説明

感光性シロキサン樹脂組成物

【課題】アルカリ可溶性および感度に優れた感光性シロキサン樹脂組成物とそれを用いたパターン形成方法の提供。
【解決手段】シラノール基またはアルコキシシリル基を有するシロキサン樹脂と、クラウンエーテルと、感光剤と、有機溶剤とを含んでなる感光性シロキサン樹脂組成物。この感光性組成物を基材上に塗布し、像様露光し、アルカリ水溶液で処理し、焼成することによりパターンを形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラノール基またはアルコキシシリル基によるアルカリ可溶性シロキサン樹脂を含む感光性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シロキサン樹脂は、高耐熱性、高硬度、高絶縁性、高透明性の材料として知られており、各種用途において使用されている。このような用途の一つとして、シロキサン樹脂を含有する組成物を焼成することにより得られた硬化被膜が、耐久性、低誘電性で絶縁性に優れ、高硬度を有することを利用して、半導体素子や液晶表示素子等における絶縁膜や平坦化膜、保護膜、さらには半導体封止材などとして使用されている。
【0003】
シロキサン樹脂はアルコキシシランやハロシランを原料として加水分解により作成されるため、シラノール基が樹脂中に存在する。このシラノール基がアルカリ可溶性に寄与するという特性を利用し、一般的に電子材料分野で使用される現像液、特に2.38%テトラメチルアンモニウム水溶液で現像可能な感光性シロキサン樹脂組成物が数々報告されている(特許文献1)。
【0004】
一般的にアルカリ可溶性を有するためにはシロキサン樹脂中のシラノール基を増やす、即ち分子量を低くすることが考えられるが、分子量を低くすると対熱リフロー耐性が低くなる傾向にある。具体的には200℃以上の高温で成膜焼成した際にパターンが崩れる現象が発生することがある。また樹脂の分子量が高すぎる場合には、感度が低下して、露光や現像に要する時間が長くなることがある。さらには現像後において現像液に対して溶解しなければならない個所に残留物(以下、「スカム」ということもある)が残存してしまうこともある。
【0005】
アルカリ可溶性を維持しつつ対熱リフロー耐性を向上させるため、分子量が低くアルカリ可溶なシロキサン樹脂と、分子量が高いアルカリ不溶な樹脂を組み合わせる方法も検討されているが、二種類の樹脂の分子量の差が広がれば広がるほど対熱リフロー耐性が高まるものの(特許文献2)、スカムの発生も顕著になるという解決すべき課題が残っていることが、本発明者の研究により判明している。その他硬化剤の添加(特許文献3)、樹脂へのシリカ(SiO)ユニットの導入(特許文献4)といった方法があるが、特許文献3による方法ではスカム多発、経時安定性の低下、感度の低下が、特許文献4による方法ではシリカユニットがポリマー全体の30mol%を超えるとスカム多発、経時安定性の著しい低下が起こる傾向にあり、改善の余地があった。
【0006】
このような問題を解決するため、アルコキシ基や水酸基を有さない多官能ポリシロキサンを用いることがあるが、硬化性に欠ける、透明性が低下してしまうという欠点がある(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−178436公報
【特許文献2】特開2007−193318号公報
【特許文献3】特開2008−208200号公報
【特許文献4】特開2003−255546号公報
【特許文献5】特開平8−334901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記従来の問題点がない、即ち保存安定性を維持し、スカムを減少させ、対熱リフロー耐性を向上させ、感度を向上させた、アルカリ可溶性シロキサン樹脂を含んでなる感光性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による感光性シロキサン樹脂組成物は、
シラノール基またはアルコキシシリル基を有するシロキサン樹脂と、
クラウンエーテルと、
感光剤と、
有機溶剤と
を含んでなることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明によるパターン形成方法は、
前記の感光性シロキサン樹脂組成物を基材上に塗布して被膜を形成させ、
前記被膜を像用露光し、
アルカリ水溶液で処理し、
不活性ガスまたは大気中において150〜450℃で焼成する
ことを含んでなることを特徴とするものである。
【0011】
さらに本発明によるシリカ質膜は、前記の方法で製造されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明による感光性シロキサン樹脂組成物は、アルカリ可溶性が飛躍的に改善されており、また経時安定性や感度に優れたものである。また、用いられるクラウンエーテル自身が焼成後には被膜中に残存しにくいことから、高い透明性を有するシリカ質膜を形成し得るものである。そしてそのシリカ質膜は、高絶縁性、低誘電率性および高い耐熱性をも実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のシラノール基含有アルカリ可溶性シロキサン樹脂を更に詳細に説明すると以下のとおりである。
【0014】
感光性シロキサン樹脂組成物
本発明に用いられる感光性シロキサン樹脂組成物は、(a)シラノール基またはアルコキシシリル基を有するシロキサン樹脂、(b)クラウンエーテル(c)感光剤(d)有機溶剤、(e)必要に応じ用いられる添加剤からなる。
【0015】
(a)シラノール基またはアルコキシシリル基を有するシロキサン樹脂
本発明において用いられるシロキサン樹脂は、官能性基としてシラノール基またはアルコキシシリル基を有するものである。本発明において、シラノール基およびアルコキシシリル基とはシロキサン骨格を形成するケイ素に直接結合した水酸基およびアルコキシ基を意味する。このようなシロキサン樹脂は、シラノール基またはアルコキシシリル基を有することによってアルカリに可溶なものであり、感光性樹脂組成物として使用した場合には、アルカリ性現像液によって容易に処理することができる。また、これらの官能性基は、感光性組成物を硬化反応させる場合には反応性基としても寄与する。
【0016】
