、典型的には、Pb含有量が85質量%以上であるPb基合金のように、融点が260〜400℃で、軟質である材料により形成され、厚さが50μm以上の応力緩和層の両面に、前記材料より低融点で、厚さが20μm以上の接合層がクラッドされている。
【0025】
このように応力緩和層と接合層の厚さを規定するのは、応力緩和層の厚さが50μm未満の場合は、熱応力吸収特性に乏しく、応力緩和特性を十分に発揮できないためであり、一方、接合層の厚さが20μm未満の場合は、被接合物の表面状態に適応した密着性に乏しく、応力緩和層の溶融を伴わずして安定した接合力を得られ難いためである。
【0026】
かかる積層はんだ材では、融点が260℃未満の接合材がクラッドされているため、260℃未満の低いはんだ接合温度でも、半導体チップとリードフレームのようなパッケージとのはんだ接合が可能となる。
【0027】
はんだ接合においては、Pb基合金からなる応力緩和層と、溶融した低融点の接合層との間で、固体/液体の拡散反応が進行する。しかしながら、はんだ接合温度が、応力緩和層の融点未満であるため、応力緩和層が溶融することはない。したがって、はんだ接合後において、溶融しなかった応力緩和層の厚さが維持され、かかる応力緩和層の存在により、半導体チップとパッケージとの間で、熱膨張係数の差による機械的ストレスを吸収することができる。
【0028】
かかる応力緩和層を有する積層はんだ材を製造方法の工程フローを図2に示す。応力緩和材および接合材のいずれについても、原材料を溶解および鋳造することによりインゴットを得て、該インゴットから押出し加工により素条を得て、該素条から圧延加工によりフープ(帯板)状の圧延材を得て、脱脂洗浄後に、それぞれの供給リールに装着したものを材料として使用する。該材料を、圧延機を用いて、3重圧接加工によりクラッド材を得て、必要に応じて、仕上げ圧延加工を施した後、該クラッド材を巻取りリールに巻き取る。その後、該クラッド材は、プレス加工により、打ち抜き品とされた後、製品として供給される。
【0029】
かかる製造装置(圧接機)としては、コバールや42アロイをベース材とするフープ(帯板)状のはんだクラッド材の製造に用いる、従来の生産設備(図5)を利用することが可能である。このような圧接機は、典型的には、フープ状のベース材を供給するためのベース材供給リールと、該ベース材と略同一幅である、フープ状のクラッド材を供給するためのクラッド材供給リールと、該ベース材と該クラッド材が重ね合わされた状態で、厚さ方向両側から押圧し、これらを冷間圧接するためのワークロールと、冷間圧接されたクラッド材を巻き取る巻取りリールとを備える。
【0030】
しかしながら、本発明においては、フープ状の応力緩和材およびフープ状の接合材がいずれもはんだ材であることから、前処理が不要となる代わりに、変形量が大きくなりやすい。このため、圧接機のフォアテンションおよびバックテンションの調整だけでは、応力緩和材と接合材のズレ(幅方向のズレ、ないしは、進行方向のズレ)が大きくなり、両者を冷間圧接する際に支障が生ずるおそれがある。
【0031】
そこで、図1に示すように、圧接前において、応力緩和材と接合材が重ね合わされた状態(位置)で、1つ以上の横型のガイドロールと縦型のガイドロールとを組み合わせた治具を使用することにより、両者のズレを事前に調整し、幅方向および進行方向において位置合わせを行う。
【0032】
はんだ材の性状から、これらのガイドロールは複数個設けて、交互に配置することが好ましいが、その数は、応力緩和材と接合材の種類、積層はんだ材の用途に応じて定められる各材料の厚さ、各層の厚さなどにより任意に定められ、好ましくは、それぞれの個数を調整できるようにしておくことが好ましい。
【0033】
こららのガイドロールの材質および寸法についても、応力緩和材および接合材の材質および寸法に応じて任意に定められる。本発明の一態様では、横型ガイドロールとしては、SUS304ステンレス製で、直径10mmφ、長さ78mmのもの、縦型ガイドロールとしては、SUS304ステンレス製で、直径22mmφ、長さ10mmのものが使用される。
【0034】
なお、この製造装置(圧接機)においては、従来と同様、ワークロールおよびバックアップロールにて4段ロールを形成しているものを用いることができる。
【0035】
