説明

情報再生装置及び方法

【課題】複数ビットで構成される情報を1度の光照射、光検出で同時に再生することが可能な情報再生装置及び方法を提供する。
【解決手段】ナノメータサイズの複数の微粒子が互いに近接配置された媒体2、或いはナノメータサイズのピッチで形状又は物性に改変が施された媒体2に対して光を照射する光プローブ13と、少なくとも光が照射された領域を含むように検出領域を設定し、当該検出領域における媒体2からの戻り光を検出する光検出器14と、検出した戻り光のスペクトルを所定の波長間隔毎に切り出し、切り出したスペクトルの強度分布に基づいて二値化したデジタルデータを波長間隔毎に生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒体上に記録された情報を再生するための情報再生装置及び方法に関し、特に媒体上に形成された微粒子に基づいてデジタルデータを再生する情報再生装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、光メモリは超大容量情報通信技術において重要な役割を果たしてきている。特に近年において、光メモリは、1Tbps/inchを越える超高密度化も期待されている。
【0003】
これらの超高密度化された光メモリには、例えば行と列のような番地で区切られた光記録媒体上に1又は0のデジタルデータが記録ビットを介して記録され、情報を読み出す際には、かかる光記録媒体上の記録ビットの番地を指定することによりこれを再生する。実際にこの番地を指定する際には、その番地に対応する記録ビットに対して照射する光のスポットを絞り込み、光記録媒体からの反射光を検出し、これを光電変換することにより情報を読み出すことになる。この番地に対応する記録ビットには、1ビットの情報が格納されていることから、上述した光を利用した1記録ビットの読み取り動作で、1ビットの情報しか再生することができない。
【0004】
コンパクトディスク(CD)等の光記録媒体の場合には、物理的には行列構造を採用せず、同心円状に記録ビットを形成させた構成を採用するものの論理的構造は同様なものとなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の光記録媒体では、あくまで情報を再生するときには、光スポットを1の記録ビットに絞込み、そこから1ビットの情報を得ることを前提としているため、複数ビットの情報を得るためには、集光すべき光スポットを順次他の記録ビットへとシフトさせる必要がある。このため、複数ビットの情報を読み出すための時間が長期化し、また読み出し効率も低くなるという問題点があった。このため、例えば映像や画像等の大容量データを再生する際においてこの読み出し効率の改善要請はますます高まっていた。
【0006】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、複数ビットで構成される情報を1度の光照射、光検出で同時に再生することが可能な情報再生装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る情報再生装置は、上述した課題を解決するために、媒体上に記録された情報を再生するための情報再生装置において、ナノメータサイズの複数の微粒子が互いに近接配置された上記媒体、或いはナノメータサイズのピッチで形状又は物性に改変が施された上記媒体に対して光を照射する光照射手段と、少なくとも上記光照射手段により光が照射された領域を含むように検出領域を設定し、当該検出領域における上記媒体からの戻り光を検出する光検出手段と、上記検出手段により検出された戻り光のスペクトルを所定の波長間隔毎に切り出し、上記切り出したスペクトルの強度分布に基づいて二値化したデジタルデータを上記波長間隔毎に生成するデータ再生手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る情報再生方法は、上述した課題を解決するために、媒体上に記録された情報を再生するための情報再生方法において、ナノメータサイズの微粒子が形成された上記媒体、或いはナノメータサイズのピッチで形状又は物性に改変が施された上記媒体に対して光を照射する光照射ステップと、少なくとも上記光照射ステップにおいて光を照射した領域を含むように検出領域を設定し、当該検出領域における上記媒体からの戻り光を検出する光検出ステップと、上記検出ステップにおいて検出した戻り光のスペクトルを所定の波長間隔毎に切り出し、上記切り出したスペクトルの強度分布に基づいて二値化したデジタルデータを上記波長間隔毎に生成するデータ再生ステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上述した構成からなる本発明では、戻り光のスペクトルを所定の波長間隔毎に切り出し、切り出したスペクトルの強度分布に基づいて二値化したデジタルデータを波長間隔毎に生成する。