本発明において用いられるシロキサン樹脂は、シラノール基および/またはアルコキシシリル基を含むシロキサン樹脂であれば何れのものであってよく、その構造は特に制限されない。シロキサン樹脂の骨格構造は、ケイ素原子に結合している酸素数に応じて、シリコーン骨格(ケイ素原子に結合する酸素原子数が2)、シルセスキオキサン骨格(ケイ素原子に結合する酸素原子数が3)、およびシリカ骨格(ケイ素原子に結合する酸素原子数が4)に分類できる。本発明においては、これらのいずれであってもよいが、これらのシロキサン樹脂の骨格構造は複数の組み合わせでもよく、シロキサン樹脂は、それぞれの構造を有する樹脂の混合物であってもよい。しかし、シリコーン構造が多いと、高温において樹脂が壊れやすい傾向にある。このため、シリコーン構造の割合はシロキサン樹脂全体の10mol%以下であることが好ましい。特に、加熱硬化させる場合には被膜形成の際の硬化反応が進み易く、塗布後のべたつきが少ないなどの取り扱い性がよいことから、シルセスキオキサン構造またはシルセスキオキサン構造とシリカ構造との混合物であることが好ましい。また、シリカ構造が多いと安定性が低く、組成物が増粘する傾向にあるので、シリカ構造の割合はシロキサン樹脂全体の20mol%以下であることが好ましく、10mol%以下であることがより好ましい。
【0017】
また、本発明において用いられるシロキサン樹脂は、シラノール基またはアルコキシシラン基を有する。前記したとおり、これらの官能性基は、樹脂のアルカリに対する溶解性や硬化反応に寄与するとともに、保存安定性にも影響すると考えられている。本発明においては、シロキサン樹脂にシラノール基およびアルコキシシラン基がわずかでも含まれていれば本発明の効果を奏するが、その数はシロキサン樹脂の分子量に依存すると考えられている。このため、シロキサン樹脂の分子量が後述する特定の範囲にあることが適切な数のシラノール基またはアルコキシシラン基を有するために好ましい。
【0018】
なお、本発明の効果を損なわない範囲で、シラノール基またはアルコキシシラン基以外の反応性基、例えばカルボキシル基、スルホニル基、アミノ基などがシロキサン樹脂に含まれてもよいが、これらの反応性基は一般に感光性組成物の保存安定性を劣化させる傾向にあるため、少ないことが好ましい。具体的にはケイ素原子に結合している水素または置換基の総数に対して、10mol%以下であることが好ましく、全く含まれないことが特に好ましい。ここで、置換基とは、シロキサン構造を構成するSi−O結合を含まない置換基、具体的にはアルキル基、アルケニル基、アリル基、ヒドロキシアルキル基などを意味する。
【0019】
本発明で用いることのできる代表的なシロキサン樹脂は、例えば、下記一般式(A)で表されるアルコキシシランの1種以上を有機溶剤中、加水分解して得られるものである。
(RSi(OR4−a (A)
【0020】
式中、Rは水素原子、置換基を有していてもよい、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数15以下のα位の炭素原子に水素原子が結合していないアラルキル基、炭素数6〜15のアリール基または炭素数1〜6のアルケニル基を表し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表し、aは0〜3の整数である。
【0021】
上記一般式(A)中、置換基Rの具体例としては、(i)メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−デシル基、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、3−グリシドキシプロピル基、2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、3−アミノプロピル基、3−メルカプトプロピル基、3−イソシアネートプロピル基、4−ヒドロキシ−5−(p−ヒドロキシフェニルカルボニルオキシ)ペンチル基などの置換または非置換のアルキル基、(ii)シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの置換または非置換のシクロアルキル基、(iii)フェニルイソプロピル基などの置換または非置換のアラルキル基、(iv)フェニル基、トリル基、p−ヒドロキシフェニル基、ナフチル基などの置換または非置換のアリール基、(v)ビニル基、アリル基、3−アクリロキシプロピル基、3−メタクリロキシプロピル基などの置換または非置換のアルケニル基が挙げられる。
【0022】
一方、置換基Rの具体例としては、置換基Rの置換基を有していてもよいアルキル基として例示したと同様の基が例示でき、置換基を有さない炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0023】
より具体的には、上記一般式(A)で示されるアルコキシシラン化合物としては、下記の化合物が例示される。
【0024】
(イ)テトラアルコキシシラン:テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等
(ロ)モノアルキルトリアルコキシシラン:モノメチルトリメトキシシラン、モノメチルトリエトキシシラン、モノエチルトリメトキシシラン、モノエチルトリエトキシシラン、モノプロピルトリメトキシシラン、モノプロピルトリエトキシシラン等
(ハ)モノアリールトリアルコキシシラン:モノフェニルトリメトキシシラン、モノフェニルトリエトキシシラン、モノナフチルトリメトキシシラン等
(ニ)トリアルコキシシラン:トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、トリブトキシシラン等
(ホ)ジアルキルジアルコキシシラン:ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン等
(ヘ)ジフェニルジアルコキシシラン:ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等
(ト)アルキルフェニルジアルコキシシラン:メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、エチルフェニルジメトキシシラン、エチルフェニルジエトキシシラン、プロピルフェニルジメトキシシラン、プロピルフェニルジエトキシシラン等
(チ)トリアルキルアルコキシシシラン:トリメチルメトキシシラン、トリn−ブチルエトキシシラン等
【0025】
これらの中で好ましい化合物は、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、モノメチルトリメトキシシラン、モノメチルトリエトキシシラン、モノナフチルトリメトキシシラン、モノフェニルトリメトキシシランである。
【0026】
