説明

情報再生方法及び装置、並びに光ディスク装置

【課題】最短データ長付近に多発する再生波形に対して、最短データ長付近の局所的なエラーを低減し、高精度の情報再生を行う。
【解決手段】再生波形を処理する情報再生装置において、適応型フィルタ(4)とPRML回路(5)とを有し、ビタビ復号回路(6)で最尤推定された2値データを元に適応型フィルタの目標波形を生成するPRデコーダ(7)を設け、目標波形と再生波形との差分である誤差信号に対して、最短データ長付近(2T,3T)において、データ長の違いによる誤差信号の違いがより大きくなるように、調整を加える調整を行う調整器(12、14)を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適応型フィルタ、及び、PRML(Partial Response Maximum Likelihood)方式を用いて再生する情報再生方法及び装置、並びに情報再生装置を備えた光ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種光ディスクの大容量化は、ディスクのトラック上に書かれる情報の記録マークの大きさを小さくするとともに、記録や再生に用いるレーザ光の短波長化および開口数が大きい対物レンズの採用により、焦点面での集光スポットサイズを小さくすることによって達成してきた。
【0003】
例えば、CD(コンパクトディスク)では、光透過層(情報記録層の上に設けられる透明保護層およびスペース層。透明基板とも言う)となるディスク基板の厚さが約1.2mm、レーザ光波長が約780nm、対物レンズの開口数が0.45であり、650MBの記録容量であった。このとき、データ(ピット)の解像度は回折限界の制限を受けるが、この回折限界はレーザ光波長λと開口数NAを用いてλ/(4×NA)で与えられ、上記CDの場合、回折限界は約430nmと計算できる。これに対し、最短データ長(最短ピット長)は約830nmであり、集光スポットに対する大きさは約1.93倍となる。
【0004】
DVD(デジタル多用途ディスク)では、光透過層の厚さが約0.6mm、レーザ光波長が約650nm、NAが0.6であり、4.7GBの記録容量となっている。回折限界は、CDの場合と同様に計算され、約270nmとなる。これに対し、最短データ長は約400nmであり、集光スポットに対する大きさは約1.48倍となる。
【0005】
さらに高密度のBD(ブルーレイディスク)では、光透過層の厚さを0.1mmにした光ディスクを用いて、レーザ光波長を約405nm、NAを0.85とすることで1層あたり25GBの大容量化を実現している。回折限界は、約120nmと計算できる。これに対し、最短データ長は約150nmであり、集光スポットに対する大きさは約1.25倍となる。
【0006】
以上より、集光スポットを小さくすることによる大容量化とは別に、集光スポットに対する最短データ長の大きさも約1.93から約1.25倍へと小さくしてきており、このことも大容量化に繋がっている。これは、信号処理技術の進化によるものであり、読み出された再生信号に要求されるSNR(Signal to Noise Ratio)を下げることが出来たためである。
【0007】
このように、光ディスクの大容量化には信号処理技術の改良を伴っており、中でも、光ディスクの再生波形が既知のパーシャルレスポンス(Partial Response)特性を有することとして、これにビタビ復号方式による最尤推定法を組み合わせたPRML方式が開発されており、この技術が大きなエラーレート改善に寄与している(例えば特許文献1)。
【0008】
具体的には、例えばBDの場合、一般的にパーシャルレスポンスのクラスを(1,2,2,1)としたPRMLが用いられている。(1,2,2,1)は、記録された2値データに対する光学的応答(符号間干渉)を7階調(振幅値)で表現するもので、実際の再生波形に近い表現が可能である。これに最尤推定法(ビタビ復号方式)を用いて再生波形に近い理想的な光学的応答を導くことで、記録された2値データが推定される。
【0009】
また、信号処理の寄与が大きい例として、DVDと同じ光学系でPRMLにより大容量化を実現したHD DVDがある。このHD DVDは、最短データ長が約200nmであり、回折限界の約270nmより小さいため最短データは読み取れない。そこで、パーシャルレスポンスのクラスを(1,2,2,2,1)にすることにより解決している。このクラスは、最短データが再生波形に出ないような光学的応答を9階調(振幅値)で表現するものである。
【0010】
