情報記憶媒体、管理対象物品および管理システム
【課題】 無線通信用のICタグの通信可能距離を改善することが可能であって、読み取り方向の制限が緩和された情報記憶媒体、管理対象物品および管理システムを提供する。
【解決手段】 情報記憶媒体100は、情報が記憶される無線ICタグ20と、第1のスペーサ2、補助アンテナ3および第2のスペーサ4を有するシート体1と、導電性材料で構成される長尺部材とを備える。長尺部材は、シート体1に対して無線ICタグ20とは反対側に設けられる。長尺部材としては、たとえば、ねじ回し10の本体部11など工具類の一部を利用することができる。
【解決手段】 情報記憶媒体100は、情報が記憶される無線ICタグ20と、第1のスペーサ2、補助アンテナ3および第2のスペーサ4を有するシート体1と、導電性材料で構成される長尺部材とを備える。長尺部材は、シート体1に対して無線ICタグ20とは反対側に設けられる。長尺部材としては、たとえば、ねじ回し10の本体部11など工具類の一部を利用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線ICタグを用いた情報記憶媒体、管理対象物品および管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信の分野のみならず、物流管理などの分野でも無線通信技術が応用され、無線通信用のICタグ(以下では単に「ICタグ」または「タグ」という。)は、RFID(
Radio Frequency Identification)技術の一翼を担う製品として広く知られる、物流管理や、安価な情報記憶媒体として使用用途は多岐にわたることから、無線通信機器は、様々な使用環境に置かれることになる。
【0003】
ICタグは、自ら電源を持たないパッシブタイプと電源を持つアクティブタイプとがある。低価格で汎用性を有するパッシブタイプは、リーダからの電波を受信し、このエネルギを利用してタグ回路を起動し、無線通信が可能となる。
【0004】
ICタグは、識別番号などのデータを記憶するICチップと、電波を送受信するためのアンテナとからなり、薄型、軽量で無線通信が実現できることが大きな利点となっている。チップにはメモリ領域を設けているため、ここに格納される情報を用いて情報管理が可能となり、ICタグは情報記憶媒体となる。なお、ICタグは、タグ、無線ICタグ、RFIDタグやRFタグと呼ばれることもある。本発明では市販のICタグに本発明を構成するシート体を合わせたものもタグとしている。これを区別するためにICタグとシート体とを組み合わせたものを本発明タグと呼ぶ。
【0005】
このような利点を十分に生かすためには、タグの貼り付け位置に制限がなく、どこにどのように貼り付けても、通信可能に構成されていることが好ましいとされる。
【0006】
しかしながら、ICタグは、自由空間で使用するように設計されており、超短波帯、極超短波帯、マイクロ波帯の電波を利用する場合、汎用タグはいわゆるダイポールアンテナを用いて電波方式の通信による送受信を行っているので、金属などがアンテナ近傍に存在すると、アンテナの通信特性が劣化し、通信可能距離が短くなってしまう。
【0007】
無線電波は金属面に当たると、λ/2位相がずれて反射が起きる。つまり入射波と反射波は金属近傍に於いて打ち消しあう関係になる。金属近傍では合成電界がほとんど零となり、自由空間に比べて供給される電界エネルギが著しく小さくなってしまう。
【0008】
またアンテナの近傍に金属などの導電性材料が存在する場合、アンテナに共振電流が流れると金属側ではこれと逆向きの電流が誘導され、誘導電流によってアンテナの入力インピーダンスが大きく低下する。これによって自由空間に対して設計されたICチップとのインピーダンスの整合性がとれなくなり、通信可能距離が短くなってしまう。また、同じ大きさの電流が近傍でほぼ平行に逆向きで存在すると、各々の電流の周囲に発生する磁界の向きが逆になり、それらの磁界が打ち消しあう関係となるため、結果として電波が遠方まで飛ばず、通信可能距離が短くなくなる。
【0009】
また、金属に限らず、紙、ガラス、樹脂、液体などもICタグの通信特性を劣化させる材質となりうる。
【0010】
これらの材質の場合は、これらの材質がもつ誘電率および透磁率によってアンテナの共振周波数が変化し、通信相手の使用する電波の周波数とアンテナの共振周波数とのずれによって通信可能距離が短くなってしまう。
【0011】
特許文献1には、金属などの通信妨害部材の近傍において、通信可能距離を改善することができる無線通信改善シート体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−134709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1記載の無線通信改善シート体は、たとえば金属表面にICタグを貼り付ける際に用いることで、通信可能距離を伸ばすことができる。
【0014】
しかしながら、無線通信改善シート体を用いた場合に、ICタグに対して通信可能な位置と通信不可能な位置とが発生することは避けられない。無線通信改善シート体の裏側、すなわちICタグの配置面とは反対側からリーダで読み取ろうとした場合、ほぼ読み取りは不可能である。
【0015】
ICタグを部材の管理などに適用しようとしても、読み取り不可能な領域があるために、たとえば、全てのICタグがリーダに対向していないとICタグから情報が読み取れず、実質的には部材の管理ができなくなる。部材管理の観点からこのような読み取り不可能な領域をなるべく小さくすることが求められている。
【0016】
本発明の目的は、無線通信用のICタグの通信可能距離を改善することが可能であって、読み取り方向の制限が緩和された情報記憶媒体、管理対象物品および管理システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、情報が記憶される無線ICタグと、
第1のスペーサ、補助アンテナおよび第2のスペーサを有するシート体と、
導電性材料で構成される長尺部材とを備え、
前記シート体は、
前記無線ICタグを前記補助アンテナと結線しないで配置する配置面を有する前記第1のスペーサと、
孔、切り欠きまたは間隙部が設けられ、第1のスペーサの前記配置面とは反対側の面に設けられる前記補助アンテナと、
前記補助アンテナを挟んで第1のスペーサとは反対側に設けられる前記第2のスペーサとが積層されて成り、
前記長尺部材は、前記シート体に対して前記無線ICタグとは反対側に設けられることを特徴とする情報記憶媒体である。
【0018】
また本発明は、前記長尺部材は、帯状の金属部材または棒状の金属部材であることを特徴とする。
【0019】
また本発明は、前記長尺部材は、直線状部分、曲線状部分、または折れ曲がり部分の少なくとも1つを有する金属部材であることを特徴とする。
【0020】
また本発明は、前記長尺部材は、工具または装置の一部を構成する金属部材であることを特徴とする。
【0021】
また本発明は、前記第2のスペーサと前記長尺部材との間に裏面導体層をさらに設けたことを特徴とする。
【0022】
また本発明は、前記孔、切り欠きまたは間隙部は、前記無線ICタグが備えるICチップまたはリアクタンス装荷部に対向するように設けられることを特徴とする。
【0023】
また本発明は、前記第1のスペーサおよび前記第2のスペーサの少なくともいずれか1つは、発泡体からなることを特徴とする。
【0024】
また本発明は、外表面の一部または全部を誘電材料で被覆したことを特徴とする。
また本発明は、上記の情報記憶媒体を備えることを特徴とする管理対象物品である。
【0025】
また本発明は、上記の情報記憶媒体または上記の管理対象物品と、
前記情報記憶媒体から無線通信によって、前記無線ICタグに記憶される情報を読み取る読取装置と、
前記読取装置によって読み取った前記情報と、前記読取装置が前記情報記憶媒体から前記情報を読み取ったときの通信状態とに基づいて前記情報記憶媒体を管理する管理装置とを備えることを特徴とする管理システムである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、情報が記憶される無線ICタグと、第1のスペーサ、補助アンテナおよび第2のスペーサを有するシート体と、導電性材料で構成される長尺部材とを備える情報記憶媒体である。
【0027】
シート体は、前記無線ICタグを前記補助アンテナと結線しないで配置する配置面を有する前記第1のスペーサと、孔、切り欠きまたは間隙部が設けられ、第1のスペーサの前記配置面とは反対側の面に設けられる前記補助アンテナと、前記補助アンテナを挟んで第1のスペーサとは反対側に設けられる前記第2のスペーサとが積層されて成り、前記長尺部材は、前記シート体に対して前記無線ICタグとは反対側に設けられる。
【0028】
シート体を用いることにより、導電性材料で構成される長尺部材の近傍であっても、無線ICタグを通信可能とするとともに、長尺部材がアンテナとして機能することで、無線ICタグの読み取り方向に対する制限が緩和される。
【0029】
また本発明によれば、前記長尺部材は、帯状の金属部材または棒状の金属部材が好ましく、このような形状とすることで効率よくアンテナ機能を発揮する。
【0030】
また本発明によれば、前記長尺部材として、直線状部分、曲線状部分、または折れ曲がり部分の少なくとも1つを有する金属部材であることが好ましく、このような形状の金属部材とすることでアンテナ機能の通信距離を伸ばしたり、通信周波数の波長を広帯域化するという高性能化や小型化が達成される。
【0031】
また本発明によれば、前記長尺部材は、工具の一部を構成する金属部材とすることで、無線ICタグにより工具を効率よく管理することが可能となる。
【0032】
また本発明によれば、前記第2のスペーサと前記長尺部材との間に裏面導体層をさらに設けることが好ましい。
【0033】
また本発明によれば、前記孔、切り欠きまたは間隙部は、前記無線ICタグが備えるICチップまたはリアクタンス装荷部に対向するように設けられる。
【0034】
これにより、補助アンテナが導体材料として無線ICタグに与える影響を小さくし、シート体による通信改善効果をさらに向上させることができる。
【0035】
また本発明によれば、前記第1のスペーサおよび前記第2のスペーサの少なくともいずれか1つは、発泡体からなる。
発泡体を用いることで、軽量化、薄型化することができる。
【0036】
また本発明によれば、外表面の一部または全部を誘電材料で被覆する。
これにより、外部からの不要電磁波の影響や、周辺環境からの影響を小さくし、通信改善効果をさらに向上させることができ、さらに防水性、耐衝撃性、絶縁性を付与することができる。
【0037】
また本発明によれば、上記の情報記憶媒体を備える管理対象物品である。情報記憶媒体は、外装しても内装してもよい。
【0038】
これにより、工具、道具、装置、機器などを管理対象物品として容易にRFID機能、タグ機能、無線通信機能を付与することができ、工具、道具、装置、機器、あるいは情報などを、情報記憶媒体を利用して管理することができる。
【0039】
さらに本発明によれば、読取装置が、上記の情報記憶媒体から無線通信によって、前記無線ICタグに記憶される情報を読み取り、管理装置が、前記読取装置によって読み取った前記情報と、前記読取装置が前記情報記憶媒体から前記情報を読み取ったときの通信状態とに基づいて前記情報記憶媒体を管理する。
【0040】
これにより、従来では目視や作業者の申告により管理していた工具類などの管理を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の一形態である情報記憶媒体100の外観図である。
【図2】情報記憶媒体100の構成を示す断面図である。
【図3】シート体1の平面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に用いるシート体31の平面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に用いるシート体41の拡大断面図である。
【図6】実施例1の測定結果を示す図である。
【図7】実施例2の測定結果を示す図である。
【図8】実施例3,4および比較例の測定結果を示す図である。
【図9】実施例5の構成を示す外観図である。
【図10】自由空間における通信距離に対する長尺部材の長さの影響を示すグラフである。
【図11】実施例5の測定結果を示す図である。
【図12】実施例6の構成を示す平面図である。
【図13】実施例6における最小起動電力の周波数依存性を示すグラフである。
【図14】他の実施例の構成を示す平面図である。
【図15】情報記憶媒体のセンシング機能の測定方法を示す模式図である。
【図16】ボトル内の水位と通信距離との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下図面を参考にして本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。
本発明の情報記憶媒体は、情報が記憶される無線ICタグと、シート体と、導電性材料で構成される長尺部材とを備え、無線ICタグと長尺部材とが、シート体を挟んで両側に設けられる。また、シート体は、第1のスペーサ、補助アンテナおよび第2のスペーサが積層されて成り、補助アンテナには、孔、切り欠きまたは間隙部が設けられている。
【0043】
図1は、本発明の実施の一形態である情報記憶媒体100の外観図である。本実施形態では、作業用工具であるねじ回し10の本体部11を長尺部材とした例について説明する。
【0044】
情報記憶媒体100は、シート体1と、ねじ回し10と、無線ICタグ20とで構成される。
【0045】
ねじ回し10は、本体部11と握り部12とで構成され、本体部11は硬鋼線材などの導電性材料からなり、握り部12は木材や樹脂などの非導電性材料からなる。シート体1の表面には無線ICタグ20が配置され、無線ICタグ20の反対側に、ねじ回し10の本体部11が位置するように配置される。
【0046】
従来、ねじ回しに無線ICタグを取り付ける場合は、握り部のどこかに小型タグを埋め込むことが検討されていた。この場合は、埋め込み専用のねじ回しとして設計、製造する必要があり、また利用者もその特注製品を購入しなければならなかった。しかし、人の手で握り部を握ると小型タグが通信できなくなり、タグサイズの制限から長距離の安定した通信およびRFID通信はできなかった。
【0047】
図2は、情報記憶媒体100の構成を示す断面図である。
無線ICタグ20は、情報が記憶されるICチップ21と、特定の周波数の電波を送受信可能なアンテナ22とで構成される。
【0048】
シート体1は、無線ICタグ20を結線しないで配置する配置面2aを有する第1のスペーサ2と、第1のスペーサ2の配置面2aとは反対側の面に設けられる補助アンテナ3と、補助アンテナ3を挟んで第1のスペーサ2とは反対側に設けられる第2のスペーサ4とが積層され、補助アンテナ3には、孔、切り欠きまたは間隙部Sが設けられる。以下では、孔、切り欠きまたは間隙部を個別に称する場合においても共通の符号Sを付す。
【0049】
本来、無線ICタグ20は、導電性材料からなる本体部11の近傍では無線通信が妨害されて通信距離が短くなってしまうが、シート体1を用いることで無線通信が可能となる。
【0050】
まずは、シート体1による無線ICタグ20の通信改善について説明する。
シート体1は、補助アンテナ3に、孔(スロット)、切り欠き(スリット)または間隙部を設けることで、無線ICタグ20の通信改善を可能としている。無線ICタグ20のアンテナ22と補助アンテナ3とは、孔、切り欠きまたは間隙部Sを通じて電磁的に結合し、補助アンテナ3による無線通信が可能となり、その結果通信可能距離を改善することができる。
【0051】
補助アンテナ3に孔、切り欠きまたは間隙部Sを設けることで、無線ICタグ20のアンテナ22の共振動作に応じて孔、切り欠きまたは間隙部Sに、アンテナ形状の長軸方向に沿って電界が発生するため、これを介することでアンテナ22(およびICチップ21)と補助アンテナ3間の電磁的結合が活性化することになる。さらに、孔、切り欠きまたは間隙部Sは導体層の電気抵抗を上げるため、導体層に発生するアンテナに対応した誘導電流を抑えることが可能となる。
【0052】
補助アンテナ3は、孔、切り欠きまたは間隙部Sを介することで無線ICタグ20と結線しなくとも電磁エネルギを受け渡す機能を有することやICチップ21への情報とICチップ21からの情報の伝搬経路もその内部で重畳化することにより、従来の遠方とのアンテナ動作に加え近傍での無線ICタグ20との電磁エネルギの受け渡しという動作メカニズムにも対応している。
