説明

意匠性塗膜形成方法及び意匠性塗膜形成用塗料並びにローラー面処理液

【課題】塗料塗膜の形成において、凹凸及び彩色模様のある基材に対して、基材の保護を十全に行なった上で、元々あった形状的な意匠性及び色彩的な意匠性を生かすと共に、更に新たに形状的な意匠性及び色彩的な意匠性を付与することを目的とする。
【解決手段】予め凹凸及び彩色模様を有する基材上に、水系合成樹脂エマルションと、着色顔料と、体質顔料としての炭酸塩又は硫酸塩と、ウレタン会合系増粘剤を含有する水系塗料を、前記基材の凹凸の少なくとも一部が認識出来るように、且つ隠蔽膜厚以上の膜厚で塗装して、塗料塗膜を形成し、当該塗料塗膜が未乾燥の間に、表面に凹凸を有するパターンローラーで、少なくとも当該塗料塗膜の一部分に凹凸を形成し、膜厚を変化させて、当該塗料塗膜の一部を隠蔽膜厚以下の膜厚に形成した意匠性塗膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外壁材などの基材の塗装面に意匠性を付与する塗料の塗装方法及び当該方法に使用する意匠性塗膜形成用塗料並びにローラー面処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅外壁等には、立体形状と複数の色彩からなる意匠性の高いサイディング外壁等が使用されている。しかし、これらのサイディング外壁は、単一色で塗り替え塗装を行った場合には、意匠性のある形状こそ維持できるものの、複数の色彩からなる意匠性は維持することが出来なかった。又、多彩塗料等を使用して塗り替え塗装を行った場合には、単一色ではなくなるものの、塗膜は、夫々の色調の異なった着色塗料が、粒子状又は斑点状に重なり合って形成される塗膜であり、全体としては画一化された平面的な多彩模様となるに過ぎないものであり、塗り替え塗装前ほどの意匠性を維持することは難しかった。
【0003】
ここで、意匠性塗膜の形成方法としては、基材上に少なくとも1個の任意な平面的形状の下塗り塗膜を形成した後、該下塗り塗膜を含む基材全面上に、該下塗り塗膜の平面的形状が識別できる程度に上塗り塗料を塗装する方法が提案されている(特許文献1参照。)。
【0004】
又、基材上に着色塗料で凸部を有する下塗り塗膜を形成し、次いで、該下塗り塗膜の域長と異なる色調の上塗り着色塗料で、下塗り塗膜の域長を隠蔽し、且つ下塗り塗膜の形状が認識できるように塗装した後、該上塗り塗装塗膜が流動状態にある内に、該上塗り塗装塗膜の凸部上を擦ることで、下塗り塗膜の凸部色調が見えるようにする塗膜の形成方法も提案されている(特許文献2参照。)。
【0005】
更に、予め下塗り塗料を塗装した基材表面に、該下塗り塗料とは異なる色調の上塗り塗料を塗装した上で、該上塗り塗膜が乾燥する前に、該上塗り塗膜の一部を、表面に凹凸のある塗装ローラーで掻き取ることによって掻き取り模様を形成する意匠性塗膜の形成方法が提案されている(特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−263561号公報
【特許文献2】特開2002−320913号公報
【特許文献3】特開2004−122052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の方法では、予め形成されていた基材の凹凸を上塗り塗装により隠してしまうこともあり、出来上がる塗膜の形状的な意匠性が失われてしまうという欠点があった。
【0008】
又、特許文献2に記載の方法では、上塗り塗装塗膜の凸部上を擦るので、最上層の塗膜が薄くなり或いは全くなくなり、環境性能を満足させるだけの充分な膜厚を確保することができないという問題点があった。
【0009】
又、特許文献3に記載の方法では、外壁用塗料においては、基材を保護するために最低限の膜厚が必要であるが、この方法では下塗り塗料で形成される下地が露出してしまうので、下地及び基材の保護が充分におこなえないという問題点があった。又、塗装ローラーの凹部に掻き取られた塗膜が詰まり、ローラーが1回転するたびにローラーの洗浄が必要となり、塗装工程が煩雑で非効率なものとなるという問題点があった。
