説明

悪性新生物の診断および処置

【課題】哺乳動物の細胞または体液をヒトアスパルチル(アスパラギニル)β−ヒドロキシラーゼ(HAAH)ポリペプチドに結合する抗体と接触させることによって、哺乳動物において悪性新生物の成長を診断および阻害するための方法を提供する。
【解決手段】哺乳動物由来の体液を、ヒトアスパルチル(アスパラギニル)β-ヒドロキシラーゼ(HAAH)ポリペプチドに結合する抗体を、抗原-抗体複合体を形成するのに十分な条件下で接触させ、そしてこの抗原-抗体複合体を検出することによる、哺乳動物における悪性新生物を診断するための方法。HAAHに結合する抗体またはこのような抗体をコードするポリヌクレオチドの哺乳動物への投与によって、哺乳動物において腫瘍細胞(例えば、脳腫瘍)に対して免疫応答を惹起するか、または免疫応答を付与する方法。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(連邦政府支援研究に関する声明)
本発明は、国立衛生研究所認可CA-35711、AA-02666、AA-02169、およびAA11431による米国政府支持のもとでなされた。本政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
(発明の背景)
原発性悪性中枢神経系(CNS)新生物(特に、神経膠芽細胞腫)は、脳の攻撃的かつ広範な浸潤および抗癌処置への耐性に起因して非常に致死的である。CNS癌ならびに他の癌タイプの根底にある病原機構の解明が進行しているが、腫瘍特異的治療アプローチおよび診断方法は、大いに捕らえどころがなかった。
【発明の概要】
【0003】
(発明の要旨)
本発明は、哺乳動物由来の体液を、ヒトアスパルチル(アスパラギニル)β-ヒドロキシラーゼ(HAAH)ポリペプチドに結合する抗体を、抗原-抗体複合体を形成するのに十分な条件下で接触させ、そしてこの抗原-抗体複合体を検出することによる、哺乳動物における悪性新生物を診断するための方法を特徴とする。このようにして検出される悪性新生物は、内胚葉組織に由来する新生物、例えば、結腸癌、乳癌、膵臓癌、肝臓癌、および胆管の癌を包含する。中枢神経系(CNS)の新生物(例えば、ニューロン細胞および神経膠細胞起源の両方の原発性悪性CNS新生物ならびに転移性CNS新生物)もまた検出される。患者由来組織試料(例えば、固形腫瘍の生検)ならびに体液(例えば、CNS由来体液、血液、血清、尿、唾液、痰、肺滲出液、および腹水)は、HAAH特異的抗体と接触される。
【0004】
本発明は、HAAHに結合する抗体またはこのような抗体をコードするポリヌクレオチドの哺乳動物への投与によって、哺乳動物において腫瘍細胞(例えば、脳腫瘍)に対して免疫応答を惹起するか、または免疫応答を付与する方法を含む。好ましくは、この抗体は、HAAHの細胞外ドメイン中の部位(例えば、残基1〜700の範囲内の部位)に結合する。この抗体は、HAAHの外部ドメイン(配列番号:2の残基19〜75)に結合する。より好ましくは、この抗体は、HAAHの触媒ドメイン(例えば配列番号:2のアミノ酸650〜700)に結合する。例えば、FB50は、アミノ酸配列NPVEDS(配列番号:2の残基286〜291)を有するポリペプチドに結合する。モノクローナル抗体HBOH1は、アミノ酸配列QPWWTPK(配列番号:2の残基573〜579)を有するポリペプチドに結合し、モノクローナル抗体HBOH-2は、アミノ酸配列LPEDENLR(配列番号:2の残基613〜620)を含むポリペプチドに結合する。HAAHの上記抗原エピトープは、悪性細胞の細胞表面上に位置する。受動免疫化に適切な他のHAAH特異的抗体には、5C7、5E9、19B、48A、74A、78A、86A、HA238A、HA221、HA239、HA241、HA329、およびHA355が含まれる。
【0005】
投与すべき抗体は、ヘテロ二量体抗体、単鎖抗体、または高親和性単鎖抗体である。高親和性とは、抗体の抗原特異的結合親和性がナノモル範囲のKdを有することを意味する。好ましくは、結合親和性は、100pMまたはそれ以上の親和性の範囲内である。例えば、抗体、抗体フラグメント、または単鎖抗体は、10−10〜10−15Mの範囲の抗原特異的結合親和性を有する。
【0006】
抗体またはそのフラグメントは、抗体で処置した患者の補体を活性化する。好ましくは、抗体は、抗体で処置した患者における腫瘍細胞の抗体依存性細胞障害性を媒介する。抗体またはそのフラグメントを、単独または細胞傷害剤に連結させて投与する。後者の場合、腫瘍細胞への抗体の結合により、細胞の障害または死滅をもたらし、それにより腫瘍負荷が軽減する。抗体は、結合した細胞を、照射またはレーザー媒介死に対して敏感にする、放射化学タグまたは化学タグに連結される。
【0007】
能動免疫化によって、腫瘍成長を減少させるためにHAAH特異的免疫応答を誘導する方法もまた本発明の範囲内にある。この方法は、哺乳動物にHAAHポリペプチド(例えば、配列番号:2のアミノ酸配列を含むポリペプチド)を投与する工程を含む。免疫原性HAAHフラグメントもまた、HAAHの特定の部分に対する免疫応答を生じさせるために投与される。例えば、細胞表面上でHAAHに対する抗体応答を生じさせるために、HAAHの細胞外ドメインを含む(しかし、HAAHの細胞内ドメインを欠く)ポリペプチドを投与する。HAAH活性を阻害する抗体を生じさせるために、個体をHAAHの触媒ドメイン(例えば、配列番号:2のアミノ酸650〜700)を含むポリペプチドで免疫化する。選択的に、ポリペプチド組成物は、臨床的に許容されるアジュバント化合物を含む。このようなアジュバントは、当技術分野で一般に公知であり、油乳濁液、フロイント完全および不完全アジュバント、ビタミンE、アルミニウム塩またはゲル(水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、またはリン酸アルミニウムなど)、サポニン、ポリアクリル酸を基にしたポリマー(カルボポールなど)、非イオン性ブロックポリマー、脂肪酸アミン(アブリジンおよびDDAなど)、デキストランを基にしたポリマー(硫酸デキストランおよびDEAEデキストランなど)、ムラミールジペプチド、ISCOM(欧州特許第109942号などに記載の免疫刺激複合体)、生分解性マイクロカプセル、リポソーム、細菌免疫刺激物質(MDPおよびLPSなど)、ならびにグルカンが含まれる。他のアジュバント化合物が当技術分野で周知である(例えば、Altman and Dixon、1989、Advances in Veterinary Science and Comparative Medicine 33:301〜343に記載)。ヒトの使用にはミョウバンが好ましい。
【0008】
HAAH特異的免疫応答はまた、HAAHポリペプチドをコードするポリヌクレオチド組成物、またはHAAHコードポリヌクレオチドの変性変異型の哺乳動物への投与によって誘導される。例えば、ポリヌクレオチドは、HAAHの特異的免疫原性ドメインをコードする、配列番号:3のヌクレオチド配列もしくはその変性変異体またはそのフラグメントを含む。好ましくは、ポリヌクレオチドによってコードされるHAAHポリペプチド(または直接投与されたポリペプチド)は、酵素的に機能しない。より好ましくは、HAAHポリヌクレオチドは、分泌されるHAAHポリペプチドをコードする(例えば、構築物は、細胞から細胞外空間への輸送のためのシグナル配列を含む)。HAAHポリペプチドは、必須ヒスチジンを欠く。HAAHポリペプチドは、配列番号:2の最初の650個のアミノ酸を含む短縮HAAHである。
【0009】
選択的に、ポリヌクレオチド組成物は、沈殿剤または脂質などのトランスフェクション促進剤を含む。好ましくは、コードされるHAAHポリペプチドは、HAAHの細胞外ドメインを含み、かつHAAHの細胞内ドメインを欠く、配列番号:2(全長HAAH)のアミノ酸配列またはそのフラグメントを含む。好ましくは、ポリヌクレオチドは、HAAHの触媒ドメインを含む。HAAHコード配列は、プロモーター、および標的細胞中におけるポリペプチド発現のための他の調節配列に、機能可能に連結される。ポリペプチドは、細胞内に指向されるか、または細胞外発現もしくは分泌のために標識される。ポリヌクレオチドは、抗原提示のための適切なアクセサリー分子(例えば、主要組織適合抗原)を発現する、標的細胞における発現を指示する。
【0010】
診断方法は、体液中の腫瘍細胞を検出する工程および組織中の腫瘍細胞を検出する工程(インビボまたはエキソビボ)を含む。例えば、生検組織を、HAAH特異的抗体と接触させ、抗体結合を測定する。従来の診断方法を使用して検出不可能な微小腫瘍を検出するために、全身画像診断を行うことができる。したがって、哺乳動物における新生物の診断方法を、哺乳動物の組織(例えば、リンパ節)をHAAHに結合する検出可能に標識した抗体と接触させることによって行う。正常な非新生物組織への結合レベルと比較した組織部位での抗体結合レベルの増加は、組織部位での新生物の存在を示す。検出目的のために、抗体(またはそのHAAH結合フラグメント)を、非放射性タグ、放射性化合物、または比色剤で標識する。例えば、抗体または抗体フラグメントを、125I、99Tc、Gd+++、またはFe++でタグ化する。緑色蛍光タンパク質を、比色タグとして使用する。
【0011】
本発明はまた、HAAHの可溶性フラグメントを包含する。可溶性HAAHポリペプチドは、細胞外ドメインを含み、選択的にHAAHの細胞質ドメインまたは膜貫通ドメインの一部または全てを欠く。1つの例では、フラグメントは、配列番号:2の残基660〜758を欠く。別の例では、フラグメントは、配列番号:2の残基679〜697(Hisモチーフ)を欠く。さらに別の例では、フラグメントは、配列番号:2の少なくとも1つの残基を欠き、この残基は、残基661、662、663、670、671、672、および673からなる群から選択される。HAAHフラグメントは、HAAHポリペプチドであり、その長さは、全長HAAHタンパク質の長さ未満である。全長HAAHタンパク質を、表1に示す。
【0012】
診断キットもまた、本発明に含まれる。例えば、腫瘍細胞を検出するためのキットは、HAAHに結合する抗体またはそのフラグメントを含む。このキットは、選択的に、抗体の腫瘍細胞への結合を検出するための手段を含む。例えば、このキットは、検出可能なマーカー(例えば、Gd+++もしくはFe++などの非放射性マーカー、または放射性化合物)を含む。このキットはまた、使用説明書、正の抗原結合を決定するための標準試薬、または抗体結合の欠失を決定するための負のコントロールを含む。内容物はキット中に共に包装されている。
【0013】
アッセイフォーマットはまた、悪性疾患の予後のために使用される時間的データを生成するために有用である。哺乳動物の悪性新生物の予後のための方法は、(a)哺乳動物由来の体液を、HAAHポリペプチドに結合する抗体と、抗原-抗体複合体を形成するのに十分な条件下で接触させる工程、およびこの抗原-抗体複合体を検出する工程;(b)この複合体の量を定量し、体液中のHAAHのレベルを決定する工程;および(c)体液中のHAAHのレベルを、HAAHの正常コントロールレベルと比較する工程によって実施される。経時的なHAAHのレベルの増大は、疾患の進行性の悪化、および従って有害な予後を示す。
【0014】
本発明はまた、HAAHに結合する抗体を包含する。この抗体は、好ましくは、HAAHのカルボキシ末端触媒ドメインの部位に結合する。あるいは、この抗体は、細胞の表面に露出されるエピトープに結合する。この抗体は、ポリクローナル抗血清またはモノクローナル抗体である。本発明は、インタクトなモノクローナル抗体のみならず、免疫学的に活性な抗体フラグメント(例えば、Fabまたは(Fab)2フラグメント);操作された単鎖Fv分子;またはキメラ分子(例えば、ある抗体(例えばマウス起源の)の結合特異性、および別の抗体(例えば、ヒト起源の)の残りの部分を含む抗体)もまた包含する。好ましくは、この抗体は、FB50、5C7、5E9、19B、48A、74A、78A、86A、HA238A、HA221、HA239、HA241、HA329、またはHA355のようなモノクローナル抗体である。それらのモノクローナル抗体と同じエピトープに結合する抗体もまた、本発明の範囲内にある。
【0015】
HAAH特異的イントラボディ(intrabody)は、標的細胞(例えば、腫瘍細胞)の内部で発現される組換え単鎖HAAH特異的抗体である。このようなイントラボディは、内因性細胞内HAAHに結合し、そしてHAAH酵素活性を阻害するか、またはHAAHが細胞内リガンドに結合することを妨害する。HAAH特異的イントラボディは、細胞内シグナル伝達を阻害し、そして結果として、HAAHを過剰発現する腫瘍の増殖を阻害する。
【0016】
哺乳動物における腫瘍の診断のためのキットは、HAAH特異的抗体を含む。診断アッセイキットは、標準的な2抗体結合フォーマットで優先的に処方される。ここでは、1つのHAAH特異的抗体が、患者試料におけるHAAHを捕捉し、そして別のHAAH特異的抗体が、捕捉されたHAAHを検出するために使用される。例えば、この捕捉抗体は、固相(例えば、アッセイプレート、アッセイウェル、ニトロセルロースメンブレン、ビーズ、ディップスティック、または溶出カラムのコンポーネント)に固定化される。二次抗体(すなわち、検出抗体)は、代表的には、検出可能標識(例えば、比色剤または放射性同位体)でタグ化される。
【0017】
哺乳動物における腫瘍増殖を阻害する方法もまた、本発明の範囲内にある。この方法は、哺乳動物に、HAAHの発現または酵素活性を阻害する化合物を投与することによって行われる。好ましくは、この化合物は、実質的に純粋な核酸分子(例えば、HAAHアンチセンスDNA)であり、その配列は、HAAHのコード配列に相補的である。HAAHの発現は、哺乳動物細胞(例えば、腫瘍細胞)を、HAAHアンチセンスDNAまたはRNA(例えば、合成HAAHアンチセンスオリゴヌクレオチド)と接触させることにより阻害される。アンチセンスの配列は、HAAH遺伝子のコードまたは非コード領域に相補的である。例えば、この配列は、HAAH遺伝子の5'非翻訳領域におけるヌクレオチド配列に相補的である。哺乳動物細胞においてHAAH発現を阻害するHAAHアンチセンスオリゴヌクレオチドの例は、配列番号:10、11、または12を含むオリゴヌクレオチドを包含する。HAAHアンチセンス核酸は、HAAHを過剰発現する神経膠芽細胞腫細胞または他の腫瘍細胞に導入される。標的細胞におけるアンチセンス核酸のHAAH転写物への結合は、細胞によるHAAH産生の減少を生じる。用語「アンチセンス核酸」とは、mRNAの一部に相補的であり、そしてmRNAにハイブリダイズし、そしてこの翻訳を妨害する核酸(RNAまたはDNA)を意味する。好ましくは、アンチセンスDNAは、5'調節配列またはHAAH mRNAのコード配列の5'部分(例えば、シグナルペプチドをコードする配列またはHAAH遺伝子のエキソン1内の配列)に相補的である。アンチセンスDNAを細胞に導入するための標準的な技術が使用され得る。これらは、アンチセンスDNAが、アンチセンスRNAが転写されるテンプレートである技術を包含する。この方法は、HAAHの発現がアップギュレートされる(例えば、細胞の悪性形質転換の結果として)腫瘍を処置するものである。オリゴヌクレオチドの長さは、少なくとも10ヌクレオチドであり、天然に生じるHAAH転写物と同程度の長さであり得る。好ましくは、この長さは、10ヌクレオチドと50ヌクレオチドとの間(両数値を含む)である。より好ましくは、この長さは、10ヌクレオチドと20ヌクレオチドとの間(両数値を含む)である。
【0018】
