説明

情報記録再生装置

【課題】 高速回転におけるディスク姿勢を安定化させ、さらに、高速磁界反転を可能にすることにより、高いデータ転送速度を与える。
【解決手段】 磁性回転円板12上に可撓性ディスク状記録媒体13を保持して回転させることにより、可撓性ディスク状記録媒体13の回転ブレを抑制して、浮上型ヘッド15を安定に浮上させる。磁性回転円板12の磁化容易方向を板面方向
と平行な軟磁性体で構成する。これにより、記録媒体への磁界印加効率が向上し、データ転送速度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報記録再生装置に関し、より詳しくは可撓性を有する記録ディスクを用いた情報記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
情報化社会が進み、膨大な情報を記憶しておく外部記憶装置の記録密度向上が著しい。光ディスクも高密度化に対して、レーザーの短波長化、対物レンズの高開口数化で集光した光スポットサイズを小さくする研究が盛んに行われている。しかし、光スポット径の微小化には現実的な限界が見えており、光ディスクの記憶容量増大には多層記録あるいはホログラム記録といった体積記録密度を高める研究が盛んになってきている。ただし、いわゆる多層記録では、各層で光が吸収されることから数層くらいが現実的と見られており、ホログラムでは狭スポット化による記録密度向上が見込みにくく、テラバイトクラスの光ディスク実現は極めて難しい状況にある。一方、光ディスクのようにランダムアクセスはできないがテラバイトクラスの記録容量を目指しているのが磁気テープである。しかし、磁気テープにおいてもテラバイトクラスを狙うのは極めて難しい状況にある。また、磁気テープにおいては、アクセス時間が長いという欠点もある。
【0003】
このような状況を打破し、小型で、テラバイトクラスの大容量の記録ができ、かつ、アクセス時間が短く、小さな体積の中に情報記録を行う一つの方法として、例えば特許文献1に記載のものがある。この方法は、従来の光記録媒体や磁気記録媒体に用いられる基板に比し、基板厚が極端に小さいディスク状記録媒体を形成し、そのようなディスク状記録媒体を多数、カートリッジ内に搭載する方法である。
【0004】
【特許文献1】特開2003−22651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光ディスクを用いた記録再生において、頻繁に書換えを行う用途には、書換え耐久性の高い、磁界印加を併用する方式が適する。その際に、磁界印加は、一般にコイルに電流を流すため、そのインダクタンスにより、高速駆動が困難であり、データ転送速度を向上させることが困難な状況にある。
【0006】
本発明の目的は、熱アシスト磁気記録すなわち局所的に光を照射して磁気記録を容易にする記録方式のディスクに関し、可撓性を有するディスクを用いた情報記録再生装置において、高速回転におけるディスク姿勢を安定化させ、さらに、高速磁界反転を可能にすることにより、高いデータ転送速度を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、情報記録再生装置の構成を以下のようにすることにより達成できる。可撓性ディスク状記録媒体と共に回転する剛性平板を設け、記録、再生時に、その片方の面が可撓性ディスク状記録媒体に接触した状態で、剛性平板を可撓性ディスク状記録媒体と共に回転させる。これにより、可撓性ディスクであっても回転ブレが十分に抑制され、浮上型ヘッドを安定に浮上させることができる。さらに、剛性平板を磁化容易方向が板面方向と平行な軟磁性体で構成する。これにより、光と磁界を共に記録媒体に与える浮上型ヘッドから発生した磁束がディスクを介して剛性平板の軟磁性体内を通るため、記録ディスクへ効率的に記録磁界が印加される。逆に、一定強度の記録磁界を記録ディスクに印加するためには、巻数の少ないコイルすなわちインダクタンスの小さいコイルを用いることが可能となる。この結果、コイルを高速に駆動することが可能となり、高速なデータ転送が可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高速回転における可撓性ディスク状記録媒体の姿勢の安定性を向上させることができ、さらに、高速磁界反転を可能にすることにより、高いデータ転送速度を得ることが可能になる。これにより、高速データ転送が可能で、大容量の記録カートリッジに好適な特性を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の情報記録再生装置について図面を用いて具体的に説明する。
