説明

感染性細菌におけるバイオフィルム形成を低下させるための方法

本発明は、細菌の集団によるバイオフィルム形成を防止または阻害する方法であって、集団に対しての、細菌によって分泌されるラクトンシグナル分子またはラクトン由来シグナル分子に対する抗体の投与を含む方法を提供する。本発明はその結果、バイオフィルム形成が防止または阻害される、細菌感染症の治療のための方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、患者における細菌感染症の抑制および治療のための方法に関する。本発明は、好ましい態様において、細菌細胞-細胞間コミュニケーションのプロセスに関与するシグナル伝達分子に対する親和性および特異性を有する免疫グロブリン分子または免疫グロブリン様受容体分子に基づく治療法の適用を提供する。このような分子と結合させることにより、これらの受容体を、細菌、例えば緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)および/または他の病原性細菌の環境感知に関与する分子の細胞外濃度を調節するために用いることができ、そうすることで、バイオフィルム形成および病毒性、ならびにそれに伴うバイオフィルム性細菌の抗菌薬に対する耐性を低下させること、または阻害することができる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
今日、病院で治療を受ける患者の死亡および疾病の主な原因の一つは、院内感染に起因するものである。このような感染症に対する感受性は、患者の受診の理由となった原疾患の結果であることもあれば、免疫抑制療法の結果であることも、または重大な皮膚損傷(例えば、熱傷)を引き起こす傷害の結果であることもある。症例の最も高い割合で原因となっている細菌は、緑膿菌である。これはヒトの日和見病原体の典型である。この細菌は免疫低下状態にない組織を感染させることはほとんどないが、組織が何らかの様式で免疫低下状態になれば、感染させない組織はほどんどない。これは比較的少数の種からなるものの、ヒトの健康に対して深刻な脅威を与えるため、本明細書ではこれ以後、感染性細菌の代表例として用いるが、これは本発明の領域(scope)または範囲(extent)をいかなる形でも限定するものではない。
【0003】
緑膿菌(Ps. aeruginosa)は、特に重症熱傷の患者ならびに免疫抑制状態にある癌およびAIDSの患者において、尿路感染症、呼吸器系感染症、皮膚炎、軟部組織感染症、菌血症および種々の全身感染症の原因となる日和見病原体である。緑膿菌によって起こる呼吸器感染症は、ほぼ例外なく、下気道が易感染状態にある個体または全身防御機構が不全状態にある個体で起こる。原発性肺炎は慢性肺疾患およびうっ血性心不全の患者で起こる。菌血症性肺炎は一般に、化学療法を受けている好中球減少性癌の患者で起こる。ムコイド型緑膿菌による嚢胞性線維症患者の下気道コロニー形成は頻度が高く、治療は不可能ではないにしても困難である。これは主として免疫低下状態の患者において菌血症を引き起こす。素因となる状態には、血液悪性腫瘍、AIDSに関連した免疫不全症、好中球減少症、糖尿病および重症熱傷が含まれる。シュードモナス(Pseudomonas)菌血症の大部分は、病院および老人ホームにおける院内感染として起こり、院内感染によるグラム陰性菌血症全体のうち約25%を占める。
【0004】
この細菌は、外膜LPSによってもたらされる透過性障壁のために多くの抗生物質に対して自然耐性を有することが知られており、このため、特に危険で恐ろしい病原体である。また、これはバイオフィルムの形態で表面にコロニーを形成する傾向があるため、細胞に治療濃度の抗生物質(ShihおよびHuang, 2002)および宿主食細胞(Wozniak et al., 2003)が透過しなくなる。バイオフィルムの形成は細菌を宿主防御からの保護では重要な役割を果たすと考えられる。研究により、創傷から単離された緑膿菌が感染の数時間以内にエキソポリサッカライドを生成できること、つまり成功したコロニー形成に有意な一因となる可能性が高い性質が明らかになった(Harrisson-Baestra et al., 2003)。その自然な生息環境は土壌であり、桿菌、放線菌および糸状菌に付随して生存しているため、これは天然に存在する種々の抗生物質に対する耐性を獲得している。さらに、シュードモナス属細菌は抗生物質耐性プラスミドを耐性因子(R因子)および耐性伝達因子(RTF)の両方として保持しており、これらの遺伝子を形質導入および接合という細菌プロセスによって伝達することができる。シュードモナス属に対して有効な抗生物質はフルオロキノン、ゲンタマイシンおよびイミペネムを含めて少数しかなく、これらの抗生物質でさえもすべての菌株に有効なわけではない。ゲンタマイシンとカルベニシリンとの併用は急性緑膿菌感染症の患者に有効なことが報告されている。抗生物質によるシュードモナス感染症の治療が無効であることは嚢胞性線維症患者で最も顕著に示されており、その事実上すべてが最終的には、耐性が非常に強いために治療が不能な菌株に感染する。抗生物質耐性のため、臨床分離株の感受性試験が必須である。
【0005】
緑膿菌は通常、土壌および水から、さらには植物および動物の表面から単離することができる。これは生息地にかかわらず世界中でみられるため、極めて「普遍的な」細菌である。これは時にヒトの正常細菌叢の一部として存在するが、院外の健康な個体におけるコロニー形成の頻度は比較的低い(推定値は解剖学的な位置により0〜24%の範囲)。院内ではこれは食品、流し、蛇口、モップ、呼吸機器手術器具にコロニーを形成することが知られている。コロニー形成は通常、緑膿菌による感染症の前に起こるが、この病原体は環境に普遍的に存在するため、その正確な伝染源および伝染様式はしばしば不明である。臨床的理由から感染症が疑われる集中治療下の患者のうち、感染原が特定できない者は50%にも上る。現在、世界中で毎日1,400例が緑膿菌のために集中治療室(ICU)で死亡しており、これは死因として最大である。
【0006】
緑膿菌は主として院内病原体である。CDCによれば、米国の病院における緑膿菌感染症の総発生率は平均約0.4%であり(退院1000例当たり4例)、この細菌は院内病原体のうち分離される頻度が4番目に高く、院内感染全体のうち10.1%を占める。全体的には、これは院内肺炎例の16%、後天性尿路感染の12%、手術創感染の8%および血流感染の10%の原因である。好中球減少性癌の患者および骨髄移植患者などの免疫低下患者は緑膿菌の日和見感染に罹りやすく、死亡報告例の30%の原因である。また、これは人工呼吸器関連肺炎の38%、AIDS患者の死亡の50%の原因でもある。熱傷患者における緑膿菌感染は近年減少しているが、これは治療法の改善および食事内容の変化による。しかし、死亡率は依然として高く、熱傷患者の二次感染による死亡全体のうち60%を占める。
【0007】
緑膿菌の多能性の1つの理由は、それが、エラスターゼ、LasAプロテアーゼ、アルカリプロテアーゼ、ラムノリピド、IV型線毛を介したトゥイッチング運動(twitching motility)、ピオベルジン(Williams et al., 1996、Stintzi et al., 1998、Glessner et al., 1999)、ピオシアニン(Brint & Ohman, 1995、Reimmann et al., 1997)ならびに細胞毒性レクチンPA-IおよびPA-II(Winzer et al., 2000)を含む、多様なビルレンス決定因子を生じることにある。これらのビルレンス決定因子の多くは、クオラムセンシングによる細胞密度依存的な様式で、遺伝子レベルで調節されることが知られている。緑膿菌は少なくとも2種類のクオラムセンシング系、すなわちlas系およびrhl(vsm)系を有し、これらはそれぞれLuxRI相同体であるLasRI(Gambello & Iglewski, 1991)およびRhlRI(VsmRI)によって構成される(Latifi et al., 1995)。LasIは3-オキソ-C12-HSLの合成を導き(Passador et al., 1993、Pearson et al., 1994)、一方、RhlIはC4-HSLの合成を導く(Winson et al., 1995)。las系およびrhl系は、las系がRhlRに対する転写制御を行うという階層として存在すると考えられている(Williams et al., 1996、Pesci et al., 1997)。転写活性化因子LasRは3-オキソ-C12-HSLとともに働いて、ビルレンス決定因子であるエラスターゼ、LasAプロテアーゼ、アルカリプロテアーゼおよび外毒素A(Gambello & Iglewski, 1991、Toder et al., 1991、Gambello et al., 1993、Pearson et al., 1994)ならびにlasIをコードする遺伝子の発現を調節する。エラスターゼはコラーゲン、IgG抗体およびIgA抗体、補体を分解することができ、肺粘膜への細菌の付着を促す。アルカリプロテアーゼとの組み合わせにより、これはγインターフェロン(INF)および腫瘍壊死因子(TNF)の不活性化も引き起こす。LasIは3-オキソ-C12-HSLの合成を導き、これはLasRとともにlasIプロモーターと結合して正のフィードバックループ系を形成する。RhlR転写活性化因子は、そのコグネイトAHL(C4-HSL)とともに、rhlAB(ラムノリピド)、lasB、aprA、RpoS、シアニド、ピオシアニンならびにレクチンPA-IおよびPA-IIの発現を調節する(Ochsner et al., 1994、Brint & Ohrnan, 1995、Latifi et al., 1995、Pearson et al., 1995、Winson et al., 1995、Latifi et al., 1996、Winzer et al., 2000)。これらはLasR/3-オキソ-C12-HSLがrhlRを調節する階層的な様式で存在するため(Latifi et al., 1996、Pesci et al., 1997)、この2つの系はいずれも上記のビルレンス決定因子すべての調節に必要である。
【0008】
緑膿菌によって引き起こされる最も重篤な臨床的病態の一つは、嚢胞性線維症(CF)罹患者の破壊性慢性肺感染症である。ほぼすべての患者の肺が3歳までに感染している(Burns et al., 2001)。CF患者の免疫系は細菌を排除することができず、広範囲の組織損傷および気道閉塞を伴う慢性疾患の発現が起こり、そのために患者の大半が最終的には死亡する。緑膿菌による肺感染症の成立および持続は、他のクオラムセンシングにより調節される他の病原因子の誘導に加えて、かなり以前からバイオフィルム表現型の発生と関連づけられている(Singh et al., 2000)。クオラムセンシングシグナルは感染マウスのCF肺で直ちに検出される(Wu et al., 2000)。他にも影響はあるが、肺での緑膿菌による、詳細に特性が解明されているAHLシグナル伝達分子の産生は、抗体応答のアイソタイプ比およびサイトカインレベルを調節することにより、宿主免疫応答に直接影響を及ぼしうる(Wu et al., 2004)。さらに、バイオフィルムにおける緑膿菌の増殖は、1×1010個の細胞/mlのオーダーという極めて高い細胞密度をもたらし、細胞の物理的近接性が高まることで、クオラムセンシングを介した細胞間コミュニケーションの強化およびそれに伴うビルレンス因子の産生のための完全な環境が得られる。
【0009】
緑膿菌感染症の治療または予防のための治療法を開発するためにさまざまな多くのアプローチが活発に進められている。あるものは広範囲にわたることを意図しており、またあるものは特定の種類のシュードモナス感染症を対象にしている。従来の経路に沿ったものには、ワクチン(例えば、米国特許第6,309,651号に記載されたものなど)、およびグラム陰性菌に対して有効と考えられるが主として緑膿菌に対して作用するように設計され、エアロゾル吸入によって投与される新たな抗生物質(SLIT)の開発が含まれる。現在研究が進められているさらにもう1つの観察所見は、最適以下の(sub-optimal)増殖抑制濃度で投与された抗生物質エリスロマイシンが、緑膿菌の血球凝集素、溶血素、プロテアーゼおよびアシル-ホモセリンラクトンを同時に抑制し、このため持続的な緑膿菌感染症の治療に適用しうる可能性があることである。両親媒性ペプチドを含むクリーム製剤も、熱傷または他の重篤な皮膚創傷の感染を予防する手段として検討されている。米国特許第6,309,651号も、緑膿菌のPcrV病原性タンパク質に対する抗体が感染に対する防御を与える可能性があることを開示している。
【0010】
また、病原性を制御する手段としてのホモセリンラクトンレベルの調節にもある程度関心が寄せられている。ある種の藻類は、いくつかの陸生植物と同じように、アシル-ホモセリンラクトンの競合阻害物質、例えばフラノン(Manefield, 1999)を産生することが示されている。これらの化合物はAHLシグナル分子をその受容体タンパク質から移動させ、AHLバイオアッセイ法におけるアゴニストまたはアンタゴニストとして作用しうる(Tepletski et al., 2000)。AHL濃度を低下させるために用いられる他の方法には、AHLの分解および抗体によるAHLの捕捉を触媒するオートインデューサー(autoinducer)不活性化酵素(AiiA)の開発が含まれる(WO 2004/014423)。また、天然のAHLと細菌表面での受容体結合をめぐって競合するが、クオラムセンシングによって調節されるバイオフィルム形成および病毒性などの応答は誘発しないAHL模倣物に関する研究も増えている(Suga and Smith, 2003)。
【0011】
現在開発中の治療法には、潜在的な問題および限界が数多く存在する。ワクチンが有効な治療法であるか否かはまだ証明されていない。緑膿菌はバイオフィルム増殖の際に、宿主抗体によるオプソニン作用に対して効果的な防御を行う広範なムコイド性莢膜を生成し、このことは抗シュードモナス抗体の血清価が高い持続感染患者の存在によって示される。これはまた、この細菌に、抗生物質および他の抗菌性化学物質に対する著しい防御を与える。緑膿菌の臨床分離株は、バイオフィルムとして増殖している場合には高濃度の抗生物質に対して耐性があること、およびクオラムセンシングに欠陥のある変異株は十分に発達していない多糖を産生するか多糖を無視しうる程度でしか産生せず、はるかに低い抗生物質の濃度によって死滅することが示されている(Shih and Huang, 2002)。オートインデューサー模倣体の使用は、受容体結合部位に対してAHLと効果的に拮抗するために必要な大部分のものの濃度、および副作用の可能性によって制限される。シュードモナス属および他の細菌によって放出されるAHLが、ヒトの生理機能に対してさまざまな直接効果を及ぼすことはよく知られている。これらには、WO 01/26650に記載されたようなヒスタミン放出の阻害が含まれる。WO 01/74801は、AHLがリンパ球増殖を阻害し、単球およびマクロファージによるTNF-αの分泌をダウンレギュレートし、それによって全般的な免疫抑制物質としても作用しうることを記載している。このため、競合的AHL模倣体の使用を伴う治療法には、患者の免疫系のダウンレギュレーションを引き起こすという危険がある。これは一般に望ましくなく、免疫低下状態の患者では特にそうである。抗生物質の使用は、この細菌(および他のもの)が特異的な抗生物質に対する耐性を獲得する著しい能力を考えれば、およびバイオフィルムの表現型によって与えられた抗菌性化学物質に対する一般的な回復力のために、せいぜい短期的な戦略と見なすことができる。
【0012】
緑膿菌の病原性が明らかに多因子性であることは、病原因子が多数あること、およびこの細菌と関係のある疾患が広範囲に及ぶことによって明確に示されている。組織への侵入および播種、ならびにバイオフィルムの形成のために必要な細胞外病原因子の多くは、ホモセリンラクトンを基にしたシグナル分子、ならびに特定の転写活性化タンパク質がかかわる細胞間シグナル伝達系によって制御される。これらの調節系により、緑膿菌が、協調的な細胞密度依存的な様式でビルレント形態をとること、および宿主防御機構を克服することが可能になる。
【0013】
有害な副作用がなく、しかも近い将来のうちに病原性細菌によって回避される可能性が低い方法により、HSLおよび病原性に関与する他の細菌細胞シグナル伝達分子の濃度を調節する効果的な手段を開発することには需要が存在する。細菌、特に緑膿菌におけるバイオフィルム形成を防止することができ、細菌細胞を直接には攻撃せず、そのため耐性株が生じる可能性の低い組成物または化合物は、CFなどの病態の治療および創傷感染症の予防にとってかなり有益であると考えられる。特に、これは多くの既存の抗菌療法の有効性を高め、もはや実用的ではないとみなされているものの多くを再び有効にしうると考えられる。本発明はこのような組成物を提供する。
【発明の開示】
【0014】
発明の概要
本発明は、細菌細胞シグナル伝達分子の細胞外濃度を調節することにより、病原性細菌の数を減らすための方法を提供する。ラクトン由来細胞シグナル分子の除去(結合または分解)により、バイオフィルムおよびバイオフィルム様増殖の成立を阻害し、それによって病原体の抗菌薬および宿主防御系に対する感受性を高めることができると考えられる。他の殺菌性治療法は細菌に直接作用して死滅を引き起こすが、本発明は、バイオフィルム形成を低下させる目的で細胞外シグナル伝達分子を標的とする。このため、治療法に対して耐性のある菌株が出現する可能性ははるかに低いと考えられる。
【0015】
本発明の第1の局面によれば、細菌の集団によるバイオフィルム形成を防止または阻害する方法であって、集団に対しての、細菌によって分泌されるラクトンシグナル分子またはラクトン由来シグナル分子に対する抗体の投与を含む方法が提供される。
【0016】
ラクトンシグナル分子は、ホモセリン分子またはペプチドチオラクトン分子であってよい。ホモセリンラクトン分子は、以下のものからなる群より選択される一般式を有しうる。