「実質的に純粋なDNAまたはRNA」とは、この核酸が、本発明のDNAが由来する生物の天然に生じるゲノムではHAAH遺伝子に隣接している遺伝子を含まないことを意味する。従って、この用語は、例えば、ベクター、自律複製プラスミドもしくはウイルス、またはその天然部位以外の部位で原核生物もしくは真核生物のゲノムDNAに取り込まれるか;あるいは他の配列と独立した別個の分子(例えば、cDNA、または、PCRまたは制限エンドヌクレアーゼ消化によって生成されたゲノムもしくはcDNAフラグメント)として存在する組換え核酸を包含する。それはまた、さらなるポリペプチド配列をコードするハイブリッド遺伝子の一部である組換え核酸(例えば、キメラポリペプチドをコードする核酸(例えば、細胞傷害性ポリペプチドに連結された抗体フラグメントをコードする核酸))を包含する。あるいは、HAAH発現は、リボザイム、またはHAAHプロモーター配列へのFosまたはJunの結合を阻害する化合物を投与することにより阻害される。
【0019】
HAAHの酵素活性を阻害する化合物は、哺乳動物における腫瘍増殖を阻害するために有用である。HAAHの酵素活性とは、ポリペプチドの上皮増殖因子(EGF)様ドメインの水酸化を意味する。例えば、EGF様ドメインは、コンセンサス配列CX7CX4CX10CXCX8C(配列番号:1)を有する。HAAHヒドロキシラーゼ活性は、細胞内で阻害される。例えば、HAAHのドミナントネガティブ変異体(またはこのような変異体をコードする核酸)が投与される。このドミナントネガティブHAAH変異体は、天然に生じるHAAH配列のヒスチジンの第一鉄の鉄結合部位を、非鉄結合アミノ酸に変更する変異を含み、それによりHAAHのヒドロキシラーゼ活性を廃止する。変異される(例えば、欠失または置換される)ヒスチジンは、HAAHのカルボキシ末端触媒ドメイン中に位置する。例えば、この変異は、ネイティブHAAH配列のアミノ酸650〜700の間(例えば、Hisモチーフ、配列番号:2の下線配列)に位置する。例えば、変異は、配列番号:2の残基671、675、679、または690にある。HAAH特異的イントラボディはまた、HAAHに結合し、そして細胞内HAAH酵素活性を阻害する(例えば、HAAHの触媒ドメイン内のエピトープに結合することにより)のに有用である。他の化合物(例えば、L-ミモシン(mimosine)またはヒドロキシピリドン)は、HAAHヒドロキシラーゼ活性を阻害するために、腫瘍部位に直接、または全身的に投与される。
【0020】
(表1)HAAHのアミノ酸配列

(配列番号:2;GENBANKアクセッション番号S83325;Hisモチーフに下線を引く;触媒ドメイン内の保存された配列は、太字で示す)。
【0021】
例えば、HAAH水酸化を阻害する化合物は、HAAHリガンドに結合するが、細胞内シグナルを伝達しないポリペプチド、またはHAAHの触媒部位に変異を含むポリペプチドである。このようなポリペプチドは、天然に生じるHAAHアミノ酸配列またはそれらのフラグメントに少なくとも50%同一であり、そしてEGF様反復配列を含む基質のHAAH水酸化を阻害する能力を有するアミノ酸配列を含む。より好ましくは、このポリペプチドは、配列番号:2に対して、少なくとも75%、より好ましくは、少なくとも85%、より好ましくは少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0022】
実質的に純粋なHAAHポリペプチドまたはHAAH由来ポリペプチド(例えば、変異HAAHポリペプチド)は、好ましくは、このポリペプチドをコードする組換え核酸の発現によって、またはタンパク質を化学合成することによって、得られる。ポリペプチドまたはタンパク質は、それが、その天然状態でこれに付随する夾雑物(タンパク質および他の天然に生じる有機分子)と分離されているとき、実質的に純粋である。代表的には、このポリペプチドは、それが、調製におけるタンパク質の少なくとも60重量%を占めるとき、実質的に純粋である。好ましくは、調製におけるタンパク質は、重量基準で、少なくとも75%、より好ましくは、少なくとも90%、および最も好ましくは、少なくとも99%のHAAHである。純度は、任意の適切な方法(例えば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析)によって測定される。従って、実質的に純粋なポリペプチドは、真核生物に由来するがE.coliもしくは別の原核生物、またはこのポリペプチドが由来した以外の真核生物において産生される組換えポリペプチドを包含する。
【0023】
このようなHAAHまたはHAAH由来ポリペプチドをコードする核酸分子もまた、本発明の範囲内にある。
【0024】
(表2)HAAH cDNA配列

(配列番号:3;GENBANKアクセッション番号S83325;開始メチオニンをコードするコドンに下線を引く)。
【0025】
腫瘍増殖を阻害する方法はまた、NOTCHポリペプチドのHAAH水酸化を阻害する化合物を投与する工程を包含する。例えば、この化合物は、NOTCHポリペプチドにおけるEGF様システインリッチ反復配列(例えば、コンセンサス配列

を含む配列)の水酸化を阻害する。EGF様システインリッチ反復配列を含むポリペプチドは、内因性NOTCHの水酸化をブロックするために投与される。
【0026】
HAAHを過剰発現する腫瘍の増殖はまた、インスリンレセプター基質(IRS)シグナル伝達経路を介するシグナル伝達を阻害する化合物を投与することによって阻害される。好ましくは、この化合物は、IRSリン酸化を阻害する。例えば、この化合物は、配列番号:5の残基46、465、551、612、632、662、732、941、989、または1012に結合し、そしてリン酸化を阻害するペプチドまたは非ペプチド化合物である。化合物は、ポリペプチド(例えば、IRSリン酸化部位(例えば、Glu/Tyr部位)をブロックするポリペプチド)を包含する。抗体(例えば、リン酸化部位を含むIRSのカルボキシ末端ドメインに結合する抗体)は、IRSリン酸化をブロックし、そして結果としてこの経路に沿ったシグナル伝達をブロックする。IRSリン酸化の阻害は、順に、細胞増殖の阻害に至る。IRSリン酸化を阻害する他の化合物は、ビタミンDアナログEB1089およびワートマニン(Wortmannin)を包含する。
【0027】
HAAH過剰産生腫瘍細胞は、腫瘍細胞の細胞内および表面上の両方でHAAHを発現することが示された。従って、腫瘍細胞を殺傷する方法は、このような腫瘍細胞をHAAH特異的抗体に連結された細胞傷害剤と接触させることより行われる。HAAH特異的抗体(抗体フラグメント、または細胞外HAAHに結合するリガンド)は、腫瘍細胞の表面にキメラ分子を指向させ、この細胞傷害剤が、この抗体が結合される腫瘍細胞を損傷または殺傷させることを可能にする。モノクローナル抗体は、HAAHのエピトープ(例えば、細胞の表面上もしくはHAAHの触媒部位に露出されたエピトープ)に結合する。細胞傷害性組成物は、非腫瘍細胞に比較して腫瘍細胞を優先的に殺傷する。
【0028】
HAAHを過剰発現する腫瘍の増殖を阻害する抗腫瘍剤を同定するためのスクリーニング方法もまた、本発明の範囲内にある。候補化合物がHAAH酵素活性を阻害するか否かを決定するために使用されるスクリーニング方法は、以下の工程を包含する:(a)HAAHポリペプチド(例えば、HAAHのカルボキシ末端触媒部位を含むポリペプチド)を提供する工程;(b)EGF様ドメインを含むポリペプチドを提供する工程;(c)HAAHポリペプチドまたはEGF様ポリペプチドを、候補化合物と接触させる工程;および(d)工程(b)のEGF様ポリペプチドの水酸化を決定する工程。候補化合物の存在下でのこの化合物の不在下に比較した水酸化の減少は、この化合物が、NOTCHのようなタンパク質におけるEGF様ドメインのHAAH水酸化を阻害することを示す。
【0029】
NOTCHのHAAH活性化を阻害する抗腫瘍剤は、(a)HAAHを発現する細胞を提供する工程;(b)この細胞を候補化合物と接触させる工程;および(c)この細胞の核への活性化NOTCHの転移を測定する工程によって同定される。転移は、NOTCHの110kDa活性化フラグメントに結合する抗体のような試薬を使用することによって測定される。候補化合物の存在下でのこの化合物の不在下に比較した転移の減少は、この化合物が、NOTCHのHAAH活性化を阻害し、それによりNOTCH媒介シグナル伝達およびHAAH過剰発現腫瘍細胞の増殖を阻害することを示す。
【0030】
本明細書中に記載のヌクレオチドおよびアミノ酸比較は、Lasergeneソフトウェアパッケージ(DNASTAR,Inc.、Madison、WI)を用いて実施された。使用されるMegAlignモジュールは、Clustal V方法(Higginsら、1989、CABIOS5(2):151-153)であった。使用されるパラメーターは、ギャップペナルティー10、ギャップ長さペナルティー10であった。
【0031】
ハイブリダイゼーションは、標準的な技術(例えば、Ausubelらに記載の技術(Current Protocols inMolecular Biology、John Wiley&Sons、1989))を用いて実施される。「高いストリンジェンシー」とは、高温および低塩濃度(例えば、0.1×SSCの塩濃度で65℃での洗浄条件)によって特徴付けられる核酸ハイブリダイゼーションおよび洗浄条件をいう。「低」から「中程度の」ストリンジェンシーとは、低温および高塩濃度(例えば、1.0×SSCの塩濃度で60℃未満での洗浄条件)によって特徴付けられるDNAハイブリダイゼーションおよび洗浄条件をいう。例えば、高いストリンジェンシー条件は、50%ホルムアミドの存在下の42℃でのハイブリダイゼーション;2×SSCおよび1%SDSの存在下での65℃での第一の洗浄;続いて、0.1%×SSCの存在下での65℃での第二の洗浄を包含する。HAAH遺伝子配列に対して約50%配列同一性を有するDNA配列を検出するために適したより低いストリンジェンシー条件は、例えば、ホルムアミドの不在下での約42℃でのハイブリダイゼーション;42℃、6×SSC、および1%SDSでの第一の洗浄;ならびに50℃、6×SSC、および1%SDSでの第二の洗浄によって検出される。
【0032】
本発明の他の特徴および利点は、以下の好ましい実施形態の説明、および特許請求の範囲から明らかである。
【0033】
(詳細な説明)
HAAHは、コラーゲン生合成において鍵となる役割を演じるプロリルおよびリジルヒドロキシラーゼの(α-ケトグルタル酸依存性ジオキシゲナーゼファミリーに属するタンパク質である。この分子は、第一鉄の鉄の存在下でいくつかのタンパク質のEGF様ドメインにおけるアスパラギン酸またはアスパラギン残基を水酸化する。これらのEGF様ドメインは、保存されたモチーフを含む。このモチーフは、タンパク質(例えば、凝固因子、細胞外細胞間質タンパク質、LDLレセプター、NOTCHホモログ、またはNOTCHリガンドホモログ)における反復配列を形成する。
【0034】
α-ケトグルタル酸依存性ジオキシゲナーゼであるアスパルチル(アスパラギニル)β-ヒドロキシラーゼ(AAH)は、種々のタンパク質のEGF様ドメインにおける1つのアスパラギン酸またはアスパラギン残基を特異的に水酸化する。ヒトAspH(hAspH)をコードする4.3kb cDNAは、形質転換細胞における2.6kbおよび4.3kb転写物とハイブリダイズし、そしてより大きな転写物の推定アミノ酸配列は、約85kDaのタンパク質をコードする。インビボでの転写および翻訳、ならびにウェスタンブロット分析の両方とも、触媒性C末端の翻訳後切断から生じ得る56kDaタンパク質もまた示す。
【0035】
AAHの生理的機能は、ビタミンK依存性凝血タンパク質におけるアスパラギン酸の翻訳後β水酸化である。しかしながら、いくつかの悪性新生物におけるAAHの豊富な発現、および多くの正常細胞における低いレベルのAAHは、悪性におけるこの酵素の役割を示す。AAH遺伝子はまた、栄養膜細胞層において高度に発現されるが、胎盤の合胞体栄養細胞層においてはあまり発現されない。栄養膜細胞層は、胎盤移植を媒介する侵襲性細胞である。ヒト胆管癌、肝細胞癌、結腸癌、および乳癌におけるAAH発現レベルの増大は、侵襲性または転移性の病変に主に関連した。さらに、AAHの過剰発現は、DNA合成の増大および細胞増殖を厳密には反映しない。なぜなら、高レベルのAAH免疫反応性が100%の胆管癌において観察されたが、胆管の再生または非新生物性増殖と関連したヒトまたは実験的疾患プロセスにおいてはそうではなかったからである。AAH過剰発現および付随する高レベルのβヒドロキシラーゼ活性は、形質転換新生物細胞の侵襲性増殖に至る。HAAH発現の増大の検出は、遺伝子産物を過剰発現するとして特徴付けられている癌タイプの早期かつ信頼性ある診断に有用である。
【0036】
(悪性腫瘍の診断)
HAAHは、正常非癌性細胞に比較して、内胚葉起源の多くの腫瘍およびCNS腫瘍の少なくとも95%において過剰発現される。患者由来組織試料(例えば、固体組織または体液)におけるHAAH遺伝子産物の増大は、標準的な方法(例えば、ウェスタンブロットアッセイ、またはELISAのような定量アッセイによって)を用いて実施される。例えば、HAA特異的抗体を用いる標準的な競合ELISAフォーマットが、患者HAAHレベルを定量するために使用される。あるいは、捕捉抗体として第一の抗体および検出抗体として第二のHAAH特異的抗体を用いるサンドイッチELISAが使用される。
【0037】
HAAHを検出する方法は、体液の成分を固体基材(例えば、マイクロタイタープレート、ビーズ、ディップスティック)に結合されたHAAH特異的抗体と接触させる工程を包含する。例えば、この固体基材は、体液の患者由来試料中に浸漬され、洗浄され、そしてこの固体基材は、試薬と接触されて、この固体基材に存在する免疫複合体の存在を検出する。
【0038】
試験試料におけるタンパク質は、固体基材上に固定化される(例えば、結合される)。タンパク質を固体基材に共有結合的または非共有結合的に結合するための方法および手段は、当技術分野において公知である。固体表面の性質は、アッセイフォーマットに依存して変動し得る。マイクロタイターウェルにおいて実施されるアッセイについては、固体表面は、マイクロタイターウェルまたはカップの壁である。ビーズを用いるアッセイについては、固体表面は、ビーズの表面である。ディップスティック(すなわち、繊維または紙のような有孔性または繊維性材料から作製された固形物)を用いるアッセイにおいては、この表面は、ディップスティックが作製された材料の表面である。有用な固体支持体の例は、ニトロセルロース(例えば、メンブレンまたはマイクロタイターウェル形態で)、ポリ塩化ビニル(例えば、シートまたはマクロタイターウェル)、ポリスチレンラテックス(例えば、ビーズまたはマイクロタイタープレート)、ポリビニリジンフルオライド(IMMULON(商標)として公知)、ジアゾ化紙、ナイロンメンブレン、活性化ビーズ、およびプロテインAビーズを包含する。抗体を含む体支持体は、代表的には、試験試料との接触後、そして結合された免疫複合体の検出前に洗浄される。試験試料との抗体のインキュベーション後、検出可能標識による免疫複合体の検出が行われる。例えば、この標識は、酵素、蛍光、化学発光、放射能、または染料である。免疫複合体からのシグナルを増幅するアッセイもまた当技術分野において公知であり、このようなアッセイとして、例えば、ビオチンおよびアビジンを利用するアッセイが挙げられる。
【0039】
HAAH検出試薬(例えば、抗体)は、キットの形態でパッケージングされる。これは、1つ以上のHAAH特異的抗体、コントロール処方物(陽性および/または陰性)、および/または検出可能標識を含む。アッセイは、当技術分野において公知の標準的な2抗体サンドイッチアッセイフォーマットの形態であり得る。
【0040】
(HAAH特異的抗体の産生)
抗HAAH抗体は、当技術分野において周知の技術によって得られた。このような抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナルである。ポリクローナル抗体は、標準的な方法(例えば、Ghoseら、Methods in Enzymology、 Vol. 93、 326-327、1983に記載の方法により)を用いて得られた。HAAHポリペプチド、またはそれらの抗原性フラグメントは、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、またはげっ歯類の抗血清においてポリクローナル抗体の産生を刺激するための免疫原として使用された。免疫原として有用なポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両方の産生のための抗原性ポリペプチドは、HAAH触媒ドメインを含むポリペプチドを包含する。例えば、免疫原性ポリペプチドは、全長成熟HAAHタンパク質またはカルボキシ末端触媒ドメインを含むHAAHフラグメント(例えば、配列番号:2のHisモチーフを含むHAAHポリペプチド)である。
