説明

感圧性接着シートの製造方法およびその装置

【課題】搬送される支持体によって密閉された塗工部に持ち込まれる酸素を遮断し、塗工部内と光照射部内を安定した低酸素濃度に保つようにする。
【解決手段】密閉連結された支持体に光重合性組成物を塗布する塗工部3と塗布後の光重合性組成物層に光を照射する光照射部4において、当該塗工部3の支持体1の入口側に少なくとも1つの不活性ガスチャンバ2を設け、第1不活性ガス供給部7から供給した不活性ガスを当該不活性ガスチャンバ2から支持体1に向けて吹き付けるとともに、塗工部3と光照射部のそれぞれの密閉空間に、不活性ガスを供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状、テープ状あるいはフィルム状などの支持体上に塗工された光重合性組成物層に光を照射することによって、当該光重合性組成物層を光重合させて感圧性接着剤層を得る感圧性接着シートの製造方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からフィルム状などの支持体の上に光重合性組成物層を適宜の厚さに塗工し、塗工後の光重合性組成物層を光照射により重合させて、感圧性粘着剤層を形成する感圧性接着シートの製造方法が知られている。
【0003】
この方法では、光重合性組成物層への光照射雰囲気中に存在する酸素によって重合反応が阻害されるので、酸素を除去する工夫が施されている。例えば、不活性ガス雰囲気中で支持板に塗工された光重合性組成物層に光照射したり、光重合性組成物層の塗工された支持体の塗工面に光透過性フィルムを貼り合わせて空気を遮断した状態で光照射したりしている(特許文献1および2を参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平3−285975号
【特許文献2】特開平3−285974号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法では、次のような問題が生じている。
【0006】
不活性ガス雰囲気中で光重合性組成物層に光照射する場合、光重合性組成物中の蒸発しやすいモノマーが蒸発するといった問題がある。
【0007】
重合反応に伴って発生する熱などによっても光重合性組成物層の表面からモノマーの一部が蒸発するので、沸点の異なる2種類以上のモノマーの混合物を光重合性組成物層として用いている。この場合、モノマー間で蒸発量に偏りが生じる。その結果、モノマーの組成比が変化し、目標としている粘着特性が低下するといった問題もある。
【0008】
また、不活性ガス雰囲気中の酸素濃度は、不活性ガスの流量を増やせば低酸素濃度にすることは可能である。しかしながら、不活性ガスの流量が増すほど雰囲気中で風が生じやすくなるので、当該風の影響より光重合性組成物層の表面からモノマーの一部が蒸発するのを促進させるといった問題がある。また、不活性ガスの使用量の増加に伴う費用負担が嵩むといった不都合がある。
【0009】
また、支持体の光重合性組成物層の塗工面に光透過性フィルムを貼り合わせた状態で光照射を行う方法によれば、上記のような問題は生じない。しかしながら、光透過性フィルムを支持体上の光重合性組成物層から容易に引き剥がすために、光透過性フィルムにシリコーン樹脂を塗るなどの離型処理を施す必要がある。したがって、処理工程の増加および費用が嵩むとともに、離型処理によって工程内が汚染されるおそれもある。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、モノマーの蒸発やこれによる粘着特性の低下を防止することができるとともに、低酸素濃度を安定に保つことができる感圧性接着シートの製造方法およびその装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、支持体に塗工された光重合性組成物層を重合反応させて感圧性接着剤層を得る感圧性接着シートの製造方法であって、
密閉連結された支持体への光重合性組成物を塗工する塗工部と塗工後の光重合性組成物層に光を照射する光照射部において、当該塗工部の支持体の入口側に少なくとも1つの不活性ガス供給手段を設け、支持体に向けて不活性ガスを吹き付けることを特徴とする。
【0012】
上記方法によれば、塗工部の入口側で支持体に不活性ガスを吹き付けられるので、塗工部に搬送される支持体によりその内部に一緒に持ち込まれる酸素が遮断され、塗工部内の酸素量を低減することができる。塗工部の密閉空間内に持ち込まれる酸素量が少ないので、当該塗工部および当該塗工部に連結密閉された光照射部内の酸素を置換するために供給する不活性ガスの供給量も低減できる。したがって、各密閉空間内においては、少ない不活性ガスの供給量で酸素濃度を一定に保ちやすくできる。