以上のように、今後も光ディスクの大容量化が進む中、回折限界に制約されてしまう解像度の物理的な改良は段々と困難になってきており、信号処理の担う役割が大きくなっている。特に、用いるレーザ光波長をBDの405nmより短波長化するのは、光学素子の劣化を招く上に身体への悪影響が懸念されているため、実用化は考えられてない。そのため、今後はBDまでの流れから変わり、近接場光を用いる方法や、多層化、ホログラフィを用いた方向に動いている。それと同時に、再生波形のアシンメトリが悪化したり、最短データ長付近の信号強度が低下したりと、より再生信号の品質は劣化し、更なる信号処理技術の改良が必要となっている。
【0011】
一例として、適応型PRMLというものがある(例えば特許文献2参照)。これは、パーシャルレスポンスの各振幅値の値を再生波形に適応させるという方法で、特にアシンメトリの大きい再生波形に効果がある。具体的には、パーシャルレスポンスの各振幅値に毎に、再生波形において各振幅値に相当する点の分布の中心値を導き、その中心値を新しくパーシャルレスポンスの各振幅値の値とするものである。
【0012】
また、上記とは別の方法として、適応型フィルタのタップ係数更新ステップを適応型とし、更にマークとスペースとを分離して学習させるものがある(例えば特許文献3参照)。これは、アシンメトリの大きい再生波形に対して、適応型フィルタの収束特性や収束状態の安定性を高める効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−93033号公報
【特許文献2】特開平10−261273号公報
【特許文献3】特開2007−73099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、上記解決手段では、最短データ長付近の信号強度低下に対して対応しきれない問題がある。具体的には、特許文献2の方法を用いた場合、ビタビ復号方式において、取り得るパスのパスメトリック(ユークリッド距離の和)を比較して最尤であるパスを推定するが、この方法はパスメトリックを全体的に減少させるだけであり、各々のパスメトリックの差を考えた場合、大きくも小さくもならず、どのパスが最尤であるかの判定に影響しない。一方、特許文献3の方法を用いた場合、適応型フィルタの収束特性や収束状態の安定性を高められる分、最尤推定の判定は安定することになるが、最短データ長付近の信号強度低下によるエラーを低減する効果はない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明に係る情報再生方法は、
記録媒体からの再生信号に対してPRML方式により2値化データを生成する情報再生方法において、
PRML方式により生成された2値化データからパーシャルレスポンス波形を出力するステップと、
前記パーシャルレスポンス波形を目標波形として前記再生信号に対して適応的にフィルタ処理を施すステップと、
前記目標波形と前記適応型フィルタ処理によってフィルタリングされた波形との差分を誤差信号として前記適応型フィルタ処理にフィードバックするとき、データ長の違いに応じて前記誤差信号を調整する調整ステップとを備える
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、少ない演算量(回路規模)で、最短データ長付近の局所的なエラーを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1の光ディスク装置の全体構成を示す図である。
【図2】情報再生装置の構成を示す概略図である。
【図3】PRML回路における再生信号の誤判定を示す説明図である。
【図4】PRML回路における誤判定を示す説明図である。
【図5】実施の形態1における情報再生装置の構成例を示す概略図である。
【図6】実施の形態1における目標波形を示す説明図である。
【図7】実施の形態1における情報再生装置の効果を示す概略図である。
【図8】実施の形態1における情報再生装置の他の構成例を示す概略図である。
【図9】本発明の実施の形態2における情報再生装置の構成例を示す概略図である。
【図10】本発明の実施の形態2における情報再生装置の効果を示す概略図である。
【図11】実施の形態2における情報再生装置の他の構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における光ディスク装置の全体構成を示す図である。なお、図1における矢印は、代表的な信号や情報の流れを示すものであり、光ディスク装置50を構成する各ブロックの接続関係のすべてを表すものではない。
【0019】
