説明

悪性病変、自己免疫性疾患、あるいは感染性疾患を治療するための部品キット

悪性病変、自己免疫性疾患、あるいは感染性疾患を治療するための部品キットであって、その表面にFcγRIIIレセプタ(CD16)を発現するエフェクタ細胞と、そのFc領域のCD16に対する親和性がポリクローナル免疫グロブリンのCD16に対する親和性よりも大きいモノクローナル抗体とで構成されている。好適に、その表面にFcγRIIIレセプタ(CD16)を発現するエフェクタ細胞とはその表面にFcγRIIIレセプタ(CD16)を発現する単球あるいは単球前駆体誘導細胞である。また、好適に、この細胞はCD16を発現する単球、マクロファージ、天然キラー細胞(NK)、樹状細胞、及びすべての抹消血液単核細胞(抹消血液単球細胞あるいはPBMC)から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪性病変、自己免疫性疾患、あるいは感染性疾患を治療するための部品キットに係り、一般的には悪性病変、自己免疫性疾患、及び感染性疾患を、特にその表面にFcγを発現するエフェクタ細胞によって治療する悪性病変、自己免疫性疾患、あるいは感染性疾患を治療するための部品キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の治療法に取って代わる可能性がある場合に、診断及び治療における選択手段として、抗体が研究において用いられることが多くなって来ている。
現在、原形質由来あるいは生物工学由来の多数の治療用抗体製剤が市販されたり、臨床開発の過程にある。そして、標的と固有に結合したり、免疫系の細胞を効率的に見つけ出したりすることができる治療用ツールをつくりだすために、それらの属性についての研究が進められている。
最近の研究は抗体の効率の改善と、特に、それらの定常的なFc領域の操作に重点が置かれている。抗体の『エフェクタ』性に関与しているのは後者であるが、それは免疫系のエフェクタ細胞とその相補体の蛋白質の可動化を可能にしてくれるからである。こうした能力は、一定のエフェクタ細胞上において、糖蛋白質、つまりレセプタFc(FcR)の存在によって可能になる。これらのレセプタは、抗体の定常領域がその可変領域によって標的抗原上に固定されてしまうと、その抗体の定常領域と結合することができる。抗体のFc領域がエフェクタ細胞によって担持されているFcRに結合されると、後者において、ファゴサイトシスとかADCC(抗体に依存した細胞毒性あるいは抗体依存細胞媒介毒性)などの細胞毒性メカニズムの活性化が起きる。自己免疫性疾患中、その本来の役割が攻撃から生物を護るためのものである免疫系が、外来体が存在しないのに炎症反応を起こしてしまい、従ってそれ自体が自身の分子を「偶発的に」攻撃してしまうことによって組織の病変を起こしてしまうのである。身体の異なった組織や異なった機能に影響を及ぼすいろいろな自己免疫性病態がある。例えば、多発性硬化症の患者においては脳が影響を受け、クローン病の患者では腸が標的となり、リューマチ性多発性関節炎の患者では骨と軟骨が影響を受ける。
自己免疫性疾患発症中に、1つあるいは複数のタイプの組織の進行性破壊、器官の異常成長や影響を受けた器官の機能の変化などのいくつかの現象につながる場合がある。自己免疫性疾患中に最も頻繁に影響を受ける組織あるいは器官は造血性細胞、血管、接続組織、内分泌線、筋肉、間接、及び皮膚である。自己免疫性疾患は慢性炎症性病態と関係していることが多い。最もよくある症例はリューマチ性多発性関節炎と若年リューマチ性関節炎で、これらは両方とも炎症性関節炎である。関節炎とは関節部の炎症を示す総称である。
複数の措置が多数の二次的作用を有しており、あるいは疾患の進行を十分には阻止できない。現時点においては理想的な治療法はなく、患者の治療に役立つ措置法がないので、より効果的で、とりわけ治療に効果的な新しい治療法は必要なのは明らかである。
Bリンパ球(LB)が自己免疫の形成にしばしば関与する自己抗体をつくりだす細胞であるから、リューマチ性多発性関節炎の治療に関して最近認められたリツキシマブの場合が示すように、この細胞タイプに特異性を示すモノクローナル抗体を投与することでそれらを破壊することが患者に対して有効な唯一の方法であろう。
衛生状態や予防接種そして抗細菌療法の分野でかなりの進歩が見られているにもかかわらず、感染性疾患は現代医学にとって手強い重大な問題である。最も蔓延している単純な風邪でさえ、最も恐れられている病気であるAIDS(後天性免疫不全症候群)と同じカテゴリーの感染性疾患なのである。変性疾患などのある種の神経不全クラスも感染と関係していることが証明されている。
感染性疾患は、依然として今後の医学における重要な問題である。
感染性疾患中に、モノクローナル抗体は2つの相補的な役割を果たす。その1つは感染の急性期に分泌される病原性因子あるいは毒素を中和する役割であり、もう1つは慢性期への移行中に病原保有細胞を破壊する役割である。
病原因子の低ノイズ複製を可能ならしめるホスト細胞の破壊は、自己免疫性疾患や癌などの重大な病態の形成につながる可能性が高い慢性期への移行を阻止することを可能にするであろう。今日、現実的なニーズが存在しているにもかかわらず、慢性期の措置において有効な抗感染性治療法はほとんど存在していない。他方で、急性期中の小型分子(抗生物質、抗寄生虫性、抗ウイルス性)の有効な効果は交差耐性の形成で急激に緩和されてしまう。従って、複数の抗生物質に耐性を示すバクテリアの出現は公衆衛生上の問題となっており、すべての入院例のうちの6−7%では院内感染によって事態がより複雑になっており、あるいは毎年約750,000件の症例で1,500万人の人々が入院する事態となっている(http://www.senat.fr/rap/r05−21/r05−4211.html#toc13)。まとめて言うと、院内感染は毎年9000名の人の命を奪っており、そのうちの4200件は入院時に短期の予後診断が行われなかった患者に関係している(http://www.senat.fr/rap/r05−421/05−4213.html)。
従って、医師及び患者にとって従来とは別の治療効果を齎す新しい薬を開発することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】欧州特許第125023号公報
【特許文献2】米国特許第6180370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
腫瘍とは、良性であれ悪性であれ制御されていない細胞増殖から生じる新生物部分に対応している。悪性腫瘍は全体として癌と総称されている。『悪性』という用語は一般的にはその腫瘍が隣接組織に進入破壊し、さらに離れた場所に拡散して、長期的にはその患者に死をもたらす場合があることを意味している(Robbins and Angell,1976,Basic Pathology,2nd Ed.,W.B.Saunders Co.,Philadelphia,pp.68−122)。癌はいろいろの異なった場所に発生して、その発生した組織の機能としていろいろと異なった挙動を示す場合がある。現在においては、癌を治療する方法は、手術、化学療法、ホルモン療法及び/又は患者の体内に存在する腫瘍細胞を絶滅させるための放射線照射である(Stockdale,1998,”Principles of Cancer Patient Management”,in Scientific American:Medicine,vol.3,Rubenstein and Federman,Eds.,Chapter 12)。これらの治療法はすべて欠点を有している。例えば、非常に多様な化学分子を用いることができるにもかかわらず、化学療法はひどい吐き気、骨髄形成不全、免疫抑制などの重大な副作用を伴っている。これらの副作用の一部の重大性から、医師は治療を中断せざるを得ない状況に追い込まれる場合もある。加えて、いくつかの化学分子を組み合わせて投与するにもかかわらず、ほとんどの腫瘍細胞は化学治療剤に対して抵抗性を示すか、あるいは抵抗性を形成してしまう。実際、現在の治療手順で投与される特定の薬剤に対して抵抗性を示す細胞は残念なことに、その治療手順で投与された薬剤によって用いられるのとは異なった機序で作用するものも含めて他の薬品に対しても抵抗性を示してしまう。多剤耐性をいう名称で呼ばれているこの現象は、しばしば標準的な化学療法手順の治療上の失敗の原因となっている。
従って、新しい抗癌治療、特に、手術・放射線照射・化学療法・あるいはホルモン療法などの従来の治療方法では手に負えない癌を治療するための現実の必要性が存在しているのである。
もうひとつの有望な治療法は免疫療法で、この療法においては腫瘍細胞は腫瘍抗原に対して特異性を示す抗体によって特異的に標的とされる。免疫応答に対しての特性を開発することに主要な努力が払われており、例えば、ハイブリドーマ技術は腫瘍細胞によって発現される抗原に対して特異性を示すモノクローナル抗体の開発を可能ならしめている(Green M.C.et.al.,2000,Cancer Treat Rev.,26:269−286;Weiner L.M.,1999 Semin Oncol.26(supple.14):43−51)。
ホストあるいは病原性因子の有害な細胞の破壊は標的とされる病理状態とは関係なくモノクローナル抗体の望ましい薬効メカニズムに対応する。従って、患者の免疫システムのエフェクタ細胞と最適に相互作用するようにこれらの抗体を改善することが極めて重要である。
B型リンパ球(LB)の悪性増殖を特徴とする慢性B型リンパ白血病(LLC−B)は白血病の最も頻繁にみられる形態である。現在の措置法は基本的にはこの疾病の初期段階の治療的節制である。臨床的あるいは血友病症状学においては、患者は基本的には副腎皮質ステロイドだけ、あるいは有糸分裂分子との組み合わせで治療される。ほとんどの患者の場合、治療に対する抵抗性が多少の期間現れ、化学抵抗性細胞が出現して治療的努力が失敗に終わってしまう。化学療法はかなりの副作用を伴い、特に骨髄毒性は免疫不全を発生させて重篤な感染症を出現させ、患者の死亡につながることもしばしばである。できるだけ腫瘍性B型細胞だけを破壊することを目的とする多くの治療方式についての評価が行われている。腫瘍性(及び正常な)LBによるCD20分子の固有的な発現はヒト抗CD20モノクローナル抗体の使用に基づく治療の開発を可能にしている。
単一の非放射性ラベル抗CD20モノクローナル抗体であるリツキシマブ(Rituxan(登録商標)、Genentech and Mabthera(登録商標),Roche)が市販されている。これはIII−IV段階の甲状腺濾胞腺癌リンパ腫に冒されている患者の治療及びびまん性CD20ポジティブ大型B細胞進行性非ホジキン・リンパ腫(NHL)の患者を治療するための化学治療で組み合わせての使用を目的としたものである。その有効性は単独で使われた場合(Teeling at al.2004,Blood 104(16):1793−800)はまだ不安定で低いレベルの薬効性しか示さない場合も多いので、化学療法で組み合わせで用いられることが多い。
リツキシマブはLLC−B患者でも評価が行われている。この抗体は単独で使われた場合には軽微な有効性しか示さないので、現在は化学療法で組み合わせて用いられている。
LLC−Bに冒された患者でのリツキシマブだけでの治療ではうまくゆかない理由は多く考えられ、第一に、リツキシマブはin vitroでB型細胞に対して経度のADCC活性を示し、そして、通常のLBとは反対に、そしてNHLでは、LLC−BのLB(B型リンパ球)はその表面にCD20分子をほとんど少ししか発現せず(密度5倍以下、フローサイトメトリで定量)、従って、細胞表面での抗体の量が限定され、さらに関連する細胞毒性機能(ADCC及び特に活性相補体)も限定されてしまうからである。
