説明

意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法並びにその液圧転写装置

【課題】 比較的簡素な構造でありながら、転写液中から浮上してくる被転写体の意匠面に、転写液面上のフィルムカスや泡等を寄せ付けないようにした新規な液圧転写手法の開発を課題とする。
【解決手段】 本発明は、転写槽2の上方から被転写体Wを押し付けて、被転写体Wの表面に適宜の転写パターンを形成する液圧転写手法に関するものであって、転写槽2には、被転写体Wを転写液L中から引き上げる出液エリアP2に、オーバーフロー槽92等の意匠面浄化機構9によって出液中の被転写体Wの意匠面S1から離れる意匠面離反流を形成し、転写液L面上の泡や液中に滞留する夾雑物を、出液中の被転写体Wの意匠面S1から遠ざけ、転写槽2外に排出するようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写インクによってあらかじめ適宜の転写パターン(表面インク層)が施されて成る転写フィルムを、液面上で浮遊支持し、ここに被転写体を押し当てながら転写液中に没入させることにより、その液圧を利用してフィルム上の転写パターンを被転写体に転写する液圧転写に関するものであって、特に転写液中から浮上してくる被転写体の意匠面に、転写液面上のフィルムカスや泡等を寄せ付けないようにした新規な液圧転写手法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
水溶性フィルム(担持シート)の上に、あらかじめ非水溶性の適宜の転写パターンを施して成る転写フィルムを転写槽(転写液)に浮かばせ、転写フィルム(水溶性フィルム)を転写液(端的には水)で湿潤させた状態で、被転写体をこの転写フィルムに接触させながら転写槽内の液中に押し入れ、液圧を利用してフィルム上の転写パターンを被転写体の表面に転写形成する液圧転写が知られている。なお、転写フィルムには、上述したように、水溶性フィルム上に転写パターンがインクによって事前に形成(印刷)されており、転写パターンのインクは乾燥状態にある。このため転写に際しては、転写フィルム上の転写パターンに活性剤やシンナー類を塗布して、転写パターンを印刷直後と同様の湿潤つまり付着性を発現させた状態に戻す必要があり、これは活性化と称される。
【0003】
そして、転写後、転写槽から取り出された被転写体は、半溶解状の水溶性フィルムが水洗浄等によって除去されたのち乾燥され、被転写体上に転写形成された装飾層の保護を図るためにトップコートに供されることが多かった。しかし、このような従来の液圧転写においては、まずトップコートに溶剤系クリヤー塗料を使用していたため環境負荷が高いことが問題であり、またトップコート時の不良や塗装乾燥に比較的長い時間やエネルギーを要すること等から、液圧転写全体のコスト高を招いていた。
【0004】
このようなことから、液圧転写の際に表面保護機能も有した転写パターンを被転写体に形成し、転写後にこれを硬化させて装飾層を形成し、トップコートを省く手法が案出されている(例えば特許文献1、2参照)。
このうち特許文献1は、水溶性フィルムの上に転写パターンのみを形成した従来の転写フィルムを用いながら、活性剤として硬化樹脂組成物(液体)を用い、転写後に被転写体に紫外線を照射することで、転写パターンと渾然一体となった硬化樹脂組成物(表面保護層)を硬化させる手法である。
また、特許文献2は、水溶性フィルムと転写パターンの間に硬化性樹脂層を形成した転写フィルムを用い、転写後の被転写体に紫外線等の活性エネルギー線の照射もしくは加熱によって転写パターン上の硬化性樹脂層を硬化させる手法である。
【0005】
ところで、液圧転写では、被転写体の没入時(転写時)に、被転写体が液面上に浮遊した転写フィルムを突き破って液中に没する動作となるため、没入後に液面上に残ったフィルムは、もはや転写に使用されない不要なものとなる(これを液面残留フィルムとする)。また、被転写体が液面上の転写フィルムを突き破ることによって、微細なフィルムカス(例えば水溶性フィルムとインクが混ざり合った紐屑状のもの)が転写液中に大量に分散・放出されるため、これが転写液中に滞留するものであった。更に、被転写体の没入(転写)は、通常、治具に取り付けられた状態で行われるため、没入の際に、治具や被転写体に付いた余剰フィルムが液中で剥離し放出されることもあった。そのため転写液から引き上げる被転写体の意匠面には、このような液面残留フィルム、フィルムカス、余剰フィルム等が付着することがあった(これらは転写後に転写液面や液中に残る不要なものであるため、本明細書ではこれらを「夾雑物」と総称する)。
【0006】
更にまた、例えば図22(a)に示すように、被転写体Wが意匠面S1に開口部Waを有している場合には、液面から引き上げる際、開口部Waに水溶性フィルムの水溶解物による薄膜Mが張られることが多く、これが弾けて被転写体Wの意匠面S1に泡Aが付着したり、また被転写体Wの突起部や開口部Waの上縁部などから転写液Lが液面に落下した際に、液面上に泡Aが発生し、これが意匠面S1に付着することがあった。すなわち図22(a)では、当初、治具Jの枠に薄膜Mが張り、この破裂残渣の泡Aが転写液L面上に漂い、出液エリアP2の液面移動(被転写体Wの引き上げに伴う相対的な下降)に伴い、泡Aが被転写体Wの開口部Waに張られた薄膜Mに取り込まれ、その後、この薄膜Mの破裂残渣が泡Aとして液面上に漂い、間接的に意匠面S1に付着、あるいは泡Aとして直接、被転写体Wの表面を伝わり意匠面S1に付着し、結果的に図22(b)に示す状態となる。
【0007】
そして、この状態で活性エネルギー線の照射または/および加熱による硬化処理を行うと、例えば図22(c)に示すように、泡Aが付着した部位だけは、泡Aの応力や活性エネルギー線の屈折等が原因で、当該部位のみ装飾層(転写パターン・表面保護層)の柄歪み不良や、柄が抜け落ちる不良(いわゆるピンホール不良)等が生じていた。もちろん、このような柄歪み不良や抜け落ち不良は、意匠面S1に泡Aが付着した場合に限らず、上記液面残留フィルム、フィルムカス、余剰フィルム等の夾雑物が意匠面S1に付着した場合にも起こり得る現象である。ここで図中符号fは、主に被転写体W(意匠面S1)等に転写された装飾層を示している。このようなことから、液圧転写時に表面保護機能までを有した転写パターンを形成する液圧転写においては、液面残留フィルム、フィルムカス、余剰フィルム、泡Aなどを意匠面S1に極力付着させないことが重要となっており、とりわけ本発明では、転写液Lから出液中の意匠面S1にフィルムカスや泡Aなどを付着させないことを重視したものである。
なお、柄歪み不良や抜け落ち不良を起こした物品(液圧転写品)は、一旦、硬化処理が成されているために、柄歪みや抜け落ちによる凹凸が際立ち、もう一度、転写をやり直すことができず(再生不可)、このため上記不良は量産性を著しく損ね、不良率そのものを下げる根本的な解決手法が強く望まれていた。
【0008】
因みに、転写後、液面に浮遊する液面残留フィルムを回収すること自体は、従来より行われており、例えば、転写槽の終端(末端)に設けられたオーバーフロー構造がこれに該当する。すなわち、このようなオーバーフロー構造は、転写後の液面残留フィルムを転写液とともに回収するとともに、回収した転写液を循環使用する際には、途中の経路中においてフィルタ等により回収液から液面残留フィルムを除去・回収できるようにしたものである。
しかし、このような回収手法では、液面残留フィルムが出液エリアを通過することになってしまうため、特に、液圧転写時に表面保護層までを形成する液圧転写では、有効な回収手段とは言えず、より積極的な回収手法が望まれ、既に案出されているものもある(例えば上記特許文献2の他、特許文献3・4参照)。
【0009】
まず特許文献2では、液圧転写を行う度に転写槽の底部から槽内に水を供給して水面上の残留フィルムを転写槽から全体的に押し流す手法が開示されている。また特許文献3では、被転写体を水没させている間に、水面上のフィルムをバキュームで吸い取る手法が開示されている。更に、特許文献4では、被転写体を水槽から引き上げた後に、水槽の一端に向けて空気を吹き付けて、インキ皮膜を被転写体に転写した後の転写滓や残滓を水槽の一端から押し流す手法が開示されている。
しかし、これらは主に転写液面上(水面上)でのフィルム回収・カス回収であり、しかも構造的に大がかりであるばかりか、転写の度にフィルム回収・カス回収を行うバッチ処理方式であるため時間も掛かり効率が悪く、必ずしも望ましい手法とは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−169693号公報
【特許文献2】特開2005−162298号公報
【特許文献3】特開2004−306602号公報
【特許文献4】特開2006−123264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような背景を認識してなされたものであって、被転写体の出液(浮上)に特化した手法、すなわち転写液中から引き上げられてくる被転写体の意匠面にフィルムカスや泡等を寄せ付けないようにした手法であり、しかも比較的簡素な構造で、なお且つ低コストで済む、新規な液圧転写手法の開発を試みたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
まず請求項1記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法は、
水溶性フィルムに少なくとも転写パターンを乾燥状態で形成して成る転写フィルムを、転写槽内の液面上に浮遊支持し、その上方から被転写体を押し付け、これによって生じる液圧によって、主に被転写体の意匠面側に転写パターンを転写する方法において、
前記転写槽には、被転写体を転写液中から引き上げる出液エリアに、
出液中の被転写体の意匠面から離れる意匠面離反流を形成し、転写液面上の泡や液中に滞留する夾雑物を、出液中の被転写体の意匠面から遠ざけ、転写槽外に排出するようにしたことを特徴として成るものである。
【0013】
また請求項2記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法は、前記請求項1記載の要件に加え、
前記出液エリアの左右両側には、出液中の被転写体の意匠面裏側となる装飾不要面側から転写槽の両側壁に向かうサイド離反流が液面付近に形成され、転写液中・液面上に滞留する夾雑物を出液エリアから遠ざけ、転写槽外に排出するようにしたことを特徴として成るものである。
【0014】
また請求項3記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法は、前記請求項1または2記載の要件に加え、
前記出液エリアの前段には、被転写体の没入によって転写に使用されず液面上に浮遊した液面残留フィルムを転写槽から排出する排出手段を設け、被転写体が出液するまでの間に液面残留フィルムを回収し、該フィルムを出液エリアまで到達させないようにしたことを特徴として成るものである。
【0015】
また請求項4記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法は、前記請求項1、2または3記載の要件に加え、
前記意匠面離反流は、出液中の被転写体の意匠面に臨むように設けられたオーバーフロー槽によって形成するものであり、
更にこのオーバーフロー槽の後段には、転写液を回収するオーバーフロー槽を設けるようにしたことを特徴として成るものである。
【0016】
また請求項5記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法は、前記請求項4記載の要件に加え、
前記意匠面離反流を形成するオーバーフロー槽には、液回収口となる排出口に、オーバーフロー槽に導入する転写液の流速を速めるための流速増強用ツバが形成されることを特徴として成るものである。
【0017】
また請求項6記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法は、前記請求項1、2、3、4または5記載の要件に加え、
前記転写槽は、被転写体が没入してから出液するまでの転写必要区間で、被転写体の意匠面が転写液中に埋没する深さを確保するように形成され、それ以外の転写不要区間では、この深さよりも浅く形成されることを特徴として成るものである。
【0018】
また請求項7記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法は、前記請求項4、5または6記載の要件に加え、
前記意匠面離反流は、夾雑物を含まない綺麗な水、あるいは転写槽より回収した転写液から夾雑物を除去した後の浄化水などの新水を、意匠面離反流形成用のオーバーフロー槽の下方から上流側の出液エリアに向けて供給することにより発生させるようにしたことを特徴として成るものである。
【0019】
また請求項8記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法は、前記請求項4、5、6または7記載の要件に加え、
前記意匠面離反流を形成するオーバーフロー槽は、転写槽の長手方向に移動自在に形成され、被転写体の出液動作に伴い被転写体の位置が前後しても、被転写体の意匠面とオーバーフロー槽との距離をほぼ一定に維持するように移動することを特徴として成るものである。
【0020】
また請求項9記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法は、前記請求項2、3、4、5、6、7または8記載の要件に加え、
前記サイド離反流は、出液エリアの左右両側に設けられたオーバーフロー槽によって形成されるものであり、
また、このオーバーフロー槽の液回収口となる排出口には、オーバーフロー槽に導入する転写液の流速を速めるための流速増強用ツバが形成されることを特徴として成るものである。
【0021】
また請求項10記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法は、前記請求項9記載の要件に加え、
前記出液エリアにおいては、該エリア液面上に生じる泡や夾雑物を、転写槽のいずれか一方の側壁に押しやる送風が行われ、転写液中・液面上に滞留する夾雑物の排出と併せて、該エリア液面上の泡や夾雑物もサイド離反流形成用のオーバーフロー槽により回収し、槽外に排出するようにしたことを特徴として成るものである。
【0022】
また請求項11記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法は、前記請求項9または10記載の要件に加え、
前記サイド離反流を形成するオーバーフロー槽の前段には、前記液面残留フィルムを回収するためのオーバーフロー槽が設けられるものであり、
また、このオーバーフロー槽には、液面残留フィルムを回収する排出口の途中部分に、液回収を遮る遮断手段を設け、遮断手段の前後から液面残留フィルムを回収するようにしたことを特徴として成るものである。
【0023】
また請求項12記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法は、前記請求項11記載の要件に加え、
前記液面残留フィルムを回収するにあたっては、被転写体を転写液中に没入させてから出液させるまでの間に、分割手段によって転写槽の長手方向に割くように分断し、分断した液面残留フィルムを転写槽の両側壁に寄せ、前記液面残留フィルム回収用のオーバーフロー槽によって回収するようにしたことを特徴として成るものである。
【0024】
また請求項13記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法は、前記請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12記載の要件に加え、
前記被転写体に施す液圧転写は、転写フィルムとして水溶性フィルム上に転写パターンのみを乾燥状態に形成したものを適用し、且つ活性剤として液体状の硬化性樹脂組成物を用いるか、
あるいは転写フィルムとして水溶性フィルムと転写パターンの間に硬化性樹脂層を具えた転写フィルムを適用するかのいずれかであり、
液圧転写によって被転写体に、表面保護機能も有する転写パターンを形成し、これを転写後の活性エネルギー線照射または/および加熱によって硬化させるものであることを特徴として成るものである。
【0025】
また請求項14記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置は、
転写液を貯留する転写槽と、
この転写槽に転写フィルムを供給する転写フィルム供給装置と、
転写槽の液面上で活性化状態となった転写フィルムに対して上方から被転写体を押し付ける被転写体搬送装置とを具え、
水溶性フィルムに少なくとも転写パターンが乾燥状態で形成されて成る転写フィルムを、転写槽内の液面上で浮遊支持し、その上方から被転写体を押し付け、これによって生じる液圧によって、主に被転写体の意匠面側に転写パターンを転写する装置において、
前記被転写体を転写液中から引き上げる出液エリアには、転写液中から浮上中の被転写体の意匠面に作用する離反流形成手段が設けられ、出液中の被転写体の意匠面から離れる意匠面離反流が形成され、これにより転写液面上の泡や液中に滞留する夾雑物を、出液中の被転写体の意匠面から遠ざけ、転写槽外に排出するようにしたことを特徴として成るものである。
【0026】
また請求項15記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置は、前記請求項14記載の要件に加え、
前記出液エリアの左右両側には、液面付近の転写液を回収する排出手段が設けられ、出液中の被転写体の意匠面裏側となる装飾不要面側から転写槽の両側壁に向かうサイド離反流が形成され、これにより転写液中・液面上に滞留する夾雑物を出液エリアから遠ざけ、転写槽外に排出するようにしたことを特徴として成るものである。
【0027】
また請求項16記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置は、前記請求項14または15記載の要件に加え、
前記出液エリアの前段には、被転写体の没入によって転写に使用されず液面上に浮遊した液面残留フィルムを転写槽から排出する排出手段を設け、被転写体が出液するまでの間に液面残留フィルムを回収し、該フィルムを出液エリアまで到達させないようにしたことを特徴として成るものである。
【0028】
また請求項17記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置は、前記請求項14、15または16記載の要件に加え、
前記意匠面離反流は、出液中の被転写体の意匠面に臨むように設けられたオーバーフロー槽によって形成するものであり、
更にこのオーバーフロー槽の後段には、転写液を回収するオーバーフロー槽を設けるようにしたことを特徴として成るものである。
