説明

急性移植拒絶反応のためのバイオマーカー

移植対象においてARの完全な臨床的顕在化が検出される前に、末梢血または移植生検組織において異なった量で発現する遺伝子に基づく、移植対象における急性拒絶(AR)の早期非侵襲性診断、ARを発症する危険性のある移植対象におけるARのモニタリング、移植対象におけるARの予防、阻止、軽減もしくは処置、またはARの予防、阻止、軽減もしくは処置の使用のための薬剤の同定のための方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移植者の移植組織または臓器状態をモニタリングする方法に関する。特に、本発明は、急性同種移植片拒絶反応の早期非侵襲性診断測定のための遺伝子発現分析の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓移植1年後の移植臓器の生着率は、シクロスポリンA(Neoral(登録商標))のような免疫抑制剤により約90%であるが、急性および慢性拒絶反応の両方とも、移植片喪失の原因としてまだ重要な過程である。今日、生検しか急性拒絶反応発現を確認できないため、非侵襲方法による急性腎臓同種移植片拒絶反応の早期検出は、いまだ満たされていない医学的要求である。急性拒絶(AR)に関する現在の標準診断アッセイは、血清クレアチニン(sCrea)の測定であるが、sCreaの上昇は腎臓移植片の約70%が既に損傷を受けているときの遅い事象であり、そしてそれはあまり特異的ではなく、診断生検による最終確認を必要とする。
【0003】
予測できる、感度の良い、信頼できる、および容易に測定できる非侵襲性急性拒絶バイオマーカーの必要性がある。このような援助は、例えば生検を減らし、それにより移植患者の生活の質を向上させるために、AR発現の早期検出による薬剤処置調節の最適化のために、そして最終的にはAR事象の数および重症度と密接な相関関係を示す長期間移植臓器生着率の改善により、価値がある。
【発明の開示】
【0004】
本発明は、ARを発症している患者における、末梢血ならびに移植生検材料、例えば腎臓生検材料で発現量の異なる遺伝子の同定に関する。該遺伝子のサブセットの得られる遺伝子発現パターンは、AR発症の高い統計学的に有意な予測性を可能にする。例えば、生命維持的他家移植腎臓モデル(BNからLewis)の、AR発症前の3、4および5日目および発症時の7日目のラットの血液において、mRNA転写物として同定された遺伝子を表1に示す。本明細書に記載の28個の遺伝子のNCBI RefSeqまたはGenBank受入番号を表1に列挙し、そしてNCBIから検索できる。対応するNCBI GenBank/RefSeq受入番号の下に示された配列は、引用により本明細書の一部とする。
【0005】
加えて、タンパク質マーカー、例えば表4に記載のマーカーは、腎臓移植片がARを有するおよび有さないラットの血清において同定されている。
【0006】
本発明により同定される遺伝子は、移植対象におけるARの早期診断のための予測バイオマーカーとして有用である。これらの遺伝子の任意の少なくとも1個の選択が、ARの早期診断のための代用バイオマーカーとして利用できる。特に有用な態様において、これらの遺伝子の複数を選択し、そして同時にこれらのmRNA発現を患者血液においてモニタリングし、様々な局面において使用するための発現プロフィールを提供できる。
【0007】
よって、本発明は、急性移植拒絶反応に関する早期バイオマーカー、例えば明白な臨床的または組織学的顕在化前のARに関するバイオマーカーとして、例えば表1に記載のとおりの遺伝子の使用を提供する。
【0008】
さらなる態様において、遺伝子発現産物(タンパク質)のレベルは、限定はしないが、血漿、血清、リンパ液、尿、便および胆汁を含む様々な体液または生検組織においてモニタリングできる。この発現産物レベルは、ARの早期診断のための代用マーカーとして使用でき、治療応答の指標を提供できる。例としては、例えば前駆B細胞コロニー促進因子(NCBI RefSeq 受入番号NM_005746)のコードタンパク質または表4のタンパク質の少なくとも1個である。
【0009】
mRNA発現レベルの検出方法は当分野で既知であり、限定はしないが、逆転写PCR、リアルタイム定量PCR、ノーザンブロットおよび他のハイブリダイゼーション法を含む。
【0010】