図1において、光ディスク装置50は、光ディスク40を回転駆動するためのスピンドルモータ51、光ディスク40にレーザ光を照射し、光ディスク40の情報記録層で反射された戻り光ビームを受光して信号を出力する光ヘッド装置52、光ヘッド装置52を光ディスク40の半径方向に駆動するためのスレッドモータ53、レーザ制御回路54、サーボ制御回路55、再生信号処理回路56、変調回路64、RAM(Random Access Memory)80、及びMPU(Micro Processing Unit)81を備えている。
【0020】
サーボ制御回路55は、スピンドルモータ51をコントロールするスピンドルモータ制御回路63、スレッドモータ53をコントロールするスレッドモータ制御回路62、及び光ヘッド装置52をコントロールする光ヘッド制御回路61を備え、それぞれMPU81から発せられる命令により動作を行なう。
【0021】
再生信号処理回路56は、光ヘッド装置52で検出され、伝送路L3を介して送られた信号にもとづいて、サーボ信号を生成するサーボ信号検出回路59、再生信号を検出して伝送路L1に出力信号として出力する再生信号検出回路58、および光ディスク40の蛇行した案内トラック溝からの反射光で得られるウォブル信号を検出するウォブル信号検出回路57がある。
【0022】
MPU81は、再生信号検出回路58で検出された信号振幅値データや状態信号などの伝送路L1の出力信号、あるいは他の各部からの出力信号にもとづいて光ディスク装置全体の動作を決定し、各部へ制御データ(例えば、MPU81から再生信号検出回路58への伝送路L2の信号)を送って、それらの制御を行う。
【0023】
なお、再生信号処理回路56の構成要素のうち一部分がMPU81の内部でソフトウエアにより処理される構成であってもよい。
【0024】
RAM80は、プログラム領域およびデータ領域で構成されている。MPU81は、RAM80に記録されているプログラムに従って、各部の動作を制御するとともに、各部から送られてくる信号から制御の判断を行なう。
【0025】
光ヘッド制御回路61は、サーボ信号検出回路59から送られるサーボエラー信号やMPU81からの動作命令を元に、制御信号を伝送路L4経由で光ヘッド装置52に出力し、光ヘッド装置52から光ディスク40上へ照射される光の制御を行なう。
【0026】
スレッドモータ制御回路62およびスピンドルモータ制御回路63は、サーボエラー信号やMPU81からの動作命令を元に、スレッドモータ51およびスピンドルモータ53の制御を行なう。
【0027】
再生信号検出回路58の出力信号(再生信号)は伝送路L1を通じて情報再生装置60で2値化データに復調される。
【0028】
MPU81から出力されたデータの一部は、変調回路64で光ディスク40への記録に適した記録信号に変換され、レーザ制御回路54へ送られる。この記録信号に基づいてレーザ制御回路54から伝送路L5を介して光ヘッド装置52に制御信号が送られ、光ヘッド装置52に搭載されている半導体レーザの発光パワーが制御される。
【0029】
光ヘッド装置52は、光ディスク40に半導体レーザによる光ビームを集光するとともに、光ディスク40の情報記録層で反射した戻り光ビームを受光し、再生信号やサーボ信号を生成するための信号を検出する。
【0030】
図2は、情報再生装置60の一般的な構成例を示す図である。上述したように、再生信号検出回路58から伝送路L1を通じて入力される再生信号を2値化するブロックである。
【0031】
入力された再生信号は、A/D変換器1によってデジタル値に変換される。このとき、PLL(Phase−Lock Loop)回路8によって、再生信号に同期したクロックを生成し、これを、A/D変換器1を含む情報再生装置60全体のクロックとして用いる。例えば信号の変調方式が1−7RLL(Run Length Limit)変調の場合、前記クロックの1周期の長さをTとして、再生信号は2T(最短データ長)から8Tの長さを含んでおり、再生信号のゼロクロスする点とクロックの立ち上がり、或いは、立下りの点が一致するようにPLL回路8は働く。以下では、この1−7RLL変調を用いる場合について説明する。
【0032】
デジタル化された再生信号は、デジタルアンプ2によって所望の振幅レベルに調整される。このとき、このアンプ2をAGC(Auto Gain Control)回路とし、振幅レベルが一定の値となるよう自動的に調整する構成とすれば、光ディスクの反射光変動等に伴う振幅レベルの変動を、以降の回路で無視することができる。
【0033】
所望の振幅レベルに揃えられた再生波形は、プリイコライザ回路3により、主に最短データ長周辺の高域成分を増幅する。光のMTF(Modulation Transfer Function)特性上、最短データ長周辺の高域成分が極端に小さくなりやすいため、このプリイコライザ回路3によりある程度増幅させると後段のフィルタでの処理が容易になる。