従って、CD20抗原に対して特異性を示し、軽度に抗原を発現するものも含めて腫瘍細胞で細胞溶解を効率的に起こすことができる抗体を含めて、別の治療法に研究開発の重点を置くことが重要である。
遺伝免疫のエフェクター細胞であるマクロファージは自己免疫応答において重要な役割を演じている。自然では不活性形態で存在していて(どんな病原性も示さないが)、マクロファージはin vivoあるいはin vitroでさまざまな経路で活性化される可能性があり、その経路には病原の摂取あるいは特に炎症現象中につくりだされる免疫複合体(抗体のFc領域を介してのFcRへの結合)やサイトカイン、免疫調整分子の表面に発言されるレセプタへの結合などが含まれる。活性化すると、マクロファージにおいて細胞溶解性、従ってより増大された抗腫瘍性活性が誘発される(Adams D.and Hamilton T.:Acivation of macrophasges for tumour cell kill:effector mechanism and regulation.In Heppner & Fulton (Eds),Macrophages and cancer.CRC Press,1988,p.27;Fidler I.:Macrophages and metastases.A biological approach to cancer therapy.Cancer Res,45:4714,1985)。
さらに、マクロファージや、あるいは単球やその前駆体から誘導されたその他の細胞は、抗原提示細胞である。それらの細胞はエンドサイトーシス、消化、抗原ペプチドのTリンパ球に対する大型組織適合性複合体(MHC)の提示などに関する強力な能力を有しているので、それらは特異性免疫反応を誘発することができる。
リツキシマブの有効性を増大させる目的で、インターフェロンγ(IFN−γ)の存在下でex vivoで活性化されたマクロファージとの組み合わせが、LLC−Bの一次細胞の細胞溶解に関するテストでin vitroで評価された(Lefenbre ML,Stefan W.Krause,Salcedo M,Nardin A.Ex Vivo activated human macrophages kill chronic lymphocytic leukemia cells in the presence of Rituximab:mechanism of antibody−dependent cellular cytotoxicity and impact of human serum.J.Immunother;vol,29 no.4:388−397,2006)。これらの結果は、リツキシマブの存在下での活性化されたマクロファージによるLLC―B細胞の強力な細胞溶解がヒト血清の濃度を増大させることで強く抑制されることを示している。この抑制は血清内に存在しているポリクローナル免疫グロブリンとリツキシマブ−LLC−細胞複合体のマクロファージの表面に発現されている種々のFcRへの結合との競合に関係している。この抑制の強度はリツキシマブとエフェクタ細胞の濃度:標的細胞比率に依存している(エフェクタ:標的、E:T)。
癌、自己免疫性疾患、あるいは感染性疾患を治療する多数の治療手段が存在しているにも拘わらず、既存の製品より高い有効性とより高い安全性を示す新しい免疫治療用の製品に対するなかりのニーズが存在している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、悪性病態、自己免疫疾患あるいは感染症を治療するための部品キットにおいて、その表面にFcγRIIIレセプタ(CD16)を発現するエフェクタ細胞とモノクローナル抗体とによって構成され、そのモノクローナル抗体のFc領域のCD16に対する親和性が前記ポリクローナル免疫グロブリンのCD16に対する親和性よりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、悪性病変、自己免疫性疾患、あるいは感染性疾患を治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は競合テストを通じての、抗D R297 EMABling抗体とAD1抗体のマクロファージのCD16(FcγRIIIレセプタ)への結合に関する研究結果を示す図である。(実施例)
【図2】図2はマクロファージは種々の濃度のポリクローナル免疫グロブリン(IVIg)の存在下で、EMABling R297抗体とAD1抗体のADCC活性を誘発した状態を示す図である。(実施例)
【図3】図3はマクロファージは種々の濃度の免疫グロブリン(IVIg)の存在下で、EMABling R297抗体とAD1抗体のADCC活性を誘発すると同時に、6.25μg/mlの濃度で抗CD16 3G8のADCC活性を誘発した状態を示す図である。(実施例)
【図4】図4はCD16とマクロファージによるRh及び赤血球のファゴサイトシスが、種々の濃度の免疫グロブリン(IVIg)の存在下で、EMABling R297抗体とAD1抗体によって誘発された状態を示す図である。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、悪性病態、自己免疫疾患あるいは感染症を治療するための部品キットにおいて、その表面にFcγRIIIレセプタ(CD16)を発現するエフェクタ細胞とモノクローナル抗体とによって構成され、そのモノクローナル抗体のFc領域のCD16に対する親和性が前記ポリクローナル免疫グロブリンのCD16に対する親和性よりも大きいことを特徴とする。
好適に、その表面にFcγRIIIレセプタ(CD16)を発現するエフェクタ細胞とはその表面にFcγRIIIレセプタ(CD16)を発現する単球あるいは単球前駆体誘導細胞である。
好適に、この細胞はCD16を発現する単球、マクロファージ、天然キラー細胞(NK)、樹状細胞、及びすべての抹消血液単核細胞(抹消血液単球細胞あるいはPBMC)から選択される。
好適に、その表面にCD16を発現する細胞は、CD16を発現する単球、マクロファージ、及び樹状細胞から選択される。
より具体的には、その表面にCD16 を発現する前記単球誘導細胞あるいは単球前駆体はマクロファージである。
好適に、前記モノクローナル抗体がそのモノクローナル抗体Fc領域のCD16に対する高い親和性の故に、ポリクローナル免疫グロブリン、特にヒト血清中に存在するもので置換されていない。
好適に、前記モノクローナル抗体は2.106M−1より大きな親和性で前記単球あるいは単球前駆体誘導細胞のCD16と結合している。
特に好適な形態においては、前記モノクローナル抗体がモノクローナル抗体組成物の形態でつくりだされ、各抗体がFcγグリコシル化サイト(Kabatによればアスパラギン297)で結合したN結合糖鎖を有しており、さらに、前記組成物のすべての抗体の前記グリコシル化サイトのN結合糖鎖の中で、フコースの比率が65%未満である。
本発明の1つの実施の形態においては、上記モノクローナル抗体は、5C5抗原(腎臓癌の細胞によって発現された腫瘍抗原)、BCR(B細胞レセプタ)、抗FVIII抑制因子抗体などのイディオタイプ、TCR(T細胞レセプタ)、CD2、CD3、CD4、CD8、CD14、CD15、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD45、CD30、CD33、CD37、CD38、CD40、CD40L、CD46、CD52、CD54、CD66(a、b、c、d)、CD74、CD80、CD86、CD126、CD138、CD154、MUC1(ムチン1)、MUC2(ムチン2)、MUC3(ムチン3)、MUC4 (ムチン4)、MUC16(ムチン16)、HM1.24(複数の骨髄腫で過剰発現される形質細胞に対する特異性抗原)、テナスチン(細胞外基質の蛋白質)、GGT(ガンマ−グルタミルトランスペプチダーゼ)、VEGF(血管内皮成長因子)、EGFR(内皮成長因子レセプタ)、CEA(癌初期抗原)、CSAp(結腸固有抗原−p)、ILGF(インシュリン様成長因子)、胎盤成長因子、Her2/neu、カルボニックアンフドラーゼIX、IL−6、S100(カルシウムに結合する蛋白質のうちの変異原性ファミリー)、MART―1(黒色腫に関連した腫瘍性分化抗原)、TRP−1(トリプシナーゼ関連蛋白質1)、TRP−2(トリプシナーゼ関連蛋白質2)、gp100(糖蛋白質、100kDa)、アミロイド蛋白質、赤毛猿D抗原、HLA−DRなどのクラスI及びIIのMHC分子、突然変異された遺伝子、特に腫瘍遺伝子あるいは腫瘍抑制遺伝子の発現で生じた抗原、ある種のよく定義された腫瘍により発現された腫瘍発生ウイルスから誘導された抗原、例えばミュラー型ホルモンのタイプIIレセプタなどの一部の腫瘍で過剰発現され一部の通常組織でもわずかに発現される遍在抗原、グリコシル化あるいは非グリコシル化蛋白質、リン脂質、ホスファチジルセリンなどの感染細胞により細胞膜で発現された又は露出された自己または非自己分子、そして、病原性因子で発現あるいは分泌された蛋白質(バクテリア毒素、バクテリアあるいは寄生壁などの蛋白質複合体、例えばHIVウイルス、HBV、HCV,及びRSVのウイルス性エンベロープ糖蛋白質)から選択される抗原に向けられている。
好ましくは、前記モノクローナル抗体はCD20に向けられる。
本発明の1つの好ましい実施の形態では、前記抗CD20抗体は寄託番号I−3314で2004年11月8日にCNCMに寄託された細胞株R509、あるいは寄託番号I−3529で2005年11月29日にCNCMに寄託された細胞株R603によってつくられたものである(CNCM: Collection Nationale de Culture de Microorganismes, Institute Pasteur, 25 rue du Docteur Roux 75724 Paris Cedex 15−France)。
好適に、本発明による前記部品キットは、治療で同時、連続的、あるいは個別に用いられる。
好適に、本発明の部品キットにおいて、その表面にCD16を発現する前記エフェクタ細胞がCD16と優先的に相互作用するその抗体の標的細胞に対する細胞毒性を有している。
好適に、前記モノクローナル抗体はCD16を発現するエフェクタ細胞の存在下で、その抗体の前記標的細胞のADCC活性あるいはファゴサイトシスによって細胞毒性を誘発する。
本発明の別の目的は、部品キットと薬学的に許容される賦形剤を含む医薬品組成物を提供することである。
本発明のさらに別の目的は、薬品を製造するための、本発明による部品キットの使用に関するものである。
本発明の別の目的は、悪性病態を治療するための薬品を製造するための本発明による部品キットの使用に関するものである。
好適に、前記悪性病態は固形腫瘍及び悪性血液疾患から選択される。好適に、前記固形腫瘍は、黒色腫、上皮性悪性腫瘍、肉腫、神経膠腫、及び皮膚癌から選択される。好適に、前記上皮性悪性腫瘍は、腎臓、乳房、口腔、肺、胃腸系、卵巣、前立腺、子宮、膀胱、膵臓、肝臓、胆嚢、皮膚、及び睾丸悪性腫瘍で構成される群から選択される。
好適に、上記悪性血液疾患は、タイプB NHLによるリンパ球増殖性、骨髄増殖性、骨髄異形成症候群、急性及び慢性リンパ性白血病、バーキット・リンパ腫、毛根白血球白血病、急性及び慢性骨髄白血病、Tリンパ腫及び白血病、ホジキンス・リンパ腫、ワルデンストローム・マクログロブリン血症、及び多発性骨髄腫から選択される。
本発明の別の目的は、自己免疫性疾患及び/又は器官や全身組織に特異的で、病原性自己抗体に関係している、あるいは関係していない感染性疾患の治療のための薬品を製造するための、本発明の部品キットの使用に関するものである。
