説明

感圧式指紋センサー用フィルム積層体及びこのフィルム積層体を用いた感圧式指紋センサー

【課題】指紋による凹凸の程度に応じた正確な圧力分布を得ることができ、それによって指紋の形状を明確に認識することを可能とする感圧式指紋センサー用フィルム積層体を提供すること。
【解決手段】第1及び第2の表面を有し且つ第1の表面上に乾式の成膜プロセスにより形成された導電層を備えるベースフィルムと、ベースフィルムの第1の表面に対して反対側の第2の表面上に設けられた弾性層とを備え、ベースフィルムは、厚さが6μm以下であり、弾性層は、厚さがベースフィルム以上であり、弾性体であり且つ10Pa以下の弾性率を有している感圧式指紋センサー用フィルム積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感圧式指紋センサー用フィルム積層体及びこのフィルム積層体を用いた感圧式指紋センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
指紋センサーの1種として、指先を押し付けた際に、指紋の凹凸による圧力分布を検出することにより指紋の形状を認識する感圧式指紋センサーが知られている。例えば、特許文献1や2に記載されているような、半導体マトリクス型微細面圧分布センサーやマトリクス型面圧力分布検出素子が知られている。また、特許文献3には、マトリックス電極を設けた基板上に、導電膜を設けた可撓性フィルムからなる指紋検出部を配置してなる圧力式指紋センサーにおいて、可撓性フィルムに設けた導電膜とは反対面に、粉末粒子を単粒子層の状態に敷き詰め固定して形成された粉体単層皮膜を設けた構成とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−288845号公報
【特許文献2】特開平6−288846号公報
【特許文献3】特開2002−228410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
感圧式指紋センサーには、指紋のパターンによる認識において高い精度を得るために、指紋による凹凸の程度に応じた正確な圧力分布を得ることができ、それによって指紋の形状を明確に認識できることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面は、第1及び第2の表面を有し且つ第1の表面上に乾式の成膜プロセスにより形成された導電層を備えるベースフィルムと、ベースフィルムの第1の表面に対して反対側の第2の表面上に設けられた弾性層とを備え、ベースフィルムは、厚さが6μm以下であり、弾性層は、厚さがベースフィルム以上であり、弾性体であり且つ10Pa以下の弾性率を有している感圧式指紋センサー用フィルム積層体である。
【0006】
一実施形態においては、感圧式指紋センサー用フィルム積層体は、弾性層のベースフィルムに対して反対の面側に、カバーフィルムを更に備えていてもよい。
【0007】
一実施形態においては、弾性層は、感圧性接着剤を含むものであってもよい。また、ベースフィルムは、ポリフェニレンスルフィドを含むものであってもよい。
【0008】
本発明の別の一側面は、マトリックス電極を有する基板と、この基板上に、マトリックス電極と導電層とが接するように配置された上記の感圧式指紋センサー用フィルム積層体とを備える感圧式指紋センサーである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、指紋による凹凸の程度に応じた正確な圧力分布を得ることができ、それによって指紋の形状を明確に認識することを可能とし、且つ安価で製造することができる感圧式指紋センサー用フィルム積層体、及びこれを備えており、指紋の形状を明確に認識することが可能な感圧式指紋センサーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】好適な実施形態の感圧式指紋センサー用フィルム積層体の断面構成を模式的に示す図である。
【図2】感圧式指紋センサー100を用いて、指紋の認識を行っている状態を模式的に示す図である。
【図3】本発明の実施例に係るフィルム1〜3をそれぞれ備える感圧式指紋センサーを用いた指紋認識装置により得られた結果を示す図である。
【図4】本発明の実施例に係るフィルム4〜5をそれぞれ備える感圧式指紋センサーを用いた指紋認識装置により得られた結果を示す図である。