これにより、得られるデジタルデータを複数ビットで構成することができ、しかも1回の光の照射と、1回の戻り光の読み取り動作で実現することができる。このため、複数ビットの情報を読み出すための時間を短縮化させることができ、また読み出し効率も向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
本発明は、例えば図1(a)に示すような情報再生装置1として適用される。この情報再生装置1は、例えば媒体2に記録された情報を再生するものであって、光を出射する光源11と、光源11から出射された光の光路中に配された偏光ビームスプリッタ12と、偏光ビームスプリッタ12を透過した光の光路中に配された1/4波長板18と、1/4波長板18を通過した光を集光して媒体2における記録面2aへ照射する光プローブ13と、媒体2における記録面2aからの戻り光を検出する光検出器14と、この光検出器14に接続される再生部24とを備えている。
【0012】
光源11は、図示しない電源装置を介して受給した駆動電源に基づき光を発振する。また、偏光ビームスプリッタ12は、光源11から出射された光を透過させて、記録面2aへ導くとともに、記録面2aからの戻り光を反射させて光検出器14へ導く。この偏光ビームスプリッタ12を透過した光は、1/4波長板18へ入射される。ちなみに、この偏光ビームスプリッタ12の代替として、通常のビームスプリッタを用いてもよい。
【0013】
1/4波長板18は、通過する光にπ/2の位相差を与えるものである。光源11から出射された直線偏光の光は、1/4波長板18を通過して円偏光となり、そのまま光プローブのコア31へ入射される。また記録面2aを反射して戻ってくる円偏光の光は、この1/4波長板18を通過した場合に、光源11から出射された光の偏光方向と異なる直線偏光となるため、上述した偏光ビームスプリッタ12を反射することになる。
【0014】
光プローブ13は、光導波部21と、突出部22とを備えている。光導波部21は、コア31の周囲にクラッド32が設けられた光ファイバより構成される。コア31及びクラッド32は、それぞれSiO系ガラスからなり、F、GeO、B等を添加することにより、コア31よりもクラッド32の屈折率が低くなるように組織制御されている。
【0015】
突出部22は、光導波部21の一端においてクラッド32から突出させたコア20aより構成されている。この突出させたコア20aは、図1(a)に示すように先端部53に至るまで徐々に先細になるような勾配が設けられて構成される。この突出させたコア20aの中心部には、図1(b)の拡大図に示すように出射開口Dが設けられている。出射開口Dの直径tは、伝搬モード、透過屈折率、光効率、更には媒体2の特性等に基づいて決定される。なお、本発明において使用するこの光プローブ13は、コア20が先鋭化されていることは必須とならず、先端が扁平化されていてもよい。
【0016】
また、この光プローブ13は、コア31を伝搬する光(以下、伝搬光という)を出射開口Dを介して出射する。この出射された伝搬光は、先端部53から記録面2aまでの距離hが、光源から出射される光の波長λ/4より大きい場合において、記録面2a上に照射されることになる。この伝搬光を利用して記録面2a上の情報を読み取るようにしてもよい。
【0017】
また光プローブ13において、出射開口Dの端面からエバネッセント波としての近接場光が滲み出す。この滲み出した近接場光は、距離hが、光源から出射される光の波長λ/4以下にある場合において、この記録面2a上に照射されることになる。この近接場光を利用して記録面2a上の情報を読み取るようにしてもよい。
【0018】
光検出器14は、記録面2aからの戻り光を受光して光電変換し、これを光再生部24へと出力する。
【0019】
光再生部24は、検出された戻り光のスペクトルを所定の波長間隔毎に切り出す切り出し部26と、上記切り出したスペクトルの強度分布に基づいて二値化する二値化処理部27とを備えている。
【0020】
次に媒体2の構成について説明をする。図2(a)は、媒体2の断面構成を示している。媒体2は、基板41と、この基板41上に形成されたバッファ層42と、バッファ層42上に形成されたGaAs層43と、GaAs層43内に形成された複数の量子ドット46とを備えている。