【0013】
上述の方法において、不活性ガス供給手段はチャンバであり、当該チャンバ内で不活性ガスを充填し続ける。
【0014】
この方法によれば、不活性ガスを充填し続けることによりチャンバ内の内部圧力が、大気圧より高くなり、支持体の搬送経路に形成されたチャンバの入口側と塗工部の入口側とに向かって不活性ガスの排気流が形成される。したがって、チャンバの入口から支持体と一緒に持ち込まれる酸素を遮断することができるとともに、塗工部内への不活性ガスの供給も同時に行うことができる。
【0015】
また、上述の方法において、チャンバ内で支持体に対して搬送方向とは逆方向きの斜め方向に不活性ガスを吹き付けて入口に向かう排気流を形成してもよい。
【0016】
この方法によれば、チャンバの入口から外に流れる不活性ガスの流速が速くなるので、塗工部内への酸素の持ち込みを確実の防止することができる。
【0017】
なお、上述の方法において、前記塗工部と光照射部の密閉空間内に不活性ガスを充填してもよい。
【0018】
この場合、塗工部と光照射部の密閉空間の内部圧力をチャンバの内部圧力よりも高くすることが好ましい。
【0019】
この方法によれば、塗工部と光照射部の内部圧力が、チャンバの内部圧力および大気圧よりも高いので、塗工部内および光照射部内への酸素の持ち込みを防止することができる。
【0020】
また、上述の方法において、塗工部と光照射部の密閉空間内を搬送される光重合性組成物の塗工面が上向きの支持体よりも低い位置から不活性ガスを供給することが好ましい。
【0021】
この方法によれば、支持体に塗工された光重合性組成物に不活性ガスが直接に吹き付けられないので、光重合性組成物層に含まれるモノマーの蒸発が抑制される。したがって、安定した特性の感圧性接着剤を得ることができる。
【0022】
また、上述の方法において、光照射部を搬送される支持体の背面を冷却してもよい。
【0023】
支持体の背面を冷却することにより、光重合性組成物層に含まれるモノマーの蒸発を確実に抑制することができる。
【0024】
なお、支持体を冷却する場合、支持体の背面と接触する冷却ロール内に冷却された不活性ガスを循環させた後、当該不活性ガスを塗工部と光照射部に供給することが好ましい。
【0025】
この方法によれば、不活性ガスを冷却用の冷媒として利用するとともに、冷却使用後の不活性ガスを再利用して塗工部と光照射部に供給するので、不活性ガスの使用量が低減でき、ひいてはランニングコストを低減させることができる。
【0026】
また、この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
【0027】
すなわち、支持体に塗工された光重合性組成物を重合反応させて感圧性接着剤層を得る感圧性接着シートの製造装置であって、
搬送されてくる前記支持体に向けて不活性ガスを吹き付ける少なくとも1つの不活性ガス供給手段と、
前記不活性ガス供給手段と連結配備され、密封空間内で支持体に光重合性組成物を塗工する塗工部と、
前記塗工部と連結配備され、密封空間内で支持体に塗工された光重合性組成物層に光を照射する光照射部と、
前記光照射部で感圧性接着剤層の形成された支持体を回収する回収部と、
を備えたことを特徴とする。
【0028】
(作用・効果) この構成によれば、上記方法を好適に実施することができる。
【0029】
なお、上記構成において、塗工部と光照射部の密封空間内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段を備えることが好ましい。
【0030】
この構成によれば、支持体の搬送に伴う塗工部内と光照射部内への酸素の持ち込みを確実の防止することができるので、その内部の酸素濃度を一定に保ちやすくなる。
【0031】
なお、上記構成において、不活性ガス供給手段は、光照射部を搬送される支持体の背面と接触する冷却ロール内に冷却された不活性ガスを循環させた後、前記塗工部と光照射部の密封空間内に当該不活性ガスを供給するよう構成することが好ましい。
【0032】
この構成によれば、不活性ガスを冷却用の冷媒として利用するとともに、冷却使用後の不活性ガスを再利用して塗工部と光照射部に供給するので、使用量が低減でき、ひいてはランニングコストを低減させることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の感圧性接着シートの製造方法およびその装置によれば、密閉された塗工部と光照射部に外部から酸素が浸入するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】感圧性接着シート製造装置の概略構成を示す正面図である。