【0053】
補助アンテナ3は、無線ICタグ20と組み合わせたときに、全体として無線通信周波数に共振する構成であり、補助アンテナ3の共振層は、共振する部位は一つでも複数でもよいが、その部位は無線通信周波数の電波の波長をλとすると、共振部位はλ/8〜3λ/4の範囲に入る寸法を有している。
【0054】
このように、シート体1は、無線ICタグ20に貼り合わせるだけで無線ICタグ20の通信改善を行うことが可能となる。市販の無線ICタグはそれぞれの設計により、チップインピーダンスの値が異なっている。このインピーダンスは静置の場合と動作時の場合でも異なるし、また動作条件でも受信するエネルギ量に依存して変化する。これら不安定で、変動しやすいインピーダンスを持つ無線ICタグに、後から貼り付けるだけでインピーダンス整合および改善を実現できるところが本発明の無線通信改善シート体の特徴である。
【0055】
さらにシート体1は、パッチアンテナと異なり、電磁結合を介して近接または近傍に配置される導体をアンテナとして利用して電波を送受信できるため、導電性材料で構成される長尺部材あるいは被着物質をアンテナとし、さらなる効果が発揮される。
【0056】
無線ICタグ20と長尺部材である本体部11との間にシート体1を設けることで、無線ICタグ20とねじ回し10の本体部11とが互いに干渉するような影響はなくなり、長尺部材である本体部11にアンテナ機能を移譲することができる。
【0057】
これにより、無線ICタグ20の近傍にある導電性材料で構成される長尺部材を通信妨害部材ではなく、アンテナとして活用し、無線ICタグ20の読み取り方向に対する制限を緩和することができる。
【0058】
たとえば、本体部11が延びる方向を中心軸として、この軸線まわりに無線ICタグ20の読み取りを行った場合、軸線まわりの全周にわたって無線ICタグ20の読み取りが可能となる。
【0059】
シート体1に無線ICタグ20を配置した場合、無線ICタグ20の反対側から無線ICタグ20に記憶される情報を読み取ることはできないが、本発明のように、長尺部材を設けると無線ICタグ20の反対側、すなわち長尺部材側からであっても無線ICタグ20に記憶される情報を読み取ることが可能となる。
【0060】
従来、シート体1に無線ICタグ20を配置した場合でも、シート体1に設けられる裏面導体層あるいはこれに変わる機能を持つ導電性被着物質の存在により、電波通信できる方向は裏面導体層や導電性被着物質の存在しない方向に限られていた。つまり裏面導体層や導電性被着物質の存する方向は電波の届かない、いわゆる死角となり、無線通信に於いてヌルとなっていた。
【0061】
もちろん電波が漏洩する形で、それらの死角部分でも通信が成立することはあるが、意図的に設計されたものではなく、通信性能も不十分なものであった。本発明は、従来電波を飛ばす目的を有していなかった裏面導体層や導電性被着物質を積極的にアンテナとして活用するように設計したものである。この結果、従来よりも長い通信距離、広い指向性、広帯域特性を付与することが可能となっている。もちろん、裏面導体層や導電性被着物質がアンテナと機能しない場合(たとえば、裏面導体層、長尺部材または被着物質が広い金属板の上に置かれている場合など)はシート体1が、補助アンテナとして機能して通信を補うことができることも特徴である。
【0062】
このように、長尺部材がアンテナとして機能するのは、無線ICタグ20のICチップ21を、シート体1の補助アンテナ3に設けられた孔、切り欠きまたは間隙部Sにより、長尺部材の影響を受けないように保護し、アンテナからの給電整合を保持しているため、ICチップ21と長尺部材である本体部11とを電磁結合により非接触であっても、あるいは導電性部分を介してでも結び付けることができるからである。この結果、無線ICタグ20のICチップ21を利用しながらも、電波を送受信するアンテナとしては、シート体1の補助アンテナ3と長尺部材である本体部11とから選択することが可能となる。
【0063】
以上のように、導電性材料で構成される長尺部材をアンテナとして活用できることで、無線通信の死角がなくなり、無線ICタグ20の読み取り方向に対する制限を緩和することができる。さらに、十分な長さのアンテナを得られることになり通信特性も向上することになる。この場合に動作するアンテナの種類は選ばないが、たとえば代表的なダイポールアンテナとすることができる。
【0064】
無線ICタグ20の共振周波数での波長をλとすると、ダイポールアンテナの共振長は、(λ/2)×n(n:整数)であり、このサイズを有する部分が長尺部材のどこかにあればよく、共振周波数が高ければ、共振に必要なサイズが小さくなるので、情報記憶媒体全体として小型化できることになる。たとえば、UHF帯RFIDの認可周波数である953MHz帯の波長λは、約31.5cmであり、λ/2である約15.7cmの整数倍の長さを有する長尺部材はダイポールアンテナとして機能する。ダイポールアンテナは放射効率が高い高性能なアンテナであり、その長さが完全に共振長に一致していなくても十分な通信距離を得ることができる。また共振部位は、導電性材料中に共振電流が流れる経路長によって決まるため、導電性材料の外形サイズと一致しているとは限らない。
【0065】
本実施形態では、長尺部材としてねじ回し10の本体部11を利用している。ねじ回しなどの作業用器具、および直定規などの測定工具など(以下では単に「工具類」と略称する場合がある)は、人間工学的な見地から、人間の手のひらから肘までの距離の約半分から同等の長さで、挟んだり、捻ったり、押したり等の動作が加えられているようになっている。この長さは、UHF帯RFIDの国際認可周波数の電波のλ/2である約14cm〜18cmの整数倍に該当することになる。
【0066】
また、工具類の主要な構成部分は、金属材料で構成される場合がほとんどであるので、無線ICタグ20とシート体1とを貼り付けた工具類自体が、ダイポールアンテナとして機能することになる。
【0067】
また長尺部材の形状、長尺部材に対するシート体1の配置位置などを適宜変更することで、長尺部材は、ダイポールアンテナだけではなく、モノポールアンテナ、ループアンテナ、スリットアンテナ、またはパッチアンテナとしてのアンテナ機能を有することも可能である。長尺部材は、直線状部分、曲線状部分、または折れ曲がり部分の少なくとも1つを有する形状が好ましい。したがって、折り曲げて使用することができるし、曲率を持たせることも、蛇行させることも可能である。また、部材の内部に空洞があってもよいし、複数の部材が組み合わさって構成されてもよく、これらを複合させてもよい。さらに長尺部材には孔や切り欠きが設けられていてもよく、曲げ、折り、組み付けなどを付与された3次元構造でもよい。また長尺部材が釘、杭などの保持具や取り付け具として機能するものであってもよい。
【0068】
これにより、長尺部材にアンテナ機能を移して、それらを無線ICタグ20の無線通信のためのアンテナとして利用することで、無線通信が不可能な位置(ヌル域)を解消し、さらに長距離通信を実現することが可能となる。
【0069】
また、アンテナ機能を有する長尺部材を外皮層とすれば、剛性の高い金属を外皮層として用いることができ、情報記憶媒体に容易に耐衝撃性を付与することができる。
【0070】
以下では、シート体1の構成について詳細に説明する。図3は、シート体1の平面図である。
【0071】
シート体1は、上記のように、第1のスペーサ2、補助アンテナ3、第2のスペーサ4を備え、第1のスペーサ2、補助アンテナ3に溝状の切り欠きSが設けられている。
【0072】
第1のスペーサ2は、無線ICタグ20のアンテナ22と補助アンテナ3との間を絶縁する誘電体層で構成される。
【0073】
補助アンテナ3は、無線ICタグ20の通信周波数で共振することで、無線ICタグ20のアンテナ22と電磁的に結合し、しかもそれ自身が共振アンテナとして機能する。
【0074】
第2のスペーサ4は、補助アンテナ3と長尺部材である本体部11との間を絶縁する誘電体層で構成される。
【0075】
第1のスペーサ2、補助アンテナ3、第2のスペーサ4は、それぞれ同一の外形寸法を有し、この順に積層してシート体1を構成する。
【0076】
シート体1を積層方向から見たときの平面形状は、実装する無線ICタグの形状にもよるが、多くは矩形状である。また、シート体1の総厚みは、約0.5〜15mmである。
【0077】
本実施形態では、シート体1の平面形状は長方形であり、短辺方向に平行で、長辺方向中央部に開放する、直線状の切り欠き(スリット)Sが設けられる。直線状の切り欠き形状から、以下では本実施形態の切り欠きSをIO型、シート体1をIO型シート体と呼ぶことがある。図3の平面図では、切り欠きSの位置がシート体1のほぼ中央に位置しているが、必ずしも中央部とは限らない。無線ICタグ20のICチップ21やその接合部およびリアクタンス装荷部の位置に応じて適宜切り欠きSの位置の位置を設定することができる。
【0078】
切り欠きSは、図2の断面図に示すように、第1のスペーサ2と補助アンテナ3とを積層方向に貫通し、その結果第2のスペーサ4が溝の底を形成する構成となっている。従って切り欠きSの深さは、第1のスペーサ2の厚みと補助アンテナ3の厚みとの和と同じとなり、たとえば0.05〜10mmである。
【0079】
切り欠きSの長さLは、シート体1の短辺方向長さL0に対して3〜97%となる長さに形成され、たとえば3〜194mmである。
【0080】
切り欠きSの幅Wは、ICチップ21やその接合部分およびリアクタンス装荷部の大きさなどによるが、たとえば1〜180mmである。このような切り欠きSを設けることで、配置面2aに配置された無線ICタグ20のアンテナ22と、補助アンテナ3とが、この切り欠きSを介して電磁的に結合し、補助アンテナ3が共振アンテナとして機能する。さらに、ICチップ21の直下に切り欠きSを設けることで、ICチップ21に対する補助アンテナ3の導電体としての影響を小さくすることができる。
【0081】
第1のスペーサ2および第2のスペーサ4は、それぞれ無線ICタグ20と補助アンテナ3とを絶縁し、補助アンテナ3と本体部11とを絶縁するとともに、誘電体層として波長短縮効果の影響を与えることで、補助アンテナ3の共振周波数を調整する。補助アンテナ3と本体部11との間には電界=0となる部分が形成される場合があり、その場合は電界=0の部分にビアを設けるなど補助アンテナ3と本体部11とを導通させても動作は可能である。
【0082】
第1のスペーサ2および第2のスペーサ4は、無線ICタグ20と補助アンテナ3、および補助アンテナ3と本体部11の位置関係を保つことができれば、電磁エネルギの損失の低い、すなわち通信周波数帯域で誘電正接tanδ(ε”/ε’)または磁性正接tanδ(μ”/μ’)の低い材料を用いることが好ましい。たとえば空間でもよいが、一般には下記に例示するような有機材料を用いることが好ましい。
【0083】
有機材料としては、たとえばゴム、熱可塑性エラストマー、各種プラスチック、木材、紙材、などの高分子有機材料等を用いることができる。またそれらの多孔質体も用いることができる。前記ゴムとしては、天然ゴムのほか、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDMゴム)、エチレン−酢酸ビニル系ゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、エチレンアクリル系ゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、水素添加ニトリルゴム(HNBR)などの合成ゴム単独、それらの誘導体、もしくはこれらを各種変性処理にて改質したものなどが挙げられる。これらのゴムは、単独で使用するほか、複数をブレンドして用いることができる。
【0084】
熱可塑性エラストマーとしては、たとえば塩素化ポリエチレンのような塩素系、エチレン系共重合体、アクリル系、エチレンアクリル共重合体系、ウレタン系、エステル系、シリコーン系、スチレン系、アミド系、オレフィン系などの各種熱可塑性エラストマーおよびそれらの誘導体が挙げられる。
【0085】
さらに、各種プラスチックとしては、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩素系樹脂;ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル系樹脂、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エステル系樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル、ポリスルホン、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂などの熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂およびこれらの誘導体、さらには共重合体やリサイクル樹脂等が挙げられる。
【0086】
以上の材料をそのままか、複合化、変性化して用いることができる。たとえば、カーボン、黒鉛、グラファイト、酸化チタン、炭素繊維、カーボンチューブ、黒鉛繊維等のフィラーを複合化して誘電率を上げることで波長短縮効果によりシート体1の小型化が実現する。また補強材を充填した強化樹脂を用いてもよいし、無線ICタグや補助アンテナの構成材料、たとえば基材、粘着材、接着剤、被覆材などをスペーサ材としてもよい。
【0087】
たとえば、EPDMゴムに酸化チタンをフィラーとして混合することで、高誘電率材料であって、さらに柔軟性を有するスペーサが実現できる。また、第1のスペーサ2と第2のスペーサ4とは、同じ材料であっても、異なる材料であってもよい。異なる材料である場合、たとえば、第1のスペーサ2としてPETフィルムを用い、第2のスペーサ4としてEPDMゴムに酸化チタンを混合した混合材料を用いる。
【0088】
これにより、シート体1を小型化するとともに、長尺部材の形状に十分に追従することができる柔軟性を、シート体1に付与することができる。
【0089】
第1のスペーサ2および第2のスペーサ4を構成する誘電体材料は、たとえば密度が1.0g/cm3未満であることが好ましい。
【0090】
このような低密度の誘電体材料としては、多孔質有機材料、多孔質無機材料から選ばれる1または複数の材料を使用する。発泡しない材料を用いてもよいし、発泡しない材料と発泡材料を組み合わせてもよい。以上の他、スペーサの材料としてはダンボールなどの紙材、木材、ガラス、ガラス繊維、土系材料なども使用可能である。
【0091】
発泡方法として手段は問わないが、発泡剤添加、または熱膨張性微粒子添加等に分類される。発泡剤は有機系発泡剤と無機系発泡剤がある。
【0092】
有機系発泡剤としては、たとえばジニトロソペンタメチレンテトラミンDPT、アゾジカルボンアミド(ADCA)、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、ヒドラジドジカルボンアミド(HDCA)等が添加されるが、それに限られたものではない。
【0093】
無機系発泡剤としては、炭酸水素ナトリウムなどが添加されるがそれに限られたものではなく、材料に応じて適宜選択して添加してもよい。
【0094】
また熱膨張性微粒子としては、マイクロカプセル化した熱膨張性微粒子小球などが添加される。さらにガラスビーズ、ガラス中空体などの無機および有機材料から成る中空材料を添加するものでもよい。
【0095】
発泡倍率も特に限定されるものではないが、吸収体の厚み変化が少なく、強度が保持され、かつ軽量化ができるような形態にする必要がある。これらから好ましくは、発泡倍率は2〜30倍程度が好ましい。
【0096】
発泡構造については特に限定されるものではないが、圧縮方向に強い構成、たとえば厚み方向に扁平発泡された発泡形態が好ましい。
【0097】
木材として、合板、ラワン材、パーチクルボード、MDF等の木質材料でありその材料に本質的な制限を受けるものではなく、複数の材料を組み合わせて用いることもできる。
【0098】
多孔質無機材料として、各種セラミック材料、石膏ボード、コンクリート、発泡ガラス、軽石、アスファルト、土材などが挙げられるが、それに限られるものではない。
【0099】
また無線ICタグ20の基材や各層を貼り合わせるための粘着材層をスペーサの材料とすることも可能である。粘着材層は全面でなく、部分的に設けられていてもよい。第1のスペーサの機能としては、無線ICタグ20と補助アンテナ3とが電気的に導通しなければ十分であるので、空気すなわち無線ICタグ20と補助アンテナ3との間に空間が設けられていてもよい。
