感染症予防剤
【課題】抗生物質やワクチンを使用しないで感染症を簡便に低コストで予防し、免疫活性を増強する製剤および飼料を提供することである。
【解決手段】有用菌を混合培養して得られる成分を含有する感染症予防剤。
【解決手段】有用菌を混合培養して得られる成分を含有する感染症予防剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染症予防剤およびこれを含有する飼料に関するものである。より詳しくは複数の有用菌を混合培養して得られる成分を含有する、感染症予防剤または免疫活性増強剤およびそれらを含有する飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年魚類の養殖業者が抱える問題としては、多数飼育や高密度飼育による伝染病の発生や抗生物質使用の弊害などが挙げられる。抗生物質は、食の安全が注目されるなか、水環境中の耐性菌の定着や環境への影響が懸念され、さらに高いコストのためその使用には限界がある。
代表的な疾患として、穴あき病(食用ゴイ、ニシキゴイ、キンギョ等)、頭部潰瘍病(ウナギ)、潰瘍病(サケ、マス等)などと呼ばれている非定型Aeromonas salmonicidaが感染することによって発生する細菌感染症が挙げられる。例えばニシキゴイにおいては、穴あき病により鱗が突起しやがて剥がれてしまい魚の筋肉が露出してしまい他の病気にかかったり、鱗が発赤し出血後潰瘍化(穴あき)し死亡するものもあり早急な対策が必要とされている。しかしながら今のところ4種類の上記疾病以外に対する魚用ワクチンはあるが、穴あき病に対する有効なワクチンは開発されていない。
これに対して、腸内の微生物のバランスを改善することで、宿主動物に有益に働く微生物(生菌添加物)と定義されるプロバイオティクスを動物に摂取させ体の生体防御力を増進し病気にかかりにくくするという方法も報告されている(非特許文献1〜3)。しかしながらプロパイオティクスを摂取する方法は、生菌を必要とし、生態防御効果を獲得するためには大量の生菌の摂取が必要であり、日常的に摂取するには問題があった。
一方複数の有用菌を混合培養して得られる成分がイヌ・ネコなどの動物において免疫増進剤として使用されるという報告がある(特許文献1、非特許文献4、5)。しかし魚類の感染症、特に非定型Aeromonas salmonicidaによる感染症に対して有効なものは知られていない。
【0003】
【特許文献1】特開2007-117083号公報
【非特許文献1】Balcazar, J. L., de Blas, I., Ruiz-Zarzuela, I., Vendrell, D., Girones, O. and Muzquiz, J. L. Enhancement of the immune response and protection induced by probiotic lactic acid bacteria against furunculosis in rainbow trout (Oncorhynchus mykiss). FEMS Immunol. Microbiol., 51: 185-193, 2007
【非特許文献2】Brunt, J. and Austin, B. Use of a probiotic to control lactococcosis and streptococcosis in rainbow trout, Oncorhynchus mykiss (Walbaum). J. Fish Dis., 28: 693-701, 2005
【非特許文献3】Nikoskelainen, S., Ouwehand, A., Salminen, S. and Bylund, G. Protection of rainbow trout (Oncorhynchus mykiss) from furunculosis by Lactobacillus rhamnosus. Aquaculture, 198: 229-236, 2001
【非特許文献4】Biagi, G., Cipollini, I., Pompei, A., Zaghini, G. and Matteuzzi, D. Effect of a Lactobacillus animals strain on composition and metabolism of the intestinal microflora in adult dogs. Vet. Microbiol., 124: 160-165, 2008
【非特許文献5】Marshall-Jones, Z. V., Baillon, M. L. A., Croft, J. M. and Butterwick, R. F. Effects of Lactobacillus acidophilus DSM13241 as a probiotic in healthy adult cats. Am. J. Vet. Res., 67: 1005-1012, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
抗生物質やワクチンを使用しないで感染症を簡便に低コストで予防し、免疫活性を増強する製剤および飼料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、有用菌を混合培養して得られる成分が免疫活性を増強し、感染症を予防することを見出し、更なる研究の結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
[1]有用菌を混合培養して得られる成分を含有する感染症予防剤、
[2]有用菌が乳酸菌、酵母菌および納豆菌である[1]記載の予防剤、
[3]乳酸菌がラクトバチルス・パラカセイ、酵母菌がサッカロマイセス・セリビジェーおよびピチア・メンブラニファシエンス、ならびに納豆菌がバチルス・パミルスである[2]記載の予防剤、
[4]感染症がAeromonas salmonicidaによる感染症である[1]から[3]のいずれか1項に記載の予防剤、
[5]Aeromonas salmonicidaが非定型Aeromonas salmonicidaである[4]記載の予防剤、
[6]感染症が魚類の感染症である[1]から[5]のいずれか1項に記載の予防剤、
[7]魚類が淡水魚である[6]記載の予防剤、
[8][1]から[7]のいずれか1項に記載の予防剤を含む魚類用飼料、
[9]有用菌を混合培養して得られる成分を含有する免疫活性増強剤、
[10]有用菌を混合培養して得られる成分の有効量をヒト以外の動物に投与する工程を含む感染症の予防方法、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、有用菌を混合培養して得られる成分が動物の免疫活性を増強し、感染症に対しては、プロバイオティクスの1/10,000から1/100,000の菌数で有効性を発揮するので、少量の摂取で感染症を予防できる。すなわち大量摂取する必要がないので経済的であり、飼育・養殖上有利である。さらに該成分は生菌を必要としないので管理しやすく、品質も一定に保たれ、食品、動物用飼料などへの添加が容易に行える。また上記成分は、マウスのLD50が2.0g/Kg以上であり、かつ人・ペット・家畜等のサプリメントあるいは飼料添加剤として安全性面で何ら問題は無く、安全で長期摂取することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、有用菌を混合培養して得られる成分を含有する感染症予防剤に関する(本発明の予防剤ともいう)。