本発明において用いられるシラノール基またはアルコキシシリル基を含有するシロキサン樹脂は、官能性基がシラノール基のみからなるまたはシラノール基とアルコキシシリル基からなるシロキサン樹脂が好ましい。すなわち、シロキサン樹脂中には、原料由来の未反応のアルコキシシリル基が含まれていてもよい。このような官能性基がシラノール基のみからなるまたはシラノール基とアルコキシシリル基からなるシラノール基含有シロキサン樹脂は、前記一般式(A)で示されるアルコキシシランの1種または2種以上を用いて製造することができる。また、本発明において用いられるシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂は、必要であればアルコキシシランとして、前記RおよびRに水酸基などの反応基を含まないアルコキシシランの1種または2種以上とRおよび/またはRに水酸基などの反応基を有するアルコキシシランの1種または2種以上との混合物を用い、これらを加水分解縮合することによって得られるシロキサン樹脂が用いられてもよい。また、本発明においては、原料アルコキシシランとして、上記一般式(A)において、aが0または1であるアルコキシシランを用いることが好ましく、このとき必要に応じてaが2または3のアルコキシシランがさらに用いられてもよい。
【0027】
また、他の代表的なシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂としては、下記一般式(B)で表されるハロシランの1種以上を有機溶剤中、加水分解して得られるものも挙げられる。
(RSiX4−a (B)
式中、R1およびaは前記した通りであり、
Xはハロゲン原子を表す。
【0028】
なお、一般式(B)中のRおよびaとしては、上記一般式(A)で挙げたものと同じものが好ましい。またXとしては、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子が挙げられる。
【0029】
このようなハロシラン化合物を用いることにより、一般式(A)で示されるようなアルコキシシランを用いる場合と同様の方法で、シラノール基含有シロキサン樹脂を製造することができる。例えば、トリクロロシラン化合物では、一部のクロロシリル基が加水分解・縮合反応してSi−O―Siの結合を形成し、残りは加水分解し、クロロシリル基がシラノール基となる。形成されるシロキサン樹脂中のシラノール基の含有量は、使用するハロシラン化合物の種類、量、反応条件などを制御することにより調整可能である。原料としてハロシラン化合物のみを用いる場合には、得られたシラノール基含有シロキサン樹脂の反応基は全部がシラノール基となる。
【0030】
また、一般式(A)の化合物と一般式(B)の化合物を組み合わせてシロキサン樹脂を製造することもできる。
【0031】
シロキサン樹脂を得るためのシラン化合物の加水分解縮合反応は、通常有機溶剤中で行なわれる。アルコキシシラン溶液の溶剤成分としては、形成される樹脂を溶解又は分散することのできる有機溶剤であれば特に限定されない。このような溶剤としては、公知の有機溶剤を適宜使用でき、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコールイソブチルアルコール、イミアミルアルコール等の一価アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール等の多価アルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール等の多価アルコールのモノエーテル類およびそれらのアセテート類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン等のケトン類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等の多価アルコールの水酸基をすべてアルキルエーテル化した多価アルコールエーテル類等が挙げられる。アルコキシシランの反応において用いられる溶剤は、引き続き基材に塗布される感光性組成物の溶剤としても利用されることが一般的である。
【0032】
シロキサン樹脂の分子量は、組成物の濃度やシロキサン樹脂に含まれる官能性基の含有量などに応じて適切に選択される。しかし、感光性組成物を含む被膜を現像した後のスカムを抑制するために、また感度を上昇させるために、分子量は低いほうが好ましい。具体的には、感光性組成物がポジ型感光性組成物である場合には露光部の溶解性が上昇するので、シロキサン樹脂の分子量が低いほうが感光性組成物の感度が高くなるので好ましい。また、感光性組成物がネガ型感光性組成物である場合には、未露光部の溶解性が高いほうが感度が高くなるので、シロキサン樹脂の分子量が低いほうが好ましい。一方で焼成後のパターン形状を良好に保つためには分子量が過度に低くならないようにすべきである。このような観点から、シロキサン樹脂の重量平均分子量(Mw)が400〜5,000であるものが好ましく、600〜3,000であることがより好ましい。ここで、重量平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィーによるスチレン換算重量平均分子量をいう。
【0033】
(b)クラウンエーテル
本発明による感光性組成物は、クラウンエーテルを含むことを一つの特徴としている。クラウンエーテルは、一般的に種々のものが知られているが、本発明においてはこれらから目的に応じて任意のものを選択することができる。しかしながら、本発明においては、クラウンエーテルは炭素、水素、酸素だけで構成されるものであることが好ましい。クラウンエーテルがこれ以外の元素を含むと本願発明の効果が損なわれることがあるので注意が必要である。特に、クラウンエーテルがアミノ基または4級アンモニウム基を含まないことが好ましい。これらの基を含むクラウンエーテルを用いると、それがシラノール基含有シロキサン樹脂の重合反応を進行させる触媒として作用し、その結果、感光性組成物が増粘する傾向にあるので注意が必要である。また、アミノ基または4級アンモニウム基以外の窒素含有基は、組成物の増粘の問題は小さいが、形成される被膜に着色が発生することがあるので、窒素含有基を含むクラウンエーテルを使用する場合には注意が必要である。例えば、アゾ基、ジアゾ基、またはオキシム基がクラウンエーテルに含まれても着色はわずかであるので問題がない。一方、アミド基、イミノ基、イミド基、または尿素基がクラウンエーテルに含まれる場合、形成される被膜に着色が起こるため、被膜の透明性が重視される用途においては使用を避けることが好ましい。
【0034】
また、本発明に用いられるクラウンエーテルは置換基として水酸基、カルボキシ基、芳香族基などを含んでいてもよい。ただし、クラウンエーテルの環に芳香族環が縮合している場合には、芳香環のα位に水素が結合していると、焼成後の被膜が着色する傾向にあるので注意が必要である。
【0035】
