説明

急性腎不全又は急性腎不全発症リスクのマーカーとしての尿中GM2活性化タンパク質

本発明は、タンパク質であるガングリオシドGM2活性化タンパク質(GM2AP)を検出及び/又は定量することにより、個体における急性腎不全(ARF)を発症するリスクを決定する方法、又はARFを決定する方法、及びARFの進行を予測する方法に関する。急性腎不全は、少なくとも1種の腎毒性物質の投与に起因することがあり、このとき、腎毒性物質は、例えばゲンタマイシンのようなアミノグリコシド系抗生物質であり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質であるガングリオシドGM2活性化タンパク質(GM2AP)を検出及び/又は定量することにより、個体における急性腎不全(ARF)を発症するリスクを決定する方法、又はARFを決定する方法、及びARFの進行を予測する方法に関する。急性腎不全は、少なくとも1種の腎毒性物質の投与に起因することがあり、このとき、腎毒性物質は、例えばゲンタマイシンのようなアミノグリコシド系抗生物質であり得る。
【背景技術】
【0002】
急性腎不全(ARF)は、老廃物及び水の血液浄化、並びに電解質平衡を妨げるのに十分な、腎臓の排泄機能の急激な損失に起因する極めて重篤な状態である(Bellomo R、Kellum JA及びRonco C.2007、Intensive Care Med.33:409〜13)。ARFは、薬剤、化学毒、低酸素、泌尿手段の閉塞、感染などを含む多種多様な損傷原因によって引き起こされ得る(Binswanger U.1997、Kidney Blood Press Res.、20:163)。ARFは、高い発生率及び死亡率に由来する、莫大な、ヒトへの社会経済的負担を引き起こす。入院のうちの1%近くがARFに関連すると推定され、入院患者のうちの約2〜7%が最終的にARFを発症する(Kellum JA及びHoste EA.2008、Scand J Clin Lab Invest Suppl.、241:6〜11)。
【0003】
ARFのより成功する臨床処置の重要な決定因子は、損傷がまだ可能な限り軽度なときの、極めて早期の診断であり、(可能な場合の)損傷回復の効力、治療的介入及び患者の転帰を大きく向上させる。したがって、より早期の且つより感度が高いバイオマーカーの同定は、明白な目標である。臨床診療では、ARFは、依然として、腎機能障害が測定可能な症状を生じたときに診断される。この診断は、典型的には、血液中のクレアチニン及び尿素のレベルの決定に依存する。これらの血清中濃度は、最も一般的には、GFR(糸球体濾過量)が低下するにつれて上昇する。しかし、この段階では、ARFを処置するのが困難になる。したがって、現在の診断の傾向は、損傷が広がっていないときに、早い段階で生じる初期の病態生理学的事象を検出することを目指している(Vaidya VS、Ferguson MA及びBonventre JV.2008、Rev Pharmacol Toxicol.、48:463〜93)。
【0004】
中でも、尿細管細胞の破壊の結果として尿中に存在する特定の細胞酵素の測定は、尿細管損傷と共に進行するARFを早期に検出するための現在最も鋭敏な方法である。これらの酵素としては、N−アセチル−ベータ−D−グルコサミニダーゼ(NAG)が挙げられるが、乳酸デヒドロゲナーゼ(DHL)、アルカリホスファターゼ(ALP)又はガンマ−グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)などの他のものも含まれる。これらの酵素の大部分は、主に、安定性の問題及び尿中の他の成分による阻害のために、ARFの早期の且つ感度が高い尿中マーカーとして中程度の価値を有する(Vaidya VS、Ferguson MA及びBonventre JV.、2008、Rev Pharmacol Toxicol.、48:463〜93)。日常の解析パラメータとしてはめったに使用されないが、明らかに、NAGは、腎障害の鋭敏なマーカーとして最も良く特徴付けられている。新しい尿中マーカーは、現在、ARFの極めて早期の診断及び予知のための検証が進んでいる段階にある。新しい尿中マーカーとしては、腎障害分子−1(KIM−1)、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)、プラスミノーゲン活性化因子阻害因子−1(PAI−1)、シスタチンC、インターロイキン18、レチノール結合タンパク質(RBP)などが挙げられる。
【0005】
ARFに関するもう1つの重要な側面は、腎毒性の可能性がある特定の薬剤が、準毒性用量で、他の腎毒素に反応してARFにより罹患しやすくなるように、個体を罹患しやすくするか又は敏感にする作用である。薬剤(例えば、ゲンタマイシン)で治療される腎疾患の徴候を示していない患者が、同様に理論的に準毒性の療法の範囲内の別の腎毒性の可能性がある作用剤、例えば、別の薬剤、診断の対照、重金属などを同時に又は続いて投与される又は曝露されるという典型的な臨床的状況が存在する。その場合、潜在的な腎毒素での準毒性治療は、診断及び治療の観点から対処されるべきである、その隠れた性質のために、特別な重要性のある関連する臨床的状況を引き起こすであろう。
【0006】
最近は、腎不全は、異なるパラメータを使用して診断される。例えば、急性腎不全の異なる段階を定める、急性腎不全(ARF)の診断のための一致基準がある。この一致基準は、頭字語RIFLEと命名され(Ricci Z、Cruz D及びRonco C.2008、Kidney Int.、73:538〜46)、血清クレアチニンの上昇、糸球体濾過量の低下及び尿流速の低下に基づいている。この基準を確立するためには、多数の試験を行うことが極めて重要である。血漿中のクレアチニンのレベルは、腎損傷のマーカーとして使用される。健常な腎臓は、クレアチニンを血液の外に取り出して尿中に入れ、体外に出す。腎臓が十分に働いていないときには、クレアチニンは血液中に蓄積するが、クレアチニンの値も変化し、食事による影響を受けることがある。腎不全を診断するための他のマーカーは、血液尿素窒素又はタンパク尿である。
【0007】
ゲンタマイシンは、グラム陰性感染に対して世界中で広く使用されるアミノグリコシド系抗生物質である。ゲンタマイシンの治療有効性及び使用は、腎臓及び聴覚器官のレベルで主に生じる、その毒性によって厳しく限定される(Martinez−Salgado C、Lopez−Hernandez FJ及びLopez−Novoa JM.2007、Toxicol Appl Pharmacol.、223:86〜98)。ゲンタマイシンによって誘発される腎毒性は、10〜25%の治療課程において出現する(Leehey DJら、1993、J.Am.Soc.Nephrol.、4:81〜90)。この腎毒性は、尿細管損傷を主な特徴とするが(Nakakuki Mら、1996、Can J Physiol Pharmacol.、74:104〜11)、用量依存的な方法で、糸球体(Martinez−Salgado C、Lopez−Hernandez FJ及びLopez−Novoa JM.2007、Toxicol Appl Pharmacol.、223:86〜98)及び血管(Goto Tら、2004、Virchows Arch.、444:362〜74;Secilmis MA,ら、2005、Nephron Physiol.、100:13〜20)の変化が出現することもある(Hishida Aら、1994、Ren Fail.、16:109〜16)。
【0008】
ガングリオシドGM2活性化タンパク質(GM2AP)は、リソソーム酵素であるβ−ヘキソサミニダーゼAの基質特異的補因子として働く小さな糖脂質輸送タンパク質である。この酵素はGM2APと共に、ガングリオシドGM2(スフィンゴ糖脂質を含むシアル酸)、及び末端N−アセチルヘキソサミンを含む他の分子の分解を触媒する。GM2APは、いくつかの肝臓毒の肝毒性の予測のためのマーカーとしてこれを使用して肝疾患と関連付けられているが(米国特許第7469185号)、腎疾患又は急性腎不全とは関連付けられていない。
【0009】
急性腎不全又は腎障害において早期に発現されるいずれのバイオマーカーの使用も、任意の患者のこの障害を患うリスクを決定するための有用な手段であり得る。この手段は、可能性のある他の多くの用途の中でも、前記個体の健康が悪化するのを防ぐために、任意の個体に対する任意の薬剤の投与を改変するためにも使用することができる。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、タンパク質であるガングリオシドGM2活性化タンパク質(GM2AP)を検出及び/又は定量することにより、個体における急性腎不全(ARF)を発症するリスクを決定する方法、又はARFを決定する方法、及びARFの進行を予測する方法に関する。急性腎不全は、少なくとも1種の腎毒性物質の投与に起因することがあり、このとき、腎毒性物質は、例えばゲンタマイシンのようなアミノグリコシド系抗生物質であり得る。
【0011】
本発明は、ゲンタマイシンによって誘発されるARFに対する素質はタンパク質GM2APの排泄の増加と相関するという証拠を提供する。実施例は、ゲンタマイシンによって誘発されるARFに対する素質の、可能性のある尿中バイオマーカーとしてのGM2APの有用性をさらに強調する。
【0012】