【0100】
第1のスペーサ2および第2のスペーサ4は、受信した電波エネルギをできる限り損失無く送信エネルギに変える必要があるため、できる限りエネルギ損失が少ない材料を選定する必要がある。そのためには無線ICタグ20が無線通信に利用する電磁波の周波数において誘電正接tanδ(ε”/ε’)が0.5以下であることが好ましく、より好ましくは0.2以下である。
【0101】
スペーサ材としては高誘電率、柔軟性および低誘電正接tanδ(ε”/ε’)を兼ねているのが好ましいが、より重要なのは通信周波数帯域(UHF帯等)で低い誘電正接tanδを示すことである。
【0102】
さらに複素比誘電率の実部ε’が高ければシート寸法の薄型化、小型化が可能となり得るため、ε’としては1〜50であることが好ましい。ただし、様々なパラメーターによりシートは構成されるため上記数値に限ったものではない。以上の材料は、第1のスペーサ2および第2のスペーサ4の材料としてだけではなく、情報記憶媒体100の外表面の一部または全部を被覆する誘電材料としても用いることができる。
【0103】
補助アンテナ3は、導電性を有する導電性材料から構成される。
補助アンテナ3を構成する導電性材料としては、金、白金、銀、ニッケル、クロム、アルミニウム、銅、亜鉛、鉛、タングステン、鉄などの金属であってもよく、樹脂に上記金属の粉末、導電性カーボン系材料の混入された樹脂混合物、あるいは導電性樹脂のフィルム等であってもよい。上記金属等を、箔状、板状、シート状、フィルム状等に加工されたものであってもよい。あるいはまた合成樹脂性フィルム上に、膜厚たとえば600Åの金属薄層が形成された構成を有してもよい。金属箔をフィルムもしくはクロスなどの基材に転写したものでもよい。また、導電インク(たとえば抵抗率10Ω/sq.以下)を第1のスペーサ2、第2のスペーサ4に塗布してもよい。
【0104】
補助アンテナ3の共振層は特定周波数の電波に対応する波長に応じたサイズに決まるが、裏面導体層5のサイズに制限はない。またこの裏面導体層5はたとえば金属製品のみに貼るなどの電磁遮蔽性を有する材料、つまり裏面導体層と同等の機能を有する材質に貼る場合はなくてもよい場合がある。
【0105】
切り欠きSは、一般的な形成方法で形成することができる。第1のスペーサ2においては、打ち抜き、切削などの機械的加工を用いたり、エッチングなどの化学的加工を用いて誘電体材料からなる板状部材から孔または切り欠きとなる所定の部分を除去すればよい。また、使用する誘電体材料によっては、成型時に予め孔または切り欠きが設けられた形状に成型することも可能である。
【0106】
補助アンテナ3においても、第1のスペーサ2と同様に機械的、化学的加工を用いて孔または切り欠きとなる所定の部分を除去すればよい。また、予め切り欠きが設けられた形状となるように、スペーサに直接印刷、蒸着、塗工することも可能である。
【0107】
上記のような方法を用いて、第1のスペーサ2と補助アンテナ3のそれぞれに孔または切り欠きを形成してもよく、第1のスペーサ2に予め補助アンテナ3を積層しておき、両者に同時の孔または切り欠きを形成してもよい。
【0108】
孔または切り欠きは、電気抵抗を上昇させるものであればその形状に制限はない。また孔、切り欠き、または間隙部の寸法は無線通信の電波の周波数に対して共振するものであっても、共振するものでなくてもよい。
【0109】
図4は、本発明の他の実施形態に用いるシート体31の平面図である。本実施形態では、図2などに示した実施形態とシート体の構成が異なるのみであり、他の構成は上記の実施形態と同様であるので、シート体31についてのみ説明する。
【0110】
本実施形態では、シート体31の平面形状は長方形であり、その長辺方向中央部に、短辺方向に平行な直線状の孔S1と、短辺方向に所定の間隔を空けて、長辺方向に平行な2本の直線状孔S2とが設けられ、孔S1と孔S2とは、中央部分で交差するとともに、直線状の孔S1は、孔S1より外側に突出しないように設けられる。このような2本の孔S2と、その中央部分で2本の孔S2を結合するように設けられる孔S1の形状から、以下では本実施形態の孔S2をH型孔S2、シート体31をH型シート体と呼ぶことがある。
【0111】
孔S1および孔S2の断面は、図2に示した断面図と同様で、第1のスペーサ2と補助アンテナ3とを積層方向に貫通し、その結果第2のスペーサ4が溝の底を形成する構成となっている。また、孔S1と孔S2の深さおよび幅は異なっていてもよいが、ここでは同じである。
【0112】
孔S2の深さは、第1のスペーサ2の厚みと補助アンテナ3の厚みとの和と同じとなり、たとえば0.1〜10mmである。孔S1および孔S2の幅Wは、ICチップやその接合部分およびリアクタンス装荷部の大きさなどによるが、たとえば1〜180mmである。
【0113】
孔S1の長さL1は、たとえば5〜200mmであり、孔S2の長さL2は、たとえば10〜200mmである。たとえば、本実施形態とは異なり、孔S1および孔S2の交差する箇所が、それぞれの中央部分になくてもよく、2本の孔S2が、それぞれ異なる長さ、幅、深さであってもよい。
【0114】
このような孔S1および孔S2を設けることで、配置面2aに配置された無線ICタグ20のアンテナ22またはICチップ21と、補助アンテナ3とが、この孔S1および孔S2を介して電磁的に結合し、補助アンテナ3が共振アンテナとして機能する。さらに、ICチップ21の直下に孔S1が設けられ、アンテナ22のループ部に孔S2が設けられるので、ICチップ21およびループ部(リアクタンス装荷部)に対する補助アンテナ3の導電体としての影響を小さくすることができる。
【0115】
図5は、本発明の他の実施形態に用いるシート体41の拡大断面図である。上記の実施形態では、第1のスペーサ2および補助アンテナ3に、第2のスペーサ4を底とする切り欠きSまたは孔S1を設ける構成について説明したが、第1のスペーサ2には、孔または切り欠きを設けず、補助アンテナ3のみに孔、切り欠き、または間隙部を設けるような構成であってもよい。
【0116】
本実施形態の製造方法としては、孔、切り欠き、または間隙部が設けられた補助アンテナ3に、孔または切り欠きが設けられていない第1のスペーサ2を貼り付けてもよいし、一旦、第1のスペーサ2および補助アンテナ3に孔、切り欠き、または間隙部を設けたのち、これを埋めるようにしてもよい。
【0117】
補助アンテナ3に設ける孔、切り欠き、または間隙部の形状や個数は、図に示した例に限定されるものではなく、複数の孔があってもよいし、組み合わせたものでもよいし、完全に補助アンテナを分割するような形状でもよい。また多角形状だけでなく、線状、棒状、円状、円弧状、曲線状、不定形状等で任意の形状でよい。これらが上下方向または横方向に分布することもある。
【0118】
シート体は、配置面2aには無線ICタグ20を配置し、配置面とは反対側の面には、長尺部材に貼り付けるために、これらの面のうちの少なくとも1つの面は、粘着材または接着剤を有することが好ましい。被着物質に固定するために、磁石材、ねじ止め、固結バンドまたはテープ等を用いることもできる。これにより、無線ICタグ20の配置や、長尺部材への取り付けが容易になる。
【0119】
長尺部材への取り付けには、たとえば、熱収縮性のカバー部材を用いてもよい。熱収縮性のカバー部材は、予め筒状に形成されており、長尺部材とシート体1と無線ICタグ20とを筒内に収納して外部から熱風などにより加熱することでカバー部材が収縮して、長尺部材とシート体1と無線ICタグ20とを外部から固定することができる。
【0120】
カバー部材として用いることのできる材料としては、熱収縮性に限らず刺激や外部要因によりシート体1と無線ICタグ20とを長尺部材に固持できるものであればどのような材料でも使用可能である。刺激や外部要因としては熱、圧力、温度変化、反応、磁力などある。ネジや締め付けなどの物理的な方法でもよい。
【0121】
具体的な材料としては、電子線架橋軟質ポリオレフィン樹脂、電子線架橋軟質難燃性ポリオレフィン樹脂、軟質難燃性ポリ塩化ビニル樹脂、電子線架橋半硬質難燃性ポリフッ化ビニリデン樹脂、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、ニトリルブタジエンゴムなどの材料を用いることができるが、これらに限定されることはなく種々の材料を使用できる。
【0122】
上記では、長尺部材としてねじ回しの本体部を例として説明したが、これに限らず、工具類の一部を構成する金属部材であって、帯状の金属部材または棒状の金属部材であればよい。
【0123】
工具類としては、切削工具、作業用器具、測定工具などが挙げられる。切削工具としては、たとえば、バイト、ドリル、フライス、リーマ、歯切工具、ねじ加工工具、超硬工具、ハクソー、機械刃物、木工用のこぎり、やすりなどが挙げられる。作業用器具としては、スパナ、レンチ、ペンチ、ねじ回し、万力、ハンマ、パイプ用工具などが挙げられる。測定工具としては、たとえば、マイクロメータ、ノギス、ゲージ、定規などが挙げられる。
【0124】
これらの工具類において、帯状の金属部材または棒状の金属部材となる部分があればその部分については、全て長尺部材として利用することができる。
【0125】
工具類は、所定の置き場所に有るか無いか、所定の場所から持ち出された否かなどの管理が重要であるにもかかわらず、これらの判断は、目視であったり、使用する作業者本人による申告に依存しており、十分な管理が成されているとはいえない。また、工具類を従来の無線ICタグで管理しようとしても、そもそも導電性材料で構成された工具類に無線ICタグを貼り付けても通信が不可能であったり、通信可能であったとしても、リーダによって読み取る方向に制限があるため、無線ICタグによる管理は困難である。バーコードによる個別読み取りによる管理がなんとか実用化されていたに過ぎない。
【0126】
これに対して、本発明を適用すると、工具類に取り付けた無線ICタグが通信可能となるだけでなく、読み取り方向についても制限なく読み取れるので、無線ICタグによる工具類の管理が可能となる。また読み取り距離が長く、光の届かない所にある工具も読み取ることができる。これは、たとえば建物の壁の中の補強材の位置や、地中にある配管などや水中にある物体や、監視センサ、電灯、アクセスポイント、電線、ケーブル、配線、鋼材、電子機器、監視機器、または空調設備などの建物や工場のどこかに配置されている、あるいは天井、天井裏、床下あるいは壁際にある配管、部材、蒸気管、ガスや水道管、通信線、空調管などのあらゆるものを、リーダで室内、屋内、地上や床上、屋上などの人が危険に晒されない安全あるいはスペースに余裕のある位置から読み取りでき、必要なデータを収集できることを意味している。また、物品に対して上記のようなロケーション管理だけでなく、状態管理および環境管理など物品に関する各種情報を管理することができる。さらに情報記憶媒体100の環境に応じた読取性能の差異を利用してセンサ機能を発揮し、情報管理をすることもできる。
【0127】
さらに本発明の無線ICタグは携帯電話装置などの電子機器、産業機器、製造装置等に外付けまたは内装することで無線通信機能を容易に付与できることになる。本発明タグを外装または内装することで装着した工具、部材、装置、機器、機械等は、容易に無線通信、タグ管理、RFID管理できるようになることから、それらの工具、部材、装置、機器、機械等も情報記憶媒体である本発明タグを利用した管理対象物品となる。
【0128】
本発明のさらに他の実施形態として、管理システムが挙げられる。管理システムとしては、情報が記憶される無線ICタグ、シート体、および長尺部材を備える情報記憶媒体と、情報記憶媒体から無線通信によって、無線ICタグに記憶される情報を読み取る読取装置と、読取装置によって読み取った情報と、読取装置が情報記憶媒体から情報を読み取ったときの通信状態とに基づいて情報記憶媒体を管理する管理装置とで構成される。読取装置(リーダ)は、読み取り機能以外に書き込み機能を有するリーダライターであってもよい。
【0129】
読取装置としては、一般的な無線ICタグリーダを用いることができる。管理装置は、読み取ったID情報と、読み取りの可・不可や、読み取ったときの電波強度などの通信状態とに基づいて、情報記憶媒体の読み取り時での状態を判断して、情報記憶媒体を管理する。たとえば、所定の位置にあるべき工具類のうち、現在どの工具類が有り、どの工具類が無いのか、いつどのような工具類が所定の場所から持ち出されたのかなどを管理することができる。また工具だけではなく、被着物質の情報管理、位置管理、状態把握、在庫管理、電子決済などが可能となる。
【0130】
本発明の情報記憶媒体を、長尺部材が金属板などの導電性部材、水などの誘電性部材に接触するように配置した場合、長尺部材によるアンテナ機能は失われてしまうが、シート体による無線通信改善機能は依然として発揮される。
【0131】
したがって、本発明の情報記憶媒体を導電性部材や誘電性部材に接触させない状態で使用する場合は、長尺部材のアンテナ機能が発揮され、通信距離を伸ばすとともに無線ICタグの読み取り方向に対する制限が緩和され、本発明の情報記憶媒体を導電性部材や誘電性部材に接触させた状態で使用する場合は、接触させない状態に比べて通信距離が短くなり、読み取り方向も無線ICタグが配置される側から読み取る方向に制限される。すなわち、本発明の情報記憶媒体は、通信環境が変化すると、通信距離および読み取り方向が変化するものといえる。
【0132】
このような特徴を利用すると、連続的または断続的に無線ICタグの読み取りを行い、読み取り結果の変化を検出することで、情報記憶媒体の通信環境の変化を検出することが可能となり、情報記憶媒体は、いわゆるセンシング機能を発揮する。
【0133】
通信環境の変化とは、たとえば、情報記憶媒体の長尺部材が導電性部材または誘電性部材に接触または近接した状態と、情報記憶媒体の長尺部材が導電性部材または誘電性部材から離間した状態との状態変化、および情報記憶媒体の長尺部材と導電性部材または誘電性部材との距離の変化を含む。
【0134】
情報記憶媒体をセンサとして用いる具体的な方法としては、たとえば塩化ビニル樹脂などの樹脂で構成される非金属製の水道管の外表面に、情報記憶媒体の長尺部材が該水道管に接触するように貼り付けて使用する。水道管の管内を水が流れていない場合、情報記憶媒体の長尺部材が導電性部材または誘電性部材から離間した状態となるので、長尺部材のアンテナ機能が発揮される。水道管の管内を水が流れている場合、情報記憶媒体の長尺部材に誘電性部材が近接することにより長尺部材のアンテナ機能が失われ、通信距離はシート体の通信改善効果のみが発揮される。
【0135】
したがって、水道管の管内を水が流れていない場合と、水道管の管内を水が流れている場合とでは、通信距離が変化する。水道管の管内を水が流れていない場合だと通信距離が長く、水道管の管内を水が流れている場合だと通信距離が短くなる。
【0136】
水道管の管内を水が流れていない場合と、流れている場合の通信距離を予め測定しておけば、無線ICタグの読み取り結果から、水道管の管内を水が流れているかいないかを検出できる。
【0137】
水道管は地中に埋設されていたり、壁の内部、天井などに隠されて敷設されることがあり、地表面付近、壁の外部、通路など人が作業し易い位置から、水道管表面に配置された情報記憶媒体の読み取りを行うことで、水道管の管内を水が流れているかいないか検出できる。
【0138】
水道管の外表面に一定の距離を空けて情報記憶媒体を配置しておき、水道管の破損などが起こった場合に、水道管の配設方向に沿って地表面付近から読み取りを行う。通信距離の違いにより、管内を水が流れている箇所と、流れていない箇所が検出されれば、その2箇所の間で水道管の破損が生じている可能性が高いと判断することができる。
【0139】
以上は水道管の状態変化をセンシングする例であるが、無線ICタグの通信距離に影響を及ぼすもの、例えば蒸気管による温度上昇、湿度や温度差で露点以下となり表面に水滴が凝結する配管、誘電体物質を搬送する配管などで管内の状態が変化するものなどであれば、その状態変化の監視用途に、本発明の情報記憶媒体を使用することが可能となる。
以下では本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0140】
IO型シート体を作製し、これに無線ICタグを貼り付け、さらに、ドライバ(ねじ回し)、スパナ、ニッパに取り付けて本発明の情報記憶媒体を作製した。
【0141】