【図2】光源部および光照射窓部の拡大正面図である。
【図3】具体例3における不活性チャンバ周りの拡大図である。
【図4】変形例装置における不活性チャンバ周りの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【0036】
図1は、本発明に係る感圧性接着シートの製造装置の概略構成図である。なお、本実施例では、この感圧性接着シートの製造装置により、感圧性接着シートとして、例えば、支持体を剥離ライナーとして使用する両面接着シートを製造する場合を例に挙げて説明する。
【0037】
本実施例に係る感圧性接着シートの製造装置は、図1に示すように、シート状、テープ状あるいはフィルム状などの支持体(基材)1の搬送経路の上流から不活性ガスチャンバ2、塗工部3、光照射部4および巻き取り部5の順番で配備されている。塗工部3および光照射部4は、密閉された空間内で支持体1を搬送しながら各処理を行う。また、不活性チャンバ2、塗工部3および光照射部4は、密閉空間によって連結されている。以下、各部の構成を詳細に説明する。
【0038】
不活性ガスチャンバ2は、支持体1を挟んで上下一対のチャンバで構成されている。各チャンバは、減圧弁6を備えた流路を介して第1不活性ガス供給部7と連通接続されている。また、流路上には、減圧弁6を挟んで一対の圧力計Pおよび減圧弁6の下流側に1個の流量計Fが備えられている。
【0039】
各チャンバは、内部に供給される不活性ガスを均一に噴射できるように、その吹き出し口に流量調整用のパンチングメタルが備えられている。パンチングメタルは、孔の大きさが小さく、かつ数が多いほど不活性ガスを均一に噴射できる。また、本実施例装置の場合、例えば、噴射する不活性ガス流量は、最大で2400L/min.まで可能である。ただし、コスト面を考慮すれば少ないほど好ましい。しかしながら、少なすぎると低酸素濃度にはできないので、より好ましくは7〜108L/min.である。
【0040】
一対の圧力計Pは、減圧弁6の前後の圧力を検出し、当該検出結果を制御部に送信する。また、流量計Fにより、減圧弁6から下流を流れる不活性ガスの流量を検出し、当該検出結果を制御部に送信する。制御部は、圧力計Pと流量計の検出結果に基づいて、予め決めた設定値の各検出値が一致しているかどうかをモニタリングし、必要に応じて減圧弁6の開度を調節する。
【0041】
塗工部3は、密閉空間内に供給用の光重合性組成物9を貯留する給液槽8と、給液槽8から給液された光重合性組成物9を支持体1の表面に所定幅で塗工および搬送するためのコーティングロール10と、支持体1に塗工された光重合性組成物9の厚みを調整するメタリングロール11からなるリバースコータを備えている。なお、塗工部3は、リバースコータに限定されるものではなく、グラビアコータなど他の塗工方式のものであってもよい。すなわち、光重合性組成物9の厚み調整の手法も各塗工方式に合わせて適宜に変更実施することが可能である。
【0042】
また、塗工部3は、その密閉空間内に不活性ガスが供給されるように流路を介して第2不活性ガス供給部12と連通接続されている。
【0043】
光照射部4は、密閉空間の外部上方に配備した光源部13と、密閉空間内に配備した支持体1を搬送するコンベア14と、密閉空間の天井に備えた光照射窓部15から構成されている。
【0044】
光源部13は、可視光線や紫外線などの光を照射する光源16と、この光源16からの光を反射させて支持体1に向けるリフレクタ17と、光源16からの光を透過させる光透過窓部18とを備えている。
【0045】
光源部13からの光は、支持体1の幅方向に対して均一な光照度となるように調整されている。この光源16としては、直管式の光源を採用しており、図1に示すように、光源16の長手方向が支持体1の搬送方向と直交するように複数本(例えば、8本)の光源16が支持体1の搬送経路上に沿って並べて配置されている。個々の光源16は、例えば、独立して照射条件を設定できるようになっている。例えば、前半部分の光源16(例えば、支持体1の入力側から数えて4本目までの光源16)は、後半部分の光源16(支持体1の入力側から数えて5本目から8本目までの光源16)よりもの輝度の低い紫外線を照射するというような設定が可能である。
【0046】
光源16としては、例えば、無電極ランプ、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、ケミカルランプ、ブラックライトランプなどがあげられる。
【0047】