好適に、前記自己免疫性及び/又は感染性疾患は、臓器移植拒絶反応、対宿主性移植片反応疾患、リューマチ様多発性関節炎、播腫性紅斑芽腫症、皮膚硬化症、原始ショーグレン症候群(グージェロ−ショーグレン症候群)、多発性硬化症などの自己免疫性多発性神経障害、タイプI糖尿病、自己免疫性肝炎、強直性脊椎関節炎、ライター症候群、痛風性関節炎、セアリック病、クローン病、ハシモト甲状腺炎、アジソン病、自己免疫性肝炎、バセドウ氏病、潰瘍性結腸炎、ANCA(抗好中球細胞質抗体)、急性あるいは慢性自己免疫性血小板減少症、自己免疫性溶血性貧血症、新生児溶血性貧血症(HDN)、寒冷凝集素疾患、血小板減少性血栓性紫斑、及び後天性自己免疫性血友病などの成人及び子どもにおける自己免疫性血球減少及びその他の血液合併症、グッドパスチュア症候群、細胞膜外腎症、自己免疫性水疱性皮膚不全、難治性筋無力症、混合クリオグロブリン血症、乾癬、若年性慢性関節炎、感染性筋炎、皮膚筋炎、及び抗リン脂質症候群を含む子どもにおける自己免疫性疾患から選択される。
本発明の別の目的は、感染性疾患治療用の薬品を製造するための本発明による部品キットの使用に関係している。
好適に、前記感染性疾患は、ウイルス(ヒト免疫不全ウイルスあるいはEIV、B型あるいはC型肝炎ウイルス(HBV、HCV)、エプスタイン・バール・ウイルスあるいはEBV、サイトメガロウイルスあるいはCMV、エンテロウイルス、インフルエンザ・ウイルスA、B及びCによるインフルエンザ、合胞体発刊性ウイルスあるいはSRV、あるいはHTLV)、バクテリア及び/又はそれらの毒素(破傷風、ジフテリア、肺炎球菌莢膜炎、髄膜炎菌、メチシリン抵抗性形態を含むブドウ球菌、クラブシエラ菌、赤痢菌、緑膿菌、腸内細菌あるいは院内感染疾患を含む抗生物質抵抗性病態)、寄生虫(マラリア、リシューマニア症、トリパノソーマ症)及び新しい疾病である、例えばチキングニア症、鳥インフルエンザ、重篤急性発汗性ウイルス症候群あるいはSARS、エボラあるいはデング熱または西ナイル・ウイルスなどの出血性熱に関与しているウイルス、そして、炭疽菌、ポツリヌス菌、ペスト、天然痘及びポックス・ウイルス、ツララエミア、出血熱薬剤、ブルセラ病、ブドウ球菌のB型エンテロトキシン、ジフテリア毒素、あるいはウイルス性脳炎などのバイオテロに関連したものによって誘発されるものから選択される。
【0009】
部品キット
『部品キット』とは、その基本的構成要素が共通の適応性の故に1つの機能単位を形成する薬品の組み合わせを意味する。
より具体的には、本発明による部品キットとは、活性物質としてその表面にCD16を発現するエフェクタ細胞と、CD16に対するその抗体のFc領域の親和性がCD16に対するポリクローナル免疫グロブリンFc領域の親和性より高いモノクローナル抗体を含んでいる、悪性病態、自己免疫性、及び感染性疾患を治療するために同時並行的、個別的、あるいは連続的に使用するための薬品の組み合わせである。
前記モノクローナル抗体とその表面にCD16を発現するエフェクタ細胞は、単一の部品キットの形態の組成物を形成し、その成分を同時並行的、個別的、あるいは時間をかけて不規則的に使用するために用いることができる。本発明による部品キットは混合物の形態であってもよい。
前記モノクローナル抗体とCD16を発現するエフェクタ細胞は新しい共通の効果、従って共通の適応性の故に1つの機能的単位を形成する。
【0010】
その表面にFcγRIIIレセプタ(CD16)を発現するエフェクタ細胞
「その表面にCD16レセプタを発現するエフェクタ細胞」という表現は、抗体がFcγRIIIあるいはCD16細胞膜レセプタに対して特異性を示す抗原と結合することで形成される免疫複合体の結合によって誘発される細胞活性化に続いてエフェクタ活性(特にADCC、ファゴサイトシスによる、あるいは抗原性提示及び体液応答特性の別の分野で細胞毒性活性)を示すことができる細胞を意味している。
好適に、これらの細胞は必ずその表面にCD16を発現する。そうした細胞はその表面にCD16を発現する単球か単球前駆体、単球CD16+、マクロファージ、樹状細胞などである。
従って、上のリストには天然キラー(NK)及びPBMC(抹消血液単核)細胞を加えてもよい。『NK細胞』とは予め免疫化しなくても自発的な細胞毒性活性を示すことができる大型顆粒状リンパ球である。『PBMC』とは、抹消血液の単核化された細胞(単球及びリンパ球)を意味しており、その表面にCD16を発現する。
そうした細胞は従って、モノクローナル抗体Fc領域とその細胞によって発現されるCD16レセプタとの間とが結合するので、本発明のモノクローナル抗体の存在下でADCC活性を誘発することができる。
エフェクタ細胞は好ましくはマクロファージである。
CD16+単球(その表面にCD16を発現する)はその細胞膜表面にCD16を発現する単球サブ・ポピュレーションである。CD16+単球は食細胞機能を有しておりADCC活性を誘発することができる。
マクロファージは生来の免疫の主要な働き手の1つであり、適応性免疫に関与する。それは単球の分化によって発生するものである。
例として、マクロファージは単球の含有量を非常に高いレベルにした細胞懸濁液から誘導することができ、この手順は単球をマクロファージに分化させるためにM−CSF(単球−コロニー刺激因子)あるいはGM−CSF(顆粒球マクロファージ−コロニー刺激因子)を含んだ適切な培養液(RPMI(登録商標)培養液、Roswell Park Memorial Institute)内で培養するステップを含んでいる。後者は、例えば6−7日間の培養で生成される。
健康な個人で行う血球除去で得られる血液細胞の含有量を増やした組成物からマクロファージを得ることも可能であり、あるいはM−CSF(単球コロニー刺激性因子)あるいはGM−CFS(顆粒球マクロファージ・コロニー刺激性因子)を含む細胞培養液内で単球を培養するステップを行うことによっても得ることができる。
オプションとして、この培養ステップを行う前に、最初に単核細胞を分離し、他方では、血球除去で得られた血液誘導組成物内に含まれている赤血球、顆粒球、及び血小板の一部を分離し、それらの先行ステップでも残っている血小板と抗凝血剤を洗浄で除去するステップを行ってもよい。
単球内の細胞懸濁液の含有量を増大させる上のステップは、通常は、密度傾斜上で、特に、密度が1.077g/mlのFicoll Paque(Pharmacia)の溶液など、密度が約1.0から約1.3g/mlの溶液を用いて単球を含む培養液を遠心分離にかけることによって達成される。
オプションとして、マクロファージ及び/又は樹状細胞及び/又はNK細胞を含んだ組成物は、単球やその前駆体などの血液細胞、特に白血球、そして血球除去で得られたものなどの血液誘導組成物の含有量を増大させたヒト由来の血液誘導組成物から得ることができ、このプロセスは以下の諸ステップを含んでいる。
* 好適には、適切な生理溶液を用いて、前記血液誘導組成物を特に体積で2−3倍に希釈するステップと、
* 好適には単純遠心分離とその遠心分離で得られたペレットをその回収後に適切な生理溶液内で、(透過タイプの)ポケットに入れて例えばそのポケットに圧力をかけるなどの方法で洗浄し、その洗浄溶液を別のポケットかあるいは別の容器に入れて、何らかの抗凝血剤から誘導される、あるいはその他の種々の残基から誘導される組成物及びまだなくなっていない血小板を回収し、必要があれが1回か2回上の洗浄ステップを繰り返すステップと、
* 上に述べた洗浄ステップ後に得られた血液誘導組成物内に含む細胞を、適切な培養液に入れて、特に好適には疎水性のポケットに、例えば約6日から10日間程度(好ましくは約6−7日)入れて培養するステップ
とで構成され、この培養ステップの前に
* 単球及びその前駆体以外の、開始物質の中に存在している可能性のあるすべての、あるいは一部の成分、特に、血小板、赤血球、顆粒球及びリンパ球を、この培養ステップの前の洗浄ステップ後に得られた血液誘導組成物を上に述べた成分のすべてあるいは一部に対する抗体と接触させて、単球及びその前駆体を含んでいる溶液を回収して、上記の成分のすべてあるいは一部が抗体に固着したままにしておくか、及び/又はマクロファージ以外の成分のすべてあるいは一部を前記培養ステップ後に得られたその血液誘導組成物を上に述べたような抗体と接触させてマクロファージを含む溶液を回収して上に述べた成分は抗体に固着したままにしておくステップと、
* そして/又は精製ステップ、特に水洗選別を行って、前記培養ステップ後に得られた組成物のその他の成分から、特に、血小板、赤血球及びリンパ球からマクロファージを物理的に分離するステップを設けてもよい。
より一般的には、その表面にCD16の発現を齎すようなマクロファージを得るための他のプロセスも本発明においては適用可能である。
さらに、本発明においては、『マクロファージ』という表現は単球から得られ、よく定義された手順で分化され、その結果として以下の細胞膜マーカー、つまり、CD14+、CD16+、CD32+、CD64+、CD11b+をもたらすすべての細胞を意味している。特に、CD16+細胞の割合は少なくとも20%、好ましくは50%、70%、あるいは70−100%の間の範囲である。
【0011】
モノクローナル抗体
本発明においては、『モノクローナル抗体』あるいは『モノクローナル抗体の組成物』という表現は細胞クローン由来の、そして同一で単一の特性を有する抗体分子の製剤を意味する。
免疫グロブリンの分子は4つのポリペプチド:つまりそれぞれ分子量が50kDaである2つの同じ重鎖(H Heavy)とそれぞれ分子量が25kDaの軽鎖(L,light)で構成されている。この軽鎖は2つのドメインで構成されており、それは可変ドメインVと定常ドメインCで、相互に間隔をおいて折り畳まれており、VL及びCLと呼ばれる。重鎖もVHと呼ばれる1つのVドメインとCH1−CH4と呼ばれる3つあるいは4つのCドメインを有している。各ドメインは110個程度のアミノ酸を含んでおり、比較可能な構造を有している。これら2つの重鎖はジスルフィド架橋で結合されており、各重鎖はジスルフィド架橋で軽鎖にも結合されている。
抗原に対する抗体の特異性を決める領域は可変部分が担当しており、定常部分の方はエフェクタ細胞のFcレセプタか蒲体の蛋白質などの分子と反応して種々の機能的な属性を示す。
これら重鎖と軽鎖の可変領域に関しては、配列内の可変性は均等には分布されていないことが観察されている。実際、これらの可変領域は両方とも『フレームワーク』(FR、FR1−FR4)と呼ばれるわずかな可変性をもつ領域と可変性が激しい領域で構成されていて、可変性が激しい領域は『超可変性』領域とかCDR(相補性決定領域)と呼ばれ、全部でCD1からCDR3までの3つである。
好適に、本発明による抗体はキメラ性のヒト化された、あるいはヒトの抗体である。
本発明による抗体は好ましくはキメラ性である。
『キメラ性抗体』という表現は、軽鎖及び重鎖の定常領域が属している種とは異なった種に属する可変領域で構成されている抗体を意味している。従って、本発明による抗体は、その抗体がつくられた種とは異なった種に属するマウスやラットやウサギやサルやヒト由来の可変領域と定常領域を有している。この点で、哺乳動物のすべての属及び種を用いることが可能であり、特にヒト、サル、ラット及びマウス、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌなどの細胞を使用することが好ましく、鳥類の細胞の使用も可能である。さらに好ましくは、本発明による各軽鎖及び各重鎖の定常領域はヒトの定常領域である。本発明のこの好ましい実施の形態においてはヒトにおいて抗原の免疫源性を低下させて、ヒトにおけるその治療的投与期間中の効率を向上させることができる。
本発明の1つの好ましい実施の形態においては、本発明による抗体の各軽鎖の定常領域はκタイプのものである。どのアロタイプでも本発明の目的の達成には適しており、例えば、Km(1)、Km(1,2)、Km(1,2,3)あるいはKm(3)などを用いることができる。
本発明の別の実施の形態においては、本発明による抗体の各軽鎖の定常領域はλタイプのものである。