【図5】比較例に係るフィルム6〜8をそれぞれ備える感圧式指紋センサーを用いた指紋認識装置により得られた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
図1は、好適な実施形態の感圧式指紋センサー用フィルム積層体の断面構成を模式的に示す図である。図1に示す感圧式指紋センサー用フィルム積層体10(以下、「フィルム積層体10」と略す。)は、導電層8、ベースフィルム6、弾性層4及びカバーフィルム2がこの順に積層された構造を有する。
【0013】
フィルム積層体10は、後述するようにマトリックス電極を有する基板上に配置されて、感圧式指紋センサーを構成することができる。その場合、フィルム積層体10は、導電層8が基板側に向くように配置され、カバーフィルム2側から指によって押圧されることになる。
【0014】
ベースフィルム6は、互いに対向する第1の表面6a及び第2の表面6bを有している。ベースフィルム6の厚さ(第1の表面6aと第2の表面6bとの距離)は、6μm以下である。ベースフィルム6の厚さが6μm以下であると、フィルム積層体10が指によって押圧された際に、指紋の凹凸に沿って生じるカバーフィルム2や弾性層4の変形に合わせて良好に変形することができる。その結果、指紋の凹凸による圧力分布を導電層8側に正確に伝えることが可能となる。このような効果をより良好に得るために、ベースフィルム6の厚さは5μm以下であると好ましく、2μm以下であるとより好ましい。ただし、ベースフィルム6が薄すぎると破断等を生じ易くなるおそれがあるので、ベースフィルム6の厚さは、1μm以上であることが好ましい。
【0015】
ベースフィルム6の第1の表面6aの表面上には、導電層8が設けられている。導電層8は、ベースフィルム6の第1の表面6a上に、乾式の成膜プロセスにより形成されたものである。ここで、乾式の成膜プロセスとは、気体中又は真空中にて対象物の表面上に膜を形成するプロセスであり、蒸着法やスパッタリング法による成膜プロセスが挙げられる。
【0016】
導電層8の厚さは、フィルム積層体10が指により押圧された際に、カバーフィルム2、弾性層4、ベースフィルム6の変形に合わせて十分に変形できる厚さであればよい。導電層8は、ベースフィルム6の第1の表面6a上に乾式の成膜プロセスにより形成されたものであるため、通常の乾式の成膜プロセスの条件下で形成されたものであれば、好適な厚さを有するものとなる。例えば、導電層8の厚さは、ベースフィルムよりも十分に薄いことが好ましく、1〜100nmであるとより好ましく、10〜50nmであるとさらに好ましい。
【0017】
ベースフィルム6は、乾式の成膜プロセスによる導電層8の形成が可能な特性(耐熱性や強度)を有する材料からなるものであればよく、そのような特性を備える樹脂材料から構成されると好ましい。ベースフィルム6は、樹脂材料からなる樹脂フィルムであると好ましく、例えば、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル等からなる樹脂フィルムが挙げられる。なかでも、ポリフェニレンスルフィド(PPS)は、6μm以下の厚さとしても高い耐熱性や強度を発揮できる。そのため、乾式の成膜プロセスによる導電層8の形成が可能であり、またフィルム積層体10としたときに高い強度を発揮できることから、ベースフィルム6の材料として好適である。
【0018】
導電層8の材料は、乾式の成膜プロセスにより形成することが可能であり、且つ導電層8を形成したときに導電性を発揮し得るものであればよい。導電層8の材料としては、例えば、金等の導電性に優れる金属材料や、ITO等の導電性を有する酸化物材料が挙げられる。
【0019】
弾性層4は、ベースフィルム6の第2の表面6b上に設けられている。この弾性層4は、厚さが少なくともベースフィルム6の厚さよりも大きい。弾性層4の厚さは、6〜20μmであると好ましく、7〜15μmであるとより好ましい。好適な厚さを有するほど、ベースフィルム6を良好に支持することができ、ベースフィルム6の剥離や変形等を防止し易くなる傾向にある。また、指による押圧及び除圧が繰り返し行われても元の形状を維持し易くなるため、感圧式指紋センサーの耐久性が向上する傾向にもある。
【0020】
弾性層4は、弾性体である。ここで、弾性体とは、力が加えられることにより変形を生じた際に、その変形を戻すように復元力が働く物体である。弾性層4が弾性体であることで、フィルム積層体10は、カバーフィルム2側からの指による押圧及び除圧に伴う、指紋の凹凸に沿う変形及び元の形状への復元を繰り返し行うことが可能となる。
