説明

情報管理方法及び情報管理用媒体

【課題】
本発明は、前記従来技術の背景に鑑み、かかる問題点を解決し、工場等の生産管理や品質管理の情報をレーザーマーキングによりマーキング可能な媒体であって、前記マーキングされた製品のマーキング部の除去、隠蔽または、マーキング情報の消去の工程を経ずそのまま顧客に流通させた場合でも、マーキング情報が顧客に容易に読み取られることが無い情報管理方法、および、該方法に用いる情報管理用媒体を提供せんことにある。
【解決手段】
少なくとも表面領域の一部が樹脂組成物である物品の情報付加部に、近赤外線透過性でありかつ可視光不透過性である隠蔽層を設け、
前記情報付加部に赤外レーザーを照射することにより、
前記樹脂組成物を熱変性することで、情報を付加し、
近赤外線カメラで情報を読み取ることを特徴とする

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報管理方法および情報管理用媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂で被覆された部品、積層体等に、文字、記号、イラスト等のマーキング情報をマーキングすることは広く行われており、特に工場等の生産現場で製品の品質管理や製品の区分けのための製造番号のマーク付け等に多く用いられている。マーキング情報は、一般にインクジェットを用いた方法やレーザーを用いた方法が知られている。
【0003】
インクジェットによるマーキングは、インクノズルの目詰まりが問題となり、メンテナンスが煩雑になることが多い。一方でレーザーを用いたマーキングは、マーク付けの方法が非接触であることから生産プロセスに比較的影響を与えずに使用できることが最大の特徴である。
【0004】
レーザーを用いたマーキングには、いくつかの方法がある。
【0005】
例えば、ガルバノメータ等を使用してレーザービームで文字等を描画するものである(特許文献1)。この場合には、主にレーザー照射による熱によって対象物の表面を破壊することで描画するものである。この際、連続波若しくはパルス幅の長いレーザーを用い、レーザービームは描画する文字を形作る線の太さに絞っておく。
【0006】
別の例としては、レーザーと対象物の間に文字等の抜き型(マスク)を設置することで文字等をマーク付けするものである(特許文献2)。この場合には、主にレーザーアブレーション(損傷)効果により表面にキズを作って文字を描画する方法や、表面の印刷層等を吹き飛ばすことによって描画するものである。
【0007】
また別の例としては、透明フィルムの片側に、レーザー光の吸収により発色するロイコ染料などの発色剤と顕色剤からなる発色層を設け、フィルム側からレーザー光を照射し、対象物に描画する方法が提案されている(特許文献3)。
【0008】
また別の例としては、隠蔽層と該隠蔽層を除去した時に現れる下地層からなり、隠蔽層と下地層が容易に認識できる程度の明度差を有し、レーザー光の照射により該隠蔽層が発熱・破壊される事により除去され、下地が目視可能となり、目的とする描画が行えるレーザー印字用積層体が提案されている(特許文献4)。
【0009】
しかし製品の生産管理や品質管理等の情報がマーキングされた部品や積層体は、秘密情報をマーキングする場合も有り、その場合はマーキング部の除去、隠蔽又はマーキング情報の消去をしなければならず、煩雑な作業を有するという問題があった。また、マーキング部の除去後には、該部品、該積層体の製造工程や品質情報をトレースしようとしても、既にマーキング情報が除去又は消去されているので、トレースを行うことができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平05−077067号公報
【特許文献2】特開平05−058024号公報
【特許文献3】特開平08−025809号公報
【特許文献4】特開2008−100385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記従来技術の背景に鑑み、かかる問題点を解決し、工場等の生産管理や品質管理の情報をレーザーマーキングによりマーキング可能な媒体であって、前記マーキングされた製品のマーキング部の除去、隠蔽または、マーキング情報の消去の工程を経ずそのまま顧客に流通させた場合でも、マーキング情報が顧客に容易に読み取られることが無い情報管理方法、および、該方法に好適に用いることができる情報管理用媒体を提供せんことにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、掛かる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、