【0010】
そして、これら従来の意匠性塗膜の形成方法を、サイディング外壁等の凹凸及び彩色模様のある意匠性の高い基材の塗り替え塗装に応用した場合にも、同様の問題点があった。又、これらサイディング外壁等の意匠性外壁を生産する場合、形状的な意匠と色彩的な意匠の組み合わせで多数の種類の品揃えが必要となり、製品在庫が多くなり、製品在庫等を維持する負担が大きいという問題点があった。
【0011】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、凹凸及び彩色模様のある基材に対して、基材の保護を十全に行なった上で、元々あった形状的な意匠性及び色彩的な意匠性を生かすと共に、更に新たに形状的な意匠性及び色彩的な意匠性を付与することを目的とする。更に、上記の目的を持った意匠性塗膜の形成において、塗装工程を容易で効率よくすることを目的とする。又、多種多様な意匠性外観を持つ外壁材を提供するにあたり、製品在庫を維持する負担を減少させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するための手段としての本発明は、予め凹凸及び彩色模様を有する基材上に、水系合成樹脂エマルションと、着色顔料と、体質顔料としての炭酸塩又は硫酸塩と、ウレタン会合系増粘剤を含有する水系塗料を、前記基材の凹凸の少なくとも一部が認識出来るように、且つ隠蔽膜厚以上の膜厚で塗装して、塗料塗膜を形成し、当該塗料塗膜が未乾燥の間に、表面に凹凸を有するパターンローラーで、少なくとも当該塗料塗膜の一部分に凹凸を形成し、膜厚を変化させて、当該塗料塗膜の一部を隠蔽膜厚以下の膜厚に形成したことを特徴とする意匠性塗膜形成方法である。
【0013】
又、上記意匠性塗膜形成方法において、前記水系合成樹脂エマルションは、水系アクリル系エマルションであることを特徴とする意匠性塗膜形成方法である。
【0014】
又、上記意匠性塗膜形成方法において、前記パターンローラー表面には、エマルション凝集剤を含有する水性のローラー面処理液を保持させていることを特徴とする意匠性塗膜形成方法である。
【0015】
又、上記意匠性塗膜形成方法において、前記水系塗料は、合成樹脂成分100質量部に対して、前記体質顔料としての炭酸塩又は硫酸塩を100〜280質量部含有することを特徴とする意匠性塗膜形成方法である。
【0016】
又、上記意匠性塗膜形成方法において、前記ウレタン会合系増粘剤は、前記水系塗料中0.02〜0.29質量%含有していることを特徴とする意匠性塗膜形成方法である。
【0017】
又、上記意匠性塗膜形成方法において、前記塗料塗膜の前記隠蔽膜厚以下の膜厚に形成された部分の乾燥時の膜厚が、前記塗料塗膜の隠蔽膜厚の70%以下の膜厚であることを特徴とする意匠性塗膜形成方法である。
【0018】
又、上記意匠性塗膜形成方法において、前記塗料塗膜の前記隠蔽膜厚以下の膜厚に形成された部分の乾燥時の膜厚が、25μm以上であることを特徴とする意匠性塗膜形成方法である。
【0019】
又、上記意匠性塗膜形成方法において、前記着色顔料は、前記水系塗料中5〜60質量%含有していることを特徴とする意匠性塗膜形成方法である。
【0020】
又、上記意匠性塗膜形成方法において、前記ローラー処理液は、エマルション凝集剤として、マグネシウムモンモリロナイト粘土、重ホウ酸アンモニウム及びナトリウム・カルボキシメチルセルロースを含有し、又は、塩化ナトリウム及び重ホウ酸アンモニウムを含有することを特徴とする意匠性塗膜形成方法である。
【0021】
更に、上記意匠性塗膜形成方法において用いられる、水系アクリル系エマルションと、着色顔料と、体質顔料としての炭酸塩又は硫酸塩と、ウレタン会合系増粘剤とを含有することを特徴とする意匠性塗膜形成用水系塗料である。
【0022】
更に、上記意匠性塗膜形成方法において用いられ、水系塗料を用いた意匠性塗膜形成時に用いるパターンローラーの凹凸表面に保持させる処理液であって、エマルション凝集剤と水を含有することを特徴とする意匠性塗膜形成用の水性のローラー面処理液である。