応力緩和材および接合材を圧接するに際しては、両者が十分に塑性変形し、新生面の形成により圧接される必要があるため、冷間圧接後、もしくは、冷間圧接後に仕上げ圧延も行う場合には、その後において、合計の圧下率を50%以上とすることが好ましい。なお、圧下率(%)は、次式(式1)で求められる。
【0036】
圧下率(%)=(圧接前の合計厚さ−圧接後の合計厚さ)÷圧接前の合計厚さ×100(式1)
【0037】
また、積層はんだ材における、応力緩和層の厚さと、低融点である接合層の厚さは、いずれも冷間圧接前の応力緩和材および接合材の厚さにより、調整することが可能である。具体的には、図6に、三層圧延における材料の引張強度と総圧下率の関係を示したグラフを用いて求める。図示したグラフは、応力緩和材をPb/3Snとして固定し、接合材に各種はんだ材を使用した場合の圧下率を求めた実測値から算出して描かれている。したがって、材質を選定すると、材料の引張強度は、表1に示すように求められるので、得られた材料の引張強度から、図6により圧下率を求め、圧接後に必要な厚さと、求めた圧下率から、圧接前の厚さを算出し、材料の厚さを得る。
【0038】
【表1】

【0039】
さらに、冷間圧接の後、必要に応じて、さらに仕上げ圧延を施すことにより、3層全体の厚さを調整することができる。
【0040】
なお、材質の選定に関しては、応力緩和材は、260℃未満の低いはんだ接合温度で溶融することがなく、接合後も所定の厚さを維持でき、かつ、機械的ストレスを吸収する能力が必要であることから、Pbを主成分(85質量%以上)とするPb基合金からなるはんだ材を用いる。Pb含有量が85質量%未満である合金では、熱応力吸収特性は保持するものの融点が260℃を下回り、応力緩和層としての厚さが維持されない。
【0041】
一方、低融点の接合材は、260℃未満の低いはんだ接合温度で溶融し、半導体チップとパッケージとの間のはんだ接合を可能とする材料から選択可能であり、SnまたはSn基合金、もしくは、InまたはIn基合金のほか、融点260℃未満の金属あるいは合金から選択可能である。これらのうち、SnまたはSn基合金は、AuめっきおよびAgめっきには勿論のこと、Niめっきおよび被覆を施していないCuにも、良好な濡れ性を示すため、相手材の表面材質(めっきの種類など)を問わずに適用できる。また、InまたはIn基合金は、融点が、SnやSn基合金より低く、さらに低い温度でのはんだ接合が可能になるため、はんだ接合時の被接合物への熱ダメージを極力抑えることができる。
【0042】
なお、応力緩和特性を発揮するには、独立した応力緩和層の厚さを維持する必要がある。このため、応力緩和層の溶融温度と接合層の溶融温度との差は、80℃以上あることが好ましい。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
図1に、本発明の製造方法を実施する製造装置の一実施例を正面図および平面図で示す。本実施例では、図2に示した積層はんだ材の工程フローの中の3重圧接加工および仕上げ圧延加工において、本実施例の積層はんだ材を以下のように製造した。
【0044】
製造装置は、2つのワークロール、2つのバックアップロールから成る4段圧延ロール、3つの横型ガイドロール、および3つの縦型ガイドロールからなり、応力緩和材供給リールから繰り出された応力緩和材の厚さ方向両側に、2つの接合材供給リールから繰り出された低融点の接合材が圧接されて、巻取りリールに巻き取られるように、それぞれが配置される。
【0045】
バックアップロールは、直径203.2mm(8インチ)φ、長さ78mmであり、ワークロールは、直径76.2mm(3インチ)φ、長さ78mmである。また、横型ガイドロールは、直径は10mmφ、長さ78mmであり、縦型ガイドロールは、直径22mmφ、長さ10mmである。
【0046】
応力緩和材は、幅50mm、厚さ1.0mmのPb−3質量%Snはんだ(Pb/3Snはんだ)のフープ材からなり、接合材は、幅50mm、厚さ1.0mmのSn/3.5Agはんだからなる。Pb/3Snはんだの融点は、固相線:310℃、液相線:319℃であり、Sn/3.5Agはんだの融点は、221℃である。
【0047】
第1の冷間圧接では、50%の圧下率となるように、幅50mm、厚さ1.5mmであるクラッド材を得た。
【0048】