IO型シート体は、外形寸法が縦10mm、横48mmとした。第1のスペーサ2は、厚み0.1mmのPET(ポチエチレンテレフタレート)フィルムを用いた。補助アンテナ3は、厚み0.05mmのアルミ箔層であり、切り欠きSは、長さLが8mm、幅Wが10mmとした。第2のスペーサ4は、厚み1mmのEPDMゴム100重量部と酸化チタンフィラー280重量部の混合物を用いた。各構成材の粘着および接着は任意であり、不要な場合もあるが、本実施例では粘着材を用いて固定化している。
【0142】
ドライバに取り付けたものを実施例1とし、ニッパに取り付けたものを実施例2とし、スパナに取り付けたものを実施例3とした。これらのドライバやニッパが本発明タグであり、情報記憶媒体である。
【0143】
実施例1について、ドライバの本体部は株式会社ベッセル製で、長さが183mmであり、握り部の近傍に、熱収縮性カバー部材(住友電工ファインポリマー株式会社製)を用いて無線ICタグおよびシート体を取り付けた。
【0144】
ドライバ本体部の長手方向が、鉛直方向と平行になるように配置し、リーダを無線ICタグと同じ高さの水平面上で、読み取り位置を30°ごとに変更しながら通信可能距離を測定した。このような読み取り条件を以下では「縦向き」とよぶ。ドライバ本体部の長手方向が、水平方向と平行になるように配置して同様に通信可能距離を測定した読み取り条件を以下では「横向き」とよぶ。
【0145】
縦向きでは、リーダと無線ICタグとが対向する位置を、読み取り位置0°とした。したがって、読み取り位置180°は、無線ICタグとは反対側の読み取り位置となる。
【0146】
図6は、実施例1の測定結果を示す図である。図6の縦向きの結果を示すグラフ50では、0°から360°のどの読み取り位置でもほぼ同じ通信可能距離となった。また、図6の横向きの結果を示すグラフ51と合わせると、ダイポールアンテナの放射パターンと一致し、本実施例では長尺部材がダイポールアンテナとして機能していることがわかった。
【0147】
実施例2について、ニッパの本体部は株式会社ベッセル製で、長さが全長158mm、幅52mmであり、握り部内側に、つまり、一方の握り部の内側中央付近に、握り部の内周面の曲率に沿わせるように、熱収縮性カバー部材(住友電工ファインポリマー株式会社製)を用いて無線ICタグおよびシート体を取り付けた。
【0148】
測定条件としては縦向きであるが、ニッパを開いた状態と閉じた状態とでそれぞれ測定した。
【0149】
図7は、実施例2の測定結果を示す図である。図7の開いた状態の結果を示すグラフ52では、0°から360°のどの読み取り位置でも読み取り可能であったが、通信可能距離は読み取り位置によって異なっていた。図7の閉じた状態の結果を示すグラフ53では、225°の読み取り位置で読み取ることができなかったことを除いて、ほぼ全周で読み取り可能であった。ニッパを閉じた状態では、無線ICタグとシート体を取り付けた一方の握り部と他方の握り部との距離が近いために、225°の読み取り位置で、他方の握り部に通信が阻害されたものと考えられる。ただし、この状態であっても、360°中の270°の範囲で通信はできており、指向性は十分に改善されている。
【0150】
実施例3について、スパナの本体部は株式会社ベッセル製であり、中央部分の片側面に、熱収縮性カバー部材(住友電工ファインポリマー株式会社製)を用いて無線ICタグおよびシート体を取り付けた。また、長さの異なるスパナを用意し、長さの影響についても検討した。スパナの長さは、140mm、160mm、210mmとした。
【0151】
また、比較例として、150mm×66mmのSUS板に無線ICタグを貼り付けたものを作製した。比較例も実施例3と同様にリーダと無線ICタグとが対向する位置を、読み取り位置0°として、読み取り位置を45°ごとに変更しながら通信可能距離を測定した。
【0152】
さらに実施例4として直径24mm、長さ220mmの円筒状鉄製パイプを長尺部材として用いたものを測定した。
【0153】
測定条件としては実施例3,4および比較例いずれも縦向きとした。
図8は、実施例3,4および比較例の測定結果を示す図である。図8の長さ140mmの結果を示すグラフ54、長さ160mmの結果を示すグラフ55、長さ210mmの結果を示すグラフ56および実施例4の鉄パイプの結果を示すグラフ58では、0°から360°のどの読み取り位置でも読み取り可能であった。比較例の測定結果を示すグラフ57では、全体的に通信可能距離が短く、さらに、90°を超えて270°までの読み取り位置、すなわち無線ICタグを貼り付けたSUS板の裏側から読み取るような位置では、通信可能距離が0であった。
【0154】
また、通信可能距離を比較すると、長さ140mmのスパナに取り付けた場合が最も長く、160mm、210mmの順に通信可能距離が短くなった。これは、長さ140mmのスパナが、UHF帯RFIDの国際認可周波数の電波のλ/2に最も近い長さであったためであると考えられる。
【0155】
実施例5は、実施例1と同じIO型シート体を用い、無線ICタグとしてはUPM Raflatac社製のRafsecシリーズタグのUPM−COMBOを用いた。本無線ICタグはICとしてNXP U−Code G2XLを用いた、10mm×42mmの大きさのタグである。自由空間での通信距離は約80cmである。本タグはたとえばダンボールに貼った場合に通信距離が約2倍になる設計がされている。さらにIO型シート体の無線ICタグとは反対側に導電性を有する長尺部材を取り付けている。
【0156】
図9は、実施例5の構成を示す外観図である。図9(a)は、平面図を示し、図9(b)は側面図を示す。本実施例では、長尺部材に孔、切り欠けまたは間隙部は設けていない。
【0157】
ここで、長尺部材は長さを、50、80、100、120、140、150、170、190、210、240、280、310mmに変更させた。図10は、自由空間における通信距離に対する長尺部材の長さの影響を示すグラフである。また、上記のように、リーダと無線ICタグとが対向する位置を、読み取り位置0°として、読み取り位置を45°ごとに変更しながら通信可能距離を測定した。図11は、実施例5の測定結果を示す図である。リーダ出力は日本の最高出力である1Wとして、4WEIRPで日本のUHF帯RFID認可周波数を用いた通信測定である。図11に示したグラフの通信距離の単位はmmである。
【0158】
実施例5の本発明タグを金属板(SUS板、200mm×300mm)に貼り付けた場合の通信距離は80cmであった。この場合は金属板と本発明タグの長尺部材はほぼ電気的に導通しており、長尺部材の長さに無関係で通信距離は80cmとなる。
【0159】
図10の結果からは長尺部材の長さを伸ばすほど通信距離が伸びる傾向があることがわかる。長尺部材の長さが130mm〜160mmの場合に最も通信距離が長く、約3.5mであった。さらに長尺部材の長さを伸ばすと通信距離は低減するが、それでも2m以上の通信距離を確保することができ、元の無線ICタグの通信距離に比べて約3倍超の通信距離を実現した。
【0160】
さらに図11の結果は、通信部材として指向性が見られないことを示している。長尺部材側から、つまり無線ICタグの裏面金属部材側でも問題なく読めるという事が確認できた。図10は、角度0°における通信距離の結果を示している。以上の結果は、本発明が、そのまま自由空間で測定しても、さらに金属板上で使用しても良好な性能を保持していることを示している。この自由空間での高性能かつ金属対応性を両立させたタグは従来見当たらなかった。本発明タグは、金属板上でも無線通信が可能な金属対応タグであるが、自由空間ではダイポールアンテナ型タグとして機能するという従来ない特徴を有している。さらにタグが貼り付けられる物品や装置を長尺部材として利用することが可能であり、その場合は金属対応タグとしても小型でよく、それでも通信距離としては十分長い距離を得られることになる。
【0161】
さらに長尺部材を工具やその他金属製部材に換えても同様の結果が得られる。被着物質をアンテナとして利用するという性質を有することにより貼り付けるタグは、本発明の長尺部材がない部分だけでよいため小型となる。
【0162】
実施例6は、実施例5の長尺部材を折り曲げ、幅も変更したものである。これは長尺部材を含めて本発明タグとなる。図12は、実施例6の構成を示す平面図である。長尺部材の長手方向両端からそれぞれ約1/4の長さ部分を鉤状に折り曲げ、全体として40mm×70mmの大きさとした。両端部分(X)の外寸長さ(図12の端部を含み、矢印にて寸法を与えられている部分の長さ)を55mm、その幅を5mmとした。これは、クレジットカードなどのサイズ54mm×86mmに十分納まる大きさとなった。さらに、Xの長さを50mm、その幅を5mmとしたもの、Xの長さを50mm、その幅を1mmとしたものも作製した。
【0163】
実施例6のXの長さが55mm、幅が5mmの場合、通信距離は約3mであった。Xの長さを50mm、幅を5mmにした場合は、通信距離が約2.4mとなった。この場合もリーダ出力は日本の最高出力である1Wで、4WEIRPで通信している。
【0164】
次に、通信特性の周波数依存性を測定するためにペリテック社製RFIDテスターでタグの最小起動電力の周波数依存性を測定した。タグの最小起動電力値が低ければ低いほど、通信距離は伸びることになり、高性能であるといえる。図13は、実施例6における最小起動電力の周波数依存性を示すグラフである。
【0165】
図13に示す周波数依存性からわかるように、ヨーロッパ地域でのRFID認可周波数である868〜870MHzでは通信が難しいものの日本でのRFID認可周波数である950MHz帯を越えてなお高周波数側でも通信可能であることから、周波数調整を施せばUHF帯RFIDのグローバル対応可能なほどの広帯域特性を示した。
【0166】
上記のように、実施例6のサイズは、たとえば社員証、名前札、名刺、来客証、車両カード、運転免許証などと組み合わせて、あるいはそれらを収納する収容器に同じくカード形状として入れておいてRFID管理や無線通信できることを可能とする。従来は、市販のUHF帯無線ICタグを用いていたが、人体の影響や汗、雨、湿度の影響、防火服などの着衣の影響を受けて通信できなくなっていた。これに対し本発明を用いることで、これらの影響を受けることなく、より確実に通信できる情報記憶媒体を提供できることになった。
【0167】
実施例6では、長尺部材の両端部分を同じ大きさにしているが、同じ大きさでなくてもよく、外形が全て直線状に構成される必要もない。たとえば、図14の平面図に示すような直線と曲線が混ざり合った外形状や曲線でのみの外形状であってもよい。これは両端部分だけでなく、全ての構成部位について当てはまる。
【0168】
次に、情報記憶媒体のセンシング機能について検討した。使用した情報記憶媒体は、図12に示した実施例6の構成と同様に、長尺部材の長手方向両端からそれぞれ鉤状に折り曲げた構成のものを用いた。大きさは、全体として40mm×70mmであり、両端部分(X)の長さを55mm、その幅を5mmとした。
【0169】
このような情報記憶媒体を、PET樹脂製ボトル(直径98.7mm)の外表面に貼り付け、ボトル内の水量を変化させたときの通信距離について測定した。
【0170】
図15は、情報記憶媒体のセンシング機能の測定方法を示す模式図である。
中に水を封入したボトルを横向きに倒した状態で、長尺部材の長手方向が縦向きになるように、情報記憶媒体をボトル外表面の側方に貼り付けた。情報記憶媒体から水平方向にリーダの位置を変化させて読み取り可能であった距離を通信距離とした。
【0171】
図16は、ボトル内の水位と通信距離との関係を示すグラフである。横軸は水位(%)を示し、縦軸は通信距離(mm)を示す。水位は、ボトル内が完全に水で満たされた状態の液面高さを100%として、100分率で示している。すなわち、ボトル内が完全に水で満たされた状態が100%であり、ボトル内が空の状態が0%である。
【0172】
水位が上昇するとともに通信距離が短くなっていることがわかる。また、水位が40%を超えると通信距離は、100%までほぼ一定であった。水位の変化に比例して通信距離が変化する領域と、水位にかかわらず通信距離が一定である領域と大きく2つの領域が存在することもわかった。
【0173】
このように、本発明の情報記憶媒体は、近傍に存在する水量の変化に応じて通信距離が変化するので、通信距離を測定することで、水量を検出するセンサとして使用することができる。
【0174】
なお、ボトルの外表面に情報記憶媒体と同様に、無線ICタグのみを貼り付けて測定した場合、水位100%では、全く通信が不可能であったことから、無線ICタグのみではセンサとして機能しないことがわかる。たとえば地中に埋設するなどして無線ICタグが目視できない状態で使用する場合、通信が不可能であると、水位が100%であるために通信不可能であるのか、無線ICタグ自身の異常によって通信不可能であるのか判断することができない。本発明の情報記憶媒体では、水位100%の場合、水位100%における通信距離で通信可能であるため、水位100%であることを確実に検出することができる。さらに、通信不可能という測定結果が得られた場合は、無線ICタグ自身に異常が生じたことをも検出することができる。
【0175】
以上のように、工具類の一部を構成する長尺部材に無線ICタグおよびシート体を取り付けた場合や本発明のシート体や本発明タグを用いることで工具・道具類や長尺部材がアンテナとして機能し、これらの工具・道具類、長尺部材、機械、装置、機器類がタグ機能、RFID機能、または通信機能を得ることができる。また通信特性としても無線通信のできないヌル域を解消し、さらに自由空間での長距離通信および金属や水分対応での通信を実現可能であることがわかった。
【0176】
また、長尺部材のアンテナ機能が、通信環境によって変化することを利用すれば、通信距離などを測定することで情報記憶媒体近傍の状態変化を検出することが可能であることがわかった。
【符号の説明】
【0177】
1,31,41 シート体
2 第1のスペーサ
3 補助アンテナ
4 第2のスペーサ
10 ねじ回し
11 本体部
12 握り部
20 無線ICタグ
21 ICチップ
22 アンテナ
100 情報記憶媒体
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線ICタグを用いた情報記憶媒体、管理対象物品および管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信の分野のみならず、物流管理などの分野でも無線通信技術が応用され、無線通信用のICタグ(以下では単に「ICタグ」または「タグ」という。)は、RFID(
Radio Frequency Identification)技術の一翼を担う製品として広く知られる、物流管理や、安価な情報記憶媒体として使用用途は多岐にわたることから、無線通信機器は、様々な使用環境に置かれることになる。
【0003】
ICタグは、自ら電源を持たないパッシブタイプと電源を持つアクティブタイプとがある。低価格で汎用性を有するパッシブタイプは、リーダからの電波を受信し、このエネルギを利用してタグ回路を起動し、無線通信が可能となる。
【0004】
ICタグは、識別番号などのデータを記憶するICチップと、電波を送受信するためのアンテナとからなり、薄型、軽量で無線通信が実現できることが大きな利点となっている。チップにはメモリ領域を設けているため、ここに格納される情報を用いて情報管理が可能となり、ICタグは情報記憶媒体となる。なお、ICタグは、タグ、無線ICタグ、RFIDタグやRFタグと呼ばれることもある。本発明では市販のICタグに本発明を構成するシート体を合わせたものもタグとしている。これを区別するためにICタグとシート体とを組み合わせたものを本発明タグと呼ぶ。
【0005】
このような利点を十分に生かすためには、タグの貼り付け位置に制限がなく、どこにどのように貼り付けても、通信可能に構成されていることが好ましいとされる。
【0006】
しかしながら、ICタグは、自由空間で使用するように設計されており、超短波帯、極超短波帯、マイクロ波帯の電波を利用する場合、汎用タグはいわゆるダイポールアンテナを用いて電波方式の通信による送受信を行っているので、金属などがアンテナ近傍に存在すると、アンテナの通信特性が劣化し、通信可能距離が短くなってしまう。
【0007】
無線電波は金属面に当たると、λ/2位相がずれて反射が起きる。つまり入射波と反射波は金属近傍に於いて打ち消しあう関係になる。金属近傍では合成電界がほとんど零となり、自由空間に比べて供給される電界エネルギが著しく小さくなってしまう。
【0008】