【0008】
本発明における有用菌とは、生体に悪影響を及ぼさなければ特に限定されないが、生体に好ましい影響を与える、体によい菌を意味する。具体的には、乳酸菌、酵母菌、納豆菌、麹菌が挙げられる。好ましくは乳酸菌、酵母菌、納豆菌である。
【0009】
本発明における乳酸菌は、乳酸発酵に関与する細菌であれば、特に限定されないが、ラクトバシラス属(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属 (Bifidobacterium)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ラクトコッカス属 (Lactococcus)等に属する細菌が挙げられる。なかでもラクトバシラス属が好ましく、ラクトバチルス・パラカセイ(Lactobacillus paracasei)がより好ましい。
【0010】
本発明における酵母菌は、生活環の大部分が単細胞であり、主として出芽によって増殖する真菌類であれば特に限定されないが、サッカロマイセス属やピチア属に属する細菌が挙げられる。なかでもサッカロマイセス・セリビジェー(Saccharomyces cerevisiae)、ピチア・メンブラニファシエンス(Pichia membranifaciens)が好ましい。
【0011】
本発明における納豆菌は、バチルス属に属する細菌であれば特に限定されないが、バチルス・パミルス(Bacillus pumilus)が好ましい。
【0012】
本願の乳酸菌、酵母菌および納豆菌は、鳥取県と兵庫県との県境の標高約1500m の山腹近辺の土壌から採取したものをスクリーニングすることによって得られたものが好ましい。
【0013】
本発明において有用菌を混合培養して得られる成分(本発明における成分ともいう)とは、上記有用菌を混合培養させ得られる成分、すなわち上記有用菌を共棲発酵させた培養物から得られる成分である。すなわち上記有用菌の生菌、加熱後の死菌、有用菌が培養中に培地に分泌する分泌産物、これらの混合物およびこれらから得られる成分などが挙げられる。なかでも有用菌を混合培養させ得られる培養液(本発明において混合培養液ともいう)、混合培養液から死菌を除去したものが好ましい。また、混合培養液は加熱処理した後に得られる可溶性成分と死菌を含むものが好ましい。
【0014】
本発明における混合培養する際の培地としては、米糠、水、ブドウ糖、蜂蜜、麹汁、麦芽汁、肉エキス等を含有する培地が挙げられる。好ましくは米糠、水、ブドウ糖を含有する培地が挙げられる。
培地の組成成分である米糠の種類は特に限定されるものではないが、たとえば、玄米を精米したときに発生したものを使用することができる。米糠、水、ブドウ糖の比率は、通常1:10〜40:0.5〜4であり、1:10〜30:0.5〜3が好ましく、1:20:1がより好ましい。また上記培地には、有用菌の培養に有用な他の成分を添加してもよい。
【0015】
本発明における成分の製造方法の一実施形態を説明する。
上記乳酸菌、酵母菌および納豆菌を混合培養するための培地を以下のように調製(製造)する。まず米糠と水を混合し混合物を濾過する。混合液(濾液)へブドウ糖を添加し、該混合物を加熱し混合物を濾過する。さらに水を添加し殺菌後冷却し、得られた培地を混合培養に供する。
【0016】
次に得られた培地で上記3種類の菌を以下のように培養して混合培養液を得る。
上記培地へ菌を添加する。一次培養は、通気培養で行う。培養温度は通常32〜40℃であり、好ましくは35〜37℃である。また培養時間は36〜60時間であり、好ましくは40〜55時間である。
【0017】
二次培養は、冷温熟成により行う。培養温度は通常2〜15℃であり、好ましくは5〜8℃である。また培養日数は30〜60日間であり、好ましくは40〜50日間である。
【0018】
二次培養で得られた培地を殺菌する。殺菌方法は特に限定されないが、通常、加熱殺菌、電磁波による殺菌、濾過殺菌などにより行われ、なかでも加熱による殺菌が好ましい。殺菌温度は、加熱殺菌の場合には、通常110〜130℃であり、好ましくは120〜121℃である。また殺菌時間は10〜60分間であり、好ましくは16〜17分間である。このようにして得られた、殺菌後の培養液または濾過し菌体(死菌)を除去し得られるものが本発明における成分である。
【0019】
本発明における感染症とは、細菌による感染症であり、非定型Aeromonas salmonicida、定型Aeromonas salmonicida(せっそう病原因菌)、Aeromonas hydrophila(立鱗病原因菌)、Flavobacterium psychrophilum(細菌性鰓病原因菌)、Flavobacterium columnare(カラムナリス病原因菌)などによる感染症が挙げられる。なかでも本発明の予防剤は非定型Aeromonas salmonicidaによる感染症に有効である。また非定型Aeromonas salmonicidaによる感染症は罹患する魚類によって呼称が異なることから、本発明における感染症とは、食用ゴイ、ニシキゴイ、キンギョ等の穴あき病、ウナギの頭部潰瘍病、サケ、マス等の潰瘍病も包含する。
【0020】
本発明の予防剤の対象は、動物であれば特に限定されないが、非定型Aeromonas salmonicidaによる感染症に罹患する対象が望ましい。通常、魚類などに有効であり、好ましくは魚類であり、淡水魚がより好ましい。なかでも食用ゴイ、ニシキゴイ、キンギョ、ウナギ、サケ、マスなどに有効であり、食用ゴイ、ニシキゴイ、キンギョが好ましい。
【0021】
本発明の予防剤の投与形態(摂取形態)には特に制限は無く、浸漬、経口投与または注射投与(腹腔内投与等)等の非経口投与(摂取)でも良く、特に限定しないが、有効成分が有用菌を混合培養して得られる成分であることから経口投与であることが好ましい。経口投与剤としては、顆粒剤、細粒剤、粉剤、被覆錠剤、錠剤、坐剤、散剤、(マイクロ)カプセル剤、チュアブル剤、シロップ、ジュース、液剤、懸濁剤、乳濁液等、また注射剤としては腹腔内投与・皮下注入用等、魚類にあっては水槽中に添加する形態等の一般の剤型を採用することができる。
【0022】
本発明の予防剤は、常法により製剤化することによって調製することができる。例えば、上記混合培養液は、粉末加工されて、たとえば人やペット用の皮膚外用剤として使用することができる。あるいは菌体を除去せずに粉末加工して、人や犬や猫等のペット用サプリメントや、牛、豚、馬、鶏等の家畜用のサプリメントとして使用することができる。さらには、これらを粉末加工せずに液体のまま使用することもできる。また上記外用剤やサプリメントは、製剤上の必要に応じて、薬理学的に許容し得る各種の製剤用物質(補助剤等として)を配合することができる。製剤用物質は製剤の剤型により適宜選択することができるが、例えば、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤等が挙げられる。
【0023】
