説明

情報担持カード

【課題】偽造されにくい情報担持カードを提供する。
【解決手段】赤外領域の励起光によって励起されて赤外領域の蛍光を発する蛍光材料を用いて形成された蛍光部3を、前記励起光および蛍光を透過させる材料からなるカード基材2の内部に設け、前記励起光および蛍光は透過させるが可視光は透過させないか又は透過させてもその透過量が極めて少ない材料からなる隠蔽層21・22で蛍光部3を覆う構成とする。これにより、カード基材2の内部の蛍光部3を視認することはできないが、専用の読み取り装置を使用すれば読み取ることができるようにし、しかも蛍光部3を形成している蛍光材料の採取も困難なカード構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばクレジットカード、キャッシュカード、プリペイドカード、IDカード等の各種カード、すなわち個人情報等のデータが書き込まれる情報担持カードの偽造防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のカードの偽造や変造を防止するために種々の技術が提案されている。例えば、特許文献1では、カード本体の少なくとも一方の面に、特定の波長光が照射されることによって発光し可視化する蛍光体でカードを識別するためのパターンを塗布したカードが提案されている。これによれば、磁気的または電気的に記録されたデータをカードに複写したとしても、蛍光体の発光パターンが確認されない限りは有効なカードと判定されないので、蛍光体が塗布されていない通常の情報担持カードに比べるとカードの偽造が困難になる。
【0003】
また、特許文献2では、基板と、この基板の表面に所定の赤外蛍光体(入射された第1赤外線により励起されて第2の赤外線を出力する、いわゆる赤外励起・赤外発光型の蛍光体)を用いて形成された情報層と、この表面側に積層された保護シート(上保護体)と、基板の裏面側に積層された保護シート(下保護体)とからなる積層構造のカードが提案されている。これによれば、情報層の形成された基板が、これを挟む上下の保護体により隠蔽されるので、第三者は、このカードの情報層を見ることができない。また、例えば赤外線を吸収する性質をもった特殊塗料を用いて暗号コードを記録したカードでは、特殊塗料ではなく黒インクで暗号コードの部分を書くことによって特殊塗料を用いた場合と同様に当該黒インク部分で赤外線が吸収される結果、正当なカードとして読み取られてしまうが、特許文献2記載のカードによれば、前記情報層を黒インクを用いて形成したとしても、第1の赤外線を照射したときに当該黒インクからは第2の赤外線が出力されないので、そのような黒インクを使用したカードは真正なカードではないと判定される。したがって、本来の特殊塗料ではなく黒インクを用いて暗号コード部分を印刷記録することよるカードの偽造を防止することができる。
【0004】
【特許文献1】特開2002−19345号公報
【特許文献2】特開2003−191670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載のカードでは、使用する蛍光材料が特定の波長光の照射により発光し可視化することから、どの部分にどのようなパターンで蛍光材料が存在しているのか知られやすい。また、蛍光材料がカード本体の少なくとも一方の面に塗布されているため、真のカードから当該蛍光材料を採取し、その採取した蛍光材料を使用して偽造カードが作製されるおそれがある。
【0006】
この点、特許文献2記載のカードでは、基板の表面に所定の蛍光材料を用いて形成された情報層が保護層によりラミネートされて外観上は見えないようになっているため、通常は情報層の存在を知ることはできない。しかし、このカードにおける保護層は接着剤により接着されている構造であるため、各種溶剤などを使えば表層の保護層のみを分離させることも可能である。したがって、この場合も、表層の保護層を分離してしまいさえすれば、蛍光材料の採取やその印刷パターンの読み取り等により偽造カードを作製することは比較的容易である。加えて、特許文献2記載のカードでは、蛍光材料に対する励起光が照射されるカード面とその発光を読み取るカード面とが同一面か反対面かにより、カード基材を赤外透過型か赤外反射型に変更する必要があり不便である。