式中、n=0〜12である。
【0017】
一般式Iのホモセリンラクトン分子は、n=0の場合はN-ブタノイル-L-ホモセリンラクトン(BHL)であってよく、n=8の場合はN-ドデカノイル-L-ホモセリンラクトン(dDHL)であってよく、またはn=10の場合はn-テトラデカノイル-L-ホモセリンラクトン(tDHL)であってよい。
【0018】
一般式IIのホモセリンラクトン分子は、n=2の場合はN-(-3-オキソヘキサノイル)-L-ホモセリンラクトン(OHHL)であってよく、またはn=8の場合はN-(-3-オキソドデカノイル)-L-ホモセリンラクトン(OdDHL)であってよい。
【0019】
一般式IIIのホモセリンラクトン分子は、n=0の場合はN-(-3-ヒドロキシブタノイル)-L-ホモセリンラクトン(HBHL)であってよい。
【0020】
ペプチドチオラクトンは、以下の一般式(IV)を有しうる。

式中、Xは任意のアミノ酸であり、n=1〜10である。
【0021】
ペプチドチオラクトン分子は、

であることが好適である。
【0022】
ラクトン由来シグナル分子が、フラノシルホウ酸ジエステルであってもよい。フラノシルホウ酸ジエステルは、オートインデューサー-2(AI-2)