【0034】
適応型フィルタ回路4は、後段のPRML回路5と組み合わせて用いられ、PRML回路5によって推定された理想的な再生波形を目標波形とし、フィルタ処理をする部分である。例えば、代表的な適応型アルゴリズムにLMS(Least Mean Square)アルゴリズムがある。これは、時刻nにおける入力信号のデータをx(n)、フィルタのタップkでの係数をw(n)、フィルタの係数の更新ステップをμとして、係数更新は、
(n+1)=w(n)+2・μ・e(n)・x(n) ・・・(1)
で表される。このときe(n)は誤差信号であり、フィルタ後の再生波形のデータ列をy(n)、目標波形のデータ列をd(n)として、
e(n)=d(n)−y(n) ・・・(2)
で表される。誤差信号e(n)は、PRML回路5から出力される目標波形のデータ列y(n)と適応型フィルタ4から出力される再生波形のデータ列y(n)とを入力とする減算器9により求められる。式(1)及び(2)は、時刻nにおける瞬時自乗誤差e(n)を最小とするアルゴリズムから導かれたものであり、この瞬時自乗誤差が時間的に平均化されるため、LMS(最小平均自乗)と呼ばれる。
【0035】
このLMSアルゴリズムのほかにも、正規化LMSアルゴリズム、RMS(Recursive Least Square)アルゴリズム、射影アルゴリズムなどを用いても良い。以下では単純且つ演算量の少ないLMSアルゴリズムを用いた例で説明する。
【0036】
以上述べたように、適応型フィルタ回路4では、数学的に誤差信号を最小にする働きをするのみである。それに対し、後段のPRML回路5での復号しやすさは別に存在し、再生信号波形が劣化してきたとき、特に短いT周辺でのエラーが多発してしまう問題が生じる。以下では例として、パーシャルレスポンスのクラスを(1,2,2,1)とした場合を説明する。
【0037】
PRML回路5は、ビタビ復号回路6とPRデコーダ7とで構成されており、ビタビ復号回路6では、最尤推定と2値化処理が行われる。また、PRデコーダ7では、2値化されたデータを適応型フィルタ回路4の目標波形として復号する処理が行われる。図3に、ビタビ復号回路6での誤判定の例を示す。このとき、図中の再生波形RSはフィルタ後の波形である。図中の推定波形ESが、PRML回路5における推定処理を経た波形に相当する。すなわち、ビタビ復号回路6が最も正しいと推定した波形であり、その2値データ列は(1,1,0,0,1,1,1)ある。それに対し、光ディスクに書き込まれた2値データから復号したものが理想波形TSであり、ビタビ復号回路6が最も正確にエラーなしで処理できる理想的な波形に相当し、その2値データ列は(1,1,0,0,0,1,1)である。すなわち、3Tである部分を2Tと誤判定している。
【0038】
また、理想波形TSは、ビタビ復号回路6が2番目に正しいと推定した波形に等しい。図において、誤った3Tの部分であるA,B,Cの3点に注目すると、A点では理想波形TSが再生波形RSに近く、B,C点では推定波形ESも理想波形TSも再生波形RSとの差が同程度であり、合計の誤差は推定波形ESより理想波形TSのほうが近く見える。しかし、ビタビ復号においては、ある一定の長さを考慮して最尤パスを見つけるため、前後の誤差分も考慮されてしまう。すなわち、3Tに隣接しているのは3T(図中左側)と4T(図中右側)であるが、これらの誤差も積算され、最終的に推定波形ESが最尤として選択されている。
【0039】
以上のように短いTでエラーが多発してしまうのは、1−7RLL変調の制限より1Tは存在し得ず、2Tは3Tと誤判定されるケースが多いためである。その一例を図4に示す。基準波形Scに対し、3Tが2T或いは4Tと誤判定されたケースとして、Sa,Sb,Sd,Seの4つの波形を図示している。このように、波形Sb以外の波形は隣接する長いTのエッジがシフトしているのが分かる。このエッジシフトは、いわゆるジッタそのものであり、一般的に長いTの方がジッタ値は小さく、すなわち長いTのエッジシフト量は小さい。逆に、ここではTが短くなるほどエッジシフトが増加する波形を考える。このことより、長いTのエッジがシフトしている波形Sa、Sd、Seに誤判定されることは少なく、2Tと3Tを混同している波形Sbに誤判定されることが多いと考えられる。
【0040】
以上より、2Tと3Tの誤判定を避けることが、1−7RLL変調、及び、パーシャルレスポンスのクラスが(1,2,2,1)のPRMLを用いたシステムにおいて、復号を容易にすると考えられる。