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、偽造防止のために付与された蛍光材料の印刷パターン等が第三者によって読み取られにくく、真のカードから偽造カードへの材料転用が困難であり、しかも蛍光材料に対する励起光が照射されるカード面に対して、その同一面および反体面のいずれからも読み取りが可能な情報担持カードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の情報担持カードは、赤外領域の励起光によって励起されて赤外領域の蛍光を発する蛍光材料を用いて形成された蛍光部を、前記励起光および蛍光を透過させる材料からなるカード基材の内部に設け、前記励起光および蛍光は透過させるが可視光は透過させないか又は透過させてもその透過量が極めて少ない材料からなる隠蔽層で前記蛍光部を覆うことで、外観上は蛍光部が目視不能または目視困難となる構成としたものである。
【0009】
本発明では、カード基材の内部に蛍光部を設けるために、例えば、少なくとも2層のカード基材形成用の基材層を積層・接合することによってカード基材を形成し、そのうちの少なくとも一つの基材層の接合面に前記蛍光部を印刷等によって予め形成しておくといった手段を採用することができる。
【0010】
蛍光部を隠蔽する隠蔽層は、これをカード基材自体で形成することができる。この場合は、用いられる蛍光材料の励起光および蛍光は透過させるが可視光は透過させないか又は透過させてもその透過量が極めて少ない材料でカード基材を形成する。このようなカード基材の内部に蛍光部を設ければ、カード基材は可視光を透過させないか又は透過させてもその透過量が極めて少ないので、カード基材内部の蛍光部を隠蔽して外観上は蛍光部を目視不能または目視困難とすることができる。
【0011】
隠蔽層は、蛍光部の表面側を隠蔽する第1隠蔽層と、蛍光部の裏面側を隠蔽する第2隠蔽層の少なくとも2層で構成することができる。そして、このうちの第1隠蔽層が、カード基材における基材層(カード基材の表面側を構成している基材層)、カード基材の表面側に印刷又は塗布によって形成された印刷層又は塗布層、カード基材の表面側に積層された薄膜シート状のラミネート層のうちの少なくとも一層からなる構成とすることができる。また、第2隠蔽層についても、カード基材における基材層(カード基材の裏面側を構成している基材層)、カード基材の裏面側に印刷又は塗布によって形成された印刷層又は塗布層、カード基材の裏面側に積層された薄膜シート状のラミネート層のうちの少なくとも一層からなる構成とすることができる。隠蔽層を、カード基材ではなく前記印刷層(塗布層)やラミネート層で構成する場合には、カード基材は、蛍光部に使用されている蛍光材料の励起光および蛍光を透過させるものであれば良く、可視光に対する透過性は問わない。すなわち、この場合のカード基材は、可視光を透過させる透明あるいは半透明等の材料で形成してもよいし、より隠蔽性を高めるために可視光を透過させない不透明な材料や可視光の透過量が極めて少ない不透明に近い材料で形成してもよい。
【0012】
蛍光部は、材料コストなどを考慮して一種類の蛍光材料により形成してもよいが、さらに偽造の困難性を高めるために、励起光または蛍光のうちの少なくとも一方の光の波長が互いに異なる2種以上の蛍光材料を用いて比較的複雑なパターンとなるように印刷等の手段で形成することもできる。
【0013】
なお、本発明の情報担持カードにおいて、蛍光部を形成する材料として、赤外領域の励起光によって励起されて赤外領域の蛍光を発する蛍光材料(いわゆる赤外励起・赤外発光型の蛍光材料)を使用したのは、一般に赤外線は、この種のカードに使用される材料に対する光透過性が良いことから、励起光を照射した際に当該光が蛍光材料に到達しやすく、また励起により蛍光材料から発せられる蛍光も検出しやすいことによる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の情報担持カードでは、所定の蛍光材料を用いて形成された蛍光部がカード基材の内部に設けられているため、蛍光材料の採取や取り出しは不可能であるか若しくは極めて困難である。したがって、真正なカードからこれに使用されている蛍光材料を不正に採取し、この採取した蛍光材料を別のカードに転用して偽造カードを作製する、といった不正な行為を未然に防止することができる。
【0015】
また、本発明の情報担持カードによれば、カード基材の内部に設けられた蛍光部は、可視光を透過させないか又はその透過量が極めて少ない材料からなる隠蔽層としてのカード基材自体、あるいはカード基材の表面および裏面に例えば印刷や塗布等の方法で形成された隠蔽層によって隠蔽されるので、外部から目視によってその存在や印刷パターンを知られることがない。しかも、蛍光部に用いられている蛍光材料は、その励起光および蛍光(発光)の波長が赤外領域にあるため、専用の特殊な読み取り装置を用いない限り発光を確認することもできない。