であってよい。
【0023】
また、ラクトン由来シグナル分子が、Pro-AI-2

またはそのC1〜C10飽和もしくは不飽和カルボン酸誘導体であってもよい。
【0024】
ますます多くの細菌種がさまざまな低分子量シグナル分子を用いて細菌間コミュニケーションを行うことが明らかになっている。グラム陰性菌は主としてN-アシルホモセリンラクトンを用いる。これは共通のホモセリンラクトン環構造を有する一群の化合物であり、側鎖の長さおよび構造の点ではさまざまである。この群の中には、アシル-ホモセリンラクトン、3-オキソ-ホモセリンラクトンおよび3-ヒドロキシ-ホモセリンラクトンという3つのクラスがある。個々の種は複数のクラスの要素を産生し、それらに反応することができる。緑膿菌は、いくつか、特にN-ブチリル-ホモセリンラクトン(BHL)、3-オキソ-ドデカノイル-ホモセリンラクトン(OdDHL)、およびN-ヘキサノイル-ホモセリンラクトン(HHL)2-ヘプチル3-ヒドロキシ-4キノロン(PQS)を用いる。
【0025】
細胞はこれらの分子を、細胞密度の低い条件下ではシグナル分子の濃度もそれに対応して低いというように、局所的な細胞密度を判定するための手段として用いる。細胞密度が高ければ、局所的なシグナル分子濃度も高い。この濃度が閾値レベルに達すると、これは宿主における毒性および病態発現に関与する遺伝子の転写を誘導する。緑膿菌を含む多くの病原性細菌がバイオフィルムとして増殖することができる。このような条件では、細胞は菌体外多糖マトリックス中に封入される。これは抗菌薬に対する物理的障壁および食作用に対する耐性の両者を付与するものの、高い局所細胞密度をもたらし、これはクオラムセンシングにより誘導される日和見細菌の病原性表現型へのスイッチングにつながる。
【0026】
多くの運動性細菌は走化性システムを用いており、細胞はそれによって種々の環境化合物の存在を検出しうるだけでなく、これらの濃度勾配を監視し、それに応じて遊泳行動を調整することができる。このため、細菌は栄養分などの刺激に向かって移動し、好ましくない条件に相当する刺激からは逃れる傾向がある。緑膿菌を含むある種の細菌は、AHLなどの細胞シグナル伝達分子に対して正の走化性応答を示すことが現在では知られている(実施例、図4を参照のこと)。細菌はお互いに向けて、およびより高い濃度のシグナル分子に向けて移動する傾向があると考えられるため、この行動は病態の成立および発生において重要な可能性がある。これは局所細胞濃度の上昇、防御性バイオフィルムのより早期での成立、細胞外シグナル分子濃度の局所的なレベルの上昇、およびそれに伴う病原性表現型へのスイッチングまでの時間の短縮につながると考えられる。このため、本発明の抗体は、細菌のそれら自体および他の種のシグナル分子に対する走化性応答の阻止に対して適用することができる。
【0027】
細菌シグナル伝達分子は、その探索が行われたあらゆる生物で発見されつつある。これはあらゆる種に適用されうる普遍的な系であるように思われる。その主な違いは、すべてのグラム陰性(グラム-ve)細菌はホモセリンラクトンを基にした分子を用い、グラム陽性(グラム+ve)細菌は(修飾された)低分子量ペプチドを用いることにある。この分野でのこれまでの研究は、認識されるが機能はしない、すなわち、病原性スイッチングを行わないものによってシグナル分子を模倣すること(Suga and Smith, 2003)、またはさまざまな受容体系を遮断することに注力してきた。これらの方法の欠点は主として、模倣物または遮断物に対する耐性が生じうること、および「真の」シグナル分子が依然としてそこに存在し、結合をめぐって競合すると考えられることである。さらに、シグナル分子模倣物が細胞の受容体と接触して結合するためには、まず細菌の内部に入らなければならない。それに加えて、いくつかの細菌シグナル伝達分子、例えばアシル-ホモセリンラクトンはそれ自体がビルレンス因子であり、宿主(すなわち、患者)の免疫抑制を直接引き起こす恐れがある。本発明は、細胞それ自体ではなく、細胞外環境における肝心のシグナル分子を標的とする抗体を用いる方法を提供する。このアプローチは、細菌が自らが攻撃されていることを認識せず、単にそれらが単独で存在しているものと検知すると考えられる点で、これまでのすべての取り組みを上回る枢要かつ重要な利点を有する。耐性に対する選択圧は全く存在しないと考えられる。本発明の方法は、バイオフィルム形成を阻害し、そのようにして耐性の出現が深刻な世界的懸念となりつつある抗生物質などの既存の抗菌薬の有効性を高めるための手段を提供する点で、さらに有益である。
【0028】
本発明の方法において、抗体はポリクローナル抗体であってもよい。または、抗体はモノクローナル抗体でもよい。抗体が一本鎖抗体(scAb)または抗体断片であってもよい。抗体断片は、一本鎖抗体(scAb)または単一ドメイン断片であってよい。抗体がヒト抗体であってもよく、または抗体がヒト化抗体構築物であってもよい。
【0029】
本発明のいくつかの好ましい態様において、抗体は、それぞれNCIMB-41167、NCIMB-41168、NCIMB-41169、NCIMB-41170として寄託されているG3H5、G3B12、G3G2および/またはG3H3などの一本鎖抗体(scAbs)であってもよい。抗体G3B12はHap 2とも称され、抗体G3G2はHap 5とも称される。
【0030】
上記のように、本発明による抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。ポリクローナル抗体は、抗原を動物に注入して、適した動物宿主(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ニワトリ、ヤギまたはサル)における産生を賦活することによって産生させることができる。必要であればアジュバントを抗原とともに投与してもよい。続いて抗体を、抗原との結合により、または以下に述べるようにして精製することができる。モノクローナル抗体はハイブリドーマから産生させることが可能である。これらは、不死化細胞系を作製する目的で、骨髄腫細胞および所望の抗体を産生するBリンパ球細胞を融合させることによって形成させることができる。これはよく知られたKohler & Milstein法である(Nature 256 52-55 (1975))。
【0031】
特定のタンパク質と結合するモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体を作製するための方法は、現在、当技術分野では十分に開発されている。それらは標準的な免疫学のテキスト、例えばRoitt et al, 「Immunology」第二版(1989)、Churchill Livingstone, Londonで考察されている。
【0032】
完全な抗体に加えて、本発明は、抗原との結合が可能なその誘導体も含む。したがって、本発明は、抗体断片および合成構築物を含む。抗体断片および合成構築物の例は、Dougall et alにより、Tibtech 12 372-379(September 1994)に示されている。抗体断片には、例えば、Fab断片、F(ab')2断片およびFv断片が含まれる(Roitt et al[前記]参照)。Fv断片を改変して、一本鎖Fv(scFv)分子として知られる合成構築物を作製することができる。これは、分子の安定性に寄与するVH領域およびVL領域を共有結合させるペプチドリンカーを含む。本発明はこのため、一本鎖抗体またはscAbも範囲に含む。
【0033】
その他の合成構築物にはCDRペプチドが含まれる。これらは抗原結合決定基を含む合成ペプチドである。ペプチド模倣体を用いることもできる。これらの分子は通常、CDRループの構造を模しており、抗原と総合作用する側鎖を含む、立体配座が限定された環状有機物である。合成構築物にはキメラ分子も含まれる。したがって、例えば、ヒト化(または霊長類化)抗体またはその誘導体も本発明の範囲に含まれる。ヒト化抗体の一例は、ヒトフレームワーク領域を有するが、齧歯類の超可変領域を有する抗体である。合成構築物には、抗原結合性に加えて何らかの望ましい特性を備えた分子を提供する共有結合部分を含む分子も含まれる。例えば、この部分は、標識(例えば、蛍光標識または放射性標識などの検出可能な標識)または薬学的活性のある物質であってよい。
【0034】
抗細菌シグナル分子抗体を作製するためには、標的分子または適した誘導体を2つの異なる担体分子(タンパク質)と結合させることが好ましいが、単一の複合分子種を用いることもできる。細菌シグナル分子は一般に、インビボで免疫応答を賦活させるには、または抗体ライブラリーから高親和性抗体を選択するための抗原の源として直接用いるためには小さすぎる。細胞シグナル伝達分子(以下では「抗原」と称する)に対して特異的な抗体の選択は、好ましい態様において、特異的結合対(sbp)の最初のメンバーのレパートリー(ライブラリー)、例えば、糸状バクテリオファージの表面に提示された抗体のライブラリーを用いて行われる。受容体のライブラリーからの特異的な受容体の選択を可能にする任意の他のシステムも本発明の方法に適用可能である。代替的な態様においては、シグナル分子特異的クローンを、抗原結合体を接種した動物から作製した、抗体を分泌する一連のハイブリドーマ細胞系から選択することができる。一般的な例示の目的には、ファージ粒子の表面に提示された抗体結合部位のライブラリーの例が用いられる。
【0035】
適した担体分子(これはタンパク質、ペプチドまたは任意の天然化合物もしくは合成化合物のいずれでもよい)または材料と結合させた抗原を含む結合体(以下では「結合体-1」と称する)を、「イムノチューブ(immunotube)」またはマイクロタイタープレートなどの適した固体支持体上に固定化し、コーティングされなかった表面を乾燥粉乳などの非特異的ブロッキング剤でブロッキングする。適した結合体分子には、ウシ血清アルブミン(BSA)、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、ウシチログロブリン(TG)、オブアルブミン(Ova)などのタンパク質、またはビオチンなどの非タンパク質が非制限的に含まれうる。結合体分子の選択に関する唯一の制約は、それが何らかの様式で固定化可能であって、免疫処置のためには免疫応答を誘発する程度に十分に大きいことである。
【0036】
特異的結合対(sbp)の最初のメンバーのライブラリー(「ライブラリー」)を、固定化した結合体に対して適用し、結合体-1を認識するsbpメンバーが結合するのに十分な時間にわたってインキュベートする。結合体を認識しないファージをストリンジェントな洗浄によって除去する。結合したまま残ったファージを、例えばトリエチルアミンまたは他の適した試薬により、中性pHに戻すための緩衝液中に溶出させる。続いて、回収したファージ粒子を大腸菌などの適した宿主生物に感染させ、選択した各メンバーの数を増幅するために培養し、それによって第2の「強化」ライブラリーを作製する。続いてこの工程を強化ライブラリーを用いて繰り返し、第2の担体タンパク質と結合した抗原(結合体-2)を認識するファージ-抗体(「ファージ」)を選択する。
【0037】
必要に応じてこれをさらに数回行い、選択工程を遊離型の抗原を認識するsbpメンバーの選択が優先されるように変更する。ファージを、最初は結合体-1を用い、次は結合体-2(入手可能な場合)というように以後のそれぞれの回で交互に用いて、以前に記載されたように抗原結合体に対して選択する。結合したファージを、遊離抗原または小型で可溶性の選択可能な部分、例えばビオチンと結合させた抗原の溶液とともに、結合型の抗原に対してより親和性の高いsbpメンバーが固定化された結合体から解離するのに十分な時間にわたってインキュベートすることによって溶出させる。遊離抗原によって溶出したファージを大腸菌細胞に感染させて増幅および再選択を行い、固定化された抗原と結合したままのものは廃棄する。または、好ましさは落ちるものの、結合体と結合するすべての抗体を、例えば低pHを用いて溶出させることもできる。
【0038】
それぞれの回の選択で選ばれた個々の(モノクローナル)ファージクローンを、所望の結合特性に関してスクリーニングする。これは、必要条件に応じて、SPR(表面プラスモン共鳴)およびELISA(固相酵素免疫アッセイ法)などの方法を含む、当業者に知られた種々の方法によって行うことができる。選択基準には、結合体を形成させた誘導体の存在下で、遊離した可溶型の抗原と選好的に結合する能力が含まれると考えられる。
【0039】