本発明の1つの特別の態様においては、そして特に、本発明の各軽鎖及び各重鎖の定常領域がヒトの領域である場合、その抗体の各重鎖の定常領域はγ−タイプである。この変例の場合、その抗体の各重鎖の定常領域はγ1−タイプ、γ2−タイプ、あるいはγ3−タイプのものであってもよく、これら3つのタイプの定常領域はヒト相補対を固定するという特徴を持っており、あるいはγ4−タイプであってもよい。、その重鎖がγタイプの定常領域を有する抗体はIgGのクラスに属する。このG−タイプの免疫グロブリン(IgG)はジスルフィド結合で2つの重鎖と2つの軽鎖で構成される異種二量体である。各鎖はN末端位置にその抗体が対応する抗原に特異性を示す可変領域あるいはドメイン(軽鎖に関しては再編成遺伝子V−Jによってコードされ、重鎖に関しては再編成遺伝子V−D−Jでコードされる)を含んでおり、さらにC末端の位置に、軽鎖に対する単一のCLドメインで構成される定常領域か、あるいは重鎖に対する3つのドメイン(CH1、CH2、及びCH3)で構成される定常領域を含んでいる。これら重鎖及び軽鎖の可変領域とCH1及びCLドメインの結合はFabフラグメントを形成しており、このフラグメントは非常にフレキシブルなヒンジ領域でFc領域に接続されており、各Fabがその抗原性標的に固着されるようにしており、一方、その抗体のエフェクタ属性を媒介するFc領域はFcγR及びC1qレセプタなどのエフェクタ分子に依然としてアクセス可能になっている。2つの球形ドメインCγ及びCγで構成されるFc領域は、2つの鎖のそれぞれにアスパラギン297に結合されたバイアンテナNグリカンの存在下でCγのレベルでグリコシル化されている。
この抗体の各重鎖の定常領域は、γ1のタイプのものであることが好ましいが、それはそうしたタイプの抗体が最大数の(ヒト)個体でADCC(抗体依存細胞毒性)を発生させる能力を有しているからである。この点で、例えば、G1m(3)、G1m(1,2,17)、G1m(1,17)あるいはG1m(1,3)などのどんなアロタイプでも本発明の達成に適している。
本発明によるキメラ性抗体は当業者に公知の標準的な遺伝子組み換えDNA技術を用いて構成することができ、より具体的には、例えば、Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,81:6851−55(1984)で述べられているキメラ性抗体の構成技術を用いて行うことができ、この技術ではヒト以外の哺乳動物由来の1つの重鎖の定常領域及び/又は1つの軽鎖の定常領域をヒトの免疫グロブリンの対応する領域と置換させるためにDNA遺伝子組み換え技術が用いられる。そうした抗体及びその調製方法も例えば欧州特許No.173 494,資料Neuberger,M.S.et al.,Nature 1985 Mar 21−27;314(6008)、268−70、それに欧州特許No.125 023に述べられており、キメラ性抗体を発生させる方法は当業者なら誰でも利用できる。例えば、それらの抗体の重鎖と軽鎖は各鎖に対するベクターを用いて個別に発現させることができるし、あるいはそれらをひとつのベクターに組み込むこともできる。
発現ベクターは核酸分子であり、その発現ベクターにおいては、その抗体の各重鎖あるいは各軽鎖の可変領域をコードする核酸配列及び/又はその抗体の各重鎖あるいは各軽鎖の定常領域をコードする核酸配列が挿入されているので、それらの可変領域と定常領域がホスト細胞内に導入・保存される。このことにより、そのホスト細胞内のこれらの外来核酸フラグメントの発現が可能になるが、それはこの発現に不可欠な配列(プロモータ、ポリアデニル化配列)が含まれているからである。このベクターは、例えば、プラスミド、アデノウイルス、レトロウイルス、あるいはバクテリオファージで、例えば、SP2/0、YB2/0、ナマルワ・ヒト骨髄腫、PERC6、CHO株、特にCHO−K−1、CHO−Lec10、CHO−Lec1、CHO−Lec13、CHO Pro−5、CHO dhfr−、Wil−2、Jurkat、Vero、Molt−4、COS−7、293−HEK、BHK、K6H6、NS0、SP2/0−Ag14、及びP3X63Ag8.653などのいずれの哺乳動物細胞であってもよい。
本発明によるキメラ性抗体のための発現ベクターを構築するために、PCR増幅反応(ポリメラーゼ鎖反応)中に可変領域内に合成信号配列と適切な制限酵素を癒合させることができる。次に、この可変領域を1つの抗体、好ましくはヒトIgG1の定常領域と組み合わせる。このようにして構成された遺伝子は2つの別個のベクター(各鎖に1つ)あるいは単一のベクターを用いて、ポリアデニル化サイトの上流でプロモータ(例えばRSVプロモータ)の制御下でクローンされる。これらのベクターは、dhfr遺伝子、ネオマイシン抵抗遺伝子など当業者に公知の選択遺伝子も備えている。
本発明によるキメラ性抗体は当業者に公知の方法(例えば、リン酸カルシウム共沈積法、電気穿孔、微量注射など)を用いて、ホスト細胞中で軽鎖発現ベクターと重鎖発現ベクターのあるいは単一のベクターを共トランスフェクトするか、あるいは単一トランスフェクトさせることでつくりだすことができる。
ヒト化された抗体という表現はヒト以外の抗体から誘導されたCDR領域を含む抗体を意味しており、その抗体分子の他の部分は1つあるいは複数のヒト抗体から誘導された抗体分子である。こうした抗体はCDR移植法を用いて誘導される(CDR移植)は当業者に公知である。例えば以下の文献を参照されたい。米国特許No.5,225,539;米国特許No.6,180,370;Jones et al. Nature 321(6069):522−5 (1986);Verhoeyen et al.Bioassays 8(2):74−8(1988);Riechmann et al.,Nature 332:327−7(1988); Queen C.et al.,Proc.Natl.Acads.Sci.U.S.A.86(24):10029−33(1989);Lewis A.P.and Crowe J.S.,Gene 101(2):297−302(1991);Daughty BL et al.,Nucleic Acid Res.19(9):2471−6(1991);Carter et al.,Proc.NAtl.Acads.Sci.U.S.A,89:4285(1992);Singer et al.,J.Immunol.150(7):2844−57(1993);Presta et al.,J.Immunol.,151:2623(1993))。ヒト化された抗体をつくりだすために移植される可変ヒト・ドメインの選択はその標的に対する親和性を変えずにその抗体免疫性を低下させる上で重要である。ヒト化された抗体をつくりだす方法において、マウス抗体の可変領域の配列が知られている可変ヒト領域の配列ライブラリと比較されて、そのマウス配列に最も近い可変ヒト配列をFR領域(『フレームワーク』)として使用する(Riechmann et al.Nature 332:323−7(1988);Queen C.et.al. Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86(24):10029−33 (1989);Sims et al.J.Immunol.,151:2296(1993)参照)。ヒトFR領域を選択するための別の方法は各マウスFR配列準領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)の配列を知られているヒトFR配列のライブラリと比較して、例えば、各FR領域に関して、マウスの配列と最も近いヒトのFR配列を選ぶ方法である(米国特許 No.2003/0040606;Singer et al.,J.Immunol.150(7):2844−57(1993);Sato K.and at.,Mol.Immunol.31(5):371−81(1994);Leung S.O.et al.Mol.Immunol.32(17−18):1413−27(1995)参照)。別の方法では、ヒト抗体の重鎖あるいは軽鎖の特定のサブグループのコンセンサス配列から誘導される特殊なFR領域を用いる(Sato K.and al、Mol.Immunol.31(5):371−81(1994))。CDR移植は多くの場合、多くの場合、ヒト化された抗体のその標的に対する良好な親和性を保持するために、ヒトFRに局所化されたいくつかのキー残基を突然変異させることによって行われる(Holmes M.A.and Foote J.J.Immunol.158(5):2192−201(1997))。
本発明によるヒト化された抗体はin vitroでの診断法、あるいはin vivoでの予防及び/又は治療措置方法で用いられることが好ましい。
本発明による上に述べたようなキメラ化されたあるいはヒト化された抗体はヒトの器官による許容度が高まり、そして少なくとも最初の抗体と同様に有効である。1つの特に好適な方法においては、上に述べたようにキメラ化されたあるいはヒト化された抗体は対応する天然の抗体と比較して二倍もの細胞毒性を有している。さらにより好適な方法においては、上に述べたようなキメラ化されたあるいはヒト化された抗体は対応する天然の抗体と比較して10倍、100倍あるいは好ましくは500倍以上も強い細胞毒性を有している。
ヒト抗体という表現はその各領域がヒト抗体から誘導された抗体を意味している。これらの抗体はヒト抗体遺伝子を有する形質転換マウスから、あるいはヒト細胞から誘導することができる(Jakobovits et al.,Curr Opin Biotechnol.Oct:6(5):561−6(1995);Lonberg N.and D. Huszar.Internal Review of Immunology 13:65−93(1995);TOmizuka K.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97(2):722−727(2000)参照)。
本発明によるヒト化されたあるいはヒトのキメラ性抗体は好ましくは当業者に当地の遺伝子組み換えDNA技術によってつくられる。本発明によるモノクローナル抗体は好ましくはSP2/0、YB2/0、IR983F、ナマルワ・ヒト骨髄腫、PERC6、CHO 株、特にCHO−K−1、CHO−Lec10、CHO−Lec1、CHO−Lec13、CHO Pro−5、CHO dhrf−、Wil−2、Jurkat、Vero、Molt−4、COS−7、293−HEK、BHK、K6H6、NS0、SP2/0−Ag 14及びP3X63Ag8.653などで構成されるグループから選択された単離細胞によってつくることができる。
本発明によるモノクローナル抗体は形質転換された動物からつくりだすこともできる。形質転換とは外来DNAを多細胞生物のゲノムに組み込んでその後代に伝える技術である。抗体に伝えることで、生育の初期の段階で胚のゲノムにそのDNAが安定して組み込まれる。
例えば、本発明の範囲で用いることが出来る1つの形質転換技術では、受精した哺乳動物卵細胞あるいは胚幹細胞の前核に微量注入して、一部の例では微量注入されたDNA分子の一部がホスト・ゲノムと一体化する。形質転換には他の技術を用いることもでき、特に、当業者に公知の、生きている細胞に外来性のDNAを導入する技術、特に、電気穿孔法、リン酸カルシウム沈殿物、修正リポソーム、あるいはlipofectamine(登録商標)(INVITROGEN)などの脂質によるトランスフェクションなどの技術の使用も可能である。
本発明によるモノクローナル抗体は好ましくは形質変換された動物の母乳でつくられる。この方法では、発現対象の蛋白質をコードする遺伝子が母乳内で特異的に発現される遺伝子規制要素(例えば、WAP遺伝子のプロモータ、乳漿蛋白質)と結合される。得られる発現ベクターは単細胞段階で哺乳動物の胚に顕微鏡を用いて微量注入される。この胚を受け入れ側の雌に移す。