【0016】
こうして、本発明によれば、偽造防止のために付与された蛍光材料の印刷等によるパターンが第三者によって読み取られにくく、真のカードから偽造カードへの材料転用が困難な偽造防止性の高い情報担持カードを実現することができる。
【0017】
加えて、本発明の情報担持カードでは、カード基材が、これの内部に設けられた蛍光部に対する励起光および励起時に当該蛍光部から発せられる蛍光を透過させる材料で構成されていることにより、蛍光部に対する励起光が照射されるカード面に対して、その同一面および反体面のいずれからも蛍光部からの蛍光(発光)を読み取ることができる。
【0018】
本発明の情報担持カードにおいて、励起光および/または蛍光の波長が互いに異なる2種以上の蛍光材料を用いて所定のパターンで蛍光部を印刷形成した場合には、単なる蛍光材料の有無のみならず、前記所定のパターンの有無や当該パターンと予め読み取り装置等に登録されたパターンとの一致・不一致等を真贋判定に利用することが可能となるので、より偽造防止性の高い情報担持カードを実現できる。その場合、励起光の照射により各蛍光材料からそれぞれ発せられる波長の異なる蛍光を読み分けて真贋判定を行なうようにすれば、偽造防止性をさらに高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本発明の情報担持カードの一構成例を模式的に示す断面図である。同図に示すように、この情報担持カード1は、カード基材2と、このカード基材2の内部に設けられた蛍光部3と、カード基材2の表面に形成された印刷層4と、この印刷層4の上に積層されたラミネート層5と、カード基材2の裏面に積層されたラミネート層6とを有する。表面側のラミネート層5上の所定位置には、データが磁気的に記録される磁気層7が設けられている。また、情報担持カード1の表面側には、データが電気的に記録されるICチップ8が埋設されている。
【0020】
蛍光部3は、赤外領域の励起光によって励起されて赤外領域の蛍光を発する蛍光材料を用いて形成されている。また、カード基材2は、前記蛍光材料の励起光および蛍光は透過させるが可視光は透過させないか又は透過させてもその透過量が極めて少ない材料でそれぞれ形成された第1および第2の基材層(シート)21および22で構成されており、これらを接着(接合)することによって1枚のカード基材2としたものである。そして、この一枚のカード基材2とする際に、図2に示すように、一方の第1の基材層21の接着面となる側の面(接合面)上に、前記蛍光材料を用いて蛍光部3を所定のパターンで予め印刷形成し、その上から他方の第2の基材層22を重ね合わせ、両基材層21・22を接着することによって、図1に示したようにカード基材2の内部に蛍光部3を設けた構成とされている。この場合の両基材層21・22の接着の方法は特に限定されないが、両基材層21・22の構成材料として後述のようなプラスチックシートを使用する場合には、例えば110℃〜160℃の温度をかけて熱圧着するのが好ましい。
【0021】
ここで、蛍光部3に使用する蛍光材料としては、例えば、金属酸化物、金属硫化物、りん酸化合物、アルミン酸化合物、チタン酸化合物、タングステン酸化合物、モリブデン酸化合物などを母体材料とし、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)などの希土類元素を少なくとも1種類以上ドープした蛍光材料が挙げられる。印刷に際しては、このような蛍光材料を樹脂、または樹脂および溶剤などからなるバインダーに分散させて蛍光塗料あるいは蛍光インクとし、これを用いてオフセット印刷、スクリーン印刷などの手法により上述した基材層21の面に任意のパターンの蛍光部を形成することができる。
【0022】
第1および第2の基材層21・22、すなわちカード基材2は、先にも述べたように蛍光材料の励起光および蛍光は透過させるが可視光は透過させないか又は透過させてもその透過量が極めて少ない材料で形成されているが、このような材料としては、例えば、白色の非結晶コポリエステルシート、白色のポリ塩化ビニルシート、白色のポリエチレンテレフタレートシートが挙げられる。中でも白色の非結晶コポリエステルシートを使用するのが好ましい。第1および第2の各基材層21・22の厚み(前記シートの厚み)は、カードとしての剛性、強度、次に述べる隠蔽性などを考慮すると、例えば0.2〜0.6mmの範囲が好ましい。このような厚みを有する白色のプラスチックシートからなる両基材層21・22は、可視光を透過させないか又は透過させてもその透過量が極めて少ないので、カード基材2の内部に設けられた蛍光部3が外部から視認できないようにこれを隠蔽する隠蔽層としての役割を果たす。