【0041】
本明細書中に開示した抗体と同じエピトープに結合する抗体は、当技術分野で公知の標準的な方法(例えば、競合結合アッセイ)を用いて同定される。
【0042】
モノクローナル抗体は、標準的な技術によって得られた。10μgの精製組換えHAAHポリペプチドは、完全フロイントアジュバント中でマウスに腹腔内投与され、次いで最初の接種の3〜5ヶ月後に、静脈内で(尾静脈に)ブーストを1回行った。抗体産生ハイブリドーマは、標準的な方法を用いて作製された。HAAHポリペプチドについて高度に特異的である抗体を産生するハイブリドーマを同定するために、ハイブリドーマは、免疫に使用した同じポリペプチド免疫原を用いてスクリーニングされた。HAAH結合活性を有するとして同定された抗体はまた、以下に記載の酵素アッセイを使用してHAAH触媒活性を阻害する能力についてスクリーニングされる。好ましくは、この抗体は、少なくとも約108リットル/molの結合親和力およびより好ましくは、少なくとも約109リットル/molの親和力を有する。
【0043】
モノクローナル抗体は、当技術分野において公知の方法によってヒト化される。例えば、所望の結合特異性を有するMAbは、商業的にヒト化され得る(Scotgene、Scotland;Oxford Molecular、Palo Alto、CA)。
【0044】
HAAH特異的イントラボディは、以下のようにして産生される。適切なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの同定後、抗体をコードするDNAがクローニングされる。単鎖HAAH特異的抗体をコードするDNA(ここで、重鎖および軽鎖可変ドメインがフレキシブルなリンカーペプチドによって分離される)が、公知の方法(例えば、Marascoら、1993、Proc. Natl. Acad. Sci. USA90:7889-7893およびMarascoら、1997、Gene Therapy4:11-15)を用いて発現ベクターにクローニングされる。このような構築物は、例えば、抗体の細胞内産生のための標準的な遺伝子送達技術を用いて、細胞に導入される。細胞内抗体(すなわち、イントラボディ(intrabody))が、HAAHによるシグナル伝達を阻害するために使用される。HAAHのカルボキシ末端触媒ドメインに結合するイントラボディは、EGF様標的配列を水酸化するHAAHの能力を阻害する。
【0045】
腫瘍細胞の表面でHAAHの細胞表面露出エピトープに結合するHAAH特異的抗体(またはそのフラグメント)を連結する方法は、公知の方法を用いて、公知の細胞傷害剤(例えば、リシンまたはジフテリア毒素)に連結される。
【0046】
(生体材料の寄託)
特許手続き上の微生物寄託の国際的承認に関するブダペスト条約の条項に従って、ハイブリドーマFB501(モノクローナル抗体FB50を産生する)、ハイブリドーマHA386A(モノクローナル抗体86Aを産生する)、ハイブリドーマHA15C7A(モノクローナル抗体5C7を産生する)、およびハイブリドーマHA219B(モノクローナル抗体19Bを産生する)を、2001年5月17日にアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)、10801、ブールバード大学、Manassas、Va.20110-2209、米国に寄託した。
【0047】
出願人の代理人は、特許が付与された場合、ATCCは、永続的な寄託および公的に容易な利用可能性を提供する寄託機関であると説明している。このようにして寄託した材料の公的利用可能性に対する全ての制限は、特許付与時に決定的に取り除かれる。この材料は、米国特許法施行規則1.14および米国特許法第122条の下で権限を有する特許庁長官によって決定された者は特許出願の係属中に利用可能である。寄託された材料は、寄託されたプラスミド試料の最近の提供請求後少なくとも5年間、ならびにいかなる場合でも、寄託日から少なくとも30年間または特許有効期間のいずれか長期の方で、生存および非汚染状態の維持に必要な全ての対処を行って保存される。出願人の代理人は、要求した際に、寄託条件が原因で寄託機関が試料を提供することができない場合に、寄託物を交換する義務を承認する。
【0048】
(悪性腫瘍を処置する方法)
HAAHを過剰発現するとして特徴付けられた腫瘍(例えば、内胚葉起源の腫瘍またはCNS腫瘍)を有する患者は、HAAHアンチセンス核酸を投与することによって処置される。
【0049】
アンチセンス療法は、肝細胞癌、胆管癌、神経膠芽細胞腫、および神経芽細胞腫を罹患する患者においてHAAHの発現を阻害するために使用される。例えば、HAAHアンチセンス鎖(RNAまたはDNAのいずれか)は、mRNA転写物に結合し得る形態で細胞に直接的に導入される。あるいは、一旦標的細胞内にあると、適切なアンチセンスmRNAに転写される配列を含むベクターが、投与され得る。標的mRNAにハイブリダイズするアンチセンス核酸は、通常一本鎖のmRNA転写物と会合し、それにより翻訳および従ってタンパク質の発現を妨害することにより、遺伝子によりコードされるポリペプチド産物の産生を減少または阻害する。例えば、プロモーター(例えば、組織特異的または腫瘍特異的プロモーター)を含むDNAは、DNA配列(アンチセンステンプレート)(これは、アンチセンスRNAに転写される)に作動可能に連結される。「作動可能に連結される」とは、コード配列および調節配列(すなわち、プロモーター)が、適切な分子(例えば、転写活性化タンパク質)が調節配列に結合されたときに遺伝子発現を可能にするように接続されることを意味する。
【0050】
HAAH mRNAの種々の部分に相補的なオリゴヌクレオチドは、標準的な方法に従って、腫瘍細胞におけるHAAHの産生を減少させるその能力について、インビトロで試験された(例えば、FOCUS肝細胞癌(HCC)細胞株を用いて)。候補アンチセンス組成物と接触された細胞においてHAAH遺伝子産物の、候補組成物の不在下で培養された細胞に比較した減少は、HAAH特異的抗体または他の検出戦略を用いて検出される。インビトロでの細胞に基づくアッセイまたは無細胞アッセイにおいてHAAHの産生を減少させる配列は、次いで、悪性新生物を有する動物におけるHAAH産生の減少を確認するために、ラットまたはマウスにおいてインビボで試験される。
【0051】
アンチセンス療法は、標準的なベクターおよび/または遺伝子送達系によってアンチセンス核酸を患者に投与することによって実施される。適切な遺伝子送達系は、リポソーム、レセプター媒介送達系、裸のDNA、およびウイルスベクター(例えば、とりわけ、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)を包含し得る。HAAH産生の減少は、IRSシグナル伝達経路を介するシグナル伝達の減少を生じる。治療用核酸組成物は、薬学的に受容可能なキャリアにおいて処方される。治療用組成物はまた、上記のような遺伝子送達系を含み得る。薬学的に受容可能なキャリアは、動物への投与のために適切な生物学的に適合性のビヒクルである:例えば、生理食塩水。化合物の療有効量は、医学的に所望とされる結果(例えば、HAAH遺伝子産物の産生の減少または処置動物における腫瘍増殖の減少)を生じ得る量である。
【0052】
非経口投与(例えば、静脈内、皮下、筋内、および腹腔内送達経路)は、核酸またはHAAH阻害ペプチドまたは非ペプチド化合物を送達するために使用され得る。CNS腫瘍の処置のために、脳脊髄液への直接注入が有用である。血液脳関門は、癌患者において補償され得、全身的に投与された薬物が関門を通ってCNSに通過することを可能にする。治療用化合物のリポソーム処方物もまた、血液脳関門の通過を促進し得る。
【0053】
任意の一患者のための投与量は、多くの要因(患者の大きさ、体表面積、年齢、投与される特定の核酸、性、投与時間および経路、全体的な健康、および同時に投与される他の薬物を含む)に依存する。核酸の静脈内投与のための投与量は、およそ106〜1022コピーの核酸分子である。
【0054】
リボザイム療法もまた、癌患者においてHAAH遺伝子発現を阻害するために使用される。リボザイムは、特異的mRNAに結合し、次いでそれを予め決定された切断点で切断し、それによって転写物を破壊する。これらのRNA分子は、当技術分野で公知の方法に従って、HAAH遺伝子の発現を阻害するために使用される(Sullivanら、1994、J. Invest. Derm. 103:85S-89S;Czubaykoら、1994、J. Biol. Chem. 269:21358-21363;Mahieuら、1994、Blood 84:3758-65;Kobayashiら、1994、 CancerRes. 54:1271-1275)。
【0055】
(HAAH特異的抗体は腫瘍細胞成長を阻害する)
HAAH特異的抗体は、培養において腫瘍細胞の増殖を阻害する。2つの異なるHAAH特異的抗体FB-50および5C7を試験した。腫瘍細胞(肝細胞癌細胞株、肺癌細胞株、および乳癌細胞株)を、96ウェルプレートに播種し、種々の濃度の抗体と共に48時間インキュベートした。細胞を、アセトンで固定した。細胞成長を、スルホローダミンB色素結合アッセイ法を使用してモニターした。データは、FB50の存在下では、非存在下と比較して細胞の生存能力および増殖が減少したことを示した。
【0056】
(受動免疫化)
本明細書中に記載のHAAH特異的抗体を使用して、腫瘍細胞の成長を阻害するか、または腫瘍細胞を死滅させる。
【0057】
精製抗体調製物(例えば、精製モノクローナル抗体、抗体フラグメント、または単鎖抗体)を、腫瘍または腫瘍発症の危険性を診断する患者に投与する。受動免疫化分野で公知の方法(例えば、静脈内注射または筋肉内注射)を使用して、抗体調製物を投与する。本明細書中に記載の方法で使用した抗体を、生理学的に許容される賦形剤中で処方する。このような賦形剤(例えば、生理食塩水)は、当技術分野で周知である。
【0058】
抗体は、好ましくは、高親和性抗体(例えば、IgGクラス抗体)またはそのフラグメントもしくは単鎖抗体である。または、抗体はIgMイソ型である。抗体は、モノクローナル抗体(例えば、マウスモノクローナル抗体もしくはそのフラグメント、またはヒト化されたマウスモノクローナル抗体)である。抗体は、ヒトモノクローナル抗体である。所与のモノクローナル抗体の親和性を、公知の方法(例えば、亢進する結合能力についての選択)を使用してさらに増大させる(例えば、Boderら、2000、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、97:10701から10705に記載の方法による)。選択的に、抗体、抗体フラグメント、または高親和性単鎖抗体を、投与前に有毒部分に連結する。連結に適切な有毒部分には、リシン、シュードモナス毒素、ジフテリア毒素、ならびに当技術分野で公知の放射性同位元素および化学療法剤が含まれる。このような抗体毒素は、腫瘍細胞への結合時または腫瘍細胞の細胞質への内在化時に、腫瘍細胞を損傷するかまたは死滅させる。
【0059】
抗体調製物または抗体-毒素調製物を、約0.01〜2mL/kg体重の用量で投与する。処置個体の腫瘍負荷を減少させるために、必要に応じて投与量を毎週または毎月再投与する。
【0060】
(能動免疫化)
能動ワクチン接種は、動物を抗原に応答するように誘導するプロセスである。ワクチン接種中に、抗原を認識する細胞(B細胞または細胞障害性T細胞)をクローンとして増殖させる。さらに、抗原に特異的なヘルパーT細胞集団も増加する。ワクチン接種はまた、抗原を処理し、これを2つの経路のうちの1つを刺激することができる形態に提示することができる、特殊化抗原提示細胞を含む。抗原認識後の免疫細胞の拡大および活性化により、抗原特異的抗原が産生され、抗原特異的細胞性免疫応答が起こる。免疫化前のレベルと比較した免疫化個体の血清中のHAAH特異的抗体の力価レベルの増加によって、免疫化の成功が示される。好ましくは、HAAH特異的抗体の力価は、免疫化前よりも少なくとも10%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも100%、および最も好ましくは200%高い。
【0061】
個体を、AAH(例えば、HAAH)ポリペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドで免疫化する。例えば、ヒト患者を、52kDaの全長HAAHで免疫化する。免疫化ポリペプチドの免疫原性を増強するために、標準的なアジュバント製剤を同時投与してもよい。または、より短いポリペプチド(例えば、HAAHの免疫原性フラグメント)を使用する。例えば、ポリペプチドは、HAAHの細胞外触媒ドメイン(例えば、配列番号:2のアミノ酸650〜700)を含む。HAAHの他の免疫原性フラグメントには、αケトグルタル酸の結合部位を含むフラグメント、αケトグルタル酸の結合部位を欠くフラグメント、カルシウム結合部位を含むフラグメント、およびEGF様ポリペプチドの結合部位を欠くフラグメントが含まれる。
【0062】
(DNAワクチン)
ペプチド抗原を使用した標準的な能動ワクチン接種に加えて、DNAワクチン接種を使用して、HAAH、同様にHAAHを過剰発現する腫瘍細胞に対する免疫応答を起こす。悪性細胞上でHAAHが過剰発現されるにもかかわらず、腫瘍細胞は抗原提示のための適切なアクセサリー分子を欠くので、患者は有効な免疫応答を起こさない。本明細書中に記載のDNAワクチンにより、HAAH(および細胞表面上にHAAHを発現する細胞)に特異的な体液性および細胞性免疫が生じる。例えば、免疫化個体ではHAAH特異的抗体が産生されるだけでなく、HAAH特異的細胞傷害性T細胞が生成される。HAAH特異的細胞傷害性T細胞は腫瘍細胞を死滅させるので、免疫化個体の腫瘍負荷が低減される。
【0063】
AAHポリペプチド(全長またはAAHの免疫原性フラグメント)をコードするポリヌクレオチドを、公知の方法(例えば、微粒子銃または針による直接注入)によって個体に移入する。典型的には、抗原(または抗原をコードするDNA)は、筋肉内に送達される。抗原はまた、他の組織(例えば、腫瘍部位)に直接注入される。注入点で細胞はDNAを取り込む。細胞はタンパク質を産生し、タンパク質は免疫化個体の免疫系を刺激し、それにより例えばHAAH特異的抗体が産生される。細胞性免疫(例えば、細胞傷害性T細胞)もまた生成される。
【0064】
有効なDNAまたはmRNAの投与量は、一般に、約0.05μg/kg体重〜約50mg/kg体重、通常、約0.005〜5mg/kg体重(例えば、0.5〜5mg/kg)の範囲である。投与すべきDNAは、裸(トランスフェクション促進物質の非存在下)であるか、またはポリヌクレオチドの細胞取り込みを増強する化合物(例えば、荷電脂質、脂質複合体、またはリポソーム)と組み合わされる。例えば、ポリヌクレオチドを、Lipofectin(商標)またはCaPO4などの沈殿剤とともに投与する。トランスフェクションした細胞(例えば、非増殖筋細胞)は、少なくとも1ヶ月から数ヶ月(例えば、3〜6ヶ月)にわたり、組換え抗原ポリペプチドを産生する。または、組織(例えば、非筋組織または腫瘍組織)へのポリヌクレオチド構築物の導入によってポリペプチドの一過性発現が達成される。後者の場合、組織の細胞は、より短期間(例えば、数日(3〜5日および約20日まで))ポリペプチドを産生する。標的細胞によるタンパク質またはポリペプチドの発現レベルは、HAAH特異的抗体産生の誘導に十分である。抗体産生レベルを、標準的な方法(例えば、免疫化前後の患者の血清中の抗体力価の評価)を使用して測定する。
【0065】