なお本発明の予防剤を魚類に経口投与する際には、通常飼料に含有する形態が望ましい。しかしながら飼料から水中に上述した成分が流出するのを防ぐために上記成分をエステル化合物で被覆したり、あるいは水に分散しない油中水型乳化液剤やリポソームのなどの公知の製剤技術を用いて調製してもよい。また水中に溶け出しにくくするため、魚用のモイストペレット(生の魚の切り身をゆるく固めたもの)にカルボキシルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、澱粉、ポリアリリル剤等の粘着剤(粘稠剤)を一緒に混合し得られる浮き餌などが挙げられる。
【0024】
本発明の予防剤においては、経口投与(摂取)の場合、投与量は投与する対象、対象の症状、対象の状態、投与方法等によって異なるが、本発明における成分(乾燥重量として)を通常体重×1/1000000/day〜体重×1/500/day程度、好ましくは体重×1/100000/day〜体重×1/1000/day程度、より好ましくは体重×1/70000/day〜体重×1/2000/day程度投与する。
例えば、魚類の場合には、経口投与して上記感染予防効果を得るためには、投与量、期間、間隔については、投与する季節、水温、魚の種類、年齢によって異なるが、本発明における成分(乾燥重量として)を、通常0.1mg/100g体重/day〜200mg/100g体重/day程度、好ましくは1mg/100g体重/day〜100mg/100g体重/day程度、より好ましくは5mg/100g体重/day〜50mg/100g体重/day、特に好ましくは5mg/100g体重/day〜30mg/100g体重/day程度投与する。投与期間は特に限定されず、投与回数は1〜5回/day、好ましくは1〜2回/dayである。
【0025】
本発明の別の態様として、本発明の予防剤を含む魚類用飼料が挙げられる。魚類用飼料には本発明の予防剤に慣用の添加物を加えて調製することができる。具体的には、ドライペレット(乾燥した固形タイプで、主にフィッシュミール(魚粉)などを原料にし成型した飼料)、エクストルーダーペレット(エクストルーダーと呼ばれる造粒機械で高温高圧加工して成型した飼料)、モイストペレット(生の魚の切り身をゆるく固めたもの)などに本発明の予防剤を加えた魚類用飼料が挙げられる。
【0026】
本発明の別の態様として、有用菌を混合培養して得られる成分を含有する免疫活性増強剤が挙げられる。本発明の免疫活性増強剤の成分、投与量等の条件については上述した通りであり、該剤を摂取することにより、リンパ球が活性化され免疫活性が増強する。その結果生体防御力が高まり種々の病気にかかりにくくなる。本発明の免疫活性増強剤の投与対象としては、特に限定されないが、ヒトをはじめとする哺乳動物、鳥類、魚類・爬虫類(亀)等が挙げられる。
【0027】
本発明は、有用菌を混合培養して得られる成分の有効量を動物に投与する工程を含む感染症の予防方法を提供する。有効量とは所望の予防効果を与えるのに十分な量を言い、上述した用量とほぼ同じである。本発明の予防方法によれば免疫能を高め抗生物質やワクチンを使用しないで感染病を予防できる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0029】
(参考例)
[培地の製造]
培地の製造においては、先ず生米糠450gと水9L とを混合し、1から1.5時間撹拌して、5重量%の米糠の水溶液を抽出した。次にこの米糠混合液を木綿布で濾過した。この濾過には、木綿布の他に、たとえば吸引機やフィルタープレス等を使用することもできる。そして濾過後の濾過残渣(粕)を除去するとともに濾液にブドウ糖450gを添加し、さらに100℃で10分間加熱して混合溶液を調製した。次に、加熱した混合溶液を木綿布で濾過した。この場合の濾過にも、木綿布の他に吸引機やフィルタープレス等を使用することができる。濾過後の濾過残渣を除去するとともに、濾液に水約3Lを補充し9Lの混合溶液を調整した。この溶液を121℃で17分間殺菌した後、冷却することによって培地を得た。生米糠としては、玄米の精米時に発生して得られたものを用いた。さらに水は水道水を用いた。
【0030】
〔培養液の製造〕
培養液の製造においては、先ず上記のようにして得られた培地に、ラクトバチルス・パラカセイ(Lactobacillus paracasei)、サッカロマイセス・セリビジェー(Saccharomyces cerevisiae)、ピチア・メンブラニファシエンス(Pichia membranifaciens)およびバチルス・パミルス(Bacillus pumilus)の4種類の菌を添加して混合した。次に37℃で48 時間通気培養を行った(一次培養)。一次培養後に、5℃で1.5ケ月間冷温熟成を行った(二次培養)。この二次培養後に、121℃で17分間殺菌した後、菌体を除去するために濾過して混合培養液を得た。この混合培養液は5℃で冷蔵保管した。
【0031】
(実施例)
材料
LBSカルチャー(株式会社リタニアルバイオサイエンスの商品名、本明細書記載の有用菌を混合培養して得られる成分を含有する発酵液)は参考例に記載された加熱処理後のものであり菌体を除去していないものを使用した。
実験1および2で使用したコイ用飼料(ひかり胚芽、株式会社キョーリン)は市販のものを使用し、この飼料にLBSカルチャーを添加・成型し使用した。
実験3では、コイ用飼料は、小麦胚芽・小麦粉・エビミール・ビール酵母・脱脂粉乳・大豆粕・ルーサンミール・各種ビタミン・各種ミネラル・抗酸化剤・消化酵素を配合して練りこみ、エクストルーダーで成型加工して乾燥させたものを使用した。実験用には上記材料にLBSカルチャーを混合したものを練りこみ、エクストルーダーで成型加工して乾燥させたものを使用した。
【0032】
試験方法
LBSカルチャーの投与濃度および水温の異なる条件下で以下の実験を行った。
【0033】
(実験1)コイの生理状態が最適条件よりもやや低い水温、非定型A. salmonicidaの増殖が至適水温以下における実験
LBSカルチャーを5%添加したコイ用飼料を毎日2回、32日間給餌した。1群10匹のコイ(ニシキゴイ、雌雄無選別)を使用し、実験開始時の平均体重32±5g、1日あたりの飼料投与量を0.3g/匹とした。参考例に示したLBSカルチャー製造に用いる培地を5%添加した飼料、および無添加通常飼料を陰性対照として用いた。
飼育水温は実験開始時18℃、A. salmonicida感染時13℃、また実験終了時10℃であった。
実験開始後32日目に、強毒非定型A. salmonicidaT1031株(新潟県内水面試験場より分与されたもの)を、菌数6.7 x 106/mlの濃度の水中にコイを1時間浸漬、A. salmonicidaに感染させた。
感染後、コイの生死および体表の病変を33日間観察し、死亡魚については病変部および内臓からの菌分離を実施した。実験終了後、生残魚の肉眼病変を観察するとともに、菌分離も行った。LBSカルチャー添加飼料および対照飼料は、実験期間を通して投与した。
【0034】
培地添加あるいはLBSカルチャー非添加飼料投与対照魚において、感染6日後より体表の限局性膨隆、出血と皮膚のびらんを示すものが観察された。表1は、感染33日後におけるコイの肉眼病変を示し、図1は肉眼病変スコアーの推移を示す。感染9日後以降出血病変は広範囲、かつ重度となり、皮膚病変はいわゆる‘穴あき’状態を呈した。感染33日における死亡魚はそれぞれの群で1匹、および2匹であるが、これは低水温の影響で菌の増殖が遅いことによる。一部の魚の体表出血病変部および潰瘍部からA. salmonicidaが分離された。
これに対し、LBSカルチャーを5%含む飼料を給餌したコイにおいては、皮膚病変は全く観察されないか、あるいは軽微であり、死亡する魚もなかった。