【0021】
また、弾性層4は、10Pa以下の弾性率を有する。弾性層4が10以下の弾性率を有することで、フィルム積層体10がカバーフィルム2側から指により押圧された際、指紋の凹凸が変形するよりも、弾性層4の変形の方が生じ易くなる。これにより、指による押圧時に指紋の凹凸が潰されることが少なくなるので、指の押圧によって生じる指紋の凹凸に沿ったフィルム積層体10の形状変化に、本来の(押圧する前の)指紋の凹凸が反映され易くなる。その結果、このフィルム積層体10を感圧式指紋センサーに適用した場合に、正確に指紋の認識を行うことが可能となる。
【0022】
上記の効果をより良好に得る観点からは、弾性層4の弾性率は、5×10Pa以下であると好ましく、10Pa以下であるとより好ましい。ただし、弾性層4の弾性率が小さすぎると、指の押圧以外の要因による変形が生じ易くなり、正確な指紋認識を行うことが困難となるおそれがある。そのため、弾性層4の弾性率は、10Pa以上であると好ましく、10Pa以上であるとより好ましい。
【0023】
弾性層4の弾性率は、例えば、弾性層4のみを取り出し、その面方向に対して垂直な方向に加重を加えた際の、厚さの変化を測定することで測定することができる。すなわち、単位面積あたりの加重Kが作用した際に初期の厚さLがLになったとすると、その場合の弾性率は、K/(1−L/L)で表される。なお、後述するように、弾性層4は必ずしも単一の材料である必要はなく、複数の材料を積層した構造を有してもよい。例えば、弾性率がE、E、E、E…である材料1、2、3、4…が、弾性層4全体の厚さに対しそれぞれx、x、x、x…(x+x+x+x+…=1)という割合となる厚さを有するように積層されて弾性層4を構成している場合、そのバルク体としての弾性率Eも同様に上述の方法で測定できる。その場合、バルク体としての弾性率Eと、個々の成分の弾性率(E、E、E、E…)との関係は次の式で与えられる。
1/E=x/E+x/E+x/E+x/E+…
【0024】
弾性層4の材料は、弾性層4が弾性体となり且つ上記の特定の弾性率を有するようにすることができる材料である。また、ベースフィルム6やカバーフィルム2に対する接着性を有する材料であるとより好ましい。弾性層4の材料としては、感圧性接着剤(PSA)が好ましい。例えば、アクリル系PSA、ウレタン系PSA、シリコーン系PSA、ゴム系PSA等を適用することができ、なかでもアクリル系PSAが好適である。
【0025】
カバーフィルム2は、弾性層4のベースフィルムに対して反対の面側に設けられている。カバーフィルム2を備えることにより、指等の接触により弾性層4がダメージを受けることが少なくなり、フィルム積層体10やこれを備える感圧式指紋センサーの耐久性が向上する傾向にある。また、弾性層4が粘着性を有する場合などは、粘着性の無いカバーフィルム2を設けることで、べたつきの無い使用感を得ることが可能となるほか、異物が付着して指紋の認識感度が低下することを防止することができる。
【0026】
カバーフィルム2の厚さは、指により押圧された場合に指紋の凹凸に沿って変形することができ、凹凸形状を弾性層4に十分に伝えることができる厚さであると好ましい。例えば、カバーフィルム2の厚さは、少なくとも弾性層4よりも薄いことが好ましく、5〜15μmであるとより好ましく、6〜12μmであるとさらに好ましい。
【0027】
カバーフィルム2の材料は、上記の通り、押圧時に指紋の凹凸に沿って変形可能な特性を有するものであれば特に制限されない。例えば、プラスチック材料が挙げられ、より具体的には、ポリエステルや、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが挙げられる。
【0028】
フィルム積層体10は、上述した各層を適宜積層することによって製造することができる。例えば、乾式の成膜プロセスにより導電層8が表面に形成されたベースフィルム6、及び、弾性層4が表面に形成されたカバーフィルム2をそれぞれ準備し、それらを、ベースフィルム6と弾性層4とが接するように積層することで、フィルム積層体10を製造することができる。
【0029】