したがって、本発明は、ARFの検出及び、さらに、ARFを発症するリスクを決定する可能性を向上させるための手段を提供する。この提供の結果は、ARFの進行の予想、すなわち、該個体が、例えば、これに限定されないが、治療用物質で治療されたときの、或いは該個体が何らかの状態又は明らかな腎毒性作用を有する若しくは有さない作用剤に曝露されたときのARFの進行のモニタリングである。
【0013】
行っている説明を補足するために且つ本発明の特徴をより良く理解するのを補助するために、いくつかの好ましい実施例に従って、以下のことを表している図面を、例示的且つ非限定的な性質で、含めている:
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】生理食塩水(0.9%NaCl、n=19)又はゲンタマイシン(50又は150mg/kg/日、それぞれn=42及びn=15)で7日間処置したラットの生存率(A)及び体重の段階的変化(B)を示している図である。データは、平均±標準誤差を表している。
【図2】腎機能の特徴付けを示している図である。生理食塩水(0.9%NaCl、C)又はゲンタマイシン(50又は150mg/kg/日、それぞれG−50及びG−150)で7日間処置したラットの、(A)血漿クレアチニン濃度、(B)血液尿素窒素(BUN)、(C)タンパク質の1日の尿中排泄、及び(D)N−アセチル−β−D−グルコサミニダーゼ(NAG)の1日の尿中排泄。データは、平均±標準誤差を表している。対照:ncrea=46、nBUN=38、nprot=25、nNAG=12;50mg/kg/日のゲンタマイシン:ncrea=57、nBUN=49、nprot=25、nNAG=11;及び150mg/kg/日のゲンタマイシン:ncrea=18、nBUN=4、nprot=7、nNAG=7。黒丸p<0.05対対照群;網掛け丸p<0.05対G−50群。
【図3】生理食塩水(対照)、ゲンタマイシン50mg/kg/日(G−50)及び150mg/kg/日(G−150)で処置をした7日後のラットの腎臓からの、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した組織学的切片の代表的な画像(100×)を示している図である。
【図4】組織の障害及び修復に関するマーカーの腎発現を示している図である。生理食塩水(0.9%NaCl、C)又はゲンタマイシン(50又は150mg/kg/日、それぞれG−50及びG−150)で7日間処置したラットからの腎組織ホモジェネート中のプラスミノーゲン活性化因子阻害因子−1(PAI−1)、腎障害分子−1(KIM−1)及びビメンチンの腎臓レベルの代表的なウエスタンブロット画像である。試験は、各群から、無作為に選択した、3匹の動物(1〜3)からの試料で行った。
【図5】生理食塩水(0.9%NaCl)又はゲンタマイシン(50mg/kg/日)で7日間処置し、その直後に、単回の準毒性用量の硝酸ウラニル(UN、0.5mg/kg)又は生理食塩水を投与したラット(この図面の下方部分を参照されたい)における、血漿クレアチニン濃度(上方パネル)及び血液尿素窒素(BUN)濃度(下方パネル)の段階的変化を示している図である。血漿クレアチニン及びBUNは、この試験を通して、UN投与の6日後までモニタリングした。データは、1群あたり6匹の動物からの試料の平均±標準誤差を表している。黒丸p<0.05対対照群;白丸p<0.05対UN群;黒四角p<0.05対G−50群。
【図6】生理食塩水(0.9%NaCl)又はゲンタマイシン(50mg/kg/日、G−50)で7日間処置し、その直後に、単回の準毒性用量の硝酸ウラニル(UN、0.5mg/kg、下方左パネルを参照されたい)又は生理食塩水を投与したラットにおける、タンパク質の尿中排泄の段階的変化(上方左パネル)を示している図である。中央及び右のパネルは、それぞれ、同じ動物のN−アセチル−グルコサミニダーゼ(NAG)の尿中排泄及び11日目(UN投与6日後)のクレアチニンクリアランスを示している。データは、条件あたり3〜9匹の動物の平均±標準誤差を表している。黒丸p<0.05対UN群;AU:任意単位。
【図7】(i)ゲンタマイシン(50mg/kg/日)に加えて、ゲンタマイシンの第1の用量と共に投与される硝酸ウラニル(0.5mg/kg)の単回投与で処置したラット(黒丸)、及び(ii)ゲンタマイシン(50mg/kg/日)で7日間処置したラットの血漿クレアチニン濃度の段階的変化を示している図である。7日目以後、さらに7日間処置を中止し、その後、単回用量の硝酸ウラニル(0.5mg/kg)を投与した(白丸、プロトコールを表すための下方パネルを参照されたい)。データは、1群あたり6匹の動物の平均±標準誤差を表している。
【図8】生理食塩水(0.9%NaCl、対照)又はゲンタマイシン(50mg/kg/日)で7日間処置したラットからの尿のタンパク質の代表的な2D−電気泳動を示している図である。試験は、各群の4匹の動物からの尿試料で(各試料を二重試験で)行った。
【図9】生理食塩水(0.9%NaCl、対照)で7日間処置した4匹の無作為に選択したラット及び50mg/kg/日のゲンタマイシンで同期間処置した4匹の無作為に選択したラットからの尿中のGM2活性化タンパク質のレベルを示している図である。明白な腎不全の対照として、150mg/kg/日のゲンタマイシンで7日間処置したラットからの試料も示している。
【図10】単回の硝酸ウラニルの腎毒性用量(5mg/kg、UN)で処置した4匹のラットから、1日目及び3日目の2回のシスプラチンの用量(10mg/kg)で処置した4匹のラットから、又は生理食塩水で処置した(0.9%NaCl、対照)4匹のラットからの尿中のGM2活性化タンパク質のレベルでのウエスタンブロット画像を示している図である。尿は、処置開始の4日後に採取した。さらに、血漿クレアチニン濃度(Crpl、mg/dL)の個々の値も示している。
【図11】腎毒性のあるマーカーの腎毒性作用の段階的変化:ゲンタマイシン(150mg/kg/日)で7日間処置したラットにおける、血漿クレアチニン濃度、クレアチニンクリアランス、N−アセチル−グルコサミニダーゼ(NAG)排泄、タンパク尿、並びに腎障害分子−1(KIM−1)、プラスミノーゲン活性化因子阻害因子−1(PAI−1)及びGM2活性化タンパク質(GM2AP)の尿中レベルを示している図である。データは、6匹の動物からの試料の平均±標準誤差である。画像は、3匹の異なる動物からの試料で行われる試験の代表的なものである。
【図12】未治療の8名のヒト及びゲンタマイシンで治療した8名のヒトからの尿中のGM2活性化タンパク質(GM2AP)のレベルを示している図である。これらのヒトの性別、年齢、体重、血漿クレアチニン濃度、血漿尿素濃度、並びにクレアチニンクリアランスのMDRD(mL/分)及びCockroft−Gault(mL/分)の推定も(わかる場合には)示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
GM2APの検出及び/又は定量によるARFの検出における上記で引用した改良は、例えば、血漿クレアチニン濃度、血液尿素窒素(BUN)、タンパク質、例えばN−アセチル−ベータ−D−グルコサミニダーゼ(NAG)などの尿排泄を決定することのように、背景技術で引用した方法から明らかである。この証拠については、実施例で示している。
【0016】
さらに、本発明は、いくつかの予想外の又は驚くべき以下の作用を強調する:
一方では、尿の排泄は通常起こる必然の生理学的事実であるので、尿試料中でのGM2APの検出は、患者にとってのさらなる利点を前提とする。この検出では、個体における侵襲性の試料採取を必要としない。
他方では、アミノグリコシド系抗生物質(ゲンタマイシン)の準毒性療法のラットへの投与は、第2の腎毒性物質、例えば硝酸ウラニルで処置した個体をARFに罹患しやすくし、この素質は、尿中のGM2APの存在によって検出することができる。この事実は、これらの毒素に曝露したラットでは、プラセボを処置したラットに対して、血中のクレアチニン及び血液尿素窒素(BUN)がより高濃度であること又は尿中タンパク質の排泄を確認して実証された。双方の化合物での共処置により、ゲンタマイシン及び硝酸ウラニルを連続した形態で投与するとき、及び双方の投与を休薬期間によって分離するときと同様に、血漿クレアチニン濃度の上昇が引き起こされることも本発明において実証している。
さらに、タンパク質GM2APは、個体の尿の試料において、ゲンタマイシンの毒性のある療法(本発明においてラットで用いる毒性用量は、150mg/kg/日である)を用いた治療の1日目から検出可能であるが、他の腎不全マーカー:クレアチニン、NAG、タンパク尿、KIM−1又はPAI−1は、同じ尿試料において、4日目に検出される。
【0017】
したがって、本発明の第1の態様は、個体における、ARFを発症するリスクを決定するために、又はARFを決定するために有用なデータを用意する方法であって、
a.個体から生体試料を得るステップと、
b.(a)で得られた試料において、配列番号1、又はその断片と少なくとも50%同一なタンパク質を検出及び/又は定量するステップと
を含む方法に関する。
【0018】
本発明において解釈される場合、「%同一」という用語は、2つのアミノ酸配列間の同一性の%を指す。この同一性の%は、2つの配列のアライメントの長さにわたり、その部位の全てのアミノ酸が同一である部位の数の総計である。
【0019】