すべての群をとおして、生残魚の皮膚および腹腔内臓器からは、菌は分離されなかった。
【0035】
【表1】
【0036】
(実験2)コイの生理状態、A. salmonicidaの増殖がともに至適水温の範囲における実験
LBSカルチャーを3%、0.5%、あるいは0.1%添加した飼料を毎日2回、25日間給餌した。1群10匹のコイ(ニシキゴイ、雌雄無選別)の実験開始時の平均体重は30±4g、1日あたりの飼料投与量を0.3g/匹とした。LBSカルチャー無添加飼料を陰性対照として用いた。
飼育水温は実験開始時15℃、A. salmonicida感染時18℃、また実験終了時20℃であった。
実験開始後25日目に、非定型A. salmonicidaT1031株(新潟県内水面試験場より分与されたもの)を、菌数4.1 x 106/mlの濃度の水中にコイを1時間浸漬、A. salmonicidaに感染させた。
感染後、コイの生死および体表の病変を22日間観察し、菌分離も行った。LBSエキス添加飼料および対照飼料は、実験期間を通して投与した。
χ2testで有意差検定を行った。
【0037】
LBSカルチャー非添加飼料投与対照魚において、感染4日後より体表の限局性膨隆、出血と皮膚のびらんを示すものが観察され、その後出血病変は広範囲、かつ重度となり、一部は‘穴あき’を呈した。表2は、感染22日後におけるコイの肉眼病変を示す。感染6日後より魚は死亡し、22日後における生残率は10%であった(図2)。
一方、LBSカルチャーを3%含む飼料を給餌したコイにおいては、感染10日後に2匹が死亡したのみで、実験期間を通して生残した(生存率80%)(P<0.01)。また、皮膚病変の程度も対照魚に比べ軽度であった。
これに対し、LBSカルチャー0.5%あるいは0.1%添加飼料を給餌したコイは、実験終了時までにそれぞれ6匹(P>0.05)、5匹(P<0.05)が死亡し、また、肉眼病変も観察された。
4群をとおして、一部の魚の体表出血病変部および潰瘍部、また死亡魚からA. salmonicidaが分離された。
【0038】
【表2】
【0039】
(実験3)コイの生理状態が最適条件にある水温、A. salmonicidaの増殖が至適範囲よりもやや高い水温における実験
LBSカルチャー添加飼料を上記の飼料を用いて、実験2と同様の実験を行った。
LBSカルチャーを3%、0.5%、あるいは0.1%添加した飼料を毎日2回、25日間給餌した。1群10匹のコイの実験開始時の平均体重は31 ± 6g、1日あたりの飼料投与量を0.3g/匹とした。LBSカルチャー無添加飼料を陰性対照として用いた。
飼育水温は実験開始時22℃、A. salmonicida感染時23℃、また実験終了時28℃であった。
実験開始後25日目に、A. salmonicida菌数4.2 x 106/mlの濃度の水中にコイを1時間浸漬感染した。感染後、コイの生死および体表の病変を32日間観察し、菌分離も行った。LBSエキス添加飼料および対照飼料は、実験期間を通して投与した。
χ2testで有意差検定を行った。
【0040】
LBSカルチャー非添加飼料投与対照魚において、感染3日後より体表の限局性膨隆、出血と皮膚のびらんを示すものが観察され、その後出血病変は広範囲、かつ重度となり、一部は‘穴あき’を呈した。表3は、感染32日後におけるコイの肉眼病変を示し、図3は肉眼病変スコアーの推移を示す。感染18日後より魚は死亡し、32日後における生存率は30%であった(図4)。
一方、LBSカルチャーを3%含む飼料を給餌したコイは、実験期間を通してすべて生残し(P<0.01、1匹が水槽外飛び跳ね事故により死亡したため、9匹で試験)、皮膚病変の程度も対照魚に比べ軽度であった。
また、LBSカルチャー0.5%添加飼料を給餌したコイは、実験終了時までに1匹(P>0.01)が死亡したのみであった。
これに対し、LBSカルチャー0.1%添加飼料を給餌したコイは、実験終了時までに6匹が死亡した。
4群をとおして、一部の魚の体表出血病変部および潰瘍部、また死亡魚からA. salmonicidaが分離された。
【0041】
【表3】
【0042】
今回の実験結果から、コイへのLBSカルチャー添加飼料の給餌は、非定型A. salmonicida感染に対し感染防御効果をもたらすことが明らかとなった。特に、低水温下では皮膚病巣の形成をほぼ完全に抑制することが出来た。2回の実験結果を総合すると、投与LBSカルチャー濃度は3%以上で有効であり、0.5%以下ではその防御効果は弱いことが示された。
【0043】
(実験4)
2倍段階希釈したLBSカルチャー(20倍〜2,560倍)を、BALB/cマウス(10〜15週齢)脾臓リンパ球培養(1 x 105細胞/0.1 ml、培地は RPMI1640に牛胎児血清を10%加えたもの)に加え、37℃で72時間培養した。陰性対照は、LBSカルチャー製造に用いる培地、陽性対照は、コンカナバリンAを用いた。
72時間培養後、Premix WST-1 Cell Proliferation Assay System試薬(Takara社)を所定量加え、37℃、4時間反応後、波長450 nmで吸光度を測定した。
測定結果は、LBSカルチャー製造に用いる培地を加えて培養した場合の吸光度との差をグラフに表示し、Studentのt-testで有意差検定を行った(コンカナバリンAの場合は、細胞培養液のみの培養との比較)。
次に、ゲルろ過法により、リンパ球活性化能を有する成分の分離を試みた。
材料は、LBSカルチャーを濃縮したもの用いた。まず、LBSカルチャーから遠心により細菌成分を除去し、上清を凍結乾燥した。少量の脱イオン水に再融解した後、リン酸緩衝食塩水に対し透析し、最終的に出発材料の1/8に濃縮した濃縮液を得た。
濃縮液をセファクリルS200を用いて分離した。波長280 nmで蛋白質の吸光度を測定した。
分画したそれぞれの画分について、マウスリンパ球活性化試験を行った。
【0044】
LBSカルチャーは、陰性対照の培地のみの反応と比較した場合、40倍〜2,560倍の希釈において有意にリンパ球を活性化した(図5)。活性化の程度は、一般に免疫応答が優れているとされている陽性対照のコンカナバリンAよりも高かった。
ゲルろ過の結果、リンパ球活性化能を有する成分は高分子量と、低分子量の主として2つの部分に分離された(図6)。
【0045】
上記実験結果から、コイへのLBSカルチャー添加飼料の給餌は、非定型A. salmonicida感染に対し感染防御効果をもたらすことが示された。すなわち、出血病変の出現や潰瘍の形成を抑制し、さらには死亡が抑えられた。
特に、菌の増殖が至適水温以下の低水温下では皮膚病巣の形成をほぼ完全に抑制することが出来た(実験1)。
A. salmonicidaの増殖に好適、あるいはそれに近い水温での実験では、LBSカルチャー添加飼料(3%、および0.5%)給餌コイの生残率は、非添加飼料給餌コイと比較し有意に高かった(実験2、3)。
【0046】
防御メカニズムの一つとして、LBSカルチャーによるコイの基盤免疫能強化が推測される。現時点では確実なコイリンパ球活性化試験方法がないため、本試験ではマウスを用いてリンパ球活性化試験を実施した。その結果、LBSカルチャーはマウスリンパ球を活性化することが示された(実験4)。40倍〜2,560倍の広い範囲において有効であり、活性化の程度は陽性対照のコンカナバリンAよりも高いことから、その効果が強力であることが示された。