図1は、本発明に係る情報記録再生装置の一例を示す概略図である。回転軸を介してスピンドルモータ11で回転駆動される磁性回転円板12上に薄い可撓性のディスク状記録媒体13が配置される。ディスク状記録媒体13はディスク固定子14により、中心が位置決めされる。ディスク状記録媒体13の上方には浮上型ヘッド15が配置される。浮上型ヘッド15はヘッドアクチュエータ16により駆動され、ヘッドがディスク状記録媒体13の所望のトラック位置に位置づけられる。
【0010】
図2は、浮上型ヘッドの構造例を示す断面模式図である。図には、磁性回転円板12及びディスク状記録媒体13の断面も合わせて示した。浮上型ヘッドは磁界を印加するためのコイル21を有し、コイルの中心には近接場光をディスク上記録媒体に照射するために先端を尖らせた光ファイバ22が配置される。この近接場光は、ディスクの記録領域に局所的に光照射して局所的に昇温するためのものである。これにより、ヘッド磁界による磁化反転すなわち記録が容易になる。さらにこの領域に隣接して再生用のGMRヘッド23が配置される。ここで、ホルダ24は、光ファイバ22を保持するものである。
【0011】
磁性回転円板12は、直径95mm、厚さ1.5mmのニッケル−鉄合金で形成した。このような直径に比べ厚さが小である磁性円板をニッケル−鉄合金で形成した場合には、一般に、形状磁気異方性により磁化容易方向は板面に平行な方向となる。
【0012】
ディスク状記録媒体13は、直径90mm、厚さ100μmのポリカードネート製の可撓性基板の上に以下の層をスパッタ法で形成したものである。まず、熱拡散層として厚さ20nmのAl合金層を形成し、その上に厚さ10nmのSiN層を形成した。この上に、記録層として厚さ50nmのTbFeCo層、厚さ40nmのSiN層を順に積層した。さらに、保護層として厚さ20nmの樹脂層を形成した。
【0013】
ディスク状記録媒体は、これを複数枚収納したカセット(不図示)より、所望の1枚を抜き出し、これを磁性回転円板12上に静止状態でのせる。この状態で、ディスク固定子14をディスク内周部付近に装着することにより、ディスク中心が回転軸の中心に一致した状態になる。さらに、この内周部付近が磁性回転円板に固定される。
【0014】
この状態でスピンドルモータ11を駆動し、磁性回転円板12を回転させる。これにより、その上のディスク状記録媒体13も磁性回転円板12と共に回転する。回転速度が上昇すると、ディスク状記録媒体13と磁性回転円板12の間の空気が遠心力により外周方向に排出され、この領域の気圧が低下する。これにより、ディスク状記録媒体13は磁性回転円板12に概略密着するため、回転ブレが抑制される。
【0015】
このような構成における、高速回転時のディスク姿勢を調べた。磁性回転円板を除去し、2個のディスク固定子でディスクを挟んで回転させた場合には、回転数10000rpmにおいては、ディスクの回転ブレは0.5mm以上にも及んでいたが、磁性回転円板上にディスク状記録媒体を載せて回転させた場合には、10000rpmにおいても回転ブレは、約30μmに抑制されていた。
【0016】
記録時に浮上型ヘッド15のコイル21からディスク状記録媒体に印加される磁界は、図2に矢印で示すように、磁気抵抗の小さい磁性回転円板中を磁束が板面方向に通ることにより、光ファイバ22が対向する媒体面で大きくなる。すなわち、同じコイル電流に対して、回転円板が磁性体でない場合よりも大きな磁界を印加することが可能となる。コイル直下のディスク位置の磁界を微小ホールプローブで測定したところ、磁性回転円板がない時に300エルステッドの磁界が発生する250mAのコイル電流に対して、磁性回転円板を配置すると430エルステッドの磁界が得られ、磁界発生効率が約40%向上した。
【0017】
図3は、本発明に係る情報記録再生装置の他の例を示す概略図である。装置全体の構成は図1に示した実施例と同様である。図1の構造との違いは、磁性回転円板31にあり、本実施例では、磁性回転円板31として1mm厚のガラス円板の一方の面に磁性体層を形成したものを用いた点である。
【0018】
図4は、本実施例で用いた磁性回転円板の概略断面図である。この磁性回転円板は、円板状ガラス基板32の一方の面に、まず、磁区安定層33として反強磁性体であるPtMn合金の層を1μm厚で形成し、その上に軟磁性体層34として10μm厚のNi−Fe合金層をメッキ法で形成した。ここで、磁区安定層33は軟磁性体層34の磁壁移動を抑制し、磁壁移動に起因するノイズを低減するためのものである。このような磁壁移動の抑制は、この他に、2つの軟磁性体層の間にルテニウムの層を挟み、両磁性層を反強磁性結合させる構造を形成することによっても実現できる。この軟磁性体層34の厚さは直径に比べ十分に小さいため、これをNi−Fe合金で形成した場合には、一般に、形状磁気異方性により磁化容易方向は板面に平行な方向となる。
【0019】
この場合にも、回転数10000rpmにおけるディスクの回転ブレは約30μmに抑制されていた。また、この場合には、磁性体を用いていない磁性回転円板を用いた場合と比較して、記録媒体における磁界発生効率は約30%増加した。