コンベア14は、外部に配備された冷媒供装置19から供給される冷媒を内部に循環可能な複数個の冷却ロール20で構成されている。
【0048】
コンベア14は、光源16からの熱や、光源16からの光により支持体1の光重合性組成物層9が重合反応し、この化学反応により生じる重合熱などによって温度上昇する光重合性組成物層9を所定の温度範囲内となるように冷却する。
【0049】
具体的に、その冷却は、重合中の光重合性組成物層9の温度が、60℃〜−30℃、より好ましくは40℃〜−20℃、さらに好ましくは20℃〜−10℃の温度範囲内となるように冷却する。重合中の光重合性組成物層9の温度を前述した所定の温度範囲内となるように冷却することで、重合時のモノマー蒸発が低減される。重合中の光重合性組成物層9の温度が低すぎる(例えば、−30℃以下)と、重合反応速度が過度に遅くなるので好ましくない。
【0050】
冷却ロール20の材質としては、熱伝導性の良い金属、例えば銅、アルミニウム、ステンレス鋼などが好ましく、特にステンレス鋼が好ましい。また、本実施例において、支持体1とコンベア14との間に液体層を介在させると、支持体1とコンベア14とが密着して熱伝導性が高まるので一層好ましい。本実施例のコンベア14は、光照射部4の入口から出口にわたって配設されているが、モノマーの蒸発量が多い重合初期段階のエリア、例えば光照射部4の入口から中央部分までのみに配設してもよい。
【0051】
冷却ロール20は、光源16からの熱や、光源16からの光により支持体1の光重合性組成物層9が重合反応し、この化学反応により生じる重合熱などによって温度上昇する光重合性組成物層9を所定の温度範囲内となるように冷却するためのコンベア14を冷却するためのものである。
【0052】
なお、コンベア14は、冷却ロール20によって構成されたローラコンベアであってもよいし、当該冷却ロール20に無端ベルトを張架したベルトコンベアであってもよい。
【0053】
光照射窓部15は、図2に示すように、例えば、石英ガラス22と、この石英ガラス22上に光透過性フィルム23とを備えている。
【0054】
光照射窓部15は、光重合性組成物層9に近接配備されている。光照射窓部15と光重合性組成物層9の間の距離は、例えば200mm以下程度が好ましく、より好ましくは100mm以下、より好ましくは50mm以下、さらに好ましくは20mm以下である。200mmを超えると、所定の濃度を満たす単位容積当たりの不活性ガスの使用量が増加し、コストの増加を伴うといった不都合が生じる。また、20mm以下になると酸素濃度が低下し、重合反応が阻害されるといった問題がある。
【0055】
石英ガラス22は、可視光透過率が90%以上で、かつ、光照射部4の密閉性が良好であれば、特に石英ガラス22に限定されない。この場合、例えば、ホウケイ酸ガラスであってもよい。
【0056】
光透過性フィルム23は、短波長光をカットする特性を備えたものである。その理由は、短波長を含む光を光重合性組成物9に照射すると、光重合させることで生成された感圧性接着剤層と支持体1との剥離性が低下する。したがって、光透過性フィルム23で短波長光をカットしている。
【0057】
具体的には、光透過性フィルム23としては、例えば、短波長光(例えば、300nm 以下)の透過を90%以上カットできるフィルムが好ましく、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上カットできるフィルムである。また、本実施例の場合、光透過性フィルム23は、可視光透過率が70%以上のものを用いており、必要な光透過量を得ることができる。この光透過性フィルム23としては、可視光透過率が80%以上のものがより好ましく、さらに好ましくは可視光透過率が90%以上のものである。この光透過性フィルム23は、光源部13から発生する熱に十分に耐えうる程度の耐熱性を有するものである。これらの特性を有する光透過性フィルム23としては、例えば、ポリエステルフィルムなどが挙げられる。光透過性フィルム23により短波長光がカットされた光の照射光量は、感圧性接着剤層などの必要特性により任意に設定することになるが、本実施例では100〜5000mJ/cm2 の範囲内、より好ましくは1000〜4000mJ/cm2の範囲内、さらに好ましくは2000〜4000mJ/cm2 の範囲内である。
【0058】
なお、光照射部4は、その密閉空間内に不活性ガスが供給されるように流路を介して第2不活性ガス供給部12と連通接続されている。
【0059】
冷媒供給装置19は、冷媒(例えば、窒素ガスまたは液体窒素)を供給するよう冷却ロール20に連通接続されている。なお、冷却ロール20を循環した不活性ガスが、不活性ガス循環機構24に戻される。なお、冷媒用不活性ガスまたは液体は、支持体1にダメージを与えない限り、特にその種類は限定されないが、例えば窒素ガスと液体の混合物などの不活性ガスを用いることができる。