またアンテナの近傍に金属などの導電性材料が存在する場合、アンテナに共振電流が流れると金属側ではこれと逆向きの電流が誘導され、誘導電流によってアンテナの入力インピーダンスが大きく低下する。これによって自由空間に対して設計されたICチップとのインピーダンスの整合性がとれなくなり、通信可能距離が短くなってしまう。また、同じ大きさの電流が近傍でほぼ平行に逆向きで存在すると、各々の電流の周囲に発生する磁界の向きが逆になり、それらの磁界が打ち消しあう関係となるため、結果として電波が遠方まで飛ばず、通信可能距離が短くなくなる。
【0009】
また、金属に限らず、紙、ガラス、樹脂、液体などもICタグの通信特性を劣化させる材質となりうる。
【0010】
これらの材質の場合は、これらの材質がもつ誘電率および透磁率によってアンテナの共振周波数が変化し、通信相手の使用する電波の周波数とアンテナの共振周波数とのずれによって通信可能距離が短くなってしまう。
【0011】
特許文献1には、金属などの通信妨害部材の近傍において、通信可能距離を改善することができる無線通信改善シート体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−134709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1記載の無線通信改善シート体は、たとえば金属表面にICタグを貼り付ける際に用いることで、通信可能距離を伸ばすことができる。
【0014】
しかしながら、無線通信改善シート体を用いた場合に、ICタグに対して通信可能な位置と通信不可能な位置とが発生することは避けられない。無線通信改善シート体の裏側、すなわちICタグの配置面とは反対側からリーダで読み取ろうとした場合、ほぼ読み取りは不可能である。
【0015】
ICタグを部材の管理などに適用しようとしても、読み取り不可能な領域があるために、たとえば、全てのICタグがリーダに対向していないとICタグから情報が読み取れず、実質的には部材の管理ができなくなる。部材管理の観点からこのような読み取り不可能な領域をなるべく小さくすることが求められている。
【0016】
本発明の目的は、無線通信用のICタグの通信可能距離を改善することが可能であって、読み取り方向の制限が緩和された情報記憶媒体、管理対象物品および管理システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、情報が記憶される無線ICタグと、
第1のスペーサ、補助アンテナおよび第2のスペーサを有するシート体と、
導電性材料で構成される長尺部材とを備え、
前記シート体は、
前記無線ICタグを前記補助アンテナと結線しないで配置する配置面を有する前記第1のスペーサと、
孔、切り欠きまたは間隙部が設けられ、第1のスペーサの前記配置面とは反対側の面に設けられる前記補助アンテナと、
前記補助アンテナを挟んで第1のスペーサとは反対側に設けられる前記第2のスペーサとが積層されて成り、
前記長尺部材は、前記シート体に対して前記無線ICタグとは反対側に設けられることを特徴とする情報記憶媒体である。
【0018】
また本発明は、前記長尺部材は、帯状の金属部材または棒状の金属部材であることを特徴とする。
【0019】
また本発明は、前記長尺部材は、直線状部分、曲線状部分、または折れ曲がり部分の少なくとも1つを有する金属部材であることを特徴とする。
【0020】
また本発明は、前記長尺部材は、工具または装置の一部を構成する金属部材であることを特徴とする。
【0021】
また本発明は、前記第2のスペーサと前記長尺部材との間に裏面導体層をさらに設けたことを特徴とする。
【0022】
また本発明は、前記孔、切り欠きまたは間隙部は、前記無線ICタグが備えるICチップまたはリアクタンス装荷部に対向するように設けられることを特徴とする。
【0023】
また本発明は、前記第1のスペーサおよび前記第2のスペーサの少なくともいずれか1つは、発泡体からなることを特徴とする。
【0024】
また本発明は、外表面の一部または全部を誘電材料で被覆したことを特徴とする。
また本発明は、上記の情報記憶媒体を備えることを特徴とする管理対象物品である。
【0025】
また本発明は、上記の情報記憶媒体または上記の管理対象物品と、
前記情報記憶媒体から無線通信によって、前記無線ICタグに記憶される情報を読み取る読取装置と、
前記読取装置によって読み取った前記情報と、前記読取装置が前記情報記憶媒体から前記情報を読み取ったときの通信状態とに基づいて前記情報記憶媒体を管理する管理装置とを備えることを特徴とする管理システムである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、情報が記憶される無線ICタグと、第1のスペーサ、補助アンテナおよび第2のスペーサを有するシート体と、導電性材料で構成される長尺部材とを備える情報記憶媒体である。
【0027】
シート体は、前記無線ICタグを前記補助アンテナと結線しないで配置する配置面を有する前記第1のスペーサと、孔、切り欠きまたは間隙部が設けられ、第1のスペーサの前記配置面とは反対側の面に設けられる前記補助アンテナと、前記補助アンテナを挟んで第1のスペーサとは反対側に設けられる前記第2のスペーサとが積層されて成り、前記長尺部材は、前記シート体に対して前記無線ICタグとは反対側に設けられる。
【0028】
シート体を用いることにより、導電性材料で構成される長尺部材の近傍であっても、無線ICタグを通信可能とするとともに、長尺部材がアンテナとして機能することで、無線ICタグの読み取り方向に対する制限が緩和される。
【0029】
また本発明によれば、前記長尺部材は、帯状の金属部材または棒状の金属部材が好ましく、このような形状とすることで効率よくアンテナ機能を発揮する。
【0030】
また本発明によれば、前記長尺部材として、直線状部分、曲線状部分、または折れ曲がり部分の少なくとも1つを有する金属部材であることが好ましく、このような形状の金属部材とすることでアンテナ機能の通信距離を伸ばしたり、通信周波数の波長を広帯域化するという高性能化や小型化が達成される。
【0031】
また本発明によれば、前記長尺部材は、工具の一部を構成する金属部材とすることで、無線ICタグにより工具を効率よく管理することが可能となる。
【0032】
また本発明によれば、前記第2のスペーサと前記長尺部材との間に裏面導体層をさらに設けることが好ましい。
【0033】
また本発明によれば、前記孔、切り欠きまたは間隙部は、前記無線ICタグが備えるICチップまたはリアクタンス装荷部に対向するように設けられる。
【0034】
これにより、補助アンテナが導体材料として無線ICタグに与える影響を小さくし、シート体による通信改善効果をさらに向上させることができる。
【0035】
また本発明によれば、前記第1のスペーサおよび前記第2のスペーサの少なくともいずれか1つは、発泡体からなる。
発泡体を用いることで、軽量化、薄型化することができる。
【0036】
また本発明によれば、外表面の一部または全部を誘電材料で被覆する。
これにより、外部からの不要電磁波の影響や、周辺環境からの影響を小さくし、通信改善効果をさらに向上させることができ、さらに防水性、耐衝撃性、絶縁性を付与することができる。
【0037】
また本発明によれば、上記の情報記憶媒体を備える管理対象物品である。情報記憶媒体は、外装しても内装してもよい。
【0038】
これにより、工具、道具、装置、機器などを管理対象物品として容易にRFID機能、タグ機能、無線通信機能を付与することができ、工具、道具、装置、機器、あるいは情報などを、情報記憶媒体を利用して管理することができる。
【0039】
さらに本発明によれば、読取装置が、上記の情報記憶媒体から無線通信によって、前記無線ICタグに記憶される情報を読み取り、管理装置が、前記読取装置によって読み取った前記情報と、前記読取装置が前記情報記憶媒体から前記情報を読み取ったときの通信状態とに基づいて前記情報記憶媒体を管理する。
【0040】
これにより、従来では目視や作業者の申告により管理していた工具類などの管理を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の一形態である情報記憶媒体100の外観図である。
【図2】情報記憶媒体100の構成を示す断面図である。
【図3】シート体1の平面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に用いるシート体31の平面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に用いるシート体41の拡大断面図である。
【図6】実施例1の測定結果を示す図である。
【図7】実施例2の測定結果を示す図である。
【図8】実施例3,4および比較例の測定結果を示す図である。
【図9】実施例5の構成を示す外観図である。
【図10】自由空間における通信距離に対する長尺部材の長さの影響を示すグラフである。
【図11】実施例5の測定結果を示す図である。
【図12】実施例6の構成を示す平面図である。
【図13】実施例6における最小起動電力の周波数依存性を示すグラフである。
【図14】他の実施例の構成を示す平面図である。
【図15】情報記憶媒体のセンシング機能の測定方法を示す模式図である。
【図16】ボトル内の水位と通信距離との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下図面を参考にして本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。
本発明の情報記憶媒体は、情報が記憶される無線ICタグと、シート体と、導電性材料で構成される長尺部材とを備え、無線ICタグと長尺部材とが、シート体を挟んで両側に設けられる。また、シート体は、第1のスペーサ、補助アンテナおよび第2のスペーサが積層されて成り、補助アンテナには、孔、切り欠きまたは間隙部が設けられている。
【0043】
図1は、本発明の実施の一形態である情報記憶媒体100の外観図である。本実施形態では、作業用工具であるねじ回し10の本体部11を長尺部材とした例について説明する。
【0044】
情報記憶媒体100は、シート体1と、ねじ回し10と、無線ICタグ20とで構成される。
【0045】
ねじ回し10は、本体部11と握り部12とで構成され、本体部11は硬鋼線材などの導電性材料からなり、握り部12は木材や樹脂などの非導電性材料からなる。シート体1の表面には無線ICタグ20が配置され、無線ICタグ20の反対側に、ねじ回し10の本体部11が位置するように配置される。
【0046】
従来、ねじ回しに無線ICタグを取り付ける場合は、握り部のどこかに小型タグを埋め込むことが検討されていた。この場合は、埋め込み専用のねじ回しとして設計、製造する必要があり、また利用者もその特注製品を購入しなければならなかった。しかし、人の手で握り部を握ると小型タグが通信できなくなり、タグサイズの制限から長距離の安定した通信およびRFID通信はできなかった。
【0047】
図2は、情報記憶媒体100の構成を示す断面図である。
無線ICタグ20は、情報が記憶されるICチップ21と、特定の周波数の電波を送受信可能なアンテナ22とで構成される。
【0048】
シート体1は、無線ICタグ20を結線しないで配置する配置面2aを有する第1のスペーサ2と、第1のスペーサ2の配置面2aとは反対側の面に設けられる補助アンテナ3と、補助アンテナ3を挟んで第1のスペーサ2とは反対側に設けられる第2のスペーサ4とが積層され、補助アンテナ3には、孔、切り欠きまたは間隙部Sが設けられる。以下では、孔、切り欠きまたは間隙部を個別に称する場合においても共通の符号Sを付す。
【0049】
本来、無線ICタグ20は、導電性材料からなる本体部11の近傍では無線通信が妨害されて通信距離が短くなってしまうが、シート体1を用いることで無線通信が可能となる。
【0050】
まずは、シート体1による無線ICタグ20の通信改善について説明する。
シート体1は、補助アンテナ3に、孔(スロット)、切り欠き(スリット)または間隙部を設けることで、無線ICタグ20の通信改善を可能としている。無線ICタグ20のアンテナ22と補助アンテナ3とは、孔、切り欠きまたは間隙部Sを通じて電磁的に結合し、補助アンテナ3による無線通信が可能となり、その結果通信可能距離を改善することができる。
【0051】
補助アンテナ3に孔、切り欠きまたは間隙部Sを設けることで、無線ICタグ20のアンテナ22の共振動作に応じて孔、切り欠きまたは間隙部Sに、アンテナ形状の長軸方向に沿って電界が発生するため、これを介することでアンテナ22(およびICチップ21)と補助アンテナ3間の電磁的結合が活性化することになる。さらに、孔、切り欠きまたは間隙部Sは導体層の電気抵抗を上げるため、導体層に発生するアンテナに対応した誘導電流を抑えることが可能となる。
【0052】
補助アンテナ3は、孔、切り欠きまたは間隙部Sを介することで無線ICタグ20と結線しなくとも電磁エネルギを受け渡す機能を有することやICチップ21への情報とICチップ21からの情報の伝搬経路もその内部で重畳化することにより、従来の遠方とのアンテナ動作に加え近傍での無線ICタグ20との電磁エネルギの受け渡しという動作メカニズムにも対応している。
【0053】
補助アンテナ3は、無線ICタグ20と組み合わせたときに、全体として無線通信周波数に共振する構成であり、補助アンテナ3の共振層は、共振する部位は一つでも複数でもよいが、その部位は無線通信周波数の電波の波長をλとすると、共振部位はλ/8〜3λ/4の範囲に入る寸法を有している。
【0054】
このように、シート体1は、無線ICタグ20に貼り合わせるだけで無線ICタグ20の通信改善を行うことが可能となる。市販の無線ICタグはそれぞれの設計により、チップインピーダンスの値が異なっている。このインピーダンスは静置の場合と動作時の場合でも異なるし、また動作条件でも受信するエネルギ量に依存して変化する。これら不安定で、変動しやすいインピーダンスを持つ無線ICタグに、後から貼り付けるだけでインピーダンス整合および改善を実現できるところが本発明の無線通信改善シート体の特徴である。
【0055】
さらにシート体1は、パッチアンテナと異なり、電磁結合を介して近接または近傍に配置される導体をアンテナとして利用して電波を送受信できるため、導電性材料で構成される長尺部材あるいは被着物質をアンテナとし、さらなる効果が発揮される。
【0056】
無線ICタグ20と長尺部材である本体部11との間にシート体1を設けることで、無線ICタグ20とねじ回し10の本体部11とが互いに干渉するような影響はなくなり、長尺部材である本体部11にアンテナ機能を移譲することができる。
【0057】
これにより、無線ICタグ20の近傍にある導電性材料で構成される長尺部材を通信妨害部材ではなく、アンテナとして活用し、無線ICタグ20の読み取り方向に対する制限を緩和することができる。
【0058】
たとえば、本体部11が延びる方向を中心軸として、この軸線まわりに無線ICタグ20の読み取りを行った場合、軸線まわりの全周にわたって無線ICタグ20の読み取りが可能となる。
【0059】
シート体1に無線ICタグ20を配置した場合、無線ICタグ20の反対側から無線ICタグ20に記憶される情報を読み取ることはできないが、本発明のように、長尺部材を設けると無線ICタグ20の反対側、すなわち長尺部材側からであっても無線ICタグ20に記憶される情報を読み取ることが可能となる。
【0060】
従来、シート体1に無線ICタグ20を配置した場合でも、シート体1に設けられる裏面導体層あるいはこれに変わる機能を持つ導電性被着物質の存在により、電波通信できる方向は裏面導体層や導電性被着物質の存在しない方向に限られていた。つまり裏面導体層や導電性被着物質の存する方向は電波の届かない、いわゆる死角となり、無線通信に於いてヌルとなっていた。
【0061】
もちろん電波が漏洩する形で、それらの死角部分でも通信が成立することはあるが、意図的に設計されたものではなく、通信性能も不十分なものであった。本発明は、従来電波を飛ばす目的を有していなかった裏面導体層や導電性被着物質を積極的にアンテナとして活用するように設計したものである。この結果、従来よりも長い通信距離、広い指向性、広帯域特性を付与することが可能となっている。もちろん、裏面導体層や導電性被着物質がアンテナと機能しない場合(たとえば、裏面導体層、長尺部材または被着物質が広い金属板の上に置かれている場合など)はシート体1が、補助アンテナとして機能して通信を補うことができることも特徴である。
【0062】
このように、長尺部材がアンテナとして機能するのは、無線ICタグ20のICチップ21を、シート体1の補助アンテナ3に設けられた孔、切り欠きまたは間隙部Sにより、長尺部材の影響を受けないように保護し、アンテナからの給電整合を保持しているため、ICチップ21と長尺部材である本体部11とを電磁結合により非接触であっても、あるいは導電性部分を介してでも結び付けることができるからである。この結果、無線ICタグ20のICチップ21を利用しながらも、電波を送受信するアンテナとしては、シート体1の補助アンテナ3と長尺部材である本体部11とから選択することが可能となる。