よって、本発明は、表1に記載の遺伝子の発現産物(例えばコードタンパク質)および/または急性移植拒絶反応に関する早期バイオマーカー、例えば明白な臨床的または組織学的顕在化前のARに関するバイオマーカーとしての、表4に記載のとおりのタンパク質の使用を提供する。
【0011】
複数の記載の遺伝子から得られるmRNA転写レベルの特に有用な検出方法は、オリゴヌクレオチドの秩序配列への標識mRNAのハイブリダイゼーションを含む。このような方法は、複数のこれらの遺伝子の転写レベルを、遺伝子発現プロフィールまたはパターンを産生するために同時に決定できる。ARを発症するリスクのある移植対象から得られる血液または生検試料由来の遺伝子発現プロフィールは、ARを発症するリスクのない移植対象から得られるサンプル由来の遺伝子発現プロフィールと比較できる。
【0012】
さらなる態様において、これらの遺伝子もしくはコードタンパク質の1個または複数の発現プロフィール測定が、AR抑制、例えば予防または処置のための薬剤の効力試験に関する、価値のある分子ツールを提供できる。移植患者が治療に暴露されている間、基準プロフィールが発現プロフィールから変化する。よって、本発明はまた、対象がAR治療に応答する可能性を決定するための移植対象のスクリーニング方法、AR徴候を有する移植対象の処置に有用である薬剤の同定方法およびARのための特定の薬剤処置の効力のモニタリング方法を提供する。
【0013】
1つの態様において、本発明は、
i)基準値として参照を使用して、異なる時間点で遺伝子に対応するmRNA発現レベルを測定し;および/または
ii)基準値として参照を使用して、異なる時間点で遺伝子に対応するタンパク質発現レベルを測定し;そして
iii)変化倍率(fold change)および/または統計試験でフィルターをかけ、該発現レベルデータを分析すること
により、移植対象の末梢血でARの発症前に異なった量で発現する少なくとも1個の遺伝子および/または1個のタンパク質の同定方法を提供する。
【0014】
“異なった量で発現”なる用語は、所定の同種移植片遺伝子の発現レベルを示し、対応する基準発現レベルの量より実質的に多いまたは少ない量として定義する。
【0015】
(ii)または(iii)における参照とは、ARを発症しないことが既知の、例えば1つまたはそれ以上の対象であり得る。
【0016】
さらなる局面において、本発明は、所定の体液または同種移植片組織サンプルにおける異なった量で発現される遺伝子の検出による、移植対象の、例えばインビトロでの早期AR診断方法を提供する。例えば、該方法は、
a)体液、例えば末梢血の少なくとも1個の遺伝子(臨床前ARモデルから生じた遺伝子、例えば表1に特定されている遺伝子)に対応するmRNA発現またはコードタンパク質レベルを基準値としてとり;
b)定期的、例えば4週間ごとに、移植患者の体液、例えば末梢血の少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現またはコードタンパク質レベルの検出し;
c)1回目の値と2回目の値を比較することを含み得て、ここで2回目の値よりも低いまたは高い1回目の値が、移植対象がARを発症することを予測する。
【0017】
ARの発症前またはARの早期診断は、ARの何らかの明白な臨床的もしくは組織学的顕在化前に、移植対象で検出することを意味する。
【0018】
さらなる局面において、本発明は、ARを発症するリスクのある移植対象において、AR阻害剤、例えば小分子、抗体もしくは他の治療剤または候補薬剤での、ARのモニタリング、例えば予防、阻止、軽減または処置方法を提供する。本発明のマーカーの発現レベルに対する、薬剤、例えば薬剤化合物の影響をモニタリングすることは、基本的薬剤スクリーニングにおいて適用できるだけでなく、臨床試験でもまた適用できる。例えば、マーカー発現に影響する薬剤の有効性を、AR阻止のための処置を受けている移植対象の臨床試験においてモニタリングできる。
【0019】
このような方法は、
a)薬剤の投与前に、移植対象から投与前サンプルを得、
b)投与前サンプルにおける、少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現またはコードタンパク質レベルを検出し、
c)移植患者から1個またはそれ以上の投与後サンプルを得、
d)投与後サンプル(複数を含む)における、少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現またはコードタンパク質レベルを検出し、