クラウンエーテルとして、最も単純な構造を有するものは、一般式(−CH−CH−O−)で表されるものである。本発明において好ましいものは、これらのうち、nが4〜7のものである。クラウンエーテルは、環を構成する原子総数をx、そのうちに含まれる酸素原子数をyとして、x−クラウン−y−エーテルと呼ばれることがある。本発明においては、x=12、15、18、または21、y=x/3であるクラウンエーテル、ならびにこれらのベンゾ縮合物およびシクロヘキシル縮合物からなる群から選択されるものが好ましい。より好ましいクラウンエーテルの具体例は、21−クラウン−7エーテル、18−クラウン−6−エーテル、15−クラウン−5−エーテル、12−クラウン−4−エーテル、ジベンゾ−21−クラウン−7−エーテル、ジベンゾ−18−クラウン−6−エーテル、ジベンゾ−15−クラウン−5−エーテル、ジベンゾ−12−クラウン−4−エーテル、ジシクロヘキシル−21−クラウン−7−エーテル、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6−エーテル、ジシクロヘキシル−15−クラウン−5−エーテル、およびジシクロヘキシル−12−クラウン−4−エーテルである。これらのうち、18−クラウン−6−エーテル、15−クラウン−5−エーテルから選択されることが最も好ましい。また、一般的に市販されているクラウンエーテルは不純物を含有している場合があるが、不純物、特にアルカリ金属を含むクラウンエーテルを用いると本発明の効果を十分発揮しないことがあるので注意が必要である。なお、本発明において許容される金属不純物の含有量は、組成物の用途や求められる半導体装置などに応じて変化するので一義的に決まらないが、一般的に半導体分野で許容されているレベル以下にすることが好ましい。
【0036】
(c)感光剤
また、本発明による感光性組成物は、感光剤を含んでいる。この感光剤の種類により、本発明による感光性シロキサン樹脂組成物はポジ型感光性組成物またはネガ型感光性組成物のいずれかとして機能する。
(c1)ポジ型感光性組成物用感光剤
本発明による感光性組成物が感光剤の作用によって、露光部がアルカリ現像液に可溶となって現像可能となる場合、この感光性組成物はポジ型感光性組成物である。このような作用をする感光剤のうち好ましいものは、ジアゾナフトキノン誘導体である。ジアゾナフトキノン誘導体は、フェノール性水酸基を有する化合物にナフトキノンジアジドスルホン酸がエステル結合した化合物であり、特に構造について制限されないが、好ましくはフェノール性水酸基を1つ以上有する化合物とのエステル化合物であることが好ましい。ナフトキノンジアジドスルホン酸としては、4−ナフトキノンジアジドスルホン酸、あるいは5−ナフトキノンジアジドスルホン酸を用いることができる。4−ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物はi線(波長365nm)領域に吸収を持つため、i線露光に適している。また、5−ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物は広範囲の波長領域に吸収が存在するため、広範囲の波長での露光に適している。露光する波長によって4−ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物、5−ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物を選択することが好ましい。4−ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物と5−ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物を混合して用いることもできる。
【0037】
フェノール性水酸基を有する化合物としては特に限定されないが、例えば、以下の化合物が挙げられる(名称はビスフェノールAを除いてそれぞれ商品名、本州化学工業株式会社製)。
【化1】

【0038】
【化2】

【0039】
【化3】

【0040】
(c2)ネガ型感光性組成物用感光剤
本発明による感光性組成物が感光剤の作用によって、露光部がアルカリ現像液に難溶となって現像可能となる場合、この感光性組成物はネガ型感光性組成物である。このような作用をする感光剤のうち好ましいものの例は光酸発生剤、光塩基発生剤、または光重合開始剤である。
【0041】
光酸発生剤としては、従来化学増幅型レジストにおける光酸発生剤として公知のものの中から任意のものを適宜選択して用いることができる。光酸発生剤としては、ナフトキノンジアジド化合物やオニウム塩などを例として挙げることができる。ナフトキノンジアジド化合物の例としては、4−ナフトキノンジアジドスルホン酸と、前記のフェノール性水酸基を有する化合物とのエステルが挙げられる。本発明においては、光酸発生剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
光酸発生剤であるオニウム塩の具体的な例としては、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、ホスニウム塩などを挙げることができる。好ましいオニウム塩としては、ジフェニルヨードニウムトリフレート、ジフェニルヨードニウムピレンスルホネート、トリフェニルスルホニウムトリフレート、トリフェニルスルホニウムナフタレンスルホネートなどが挙げられる。
【0043】
一方、本発明において好ましく用いられる光塩基発生剤としては、オルトニトロベンジルカルボメート類、α、α−ジメチル−3,5−ジメトキシベンジルカルバメート類などが挙げられる。
【0044】
オルトニトロベンジルカルボメート類としては、[[(2−ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]メチルアミン、[[(2−ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]プロピルアミン、[[(2−ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]ヘキシルアミン、[[(2−ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]シクロヘキシルアミン、[[(2−ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]アニリン、[[(2−ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]ピペリジン、ビス[[(2−ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]ヘキサメチレンジアミン、ビス[[(2−ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]フェニレンジアミン、ビス[[(2−ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]トルエンジアミン、ビス[[(2−ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]ジアミノジフェニルメタン、[[(2、6−ジニトロベンジル)オキシ]カルボニル]メチルアミン、[[(2、6−ジニトロベンジル)オキシ]カルボニル]プロピルアミン、[[(2、6−ジニトロベンジル)オキシ]カルボニル]ブチルアミン、[[(2、6−ジニトロベンジル)オキシ]カルボニル]ヘキシルアミン、[[(2、6−ジニトロベンジル)オキシ]カルボニル]アニリン、ビス[[(2、6−ジニトロベンジル)オキシ]カルボニル]エチレンジアミン、ビス[[(2、6−ジニトロベンジル)オキシ]カルボニル]ヘキサメチレンジアミン、ビス[[(2、6−ジニトロベンジル)オキシ]カルボニル]フェニレンジアミンなどが挙げられる。