ポリヌクレオチドは、筋肉もしくは皮膚などの組織の間質腔への注射、循環もしくは体腔への導入、または吸入もしくはガス注入などの標準的な方法によって投与される。ポリヌクレオチドを、注射または薬学的に許容される水性または部分的水性の液体担体(例えば、液体担体)と共に動物に注射、さもなければ送達する。ポリヌクレオチドを、リポソーム(例えば、カチオン性またはアニオン性リポソーム)と会合させる。ポリヌクレオチドは、プロモーターなどの標的細胞による発現に必要な遺伝情報を含む。
【0066】
DNAワクチン接種の1つの利点は、DNAワクチンは抗原ペプチドを長期間継続して産生することができ、追加抗原の投与量が減少するか、または追加抗原による免疫化が回避されることである。
【0067】
免疫応答の誘導(例えば、HAAHポリペプチドをコードするDNAでのワクチン接種による、HAAH特異的抗体応答)に加えて、抗体自体をコードするポリヌクレオチドを導入する。HAAH特異的抗体(例えば、抗体の可変領域)をコードする単離ポリヌクレオチドを、インサイチューでの抗体産生のために導入する。その後、抗体は、細胞表面抗原(例えば、細胞外HAAH)へ結合するか、またはHAAHの触媒ドメインへ結合し、HAAH機能を阻害することによって、標的部位で治療効果を発揮する。
【0068】
(インビボ画像診断)
本明細書中に記載の抗体(抗体フラグメントおよび単鎖抗体)は、組織および体液中の腫瘍の存在の診断に有用である。HAAH特異的抗体を、放射性同位体または比色剤などの検出可能な標識でタグ化する。標識化抗体を、癌を発症する危険性のある個体、または以前に癌と診断された個体に投与する。例えば、抗体は、手術で切除されたか、または化学療法もしくは放射線療法によって治療された腫瘍の転移診断に有用である。この方法の感度は、リンパ節などの組織中の微小転移の検出に十分である。この様式での早期且つ感度の高い腫瘍診断は、迅速な治療介入を可能にする。
【0069】
標識化抗体を、公知の方法(例えば静脈内、または固形組織もしくは柔組織への直接注射)を使用して個体に投与する。抗体は、組織中または全身にわたって約1時間〜72時間分布することができる。次いで、個体の全身を、当技術分野で公知の方法を使用して画像化する。または、身体の小部分(例えば、腫瘍を保有すると疑われる組織部位)を画像化する。標識検出の増加によって測定される、基準線結合レベル(正常組織)を超える抗体結合の増加は、結合部位での腫瘍の存在を示す。
【0070】
(NOTCHシグナル伝達の活性化)
NOTCHシグナル伝達は、AAHを高度に発現する細胞において活性化される。図14Aは、ウェスタンブロットを用いることによる110kDa NOTCHフラグメントの存在を示す。酵素活性AAHの過剰発現は、100kDaの切断された活性NOTCH-1の提示によって示される(レーン1、偽DNAトランスフェクトクローン;レーン2、クローン7;およびレーン3、クローン8)。対して、NOTCH-2は活性化されなかった。AAHを発現するクローンにおいて、偽DNAトランスフェクトクローンに比較した全長Jaggedリガンドの発現の増強があった。チューブリンは、タンパク質ローディングのための内部コントロールとして使用された。
【0071】
Hes-1(公知の下流エフェクター遺伝子)の発現は、NOTCHシグナル伝達によって活性化される(図14B)。AAH発現クローンのみが、転写因子としてNotch発現を活性化し、続いて競合RT-PCRによって明らかにされるように、Hes-1遺伝子発現を上方調節する。下のほうのパネルは、内部コントロールとして働くGAPDIIのRT-PCR産物である。図14Cは、ヒトNOTCH-1(hNOTCH-1)およびJagged-1の発現を示し、ここでIRS-1シグナル伝達はドミナントネガティブ変異体(DhIRS-1)によって減少される。このような細胞は、下方調節(downregulation)AAH発現を示し、そしてウェスタンブロット分析によるNOTCH-1およびJaggedレベルの平行した減少を示す。チューブリンは、タンパク質ローディングについての内部コントロールとして使用された。
【0072】
(HAAH酵素活性を阻害する化合物を同定する方法)
アスパルチル(アスパラギニル)β-ヒドロキシラーゼ(hydroxylaseydroxylase)(AAH)活性は、インビトロまたはインビボで測定される。例えば、HAAHは、EGF様ポリペプチドドメインのアスパルチルおよびアスパラギル残基のβ炭素の翻訳後修飾を触媒する。ヒドロキシラーゼ活性を阻害する化合物を同定するためのアッセイは、化合物の不在下(または予め決定されたコントロール値)での平行反応と比較して候補化合物が存在する酵素反応における水酸化のレベルを比較することにより実施される。試験管において実施される標準的なヒドロキシラーゼアッセイは、当技術分野で公知である(例えば、Lavaissiereら、1996、J. Clin. Invest. 98:1313-1323;Jiaら、1992、J. Biol. Chem. 267:14322-14327;Wangら、1991、J. Biol. Chem. 266:14004-14010;またはGronkeら、1990、J. Biol. Chem. 265:8558-8565)。ヒドロキシラーゼ活性はまた、96ウェルマイクロタイタープレートフォーマットにおいて二酸化炭素を用いて測定される(14CO2捕捉アッセイ)(Zhangら、1999、Anal. Biochem. 271:137-142)。これらのアッセイは、容易に自動化され、そしてヒドロキシラーゼ阻害活性を有する化合物を同定するための候補化合物の高処理能スクリーニングに適する。
【0073】
NOTCHのHAAH活性化を阻害する候補化合物は、HAAHを発現するかまたは過剰発現する細胞(例えば、FOCUS HCC細胞)において活性化NOTCHの減少を検出することにより同定される。細胞は、候補化合物の存在下で培養される。平行培養物が、候補化合物の不在下でインキュベートされる。この化合物がNOTCHのHAAH活性化を阻害するか否かを評価するために、細胞の核への活性化NOTCHの転移が測定される。転移は、細胞の核においてNOTCHの110kDa活性化フラグメントを検出することにより測定される。活性化フラグメントは、活性化の際に大きな(およそ300kDaの)膜貫通NOTCHタンパク質から切断される。NOTCH転移を測定する方法は、公知である(例えば、Songら、1999、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 96:6959-6963またはCapobiancoら、1997、Mol. CellBiol. 17:6265-6273に記載の方法)。候補化合物の不在下に比較した候補化合物の存在下の転移の減少は、この化合物が、NOTCHのHAAH活性化を阻害し、それにより、NOTCH媒介シグナル伝達およびHAAH過剰発現腫瘍細胞の増殖を阻害することを示す。
【0074】
IRSのリン酸化を阻害する化合物についてのスクリーニングの方法は、候補化合物の存在および不在下でIRS発現細胞をインキュベートし、そしてこの細胞におけるIRSリン酸化レベルを評価することにより、実施される。化合物の不在下に比較した、化合物の存在下で培養した細胞におけるリン酸化の減少は、この化合物が、IRS-1リン酸化および結果としてHAAH過剰発現腫瘍の増殖を阻害することを示す。あるいは、このような化合物は、当技術分野で公知のインビトロリン酸化アッセイ(例えば、ポリ(Glu/Tyr)のような合成基質のリン酸化を測定したもの)において同定される。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】種々のアスパルチル(アスパラギニル)β-ヒドロキシラーゼ(AAH)cDNAによるNIH-3T3細胞の一過性トランスフェクションにより誘導されたコロニー形成を示す棒グラフである。コロニー形成を、10μg DNAによる一過性トランスフェクションによって誘導した。対して、酵素活性を有さない変異体マウスAAH構築物は、形質転換活性を有さない。データは、形質転換病巣平均数±SEMとして示す。
【図2】種々のマウスAAH安定トランスフェクト細胞クローンにより産生されたタンパク質のウェスタンブロットアッセイのデンシトメトリー分析の結果を示す棒グラフである。クローン7および18において、HAAH遺伝子発現の穏やかな増加があり、クローン16においては、より低い程度であったが過剰発現があった。
【図3】図3A〜Bは、HAAH酵素活性に比較したHAAH安定トランスフェクトクローンにより示されたソフトアガーにおけるコロニー形成を示す棒グラフである。図3Aは、クローン7、16、および18におけるマウスAAH酵素活性の測定を示し、そして図3Bは、クローン7、16、および18により示されたコロニー形成を示す。データは、播種10日後のコロニー平均数±SEMとして示す。HAAH酵素活性において穏やかな増大があった(これは、タンパク質発現と相関した)3つのクローンは全て、足場非依存性増殖を示した。
【図4】マウスAAHを過剰発現するトランスフェクトクローンを注射したヌードマウスにおける腫瘍形成を示す棒グラフである。腫瘍増殖は、30日後に評価した。クローン7、16、および18を注射したマウスにおいて観察された平均腫瘍重量を偽DNAトランスフェクトクローンに対して比較した。HAAHを過剰発現するクローンを注射した全ての動物は、腫瘍を発達させた。
【図5】図5A〜Dは、腫瘍細胞侵襲の間に生じるようなニューライト成長(neurite outgrowth)を誘導するためにレチノイン酸(図5A、5B)およびホルボールエステルミリステート(PMA;図5C)で処置したPNET2(図5A、5C)およびSH-Sy5y(図5B)細胞におけるAAH発現の増大を示す棒グラフである。細胞を、0、1、2、3、4、または7日間、10Mレチノイン酸または100nM PMAで処理した。細胞溶解物を、HAAH特異的モノクローナル抗体を用いてウェスタンブロット分析によって分析し、85kDa AAHタンパク質を検出した。免疫反応性のレベルは、体積デンシトメトリー(任意単位)によって測定した。このグラフは、3つの別個の実験から得られた結果の平均±S.D.を示す。図5Dにおいては、PNET2細胞を、ニューライト収縮を誘導するために致死下濃度のH2O2で24時間処理した。細胞の90%より多くの生存度が、トリパンブルー染料排除によって示された。同様の結果が、SH-Sy5y細胞について観察された。
【図6】抗アポトーシス分子(Bcl-2)、細胞周期有糸分裂インヒビター分子(p16およびp21/Waf1)、および増殖分子(増殖細胞核抗原;PCNA)のレベルに関するAAH過剰発現の効果を示す棒グラフである。PNET2ニューロン細胞をAAHをコードする全長ヒトcDNA(pHAAH)または空ベクター(pcDNA)で安定にトランスフェクトした。AAH遺伝子発現は、CMVプロモーターの制御下にあった。ウェスタンブロット分析を、70〜80パーセントのコンフルエントである培養物から調製した細胞溶解物を用いて実施した。タンパク質ローディングは、各レーンにおいて等価であった。反復ブロットを、異なる抗体を用いてプローブした。棒グラフは、3つの実験において測定したタンパク質発現レベルの平均S.D.を示す。全ての差異は、スチューデントT検定分析によって統計学的に有意である(P<0.01〜P<0.001)。
【図7】IRS-1シグナル伝達経路の成分を示す図である。
【図8】GFPを発現するコントロールに比較したアンチセンスHAAH発現細胞において生じた増殖曲線を示す線グラフである。
【図9】hIRS-1タンパク質の機能的ドメインおよび点変異体の構造的構成を示す図である。全ての変異体および「野生型」hIRS-Iタンパク質構築物は、C末端にFLAG(F)エピトープ(DYKDDDDK;配列番号:7)を含む。PHおよびPTBは、それぞれ、プレックストリン(pleckstrin)相同性領域およびホスホチロシン結合領域を示す。
【図10】AAH cDNA、およびアンチセンスオリゴヌクレオチドが結合する位置を示す図である。示した位置は、AAH cDNAのAUG開始部位に対してである。
【図11】アンチセンスオリゴヌクレオチドDNA分子によるAAH遺伝子発現の阻害を示す電気泳動ゲルの写真である。
【図12】神経芽細胞腫細胞におけるAAHアンチセンスオリゴヌクレオチド結合を示す線グラフである。
【図13】神経芽細胞腫細胞へのAAHアンチセンスオリゴヌクレオチド送達の結果としてのAAH遺伝子発現の阻害を示す棒グラフである。
【図14】図14Aは、NOTCHタンパク質のウェスタンブロットアッセイ発現の写真である。図14Bは、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)により測定されるようなHes-1遺伝子発現を示す電気泳動ゲルの写真である。図14Cは、IRS-1シグナル伝達が減少する条件下でのNOTCH-1およびJagged-1の発現を示すウェスタンブロットアッセイの写真である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0076】
(実施例1:HAAHの発現増大は、悪性形質転換と関連する)
HAAHは、形質転換関連タンパク質においてEGF様ドメインを水酸化する高度に保存された酵素である。HAAH遺伝子は、多くの癌タイプ(ヒト肝細胞癌および胆管癌を含む)において過剰発現される。HAAH遺伝子発現は、胆管癌に比較して、ヒト疾患およびラットモデルの両方において胆管増殖の間に検出不能であることが見出された。NIH-3T3細胞におけるHAAHの過剰発現は、悪性表現型の生成と関連し、そして酵素活性は、細胞形質転換のために必要とされることが見出された。以下に記載のデータは、HAAHの過剰発現が胆上皮細胞の細胞形質転換に連結されることを示す。
【0077】
ヒト肝細胞起源の形質転換悪性細胞において特異的に過剰発現される分子を同定するために、FOCUS肝細胞癌(HCC)細胞株を、悪性表現型と関連したタンパク質を特異的または優先的に認識するモノクローナル抗体(mAb)を生成する免疫原として使用した。HepG2 HCC細胞由来のλGT11 cDNA発現ライブラリーをスクリーニングし、そしてFOCUS細胞株に対して産生されるHAAH特異的mAbが、HAAH cDNAによりコードされるタンパク質のエピトープを認識することが見いだされた。HAAH酵素は、いくつかの異なるヒト形質転換細胞株および腫瘍組織において隣接するヒト組織対応物に比較して上方調節(upregulate)されることが見いだされた。異なるヒト悪性組織における過剰発現されたHAAH酵素は、触媒的に活性であることが見出された。
【0078】
HAAH遺伝子発現を、増殖胆管において、およびNIH3T3細胞において試験した。悪性表現型の生成におけるその役割を、形質転換病巣の形成、足場非依存性増殖の指標としてソフトアガーにおける増殖、およびヌードマウスにおける腫瘍形成によって測定した。形質転換表現型の誘導における酵素活性の役割を、ヒドロキシラーゼ活性を廃する触媒部位における変異を有するcDNA構築物を用いることによって測定した。この結果は、HAAH遺伝子の発現の増加が、胆管の悪性形質転換と関連することを示した。
【0079】
以下の材料および方法を使用して、以下に記載するデータを生成した。
【0080】
(抗体)
FB50モノクローナル抗体を、FOCUS HCC細胞でBalb/Cマウスを細胞免疫することによって生成した。モノクローナル抗デング熱ウイルス抗体を非関連コントロールとして使用した。HBOH2モノクローナル抗体を、52kDa組換えHAAHポリペプチドに対して生成した。これは、マウスおよびヒトタンパク質由来のβヒドロキシラーゼの触媒ドメインを認識する。ポリクローナル抗HAAH抗体は、ラットヒドロキシラーゼタンパク質と交差反応する。コントロール抗体抗Erk-1をSanta CruzBiotechnology, Inc.、CAから購入した。西洋ワサビペルオキシダーゼで標識したヒツジ抗マウス抗血清およびロバ抗ウサギ抗血清を、Amersham、Arlington Heights、ILから入手した。