e)投与前サンプルにおける、少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現またはコードタンパク質レベルと、投与後サンプル(複数を含む)における、少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現またはコードタンパク質レベルを比較し、そして
f)それにより薬剤を調整することを含む。
【0020】
例えば、薬剤投与量の増加または減少が、少なくとも1個の遺伝子の発現レベルを検出されるよりも高いまたは低いレベルに変化するために望ましいことがある。上記方法において、薬剤はまた、単独でまたは組合せ治療において他の薬剤、好ましくは免疫抑制剤および/またはARにおいて有効な薬剤と組み合わせて投与できる。
【0021】
よって、ヒト体液、例えば末梢血または生検材料、例えばヒト腎臓プロトコール生検材料由来の遺伝子発現プロファイリングデータの取り込みが、ARの処置およびそれに向かう進行の予防の両方を目的とする、臨床試験中の、患者の選択工程の向上に役立つであろう。
【0022】
さらなる局面において、本発明はさらに、上記の少なくとも1個の遺伝子またはコードタンパク質のmRNA発現レベルをモニタリングすることを含む、AR予防、阻止、軽減または処置に使用するための薬剤の同定方法を提供する。
【0023】
さらなる局面において、本発明は、このような処置を必要とする移植対象に、少なくとも1種のAR症状を改善することができる、例えば表1および/または4に記載のとおりの、1個またはそれ以上の遺伝子または遺伝子発現産物の、合成、発現または活性を調節する化合物を対象に投与することを含む、AR予防、阻止、軽減または処置法を提供する。
【0024】
さらなる局面において、本発明は、移植対象におけるARの例えば予防または処置用薬剤として使用するための、1個またはそれ以上の上記定義の、例えば表1および/または4に記載のとおりの遺伝子または遺伝子発現産物の、合成、発現または活性を調節する化合物、例えば小分子、抗体もしくは他の治療剤または候補薬剤を提供する。
【0025】
さらなる局面において、本発明は、移植対象におけるARの予防または処置のための、1個またはそれ以上の上記で、例えば表1および/または4において定義の遺伝子または遺伝子発現産物の、合成、発現または活性を調節する化合物、例えば小分子、抗体もしくは他の治療剤または候補薬剤の使用を提供する。
【0026】
さらなる局面において、本発明は、移植対象におけるARの予防または処置用医薬の製造のための、1個またはそれ以上の上記で、例えば表1および/または4において定義の遺伝子または遺伝子発現産物の、合成、発現または活性を調節する化合物、例えば小分子、抗体もしくは他の治療剤または候補薬剤の使用を提供する。
【0027】
移植対象とは、ドナーから、好ましくは同種から組織または臓器、例えば腎臓、心臓、肺、心臓および肺の組合せ、肝臓、膵臓、腸(例えば、大腸、小腸、十二指腸)、神経組織、膵島、四肢を受け取った対象を意味する。
【0028】
好ましくは1個またはそれ以上の遺伝子、例えば1セットの遺伝子を、本発明の方法で使用する。
【0029】
既に言及したとおり、表1に記載の遺伝子のおよび/または、例えば表4に記載のとおりの遺伝子発現産物の少なくとも1個の任意の選択が使用できる。
【0030】
遺伝子発現プロフィールは、例えばAffymetrixマイクロアレイ技術を使用して生成できる。マイクロアレイは当分野で既知であり、そして遺伝子産物(例えばmRNA、ポリペプチド、それらのフラグメントなど)と順に対応するプローブが、既知の位置に特異的にハイブリダイズまたは結合できる表面からなる。スキャナーにより検出されるハイブリダイゼーション強度データは、AffymetrixマイクロアレイSuite(MAS5)ソフトウェアにより自動的に得られ、処理される。標的強度150を使用して、生データを発現レベルに対して標準化する。
【0031】
少数の異なる遺伝子の遺伝子発現プロフィールを評価する別のかつ好ましい方法は、例えば標準のTaqMan(登録商標)遺伝子発現アッセイまたはTaqMan(登録商標)低密度アレイ−マイクロ流体カード(Applied Biosystems)のいずれかによるものである。ここで、定量データを小反応量におけるリアルタイムRT−PCRにより入手する。
【0032】