【0045】
α、α−ジメチル−3,5−ジメトキシベンジルカルバメート類としては、[[(α、α−ジメチル−3,5−ジメトキシベンジル)オキシ]カルボニル]メチルアミン、[[(α、α−ジメチル−3,5−ジメトキシベンジル)オキシ]カルボニル]プロピルアミン、[[(α、α−ジメチル−3,5−ジメトキシベンジル)オキシ]カルボニル]ブチルアミン、[[(α、α−ジメチル−3,5−ジメトキシベンジル)オキシ]カルボニル]ヘキシルアミン、[[(α、α−ジメチル−3,5−ジメトキシベンジル)オキシ]カルボニル]シクロヘキシルアミン、[[(α、α−ジメチル−3,5−ジメトキシベンジル)オキシ]カルボニル]アニリン、[[(α、α−ジメチル−3,5−ジメトキシベンジル)オキシ]カルボニル]ピペリジン、ビス[[(α、α−ジメチル−3,5−ジメトキシベンジル)オキシ]カルボニル]エチレンジアミン、ビス[[(α、α−ジメチル−3,5−ジメトキシベンジル)オキシ]カルボニル]ヘキサメチレンジアミン、ビス[[(α、α−ジメチル−3,5−ジメトキシベンジル)オキシ]カルボニル]フェニレンジアミンなどが挙げられる。
【0046】
また、本発明において光重合開始剤は、従来知られている任意のものを用いることができる。このような光重合開始剤としては、具体的には2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1一フェニル−プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−(ベンゾイルオキシイミノ)−1−[4−(フェニルチオ)フェニル]−1−オクタノンなどが挙げられる。これらの光重合剤は、例えばBASFジャパン株式会社よりIRGACURE製品(商品名)として市販されている。これらの光重合剤は単独でまたは2種類以上を組合わせて使用することができる。
【0047】
(d)溶剤
本発明による組成物には、シロキサン樹脂、クラウンエーテル、感光剤、および必要に応じて用いられる添加剤を溶解あるいは分散させるために有機溶剤が用いられる。また、アルコキシシランの加水分解縮合反応の際の溶剤を、そのまま感光性組成物の有機溶剤として用いてもよいし、これに更に他の溶剤を加えてもよいし、反応で得られるシロキサン樹脂を溶剤から単離し、溶剤を含まないシロキサン樹脂を新たな溶剤に溶解あるいは分散するなどして組成物として用いてもよい。具体的には、前述の公知の有機溶剤を使用できるが半導体や液晶分野においてはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMEAということがある)などのエーテルエステル系が一般的に使用されているので好ましい。また、3−メチル−3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブチルアセテートなども好ましい溶剤として挙げられる。
【0048】
(e)その他の添加剤
本発明による感光性組成物は、必要に応じてその他の添加剤を含んでもよい。用いることができる添加剤としては、例えば、界面活性剤、硬化剤、増粘剤、平滑剤、クエンチャーなどが挙げられる。界面活性剤は、感光性組成物の塗布特性、基材への濡れ特性などを改善するために用いられる。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤などが知られているが、感光性組成物の保存安定性を損なう可能性のある極性基が少ない、ノニオン系界面活性剤が好ましい。
【0049】
本発明において用いることができるノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類やポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル、ポリオキシ脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレンポリオキシピロピレンブロックポリマー、アセチレンアルコール、アセチレングリコール、アセチレンアルコールのポリエトキシレート、アセチレングリコールのポリエトキシレートなどのアセチレングリコール誘導体、フッ素含有界面活性剤、例えばフロラード(商品名、住友スリーエム株式会社製)、メガファック(商品名、DIC株式会社製)、スルフロン(商品名、旭硝子株式会社製)、又は有機シロキサン界面活性剤、例えばKP341(商品名、信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。前記アセチレングリコールとしては、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオールなどが挙げられる。
【0050】
本発明による感光性組成物がネガ型感光性組成物である場合、未露光部位への酸あるいは塩基の拡散を防止し、正確なパターン幅を形成するためにクエンチャーを組み合わせて添加することが好ましい。クエンチャーは光酸発生剤が用いられる場合には、例えば含窒素有機化合物が用いられ、光塩基発生剤が用いられる場合には、例えばスルホニウム化合物またはカルボキシル基含有化合物が用いられる。
【0051】
含窒素有機化合物としては、例えば、複素芳香族、脂肪族アミン、アミド、アミノ酸などが挙げられるが、とりわけ複素芳香族、具体的にはピリジン、ピロール、イミダゾールまたはその誘導体が好ましい。
【0052】
また、スルホニウム化合物としては、下記一般式で示されるスルホニウム化合物が挙げられる。
+ OH
(式中、R、R、及び、Rは、それぞれ独立に、アルキル基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、又は、置換基を有していてもよいアリール基を示す。)
【0053】
また、カルボキシル基含有化合物としては、脂肪族カルボン酸、アミノ酸などが挙げられるが、とりわけ酢酸、プロピオン酸、リノール酸、4−アミノ安息香酸またはその誘導体が好ましい。
【0054】
これらの含窒素化合物と、スルホニウム化合物またはカルボキシル基含有化合物とは適宜組み合わせて用いられてもよい。
【0055】
以上の通りの本発明による感光性シロキサン樹脂組成物は、高い感度と優れた対熱リフロー耐性を両立しており、また保存安定性にも優れたものである。
【0056】