【0060】
不活性ガス循環機構24は、冷却ロール20で使用した不活性ガスを回収し、当該不活性ガスを第2不活性ガス供給部12に送るシステムである。第2不活性ガス供給部12では、新鮮な不活性ガスと冷却ロール20で使用した不活性ガスが混合され、塗工部3と光照射部4のそれぞれに設置されたノズル41(塗工部3側への噴出口41a、光照射部4側への噴出口41b)から、光重合性組成物9へ直接に吹き付けられないように各部の底面から不活性ガスが供給される。ノズル41の配置や形状は特に限定されるものではない。
【0061】
本実施例では、不活性ガスとして窒素ガスを用いているが、アルゴンガスや二酸化炭素ガスなどの種々の不活性ガスを用いることができる。これによる塗工部3と光照射部4の連結した密閉空間内の酸素濃度は、例えば、5000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下、さらに好ましくは500ppm以下にしている。なお、塗工部3と光照射部4の連結した密閉空間内に供給された後の不要となった不活性ガスは、排気系統(図示省略)により適宜排気されるようになっている。
【0062】
巻き取り部5は、光照射部4により光の照射を受けた支持体1を所定の方向に案内するためのガイドローラ26と、このガイドローラ26によって案内された重合処理済みの支持体1を巻き取る支持体巻き取りロール27とを備えている。
【0063】
支持体1は、例えば、ポリエステルフィルムなどのプラスチックフィルムや、不織布、織布、紙、金属箔などが用いられる。
【0064】
光重合性組成物9は、モノマーまたはその一部重合物と光重合開始剤とを含有してなり、光照射により重合して感圧性接着剤となるものであり、アクリル系、ポリエステル系、エポキシ系などの光重合性組成物が用いられる。これらの中でも、アクリル系の光重合性組成物が特に好ましく用いられる。
【0065】
光重合性組成物9として、例えば、アルキルアクリレート単量体を主成分とする単量体と、極性基含有の共重合性単量体とが用いられる。アルキルアクリレート単量体とは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とするビニル系モノマーであり、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、プチル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基の如きアルキル基を有するアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステル、あるいはそのアルキル基の一部をヒドロキシル基で置換したものなどアルキル基の炭素数が1〜14の範囲にあるものを、1種または2種以上を主成分に用いられる。
【0066】
極性基含有の共重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸などの不飽和酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有単量体、カプロラクトン(メタ)アクリレートなどが用いられる。また、単量体に限らず、(メタ)アクリル酸ダイマーなどの2量体を用いても良い。
【0067】
アルキルアクリレート単量体を主成分とする単量体と、極性基含有の共重合性単量体との使用割合は、前者が70〜99重量%、後者が30〜1重量%であり、特に好ましくは前者が80〜96重量%、後者が20〜4重量%である。このような範囲で使用することにより、接着性,凝集力などのバランスをうまくとることができる。
【0068】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾインエーテル類、アニソールメチルエーテルなどの置換ベンゾインエーテル類、2・2ジエトキシアセトフェノン、2・2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノンなどの置換アセトフェノン類、2−メチル−2−ヒドロキシプロピオフェノンなどの置換−α−ケトール類、2−ナフタレンスルホニルクロリドなどの芳香族スルホニルクロリド類、1−フェニル−1・1−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシムなどの光活性オキシム類などが用いられる。このような光重合開始剤の使用量は、前述したアルキルアクリレート単量体を主成分とする単量体と、極性基含有の共重合性単量体との合計100重量部当たり、通常0.1〜5重量部、より好ましくは0.1〜3重量部が良い。この範囲より光重合開始剤の使用量が少ないと、重合速度が遅くなりモノマーが多く残存しやすくなり工業的に好ましくなく、逆に多いとポリマーの分子量が低下し接着剤の凝集力の低下を生じやすく接着特性上好ましい特性が得られない。