細胞の転写状態は、当分野で既知の他の遺伝子発現技術により評価する。いくつかのこのような技術、例えば二重制限酵素消化とフェイジングプライマー(phasing primer)との組合せ方法(例えばEP-A1-0 534858)、または定義されたmRNA末端に最も近い部分の制限フラグメントを選択する方法(例えばPrashar et al, Proc. Nat. Acad. Sci., 93, 659-663, 1996)は、電気泳動分析のために、限定された複雑さの制限フラグメントのプールを産生する。他の方法は、例えば各cDNAを同定するために、各多数のcDNAにおいて十分な塩基(例えば20−50塩基)をシーケンシングすることにより、または定義されたmRNA末端(例えばVelculescu, Science, 270, 484-487,1995)経路パターンに対する既知の位置で生じる、小タグ(例えば9−10塩基)をシーケンシングすることにより、統計学的にcDNAプールをサンプリングする。
【0033】
本発明の他の態様において、マーカーに対応するタンパク質を検出する。本発明のタンパク質を検出するための好ましい薬剤は、例えばタンパク質に結合能力のある抗体、好ましくは検出可能標識を有する抗体である。抗体はポリクローナル、または好ましくはモノクローナルであり得る。完全な抗体またはそれらのフラグメント(例えばFabまたはF(ab’))を使用できる。“標識”なる用語は、抗体に検出可能な物質をカップリングすることによる抗体の直接標識、ならびに直接標識された別の試薬との反応性により抗体を間接標識することを包含することを意図する。様々な形式が、サンプルが、所定の抗体に結合するタンパク質を含むかどうかを決定するために使用できる。このような形式の例は、例えば酵素イムノアッセイ、ラジオイムノアッセイ、ウエスタンブロット分析およびELISAを含む。
【0034】
好ましい態様において、上記の方法の計算段階は、生物系モデルの形成および試験のための強力かつ便利な設備を提供するために、コンピューターシステムまたは1個またはそれ以上のネットワークコンピューターシステムで実行される。コンピューターシステムは、内部コンポーネントを含み、外部コンポーネントにリンクしている単一のハードウェアプラットフォームであり得る。コンピューターシステムの内部コンポーネントは、メインメモリーと相互接続した処理エレメントを含む。外部コンポーネントは、大量データ記憶装置を含む。このデータ記憶装置は、1個またはそれ以上のハードディスクであり得る。他の外部コンポーネントは、位置決め装置または他の図形入力装置と一体となった、モニターおよびキーボードであり得るユーザーインターフェース装置を含む。一般的に、コンピューターシステムはまた、他のローカルコンピューターシステム、遠隔コンピューターシステムまたは広域コミュニケーションネットワーク、例えばインターネットにリンクされている。このネットワークリンクは、コンピューターシステムが、データおよび処理作業の他のコンピューターシステムとの共有を可能にする。
【0035】
このシステムの操作中のメモリーにロードされるのは、当分野で一般的および本発明に専用である両方のいくつかのソフトウェアコンポーネントである。これらのソフトウェアコンポーネントは、集合的に本発明の方法により機能するためのコンピューターシステムをもたらす。これらのソフトウェアコンポーネントは、一般的に大容量または取り外し可能な媒体、例えばフロッピーディスクまたはCD−ROMに保存される。ソフトウェアコンポーネントは、コンピューターシステムおよびそのネットワーク相互接続の処理を担うオペレーティングシステムを示す。好ましくは、本発明の方法は、方程式の記号入力および、使用されるアルゴリズムを含む処理の高レベルの特定化ができる、数学パッケージソフトウェア中にプログラミングされ、そしてそれにより、ユーザーが個々の方程式またはアルゴリズムを進行的にプログラミングする必要をなくす。
【0036】