本発明における感光性組成物に含まれるシロキサン樹脂の含有量は、用いるシロキサン樹脂の種類や、組成物の用途などに応じて適切に調整され、特に限定されない。しかし、十分な塗布膜の厚さを得るためにはシロキサン樹脂の含有量が高いことが好ましく、また感光性組成物の経時安定性の観点からは一定以下であることが好ましい。このため、感光性組成物に含まれるシロキサン樹脂の含有量は、後述する溶媒などを含む、組成物の全重量を基準として1〜60重量%であることが好ましく、5〜50重量%であることがより好ましい。
【0057】
本発明による感光性組成物におけるクラウンエーテルの含有量は、組成物の全重量を基準として0.1〜20重量%であることが好ましく、0.5〜10重量%であることがより好ましい。0.1重量%未満だとアルカリ現像液に対する溶解性改良に十分な作用を示さないことがある。20%を超えると現像中または/およびリンス中に本感光性樹脂により形成したパターンが基板から剥離し易くなる傾向がある。
【0058】
本発明による感光性組成物がポジ型感光性組成物であり、ジアゾナフトキノン誘導体を感光剤として用いる場合、その添加量は、ナフトキノンジアジドスルホン酸のエステル化率、あるいは使用されるポリシロキサンの物性、要求される感度、露光部と未露光部との溶解コントラストにより最適量は異なるが、好ましくはシロキサン樹脂の全重量を基準として3〜20重量%であり、さらに好ましくは5〜15重量%である。ジアゾナフトキノン誘導体の添加量が3重量%より少ない場合、露光部と未露光部との溶解コントラストが低すぎて、現実的な感光性を有さないことがある。また、さらに良好な溶解コントラストを得るためには8重量%以上が好ましい。一方、ジアゾナフトキノン誘導体の添加量が20重量%より多い場合、ポリシロキサンとキノンジアジド化合物との相溶性が悪くなることによる塗布膜の白化が起こったり、熱硬化時に起こるキノンジアジド化合物の分解による着色が顕著になるため硬化膜の無色透明性が低下することがある。また、ジアゾナフトキノン誘導体の耐熱性は、ポリシロキサンに比較すると劣るため、添加量が多くなると熱分解により硬化物の電気絶縁性の劣化やガス放出の原因となって、後工程の問題になることがある。また、硬化物がモノエタノールアミン等を主剤とするようなフォトレジスト剥離液に対する耐性が低下することがある。なお、光ジアゾナフトキノン誘導体は1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上の複数種を混合して用いても良い。
【0059】
光酸発生剤、光塩基発生剤、または光重合開始剤の添加量は必要に応じて調整されるが、いずれもシロキサン樹脂の全重量を基準として、通常0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%である。0.1重量%以上とすることによりパターン形成が十分に行われ、20重量%以下とすることにより、均一な溶液が得られることから、保存安定性が向上する。なお、これらの感光剤は1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上の複数種を混合して用いても良い。
【0060】
また、本発明による感光性組成物における界面活性剤の含有量は、組成物中50ppm〜100,000ppmであることが好ましく、100ppm〜50,000ppmであることがより好ましい。少なすぎると界面活性が得られにくく濡れ性が良くならないことがあり、多すぎると泡立ちが激しく、塗布機に泡噛みなどが起こり、取り扱いが困難となることがあるので注意が必要である。
【0061】
本発明による感光性組成物における溶剤の含有量は、上記した各成分の含有量に応じて一義的に決まるが、組成物の粘度や形成される被膜の膜厚などに応じて調整される。過度に低いと十分な厚さの被膜を得ることが困難となる傾向があり、また過度に高いと組成物の経時安定性が劣化する傾向にあるので注意が必要である。
【0062】
また、本発明による感光性組成物に用いられる材料は、いずれも純度が高いものを用いることが好ましい。クラウンエーテルについては金属不純物の含有量が前記したように低いことが好ましい。そして、その他の材料についても、一般的に半導体や液晶などの電子材料用途を目的として精製されたものを用いることが好ましい。本発明による感光性組成物を半導体や液晶などの電子材料用途に用いる場合には、そのような生成された材料を用いることが好ましいのは当然であるが、金属不純物含有量が高いと、感度改良効果が小さくなることがあるので注意が必要である。なお、本発明において許容される金属不純物の含有量は、一般的に半導体や液晶などの電子材料用途で許容されているレベル以下にすることが好ましい。
【0063】
パターン形成方法
本発明による感光性組成物は、スカムの発生などが低減された、優れたパターン形成を可能とするものである。前記した感光性組成物を利用したパターン形成方法を説明すると以下のとおりである。
【0064】
(a)塗布
まず、前記した感光性組成物は、基材に塗布され、被膜が形成される。用いられる基材としては、特に限定されるものではないが、シリコン基板、ガラス板、金属板、セラミックス板等の各種基板が挙げられ、特に、絶縁膜を必要とする液晶ディスプレーのTFT表面等は、本発明の基板として好ましいものである。塗布方法は、特に限定されず、例えばスピンコート法、ディップコート法、ナイフコート法、ロールコート法、スプレーコート法、スリットコート法等の各種の方法を採用することができる。
【0065】
(b)プリベーク
こうして基板上に形成された被膜を、必要に応じてプリベークに付して、被膜中の有機溶剤を除去することができる。プリベーク温度は、組成物に含まれる有機溶剤の種類によって調整されるが、一般に温度が低すぎると、有機溶剤の残留分が多くなり、基板運搬機器などをおかす原因となる場合があり、一方、温度が高すぎると急激に乾燥され、塗布ムラが生じてしまう、またはシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂が昇華するなどの問題が起こる場合がある。このため、プリベーク温度は60〜200℃が好ましく、80〜150℃が更に好ましい。プリベークは、例えばホットプレート、オーブンなどの加熱装置を用いて行うことができ、プリベークの時間は、使用した有機溶剤の種類とプリベークの温度により異なるが、30秒〜10分が好ましく、1〜5分が更に好ましい。
【0066】
(c)露光
引き続いて、被膜は所望のパターンが形成されるように像様に露光される。露光の方法は従来知られている任意の方法により行うことができる。具体的にはマスク露光、走査露光など、が用いられる。また、光源には、一般的にはg線、h線、i線、およびg線とh線とi線とを組み合わせたブロードバンド、KrFエキシマーレーザー、ArFエキシマーレーザー、電子線などが用いられる。
【0067】
(d)アルカリ水溶液処理