【0021】
基板41は、例えば半絶縁性のGaAs(001)基板を適用する。バッファ層42としては、メサ加工基板としての基板41上にGaAsを成長させることにより生成され、例えば150nmもの厚みを有する。GaAs層43は、バッファ層42上に積層させることにより構成され、例えば100nmの厚みを有する。
【0022】
量子ドット46は、半導体微細加工技術を用いることにより、光励起担体に三次元的な量子閉じ込めを与えるほど微細なポテンシャルの箱を形成したものである。量子ドット46は、この光励起担体の閉じ込め系を利用し、量子ドット内のキャリアのエネルギー準位を離散化させることができ、状態密度をデルタ関数的に尖鋭化させることができる。
【0023】
量子ドット46は、CuCl、GaN又はZnO等の材料系からなり、各量子ドット46を構成する材料系がCuClである場合に、これらは立方体として構成され、また各量子ドット46を構成する材料系がGaNやZnOである場合に、これらは球形或いは円盤形として構成される。この各量子ドット46の辺長や径は、それぞれ4nm〜10nm程度で構成することも可能となり、光の波長λと比較してより小さいサイズで基板上に形成させることも可能となる。
【0024】
図2(b)は、媒体2の表面の1μm四方まで拡大した状態を示している。媒体2の表面には、量子ドット46が不規則的に、又は規則的に配列されている。
【0025】
なお、媒体2に形成される量子ドット46の代替として、直径1μm以下のナノメータサイズの半導体微粒子、金属性微粒子、磁性体微粒子で構成されていてもよい。金属性微粒子は、例えば、Au等の微粒子で構成されている。更には、これに限らずナノメータサイズの複数のあらゆる微粒子が互いに近接配置されていればよく、光の回折限界以下の間隔で上記媒体1上に形成されていてもよい。
【0026】
また、媒体2は、これらナノメータサイズの微粒子の代替として、ナノメータサイズのピッチで形状又は物性に改変が施されたもので構成されていてもよい。例えば、微細な凹凸を形成させることによりその形状が、又は屈折率を互いに異ならせる等の処理を加えることによりその物性が改変されていてもよい。また、凹凸を施すことに加えて、単に凸部のみ又は凹部のみを設けることにより形状に改変が施されていてもよい。
【0027】
次に、上述の如き構成からなる情報再生装置1の動作について説明をする。情報再生装置1において、光源11から出射された直線偏光成分を有する波長λの光は、偏光ビームスプリッタ12を透過し、1/4波長板18により偏光成分を制御された上で、光プローブ13へ入射される。光プローブ13に入射された光は、そのままコア31内を伝搬する。
【0028】
プローブ制御部15は、例えば図3(a)に示すように、上記距離hが波長1/4λ以下となる領域(以下、近接場領域という)に光プローブ13を近接方向に移動させる。その結果、出射開口Dの端面から滲み出した近接場光は、記録面2a上に照射され、近接場光による微小なスポットが形成されることになる。また、このプローブ制御部15は、光プローブ13をxy平面上で(水平方向に)移動させることにより、光プローブ13による検出領域を切り替えることも可能となる。
【0029】
一方、プローブ制御部15は、例えば図3(b)に示すように、上記距離hが波長1/4λより大きくなるように光プローブ13を離間方向に移動させる。これによりコア内を伝搬する伝搬光がそのまま出射されて記録面2a上へ照射され、伝搬光による大きなスポットが形成されることになる。以下の例では、近接場光を照射する場合を例にとり説明をする。
【0030】
ちなみに、この記録面2aを反射した近接場光はそれぞれ出射開口Dを介して再び光プローブ13へ入射し、コア31内を伝搬する。そしてこのコア31を出射した伝搬光又は近接場光は、偏光ビームスプリッタ12により反射されて光検出器14へ導かれる。光検出器14へ導かれた光は、それぞれ電気的な信号に変換されることになる。
【0031】
図4(a)は、この光検出器14により光電変換される戻り光のスペクトルを示している。この図4(a)の例は、出射開口Dを230nmとし、図5に示す領域Aに近接場光によるスポットを絞り、当該領域Aからの戻り光を検出したときにおける波長900〜1050nmの範囲におけるスペクトル分布である。
【0032】