少なくとも表面領域の一部が樹脂組成物である物品の情報付加部に、近赤外線透過性でありかつ可視光不透過性である隠蔽層を設け、
前記情報付加部に赤外レーザーを照射することにより、
前記樹脂組成物を熱変性することで、情報を付加し、
近赤外線カメラで情報を読み取ることを特徴とする
物品の情報管理方法。
好ましい態様として、
(1)前記隠蔽層の厚さが、
5〜1000μmであること、
(2)前記隠蔽層が、近赤外線透過性色素を含有すること、
(3)前記近赤外線透過性色素が、アンスラキノン系、キナクリドン系、アゾ系、ジケトピロロピロール系、ペリノン系、ペリレン系、ベンズイミダゾロン系、イソインドリノン系、イソインドリン系、フタロシアニン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、アゾメチン系およびアゾメチンアゾ系より選ばれる少なくとも一種の有機色素、および/または、白色系顔料であること、
(4)前記白色系顔料が、白色顔料表面が合成樹脂膜によって被覆されており、該白色顔料の一次粒子径の大きさは20〜50nmのものであること、
(5)赤外レーザーを照射することによる前記樹脂組成物の熱変性が炭化であること、
(6)前記樹脂組成物が、炭素を原子数ベースで20〜50モル%含有する樹脂組成物よりなること、が挙げられる。、また、
(7)シート形状を有し、その少なくとも表面領域の一部が樹脂組成物により構成され、該樹脂組成物上に、近赤外線透過性でありかつ可視光不透過性である隠蔽層が設けられている情報管理用媒体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、工場等の生産管理や品質管理の情報をレーザーマーキングによりマーキング可能であって、前記マーキングされた製品のマーキング部の除去、隠蔽またはマーキング情報の消去の工程を経ずそのまま顧客に流通させた場合でも、マーキング情報が顧客に容易に読み取られることが無い情報管理方法および、該方法に好適に用いることができる情報管理用媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の情報管理方法の適用対象たる物品の情報付加部周辺の断面の模式図である。
【図2】図1の情報付加部(2)に情報を付加する方法を示す模式図である。
【図3】図2において情報付加部(2)に情報が付加された状態を示す模式図である。
【図4】図3における情報付加部(2)を外部より可視光で見た状態を示す図である。
【図5】図3における情報付加部(2)を外部より近赤外線カメラを介して見た状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、本発明は発明を説明するために引用した図面に表される形態に限定されるものではなく、本明細書に記載されている技術の範疇であれば、図面に表された以外の実施の形態も含まれる。
【0016】
図1は、本発明の情報管理方法の適用対象たる物品の情報付加部周辺の断面の模式図である。図1において、本発明の情報管理方法の対象となる物品(1)(以降単に対象物品と記すこともある)は、少なくとも表面領域(3)が樹脂組成物から構成される情報付加部(2)を有するものであり、本発明の情報管理方法においては、かかる情報付加部(2)の上に、近赤外線透過性であり、かつ可視光不透過性である隠蔽層(4)を設けたものである。なお、断面における物品の表面(7)の位置および断面における隠蔽層の表面(8)の位置を点線(隠蔽層(4)と表面領域(3)との境界、および、隠蔽層(4)の表面は実線)で示している。
【0017】
本発明の情報管理方法における対象物品(1)の情報付加部(2)は、生産管理や品質管理の情報等の対象物品にかかる管理情報を付加する部分であり、情報付加部を設定する場所、情報付加部の形状やサイズは、付加する情報の量、内容、目的等に応じて、赤外レーザーを照射することが可能な場所に任意に設定することが出来る。表面領域(3)とは、本発明の情報管理方法の対象となる物品(1)の表面より深さ方向5μm以上の厚さがある固体部分であり、少なくともその一部が、樹脂組成物から構成されることにより、後述する赤外レーザーを照射したときに、これが熱変性されて情報を付加することが出来る。なお、ここで用いられる樹脂組成物について詳細は後述する。
【0018】