本発明の好ましい態様において、抗体は未処理のヒト抗体ファージディスプレイライブラリーから作製される(McCafferty et al., 1990;およびWO 92/01047における記載の通り)。このため、抗体を診断用または透析用の試薬として用いることに加えて、患者への投与のために用いることも可能と考えられる。また別の態様において、ライブラリーを、AHLと適した担体分子との1つまたは複数の結合体による前免疫処置を行った動物から構築することもできる。さらにもう1つの選択肢は、上記の通りに免疫処置を行った動物からのハイブリドーマ細胞系の作製である。後者の2つの場合には、例えば、宿主動物-ヒトキメラ抗体を作製すること、または適した抗体フレームワークスカフォールドへのCDRグラフトによる「ヒト化」により、結果として得られる抗体の免疫原性を低下させるための段階を取り入れることが好ましい。適用しうる他の方法には、抗体内部のT細胞エピトープと考えられるものを同定し、その後にこれらを位置指定変異誘発法などによって除去すること(脱免疫化(de-immunisation))が含まれると考えられる。さらにもう1つの態様において、異なるクラスのヒト免疫グロブリン(IgG、IgAなど)からの定常領域を含むように抗体を作製し、動物細胞において完全な抗体分子として産生させることもできる。特に、これらのアプローチは抗体を治療的に用いる場合に望ましい。分泌性IgAアイソタイプ抗体の使用は、例えば、嚢胞性線維症患者の緑膿菌感染症の治療において鼻腔内/エアロゾル適用が想定される場合には、好ましいと思われる。
【0040】
本発明に関して、抗体はモノクローナル性でもポリクローナル性でもよい。抗体はヒト抗体でもヒト化抗体でもよい。Fab、F(ab').sup.2(F(ab')2とも表記される)、FvまたはscFvなどの抗体断片または誘導体を用いることもでき、Huston et al.(Int. Rev. Immunol. 10: 195-217, 1993)によって記載されたような一本鎖抗体(scAb)、ドメイン抗体(dAbs)、例えば単一ドメイン抗体、または抗体に類似した単一ドメイン抗原結合性受容体を用いることもできる。抗体のほかに、抗体断片および免疫グロブリン様分子、ペプチド模倣体または非ペプチド性模倣体を、抗体の結合活性を模倣し、かつ細菌によるバイオフィルム形成を阻害または防止するために設計することもできる。
【0041】
適した抗体の調製後に、一般的に利用可能ないくつかの方法の1つにより、それを単離または精製することができる(例えば、「Antibodies: A Laboratory Manual」, Harlow and Lane eds, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1988)に記載されたように)。一般的に適した方法には、ペプチドもしくはタンパク質アフィニティーカラム、HPLCもしくはRP-HPLC、プロテインAもしくはプロテインGカラムによる精製、またはこれらの方法の組み合わせが含まれる。組換え抗体は標準的な方法に従って調製し、ELISA、ABC、ドットブロットアッセイ法などの一般的に利用可能な手順を用いて特異性に関してアッセイすることができる。
【0042】
細菌はグラム陰性細菌種でもグラム陽性細菌種でもよい。細菌は、アクチノバチルス-アクチノミセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)、アシネトバクター-バーマニー(Acinetobacter baumannii)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、ブルセラ属菌(Brucella sp.)、カンピロバクター属菌(Campylobacter sp.)、カプノシトファガ属菌(Capnocytophaga sp.)、カルジオバクテリウム-ホミニス(Cardiobacterium hominis)、エイケネレラ-コロデンス(Eikenella corrodens)、野兎病菌(Francisella tularensis)、軟性下疳菌(Haemophilus ducreyi)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、ヘリコバクター-ピロリ菌(Helicobacter pylori)、キンゲラ-キンガエ(Kingella kingae)、レジュネラ-ニューモフィラ菌(Legionella pneumophila)、パスツレラ-ムルトシダ(Pasteurella multocida)、シトロバクター属菌(Citrobacter sp.)、エンテロバクター属菌(Enterobacter sp.)、大腸菌(Escherichia coli)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、プロテウス属菌(Proteus sp.)、腸炎菌(Salmonella enteriditis)、チフス菌(Salmonella typhi)、霊菌(Serratia marcescens)、シゲラ属菌(Shigella sp.)、エルシニア-エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)、ペスト菌(Yersinia pestis)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、モラクセラ-カタラーリス(Moraxella catarrhalis)、ベイヨネラ属菌(Veillonella sp.)、バクテロイデス-フラジリス(Bacteroides fragilis)、バクテロイデス属菌(Bacteroides sp.)、プレボテラ属菌(Prevotella sp.)、フソバクテリウム菌属(Fusobacterium sp.)、鼠咬症スピリルム(Spirillum minus)、エロモナス属菌(Aeromonas sp.)、プレシオモナス-シゲロイデス(Plesiomonas shigelloides)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)、ビブリオ-バルニフィカス(Vibrio vulnificus)、アシネトバクター属菌(Acinetobacter sp.)、フラボバクテリウム属菌(Flavobacterium sp.)、緑膿菌、ブルクホルデリア-セパシア(Burkholderia cepacia)、ブルクホルデリア-シュードマレイ(Burkholderia pseudomallei)、キサントモナス-マルトフィリア(Xanthomonas maltophilia)、ステノトロフォモナス-マルトフィラ(Stenotrophomonas maltophila)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、バシラス属細菌(Bacillus spp.)、クロストリジウム属細菌(Clostridium spp.)および連鎖球菌属細菌(Streptococcus spp.)からなる群より選択されうる。
【0043】
本発明のこの局面の方法は、抗生物質の投与をさらに含んでもよい。抗生物質は、ペニシリンもしくはペニシリン誘導体などのβ-ラクタム系抗生物質、カナマイシン、アンピシリン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、フルオロキノロン、ゲンタマイシン、イミペネム、および/もしくはカルベニシリン、またはそれらの組み合わせなどであってよい。
【0044】
本発明の第2の局面によれば、対象における細菌の集団によるバイオフィルムの形成の防止または阻害のための方法であって、本発明の第1の局面の方法に関連して以上に定義した抗体の投与を含む方法が提供される。
【0045】
このような方法が、抗生物質の投与をさらに含んでもよい。抗生物質の投与は、抗体の投与と同時でもよく、または前記抗体の前記投与の前もしくは後でもよい。本発明のこの局面の方法は、ヒトにも獣医学用にも等しく適用可能である。
【0046】
本発明のこの局面に従った態様は、細菌の集団によるバイオフィルムの形成の防止または阻害のための医薬品の調製における、本発明の第1の局面の方法に関連して以上に定義した抗体の使用法にも及ぶ。
【0047】
本発明の第3の局面によれば、細菌の集団によるバイオフィルムの形成の防止または阻害のための、本発明の第1の局面の方法に関連して以上に定義した抗体と、別々の、その後のまたは同時の投与のための抗生物質とを含む、複数の部分で構成されるキットが提供される。このようなキットは、本発明の方法に用いるための指示書を含むことが好適と考えられる。
【0048】
本発明の第4の局面によれば、細菌の集団によるバイオフィルムの形成の防止または阻害に用いるための、細菌によって分泌されるラクトンシグナル分子またはラクトン由来シグナル分子に対する、本明細書中に定義された通りの抗体が提供される。
【0049】
本発明による方法および使用法には、本明細書に記載の抗体、および任意には抗生物質などの他の薬学活性物質の、薬学的組成物としての製剤化が含まれうる。このような組成物は、薬学の技術分野で公知である任意の方法により、例えば、有効成分を無菌条件下で担体、希釈剤または添加剤と混合することにより、調製することができる。
【0050】
抗体を無菌性の薬学的組成物の部分として供給してもよく、これは通常、薬学的に許容される担体を含むと考えられる。この薬学的組成物は、任意の適した形態であってよい(それを患者に投与する所望の方法に依存する)。
【0051】
薬学的組成物は、任意の適した経路による投与、例えば、経口的(口腔内または舌下を含む)、直腸内、鼻内、局所適用(口腔内、舌下または経皮的を含む)、腟内または避腸的(皮下、筋肉内、静脈内または皮内を含む)経路による投与に適合させることができる。このような組成物は、薬学の技術分野で知られた任意の方法により、例えば、有効成分を無菌条件下で担体または添加剤と混合することにより、調製することができる。
【0052】
経口投与用に適合化された薬学的組成物は、カプセル剤または錠剤などの離散的な単位;粉剤または顆粒剤;液剤、シロップ剤または懸濁剤(水性もしくは非水性の液体;または食用になる発泡体もしくはホイップ;またはエマルションの状態で)として提供することができる。
【0053】
錠剤または硬ゼラチンカプセル剤のために適した添加剤には、ラクトース、トウモロコシデンプンまたはその誘導体、ステアリン酸またはその塩が含まれる。軟ゼラチンカプセル剤に用いるのに適した添加剤には、例えば、野菜油、蝋状物質、脂肪、半固形状または液状のポリオールなどが含まれる。液剤およびシロップ剤の調製のために用いうる添加剤には、例えば、水、ポリオールおよび糖が含まれる。懸濁剤の調製のためには、水中油型または油中水型の懸濁液を得るために油(例えば、植物油)を用いることができる。
【0054】
経皮的投与のために適合化された薬学的組成物は、レシピエントの表皮と密に接触した状態を長期間にわたって維持することを意図した離散的パッチとして提供することができる。例えば、Pharmaceutical Research, 3(6), page 318 (1986)に一般的に記載されたようにして、有効成分をパッチからイオントフォレシス的に送達することができる。
【0055】
局所適用のために適合化された薬学的組成物は、軟膏、クリーム剤、懸濁剤、ローション剤、粉剤、液剤、ペースト剤、ゲル剤、噴霧剤、エアロゾル剤または油剤として製剤化することができる。眼または他の外部組織、例えば口腔および皮膚の感染症に対しては、組成物を局所用の軟膏またはクリーム剤として適用することが好ましい。軟膏として製剤化する場合には、有効成分をパラフィン基剤または水混和性基剤のいずれかとともに用いることができる。または、有効成分を水中油型クリーム基剤または油中水型基剤とともにクリーム剤として製剤化することもできる。眼に対する局所適用のために適合化された薬学的組成物には、有効成分が適した担体中、特に水性溶媒中に溶解または懸濁化された点眼薬が含まれる。口腔内への局所適用のために適合化された薬学的組成物には、バッカル錠剤、トローチ剤および含嗽剤が含まれる。
【0056】
直腸内投与のために適合化された薬学的組成物は、坐薬または浣腸剤として提供することができる。
【0057】
担体が固体である、鼻内投与のために適合化された薬学的組成物には、粒径が例えば20〜500ミクロンの範囲であって、鼻から吸入する様式で、すなわち鼻の近くに保持した粉末容器からの鼻腔を介した急速吸入によって投与される粗末が含まれる。担体が液体である、スプレー式点鼻薬または点鼻薬としての投与のために適した組成物には、有効成分の水溶液または油性溶液が含まれる。
【0058】
吸入による投与のために適合化された薬学的組成物には、さまざまな種類の定量噴霧加圧噴霧装置、ネブライザーまたは吸入器によって生成される微粒子状物質またはミストが含まれる。
【0059】
腟内投与のために適合化された薬学的組成物は、ペッサリー、タンポン、クリーム剤、ゲル剤、ペースト剤、発泡体または噴霧製剤として提供することができる。
【0060】