【0081】
(構築物)
マウス全長AAH構築物(pNH376)および触媒活性が廃止された部位指向性変異構築物(pNH376-H660)を、真核生物発現ベクターpcDNA3(Invitrogen Corp.、San Diego、CA)にクローニングした。全長ヒトAAHを、原核生物発現ベクターpBC-SK+(Stratagene、LaJolla、CA)にクローニングした。全長ヒトAAH(GENBANKアクセッション番号S83325)をpcDNA3ベクターのEcoRI部位にサブクローニングした。
【0082】
(胆管増殖の動物モデル)
ラットを、グループ9を除いて各々3匹の動物の9つの別個の群に分けた。グループ9は5匹のラットを含んだ。グループ1は、非手術コントロール群であり、グループ2は、偽操作手術コントロールであった。残りのグループは、肝臓内胆管増殖を誘導するために総胆管結紮(ligation)を受け、そして表3に示すように6、12、24、48時間、および4、8および16日目に評価した。動物をCO2で窒息させ、そして肝臓試料を左側葉および中葉から採取し、2%パラホルムアルデヒド中に固定化し、そしてパラフィン包埋した。肝臓試料(5m)を切断し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色して、肝臓内胆管増殖を評価した。免疫組織化学を、ラットタンパク質と交差反応するポリクローナル抗HAAH抗体を用いて実施し、タンパク質発現のレベルを決定した。
【0083】
(原発性硬化性胆管炎(PSC)と関連した胆管増殖)
肝臓生検試料を、PSCおよび関連胆管増殖を有する7個体から得た。これらの個体を、標準的な胃腸肝臓(gastroenterohepatological)プロトコルに従って評価した。患者は、22〜46歳であり、そして男性が4人、女性が3人であった。4人は、炎症性腸疾患を伴った(3人が潰瘍性大腸炎であり、そして1人がクローン大腸炎(Crohn'scolitis)である)。患者は全て、放射線医学評価(腹部超音波検査および内視鏡的逆行性胆道膵管造影を含む)を受け、肝臓外胆管閉塞の診断を除いた。組織切片を、パラフィン包埋ブロックから調製し、胆管増殖についてヘマトキシリンおよびエオシン染色によって評価した。HAAHの発現を、HAAH特異的モノクローナル抗体(例えばFB50)を用いて免疫組織化学によって決定した。
【0084】
(免疫組織化学)
肝臓組織切片(5μm)を、キシレン中で脱パラフィンし、そして等級化アルコール(graded alcohol)中で再水和した。内因性ペルオキシダーゼ活性を、60%メタノール中での0.6% H2O2での30分処理によってクエンチした。内因性ビオチンを、アビジン-ビオチンブロッキング溶液(VectorLaboratories、Burlingame、CA)とのインキュベーションによってマスキングした。FB50mAb(PSC試料について)およびポリクローナル抗HAAHヒドロキシラーゼ抗体(ラット肝臓試料について)を、4℃で一晩、加湿チャンバーにおいてスライドに添加した。免疫組織化学染色を、色素原としてジアミノベンジジン(DAB)を有するVectastain Kitsを用いる標準的なアビジン-ビオチン西洋ワサビペルオキシダーゼ複合体(ABC)法を用いて、製造者の指示書(VectorLaboratories,Inc.、Burlingame、CA)に従って実施した。組織切片をヘマトキシリンで対比染色し、次いでエタノール中で脱水した。切片を、胆管増殖およびHAAHタンパク質発現について光学顕微鏡によって試験した。胆管癌および胎盤のパラフィン切片を、陽性コントロールとして使用し、そして肝臓脂肪症試料(hepatosteatosis samples)を、陰性コントロールとして使用した。抗体結合特異性についてのコントロールに、隣接切片を、一次抗体の不在下で、またはデング熱ウイルスに対する非関連抗体を用いて免疫染色した。組織免疫反応性についての陽性コントロールとして、全ての標本の隣接切片を、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼに対するモノクローナル抗体を用いて免疫染色した。
【0085】
(ウェスタンブロット分析)
細胞溶解物を、プロテアーゼインヒビターを含む標準的な放射性免疫沈降アッセイ(RIPA)緩衝液において調製した。溶解物中のタンパク質の総量をBio-Rad比色アッセイ(BioRad、Hercules、CA)、続いて10%ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって決定し、PVDFメンブレンに転写し、そして、二次抗体としての西洋ワサビペルオキシダーゼで標識された一次ヒツジ抗マウスおよびロバ抗ウサギ抗血清としてのFB50、HBOH2、抗Erk-1(タンパク質ローディングについての内部コントロールとして使用)を使用するウェスタンブロット分析に供した。抗体結合を、増強された化学発光試薬(SuperSignal、Pierce Chemical Company、Rockford、IL)およびフィルムオートラジオグラフィーで検出した。免疫反応性のレベルを、NIH画像ソフトウェアを用いる体積デンシトメトリーによって測定した。
【0086】
(酵素活性アッセイ)
AAH活性を、標準的な方法(例えば、Jiaら、1992、J. Biol. Chem. 267:14322-14327;Wangら、1991、J. Biol. Chem. 266:14004-14010;またはGronkeら、1990、J. Biol. Chem. 265:8558-8565に記載の方法)に従って、14C標識α-ケトグルタレートが14C含有CO2を放出するドメインを水酸化する基質としてウシプロテインSの第一のEGF様ドメインを用いて細胞溶解物中で測定した。インキュベーションを、48μgの粗細胞抽出タンパク質および75μM EGF基質を含む最終容量40μlで、37℃で30分間実施した。
【0087】
(細胞トランスフェクション研究)
NIH-3T3細胞を、10%熱不活化胎仔ウシ血清(FCS;Sigma Chemical Co.、St. Louis、MO)、1%L-グルタミン、1%非必須アミノ酸および1%ペニシリン-ストレプトマイシン(GIBCO BRL, LifeTechnologies, Inc.、GrandIsland、NY)を補充した、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Mediatech、Washington、DC)中で培養した。サブコンフルエントなNIH-3T3細胞(3×105細胞/60mmディッシュ)を、以下のプラスミドの1つ(10μg)でトランスフェクトした;1)非組換えpcDNA3ベクター(Invitrogen Corp.、SanDiego、CA)(陰性コントロールとして);2)pNH376-H660(その触媒ドメインを変異させそしてCMVプロモーター駆動のpcDNA3ベクターにクローニングした、マウスAAH cDNA);3)pNH376(pcDNA3ベクターにクローニングした野生型マウスAAH cDNA);4)pCDHH(pcDNA3ベクターにクローニングした野生型ヒトAAH cDNA);または5)pLNCX-UP1(v-SrcオンコジーンをコードするcDNA)(ポジティブコントロール)。細胞を、製造業者(5Prime-3 Prime, Inc.、Boulder、CO)の指示書に従って、リン酸カルシウムトランスフェクションキットを用いてトランスフェクトした。細胞トランスフェクション効率の比較を、これらの種々の構築物で評価した。この手順のために、トランスフェクション後48時間で得たコンフルエントなプレートを分けて、12個の別々の6cmディッシュに再播種した。これらの内の6個は、400μg/mlのG-418(GIBCO BRL, LifeTechnologies, Inc.、GrantIsland、NY)を含有する培地の存在下で増殖させた。G-418耐性病巣の数を、トランスフェクション後14日目に測定し、そしてトランスフェクション効率における任意の変動性について補正するために使用した。
【0088】
(形質転換アッセイ)
NIH-3T3細胞を、これらの種々の構築物でトランスフェクトし、そして上記のように48時間後にコンフルエントに到達させた。各6cmディッシュを分け、そして12個の異なる6cmディッシュに播種した。このうち6個を、トランスフェクション効率を検出するためにG-418の存在下で増殖させ、他の6個を、G418を含まない完全培地中で、4日毎に培地交換を行って増殖させた。形質転換病巣の数を、G-418を含まないこれらのプレートにおいてカウントし、そして1μgのトランスフェクトしたDNAあたりの形質転換病巣として表した。
【0089】
(足場非依存性細胞増殖アッセイ)
限界希釈技術(平底96ウェルプレートの1ウェルあたり0.15細胞)を、ウエスタンブロット分析およびヒドロキシラーゼ活性の酵素アッセイによって測定されるような、異なるレベルのHAAH活性を有する細胞クローンを単離するために、G-418中で増殖させたトランスフェクト体に対して行った。クローン化した細胞株(1.0×104細胞)を、0.4%低融点アガロース(SeaPlaque GTG Agarose;FMCBioproducts、Rockland、Maine)を含む完全培地中に懸濁し、0.53%低融点アガロースを含む完全培地からなるボトムアガー混合物上に重層した。各クローンを、3連でアッセイした。クローンを、これらの条件下で藩種し、そして10日後、病巣のサイズ(陽性の増殖>0.1mm直径)および数を測定した。
【0090】
(ヌードマウスにおける腫瘍形成能)
この足場非依存性増殖アッセイで評価したクローンと同じクローンを、ヌードマウスに注射し、そして腫瘍形成について観察した。腫瘍形成能を、各4グループの10匹の動物(Charles RiverLabs.、Wilmington、MA)を用いて評価した。グループ1には、偽DNAで安定にトランスフェクトした1×107細胞を与え、グループ2〜4には、pNH376で安定にトランスフェクトしそして種々のレベルのマウスHAAHタンパク質を発現するクローンの、1×107細胞を与えた。ヌードマウスを、標準的な動物施設中、無病原体条件下で維持した。腫瘍細胞接種の30日後、動物を、イソフルオラン(isofluorane)(Acrranc、Anaquest、NJ)を含むチャンバを使用して屠殺し、そして腫瘍を注意深く取り出し、重量を測定した。
【0091】
(胆管増殖の動物モデル)
総胆管の結紮後、肝臓内胆管増殖が、48時間で明らかになった。総胆管結紮後8日および16日に得た組織試料は、表3に示されるように過剰な胆管の増殖を示した。
【0092】
(表3)総胆管の結紮後の異なる間隔での胆管増殖およびHAAH発現

*ヘマトキシリンおよびエオシン染色後に光学顕微鏡下で調査した。
【0093】
免疫組織化学的染色では、いかなる時間での増殖中の胆管中にHAAHの存在を検出できなかった。偽性の外科的コントロール由来の胆管におけるHAAH発現の分析もまた陰性であったが、全ての試料は、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼに対するコントロール抗体との陽性の免疫反応性を示した。従って、胆管増殖は、この標準的な動物モデル系においてHAAH発現の増加に関連しなかった。
【0094】
(PSCにおけるHAAH発現)
PSCを有する患者由来の肝臓生検標本は、管周辺(periductal)線維症を伴う胆管増殖および形成異常を示さない単核炎症細胞浸潤を示した。HAAH特異的モノクローナル抗体を用いて免疫染色した隣接切片は、増殖中の胆管における検出可能なHAAH免疫反応性を有さなかった。対照的に、同じ抗体をおよび検出試薬を使用して同時に免疫染色した胆管癌の切片は、ほとんど全ての腫瘍細胞においてHAAHの免疫反応性の強力なレベルを示したが、胆管癌の隣接切片は、デング熱ウイルスに対するモノクローナル抗体でネガティブな免疫染色反応を示した。これらの知見は、HAAH発現が、肝臓内胆管の非癌性細胞増殖よりもむしろ悪性の形質転換と関連することを示す。
【0095】
(NIH-3T3細胞のHAAH関連形質転換)
マウスおよびヒトのAAH遺伝子、ならびに酵素活性を有さないマウスAAH変異体構築物の形質転換能力を、偽DNA(ネガティブコントロール)およびv-Src(ポジティブコントロール)をトランスフェクトしたNIH-3T3細胞に対して比較した。マウスAAHの形質転換能力は、図1に示されるように、ベクターDNAコントロールの能力の2〜3倍であることが見出された。このヒト遺伝子の形質転換能力は、マウスAAHで観察された能力よりも高かった(それぞれ、32±1.5 対13±2.6個の形質転換病巣)。マウスおよびヒトのAAHをトランスフェクトした細胞は、大きい病巣を形成し、これは、v-Srcをトランスフェクトした線維芽細胞の病巣と類似する。対して、ベクターDNAをトランスフェクトした細胞において時折はるかに小さい病巣が観察され、これは、線維芽細胞株の接触阻害を示す。酵素活性を有さない変異体pNH376-H660構築物を使用して行った並行実験は、形質転換活性を全く示さなかった。この知見は、HAAHの酵素活性が、このHAAH遺伝子によって示される形質転換活性に必要であることを示す。
【0096】
(足場非依存性細胞増殖アッセイ)
マウスAAH構築物での一過的トランスフェクション後、いくつかの異なる形質転換病巣を、希釈クローニング実験のために単離し、異なるレベルのHAAH遺伝子発現を有する安定にトランスフェクトされた細胞クローンを確立した。9個の異なるクローン化した細胞株を、さらなる研究のために選択した。HAAHタンパク質の発現レベルを、ウエスタンブロット分析によって測定した。クローン7および18は、HAAHタンパク質発現の穏やかな増加を有し、ソフトアガー中に大きいコロニーを形成した(図2)。抗Erk-1モノクローナル抗体でのこの同じ膜の免疫ブロットによって示されるように、全てのレーンにおいてタンパク質ロード量は等価であった。タンパク質発現の増加は、図3に示されるような、酵素活性の増加に関連した。これらのクローンがソフトアガー中での足場非依存性の細胞増殖を示す能力を、図3に示す。HAAH遺伝子発現の増加を有する全3個のクローンは、偽DNA単独をトランスフェクトしたクローンと比較して、足場非依存性の細胞増殖を示した。
【0097】
(ヌードマウスにおける腫瘍形成)
HAAH遺伝子発現の増加を有するこの3個のクローンを、ヌードマウスにおいて腫瘍を形成する能力について評価した。クローン18を与えたマウスにおける腫瘍サイズを、偽DNAをトランスフェクトしたクローンと比較した。クローン7、16および18は、このアッセイにおいて高度に形質転換され、そしてそれぞれ、2.5、0.9および1.5グラムの平均重量を有する大きい腫瘍を生じた(図4)。これらのデータは、HAAHの過剰発現が、インビボでの悪性の表現型の誘導および維持に寄与することを示す。
【0098】
(高レベルのHAAH発現は悪性の指標である)
HAAH発現が、細胞交替の増加よりもむしろ悪性に関連するか否かを決定するために、胆管増殖の2つのモデルを研究した。この動物モデルにおいて、総胆管の連結は、広範な肝臓内胆管増殖を誘導したが、表3に示されるように、これらの実験条件下でのHAAH遺伝子発現は見られなかった。PSCは、肝臓内および肝臓外の胆管の破壊ならびに増殖に関連する自己免疫肝臓疾患であるので、同様に、HAAH遺伝子発現を、胆管増殖に関連するヒト疾患モデルにおいて評価した。PSCは、前悪性疾患であり、そして罹患した個体の有意な割合が、結果的に胆管癌を発症する。しかし、広範な胆管増殖の存在下でのHAAH遺伝子発現の増加についての証拠は存在しなかった。
【0099】