その後、前述の4段圧延ロールに代えて、直径101.6mm(4インチ)、長さ78mmである2段圧延ロールを使用して、厚さを1.5mmから1.0mmにする冷間圧延、厚さを1.0mmから0.75mmにする冷間圧延、厚さを0.75mmから0.35mmにする冷間圧延、厚さを0.35mmから0.30mmにする仕上げ圧延を順次行うことにより、幅50mm、厚さが約0.30mmであり、両面をSn/3.5AgでクラッドしたPb/3Snである本実施例の積層はんだ材を作製した。
【0049】
評価は、窒素雰囲気下、加熱温度200℃、加熱時間1分で、半導体チップとリードフレームのはんだ接合(濡れ性)試験による濡れ性評価を行い、はんだ接合後の断面状態の観察を行った。結果を表2に示す。
【0050】
(実施例2〜4)
応力緩和材および接合材の厚さを表2に示した値としたこと以外は、実施例1と同様にして、本実施例の積層はんだ材を作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0051】
(比較例1)
厚さ3.0mmのSn/3.5Agはんだを用いて、冷間圧接を行い、その後は、実施例1と同様にして、本比較例のはんだ材を作製し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
実施例1〜4および比較例1のいずれの場合も、よく濡れ、半導体チップとリードフレームを良好に接合したが、実施例1〜4では、はんだ接合後の厚さが0.15mmを超えていたのに対して、比較例1では、はんだ接合後の厚さが0.15mm未満であった。
【0054】
また、実施例1〜4では、中央部にPb/3Snが溶融せずに残っているのに対して、比較例1では、Sn/Agの共晶組織のみで形成されていたことが確認された。
【0055】
以上のことから、残存している応力緩和層が、はんだ接合後の厚さを保持していることが理解でき、このように残存している応力緩和層により、半導体チップとリードフレームの熱膨張率の差により発生する機械的ストレスを緩和することができる。
【0056】
(実施例5)
応力緩和材の材質および接合材の厚さを表3に示した値としたこと以外は、実施例1と同様にして、本実施例の積層はんだ材を作製した。
【0057】
評価は、窒素雰囲気下、加熱温度200℃、加熱時間1分で、半導体チップとリードフレームのはんだ接合(濡れ性)試験による濡れ性評価を行い、はんだ接合後の断面状態の観察を行った。結果を表3に示す。
【0058】
(実施例6、7)
応力緩和材の材質および接合材の厚さを表3に示した値としたこと以外は、実施例1と同様にして、本実施例の積層はんだ材を作製した。
【0059】
評価は、窒素雰囲気下、加熱温度200℃、加熱時間1分で、半導体チップとリードフレームのはんだ接合(濡れ性)試験による濡れ性評価を行い、はんだ接合後の断面状態の観察を行った。結果を表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
実施例5〜7のいずれの場合も、よく濡れ、半導体チップとリードフレームを良好に接合し、はんだ接合後の厚さが0.15mmを超えていた。
【0062】
また、実施例5〜7のいずれの場合も、中央部にPb/3Snが溶融せずに残っていることが確認された。
【0063】
以上のことから、残存している応力緩和層が、はんだ接合後の厚さを保持していることが理解でき、このように残存している応力緩和層により、半導体チップとリードフレームの熱膨張率の差により発生する機械的ストレスを緩和することができる。
【0064】
(実施例8)
応力緩和材の材質および接合材の厚さを表4に示した値としたこと以外は、実施例1と同様にして、本実施例の積層はんだ材を作製した。
【0065】
評価は、窒素雰囲気下、加熱温度200℃、加熱時間1分で、半導体チップとリードフレームのはんだ接合(濡れ性)試験による濡れ性評価を行い、はんだ接合後の断面状態の観察を行った。結果を表4に示す。
【0066】
(比較例2)
厚さ0.100mmのPb/3Snはんだの厚さ方向両面に、厚さ0.01mmのSn/3.5Agはんだを溶着することにより、本比較例の積層はんだ材を作製した。その後、実施例1と同様にして、評価を行った。結果を表4に示す。
【0067】
【表4】

【0068】
実施例8では、よく濡れ、半導体チップとリードフレームを良好に接合した。また、はんだ接合後の厚さが0.15mmを超えていた。しかしながら、比較例2では、一部、被接合材との濡れ不良が発生し、半導体チップとリードフレームの接合が不十分であった。そのため、はんだ接合後の厚さ測定は行わなかった。