【発明の効果】
【0023】
以上のような本発明によれば、凹凸及び彩色模様のある基材に対して、基材の保護を十全に行なった上で、元々あった形状的な意匠性及び色彩的な意匠性を生かすと共に、更に新たに形状的な意匠性及び色彩的な意匠性を付与することが出来た。又、意匠性塗膜の形成において、塗装工程を容易で効率よくすることが可能となった。更に、外壁材の塗り替え塗装時においては、元からあった意匠を生かした状態で、更に意匠性を付与した塗装外観に塗り替えを行なうことが出来、又、外壁材の製造時においては、各種ベースとなる意匠性外壁材と各種塗料を組み合わせることで、多種多様な意匠性外観を持つ外壁材を容易に製造することが出来るので、多種の外壁材を在庫として持つ必要がなく、外壁材の在庫を減少させることが出来た。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下本発明の実施の形態を説明する。本発明の意匠性塗膜形成方法は、予め凹凸及び彩色模様を有する基材上に、水系合成樹脂エマルションと、着色顔料と、体質顔料としての炭酸塩又は硫酸塩と、ウレタン会合系増粘剤を含有する水系塗料を、前記基材の凹凸の少なくとも一部が認識出来るように、且つ隠蔽膜厚以上の膜厚で塗装して、塗料塗膜を形成し、当該塗料塗膜が未乾燥の間に、表面に凹凸を有するパターンローラーで、少なくとも当該塗料塗膜の一部分に凹凸を形成し、膜厚を変化させて、当該塗料塗膜の一部を隠蔽膜厚以下の膜厚に形成する意匠性塗膜形成方法である。
【0025】
尚、基材の凹凸が認識出来るとは、塗料塗膜上に基材が有する凹凸形状が現れ、塗料塗膜に凹凸が生じている状態を意味している。又、本発明でいう未乾燥とは、塗料塗膜の表面に膜が形成される前の状態をいい、指触乾燥以前の状態をいう。
【0026】
本発明に用いる凹凸及び彩色模様を有する基材は、特に限定されるものではなく、例えば、建築物の外壁材等を含み、外壁材としては、住宅用に用いられている窯業サイディング板等が挙げられるが、これに限定されず、スレート板、木材、プラスチック板、金属板、無機質板、陶器、ガラス等を用いて、予め凹凸のある外壁材に塗料を塗装した板でもよいし、平面板に吹き付け塗り、はけ塗り、ローラー塗り、コテ塗り等の公知の塗装方法で砂壁状、クレーター状、ゆず肌状、じゅらく状、スコッタ状等、凹凸状に膜厚差を付けた塗膜を形成させたもの等でもよい。尚、基材に予め凹凸及び彩色模様を形成するための塗膜の形成に先立ち、基材に公知のプライマーを塗布することとしてもよい。
【0027】
本発明の意匠性塗膜形成方法に用いる水系塗料は、水系合成樹脂エマルションと、着色顔料と、体質顔料と、ウレタン会合系増粘剤を含有する水系塗料である。尚、必要に応じて、塗料用として公知の種々の添加物、例えば分散剤、消泡剤、pH安定剤、レべリング剤、造膜助剤、防カビ剤等を慣用量で配合してもよい。着色顔料は塗料に通常用いられている公知の無機又は有機顔料を用いることが出来る。
【0028】
水系合成樹脂エマルションは、塗膜形成成分である合成樹脂を水に分散させたエマルションであり、用いる合成樹脂は特に限定されず、アクリル樹脂、アクリル・シリコーン樹脂、スチレン・アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、フッ素樹脂等を1種又は2種以上を混合して用いることが出来るが、アクリル樹脂、アクリル・シリコーン樹脂等の水系アクリル系エマルションを好適に用いることが出来る。
【0029】
増粘剤としては、ウレタン会合系増粘剤を含有するが、必要に応じて他の増粘剤を含有することとしてもよい。ウレタン会合系増粘剤は、1種又は2種以上を混合して使用することが出来る。ウレタン会合系増粘剤を添加することで、未乾燥の塗料塗膜の形状安定性がよく、更には後述する体質顔料とエマルション凝集剤との複合効果により、未乾燥の塗料塗膜に強い形状安定性をもたらす。ウレタン会合系増粘剤は、固形分換算で、塗料中0.02〜0.29質量%含まれることが好ましく、更には水系塗料中0.05〜0.20質量%含まれることがより好ましい。これは、0.02〜0.29質量%であれば、未乾燥の塗料塗膜の形状安定性をもたらすことが出来るからであり、0.05〜0.20質量%であれば、より高い未乾燥の塗料塗膜の形状安定性をもたらすことが出来るからである。