【0029】
また請求項18記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置は、前記請求項17記載の要件に加え、
前記意匠面離反流を形成するオーバーフロー槽には、液回収口となる排出口に、オーバーフロー槽に導入する転写液の流速を速めるための流速増強用ツバが形成されることを特徴として成るものである。
【0030】
また請求項19記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置は、前記請求項14、15、16、17または18記載の要件に加え、
前記転写槽は、被転写体が没入してから出液するまでの転写必要区間で、被転写体の意匠面が転写液中に埋没する深さを確保するように形成され、それ以外の転写不要区間では、この深さよりも浅く形成されることを特徴として成るものである。
【0031】
また請求項20記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置は、前記請求項17、18または19記載の要件に加え、
前記意匠面離反流は、夾雑物を含まない綺麗な水、あるいは転写槽より回収した転写液から夾雑物を除去した後の浄化水などの新水を、意匠面離反流形成用のオーバーフロー槽の下方から上流側の出液エリアに向けて供給することにより発生させるようにしたことを特徴として成るものである。
【0032】
また請求項21記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置は、前記請求項17、18、19または20記載の要件に加え、
前記意匠面離反流を形成するオーバーフロー槽は、転写槽の長手方向に移動自在に形成され、被転写体の出液動作に伴い被転写体の位置が前後しても、被転写体の意匠面とオーバーフロー槽との距離をほぼ一定に維持するように移動することを特徴として成るものである。
【0033】
また請求項22記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置は、前記請求項15、16、17、18、19、20または21記載の要件に加え、
前記サイド離反流を形成する排出手段としては、出液エリアの左右両側に設けられたオーバーフロー槽が適用されるものであり、
また、このオーバーフロー槽において液回収口となる排出口には、オーバーフロー槽に導入する転写液の流速を速めるための流速増強用ツバが形成されることを特徴として成るものである。
【0034】
また請求項23記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置は、前記請求項22記載の要件に加え、
前記転写槽には、出液エリアの液面上に生じる泡や夾雑物を、転写槽のいずれか一方の側壁に押しやる送風機が設けられ、転写液中・液面上に滞留する夾雑物の排出と併せて、該エリア液面上の泡や夾雑物もサイド離反流形成用のオーバーフロー槽から槽外に排出するようにしたことを特徴として成るものである。
【0035】
また請求項24記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置は、前記請求項22または23記載の要件に加え、
前記サイド離反流を形成するオーバーフロー槽の前段には、前記液面残留フィルムを回収するためのオーバーフロー槽が設けられるものであり、
また、このオーバーフロー槽には、液面残留フィルムを回収する排出口の途中部分に、液回収を遮る遮断手段が設けられ、遮断手段の前後から液面残留フィルムを回収するようにしたことを特徴として成るものである。
【0036】
また請求項25記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置は、前記請求項24記載の要件に加え、
前記液面残留フィルムを回収するオーバーフロー槽の前段には、転写直後の液面残留フィルムを転写槽の長手方向に割くように分断する分割手段が設けられ、
液面残留フィルムを回収する際には、被転写体を転写液中に没入させてから出液させるまでの間に、分割手段により分断された液面残留フィルムをオーバーフロー槽によって回収するようにしたことを特徴として成るものである。
【0037】
また請求項26記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置は、前記請求項14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24または25記載の要件に加え、
前記転写フィルムとしては、水溶性フィルム上に転写パターンのみを乾燥状態に形成したものを適用するか、水溶性フィルムと転写パターンの間に硬化性樹脂層を具えたものを適用するかのいずれかであり、更に水溶性フィルム上に転写パターンのみを乾燥状態に形成したフィルムを適用した場合には、活性剤として液体状の硬化性樹脂組成物を用いるものであり、
これにより液圧転写の際には被転写体に表面保護機能も有した転写パターンを形成し、これを転写後の活性エネルギー線照射または/および加熱によって硬化させるようにしたことを特徴として成るものである。
【発明の効果】
【0038】
これら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
まず請求項1または14記載の発明によれば、出液中の被転写体に対して、意匠面から離れる方向の意匠面離反流を形成するため、泡やフィルムカス等の夾雑物が意匠面に付着し難く、綺麗な転写製品(被転写体)が得られる。また、意匠面に泡や夾雑物が付着し難いことから、転写パターンそのものを精緻に転写することができ、柄歪みや変形が生じ難いものとなる。
【0039】
また請求項2または15記載の発明によれば、出液エリアの左右両側にサイド離反流が形成されるため、転写液中に滞留するフィルムカス等の夾雑物や、転写液面上に生じる泡を、このサイド離反流に乗せて転写槽外に排出することができ、より綺麗な転写製品(被転写体)を得ることができる。
【0040】
また請求項3または16記載の発明によれば、被転写体の没入後から出液するまでの間に液面残留フィルムを回収するため、液面残留フィルムが出液エリアまで到達することがなく、より一層綺麗な転写製品(被転写体)を得ることができる。
【0041】
また請求項4または17記載の発明によれば、意匠面離反流形成用のオーバーフロー槽(1段目OF槽)の後段に、更にオーバーフロー槽(2段目OF槽)を設けるため、転写槽内の液体の流れを以下のように制御することができる。まず、ほぼ1段目OF槽が設けられる高さ(深さ)の中層流は、1段目OF槽が液流抵抗となるため、該OF槽の下をくぐり抜けるような流れとなる。つまり、中層流は1段目OF槽直前では該OF槽の下方にもぐり込むような下向き流れとなり、1段目OF槽の通過後は上向き流れとなる。一方、中層流よりも高位置(液レベル)を流れる上層流(転写槽中の表面流)は、1段目OF槽でそのまま回収される。また中層流よりも低位置を流れる下層流(転写槽の底部を流れる液流)も、1段目OF槽に左右されず、そのまま水平に流れるため、中層流に含まれる夾雑物を、転写槽の底部に沈降・滞留させ難くするカーテン効果を生じる。また1段目OF槽の通過後、中層流が上向き流れとなることによって、下層流が上側に引き上げられ、これら中層流・下層流による上向き流れによって転写液中の特に中層流の下面に多く含まれると考えられる夾雑物を2段目OF槽に送り、ここで能率的に回収することができる。
【0042】
また請求項5または18記載の発明によれば、意匠面離反流を形成するオーバーフロー槽に流速増強用のツバが形成されるため、主に出液エリアにおいて意匠面側の液面付近に浮遊する夾雑物や液面上の泡等をより確実に回収することができる。
【0043】
また請求項6または19記載の発明によれば、転写槽は、全長にわたって同じ深さ(被転写体が転写液中に完全に没する深さ)で形成されるのではなく、フィルム供給端部など転写に不要な部位では浅く形成されるため、全体を同じ深さで形成した場合よりも、転写槽に収容する転写液が少量で済む。
【0044】
また請求項7または20記載の発明によれば、意匠面離反流形成用のオーバーフロー槽の下方から供給される新水を利用して意匠面離反流を生起させるため、回収した転写液をほぼそのまま意匠面離反流として再利用する場合に比べ、格段に綺麗な転写製品(被転写体)を得ることができる。
【0045】
また請求項8または21記載の発明によれば、意匠面離反流形成用のオーバーフロー槽が、転写槽の長手方向に移動可能であり、そのままでは出液に伴い被転写体とオーバーフロー槽との距離が変わってしまう場合でも、この変化に追随してオーバーフロー槽を前後移動させることで、該距離をほぼ一定に維持することができ(オーバーフロー槽に対する出液位置を一定にすることができ)、泡や夾雑物をより一層確実に回収することができる。
【0046】
また請求項9または22記載の発明によれば、サイド離反流はオーバーフロー槽によって形成され、またこのオーバーフロー槽には流速増強用のツバが形成されるため、主に出液エリアにおいて装飾不要面側の液面付近に浮遊する夾雑物や液面上の泡等をより確実に回収することができる。
【0047】
また請求項10または23記載の発明によれば、オーバーフロー槽によってサイド離反流を形成することに加え、送風によって出液エリア液面上に生じる泡や夾雑物を、いずれか一方のオーバーフロー槽に送り込むため、これらの相乗効果により、出液エリアの高クリーン化(液中及び液面上)が図られる。すなわち、出液エリアの液面上及び液中に生じ得る泡や夾雑物等の意匠面側への回り込みをより高いレベルで防止できるものである。
【0048】
また請求項11または24記載の発明によれば、サイド離反流形成用のオーバーフロー槽の前段に設けたオーバーフロー槽によって液面残留フィルムを回収するものであり、またこのオーバーフロー槽には、液回収を遮る遮断手段が設けられるため、同一のオーバーフロー槽でも遮断手段の前後二段階で液面残留フィルムを回収でき、また遮断手段によって回収の誘導流速も制御できる。このため、液面残留フィルムを全体的に引っ張ってしまうことがなく(転写位置における転写フィルムに悪影響を及ぼすことなく)、確実に液面残留フィルムを回収することができる。
【0049】
また請求項12または25記載の発明によれば、液面残留フィルムの回収は、まず分断してから回収するため、転写後、速やかに且つ確実に液面残留フィルムを回収することができる。また液面残留フィルムを出液エリアまで到達させてしまうことがなく、転写液中から次々に上昇してくる被転写体の意匠面に液面残留フィルムが付着することも防止できる。
また、本発明では、液面残留フィルムを分断してから回収するため、未転写フィルムを全体的に引っ張ってしまうことがなく、転写位置など転写前の転写フィルムに変形を生じさせることなく回収することができる。
【0050】
また請求項13または26記載の発明によれば、液圧転写によって被転写体に表面保護機能も有する転写パターンを形成し、これを事後の活性エネルギー線照射または/および加熱によって硬化させるものであるため、転写液中から引き上げる被転写体にフィルムカス等の夾雑物や泡などが付着しないことが重要となり、このような液圧転写(表面保護機能も有する転写パターンを形成する液圧転写)が極めて低い不良率で行い得る。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置の一例を示す平面図並びに側面断面図である。
【図2】同上、平面図に対して転写槽の内部構造、特に転写液の使用状況を併せ示す側面断面図である。
【図3】意匠面離反流形成用のオーバーフロー槽(1段目OF槽)の後段に、更に末端オーバーフロー槽(2段目OF槽)を設けた2段OF構造における転写槽内の液流態様を概略的に示す説明図である。
【図4】転写槽を示す骨格的斜視図である。
【図5】フィルム保持機構をベルトで構成した場合の取り回し例を示す斜視図である。
【図6】液面残留フィルムの分割手段として送風機を二基用いて、該フィルムを液流方向に三つに分断し、三カ所で回収するようにした転写槽の平面図である。
【図7】液面残留フィルムの分割手段として送風機を三基用いて、該フィルムを液流方向に二つに分断するようにした転写槽の平面図である。
【図8】フィルム保持機構としてチェーンコンベヤを適用した場合において、分断した液面残留フィルムを転写槽の側壁部に寄せ、ここから排出する際に、該機構によるフィルムの保持作用を解除する改変例を示す説明図(フィルム保持機構を側面から視た図)である。
【図9】フィルム保持機構によるフィルムの保持作用を、液面残留フィルム回収用のオーバーフロー槽に至るまで及ぶようにした様子(a)と、該保持作用をオーバーフロー槽まで及ばないようにした様子(b)とを対比して示す平面図である。
【図10】液面残留フィルム回収用のオーバーフロー槽において、液回収を遮る遮断手段として収容式遮蔽体を適用した転写槽を示す骨格的斜視図(a)、並びに該オーバーフロー槽のみを拡大して示す斜視図(b)・断面図(c)である。
【図11】液面残留フィルムを液流方向に二つに分断しながら、四カ所で回収するようにした転写槽を示す平面図である。
【図12】意匠面浄化機構を具えた転写槽を、被転写体搬送装置としてのコンベヤ(三角コンベヤ)とともに併せ示す骨格的斜視図(a)、並びに出液中の被転写体に作用する意匠面離反流の様子を拡大して示す説明図(b)・(c)である。
【図13】被転写体を一定の傾斜姿勢・出液角度で引き上げても、被転写体の湾曲状態や凹凸度合い等によって、意匠面が意匠面離反流形成用のオーバーフロー槽から徐々に遠ざかってしまうことを示す説明図である。
【図14】液圧転写をバッチ処理で行った場合、つまり被転写体を一定の傾斜姿勢で真上に引き上げた場合に、意匠面離反流形成用のオーバーフロー槽の好ましい作動状況を段階的に示す説明図である。
【図15】三角コンベヤ部と直線コンベヤ部とを出液側ホイールによって接続した被転写体搬送装置を示す側面図であり、(a)は没入角が比較的小さい場合を実線で示し、(b)は没入角が比較的大きい場合を実線で示した図である。
【図16】搬送軌道を側面視状態で全体的に四角形状に形成し、没入角と出液角とを変更できるようにした被転写体搬送装置を示す側面図である。
【図17】没入側ホイールから出液側ホイールまでの区間において被転写体を転写液中で徐々に上昇移送するようにした被転写体搬送装置を示す部分的な側面図である。
【図18】出液側ホイール以降、被転写体を没入側に折り返し状態に移送するようにした被転写体搬送装置を示す側面図である。
【図19】マニピュレータを適用したロボット転写における被転写体の動きの一例と、転写槽とを関連付けて示す図1に対応した説明図、並びに被転写体の好ましい出液状況を拡大して示す説明図である。
【図20】被転写体が意匠面に開口部を有している場合に、この開口部の裏面側に隙間を開けて薄膜誘導体を設けた様子を示す被転写体の背面図及び断面図(a)、並びに薄膜誘導体を設けて液圧転写並びに紫外線照射を行う様子を示す説明図(b)・(c)である。
【図21】被転写体に薄膜誘導体を設ける際に開口部との隙間を全周で一定にせず、異ならせるようにした実施例を示す説明図である。
【図22】液圧転写時に転写パターンのみならず表面保護層までを形成し、その後に紫外線照射等によって、これら装飾層を硬化させるようにした場合において、液圧転写時に意匠面に泡が付着する様子、並びにこの状態で紫外線照射を行う様子を示す説明図である。
【図23】一般に、転写液面上に供給された転写フィルムが、上側の転写パターンと、下側の水溶性フィルムとの伸び差によって上方にカールする様子を概念的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明を実施するための形態は、以下の実施例に述べるものをその一つとするとともに、更にその技術思想内において改良し得る種々の手法を含むものである。
なお、説明にあたっては、まず本発明において好適に用いられる転写フィルムFについて説明し、その後、液圧転写装置1の全体構成について説明する。
【実施例】
【0053】
まず本発明において好適に用いられる転写フィルムFについて説明する。本発明では、液圧転写の際、単に転写パターンのみを被転写体Wに転写するのではなく、表面保護機能を併せ持たせた転写パターンを転写することが好ましく(本明細書では、このような転写パターンを「表面保護機能も有する転写パターン」と称する)、これは従来、転写後に施していたトップコートが必要なくなるためである。すなわち、表面保護機能も付与する液圧転写では、転写後の被転写体Wに、例えば紫外線や電子線等の活性エネルギー線を照射することにより、液圧転写によって形成した転写パターンを硬化させ、表面保護を図ることができるものである。もちろん、表面保護機能も有する転写パターンを転写した後、更にトップコートを施すことは何ら構わない。
このようなことから、転写フィルムFとしても、水溶性フィルム(例えばPVA;ポリビニルアルコール)上に転写インクによる転写パターンのみが形成されたフィルム、あるいは水溶性フィルムと転写パターンとの間に硬化性樹脂層が形成されたフィルムの適用が好ましく、とりわけ水溶性フィルム上に転写パターンのみが形成された転写フィルムFを用いる場合には、活性剤として液体状の硬化樹脂組成物を使用するものである。ここで硬化樹脂組成物とは、光重合性モノマーを含む無溶剤タイプの紫外線または電子線硬化樹脂組成物が好ましいものである。
もちろん、水溶性フィルム上に転写パターンのみが形成された転写フィルムFを用い、液圧転写時には表面保護機能を付与せず、その後に、通常のトップコートを施して表面保護を図る場合(従来の液圧転写手法)においても、本発明の特徴的構成である意匠面浄化機構9を適用することは可能である。
【0054】
ここで転写パターンとしては、木目模様のパターン、金属(光沢)模様のパターン、大理石模様などの岩石の表面を模した石目模様のパターン、布目や布状の模様を模した布地模様のパターン、タイル張り模様・レンガ積み模様などのパターン、幾何学模様、ホログラム効果を有するパターン等の各種パターンが挙げられ、更にはこれらを適宜複合したものでも構わない。なお、上記幾何学模様については、図形はもちろん文字や写真を施したパターンも含むものである。
【0055】
また被転写体Wにおける面を定義すると、まず装飾層が形成される転写面を意匠面S1とするものであり、この意匠面S1は、精緻な転写が要求される面と言え、没入の際には転写液面上に浮かべた転写フィルムF(転写パターン)に対向する面となる。ここで、上述したように、特に表面保護機能も有する転写パターンを液圧転写時に形成する場合には、被転写体Wの意匠面S1に、液面残留フィルムF′、余剰フィルム、フィルムカス、泡Aなどを極力付着させないようにするものである。
一方、被転写体Wにおいて装飾層が形成されない面(液圧転写を要しない面)を装飾不要面S2とし、ここには上記フィルムカス、泡Aなどが付着しても構わないものである(例えば意匠面S1側から回り込んだ転写パターンが歪んだ状態で転写されても構わないものである)。