【0069】
また、実施例8の場合も、中央部にPb/3Snが溶融せずに残っていることが確認された。
【0070】
以上のことから、残存している応力緩和層が、はんだ接合後の厚さを保持していることが理解でき、このように残存している応力緩和層により、チップとリードフレームの熱膨張率の差により発生する機械的ストレスを緩和することができる。
【0071】
なお、比較例2については、濡れ性評価が不良であったため、はんだ接合後の断面状態の観察を行っていない。
【0072】
本発明は、実施例に示した範囲に限定されることなく、他の組成や厚さを有する応力緩和材および接合材を使用しても、同様の効果が得られるものであり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で広く適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の製造方法を実施する製造装置の一実施例を示す正面図および平面図である。
【図2】本発明の製造方法の一実施例による工程フローを示す。
【図3】応力緩和層を有する積層はんだ材の一実施例について、はんだ接合後を示す断面図である。
【図4】応力緩和層を有する積層はんだ材の一実施例について、はんだ接合の前と後を示す断面図である。
【図5】従来のはんだクラッド材の製造装置を示す断面図である。
【図6】三層圧延における材料の引張強度と総圧下率の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フープ状の応力緩和材に、該応力緩和材と略同一幅であり、該応力緩和材より薄く、かつ、該応力緩和材より低い融点を有するフープ状の接合材を、該応力緩和材の厚さ方向両側に重ねて供給し、冷間圧接することを特徴とする応力緩和層を有する積層はんだ材の製造方法。
【請求項2】
前記応力緩和材および前記接合材を重ねる際に、1つ以上の横型ガイドロールおよび1つ以上の縦型ガイドロールにより、両材の位置合わせをすることを特徴とする請求項1に記載の積層はんだ材の製造方法。
【請求項3】
前記冷間圧接の後、少なくとも1段の仕上げ圧延を行い、該冷間圧接と該仕上げ圧延による合計の圧下率を50%以上とすることを特徴とする請求項1または2に記載の積層はんだ材の製造方法。
【請求項4】
前記冷間圧接の後、または、前記冷間圧接および前記仕上げ圧延の後に、前記応力緩和層の厚さが50μm以上となり、かつ、前記接合層の厚さが20μm以上となるようにすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層はんだ材の製造方法。
【請求項5】
前記応力緩和材として、PbあるいはPb基合金を用い、かつ、前記接合材として、SnあるいはSn基合金を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層はんだ材の製造方法。
【請求項6】
前記応力緩和材として、PbあるいはPb基合金を用い、かつ、前記接合材として、InあるいはIn基合金を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層はんだ材の製造方法。
【請求項7】
フープ状の応力緩和材を供給するための応力緩和材供給リールと、該応力緩和材と略同一幅である、フープ状の接合材を供給するための接合材供給リールと、該応力緩和材と該接合材が重ね合わされた状態で、厚さ方向両側から押圧し、これらを冷間圧接するためのワークロールと、冷間圧接された積層はんだ材を巻き取る巻取りリールとを備え、前記応力緩和材と前記接合材が重ね合わされた位置に、1つ以上の横型ガイドロールと、1つ以上の縦型ガイドロールとを、交互に配置していることを特徴とする積層はんだ材の製造装置。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−269075(P2009−269075A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123493(P2008−123493)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】