【0030】
体質顔料としては、炭酸塩又は硫酸塩を含有するが、必要に応じて他の体質顔料を含有することとしてもよい。水系塗料中に体質顔料として炭酸塩又は硫酸塩を添加することで、未乾燥の塗料塗膜の形状安定性がよく、更には後述するローラー面処理液の効果が増大し、形成される凹凸形状が崩れにくくなるからである。炭酸塩又は硫酸塩としては、特に限定されないが、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウムが好ましく、更には炭酸カルシウムと硫酸バリウムがより好ましい。又、炭酸塩又は硫酸塩は、水に難溶性又は不溶性の炭酸塩又は硫酸塩粒子を用いることが好ましい。ここで、難溶性とは、水への溶解度が25℃において、0.1g/L以下であることをいう。
【0031】
炭酸塩又は硫酸塩粒子は、固形分換算で、水系塗料中に樹脂成分100質量部に対して100〜280質量部含有していることが好ましく、更には140〜260質量部含有していることがより好ましい。これは、100〜280質量部であれば、未乾燥の塗料塗膜の形状安定性をもたらすことが出来るからであり、140〜260質量部であれば、より高い未乾燥の塗料塗膜の形状安定性をもたらすことが出来るからである。
【0032】
本発明の水系塗料は、水系合成樹脂エマルション、着色顔料、体質顔料、ウレタン会合系増粘剤、水及び必要に応じた添加物を、公知の方法、例えば、ティスパーにて攪拌して、製造することが出来る。
【0033】
本発明で使用されるパターンローラーは、表面に凹凸を有すれば特に限定はされず、ローラーの素材も特に限定されず、例えば、JIS S 9024に示されているように、ローラーの表面が、天然毛、純毛、モヘア、合成繊維、混毛などの繊維のパイルからなるものや、ポリウレタン系やポリ酢酸ビニル系等の多孔質体や発泡体からなるもの、エポキシ系樹脂やゴム等からなる公知のパターンローラー等を使用することが出来る。
【0034】
パターンローラーの表面には、ローラー表面に未乾燥塗料の付着を防止するためのローラー面処理液を保持させておくことが好ましい。このローラー面処理液は、水にエマルション凝集剤を含有させた水性の処理液を用いることが好ましい。尚、エマルション凝集剤とは、エマルションを凝集させる作用、効果を備えた凝集剤を意味する。エマルション凝集剤としては、無機系凝集剤や有機高分子凝集剤等特に限定されず、具体的には、無機系凝集剤として、例えば、硫酸アルミニウム、酸化ナトリウムアルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、ナトリウムペンタクロロフェノール、タンニン酸、乳酸チタン、塩化ナトリウム、マグネシウムモンモリロナイト粘土、重ホウ酸アンモニウム等が挙げられる。又、有機高分子凝集剤としては、例えば、アルギン酸ソーダ、ポリアクリル酸ソーダ、マレイン酸共重合物、ポリチオ尿酸、ナトリウム・カルボキシメチルセルロース、ポリアミン、ポリジアリルメチンアンモニウムクロライド等が挙げられる。これらのエマルション凝集剤は1種を単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。
【0035】
又、ローラー面処理液は、エマルション凝集剤として、マグネシウムモンモリロナイト粘土、重ホウ酸アンモニウム及びナトリウム・カルボキシメチルセルロースの3種を組み合わせ、又は、塩化ナトリウムと重ホウ酸アンモニウムを組み合わせて調製することが好ましく、又、ローラー面処理液は、無機系凝集剤や有機高分子凝集剤等を水に溶解ないしは分散させた溶液を水に添加して調製したものを用いることが好ましい。
【0036】