このため換言すれば、意匠面S1は、完成品として被転写体W(液圧転写品)を最終的にアッセンブリ等として組み付けた状態において外観的に目視される部分となり、装飾不要面S2は、組み付け状態で外観的に目視されない部分であり意匠面S1の裏側となることが多い。
【0056】
次に液圧転写装置1について説明する。液圧転写装置1は、一例として図1・2に示すように、転写液Lを貯留する転写槽2と、この転写槽2に転写フィルムFを供給する転写フィルム供給装置3と、転写フィルムFを活性化し転写可能な状態とする活性剤塗布装置4と、転写槽2に浮遊支持された転写フィルムFの上方から適宜の姿勢で被転写体Wを投入(没入)させ、且つ出液させる(引き上げる)被転写体搬送装置5とを具えて成るものである。
更に転写槽2は、転写液面上に供給された転写フィルムFの両サイドを保持するフィルム保持機構6と、被転写体Wの没入後に不要となった液面残留フィルムF′を転写槽2から回収(排出)する液面残留フィルム回収機構7と、主に出液エリアの浄化を図る出液エリア浄化機構8(出液する被転写体Wの主に装飾不要面S2側(意匠面S1の反対側))と、出液エリアにおいて浮上してくる被転写体Wの意匠面S1側の浄化を図る意匠面浄化機構9と、着液した転写フィルムFから離れ転写液面上に流出する活性剤成分Kを除去することにより転写液L面上に供給された転写フィルムFの伸展低下を防止する伸展低下防止機構10とを具えて成るものであり、特に本発明では意匠面浄化機構9を必須とするものである。以下、各構成部について説明する。
【0057】
まず転写槽2について説明する。転写槽2は、液圧転写を行うにあたり、転写フィルムFを浮遊支持する部位であり、転写液Lをほぼ一定の液レベル(水位)で貯留できる処理槽21を主な構成部材とする。このため処理槽21は天面が開口され、前後左右が壁面で囲まれた有底状を成し、特に処理槽21の左右両サイドを構成する両側壁に符号22を付すものである。
ここで処理槽21において被処理体Wが転写液L中に投入される位置(入射位置)を没入エリアP1とし、被処理体Wが転写液L中から引き上げられる位置(出射位置)を出液エリアP2とするものである。因みに、液圧転写においては、被転写体Wの没入と同時に転写が実行・完了するものであるため、前記没入エリアP1は転写位置(転写エリア)とも言える。また、上記名称において主に「エリア」という語句を使用したのは、通常は、転写フィルムFの転写パターンの種類や状態により転写位置を前後に移動させたり、また、ある程度の広さを有した意匠面S1に、転写フィルムF(転写パターン)を転写するため、被転写体Wの没入/出液は、液面に対して、ある程度の角度を持った状態(ある程度の範囲ないしは広さ)で行われることが多いためである。因みに、没入角は、被転写体Wが没入し始めてから没入し終わるまで必ずしも一定に維持するとは限らないし、これは出液角についても同様であり、被転写体Wが出液し始めてから出液し終わるまで必ずしも一定に維持するとは限らない。
そして、本実施例では、被転写体Wが転写液Lに没入している間に、液面上に残ったフィルム(転写には使われず不要の液面残留フィルムF′)を、転写槽2の長手方向(液流方向)に分断するため、上記没入エリアP1と出液エリアP2との間隔は、ある程度の距離を設けるものである。なお、転写槽2の長手方向に分断された液面残留フィルムF′は、その後、転写槽2の両側壁22に寄せられ(送られ)、ここから転写槽2外に排出(回収)されるものである。
【0058】
また、処理槽21内には、例えば液面付近(表層部分)において転写液Lをフィルム供給側(上流側)から出液エリアP2(下流側)に送る液流が形成される。具体的には、転写槽2の下流端近くにオーバーフロー槽(後述するオーバーフロー槽82・92・97等)を設けるとももに、ここで回収した転写液Lを浄化した後、その一部を転写槽2の上流部分から循環供給することにより転写液Lの液面付近に上記液流を形成するものである。因みに回収した転写液Lを浄化するには、例えば沈殿槽やフィルタリング等によって、転写液L中に分散・滞留する余剰フィルムやフィルムカス等の夾雑物を回収液(懸濁液)から除去する手法が挙げられる。
【0059】
また、処理槽21の両側壁22の内側には、フィルム保持機構6としてのコンベヤ61が設けられるものであって、これは液面上に供給された転写フィルムFの両サイドを保持することで、転写フィルムFを転写液Lの液流と同調した速度で、上流側から下流側に移送するものである。もちろん、転写液面上に供給された転写フィルムF(特に水溶性フィルム)は、着液以降、徐々に四方に延展して行くため(伸びて行くため)、上記フィルム保持機構6(コンベヤ61)は、このフィルムの伸びを両サイドから規制する作用も担うものである。すなわち、フィルム保持機構6(コンベヤ61)は、転写フィルムFの伸びをほぼ一定に維持した状態で、転写フィルムFを少なくとも没入エリアP1(転写位置)まで移送する作用を担うものであり、これにより転写位置では転写フィルムFの伸びが毎回同じ程度に維持され、連続して精緻な転写が行えるものである。
このようにフィルム保持機構6(コンベヤ61)は、単に転写フィルムFの移送作用を担うだけでなく、転写位置におけるフィルムの伸びを一定に維持する作用(伸びを規制する作用)をも担うものであり、本明細書では、これらをまとめて「フィルムの保持作用」と称する。因みに、本実施例においては、このフィルムの保持作用を、液面残留フィルムF′を回収する部位では解除するものであり、その詳細は後述する。
【0060】
フィルム保持機構6としてのコンベヤ61は、一例として図5に示すように、複数のプーリ62に無端状のベルト63を巻回して成るものであり、ベルト63は、転写フィルムFの両サイドに接触し、これを保持する軌道部分(フィルムを保持しながら液流とほぼ同じ速度でフィルムを下流方向に送るため「往路ベルト63G」とする)と、その外側で側壁22寄りの位置に配される復路部分(これを「復路ベルト63B」とする)とに分けられる。
また複数のプーリのうちフィルム供給側(上流側)に設けられるものを始端プーリ62Aとし、終端部分(液面残留フィルム回収用のオーバーフロー槽側)に設けられるプーリを終端プーリ62Bとする。更に、これら始端プーリ62Aと終端プーリ62Bとの途中部分で、往路ベルト63Gを側方から支持するものを中継プーリ62Cとする(ここでは二基ある)。
因みに本実施例では、終端プーリ62Bにモータ等による駆動が入力されるものである。
【0061】
始端プーリ62A、終端プーリ62B、中継プーリ62Cは、どれも回転軸64がほぼ鉛直方向に設定され、フィルムの保持作用を担う往路ベルト63Gそのものの幅方向が転写液Lの深さ(高さ)方向になるように設定されており、これは転写槽2内の液レベルが変化しても、ベルト63の幅寸法で対応し、コンベヤ61全体を上下動させなくても済むように考慮したためである(転写槽2の液レベル変化に対応し易い構造)。
一方、復路ベルト63Bは、中継プーリ62Cが設けられる部位で、軌道の一部が下方に垂れ下がるように取り回され(言わば折り返し状態)、この垂れ下がり部分の長さ寸法を適宜変更することでベルト63全体に掛かるテンションを調整するものである(このため、この垂れ下がり部位をテンション調整部63Cとする)。
【0062】
テンション調整部63Cは、中継プーリ62Cの両側に設けられる位置固定プーリ62Dと、その下方に設けられる上下動プーリ62Eの計三つのプーリを具えて成るものであり、実際のテンション調整において、例えばコンベヤ61の平面視寸法、つまり始端プーリ62Aから終端プーリ62Bまでの見かけ上の全長を短くしたい場合には、上下動プーリ62Eを下げて、テンション調整部63Cにおける下方への折り返し長さを伸ばすことで、ベルト63の全長は変えずに、コンベヤ61の見かけ上の平面視寸法を短縮するものである。
【0063】
また、テンション調整部63Cを構成する位置固定プーリ62Dと上下動プーリ62Eとの回転軸64は、転写槽2の側壁22にほぼ直交する水平状態に設定される。このためテンション調整部63C(垂れ下がり部分)では、ベルト63の幅方向が、ほぼ水平になるように設定され、復路部分でベルト63の姿勢が90度変えられる(ねじられる)ものである。すなわち、復路ベルト63Bにおける終端プーリ62Bから位置固定プーリ62Dに至る軌道部分と、位置固定プーリ62Dから始端プーリ62Aに至る軌道部分とにおいてベルト63が90度ねじられるものである。
因みに、図5では、テンション調整部63Cを二カ所設けたが、これは一カ所でも構わないし、三カ所以上でも構わない。
【0064】
なお、このようなフィルム保持機構6(コンベヤ61)は、転写フィルムFの幅寸法が種々異なることを考慮すると、左右の往路ベルト63Gの間隔(幅寸法)が自由に調整できるような構成が好ましく、以下これについて説明する。このような構成(幅寸法調整機能)としては、例えば図5の拡大図に示すように、中継プーリ62Cを回転自在に支持するアームバー65を、転写槽2の側壁22に対し突出自在(伸縮自在)に設けておく手法が挙げられる(いわゆる伸縮式)。なお、アームバー65は、クランプ66等により任意の位置で(突出寸法で)固定できるようにしておくものである。
また、本実施例では、始端プーリ62Aについても同様の手法で、転写槽2の幅方向に対し突出自在に設けている。因みに、転写フィルムFに合わせて左右の往路ベルト63Gの間隔を変更した場合にも、テンション調整部63Cの調整、つまり上下動プーリ62Eを上下動させてベルト63全体のテンションを調整するものである。
なお、中継プーリ62Cや始端プーリ62Aを、側壁22(転写槽2)に対し突出自在に設ける他の手法としては、プーリ62C・62Aを支持するアームバー65を、転写槽2の側壁22に対し回動自在に設けておき、このアームバー65をクランプ66等により任意の回動位置(角度)で固定する手法も考えられる(いわゆるスイング式)。もちろん、このような伸縮式とスイング式とを随所に組み合わせて適用することも何ら構わない。
また、本実施例では、フィルム保持機構6としてベルト63を採用したが、チェーンや比較的太いロープ・ワイヤ等を適用することも可能である。
【0065】
また、処理槽21のフィルム供給側(上流側)の上方には、送風機26が設けられ、これにより転写フィルムFの周囲への均一な延展を図るとともに、転写フィルムFの下流側への進行を補うものである。
ここで送風機26による送風は、転写フィルムFに直接、風を作用させる(当てる)ことが大きな特徴である。つまり送風機26は、転写フィルムFそのものに送風する手法であって、転写フィルムFを風の力で強制的に周囲に押し広げる(伸展させる)という着想である。
また、送風機26は、転写フィルムFの下流側への移送作用を補助的に担うものであるため、その送風方向は、専ら上流側から下流側に向かう一方向である。もちろん、送風機26の取付位置も、転写槽2のセンター位置(幅中央)に設定されるものである。
更に、送風機26は転写フィルムFに直接、風を作用させるものであるため、比較的風量が強め(多め)に設定され、これに伴う波立ちが転写位置(没入エリアP1)にまで波及することが考えられる。従って、これを防ぐには、転写槽2内における送風機26から転写位置までの間に波消板などを設け、転写液面の安定化、とりわけ転写位置での液面の安定化を図ることが好ましい。
【0066】
次に液面残留フィルム回収機構7について説明する。液面残留フィルム回収機構7は、被転写体Wの没入後に、転写液L面上に残った液面残留フィルムF′を回収する機構であり、これにより液面残留フィルムF′を出液エリアP2まで到達させないようにしている。すなわち転写フィルムFは、被転写体Wの没入によって例えば図1に示すように、突き破られた状態(ここでは長円状の孔が開いた状態)となり、突き破られた部分は、主に被転写体Wとともに液中に没し、その液圧によって意匠面S1に付着転写される部位であるが、液面上に残ったフィルム(開口状態で浮遊するフィルム)は、転写には用いられず、不要な部位となる(これが液面残留フィルムF′)。このような液面残留フィルムF′をそのまま放置すれば転写液Lを汚す要因となり、また液面残留フィルムF′が下流の出液エリアP2までに至れば、転写液中から引き上げられてくる被転写体W(意匠面S1)に付着してしまうため、本実施例では、この液面残留フィルムF′を、転写後できるだけ速やかに且つ確実に回収するものである。具体的には、まず液面残留フィルムF′を転写槽2の長手方向、つまり液流方向に分断し、これを転写槽2の両側壁22に寄せて(押しやって)、ここから槽外に排出するものである。
【0067】
このため液面残留フィルム回収機構7としては、液面残留フィルムF′を液流方向に割くように分ける分割手段71と、転写槽2の側壁22部分で槽外に排出する排出手段72とを具えて成るものであり、以下これらについて説明する。
まず分割手段71から説明する。分割手段71は、被転写体Wの没入後つまり転写後、液面残留フィルムF′を速やかに分断する(分岐させる)ものであり、ここではフィルムに対して非接触でありながらも確実に分断が行える送風手法を採用する。具体的には、一例として図1に示すように、送風機73を処理槽21の一方の側壁22上に設け、ここから液面上の液面残留フィルムF′に風を当てるものである。ここで、上記説明では単に「送風機(73)」と記載したが、この文言には、送風機に接続される延長ダクトやノズル等を含むものである。
また、上記説明では、液面残留フィルムF′の分断を速やかに行うように記載したが、分割手段71の分断作用(ここでは風量)が転写位置(没入エリアP1)の転写フィルムFに変形(返り波等による柄歪み)、応力等などの悪影響を生じさせては、転写そのものが精緻に行えなくなるため、分割手段71の作用が及ぶ範囲は、転写位置に悪影響を及ぼさないように(例えば、ある程度の距離をおいて)設けられる。別の言い方をすれば、分割手段71としての送風機73の風量(風力)は、転写位置に悪影響を及ぼさないことを考慮して比較的弱く設定される。そのため、分割手段71としての送風機73は、転写位置の前後移動に応じて、設置位置が転写槽2の長手方向に沿って自由に移動できることが好ましく、これにより転写位置に悪影響を及ぼさずに、分断作用を発揮する適切な位置設定が容易となる。
【0068】
ここで上記送風機73による液面残留フィルムF′の分断状況について説明する。液面残留フィルムF′は、送風機73からの送風により左右に分かれるものであり、とりわけ液面残留フィルムF′において分断が始まる地点を分断開始地点P3とする。また液面残留フィルムF′は、この分断開始地点P3から送風により略円弧状または略V字状に分かれ、あたかもラインにように見えるため、このフィルム別れ線を分断ラインFLと定義する。もちろん分断ラインFLのエッジ付近は、次第に少しずつ溶解、ばらけながら送風や液流により両側壁22に寄って行く。このため図4では分断ラインFLを分断開始地点P3付近では明確な実線で描いたが、ここから離れた側壁22部位では破線で描いたものである。
【0069】
因みに、本実施例では、分断後の液面残留フィルムF′を、一見、両側壁22に寄せる作用部材がないように思えるが、上記分割手段71としての送風機73が、分断後の液面残留フィルムF′を側壁22に寄せる作用も担っている。もちろん、転写槽2に形成されている液流も、当該作用を補っている。
また、本実施例では、分割手段71としての送風機73を一方の側壁22上に設け、液面残留フィルムF′を二分割することから、両側壁22への分割比率は一例として約8:2〜7:3程度の割合である。もちろん液面残留フィルムF′を分割するには、左右の側壁22にほぼ均等に分けることも可能であるが、この場合には、転写槽2の幅中央に分割手段71(送風機73)を設置するのが一般的と考えられ、転写槽2の幅中央に位置する被転写体搬送装置5との設置態様を考慮する必要がある。
【0070】
なお、分割手段71としての送風機73は、必ずしも一基に限定されるものではなく、二基以上を組み合わせて用いることも可能であり、これは上述したように送風機73の風量を無理やり多く(強く)できないための対策と言える。具体的には、例えば図1に併せ示すように、送風機73を設けた側壁22の方に、更に小型の補助送風機73aを設置し、液面残留フィルムF′を多く回収する方に確実に押し込むものである。
もちろん、補助送風機73aの送風方向は、必ずしも図1の態様に限定されるものではなく、例えば図6に示すように、補助送風機73aの送風方向をメインの送風機73の送風方向とほぼ沿うように設定することも可能である。因みに、この図6の実施例では、液面残留フィルムF′は結果的に三分割され、三カ所で回収されており、このため本実施例は、液面残留フィルムF′の分割態様が必ずしも二分割に限定されないこと(二カ所での回収に限定されないこと)を示しているとも言える。つまり、転写フィルムFの性状や分割・回収の状況等によって、種々の分割形態、回収形態が採り得るものである。
更に、例えば図7は、分割手段71として三基の送風機(メインの送風機を73、補助送風機を73a、73bとする)を設けた実施例であり、補助送風機73aの風量が弱いために(大きくし難いために)、最後に別の補助送風機73bで、分断した液面残留フィルムF′の一方を横方向に確実に押しやる思想である。
なお、液面残留フィルムF′を送風によって分断する上記手法は、液面残留フィルムF′を非接触状態で分断でき(送風機73自体をフィルムに直接触れさせずに分断でき)、転写位置の転写フィルムFに変形等の悪影響を及ぼし難い点で効果を奏するものである。
【0071】
次に、液面残留フィルム回収機構7における排出手段72について説明する。排出手段72は、転写槽2の側壁22に押しやった液面残留フィルムF′を回収し、転写槽2外に排出するものであり、本実施例では処理槽21の左右両側壁22内側に設けたオーバーフロー槽75を適用する。ここでオーバーフロー槽75において、液面残留フィルムF′を転写液Lとともに導入する回収口を排出口76とする。
また、このようなオーバーフローによる排出構造を採ることから、上述したように排出口76ではフィルム保持機構6(ここではベルト63を用いたコンベヤ61)によるフィルムの保持作用を解除するものであり、これにより両側壁22に押しやった液面残留フィルムF′を排出(回収)し易くしている。逆に言えば、オーバーフロー槽75の排出口76にベルト63が存在すると、ベルト63が排出口76を塞ぎ、あたかも液面残留フィルムF′の排出を阻害するように働いてしまうため、本実施例では、排出口76部分でフィルムの保持作用を解除するものである。
【0072】
排出口76におけるフィルム保持機構6の解除手法について具体的に説明すると、本実施例では例えば図4に示すように、フィルム保持作用の終端部となる終端プーリ62Bを、側面から視て分断開始地点P3付近に設け、ここでコンベヤ61(ベルト63)を折り返すものである。このような配置態様により、オーバーフロー槽75の排出口76部分で、フィルム保持機構6(コンベヤ61)によるフィルム保持作用を解除するものである。