【0069】
架橋剤としては、多官能アクリレート単量体などが用いられ、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、1・2−エチレングリコールジアクリレート、1・6−ヘキサンジオールジアクリレート、1・12−ドデカンジオールジアクリレートなどの2官能以上のアルキルアクリレート単量体が用いられる。この多官能アクリレート単量体の使用量は、その官能基数などにより異なるが、一般には、前述したアルキルアクリレート単量体を主成分とする単量体と、極性基含有の共重合性単量体との合計100重量部当たり、0.01〜5重量部、より好ましくは0.1〜3重量部とするのが良い。このような範囲で多官能アクリレート単量体を用いると、良好な凝集力が保持される。
【0070】
上記多官能アクリレート以外にも、粘着剤の用途に応じて架橋剤を併用することもできる。併用する架橋剤としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤など、通常用いる架橋剤を使用することができる。なお、本発明では、必要に応じて粘着付着剤などの添加剤を用いることができる。
【0071】
次に、上記のように構成された実施例装置により、感圧性接着シートとして、例えば、支持体1を剥離ライナーとして使用する両面接着シートを製造する製造工程について、以下に説明する。
【0072】
原反ロールから供給搬送されてくる支持体1は、上下一対の不活性ガスチャンバ2の間を搬送される。このとき、上下から吹き付けられる不活性ガスが当該搬送空間に充填されつつ、不活性ガスチャンバ2の外側と塗工部3の入口とに向かう排気流が形成される。したがって、支持体1の搬送に伴う外部から塗工部3への酸素の持ち込みが防止されながら、塗工部3への支持体1が搬送されてゆく。
【0073】
塗工部3は、支持体1に対して、光重合性組成物9をその支持体1の所定の幅で、なおかつ、所定の厚さとなるように塗工する。このように光重合性組成物9が塗工された支持体1は、塗工部3から光照射部4の方へ搬送される。なお、塗工部3には、第2不活性ガス供給部12でフィルタ濾過された不活性ガスが、当該塗工部3の底部から供給されている。
【0074】
光照射部4は、光源部13から照射した光を光照射窓部15を透過させ、短波長光をカットした光を支持体1に塗工された光重合性組成物(光重合性組成物層)9に照射する。このとき、支持体1の背面側には、冷却機構が備えられており、冷媒供給装置19から冷媒(例えば、液体窒素と窒素ガスの混合物)が冷却ロール20へと供給される。したがって、熱伝導性の良いコンベア14が冷やされることにより、支持体1を背面側から冷却している。その結果、光重合反応に伴う熱などの影響で、光重合性組成物層9からモノマーが蒸発するのが抑制されている。
【0075】
なお、光照射部4による短波長光をカットした光の支持体1の光重合性組成物層9への照射は、光重合性組成物層9の重合率が少なくとも80%以上になるまで行われる。光重合性組成物層9の重合率が80%以上になっていることの検出は、例えば、製造しようとする製品の仕様に応じた光重合性組成物9が支持体1に塗工されたサンプルに対して、光照射部4における照射光量などの各条件を適宜変更して照射実験を行う。この実験後のサンプルの重合率を測定することで、実験的に求めることができる。または、光重合性組成物9の予め決まっている物性や特性を用いてシミュレーションを行って求めることもできる。このように、光重合開始当初においては短波長光をカットした光を光重合性組成物層9に照射しているので、光重合開始当初における短波長光照射に起因する支持体1と感圧性接着剤層との重剥離化現象の発生を防止でき、支持体1の剥離性を損なうことがない。
【0076】
また、冷却ロール20で使用された冷媒(例えば、液体窒素と窒素ガスの混合物)は、不活性ガス循環機構24へ戻されてフィルタ濾過されるとともに、第2不活性ガス供給部12でフレッシュな不活性ガスと混合して、塗工部3と光照射部4のそれぞれに設置されたノズル41(塗工部3側の噴出口41a、光照射部4側の噴出口41b)から、光重合性組成物9へ直接吹き付けられないように不活性ガスが供給される。
【0077】