好ましい態様において、分析ソフトウェアコンポーネントは現に、互いに相互作用する別々のソフトウェアコンポーネントを含む。分析ソフトウェアは、システムの操作のために必要なすべてのデータを含むデータベースを示す。このようなデータは、限定はしないが、一般に前の実験の結果、ゲノムデータ、実験手順ならびにコスト、および当業者には明白である他の情報を含み得る。分析ソフトウェアは、本発明の分析方法を実行する1種またはそれ以上のプログラムを含むデータ整理および計算コンポーネントを含む。分析ソフトウェアはまた、ネットワーク試験モデルおよび、所望により、実験データのコントロールおよびインプットを備えたコンピューターシステムをユーザーに提供する、ユーザーインターフェースを含む。ユーザーインターフェースは、システムに仮説を特定させるために、ドラッグ・アンド・ドロップ・インターフェースを含み得る。ユーザーインターフェースはまた、大容量記憶コンポーネントから、取り外し可能な媒体から、またはネットワークを介して本システムと接続する異なるコンピューターシステムから実験データをローディングする手段を含む。
【0037】
本発明はまた、本発明で述べる少なくとも1個のマーカー、例えばmRNAを含む、データベース作成法を提供する。例えば、ポリヌクレオチド配列は、データ処理システムがARの早期診断を同定する遺伝子を標準化された表示するように、デジタル記憶媒体に保存する。データ処理システムは、異なる時間、例えば移植日および移植後に得られる2つの体液または組織サンプル間の遺伝子発現分析に有用である。単離ポリヌクレオチドをシーケンシングする。サンプルの配列は、相同性検索技術を使用して、データベースに存在する配列(複数も含む)と比較し得る。本発明の分析方法を実行するための、代わりのコンピューターシステムおよび方法は、当業者に明らかであり、添付の特許請求の範囲内に包含されることを意図する。
【実施例】
【0038】
診断マーカーの同定のための臨床前ARモデル
生命維持的BNからLewis腎臓移植ラットモデル(7日目にAR発症)におけるバイオマーカー試験に関して、10匹の同種異系移植および10匹の同種同系移植ラットのすべてに各々に免疫抑制レジメンなしで同時に移植し、異なる3つの時点(移植後3、4、5日)で終了する。加えて、非生命維持的同種同系移植対照を各6匹のラット、2グループで行った。約1360個のプローブ(血液、血清、尿、移植組織)を一斉にサンプル化する。移植組織および血液化学変化の測定をプロテオーム、トランスクリプトーム、およびメタボノミクス分析を組み合わせて一緒に適用する。
【0039】
RNA抽出:全血をEDTA−ETチューブ(Sarstedt)に回収し、2アリコート(2ml、0.25ml)を、各々Ca2+/Mg2+非含有、同量のPBSで満たした15ml Falconまたは2ml エッペンドルフチューブに各々移す。混合後、同量のNucleic Acid Purification Lysis Solution(Applied Biosystems)を加え、チューブをボルテックスし、−20℃で保存する。全RNAを製造業者の指示にしたがって6100 Nucleic Acid PrepStation(Applied Biosystems)により、血液溶解物から抽出する。腎臓皮質同種異系移植片サンプルをRNAlater(Ambion)に回収し、一晩+4℃、次いで−80℃で保存する。最後に、組織をFastPrep FP120(Savant)でホモジェナイズし、全RNAをRNeasyキット(Qiagen)を使用して単離する。RNAの質をAgilentの2100 Bioanalyzer labchipsによりコントロールし、量を分光光度法で測定する。
【0040】
遺伝子チップ分析:全体で、3種の移植(同種異系移植(BNからLewis)、同種同系移植(LewisからLewis)ならびに非生命維持的同種同系移植(LewisからLewis))および3つの時点(生命維持的同種異系移植および同種同系移植操作後3、4、5日、非生命維持的同種同系移植後3、4日)を含む、末梢血由来の60サンプルが、遺伝子チップ分析のための質および量(5−10μg 全RNA)基準に適合し、これは6個の血液RNAサンプルが最小グループサイズである合計8グループをもたらす。
【0041】
RNAサンプルを、製造業者のプロトコールにしたがってAffymetrix GeneChip(登録商標) Rat Expression 230Aで、処理し、標識化し、ハイブリダイズする。発現値をAffymetrix Microarray Suite(MAS)バージョン5の統計的アルゴリズムにより計算する。MAS5標準化データをGeneSpring(登録商標)6.2(Silicon Genetics)により分析する。値を標準化し(チップあたり:定常値−150)、すべてのプローブセットを、生の値(80以上)およびフラッグ(存在および境界)でふるいにかけ、15923個のプローブセットの約半分を取り除く。すべてのサンプルを、Affymetrix Quality featuresおよび条件クラスタリングを使用して質特性に関して確認する。