(b)で検出及び/又は定量されるタンパク質は、配列番号1と少なくとも55、60、65、70、75、80、85、90又は95%同一であり得る。
【0020】
好ましい一実施形態において、(b)で検出及び/又は定量されるタンパク質は、配列番号1と少なくとも70%同一である。より好ましい一実施形態において、引用したタンパク質は配列番号1である。
【0021】
本発明において解釈される場合、ARFという用語は、腎機能障害の任意の段階(又は重症度)にある急性腎不全を指し、又はARFという用語は急性腎障害も指す。ARFは、腎障害によって、又は原因が、例えば、遺伝的、免疫性、虚血性、若しくは任意の薬剤での治療であり得るが、これらに限定されない、任意の障害若しくは疾患によって引き起こされ得る。上述の腎障害又は任意の障害若しくは疾患は、例えば、これらに限定されないが、腎臓、前立腺、膀胱、尿管又は尿道における、外科的処置によっても引き起こされ得る。
【0022】
該方法は、個体における、急性腎不全(ARF)を発症するリスクを決定するために、又はARFを決定するために有用なデータを提供する。ARFを発症する最終段階のリスクはARFであり、したがって、該方法は、個体における双方の状態のARFに有用である。
【0023】
アミノ酸配列の配列番号1は、Homo sapiens(ヒト)におけるタンパク質GM2APのアミノ酸配列、アクセス番号CAA43994である。
【0024】
アミノ酸配列の配列番号1と少なくとも50%の同一性を有するタンパク質(アミノ酸配列)は、アイソフォームであるか、又はいくつかの動物における配列番号1と相同なアミノ酸配列である。本発明の方法は、獣医学的目的のために適用することができる。この獣医学的目的は、例えば、これらに限定されないが、Equus caballus、Bos taurus、Felis catus又はCanis lupus familiarisのような脊椎生物に適用することができる。脊椎生物は、魚の養殖における目的のために、魚種であってもよい。同一性の百分率は、National Center for Biotechnology Information(NCBI)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)からのBlastpによって選択された(表1を参照されたい)。
【表1】

【0025】
アミノ酸配列の配列番号1と少なくとも50%又は少なくとも70%の同一性を有するいずれのタンパク質を指す場合も、又は配列番号1、若しくはその任意の断片を指す場合も、「本発明のタンパク質(1種又は複数)」という用語を以下で使用することにする。
【0026】
本発明のタンパク質を検出及び/又は定量するために、前記タンパク質の1種又は複数の断片を検出することは、その断片はそのタンパク質のアミノ酸配列及び構造の構成要素であるので、十分である。
【0027】
該方法のステップ(b)は、本発明のタンパク質の検出及び定量、又はその検出若しくはその定量に関する。
【0028】
本発明のタンパク質は、ヌクレオチド配列の発現の産物である。このヌクレオチド配列は、例えば、これらに限定されないが、メッセンジャーRNA(mRNA)、又はその断片のような、任意のRNAであってもよい。また、このヌクレオチド配列は、相補的なDNA(cDNA)又はその断片であってもよい。該cDNAは、mRNAと相補的なDNAであるか、又はゲノム配列からのエキソンを含むがイントロンは含まないヌクレオチド配列、すなわち、コード配列でもある。遺伝子のゲノム配列及びそのcDNAの双方の転写は、同じmRNAをコードし、したがって、同じタンパク質をコードする。本発明において、タンパク質の代わりに又は同時に、任意のRNA若しくは任意のDNA、又はその断片を検出することも可能である。
【0029】
他の好ましい一実施形態は、さらに、ステップ(b)で得られたデータを標準値と比較して、任意の有意な偏差を見出すステップを含む、従来の方法に関する。本明細書中で使用される場合、「標準値」という用語は、例えば、ARFを発症していない個体から得られた生体試料において、本発明のタンパク質、又はその断片を検出及び/又は定量することに関するデータを指すが、これらに限定されない。
【0030】
本明細書中で使用される場合、「有意な偏差」という用語は、単離された試料中にそのタンパク質が存在すること、又は単離された試料中で、健常な個体、すなわち、腎疾患の陰性対照からの試料に対して、本発明のタンパク質がより高濃度であることを指す。健常な個体は、1種又は複数の一般的な腎疾患マーカーのレベルの測定によって決定される。一般的なマーカーは、クレアチニン、血液尿素窒素又はタンパク尿であるが、これらに限定されない。
【0031】
本発明の他の好ましい一実施形態において、該方法は、さらに、該有意な偏差を、該個体における、ARFを発症するリスクに、又はARFの発症に帰するステップを含む。したがって、この好ましい実施形態は、ARFを診断するため又は急性腎不全(ARF)を発症するリスクを決定するための方法である。
【0032】
生体試料は、生物の生理液及び/又は任意の細胞組織由来であってもよい、ヒト又は動物の身体などの生物から単離される試料である。
【0033】
本明細書中で使用される場合、「ARFを発症するリスク」という用語は、ARFを患う又は発症する個体の素質を指す。したがって、該方法は、個体がARFを発症しているかどうか又は発症し得るかどうかを決定するために有用なデータを用意することに関する。実施例と共に、タンパク質GM2AP(配列番号1)は、ARFの極めて早期の段階で検出できることが実証され、これにより、ARFを発症するリスクとして、早期のARFの検出を可能にする。
【0034】
本発明のさらに好ましい実施形態において、本発明のタンパク質、又はその断片は、例えば、これらに限定されないが、電気泳動、イムノアッセイ、クロマトグラフィー及び/又はマイクロアレイの技術などの方法によって検出及び/又は定量することができる。本発明のタンパク質の検出及び/又は定量は、従来技術の任意の組合せ又はその任意の組合せによって行うことができる。該タンパク質は、その存在又は欠如を評価して検出することができる。この検出は、任意のプローブ及び/又は任意の抗体による、該タンパク質の任意の断片の特異的な認識によって行うことができる。さらに、検出された本発明のタンパク質は、これらのデータを標準値と比較して任意の有意な偏差を見出すための基準としての役割を果たすように、定量することができる。この偏差は、急性腎不全を発症するリスク又はARFそれ自体であるとして解釈することができる。より好ましい一実施形態において、本発明のタンパク質、又はその断片は、電気泳動及び/又はイムノアッセイによって検出及び/又は定量することができる。
【0035】
電気泳動は、電場の作用の結果として基質又は固体担体を通した、媒体(電気泳動緩衝液)中に溶解された高分子の運動又は移動に基づく分離の解析技術である。該分子の挙動は、その電気泳動移動度によって決まり、この移動度は、電荷、大きさ及び形によって決まる。使用される装置、担体及び条件に基づく、この技術の多数の変形が、分離を行うための物理化学において存在する。該電気泳動は、キャピラリー電気泳動、紙中での電気泳動、アガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点焦点化(焦点電気泳動)、又は2次元電気泳動を含むリストから選択される。
【0036】
イムノアッセイは、生体液中の物質の濃度を、その抗原に対する抗体(単数)又は抗体(複数)の反応を使用して測定する生化学的な試験である。このアッセイは、抗体の、その抗原に対する特異的な結合を利用する。抗体又は抗原の量の検出は、多様な方法によって達成することができる。最も一般的なもののうちの1つは、抗原又は抗体のいずれかを標識することである。この標識は、酵素、放射性同位体(ラジオイムノアッセイ)、磁気標識(磁気イムノアッセイ)又は蛍光、及び凝集反応、比濁分析、濁度測定又はウエスタンブロットを含む他の技術も含み得るが、これらに限定されない。ヘテロジニアスイムノアッセイは、競合的であっても又は非競合的であってもよい。該イムノアッセイは、競合的であってもよい:その反応は、試料中の抗原の濃度に反比例することになる、又は非競合的であってもよい(「サンドイッチアッセイ」とも呼ばれる):その結果は、抗原の濃度に正比例する。本発明において使用できるイムノアッセイ技術は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)である。
【0037】
クロマトグラフィー技術によって、分子を、その電荷、大きさ又は分子量に基づいて、中でも、その極性又は酸化還元電位を通して、分離することができる。該クロマトグラフィー技術は、液体のクロマトグラフィー(分配クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、排除クロマトグラフィー、又はイオン交換クロマトグラフィー)、ガスクロマトグラフィー又は超臨界流体のクロマトグラフィーであってもよいが、これらに限定されない。
【0038】