このようなローラー面処理液を、パターンローラーの未乾燥塗料塗膜への押圧前にパターンローラーの表面に塗布しておくことにより、未乾燥塗料塗膜の表面で凝集がおこり、塗料塗膜の表面に膜が生成され、ローラー表面に未乾燥塗料が付着することを防止することができるので、作業中にパターンローラーを洗浄する回数を低減させることが出来、又、パターンローラーの未乾燥塗料塗膜への押圧により、パターンローラー表面の孔やパターンの谷間に入った未乾燥塗料は基材側に残ることとなり、基材を保護するために必要な膜厚を容易に確保することが出来る。又、未乾燥の塗料塗膜の表面に薄膜を形成させ、未乾燥の塗料塗膜に形成される凹凸形状に強い形状安定性をもたらすことが出来る。
【0037】
次に、意匠性塗膜形成方法の工程を説明する。先ず、予め凹凸及び彩色模様を有する基材を用意し、基材上に、上記水系塗料を、基材の凹凸の少なくとも一部が認識出来るように、且つ隠蔽膜厚以上の膜厚で塗装して、塗料塗膜を形成する。隠蔽膜厚以上の膜厚とは、当該塗料に含有される着色顔料成分の含有量によっても変化するが、基材上の彩色模様が隠蔽される膜厚以上の膜厚の意味であり、このような膜厚とすることにより、基材上の彩色模様が隠蔽され認識できなくなる。一方、基材上の凹凸形状に沿った凹凸が塗料塗膜上に現れている。
【0038】
次に、表面に凹凸を有するパターンローラーの凹凸表面に上記の水性のローラー面処理液を保持させる。この保持は、パターンローラーの凹凸表面にローラー面処理液を保持させれば、塗布、散布、含浸等その方法は限定されない。
【0039】
そして、当該塗料塗膜が未乾燥の間に、少なくとも当該塗料塗膜の一部分に、凹凸表面にローラー面処理液を保持させたパターンローラーを押圧しつつ転動させて、当該塗料塗膜の少なくとも一部に凹凸を形成し、膜厚を変化させて、薄い膜厚の部分は基材上の彩色模様が認識可能な膜厚、即ち隠蔽膜厚以下の膜厚に形成する。
【0040】
隠蔽膜厚以下の膜厚とは、基材上の彩色模様が隠蔽されない、即ち基材上の彩色模様が認識可能な膜厚以下の膜厚の意味であり、このように膜厚とすることにより、基材上の彩色模様を認識出来る、即ち塗料塗膜を透して彩色模様を目視できる状態となる。
【0041】
又、塗料塗膜が未乾燥の間にパターンローラーを押圧するのは、塗料塗膜の表面に膜が形成された後にパターンローラーの押圧により塗膜に凹凸を形成すると、塗膜表面に皺ができてしまい、意匠性を著しく損なうからうからである。
【0042】
このような薄い部分の膜厚は、塗膜の乾燥時に、当該塗料の隠蔽膜圧の70%以下とすることが好ましい。隠蔽膜圧の70%以下とすることで、基材上に予め形成されている彩色模様を明確に認識可能とすることが出来るからである。
【0043】
又、このような薄い部分の膜厚は、塗膜の乾燥時に、25μm以上とすることが好ましい。25μm以上とすることで基材を充分に保護することが出来るからである。このような塗膜を形成するためには、塗料における着色顔料成分の含有量を、着色顔料の種類等にもよるが、5〜60質量%とすることが好ましい。
【0044】
パターンローラーを押圧、転動するのは、塗料塗膜のうち少なくとも一部分でもよく、全面でもよいが、いずれにしても、塗料塗膜の一部が隠蔽膜厚以下となり、塗料塗膜の一部で基材上に予め形成されている彩色模様が認識可能となる。
【0045】
パターンローラーを押圧して形成された未乾燥塗料塗膜の凹凸は、水系塗料に含有される炭酸塩又は硫酸塩の体質顔料、ウレタン会合系増粘剤及びローラー面処理液に含有されるエマルション凝集剤との複合効果によって、短時間で表面に薄膜が形成され、安定的にその形状を維持したまま乾燥、硬化することが出来る。
【0046】
このようにして、形成された基材上の塗膜は、基材上に予め形成されていた凹凸を備えると共に、パターンローラーにより形成された凹凸を備え、更に、パターンローラーにより形成された凹部においては、基材上に予め形成されていた彩色模様を備えると共に、水系塗料により形成された彩色模様を備え、これまでになかった凹凸形状及び彩色模様を備えた塗料塗膜とすることができたものである。従って、多種多様な意匠性外観を持つ外壁材を提供するにあたり、製品在庫を維持する負担を減少させることも出来たものである。
【0047】