【0020】
さらに、浮上型ヘッドとして、コイルの上部に軟磁性体を配置したものを作製した。図5に、この浮上型ヘッドの断面模式図を示す。この軟磁性体はニッケル−鉄合金で、厚さは2μmである。図には、磁性回転円板12及びディスク状記録媒体13の断面も合わせて示した。浮上型ヘッドは磁界を印加するためのコイル21を有し、コイルの中心には近接場光をディスク上記録媒体に照射するために先端を尖らせた光ファイバ22が配置される。さらにこの領域に隣接して再生用のGMRヘッド23が配置される。また、コイルの直上に、穴を有する円形の軟磁性体層25を設けた。ここで、ホルダ24は、光ファイバ22を保持するものである。
【0021】
このような配置を用いると、図5に矢印で示すように、磁性回転円板中に加え、コイル上部に配置した磁気抵抗の小さい軟磁性体をも磁束が通ることにより、コイル21からディスク状記録媒体に大きな磁界を印加することが可能となる。すなわち、同じコイル電流に対して、コイル上部の軟磁性体がない場合よりも大きな磁界を印加することが可能となる。
【0022】
この場合、コイル直下のディスク位置での磁界は、250mAのコイル電流に対して図1の装置構成で435エルステッド、図3の装置構成で405エルステッドであった。したがって、磁性回転円板とコイル近傍の磁性体を共に用いていない場合と比較して、磁界発生効率は、図1の装置構成で約45%、図3の装置構成で約35%増加した。
【0023】
上述のように磁界発生効率が向上すると、必要な磁界を発生させる場合、同じ電流値であればコイルの巻数を減少させることができるので、インダクタンスを低下させることができる。インダクタンスが低下すると、より高速に磁界を駆動することができるため、データ転送速度を向上させることができる。
【0024】
以上の効果は、ヘッドのコイルから生じた磁束の還流が促進されることに基づくため、基板の厚さが小であるほど大きい。十分な効果が得られるのは、ディスク状記録媒体の厚さが概ね100μm以下の場合である。一方、ディスク厚が概ね10μmより小になると、剛性が小さすぎ、搬送などが困難となる。このため、上記の方法を用いる場合には、ディスク厚は10μmから100μmの範囲が望ましい。
【0025】
また、上記実施例においては、光をレンズで絞った伝播光を記録媒体に照射する場合を示したが、波長よりも非常に小さい領域への光照射を可能とする近接場光を用いた記録においても本発明は有効である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る情報記録再生装置の一例を示す概略図。
【図2】浮上型ヘッドの構造例を示す断面模式図。
【図3】本発明に係る情報記録再生装置の他の例を示す概略図。
【図4】磁性回転円板の概略断面図。
【図5】コイル近傍に軟磁性体を配した浮上型ヘッドの断面図。
【符号の説明】
【0027】
11:スピンドルモータ、12:磁性回転円板、13:ディスク状記録媒体、14:ディスク固定子、15:浮上型ヘッド、16:ヘッドアクチュエータ、21:コイル、22:光ファイバ、23:GMRヘッド、24:ホルダ、25:軟磁性体層、31:磁性回転円板、32:円板状ガラス基板、33:磁区安定層、34:軟磁性体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピンドルと、
前記スピンドルによって回転駆動され、上面に可撓性ディスク状記録媒体を保持する磁性回転円板と、
前記磁性回転円板上に保持された可撓性ディスク状磁気記録媒体を前記磁性回転円板に固定する固定手段と、
コイルと前記コイルの内部に配置された光照射部とを有する浮上型ヘッドと、
前記浮上型ヘッドを前記磁性回転円板上に保持されたディスク状記録媒体に対して位置決めするためのヘッド駆動手段とを備え、
前記磁性回転円板は、少なくとも記録媒体に面した表面付近が軟磁性体で形成され、その磁化容易方向が板面に平行であることを特徴とする情報記録再生装置。
【請求項2】
請求項1記載の情報記録再生装置において、前記磁性回転円板は、基板上に磁区制御層を有し、前記磁区制御層の上に軟磁性層が形成されていることを特徴とする情報記録再生装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の情報記録再生装置において、前記浮上型ヘッドは、前記コイル上方に軟磁性体を有することを特徴とする情報記録再生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−309891(P2006−309891A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132830(P2005−132830)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】