ただし、コンベヤ61は、側面から視てオーバーフロー槽75(排出口76部分)に対し幾らかオーバーラップするよう、つまり終端プーリ62Bが側面から視てオーバーフロー槽75と幾らか重なるように設けることが好ましく、これについては後述する(図9(a)参照)。
なお、フィルム保持機構6としてチェーンコンベヤ67を適用した場合にも(図23参照)、上記と同様の手法により、排出口76部分でチェーンコンベヤ67によるフィルムの保持作用を解除することができるが、特にチェーンコンベヤ67を適用した場合には、上記以外の他の手法も採用できる。すなわち、この場合には、通常、側面視状態で、上側のチェーン68の中心が液面レベルと合致するように設定されるため、例えば図8(a)に示すように、排出口76付近では、チェーンコンベヤ67(チェーン68)を全体的に液面下に沈降させて、排出口76における液面部分でフィルムの保持作用を解除することが可能である。もちろん、これとは逆の構成つまり図8(b)に示すように、排出口76における液面部分で、チェーンコンベヤ67(チェーン68)を液面より高く持ち上げて、フィルムの保持作用を解除することも可能である。ここで図中符号69Aは、排出口76付近でチェーン68が排出口76を塞がないようにチェーンコンベヤ67を上または下に規制するガイド体であり、更に図中符号69Bは、チェーンコンベヤ67を通常の高さ(軌道)で案内するガイド体である。
【0073】
また、本実施例のオーバーフロー槽75には、例えば図4に示すように、排出口76の途中部分に、液回収を遮る遮断手段77としての堰板78を設けるものであり、これは一基のオーバーフロー槽75においても、遮断手段77(堰板78)の前後二段階で液面残留フィルムF′を回収することを意図した構成である。また、遮断手段77は、排出口76の流速誘導範囲を狭めるため、フィルムの保持作用を解除した後の流速を弱める制御も行っており、これにより液面残留フィルムF′を確実に、しかも転写位置(没入エリアP1)に悪影響を及ぼすことなく回収するようにしている。
因みに、排出口76に遮断手段77を設けずに、排出口76の全域から液面残留フィルムF′をオーバーフロー槽75に導入した場合には、側壁22に寄って来ている液面残留フィルムF′を全体的に引っ張ってしまい、これが転写位置にまで及んで転写位置の転写フィルムFに変形等の悪影響を与えてしまうことが本出願人によって確認されている。
また、このオーバーフロー槽75で回収した転写液Lは、液面残留フィルムF′すなわち転写パターン(インク成分)や半溶解状の水溶性フィルム等を多く含み、夾雑物の混入割合が高いため、そのまま廃棄されることが好ましいが、浄化装置によって、これら夾雑物を除去した後、循環使用に供することも可能である。
また、オーバーフロー槽75は、転写槽2の側壁22(フレーム)に対して液流方向となる前後方向がボルト等によって留められ、オーバーフロー槽75の全体的な高さが変更できるともに、オーバーフロー槽75自体の前後方向の傾きが調整できるように取り付けられることが好ましい。また、オーバーフロー槽75全体が、前記送風機73と同様に、転写位置の変更を考慮して、転写槽2の長手方向に自由に前後移動できることが好ましい。更に、遮断手段77も、排出口76に対する設置位置が適宜変更でき、またその幅(前後方向長)も適宜変更できる構成が好ましい。
【0074】
ここで、側面視状態でフィルム保持機構6(コンベヤ61)をオーバーフロー槽75(排出口76部分)に対し幾らかオーバーラップさせることが好ましい理由(経緯)を、図9に基づいて説明する。
まず、図9(b)は、コンベヤ61がオーバーフロー槽75とオーバーラップしない場合を示しており、このときコンベヤ61の終端プーリ62Bは、オーバーフロー槽75よりも上流側に位置する。この場合、ベルト63(往路ベルト63G)に保持された液面残留フィルムF′の両サイド部分は、オーバーフロー槽75の速い流速の落液の力によって次第にフィルム保持(接触)が解除される傾向(本来はベルト63に保持されている部位でもベルト63から離れる傾向)となる。そのため、この場合には図示するように、液面残留フィルムF′の両サイド端部が、先にオーバーフロー落液に引っ張られて保持が解除され、これが上流側に遡ってフィルム全体の柄曲がりを誘発し得る。当然、このような柄曲がりの影響は、没入エリアP1の転写フィルムFの柄歪みにつながるものである。
これに対し、図9(a)に示すように、コンベヤ61をオーバーフロー槽75に対し幾らかオーバーラップさせた場合には、液面残留フィルムF′がオーバーフロー槽75(排出口76)に至るまで、コンベヤ61(往路ベルト63G)によるフィルムの保持作用が及ぶものである。このため、液面残留フィルムF′は、排出口76に到達するまで、両サイド部分がコンベヤ61によって確実に保持され、オーバーフロー槽75(遮断手段77の手前側)に導入される液面残留フィルムF′は、あたかも終端プーリ62Bを回り込むように落水し、転写位置に悪影響を及ぼすことなく確実に回収されるものである。
【0075】
ここで、例えば上記図4の実施例では、遮断手段77として堰板78を適用したが、遮断手段77としては他の形態も採り得、例えば図10に示すように、オーバーフロー槽75内に収める形態も可能であり、好ましいものである(これを収容式遮蔽体79とする)。
すなわち図10に示す収容式遮蔽体79は、一例として断面コの字型を成す側溝状の部材であるが、このものは回収液を受け入れる容器(溝)として使用されるのではなく、図10(b)に示すように、コの字型断面の開口部分(開放部分)を下に向けるようにオーバーフロー槽75に収められ(落とし込まれ)、コの字型断面の中央平面部分でオーバーフロー槽75の上部開口側を部分的に閉塞するものである。このため収容式遮蔽体79は、オーバーフロー槽75内で、言わばブリッジ状に設置されるものであり、この設置状態で収容式遮蔽体79の上部に位置する平面部位(オーバーフロー槽75を閉塞する部分)が、上記堰板78と同様に堰の作用を担うものであり、このようなことから当該平面部分を堰作用部79aとする。また、堰作用部79aの両側に対設される部位を脚部79bとするものであり、この両脚部79bをオーバーフロー槽75内に収めることにより、収容式遮蔽体79は、前後方向の移動のみが許容されるものである。
【0076】
なお、収容式遮蔽体79を、このようなコの字型に形成するメリットは、このものをオーバーフロー槽75内に落とし込むだけで収容式遮蔽体79(遮断手段77)を固定することができ、またこのものを前後方向に移動(転写槽2の長手方向にスライド)させることにより前後二段階の排出位置や、その排出バランスが容易に調整・変更できることである。
この点、先に述べた堰板78では、通常、このものをオーバーフロー槽75の排出口76に立設することから、堰板78をオーバーフロー槽75(排出口76)に取り付ける固定手段が別途必要となり、また上述した調整を行うには着脱を伴うが、収容式遮蔽体79であれば、特にこのような固定手段が要らず、また調整も極めて容易に行い得るものである。
【0077】
ここで収容式遮蔽体79は、既に述べたようにオーバーフロー槽75による液回収を遮るものであるため、図10(c)に示すように、堰作用部79a(天面)が、オーバーフロー槽75の排出口76よりも高く設定されるものである(一例として1mm〜3mm程度)。なお且つ、この堰作用部79aは、同図10(c)に示すように、転写液L面よりもわずかに低く設定されるものであり(一例として2〜3mm程度)、これは通常排出量設定時に収容式遮蔽体79が、わずかに液中に没することを示している。しかし、このような状態でも、収容式遮蔽体79(堰作用部79a)が設置されていない排出口76部分と、堰作用部79aとでは、液回収の速度差が生じ(堰作用部79a部分で遅くなる)、充分に堰としての機能を果たすものである。
更に、堰作用部79aをわずかに水没させることで、当該部分にフィルムカスが引っ掛かり難く、またたとえ当該部分にフィルムカスが引っ掛かって止まっても(乗り上げて止まっても)、これを回収でき、転写槽2内の転写液Lを汚すことがないものである。
この点、先に述べた堰板78は、一般的なせき止め構造であり、堰板78が転写液L面よりも上に突出するため、堰板78にフィルムカスが引っ掛かることが考えられ、その場合には、これがやがて粉々になり転写槽2内に落下し、転写液Lを汚しかねないものである。
【0078】
なお、転写槽2の側壁22部分で液面残留フィルムF′を回収するにあたっては、必ずしも片側一カ所ずつでなくてもよく(左右の側壁22で各一カ所ずつでなくてもよく)、例えば図11に示すように、片側二カ所ずつでもよい。因みに、この図11の実施例は、分割手段71としての送風機73が風量を大きく設定し難いため、液面残留フィルムF′をコンベヤ61の外側まで押しやる能力がない場合に、コンベヤ61の内側にも補助的なオーバーフロー槽75a(排出手段72)を設けるようにした実施例である。ただ、この場合、補助オーバーフロー槽75aは、幾らか転写槽2の中央(被転写体Wの搬送経路上)に張り出し状に設けることになるため、該オーバーフロー槽75aが被転写体Wの搬送を妨げないように考慮する必要がある。また、このように液面残留フィルムF′を二分割しても、その後の回収は四カ所(片側二カ所)で行うこともあり得、必ずしも分割手段71による液面残留フィルムF′の分割数と、回収個所数とが一致するとは限らない。
また、液面残留フィルム回収機構7(排出手段72)としては、必ずしもオーバーフロー構造に限定されるものではなく、他の回収手法も採り得るものであり、例えば液面付近の転写液Lを、分断した液面残留フィルムF′とともに吸い込むバキューム手法が挙げられる。すなわち、この場合には、排出手段72として吸い込みノズルが適用される。
【0079】
また、本実施例では、液面残留フィルム回収機構7の後段に、出液エリア浄化機構8を更に具えるものであり、以下この機構について説明する。出液エリア浄化機構8は、出液エリアP2における主に装飾不要面S2側(意匠面S1の裏側)の転写液中・液面上の夾雑物や泡Aを除去する機構であり、回収対象物を具体的に例示すると、例えば被転写体Wが転写フィルムFを突き破るように没入するために発生するフィルムカス(水溶性フィルムとインクが混ざり合った紐屑状等の比較的細かいもの)、没入時に治具Jや被転写体Wに付着して一旦液面下に潜ったのち液中において放出された余剰フィルム、被転写体W(治具J)の出液時に被転写体Wの装飾不要面S2側の液面上に多量に発生する泡Aやフィルムカスなどが挙げられる。
そして、当該機構により、被転写体Wがまだ転写液L中に存在する間に、これらの夾雑物や泡Aを出液エリアP2から連続的に遠ざけ、出液エリアP2の浄化を図ると同時に、被転写体Wの意匠面S1側への回り込みまでをできる限り防止するものである。
【0080】
出液エリア浄化機構8は、一例として図1・2・4に示すように、排出手段81としてのオーバーフロー槽82が出液エリアP2の左右両側に設けられ、側面視状態では、オーバーフロー槽82が出液エリアP2と重なるように設けられる。より詳細には、転写槽2における出液エリアP2の左右両側壁22の内側に、排出手段81(オーバーフロー槽82)を設け、出液エリアP2からオーバーフロー槽82に向かう液流(これをサイド離反流とする)を主に液面付近で生じさせ、このサイド離反流に乗せてフィルムカス等の夾雑物や泡Aをオーバーフロー槽82で回収し、槽外に排出するものである。このため平面から視た状態では、図1・2に示すように、液面残留フィルム回収用のオーバーフロー槽75と、出液エリア浄化用のオーバーフロー槽82とが前後に連なって設けられるものである。ここでオーバーフロー槽82において、フィルムカス等の夾雑物を転写液Lとともに導入する回収口を排出口83とする。
【0081】
また出液エリア浄化用のオーバーフロー槽82には、一例として図4に示すように、排出口83に回収液案内用のツバが形成されるものであり、特に本実施例においては、排出口83から処理槽21側への張り出し長が比較的長めに形成され、これはオーバーフロー槽82に導く転写液Lの流速を速めるための構造である(このため該ツバを流速増強用ツバ84とする)。
なお、オーバーフロー槽82で回収した転写液Lは、比較的、夾雑物の混入割合が低いため、沈殿槽やフィルタリング等により夾雑物を除去した後、循環使用に供することが好ましい(図2参照)。
【0082】
また、出液エリア浄化機構8は、上述したように出液エリアP2の液面上(装飾不要面S2側)の夾雑物や泡Aを回収するものでもあるため、より確実に回収すべく、出液エリアP2液面上に送風して、より積極的に夾雑物や泡Aをオーバーフロー槽82(流速増強用ツバ84)に押しやることが好ましい。すなわち、本実施例では例えば図1・2・4に示すように、転写槽2の一方の側壁22上(オーバーフロー槽82の上方)に送風機85を設けるものであり、ここからの送風により出液エリアP2の液面上(装飾不要面S2側)に多量に発生する泡Aやフィルムカス等の夾雑物を、設置個所とは反対側のオーバーフロー槽82に送り込み回収するものである。
このように出液エリアP2は、液面上では送風機85によって泡Aや夾雑物が連続的に除去され、且つ液中の夾雑物も併せてオーバーフロー槽82によって回収されるため、これらの相乗効果により、高クリーン化が図られると同時に、被転写体Wの意匠面S1側への夾雑物の回り込みまでも防止できるものである。
【0083】
更に、上記のように出液エリアP2液面上に作用する送風機85を設けることで、液面残留フィルムF′を分断するための送風機73と勘案すると、本装置においては、トータルで複数基の送風機を設置することになる。しかしながら、種々の転写条件、例えば被転写体Wの形状や被転写体搬送装置5の態様等によっては、液面残留フィルムF′を分断した送風で、引き続き出液エリアP2液面上の泡Aや夾雑物をオーバーフロー槽82に送り得ることも考えられ、その場合には、フィルム分断用の送風機73を出液エリア浄化用の送風機85として兼用でき、更にはこれらをまとめて一基の送風機で行うことも可能である。
なお、出液エリア浄化機構8の排出手段81としては、必ずしも上記オーバーフロー構造だけでなく、他の排出手法も採り得るものであり、例えば夾雑物が混入した転写液Lを主に液面付近で吸い込むバキューム手法が挙げられる。すなわち、この場合には、排出手段81として吸い込みノズルが適用される。
【0084】
次に、意匠面浄化機構9について説明するが、その前に出液エリアP2の意匠面S1側に生じる泡Aについて説明する。出液エリアP2では被転写体W(治具J)が液面から次々に斜め上方に引き上げられて行くため、出液中の被転写体Wの上方には、既に液面上方に引き上げられた被転写体Wや治具Jが位置するものである(これを先行して引き上げられた被転写体Wや治具Jとする)。その際、例えば先行して引き上げられた被転写体Wや治具Jから転写液Lが雫となって転写槽2の液面に滴り落ちることがあり、落下した雫は例えば液面上で跳ねて泡Aとなり、これが出液中の被転写体Wの意匠面S1に付着することがある。その後、この状態のまま被転写体Wに紫外線等を照射すると、上記図22(c)で示したように、泡Aの応力や紫外線の屈折等が原因で、泡Aの付着した部分は転写パターン(装飾層)の柄歪み不良や、柄が抜け落ちてしまう不良となる(いわゆるピンホール)。従って、本発明では、出液エリアP2において転写液L中から浮上する被転写体Wの意匠面S1の浄化と(主に後述する新水による作用)、意匠面S1側の液面上に生じる泡Aの除去、また転写液中・液面上の夾雑物の排除等を目的として意匠面浄化機構9を具えるものである。
【0085】
以下、意匠面浄化機構9について更に説明する。意匠面浄化機構9は、出液中の被転写体Wの意匠面S1から下流に向かう液流を形成するものであり(意匠面S1から離れる流れであるため、これを意匠面離反流とする)、その目的は、上述したように転写液L中に分散・滞留する夾雑物を極力、意匠面S1に寄せ付けない(付着させない)ことであり、また先行して引き上げられた被転写体Wから落下した雫によって生じた液面上の泡Aや夾雑物を、意匠面S1から遠ざけ槽外に排出すること等である。このため、意匠面離反流は、夾雑物を含まない綺麗な水、あるいは回収液から夾雑物を除去した浄化水(これらを総称して新水とする)を適用して形成することが好ましい。
【0086】
このようなことから意匠面浄化機構9は、例えば図12(a)に示すように、離反流形成手段91としてのオーバーフロー槽92を、出液エリアP2において出液してくる被転写体Wの意匠面S1側に具えて成るものである。より詳細には、本実施例では、被転写体Wが出液エリアP2において意匠面S1を下方に向けた傾斜状態で浮上してくるため、被転写体Wの意匠面S1に臨むように(対向するように)オーバーフロー槽92を設け、出液中の被転写体W(意匠面S1)の下側から上側に向かう意匠面離反流を形成するものである。ここでオーバーフロー槽92において、主に新水を転写液Lとともに導入する回収口を排出口93とする。
なお、意匠面離反流は、上述したように新水供給によって形成することが好ましいため、例えば図2では、意匠面離反流形成用のオーバーフロー槽92の下方から出液エリアP2に対し上向きに新水(浄化水)の一部を供給するようにしている。また、オーバーフロー槽92の下方から出液エリアP2に対し上向きに供給された新水の一部は、上述した出液エリア浄化機構8のサイド離反流にも利用され得るものである。
【0087】
ここで、意匠面浄化機構9がないと、意匠面S1に夾雑物が付着し易いことについて説明する。通常、転写液Lから引き上げられる被転写体Wは、少なからず上流から下流へと向かう転写液Lの液れをせき止めるような状態で浮上してくるものである。この際、せき止められた転写液Lは、被転写体Wの下側または側方を回り込むようにして流れ、これが下流側を向いた意匠面S1に向かう流れ(回り込む流れ)となる。
また、被転写体Wを液中から引き上げるとき、被転写体Wの引き上げ速度と留まっている液面との速度差により、被転写体Wの液面近傍から被転写体Wに向かって流れる力が働くことになる。
このようなことから、出液中の被転写体Wに対しては、自ずと意匠面S1に回り込む流れ(意匠面S1に向かう流れ)が形成されるものであり、従って、そのままでは転写液L中に分散・滞留する夾雑物が意匠面S1に寄せ付けられて付着することがある。このため、本発明では意匠面浄化機構9による意匠面離反流によって、意匠面S1に向かう転写液Lの流れを打ち消す、もしくは極力抑えるようにしたものである。
【0088】
また、意匠面離反流形成用のオーバーフロー槽92においても、一例として図4、図12(b)に示すように、排出口93に流速増強用ツバ94が形成されるものであり、これはオーバーフロー槽92に導入する転写液Lの流速を速めるためである。