【0063】
以上のように、導電性材料で構成される長尺部材をアンテナとして活用できることで、無線通信の死角がなくなり、無線ICタグ20の読み取り方向に対する制限を緩和することができる。さらに、十分な長さのアンテナを得られることになり通信特性も向上することになる。この場合に動作するアンテナの種類は選ばないが、たとえば代表的なダイポールアンテナとすることができる。
【0064】
無線ICタグ20の共振周波数での波長をλとすると、ダイポールアンテナの共振長は、(λ/2)×n(n:整数)であり、このサイズを有する部分が長尺部材のどこかにあればよく、共振周波数が高ければ、共振に必要なサイズが小さくなるので、情報記憶媒体全体として小型化できることになる。たとえば、UHF帯RFIDの認可周波数である953MHz帯の波長λは、約31.5cmであり、λ/2である約15.7cmの整数倍の長さを有する長尺部材はダイポールアンテナとして機能する。ダイポールアンテナは放射効率が高い高性能なアンテナであり、その長さが完全に共振長に一致していなくても十分な通信距離を得ることができる。また共振部位は、導電性材料中に共振電流が流れる経路長によって決まるため、導電性材料の外形サイズと一致しているとは限らない。
【0065】
本実施形態では、長尺部材としてねじ回し10の本体部11を利用している。ねじ回しなどの作業用器具、および直定規などの測定工具など(以下では単に「工具類」と略称する場合がある)は、人間工学的な見地から、人間の手のひらから肘までの距離の約半分から同等の長さで、挟んだり、捻ったり、押したり等の動作が加えられているようになっている。この長さは、UHF帯RFIDの国際認可周波数の電波のλ/2である約14cm〜18cmの整数倍に該当することになる。
【0066】
また、工具類の主要な構成部分は、金属材料で構成される場合がほとんどであるので、無線ICタグ20とシート体1とを貼り付けた工具類自体が、ダイポールアンテナとして機能することになる。
【0067】
また長尺部材の形状、長尺部材に対するシート体1の配置位置などを適宜変更することで、長尺部材は、ダイポールアンテナだけではなく、モノポールアンテナ、ループアンテナ、スリットアンテナ、またはパッチアンテナとしてのアンテナ機能を有することも可能である。長尺部材は、直線状部分、曲線状部分、または折れ曲がり部分の少なくとも1つを有する形状が好ましい。したがって、折り曲げて使用することができるし、曲率を持たせることも、蛇行させることも可能である。また、部材の内部に空洞があってもよいし、複数の部材が組み合わさって構成されてもよく、これらを複合させてもよい。さらに長尺部材には孔や切り欠きが設けられていてもよく、曲げ、折り、組み付けなどを付与された3次元構造でもよい。また長尺部材が釘、杭などの保持具や取り付け具として機能するものであってもよい。
【0068】
これにより、長尺部材にアンテナ機能を移して、それらを無線ICタグ20の無線通信のためのアンテナとして利用することで、無線通信が不可能な位置(ヌル域)を解消し、さらに長距離通信を実現することが可能となる。
【0069】
また、アンテナ機能を有する長尺部材を外皮層とすれば、剛性の高い金属を外皮層として用いることができ、情報記憶媒体に容易に耐衝撃性を付与することができる。
【0070】
以下では、シート体1の構成について詳細に説明する。図3は、シート体1の平面図である。
【0071】
シート体1は、上記のように、第1のスペーサ2、補助アンテナ3、第2のスペーサ4を備え、第1のスペーサ2、補助アンテナ3に溝状の切り欠きSが設けられている。
【0072】
第1のスペーサ2は、無線ICタグ20のアンテナ22と補助アンテナ3との間を絶縁する誘電体層で構成される。
【0073】
補助アンテナ3は、無線ICタグ20の通信周波数で共振することで、無線ICタグ20のアンテナ22と電磁的に結合し、しかもそれ自身が共振アンテナとして機能する。
【0074】
第2のスペーサ4は、補助アンテナ3と長尺部材である本体部11との間を絶縁する誘電体層で構成される。
【0075】
第1のスペーサ2、補助アンテナ3、第2のスペーサ4は、それぞれ同一の外形寸法を有し、この順に積層してシート体1を構成する。
【0076】
シート体1を積層方向から見たときの平面形状は、実装する無線ICタグの形状にもよるが、多くは矩形状である。また、シート体1の総厚みは、約0.5〜15mmである。
【0077】
本実施形態では、シート体1の平面形状は長方形であり、短辺方向に平行で、長辺方向中央部に開放する、直線状の切り欠き(スリット)Sが設けられる。直線状の切り欠き形状から、以下では本実施形態の切り欠きSをIO型、シート体1をIO型シート体と呼ぶことがある。図3の平面図では、切り欠きSの位置がシート体1のほぼ中央に位置しているが、必ずしも中央部とは限らない。無線ICタグ20のICチップ21やその接合部およびリアクタンス装荷部の位置に応じて適宜切り欠きSの位置の位置を設定することができる。
【0078】
切り欠きSは、図2の断面図に示すように、第1のスペーサ2と補助アンテナ3とを積層方向に貫通し、その結果第2のスペーサ4が溝の底を形成する構成となっている。従って切り欠きSの深さは、第1のスペーサ2の厚みと補助アンテナ3の厚みとの和と同じとなり、たとえば0.05〜10mmである。
【0079】
切り欠きSの長さLは、シート体1の短辺方向長さL0に対して3〜97%となる長さに形成され、たとえば3〜194mmである。
【0080】
切り欠きSの幅Wは、ICチップ21やその接合部分およびリアクタンス装荷部の大きさなどによるが、たとえば1〜180mmである。このような切り欠きSを設けることで、配置面2aに配置された無線ICタグ20のアンテナ22と、補助アンテナ3とが、この切り欠きSを介して電磁的に結合し、補助アンテナ3が共振アンテナとして機能する。さらに、ICチップ21の直下に切り欠きSを設けることで、ICチップ21に対する補助アンテナ3の導電体としての影響を小さくすることができる。
【0081】
第1のスペーサ2および第2のスペーサ4は、それぞれ無線ICタグ20と補助アンテナ3とを絶縁し、補助アンテナ3と本体部11とを絶縁するとともに、誘電体層として波長短縮効果の影響を与えることで、補助アンテナ3の共振周波数を調整する。補助アンテナ3と本体部11との間には電界=0となる部分が形成される場合があり、その場合は電界=0の部分にビアを設けるなど補助アンテナ3と本体部11とを導通させても動作は可能である。
【0082】
第1のスペーサ2および第2のスペーサ4は、無線ICタグ20と補助アンテナ3、および補助アンテナ3と本体部11の位置関係を保つことができれば、電磁エネルギの損失の低い、すなわち通信周波数帯域で誘電正接tanδ(ε”/ε’)または磁性正接tanδ(μ”/μ’)の低い材料を用いることが好ましい。たとえば空間でもよいが、一般には下記に例示するような有機材料を用いることが好ましい。
【0083】
有機材料としては、たとえばゴム、熱可塑性エラストマー、各種プラスチック、木材、紙材、などの高分子有機材料等を用いることができる。またそれらの多孔質体も用いることができる。前記ゴムとしては、天然ゴムのほか、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDMゴム)、エチレン−酢酸ビニル系ゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、エチレンアクリル系ゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、水素添加ニトリルゴム(HNBR)などの合成ゴム単独、それらの誘導体、もしくはこれらを各種変性処理にて改質したものなどが挙げられる。これらのゴムは、単独で使用するほか、複数をブレンドして用いることができる。
【0084】
熱可塑性エラストマーとしては、たとえば塩素化ポリエチレンのような塩素系、エチレン系共重合体、アクリル系、エチレンアクリル共重合体系、ウレタン系、エステル系、シリコーン系、スチレン系、アミド系、オレフィン系などの各種熱可塑性エラストマーおよびそれらの誘導体が挙げられる。
【0085】
さらに、各種プラスチックとしては、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩素系樹脂;ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル系樹脂、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エステル系樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル、ポリスルホン、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂などの熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂およびこれらの誘導体、さらには共重合体やリサイクル樹脂等が挙げられる。
【0086】
以上の材料をそのままか、複合化、変性化して用いることができる。たとえば、カーボン、黒鉛、グラファイト、酸化チタン、炭素繊維、カーボンチューブ、黒鉛繊維等のフィラーを複合化して誘電率を上げることで波長短縮効果によりシート体1の小型化が実現する。また補強材を充填した強化樹脂を用いてもよいし、無線ICタグや補助アンテナの構成材料、たとえば基材、粘着材、接着剤、被覆材などをスペーサ材としてもよい。
【0087】
たとえば、EPDMゴムに酸化チタンをフィラーとして混合することで、高誘電率材料であって、さらに柔軟性を有するスペーサが実現できる。また、第1のスペーサ2と第2のスペーサ4とは、同じ材料であっても、異なる材料であってもよい。異なる材料である場合、たとえば、第1のスペーサ2としてPETフィルムを用い、第2のスペーサ4としてEPDMゴムに酸化チタンを混合した混合材料を用いる。
【0088】
これにより、シート体1を小型化するとともに、長尺部材の形状に十分に追従することができる柔軟性を、シート体1に付与することができる。
【0089】
第1のスペーサ2および第2のスペーサ4を構成する誘電体材料は、たとえば密度が1.0g/cm3未満であることが好ましい。
【0090】
このような低密度の誘電体材料としては、多孔質有機材料、多孔質無機材料から選ばれる1または複数の材料を使用する。発泡しない材料を用いてもよいし、発泡しない材料と発泡材料を組み合わせてもよい。以上の他、スペーサの材料としてはダンボールなどの紙材、木材、ガラス、ガラス繊維、土系材料なども使用可能である。
【0091】
発泡方法として手段は問わないが、発泡剤添加、または熱膨張性微粒子添加等に分類される。発泡剤は有機系発泡剤と無機系発泡剤がある。
【0092】
有機系発泡剤としては、たとえばジニトロソペンタメチレンテトラミンDPT、アゾジカルボンアミド(ADCA)、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、ヒドラジドジカルボンアミド(HDCA)等が添加されるが、それに限られたものではない。
【0093】
無機系発泡剤としては、炭酸水素ナトリウムなどが添加されるがそれに限られたものではなく、材料に応じて適宜選択して添加してもよい。
【0094】
また熱膨張性微粒子としては、マイクロカプセル化した熱膨張性微粒子小球などが添加される。さらにガラスビーズ、ガラス中空体などの無機および有機材料から成る中空材料を添加するものでもよい。
【0095】
発泡倍率も特に限定されるものではないが、吸収体の厚み変化が少なく、強度が保持され、かつ軽量化ができるような形態にする必要がある。これらから好ましくは、発泡倍率は2〜30倍程度が好ましい。
【0096】
発泡構造については特に限定されるものではないが、圧縮方向に強い構成、たとえば厚み方向に扁平発泡された発泡形態が好ましい。
【0097】
木材として、合板、ラワン材、パーチクルボード、MDF等の木質材料でありその材料に本質的な制限を受けるものではなく、複数の材料を組み合わせて用いることもできる。
【0098】
多孔質無機材料として、各種セラミック材料、石膏ボード、コンクリート、発泡ガラス、軽石、アスファルト、土材などが挙げられるが、それに限られるものではない。
【0099】
また無線ICタグ20の基材や各層を貼り合わせるための粘着材層をスペーサの材料とすることも可能である。粘着材層は全面でなく、部分的に設けられていてもよい。第1のスペーサの機能としては、無線ICタグ20と補助アンテナ3とが電気的に導通しなければ十分であるので、空気すなわち無線ICタグ20と補助アンテナ3との間に空間が設けられていてもよい。
【0100】
第1のスペーサ2および第2のスペーサ4は、受信した電波エネルギをできる限り損失無く送信エネルギに変える必要があるため、できる限りエネルギ損失が少ない材料を選定する必要がある。そのためには無線ICタグ20が無線通信に利用する電磁波の周波数において誘電正接tanδ(ε”/ε’)が0.5以下であることが好ましく、より好ましくは0.2以下である。
【0101】
スペーサ材としては高誘電率、柔軟性および低誘電正接tanδ(ε”/ε’)を兼ねているのが好ましいが、より重要なのは通信周波数帯域(UHF帯等)で低い誘電正接tanδを示すことである。
【0102】
さらに複素比誘電率の実部ε’が高ければシート寸法の薄型化、小型化が可能となり得るため、ε’としては1〜50であることが好ましい。ただし、様々なパラメーターによりシートは構成されるため上記数値に限ったものではない。以上の材料は、第1のスペーサ2および第2のスペーサ4の材料としてだけではなく、情報記憶媒体100の外表面の一部または全部を被覆する誘電材料としても用いることができる。
【0103】
補助アンテナ3は、導電性を有する導電性材料から構成される。
補助アンテナ3を構成する導電性材料としては、金、白金、銀、ニッケル、クロム、アルミニウム、銅、亜鉛、鉛、タングステン、鉄などの金属であってもよく、樹脂に上記金属の粉末、導電性カーボン系材料の混入された樹脂混合物、あるいは導電性樹脂のフィルム等であってもよい。上記金属等を、箔状、板状、シート状、フィルム状等に加工されたものであってもよい。あるいはまた合成樹脂性フィルム上に、膜厚たとえば600Åの金属薄層が形成された構成を有してもよい。金属箔をフィルムもしくはクロスなどの基材に転写したものでもよい。また、導電インク(たとえば抵抗率10Ω/sq.以下)を第1のスペーサ2、第2のスペーサ4に塗布してもよい。
【0104】
補助アンテナ3の共振層は特定周波数の電波に対応する波長に応じたサイズに決まるが、裏面導体層5のサイズに制限はない。またこの裏面導体層5はたとえば金属製品のみに貼るなどの電磁遮蔽性を有する材料、つまり裏面導体層と同等の機能を有する材質に貼る場合はなくてもよい場合がある。
【0105】
切り欠きSは、一般的な形成方法で形成することができる。第1のスペーサ2においては、打ち抜き、切削などの機械的加工を用いたり、エッチングなどの化学的加工を用いて誘電体材料からなる板状部材から孔または切り欠きとなる所定の部分を除去すればよい。また、使用する誘電体材料によっては、成型時に予め孔または切り欠きが設けられた形状に成型することも可能である。
【0106】
補助アンテナ3においても、第1のスペーサ2と同様に機械的、化学的加工を用いて孔または切り欠きとなる所定の部分を除去すればよい。また、予め切り欠きが設けられた形状となるように、スペーサに直接印刷、蒸着、塗工することも可能である。
【0107】
上記のような方法を用いて、第1のスペーサ2と補助アンテナ3のそれぞれに孔または切り欠きを形成してもよく、第1のスペーサ2に予め補助アンテナ3を積層しておき、両者に同時の孔または切り欠きを形成してもよい。
【0108】
孔または切り欠きは、電気抵抗を上昇させるものであればその形状に制限はない。また孔、切り欠き、または間隙部の寸法は無線通信の電波の周波数に対して共振するものであっても、共振するものでなくてもよい。
【0109】
図4は、本発明の他の実施形態に用いるシート体31の平面図である。本実施形態では、図2などに示した実施形態とシート体の構成が異なるのみであり、他の構成は上記の実施形態と同様であるので、シート体31についてのみ説明する。
【0110】