導電層8が表面に形成されたベースフィルム6は、ベースフィルム6上に、蒸着法やスパッタリング法等の乾式プロセスにより導電層8形成することによって製造することができる。また、弾性層4が表面に形成されたカバーフィルム2は、例えば、カバーフィルム2の表面上に、弾性層4の構成材料を溶媒に溶解した溶液を塗布し、乾燥させる溶液塗布プロセスによって形成することができる。そして、これらのフィルムをラミネーター等を用いて互いに圧着させることで、導電層8が表面に形成されたベースフィルム6と、弾性層4が表面に形成されたカバーフィルム2とを積層してフィルム積層体10を得ることができる。
【0030】
ただし、本実施形態において、ベースフィルム6の厚さは6μm以下であるが、特にベースフィルム6が樹脂材料により構成される場合、その厚さは通常のプラスチックフィルムに比して極めて薄いものとなる。そのため、上記のような圧着を行う場合、導電層8が表面に形成されたベースフィルム6が十分な剛性や強度を有しておらず、その取り扱いが困難であったり、また圧着時に当該フィルムの破断が生じたりするおそれがある。
【0031】
そこで、好適な実施形態では、導電層8が表面に形成されたベースフィルム6に対し、導電層8側にPET等の十分な強度を有する支持フィルムを設け、積層体の状態で上述した圧着を行うようにしてもよい。こうすれば、薄いベースフィルム6が支持フィルムによって支持され、積層体として十分な強度が得られるので、圧着時において、取り扱い性が向上するほか、薄いベースフィルム6の破断等を抑制することが可能となる。圧着後には、支持フィルムを剥離することにより、好適な実施形態のフィルム積層体10を得ることができる。なお、支持フィルムは、例えば、PSA等の粘着層を介して導電層8に貼り付けてもよく、その場合は、圧着後に支持フィルム及び粘着層を剥離すればよい。
【0032】
本実施形態のフィルム積層体10は、上述した構成を有し、また上述したような製造方法により形成されるが、フィルム積層体の構造及び製造方法は、必ずしも上記の実施形態に限定されない。
【0033】
すなわち、上述した実施形態では、弾性層4は、1種類の材料のみから構成される単一の層であったが、必ずしも単一の層である必要はなく、異なる材料や特性の層が複数層積層して構成されるものであってもよい。例えば、弾性層4は、所定の弾性体からなる層の両側に、ベースフィルム6やカバーフィルム2と接着するための接着層が設けられた積層構造を有していてもよい。その場合、複数の層により構成される弾性層4が、当該層の全体として弾性体であり、10Pa以下の弾性率を有し、且つ上述した厚さの条件を満たしていればよい。また、この場合、複数の層により構成される弾性層4に対して、上述した弾性率の測定方法を適用すればよい。
【0034】
ベースフィルム6やカバーフィルム2も同様に、必ずしも1種類のみから構成される単一の層である必要はなく、複数の層が積層されて構成されたものであってもよい。この場合も、複数の層からなるベースフィルム6やカバーフィルム2が、それぞれ全体として好適な厚さ等を有していればよい。
【0035】
また、フィルム積層体は、必ずしもカバーフィルムを有していなくてもよい。例えば、弾性層4そのものが十分な耐久性を有し、また使用感を損なわない特性を有していれば、カバーフィルムを有していなくても、フィルム積層体は感圧式指紋センサーにて十分に機能することができる。
【0036】
さらに、フィルム積層体10は、上述した方法以外の方法によって製造することもできる。例えば、フィルム積層体10は、乾式の成膜プロセスにより導電層8が設けられたベースフィルム6、或いはこれを支持フィルムにより支持した積層体のベースフィルム6上に、弾性層4及びカバーフィルム2を順次積層することによって形成してもよい。また、弾性層4を形成するためのフィルムを別途形成しておき、導電層8が設けられたベースフィルム6(や更に支持フィルムを備える積層体)と、弾性層4を形成するためのフィルムと、カバーフィルムとを重ね、これらをまとめて圧着することによっても、フィルム積層体10を製造することができる。
【0037】
次に、上述した好適な実施形態のフィルム積層体10を、感圧式指紋センサーに適用する場合の例について説明する。図2は、フィルム積層体10が適用された感圧式指紋センサー100を用いて、指紋の認識を行っている状態を模式的に示す図である。図2中、上側は、指Fが感圧式指紋センサー100を押圧している状態を示しており、下側は、指Fと感圧式指紋センサー100との接触部を拡大して示している。
【0038】