そして本発明では前記対象物品の情報付加部の上に、近赤外線透過性でありかつ可視光不透過性である隠蔽層(4)を設けることが必要である。かかる隠蔽層(4)を設けることにより、赤外レーザーを照射して、その下にある樹脂組成物を熱変性し情報を付加した場合、近赤外線カメラで該付加情報を読みとることが出来ると共に、該付加情報が顧客に容易に読み取られることを防止することができる。
【0019】
図2は、図1の情報付加部(2)に情報を付加する方法を示す模式図である。本発明において、情報付加部(2)の一部に赤外レーザー(5)を照射して情報を付加する方法を示す図であり、図3は、情報付加部(2)に情報が付加された状態を示す模式図である。図2に示される情報を付加する方法により、樹脂組成物が熱変性された部分(6)が生じ、情報が付加された状態を示している。
【0020】
図2において、情報付加部(2)は、表面領域(3)が樹脂組成物である対象物品の上に、隠蔽層(4)を設けてなり、該情報付加部(2)の前記隠蔽層(4)側より、赤外レーザー(5)を発振し、表面領域(3)に焦点を合わせ、レーザー照射することによって、表面領域(3)を赤外レーザーによる熱で熱変性させることにより、樹脂組成物が熱変性された部分(6)を生じせしめることができる。なお、情報付加部(2)において、樹脂組成物が熱変性された部分(6)として付加された情報を本発明において、以降、単にマーキング情報と言う場合もある。
【0021】
上記本発明の情報管理方法の対象となる物品(1’)は、隠蔽層(4)があるので、外部より目視では樹脂組成物が熱変性された部分(6)すなわちマーキング情報を認識することはできない(図4において樹脂組成物が熱変性された部分の範囲を示す輪郭(6’)を破線で表示しているのは、肉眼では不可視であることを表している。)。しかし、近赤外線カメラ、例えば、可視光カットフィルター(例えば、富士フイルム(株)製IR−76など)を搭載したCCDカメラやCMOSカメラを通じて上記物品(1’)を、隠蔽層側より撮影すると、情報付加部(2)に記録された、マーキング情報(6)を認識することが可能となる(図5)。これは、可視光領域で対象物品(1’)を見たときは、隠蔽層(4)が情報付加部(2)に記録されたマーキング情報(6)を不可視状態にしているが、近赤外線カメラ等で対象物品(1’)を見たときは、隠蔽層(4)を、近赤外線が通過し、情報付加部(2)の、熱変性により形成されたマーキング情報(6)が、近赤外線を吸収することによってマーキング情報(6)の像を識別することが可能になることによるものである。
【0022】
本発明の情報管理方法の対象たる物品(1)は、情報付加部(2)の表面領域(3)が樹脂組成物から構成され、該領域はレーザー照射により熱変性される。具体的には、表面領域(3)にレーザー光を照射したときに、該レーザー光の熱により熱変性される材質であれば良く、好ましくは、該レーザー光の熱により照射部が炭化するものである。かかる樹脂組成物としては、炭素原子を原子数ベースで20〜50モル%以上含有するものであればよい。例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキル樹脂、ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエン(ABS)樹脂、アクリル樹脂、等の熱可塑性樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、変性ポリフェレンエーテル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂等およびこれらの共重合樹脂や酸変性物等、公知の樹脂組成物から幅広く用いることができる。また金属やガラス等の無機物の表面領域の一部が前記樹脂組成物であるもの、無機物と前記樹脂組成物の混合物であるもの等であっても良い。
【0023】
情報付加部(2)の表面領域(3)の前記樹脂組成物の厚みは、特に限定するものではないが、通常、5μm以上あればよく、好ましくは、10μm以上、更に好ましくは、20μm以上である。前記樹脂組成物の厚みが5μm以上であると、レーザー光による熱が、レーザー照射部位外に伝わる範囲を小さく抑えることができるため、微細な情報記録を行うことができる。
【0024】
つぎに隠蔽層(4)について説明する。隠蔽層(4)は、近赤外線透過性と可視光不透過性の両方の性質を有する層である。
【0025】