なお、意匠面浄化機構9における離反流形成手段91としては、必ずしも上記オーバーフロー構造だけでなく、他の排出手法も採り得るものであり、例えば図12(c)に示すように、夾雑物を含む転写液Lと新水を主に液面付近で吸い込むバキューム手法が挙げられる。すなわち、この場合には、離反流形成手段91として吸い込みノズル95が適用されるものである。
【0089】
また、出液開始から出液終了までにわたって被転写体Wの意匠面S1に、確実に且つ均一に意匠面離反流を作用させるには、出液動作中、離反流形成手段91としてのオーバーフロー槽92(排出口93)と、被転写体W(意匠面S1)との距離をほぼ一定に維持することが好ましい(一例として10〜200mm程度)。しかしながら、例えば図13に示すように、被転写体W(意匠面S1)の湾曲状態や凹凸度合い等によっては、被転写体Wを一定の傾斜姿勢・出液角度で引き上げても、意匠面S1がオーバーフロー槽92(排出口93)から徐々に遠ざかってしまうことが考えられる(図中のD1が出液初期の両者の距離であり、D2が出液終期の両者の距離)。このため、オーバーフロー槽92は、転写槽2の長手方向(液流方向)に対して移動できるように、つまり出液中の被転写体Wに対して接近・離反自在の構成が好ましい。もちろん、オーバーフロー槽92における転写液Lの排出力(回収力)、端的には意匠面離反流の強さが適宜変更できるものであれば、出液中に被転写体Wが相対的に遠ざかってしまっても、転写液Lの回収力を高めることで同様の効果が達成され得る。因みに回収力を増加させる他の手法としては、オーバーフロー槽92を下げることでも可能である。
【0090】
また本実施例では意匠面離反流形成用のオーバーフロー槽92の後段(下流側)に、更にオーバーフロー槽を設けるものであり、これを便宜上、末端オーバーフロー槽97とする(図1〜図4参照)。この末端オーバーフロー槽97は、フィルムカスを含む転写液Lを回収することで、液面レベルをほぼ一定に維持するとともに、転写液Lの循環使用に寄与するものであり、従来の転写槽に多く設けられているものである。また、このようにオーバーフロー槽を2段並列状に設ける構造を「2段OF構造」とするものであり(「OF」はオーバーフローを示す)、各オーバーフロー槽92・97を簡略的に示す(区別する)場合には、意匠面離反流形成用のオーバーフロー槽92を「1段目OF槽」、末端オーバーフロー槽97を「2段目OF槽」とする。
以下、2段OF構造の作用効果(転写液中の液流)について説明する。
【0091】
2段OF構造によって、転写槽2内の液流は概ね以下のように制御され得る。まず転写槽2内の液流を、例えば図3に示すように、液中の深さ(高さ)によって次の3種に区分した。
上層付近(上層流):図中の破線
中層付近(中層流):図中の実線
下層付近(下層流):図中の一点鎖線
【0092】
ここで、中層流とは、1段目OF槽92とほぼ同じ高さを流れ、該OF槽92が液流に対し邪魔板(立ち壁)のように作用して液流抵抗となり、主に、当該OF槽92の下方をくぐり抜けて行く流れを想定したものである。一方、このような中層流に対し、その上下には、液流抵抗になるものがない(もしくは1段目OF槽92の抵抗の影響が極めて少ない)と考え、従ってこれら上層流及び下層流は、液流に沿ってほぼ水平に流れると想定したものである。
もちろん、ここでの「層」とは、転写液中の深さ(高さ)を区別するために便宜的に使用した文言であり、中層(中層流)に代表されるように、実際の流れが全体的に層を成すものではない(層状態で平行に流れるものではない)。
【0093】
このような観点から転写液中の流れを整理すると以下のようになると考えられる(図3参照)。
まず、1段目OF槽92の手前まで(1段目OF槽92が液流抵抗となるまで)は、上層流、中層流、下層流とも、同じ水平方向にほぼ同速度で流れる。
そして1段目OF槽92付近で(直前で)、上述したように液面付近の上層流のみが意匠面離反流形成用の1段目OF槽92に回収される。この際、該OF槽92には流速増強用ツバ94があるため、該OF槽92に回収される上層流は、水平方向に加速される。
また、中層流は、1段目OF槽92が液流抵抗となるため、これをくぐり抜けるように、主に1段目OF槽92の下方にもぐり込む液流(これを下向き流れとする)となる。この下向き流れは、1段目OF槽92が液流抵抗となるため、低速化すると考えられる。このようにして1段目OF槽92の下方にもぐり込んだ中層流は、該OF槽92をくぐり抜けた後、今度は上に向かう流れとなる(これを上向き流れとする)。この上向き流れは、液流抵抗が開放された後であるため低速化すると考えられる。また、この中層流の上向き流れは、下層流を、上向きに引き上げるように作用すると考えられる。その後、中層流・下層流の上向き流れは、2段目OF槽97に回収されるが、この回収は転写槽2の末端の壁面全体で回収することも可能である。
【0094】
ここで中層流が1段目OF槽92の下方にもぐり込む流れ(図中符号Z1)の作用効果について説明する。
被転写体Wを転写液Lから引き上げる際には、上述したように、そのままでは下流側を向いた意匠面S1に、夾雑物を含む転写液Lが回り込むように流れるものであるが、このような衝突流(回り込み流)は上層付近だけでなく、被転写体Wが液流をせき止めるように作用する中層流付近でも発生すると考えられる。しかしながら、本実施例では、中層流が1段目OF槽92の下方にもぐり込むように下向きに流れるため、これが中層付近に形成される衝突流を打ち消すように作用し、中層流自体の意匠面S1への寄りつきを防ぎ、ひいては中層流中に含まれる夾雑物の意匠面S1への付着を防止するものである。
【0095】
また、本実施例では、中層流と下層流との間に境界が形成(想定)されるため(特に1段目OF槽92の下方であり図中符号Z2)、この作用効果について説明する。
中層流が1段目OF槽92の抵抗により低速化し下向き流れを形成するなか、下層流は、速度・方向を維持した状態でそのまま下流に流れる(安定した液流状態を保つ)と考えられる。このため中層流中の夾雑物は、下層流の上面で落下・沈降が抑制される(これを下層流の安定した液流によるカーテン効果とする)。加えて、1段目OF槽92の下方では、該OF槽92と転写槽2底部との間隔(転写槽2の深さ)が最も狭くなるため、中層流は高速化する。これらにより、中層流中に含まれる夾雑物は、下層流との境界部分で、転写槽底部への落下・滞留が抑制されるものである(転写付近への夾雑物の沈降防止として機能する)。
【0096】
次に、中層流が上向き流れとなる部位(図中符号Z3)の作用効果について説明する。 中層流は、1段目OF槽92の下方をくぐり抜けると、液流抵抗がなくなり上側開放となるため、低速化し上向き流れが促進される。また、これに伴い下層流が低速化するものであり、これにより夾雑物への粉砕影響に起因し易い撹拌現象が抑えられ、中層流と下層流との境界付近の夾雑物を破壊分散させないように作用する。従って転写槽2の中層・下層付近では、夾雑物の回収が促進され、ますます夾雑物が転写槽2の底部に沈殿しにくいものとなる。
【0097】
また本実施例では、2段目OF槽97の下方(転写槽2の隅角部)に傾斜板23を設けるものであり、以下この作用効果について説明する。
傾斜板23は、下層流を末端部分で上向きに流す作用を担うものであるが、中層流が1段目OF槽92の下方をくぐり抜けた後、上向き流れとなって夾雑物を上方に移送する際に、これに併せて下層流を上向きに流すことで、上向き流れとなった中層流の後段(下流側)が粗にならないように補助することが主な役割である。これにより中層流・下層流に含まれる夾雑物がより能率的に回収できるものである。
因みに、従来もこのような傾斜板は存在し得るが、それは液収容量を低減させるための転写槽末端のテーパ処理が主な目的であった。もちろん、従来の転写槽においても、このような転写槽末端の傾斜板によって転写液L(下層流)を上側に誘導(案内)する現象が多少生じたとしても、従来は1段目OF槽92が存在しないため、該OF槽92による中層流の回り込み(もぐり込みからの上向き流れ)がなく、当然この流れによる下層流の引き上げも生じない。加えて、1段目OF槽92がないために、中層流の流れは水平方向となり、いくら傾斜板による転写液の上昇が期待できるとはいっても、中層流の水平流れが下層流の上昇を妨げるように働き、結果的に中層流のみが引き上げられ、本実施例と同程度の下層流中の夾雑物の引き上げは望めないものであった。
【0098】
なお、転写槽2内に収容する転写液Lは、コスト、処理効率、環境面で可能な限り少量とする必要性が高まっている(廃棄する夾雑物分離負担、循環させる液濾過負担の両面で)。
また液圧転写は液圧を利用した転写手法であることから、転写槽2は、被転写体Wを転写液L中に完全に没入(埋没)させるだけの深さ(MAX深さ)が必要になるが、この深さは、転写槽2の全体(全長)にわたって必須のものではなく、例えば没入エリアP1から出液エリアP2までの転写必要区間で確保できればよいものである。逆に言えば、フィルム供給端などの転写不要区間では、この深さを必ずしも確保する必要はなく、上記のように転写槽2内の容量を低減させる観点から、本実施例では、転写不要区間で転写槽2の深さを浅く形成したものである。具体的には、例えば図2・3に示すように、転写槽2のフィルム供給側(上流側)を適宜の長さにわたって浅く形成しておき、これに続く中流域部分で槽底部を傾斜状に形成し、徐々に深さを増して行くように形成し、転写槽2全体を側面から視た際には下窄まりの略台形状となるように形成している。ここで図中符号24は、転写槽2の中流域部分で傾斜状態に形成された傾斜部である。なお、本実施例の場合、液面残留フィルムF′を回収することから、没入エリアP1から出液エリアP2までの間を適宜の長さを有するように形成しており、この区間が転写必要区間となるが、転写必要区間とは必ずしも明確な区間(適宜の距離を有した区間)になるとは限らず、例えば没入エリアP1と出液エリアP2がほぼ一致するような転写液体では、没入エリアP1のみが転写必要区間となる。
【0099】
以上述べたように1段目OF槽92は、中層流がここをくぐり抜けることで、上向き流れを形成し、且つこの上向き流れが下層流の引き上げや、夾雑物の沈降防止・回収(2段目OF槽97への移送)等に寄与する。このため、例えば図3(b)に示すように、1段目OF槽92を液流方向(転写槽2の長手方向)に伸縮自在の構成とすれば、これら中層流の上向き流れや下層流の引き上げ等を適宜制御することができるものである。
【0100】
また、中層流の回収にあたっては、例えば図3(c)に示すように、1段目OF槽92の裏側から回収することが可能である。ここで図3(c)では、1段目OF槽92の直後段に連続状態で、別のオーバーフロー槽(これを便宜上、裏側OF槽98とする)を設けるものであり、また2段目OF槽97も設けている。
このような構造を採ることにより、例えば本図に併せて示すように、上層流は1段目OF槽92で回収し、中層流は裏側OF槽98で回収し、下層流は2段目OF槽97で回収することができるものである。つまり、図3(c)では、各層流を別々のOF槽で回収するものであり、例えば下層流のカーテン効果により中層流(下面)に多く滞留すると考えられる夾雑物を裏側OF槽98で回収することによって、2段目OF槽97で回収する転写液L(下層流)は、比較的クリーンな状態で回収でき、回収した下層流を循環使用する場合に、そのクリーニング負荷(フィルタリング負担)を低減させ得るという効果を奏する(換言すれば、回収した転写液Lの夾雑物の混入割合に応じてフィルタリング負荷が設定できるものである)。
なお、図3(c)では、2段目OF槽97を設けたが、中層流を1段目OF槽92の裏側から回収することを重視した場合には、2段目OF槽97は必ずしも設置する必要はないものである。
【0101】
次に、サイド離反流形成用のオーバーフロー槽82、意匠面離反流形成用のオーバーフロー槽92、末端オーバーフロー槽97で回収した転写液Lの浄化手法について説明する。これらのオーバーフロー槽82・92・97で回収された転写液Lは、例えば図2に示すように、水位調整槽を経て浄化装置に送られ、ここで夾雑物が除去された後、温調槽を経て新水(浄化水)として再利用されるものである。もちろん浄化装置で捕捉された夾雑物は廃棄される。
なおオーバーフロー槽82で回収した転写液L(夾雑物を含む)を水位調整槽に送る管路の途中や、水位調整槽の底部には、ここに溜まる夾雑物(スラッジ)を排出する廃棄管が接続されるものである。また液面残留フィルム回収機構7としてのオーバーフロー槽75は、上述したように夾雑物の混入割合が高いため、そのまま廃棄されるのが一般的である。
因みに水位調整槽や浄化装置(沈殿槽)等で転写液中から夾雑物を取り除くには、板(堰板)等によって調整槽や沈殿槽内の液体を一旦せきとめるように貯留し、貯留水の比較的綺麗な上澄みを後段に送るようにすることで浄化を図ることができるものである。
【0102】
また、上記のようにして浄化された新水は、例えば図2に示すようにフィルム供給側(上流側)の案内コンベヤ33の下方や、転写槽2の中流域部分の傾斜部24から供給される他、例えば意匠面離反流形成用のオーバーフロー槽92の下方から出液エリアP2に向けて上向き及び下向きに供給される。ここで「出液エリアP2に向けて上向き」とは、意匠面離反流やサイド離反流を形成するための新水供給であり、「出液エリアP2に向けて下向き」とは、図3において夾雑物を2段目OF槽97に送るための上向き流れ(下層流)を補助する作用を担うものである。
また転写槽2に新水を供給する際の吐出口、具体的には転写槽中流域部分の傾斜部24や、オーバーフロー槽92の下方には、パンチングメタル等を設け、供給される新水が比較的広い範囲から均一に吐出されることが好ましい(部分的に新水が直進することの防止)。
【0103】
なお、液圧転写では上述したように、様々な種類や状態の転写フィルムF(転写パターン)や活性剤を適用し、また種々異なる大きさの被転写体Wを処理することから、没入エリアP1については例えば800mmほど前後させることがあり、このため出液エリアP2も、これに準じて800mm〜1200mmほど前後させることがある。このため、没入エリアP1、フィルム保持機構6の終端プーリ62B、液面残留フィルム回収機構7の分割手段71(送風機73・73a)やオーバーフロー槽75、出液エリア浄化機構8のオーバーフロー槽82や送風機85、更には意匠面浄化機構9のオーバーフロー槽92(離反流形成手段91)等は、互いに密接な位置関係にある。従って、没入エリアP1の移動に伴い、上記各構成部材も同時に、あるいは独立して移動させることが好ましく、このため本実施例では、例えば図2に示すように、フィルム保持機構6の終端プーリ62B、送風機73・73a・85、オーバーフロー槽75・82を、転写槽2の長手方向に(前後方向に)移動可能な架台29に搭載し、またオーバーフロー槽92を独立して前後に移動可能な架台30に搭載する構成とし、これらを没入エリアP1と出液エリアP2の移動に応じて、適宜移動できるようにしている。
因みに、各架台29・30の移動方法は、手動あるいはリニアモータ等を用いて自動制御することが可能である(実際には被転写体Wの引き上げプログラム等に合わせ、架台29・30の位置を自動的に動かすプログラムが現実的である)。
【0104】
また、本実施例では、転写槽2に転写フィルムFを供給するにあたり、転写フィルムFの伸展低下を抑える伸展低下防止機構10を具えるものであり、以下この機構について説明する。伸展低下防止機構10は、着液に伴いフィルム表面から転写液L面上に遊離・滲出する活性剤成分Kが液面上で滞留し、膜を張って転写フィルムFの伸展を阻害することを防止するものであり、これにより転写液L面上に供給された転写フィルムFの両サイドを、転写槽2の側壁22近傍に設けられたコンベヤ61(ベルト63)に確実に付着させるものである。なお、以下の説明にあたっては、着液した転写フィルムFから流出する活性剤成分Kによって転写フィルムFの伸展が阻害される理由(経緯)からまず説明する。
【0105】
転写にあたり、転写フィルムFには、転写パターンを活性化するために活性剤が塗布されるが、フィルムに塗布された活性剤の一部は、着液(転写液Lとの接触)によって転写フィルムFの表面から離れ(遊離し)、転写液L面上に流出(滲出)して行くものである(これを本明細書では主に活性剤成分Kと称している)。この活性剤成分Kの液面上への流出は、必ずしも転写フィルムFの供給方向(液流方向)に限定されるものではなく種々の方向に流出し得るが、液流が生じていることやフィルム供給が行われていること等からフィルム供給方向への流出(先行)が比較的大きいと考えられる。また、このようなことから、液圧転写を繰り返し行っていると、活性剤成分Kは、転写液L面上でわずかずつ増えて行き、例えば液流の弱い転写槽2の側壁22付近に滞留する。そして側壁22付近に滞留した活性剤成分Kは、液表面で高濃度化し、あたかも油分が水面上で膜(油膜)を張るような状態となり(これを便宜上、液膜とする)、これが転写フィルムFの伸展(広がり)を拒むように作用する。つまり、液圧転写を続けていると活性剤成分Kによって形成された液膜によりフィルムの伸展(広がり)が阻害されてしまうのである。
【0106】
また、転写液L面上に供給された転写フィルムFの伸展が阻害される要因は他にもあり、例えば転写槽2内の転写液Lは、環境保護や資源の有効利用(リサイクル)等の観点から、そのほとんどが循環使用される。このため転写液L面上に放出された活性剤成分K(液膜)は、単に液面上に溜まる(漂う)だけでなく、一部は転写液L中にも溶け込むものである。そのため、液圧転写を繰り返し行っていれば、次第に転写液L中の活性剤濃度も高まって行き、転写液Lの粘性が増すこととなり、これも転写フィルムFの伸展を阻害する要因となる。
更に、紫外線硬化型樹脂の活性剤は、屋内とはいえ、光でわずかながらも活性剤成分Kが硬化するため、転写液Lの粘度は、更に高められる傾向となる。また上述したように、転写液Lのほとんどが再使用され、廃棄液量を抑制しようとする社会環境にあるため、これが転写液Lの粘度をより一層高める要因となっている。ただし、液圧転写では、高いレベルで安定して転写を行うことが求められるため、必然的に波立ちを抑える等、転写液L面の安定化が図られ、これが活性剤(樹脂成分)の転写液L中への混入を防ぐように作用することも事実である。
【0107】
なお、転写液L面上の活性剤成分Kによって転写フィルムFの伸展が阻まれる現象は、表面保護機能も有する転写パターンを形成する液圧転写(トップコート不要の液圧転写)に用いられる活性剤で顕著であり、これは当該活性剤が、通常の溶剤系のものに比べて粘性が高く、そのために転写フィルムFの伸びを抑制する傾向が大きいと考えられる。
加えて、転写液L面上に供給された転写フィルムFは、一般に図23に示すように、転写液L面上で上側に位置する転写パターンと、下側に位置する水溶性フィルムとの伸び差により(水溶性フィルムの方が伸び率が高い)、次第に上にカールして行くものである。このため転写槽2に供給された転写フィルムFは、ますます側壁22付近に設けられたフィルム保持機構6と接触しにくくなるものであった。