このような広帯域に亘るスペクトルが形成される理由は、光を照射された量子ドット46による光学応答に起因するものである。量子ドット46に対して光を照射すると、量子ドット46はその材質やサイズに応じてこれを吸収し、また互いに共鳴しあう量子ドット間でエネルギーの授受を行い、更には共鳴順位から下位順位へと光を放出する。このときの放出光の波長は、量子ドット46の形状やサイズ、隣接する量子ドット46との大小関係や共鳴関係、更にはその距離に依存する。また、この放出光の波長は、量子ドット46の配置にも依存し、或いは媒体2上へ照射する光の波長、強度、モード、照射方向の何れか1以上にも依存する。これらの量子ドット間の相互作用の影響は、各量子ドット46に対してそれぞれ個別に及ぶことになることから、各量子ドット46から放出される光の波長は、同一の場合もあれば異なる場合もあるが、全体としてみたときには、図4(a)に示すような広帯域に亘るスペクトルとして現れる。仮にこの照射する波長が単一波長で構成されていても、その戻り光のスペクトル分布は広帯域に亘るものとなる。
【0033】
ちなみに、この領域Aに複数の量子ドット46が含まれるように、量子ドット46の配置とスポット径が調整されている必要がある。その理由として、量子ドット46間において相互作用を起こさせて、上述した広帯域に亘るスペクトルを形成させる必要があるところ、複数の量子ドットを一検出単位に含める必要があるためである。
【0034】
光再生部24における切り出し部26は、この検出された戻り光のスペクトルを所定の波長間隔毎に切り出す。切り出し部26は、波長間隔約4nmで33個の区間に分割して切り出すが、これに限定されるものではなく、いかなる波長間隔でいかなる区間数で分割するようにしてもよい。
【0035】
図4(b)は、この波長間隔約4nmで切り出した1の区間の拡大図である。二値化処理部27は、この波長間隔約4nmで切り出した1の区間のスペクトルの強度分布を積分する。そして二値化処理部27は、得られた積分値と、予め定めた閾値とを比較する。その結果、積分値が閾値を超える場合には、“1”、積分値が閾値以下の場合には“0”とすることで、これを二値化する。なお、この二値化処理部27は、上述したようなスペクトル強度の積分値に基づいて二値化する場合に限定されるものではなく、スペクトルの強度分布に基づくものであれば他のいかなる手法を用いて二値化するようにしてもよい。
【0036】
このようにして、切り出した各区間について、スペクトル強度に基づいて二値化することにより、分割した全33区間においてそれぞれ、“1”又は“0”のデジタルデータが生成されることになる。分割した33区間をそれぞれビットに割り当てたとき、全部で33ビットのデジタルデータを生成することが可能となる。
【0037】
ここで、図4(a)に示すように、波長900〜1050nmの範囲において、短波長から長波長にかけて、順にbit1、bit2、bit3、・・・、bit33と割り当てを行ったとき、33ビットのデジタルデータは、図6に示すように、33桁の“1”又は“0”からなるビット列で表すことが可能となる。
【0038】
ここまでの33ビットのデジタルデータの取得は、情報再生装置1による1回の光の照射と、1回の戻り光の読み取り動作で実現することができる。このため、本発明を適用した情報再生装置1による情報再生方法では、複数ビットの情報を得るためには、集光すべき光スポットを順次他の記録ビットへとシフトさせる従来の方法と比較して、複数ビットの情報を読み出すための時間を短縮化させることができ、また読み出し効率も向上させることが可能となる。このため、特に映像や画像等の大容量データを再生する際において本発明は特に優位性を発揮することが可能となる。
【0039】
なお図4(a)に示すスペクトルは、領域Aに対して光の照射、検出を行った場合における特有の傾向である。即ち、媒体2における領域Aに対して、本発明を適用した情報再生装置1を用いて光の照射、検出を行うことで、常に同一のスペクトルを得ることが可能となり、同一のデジタルデータのビット列を得ることが可能となる。このためデータの再現性を確保することが可能となる。
【0040】
次に、情報再生装置1は、図5に示す領域Bに近接場光によるスポットを絞り、当該領域Bからの戻り光を検出したものとする。実際には、プローブ制御部15による制御の下、光プローブ13を水平方向へ移動させることにより、検出領域の切り替えを行う。
【0041】
この領域Bからの戻り光のスペクトルは、領域Aからの戻り光のスペクトルとは異なるものとなる。その理由として、領域Aと領域Bとでは、その検出対象としての量子ドット46群が互いに異なり、量子ドット46群が異なれば、放出される光のスペクトルも当然に異なるためである。