本発明で言う近赤外線透過性を有する層とは、近赤外線領域である波長760nmから2500nmの少なくとも連続した50%以上の波長領域において、光線透過率が30%以上、好ましくは40%以上、更に好ましくは、50%以上である層をいう。かかる近赤外線の透過率を有することによって、近赤外線カメラを用いて、対象物品(1’)の情報付加部(2)に記録されたマーキング情報(6)を、読み取ることが可能となる。なお、本発明でいう近赤外線カメラとは、近赤外線を用いて読み取ることが可能な装置であればよく、例えば、可視光カットフィルターを備えたCCDカメラやCMOSカメラ等が挙げられる。
【0026】
本発明でいう可視光不透過性とは、隠蔽層(4)の下の情報付加部(2)にマーキングされたマーキング情報(6)が可視光で透けて見えないことである。具体的には、JIS K7361−1(1997)で測定した全光線透過率が30%以下、好ましくは20%以下、更に好ましくは10%以下であることをいう。全光線透過率が30%を超えると、前記マーキング情報(6)が可視光により透けて見えてしまい、前記マーキング情報(6)が、判読可能となってしまう場合がある。30%以下であると、情報付加部(2)にマーキングしたマーキング情報(6)の存在自体に気付かれることが無い。
【0027】
隠蔽層(4)は、近赤外線透過性色素を含有することが好ましい。近赤外線透過性色素とは、波長760nmから2500nmの近赤外線の少なくとも連続した50%以上の波長領域において、光線透過率が30%以上、好ましくは40%以上、更に好ましくは、50%以上透過する性能を有する色素である。なお、本発明で用いられる「色素」は、先の近赤外線透過性と可視光不透過性の両方の性質を有する範囲で使用しうる限り、「染料」、「顔料」のいずれも適用することができる。
【0028】
中でも本発明で用いる近赤外線透過性色素としては、アンスラキノン系、キナクリドン系、アゾ系、ジケトピロロピロール系、ペリノン系、ペリレン系、ベンズイミダゾロン系、イソインドリノン系、イソインドリン系、フタロシアニン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、アゾメチン系およびアゾメチンアゾ系より選ばれる少なくとも一種の有機色素、および/または、白色系顔料であることが好ましい。
【0029】
隠蔽層(4)は、樹脂材料に、色の三原色である赤色系、青色系、黄色系の色素および黒色系の近赤外線透過性色素より選ばれる1つ以上の色素、および/または、白色系顔料を適宜混合することによって、所望の色相、形状を有する層を形成することができる。
【0030】
本発明で近赤外線透過性色素として用いることのできる有機色素としては、例えば、アゾ系、アンスラキノン系、フタロシアニン系、ペリノン系、ペリレン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、キナクリドン系、イソインドリノン系、イソインドリン系、ジケトピロロピロール系、アゾメチン系、アゾメチンアゾ系が好ましい。
【0031】
本発明で近赤外線透過性色素として用いることのできる黒色色素としては、アゾ系、アゾメチンアゾ系、ペリレン系の近赤外線非吸収性黒色色素であることが好ましい。
【0032】
本発明で用いる白色系顔料とは、白色顔料と、この白色顔料表面に被覆された合成樹脂膜とよりなるものである。白色顔料を合成樹脂膜で被覆することにより、白色顔料が凝集しにくくなり、分散性が良好となるので、近赤外線も透過しやすくなると考えられる。また、合成樹脂膜で被覆することにより、近赤外線を透過しやすくなる。この作用については定かではないが、合成樹脂膜が近赤外線を透過しやすい物質であるからと考えられる。すなわち、直接白色顔料単体の分散物に近赤外線が照射される場合に比べて、合成樹脂膜を介して近赤外線が照射される方が、近赤外線の照射角度が合成樹脂膜で屈折し、白色顔料を透過しやすくなるのではないかと考えられる。合成樹脂膜を形成する合成樹脂としては、任意の合成樹脂を用いることができるが、具体的には、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体樹脂、(メタ)アクリル酸共重合樹脂、ポリエステル樹脂などを使用するのが好ましい。
【0033】
白色顔料としては、ニ酸化チタン、亜鉛華(酸化亜鉛)などの通常使用される白色顔料だけでなく、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、シリカ、クレイ、活性白土、含水珪酸、無水珪酸、アルミニウム粉末、ステンレス粉末、有機プラスチックピグメントなどの体質顔料も本発明の白色系顔料の原料としての白色顔料として使用することができる。これらの白色顔料は、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも二酸化チタンが好ましい。二酸化チタンには、ルチル型とアナターゼ型とが存在するが、本発明においては、いずれを用いてもよい。好ましくは、光触媒作用の低いルチル型を用いる方が好ましい。