避腸的投与のために適合化された薬学的組成物には、水性および非水性の滅菌注射液(これは抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および製剤を意図したレシピエントの血液と実質的に等張にする溶質を含みうる);ならびに水性および非水性の滅菌懸濁液(これは懸濁剤および増粘剤を含みうる)が含まれる。注射液のために用いうる添加剤には、例えば、水、アルコール、ポリオール、グリセリンおよび植物油が含まれる。組成物は、単位投与用または多回投与用の容器、例えば密封したアンプルおよびバイアルとして提供することができ、使用の直前に滅菌液体、例えば注射用の水を添加するのみでよいフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存することができる。即時調製による注射液および懸濁液は、滅菌した粉末、顆粒および錠剤から調製することもできる。
【0061】
薬学的組成物は、保存料、溶解補助剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、甘味料、着色料、着香料、塩(本発明の物質自体を薬学的に許容される塩の形態で提供することもできる)、緩衝剤、コーティング剤または抗酸化剤を含みうる。それらは、本発明の物質のほかに治療活性のある物質を含んでもよい。
【0062】
本発明の抗体(または等価物)は、細菌感染症を治療するために投与すること、または感染のリスクが高い例に対する予防的手段として用いることが可能と考えられる。感染がすでに存在する場合には、抗体を単独で、または抗菌抗体もしくは抗生物質もしくは他の抗菌療法と組み合わせて投与することができる。このような抗体の投与を他の治療法とともに行うことにより、治療過程の短縮または治療薬の用量減少が可能となり、そうすることで耐性発生のリスクが低下し、患者のコンプライアンスが改善される可能性がある。
【0063】
薬学的組成物の投与量は、治療しようとする疾患または障害、治療しようとする個体の年齢および状態などに応じて幅広い範囲にわたりうると考えられ、最終的には医師が用いるべき適切な投与量を決定すると考えられる。
【0064】
このような組成物はヒト用にも獣医学用にも製剤化することができる。本出願は、文脈において明白にそれ以外であることが示されない限り、ヒトにも非ヒト動物にも等しく適用されるものと解釈されるべきである。治療法は予防的でもよく、または既存の状態に関するものでもよい。また、治療法を、既存の治療法の有効性を高めるために用いることもできる。
【0065】
組成物は単位投薬式剤形として提供してもよく、一般的には密封容器内にある状態で提供することができ、さらにキットの部分として提供してもよい。このような複数の部分から構成されるキットは通常(必ずではない)、使用のための指示書を含むと考えられる。これが複数の前記単位投薬式剤形を含んでもよい。
【0066】
本発明の方法は、細菌によって引き起こされる短期的または長期的、急性または慢性の病気/疾患に対して適用することができる。1つの好ましい態様において、本発明の方法および使用法は、嚢胞性線維症に罹患した患者で特に懸念される病原体である緑膿菌によって引き起こされる感染症を対象としてもよい。さらに、本発明の方法および使用法は、特に細菌細胞シグナル伝達分子を対象とし、細菌細胞それ自体は主として対象としていないため、細菌集団に作用して記載した治療に対する耐性を生じさせる選択圧は存在しないと考えられる。
【0067】
抗体は、感染した患者に対して、バイオフィルム形成を低下させることによって細菌感染症を是正および軽減するために投与することができる。これには、嚢胞性線維症患者による、推定寿命を延長させるためのエアロゾル中抗体の吸入が含まれうる。
【0068】
さらにもう1つの態様において、ラクトンシグナル伝達分子に対する免疫応答を賦活させ、中和抗体の産生を誘発することを目的として、細胞シグナル伝達分子と免疫原性タンパク質との結合体を個体または患者に対して投与することもできる。
【0069】
さらにもう1つの態様においては、感染性微生物におけるバイオフィルム形成を低下させ、それによって病毒性を低下させ、細菌の殺菌薬および宿主防御系に対する感受性を増大させることを目的として患者の血液から細菌細胞-細胞間シグナル伝達分子を除去するために、代替的な方法を適用することができる。これは、前記ラクトンシグナル分子と結合する他の天然の受容体または天然の受容体を基にした分子を用いて実現することができる。または、分子鋳型を有するポリマー(MIP)などの非天然性受容体を適用することもできる。このクラスの受容体は、薬物(Hart et al., 2000)およびステロイド(Whitcombe et al., 1995;Ramstrom et al., 1996;Rachkov et al., 2000)などの低分子量生体分子と特異的に結合しうることがすでに示されている。
【0070】
さらにもう1つの態様において、受容体が触媒活性または酵素活性を有していて、ラクトン細胞シグナル伝達分子をもはや標的生物によっては認識されない形態に変換することができてもよい。
【0071】
本発明の第5の局面によれば、細胞シグナル伝達分子に対する細菌の走化性応答の防止または阻害に用いるための、本明細書中に定義された通りの抗体が提供される。このような使用法は、細胞シグナル伝達分子に対する細菌の走化性応答を阻害または防止するための方法であって、本明細書中に定義された通りの抗体を含む組成物を前記細菌の集団に対して投与する段階を含む方法にも及ぶ。
【0072】
本発明の第2および以後の局面の好ましい特徴には、第1の面に関するものが準用される。
【0073】
動物宿主における関連した用途を非制限的に含む、本発明のその他の目的、特徴および利点は、本発明の明細書および特許請求の範囲を吟味することにより、当業者には明らかになると考えられる。
【0074】
本明細書中に開示した組成物および方法が、広範囲にわたる生物を通じて、バイオフィルム形成の阻害、および感染に起因する状態の是正または治療における用途を有することは、当業者には明らかであると考えられる。本発明の組成物および方法は緑膿菌を参照しながら説明されているが、本明細書の目的を他の種に対して適用することは当業者の技能の範囲に含まれる。
【0075】
以下では、本発明を、以下に詳述する非制限的な例および図面を参照しながらさらに説明する。
【0076】
実施例1:抗AHL抗体の作製
未処理のヒト抗体ファージディスプレイライブラリーを、アシル-ホモセリンラクトンdDHL(ドデカノイル-ホモセリンラクトン)の結合体に対してスクリーニングした。手短に述べると、アシル鎖の末端にカルボキシル基を含むdDHLの誘導体を、周知の化学的手法を用いて、担体タンパク質であるウシ血清アルブミン(BSA)およびウシチログロブリン(TG)と結合させた。抗体ライブラリーをそれぞれの結合体に対して交互に3回スクリーニング(パニング)し、結合体と結合したファージを単離し、増幅して、以降の回のために用いた。1回目の後には、すべての結合性ファージを回収して増幅した。2回目および3回目の際には、遊離性の可溶性天然型dDHLの溶液とのインキュベーションにより、固定化した結合体から結合ファージを溶出させた。3回目によるモノクローナルファージ抗体を、まず両方のAHL結合体および担体タンパク質のみに対する結合に関してスクリーニングした。結合体を形成した抗原のみと結合したクローンを、競合結合ELISAにより、遊離dDHLと結合する能力に関してさらにスクリーニングした。遊離dDHLまたは遊離BHL(N-ブチル-ホモセリンラクトン)の存在下でdDHL-結合体に対する結合が阻害された、Hap 2と命名されたクローンが単離された。
【0077】
バイオフィルム産生の測定
緑膿菌によるバイオフィルムの形成を、Conway et al., 2002に記載された方法に従い、増殖中の細胞がポリプロピレン製96ウェルマイクロタイタープレートの表面に付着する能力を評価することによって測定した。緑膿菌PA14株を5mlのLB培地に接種し、37℃で一晩インキュベートした。翌日に細菌を1%として100μl/ウェルのLB培地を含む96ウェル組織培養プレートに接種し、37℃の加湿環境で一晩インキュベートした。最小培地(LB)の使用により、バイオフィルムの形成が防止された。
【0078】
プレートを2,500rpmで10分間遠心し、ペレット化した細胞を乱さないように注意して上清を吸引した。続いて細胞を100μl/ウェルの脳/心臓浸出液培地によりインサイチューで再懸濁させた。この培養物を37℃で2時間インキュベートした。培地を除去し、残りの浮遊細胞を除去するために、生じたバイオフィルムを乱さないように注意しながら200μl/ウェルのdH2Oでウェルを3回洗った。付着細胞(バイオフィルム)を、125μl/we//の1%クリスタルバイオレット溶液を添加した後に室温で15分間インキュベートすることによって染色した。続いて、プレートをdH2Oで十分に洗うことによって余分な色素を除去した。産生されたバイオフィルムの程度の指標であるクリスタルバイオレット色素を、200μl/ウェルの95%エタノールを用いて回収した。125μlのエタノール/クリスタルバイオレットの吸光度を590nmで測定した。
【0079】
バイオフィルムの阻害
バイオフィルムアッセイ法を上記の通りに行った。ペレット化した細菌を脳/心臓浸出液培地中に再懸濁させた上で、100μl/ウェル のHap 2一本鎖抗体断片(scAb)PBS溶液またはPBSのみをさらに添加した。
【0080】
i)バイオフィルム阻害の滴定
緑膿菌PA14株によるバイオフィルムの成立に対する抗体濃度の影響を明らかにするために、Hap-2抗AHL scAbの希釈系列を、2つ通りのウェルに用意した。インキュベーションを上記の通りに2時間続け、バイオフィルム形成に対するHap 2添加の影響を、種々のscAb濃度で固定されたクリスタルバイオレット色素の量によって評価した。対照実験は、scAbの代わりにPBSを用いるか、またはどの程度の色素がプレートに受動的に吸着されるかを評価するために細菌をも省くかの両者として行った。その結果は、Hap-2 scAbの添加がバイオフィルムの濃度依存的な阻害を引き起こすことを明らかに示している(図1)。濃度70nMのscAbは、バイオフィルムを約80%減少させるのに十分である。
【0081】
ii)抗体およびテトラサイクリンの影響
抗生物質テトラサイクリンは、シュードモナス属細菌におけるバイオフィルム形成を阻害することが知られている。バイオフィルム阻害薬の存在下での培養物のインキュベーション時間を6時間に延長した点を除き、バイオフィルムアッセイ法を本質的には上記の通りに行った。scAbの希釈系列に加えて、2つ通りのウェルをテトラサイクリンの希釈系列によっても処理した。ウェルのさらにもう1つのセットには、scAbおよびテトラサイクリンの両方を含めた。その結果は、scAbおよびテトラサイクリンはいずれもバイオフィルム形成を長期間にわたって低下させる効果があるが、この2つを組み合わせると低濃度で相加的効果が得られることを示している(図2)。
【0082】
iii)バイオフィルム阻害の経時的推移
バイオフィルム形成に対するscAb添加の経時的な影響を、アッセイ法を4時間にわたり行い、いくつかの時点で試料の読み取りを行うことによって評価した。濃度70nMでの抗AHL scAb Hap-2を、scAbが存在しない培養物と比較し、クリスタルバイオレット吸着に対するscAbおよびPBSのみの影響を対照として含めた(図3)。その結果は、栄養分の多い培地中で増殖すると細菌細胞が表面に極めて迅速に付着すること、およびHap-2が急速に成立したバイオフィルムを時間経過とともに徐々に減少させることを示唆している。
【0083】
実施例2 クオラムセンシングと走化性とのつながりの実証
緑膿菌が、その表現型を変えることによってAHL細胞シグナル伝達分子の存在にのみ応答しうるのではなく、AHL分子の方向検出およびその源に向かっての移動によって仲間の細胞を能動的に探し出すこともできるか否かを明らかにするために、アッセイ法を行った。
【0084】
LB寒天プレートのプレート縁の近くを孔開け器を用いて切り取り、互いに90゜に放射状に位置するように4つのウェルを作成した。さまざまな濃度の100マイクロリットルのHHL(ヘキサノイル-ホモセリンラクトン)をウェルのうち3つのそれぞれに適用した。第4のものには対照としてPBSを添加した。緑膿菌PA14株を一晩培養した20マイクロリットルの1%接種物を、ウェルのそれぞれから等距離となるようにプレートの中心にスポット状に置き、プレートを37℃で一晩インキュベートした。
【0085】
細菌をプレートに適用した場所である中心のスポットのほかに、数多くのコロニーが中心からさまざまな距離で観察された。これらは、沈降の前に寒天表面を通って移動して固着的な様式で増殖した運動性細胞によって生じた。プレートに、各ウェルが隣接したそれぞれの四分円から等距離となるように4つの等しい四分円として印を付けた。各四分円に位置するコロニーの数を算定した。その結果は、緑膿菌がHHLの存在に対して走化性応答を示し、HHLに向かって遊泳する細胞の数はウェルに適用した濃度、したがって濃度勾配に比例することを示している(図4)。
【0086】
参考文献