ゲルろ過の結果、有効成分は高分子量と低分子量の主として2つの部分に分離した。本実験は細菌成分を除去した材料での試験結果であり、このことはLBSカルチャー可溶性成分のみでもリンパ球活性化能を有することを示す。
上記より投与されたLBSカルチャーが腸管より吸収、あるいは血中に存在することにより、体に何らかの生理学的変化が起こり、感染防御効果をもたらすことが示された。LBSカルチャーはマウスリンパ球を活性化することから、コイ以外の多種の動物においても基盤免疫能(リンパ球、マクロファージ)を高め、免疫活性を増強し、感染病を防御できることが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】非定型Aeromonas salmonicida感染後におけるコイの肉眼病変を示す図である。
【図2】非定型Aeromonas salmonicida感染後におけるコイの生存率を示す図である。
【図3】非定型Aeromonas salmonicida感染後におけるコイの肉眼病変を示す図である。
【図4】非定型Aeromonas salmonicida感染後におけるコイの生存率を示す図である。
【図5】マウス脾細胞におけるリンパ球活性化を示す図である。
【図6】リンパ球活性化成分の分離を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染症予防剤およびこれを含有する飼料に関するものである。より詳しくは複数の有用菌を混合培養して得られる成分を含有する、感染症予防剤または免疫活性増強剤およびそれらを含有する飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年魚類の養殖業者が抱える問題としては、多数飼育や高密度飼育による伝染病の発生や抗生物質使用の弊害などが挙げられる。抗生物質は、食の安全が注目されるなか、水環境中の耐性菌の定着や環境への影響が懸念され、さらに高いコストのためその使用には限界がある。
代表的な疾患として、穴あき病(食用ゴイ、ニシキゴイ、キンギョ等)、頭部潰瘍病(ウナギ)、潰瘍病(サケ、マス等)などと呼ばれている非定型Aeromonas salmonicidaが感染することによって発生する細菌感染症が挙げられる。例えばニシキゴイにおいては、穴あき病により鱗が突起しやがて剥がれてしまい魚の筋肉が露出してしまい他の病気にかかったり、鱗が発赤し出血後潰瘍化(穴あき)し死亡するものもあり早急な対策が必要とされている。しかしながら今のところ4種類の上記疾病以外に対する魚用ワクチンはあるが、穴あき病に対する有効なワクチンは開発されていない。
これに対して、腸内の微生物のバランスを改善することで、宿主動物に有益に働く微生物(生菌添加物)と定義されるプロバイオティクスを動物に摂取させ体の生体防御力を増進し病気にかかりにくくするという方法も報告されている(非特許文献1〜3)。しかしながらプロパイオティクスを摂取する方法は、生菌を必要とし、生態防御効果を獲得するためには大量の生菌の摂取が必要であり、日常的に摂取するには問題があった。
一方複数の有用菌を混合培養して得られる成分がイヌ・ネコなどの動物において免疫増進剤として使用されるという報告がある(特許文献1、非特許文献4、5)。しかし魚類の感染症、特に非定型Aeromonas salmonicidaによる感染症に対して有効なものは知られていない。
【0003】
【特許文献1】特開2007-117083号公報
【非特許文献1】Balcazar, J. L., de Blas, I., Ruiz-Zarzuela, I., Vendrell, D., Girones, O. and Muzquiz, J. L. Enhancement of the immune response and protection induced by probiotic lactic acid bacteria against furunculosis in rainbow trout (Oncorhynchus mykiss). FEMS Immunol. Microbiol., 51: 185-193, 2007
【非特許文献2】Brunt, J. and Austin, B. Use of a probiotic to control lactococcosis and streptococcosis in rainbow trout, Oncorhynchus mykiss (Walbaum). J. Fish Dis., 28: 693-701, 2005
【非特許文献3】Nikoskelainen, S., Ouwehand, A., Salminen, S. and Bylund, G. Protection of rainbow trout (Oncorhynchus mykiss) from furunculosis by Lactobacillus rhamnosus. Aquaculture, 198: 229-236, 2001
【非特許文献4】Biagi, G., Cipollini, I., Pompei, A., Zaghini, G. and Matteuzzi, D. Effect of a Lactobacillus animals strain on composition and metabolism of the intestinal microflora in adult dogs. Vet. Microbiol., 124: 160-165, 2008
【非特許文献5】Marshall-Jones, Z. V., Baillon, M. L. A., Croft, J. M. and Butterwick, R. F. Effects of Lactobacillus acidophilus DSM13241 as a probiotic in healthy adult cats. Am. J. Vet. Res., 67: 1005-1012, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
抗生物質やワクチンを使用しないで感染症を簡便に低コストで予防し、免疫活性を増強する製剤および飼料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、有用菌を混合培養して得られる成分が免疫活性を増強し、感染症を予防することを見出し、更なる研究の結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
[1]有用菌を混合培養して得られる成分を含有する感染症予防剤、
[2]有用菌が乳酸菌、酵母菌および納豆菌である[1]記載の予防剤、
[3]乳酸菌がラクトバチルス・パラカセイ、酵母菌がサッカロマイセス・セリビジェーおよびピチア・メンブラニファシエンス、ならびに納豆菌がバチルス・パミルスである[2]記載の予防剤、
[4]感染症がAeromonas salmonicidaによる感染症である[1]から[3]のいずれか1項に記載の予防剤、
[5]Aeromonas salmonicidaが非定型Aeromonas salmonicidaである[4]記載の予防剤、
[6]感染症が魚類の感染症である[1]から[5]のいずれか1項に記載の予防剤、
[7]魚類が淡水魚である[6]記載の予防剤、
[8][1]から[7]のいずれか1項に記載の予防剤を含む魚類用飼料、