【0034】
また、本発明において用いられる白色系顔料の原料としての白色顔料は、20〜50nmの一次粒子径を持つことが好ましい。一次粒子径が20〜50nmであると、近赤外線領域である波長760nmから2500nmの少なくとも連続した50%以上の波長領域において、光線の透過率を30%以上とすることができる。白色顔料が、50nmを超える一次粒子径を持つものであると、近赤外線透過率が波長760nmから2500nmにおいて連続して30%以上にならない場合がある。また、白色顔料の一次粒子径が20nm未満の場合は、白色系顔料を製造しにくく実用的ではない。ここで、白色顔料の一次粒子径は、透過電子顕微鏡(例えば、(株)日立製作所製HT7700など)を用いて測定することができる。
【0035】
白色顔料の表面を合成樹脂膜で被覆する方法としては、限定するものではないが、例えば、加熱溶融させた(メタ)アクリル酸共重合体などの合成樹脂に、白色顔料を分散させ、その後、合成樹脂を冷却固化する方法が適用できる。また、エステル類やケトン類などの溶剤に合成樹脂を溶解させ、ここに白色顔料を分散させ、その後、溶剤を乾燥除去する方法で得ることもできる。白色顔料と合成樹脂膜との質量比は任意ではあるが、概ね、白色顔料/合成樹脂膜=80質量部〜60質量部/20質量部〜40質量部とするのが好ましい。
【0036】
本発明の情報管理方法における隠蔽層(4)には、上記のような近赤外線透過性色素の他に、近赤外線吸収性色素を含んでも良い。隠蔽層(4)が近赤外線吸収性色素を含有する場合、樹脂材料100質量部に対し、5質量部以下、好ましくは3質量部以下、更に好ましくは1質量部以下であることが好ましい。近赤外線吸収性色素とは、近赤外線領域に最大吸収ピークを有する色素である。近赤外線吸収性色素が樹脂材料100質量部に対し、5質量部より大きい場合、隠蔽層(4)が近赤外線透過性を発揮することができない場合がある。5質量部以下であると、隠蔽層(4)の近赤外線透過性を保持することができる。このような色素としては、例えば、1−エチル−4−[5−(1−エチル−4(1H)−キノリニリデン)−1,3−ペンタジエニル]キノリニウムのヨード塩、5,7−ジメチル−3−[3−(5,7−ジメチル−1−フェニル−チアゾロ〔3,4−a〕−1−フェニルチアゾロ〔3,4−a〕]−ピリジニウムの過塩素酸塩、N,N−ジエチル−N−[4−〔1,5,5−トリス(4−ジエチルアミノ−フェニル−9−2,4−ペンタジエニルジエン〕−2,5−シクルヘキサジエン−1−イリデン]アンモニウムの過塩素酸塩等のシアニン色素、
N,N−ビス(4−ジブチルアミノフェニル)−N[4−〔N,N−ビス(4−ジブチルアミノフェニル)アミノ〕]フェニル]アンモニウムの過塩素酸塩、2,5−シクロヘキサジエン−1,4−ジリデン−ビス[N,N−ビス(4−ジブチルアミノフェニル) アンモニウム]過塩素酸塩等のアミニウム系色素;5−アミノ−2,3−ジシアノ−8−(4−エトキシフェニル−アミノ)−1,4−ナフトキノン、2,3−ジシアノ−5,8−ビス(4−エトキシフェニルアミノ)−1,4−ナフトキノン、2,3−ジシアノ−4−[4−( ジメチルアミノ) フェニル−イミノ]−1,4−ナフトキノン等のナフトキノン系色素;ビス(ジクロロベンゼン−1,2−ジチオール)ニッケル(2:1)テトラブチルアンモニウム塩、ビス(ベンゼン−1,2−ジチオール)ニッケル(2:1)テトラ−(n−ブチル)フォスフォニウム塩、ビス(1,2−ジフェニルエチレン−1,2−ジチオール)ニッケル、ビス(1,2−ジシアノエテン−1,2−ジチオール) ニッケル(2:1)−n−ヘキサデシル(トリメチル) アンモニウム塩等のジチオール色素、
8−アゾ−4−(4−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル−イミノ)−1(4H)−ナフトキノン(2:1)銅錯塩等のジ過酸化塩等のキノン錯体;4−(4−ジエチルアミノフェニル)−1,2−ナフトキノン(1:1)ニッケル錯体のジ過塩素酸塩等のナフトキノン錯体;テトラキス(t−オクチル) ナフタロシアニンVO錯体等のナフタロシアニン錯体等が挙げられる。
【0037】