【0042】
領域Bからの戻り光のスペクトルについても同様に、所定の波長間隔毎に切り出し、上記切り出したスペクトルの強度分布に基づいて二値化したデジタルデータを波長間隔毎に生成する。これにより、領域Bからの戻り光に基づいて生成したデジタルデータは、領域Aからの戻り光に基づいて生成したデジタルデータとの間で、上述したスペクトルの違いに基づいた差異を出すことが可能となる。ちなみに、この領域Bから得られるデジタルデータも同様に複数ビットで構成することができ、しかも情報再生装置1による1回の光の照射と、1回の戻り光の読み取り動作で実現することができる。このため、複数ビットの情報を読み出すための時間を短縮化させることができ、また読み出し効率も向上させることが可能となる。
【0043】
なお、この検出領域は、図5の領域Cのように他の領域Aと重なり合う部分が存在していてもよい。仮に重なる領域にある量子ドット46からは同一の光学応答が現われてきても、その他の非重複領域における量子ドット46からの光学応答が異なれば、領域Cから得られるスペクトルは、領域Aのスペクトルと異なり、独自のデジタルデータを生成することが可能となるためである。
【0044】
また、上述した例では、あくまで33ビットからなるデジタルデータを生成する場合について例を挙げて説明をしたが、これに限定されるものではない。例えば、切り出し部26において切り出すべき波長間隔を変えることにより、デジタルデータのビット数を増減させてもよいことは勿論である。また、単一ビットのデジタルデータを生成する装置として実現化されていてもよい。かかる場合には、照射すべき光の波長、強度、モード、照射方向の何れか1以上を切り替えれば、同一の検出領域であっても得られる光学応答は異なる。これを利用して二値化処理部27における閾値を予め設定しておくことにより、ある光の波長が照射された場合には、デジタルデータ“1”が、またある光の波長が照射された場合には、デジタルデータ“0”が再生される装置として実現することも可能となる。
【実施例1】
【0045】
以下、本発明を適用した情報再生装置1による再生時において、記録面2a上に形成されるスポット径と、得られるデジタル信号の多様性の関係を調査した結果について説明をする。
【0046】
ここで、図7に示すように、量子ドット46が1010個/cmの割合で形成されてなる記録面2a上に、非常に小さい径からなるスポットGの光を照射する場合を考える。この場合、スポットGに含まれる量子ドット46は1個又は0個である。記録面2a上に形成されている量子ドット46の空間密度が低く、任意の量子ドット46の間隔が離れている場合には、かかるスポットGに含まれる量子ドット46の個数が0となる可能性が高い。スポットGに含まれる量子ドット46の個数が0となる場合、再生される信号が存在しないことになることは言うまでもない。
【0047】
次に、記録面2a上に形成された、非常に大きい径からなるスポットHを考える。この場合、スポットHに含まれる量子ドット46は多数である。スポットHの位置を変化させても、量子ドット46からの光学応答は、平均的にはほぼ一定であると考えられる。
【0048】
次に、スポットGとスポットHの中間のサイズからなるスポットIは、量子ドット46が複数個含まれる。しかし、このスポットIの位置を水平方向にシフトさせると、量子ドット46からの光学応答は、これに含まれる量子ドット46の数や配置による影響を大きく受けることになる。
【0049】
即ち、この量子ドット46からの光学応答は、量子ドット46の数や配置による影響を受けるが、これらは記録面2aに形成されるスポットの径に依存する。
【0050】
これら光学応答特性のスポット径依存性を実証するために、光プローブ13の出射開口Dを50、80、230、480nmと異ならせて、それぞれの光学応答特性を調査した。
【0051】
かかる調査では、再生部24において検出した戻り光のうち、波長900〜1050nmの範囲に注目し、この区間を波長約4nmで33個の区間に分割する。そして、それぞれの区間における光強度の積分値の総和に基づいて、二値化処理部27において分光データを二値化し、33ビットのデジタルデータを取得する。
【0052】
この操作を上記出射開口D(=50、80、230、480nm)についてそれぞれ実行していくことになるが、このとき出射開口D毎に検出位置を25箇所に亘ってシフトさせる。ここで出射開口径φで得られる33ビットのデータをベクトル