尚、パターンローラーの凹凸表面にはローラー面処理液を保持させないで、上記方法を行うことも可能である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は一例であって、本発明を限定するものではない。
【0049】
以下の表1に示すように、実施例として、塗料名1〜10の水系塗料を表1に示す組成で、容器中で攪拌機で混合攪拌して調製した。又、比較例として、塗料名11〜13の水系塗料を表1に示す組成で調製した。
【0050】
【表1】

【0051】
又、以下の表2に示すように、実施例として、ローラー面処理液1及び2を表2に示す組成で、容器中で攪拌機で混合攪拌して調製した。
【0052】
【表2】

【0053】
表3に示すように、実施例として、表1に示す実施例としての塗料名1〜10の水系塗料と、表2に示す実施例としてのローラー面処理液1及び2を組み合わせ、或いはローラー面処理液を用いないで、実施例1〜13として上記方法により予め凹凸及び彩色模様を有する基材としての窯業サイディング板に塗料をスプレー塗装により塗り、塗料塗膜が未乾燥の間、即ち、塗料塗膜の表面に膜が形成される前に、パターンローラーを押圧、転動させて凹凸を形成した。又、比較例として、表1に示す比較例としての塗料名11〜13の水系塗料と、表2に示すローラー面処理液1及び2を組み合わせ、比較例1〜3として、実施例と同じ条件、方法で基材上に凹凸を形成した。そして、パターンローラーへの水系塗料の付着、パターンローラーにより形成された凹凸形状の維持、基材上に予め形成されている彩色模様の認識性を調べた。
【0054】
パターンローラーへの水系塗料の付着については、ローラーを1回転させて、全く付着しない場合を○、少し付着するが未洗浄で使用可能な場合には△、洗浄しなくては使用できない場合には×で示し、全く付着しない場合と少し付着するが未洗浄で使用可能な場合を合格とした。又、パターンローラーにより形成された凹凸形状の維持については、形成された凹凸形状でそのまま乾燥した場合を○、少しは崩れるが、略形成された凹凸形状で乾燥した場合を△、形成された凹凸形状が失われてしまう場合を×で示し、形成された凹凸形状でそのまま乾燥した場合と少しは崩れるが、略形成された凹凸形状で乾燥した場合を合格とした。又、基材上に予め形成されている彩色模様の認識性については、明確に認識できる場合には○、明確ではないが認識できる場合には△、全く認識できない場合には×で示し、はっきりと認識できる場合と少し認識できる場合を合格とした。結果を表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
以上の結果から、本発明によれば、パターンローラーへの水系塗料の付着がなく、塗装工程を容易で効率よくすることが出来ることが分かる。又、パターンローラーにより形成された凹凸形状の維持が可能で、基材上に予め形成されている彩色模様の認識性もよいことが分かる。以下に詳細に説明する。
【0057】
実施例6と比較例1及び2との対比から、体質顔料として炭酸塩又は硫酸塩を含有することにより、パターンローラーにより形成された凹凸形状の維持が可能となることが明らかである。
【0058】
又、実施例9と比較例13との対比から、増粘剤としてウレタン会合系増粘剤を含有することにより、パターンローラーにより形成された凹凸形状の維持が可能となることが明らかである。
【0059】
又、実施例2と実施例5、実施例6と実施例3との対比から、体質顔料として、炭酸塩又は硫酸塩が、固形分換算で、水系塗料中に樹脂成分100質量部に対して140〜260質量部含有していることが、塗料塗膜の形状安定性の観点からより好ましいことが分かる。
【0060】
又、実施例7と実施例9、実施例8と実施例10との対比から、ウレタン会合系増粘剤は、固形分換算で、水系塗料中0.05〜0.20質量%含まれることが、塗料塗膜の形状安定性の観点からより好ましいことが分かる。
【0061】
又、実施例1から10と実施例11、12との対比から、薄い部分の膜厚は、水系塗料の隠蔽膜厚の70%以下とすることが、基材上に予め形成されている彩色模様の認識性の観点からより好ましことが分かる。