本発明の情報管理方法における隠蔽層(4)の厚みは、5μm以上であることが好ましい。より好ましくは10μm以上であり、更に好ましくは20μm以上である。5μm未満であると、レーザー光による熱で情報付加部(2)の表面領域(3)を熱変性させるとき、前記表面領域(3)に焦点を合わせることが困難である場合があり、また前記表面領域(3)に焦点をあわせることができた場合でも、該レーザー光による熱で、隠蔽層(4)自身も熱変性してしまう場合があり、その結果、可視光により前記隠蔽層(4)側から見た時にマーキング情報(6)の像が識別可能となってしまう場合がある。5μm以上であると、表面領域(3)にレーザー光の焦点を合わせることが容易であり、また、マーキング情報(6)の識別も可視光では不可視状態を保つことが容易である。また、隠蔽層(4)の厚みは、1000μm以下であることが好ましい。より好ましくは500μm以下であり、更に好ましくは300μm以下である。1000μmより大きいと、該隠蔽層の近赤外線透過性が劣る場合が有り、具体的には、近赤外線領域である760nmから2500nmの連続した50%以上の波長領域において、近赤外線透過率が30%以上とならず、近赤外線カメラ等を介して、対象物品(1’)の情報付加部(2)に記録されたマーキング情報(6)の識別を行うことが困難になる場合がある。隠蔽層(4)の厚みが1000μm以下であると、近赤外線カメラ等を介して該マーキング情報(6)の識別を行うことが可能となる。
【0038】
また、本発明の情報管理方法における隠蔽層(4)は、2層以上の複層を有する積層体であっても良く、限定されるものではない。例えば、透明ポリエステルフィルムの片面に近赤外線透過性色素を含有する塗料を塗布したものや、ポリエチレンテレフタレート樹脂と近赤外線透過性色素を練りこんだポリエステルフィルムを、接着剤等を介して貼合したものなど、可視光不透過性であり、近赤外線を透過するものであれば、幅広く用いることができる。
【0039】
これまで、図面をベースに管理対象たる物品の情報付加部周辺の態様を中心に説明を行ってきたが、情報付加部周辺を独立したシートとして形成することにより、本発明の物品の情報管理方法を任意の対象に適用できるようにすることもできる。すなわち、表面領域に樹脂組成物を有しない物品であっても、シート形状の基材を用いて、少なくともその表面領域の一部が樹脂組成物であり、該樹脂組成物上に、近赤外線透過性でありかつ可視光不透過性である隠蔽層を有する情報管理用媒体を適用すれば管理が可能となる。例えば、樹脂製のテープ形状の基材の上に隠蔽層を設け、該隠蔽層と反対の面に粘着剤層を積層した粘着テープ型の情報管理用媒体や、樹脂製のシート形状の基材の上に隠蔽層を設け、該隠蔽層と反対の面に粘着層および離型シートを積層した粘着シート型の情報管理用媒体、さらに、シュリンク性のフィルムの上に隠蔽層を設けたシュリンクラベル型の情報管理用媒体等が挙げられる。また例えば、対象物と隠蔽層の間に近赤外線透過性を有する中間層を設けたもの、具体的には、隠蔽層、空気層、対象物の順に積層したもの、隠蔽層、透明ポリエステル層、対象物の順に積層したものなど本発明の範囲内であれば様々な態様を採ることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
[評価の方法]
各評価は以下のように行った。特に規定していない場合は、異なる5箇所を測定した平均値を採用した。
(白色顔料及び白色系顔料の一次粒子径測定)
透過電子顕微鏡((株)日立製作所製HT7700)を用いて、径が10nmのオーダーの場合は10万倍の倍率で、また、径が100nmのオーダーの場合は1万倍の倍率で、観察し、写真を撮影した。該写真の視野の縦横をそれぞれ4等分する線を引き、その交点上の(交点上に粒子が存在しない場合は交点に最も近接した)粒子9個の直径(像が真円でない場合は長径)を測定し、その平均値を一次粒子径とした。なお、有効数字は2桁とし、3桁目を四捨五入した。
(可視光線不透過性)
日本電色工業(株)製ヘイズメーターNDH2000を用い、JISK7361−1(1997)に準じてシングルビーム法による試験片1(後述)の全光線透過率の測定を行った。
(近赤外線透過性)
試験片1(後述)をサンプルとし、分光光度計((株)島津製作所製UV−3150)を用いて、近赤外線領域760nmから2500nmにおける光線透過率の測定を行った。光線透過率が30%以上である連続した波長の範囲(a)を求め、該波長の範囲(a)が、760nmから2500nmに占める比率(下式)を近赤外線透過性として算出した。