本発明のマイクロアレイ技術は、例えば、固体担体における、本発明のタンパク質を認識する分子の固定に基づいている。抗体マイクロアレイは、最も一般的なタンパク質マイクロアレイである。この場合、抗体は、タンパク質チップ(固体担体)上にスポット及び固定され、これらに限定されないが、生体試料、細胞溶解液、血清又は尿からのタンパク質を検出するための捕捉分子として使用される。本明細書中で使用される場合、「固体担体」という用語は、例えば、イオン交換樹脂又は吸着、ガラス、プラスチック、ラテックス、ナイロン、ゲル、セルロースのエステル、常磁性粒子又はこれらのうちのいくつかの組合せなどの多様な種類の物質を指すが、以前に言及されている物質に限定されない。
【0039】
他の好ましい一実施形態では、本発明の方法のうち任意のもののステップ(a)からの生体試料は、体液である。該体液は、動物の身体から排泄又は分泌される液及び通常は排泄又は分泌されない液を含むこともある。該体液は、胎児を囲んでいる羊水、房水、血液、血漿、間質液、リンパ、母乳、粘液(鼻水及び痰を含む)、唾液、皮脂(皮膚油)、血清、汗、涙又は尿であってもよいが、これらに限定されない。本発明のタンパク質は、例えば、これらに限定されないが、細胞又は小胞のように、言及した体液中に存在する任意の生物学的区画中にあってもよい。より好ましい一実施形態において、該体液は尿である。
【0040】
本発明のさらに好ましい一実施形態は、ARFを発症するリスク、又はARFが、少なくとも1種の腎毒性物質の投与又はそれに対する曝露に起因する場合の方法に関する。この腎毒性物質は、長期間にわたるものであっても又は単回の事象に限定されるものであってもよい投与又は曝露のレベルに起因し、且つ単一又は複数の化合物に起因してもよい、1種又は複数の腎臓の病変を引き起こし得る。曝露の状況は、不注意による過剰投与、偶発的な過剰投与、意図的な過剰投与、又は治療上必要なもの(投与)であってもよい。腎臓は、主要な排泄の器官であり、水溶性分子に対する恒常性を維持するので、能動的に特定の物質を濃縮することができる。一般に、近位尿細管及び遠位尿細管並びに尿路上皮は修復することができるが、糸球体及び髄質は著しく低級の修復機構を有し得る。
【0041】
該腎毒性物質は、投与される場合には、医薬組成物(治療用物質)であってもよく、或いは、これらに限定されないが、ハロゲン化麻酔剤又は機能食品、又はビタミン補足物、若しくは栄養補足物に含まれる化合物であってもよい。該腎毒性物質は、個体が曝露される場合には、さらに、重金属、農薬又は抗菌剤などの化学物質であってもよいが、これらに限定されない。該農薬は、殺真菌剤、除草剤、殺虫剤、除藻剤、軟体動物駆除剤、ダニ駆除剤又は殺鼠剤であってもよいが、これらに限定されない。該殺虫剤は、殺菌剤、抗生物質、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗原虫剤又は抗寄生虫剤であってもよいが、これらに限定されない。
【0042】
本発明の任意の方法のさらに好ましい実施形態において、該腎毒性物質はアミノグリコシド系抗生物質である。アミノグリコシドは、例えば、細菌の30S又は50Sのリボゾームサブユニットに結合することによって、ペプチジル−tRNAの移動を阻害して、さらにmRNAの誤読も引き起こし、細菌が増殖に不可欠なタンパク質を合成できないようにしておく働きをする。該アミノグリコシド抗生物質は、アミカシン、アルベカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、ロドストレプトマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、アプラマイシン、スペクチノマイシン、ハイグロマイシンB、ベルダマイシン、アストロマイシン又はピューロマイシンであってもよいが、これらに限定されない。より好ましい一実施形態において、該アミノグリコシド系抗生物質はゲンタマイシンである。
【0043】
ゲンタマイシンは、好気性グラム陰性菌の感染を治療するために一般的に使用される、広範囲に効能があるアミノグリコシド系抗生物質である。アミノグリコシドは、経口投与であまり吸収されないが、腎臓によって急激に排泄される。一方、アミノグリコシドは、外膜にあるポーリンチャネルを通して細菌細胞内に拡散し、次いで、細胞質を越えて輸送される。結果として、ゲンタマイシンは、細菌のタンパク質合成を妨げることによって作用するが、近位曲尿細管上に、特に、S1及びS2分節に、ARFに発展し得る、腎臓障害を引き起こすこともある。
【0044】
本発明において実証するように、ARFは、同様に、同時又は連続の第2の腎毒性物質の投与に起因し得る。この第2の化合物は、硝酸ウラニルであり得る。実施例において引用しているように、(例えば、硝酸ウラニルのような)第2の腎毒性物質を準毒性用量で投与したときに腎毒性が生じるので、ゲンタマイシンを用いた準毒性療法は、個体がARFを発症しやすくなるようにさせる。この腎毒性は、ゲンタマイシンの単回投与直後に、硝酸ウラニルの単回投与を、生理食塩液の単回投与と比較して、追加するだけで実証される。この腎毒性作用は、血漿クレアチニン濃度、血液尿素窒素(BUN)、全タンパク質又は特定のタンパク質(N−アセチル−グルコサミニダーゼ:NAG)の尿中排泄、又はクレアチニンクリアランスを測定することによって実証される。
【0045】
本発明において解釈される場合、「準毒性用量」という用語は、腎疾患の1種又は複数の一般的なマーカーのレベルが腎疾患の陰性対照のレベルに対して有意な偏差を示さないような方法で、個体において任意の療法で投与される1種又は複数の用量を指す。一般的なマーカーは、クレアチニン、血液尿素窒素又はタンパク尿であってもよいが、これらに限定されない。
【0046】
双方の化合物(ゲンタマイシン及び硝酸ウラニル)で同時に個体を共処置することにより、双方の化合物を連続して投与するとき、双方の投与を休薬期間によって、例えば1週間、分離するときと同様に、血漿クレアチニン濃度の上昇が引き起こされることも本発明において実証している。
【0047】
本発明のタンパク質は、抗腫瘍剤として他の腎毒性薬剤、例えば、これに限定されないが、シスプラチンで個体を治療したときに、尿中でも検出される。また、本発明のタンパク質は、個体を硝酸ウラニルのみで治療したときにも検出される。
【0048】
シスプラチンは、精巣、卵巣、膀胱、皮膚、頭頸部、及び肺の腫瘍を治療するために一般的に使用される、広範囲に効能がある抗腫瘍剤である。シスプラチンは、細胞内に拡散して、細胞にとって致命的な、DNAのストランド間及びストランド間の架橋によって作用する。硝酸ウラニルは、重症の腎不全及び急性尿細管壊死を引き起こす腎毒性の高い作用剤である。他の標的臓器としては、肝臓、肺又は脳などが挙げられる。
【0049】
本発明の方法の他の好ましい一実施形態において、本発明のタンパク質は、腎毒性物質の投与又はそれに対する曝露の開始から12時間後に検出される。したがって、本発明のタンパク質は、急性腎不全の早期のマーカーとして、主に、限定されないが、ARFが少なくともアミノグリコシド系抗生物質ゲンタマイシンの投与に起因するときに、使用することができる。この場合、実施例で示すように、ゲンタマイシンをラットに150mg/kg/日で7日間投与したときに、血漿クレアチニン濃度、クレアチニンクリアランス、NAG排泄、タンパク尿、並びに腎障害分子1(KIM−1)及びプラスミノーゲン活性化因子阻害因子1(PAI−1)の尿中レベルの段階的変化は、4日目から有意に増大したのに対し、該タンパク質である配列番号1は、毒性作用出現の少なくとも3日前に検出された。個体からの尿試料において、毒性作用の出現は、上記に引用したパラメータを測定することによって検出される。
【0050】
他の好ましい一実施形態では、本発明のタンパク質は、腎毒性物質の投与又はそれに対する曝露の開始以後24時間から検出され得る。実施例に示すように、ゲンタマイシン(150mg/kg/日)の投与の開始から最初の24時間後に、該タンパク質は、ウエスタンブロットアッセイによって十分に明らかなレベルで検出される。
【0051】
本発明の第2の態様は、少なくとも1種の腎毒性物質の投与又はそれに対する曝露に起因するARFの進行を予測する方法であって、該腎毒性物質に曝露された又は曝露されていない、配列番号1、又はその断片と少なくとも50%同一なタンパク質の第1の濃度を決定するステップ、曝露された個体では引用したタンパク質の第1の濃度を決定した後に、又は曝露されていない個体では該腎毒性物質の投与又はそれに対する曝露の開始後に、(a)の個体から単離された体液において、本発明のタンパク質の第2の濃度を決定するステップを含む方法に関する。すなわち、腎毒性物質に曝露された個体からの試料において第1の濃度の決定を行う場合には、第2の濃度は第1の濃度の決定後に決定し、腎毒性物質に曝露されていない個体からの試料において第1の濃度の決定を行う場合には、第2の濃度は曝露していない個体における腎毒性物質の投与又は曝露の開始後に決定する。次いで、前記第2の濃度を前記第1の濃度と比較して、任意の有意な偏差を探す。有意な偏差は、前記第2の濃度を前記第1の濃度と比較したとき、又は何らかの有意な偏差を以前の濃度の決定と比較したときに、上昇又は低下した値という意味であってもよい。
【0052】
本発明において、「進行の予想」という用語は、本明細書中で使用される場合、ARFの進行のモニタリングの結論、すなわち、この病変の進行についての告知を指す。
【0053】
本発明の好ましい実施形態は、少なくとも1種の腎毒性物質の投与又はそれに対する曝露に起因するARFの進行を予測する方法に関し、このとき、前記タンパク質は配列番号1と少なくとも70%同一である。より好ましい一実施形態において、前記タンパク質は配列番号1である。