例えば、一ヶ月の妊娠期間後、そのゲノム内にトランスジーン(F0)を組み込んだ最初の哺乳動物が生まれて、耳組織生体検査PCR分析で確認が行われる。それらをその形質転換ほどの第二世代を産むための創始哺乳動物として用いる。その創始哺乳動物は母乳での発現対象の蛋白質をつくりだす効率と第二世代の形質転換ウサギ(F1)をつくりだすための効率を基準として選択される。
F1の後代は耳組織生体検査とそれに続くPCR分析によって確認される。性的に成熟したF1(雌)を非形質転換のオスからの精液で受精させる。母乳を物理的手段で取り出して、遺伝子組み換え蛋白質の特徴づけを行い、大規模産出と純化戦略を実行するために最も優れた細胞株(GLP、前GMP、GMP)の選択を行う。
同時並行的に、形質転換したF1の雄の精液−マスター精液バンク:MSB−を得て、FDAの勧告及びEUでの例に従って液体窒素内で極低温保管する。この精液を形質転換されていない雌に人為的に受精させて、第2世代の後代(F2)をつくりだす。形質転換されたF2の雄の精液を取り出せば、その母乳でモノクローナル抗体を産業規模で産出するために15−20年間は用いることができる。このタイプの技術は、例えば、欧州特許No.0 527 063に述べられている。
【0012】
Fcガンマ・レセプタ
タイプIII FCガンマ・レセプタ(FcγRIII)とも呼ばれるCD16は、多数の免疫系細胞に存在しているレセプタである。CD32(FcγRFII)及びCD64(FcγRFI)と共に。CD16は定常(Fc)フラグメントIgG抗体重鎖に対して特異性を示すレセプタである。IgGのFcを介してのこれらのCD16、CD32、及びCD64レセプタへの免疫複合体の結合がそれら免疫系に存在しており、エフェクタ細胞が後者と特に免疫複合体ファゴサイトシスを活性化する。
本発明によるエフェクタ細胞はその細胞膜上に3つのタイプのFcレセプタ:CD64、CD32、及びCD16を発現する。
このCD16レセプタは従来『低親和性レセプタ』と呼ばれており、PMN(多形核好中球)、単球の部分母集団、マクロファージ、樹状細胞、及び天然キラー細胞(NK細胞)上で構成的に発現される。CD16は複数のエフェクタ機能、、例えば、ファゴサイトシス、粒子や免疫複合体のオプソニン化、そしてADCC活性に関与している。
本発明による部品キットのモノクローナル抗体は本発明のエフェクタ細胞上に存在するFcレセプタ、特にCD16に対して強い親和性を示すFC領域を有している。本発明は本発明によるモノクローナル抗体のFC領域と部品キットのエフェクタ細胞のCD16間の相乗効果を示している。この親和性は非常に強いので、抗体とエフェクタ細胞を含んでいる培養液にヒトの多価原形質IgG(抹消血液の重要な成分)を加えても、モノクローナル抗体とエフェクタ細胞との間の結合によって発生するADCC活性にはまったく、あるいはほとんど影響が現れない。これは、このモノクローナル抗体のFc領域のCD16に対する親和性が生理的な状態で存在しているヒトのIgGのそれより大きいことに由来している。その結果、in vitroで観察されるADCC活性がin vivoでも減少されず、従ってセリックIgGによる発現対象の抗体の置換が行われないのである。実際に、血漿及び血清は高い濃度の免疫グロブリン(多価原形質IgGとかポリクローナルIgGあるいはセリックIgGとも呼ばれる)。この部品キットのモノクローナル抗体は、そのCD16及びCD64がADCCあるいはファゴサイトシスによって細胞溶解をもたらすFcレセプタを介してエフェクタ細胞の活性化を誘発する。多価原形質IgGがCD64を介してエフェクタ細胞の細胞溶解メカニズムを抑止し、後者が多価IgGの存在下で飽和されることは、現在では一般的に認められている。
本出願人は、これまでにも、そのFc領域がCD16に対して原形質部分を切り離したIgGのそれより大きな親和性を有しているモノクローナル抗体の部品キットにおける結合が、驚くほどADCC活性を誘発して、そのADCC活性がin vitroで原形質IgGを加えても抑止されず、in vivoでの治療活性の保持が可能になることを示している。このin vivoでの治療活性は腫瘍細胞、病原性作用因子に感染された細胞、あるいは自己免疫をつくりだす細胞の溶解に対応するものである。
従って、好適に、このモノクローナル抗体はヒトの原形質IgGを加えても多価IgGによって置換されない。
抗体のFc領域のCD16に対する強い親和性の故に、このモノクローナル抗体はエフェクタ細胞に結合し、この結合は血清濃度が高くても、ヒトの多価原形質IgGによって置換されないのである。
その結果、本発明による部品キットは、モノクローナル抗体の濃度が低くても、標的細胞の最善の状態での溶解を可能にしてくれる。
好適に、本発明の部品キットのモノクローナル抗体の濃度は同じ特性を有する抗体の濃度より低く、悪性病態、自己免疫、あるいは感染性疾患の治療にそれ自体で単独に用いられている。
本発明の1つの実施の形態で、本発明によるモノクローナル抗体のFc領域は、CD16との結合定数が少なくとも2.10−1である。
好適に、本発明による抗体の結合定数はManenakaらによる文献に述べられている方法で測定される(Katsumi Maenaka, P.Anton van der Merwe,David I.Stuart,E. Yvonne Jones, and Peter Sondermann; The Human Low Affinity Fcy receptors IIa Iib. and III bind IgG with Fast Kinetics and Distinct Thermodynammic Properties.J.Biol.Chem.,Vo. 276 Issue 48 44898−44904, November 30,2001)。
本発明の1つの好ましい実施の形態においては、部品キット内のモノクローナル抗体濃度は、好ましくは2億個の細胞あたり1mg未満である。
上では部品キットと表現されている本発明は病変において、あるいは注射後での使用が想定されている。エフェクタ:標的の比率は必ずしもか高くなくてもよく、例えば、10未満、あるいは1又は0.1である。
本発明の1つの特殊な実施態様で、上記モノクローナル抗体はエフェクタ細胞CD16と少なくとも2.10−1の親和性で結合する。
例えば、本発明によるモノクローナル抗体は特許出願WO 01/77181に述べられているプロセスを用いて作成することができる。エフェクタ細胞を発現するCD16を活性化することができるモノクローナル抗体を作成するためのプロセスは以下のステップを含んでいる:
a) 種々のハイブリドーマ、特に異種ハイブリドーマと上記抗体をコードする遺伝子を含むベクターでトランスフェクトされた動物あるいはヒト細胞株を精製するステップ
b) ステップa)で得られた各抗体を
i. 前記抗体の標的細胞
ii. FcγRIII発現細胞を含むエフェクタ細胞
iii. 多価IgG
を含む反応混合物に加えるステップ、及び
c) 標的細胞の溶解率(%)を判定してエフェクタ細胞を活性化させて標的細胞の有意な溶解(FcγRIIIに依存するADCC活性)を起こさせるモノクローナル抗体を選択するステップ。
各抗原特異性に関して言えば、本発明によるモノクローナル抗体は実際には複数のモノクローナル抗体を含んだ組成物であり、それらのモノクローナル抗体は同じ細胞クローンから由来するものであるから、それらの基本構造のレベルではみな同じである。しかしながら、モノクローナル抗体組成物で構成されるすべての抗体が同じグリカン特性を示すわけではない。ヒト及び動物の抗体はそれぞれの重鎖のCHドメイン上にN結合オリゴ糖を有している。このオリゴ糖はG免疫グロブリンの場合、アスパラギン297(KabatによればAsn 297)である。このアスパラギン残基は『Fcγグリコシル化』とも呼ばれる。
このAsn297に結合したオリゴ糖鎖の先端は『リダクタ端』と呼ばれ反対側の先端は『非リダクタ端』と呼ばれる。
IgG抗体のFc領域においては2つのFcγグリコシル化箇所があり、従って、2つのオリゴ糖鎖がそれぞれの抗体分子に結合している。
従って、モノクローナル抗体組成物においては、産出側細胞株から譲りうけたグリコシル化に応じて、異なった構造を有している。しかしながら、これらの鎖は共通の基本構造を有している。
【0013】
【化1】

【0014】
すべてのモノクローナル抗体に共通したこの基本構造はさらに、以下の糖類:つまり、N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)、フコース(fuc)、及びガラクトース(gal)を含んでいる場合もある。N−オリゴ糖の基本的なグリコシル化形態は以下の図に示すとおりである。
【0015】
【化2】

【0016】
各オリゴ糖鎖はこれらの糖類のうちの1つあるいは複数を含むことが出来、さらにそれ自体が上に図示してあるG0、G0F、G1、あるいはG1F形態を含むことができるので、モノクローナル抗体組成物内においては多数のオリゴ糖の組み合わせが存在することになり、それらのオリゴ糖がそれらの各モノクローナル抗体においては、抗体組成物ごとにこれらの糖の存在比率が異なってしまうのである。従って、同じ細胞株に由来するクローンでもグリカン組成が異なった抗体組成物をつくりだしてしまう可能性がある。
従って、本出願人によって、驚くべきことに、フコースの割合が65%未満のモノクローナル抗体組成物がCD16に対して強い親和性を有していることが示された。より具体的には、このタイプのモノクローナル抗体組成物のCD16に対するそれらの領域の親和性が多価IgGのCD16に対する親和性より高いのである。さらに、この組成物のモノクローナル抗体セリックIgによって置換されていない。
こうしたモノクローナル抗体組成物をつくる方法は、例えば、特許出願WO 01/77181に示されている。本発明の1つの好適な実施の形態において、こうしたモノクローナル抗体組成物は酵素活性が低くて、還元性先端のNアセチルグルコサミンに対するフコースの付加を可能にする細胞によってつくられ、その酵素は好ましくはフコシルトランスフェラーゼである。
本発明の別の実施の形態では、フコースの割合が上に述べたとおりであるようなモノクローナル抗体組成物を得るために、そうしたモノクローナル抗体組成物に対して酵素、例えば、フコシダーゼを作用させることも可能である。
本発明の好ましい実施の形態で、上記モノクローナル抗体組成物はYB2/0 (ATCC CRL−1662)内でつくりだされる。
効果を達成するために、本発明による部品キットのモノクローナル抗体は、5C5抗原(腎癌腫によって発現される腫瘍性抗原)、BCR(B細胞レセプタ)、抗ふぁぱ抑制抗体、TCR(T細胞レセプタ)、CD2、CD3、CD4、CD8、CD14、CD15、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD45、CD30、CD33、CD37、CD38、CD40、CD40L、CD46、CD52、CD54、CD66(a、b、c、d)、CD74、CD80、CD126、CD138、CD154、MUC1(ムチン1)、MUC2(ムチン2)、MUC3(ムチン3)、MUC4 (ムチン4)、MUC16(ムチン16)、HM1.24(複数の骨髄腫で過剰発現される形質細胞に対する特異性抗原)、テナスチン(細胞外基質の蛋白質)、GGT(ガンマ−グルタミルトランスペプチダーゼ)、VEGF(血管内皮成長因子)、EGFR(内皮成長因子レセプタ)、CEA(癌初期抗原)、CSAp(結腸固有抗原−p)、ILGF(インシュリン様成長因子)、胎盤成長因子、Her2/neu、カルボニックアンフドラーゼIX、IL−6、S100蛋白質(カルシウムに結合する蛋白質のうちの変異原性ファミリー)、MART―1(黒色腫に関連した腫瘍性分化抗原)、TRP−1(トリプシナーゼ関連蛋白質1)、TRP−2(トリプシナーゼ関連蛋白質2)、gp100(糖蛋白質、100kDa)、アミロイド蛋白質、赤毛猿D抗原、HLA−DRなどのクラスI及びIIのMHC分子、突然変異された遺伝子、特に腫瘍遺伝子ありは腫瘍抑制遺伝子の発現で生じた抗原、ある種のよく定義された腫瘍により発現された腫瘍発生ウイルスから誘導された抗原、例えばミュラー型ホルモンのタイプIIレセプタなどの一部の腫瘍で過剰発現され一部の通常組織でもわずかに発現される遍在抗原、グリコシル化あるいは非グリコシル化蛋白質、リン脂質、ホスファチジルセリンなどの感染細胞により細胞膜で発現された又は露出された自己または非自己分子、そして、病原性因子で発現あるいは分泌された蛋白質(バクテリア毒素、バクテリアあるいは寄生壁などの蛋白質複合体、例えばHIVウイルス、HBV、HCV、及びRSVのウイルス性エンベロープ糖蛋白質)から選択される抗原などに対して使用される。