本実施形態では、シート体31の平面形状は長方形であり、その長辺方向中央部に、短辺方向に平行な直線状の孔S1と、短辺方向に所定の間隔を空けて、長辺方向に平行な2本の直線状孔S2とが設けられ、孔S1と孔S2とは、中央部分で交差するとともに、直線状の孔S1は、孔S1より外側に突出しないように設けられる。このような2本の孔S2と、その中央部分で2本の孔S2を結合するように設けられる孔S1の形状から、以下では本実施形態の孔S2をH型孔S2、シート体31をH型シート体と呼ぶことがある。
【0111】
孔S1および孔S2の断面は、図2に示した断面図と同様で、第1のスペーサ2と補助アンテナ3とを積層方向に貫通し、その結果第2のスペーサ4が溝の底を形成する構成となっている。また、孔S1と孔S2の深さおよび幅は異なっていてもよいが、ここでは同じである。
【0112】
孔S2の深さは、第1のスペーサ2の厚みと補助アンテナ3の厚みとの和と同じとなり、たとえば0.1〜10mmである。孔S1および孔S2の幅Wは、ICチップやその接合部分およびリアクタンス装荷部の大きさなどによるが、たとえば1〜180mmである。
【0113】
孔S1の長さL1は、たとえば5〜200mmであり、孔S2の長さL2は、たとえば10〜200mmである。たとえば、本実施形態とは異なり、孔S1および孔S2の交差する箇所が、それぞれの中央部分になくてもよく、2本の孔S2が、それぞれ異なる長さ、幅、深さであってもよい。
【0114】
このような孔S1および孔S2を設けることで、配置面2aに配置された無線ICタグ20のアンテナ22またはICチップ21と、補助アンテナ3とが、この孔S1および孔S2を介して電磁的に結合し、補助アンテナ3が共振アンテナとして機能する。さらに、ICチップ21の直下に孔S1が設けられ、アンテナ22のループ部に孔S2が設けられるので、ICチップ21およびループ部(リアクタンス装荷部)に対する補助アンテナ3の導電体としての影響を小さくすることができる。
【0115】
図5は、本発明の他の実施形態に用いるシート体41の拡大断面図である。上記の実施形態では、第1のスペーサ2および補助アンテナ3に、第2のスペーサ4を底とする切り欠きSまたは孔S1を設ける構成について説明したが、第1のスペーサ2には、孔または切り欠きを設けず、補助アンテナ3のみに孔、切り欠き、または間隙部を設けるような構成であってもよい。
【0116】
本実施形態の製造方法としては、孔、切り欠き、または間隙部が設けられた補助アンテナ3に、孔または切り欠きが設けられていない第1のスペーサ2を貼り付けてもよいし、一旦、第1のスペーサ2および補助アンテナ3に孔、切り欠き、または間隙部を設けたのち、これを埋めるようにしてもよい。
【0117】
補助アンテナ3に設ける孔、切り欠き、または間隙部の形状や個数は、図に示した例に限定されるものではなく、複数の孔があってもよいし、組み合わせたものでもよいし、完全に補助アンテナを分割するような形状でもよい。また多角形状だけでなく、線状、棒状、円状、円弧状、曲線状、不定形状等で任意の形状でよい。これらが上下方向または横方向に分布することもある。
【0118】
シート体は、配置面2aには無線ICタグ20を配置し、配置面とは反対側の面には、長尺部材に貼り付けるために、これらの面のうちの少なくとも1つの面は、粘着材または接着剤を有することが好ましい。被着物質に固定するために、磁石材、ねじ止め、固結バンドまたはテープ等を用いることもできる。これにより、無線ICタグ20の配置や、長尺部材への取り付けが容易になる。
【0119】
長尺部材への取り付けには、たとえば、熱収縮性のカバー部材を用いてもよい。熱収縮性のカバー部材は、予め筒状に形成されており、長尺部材とシート体1と無線ICタグ20とを筒内に収納して外部から熱風などにより加熱することでカバー部材が収縮して、長尺部材とシート体1と無線ICタグ20とを外部から固定することができる。
【0120】
カバー部材として用いることのできる材料としては、熱収縮性に限らず刺激や外部要因によりシート体1と無線ICタグ20とを長尺部材に固持できるものであればどのような材料でも使用可能である。刺激や外部要因としては熱、圧力、温度変化、反応、磁力などある。ネジや締め付けなどの物理的な方法でもよい。
【0121】
具体的な材料としては、電子線架橋軟質ポリオレフィン樹脂、電子線架橋軟質難燃性ポリオレフィン樹脂、軟質難燃性ポリ塩化ビニル樹脂、電子線架橋半硬質難燃性ポリフッ化ビニリデン樹脂、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、ニトリルブタジエンゴムなどの材料を用いることができるが、これらに限定されることはなく種々の材料を使用できる。
【0122】
上記では、長尺部材としてねじ回しの本体部を例として説明したが、これに限らず、工具類の一部を構成する金属部材であって、帯状の金属部材または棒状の金属部材であればよい。
【0123】
工具類としては、切削工具、作業用器具、測定工具などが挙げられる。切削工具としては、たとえば、バイト、ドリル、フライス、リーマ、歯切工具、ねじ加工工具、超硬工具、ハクソー、機械刃物、木工用のこぎり、やすりなどが挙げられる。作業用器具としては、スパナ、レンチ、ペンチ、ねじ回し、万力、ハンマ、パイプ用工具などが挙げられる。測定工具としては、たとえば、マイクロメータ、ノギス、ゲージ、定規などが挙げられる。
【0124】
これらの工具類において、帯状の金属部材または棒状の金属部材となる部分があればその部分については、全て長尺部材として利用することができる。
【0125】
工具類は、所定の置き場所に有るか無いか、所定の場所から持ち出された否かなどの管理が重要であるにもかかわらず、これらの判断は、目視であったり、使用する作業者本人による申告に依存しており、十分な管理が成されているとはいえない。また、工具類を従来の無線ICタグで管理しようとしても、そもそも導電性材料で構成された工具類に無線ICタグを貼り付けても通信が不可能であったり、通信可能であったとしても、リーダによって読み取る方向に制限があるため、無線ICタグによる管理は困難である。バーコードによる個別読み取りによる管理がなんとか実用化されていたに過ぎない。
【0126】
これに対して、本発明を適用すると、工具類に取り付けた無線ICタグが通信可能となるだけでなく、読み取り方向についても制限なく読み取れるので、無線ICタグによる工具類の管理が可能となる。また読み取り距離が長く、光の届かない所にある工具も読み取ることができる。これは、たとえば建物の壁の中の補強材の位置や、地中にある配管などや水中にある物体や、監視センサ、電灯、アクセスポイント、電線、ケーブル、配線、鋼材、電子機器、監視機器、または空調設備などの建物や工場のどこかに配置されている、あるいは天井、天井裏、床下あるいは壁際にある配管、部材、蒸気管、ガスや水道管、通信線、空調管などのあらゆるものを、リーダで室内、屋内、地上や床上、屋上などの人が危険に晒されない安全あるいはスペースに余裕のある位置から読み取りでき、必要なデータを収集できることを意味している。また、物品に対して上記のようなロケーション管理だけでなく、状態管理および環境管理など物品に関する各種情報を管理することができる。さらに情報記憶媒体100の環境に応じた読取性能の差異を利用してセンサ機能を発揮し、情報管理をすることもできる。
【0127】
さらに本発明の無線ICタグは携帯電話装置などの電子機器、産業機器、製造装置等に外付けまたは内装することで無線通信機能を容易に付与できることになる。本発明タグを外装または内装することで装着した工具、部材、装置、機器、機械等は、容易に無線通信、タグ管理、RFID管理できるようになることから、それらの工具、部材、装置、機器、機械等も情報記憶媒体である本発明タグを利用した管理対象物品となる。
【0128】
本発明のさらに他の実施形態として、管理システムが挙げられる。管理システムとしては、情報が記憶される無線ICタグ、シート体、および長尺部材を備える情報記憶媒体と、情報記憶媒体から無線通信によって、無線ICタグに記憶される情報を読み取る読取装置と、読取装置によって読み取った情報と、読取装置が情報記憶媒体から情報を読み取ったときの通信状態とに基づいて情報記憶媒体を管理する管理装置とで構成される。読取装置(リーダ)は、読み取り機能以外に書き込み機能を有するリーダライターであってもよい。
【0129】
読取装置としては、一般的な無線ICタグリーダを用いることができる。管理装置は、読み取ったID情報と、読み取りの可・不可や、読み取ったときの電波強度などの通信状態とに基づいて、情報記憶媒体の読み取り時での状態を判断して、情報記憶媒体を管理する。たとえば、所定の位置にあるべき工具類のうち、現在どの工具類が有り、どの工具類が無いのか、いつどのような工具類が所定の場所から持ち出されたのかなどを管理することができる。また工具だけではなく、被着物質の情報管理、位置管理、状態把握、在庫管理、電子決済などが可能となる。
【0130】
本発明の情報記憶媒体を、長尺部材が金属板などの導電性部材、水などの誘電性部材に接触するように配置した場合、長尺部材によるアンテナ機能は失われてしまうが、シート体による無線通信改善機能は依然として発揮される。
【0131】
したがって、本発明の情報記憶媒体を導電性部材や誘電性部材に接触させない状態で使用する場合は、長尺部材のアンテナ機能が発揮され、通信距離を伸ばすとともに無線ICタグの読み取り方向に対する制限が緩和され、本発明の情報記憶媒体を導電性部材や誘電性部材に接触させた状態で使用する場合は、接触させない状態に比べて通信距離が短くなり、読み取り方向も無線ICタグが配置される側から読み取る方向に制限される。すなわち、本発明の情報記憶媒体は、通信環境が変化すると、通信距離および読み取り方向が変化するものといえる。
【0132】
このような特徴を利用すると、連続的または断続的に無線ICタグの読み取りを行い、読み取り結果の変化を検出することで、情報記憶媒体の通信環境の変化を検出することが可能となり、情報記憶媒体は、いわゆるセンシング機能を発揮する。
【0133】
通信環境の変化とは、たとえば、情報記憶媒体の長尺部材が導電性部材または誘電性部材に接触または近接した状態と、情報記憶媒体の長尺部材が導電性部材または誘電性部材から離間した状態との状態変化、および情報記憶媒体の長尺部材と導電性部材または誘電性部材との距離の変化を含む。
【0134】
情報記憶媒体をセンサとして用いる具体的な方法としては、たとえば塩化ビニル樹脂などの樹脂で構成される非金属製の水道管の外表面に、情報記憶媒体の長尺部材が該水道管に接触するように貼り付けて使用する。水道管の管内を水が流れていない場合、情報記憶媒体の長尺部材が導電性部材または誘電性部材から離間した状態となるので、長尺部材のアンテナ機能が発揮される。水道管の管内を水が流れている場合、情報記憶媒体の長尺部材に誘電性部材が近接することにより長尺部材のアンテナ機能が失われ、通信距離はシート体の通信改善効果のみが発揮される。
【0135】
したがって、水道管の管内を水が流れていない場合と、水道管の管内を水が流れている場合とでは、通信距離が変化する。水道管の管内を水が流れていない場合だと通信距離が長く、水道管の管内を水が流れている場合だと通信距離が短くなる。
【0136】
水道管の管内を水が流れていない場合と、流れている場合の通信距離を予め測定しておけば、無線ICタグの読み取り結果から、水道管の管内を水が流れているかいないかを検出できる。
【0137】
水道管は地中に埋設されていたり、壁の内部、天井などに隠されて敷設されることがあり、地表面付近、壁の外部、通路など人が作業し易い位置から、水道管表面に配置された情報記憶媒体の読み取りを行うことで、水道管の管内を水が流れているかいないか検出できる。
【0138】
水道管の外表面に一定の距離を空けて情報記憶媒体を配置しておき、水道管の破損などが起こった場合に、水道管の配設方向に沿って地表面付近から読み取りを行う。通信距離の違いにより、管内を水が流れている箇所と、流れていない箇所が検出されれば、その2箇所の間で水道管の破損が生じている可能性が高いと判断することができる。
【0139】
以上は水道管の状態変化をセンシングする例であるが、無線ICタグの通信距離に影響を及ぼすもの、例えば蒸気管による温度上昇、湿度や温度差で露点以下となり表面に水滴が凝結する配管、誘電体物質を搬送する配管などで管内の状態が変化するものなどであれば、その状態変化の監視用途に、本発明の情報記憶媒体を使用することが可能となる。
以下では本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0140】
IO型シート体を作製し、これに無線ICタグを貼り付け、さらに、ドライバ(ねじ回し)、スパナ、ニッパに取り付けて本発明の情報記憶媒体を作製した。
【0141】
IO型シート体は、外形寸法が縦10mm、横48mmとした。第1のスペーサ2は、厚み0.1mmのPET(ポチエチレンテレフタレート)フィルムを用いた。補助アンテナ3は、厚み0.05mmのアルミ箔層であり、切り欠きSは、長さLが8mm、幅Wが10mmとした。第2のスペーサ4は、厚み1mmのEPDMゴム100重量部と酸化チタンフィラー280重量部の混合物を用いた。各構成材の粘着および接着は任意であり、不要な場合もあるが、本実施例では粘着材を用いて固定化している。
【0142】
ドライバに取り付けたものを実施例1とし、ニッパに取り付けたものを実施例2とし、スパナに取り付けたものを実施例3とした。これらのドライバやニッパが本発明タグであり、情報記憶媒体である。
【0143】
実施例1について、ドライバの本体部は株式会社ベッセル製で、長さが183mmであり、握り部の近傍に、熱収縮性カバー部材(住友電工ファインポリマー株式会社製)を用いて無線ICタグおよびシート体を取り付けた。
【0144】
ドライバ本体部の長手方向が、鉛直方向と平行になるように配置し、リーダを無線ICタグと同じ高さの水平面上で、読み取り位置を30°ごとに変更しながら通信可能距離を測定した。このような読み取り条件を以下では「縦向き」とよぶ。ドライバ本体部の長手方向が、水平方向と平行になるように配置して同様に通信可能距離を測定した読み取り条件を以下では「横向き」とよぶ。
【0145】
縦向きでは、リーダと無線ICタグとが対向する位置を、読み取り位置0°とした。したがって、読み取り位置180°は、無線ICタグとは反対側の読み取り位置となる。
【0146】
図6は、実施例1の測定結果を示す図である。図6の縦向きの結果を示すグラフ50では、0°から360°のどの読み取り位置でもほぼ同じ通信可能距離となった。また、図6の横向きの結果を示すグラフ51と合わせると、ダイポールアンテナの放射パターンと一致し、本実施例では長尺部材がダイポールアンテナとして機能していることがわかった。
【0147】
実施例2について、ニッパの本体部は株式会社ベッセル製で、長さが全長158mm、幅52mmであり、握り部内側に、つまり、一方の握り部の内側中央付近に、握り部の内周面の曲率に沿わせるように、熱収縮性カバー部材(住友電工ファインポリマー株式会社製)を用いて無線ICタグおよびシート体を取り付けた。
【0148】
測定条件としては縦向きであるが、ニッパを開いた状態と閉じた状態とでそれぞれ測定した。
【0149】
図7は、実施例2の測定結果を示す図である。図7の開いた状態の結果を示すグラフ52では、0°から360°のどの読み取り位置でも読み取り可能であったが、通信可能距離は読み取り位置によって異なっていた。図7の閉じた状態の結果を示すグラフ53では、225°の読み取り位置で読み取ることができなかったことを除いて、ほぼ全周で読み取り可能であった。ニッパを閉じた状態では、無線ICタグとシート体を取り付けた一方の握り部と他方の握り部との距離が近いために、225°の読み取り位置で、他方の握り部に通信が阻害されたものと考えられる。ただし、この状態であっても、360°中の270°の範囲で通信はできており、指向性は十分に改善されている。
【0150】
実施例3について、スパナの本体部は株式会社ベッセル製であり、中央部分の片側面に、熱収縮性カバー部材(住友電工ファインポリマー株式会社製)を用いて無線ICタグおよびシート体を取り付けた。また、長さの異なるスパナを用意し、長さの影響についても検討した。スパナの長さは、140mm、160mm、210mmとした。
【0151】
また、比較例として、150mm×66mmのSUS板に無線ICタグを貼り付けたものを作製した。比較例も実施例3と同様にリーダと無線ICタグとが対向する位置を、読み取り位置0°として、読み取り位置を45°ごとに変更しながら通信可能距離を測定した。
【0152】
さらに実施例4として直径24mm、長さ220mmの円筒状鉄製パイプを長尺部材として用いたものを測定した。