【0041】
【数1】

【0042】
(マーキング情報の識別性)
(可視光領域の識別性)
試験片2(後述)を15,000Lx(ルクス)白色蛍光灯下で観察を行ない、試験片1の側よりマーキング情報の像の識別可否を判定した。
(赤外線領域の識別性)
対物レンズの前に760nm未満の可視光をカットするフィルター(富士フイルム(株)製IR−76)をセットした近赤外線カメラ(Xenics社製XEVA−CL−1.7−320−VisNIR:撮影可能波長領域590nm〜2500nm)で、試験片2(後述)の試験片1(後述)を貼り付けた側より撮影を行ない、マーキング情報の像の識別可否を判定した。
[白色系顔料の準備]
(白色系顔料1)
酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体40質量部をロール分散機上で加熱溶融させ、そこに、一次粒子径40nmであるルチル型二酸化チタン60質量部を添加して分散させて、一次粒子径240nmの白色系顔料を得た。
(白色系顔料2)
酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体40質量部をロール分散機上で加熱溶融させ、そこに、一次粒子径300nmであるルチル型二酸化チタン60質量部を添加して分散させて、一次粒子径400nmの白色系顔料を得た。
[印刷インキの準備]
下記組成の合成樹脂、色素および有機溶剤を混合し、1時間、塗料分散機で混合分散させて、各色の印刷インキを得た。
(白色印刷インキ1)
塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体(大日精化工業(株)製NB500)・・・12.6質量部
白色系顔料1・・・11.4質量部
シクロヘキサノン・・・38質量部
酢酸エチル・・・19質量部
(白色印刷インキ2)
塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体(大日精化工業(株)製NB500)・・・12.6質量部
白色系顔料2・・・11.4質量部
シクロヘキサノン・・・38質量部
酢酸エチル・・・19質量部
(赤色印刷インキ)
塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体(大日精化工業(株)製NB500)・・・12.6質量部
ジスアゾ系顔料(PIGMENT RED 48:1)・・・5.7質量部
不溶性アゾ系顔料(Pigment Red 5)・・・5.7質量部
シクロヘキサノン・・・38質量部
酢酸エチル・・・19質量部
(黄色印刷インキ)
塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体(大日精化工業(株)製NB500)・・・12.6質量部
白色系顔料1・・・3.8質量部
ジスアゾ系顔料(PIGMENT Yellow 12)・・・5.7質量部
キノフタロン系顔料(PIGMENT Yellow 138)・・・5.7質量部
シクロヘキサノン・・・38質量部
酢酸エチル・・・19質量部
(青色印刷インキ)
塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体(大日精化工業(株)製NB500)・・・12.6質量部
フタロシアニン系顔料(PIGMENT BLUE 16)・・・11.4質量部
シクロヘキサノン・・・38質量部
酢酸エチル・・・19質量部
(黒色印刷インキ1)
塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体(大日精化工業(株)製NB500)・・・12.6質量部
ペリレン系顔料(BASF社製K0084)・・・11.4質量部
シクロヘキサノン・・・38質量部
酢酸エチル・・・19質量部
(黒色印刷インキ2)
塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体(大日精化工業(株)製NB500)・・・12.6質量部
カーボン系黒色顔料(カーボンブラック)・・・11.4質量部
シクロヘキサノン・・・38質量部
酢酸エチル・・・19質量部
(試験片1の作成)
12μm透明ポリエステルフィルム(東レ(株)製ルミラー(R)“S10”)を基材とした。つぎに表1に記載の着色印刷インキを各実施例、比較例毎に作成し、基材上にバーコーターを用いて塗布し、乾燥し、2μmの着色層とポリエステルフィルムが積層された総厚さ14μmの積層体を作成し、試験片1とした。
(試験片2の作成)