本発明の抗体は好ましくはCD20に対して向けられたものである。
CD20抗原は分子量が35−37kDaの疎水性の膜透過蛋白質であり、成熟したB
リンパ球の表面上に存在している(Valentine et al.,1987,Proc Natl Acad Sci U.S.A.84(22):8085−9;Valentine et al.,1989,J.Biol.Chem.264(19):11282−11287)。それは初期前Bステージから形質細胞の分化までのBリンパ球の成長中に発現され、分化が完了するとこの発現も終了する。CD20抗原は正常なBリンパ球と悪性B細胞の両方に存在している。より具体的には、CD20抗原はほとんどのB表現型リンパ腫(リンパ腫の80%)上で発現され、さらに、例えば、リンパ球B非ホジキンス氏リンパ腫(NHL)の90%以上で発現され、さらに、タイプB慢性リンパ性白血病(LLC−B)の95%以上で発現される。CD20抗原は造血幹細胞や形質細胞上では発現されない。
CD20の機能は未だ完全には改名されてはいないが、カルシウム・チャンネルとして機能し、分化の最初の段階に関与している可能性(Golay et al.1985 J Immunol.,135(6):3795−801)及びBリンパ球の増殖に関与している可能性(Tedder et al.1986,Eur Immunol.1986 Aug;16(8):881−7)が示唆されている。
本発明の1つの実施の形態では、抗CD20抗体の組成物はYB2/0によってつくられ、そのフコース比率は65%未満である。
本発明の1つの実施の形態では、そうした抗体とその生成プロセスは特許出願WO2006/064121に述べられている通りである。
好適に、そうした抗体の重鎖のアミノ酸配列は配列番号 SEQ ID No.1に示されている配列である。
好適に、そうした抗体の軽鎖のアミノ酸配列は配列番号 SEQ ID No.2あるいは3に示されている配列である。
要するに、この抗体は、特許出願WO2006/064121の教示に基づいて、上に述べた重鎖及び軽鎖の発現を可能にするベクターを用いてYB2/0細胞トランスフェクションによって得られる。
本発明の1つの好ましい実施の形態において、モノクローナル抗CD20抗体の組成物はフコース比率が65%以下で、好ましくは20−40%の範囲であり、フコースとガラクトースの比率は0.6未満である。
本発明の1つの好ましい実施の形態において、部品キットのモノクローナル抗体はCNCM I−3314の寄託番号でCNCMに寄託されているR509によってつくりだされる。
本発明の別の好ましい実施の形態においては、部品キットのモノクローナル抗体はCNCM I−3529の寄託番号でCNCMに寄託されているR603によってつくりだされる。
本出願人は、LLC−B患者から得た悪性細胞がex vivoで、10以下、あるいは2E:T以下の低い低抗体濃度で、ヒト血清が存在していても、本発明によ部品キットがLLC−B患者からの細胞を溶解したので、LLC−Bの治療には有効である。
本発明による部品キットは、上に述べたようにエフェクタ細胞と抗体のFc領域との間の物理的な相互作用(結合)の故に、抗体の可変領域で認識された標的を最も有効に溶解することができ、その相互作用は非常に強いので多価IgGによっては置換されない。
好適に、LLC−Bを治療するための本発明による部品キットに含まれているモノクローナル抗体の濃度は375mg/m未満である。
低毒性、特異性及び用量が少ないことから、本発明による抗CD20抗体を含む部品キットは以下の病変の治療のために用いることができる。すなわち、例えば
タイプB NHLによるCD20陽性リンパ球のリンパ増殖性症候群あるいは急性
急性及び慢性リンパB型白血病、臓器移植拒絶反応、対宿主性移植片反応疾患、リューマチ様多発性関節炎、播腫性紅斑芽腫症、皮膚硬化症、原始ショーグレン症候群(グージェロ−ショーグレン症候群)、多発性硬化症などの自己免疫性多発性神経障害、タイプI糖尿病、自己免疫性肝炎、強直性脊椎関節炎、ライター症候群、痛風性関節炎、セアリック病、クローン病、ハシモト甲状腺炎、アジソン病、自己免疫性肝炎、バセドウ氏病、潰瘍性結腸炎、ANCA(抗好中球細胞質抗体)に関連した全身性脈管炎などの脈管炎、急性あるいは慢性自己免疫性血小板減少症、自己免疫性溶血性貧血症、新生児溶血性貧血症(HDN)、寒冷凝集素疾患、血小板減少性血栓性紫斑、及び後天性自己免疫性血友病などの成人及び子どもにおける自己免疫性血球減少及びその他の血液合併症、グッドパスチュア症候群、細胞膜外腎症、自己免疫性水疱性皮膚不全、難治性筋無力症、混合クリオグロブリン血症、乾癬、若年性慢性関節炎、感染性筋炎、皮膚筋炎、及び抗リン脂質症候群を含む子どもにおける自己免疫性疾患から選択される臓器あるいは全身組織に特異性を示し、そして病原性自己抗体と関係しているか、あるいは関係していない自己免疫性疾患及び/又は炎症性疾患などを治療するために投与することができる。
好適に、本発明による部品キットは注射可能な溶液である。この注射可能溶液は好適に局所的あるいに全身的に注射可能な形態である。1つの実施の形態で、6通りの投与が患者に行われる。1回の投与は1日あたり1回行われ、次に1ヶ月か2ヶ月間にわたり1週あたり1回行われ、1月あたり1回の投与を3回行い、これらの治療は数回繰り返すことができる。
1つの相補的な実施の形態で、上記のエフェクタ細胞は1回の注射あたり10−10個のエフェクタ細胞の用量で投与される。
別の相補的な実施の形態で、本発明の抗体は1回の注射あたり1−500mgの範囲の用量で投与される。
本発明の別の実施の形態で、上記のエフェクタ細胞は繰り返して最大10回は投与され、各投与毎の間隔は2日から12ヶ月の間の範囲とする。本発明の別の実施の形態で、上記モノクローナル抗体は繰り返し最大10回は投与され、各投与毎の間隔は2日から12ヶ月の間の範囲とする。本発明の別の実施の形態で、上記モノクローナル抗体と上記エフェクタ細胞は同時に投与される。
本発明の別の実施の形態で、上記モノクローナル抗体と上記エフェクタ細胞は連続的に投与され、モノクローナル抗体をエフェクタ細胞より前に投与する。
本発明の別の目的は本発明の部品キットを含む医薬品組成物の提供である。
本発明の別の目的は悪性な自己免疫性及び感染性病変を治療するための薬を調製するための使用に関している。
上記薬あるいは医薬品組成物は好適に賦形剤及び/又は薬学的に許容される媒介物を含んでいる。
上記賦形剤は、食塩水、生理用、等張性溶液など、あるいは懸濁液、ゲル、粉末などであってよく、薬学的な使用に耐え、当業者に知られているものでなければならない。本発明による組成物は分散剤、可溶化剤、安定剤、表面活性剤、保存剤などから選択される1つあるいは複数の薬剤及び媒介物を含んでいてもよい。さらに、本発明による組成物はその他のあるいは追加的な成分を含んでいてもよい。
本発明の別の目的は薬品を製造するための本発明による部品キットの利用である。
本発明のさらに別の目的は悪性病変を治療するための薬品を製造するための本発明による部品キットの利用である。
好適に、この悪性病変は固形腫瘍及び悪性血液疾患から選択される。固形腫瘍は黒色腫、癌腫、肉腫、神経膠種、及び皮膚癌から選択される。癌腫は腎臓、乳房、口腔、肺、胃腸系、卵巣、前立腺、子宮、膀胱、膵臓、肝臓、胆嚢、皮膚、及び睾丸の癌腫で構成される群から選択される。
悪性血液疾患はリンパ増殖性、骨髄増殖性、骨髄異形成症候群及び例えばタイプB NHLによる急性骨髄性白血病、急性及び慢性リンパ性B型白血病、バーキット氏リンパ腫、毛根白血球性白血病、急性及び慢性骨髄性白血病、Tリンパ腫及び白血病、ホジキンス氏リンパ腫、ウォールデンストローム・マクログロブリン血症、及び多発性骨髄腫などから選択される。
本発明の別の目的は器官及び組織に固有の、そして病原性自己免疫と関係しているかあるいは関係していない自己免疫性及び/又は感染性疾患を治療するための薬品の製造に本発明の部品キットを使用することに関係しており、それらの疾患は臓器移植拒絶反応、対宿主性移植片反応疾患、リューマチ様多発性関節炎、播腫性紅斑芽腫症、皮膚硬化症、原始ショーグレン症候群(グージェロ−ショーグレン症候群)、多発性硬化症などの自己免疫性多発性神経障害、タイプI糖尿病、自己免疫性肝炎、強直性脊椎関節炎、ライター症候群、痛風性関節炎、セアリック病、クローン病、ハシモト甲状腺炎、アジソン病、自己免疫性肝炎、バセドウ氏病、潰瘍性結腸炎、ANCA(抗好中球細胞質抗体)に関連した全身性脈管炎などの脈管炎、急性あるいは慢性自己免疫性血小板減少症、自己免疫性溶血性貧血症、新生児溶血性貧血症(HDN)、寒冷凝集素疾患、血小板減少性血栓性紫斑、及び後天性自己免疫性血友病などの成人及び子どもにおける自己免疫性血球減少及びその他の血液合併症、グッドパスチュア症候群、細胞膜外腎症、自己免疫性水疱性皮膚不全、難治性筋無力症、混合クリオグロブリン血症、乾癬、若年性慢性関節炎、感染性筋炎、皮膚筋炎、及び抗リン脂質症候群を含む子どもにおける自己免疫性疾患ある。
本発明の別の目的は感染性疾患を治療するための薬品を製造するための本発明による部品キットの使用に関するものである。
好適に、これらの感染性疾患は、ウイルス(ヒト免疫不全ウイルスあるいはHIV、B型あるいはC型肝炎ウイルス(HBV、HCV)、エプスタイン・バール・ウイルスあるいはEBV、サイトメガロウイルスあるいはCMV、インフルエンザ・ウイルスA、B及びCによるインフルエンザ、合胞体発刊性ウイルスあるいはRSV、あるいはHTLV)、バクテリア及び/又はそれらの毒素(破傷風、ジフテリア、肺炎球菌莢膜炎、髄膜炎菌、メチシリン抵抗性形態を含むブドウ球菌、クラブシエラ菌、赤痢菌、緑膿菌、腸内細菌あるいは院内感染疾患を含む抗生物質抵抗性病態)、寄生虫(マラリア、リシューマニア症、トリパノソーマ症)及び新しい疾病である、例えばチキングニア症、鳥インフルエンザ、重篤急性発汗性ウイルス症候群あるいはSARS、エボラあるいはデング熱または西ナイル・ウイルスなどの出血性熱に関与しているウイルス、そして、炭疽菌、ポツリヌス菌、ペスト、天然痘及びポックス・ウイルス、ツララエミア、出血熱薬剤、ブルセラ病、ブドウ球菌のB型エンテロトキシン、ジフテリア毒素、あるいはウイルス性脳炎などのバイオテロに関連したものによって誘発されるものなどから選択される感染症である。
本発明のその他の効果と利点を以下の実施例に述べるが、これらの実施例は例示のためのものであって、本発明の範囲の限定を意図するものではない。
【実施例】
【0017】
実施例1:マクロファージにおける単球の分化
単球をフィコール及びペルコール密度勾配で分画して抹消血液から単離し、次に、10%SVFを含みM−CSF(単球コロニー刺激性因子)(50ng/ml)を加えたRPMI培養液内で培養した。7日間後、得られたマクロファージはCD14+、CD16+、CD32+、CD64+、CD11b+、CD1a−、CD80−、CD83−表現型のものであった。