HAAHタンパク質レベルが、胆管癌において上昇し、そして正常または増殖中の胆管において上昇しないことが確認されたので、悪性表現型の発生におけるHAAHの役割を研究した。HAAH遺伝子を、NIH-3T3細胞にトランスフェクトし、そして細胞変化(例えば、形質転換病巣の形成の増加、ソフトアガー中のコロニー増殖、および悪性形質転換に関連するヌードマウスにおける腫瘍形成)を評価した。全長のマウスおよびヒトのAAH遺伝子を、発現構築物にクローニングし、そしてNIH-3T3細胞に一過的にトランスフェクトした。偽DNAをトランスフェクトしたコントロールと比べて、形質転換病巣の数の増加が、マウスおよびヒトのAAH遺伝子をトランスフェクトした細胞において検出された。トランスフェクション効率を制御した後の、この形質転換病巣の数の増加は、v-Src遺伝子をトランスフェクトした細胞(ポジティブコントロールとして使用した)と比較して高くなかった。HAAH遺伝子の酵素活性は、悪性表現型に必要とされた。なぜなら、触媒部位を欠く変異体構築物は、形質転換特性を有さなかったからである。HAAHタンパク質レベルおよび酵素活性における穏やかな増加を有する、いくつかの安定なトランスフェクト体およびクローン化NIH-3T3細胞株を確立した。このような細胞株を、ソフトアガー中に置き、この悪性表現型の別の特性として、足場非依存性の細胞増殖を試験した。全ての細胞株が、偽DNAトランスフェクトコントロールと比較して、ソフトアガー中で増殖し、そしてHAAH遺伝子発現の細胞レベルと形成されたコロニーの数およびサイズとの間に、ポジティブな相関が存在した。これらのクローン化した細胞株のうち3つが、ヌードマウスにおいて腫瘍を形成した。HAAH発現の増加を有する3つ全ての細胞株は、形質転換表現型の別の周知の特徴としての大きい腫瘍の発達によって示されるように、腫瘍形成性であった。
【0100】
HAAHの過剰発現によって誘導される細胞変化が、酵素機能に関連するか否かを決定するために、部位特異的変異誘発をこの遺伝子に導入した。この変異誘発は、マウスHAAHの鉄イオン結合部位である660番目のヒスチジンをリジンに変化し、これによって、このマウスHAAHのヒドロキシラーゼ活性を消失させた。HAAHにおける対応する変異を、HAAHヒドロキシラーゼ活性を阻害するためのドミナントネガティブ変異体として使用した。このpNH376-H660構築物は、形質転換活性を有さず、これは、過剰発現によって誘導されるこの悪性表現型の細胞変化が、このタンパク質の酵素活性に依存することを示す。
【0101】
Notchレセプターおよびそれらのリガンドは、β-水酸化についての推定コンセンサス配列を含む、N末端領域中のいくつかのEGF様ドメインを有する。Notchリガンドは、Notchシグナル伝達経路の重要なエレメントであり、このリガンドとのNotchの相互作用は、両分子のEGF様ドメインによって生じる。HAAHによるβ-水酸化の標的であるEGF様ドメインの、アスパラギン酸残基またはアスパラギン残基に及ぼされる点変異は、下流のシグナル伝達経路の活性化に関与するカルシウム結合およびタンパク質-タンパク質相互作用を減少する。HAAHの過剰発現およびHAAHによるNotchタンパク質の水酸化は、悪性に寄与する。腫瘍増殖は、HAAHによるNotchタンパク質の水酸化を減少することによって阻害される。
【0102】
本明細書中に示されるデータは、高レベルのHAAH発現が、悪性形質転換に関連するという証拠である。NIH-3T3細胞におけるHAAH cDNAの発現の増加は、形質転換病巣の数の増加、足場非依存性増殖、およびヌードマウス中の腫瘍形成によって表される、形質転換表現型を誘導した。さらに、インタクトなHAAH酵素が、HAAH関連形質転換に必要とされることが見出された。従って、内因性HAAHの酵素活性または発現の20%程度の少ない阻害だけで、治療的利点を付与する。例えば、臨床的利点は、未処理の癌細胞または正常な非癌性細胞に関連するレベルと比較した、HAAH阻害性化合物の投与後の50%〜70%のHAAHの発現または活性の阻害によって達成される。
【0103】
HAAHは、転写レベルで調節される。HAAHの発現および酵素活性におけるほんの穏やかな増加が、細胞の形質転換に必要とされた。これらは、HAAHの遺伝子発現および酵素活性の増加が、形質転換表現型の発生または維持に寄与すること、およびHAAH遺伝子の転写の減少またはHAAH遺伝子産物の酵素活性の減少が、悪性の減少を導くことを示す。従って、HAAH転写は、HAAHプロモーター配列へのFosおよび/またはJun(HAAH転写を調節するエレメント)の結合を減少する化合物を投与することによって阻害される。
【0104】
HAAHは、胆管上皮の悪性形質転換を伴って上方調節され、そしてHAAH免疫反応性が、腫瘍細胞表面膜上で検出可能であるので、HAAHはまた、細胞傷害剤を標的化する(例えば、腫瘍細胞の表面上に発現されるHAAHに結合する化合物への、細胞傷害剤の連結によって)ための分子でもある。生物学的液体(例えば、胆汁)または細胞(微細なニードルでの吸引によって得られる)のいずれかにおけるHAAHタンパク質レベルのアッセイは、ヒト胆管癌の診断マーカーである。
【0105】
(実施例2:AAHの発現ならびに悪性CNS新生物の増殖および浸潤)
AAHは、癌腫および栄養膜細胞において豊富に発現されるが、ほとんどの正常細胞(CNS起源の細胞を含む)においては豊富に発現されない。高レベルのAAH発現が、16個の神経膠芽細胞腫のうちの15個、9個の退形成型乏突起膠腫のうちの8個、および12個の未分化神経外胚葉性腫瘍(PNET)のうちの12個において観察された。高レベルのAAH免疫反応性は、腫瘍の中央部よりもむしろ浸潤中の縁部分で主に局在される。二重標識免疫組織化学的染色は、AAHとテネイシン(AAH酵素活性の基質)との間の相互関係を実証した。ホルボールエステルミリステートまたはレチノイン酸で処理し、ニューライト伸長および侵襲性増殖を刺激したPNET2ニューロン細胞株は、高レベルのAAH発現を示し、一方、H2O2誘導性のニューライト収縮が、AAHの下方調節を生じた。ヒトAAH cDNAを安定に過剰発現したPNET2ニューロン細胞は、PCNAおよびBcl-2のレベルを増加し、そしてp21/Waf1およびp16のレベルを減少し、これは、AAH過剰発現が、病理学的細胞増殖、細胞周期進行、およびアポトーシスに対する耐性の増強を生じることを示唆する。さらに、AAHトランスフェクト体に観察されたp16のレベルの減少は、AAH過剰発現が、新生物細胞の侵襲性の増殖の増強を付与することを示す。なぜなら、このp16遺伝子の欠失または下方調節は、神経膠芽細胞腫のより攻撃的かつ侵襲性のインビボ増殖と相関するからである。増加されたAAH免疫反応性は、原発性悪性CNS新生物の浸潤中の縁部分で検出され、これは、腫瘍侵襲性におけるHAAHの役割をさらに示す。
【0106】
以下の材料および方法を使用して、以下に記載のデータを作成した。
【0107】
(原発性ヒト悪性CNS新生物におけるAAH免疫反応性の分析)
AAH免疫反応性を、神経膠芽細胞腫(N=16)、退形成型乏突起膠腫(N=9)、および未分化神経外胚葉性腫瘍(PNET;テント上神経芽細胞腫(N=3)および髄芽細胞腫(N=9))の外科的切除標本において試験した。これらの組織病理学的切片を再評価して、標準的判断基準を使用してその診断を確かめた。それぞれの生存固形腫瘍または隣接するインタクトな組織を有する腫瘍の試料を含むブロックからのパラフィン切片を、研究した。正常な成体の死後の脳(n=4)由来の切片を、ネガティブコントロールとして含んだ。AAH免疫反応性を、HAAH特異的モノクローナル抗体を使用して検出した。免疫反応性は、色素原として3-3'ジアミノベンジジン(DAB)(24)および対比染色としてヘマトキシリンを使用する、アビジン-ビオチン西洋ワサビペルオキシダーゼ複合体法(Vector ABC Elite Kit;VectorLaboratories、Burlingame、CA)によって明らかにした。
【0108】
テネイシンおよびラミニンは、おそらく、これらの分子内のEGF様反復の存在に起因して、AAHについての基質である。二重免疫染色研究を行い、テネイシンまたはラミニンと共にAAHを同時局在化した。AAH免疫反応性を、色素原としてDABを用いるABC法によって検出し、そしてテネイシンまたはラミニンの免疫反応性を、基質としてBCIP/NBTを用いるアビジン-ビオチンアルカリホスファターゼ複合体法(VectorLaboratories、Burlingame、CA)によって検出した。ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールとして、隣接切片を、神経膠原線維酸性タンパク質(GFAP)およびB型肝炎表面抗原に対するモノクローナル抗体を用いて免疫染色した。全ての標本を、同じ抗体希釈度および免疫検出試薬を用いて、バッチ免疫染色した。
【0109】
(細胞株および培養条件)
AAH発現が、悪性新生物の浸潤性増殖と共に生じる、ニューライト(糸状足(filopodia))伸長(出芽)によって調節されるか否かを決定するために、研究を行った。ヒトPNET2CNS由来およびSH-Sy5yの神経芽細胞腫細胞を培養し、そして0、1、2、3、5または7日目に100nMのホルボール12-エステル13-アセテートまたは10μMのレチノイン酸で刺激して、出芽を誘導した。さらに、AAH発現に際するニューライト収縮の効果を試験するために、サブコンフルエントな培養物を、低濃度(10〜40μM)のH2O2で24時間処理した。両方の研究について、AAH発現を、HAAH特異的抗体を使用するウエスタンブロット分析によって評価した。
【0110】
(PNET2 AAHトランスフェクトクローンの作製)
全長ヒトAAH cDNA(配列番号:3)を、pcDNA3.1哺乳動物発現ベクターに連結した。この発現ベクターにおいて、遺伝子発現は、CMVプロモーターの制御下にある(Invitrogen Corp.、San Diego、CA)。PNET2細胞を、Cellfectin試薬(Gibco BRL、GrandIsland、NY)を使用して、pHAAHまたはpcDNA3(ネガティブコントロール)のいずれかでトランスフェクトした。ネオマイシン耐性クローンを選択し、構成的レベルのAAHタンパク質発現が、ウエスタンブロット分析によって検出した場合に、コントロール(pcDNA3)と比較して少なくとも2倍増加したか否かを研究した。AAHの過剰発現が、その形質転換表現型を調節する遺伝子の発現をどれほど変更するかを決定するために、増殖細胞核抗原(PCNA)、p53、p21/Waf1、Bcl-2およびp16のレベルを、AAH(N=5)およびpcDNA3(N=5)を安定にトランスフェクトしたクローンのサブコンフルエントな培養物由来の細胞溶解調製物において測定した。PCNAを、細胞増殖のマーカーとして使用した。p53、p21/Waf1、およびBcl-2のレベルを、AAHを過剰発現する細胞が、細胞周期進行へのより高い傾向があり、かつアポトーシスに対するより高い耐性を有するか否かを決定するために試験した。p16のレベルを、AAH過剰発現が、腫瘍侵襲性における役割を有するか否かを決定するために評価した。
【0111】
(ウエスタンブロット分析)
10cm2ディッシュにおいて増殖させた細胞を、溶解し、そしてプロテアーゼおよびホスファターゼのインヒビターを含有する標準的な放射免疫沈降アッセイRIPA緩衝液中に均質化した。不溶性細片を除去するために試料を12,000×gで10分間の遠心分離した後に収集した上清を、ウエスタンブロット分析に使用した。タンパク質濃度を、BCAアッセイ(Pierce Chemical Co.、Rockford、IL)を使用して測定した。60μgのタンパク質を含む試料を、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル(SDS-PAGE)中で電気泳動し、そしてウエスタンブロット分析に供した。二連のブロットを、個々の抗体でプローブした。免疫反応性を、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合体化IgG(Pierce Chemical Co.、Rockford、IL)で検出し、そして化学発光試薬で増強した。タンパク質発現のレベルを定量するために、不飽和オートラジオグラフを、NIH Imageソフトウエアバージョン1.6を使用する容量デンシトメトリー(volumedensitometry)に供した。pHAAHとpcDNA3をトランスフェクトした細胞間の統計学的比較を、スチューデントT検定を使用して行った。
【0112】
(抗体)
FOCUS肝細胞癌細胞に対して作製したHAAH特異的モノクローナル抗体を使用して、AAH免疫反応性を検出した。テネイシンおよび神経膠原線維酸性タンパク質に対するモノクローナル抗体、ならびにラミニンに対するウサギポリクローナル抗体を、Sigma Co.(St. Louis、MO)から購入した。ヒトp16に対するウサギポリクローナル抗体を、Santa Cruz BiotechnologyInc. (SantaCruz. CA)から購入した。B型肝炎表面抗原に対する5C3ネガティブコントロールモノクローナル抗体を、組換えタンパク質を使用して作製し、そしてネガティブコントロールとして使用した。
【0113】
(原発性悪性脳腫瘍におけるAAH免疫反応性)
神経膠芽細胞腫16のうち15、未分化乏突起細胞腫9のうち8、そしてPNETの12全てにおいて、AAH免疫反応性を検出した。AAH免疫反応性は、細胞質、核および細胞突起に局在した。AAH免疫反応性の組織分布は、腫瘍とインタクトな脳との間の界面に局在した強力な標識化に著しく、そして腫瘍の中央部分内の免疫反応性の目立って低いレベルであった。高いレベルのAAH免疫反応性はまた、軟膜下の領域、軟膜、フィルヒョー-ロバン血管周囲腔隙に分布した新形成細胞において、および実質組織に浸潤した新形成細胞の個体または小集団において、観察された。対照的に、AAH免疫反応性は、正常な脳では検出されなかった。有糸分裂における核の密度(1〜5%)は、腫瘍の中央部分および末端部分において類似していたので、AAH免疫反応性の分布は、DNA合成と厳密には関連していないようである。
【0114】
(神経膠芽細胞腫におけるAAHとテネイシン免疫反応性との間の関係)
テネイシンは、悪性神経膠腫において発現された細胞外細胞間質関連抗原である。テネイシンは、分子内に、HAAH水酸化の基質である、EGF様ドメインを含む。悪性脳腫瘍におけるテネイシン免疫反応性に関してAAHを局在化するため、二重標識免疫組織化学染色を実施し、ここで褐色色素原(brownchromogen)(DAB)、およびテネイシン、青色色素原(bluechromogen)(BCIP/NBT)を用いてAAHを検出した。隣接部位を同様に二重標識して、CNS中に発現された細胞外細胞間質分子を含む別のEGFドメインであるラミニンを用いてAAHを同時局在化した。血管周囲結合組織において、および内皮細胞のグロメルロイド(glomeruloid)増殖に関連して、テネイシン免疫反応性の強力なレベルが観察された。二重標識試験によって、高レベルのAAHが、低テネイシンまたは検出不能なテネイシンと関連しており、そして低レベルのAAHが、豊富なテネイシン免疫反応性を関連しているような、AAHとテネイシンの免疫反応性の間の相反する関係が実証された。ラミニンはまた、分子内のEGF反復に起因してAAH酵素活性の基質であるようであるが、二重標識試験では、腫瘍全体を通じて、そして腫瘍とインタクトな組織との間の界面でごく低いレベルのラミニン免疫反応性が示された。
【0115】
(PMAまたはRAで処理したニューロン細胞株におけるAAHの分析)