【0023】
なお、上記の例では、カード基材2自体が蛍光部3に対する隠蔽層となるので、カード基材2の表面側および裏面側に隠蔽層(すなわち、表面側に第1隠蔽層、裏面側に第2隠蔽層)を別途設けなくても内部の蛍光部を目視不能あるいは目視困難にすることができる。このため、上記の情報担持カード1では、表面側および裏面側のラミネート層5・6は、厚さ0.05mm程度の透明なポリエチレンテレフタレート(PET)製のフィルムで形成した。ただし、この種のラミネート層を可視光を透過させないか又はその透過量が極めて少ない材料で形成して、これを蛍光部3に対する隠蔽層とすることもできるし、隠蔽層としての印刷層をカード基材の表裏両面に設けることも可能である。この場合には、カード基材2を上記のような隠蔽性を有する材料で形成する必要は必ずしもないが、可視光に対して隠蔽性を有する材料でカード基材1が構成されていると前記のような表裏両面の隠蔽層(第1隠蔽層および第2隠蔽層)と相俟って蛍光部3に対する隠蔽効果が更に高められることは言うまでもない。
【0024】
蛍光部3のパターンは、種々のものが考えられる。単純な図形のみからなるパターンであってもよいし、先の図2に示したように、比較的単純な図形を複数個組み合わせたパターンとしてもよい。同図のようなパターン形状の場合は、パターンを構成している各部分(1個の図形)ごとに識別できるようにすることも可能である。識別の手法としては、例えば、レーザダイオードやLEDなどの励起光源、フォトダイオードなどの検出器によって構成されるセンサを用いて、カード搬送による検出波形の読み取りや、赤外波長領域に検出感度のあるカメラを用いた画像認識などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
さらに図3に示すように、蛍光部3のパターンを構成する部分をグループ分けしてその各グループのパターン部分31・32ごと(またはパターンを構成する部分ごと)に、励起波長や発光波長などの特性の異なる蛍光材料を用いて、カード基材2を構成する一方の基材層21の表面に、各パターン部分を同時にあるいは順次に印刷して、全体として同図に示すような所定のパターンとなるように蛍光部3を形成し、そのうえで第2の基材層22を接着するようにしてもよい。この場合は、各蛍光材料の励起波長に対応した光を照射しうる光源と、各蛍光材料の発光波長の光をそれぞれ検出しうる検出手段が必要となるが、このようにして読み取り時の処理が複雑化する分だけカードの偽造もされにくくなる。なお、励起波長や発光波長などの特性の異なる蛍光材料については、先に述べたような蛍光材料の中から適宜選択して使用することができる。
【実施例1】
【0026】
〈蛍光材料(第1蛍光材料)の作製〉
組成物(a)
・La23 100重量部
・Nd23 44重量部
・NaH2 PO4 237重量部
【0027】
上記の組成物(a)を乳鉢で十分に混合した後、これをアルミナルツボに移し、800℃で3時間大気中で加熱焼成した。この焼成後、余剰成分を除去するために水洗した。その後、乾燥して、平均粒子径が約2μmの蛍光材料(LaPO4 :Nd)を得た。
【0028】
〈蛍光材料のインク化〉
上記で得た蛍光材料(LaPO4 :Nd)と、ビニル樹脂(ダウ・ケミカル社製「VAGF」)とシクロヘキサノンとを、下記の割合で混合したのち、ビーズミルで分散して蛍光材料インクを得た。
【0029】
・蛍光材料(LaPO4 :Nd) 100重量部
・ビニル樹脂(ダウ・ケミカル社製「VAGF」) 16重量部
・シクロヘキサノン 77重量部
【0030】
〈カード化〉
カード基材を構成する第1の基材層として厚さ0.35mmの白色の非結晶コポリエステルシート(三菱樹脂株式会社製「ディアフィクス」)を使用し、このシートの表面に、上記で得た蛍光材料インクを使用して、図2に示した蛍光部3の中央部分に位置する長方形のような一個の単純な図形からなるパターンをスクリーン印刷により形成した。図4は、使用した白色の非結晶コポリエステルシートの光透過特性を示す分光スペクトルである。同図からわかるように、カード基材として使用した非結晶コポリエステルシートは、可視領域(おおよそ波長400〜700)の光については殆ど透過させないものである。