従って、M−CSF分化はマクロファージの表面上にCD16の発現を可能にする。
【0018】
実施例2:マクロファージの表面で発現されたCD16と抗D抗体との相互作用
抗D R297抗体(EMABling R297とも呼ばれる)の結合をAD1抗体のそれと比較した。抗D R297抗体は資料WO 01/77171に述べられており、この資料に述べられているプロセスで作成される。この抗体はYB2/0細胞(ATCC CRL−162)内でつくりだされる。
マクロファージCD16上のR297抗体の結合をAD1抗体(資料WO 01/77181に述べられており、異型骨髄腫によって発現される)のそれと比較した。
抗CD16抗体(生産クローン3G8)の変位アッセイを行うことによってこれらのマクロファージのCD16レセプタ上でのモノクローナル抗体の結合を、それらの特異性とは関係なく測定することができる。
精製されたマクロファージを抗D抗体(R297又はAD1)の濃度を変えて(0−8μg/ml)、さらに蛍光色素に結合させた抗CD16 3G8抗体(3G8−PE)の濃度を決めて培養した。
洗浄後、マクロファージのCDレセプタ上での抗体3G8−PEの結合をフローサイトメトリで測定した。CD16に結合する能力を有している抗体は3G8抗体の結合と競合するので、結果として、MFI(平均蛍光強度)を減少させる。それらの結果は、測定される抗体の量の関数としての蛍光平均値(MFI)として示される。
図1は、AD1抗体と比較して、R297抗体がマクロファージに非常に強く結合することを示している。
上側の線はEMABling抗体がAD1抗体より6倍も高い変位を誘発することを示している。
【0019】
実施例3:抗CD20 EMAB6及びEMAB603抗体とマクロファージによって発現されるCD16との相互作用
抗CD20 EMAB603抗体(I−3529の番号でCNCMに寄託されたR603によってつくられたもの)とEMAB6抗体(I−3314の番号でCNCMに寄託されたR603によってつくられたもの)のマクロファージCD16への結合をRituxan(リツキシマブの商品名)のそれと比較した。抗CD20 EMAB6及び抗CD20 EMAB603は特許出願WO2006/064121の特に26−33ページに記載されているプロセスでつくられた。これらの抗体をつくりだすクローンは寄託番号CNCM I−3314およびCNCM I−3529でそれぞれ寄託されている。
抗CD16抗体(生産クローン3G8)の変位アッセイは、モノクローナル抗体のCD16レセプタへの結合をそれら抗体の特異性とは関係なく測定するものである。
マクロファージを抗CD20抗体(EMAB6、EMAB603、あるいはリツキシマブ)の濃度を変えて(0−83μg/ml)、さらに蛍光色素(3G8−PE)と結合させた抗CD16 3G8は特定の濃度で培養した。
洗浄後、マクロファージのCDレセプタ上での抗体3G8−PEの結合をフローサイトメトリで測定した。CD16に結合する能力を有している抗体は3G8抗体の結合と競合するので、結果として、MFI(平均蛍光強度)を減少させる。それらの結果は、測定される抗体の量の関数としての蛍光平均値(MFI)として示される。
Imax値(3G8結合の最大抑止)とIC50値(Imaxの50%の3G8結合抑止を起こすのに必要な抗CD20抗体濃度)をPRISM統計分析ソフトウエアを用いて計算した。
結果:マクロファージCD16じょうでのEMABling R603及びEMAB6 抗体の相互作用はRituxanで得られたものよりずっと高かった。
従って、このアッセイは抗原性標的なしで行われたのであるから、本発明の抗抗CD20抗体はマクロファージCD16に強く結合する能力を有している。
【0020】
実施例4:抗D/赤血球Rh+/マクロファージADCC活性。IVIg多価(Tegeline(r)の役割
抗D抗体の細胞毒性能力をADCC技術で調べた。抗D抗体、マクロファージ(M−CSF内で分化した単球)及び赤毛猿D+赤血球(エフェクタ/ 標的比率:約2/1)をいろいろな濃度の多価免疫グロブリン(IVIg)(Tegeline(登録商標))の存在下で16時間、37℃の温度で培養した。これらの抗体によって誘発された細胞活性を溶解された赤血球によって放出されたヘモグロビンを上澄液内で定量し、比色分析で測定した。それぞれの細胞溶解の結果を溶解比率(%)で示した。
図2の結果は、マクロファージの存在下で、EMABling R297抗体は、IVIgが不在しない場合にADCCによる細胞溶解だけを誘発するAD1抗体とは反対に、かなりの濃度のIVIgの存在下で強力な残留ADCC活性を有していることを示している。
従って、多価免疫グロブリンが存在しない場合に、上記2つの抗D抗体、つまりEMABling R297をAD1は29%のADCC活性を有している。反対に、多価免疫グロブリンが5mg/mlの濃度の場合に、EMABling抗体は少なくとも20倍の活性を有している(AD1による1%と比較して23%)ようである。この利点は、多価免疫グロブリンがかなりの濃度で存在していること(25mg/ml)、そしてEMABling及びAD1抗体のそれぞれの細胞溶解の割合(パーセント)は16%と1%であることが理由である。
【0021】
実施例5:抗D/赤血球 Rh+/マクロファージ活性。多価免疫グロブリン(IVIg) (Tegeline(登録商標))の役割
実施例4に述べられているのと同じ手順で、抗CD20のADCC活性をRaji細胞とマクロファージ(M−CSFで分化された単球)の存在下で調べた。抗CD抗体(R603クローンあるいはTituxanでつくられたもの)をRaji細胞と種々の濃度の多価免疫グロブリン(IVIg)の存在下で培養した。37℃の温度で16時間培養した後、それらの抗体によって誘発されたADCC活性をRaji細胞によって放出された細胞内LDH(乳酸デシドロゲナーゼ)を上澄液内で定量して比色分析で測定した。結果は細胞溶解比率(パーセント)で示した。
これらの結果は、CD16を発現するマクロファージとTegeline(登録商標)の存在下でTituxanによって誘発されるものより少なくとも2倍のADCC活性を有していることを示している。このADCC活性は、抗CD16 3G8の抑止効果によって示されるようにマクロファージによって発現されるCD16に依存している。
【0022】
実施例6:抗D/ 赤血球Rh+/マクロファージADCC活性
IVIgの存在下でCD16の活性が強まる
抗CD16抗体である3G8を加えると、テストされた最大の濃度のIVIgの存在下でEMABling抗体によって誘発されるADCCが抑止され、このことは、誘発される細胞溶解がマクロファージ上で発現されるCD16に依存していることを示している(図3参照)。
【0023】
実施例7:IVIgの存在下でEMABling R297抗体によって誘発されるCD16+
マクロファージによる赤毛猿+赤血球のファゴサイトシス
CD16+マクロファージによる赤毛猿+赤血球のファゴサイトシスを誘発する抗D R297抗体の能力をフローサントメトリで調べた。抗D抗体であるPKH67(M−CFSで分化した単球)でラベルしたマクロファージとPKH26でラベルした赤毛猿D+赤血球(エフェクタ/標的比率:5/1)をいろいろの濃度の多価IVIg(Tegeline(登録商標))の存在下で4℃と37℃で3時間培養した。
結果:4℃では、マクロファージと赤血球がサイトメトリの異なったウィンドウに現れ、それぞれ特殊な傾向色素にラベルされていた。ファゴサイトシスの割合(パーセント)が非常に低く、IVIgが不在の場合は4%程度であったが、IVIgが存在している1−2%の範囲であった。4℃で得られたこれらの値から37℃でのファゴサイトシスの割合を推定した。
37℃では、PKH6とPKH26で二重にラベルされた割合が評価の対象となったR297 EMABling及びAD1の2つの抗体の場合、IVIgが存在しない場合は増大した。IVIgが存在している場合、EMABling抗体だけがRh+赤血球をファゴサイトシスするする能力を示し、AD1ではその傾向は認められなかった。従って、IVIgが0.1または2mg/ml存在していれば、ファゴサイトシスの割合は15−20%の範囲にとどまり、このことはIVIgを加えてもEMABling抗体によって誘発されるファゴサイトシスが抑止されないことを示している。
1mg/mlの濃度では、EMABLing抗体はAD1抗体より少なくとも5倍は強力である。2mg/ml以上の濃度では、ファゴサイトシスの割合はEMABlingの場合は16.9%で、AD1抗体の場合は有意でなかった(値0)。
【0024】
実施例8:IVIgの存在下でR603抗体によって誘発されるCD16+マクロファージによる赤毛猿+赤血球のファゴサイトシス
IVIgの存在下でのR603抗体によって誘発されるCD16マクロファージの存在下でのCD 20 Raji細胞のファゴサイトシスについても調べた。
CD16+マクロファージによるRaji細胞のファゴサイトシスを誘発する抗CD20抗体の能力をフローサイトメトリで調べた。抗CD20抗体、PKH67でラベルしたマクロファージ(分化した単球M−CSF)とPKH26でラベルしたRaji細胞(エフェクタ/標的比率、5/1、10/1及び20・)を、いろいろの濃度の多価IVIg (Tegeline(登録商標))の存在下で4℃と37℃で3時間培養した。
結果は、PKH6とPKH26で二重にラベルされた場合の割合と同じで、少なくとも1つのRaji細胞がファゴサイトシスされた。
結果:4℃では、マクロファージとRaji細胞がサイトメトリの異なったウィンドウに現れ、それぞれ特殊な傾向色素にラベルされていた。ファゴサイトシスの割合は非常に低く、IVIgが不在の場合と存在している場合に5%未満であった。4℃でのこれらの値は用いて、37℃でのファゴサイトシスの割合を推定した。
37℃では、PKH6とPKH26で二重にラベルされた割合が評価の対象となった抗CD20 R603とRituxanの2つの抗体の場合、IVIgが存在しない場合は増大した。
IVIっが存在していると、Rituxanと比較して、EMABling抗体の方はRaji細胞に対してより強い能力をしめし、Raji細胞をファゴサイトシスする能力は2倍、4倍、あるいは10倍も強かった。従って、IVIgが0.1あるいは2mg/ml存在していれば、ファゴサイトシスの割合はRituxanによって示される割合より常に高く、このことはIVIgの存在下で、EMABling 抗体がCD16+マクロファージの存在下でファゴサイトシスを誘発することを示している。
【産業上の利用可能性】
【0025】
この発明に係る部品キットは、各種分野で用いることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キットにおいて、その表面にFcγRIIIレセプタ(CD16)を発現するエフェクタ細胞とモノクローナル抗体とによって構成され、そのモノクローナル抗体のFc領域のCD16に対する親和性が前記ポリクローナル免疫グロブリンのCD16に対する親和性よりも大きいことを特徴とする悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キット。
【請求項2】
前記表面でFcγRIIIレセプタ(CD16)を発現する前記エフェクタ細胞がその表面にFcγRIIIレセプタ(CD16)を発現する単球あるいは単球前駆体誘導細胞であることを特徴とする請求項1に記載の悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キット。
【請求項3】