図2に示されるように、感圧式指紋センサー100は、所定の指紋認識装置200に設けられており。この感圧式指紋センサー100を指Fによって押圧することで、指Fが有している指紋のパターンが認識される。
【0039】
感圧式指紋センサー100は、基板20上にフィルム積層体10が設けられた構成を有している。ここで、基板20のフィルム積層体10側の表面には、複数のマトリックス電極22が設けられている。これらのマトリックス電極22は、基板20上に、所定の間隔で格子状に配置されている。マトリックス電極22は、例えば、それぞれ図示しないスイッチング素子の出力電極となっている。なお、フィルム積層体10は図1に示したものと同一の構造を有するため、図2では詳細な構造の記載を省略する。
【0040】
感圧式指紋センサー100において、フィルム積層体10は、導電層8が基板20と対向するように設けられている。フィルム積層体10と基板20とは、フィルム積層体10が指等によって押圧されない状態では、それらの導電層8とマトリックス電極22とが接触しないように互いに離れて配置されている。
【0041】
図2に示すように、指Fにより感圧式指紋センサー100が押圧されたときには、指紋の凹凸形状に沿ってフィルム積層体100が変形する。これにより、指紋の凹凸に対応して、導電層8がマトリックス電極22と接触する部分と接触しない部分とが生じることになる。この接触の程度に応じて、導電層8とマトリックス電極22との間の電圧が異なるので、マトリックス電極が設けられている各部位の電圧を測定することにより、指紋の凹凸に対応した電圧の分布が得られるようになる。この電圧の分布に基づいて、指Fが有している指紋のパターンを認識することができる。
【0042】
感圧式指紋センサー100は、上述した実施形態のフィルム積層体10を備えていることから、次のような優れた効果を奏することができる。すなわち、まず、フィルム積層体10は、弾性体からなり上述した特定の弾性率を有する弾性層4を備えることから、指Fにより押圧された場合、指紋による凹凸を過度に潰してしまうことがなく、その凹凸に合わせて変形することができる。さらに、フィルム積層体10が備えるベースフィルム6は、その厚さが6μm以下であることから、指Fの押圧により変形した弾性層4に追従して十分に変形することができ、指紋による凹凸を正確に導電層8側の凹凸形状として伝えることができる。その結果、感圧式指紋センサー100によれば、指紋が本来有している凹凸の程度に正確に対応するように、フィルム積層体10における導電層8と基板20におけるマトリックス電極22との接触を生じさせることができ、その結果、精度の高い指紋認識を行うことが可能となる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
[感圧式指紋センサーの作製]
まず、指紋センサー(BLP−100、BMF社製)を準備した。この指紋センサーの表面に設けられていたフィルムを、以下の各種のフィルム1〜8にそれぞれ置き換えて、各種の感圧式指紋センサーを作製した。
【0045】
(フィルム1:実施例の感圧式指紋センサー用フィルム積層体)
表面に厚さ200〜500Åの金膜がスパッタリングにより形成された、厚さ2μmのポリフェニレンスルフィド(PPS)フィルム(Trelina(登録商標)、東レ製)からなるベースフィルムと、厚さ10μmのアクリル系PSAからなる弾性層と、厚さ6μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムからなるカバーフィルムとがこの順で積層されたフィルム積層体。
【0046】
(フィルム2:実施例の感圧式指紋センサー用フィルム積層体)
表面に厚さ200〜500Åの金膜がスパッタリングにより形成された、厚さ2μmのPPSフィルム(Trelina(登録商標)、東レ製)からなるベースフィルムと、厚さ25μmのアクリル系PSAからなる弾性層と、厚さ6μmのPETフィルムからなるカバーフィルムとがこの順で積層されたフィルム積層体。
【0047】
(フィルム3:実施例の感圧式指紋センサー用フィルム積層体)
表面に厚さ200〜500Åの金膜がスパッタリングにより形成された、厚さ2μmのPPSフィルム(Trelina(登録商標)、東レ製)からなるベースフィルムと、厚さ50μmのアクリル系PSAからなる弾性層と、厚さ6μmのPETフィルムからなるカバーフィルムとがこの順で積層されたフィルム積層体。
【0048】