【0054】
ARFの進行を予測する方法の他の好ましい一実施形態において、該腎毒性物質はアミノグリコシド系抗生物質であり、より好ましい一実施形態において、該アミノグリコシド系抗生物質はゲンタマイシンである。
【0055】
さらに好ましい実施形態は、該体液が尿である、ARFの進行を予測する任意の方法に関する。
【0056】
急性腎不全(ARF)を発症するリスクを決定するために、若しくはARFを決定するために有用なデータを用意する方法のいずれに関しても、又はARFの進行を予測する方法のいずれに関しても、「本発明の方法(1種又は複数)」という用語を使用することにする。
【0057】
さらに好ましい一実施形態によると、本発明の方法の個体はヒトである。上記にもかかわらず、引用した方法は獣医学的目的において有用となり得るので、本発明の方法の個体は動物であってもよい。
【0058】
化合物に曝露された又はされていない、障害又は損傷を受けた細胞集団を、in vitro又はin vivoでアッセイすることもできる。例えば、新たに単離された腎細胞の細胞集団、特に、ラットの腎細胞。別のアッセイ形態では、in vivoでの曝露は、生きている動物、例えば実験用ラットに対する腎毒性物質の投与によって達成されてもよい。
【0059】
本発明の第3の態様は、ARFを発症するリスクを決定するため、又はARFを決定するため、又はARFの進行を予測するためのバイオマーカーとしての、配列番号1、又はその断片と少なくとも50%同一なタンパク質の使用に関する。
【0060】
このバイオマーカーは、ARFのリスク又は進行と、若しくは所与の処置に対する疾患のかかりやすさと関連する、又は個体におけるARFの存在とも関連する、タンパク質の発現又は状態における変化を示す。提案されたバイオマーカーの有効性が認められれば、それを使用して、疾患のリスク、個体における疾患の存在を診断することができるようになり、又は個体における疾患に合わせて治療を調整すること、例えば、薬剤治療又は投与療法の選択などができるようになる。ARFを患うリスクに直結する、該バイオマーカーの存在又は検出される量が治療によって変化する場合に、該バイオマーカーは、任意の腎毒性物質に対する任意の治療又は曝露を加減するためのレポーターとしての役割を果たす。
【0061】
好ましい一実施形態は、前記タンパク質が、配列番号1、又はその断片と少なくとも70%同一である場合の使用に関する。より好ましい一実施形態において、前記タンパク質は配列番号1である。
【0062】
好ましい一実施形態は、ARFを発症するリスク、又はARF、又はARFの進行が、少なくとも1種の腎毒性物質の投与に起因するものである、本発明のタンパク質の使用に関する。さらに好ましい実施形態において、該腎毒性物質はアミノグリコシド系抗生物質であり、例えば、該アミノグリコシド系抗生物質はゲンタマイシンである。
【0063】
本発明のさらなる他の態様は、個体におけるARFを発症するリスクを決定するために、若しくはARFを決定する(ARFを診断する)ために、又は個体におけるARFの進行を予測するために有用なデータを用意するためのキットであって、本発明の任意の方法を行うための試薬を含むキットである。該試薬は、本発明のタンパク質の検出及び/又はその定量を可能にするものでなければならない。このキットは、検出溶液をさらに含んでいてもよい。
【0064】
本発明の好ましい一実施形態は、上記のようなキットであり、このとき、該試薬は、少なくとも、配列番号1、又はその断片と少なくとも50%同一なタンパク質を認識するための1種又は複数のプローブである。プローブは、本発明のタンパク質又はその任意の断片を検出、識別及び/又は定量するために、通常は(必須ではないが)標識されて使用される物質である。該プローブは、フルオロフォア、チオール反応性プローブ、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、ペプチン又は抗体であってもよいが、これらに限定されない。さらに、該プローブは、例えば、リソソーム酵素であるβ−ヘキソサミニダーゼA、及び/又はガングリオシドGM2、若しくは末端N−アセチルヘキソサミンを含む他の分子のような、特異的分子結合であってもよい。GM2APは、リソソーム酵素であるβ−ヘキソサミニダーゼAの基質特異的補因子として働く小さな糖脂質輸送タンパク質であるので、この酵素はプローブとしての役割を果たすことができ、β−ヘキソサミニダーゼAは、GM2APと共に、ガングリオシドGM2、及び末端N−アセチルヘキソサミンを含む他の分子の分解を触媒し、この理由のために、GM2、又は末端N−アセチルヘキソサミンを含む他の分子は、可能性があるプローブの基質として又はさらにプローブとして働き得る。
【0065】
好ましい一実施形態は、配列番号1、又はその断片と少なくとも50%同一な該タンパク質が、配列番号1と少なくとも70%同一なタンパク質である、キットに関する。より好ましい一実施形態において、前記タンパク質は配列番号1である。
【0066】
さらに好ましい一実施形態は、該プローブが固体担体に結合されている、キットに関する。この固体担体は、ゲル、例えば、アガロース又はポリアクリルアミドのゲルであることが好ましい。
【0067】
より好ましい一実施形態において、該プローブは、本発明のタンパク質、又はその断片を認識するために使用される抗体である。該抗体は、モノクローナル又はポリクローナルであってもよい。さらにより好ましい一実施形態において、該抗体によって認識される該タンパク質からの断片は、配列番号2である。
【0068】
他に定めがない限り、本明細書中で使用される技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者のうちの一人によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本発明の実施において、本明細書中に記載したものと同様又は同等の方法及び材料を使用することができる。本明細書及び特許請求の範囲の全体にわたり、「含む」という単語及びその変形は、他の技術的特徴、添加剤、成分、又はステップを排除することを意図するものではない。本発明のさらなる目的、利点及び特徴は、当業者には本明細書の検査を行うとすぐに明らかとなるであろうし、又は本発明の実施によってわかることもある。以下の実施例、図面及び配列表は、実例として提供されるものであって、本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0069】
以下の実施例は、下記に示すリスト中で請求する、GM2APの検出、並びにARF、及び急性腎不全のリスクを検出するバイオマーカーとしてのその使用に関するいくつかのアッセイ及び操作条件についての、例示的且つ非限定的な性質の、説明を提供する。
【0070】
実施例1.方法及び試薬。
1.1.動物及び試験のプロトコール。
【0071】
ケージ飼育の、体重190〜230gの雌のWistarラットを、以下の試験群に分けた(図1):(i)対照:1日1回、生理食塩水(0.9%NaCl)で7〜13日間腹腔内に処置したラット、(ii)G−50:50mg/kg/日のゲンタマイシンで6日間処置したラット、(iii)G−50−NU:50mg/kg/日のゲンタマイシンで6日間処置し、7日目に0.5mg/kgの硝酸ウラニルの単回腹腔内投与で処置したラット、(iv)NU:生理食塩水(0.9%NaCl)で1日1回6日間腹腔内に処置し、7日目に0.5mg/kgの硝酸ウラニルの単回腹腔内投与で処置したラット、(v)G−50+NU:50mg/kg/日のゲンタマイシンで6日間処置し、且つ1日目に0.5mg/kgの硝酸ウラニルの単回腹腔内投与で処置したラット、(vi)G−50−r−NU:50mg/kg/日のゲンタマイシンで6日間処置して、1週間処置のないままにし、次いで、0.5mg/kgの硝酸ウラニルの単回腹腔内投与で処置したラット、(vii)G−150:150mg/kg/日のゲンタマイシンで6日間処置したラット。
【0072】
全ての試験について、ラットは、温度及び湿度を調節した条件下の代謝ケージ中に個別に配置した。動物は、規則的な食事及び飲料水を自由に食べることができるようにさせた。異なる時に、24時間の尿及び血液の試料を得た。尿は、混入及び蒸発を防止するために、100μLの0.1%アジ化ナトリウム及び1mlの油を補った目盛をつけた容器中にそれぞれ採取した。続いて、尿を、1,175×gでの遠心分離によって透明にし、分注して−80℃で保存した。血液は、尾部での小切開から採血し、ヘパリン処理したキャピラリー中に採取した。これらの血液を、12,000×gで直ちに遠心し、血漿を−80℃で保存した。試験終了時に、ラットをペントバルビタールナトリウム(10mg/kg)で麻酔した。腎臓を、腹大動脈を通してヘパリン処理した生理食塩水で潅流させて、直ちに解剖した。右腎と左腎の半分とを、液体窒素中での浸漬によって速やかに凍結させ、−80℃で保存した。最終的に、これらをウエスタンブロット試験に使用した。こうした目的のために、ハンマーでの粉砕によって、微細な粉末が得られるまで、凍結組織を凍結条件下で均質化した。この粉末も、−80℃で維持した。もう1つの半分の残された腎臓を、3.7%パラホルムアルデヒド中に4℃で14〜16時間浸漬した。その後、組織試料を、免疫組織化学試験用に処理した。
【0073】
1.2.in vivoでのゲンタマイシンの潅流。