【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】緑膿菌PA14株のバイオフィルム性増殖の進展に対する種々の濃度の抗AHL一本鎖抗体断片(scAb)Hap-2(●)の影響を、抗体が存在しない(□)または細菌細胞が存在しない(○)対照と比較して示している。
【図2】6時間の時点でのバイオフィルム形成に対するHap-2 scAb(●)、テトラサイクリン(▼)、Hap-2+テトラサイクリン(○)の影響を、細菌のみ(■)およびPBSのみ(□)の対照と比較して示している。
【図3】Hap-2(■)によるバイオフィルムの阻害の経時的推移を、抗体なし(□)、抗体のみ(□)および細菌なし(□)の対照と比較して示している。
【図4】種々の濃度のクオラムセンシングシグナル分子ヘキサノイル-ホモセリンラクトン(HHL)に向かっての運動性緑膿菌の移動を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌の集団によるバイオフィルム形成を防止または阻害する方法であって、集団に対しての、細菌によって分泌されるラクトンシグナル分子またはラクトン由来シグナル分子に対する抗体の投与を含む方法。
【請求項2】
ラクトンシグナル分子がホモセリン分子またはペプチドチオラクトン分子である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ホモセリンラクトン分子が、以下のものからなる群より選択される一般式を有する、請求項2記載の方法:

式中、n=0〜12である。
【請求項4】
一般式Iのホモセリンラクトン分子が、n=0の場合はN-ブタノイル-L-ホモセリンラクトン(BHL)であり、n=8の場合はN-ドデカノイル-L-ホモセリンラクトン(dDHL)であり、n=10の場合はn-テトラデカノイル-L-ホモセリンラクトン(tDHL)である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
一般式IIのホモセリンラクトン分子が、n=2の場合はN-(-3-オキソヘキサノイル)-L-ホモセリンラクトン(OHHL)であり、n=8の場合はN-(-3-オキソドデカノイル)-L-ホモセリンラクトン(OdDHL)である、請求項3記載の方法。
【請求項6】
一般式IIIのホモセリンラクトン分子が、n=0の場合にはN-(-3-ヒドロキシブタノイル)-L-ホモセリンラクトン(HBHL)である、請求項3記載の方法。
【請求項7】
ペプチドチオラクトンが、以下の一般式(IV)を有する、請求項2記載の方法:

式中、Xが任意のアミノ酸であり、n=1〜10である。
【請求項8】
ペプチドチオラクトン分子が、

である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
ラクトン由来シグナル分子がフラノシルホウ酸ジエステルである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
フラノシルホウ酸ジエステルがオートインデューサー-2(AI-2)