【0041】
ここでは、1−7RLL変調を一例として挙げたが、DVDで用いられているEFM(Eight−to−Fourteen Modulation)変調においても同様の考え方である。この場合、2T以下が存在しないため、3Tと4Tの誤判定が支配的となり、3Tと4Tの誤判定を避けるようにすればよい。
【0042】
また、パーシャルレスポンスのクラスも(1,2,2,1)だけに限らず、例えば(1,2,2,2,1)等でも同様の考え方である。
【0043】
次に、2Tと3Tの誤判定を避けるための手段について説明する。単純には2T成分を抑え、3T成分を強調するイコライズ機能を持たせればよく、例えば、プリイコライザ3の直後に調整器(イコライザ)を挿入することが考えられる。しかし、後段の適応型フィルタ4は、挿入した調整器(イコライザ)によるイコライズ効果を打ち消す方向に働くため、そのイコライズ効果は薄くなってしまう。
【0044】
そこで、本実施の形態においては図5に示すように、PRデコーダ7の出力を調整するための、演算器で構成された調整器12を設ける。これは、PRデコーダ7から出力される目標信号をイコライズすることで適応型フィルタ4のフィルタ係数を変化させ、再生波形に対して間接的にイコライズ効果を与えるものである。
【0045】
具体的には、例えばパーシャルレスポンスのクラスが(1,2,2,1)の場合、図4に示したように、2Tが取り得る振幅値は0,−1,+1の3点であるのに対し、3Tが取り得る振幅値は0,−2,+2の3点である。そこで、この差を利用し、調整器12にて、−1,+1に相当する目標信号の点をより小さい値とし、−2,+2に相当する目標信号の点をより大きい値とすることで、2Tを抑えて3Tを強調するイコライズ機能が期待できる。
【0046】
例えば、図6に示すように、−1,+1に相当する目標信号の点をそれぞれ+0.5,−0.5し、−2,+2に相当する目標信号の点をそれぞれ+0.5,−0.5すれば、2Tは抑えられ、3Tが強調された目標信号となる。このときの効果を図7に示す。図は、適応型フィルタ後の再生波形の各振幅値における分散を示しており、調整器12によるイコライズ処理によって−1,+1の2点と−2,+2の2点との振幅差が広がっていることが分かる。また、それぞれの振幅値において、分散のピークが調整器12によるイコライズ処理前より高くなっており、分散が小さくなっているのも分かる。
【0047】
上記の例では、−1,+1,−2,+2の計4点の値を変化させたが、−1,+1の2点のみ変化させ(より小さな値とし)ても良く、−2,+2の2点のみ変化させ(より大きな値とし)ても良く、或いは、−1,+1,−2,+2,−3,+3の6点を変化させても良く、結果的に2Tと3Tが離れるような、即ちデータ長の違いによる誤差信号の値の違いがより大きくなるような演算処理を加えれば良い。
【0048】
また、一例としてパーシャルレスポンスのクラスが(1,2,2,1)の場合を示したが、これに限定されず、例えば(1,2,2,2,1)等でも同様の効果が得られる。
【0049】
また、図5に示す例では単純に振幅値の値を変化させたが、図4に示したように、−2,+2の2点は4T以上が取り得る振幅値の点でもある。従って、−2,+2の値を変化させた場合4T以上も影響を受けてしまう。これに対し、より純粋に3Tを強調するためには、3Tであると判断された場合にのみ前記−2,+2の値を変化させると良い。具体的には、図8に示す構成とし、ビタビ復号回路6によって推定された2値化データ列を用いてデータ長を判定するデータ長判定回路13を設け、データ長判定回路13にて3Tと判定された場合のみ、調整器12にて目標信号に対して上記したのと同様の演算処理を行えば良い。
【0050】
なお、図5や図8に示すように、PRML回路5から出力された目標信号に対して上記の加減算処理を行なう代わりに、PRML回路5内で、目標信号を発生する際に、上記の加減算に相当する処理を行なうこととしても良い。後者の場合、例えばPRML回路5内にPRデコーダの出力を入力とする変換テーブルを用いることが考えられる。
【0051】
上記の情報再生装置及び該装置で実施される情報再生方法によれば、最短データ長付近の局所的なエラー低減効果がある。
【0052】
また、上記のイコライズ機能の実現には、負荷としては、PRデコーダ7から出力される値を変えるだけでよいため、調整器12を追加したことによる演算増加量、或いは回路規模増加量は殆んど無くて済み、上記で説明した情報再生方法の効果が得られる。
【0053】
また、この情報再生装置を備えた光ディスク装置においても、上記で説明した情報再生方法の効果が得られる。
【0054】
実施の形態2.