巻き取り部5は、光照射部4で照射されて感圧性接着剤層が得られた支持体1を巻き取る。このようにして感圧性接着シートが製造される。
【0078】
以下に、図1に示した装置を用いた場合を具体例とし、図1に示した装置において不活性ガスチャンバ2を用いなかった場合を比較例として、塗工部3と光照射部4の連結した密閉空間内の酸素濃度の測定実験結果を示す。
【0079】
<具体例1> 不活性ガスチャンバ2を支持体1の上下に設置し、支持体1と不活性ガスチャンバ2との距離を1.5mm、支持体1の搬送速度を2m/min.として、支持体1に対して垂直に不活性ガスを7l/min.で供給した。なお、支持体1には、シリコーン処理を行ったポリエチレンフィルムを用い、不活性ガスには窒素ガスを用いた。
【0080】
<具体例2> 不活性ガスチャンバ2を支持体1の上下に設置し、支持体1と不活性ガスチャンバ2との距離を10mm、支持体1の搬送速度を10m/min.として、支持体1に対して垂直に不活性ガスを108l/min.で供給した。これ以外は、具体例1と同様にして具体例2を実施した。
【0081】
<具体例3>不活性ガスチャンバ2を支持体1の上下に設置し、支持体1と不活性ガスチャンバ2との距離を10mm、支持体1の搬送速度を10m/min.として、図3に示すように、支持体1に対して搬送方向と逆向きに斜め45°から不活性ガスを108l/min.で供給した。これ以外は、具体例1と同様にして具体例3を実施した。
【0082】
<比較例>不活性ガスチャンバ2を用いず、支持体1の搬送速度を10m/min.とした。支持体1には、シリコーン処理を行ったポリエチレンフィルムを用いて実施した。
【0083】
上記具体例1〜3および比較例において、塗工部3内に持ち込まれる酸素濃度を測定したその結果を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
不活性ガスチャンバ2の有無で比較すると、表1に示した持ち込み酸素濃度の結果から明らかなように、不活性ガスチャンバ2により不活性ガスを供給した具体例1〜3に比べて、不活性ガスを供給しなかった比較例の場合、空気中に存在する酸素濃度と同等の酸素が塗工部3に持ち込まれてしまうことが分かる。
【0086】
これに対して、不活性ガスを供給した具体例1〜3の場合、塗工部3内への持ち込み酸素濃度を500ppm以下に低減することが可能である。また、具体例1から、搬送速度を遅くし、支持体1とチャンバ2の距離を小さくするほど、持ち込み酸素濃度を低減することが可能であることが分かる。さらに、具体例2と3を比較すると、不活性ガス噴出向きを支持体1に対して、垂直に供給するより具体例2よりも搬送方向と逆向きに斜め45°で供給する具体例3が、塗工部3内への持ち込み酸素濃度をより低減することが可能であることが分かる。
【0087】
以上のように、本実施例によれば、塗工部3の入口側に支持体1の上下に不活性ガスチャンバ2を設置し、不活性ガスを支持体1に向けて吹き付けるので、塗工部3と光照射部4へ持ち込む酸素を遮断し、各内部の酸素濃度が抑制される。換言すれば、塗工部3と光照射部4の連結した密閉空間内を低酸素濃度かつ酸素濃度を安定させることができる。
【0088】
また、塗工部3と光照射部4の連結した密閉空間内おいて、光重合性組成物層9に不活性ガスを直接吹き付けることのないように支持体1の高さよりも低い底部から不活性ガス噴出ノズル41a、41bを利用して不活性ガスを供給するので、光重合性組成物層9に不活性ガスを直接吹き付けることがない。したがって、光重合性組成物層9のモノマー蒸発を抑制することができる。以上のことから、目標とする特性の感圧性接着シートを得ることができる。
【0089】
なお、本発明は以下のような形態で実施することも可能である。
【0090】
(1)上記実施例装置において、不活性ガスチャンバ2の上下いずれか一方を備えた構成であってもよい。
【0091】
(2)上記実施例装置において、不活性ガスチャンバ2は、例えば図4に示すように、上側に不活性ガスチャンバ2を配備し、下側に不活性ガスを排気するダクト30を配備した構成であってもよい。なお、ダクト30から吸引した不活性ガスは、そのまま排気してもよいし、循環させて第1不活性ガス供給部7に戻し、不純物の濾過などフィルタ処理を行うとともに、新しい不活性ガスと混合し、リフレッシュさせて再利用してもよい。
【0092】
なお、この構成の場合、不活性ガスチャンバ2とダクト30の間に側壁を設けることが好ましい。この構成のよれば、不活性ガス以外の酸素をダクト30から吸引するのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 … 支持体
2 … 不活性ガスチャンバ