ゲンタマイシンは、Schering−Ploughによって好意的に提供された。硝酸ウラニルは、Sigmaから得た。他に指示がない場合、他の全ての試薬は、Sigmaから購入した。
【0074】
ケージ飼育の、体重190〜230gの雌のWistarラットをペントバルビタールナトリウム(10mg/kg)で麻酔した。右頸静脈及び膀胱にカテーテルを挿入した。1.5mLのゲンタマイシン(150mg/kg)又は生理食塩水(0.9%NaCl、対照として)の単回ボーラス投与を1.5mL中で頸静脈を通して30分間潅流させた。その後、異なる各時点で、尿を採取した。尿を、(上記のように)遠心分離によって透明にし、後の使用のために−80℃で維持した。
【0075】
1.3.腎機能の特徴付け。
32μLの血漿及び尿を使用して、血漿及び尿のクレアチニン濃度及び血液尿素窒素(BUN)を、自動解析システム(レフロトロン(Reflotron)(登録商標)、Roche Diagnostics、Barcelona、Spain)及び市販の反応性のストリップ(Roche Diagnostics、Barcelona、Spain)によって決定した。この方法は、クレアチニンに対して0.5mg/dLのより低い検出限界を有する。0.5mg/dL未満のクレアチニンの値を示す試料は、Jaffeの比色法(Hervey、1953.Nature、171:1125)によって接戦の再試験を行った。
【0076】
クレアチニンクリアランス(Clcr、mL/分)は、以下の式を使用して算出した:Clcr=UF×C/C、[式中、UFは24時間の尿流(mL/分で表される)であり、Cは尿中のクレアチニンの濃度であり、且つCは血漿のクレアチニンの濃度である]。
【0077】
尿中タンパク質濃度(mg/mL)は、Bradford法(39)によって測定した。1日のタンパク質排泄(mg/日)は、尿中タンパク質濃度と24時間の尿流(mL/日)を乗算することによって得た。
【0078】
尿中NAG活性(任意単位、AU/mL)は、尿中NAG濃度の推定値として、市販の酵素試験(Roche Diagnostics、Barcelona、Spain)によって製造業者の説明書に従って測定した。尿中NAG活性は、尿中NAG活性と24時間の尿流(mL/日)を乗算することによって1日のNAG排泄(AU/日)に変換した。
【0079】
1.4.抗GM2活性化タンパク質ポリクローナル血清の調製。
抗GM2AP血清の調製のために、架橋剤である4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸3−スルホ−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルナトリウム塩(スルホ−SMCC)及びN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC、いずれもSigma−Aldhrichから)による、免疫原性タンパク質であるブルーキャリアー(blue carrier)(Pierce Biotechnology;Rockford、IL)に対するコンジュゲート化を可能にするためにアミノ末端にシステインを加えた、ラット及びヒトのGM2AP部分ペプチド配列である配列番号2に該当する合成の免疫原を、雌のニュージーランドホワイトウサギに注射した。フロイントアジュバント中の合成ペプチドを用いて、1、14、36及び58日目に免疫化を行った。63日目に、麻酔下でウサギを放血させた。この血清を、HiTrap TM Protein G HPカラム(GE Healthcare Bio−Sciences AB;Uppsala、Sweden)に通して精製し、さらなる使用のために−20℃で維持した。
【0080】
1.5.免疫組織化学試験。
腎臓を、p−ホルムアルデヒド中に4℃で一晩維持した。次いで、パラフィンブロックを作製し、5μmの組織切片を切り分けて、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した。Olympus DP70カラーデジタルカメラに連結したOlympus BX51顕微鏡下で写真を撮った。
【0081】
1.6.ウエスタンブロッティング。
タンパク質抽出物を、100mgの組織ホモジェネート粉末から得て、均質化緩衝液(140mM NaCl、20mM トリス−HCI pH=7.5、0.5M エチレンジアミン四酢酸−EDTA−、10% グリセロール、1% イゲパル(Igepal) CA−630、1μg/mL アプロチニン、1μg/mL ロイペプチン、1μg/mL ペプスタチンA、1mM フッ化フェニルメチルスルホニル−PMSF−)中、4℃で組織ミキサー(Ultra−Turrax T8、IKA(登録商標)−Werwe)で腎臓を均質化することによって調製した。組織ホモジェネートを、22,000gで4℃で15分間遠心分離した。上清を回収した。Lowry法に基づく市販のキット(BioRad)でタンパク質濃度を測定した。組織抽出物からの50μgの全タンパク質又は各試料からの20μLの透明にした尿を、10〜15%アクリルアミドゲル(Mini Protean II system、BioRad)中で電気泳動によって分離した。直ちに、タンパク質を、イモビロン−P(Immobilon−P)メンブレン(Millipore)に電気的に転写した。非特異的結合を防止するために膜をブロッキングした後に、KIM−1(R&D Systems)、骨形成タンパク質−7(BMP−7、Santa Cruz Biotechnology)、プラスミノーゲン活性化因子阻害因子−1(PAI−1 、BD Biosciences)、ビメンチン(Dako Denmark)及びGM2活性化タンパク質(GM2AP、上記を参照されたい)に対する抗体で膜をプローブした。
【0082】
1.7.尿プロテオミクス解析。
尿を、遠心力による濾過によってアミコンウルトラ(Amicon Ultra)5Kカットオフカラム(Millipore)を通して濃縮及び脱塩した。Bradford法によってタンパク質濃度を決定した。製造業者の説明書に従ってクリーン−アップ(Clean−Up)キット(GE Healthcare)を用いて尿タンパク質を沈殿させた。各試料からの100mgのタンパク質を、7Mの尿素、2Mのチオ尿素、4%(w/v)のChaps、0.5%の両性電解質pH4〜7又は4.5〜5.5、50mMのジチオスレイトール(DTT)及びブロモフェノールブルーに再水和させ、IPGphor装置(GE Healthcare)を使用して、長さ18cmの固定pH勾配(IPG)ストリップ、pH4〜7又は4.5〜5.5(GE Healthcare、Madrid、Spain)を通して等電に集中させた(500〜8,000V)。IPGストリップを、1%(w/v)DTTを含む平衡化緩衝液[50mMトリス−HCI pH=8.8、6M尿素、30%(v/v)グリセロール、2%(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.01%(w/v)ブロモフェノールブルー]中で15分間、且つ2.5%(w/v)のヨードアセトアミドを含む平衡化緩衝液中でさらに15分間予め平衡化した。次いで、IPGストリップを、長さ18cmの12%アクリルアミドゲルに移して、SE 600 Ruby装置(GE Healthcare)で電気泳動によって分離した。ゲルを、30%エタノール、10%酢酸中で一晩固定し、市販のキット(GE Healthcare)を用いて銀染色した。他に指示がない限り、全ての試薬はSigmaからのものである。
【0083】
可視化及び解析のために、染色したゲルをスキャンして(Image Scanner、GE Healthcare、Madrid、Spain)、イメージマスター2Dプラチナ(Image Master 2D Platinum)6.0ソフトウェア(GE Healthcare、Madrid、Spain)で処理及び統計学的解析を行った。以下のパラメータを用いてスポットの判別を行った:(i)平滑係数:2;(ii)最小面積:5ピクセル;(iii)顕著性:100。人為現象を排除するために、解析を視覚的に修正した。個々の各スポットについて、バックグラウンドを減算して、個々の強度体積を全強度体積(全スポット強度)によって標準化した。ゲル間の同じスポットを比較する場合には、示差的な発現とみなすために、最低2倍の強度の相違を設定した。(それぞれ)1D及び2Dの分離からの目的のバンド及びスポットをゲルから切断した。それぞれのゲル断片をアセトニトリル中で乾燥させ、これを真空ポンプで蒸発させて、NHHCOに再懸濁した。2D−CF画分も真空蒸発させて、残留物をNHHCOに再懸濁した。したがって、1D、2D及び2D−CFからの試料について、同一の処理をした。これらを、50mMのNHHCO中、56℃で10mMのDTTを用いて還元し、50mMのNHHCO中、ヨードアセトアミドでアルキル化した。次いで、このタンパク質を、ブタのトリプシン(Promega)を用いて4℃で30分間ゲル中で消化させてペプチドにした。続いて、0.5%(v/v)のトリフルオロ酢酸(TFA)でペプチドを抽出した。この溶液を真空蒸発させて、ペプチドを0.1%(v/v)のギ酸に超音波処理下で溶解した。ペプチド含有溶液を、an1100マイクロHPLC(Agilent)を備えたLC−ESI−QUAD−TOF質量分光計QSTAR XL(Applied Biosystems)内に注入した。大孔径150×0.32mm(5μm)のスペルコ(Supelco)カラム(Discovery BIO)を7μL/分の流速で使用した。MS/MSスペクトルを得た。タンパク質同定は、非重複性のタンパク質配列データベース(Swiss Prot及びNCBI)に対してMASCOTソフトウェアを用いて行った。質量誤差範囲は50ppmに、MS/MS誤差範囲は0.5Daに、分類学的位置はラットに設定した。MASCOT確率解析によって同定されるような、有意なヒットのみを考慮し、20を超えるイオンスコアで適合する少なくとも1種のペプチドを、許容の閾値として設定した。LC−ESI−QUAD−TOF法により明確なタンパク質同定が得られないいくつかの場合には、又は(確認のために)無作為に選択したスポットでは、Universidad de Salamanca−CSIC(Salamanca、Spain)のCentro de Investigacion del CancerのProteomic Serviceによって、Ultraflex I MALDI−TOF質量分光計(Bruker Daltonics)を用いて、タンパク質を同定した。