ニューライト出芽/糸状仮足伸長は、新生物のニューロン細胞の侵襲性の増殖を特徴付ける。PMAは、ニューライト出芽に関与するプロテインキナーゼCシグナル伝達経路を活性化する。レチノイン酸はそれ自体のレセプターに結合し、そしてリガンド-レセプター複合体は、核に移動し、ここでニューライト成長に関与する標的遺伝子のプロモーター/エンハンサー領域に存在する特定のコンセンサス配列に結合する。PNET2細胞およびSH-Sy5y細胞の両方とも、PMA(60〜120nM)またはレチノイン酸(5〜10μM)での処理によって出芽するように誘導され得る。図5A〜Dは、代表的なウエスタンブロットのオートラジオグラフィーからのデータを示す;棒グラフは、3つの実験から得た結果の平均±S.D.に相当する。FB50抗体を用いたウエスタンブロット分析により、約85kDaの分子量を有するタンパク質に相当する二重のバンドを検出した。未処理のPNET2細胞は、比較的低レベルのAAH免疫反応性を有した(図5A)が、未処理のSH-Sy5y細胞は、容易に検出されるAAH発現を有した(図5B)。未処理のPNET2細胞は、粗い、短い半径方向細胞突起を有する多角形の形態を示したが、SH-Sy5y細胞は、わずかに伸長され、細く尖った突起を自ら伸長した。両方の細胞株とも、RA(図5Aおよび5B)またはPMA(図5C)のいずれかの刺激およびニューライト伸長後、AAH免疫反応性のレベルにおいて、時間依存性の増大を表した。PNET2細胞においては、RAまたはPMAに対する暴露の24時間後少なくとも2倍までAAHタンパク質のレベルが増大し、そして試験の7日間を通じて高いレベルのAAHが維持された。SH-Sy5y細胞においては、AAH発現において、RA刺激またはPMA刺激の増大が、より漸増的に生じ、そして処理の7日後に最高であった(図5B)。
【0116】
ニューライト収縮に対するAAH発現の効果を試験するため、PNET2およびSH-Sy5y細胞を低濃度(8〜40μM)のH2O2で処理した。40μMまでのH2O2に対する暴露の24時間後、ほとんどの細胞は、生きていた(トリパンブルー色素排除)が、それらは、ニューライトの収縮および丸まりを示した。FB50抗体を用いるウエスタンブロット分析により、AAHタンパク質のレベルにおけるH2O2の用量依存性の減少が実証された(図5D)。
【0117】
(PNET2細胞におけるAAH過剰発現の効果)
悪性の表現型に対するAAH過剰発現の役割を直接評価するため、CMVプロモーター(pHAAH)の制御下で遺伝子発現を有するヒト全長cDNAを用いてPNET2細胞を安定にトランスフェクトした。ネオマイシン耐性pcDNA3偽(mock)クローンに対して少なくとも2倍高いレベルのAAH免疫反応性を有するネオマイシン耐性クローンを研究した。悪性新生物の攻撃的な挙動は、DNA合成の増大、細胞周期進行、アポトーシスに対する耐性、および侵襲的増殖に関連しているので、AAHの構成的な過剰発現に関連する表現型の変化が、PCNA、p21/Waf1、p53、Bcl-2、およびp16に関して特徴づけられた。PCNAを、DNA合成および細胞増殖の係数として用いた。p21/Waf1は細胞周期のインヒビターである。p53腫瘍抑制遺伝子の発現は、アポトーシスの前に増大するが、bcl-2は、アポトーシスを阻害し、そして神経細胞の生存を増強する。p16は、しばしば、悪性新生物に対する浸潤においてダウンレギュレートされるかまたは変異されるかのいずれかである癌抑制遺伝子である。
【0118】
5つのpHAAHおよび5つのpcDNA3のクローンを研究した。PHAAHトランスフェクトしたクローンにおけるAAH発現のレベルの上昇を、ウエスタンブロット分析(図6)およびノーザンブロット分析により確認した。70〜80%コンフルエントになった培養物由来の細胞溶解物を用いたウエスタンブロット分析により、pHAAHトランスフェクト細胞におけるAAH発現(約85kDa;p<0.05)の構成的に増大したレベルがPCNA(約35kDa;p<0.01)およびBcl-2(約25kDa;p<0.05)の有意に増大したレベル、ならびにp21/Waf1(約21kDa;p<0.001)およびp16(約16kDa;p<0.001)の減少したレベルに関連することが実証された(図6)。しかし、pHAAH安定トランスフェクト体はまた、より高いレベルの野生型p53(約53〜55kDa)を示した。安定なトランスフェクト体におけるAAH発現(85kDaタンパク質)は、わずか75〜100%までしか増大しなかったが、p16およびp21/Waf1のレベルは、はっきり減少し、そしてPCNAは、2倍近くまで増大した(図6)。
【0119】
(AAH発現の増大は、悪性CNA新生物の増殖および侵襲の指標である)
本明細書に記載されるデータは、AAH過剰発現が、診断ツール(これによってニューロン細胞起源および神経膠細胞起源の両方の原発性悪性CNS新生物を同定する)であることを実証する。免疫組織化学染色研究により、AAH過剰発現が、固形腫瘍と正常組織との間の境界において、ならびに軟膜下領域、軟膜、血管周囲腔、および実質組織に分布した新生物細胞への浸潤において、主に検出可能であることが実証された。インビトロ実験において、AAH遺伝子発現がニューライト(糸状仮足)伸長および侵襲で調節され、そしてニューライト収縮でダウンレギュレートされることが実証された。さらに、AAH cDNAで安定にトランスフェクトされたPNET2細胞は、PCNAおよびbcl-2の増大を示し、そしてWaf1/p21およびp16発現の減少を示した。従って、AAH過剰発現は、細胞増殖および細胞周期進行を促進するか、アポトーシスを阻害するか、または腫瘍細胞侵襲を増強する他の遺伝子の発現を調節することによってCNS細胞の形質転換された表現型に寄与する。
【0120】
このデータは、PNET2細胞およびSH-Sy5y細胞において、ただし正常な脳にはない、容易に検出可能なAAH mRNA転写物(4.3kBおよび2.6kB)およびタンパク質(85kDaおよび50〜56kDa)を実証した。これに対して、高レベルのAAH免疫反応性が、研究された悪性の原発性CNS由来新生物中において37のうち35で観察された、一方、4つの正常なコントロールの脳は、検出可能なAAH免疫反応性を有さなかった。浸潤する周辺での、そして一般には腫瘍の中央部にはない、高レベルAAH免疫反応性の存在は、AAH過剰発現がCNS新生物の侵襲的増殖に関与することを示す。AAH発現または酵素活性を減少する化合物の投与は、AAHを過剰発現するCNS腫瘍の増殖、ならびに他の組織型へのCNS腫瘍の転移を阻害する。
【0121】
AAH酵素は、多数のタンパク質のEGFドメインを水酸化する。テネイシン(悪性神経膠腫において大量に発現される細胞外細胞間質分子)は、EGF様ドメインを含む。テネイシンは腫瘍細胞侵襲を促進するので、神経膠芽細胞腫におけるテネイシンの大量の発現は、悪性神経膠細胞新生物中のEGFまたはEGF様レセプターの高頻度の過剰発現に対する腫瘍細胞増殖の増強の自己分泌機構を示す。テネイシンの機能的ドメインの分析は、このファミリーの分子の分裂促進効果が、フィブロネクチンドメインによって大きく媒介されること、およびEGF様ドメインが増殖、細胞突起伸長、および細胞間質侵襲を阻害することを示した。従って、AAHによるEGF様ドメインの水酸化は、腫瘍細胞侵襲における重要な調節要因を示す。
【0122】
二重標識免疫組織学的染色研究によって、腫瘍の周辺に存在する高レベルのAAH免疫反応性が、低レベルのテネイシンと関連しており、そして低レベルのAAHが、しばしば高レベルのテネイシンと関連しているような、AAHとテネイシンの免疫反応性の間の相反する関係が実証された。これらの関係は、テネイシンのEGF様ドメインのAAH水酸化が、テネイシンタンパク質の免疫反応性を変更すること、およびそうした場合、隣接する正常組織および血管周囲腔への悪性CNS新生物の侵襲的増殖を促進することを示した。
【0123】
PMAまたはレチノイン酸でニューライト伸長を受けるように、または低用量のH2O2への暴露によってニューライト収縮を受けるように、誘導されたPNET2およびSH-Sy5y神経細胞において、AAH免疫反応性を試験した。AAH発現は、PMA誘導またはレチノイン酸誘導によるニューライト(糸状仮足)伸長によって、はっきりと増大し、そしてH2O2誘導性ニューライト収縮および細胞の丸まりにより阻害された。ニューライトまたは糸状仮足の伸長および細胞外細胞間質への付着は、CNSにおける腫瘍細胞侵襲に必要である。テネイシンのEGF様ドメインは、発生の間、細胞間質へのニューライトおよびグリア細胞の増殖を阻害する。
【0124】
形質転換された表現型に対するAAH過剰発現の役割を直接評価するため、DNA合成、細胞周期進行、アポトーシス、および腫瘍侵襲で調節された遺伝子を、ヒトAAH cDNAを安定に過剰発現する神経細胞クローン中で試験した。PCNA免疫反応性の増大およびWaf1/p21免疫反応性の減少の知見は、AAHの過剰発現が、細胞増殖および細胞周期進行を増強することを示した。さらに、Bcl-2発現の増大の知見は、AAH過剰発現がアポトーシスに対する細胞の耐性の増大によって、形質転換された表現型に寄与することを示した。AAHを過剰発現した細胞におけるより高レベルのp53という明らかに矛盾した知見は、未熟な神経細胞における高レベルの野生型p53が、アポトーシスではなくニューライト成長(侵襲)に関連しているという観察によって説明される。p16のレベルは(正常細胞に比べて)減少したか、またはAAHを構成的に過剰発現した細胞において実質的に検出不能であった;p16遺伝子の欠失変異体は、侵襲的増殖およびより迅速な悪性新生物(CNS起源のものを含む)の進行に関連していた。これらのデータは、p16発現がAAHによって調節されることを示す。
【0125】
(実施例3:HAAH産生の増大およびIRS媒介シグナル伝達)
IRS-1媒介シグナル伝達経路は、隣接する無関係の肝臓組織に比べ、ヒトHCC腫瘍の95%において活性化される。HAAHは、このシグナル伝達経路に関与する下流エフェクター遺伝子である。HAAH遺伝子アップレギュレーションは、免疫組織化学染色およびウエスタンブロット分析によって表されるように、HCC腫瘍におけるIRS-1の過剰発現に密接に関連している。高レベルのHAAHタンパク質が、正常な肝細胞および胆管に比して、HCCおよび胆管癌において発現される。これらの腫瘍の両方とも、免疫組織化学染色によって、IRS-1の高レベルの発現を示す。IRS-1のC末端短縮型ドミナントネガティブ変異体で安定にトランスフェクトしたFOCUS HCC細胞クローン(インスリンおよびIGF-1刺激シグナル伝達をブロックする)は、肝臓におけるHAAH遺伝子発現の顕著な減少に関連していた。対照的に、IRS-1を過剰発現するトランスジェニックマウスは、ウエスタンブロット分析により、HAAH遺伝子発現の増大を実証する。無血清培地におけるFOCUS HCC細胞のインスリン刺激(20および40U)および16時間後の血清枯渇により、HAAH遺伝子発現のアップレギュレーションが実証された。これらのデータは、HAAH遺伝子発現が、IRS-1シグナル伝達経路の下流エフェクターであることを示す。
【0126】
(実施例4:悪性表現型の特徴に対するHAAH発現レベルの効果)
NIH3T3細胞におけるIRS-1の過剰発現は、形質転換を誘導する。全長マウスHAAH構築物を、pcDNA3真核生物発現ベクター中にクローニングした。第二のマウス構築物は、部位指向性変異によって触媒活性を廃したHAAHをコードした。全長ヒトHAAH cDNAをpcDNA3発現ベクター、および形質転換活性のためのポジティブコントロールとして用いられたv-srcをコードするプラスミド中にクローニングした。ヌードマウスにおいて、NIH3T3細胞のトランスフェクション、トランスフェクション効率のコントロール、HAAH酵素活性のアッセイ、病巣形成の分析による形質転換、足場非依存性細胞増殖アッセイ、および腫瘍形成能の分析のためには、標準的方法を用いた。このデータは、HAAHの過剰発現が悪性の表現型の生成に関連することを示した。
【0127】
(表4)酵素的に活性なHAAHの過剰発現は悪性腫瘍を示す。

a.酵素的に活性なHAAH
b.P<0.01(偽および変異マウスHAAHに比して)
c.P<0.01(偽に比して)
d.クローン18は、約2倍まで、ヒトHAAHを過剰発現する、安定なクローニングされたNIH 3T3細胞株である。
e.クローン16は、約50%までヒトHAAHを過剰発現する、安定なクローニングされたNIH 3T3細胞株である。
【0128】
これらのデータは、HAAHの過剰発現が形質転換された病巣の形成に関連することを示す。酵素的活性は、細胞性の形質転換が生じるのに必要である。ヒトHAAH遺伝子発現の増大を伴うクローニングされたNIH3T3細胞株は、ヌードマウスにおける固体腫瘍と同様に増殖する。HAAHは、IRS-1シグナル伝達経路の下流エフェクター遺伝子である。
【0129】
(実施例5:HAAH遺伝子発現の阻害)
FOCUS HCC細胞株(ここからヒトHAAH遺伝子が最初にクローニングされた)は、正常肝臓において見出されるレベルよりも約3〜4倍高いレベルのHAAH発現レベルを有する。HAAHアンチセンス構築物を作成するため、全長ヒトHAAH cDNAを、G418耐性遺伝子を含むレトロウイルスベクター中に反対方向に挿入し、そしてアンチセンスRNAをこの細胞中で産生した。また、より短いHAAHアンチセンス核酸(例えば、HAAH遺伝子のエキソン1に対応する核酸)も用いてHAAH発現を阻害する。
【0130】
FOCUS細胞をこのベクターで感染させて、ウエスタンブロット分析によりHAAHのレベルを決定した。HAAH遺伝子発現の減少を観察した。コントロールとして、これもまた反対方向に挿入された、非関連緑色(グリーン)蛍光タンパク質(nonrelevant Green FluorescentProtein)(GFP)を含有する、レトロウイルスで感染させた細胞の増殖速度および形態学的外観(図8)。細胞(HAAHアンチセンス構築物を保有する)は、細胞質対核の比における増大により特徴付けられる形態学の実質的な変化を示し、そしてこのことは培養における正常な成体肝細胞を連想させる細胞形状の変化を仮定する。HAAHレベルが減少している細胞は、図8に示されるように、アンチセンス(GFP)を発現するレトロウイルス感染細胞(コントロール)よりも実質的に遅い速度で増殖する。HAAH遺伝子発現の減少は、より分化した非癌性の「肝細胞様」の表現型に関連していた。HAAHアンチセンス配列の発現を用いて腫瘍増殖速度を阻害する。HAAH細胞レベルの減少は、形質転換された病巣の形成の低下により特徴付けられる表現型、ソフトアガーにおける低レベル増殖または足場非依存性増殖がないこと、光学顕微鏡および位相差顕微鏡により決定される分化した肝細胞の形態学的特徴、を生じ、そして腫瘍形成を生じない(ヌードマウスへの細胞の接種により試験した場合)。
【0131】
(実施例6:AAHアンチセンスオリゴヌクレオチドによるAAH発現の阻害)
AAH遺伝子発現を阻害するオリゴヌクレオチドを、標準的な方法を用いて設計し、そして合成した。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド(20マー)を設計してAAH mRNAの5'領域に結合し、そしてAUG開始コドンと重複させた(表5)。アンチセンスオリゴヌクレオチドを、それらがAUG(メチオニン)コドンの「A」から1(位置-1)、6(位置-6)、または11(位置-11)ヌクレオチド上流(前)に開始する配列に相補的であるように選択した。さらに、位置-3で開始するセンスオリゴヌクレオチドを作成した。
【0132】
(表5)例示的オリゴヌクレオチド分子の配列

【0133】
図10は、AAG遺伝子の領域(これに、表5に記載されるアンチセンスオリゴヌクレオチドが結合する)を示す。全てのオリゴヌクレオチドを、MacVector6.5.3ソフトウェアを用いて設計した。
【0134】