このようなことから伸展低下防止機構10がない場合には、液圧転写を繰り返し行っていると、当初は着液後コンベヤ61まで伸展していた転写フィルムFが付着しなくなるものであり、そのため本実施例では当該機構によって、このような伸展低下を防止するものである。
【0108】
ここで本実施例では、伸展低下防止機構10としてブロー手法を採用するものであり、フィルム保持機構6(コンベヤ61)と転写フィルムFとの間の転写液L面上に液膜となって広がり、転写フィルムFの伸展を阻害する活性剤成分Kを送風によって除去するものである。すなわち、当該機構は、一例として図1に示すように、転写液Lの流れ(液流)が弱まり活性剤成分Kが停滞し易いと考えられる側壁22近傍、とりわけ送風機26の左右両側に送風し、当該部位に位置する(浮遊する)活性剤成分Kをフィルム保持機構6と側壁22との間に押しやる(送る)ことが好ましい。因みに、このフィルム保持機構6と側壁22との間は、ベルト63の上端縁が転写液L面より高い位置に設定されていること等から、実質的に転写位置に影響を及ぼさない、もしくは転写位置に与える影響が極めて少ない部位であり、このため本実施例では当該部位に活性剤成分Kを押しやるものである。なお、本実施例では上述したように、前記送風機26が転写フィルムFを周囲に延展させる作用を担うため、ここでは送風機26との作用を明確に区別すべく、当該機構を伸展低下防止機構10としたものである。
また、本実施例では、既に述べたようにフィルム保持機構6としてのコンベヤ61の外側に、転写槽2の両側壁22に沿ってオーバーフロー槽75を設けるため、ここで上記フィルム保持機構6と側壁22との間に送った活性剤成分Kを回収するものである。もちろん、この場合には、例えば図4に併せ示すように、オーバーフロー槽75の前縁側(上流側)にも活性剤成分Kを導入・回収する排出口76aが形成されるものである。
【0109】
更に、図1に示す実施例では、伸展低下防止機構10(除去手段101)として二基の圧縮空気吹き出しノズル102を適用するものである。より詳細には、転写槽2に供給された転写フィルムFは、本来、転写液Lを含んで膨潤・軟化し、徐々に四方に伸展して行くため、図1では、二基の圧縮空気吹出ノズル102から、転写フィルムFの広がりエッジに臨む液面に作用するように(当てるように)エアを吹き付けて、主にエッジ付近に浮遊する活性剤成分Kをここから除去し、転写フィルムFのエッジ付近での両サイド方向への伸展を図る(伸展低下の防止を図る)ものである。ここで上記圧縮空気吹出ノズル102としては、図示したように多関節ジョイントタイプのフレキシブルホースを具えることが好まく、これはノズルの位置や送風方向等の微調整が行い易いためである。
【0110】
因みに、活性剤成分Kを除去するための送風は、転写フィルムFに風を作用させる(当てる)のではなく、フィルムが存在しない転写液面のみに風を作用させることが好ましく、これは転写液面を安定的に保持し、転写フィルムFを極力波立ちのない状態で転写位置(没入エリアP1)まで移送するためである。また、その点では、例えば図1の拡大図に示すように、吐出口に向かって先窄まり状に形成されるノズルを用い、狙った液面(フィルムの広がりエッジに臨む液面など)にピンポイントでエアを作用させることが望ましい。一方、送風機73・85等については、吐出口が比較的幅広状のものを適用することが好ましい。
また、図1では、送風の際、転写フィルムFが着液によって伸展する上流側(前方側)の液面、より具体的にはフィルム保持機構6の作用開始端(始端プーリ62A)よりも上流側の液面にエアを作用させるように送風しており、これは転写フィルムFが伸展しようとする前に、その阻害要因となる活性剤成分Kを除去することで、転写フィルムFの伸展をより効果的に行わせるためである。このような送風により転写液面上に浮遊する活性剤成分Kは、フィルム保持機構6の作用開始端(始端プーリ62A)を迂回しながら、側壁22とフィルム保持機構6との間に送り込まれるものである。
【0111】
また、図1の実施例では二基の圧縮空気吹出ノズル102からの送風が、多少、転写液流に逆行するような送風形態であるが、二基の圧縮空気吹出ノズル102は、液面上の活性剤成分K(液膜)を側壁22に追いやる程度の小さい能力(送風力)を持てばよいため、圧縮空気吹出ノズル102による送風が転写液Lの液流そのものを阻害する心配はない。因みに、転写液流に対し逆行するような送風では、液流方向(下流方向)に対し90度〜120度程度が好ましいものである。
もちろん、圧縮空気吹出ノズル102による送風は、図2に併せ示すように転写液Lの液流に沿うような下流向きで行うことも可能である。ただし、この場合でも、転写液面上の活性剤成分Kを両側壁22に追いやるように送風することが好ましい。より詳細には、フィルム供給側の側壁22近傍に浮遊する液面上の活性剤成分Kを、フィルム保持機構6(コンベヤ61)の始端プーリ62Aの手前から、フィルム保持機構6(コンベヤ61)と側壁22との間に押しやるように送風することが好ましい。因みに、このような下流向きの送風形態では、液流方向(下流方向)に対し50度〜90度程度が好ましいものである。
以上述べたように、伸展低下防止機構10(除去手段101)としての送風は、転写フィルムFに直接、エアを作用させないことが好ましい点や、送風方向に幅がある点で、上記送風機26とは大きく相違するものである。逆に言えば、上記送風機26は、転写フィルムF表面に直接エアを作用させるものであり、なお且つ送風方向もフィルムの移送を考慮して、上流から下流へと向かう一方向に設定されるものである。
【0112】
次に、圧縮空気吹出ノズル102により伸展低下防止用の送風を行う際、その送風量の調整の目安について説明する。
本出願人は、伸展低下防止機構10の送風効果を確認すべく、以下のような試験を行った。この試験は、転写槽2に4000リットルの転写液L(水)を入れて循環させておき、従来の液圧転写フィルムに従来の活性剤を塗布しつつ連続運転を行い、転写フィルムがフィルム保持機構6に付着しなくなった(離れた)時点で終了とし、活性剤の使用量を確認するものである。ここで1回目(試行1)は、伸展低下防止用の送風を行わず、2回目(試行2)にだけ該送風を行った。その結果、試行1は約5時間後、約4kgの活性剤を使用した時点で、転写フィルムがフィルム保持機構6に付着しなくなった。また、試行2は、転写槽2の水を交換し、上述したように伸展低下防止機構10の送風を行ったこと以外は同じ条件で行ったが、試行2では、全く変化が見られず、転写フィルムが常に安定してフィルム保持機構6に到達し続けたため、10時間の連続運転を経過した段階(約8kgの活性剤を使用)で、確認(試験)を終了した。
【0113】
この試験から判断すると、試行1は伸展低下防止用の送風を行わなかったために、次第に転写フィルムFの伸展力が負けて伸展低下が生じ、フィルム保持機構6に付着しなくなったものと考えられる。また試行2は、常に伸展低下防止用の送風が行われたことにより、液面上の活性剤成分Kが除去され(液表面の濃度が低下し)、フィルム伸展力の方が強い関係が保たれて、常に転写フィルムFの伸展(フィルム保持機構6への到着)が維持できたと考えられる。
このようなことから、伸展低下防止用の送風を行う際には、送風量を調整する目安として、
(転写液中の活性剤濃度+転写液面上の活性剤濃度に伴う液膜や液粘度によるフィルム 伸展を阻害しようとする抵抗力)<フィルム伸展力
という関係が成り立つように送風すれば良いと結論付けられる。
ここで、転写フィルムFの伸展を阻害する要因(条件)として、液面上の活性剤濃度(割合)のみならず、転写液中の濃度も考慮に入れたのは、上述したように転写を繰り返し行うことで、転写液中に溶け込んだ活性剤の濃度が次第に高まって行くためである。その点では、新水供給によって転写液中の活性剤濃度を低下もしくは低い状態で維持することが可能であるため、新水供給によっても転写フィルムFの伸展低下防止を図ることが考えられる。因みに、本実施例では、この点も考慮して新水供給を併せて行ったものである。
【0114】
なお、伸展低下防止機構10における除去手段101としては、必ずしも送風で活性剤成分Kを側壁22に追いやるだけでなく、他の除去手法も採り得るものであり、例えば液面上の活性剤成分Kを転写液Lとともに吸い込むバキューム手法が挙げられる。すなわち、この場合には、除去手段101として吸い込みノズルが適用される。
また、本実施例では伸展低下防止機構10の圧縮空気吹出ノズル102を送風機26とともに設けたが、伸展低下防止機構10は、必ずしも送風機26とともに設ける必要はなく、伸展低下防止機構10による送風(活性剤成分Kの除去)や液流あるいはフィルム保持機構6による移送作用(保持作用)によって転写フィルムFの周囲への延展が行える場合には、液圧転写装置1の全体構成から送風機26を削除することが可能である。
【0115】
次に、転写フィルム供給装置3について説明する。転写フィルム供給装置3は、一例として図1に示すように、ロール巻きされた転写フィルムFから成るフィルムロール31と、このフィルムロール31から引き出された転写フィルムFを加熱するヒートローラ32と、転写フィルムFを転写槽2に供給するための案内コンベヤ33とを具えて成り、転写フィルムFはガイドローラ34によってこれらの部材間を経由しながら転写槽2に供給される。
ここで上記説明では、ロール巻きしたフィルムロール31から順次、転写フィルムFを転写槽2に繰り出すように説明したが、例えば最初から矩形状にカットされた転写フィルムFを一枚ごと転写槽2に供給し、この上方から被転写体Wを押し付ける、いわゆるバッチ式の液圧転写も可能であり、以下これについて説明する。
【0116】
バッチ式の液圧転写では、例えば図14に示すように、被転写体Wを適宜傾倒させることはあるものの、没入方向及び出液方向は鉛直方向(垂直方向)に設定されることが一般的である。すなわち転写槽2に対して被転写体Wを真上から没入させ、真っ直ぐ上に出液させるのが一般的である。ここで上記図14は、適宜の傾倒姿勢で没入させた被転写体Wを転写槽2から徐々に引き上げる様子を段階的に示した図である。そして、本図では出液に伴い、そのままでは被転写体W(意匠面S1)と、意匠面離反流形成用のオーバーフロー槽92との間隔が次第に大きくなってしまうため、出液に伴いオーバーフロー槽92を被転写体Wに徐々に接近させ、被転写体Wとオーバーフロー槽92との距離(図中のD)をほぼ一定に維持するようにしている(例えば100mm程度)。このように特にバッチ式の液圧転写においてはオーバーフロー槽92を移動させ、オーバーフロー槽92に対する被転写体Wの出液位置(つまり被転写体Wとオーバーフロー槽92との距離)を一定に保つことが望ましいものである。
【0117】
次に、活性剤塗布装置4について説明する。活性剤塗布装置4は、一例として転写フィルム供給装置3のヒートローラ32の後段に設けられ、転写フィルムFに所要の活性剤を塗布するロールコータ41を具えて成るものである。ここで図1に示す実施例では、転写フィルムFに活性剤を塗布してから、これを転写槽2に供給するものであるが、当該装置の構造等を変更して、転写槽2に供給・着液した状態の転写フィルムFに、上方から活性剤を塗布することも可能である。
【0118】
次に、被転写体搬送装置5について説明する。被転写体搬送装置5は、被転写体Wを適宜の姿勢で転写液L中に没入させ、また転写液L中から引き上げるものであり、通常は転写用治具(単に治具Jとする)を介して被転写体Wの取り付けを図るため、本実施例においても、被転写体搬送装置5は、搬送作用を担うコンベヤ51と治具ホルダ52とを具えて成るものである。すなわち、液圧転写を行うにあたっては、予め被転写体Wを治具Jに取り付けておき、この治具Jを治具ホルダ52に着脱してコンベヤ51へのセッティングを行うものである。以下、コンベヤ51について更に説明する。
コンベヤ51は、一例として図1に示すように、平行に配置された一対のリンクチェーン53にリンクバー54を横架するともに、このリンクバー54に所定の間隔で治具ホルダ52を配設して成り(図12(a)参照)、被転写体Wを治具Jとともに連続的に転写液L中に没入・出液させるものである。なお、没入側における被転写体W(治具J)のコンベヤ51への取り付けや、転写後の出液側における被転写体W(治具J)のコンベヤ51からの取り外しは、ロボットにより自動で行うことも可能であるし、作業者による手作業で行うことも可能である。また、コンベヤ51による被転写体Wの搬送速度(特に没入エリアP1における速度)は、転写フィルムFの液面上の移送速度(すなわち転写液Lの液流速度)とほぼ同調するように設定されるのが一般的である。
【0119】
コンベヤ51の具体的構成について説明すると、このものは一例として図1に示すように、側面から視て逆三角形の搬送軌道を描く通常の三角コンベヤ部55に対し(逆三角形の下方に位置する頂点部分を没入側ホイール56とする)、出液側ホイール57を追加した構造を採り、概ね没入側ホイール56から出液側ホイール57までの区間で被転写体Wを没入させ、且つ出液エリアP2を没入エリアP1とは異なる位置に設定したものである。より詳細には、平面から視た出液エリアP2が、没入エリアP1に対して明確に下流側に位置するように設定されるものである。
因みに、従来の三角コンベヤ部55のみによる搬送態様では、被転写体Wの没入が、下方の頂点部分(没入側ホイール56)のみで行われ、言わば短時間または瞬間的な没入であるのに対し、本実施例における被転写体Wの没入は直線的と言え、没入時間を長く確保したものと言える。
このようなことから、本実施例では、没入エリアP1から出液エリアP2までの距離が比較的長く確保でき、被転写体Wを没入させている間に液面残留フィルムF′を分断し、且つ両側壁22部分で回収するのに好適な搬送態様である。
更に、本実施例では、没入側ホイール56から出液側ホイール57までの区間は、液中における被転写体Wの移動軌跡をほぼ水平に設定するものである。またコンベヤ51は、このような構造上、従来の三角コンベヤ部55と直線コンベヤ58部とを出液側ホイール57によって接続した構成を採るものであり、以下これらの構成部材について説明する。
【0120】
三角コンベヤ部55は、従来と同様に、下方頂点に当たる没入側ホイール56を回動中心として全体的に傾倒自在に構成され、これにより被転写体Wの没入角が適宜変更できるように構成されている。因みに、ここでの没入角とは、被転写体Wが転写液Lの液面に向かって進行する角度であり、一例として15度〜35度程度での設定範囲を想定している。
また、直線コンベヤ部58も、下方のチェーンホイール59を中心として回動自在に構成され、いわゆるパンタグラフ状の構造を採るものである。これは(直線コンベヤ部58を回動自在としたのは)、三角コンベヤ部55の回動によって被転写体Wの没入角を変更しても、コンベヤ51全体の移送長(リンクチェーン53の全長)は変えられず、またコンベヤ51に掛けるテンションも維持する必要があるためである。言い換えれば、直線コンベヤ部58を回動させることで、このものの回動自由端側をいわゆるテンションプーリとして機能させたものである。
ここで図15(a)中の実線部分が、没入角が比較的小さい場合の搬送軌道であり(一例として15度程度の没入角)、図15(b)中の実線部分が、没入角が比較的大きい場合の搬送軌道である(一例として30度程度の没入角)。因みに、本実施例では、出液側ホイール57〜直線コンベヤ部58の回動中心側(チェーンホイール59)までの間が固定状態に設定されているため(定位置での回転のみ許容)、出液角は変更できないものである(固定設定されている)。
【0121】
なお、出液側ホイール57には、「ホイール」という名称を付したものの、必ずしもリンクチェーン53の走行とともに回転する部材である必要はなく、例えば上記図15に示したように、チェーンに当接しながら円滑にこれを案内するガイド部材であっても構わない(いわゆる滑り接触)。
また、出液側ホイール57の径寸法は、没入側ホイール56と同じ大きさか、これより大きいものが好ましく、これは出液側ホイール57が小さいと、被転写体Wが出液する際に出液側ホイール57の外側を回る周速度(回転速度)や角度変化が大きくなるためである(転写液Lに対する速度差が過大となる)。すなわち、本コンベヤ51にあっては、リンクバー54が取り付けられるリンクチェーン53部分での移送速度(チェーン走行速度)が一定に維持されるため、出液側ホイール57の径寸法(回転半径)が小さくなると当該ホイール外側を回る被転写体Wの周速度(回転速度)や角度変化が大きくなるものである。
【0122】
また、上記図1・15に示した実施例は、上述したように出液角は固定され、変更できないものであるが、出液角を可変とすることも可能である。すなわち、これは例えば図16に示すように、コンベヤ51(リンクチェーン53)を側面から視た状態で、搬送軌道が全体的に四角形状(特に台形状)になるように形成した場合である。ここで没入側ホイール56と出液側ホイール57とは固定状態に設定され(定位置での回転のみ可能)、残る二つのチェーンホイール59A、59Bが各々没入側ホイール56と出液側ホイール57とに対して回動自在に形成される。つまり、没入側ホイール56と出液側ホイール57とに連接される没入側及び出液側の直線コンベヤ部58A、58Bを没入側ホイール56及び出液側ホイール57を中心に回動自在に形成するものである。
もちろん本実施例においても、やはりコンベヤ51全体の移送長(リンクチェーン53の全長)は変えられないため、被転写体Wの没入角を変更させた場合には、テンションプーリーのように出液側の直線コンベヤ部58Bも振って、出液角を変更させるものである。従って、本実施例では、出液角が変更可能ではあるものの、これは没入角と関連する変更であり、何の制限もなく出液角を自由に変更できるものではない。因みに、図16中の実線部分が、没入角が大きく且つ出液角が小さい場合の搬送態様であり、図中の二点鎖線部分が、没入角が小さく且つ出液角が大きい場合の搬送態様である。また、具体的な角度としては、一例として没入角が15度〜35度程度で変更可能であり、出液角が75度〜90度程度で変更可能である。
【0123】
また上記図15・16等の実施例では、没入側ホイール56から出液側ホイール57までの間で、被転写体Wを液中においてほぼ水平に移送するものであったが、被転写体Wの搬送態様は、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば図17に示すように、被転写体Wを上記の区間で徐々に上昇させて行く移送形態も可能である。この場合、被転写体Wは、両ホイール間の移送中において適宜の傾斜角(出液角)を持って上昇移送される。このことから、被転写体Wの没入後、上記の区間で出液側ホイール57のみを徐々に上方に移動させて行けば、被転写体Wの出液角を徐々に増加させて行くことが可能となる。従って、上記図16において出液側ホイール57を昇降自在とすれば、より高い自由度で出液角を変更することができ、場合によっては没入角に何ら依存することなく変更し得るものである。