【0084】
ゲンタマイシン療法下ですでに2日又は3日の過程にある、ヒトの入院している個人からの尿試料を、Hospital Universitario de Salamancaから得た。対照として、ゲンタマイシンを投与していない、年齢及び性別が適合した個人からの尿を使用した。
【0085】
実施例2.結果。
ここで示す結果の主体は、以下を実証することを意図するものである。(i)50mg/kgのゲンタマイシンを1日1回で6回投与する療法では、試験したいずれのパラメータによっても、いかなる腎損傷又は腎機能障害も誘発されない;(ii)これにもかかわらず、この準腎毒性療法は、第2の腎毒素の毒性の閾値を低下させることによって、ラットがARFを発症しやすくなるようにさせる;結果として、ゲンタマイシンによって罹患しやすくされたラットでは、準腎毒性用量のこの第2の腎毒素はARFの引き金となるが、未処置のラットではならない;(iii)(対照と比較した)G−50動物からの尿についてのディファレンシャルプロテオミクスのアプローチを通して、この状態を検出する、尿中タンパク質(すなわち、ガングリオシドGM2活性化タンパク質、GM2AP)を同定した;(iv)この新しい尿中バイオマーカーは、このこれまで隠されていた素因的状態の検出のためだけではなく、ゲンタマイシンによって誘発された急性腎損傷の極めて早期のマーカーとしても使用することができる。
【0086】
2.1.腎毒性作用のないゲンタマイシン療法の選択。
予備試験において、ゲンタマイシンの腎毒性作用に対する用量の関係をWistarラットで段階的に調べた(データは示していない)。結果として、50mg/kg/日を1日1回で6回投与した療法(G−50)では、腎毒性の徴候は生じなかったが、150mg/kg/日を1日1回で6回投与する療法(G−150)では、本発明者らの全測定値の陽性対照として役割を果たす顕著な腎不全が引き起こされたことが結論づけられた。図1〜4は、生理食塩水を投与した対照ラット(C)と比較した、腎機能及び形態に対する、G−50及びG−150の療法の作用の詳細な特徴付けを示している。これらの試験より、G−50療法は、動物の一般的な健康状態に対する有害作用、並びに、(i)臨床診療において使用されるパラメータ、及び(ii)より深く腎臓の状態を特徴付ける他のもの、によって測定されるような、特定の腎毒性の徴候を1つも及ぼさないことが明らかに実証される。
【0087】
図1より、G−50下の動物は、対照動物と同様な生存率及び体重の段階的変化を示すことが示唆され、毒性は有意でなかったことが示唆される。これに対して、G−150下の動物は、約50%の死亡率、及び重篤な健康悪化を表す体重減少を示した。処置中止後(8日目以降)、いずれの群からの動物も死亡しなかった。
【0088】
図2のデータより、対照ラットと比較して、G−50ラットでは、GFRの状態に関連する臨床上使用されるパラメータ(すなわち、血漿クレアチニン濃度及びBUN濃度)が変化しなかったが、G−150群では、これらが著しく変化した(パネルA及びB)ことが示唆される。ゲンタマイシンによって誘発された腎障害の中で、タンパク尿は、主に尿細管由来であると考えられる(参考)。したがって、パネルCより、G−50動物は(対照のものと比較して)タンパク尿を示さないが、G−150動物は明白なタンパク尿を有することが示される。これは、極めて感度の高い尿細管障害のマーカー(参考)である、尿中NAG排泄が、G−50において変化せず、G−150において極めて増加している、パネルDからのデータと合致している。これらのデータより、G−50療法による腎機能の変化は認められないが、G−150処置の結果として明白な急性腎不全が生じることが示唆される。この後者は、これらの動物において認められる50%死亡率及び健康悪化と合致している。
【0089】
図3の画像は、G−150療法により、腎実質が、広範な尿細管壊死(パネルC)を主な特徴とする、集中的な損傷を負わされることを示している。しかし、G−50群において、対照群と比較した、肉眼的な組織変化は検出されなかった。
【0090】
さらに、腎組織ホモジェネートのウエスタンブロット解析(図4)により、G−150群において、PAI−1、KIM−1及びビメンチンのような、組織損傷及び修復に関連するマーカーの明らかな増加が示される。しかし、G−50からの試料において、対照群からのものと比較した、これらのマーカーの増加は認められなかった。
【0091】
図3で示した組織学的結果と合わせて、組織マーカー解析より、G−50療法は腎臓に組織損傷を引き起こさないという考えが補強される。
2.2.ゲンタマイシンを用いた準毒性療法は急性腎不全の発症の素因となる。
【0092】
この節における結果の主体は、準毒性G−50療法により、可能性がある第2の腎毒素を投与したときに(未処置のラットに対する準毒性用量での場合)、ラットが急性腎損傷を発症しやすくなることを実証することを意図するものである。準毒性のゲンタマイシンによって誘発されるこの素質は、ゲンタマイシン治療中に生じ、治療中止後少なくともさらに1週間続く。
【0093】
図5は、ラットに腎毒素である硝酸ウラニル(UN、0.5mg/kg)を投与したときに、そのクレアチニン及びBUNの血漿濃度は、その前にゲンタマイシン(G−50)を用いた準毒性療法を受けさせた場合のみに上昇することを示している。ゲンタマイシン(G−50)、UN又は(対照として)生理食塩水のみを投与しているこれらのラットにおいて、これらのパラメータにおける変化は認められない。
【0094】
さらに、ゲンタマイシンによって予め素因を与えられたラットのみが、タンパク尿(図6、左パネル)、増加したNAG排泄及び低下したクレアチニンクリアランス(図6、右パネル)を示す。これらのデータより、図5からの情報がさらに補強され、全体としてゲンタマイシンの素因的作用が支持される。
【0095】
興味深いことに、ゲンタマイシンの素因的作用は、ゲンタマイシン中止直後のみではなく、その後の1週間も、且つさらにゲンタマイシン治療中にも有効である。これは、ラットにゲンタマイシンと並行して(黒丸)、又はゲンタマイシン中止1週間後に(白丸)UNを投与した、図7のデータによって実証される。
【0096】
2.3.ゲンタマイシンによって誘発される、急性腎不全に対する素質の尿中マーカーの、ディファレンシャルプロテオミクスを通した同定。
【0097】
最先端の臨床的技術は、ゲンタマイシンの素因的作用を検出又は診断することができない。その理由は、そうした状態下で変化するパラメータがないからである。この状態を診断するために使用され得る、ゲンタマイシンのこの作用に関連する新しい尿中マーカーを見出す目的で、本発明者らは、対照及びG−50の動物からの尿を用いて、ディファレンシャルプロテオミクスのアプローチを試みた。試験(図8)より、GM2APは、対照の尿中には存在せず、G−50の尿中では高発現されていることが確認された。
【0098】
2.4.ゲンタマイシンによって誘発される、急性腎不全に対する素質の尿中マーカーとしてのGM2APの特徴付け及び検証。
ラット及びヒトのGM2APに対して産生されたポリクローナル抗体によって、本発明者らは、対照及びG−50の尿中でのこのタンパク質の示差的なレベルをさらに確認した(図9)。本発明者らの結果より、このタンパク質が、明白な腎不全を有するG−150ラットの尿中で上昇していることも実証される(図9、及び下記を、さらに詳細には図11を参照されたい)。
【0099】
2.5.他の腎毒性薬剤(UN及びシスプラチン)の後のGM2AP。
図10は、GM2APが、UN(上方パネル)及びシスプラチン(下方パネル)のような他の腎毒性物質によって負わされた明白な腎損傷の検出のためにも役立ち得ることを示している。血漿クレアチニン濃度によって実証されるように、UN又はシスプラチンのいずれかによってARFに罹患しているラットは、高レベルの尿中GM2APを示すが、対照ラットは、極めて少量の又は検出不可能な量のGM2APマーカーを示すのを認めることができる。
【0100】