厚さ100μmの白色ポリエステルフィルム(東レ(株)製ルミラー(R)“E20”)を用意し、ドライラミネーション接着剤(三井化学(株)製タケラックA−515/タケネートA−3)を塗布、乾燥し、厚さ3μmの接着剤層を形成した。該接着剤層に上記で作成した試験片1の着色層の面を重ね合わせて積層体をえた。次いで、積層体の試験片1の側より、レーザーマーキング装置(パナソニック電工SUNX(株)製LP−V;ファイバレーザー方式)を用いて、表層より深さ17μmに位置する白色ポリエステルフィルム表面に焦点を合わせ、白色ポリエステルフィルムの表層より概ね4μmが炭化するように調整し、レーザーマーキングを行った。このときのマーキング情報として、ゴシック体12ポイントの「ABC」を記し、試験片2を作成した。
【0043】
結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1で明らかな通り、試験片1の状態で、隠蔽層が、近赤外線透過性と可視光不透過性の両方を充たす実施例1〜6は、試験片2を作成後のマーキング情報を、可視光では、識別不能であったが、近赤外光で識別することが可能であった。一方、試験片1の状態で、隠蔽層が近赤外線不透過性で可視光不透過性である比較例1〜4及び6は、可視光、近赤外光共にマーキング情報の識別が不可能であった。比較例5は、対象物への赤外レーザーによるマーキングができず、試験片1の黒色着色層が熱変性し、該着色層にマーキングが成された。これは、赤外レーザーのエネルギーが、黒色着色層を透過せず、前記黒色着色層にエネルギーが吸収され、熱変性したことによるものと考えられる。可視光透過性で近赤外線透過性である比較例7〜10は、可視光、近赤外光共にマーキング情報の識別が可能であり、隠蔽層本来の機能を果たすことができず、本願の課題を達成することができなかった。
【符号の説明】
【0046】
1 物品
1’物品(マーキング情報付加後)
2 情報付加部
3 表面領域
4 隠蔽層
5 赤外レーザー
6 樹脂組成物が熱変性された部分
6’樹脂組成物が熱変性された部分の範囲を示す輪郭(点線)
7 断面における物品の表面
8 断面における隠蔽層の表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面領域の一部が樹脂組成物である物品の情報付加部に、近赤外線透過性でありかつ可視光不透過性である隠蔽層を設け、
前記情報付加部に赤外レーザーを照射することにより、
前記樹脂組成物を熱変性することで、情報を付加し、
近赤外線カメラで情報を読み取ることを特徴とする
物品の情報管理方法。
【請求項2】
前記隠蔽層の厚さが、
5〜1000μmであることを特徴とする請求項1に記載の物品の情報管理方法。
【請求項3】
前記隠蔽層が、近赤外線透過性色素を含有する請求項1または2に記載の物品の情報管理方法。
【請求項4】
前記近赤外線透過性色素が、アンスラキノン系、キナクリドン系、アゾ系、ジケトピロロピロール系、ペリノン系、ペリレン系、ベンズイミダゾロン系、イソインドリノン系、イソインドリン系、フタロシアニン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、アゾメチン系およびアゾメチンアゾ系より選ばれる少なくとも一種の有機色素、および/または、白色系顔料である請求項3に記載の物品の情報管理方法。
【請求項5】
前記白色系顔料が、白色顔料表面が合成樹脂膜によって被覆されており、該白色顔料の一次粒子径の大きさは20〜50nmのものである請求項4に記載の物品の情報管理方法。
【請求項6】
赤外レーザーを照射することによる前記樹脂組成物の熱変性が炭化である請求項1〜5のいずれかに記載の物品の情報管理方法。
【請求項7】
前記樹脂組成物が、炭素を原子数ベースで20〜50モル%含有する樹脂組成物よりなる請求項1〜6のいずれかに記載の物品の情報管理方法。
【請求項8】
シート形状を有し、その少なくとも表面領域の一部が樹脂組成物により構成され、該樹脂組成物上に、近赤外線透過性でありかつ可視光不透過性である隠蔽層が設けられている情報管理用媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−143954(P2012−143954A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3683(P2011−3683)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】