露光後、被膜はアルカリ水溶液処理に付されて現像される。アルカリ水溶液処理の方法は、特に限定されず、アルカリ水溶液への浸漬(ディップ)、パドル、シャワー、スリット、キャップコート、スプレーといった一般的方法で行うことができる。
【0068】
アルカリ水溶液に含まれるアルカリ性化合物としては任意のものを用いることができるが、有機アルカリ性化合物を用いることが好ましい。有機アルカリ性化合物としては、例えば、第四級アンモニウム化合物、アミノアルコール類(アルカノールアミン類)、アンモニア水、アルキルアミン、複素環式アミンなどが挙げられる。第四級アンモニウム化合物としては、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド;以下、「TMAH」ということがある。)、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化トリメチルエチルアンモニウム、水酸化トリメチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム(コリン)、水酸化トリエチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、水酸化トリプロピル(2一ヒドロキシエチル)アンモニウム、水酸化トリメチル(2一ヒドロキシプロピル)アンモニウムが好ましいものとして挙げられる。これらの中で特に好ましいのは、TMAHである。
【0069】
無機アルカリ性化合物を含む水溶液は、ハードコート膜など電気特性や半導体特性への問題がない用途で用いることは構わないが、水溶液中にナトリウム、カリウムなどの金属イオンが含まれていることから、TFTの層間絶縁膜や平坦化膜など、電気特性、半導体特性を考慮しなければならないような用途での使用は好ましくない。
【0070】
本発明においては、アルカリ水溶液処理に用いられるアルカリ水溶液の濃度は、使用されるアルカリの種類、濃度、処理されるシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂の種類や被膜の膜厚など種々の要因によって変わり、特に限定されるものではない。また、アルカリ濃度範囲が高い程、クラウンエーテルによる効果が高くなる傾向があるが、電子材料分野で一般に用いられるアルカリ水溶液濃度から、アルカリ水溶液のアルカリ濃度範囲は一般に1%〜5%、好ましくは1.5〜3%である。
【0071】
アルカリ水溶液処理の処理時間は一般的には、15秒〜3分程度とされることが好ましい。製造効率の観点からは現像時間が短いことが好ましく、現像結果のばらつきを低減させるためには長いことが好ましい。また、処理温度は常温で行うことができる。
【0072】
(e)リンス処理
現像後の被膜を、引き続きリンス処理に付すことができる。このリンス処理は現像処理された被膜面に残留するアルカリ水溶液や残留物を水で洗い流すために行われる。したがって、被膜面のアルカリ水溶液等が洗い流されればいずれの方法によってもよい。例えば、被膜を水中に浸漬する、あるいは被膜面に水を流す、水をシャワー状に掛けるなど、従来リンス方法として知られた適宜の方法を採用することができる。リンス処理時間は、被膜上のアルカリ水溶液が除去される時間であればよく特に限定されるものではないが、例えば浸漬による場合では、30秒〜5分程度、流水による場合では15秒〜3分程度行えばよい。また、リンス処理で用いられる水としては、電気特性や半導体特性を必要とする用途であれば、イオン交換水または純水が好ましいものである。なお、浸漬によるリンスにおいては、浴を変えて複数回浸漬リンスを行ってもよい。
【0073】
(f)焼成(硬化)処理
被膜硬化時の焼成温度は、被膜が硬化する温度であれば任意に選択できる。しかし、焼成温度が低すぎると反応が十分に進行せず十分に硬化しないことがある。このために焼成温度は150℃以上であることが好ましい。しかしながら、添加剤として硬化剤を添加することで150℃前後であっても十分に硬化させることができる。また、OH基は極性を有するため、OH基が残存すると誘電率が高くなる傾向にある。したがって、シリカ質膜の誘電率を低く維持したい場合は高い温度、具体的には200℃以上で硬化させることがより好ましい。また、反対に焼成温度が高すぎると、熱エネルギーコストが増大してしまうため好ましくない。このため、焼成温度は450℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましい。また、焼成時間は特に限定されないが、15分〜3時間とされることが好ましい。焼成時間が長すぎると被膜にクラックが発生しやすくなるので注意が必要である。また、焼成処理は大気中で行うことが一般的であるが、必要に応じて窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うこともできる。また、加熱装置も特に限定されず、例えばホットプレート、オーブンなどを用いることができる。
【0074】
このようにして形成された被膜は現像後にスカムの発生が少ないうえ、シロキサン樹脂から形成された被膜の特徴である、高い透明性、高絶縁性、低誘電率といった優れた特性を維持したものである。
【0075】
以下に実施例、比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例、比較例により何ら限定されるものではない。
【0076】
製造例1(シロキサン樹脂溶液Xの製造)
メチルトリメトキシシラン47.6g(0.35モル)、フェニルトリメトキシシラン29.7g(0.15モル)、3,3´,4,4´−ベンゾフェノンテトラカルボン酸2無水物4.83g(0.015モル)を3−メチル−3−メトキシブタノ−ル200gに溶解し、30℃で撹拌しながら、34.2gの蒸留水を加え、1時間加熱撹拌し、加水分解・縮合を行なった。その後、水で5回以上洗浄し、酢酸エチル油層を回収した。次に、その酢酸エチル油層を濃縮し、PGMEAに置換し、メチルフェニルシルセスキオキサン縮重合物40%溶液を得た。
【0077】
得られたシロキサン樹脂は、重量平均分子量(Mw)1,250のメチルフェニルシルセスキオキサン(メチル基:フェニル基=7:3mol比)であった。
【0078】
製造例2(シロキサン樹脂溶液Yの製造)
メチルトリメトキシシラン47.6g(0.35モル)、フェニルトリメトキシシラン29.7g(0.15モル)、3,3´,4,4´−ベンゾフェノンテトラカルボン酸2無水物4.83g(0.015モル)を3−メチル−3−メトキシブタノ−ル200gに溶解し、40℃で撹拌しながら、34.2gの蒸留水を加え、1時間加熱撹拌し、加水分解・縮合を行なった。その後、水で5回以上洗浄し、酢酸エチル油層を回収した。次に、その酢酸エチル油層を濃縮し、PGMEAに置換し、メチルフェニルシルセスキオキサン縮重合物40%溶液を得た。
【0079】
得られたシロキサン樹脂は、重量平均分子量(Mw)1,500のメチルフェニルシルセスキオキサン(メチル基:フェニル基=7:3mol比)であった。