試験したAAHアンチセンスオリゴヌクレオチドは、AAH遺伝子発現を阻害することが見出された。インビトロ無細胞転写翻訳アッセイ(TNTQuick Coupled System)を用い、ヒトAAH cDNA(pHAAH)を用いてAAHタンパク質を合成した。反応混合物中に含まれたウサギ赤血球溶解物を用いてインビトロ翻訳を達成した。反応緩衝液、RNAポリメラーゼ、アミノ酸混合物、およびリボヌクレアーゼインヒビター(RNAsin)の存在下で[35S]メチオニンを用いて、翻訳された産物を標識した。この産物をSDS-PAGEにより、続いてオートラジオグラフィーによって分析した。ルシフェラーゼ(Luc)発現プラスミドをポジティブコントロールとして用いた。第二レーンおよび第三レーンにおいて、約85kD AAHタンパク質の合成を示す(AAH、矢印)。ここで、mRNAを生成するため、テンプレートとして1または2μgのプラスミド、およびT7DNA依存性RNAポリメラーゼプライマー/プロモーターを用いた。100×または1000×過剰のアンチセンスオリゴヌクレオチドプライマーの添加により、AAHタンパク質合成の漸増的に増大する程度の阻害を得たが、同じ量のセンスオリゴヌクレオチドの封入は、AAHタンパク質合成には影響を有さなかった。さらなる試験により、アンチセンスオリゴヌクレオチドのみによる、AAHタンパク質合成の完全な阻害が実証された。さらに、試験した3つのアンチセンスオリゴヌクレオチド全てを用いて、遺伝子発現の効果的な阻害が観察された。図11は、AAHアンチセンスオリゴヌクレオチドのインビトロ転写/翻訳分析の結果を示し、そして試験したアンチセンスオリゴヌクレオチドがHAAH RNAの翻訳、およびHAAHタンパク質の引き続くタンパク質合成をブロックすることを示す。
【0135】
AAH遺伝子発現の阻害をまた細胞において試験した。図11は、Microtiter In situ Luminescence Quantification(MILQ)Assayの結果を示し、そしてアンチセンスオリゴヌクレオチド含有細胞の実際の効果を実証する。HAAH遺伝子発現の実際の減少を、細胞の培養培地にアンチセンスオリゴヌクレオチドを単に添加することにより検出した。MILQアッセイは、RNA抽出の必要性なしに、培養細胞におけるインサイチュハイブリダイゼーション結合を定量する。MILQアッセイを用いて、競合的アンチセンス結合阻害を研究し、mRNAにハイブリダイズしたアンチセンスプローブがSh-SySy神経芽細胞腫内で内因性に発現したことを例証した。この図では、特定の未標識アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて、FITC-標識化した位置-6のアンチセンスオリゴヌクレオチドの阻害を示す。結合の最小阻害は、非関連オリゴヌクレオチドで観察された。未標識特異的オリゴヌクレオチドは、FITC結合体化した位置-6プローブにより指定された結合部位に効率的に競合し得たが、非関連プローブは、同じ分子濃度で有意に少ない阻害を示した。FITCに対する西洋ワサビペルオキシダーゼ結合体化抗体を用いて、結合したプローブ(FITC標識した)を検出し、そしてルミネセンス(発光)試薬を用いて結合抗体を検出した。発光単位を細胞密度について補正したが、現実には随意である。これらのデータは、細胞が周囲の環境からアンチセンスオリゴヌクレオチドを効率的に取り入れること、そしてこの取り入れられたオリゴヌクレオチドがHAAH遺伝子発現を効率的かつ特異的に阻害することを示す。
【0136】
HAAH遺伝子発現の阻害は、細胞をHAAHアンチセンスのホスホロチオエート誘導体と接触させることによって強化される。当技術分野で周知の方法を用いてホスホロチオエートアンチセンス誘導体を作成する。図13は、SH-SySY神経芽細胞腫細胞へのアンチセンス(位置-6)オリゴヌクレオチド遺伝子送達に起因するAAH遺伝子発現の阻害を示す。MILQアッセイを用いて、アンチセンスオリゴヌクレオチド遺伝子送達から生じる遺伝子発現を測定する。細胞をAAH位置-6アンチセンスDNAと接触させ、そして当技術分野で公知の方法(例えば、MICEアッセイ(de laMonteら、1999、Biotechniques))を用いて、AAHタンパク質発現を測定して、これがオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションによって阻害されるか否かを決定した。MICEアッセイを用いて、タンパク質を抽出する必要なしに培養細胞中で免疫反応性を測定するかまたはゲル電気泳動を実施する。このアッセイは、ウエスタンブロット分析よりも感受性である。MICEアッセイを用いて、非関連(ランダム)オリゴヌクレオチド配列、特異的アンチセンスオリゴヌクレオチド(位置-6)、およびホスホロチオエート位置6アンチセンスオリゴヌクレオチドでトランスフェクトした細胞においてAAH免疫反応性を評価した。このオリゴヌクレオチドのホスホロチオエート化学修飾は、細胞内部でのDNAの安定性をより大きくすることが見出された。なぜなら、イオウ基は、ホスホロチオエート結合および細胞核で通常生じる分解からDNAを保護するからである。アンチセンスAAHオリゴヌクレオチド(位置-6)トランスフェクションは、AAH免疫反応性のレベルの減少を生じた。そしてホスホロチオエート連結位置-6アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて、AAH遺伝子発現を阻害する効果は、ランダムオリゴヌクレオチドでトランスフェクトした細胞において観察されたレベルにかなり比例した。ホスホロチオエート連結アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いたAAH発現のより効果的な阻害は、mRNAに対する有効な結合の保持とあわせた、分子のより大きい安定性に起因するようであった。
【0137】
(実施例7:ヒトIRS-1変異体)
HCC細胞株におけるHAAHのインスリン/IGF-1刺激発現。プレクストリン(plextrin)およびホスホトリオシン(PTB)ドメインにおいて変異したドミナントネガティブIRS-1cDNA、ならびに分子のC末端に位置するGrb2、SypおよびPI3K結合モチーフを構築した。ヒトIRS-1変異体構築物を生成して、HAAH遺伝子発現がIRS-1増殖因子シグナル伝達カスケードの活性化によりどのように上方調節されるかを評価した。hIRS-1分子のC末端における特定の変異は、Grb2、SypおよびPI3KのようなSH2エフェクタータンパク質に結合する種々のドメインを廃した。ヒトIRS-1タンパク質は、ラットIRS-1タンパク質と同様に、それぞれ、897YVNI(以下、表5に下線を付している)および1180YIDL(以下、表5に下線を付している)の同じGrb2およびSyp結合モチーフを含む。hIRS-1の変異体は、これらのモチーフにおいて、以下のプライマーを請うオリゴヌクレオチド指向性変異誘発の使用によって、TTTコドン(フェニルアラニン)でのTATコドン(チロシン)の置換により構築した:(それぞれ、

および

である)。hIRS-1(野生型)および変異体(チロシン897〜フェニルアラニンおよびチロシン1180〜フェニルアラニン)のcDNAをpBK-CMV発現ベクター中にサブクローニングして、hIRS-1-wt、897F、ΔGrb2)、1180F、およびΔSypと名付けた。
【0138】
(表6)ヒトIRS-1アミノ酸配列

(配列番号:5;GENBANKアクセッション番号JS0670;プレケストリンドメインは、11〜113残基にまたがる(包括的);リン酸結合残基は配列番号:5の46、465、551、612、632、662、732、941、989、または1012を含む)。
【0139】
(表7)ヒトIRS-1 cDNA



(配列番号:6;GENBANKアクセッション番号NM005544)。
【0140】
制限酵素NheIおよびEcoRIを用いて1180Fの同じ領域による897Fをコードする3'配列の置換によってチロシン897および1180の二重変異体を構築し、そしてこの構築物を897F1180FまたはΔGrb2ΔSypと呼んだ。発現プラスミドは、CMVプロモーター(hIRS-1-wt、ΔGrb2、ΔSyp、ΔGrb2、ΔSypおよびpBK-CMV(偽))のコントロール下であり、そしてMluI制限酵素によりポリAシグナル配列の3'末端で直線化され、次に精製された。類似のアプローチを用いて、613位置と942位置でチロシン残基をフェニルアラニンに変化し、二重PI3K変異体構築物(ΔPI3K)を作製した。hIRS-1変異体は、PCRによってC末端に付加されたFLAGエピトープ(DYKDDDDK(配列番号:6)+終止コドン)を有する。このストラテジーにより、安定にトランスフェクトした細胞株において、「野生型」hIRS-1から変異体タンパク質を識別することが可能になる。この変異体を用いてIRSシグナル伝達経路と下流エフェクター遺伝子としてのHAAHの活性化との間の連絡を規定し、そしてHAAH過剰発現により特徴付けられる腫瘍の増殖を阻害するこの経路に沿う伝達を阻害する化合物を同定する。リン酸化反応部位に結合するかまたはその部位でリン酸化反応を阻害する抗体または他の化合物を用いて、シグナル伝達を阻害し、これによりHAA過剰発現腫瘍の増殖を阻害する。
【0141】
他の実施形態は添付の特許請求の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物において腫瘍細胞に免疫応答を付与する方法であって、該哺乳動物にアスパルチル(アスパラギニル)β-ヒドロキシラーゼ(HAAH)に結合する抗体を投与する工程を含む方法。
【請求項2】
腫瘍細胞が、脳腫瘍細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
脳腫瘍細胞が、神経膠腫、膠芽細胞腫、星状細胞腫、および血管腫からなる群から選択される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
腫瘍細胞が膵臓癌細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
抗体がHAAHの細胞外ドメインに結合する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
抗体がHAAHの触媒ドメインに結合する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
触媒ドメインが、配列番号:2のアミノ酸660〜700を含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
抗体がFB50またはそのフラグメントである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
抗体が、FB50、86A、5C7、および19Bからなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
抗体が、FB50、86A、5C7、および19Bからなる群から選択される1つまたは複数の抗体の混合物である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
抗体が高親和性の単鎖抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
細胞傷害剤に連結したHAAH結合抗体を哺乳動物に投与する工程を含む、哺乳動物において腫瘍成長を阻害する方法。
【請求項13】
哺乳動物にHAAHポリペプチドを投与する工程を含む、哺乳動物においてHAAH特異的免疫応答を誘導する方法。
【請求項14】
ポリペプチドが、配列番号:2のアミノ酸配列を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
ポリペプチドが、HAAHの細胞外ドメインを含み、且つHAAHの細胞内ドメインを欠く、請求項13記載の方法。
【請求項16】
ポリペプチドが、HAAHの触媒ドメインを含む、請求項13記載の方法。
【請求項17】
ポリペプチドが、配列番号:2のアミノ酸650〜700を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
アジュバント組成物を投与する工程をさらに含む、請求項13記載の方法。
【請求項19】
哺乳動物に、HAAHポリペプチドをコードするポリヌクレオチド組成物、または該ポリヌクレオチドの変性変異型を投与する工程を含む、哺乳動物においてHAAH特異的免疫応答を誘導する方法。
【請求項20】
組成物が、トランスフェクション促進剤を含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
ポリペプチドが、配列番号:2のアミノ酸配列を含む、請求項19記載の方法。
【請求項22】
ポリペプチドが、HAAHの細胞外ドメインを含み、且つHAAHの細胞内ドメインを欠く、請求項19記載の方法。
【請求項23】
ポリペプチドが、HAAHの触媒ドメインを含む、請求項19記載の方法。
【請求項24】
ポリペプチドが、配列番号:2のアミノ酸650〜700を含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
哺乳動物の組織に、HAAHに結合する検出可能に標識された抗体を接触させる工程を含む、哺乳動物において新生物を診断する方法であって、正常な非新生物組織への結合レベルと比較した組織部位での抗体結合レベルの増加が、該組織部位での新生物の存在を示す方法。
【請求項26】
抗体が、放射性化合物で標識されている、請求項25記載の方法。
【請求項27】
放射性化合物が、125I、99Tcからなる群から選択される、請求項26記載の方法。
【請求項28】
抗体が、Gd+++またはFe++で標識されている、請求項25記載の方法。
【請求項29】
抗体が、比色剤で標識されている、請求項25記載の方法。
【請求項30】
組織が、リンパ系組織である、請求項25記載の方法。
【請求項31】
HAAHの細胞外ドメインを含み、且つ細胞質ドメインを欠く、HAAHのフラグメント。
【請求項32】
配列番号:2の残基660〜758を欠く、HAAHのフラグメント。
【請求項33】
配列番号:2の残基679〜697を欠く、HAAHのフラグメント。
【請求項34】
配列番号:2の少なくとも1つの残基を欠き、該残基は、残基661、662、663、670、671、672、および673からなる群から選択される、HAAHのフラグメント。
【請求項35】
FB50、86A、5C7、および19Bからなる群から選択される、抗体またはHAAHに結合するそのフラグメント。
【請求項36】
NPVEDS(配列番号:2の残基286〜291)のアミノ酸配列を含むポリペプチドに結合する、抗体またはそのHAAH結合フラグメント。
【請求項37】
QPWWTPK(配列番号:2の残基573〜579)のアミノ酸配列を含むポリペプチドに結合する、抗体またはそのHAAH結合フラグメント。
【請求項38】
LPEDENLR(配列番号:2の残基613〜620)のアミノ酸配列を含むポリペプチドに結合する、抗体またはそのHAAH結合フラグメント。
【請求項39】
抗体、またはHAAHに結合するそのフラグメントを含む、腫瘍細胞を検出するためのキット。
【請求項40】
抗体の腫瘍細胞への結合を検出する手段をさらに含む、請求項39記載のキット。
【請求項41】
手段が検出可能なマーカーである、請求項40記載のキット。
【請求項42】
検出可能なマーカーが放射性化合物である、請求項41記載のキット。
【請求項43】
検出可能なマーカーがGd+++またはFe++である、請求項41記載のキット。
【請求項44】
ハイブリドーマFB501、ハイブリドーマHA386A、ハイブリドーマHA15C7A、およびハイブリドーマHA219Bからなる群から選択される、ハイブリドーマ細胞株。
【請求項45】
酵素活性を欠く、HAAHのフラグメント。
【請求項46】
αケトグルタル酸結合ドメインおよびEGF様ドメインを欠く、HAAHのフラグメント。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−46086(P2010−46086A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244306(P2009−244306)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【分割の表示】特願2002−589650(P2002−589650)の分割
【原出願日】平成14年5月17日(2002.5.17)
【出願人】(500430718)
【出願人】(508297621)パナシー ファーマシューティカルズ インコーポレーティッド (2)
【Fターム(参考)】