[9]有用菌を混合培養して得られる成分を含有する免疫活性増強剤、
[10]有用菌を混合培養して得られる成分の有効量をヒト以外の動物に投与する工程を含む感染症の予防方法、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、有用菌を混合培養して得られる成分が動物の免疫活性を増強し、感染症に対しては、プロバイオティクスの1/10,000から1/100,000の菌数で有効性を発揮するので、少量の摂取で感染症を予防できる。すなわち大量摂取する必要がないので経済的であり、飼育・養殖上有利である。さらに該成分は生菌を必要としないので管理しやすく、品質も一定に保たれ、食品、動物用飼料などへの添加が容易に行える。また上記成分は、マウスのLD50が2.0g/Kg以上であり、かつ人・ペット・家畜等のサプリメントあるいは飼料添加剤として安全性面で何ら問題は無く、安全で長期摂取することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、有用菌を混合培養して得られる成分を含有する感染症予防剤に関する(本発明の予防剤ともいう)。
【0008】
本発明における有用菌とは、生体に悪影響を及ぼさなければ特に限定されないが、生体に好ましい影響を与える、体によい菌を意味する。具体的には、乳酸菌、酵母菌、納豆菌、麹菌が挙げられる。好ましくは乳酸菌、酵母菌、納豆菌である。
【0009】
本発明における乳酸菌は、乳酸発酵に関与する細菌であれば、特に限定されないが、ラクトバシラス属(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属 (Bifidobacterium)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ラクトコッカス属 (Lactococcus)等に属する細菌が挙げられる。なかでもラクトバシラス属が好ましく、ラクトバチルス・パラカセイ(Lactobacillus paracasei)がより好ましい。
【0010】
本発明における酵母菌は、生活環の大部分が単細胞であり、主として出芽によって増殖する真菌類であれば特に限定されないが、サッカロマイセス属やピチア属に属する細菌が挙げられる。なかでもサッカロマイセス・セリビジェー(Saccharomyces cerevisiae)、ピチア・メンブラニファシエンス(Pichia membranifaciens)が好ましい。
【0011】
本発明における納豆菌は、バチルス属に属する細菌であれば特に限定されないが、バチルス・パミルス(Bacillus pumilus)が好ましい。
【0012】
本願の乳酸菌、酵母菌および納豆菌は、鳥取県と兵庫県との県境の標高約1500m の山腹近辺の土壌から採取したものをスクリーニングすることによって得られたものが好ましい。
【0013】
本発明において有用菌を混合培養して得られる成分(本発明における成分ともいう)とは、上記有用菌を混合培養させ得られる成分、すなわち上記有用菌を共棲発酵させた培養物から得られる成分である。すなわち上記有用菌の生菌、加熱後の死菌、有用菌が培養中に培地に分泌する分泌産物、これらの混合物およびこれらから得られる成分などが挙げられる。なかでも有用菌を混合培養させ得られる培養液(本発明において混合培養液ともいう)、混合培養液から死菌を除去したものが好ましい。また、混合培養液は加熱処理した後に得られる可溶性成分と死菌を含むものが好ましい。
【0014】
本発明における混合培養する際の培地としては、米糠、水、ブドウ糖、蜂蜜、麹汁、麦芽汁、肉エキス等を含有する培地が挙げられる。好ましくは米糠、水、ブドウ糖を含有する培地が挙げられる。
培地の組成成分である米糠の種類は特に限定されるものではないが、たとえば、玄米を精米したときに発生したものを使用することができる。米糠、水、ブドウ糖の比率は、通常1:10〜40:0.5〜4であり、1:10〜30:0.5〜3が好ましく、1:20:1がより好ましい。また上記培地には、有用菌の培養に有用な他の成分を添加してもよい。
【0015】
本発明における成分の製造方法の一実施形態を説明する。
上記乳酸菌、酵母菌および納豆菌を混合培養するための培地を以下のように調製(製造)する。まず米糠と水を混合し混合物を濾過する。混合液(濾液)へブドウ糖を添加し、該混合物を加熱し混合物を濾過する。さらに水を添加し殺菌後冷却し、得られた培地を混合培養に供する。
【0016】
次に得られた培地で上記3種類の菌を以下のように培養して混合培養液を得る。
上記培地へ菌を添加する。一次培養は、通気培養で行う。培養温度は通常32〜40℃であり、好ましくは35〜37℃である。また培養時間は36〜60時間であり、好ましくは40〜55時間である。
【0017】
二次培養は、冷温熟成により行う。培養温度は通常2〜15℃であり、好ましくは5〜8℃である。また培養日数は30〜60日間であり、好ましくは40〜50日間である。
【0018】
二次培養で得られた培地を殺菌する。殺菌方法は特に限定されないが、通常、加熱殺菌、電磁波による殺菌、濾過殺菌などにより行われ、なかでも加熱による殺菌が好ましい。殺菌温度は、加熱殺菌の場合には、通常110〜130℃であり、好ましくは120〜121℃である。また殺菌時間は10〜60分間であり、好ましくは16〜17分間である。このようにして得られた、殺菌後の培養液または濾過し菌体(死菌)を除去し得られるものが本発明における成分である。
【0019】
本発明における感染症とは、細菌による感染症であり、非定型Aeromonas salmonicida、定型Aeromonas salmonicida(せっそう病原因菌)、Aeromonas hydrophila(立鱗病原因菌)、Flavobacterium psychrophilum(細菌性鰓病原因菌)、Flavobacterium columnare(カラムナリス病原因菌)などによる感染症が挙げられる。なかでも本発明の予防剤は非定型Aeromonas salmonicidaによる感染症に有効である。また非定型Aeromonas salmonicidaによる感染症は罹患する魚類によって呼称が異なることから、本発明における感染症とは、食用ゴイ、ニシキゴイ、キンギョ等の穴あき病、ウナギの頭部潰瘍病、サケ、マス等の潰瘍病も包含する。
【0020】
本発明の予防剤の対象は、動物であれば特に限定されないが、非定型Aeromonas salmonicidaによる感染症に罹患する対象が望ましい。通常、魚類などに有効であり、好ましくは魚類であり、淡水魚がより好ましい。なかでも食用ゴイ、ニシキゴイ、キンギョ、ウナギ、サケ、マスなどに有効であり、食用ゴイ、ニシキゴイ、キンギョが好ましい。
【0021】
本発明の予防剤の投与形態(摂取形態)には特に制限は無く、浸漬、経口投与または注射投与(腹腔内投与等)等の非経口投与(摂取)でも良く、特に限定しないが、有効成分が有用菌を混合培養して得られる成分であることから経口投与であることが好ましい。経口投与剤としては、顆粒剤、細粒剤、粉剤、被覆錠剤、錠剤、坐剤、散剤、(マイクロ)カプセル剤、チュアブル剤、シロップ、ジュース、液剤、懸濁剤、乳濁液等、また注射剤としては腹腔内投与・皮下注入用等、魚類にあっては水槽中に添加する形態等の一般の剤型を採用することができる。
【0022】