次に実施の形態2の情報再生装置及び該装置を用いて実施の形態される情報再生方法について説明する。図9に本発明の実施の形態2の情報再生装置を示す。図示の情報再生装置は、実施の形態1に関して図5を参照して説明した情報再生装置と概して同じであるが、以下の点で異なる。実施の形態2の情報再生装置は、実施の形態1と同様に光ディスク装置の一部として利用されるものである。
【0055】
実施の形態2の情報再生装置は、適応型フィルタ4にフィードバックされる誤差信号を調整器14を用いてイコライズすることで適応型フィルタ4のフィルタ係数を変化させ、再生波形に対して間接的にイコライズ効果を与えるものである。
【0056】
実施の形態1で示したように、短いT周辺のエラーが多発する原因として、短いTのジッタ値は一般的に長いTでのジッタ値より悪い点が上げられる。逆に、ここではTが短くなるほどジッタ値が悪化する波形を考える。また、実施の形態1で示したように、ビタビ復号においては、長いTを判定するのは容易であるのに対し、短いTを判定するのは比較的困難である。
【0057】
従って、適応型フィルタ4がTの長さに依存せず誤差信号が収束値に安定するよう適応化処理を行うのに対し、データ長が3Tの場合における誤差信号をより大きくし、データ長が2Tの場合における誤差信号をより小さくして、適応型フィルタに与える。
【0058】
具体的には、例えばパーシャルレスポンスのクラスが(1,2,2,1)の場合、図4に示したように、データ長が比較的短い場合(2Tの場合)に、パーシャルレスポンス波形に現れる振幅値は0,−1,+1の3点であるのに対し、データ長が比較手的長い場合(3Tの場合)にパーシャルレスポンス波形に現れる振幅値は0,−2,+2の3点である。そこで、この差を利用し、調整器14において、−1,+1の2点での誤差信号を抑え、−2,+2の2点での誤差信号を強調することにより、2Tを抑えて3Tを強調するイコライズ機能が期待できる。
【0059】
誤差信号を抑える(誤差信号をより小さくする)方法としては、1より小さい係数を掛けることが考えられ、誤差信号を強調する(誤差信号をより大きくする)方法としては、1より大きい係数を掛けることが考えられる。
例えば、−1,+1の点での誤差信号を1/2倍に、−2,+2の点での誤差信号を2倍にしたときの効果を図10に示す。図は、適応型フィルタ後の再生波形の各振幅値における分散を示しており、前記イコライズ処理によって、特に3Tに関わる−2,+2の点での分散が小さくなっていることが分かる。
【0060】
上記の例では、−1,+1,−2,+2の計4点に相当する値を変化させたが、−1,+1の2点のみ、或いは、−1,+1,−2,+2,−3,+3の6点に相当する値を変化させても良く、結果的に2Tと3Tが離れるような演算処理を加えれば良い。
【0061】
また、一例としてパーシャルレスポンスのクラスが(1,2,2,1)の場合を示したが、これに限定されず、例えば(1,2,2,2,1)等でも同様の効果が得られる。
【0062】
また、ここでは単純に−1,+1,−2,+2の4点での誤差信号を変化させたが、図4に示したように、−2,+2の2点は4T以上が取り得る振幅値の点でもある。従って、−2,+2での誤差信号を変化させた場合4T以上も影響を受けてしまう。これに対し、より純粋に3Tを強調するためには、3Tであると判断された場合にのみ前記−2,+2での誤差信号を変化させると良い。具体的には、ビタビ復号回路6に図11に示すように、図8に示したのと同様に、ビタビ復号回路6によって推定された2値化データ列を用いてデータ長を判定するデータ長判定回路13を設け、データ長判定回路13において3Tと推定された場合のみ調整器14で誤差信号を2倍にして出力することとしても良い。
【0063】
上記の情報再生装置及び該装置で実施される情報再生方法によれば、最短データ長付近の局所的なエラー低減効果がある。
【0064】
また、上記のイコライズ機能の実現には、負荷としては、減算器9から出力される誤差信号に固定値を乗算するだけでよく、特に2の倍数としてビットシフトで済ませる形態をとれば、調整器14を追加したことによる演算増加量、或いは回路規模増加量は殆んど無くて済み、上記で説明した情報再生方法の効果が得られる。
【0065】