【0124】
また、コンベヤ51の搬送軌道としては、例えば図18に示すように、被転写体Wを出液側ホイール57以降、没入側に折り返し状に形成することも可能である(いわゆるオーバーハング状態)。ここで本図18では、出液後の被転写体Wをオーバーハング状に移送するように図示したが、転写槽2(転写液L)に対するコンベヤ51の配置等を変更すれば、被転写体Wを出液させる際にオーバーハング状態で引き上げること、つまり意匠面S1を上方に向けた裏返し状態で被転写体Wを液中から引き上げることも可能である。
【0125】
なお、上述したコンベヤ51は、没入エリアP1と出液エリアP2との間で、ある程度の時間・距離を確保することが目的であるため、従来の三角コンベヤ部55のみでコンベヤ51を構成することも可能である。ただ、この場合には、図15中に示す治具脚JLを幾らか長めに設定して、被転写体Wを比較的液中深くに沈み込ませ、没入エリアP1から出液エリアP2までの距離を長めに確保することが好ましい。もちろん単に治具脚JLを長くするだけでは、没入側ホイール56(三角コンベヤの下方頂点部分)の外側を回る被転写体Wの周速度や角度変化が大きくなるため、これを考慮して全体の移送態様等を決定する必要がある。
【0126】
また被転写体搬送装置5は、必ずしも上述したコンベヤ51に限定されるものではなく、例えば図19に示すようなロボット110を適用することも可能である(多関節形ロボットであり、いわゆるマニピュレータ)。この場合も、転写槽2は、上述した形態を踏襲するものであり、被転写体Wを没入させている間に液面残留フィルムF′を分断し、転写槽2から排出することが好ましい。また意匠面浄化機構9はもちろん、出液エリア浄化機構8や伸展低下防止機構10等も具えることにより、転写液Lや出液エリアP2の清浄化を高いレベルで図ることが望ましい。
なお、図19中、破線部を指す符号111は、被転写体Wを転写液L中に没入させるための転写ロボットのハンドであり、一般には被転写体Wを保持した治具Jを把持するものである。また図中、二点鎖線部を指す符号112は、転写後の被転写体Wを液中から引き上げ、UV照射工程用のコンベヤCに乗せるための移載ロボットのハンドであり、ここでも被転写体Wを保持した治具Jを把持するのが一般的である。
【0127】
また、このようなロボット110を適用した液圧転写(ロボット転写)の場合、上述したコンベヤ51よりも被転写体Wの姿勢を自由に変更できるため、没入角や出液角あるいは液中における姿勢や位置も、より多彩に且つ自由に設定できるものである。また、被転写体Wの没入速度、液中での移動速度、出液速度も自由に設定できる。また転写槽2の左右に複数のロボット110を配置して交互に転写から引き上げまでを行うこともできる。
【0128】
具体的にはロボット転写では、被転写体Wを出液させるにあたり、意匠面離反流形成用のオーバーフロー槽92を固定(不動)状態に設定しておくものであり(予め固定状態に取り付けておくことも可)、このオーバーフロー槽92に対し、出液地点が例えば100mm以下の距離で常に一定となるように引き上げることが好ましい。これは主に、被転写体Wの意匠面S1に泡Aや夾雑物が付着すること(これをカス不良とする)を防止するための引き上げ手法である。すなわちオーバーフロー槽92を意匠面S1から近接位置でほぼ一定に保つことにより、出液中の意匠面S1に、常に同じ離反力を具えた流れ(意匠面離反流)を作用させるものであり、これにより液面上の泡Aや転写液中・液面上の夾雑物を意匠面S1から排除し、また意匠面S1そのものの浄化も図るものである。
【0129】
また、表面保護機能を有した液圧転写においては、このようなカス不良に加え、以下のようなタダレ不良も生じ易いものである(表面保護機能を有しない従来の液圧転写と比べて)。
ここでタダレ不良について説明する。転写液中から出液直後の被転写体Wにあっては、意匠面S1に付着したインクが、当然、未硬化・未乾燥の状態であるため、まだ流動し易い状態にある。このため転写液中で被転写体Wの移送速度、液面の波立ち、出液直後の被転写体Wの振動等によって意匠面S1に負荷が掛かった場合には、意匠面S1に付着したばかりのインクが流動することによって意匠面がただれたようになる不具合が起き易く、これがタダレ不良である。なお、タダレ不良の代表例としては、例えば液面に対し意匠面S1を平行にしたまま被転写体Wを転写液中から引き上げた場合に起こる現象が挙げられる。
このようなタダレ不良を防止するには、被転写体Wを転写液中から引き上げる際に、液面を出来るだけ波立たせることなく、意匠面S1形状に沿って引き上げることが理想的である。また引き上げ速度に関しては、高速となるほどタダレ不良のリスクが大きくなるため、例えば2m/分を上限とすること(好ましいこと)が本出願人によって確認されている。
【0130】
また引き上げ角度(出液角)に関しては、下側に向けた意匠面S1を、液面に対し25度〜55度までに傾斜させることが好ましく、特に意匠面S1を液面から常に34度に維持・設定しながら、意匠面S1に沿わせて液面から引き上げるのが理想的であることが本出願人によって確認されている。
以上の点から、ロボット転写の場合、カス不良及びタダレ不良を極力生じさせない理想的な引き上げ方は以下のようにまとめられる。
引き上げ速度は2m/分を上限とし、被転写体W(意匠面S1)の角度を液面に対し常に34度となるように調整しながら、意匠面離反流形成用のオーバーフロー槽92から100mm以下の一定距離・速度で引き上げるものである。
【0131】
意匠面浄化機構9を具えた液圧転写装置1は、以上のように構成されるものであり、以下、本液圧転写装置1による転写態様について説明しながら、液圧転写方法について説明する。
(1)転写フィルムの供給
液圧転写を行うにあたっては、まず転写液Lを貯留した転写槽2に転写フィルムFを供給する。ここでは上述したように、液圧転写の際に表面保護機能も有する転写パターンを形成することが好ましいため(転写後のトップコートが不要となる)、転写フィルムFとしても水溶性フィルムの上に転写インクによる転写パターンのみが形成されたものを使用するか、あるいは水溶性フィルムと転写パターンとの間に硬化性樹脂層が形成されたものを使用するものであり、とりわけ水溶性フィルム上に転写パターンのみが形成された転写フィルムFを使用する場合には、活性剤として液体状の硬化樹脂組成物を適用することが好ましい。
【0132】
また、本実施例では、転写槽2に転写フィルムFを供給するにあたり、フィルム保持機構6(コンベヤ61)と転写フィルムFとの間の転写液L面上で液膜状となり、転写フィルムFの伸展を低下させる活性剤成分Kを除去するものである。これには例えば図1に示すように、圧縮空気吹出ノズル102によって、転写フィルムFの広がりエッジに臨む液面に送風して、ここに溜まる(浮遊する)活性剤成分Kを、フィルム保持機構6の作用開始端(始端プーリ62A)を回り込ませながら、フィルム保持機構6と側壁22との間に追いやるものである。これにより転写フィルムFの広がりエッジに臨む液面では、常時、活性剤成分Kが除去されるため、転写フィルムFの両サイド部分(両側縁部分)がフィルム保持機構6としてのコンベヤ61に確実に到達し続け、ほぼ一定の伸び率を保った状態で没入エリアP1(転写位置)まで移送されるものである。
なお、フィルム保持機構6と側壁22との間に追いやった活性剤成分Kは、その後、オーバーフロー槽75(排出口76a)に導入して回収することが好ましく、これは活性剤成分Kを転写槽2から連続的に回収(排出)し、転写フィルムFの伸展ひいては精緻な液圧転写を連続して行うためである。
【0133】
(2)被転写体の没入
このようにして転写フィルムFが転写液L面上で転写可能な状態となった後、例えばコンベヤ51に保持された被転写体Wが、順次適宜の姿勢で(没入角で)転写液Lに投入される。もちろん、この没入角は被転写体W(意匠面S1)の形状や凹凸などによって適宜変更可能である。
ここで、本実施例では、没入エリアP1が、その後に液中から引き上げられる出液エリアP2とは幾らか離れており、被転写体Wを転写液L中に没入させている時間が比較的長いものである。
また、液面上の転写フィルムFは、上記図1のように被転写体Wの没入によって突き破られて孔が開いた状態となり、この液面に残されたフィルムが、転写に用いられなかった液面残留フィルムF′である。そのため本実施例では、この液面残留フィルムF′を、下流の出液エリアP2まで到達させないように、転写後できるだけ早期に且つ確実に回収するものであり、以下この回収態様について説明する。
【0134】
(3)液面残留フィルムの分断
液面残留フィルムF′を回収するにあたっては、まず液面残留フィルムF′を没入エリアP1の下流側で、なお且つ出液エリアP2の上流側において、液流方向に分断するものであり、これには図1に示すように、転写後の液面残留フィルムF′にエアを吹き付けて分断する。その後、エアによって分断された液面残留フィルムF′は、送風や液流等によって次第に両側壁22に寄るように送られ、ここで図4に示すように、両側壁22に設けたオーバーフロー槽75等によって回収される。
【0135】
(4)液面残留フィルムの回収
そして本実施例では、液面残留フィルムF′の回収を妨げることがないように、オーバーフロー槽75(排出口76)では、フィルム保持機構6(コンベヤ61)によるフィルムの保持作用を解除するが、オーバーフロー槽75の手前(排出口76の上流側)で解除するのではなく、例えば図9(a)に示すように、フィルムの保持作用が幾らか排出口76に及ぶように構成されることが好ましい(オーバーラップ状態)。これは、オーバーフロー槽75に至るまで液面残留フィルムF′を確実にコンベヤ61に保持させるためであり、これにより液面残留フィルムF′は、転写位置にある転写フィルムFを引っ張ってしまうことなく、オーバーフロー槽75部分で、コンベヤ61の終端プーリ62Bを回り込むように流れ、オーバーフロー槽75に落下、回収されるものである。
【0136】
なお、分断ラインFLのエッジ付近は、上述したように次第に少しずつ溶解、ばらけながら送風や液流によって両側壁22に寄って行くものである。このため、液面残留フィルムF′を回収する際には、分断ラインFLの塊全体部分と、分断ラインFLのばらけた夾雑物とを二段階で分けて回収することが好ましく、これに適した構成がオーバーフロー槽75の排出口76の途中部分に設けられた遮断手段77である。すなわち、遮断手段77の存在によって、一基のオーバーフロー槽75でも、遮断手段77の前後二段階に分けて液面残留フィルムF′を回収するものである。具体的には、図9(a)に示すように、分断ラインFLの塊全体を遮断手段77(堰板78または収容式遮蔽体79)より上流手前側に誘導し前方の一段階目で回収する一方、分断ラインFLのばらけた夾雑物については、遮断手段77より後方の二段階目で回収するものである。
【0137】
また、遮断手段77は、排出口76の流速誘導範囲を狭めるものでもあり、このため遮断手段77はフィルムの保持作用解除後の流速を弱める制御も行っている。
このようにして、エアで分断された液面残留フィルムF′は、オーバーフロー槽75によって、確実に且つ転写位置(没入エリアP1)に悪影響を及ぼすことなく回収されるものである。
ここで遮断手段77としては、図4・10に示したように堰板78や収容式遮蔽体79を適用することが可能であるが、収容式遮蔽体79であれば、オーバーフロー槽75に落とし込むだけでこのものを固定でき、また収容式遮蔽体79を前後にスライドさせることで排出口76に対する位置設定や、前後二段階で行う回収割合の調節も容易に行え、好ましいものである。
なお、このような液面残留フィルムF′の回収は、当然、出液エリアP2よりも上流側で完了させるものである。
【0138】
(5)出液エリア浄化(装飾不要面側)
また、このような液面残留フィルムF′の回収に伴い、本実施例では出液エリア浄化機構8によって出液エリアP2、特に装飾不要面S2側を浄化するものであり、以下これについて説明する。出液エリア浄化機構8は、出液エリアP2における転写液中・液面上の夾雑物や液面上の泡Aを出液エリアP2から遠ざけ、槽外に排出するものである。これには、例えば図4に示すように、出液エリアP2の左右両側壁22にオーバーフロー槽82を設け、出液エリアP2からオーバーフロー槽82に向かうサイド離反流を形成するものであり、これにより主にフィルムカス等の液中の夾雑物を出液エリアP2に寄せ付けないようにし、且つその回収を図っている。更に、本実施例では図1・2・4に示すように、転写槽2の一方の側壁22(オーバーフロー槽82の上方)上に送風機85を設け、ここから出液エリアP2を通って反対側のオーバーフロー槽82に至るように送風を行っている。これにより出液エリアP2(装飾不要面S2側)の液面上に発生する泡Aや夾雑物をオーバーフロー槽82に送り込み、回収するものである。また、このためオーバーフロー槽82には、流速増強用ツバ84を形成し、液面付近での流速(導入速度)を速めることが好ましい。
なお、上記サイド離反流を形成するには、一部新水を利用することが望ましい。
【0139】
(6)出液エリア浄化(意匠面側)
また、本発明では意匠面浄化機構9によって、出液エリアP2の意匠面S1側を浄化するものである。すなわち、当該機構は、被転写体Wを引き上げるにあたり、出液中の被転写体Wの意匠面S1を浄化し、更に先行して引き上げられた被転写体W(治具J)から落下した雫によって生じた液面上の泡Aや、転写液中・液面上の夾雑物を意匠面S1から遠ざけ出液エリアP2から排除するものであり、以下これについて説明する。
出液中、被転写体Wは転写液Lをせき止めるように引き上げられるため、下流側を向く意匠面S1には、ここに回り込む流れが自然に発生するものであり、意匠面浄化機構9は、このような回り込み流を極力解消し、意匠面S1に夾雑物や泡Aを寄せ付けないようにするものである。具体的には、図1・2に示すように、出液エリアP2にオーバーフロー槽92を設けて成り、これにより出液中の被転写体W(意匠面S1)に、新水による意匠面離反流を形成する。ここで上記オーバーフロー槽92には、流速増強用ツバ94を形成し、液面付近での流速(導入速度)を速めることが好ましい(図4・12参照)。
なお、被転写体Wの出液に伴い、被転写体W(意匠面S1)が意匠面離反流形成用のオーバーフロー槽92から離反して行く場合には、オーバーフロー槽92を被転写体Wに徐々に接近させて、オーバーフロー槽92に対する被転写体Wの出液地点を一定に保つことが好ましい。
因みに被転写体搬送装置5としてマニピュレータを用いた場合には、被転写体Wにカス不良及びタダレ不良を極力生じさせないために、引き上げ速度は2m/分を上限とする一定速度とし、被転写体W(意匠面S1)の角度を液面に対し常に34度となるように調整しながら、なお且つ意匠面離反流形成用のオーバーフロー槽92から100mm以下の一定距離で引き上げることが望ましい。
【0140】
ここで、上記オーバーフロー槽82・92等で回収した転写液Lは、夾雑物を除去して循環使用に供するものである(図2参照)。
更に、本実施例では、意匠面離反流形成用のオーバーフロー槽(1段目OF槽)92の後段に、末端オーバーフロー槽(2段目OF槽)97を設けた2段OF構造を採るものであり、これにより以下のような効果を奏する。
まず転写槽2の中位付近(1段目OF槽92とほぼ同じ高さ付近)を流れる中層流が、1段目OF槽92の下方をくぐり抜ける流れとなるため、中層流は1段目OF槽92の直前では下向き流れとなり、1段目OF槽92の通過後は上向き流れとなる。そして1段目OF槽92直前の下向き流れによって、中層流が意匠面S1に回り込む流れが防止されるものである(上層流が意匠面S1に回り込む流れは意匠面離反流によって防止される)。
また中層流の1段目OF槽92通過後の上向き流れによって、下層流は上向きに引き上げられ、これら中層流と下層流の上向き流れによって転写液中、特に中層流の下面部分に多く滞留する夾雑物が2段目OF槽97で能率的に回収され得るものである。従って、本実施例では、液面残留フィルム回収機構7、出液エリア浄化機構8、意匠面浄化機構9等によって、出液エリアP2ひいては転写液Lのクリーン化が高いレベルで達成されるものである。
因みに、液圧転写後にトップコートを行い、転写パターンの表面保護を図る従来の液圧転写では、液圧転写後に水洗浄等を行い、被転写体W(意匠面S1)に付着した水溶性フィルムを除去し、その後にトップコートを行っていたため、転写時に意匠面S1にフィルムカス等の夾雑物が付着すること自体が即、不良になるものではない。しかしながら、このような従来の液圧転写においても、出液エリアP2のクリーン化や転写液Lの清浄度を高いレベルで維持することは、精緻な液圧転写が行える点で好適であり、従来の液圧転写においても好ましいものである。
【0141】
(7)被転写体の出液
被転写体Wは、上記のように高いレベルでクリーン化が達成された出液エリアP2から引き上げられるものであり、このため意匠面S1への夾雑物や泡Aの付着はほとんどないものである(不良率の低減)。また、被転写体Wを転写液Lから引き上げる際の出液角は適宜変更可能である。
【0142】
(8)装飾層の硬化処理
転写液Lから引き上げた被転写体Wには、その後、転写パターン(装飾層)を硬化させる処理が施される。ここでは被転写体Wに紫外線等の活性エネルギー線を照射するものであり(図20(c)参照)、この際、被転写体Wは、意匠面S1に半溶解状のPVAが付着したままの状態である。なお、転写パターン(装飾層)を硬化させる他の手法としては、上記活性エネルギー線照射の他に加熱も挙げられるが、これらを両方行って硬化させることも可能である。因みに、特許請求の範囲に記載した「活性エネルギー線照射または/および加熱」という記述は、これらの硬化処理のうちどちらか一方または双方を行うことを意味している。
その後、被転写体Wは、水洗浄等によってPVAが除去され(脱膜)、乾燥を経て、一連の作業が終了となる。なお、本実施例では既に転写パターン(装飾層)を硬化させているため、乾燥後のトップコートは不要であるが、この後、更にトップコートを行うこと自体は何ら差し支えない。
【0143】
(9)被転写体が意匠面に開口部を有する場合の転写について
次に、被転写体Wが意匠面S1に開口部Waを有している場合の好ましい転写態様について説明する。このような被転写体Wについては、例えば図20(a)に示すように、開口部Waの裏面(装飾不要面S2)側に適宜の間隙CLをあけて薄膜誘導体120を設けて転写を行う(転写液Lに没入させる)ことが好ましい。これは、そのままでは表側の意匠面S1に張る薄膜Mを、薄膜誘導体120によって図20(b)に示すように、開口部Waと薄膜誘導体120との間(間隙CL)に張らせるためである。
【0144】
ここで、通常では意匠面S1側に張ってしまう薄膜Mを、薄膜誘導体120によって、間隙CLに張らせることができる経緯(理由)について説明する。薄膜Mは、一般にシャボン玉と同様であり、そのため面積(表面積)を小さくするように膜を張るという性質がある(フェルマーの法則)。このため開口部Waの面積(開口部面積)に対して、間隙CLの全周囲面積(これを離開全周面積とする)を小さくするように薄膜誘導体120を設けることで、薄膜Mを間隙CL側(装飾不要面S2側)に誘導することができるものである。