である。図8(a)は、出射開口径Dが50nmである場合のデジタルデータを、また、図8(b)は、出射開口径Dが230nmである場合のデジタルデータを示す。それぞれ25箇所に亘って異ならせた検出位置をx、x、・・・x25としたとき、各検出位置毎に33ビットのデジタルデータが生成されることになる。各検出位置におけるデジタルデータは、図6に示すように33桁のビット番号を横軸に、また縦軸を1又は0としている。
【0053】
図8(a)に示すように、出射開口径Dが50nmである場合のデジタルデータは、全ビットが0であるデジタルデータが複数に亘って得られていることが分かる。これは、出射開口径Dが小さいため、かかる照射した光スポットに含まれる量子ドット46の個数が0となる可能性が高くなるためである。これに対して、図8(b)に示すように、出射開口径Dが230nmである場合のデジタルデータは、各検出位置間において異なるものとなる。換言すれば、出射開口径Dが230nmである場合のデジタルデータは、出射開口径Dが50nmである場合と比較して、多様性を持たせることが可能となる。
【0054】
即ち、出射開口径Dを適当な寸法とすることにより、再生される信号の種類が増加し、得られるデジタルデータの多様性を高めることが可能となる。かかる点について、固有値分解を用いた解析により説明をする。
【0055】

【0056】

【0057】

【0058】
ここで共分散行列の固有分解により信号の多様性を評価することができる。
【0059】
図9(a)は、開口径Dが80nm、230nm、480nmに関する共分散行列の固有値を最大から順に6個示している。横軸の1が最大固有値であり、横軸の番号nは、n番目に大きい固有値(第n固有値)を示している。縦軸は、最大固有値を1としたときの第n固有値の相対的な値(相対固有値という。)を示している。
【0060】
開口径Dが80nm、480nmの場合には、最大固有値に対して2番目に大きな固有値(第2固有値)が一気に減少し、約30%もの減少幅を示すことが分かる。これは、開口径Dが80nm、480nmに対して再生されるデータは、最大固有値に対応した固有ベクトルで代表されることを示している。これに対して、開口径Dが230nmの場合には第2固有値は最大固有値に対して急速には減少しない。即ち、開口径Dが230nmの場合に再生されるデータは、最大固有値に対応した固有ベクトルのみで代表させることはできず、第2固有値に対応した固有ベクトルも不可欠であることを示している。開口径Dが230nmの場合に得られるデジタルデータは、開口径Dが80nm、480nmの場合に得られるデータよりも、多様性が大きいことが分かる。
【0061】
図9(b)は、それぞれの開口径において得られるデジタルデータ“1”からなるビットの総和の分布を示している。横軸はデジタルデータ“1”からなるビットの総和を、縦軸は度数を示している。開口径Dが50nmにおいては、信号強度が、また開口径Dが480nmにおいては、信号頻度が、それぞれ向上している。即ち、開口径Dが大きすぎる場合、並びに小さすぎる場合には、デジタル信号の出現の仕方に偏りが生じることが分かる。
【0062】
上述した図9(a)、(b)の結果から、開口径Dを230nm程度に設定したときに、得られるデジタルデータに多様性を持たせることができ、高効率な再生を実現することができることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明を適用した情報再生装置の構成図である。
【図2】本発明を適用した情報再生装置により再生可能な媒体について説明するための図である。
【図3】本発明を適用した情報再生装置による情報再生方法について説明するための図である。
【図4】光検出器により光電変換される戻り光のスペクトルを示す図である。
【図5】本発明を適用した情報再生装置により形成される近接場光のスポットの例を示す図である。
【図6】生成したデジタルデータのビット列の例を示す図である。
【図7】本発明を適用した情報再生装置により形成される近接場光のスポットの例を示す他の図である。
【図8】(a)は、出射開口径Dが50nmである場合のデジタルデータを、また(b)は、出射開口径Dが230nmである場合のデジタルデータを示す図である。
【図9】共分散行列の固有分解により信号の多様性を評価した結果について説明するための図である。
【符号の説明】
【0064】
1 情報再生装置
2 媒体
11 光源
12 偏光ビームスプリッタ
13 光プローブ
14 光検出器
18 1/4波長板
21 光導波部
22 突出部
24 光再生部