本発明の予防剤は、常法により製剤化することによって調製することができる。例えば、上記混合培養液は、粉末加工されて、たとえば人やペット用の皮膚外用剤として使用することができる。あるいは菌体を除去せずに粉末加工して、人や犬や猫等のペット用サプリメントや、牛、豚、馬、鶏等の家畜用のサプリメントとして使用することができる。さらには、これらを粉末加工せずに液体のまま使用することもできる。また上記外用剤やサプリメントは、製剤上の必要に応じて、薬理学的に許容し得る各種の製剤用物質(補助剤等として)を配合することができる。製剤用物質は製剤の剤型により適宜選択することができるが、例えば、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤等が挙げられる。
【0023】
なお本発明の予防剤を魚類に経口投与する際には、通常飼料に含有する形態が望ましい。しかしながら飼料から水中に上述した成分が流出するのを防ぐために上記成分をエステル化合物で被覆したり、あるいは水に分散しない油中水型乳化液剤やリポソームのなどの公知の製剤技術を用いて調製してもよい。また水中に溶け出しにくくするため、魚用のモイストペレット(生の魚の切り身をゆるく固めたもの)にカルボキシルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、澱粉、ポリアリリル剤等の粘着剤(粘稠剤)を一緒に混合し得られる浮き餌などが挙げられる。
【0024】
本発明の予防剤においては、経口投与(摂取)の場合、投与量は投与する対象、対象の症状、対象の状態、投与方法等によって異なるが、本発明における成分(乾燥重量として)を通常体重×1/1000000/day〜体重×1/500/day程度、好ましくは体重×1/100000/day〜体重×1/1000/day程度、より好ましくは体重×1/70000/day〜体重×1/2000/day程度投与する。
例えば、魚類の場合には、経口投与して上記感染予防効果を得るためには、投与量、期間、間隔については、投与する季節、水温、魚の種類、年齢によって異なるが、本発明における成分(乾燥重量として)を、通常0.1mg/100g体重/day〜200mg/100g体重/day程度、好ましくは1mg/100g体重/day〜100mg/100g体重/day程度、より好ましくは5mg/100g体重/day〜50mg/100g体重/day、特に好ましくは5mg/100g体重/day〜30mg/100g体重/day程度投与する。投与期間は特に限定されず、投与回数は1〜5回/day、好ましくは1〜2回/dayである。
【0025】
本発明の別の態様として、本発明の予防剤を含む魚類用飼料が挙げられる。魚類用飼料には本発明の予防剤に慣用の添加物を加えて調製することができる。具体的には、ドライペレット(乾燥した固形タイプで、主にフィッシュミール(魚粉)などを原料にし成型した飼料)、エクストルーダーペレット(エクストルーダーと呼ばれる造粒機械で高温高圧加工して成型した飼料)、モイストペレット(生の魚の切り身をゆるく固めたもの)などに本発明の予防剤を加えた魚類用飼料が挙げられる。
【0026】
本発明の別の態様として、有用菌を混合培養して得られる成分を含有する免疫活性増強剤が挙げられる。本発明の免疫活性増強剤の成分、投与量等の条件については上述した通りであり、該剤を摂取することにより、リンパ球が活性化され免疫活性が増強する。その結果生体防御力が高まり種々の病気にかかりにくくなる。本発明の免疫活性増強剤の投与対象としては、特に限定されないが、ヒトをはじめとする哺乳動物、鳥類、魚類・爬虫類(亀)等が挙げられる。
【0027】
本発明は、有用菌を混合培養して得られる成分の有効量を動物に投与する工程を含む感染症の予防方法を提供する。有効量とは所望の予防効果を与えるのに十分な量を言い、上述した用量とほぼ同じである。本発明の予防方法によれば免疫能を高め抗生物質やワクチンを使用しないで感染病を予防できる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0029】
(参考例)
[培地の製造]
培地の製造においては、先ず生米糠450gと水9L とを混合し、1から1.5時間撹拌して、5重量%の米糠の水溶液を抽出した。次にこの米糠混合液を木綿布で濾過した。この濾過には、木綿布の他に、たとえば吸引機やフィルタープレス等を使用することもできる。そして濾過後の濾過残渣(粕)を除去するとともに濾液にブドウ糖450gを添加し、さらに100℃で10分間加熱して混合溶液を調製した。次に、加熱した混合溶液を木綿布で濾過した。この場合の濾過にも、木綿布の他に吸引機やフィルタープレス等を使用することができる。濾過後の濾過残渣を除去するとともに、濾液に水約3Lを補充し9Lの混合溶液を調整した。この溶液を121℃で17分間殺菌した後、冷却することによって培地を得た。生米糠としては、玄米の精米時に発生して得られたものを用いた。さらに水は水道水を用いた。
【0030】
〔培養液の製造〕
培養液の製造においては、先ず上記のようにして得られた培地に、ラクトバチルス・パラカセイ(Lactobacillus paracasei)、サッカロマイセス・セリビジェー(Saccharomyces cerevisiae)、ピチア・メンブラニファシエンス(Pichia membranifaciens)およびバチルス・パミルス(Bacillus pumilus)の4種類の菌を添加して混合した。次に37℃で48 時間通気培養を行った(一次培養)。一次培養後に、5℃で1.5ケ月間冷温熟成を行った(二次培養)。この二次培養後に、121℃で17分間殺菌した後、菌体を除去するために濾過して混合培養液を得た。この混合培養液は5℃で冷蔵保管した。
【0031】
(実施例)
材料
LBSカルチャー(株式会社リタニアルバイオサイエンスの商品名、本明細書記載の有用菌を混合培養して得られる成分を含有する発酵液)は参考例に記載された加熱処理後のものであり菌体を除去していないものを使用した。
実験1および2で使用したコイ用飼料(ひかり胚芽、株式会社キョーリン)は市販のものを使用し、この飼料にLBSカルチャーを添加・成型し使用した。
実験3では、コイ用飼料は、小麦胚芽・小麦粉・エビミール・ビール酵母・脱脂粉乳・大豆粕・ルーサンミール・各種ビタミン・各種ミネラル・抗酸化剤・消化酵素を配合して練りこみ、エクストルーダーで成型加工して乾燥させたものを使用した。実験用には上記材料にLBSカルチャーを混合したものを練りこみ、エクストルーダーで成型加工して乾燥させたものを使用した。
【0032】
試験方法
LBSカルチャーの投与濃度および水温の異なる条件下で以下の実験を行った。
【0033】
(実験1)コイの生理状態が最適条件よりもやや低い水温、非定型A. salmonicidaの増殖が至適水温以下における実験
LBSカルチャーを5%添加したコイ用飼料を毎日2回、32日間給餌した。1群10匹のコイ(ニシキゴイ、雌雄無選別)を使用し、実験開始時の平均体重32±5g、1日あたりの飼料投与量を0.3g/匹とした。参考例に示したLBSカルチャー製造に用いる培地を5%添加した飼料、および無添加通常飼料を陰性対照として用いた。
飼育水温は実験開始時18℃、A. salmonicida感染時13℃、また実験終了時10℃であった。
実験開始後32日目に、強毒非定型A. salmonicidaT1031株(新潟県内水面試験場より分与されたもの)を、菌数6.7 x 106/mlの濃度の水中にコイを1時間浸漬、A. salmonicidaに感染させた。