このようなことから、薄膜誘導体120は、一例として図20(a)に併せ示すように、開口部Waを正面から視た状態で、開口部Waとほぼ同等の大きさか、それよりも一回り大きめに形成するものであり、これは開口部Waの全周において間隙CLを確実に形成するための構成である。
また、薄膜誘導体120を開口部Waの裏側に位置させるにあたっては、治具Jに薄膜誘導体120を取り付けてもよいし、被転写体Wの裏面(アッセンブリとしての組付構造)を利用して薄膜誘導体120を直接、被転写体Wに取り付けても構わない。
【0145】
因みに、薄膜誘導体120は、一例として図20(c)に示すように、装飾層の硬化処理を終えるまで、装飾不要面S2側に位置させておくことが好ましい。また、薄膜Mが出液中や本硬化処理中において破裂することについては格別支障がなく、これは薄膜Mが被転写体Wの装飾不要面S2側に形成され、破裂しても意匠面S1側にまで破裂残滓による泡Aが発生し難いためである。
なお、ロボット転写を行う場合や、コンベヤ51を適用しても被転写体Wをオーバーハング状態で液中から引き上げる場合等には、意匠面S1を上にした裏返し状態で引き上げることが可能であるため、被転写体Wが意匠面S1に開口部Waを有していても、このような薄膜誘導体120を用いずに液圧転写を行うことが可能である(意匠面S1に泡Aが付着し難いと考えられる)。これは裏返し状態での引き上げなら、被転写体W(意匠面S1)に付着した液体は、重力により自然に下方に当たる裏側に流れ込むため、破裂残渣による泡Aが発生しても、これも上記流れに沿って装飾不要面S2側に回り込むと考えられるためである。
【0146】
更に、上述した間隙CLは、必ずしも開口部Waの全周に対して一定に形成する必要はなく、例えば図21に示すように、漸減させることも可能であり(ここでは出液下方側に向かって間隙CLが徐々に広がるように薄膜誘導体120を設置)、この場合には転写没入時に被転写体Wと薄膜誘導体120との間に空気の抜けを誘導し易く、精緻な液圧転写ができ、また出液後の素早い排水と乾燥が期待できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明は、転写時に表面保護機能も有した転写パターンを形成する液圧転写(トップコート不要の液圧転写)に好適であるが、転写時に転写パターンを形成し、転写後のトップコートにより、その表面保護を図る従来の液圧転写においても適用できるものである。
【符号の説明】
【0148】
1 液圧転写装置
2 転写槽
3 転写フィルム供給装置
4 活性剤塗布装置
5 被転写体搬送装置
6 フィルム保持機構
7 液面残留フィルム回収機構
8 出液エリア浄化機構
9 意匠面浄化機構
10 伸展低下防止機構

2 転写槽
21 処理槽
22 側壁
23 傾斜板
24 傾斜部
26 送風機
29 架台
30 架台

3 転写フィルム供給装置
31 フィルムロール
32 ヒートローラ
33 案内コンベヤ
34 ガイドローラ

4 活性剤塗布装置
41 ロールコータ

5 被転写体搬送装置
51 コンベヤ
52 治具ホルダ
53 リンクチェーン
54 リンクバー
55 三角コンベヤ部
56 没入側ホイール
57 出液側ホイール
58 直線コンベヤ部
58A 直線コンベヤ部
58B 直線コンベヤ部
59 チェーンホイール
59A チェーンホイール
59B チェーンホイール
110 ロボット(多関節形ロボット)
111 ハンド(転写ロボット)
112 ハンド(移載ロボット)

120 薄膜誘導体

6 フィルム保持機構
61 コンベヤ
62 プーリ
62A 始端プーリ
62B 終端プーリ
62C 中継プーリ
62D 位置固定プーリ
62E 上下動プーリ
63 ベルト
63G 往路ベルト
63B 復路ベルト
63C テンション調整部
64 回転軸
65 アームバー
66 クランプ
67 チェーンコンベヤ
68 チェーン
69A ガイド体
69B ガイド体

7 液面残留フィルム回収機構
71 分割手段
72 排出手段
73 送風機
73a 補助送風機
73b 補助送風機
75 オーバーフロー槽
75a 補助オーバーフロー槽
76 排出口
76a 排出口
77 遮断手段
78 堰板
79 収容式遮蔽体
79a 堰作用部
79b 脚部

8 出液エリア浄化機構
81 排出手段
82 オーバーフロー槽
83 排出口
84 流速増強用ツバ
85 送風機

9 意匠面浄化機構
91 離反流形成手段
92 オーバーフロー槽(1段目OF槽)
93 排出口
94 流速増強用ツバ
95 吸い込みノズル
97 末端オーバーフロー槽(2段目OF槽)
98 裏側オーバーフロー槽(裏側OF槽)

10 伸展低下防止機構
101 除去手段
102 圧縮空気吹出ノズル

A 泡
C コンベヤ(UV照射工程用)
CL 間隙
F 転写フィルム
FL 分断ライン
F′ 液面残留フィルム
f 転写された装飾層
J 治具
JL 治具脚
K 活性剤成分
L 転写液
M 薄膜
W 被転写体
Wa 開口部
P1 没入エリア(転写位置)
P2 出液エリア
P3 分断開始地点
S1 意匠面
S2 装飾不要面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性フィルムに少なくとも転写パターンを乾燥状態で形成して成る転写フィルムを、転写槽内の液面上に浮遊支持し、その上方から被転写体を押し付け、これによって生じる液圧によって、主に被転写体の意匠面側に転写パターンを転写する方法において、
前記転写槽には、被転写体を転写液中から引き上げる出液エリアに、
出液中の被転写体の意匠面から離れる意匠面離反流を形成し、転写液面上の泡や液中に滞留する夾雑物を、出液中の被転写体の意匠面から遠ざけ、転写槽外に排出するようにしたことを特徴とする、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法。
【請求項2】
前記出液エリアの左右両側には、出液中の被転写体の意匠面裏側となる装飾不要面側から転写槽の両側壁に向かうサイド離反流が液面付近に形成され、転写液中・液面上に滞留する夾雑物を出液エリアから遠ざけ、転写槽外に排出するようにしたことを特徴とする請求項1記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法。
【請求項3】
前記出液エリアの前段には、被転写体の没入によって転写に使用されず液面上に浮遊した液面残留フィルムを転写槽から排出する排出手段を設け、被転写体が出液するまでの間に液面残留フィルムを回収し、該フィルムを出液エリアまで到達させないようにしたことを特徴とする請求項1または2記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法。
【請求項4】
前記意匠面離反流は、出液中の被転写体の意匠面に臨むように設けられたオーバーフロー槽によって形成するものであり、
更にこのオーバーフロー槽の後段には、転写液を回収するオーバーフロー槽を設けるようにしたことを特徴とする請求項1、2または3記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法。
【請求項5】
前記意匠面離反流を形成するオーバーフロー槽には、液回収口となる排出口に、オーバーフロー槽に導入する転写液の流速を速めるための流速増強用ツバが形成されることを特徴とする請求項4記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法。
【請求項6】
前記転写槽は、被転写体が没入してから出液するまでの転写必要区間で、被転写体の意匠面が転写液中に埋没する深さを確保するように形成され、それ以外の転写不要区間では、この深さよりも浅く形成されることを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法。
【請求項7】
前記意匠面離反流は、夾雑物を含まない綺麗な水、あるいは転写槽より回収した転写液から夾雑物を除去した後の浄化水などの新水を、意匠面離反流形成用のオーバーフロー槽の下方から上流側の出液エリアに向けて供給することにより発生させるようにしたことを特徴とする請求項4、5または6記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法。
【請求項8】
前記意匠面離反流を形成するオーバーフロー槽は、転写槽の長手方向に移動自在に形成され、被転写体の出液動作に伴い被転写体の位置が前後しても、被転写体の意匠面とオーバーフロー槽との距離をほぼ一定に維持するように移動することを特徴とする請求項4、5、6または7記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法。
【請求項9】
前記サイド離反流は、出液エリアの左右両側に設けられたオーバーフロー槽によって形成されるものであり、
また、このオーバーフロー槽の液回収口となる排出口には、オーバーフロー槽に導入する転写液の流速を速めるための流速増強用ツバが形成されることを特徴とする請求項2、3、4、5、6、7または8記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法。
【請求項10】
前記出液エリアにおいては、該エリア液面上に生じる泡や夾雑物を、転写槽のいずれか一方の側壁に押しやる送風が行われ、転写液中・液面上に滞留する夾雑物の排出と併せて、該エリア液面上の泡や夾雑物もサイド離反流形成用のオーバーフロー槽により回収し、槽外に排出するようにしたことを特徴とする請求項9記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法。
【請求項11】
前記サイド離反流を形成するオーバーフロー槽の前段には、前記液面残留フィルムを回収するためのオーバーフロー槽が設けられるものであり、
また、このオーバーフロー槽には、液面残留フィルムを回収する排出口の途中部分に、液回収を遮る遮断手段を設け、遮断手段の前後から液面残留フィルムを回収するようにしたことを特徴とする請求項9または10記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法。
【請求項12】
前記液面残留フィルムを回収するにあたっては、被転写体を転写液中に没入させてから出液させるまでの間に、分割手段によって転写槽の長手方向に割くように分断し、分断した液面残留フィルムを転写槽の両側壁に寄せ、前記液面残留フィルム回収用のオーバーフロー槽によって回収するようにしたことを特徴とする請求項11記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法。
【請求項13】
前記被転写体に施す液圧転写は、転写フィルムとして水溶性フィルム上に転写パターンのみを乾燥状態に形成したものを適用し、且つ活性剤として液体状の硬化性樹脂組成物を用いるか、
あるいは転写フィルムとして水溶性フィルムと転写パターンの間に硬化性樹脂層を具えた転写フィルムを適用するかのいずれかであり、
液圧転写によって被転写体に、表面保護機能も有する転写パターンを形成し、これを転写後の活性エネルギー線照射または/および加熱によって硬化させるものであることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写方法。
【請求項14】
転写液を貯留する転写槽と、
この転写槽に転写フィルムを供給する転写フィルム供給装置と、
転写槽の液面上で活性化状態となった転写フィルムに対して上方から被転写体を押し付ける被転写体搬送装置とを具え、
水溶性フィルムに少なくとも転写パターンが乾燥状態で形成されて成る転写フィルムを、転写槽内の液面上で浮遊支持し、その上方から被転写体を押し付け、これによって生じる液圧によって、主に被転写体の意匠面側に転写パターンを転写する装置において、
前記被転写体を転写液中から引き上げる出液エリアには、転写液中から浮上中の被転写体の意匠面に作用する離反流形成手段が設けられ、出液中の被転写体の意匠面から離れる意匠面離反流が形成され、これにより転写液面上の泡や液中に滞留する夾雑物を、出液中の被転写体の意匠面から遠ざけ、転写槽外に排出するようにしたことを特徴とする、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置。
【請求項15】
前記出液エリアの左右両側には、液面付近の転写液を回収する排出手段が設けられ、出液中の被転写体の意匠面裏側となる装飾不要面側から転写槽の両側壁に向かうサイド離反流が形成され、これにより転写液中・液面上に滞留する夾雑物を出液エリアから遠ざけ、転写槽外に排出するようにしたことを特徴とする請求項14記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置。
【請求項16】
前記出液エリアの前段には、被転写体の没入によって転写に使用されず液面上に浮遊した液面残留フィルムを転写槽から排出する排出手段を設け、被転写体が出液するまでの間に液面残留フィルムを回収し、該フィルムを出液エリアまで到達させないようにしたことを特徴とする請求項14または15記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置。
【請求項17】
前記意匠面離反流は、出液中の被転写体の意匠面に臨むように設けられたオーバーフロー槽によって形成するものであり、
更にこのオーバーフロー槽の後段には、転写液を回収するオーバーフロー槽を設けるようにしたことを特徴とする請求項14、15または16記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置。
【請求項18】
前記意匠面離反流を形成するオーバーフロー槽には、液回収口となる排出口に、オーバーフロー槽に導入する転写液の流速を速めるための流速増強用ツバが形成されることを特徴とする請求項17記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置。
【請求項19】
前記転写槽は、被転写体が没入してから出液するまでの転写必要区間で、被転写体の意匠面が転写液中に埋没する深さを確保するように形成され、それ以外の転写不要区間では、この深さよりも浅く形成されることを特徴とする請求項14、15、16、17または18記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置。
【請求項20】
前記意匠面離反流は、夾雑物を含まない綺麗な水、あるいは転写槽より回収した転写液から夾雑物を除去した後の浄化水などの新水を、意匠面離反流形成用のオーバーフロー槽の下方から上流側の出液エリアに向けて供給することにより発生させるようにしたことを特徴とする請求項17、18または19記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置。
【請求項21】
前記意匠面離反流を形成するオーバーフロー槽は、転写槽の長手方向に移動自在に形成され、被転写体の出液動作に伴い被転写体の位置が前後しても、被転写体の意匠面とオーバーフロー槽との距離をほぼ一定に維持するように移動することを特徴とする請求項17、18、19または20記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置。
【請求項22】
前記サイド離反流を形成する排出手段としては、出液エリアの左右両側に設けられたオーバーフロー槽が適用されるものであり、
また、このオーバーフロー槽において液回収口となる排出口には、オーバーフロー槽に導入する転写液の流速を速めるための流速増強用ツバが形成されることを特徴とする請求項15、16、17、18、19、20または21記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置。
【請求項23】
前記転写槽には、出液エリアの液面上に生じる泡や夾雑物を、転写槽のいずれか一方の側壁に押しやる送風機が設けられ、転写液中・液面上に滞留する夾雑物の排出と併せて、該エリア液面上の泡や夾雑物もサイド離反流形成用のオーバーフロー槽から槽外に排出するようにしたことを特徴とする請求項22記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置。
【請求項24】
前記サイド離反流を形成するオーバーフロー槽の前段には、前記液面残留フィルムを回収するためのオーバーフロー槽が設けられるものであり、
また、このオーバーフロー槽には、液面残留フィルムを回収する排出口の途中部分に、液回収を遮る遮断手段が設けられ、遮断手段の前後から液面残留フィルムを回収するようにしたことを特徴とする請求項22または23記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置。
【請求項25】
前記液面残留フィルムを回収するオーバーフロー槽の前段には、転写直後の液面残留フィルムを転写槽の長手方向に割くように分断する分割手段が設けられ、
液面残留フィルムを回収する際には、被転写体を転写液中に没入させてから出液させるまでの間に、分割手段により分断された液面残留フィルムをオーバーフロー槽によって回収するようにしたことを特徴とする請求項24記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置。
【請求項26】
前記転写フィルムとしては、水溶性フィルム上に転写パターンのみを乾燥状態に形成したものを適用するか、水溶性フィルムと転写パターンの間に硬化性樹脂層を具えたものを適用するかのいずれかであり、更に水溶性フィルム上に転写パターンのみを乾燥状態に形成したフィルムを適用した場合には、活性剤として液体状の硬化性樹脂組成物を用いるものであり、
これにより液圧転写の際には被転写体に表面保護機能も有した転写パターンを形成し、これを転写後の活性エネルギー線照射または/および加熱によって硬化させるようにしたことを特徴とする請求項14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24または25記載の、意匠面浄化機構を具えた液圧転写装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−121284(P2012−121284A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275525(P2010−275525)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(306026980)株式会社タイカ (62)
【Fターム(参考)】