(フィルム4:実施例の感圧式指紋センサー用フィルム積層体)
表面に厚さ200〜500Åの金膜がスパッタリングにより形成された、厚さ6μmのPETフィルムからなるベースフィルムと、厚さ10μmのアクリル系PSAからなる弾性層と、厚さ6μmのPETフィルムからなるカバーフィルムとがこの順で積層されたフィルム積層体。
【0049】
(フィルム5:実施例の感圧式指紋センサー用フィルム積層体)
表面に厚さ200〜500Åの金膜がスパッタリングにより形成された、厚さ6μmのPETフィルムからなるベースフィルムと、厚さ25μmのアクリル系PSAからなる弾性層と、厚さ6μmのPETフィルムからなるカバーフィルムとがこの順で積層されたフィルム積層体。
【0050】
(フィルム6:比較例)
厚さ2μmのPPSフィルム(Trelina(登録商標)、東レ製)のみからなるフィルム。
【0051】
(フィルム7:比較例)
厚さ6μmのPETフィルムのみからなるフィルム。
【0052】
(フィルム8:比較例)
厚さ9μmのPETフィルムのみからなるフィルム。
【0053】
[指紋認識装置の作製及びその評価]
上述したフィルム1〜8をそれぞれ備える感圧式指紋センサーを、それぞれコントローラIC(BCT−100、BMF社製)につないで、各種の指紋認識装置を形成した。そして、これらの指紋認識装置を用いて指紋認識を行った。各指紋認識装置により認識された指紋の形状を画像化した結果を、図3〜図5にそれぞれ示す。図3(a)〜(c)は、本発明の実施例に係るフィルム1〜3をそれぞれ備える感圧式指紋センサーを用いた指紋認識装置により得られた結果を、図4(a)〜(b)は、本発明の実施例に係るフィルム4〜5をそれぞれ備える感圧式指紋センサーを用いた指紋認識装置により得られた結果を、図5(a)〜(c)は、比較例に係るフィルム6〜8をそれぞれ備える感圧式指紋センサーを用いた指紋認識装置により得られた結果を示す。
【0054】
図3〜5に示されるように、本発明の実施例に係る感圧式指紋センサー用フィルム積層体であるフィルム1〜5を用いた場合は、単なるプラスチックフィルムであるフィルム6〜8(比較例)を用いる場合に比して、鮮明な指紋の形状を示す画像が得られており、指紋の形状を明確に認識することが可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0055】
2…カバーフィルム、4…弾性層、6…ベースフィルム、6a…第1の表面、6b…第2の表面、8…導電層、10…感圧式指紋センサー用フィルム積層体、20…基板、22…マトリックス電極、100…感圧式指紋センサー、200…指紋認識装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の表面を有し且つ前記第1の表面上に乾式の成膜プロセスにより形成された導電層を備えるベースフィルムと、前記ベースフィルムの前記第1の表面に対して反対側の前記第2の表面上に設けられた弾性層と、を備え、
前記ベースフィルムは、厚さが6μm以下であり、
前記弾性層は、厚さが前記ベースフィルム以上であり、弾性体であり且つ10Pa以下の弾性率を有している、
感圧式指紋センサー用フィルム積層体。
【請求項2】
前記弾性層の前記ベースフィルムに対して反対の面側に、カバーフィルムを更に備える、請求項1記載の感圧式指紋センサー用フィルム積層体。
【請求項3】
前記弾性層は、感圧性接着剤を含む、請求項1又は2記載の感圧式指紋センサー用フィルム積層体。
【請求項4】
前記ベースフィルムは、ポリフェニレンスルフィドを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の感圧式指紋センサー用フィルム積層体。
【請求項5】
マトリックス電極を有する基板と、
前記基板上に、前記マトリックス電極と前記導電層とが対向するように配置された請求項1〜4のいずれか一項に記載の感圧式指紋センサー用フィルム積層体と、
を備える感圧式指紋センサー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−247365(P2012−247365A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120763(P2011−120763)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】