前記表面にFcγRIIIレセプタ(CD16)を発現する単球あるいは単球前駆体誘導細胞が、CD16を発現する単球、マクロファージ、天然キラー細胞(NK)、樹状細胞、及びすべての抹消血液単核細胞(PBMC)から選択されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キット。
【請求項4】
前記表面にFcγRIIIレセプタ(CD16)を発現する単球あるいは単球前駆体誘導細胞がマクロファージであることを特徴とする請求項3に記載の悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キット。
【請求項5】
前記モノクローナル抗体がそのモノクローナル抗体Fc領域のCD16に対する親和性の故に、ポリクローナル免疫グロブリン、特にヒト血清中に存在するもので置換されていないことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キット。
【請求項6】
前記モノクローナル抗体が2.10−1より大きな親和性で前記単球あるいは単球前駆体誘導細胞のCD16と結合していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キット。
【請求項7】
前記モノクローナル抗体がモノクローナル抗体組成物の形態でつくりだされ、各抗体がFcγグリコシル化サイト(Kabatによればアスパラギン297)で結合したN結合糖鎖を有しており、さらに、前記組成物のすべての抗体の前記グリコシル化サイトのN結合糖鎖の中で、フコースの比率が65%未満であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キット。
【請求項8】
前記モノクローナル抗体が、5C5抗原(腎臓癌の細胞によって発現された腫瘍抗原)、BCR(B細胞レセプタ)、抗FVIII抑制因子抗体などのイディオタイプ、TCR(T細胞レセプタ)、CD2、CD3、CD4、CD8、CD14、CD15、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD45、CD30、CD33、CD37、CD38、CD40、CD40L、CD46、CD52、CD54、CD66(a、b、c、d)、CD74、CD80、CD86、CD126、CD138、CD154、MUC1(ムチン1)、MUC2(ムチン2)、MUC3(ムチン3)、MUC4 (ムチン4)、MUC16(ムチン16)、HM1.24(複数の骨髄腫で過剰発現される形質細胞に対する特異性抗原)、テナスチン(細胞外基質の蛋白質)、GGT(ガンマ−グルタミルトランスペプチダーゼ)、VEGF(血管内皮成長因子)、EGFR(内皮成長因子レセプタ)、CEA(癌初期抗原)、CSAp(結腸固有抗原−p)、ILGF(インシュリン様成長因子)、胎盤成長因子、Her2/neu、カルボニックアンフドラーゼIX、IL−6、S100(カルシウムに結合する蛋白質のうちの変異原性ファミリー)、MART―1(黒色腫に関連した腫瘍性分化抗原)、TRP−1(トリプシナーゼ関連蛋白質1)、TRP−2(トリプシナーゼ関連蛋白質2)、gp100(糖蛋白質、100kDa)、アミロイド蛋白質、赤毛猿D抗原、HLA−DRなどのクラスI及びIIのMHC分子、突然変異された遺伝子、特に腫瘍遺伝子ありは腫瘍抑制遺伝子の発現で生じた抗原、ある種のよく定義された腫瘍により発現された腫瘍発生ウイルスから誘導された抗原、例えばミュラー型ホルモンのタイプIIレセプタなどの一部の腫瘍で過剰発現され一部の通常組織でもわずかに発現される遍在抗原、グリコシル化あるいは非グリコシル化蛋白質、リン脂質、ホスファチジルセリンなどの感染細胞により細胞膜で発現された又は露出された自己または非自己分子、そして、病原性因子で発現あるいは分泌された蛋白質(バクテリア毒素、バクテリアあるいは寄生壁などの蛋白質複合体、例えばHIVウイルス、HBV、HCV、及びRSVのウイルス性エンベロープ糖蛋白質)から選択される抗原に向けられたものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キット。
【請求項9】
前記モノクローナル抗体は、CD20に向けられたものであることを特徴とする請求項8に記載の悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キット。
【請求項10】
前記抗CD20抗体が寄託番号I−3314でCNCMに寄託された細胞株R509、あるいは寄託番号I−3529でCNCMに寄託された細胞株R603によってつくられたものであることを特徴とする請求項9に記載の悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キット。
【請求項11】
前記治療で、同時、連続的、あるいは個別に用いられることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キット。
【請求項12】
前記表面にCD16を発現する前記エフェクタ細胞がCD16と優先的に相互作用するその抗体の標的細胞に対する細胞毒性を有していることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キット。
【請求項13】
前記モノクローナル抗体がCD16を発現するエフェクタ細胞の存在下で、その抗体の前記標的細胞のADCC活性あるいはファゴサイトシスによって細胞毒性を誘発することを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キット。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項による悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キットと、薬学的に許容される賦形剤とを含むことを特徴とする医薬品組成物。
【請求項15】
医薬品を製造するための、請求項1〜13のいずれか1項による悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キットの使用。
【請求項16】
悪性病態を治療するための、薬品を製造するための、請求項1〜13のいずれか1項による悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キットの使用。
【請求項17】
固形腫瘍及び悪性血液疾患から選択される悪性病変を治療するための、請求項16に記載の悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キットの使用。
【請求項18】
前記固形腫瘍が、黒色腫、上皮性悪性腫瘍、肉腫、神経膠腫、及び皮膚癌から選択されることを特徴とする請求項17に記載の悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キットの使用。
【請求項19】
前記上皮性悪性腫瘍が、腎臓、乳房、口腔、肺、胃腸系、卵巣、前立腺、子宮、膀胱、膵臓、肝臓、胆嚢、皮膚、及び睾丸悪性腫瘍で構成される群から選択されることを特徴とする請求項18に記載の悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キットの使用。
【請求項20】
前記悪性血液疾患が、タイプB NHLによるリンパ球増殖性・骨髄増殖性・骨髄異形成症候群及び急性骨髄性白血病、急性及び慢性Bリンパ性白血病、バーキット・リンパ腫、毛根白血球白血病、急性及び慢性骨髄白血病、Tリンパ腫及び白血病、ホジキンス・リンパ腫、ワルデンストローム・マクログロブリン血症、及び多発性骨髄腫から選択されることを特徴とする請求項17に記載の悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キットの使用。
【請求項21】
自己免疫性疾患、及び/又は器官や全身組織に特異的で病原性自己抗体に関係しているか関係していない原始又は二次的感染性疾患の治療のための薬品を製造するための、請求項1〜13のいずれか1項に記載の悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キットの使用。
【請求項22】
臓器移植拒絶反応、対宿主性移植片反応疾患、リューマチ様多発性関節炎、播腫性紅斑芽腫症、皮膚硬化症、原始ショーグレン症候群(グージェロ−ショーグレン症候群)、多発性硬化症などの自己免疫性多発性神経障害、タイプI糖尿病、自己免疫性肝炎、強直性脊椎関節炎、ライター症候群、痛風性関節炎、セアリック病、クローン病、ハシモト甲状腺炎、アジソン病、自己免疫性肝炎、バセドウ氏病、潰瘍性結腸炎、ANCA(抗好中球細胞質抗体)に関連した全身性脈管炎などの脈管炎、急性あるいは慢性自己免疫性血小板減少症、自己免疫性溶血性貧血症、新生児溶血性貧血症(HDN)、寒冷凝集素疾患、血小板減少性血栓性紫斑、及び後天性自己免疫性血友病などの成人及び子どもにおける自己免疫性血球減少及びその他の血液合併症、グッドパスチュア症候群、細胞膜外腎症、自己免疫性水疱性皮膚不全、難治性筋無力症、混合クリオグロブリン血症、乾癬、若年性慢性関節炎、感染性筋炎、皮膚筋炎、及び抗リン脂質症候群を含む子どもにおける自己免疫性疾患から選択される臓器あるいは全身組織に特異性を示し、そして病原性自己抗体と関係しているか、あるいは関係していない自己免疫性疾患及び/又は原始的あるいは二次的感染性疾患を治療するために、請求項21に記載の悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キットの使用。
【請求項23】
感染性疾患を治療用薬品を製造するための、請求項1〜13のいずれか1項に記載の悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キットの使用。
【請求項24】
ウイルス(ヒト免疫不全ウイルスあるいはHIV、B型あるいはC型肝炎ウイルス(HBV、HCV)、エプスタイン・バール・ウイルスあるいはEBV、サイトメガロウイルスあるいはCMV、エンテロウイルス、インフルエンザ・ウイルスA、B及びCによるインフルエンザ、合胞体発刊性ウイルスあるいはSRV、あるいはHTLV)、バクテリア及び/又はそれらの毒素(破傷風、ジフテリア、肺炎球菌莢膜炎、髄膜炎菌、メチシリン抵抗性形態を含むブドウ球菌、クラブシエラ菌、赤痢菌、緑膿菌、腸内細菌あるいは院内感染疾患を含む抗生物質抵抗性病態)、寄生虫(マラリア、リシューマニア症、トリパノソーマ症)及び新しい疾病である、例えばチキングニア症、鳥インフルエンザ、重篤急性発汗性ウイルス症候群あるいはSARS、エボラあるいはデング熱または西ナイル・ウイルスなどの出血性熱に関与しているウイルス、そして、炭疽菌、ポツリヌス菌、ペスト、天然痘及びポックス・ウイルス、ツララエミア、出血熱薬剤、ブルセラ病、ブドウ球菌のB型エンテロトキシン、ジフテリア毒素、あるいはウイルス性脳炎などのバイオテロに関連したものによって誘発されるもので構成される群から選択される感染症を治療するための、請求項23に記載の悪性病態、自己免疫疾患、あるいは感染症を治療するための部品キットの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−525037(P2010−525037A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504791(P2010−504791)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【国際出願番号】PCT/FR2008/000598
【国際公開番号】WO2008/145866
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(508183139)エルエフビー バイオテクノロジース (7)
【Fターム(参考)】