【0042】
データを、対応するグループ(d3同種移植片対d3同種同系移植など)間の統計学的検定と組み合わせた対応するグループ(d3同種移植片対d3同種同系移植など−カットオフ:2倍)間の変化倍率の統計学的ふるいを使用して分析する。試験として、0.005または0.005のP値カットオフを使用するノンパラメトリックWilcoxon−Mann−Whitney検定および多試験補正(Benjamini and Hochberg False Discovery Rate)を使用する。有意に異なった量で発現する遺伝子の計算した変化倍率を、表2に記載する。
【0043】
TaqMan確認:選択し同定された候補ARマーカー遺伝子発現を、製造業者の標準プロトコールにしたがって、7900HT Sequence Detection System(Applied Biosystems)での、市販TaqMan(登録商標)Gene Expression AssaysおよびUniversal PCR Master Mix(Applied Biosystems)を用いる定量リアルタイムRT−PCRにより確認する。結果を表3に記載する。
【0044】
トランスクリプトーム分析と同時に、10匹の個々のラットの等量の血清を、二次元ゲル電気泳動法に使用する差次的発現のためのサンプルを提供するために集める。10μlの集めた血清を記載のとおりの390μlのサンプルバッファーで希釈する(Rabilloud T, Electrophoresis 19 (1998), 758-60)。二次元電気泳動を記載のとおりに行う(Hoving et al., Electrophoresis 21 (2000), 2617-21)。5つのゲルの各サンプルを同時に流し、蛍光染色剤Sypro Ruby(Molecular Probes)で染色する。染色したゲルを16ビットのピクセルの深さのTIFFファイルとして、FLA−3000蛍光画像装置(Fuji)でデジタル化する。画像解析をProgenesis(Non−Linear Dynamics)ソフトウェアパッケージで行う。スポット強度(スポット量、エリア全体の光学密度の積分)を標準化し、統計学的にスチューデントt検定を使用して比較する。同種異系移植動物と対応する同種同系移植対照間の有意な差異(t検定でp<0.05、および2倍の量の差異)であるスポットをゲルから切り出し、含有タンパク質を、4700 Proteomic Analyzer(Applied Biosystems)を使用してMALDI−MSおよびMS/MSにより同定する。タンパク質同定は、Mascot(Matrix Science)ソフトウェアを使用する、SwissProtおよび/またはGenBankデータベースでの実験的に得られたマススペクトルの適合に基づいている。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

【0050】
【表6】

【0051】
【表7】

【0052】
【表8】

【0053】
【表9】

【0054】
BNからLewis腎臓移植試験由来、同種異系および同種同系移植ラットの末梢血での定量TaqMan実験を、市販TaqMan登録商標遺伝子発現アッセイ(Applied Biosystems)で既知の遺伝子について行う。相対定量を18S rRNAへの標準化により適用する。一般的に、得られたすべての値は、グループあたり6個のランダムに選択した血液サンプルの分析によるAffymetrix遺伝子チップデータとよく一致し、そして4日目の3個の同種同系移植血液サンプルのすべての平均値と比較する。
【0055】
【表10】

多数のイソ型の場合、各々のイソ型の見かけのpIを、任意に指定して示す;P値(5日目のサンプル)、t検定による;5日目のサンプルで決定される値、同種異系移植片サンプルにおける正の値は上方制御、負の値は下方制御を示す、de novoは、1グループだけにおいて見いだされたスポットを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)体液、例えば末梢血の臨床前急性同種移植片拒絶反応(AR)モデルから得られる少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現またはコードタンパク質レベルを基準値としてとり;