【0080】
なお、ここで重量平均分子量(Mw)の測定には、株式会社島津製作所製HPLC(GPCシステム)と、東ソー株式会社製GPCカラム(SuperMultiporeHZ−N(商品名) 2本)を用い、流量0.7ミリリットル/分、溶出溶媒テトラヒドロフラン、カラム温度40℃の分析条件で、単分散ポリスチレンを標準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定した。
【0081】
実施例1
製造例1で製造されたシロキサン樹脂Xを含む溶液を67.63g、界面活性剤KF−54(信越化学工業株式会社製)を0.14g、下記一般式で表されるナフトキノン感光剤P:
【化4】

を0.14g、溶剤としてPGMEA29.43g加えて攪拌溶解し、これにより30%溶液を作成した。この溶液をアドバンテック東洋株式会社製フィルター(47mmφ、PTFE、ろ過精度0.1μm)で0.05Mpa加圧ろ過し、アイセロ化学株式会社製クリーンポリエチレン容器「AC100−H」に受け、感光性シロキサン組成物を調製した。
【0082】
実施例2〜6および比較例1〜3
実施例1に対して、組成物の組成を表1に示す通りに変更した感光性組成物を調製した。なお、比較例3においては硬化剤としてニトロベンジルシルロヘキシルカルバメートを添加した。
【0083】
それぞれの感光性シロキサン組成物を、スピンコートにてシリコンウエハー上に塗布し、塗布後ホットプレート上100℃でプリベークし、2ミクロンの膜厚になるように調整した。プリベーク後、株式会社ニコン製FX−604型ステッパー(NA=0.1)のg、h線露光機を用い150mJ/cmで露光し、2.38%TMAH水溶液で60秒浸漬して現像、ついで純水にてリンスを行った。この処理により、10ミクロンのラインアンドスペース(L/S)パターン及びコンタクトホール(C/H)パターンを得た。
【0084】
スカム評価
現像後のパターン表面を光学顕微鏡(オリンパス株式会社製)を用いて100倍で観察した。
【0085】
対熱リフロー耐性および感度の評価
形成されたラインアンドスペースパターンに対して、コンタクトアライナーPLA−501(商品名、キャノン株式会社製)により500mJ/cm全面露光し、ついで窒素雰囲気下250℃で1時間焼成硬化を行った。焼成後のパターンを表面に対して垂直方向に切断し、その断面をサーマル電界放射型走査電子顕微鏡JSM−7001F(商品名、日本電子株式会社製)を用いて観察し、基材表面との接触角を測定することにより対熱リフロー耐性を評価した。ポジ型感光性組成物の場合にはこの接触角が大きいほど対熱リフロー耐性が優れているということができる。また、対熱リフロー耐性の評価と同様にして全面露光時の露光量を変化させ、パターンのL/S比が1:1となる露光量をEとした。
【0086】
保存安定性試験
調製した感光性組成物について、保存安定性を評価した。保存安定性は、感光性組成物を一か月室温放置し、動粘度が初期値より5%以上増大したものを不良、5%未満のものを良好とした。動粘度は株式会社離合社製自動粘度測定装置VMC−252(商品名)により測定した。
【0087】
透過率
得られた硬化膜の紫外可視吸収スペクトルを分光光度計MultiSpec−1500(商品名、島津製作所株式会社製)を用いて測定し、波長400nmでの透過率を求めた。
【0088】
比誘電率
それぞれの感光性組成物を、スピンコーターMS−A100(商品名、ミカサ株式会社製)を用い、スピンコート法にてシリコンウエハーに乾燥膜厚0.5μmに塗布し、それぞれ250℃の温度で1時間硬化させた。得られた硬化膜を水銀プローブ方式のキャパシタンス測定装置(Solid State Instrument社製)にて、C−V測定を実施し、得られた飽和キャパシタンスより誘電率も求めた。
得られた結果は表1に示す通りであった。
【0089】
【表1】

【0090】
実施例7および比較例4
感光剤としてIrgacure OXE02(商品名、BASFジャパン株式会社製)を用いて、表2に示す通りの組成物を調製し、実施例1と同様に評価した。得られた結果は表2に示す通りであった。これらの例の感光性組成物はネガ型感光性組成物であり、対熱リフロー耐性は接触角が大きいほど優れているということができる。
【0091】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラノール基またはアルコキシシリル基を有するシロキサン樹脂と、
クラウンエーテルと、
感光剤と、
有機溶剤と
を含んでなることを特徴とする感光性シロキサン樹脂組成物。
【請求項2】
前記クラウンエーテルが、アミノ基または4級アンモニウム基を含まないものである、請求項1に記載の感光性シロキサン樹脂組成物。
【請求項3】
前記クラウンエーテルが、x−クラウン−y−エーテル(ここでx=12、15、18、または21、y=x/3)、ならびにこれらのベンゾ縮合物およびシクロヘキシル縮合物からなる群から選択される、請求項1または2に記載の感光性シロキサン樹脂組成物。
【請求項4】
前記シロキサン樹脂が、シルセスキオキサン構造を有するものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の感光性シロキサン樹脂組成物。
【請求項5】
前記シロキサン樹脂の重量平均分子量が、400〜5,000である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の感光性シロキサン樹脂組成物。
【請求項6】
前記感光性シロキサン樹脂組成物がポジ型感光性組成物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の感光性シロキサン樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポジ型感光性組成物が、フェノール性水酸基を有する化合物にナフトキノンジアジドスルホン酸がエステル結合した化合物を含んでなる、請求項6に記載の感光性シロキサン樹脂組成物。
【請求項8】
前記感光性シロキサン樹脂組成物が光酸発生剤、光塩基発生剤、または光重合開始剤を含むネガ型感光性組成物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の感光性シロキサン樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の感光性シロキサン樹脂組成物を基材上に塗布して被膜を形成させ、
前記被膜を像用露光し、
アルカリ水溶液で処理し、
不活性ガスまたは大気中において150〜450℃で焼成する
ことを含んでなることを特徴とするパターン形成方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法で製造されたことを特徴とするシリカ質膜。