【0153】
測定条件としては実施例3,4および比較例いずれも縦向きとした。
図8は、実施例3,4および比較例の測定結果を示す図である。図8の長さ140mmの結果を示すグラフ54、長さ160mmの結果を示すグラフ55、長さ210mmの結果を示すグラフ56および実施例4の鉄パイプの結果を示すグラフ58では、0°から360°のどの読み取り位置でも読み取り可能であった。比較例の測定結果を示すグラフ57では、全体的に通信可能距離が短く、さらに、90°を超えて270°までの読み取り位置、すなわち無線ICタグを貼り付けたSUS板の裏側から読み取るような位置では、通信可能距離が0であった。
【0154】
また、通信可能距離を比較すると、長さ140mmのスパナに取り付けた場合が最も長く、160mm、210mmの順に通信可能距離が短くなった。これは、長さ140mmのスパナが、UHF帯RFIDの国際認可周波数の電波のλ/2に最も近い長さであったためであると考えられる。
【0155】
実施例5は、実施例1と同じIO型シート体を用い、無線ICタグとしてはUPM Raflatac社製のRafsecシリーズタグのUPM−COMBOを用いた。本無線ICタグはICとしてNXP U−Code G2XLを用いた、10mm×42mmの大きさのタグである。自由空間での通信距離は約80cmである。本タグはたとえばダンボールに貼った場合に通信距離が約2倍になる設計がされている。さらにIO型シート体の無線ICタグとは反対側に導電性を有する長尺部材を取り付けている。
【0156】
図9は、実施例5の構成を示す外観図である。図9(a)は、平面図を示し、図9(b)は側面図を示す。本実施例では、長尺部材に孔、切り欠けまたは間隙部は設けていない。
【0157】
ここで、長尺部材は長さを、50、80、100、120、140、150、170、190、210、240、280、310mmに変更させた。図10は、自由空間における通信距離に対する長尺部材の長さの影響を示すグラフである。また、上記のように、リーダと無線ICタグとが対向する位置を、読み取り位置0°として、読み取り位置を45°ごとに変更しながら通信可能距離を測定した。図11は、実施例5の測定結果を示す図である。リーダ出力は日本の最高出力である1Wとして、4WEIRPで日本のUHF帯RFID認可周波数を用いた通信測定である。図11に示したグラフの通信距離の単位はmmである。
【0158】
実施例5の本発明タグを金属板(SUS板、200mm×300mm)に貼り付けた場合の通信距離は80cmであった。この場合は金属板と本発明タグの長尺部材はほぼ電気的に導通しており、長尺部材の長さに無関係で通信距離は80cmとなる。
【0159】
図10の結果からは長尺部材の長さを伸ばすほど通信距離が伸びる傾向があることがわかる。長尺部材の長さが130mm〜160mmの場合に最も通信距離が長く、約3.5mであった。さらに長尺部材の長さを伸ばすと通信距離は低減するが、それでも2m以上の通信距離を確保することができ、元の無線ICタグの通信距離に比べて約3倍超の通信距離を実現した。
【0160】
さらに図11の結果は、通信部材として指向性が見られないことを示している。長尺部材側から、つまり無線ICタグの裏面金属部材側でも問題なく読めるという事が確認できた。図10は、角度0°における通信距離の結果を示している。以上の結果は、本発明が、そのまま自由空間で測定しても、さらに金属板上で使用しても良好な性能を保持していることを示している。この自由空間での高性能かつ金属対応性を両立させたタグは従来見当たらなかった。本発明タグは、金属板上でも無線通信が可能な金属対応タグであるが、自由空間ではダイポールアンテナ型タグとして機能するという従来ない特徴を有している。さらにタグが貼り付けられる物品や装置を長尺部材として利用することが可能であり、その場合は金属対応タグとしても小型でよく、それでも通信距離としては十分長い距離を得られることになる。
【0161】
さらに長尺部材を工具やその他金属製部材に換えても同様の結果が得られる。被着物質をアンテナとして利用するという性質を有することにより貼り付けるタグは、本発明の長尺部材がない部分だけでよいため小型となる。
【0162】
実施例6は、実施例5の長尺部材を折り曲げ、幅も変更したものである。これは長尺部材を含めて本発明タグとなる。図12は、実施例6の構成を示す平面図である。長尺部材の長手方向両端からそれぞれ約1/4の長さ部分を鉤状に折り曲げ、全体として40mm×70mmの大きさとした。両端部分(X)の外寸長さ(図12の端部を含み、矢印にて寸法を与えられている部分の長さ)を55mm、その幅を5mmとした。これは、クレジットカードなどのサイズ54mm×86mmに十分納まる大きさとなった。さらに、Xの長さを50mm、その幅を5mmとしたもの、Xの長さを50mm、その幅を1mmとしたものも作製した。
【0163】
実施例6のXの長さが55mm、幅が5mmの場合、通信距離は約3mであった。Xの長さを50mm、幅を5mmにした場合は、通信距離が約2.4mとなった。この場合もリーダ出力は日本の最高出力である1Wで、4WEIRPで通信している。
【0164】
次に、通信特性の周波数依存性を測定するためにペリテック社製RFIDテスターでタグの最小起動電力の周波数依存性を測定した。タグの最小起動電力値が低ければ低いほど、通信距離は伸びることになり、高性能であるといえる。図13は、実施例6における最小起動電力の周波数依存性を示すグラフである。
【0165】
図13に示す周波数依存性からわかるように、ヨーロッパ地域でのRFID認可周波数である868〜870MHzでは通信が難しいものの日本でのRFID認可周波数である950MHz帯を越えてなお高周波数側でも通信可能であることから、周波数調整を施せばUHF帯RFIDのグローバル対応可能なほどの広帯域特性を示した。
【0166】
上記のように、実施例6のサイズは、たとえば社員証、名前札、名刺、来客証、車両カード、運転免許証などと組み合わせて、あるいはそれらを収納する収容器に同じくカード形状として入れておいてRFID管理や無線通信できることを可能とする。従来は、市販のUHF帯無線ICタグを用いていたが、人体の影響や汗、雨、湿度の影響、防火服などの着衣の影響を受けて通信できなくなっていた。これに対し本発明を用いることで、これらの影響を受けることなく、より確実に通信できる情報記憶媒体を提供できることになった。
【0167】
実施例6では、長尺部材の両端部分を同じ大きさにしているが、同じ大きさでなくてもよく、外形が全て直線状に構成される必要もない。たとえば、図14の平面図に示すような直線と曲線が混ざり合った外形状や曲線でのみの外形状であってもよい。これは両端部分だけでなく、全ての構成部位について当てはまる。
【0168】
次に、情報記憶媒体のセンシング機能について検討した。使用した情報記憶媒体は、図12に示した実施例6の構成と同様に、長尺部材の長手方向両端からそれぞれ鉤状に折り曲げた構成のものを用いた。大きさは、全体として40mm×70mmであり、両端部分(X)の長さを55mm、その幅を5mmとした。
【0169】
このような情報記憶媒体を、PET樹脂製ボトル(直径98.7mm)の外表面に貼り付け、ボトル内の水量を変化させたときの通信距離について測定した。
【0170】
図15は、情報記憶媒体のセンシング機能の測定方法を示す模式図である。
中に水を封入したボトルを横向きに倒した状態で、長尺部材の長手方向が縦向きになるように、情報記憶媒体をボトル外表面の側方に貼り付けた。情報記憶媒体から水平方向にリーダの位置を変化させて読み取り可能であった距離を通信距離とした。
【0171】
図16は、ボトル内の水位と通信距離との関係を示すグラフである。横軸は水位(%)を示し、縦軸は通信距離(mm)を示す。水位は、ボトル内が完全に水で満たされた状態の液面高さを100%として、100分率で示している。すなわち、ボトル内が完全に水で満たされた状態が100%であり、ボトル内が空の状態が0%である。
【0172】
水位が上昇するとともに通信距離が短くなっていることがわかる。また、水位が40%を超えると通信距離は、100%までほぼ一定であった。水位の変化に比例して通信距離が変化する領域と、水位にかかわらず通信距離が一定である領域と大きく2つの領域が存在することもわかった。
【0173】
このように、本発明の情報記憶媒体は、近傍に存在する水量の変化に応じて通信距離が変化するので、通信距離を測定することで、水量を検出するセンサとして使用することができる。
【0174】
なお、ボトルの外表面に情報記憶媒体と同様に、無線ICタグのみを貼り付けて測定した場合、水位100%では、全く通信が不可能であったことから、無線ICタグのみではセンサとして機能しないことがわかる。たとえば地中に埋設するなどして無線ICタグが目視できない状態で使用する場合、通信が不可能であると、水位が100%であるために通信不可能であるのか、無線ICタグ自身の異常によって通信不可能であるのか判断することができない。本発明の情報記憶媒体では、水位100%の場合、水位100%における通信距離で通信可能であるため、水位100%であることを確実に検出することができる。さらに、通信不可能という測定結果が得られた場合は、無線ICタグ自身に異常が生じたことをも検出することができる。
【0175】
以上のように、工具類の一部を構成する長尺部材に無線ICタグおよびシート体を取り付けた場合や本発明のシート体や本発明タグを用いることで工具・道具類や長尺部材がアンテナとして機能し、これらの工具・道具類、長尺部材、機械、装置、機器類がタグ機能、RFID機能、または通信機能を得ることができる。また通信特性としても無線通信のできないヌル域を解消し、さらに自由空間での長距離通信および金属や水分対応での通信を実現可能であることがわかった。
【0176】
また、長尺部材のアンテナ機能が、通信環境によって変化することを利用すれば、通信距離などを測定することで情報記憶媒体近傍の状態変化を検出することが可能であることがわかった。
【符号の説明】
【0177】
1,31,41 シート体
2 第1のスペーサ
3 補助アンテナ
4 第2のスペーサ
10 ねじ回し
11 本体部
12 握り部
20 無線ICタグ
21 ICチップ
22 アンテナ
100 情報記憶媒体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報が記憶される無線ICタグと、
第1のスペーサ、補助アンテナおよび第2のスペーサを有するシート体と、
導電性材料で構成される長尺部材とを備え、
前記シート体は、
前記無線ICタグを前記補助アンテナと結線しないで配置する配置面を有する前記第1のスペーサと、
孔、切り欠きまたは間隙部が設けられ、第1のスペーサの前記配置面とは反対側の面に設けられる前記補助アンテナと、
前記補助アンテナを挟んで第1のスペーサとは反対側に設けられる前記第2のスペーサとが積層されて成り、
前記長尺部材は、前記シート体に対して前記無線ICタグとは反対側に設けられることを特徴とする情報記憶媒体。
【請求項2】
前記長尺部材は、帯状の金属部材または棒状の金属部材であることを特徴とする請求項1記載の情報記憶媒体。
【請求項3】
前記長尺部材は、直線状部分、曲線状部分、または折れ曲がり部分の少なくとも1つを有する金属部材であることを特徴とする請求項1または2記載の情報記憶媒体。
【請求項4】
前記長尺部材は、工具または装置の一部を構成する金属部材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の情報記憶媒体。
【請求項5】
前記第2のスペーサと前記長尺部材との間に裏面導体層をさらに設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の情報記憶媒体。
【請求項6】
前記孔、切り欠きまたは間隙部は、前記無線ICタグが備えるICチップまたはリアクタンス装荷部に対向するように設けられることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の情報記憶媒体。
【請求項7】
前記第1のスペーサおよび前記第2のスペーサの少なくともいずれか1つは、発泡体からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の情報記憶媒体。
【請求項8】
外表面の一部または全部を誘電材料で被覆したことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の情報記憶媒体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の情報記憶媒体を備えることを特徴とする管理対象物品。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の情報記憶媒体または請求項9記載の管理対象物品と、
前記情報記憶媒体から無線通信によって、前記無線ICタグに記憶される情報を読み取る読取装置と、
前記読取装置によって読み取った前記情報と、前記読取装置が前記情報記憶媒体から前記情報を読み取ったときの通信状態とに基づいて前記情報記憶媒体を管理する管理装置とを備えることを特徴とする管理システム。
【請求項1】
情報が記憶される無線ICタグと、
第1のスペーサ、補助アンテナおよび第2のスペーサを有するシート体と、
導電性材料で構成される長尺部材とを備え、
前記シート体は、
前記無線ICタグを前記補助アンテナと結線しないで配置する配置面を有する前記第1のスペーサと、
孔、切り欠きまたは間隙部が設けられ、第1のスペーサの前記配置面とは反対側の面に設けられる前記補助アンテナと、
前記補助アンテナを挟んで第1のスペーサとは反対側に設けられる前記第2のスペーサとが積層されて成り、
前記長尺部材は、前記シート体に対して前記無線ICタグとは反対側に設けられることを特徴とする情報記憶媒体。
【請求項2】
前記長尺部材は、帯状の金属部材または棒状の金属部材であることを特徴とする請求項1記載の情報記憶媒体。
【請求項3】
前記長尺部材は、直線状部分、曲線状部分、または折れ曲がり部分の少なくとも1つを有する金属部材であることを特徴とする請求項1または2記載の情報記憶媒体。
【請求項4】
前記長尺部材は、工具または装置の一部を構成する金属部材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の情報記憶媒体。
【請求項5】
前記第2のスペーサと前記長尺部材との間に裏面導体層をさらに設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の情報記憶媒体。
【請求項6】
前記孔、切り欠きまたは間隙部は、前記無線ICタグが備えるICチップまたはリアクタンス装荷部に対向するように設けられることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の情報記憶媒体。
【請求項7】
前記第1のスペーサおよび前記第2のスペーサの少なくともいずれか1つは、発泡体からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の情報記憶媒体。
【請求項8】
外表面の一部または全部を誘電材料で被覆したことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の情報記憶媒体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の情報記憶媒体を備えることを特徴とする管理対象物品。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の情報記憶媒体または請求項9記載の管理対象物品と、
前記情報記憶媒体から無線通信によって、前記無線ICタグに記憶される情報を読み取る読取装置と、
前記読取装置によって読み取った前記情報と、前記読取装置が前記情報記憶媒体から前記情報を読み取ったときの通信状態とに基づいて前記情報記憶媒体を管理する管理装置とを備えることを特徴とする管理システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−141858(P2011−141858A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79873(P2010−79873)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】
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