である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
ラクトン由来シグナル分子が、Pro-AI-2

またはそのC1〜C10飽和もしくは不飽和カルボン酸誘導体である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
抗体がポリクローナル抗体である、請求項1〜11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項1〜11のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
抗体が一本鎖抗体(scAb)である、請求項1〜11のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
抗体が抗体断片である、請求項1〜11のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
抗体断片が一本鎖抗体(scAb)である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
抗体断片が単一ドメインの断片である、請求項15記載の方法。
【請求項18】
一本鎖抗体(scAb)が、それぞれNCIMB-41167、NCIMB-41168、NCIMB-41169、NCIMB-41170として寄託されているG3H5、G3B12、G3G2および/またはG3H3である、請求項16記載の方法。
【請求項19】
細菌が、アクチノバチルス-アクチノミセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)、アシネトバクター-バーマニー(Acinetobacter baumannii)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、ブルセラ属菌(Brucella sp.)、カンピロバクター属菌(Campylobacter sp.)、カプノシトファガ属菌(Capnocytophaga sp.)、カルジオバクテリウム-ホミニス(Cardiobacterium hominis)、エイケネレラ-コロデンス(Eikenella corrodens)、野兎病菌(Francisella tularensis)、軟性下疳菌(Haemophilus ducreyi)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、ヘリコバクター-ピロリ菌(Helicobacter pylori)、キンゲラ-キンガエ(Kingella kingae)、レジュネラ-ニューモフィラ菌(Legionella pneumophila)、パスツレラ-ムルトシダ(Pasteurella multocida)、シトロバクター属菌(Citrobacter sp.)、エンテロバクター属菌(Enterobacter sp.)、大腸菌(Escherichia coli)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、プロテウス属菌(Proteus sp.)、腸炎菌(Salmonella enteriditis)、チフス菌(Salmonella typhi)、霊菌(Serratia marcescens)、シゲラ属菌(Shigella sp.)、エルシニア-エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)、ペスト菌(Yersinia pestis)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、モラクセラ-カタラーリス(Moraxella catarrhalis)、ベイヨネラ属菌(Veillonella sp.)、バクテロイデス-フラジリス(Bacteroides fragilis)、バクテロイデス属菌(Bacteroides sp.)、プレボテラ属菌(Prevotella sp.)、フソバクテリウム菌属(Fusobacterium sp.)、鼠咬症スピリルム(Spirillum minus)、エロモナス属菌(Aeromonas sp.)、プレシオモナス-シゲロイデス(Plesiomonas shigelloides)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)、ビブリオ-バルニフィカス(Vibrio vulnificus)、アシネトバクター属菌(Acinetobacter sp.)、フラボバクテリウム属菌(Flavobacterium sp.)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、ブルクホルデリア-セパシア(Burkholderia cepacia)、ブルクホルデリア-シュードマレイ(Burkholderia pseudomallei)、キサントモナス-マルトフィリア(Xanthomonas maltophilia)、ステノトロフォモナス-マルトフィラ(Stenotrophomonas maltophila)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、バシラス属細菌(Bacillus spp.)、クロストリジウム属細菌(Clostridium spp.)および連鎖球菌属細菌(Streptococcus spp.)からなる群より選択される、請求項1〜18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
抗生物質の投与をさらに含む、請求項1〜19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
対象における細菌の集団によるバイオフィルムの形成の防止または阻害のための方法であって、請求項1〜18のいずれか一項に定義された抗体の投与を含む方法。
【請求項22】
抗生物質の投与をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
細菌の集団によるバイオフィルムの形成の防止または阻害のための、請求項1〜18のいずれか一項に定義された抗体と、別々の、その後のまたは同時の投与のための抗生物質とを含む、複数の部分で構成されるキット。
【請求項24】
細菌の集団によるバイオフィルムの形成の防止または阻害のための医薬品の調製における、請求項1〜18のいずれか一項に定義された抗体の使用法。
【請求項25】
細菌の集団によるバイオフィルムの形成の防止または阻害に用いるための、細菌によって分泌されるラクトンシグナル分子またはラクトン由来シグナル分子に対する抗体。
【請求項26】
ラクトンシグナル分子がホモセリン分子またはペプチドチオラクトン分子である、請求項25記載の使用のための抗体。
【請求項27】
ホモセリンラクトン分子が、以下のものからなる群より選択される一般式を有する、請求項26記載の使用のための抗体:

式中、n=0〜12である。
【請求項28】
一般式Iのホモセリンラクトン分子が、n=0の場合はN-ブタノイル-L-ホモセリンラクトン(BHL)であり、n=8の場合はN-ドデカノイル-L-ホモセリンラクトン(dDHL)であり、n=10の場合はn-テトラデカノイル-L-ホモセリンラクトン(tDHL)である、請求項27記載の使用のための抗体。
【請求項29】
一般式IIのホモセリンラクトン分子が、n=2の場合はN-(-3-オキソヘキサノイル)-L-ホモセリンラクトン(OHHL)であり、n=8の場合はN-(-3-オキソドデカノイル)-L-ホモセリンラクトン(OdDHL)である、請求項27記載の使用のための抗体。
【請求項30】
一般式IIIのホモセリンラクトン分子が、n=0の場合にはN-(-3-ヒドロキシブタノイル)-L-ホモセリンラクトン(HBHL)である、請求項27記載の使用のための抗体。
【請求項31】
ペプチドチオラクトンが、以下の一般式(IV)を有する、請求項26記載の使用のための抗体:

式中、Xが任意のアミノ酸であり、n=1〜10である。
【請求項32】
ペプチドチオラクトン分子が、

である、請求項31記載の使用のための抗体。
【請求項33】
ラクトン由来シグナル分子がフラノシルホウ酸ジエステルである、請求項26記載の使用のための抗体。
【請求項34】
フラノシルホウ酸ジエステルがオートインデューサー-2(AI-2)

である、請求項33記載の使用のための抗体。
【請求項35】
ラクトン由来シグナル分子が、Pro-AI-2

またはそのC1〜C10飽和もしくは不飽和カルボン酸誘導体である、請求項26記載の使用のための抗体。
【請求項36】
ポリクローナル抗体である、請求項26〜35のいずれか一項記載の使用のための抗体。
【請求項37】
モノクローナル抗体である、請求項26〜35のいずれか一項記載の使用のための抗体。
【請求項38】
一本鎖抗体(scAb)である、請求項26〜35のいずれか一項記載の使用のための抗体。
【請求項39】
抗体断片である、請求項26〜35のいずれか一項記載の使用のための抗体。
【請求項40】
抗体断片が一本鎖抗体(scAb)である、請求項39記載の使用のための抗体。
【請求項41】
抗体断片が単一ドメインの断片である、請求項39記載の使用のための抗体。
【請求項42】
一本鎖抗体(scAb)が、それぞれNCIMB-41167、NCIMB-41168、NCIMB-41169、NCIMB-41170として寄託されているG3H5、G3B12、G3G2および/またはG3H3である、請求項40記載の使用のための抗体。
【請求項43】
細菌が、アクチノバチルス-アクチノミセテムコミタンス、アシネトバクター-バーマニー、百日咳菌、ブルセラ属菌、カンピロバクター属菌、カプノシトファガ属菌、カルジオバクテリウム-ホミニス、エイケネレラ-コロデンス、野兎病菌、軟性下疳菌、インフルエンザ菌、ヘリコバクター-ピロリ菌、キンゲラ-キンガエ、レジュネラ-ニューモフィラ菌、パスツレラ-ムルトシダ、シトロバクター属菌、エンテロバクター属菌、大腸菌、肺炎桿菌、プロテウス属菌、腸炎菌、チフス菌、霊菌、シゲラ属菌、エルシニア-エンテロコリチカ、ペスト菌、淋菌、髄膜炎菌、モラクセラ-カタラーリス、ベイヨネラ属菌、バクテロイデス-フラジリス、バクテロイデス属菌、プレボテラ属菌、フソバクテリウム菌属、鼠咬症スピリルム、エロモナス属菌、プレシオモナス-シゲロイデス、コレラ菌、腸炎ビブリオ、ビブリオ-バルニフィカス、アシネトバクター属菌、フラボバクテリウム属菌、緑膿菌、ブルクホルデリア-セパシア、ブルクホルデリア-シュードマレイ、キサントモナス-マルトフィリア、ステノトロフォモナス-マルトフィラ、黄色ブドウ球菌、バシラス属細菌、クロストリジウム属細菌および連鎖球菌属細菌からなる群より選択される、請求項25〜42のいずれか一項記載の方法。
【請求項44】
細胞シグナル伝達分子に対する細胞の走化性応答の阻害または防止に用いるための、細菌によって分泌されるラクトンシグナル分子またはラクトン由来シグナル分子に対する抗体。
【請求項45】
細胞シグナル伝達分子に対する細菌の走化性応答を阻害または防止する方法であって、該細菌の集団に対して、細菌によって分泌されるラクトンシグナル分子またはラクトン由来シグナル分子に対する抗体を含む組成物を投与する段階を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−502710(P2008−502710A)
【公表日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−517401(P2007−517401)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【国際出願番号】PCT/GB2005/001843
【国際公開番号】WO2005/111080
【国際公開日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(505055424)ハプトゲン リミテッド (5)
【Fターム(参考)】