【0062】
又、実施例1と実施例13との対比から、ローラー面処理液を使用することが、パターンローラーへの塗料の付着及び塗料塗膜の形状安定性の観点からより好ましいことが分かる。
【0063】
そして、本発明実施例1〜13により形成された塗膜は、基材の保護を確実に行なえる膜厚を有し、基材上に予め形成されていた凹凸を備えると共に、パターンローラーにより形成された凹凸を備え、更に、パターンローラーにより形成された凹部においては、基材上に予め形成されていた彩色模様を備えると共に、塗料により形成された彩色模様を備え、これまでになかった凹凸形状及び彩色模様を備えた塗料塗膜となり、意匠性に富んだ塗膜であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め凹凸及び彩色模様を有する基材上に、水系合成樹脂エマルションと、着色顔料と、体質顔料としての炭酸塩又は硫酸塩と、ウレタン会合系増粘剤を含有する水系塗料を、前記基材の凹凸の少なくとも一部が認識出来るように、且つ隠蔽膜厚以上の膜厚で塗装して、塗料塗膜を形成し、当該塗料塗膜が未乾燥の間に、表面に凹凸を有するパターンローラーで、少なくとも当該塗料塗膜の一部分に凹凸を形成し、膜厚を変化させて、当該塗料塗膜の一部を隠蔽膜厚以下の膜厚に形成したことを特徴とする意匠性塗膜形成方法。
【請求項2】
前記水系合成樹脂エマルションは、水系アクリル系エマルションであることを特徴とする請求項1に記載の意匠性塗膜形成方法。
【請求項3】
前記パターンローラー表面には、エマルション凝集剤を含有する水性のローラー面処理液を保持させていることを特徴とする請求項1又は2に記載の意匠性塗膜形成方法。
【請求項4】
前記水系塗料は、合成樹脂成分100質量部に対して、前記体質顔料としての炭酸塩又は硫酸塩を100〜280質量部含有することを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項に記載の意匠性塗膜形成方法。
【請求項5】
前記ウレタン会合系増粘剤は、前記水系塗料中0.02〜0.29質量%含有していることを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1項に記載の意匠性塗膜形成方法。
【請求項6】
前記塗料塗膜の前記隠蔽膜厚以下の膜厚に形成された部分の乾燥時の膜厚が、前記塗料塗膜の隠蔽膜厚の70%以下の膜厚であることを特徴とする請求項1から5のうちいずれか1項に記載の意匠性塗膜形成方法。
【請求項7】
前記塗料塗膜の前記隠蔽膜厚以下の膜厚に形成された部分の乾燥時の膜厚が、25μm以上であることを特徴とする請求項1から6のうちいずれか1項に記載の意匠性塗膜形成方法。
【請求項8】
前記着色顔料は、前記水系塗料中5〜60質量%含有していることを特徴とする請求項1から7のうちいずれか1項に記載の意匠性塗膜形成方法。
【請求項9】
前記ローラー処理液は、エマルション凝集剤として、マグネシウムモンモリロナイト粘土、重ホウ酸アンモニウム及びナトリウム・カルボキシメチルセルロースを含有し、又は、塩化ナトリウム及び重ホウ酸アンモニウムを含有することを特徴とする請求項3から8のうちいずれか1項に記載の意匠性塗膜形成方法。
【請求項10】
水系アクリル系エマルションと、着色顔料と、体質顔料としての炭酸塩又は硫酸塩と、ウレタン会合系増粘剤とを含有することを特徴とする意匠性塗膜形成用水系塗料。
【請求項11】
水系塗料を用いた意匠性塗膜形成時に用いるパターンローラーの凹凸表面に保持させる処理液であって、エマルション凝集剤と水を含有することを特徴とする意匠性塗膜形成用の水性のローラー面処理液。

【公開番号】特開2012−45520(P2012−45520A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192266(P2010−192266)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】