26 切り出し部
27 二値化処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体上に記録された情報を再生するための情報再生装置において、
ナノメータサイズの複数の微粒子が互いに近接配置された上記媒体、或いはナノメータサイズのピッチで形状又は物性に改変が施された上記媒体に対して光を照射する光照射手段と、
少なくとも上記光照射手段により光が照射された領域を含むように検出領域を設定し、当該検出領域における上記媒体からの戻り光を検出する光検出手段と、
上記検出手段により検出された戻り光のスペクトルを所定の波長間隔毎に切り出し、上記切り出したスペクトルの強度分布に基づいて二値化したデジタルデータを上記波長間隔毎に生成するデータ再生手段とを備えること
を特徴とする情報再生装置。
【請求項2】
上記光検出手段を水平方向に移動させることにより、上記検出領域を切り替える移動手段を更に備えること
を特徴とする請求項1記載の情報再生装置。
【請求項3】
上記光照射手段は、半導体微粒子、金属性微粒子、磁性体微粒子、量子ドットの何れかで構成される上記微粒子が形成された上記媒体に対して光を照射すること
を特徴とする請求項1又は2記載の情報再生装置。
【請求項4】
上記光照射手段は、上記照射すべき光の波長、強度、モード、照射方向の何れか1以上を制御すること
を特徴とする請求項1〜3のうち何れか1項記載の情報再生装置。
【請求項5】
上記光照射手段により制御された光に基づいて、上記媒体上に近接配置された微粒子間で励起子を移動させることにより上記戻り光のスペクトルの差異を発現させること
を特徴とする請求項4記載の情報再生装置。
【請求項6】
上記光照射手段並びに上記光検出手段は、コアを有する光ファイバの表面において上記コアの中心部に出射開口が設けられるように遮光性被覆層が形成されてなる互いに同一の光プローブにより構成され、上記出射開口から近接場光を滲出させること
を特徴とする請求項1〜5のうち何れか1項記載の情報再生装置。
【請求項7】
媒体上に記録された情報を再生するための情報再生方法において、
ナノメータサイズの微粒子が形成された上記媒体、或いはナノメータサイズのピッチで形状又は物性に改変が施された上記媒体に対して光を照射する光照射ステップと、
少なくとも上記光照射ステップにおいて光を照射した領域を含むように検出領域を設定し、当該検出領域における上記媒体からの戻り光を検出する光検出ステップと、
上記検出ステップにおいて検出した戻り光のスペクトルを所定の波長間隔毎に切り出し、上記切り出したスペクトルの強度分布に基づいて二値化したデジタルデータを上記波長間隔毎に生成するデータ再生ステップとを有すること
を特徴とする情報再生方法。
【請求項8】
上記光検出ステップでは、上記検出領域を順次切り替えること
を特徴とする請求項7記載の情報再生方法。
【請求項9】
上記光照射ステップでは、半導体微粒子、金属性微粒子、磁性体微粒子、量子ドットの何れかで構成される上記微粒子が形成された上記媒体に対して光を照射すること
を特徴とする請求項7又は8記載の情報再生方法。
【請求項10】
上記光照射ステップでは、上記照射すべき光の波長、強度、モード、照射方向の何れか1以上を制御すること
を特徴とする請求項7〜9のうち何れか1項記載の情報再生方法。
【請求項11】
上記光照射ステップにおいて制御された光に基づいて、上記媒体上に近接配置された微粒子間で励起子を移動させることにより上記戻り光のスペクトルの差異を発現させること
を特徴とする請求項10記載の情報再生方法。
【請求項12】
上記光照射ステップでは、コアを有する光ファイバの表面において上記コアの中心部に出射開口が設けられるように遮光性被覆層が形成されてなる光プローブの上記出射開口から近接場光を滲出させること
を特徴とする請求項7〜11のうち何れか1項記載の情報再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−170008(P2009−170008A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4528(P2008−4528)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構低損失オプティカル新機能部材技術開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173636)財団法人光産業技術振興協会 (19)
【Fターム(参考)】