以上実施の形態1及び2において、データ長が2Tの場合と3Tの場合に、誤差信号の値の違いがより大きくなるような調整を行うものとして説明したが、最短データ長が3Tの場合には、3Tと4Tの違いによる誤差信号の値の違いがより大きくなるように調整を行えば良い。一般化して言えば、データ長が最短データ長付近(即ち、最短データ長及びそれに近いデータ長を含む範囲内)において、データ長の違いによる誤差信号の違いがより大きくなるように調整を行えば良い。
【0066】
また、光ディスクに欠陥があった場合、局所的に再生波形が大きく乱れ、これにより誤差信号も局所的に乱れるため、適応型フィルタを不安定にさせる問題がある。上記のイコライズ処理を用いることで、この問題にも対処でき、データ長が最長データ長付近である場合にも誤差信号をより大きくすることで適応型フィルタの不安定化抑制効果が得られる。
【0067】
これらを総合的にいえば、本発明の特徴はデータ長に応じて、誤差信号の大きさを調整することにある。
【0068】
以上に述べた本発明の実施の形態1及び実施の形態2によれば、演算負荷或いは回路規模を大幅に増大させることなく、最短データ長付近の局所的なエラー低減することができるという効果がある。
【符号の説明】
【0069】
4 適応型フィルタ、 5 PRML回路、 6 ビタビ復号回路、 7 PRデコーダ回路、 9 減算器、 12 調整器、 13 データ長判定回路、 14 調整器、 40 光ディスク、 50 光ディスク装置、 60 情報再生装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体からの再生信号に対してPRML方式により2値化データを生成する情報再生方法において、
PRML方式により生成された2値化データからパーシャルレスポンス波形を出力するステップと、
前記パーシャルレスポンス波形を目標波形として前記再生信号に対して適応的にフィルタ処理を施すステップと、
前記目標波形と前記適応型フィルタ処理によってフィルタリングされた波形との差分を誤差信号として前記適応型フィルタ処理にフィードバックするとき、データ長の違いに応じて前記誤差信号を調整する調整ステップとを備える
ことを特徴とする情報再生方法。
【請求項2】
前記調整ステップにおいて、データ長が最短データ長付近において、データ長の違いによる前記誤差信号の違いをより大きくするように調整を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の情報再生方法。
【請求項3】
前記2値化データ列を用いて前記データ長を判定するデータ長判定ステップをさらに有し、
前記データ長判定ステップが、データ長が最短データ長付近のものであると判定したときに、前記調整ステップが前記誤差信号の違いをより大きくする調整を行う
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の情報再生方法。
【請求項4】
前記調整ステップは、
前記パーシャルレスポンス波形における第1の特定の振幅値を有するデータの絶対値から第1の固定値を減算した値を絶対値とし、調整前のデータ値と同じ符号を有するデータ値を調整後のデータとすることで、前記誤差信号をより小さくする
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の情報再生方法。
【請求項5】
前記調整ステップは、
前記パーシャルレスポンス波形における第2の特定の振幅値を有するデータの絶対値に第2の固定値を加算した値を絶対値とし、調整前のデータ値と同じ符号を有するデータ値を調整後のデータとすることで、前記誤差信号をより大きくする
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の情報再生方法。
【請求項6】
前記調整ステップは、前記パーシャルレスポンス波形において前記第1の特定の振幅値が現れたときの前記誤差信号に、1よりも小さい第1の固定係数を乗算することで、前記誤差信号をより小さくする
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の情報再生方法。
【請求項7】