【0031】
上記印刷したシートの印刷面に、カード基材1を構成する第2の基材層22として上記と同様の厚さ0.35mmの白色の非結晶コポリエステルシートを重ね合わせ、145℃で熱圧着した。さらに、この熱圧着したシートをカード形状に打ち抜いて情報担持カードとした。
【0032】
得られた情報担持カードを目視により観察したところ、カード内部の蛍光部は視認できなかった。また、このカードの蛍光部を形成している蛍光材料の励起波長に一致する波長の光を発するLEDを光源とし、この光源からの光を前記カードの表面側から照射して、分光器(日本分光株式会社製「CT−50C」)を介してカード内部の蛍光部からの発光の様子を観察したところ、Ndによる発光が確認された。図5に、前記分光器を使用して測定された蛍光部からの発光(蛍光)のスペクトルを示す。
【0033】
なお、この実施例で作製した情報担持カードは、2枚の白色の非結晶コポリエステルシート(カード基材2を構成する第1および第2の基材層21・22)間に所定パターンの蛍光部3を印刷により形成しただけのシンプルな構成のものであるが、実際に使用されるカード製品として提供されるに当たっては、その用途に応じて上記カードの表面や裏面に、図1に示したような印刷層4、ラミネート層5・6、磁気層7、ICチップ8などが必要に応じて設けられることは言うまでもない。この点は、以下の実施例においても同様である。
【実施例2】
【0034】
実施例1の〈カード化〉において、カード基材1を構成する第2の基材層22として、厚さ0.2mmの透明の非結晶コポリエステルシート(三菱樹脂株式会社製「ディアフィクス」)を重ね合わせ、145℃で熱圧着した。さらに、基材層22の表面に白色のUV硬化樹脂を全面に印刷して第1の印刷層を形成した後、更にこの第1の印刷層の上に絵柄をオフセット印刷して第2の印刷層を形成し、これらの第1および第2の印刷層により蛍光部の表面側を隠蔽した。なお、蛍光部の裏面側が第1の基材層(白色の非結晶コポリエステルシート)21で隠蔽されている点は実施例1の場合と同様である。このシートをカード形状に打ち抜いて情報担持カードとした。
【0035】
得られた情報担持カードを目視により観察したところ、カード内部の蛍光部は視認できなかった。また、このカードの蛍光部を形成している蛍光材料の励起波長に一致する波長の光を発するLEDを光源とし、この光源からの光を前記カードの表面側から照射して、分光器(日本分光株式会社製「CT−50C」)を介してカード内部の蛍光部からの発光の様子を観察したところ、実施例1と同様のNdによる発光が確認された。
【実施例3】
【0036】
印刷パターンを図2に示すものとして、他の作製方法は実施例1と同様の方法で情報担持カードを作製した。得られた情報担持カードを目視により観察したところ、カード内部の蛍光部は視認できなかった。また、このカードの表面より蛍光部を形成している蛍光材料の励起波長に一致する波長の光(光源はLED)を照射して蛍光材料を励起し、この蛍光材料の励起波長の光は透過させずに当該励起波長を含む特定波長の光のみを選択的に透過させるカットフィルターを介して、CCDにて検出したところ、図2に示したパターン形状の発光を確認した。
【実施例4】
【0037】
〈蛍光材料(第2蛍光材料)の作製〉
組成物(b)
・La23 100重量部
・Nd23 49重量部
・Yb23 13重量部
・NaH2 PO4 260重量部
【0038】
上記組成物(b)を乳鉢で十分に混合し、これをアルミナルツボに移したのち、800℃で3時間大気中で加熱焼成した。この焼成後、余剰成分を除去するために水洗した。その後、乾燥して、平均粒子径が約2μmの蛍光材料(LaPO4 :Nd、Yb)を得た。
【0039】
このようにして得られた第2蛍光材料(LaPO4 :Nd、Yb)と、先の実施例1で作製した第1蛍光材料(LaPO4 :Nd)とを使用して、図3に示すようなパターンの蛍光部3を印刷形成した。この場合おいて、同図に示すように蛍光部3を構成する特定のパターン部分31には第1蛍光材料を使用し、他の特定のバターン部分32には第2蛍光材料を使用した。この点以外は、実施例1と同様の方法で情報担持カードを作製した。
【0040】