上記の全てのデータから、本発明者らは、GM2APは以下を診断するために役立ち得ると結論づけることができる:1.準毒性のゲンタマイシンによって誘発されるARFに対する素質。これは、ARFの診断における突破口を構成するものである。その理由は、ゲンタマイシンで治療した患者が、無症状のままで、正常の条件ではいかなる腎作用も引き起こさないであろう他の作用剤への曝露によって急性腎損傷をより容易に発症しやすくなるようにさせ得る状態を我々は今や検出することができるようになる可能性があるからである。さらに、次に試験されるべきことは、ARFにおけるこの新規マーカーが、他の薬剤が準毒性用量で誘発する可能性がある潜在的な素因的作用を検出又は診断するのにも役立つかどうかである。
【0101】
2.6.急性腎不全(又は特定の型のARF)の極めて早期のマーカーとしてのGM2APの特徴付け及び検証。
GM2APがどのくらい早く腎損傷を検出するかを試験するために、G−150療法での処置による異なるマーカーの段階的変化についての一連の時間経過試験を行った。図11において認められるように、クレアチニンクリアランス、血漿クレアチニン濃度及びBUN濃度、タンパク尿、及びNAG排泄などの臨床的パラメータは、ゲンタマイシン処置の開始4日後までに上昇した。さらに、KIM−1及びPAI−1の尿中レベルも4日目までに上昇した。興味深いことに、GM2APの尿中レベルは、ゲンタマイシン開始後1日目と同じくらい早く上昇し始めた。
【0102】
これにより、GM2APは、ゲンタマイシンによって誘発された急性腎損傷の、且つおそらく一般の急性腎損傷の、極めて早期のマーカーとして、発展する可能性があることが明らかに示唆される。
【0103】
2.7.ゲンタマイシンで治療したヒトの尿中のGM2APの特徴付け。
最後に、本発明者らは、ゲンタマイシンで治療した患者の尿中のGM2APレベルが上昇しているかどうかを試験した。図12は、ゲンタマイシン療法下の患者の人体計測のデータである血漿クレアチニン濃度及びBUN濃度、並びにMDRD又はCockroft−Gault式によって推定されるGFR、並びに健常な未治療の対照からの人体計測のデータを示している。ゲンタマイシンで治療した、含まれている患者の腎機能は、正常状態の範囲内にある。しかし、実験動物において認められるのと同様に、GM2APの尿中レベルは、ウエスタンブロットによって決定されるように、ゲンタマイシンで治療した患者では明らかにより高い。これにより、ラットで収集した全てのデータと合わせて、GM2APの尿中レベルは、ヒトにおける急性腎損傷に対する素質の臨床的マーカーとして検証されるべきであることが示唆される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体における急性腎不全(ARF)を発症するリスクを決定するために、又はARFを決定するために有用なデータを用意する方法であって、
a.個体(対象)から生体試料を得るステップと、
b.(a)で得られた試料において、配列番号1、又はその断片と少なくとも50%同一なタンパク質を検出及び/又は定量するステップと
を含む方法。
【請求項2】
(b)で検出及び/又は定量される前記タンパク質が配列番号1と少なくとも70%同一である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(b)で検出及び/又は定量される前記タンパク質が配列番号1である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(b)で得られた前記データを標準値と比較して、任意の有意な偏差を見出すステップをさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記有意な偏差を、前記個体におけるARFを発症するリスクに、又はARFの発症に帰するステップをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(a)からの前記生体試料が体液である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記体液が尿である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記タンパク質が、電気泳動、イムノアッセイ、クロマトグラフィー及び/又はマイクロアレイの技術によって検出及び/又は定量される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ARFを発症する前記リスク、又は前記ARFが、少なくとも1種の腎毒性物質の投与又はそれに対する曝露に起因するものである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記腎毒性物質がアミノグリコシド系抗生物質である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アミノグリコシド系抗生物質がゲンタマイシンである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記タンパク質が、前記腎毒性物質の投与又はそれに対する曝露の開始の12時間後から検出される、請求項9〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記タンパク質が24時間から検出される、請求項9〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1種の腎毒性物質の投与又はそれに対する曝露に起因するARFの進行を予測する方法であって、
a.前記腎毒性物質に曝露された個体又は曝露されていない個体から単離された体液において、配列番号1、又はその断片と少なくとも50%同一なタンパク質の第1の濃度を決定するステップと、
b.曝露された個体では前記タンパク質の前記第1の濃度を決定した後に、曝露されていない個体では前記腎毒性物質の投与又はそれに対する曝露の開始後に、前記個体から単離された体液において、ステップ(a)からの前記タンパク質の第2の濃度を決定するステップと、
c.前記第2の濃度を前記第1の濃度と比較して、任意の有意な偏差を見出すステップと
を含む方法。
【請求項15】
前記タンパク質が配列番号1と少なくとも70%同一である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記タンパク質が配列番号1である、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記腎毒性物質がアミノグリコシド系抗生物質である、請求項14〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記アミノグリコシド系抗生物質がゲンタマイシンである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記体液が尿である、請求項14〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記個体がヒトである、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
ARFを発症するリスクを決定するため、又はARFを決定するため、又はARFの進行を予測するためのバイオマーカーとしての、配列番号1、又はその断片と少なくとも50%同一なタンパク質の使用。
【請求項22】
前記タンパク質が配列番号1と少なくとも70%同一である、請求項21に記載のタンパク質の使用。
【請求項23】
前記タンパク質が配列番号1である、請求項21又は22に記載のタンパク質の使用。
【請求項24】
ARFを発症する前記リスク、又は前記ARF、又はARFの前記進行が、少なくとも1種の腎毒性物質の投与に起因するものである、請求項21又は23に記載のタンパク質の使用。
【請求項25】
個体から単離された試料において、ARFを発症するリスクを決定するため、又はARFを決定するため、又はARFの進行を予測するために有用なデータを用意するためのキットであって、請求項1〜20のいずれか一項に記載の任意の方法を行うための試薬を含むキット。
【請求項26】
前記試薬が、少なくとも、配列番号1、又はその断片と少なくとも50%同一なタンパク質を認識するための1種又は複数のプローブである、請求項25に記載のキット。
【請求項27】
前記プローブが、配列番号1、又はその断片を認識する、請求項26に記載のキット。
【請求項28】
前記プローブが固体担体に結合されている、請求項26又は27に記載のキット。
【請求項29】
前記プローブが、前記タンパク質、又はその断片を認識するために使用される抗体である、請求項26〜28のいずれか一項に記載のキット。
【請求項30】
前記抗体によって認識されるタンパク質の前記断片が配列番号2である、請求項29に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2012−528300(P2012−528300A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512212(P2012−512212)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【国際出願番号】PCT/EP2009/056381
【国際公開番号】WO2010/136059
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(509067957)ウニベルシダド・デ・サラマンカ (3)
【Fターム(参考)】