前記調整ステップは、前記パーシャルレスポンス波形において前記第2の特定の振幅値が現れたときの前記誤差信号に、1よりも大きい第2の固定係数を乗算することで、前記誤差信号をより大きくする
ことを特徴とする請求項1から3及び6のいずれか1項に記載の情報再生方法。
【請求項8】
前記第1の特定の振幅値が、前記データ長が、最も短いものであるときに前記パーシャルレスポンス波形に現れる振幅値である
ことを特徴とする請求項4又は6に記載の情報再生方法。
【請求項9】
前記第2の特定の振幅値が、前記データ長が、2番目に短いものであるときに前記パーシャルレスポンス波形に現れる振幅値である
ことを特徴とする請求項5又は7に記載の情報再生方法。
【請求項10】
記録媒体からの再生信号に対してPRML方式により2値化データを生成する情報再生装置において、
PRML方式により生成された2値化データからパーシャルレスポンス波形を出力するパーシャルレスポンスデコーダと、
前記パーシャルレスポンス波形を目標波形として前記再生信号に対して適応的にフィルタ処理を施す適応型フィルタと、
前記目標波形と前記適応型フィルタによってフィルタリングされた波形との差分を誤差信号として前記適応型フィルタにフィードバックするとき、データ長の違いに応じて前記誤差信号を調整する調整手段とを備える
ことを特徴とする情報再生装置。
【請求項11】
前記調整手段は、データ長が最短データ長付近において、データ長の違いによる、前記誤差信号の違いがより大きくなるように、調整を行う
ことを特徴とする請求項10に記載の情報再生装置。
【請求項12】
前記2値化データ列を用いて前記データ長を判定するデータ長判定回路をさらに有し、
前記データ長判定回路が、データ長が最短データ長付近のものであると判定したときに、前記調整手段が前記誤差信号の違いをより大きくする調整を行う
ことを特徴とする請求項10又は11に記載の情報再生装置。
【請求項13】
前記調整手段は、
前記パーシャルレスポンス波形における第1の特定の振幅値を有するデータの絶対値から第1の固定値を減算した値を絶対値とし、調整前のデータ値と同じ符号を有するデータ値を調整後のデータとすることで、前記誤差信号をより小さくする
ことを特徴とする請求項10から12のいずれか1項に記載の情報再生装置。
【請求項14】
前記調整手段は、
前記パーシャルレスポンス波形における第2の特定の振幅値を有するデータの絶対値に第2の固定値を加算した値を絶対値とし、調整前のデータ値と同じ符号を有するデータ値を調整後のデータとすることで、前記誤差信号をより大きくする
ことを特徴とする請求項10から13のいずれか1項に記載の情報再生装置。
【請求項15】
前記調整手段は、前記パーシャルレスポンス波形において前記第1の特定の振幅値が現れたときの前記誤差信号に、1よりも小さい第1の固定係数を乗算することで、前記誤差信号をより小さくする
ことを特徴とする請求項10から12のいずれか1項に記載の情報再生装置。
【請求項16】
前記調整手段は、前記パーシャルレスポンス波形において前記第2の特定の振幅値が現れたときの前記誤差信号に、1よりも大きい第2の固定係数を乗算することで、前記誤差信号をより大きくする
ことを特徴とする請求項10から12及び15のいずれか1項に記載の情報再生装置。
【請求項17】
前記第1の特定の振幅値が、前記データ長が、最も短いものであるときに前記パーシャルレスポンス波形に現れる振幅値である
ことを特徴とする請求項13又は15に記載の情報再生装置。
【請求項18】
前記第2の特定の振幅値が、前記データ長が、2番目に短いものであるときに前記パーシャルレスポンス波形に現れる振幅値である
ことを特徴とする請求項14又は16に記載の情報再生装置。
【請求項19】
請求項10から18のいずれか1項に記載の情報再生装置を備えたことを特徴とする光ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−170930(P2011−170930A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35407(P2010−35407)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】