作製した情報担持カードを目視により観察したところ、カード内部の蛍光部3は視認できなかった。また、このカードの表面より第1蛍光材料および第2蛍光材料の励起波長に一致する波長の光(光源はLED)を照射し、第1蛍光材料の励起波長および第2蛍光材料の励起波長の光をいずれも透過させずに第1蛍光材料の発光波長に対応する特定波長の光のみを選択的に透過させるカットフィルターを介して、CCDにて検出したところ、図2および図3に示したパターン形状の発光を確認した。また、カード表面より第2蛍光材料の励起波長に一致する波長の光(光源はLED)を照射し、蛍光部3を構成するパターン部分31・32のうち第2蛍光材料を用いたパターン部分32からの発光状態を調べたところ、Ybによる発光を確認した。図6に、分光器(日本分光株式会社製「CT−50C」)を使用して測定した前記Ybによる発光のスペクトルを示す。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の情報担持カードの一構成例を模式的に示す断面図である。
【図2】前記情報担持カードを構成するカード基材を分解してその内部に設けた蛍光部のパターン形状を示すカード基材の分解斜視図である。
【図3】本発明の情報担持カードの他の構成例におけるカード基材の分解斜視図である。
【図4】実施例1〜4においてカード基材として使用した白色の非結晶コポリエステルシートの光透過特性を示す分光スペクトルである。
【図5】実施例1に係る情報担持カードの蛍光部に所定の励起光を照射したときに当該蛍光部の蛍光材料から発せられた蛍光(Ndによる発光)のスペクトルを示す図である。
【図6】実施例4に係る情報担持カードの蛍光部に所定の励起光を照射したときに当該蛍光部の第2蛍光材料に係る構成部分から発せられた蛍光(Ybによる発光)のスペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 情報担持カード
2 カード基材
21 第1の基材層(隠蔽層)
22 第2の基材層(隠蔽層)
3 蛍光部
31 蛍光部を構成するパターン部分(第1蛍光材料を使用した部分)
32 蛍光部を構成するパターン部分(第2蛍光材料を使用した部分)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外領域の励起光によって励起されて赤外領域の蛍光を発する蛍光材料を用いて形成された蛍光部が、前記励起光および蛍光を透過させる材料からなるカード基材の内部に設けられているとともに、前記励起光および蛍光は透過させるが可視光は透過させないか又は透過させてもその透過量が極めて少ない材料からなる隠蔽層によって覆われて目視不能または目視困難とされていることを特徴とする情報担持カード。
【請求項2】
カード基材は、少なくとも2層の基材層を積層・接合することによって形成されており、そのうちの少なくとも一つの基材層の接合面に前記蛍光部が印刷によって形成されている、請求項1記載の情報担持カード。
【請求項3】
カード基材は、前記励起光および蛍光は透過させるが可視光は透過させないか又は透過させてもその透過量が極めて少ない材料で形成されており、このカード基材自体が隠蔽層を構成している、請求項1または2記載の情報担持カード。
【請求項4】
隠蔽層は、蛍光部の表面側を隠蔽する第1隠蔽層と、蛍光部の裏面側を隠蔽する第2隠蔽層の少なくとも2層で構成されている、請求項1ないし3のいずれかに記載の情報担持カード。
【請求項5】
第1隠蔽層は、カード基材における基材層、カード基材の表面側に印刷又は塗布によって形成された印刷層又は塗布層、カード基材の表面側に積層された薄膜シート状のラミネート層のうちの少なくとも一層からなる、請求項4記載の情報担持カード。
【請求項6】
第2隠蔽層は、カード基材における基材層、カード基材の裏面側に印刷又は塗布によって形成された印刷層又は塗布層、カード基材の裏面側に積層された薄膜シート状のラミネート層のうちの少なくとも一層からなる、請求項4または5記載の情報担持カード。
【請求項7】
蛍光部は、励起光および/または蛍光の波長が互いに異なる2種以上の蛍光材料を用いて所定のパターンとなるように印刷形成されている、請求項1ないし6のいずれかに記載の情報担持カード。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−253569(P2007−253569A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84184(P2006−84184)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】