b)定期的、例えば4週間ごとに、移植患者の体液、例えば末梢血の少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現またはコードタンパク質レベルを検出し;
c)1回目の値と2回目の値を比較することを含み、ここで2回目の値よりも低いまたは高い1回目の値が、移植対象がARを発症することを予測する、
を含む、移植対象におけるARの早期診断方法。
【請求項2】
a)薬剤の投与前に、移植対象から投与前サンプルを得、
b)投与前サンプルにおける、臨床前ARモデルから得られる少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現またはコードタンパク質レベルを検出し、
c)移植患者から1個またはそれ以上の投与後サンプルを得、
d)投与後サンプル(複数を含む)における、少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現またはコードタンパク質レベルを検出し、
e)投与前サンプルにおける、少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現レベルまたはコードタンパク質と、投与後サンプル(複数を含む)における、少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現レベルまたはコードタンパク質を比較し、そして
f)それにより薬剤を調整すること
を含む、ARを発症するリスクのある移植対象におけるARをモニタリングする方法。
【請求項3】
臨床前ARモデルから得られる1個またはそれ以上の遺伝子または遺伝子産物の合成、発現または活性を調節し、少なくとも1種のARの症状を改善することができる化合物を対象に投与することを含む、このような処置を必要とする移植対象におけるAR予防、阻止、軽減、または処置のための方法。
【請求項4】
例えば移植対象におけるARの予防または処置のための医薬としての使用のための、臨床前ARモデルから得られる1個またはそれ以上の遺伝子または遺伝子産物の合成、発現または活性を調節する化合物。
【請求項5】
移植対象におけるARの予防または処置のための、臨床前ARモデルから得られる1個またはそれ以上の遺伝子または遺伝子産物の合成、発現または活性を調節する化合物。
【請求項6】
移植対象におけるARの予防または処置用医薬の製造のための、臨床前ARモデルから得られる1個またはそれ以上の遺伝子または遺伝子産物の合成、発現または活性を調節する化合物の使用。
【請求項7】
急性移植拒絶反応に関する早期バイオマーカーとしての、表1に記載の遺伝子または遺伝子発現産物の使用。
【請求項8】
移植対象が腎臓、心臓、肝臓、肺または腸移植対象である、請求項1から6のいずれかに記載の方法、化合物または使用。
【請求項9】
遺伝子が表1に特定される遺伝子の群から選択される、請求項1から6のいずれかに記載の方法、化合物または使用。
【請求項10】
遺伝子発現の発現レベルを遺伝子発現産物に対応するタンパク質の存在の検出により評価する、請求項1から6のいずれかに記載の方法、化合物または使用。
【請求項11】
タンパク質に特異的に結合する試薬を使用してタンパク質の存在を検出する、請求項1から6のいずれかに記載の方法、化合物または使用。
【請求項12】
1個またはそれ以上の遺伝子のmRNA発現レベルをノーザンブロット分析、逆転写PCRおよびリアルタイム定量PCRからなる群から選択される技術により検出する、請求項1から6のいずれかに記載の方法、化合物または使用。
【請求項13】
遺伝子セットのmRNA発現レベルを検出する、請求項1から6のいずれかに記載の方法、化合物または使用。
【請求項14】
実質的に上記定義および上記記載の方法、化合物、遺伝子もしくは遺伝子発現産物または使用。

【公表番号】特表2008−512646(P2008−512646A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−528790(P2007−528790)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【国際出願番号】PCT/EP2005/009526
【国際公開番号】WO2006/027192
【国際公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】