3 … 塗工部
4 … 光照射部
5 … 巻き取り部
7 … 第1不活性ガス供給部
9 … 光重合性組成物
12 … 第2不活性ガス供給部
13 … 光源部
14 … コンベア
15 … 光照射窓部
16 … 光源
17 … リフレクタ
19 … 冷媒供給装置
20 … 冷却ロール
24 … 不活性ガス循環機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体に塗布された光重合性組成物層を重合反応させて感圧性接着剤層を得る感圧性接着シートの製造方法であって、
密閉連結された支持体への光重合性組成物を塗布する塗工部と塗布後の光重合性組成物層に光を照射する光照射部において、当該塗工部の支持体の入口側に少なくとも1つの不活性ガス供給手段を設け、支持体に向けて不活性ガスを吹き付ける
ことを特徴とする感圧性接着シートの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の感圧性接着シートの製造方法において、
前記不活性ガス供給手段はチャンバであり、当該チャンバ内で不活性ガスを充填し続ける
ことを特徴とする感圧性接着シートの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の感圧性接着シートの製造方法において、
前記チャンバ内で支持体に対して搬送方向とは逆方向きの斜め方向に不活性ガスを吹き付けて搬送入口に向かう排気流を形成する
ことを特徴とする感圧性接着シートの製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の感圧性接着シートの製造方法において、
前記塗工部と光照射部の密閉空間内に不活性ガスを充填する
ことを特徴とする感圧性接着シートの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の感圧性接着シートの製造方法において、
前記塗工部と光照射部の密閉空間の内部圧力をチャンバの内部圧力よりも高くする
ことを特徴とする感圧性接着シートの製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の感圧性接着シートの製造方法において、
前記塗工部と光照射部の密閉空間内を搬送される光重合性組成物の塗布面が上向きの支持体よりも低い位置から不活性ガスを供給する
ことを特徴とする感圧性接着シートの製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに感圧性接着シートの製造方法において、
前記光照射部を搬送される支持体の背面を冷却する
ことを特徴とする感圧性接着シートの製造方法。
【請求項8】
請求項7に感圧性接着シートの製造方法において、
前記支持体の背面と接触する冷却ロール内に冷却された不活性ガスを循環させた後、当該不活性ガスを塗工部と光照射部に供給する
ことを特徴とする感圧性接着シートの製造方法。
【請求項9】
支持体に塗布された光重合性組成物を重合反応させて感圧性接着剤層を得る感圧性接着シートの製造装置であって、
搬送されてくる前記支持体に向けて不活性ガスを吹き付ける少なくとも1つの不活性ガス供給手段と、
前記不活性ガス供給手段と連結配備され、密封空間内で支持体に光重合性組成物を塗布する塗工部と、
前記塗工部と連結配備され、密封空間内で支持体に塗布された光重合性組成物層に光を照射する光照射部と、
前記光照射部で感圧性接着剤層の形成された支持体を回収する回収部と、
を備えたことを特徴とする感圧性接着シートの製造装置。
【請求項10】
請求項9に記載の感圧性接着シートの製造装置において、
前記塗工部と光照射部の密封空間内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段を
備えたことを特徴とする感圧性接着シートの製造装置。
【請求項11】
請求項10に記載の感圧性接着シートの製造装置において、
前記不活性ガス供給手段は、光照射部を搬送される支持体の背面と接触する冷却ロール内に冷却された不活性ガスを循環させた後、前記塗工部と光照射部の密封空間内に当該不活性ガスを供給するよう構成した
ことを特徴とする感圧性接着シートの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−18836(P2013−18836A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151939(P2011−151939)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】