感染後、コイの生死および体表の病変を33日間観察し、死亡魚については病変部および内臓からの菌分離を実施した。実験終了後、生残魚の肉眼病変を観察するとともに、菌分離も行った。LBSカルチャー添加飼料および対照飼料は、実験期間を通して投与した。
【0034】
培地添加あるいはLBSカルチャー非添加飼料投与対照魚において、感染6日後より体表の限局性膨隆、出血と皮膚のびらんを示すものが観察された。表1は、感染33日後におけるコイの肉眼病変を示し、図1は肉眼病変スコアーの推移を示す。感染9日後以降出血病変は広範囲、かつ重度となり、皮膚病変はいわゆる‘穴あき’状態を呈した。感染33日における死亡魚はそれぞれの群で1匹、および2匹であるが、これは低水温の影響で菌の増殖が遅いことによる。一部の魚の体表出血病変部および潰瘍部からA. salmonicidaが分離された。
これに対し、LBSカルチャーを5%含む飼料を給餌したコイにおいては、皮膚病変は全く観察されないか、あるいは軽微であり、死亡する魚もなかった。
すべての群をとおして、生残魚の皮膚および腹腔内臓器からは、菌は分離されなかった。
【0035】
【表1】
【0036】
(実験2)コイの生理状態、A. salmonicidaの増殖がともに至適水温の範囲における実験
LBSカルチャーを3%、0.5%、あるいは0.1%添加した飼料を毎日2回、25日間給餌した。1群10匹のコイ(ニシキゴイ、雌雄無選別)の実験開始時の平均体重は30±4g、1日あたりの飼料投与量を0.3g/匹とした。LBSカルチャー無添加飼料を陰性対照として用いた。
飼育水温は実験開始時15℃、A. salmonicida感染時18℃、また実験終了時20℃であった。
実験開始後25日目に、非定型A. salmonicidaT1031株(新潟県内水面試験場より分与されたもの)を、菌数4.1 x 106/mlの濃度の水中にコイを1時間浸漬、A. salmonicidaに感染させた。
感染後、コイの生死および体表の病変を22日間観察し、菌分離も行った。LBSエキス添加飼料および対照飼料は、実験期間を通して投与した。
χ2testで有意差検定を行った。
【0037】
LBSカルチャー非添加飼料投与対照魚において、感染4日後より体表の限局性膨隆、出血と皮膚のびらんを示すものが観察され、その後出血病変は広範囲、かつ重度となり、一部は‘穴あき’を呈した。表2は、感染22日後におけるコイの肉眼病変を示す。感染6日後より魚は死亡し、22日後における生残率は10%であった(図2)。
一方、LBSカルチャーを3%含む飼料を給餌したコイにおいては、感染10日後に2匹が死亡したのみで、実験期間を通して生残した(生存率80%)(P<0.01)。また、皮膚病変の程度も対照魚に比べ軽度であった。
これに対し、LBSカルチャー0.5%あるいは0.1%添加飼料を給餌したコイは、実験終了時までにそれぞれ6匹(P>0.05)、5匹(P<0.05)が死亡し、また、肉眼病変も観察された。
4群をとおして、一部の魚の体表出血病変部および潰瘍部、また死亡魚からA. salmonicidaが分離された。
【0038】
【表2】
【0039】
(実験3)コイの生理状態が最適条件にある水温、A. salmonicidaの増殖が至適範囲よりもやや高い水温における実験
LBSカルチャー添加飼料を上記の飼料を用いて、実験2と同様の実験を行った。
LBSカルチャーを3%、0.5%、あるいは0.1%添加した飼料を毎日2回、25日間給餌した。1群10匹のコイの実験開始時の平均体重は31 ± 6g、1日あたりの飼料投与量を0.3g/匹とした。LBSカルチャー無添加飼料を陰性対照として用いた。
飼育水温は実験開始時22℃、A. salmonicida感染時23℃、また実験終了時28℃であった。
実験開始後25日目に、A. salmonicida菌数4.2 x 106/mlの濃度の水中にコイを1時間浸漬感染した。感染後、コイの生死および体表の病変を32日間観察し、菌分離も行った。LBSエキス添加飼料および対照飼料は、実験期間を通して投与した。
χ2testで有意差検定を行った。
【0040】
LBSカルチャー非添加飼料投与対照魚において、感染3日後より体表の限局性膨隆、出血と皮膚のびらんを示すものが観察され、その後出血病変は広範囲、かつ重度となり、一部は‘穴あき’を呈した。表3は、感染32日後におけるコイの肉眼病変を示し、図3は肉眼病変スコアーの推移を示す。感染18日後より魚は死亡し、32日後における生存率は30%であった(図4)。
一方、LBSカルチャーを3%含む飼料を給餌したコイは、実験期間を通してすべて生残し(P<0.01、1匹が水槽外飛び跳ね事故により死亡したため、9匹で試験)、皮膚病変の程度も対照魚に比べ軽度であった。
また、LBSカルチャー0.5%添加飼料を給餌したコイは、実験終了時までに1匹(P>0.01)が死亡したのみであった。
これに対し、LBSカルチャー0.1%添加飼料を給餌したコイは、実験終了時までに6匹が死亡した。
4群をとおして、一部の魚の体表出血病変部および潰瘍部、また死亡魚からA. salmonicidaが分離された。
【0041】
【表3】
【0042】
今回の実験結果から、コイへのLBSカルチャー添加飼料の給餌は、非定型A. salmonicida感染に対し感染防御効果をもたらすことが明らかとなった。特に、低水温下では皮膚病巣の形成をほぼ完全に抑制することが出来た。2回の実験結果を総合すると、投与LBSカルチャー濃度は3%以上で有効であり、0.5%以下ではその防御効果は弱いことが示された。
【0043】
(実験4)
2倍段階希釈したLBSカルチャー(20倍〜2,560倍)を、BALB/cマウス(10〜15週齢)脾臓リンパ球培養(1 x 105細胞/0.1 ml、培地は RPMI1640に牛胎児血清を10%加えたもの)に加え、37℃で72時間培養した。陰性対照は、LBSカルチャー製造に用いる培地、陽性対照は、コンカナバリンAを用いた。
72時間培養後、Premix WST-1 Cell Proliferation Assay System試薬(Takara社)を所定量加え、37℃、4時間反応後、波長450 nmで吸光度を測定した。
測定結果は、LBSカルチャー製造に用いる培地を加えて培養した場合の吸光度との差をグラフに表示し、Studentのt-testで有意差検定を行った(コンカナバリンAの場合は、細胞培養液のみの培養との比較)。
次に、ゲルろ過法により、リンパ球活性化能を有する成分の分離を試みた。
材料は、LBSカルチャーを濃縮したもの用いた。まず、LBSカルチャーから遠心により細菌成分を除去し、上清を凍結乾燥した。少量の脱イオン水に再融解した後、リン酸緩衝食塩水に対し透析し、最終的に出発材料の1/8に濃縮した濃縮液を得た。
濃縮液をセファクリルS200を用いて分離した。波長280 nmで蛋白質の吸光度を測定した。
分画したそれぞれの画分について、マウスリンパ球活性化試験を行った。
【0044】
LBSカルチャーは、陰性対照の培地のみの反応と比較した場合、40倍〜2,560倍の希釈において有意にリンパ球を活性化した(図5)。活性化の程度は、一般に免疫応答が優れているとされている陽性対照のコンカナバリンAよりも高かった。
ゲルろ過の結果、リンパ球活性化能を有する成分は高分子量と、低分子量の主として2つの部分に分離された(図6)。
【0045】
上記実験結果から、コイへのLBSカルチャー添加飼料の給餌は、非定型A. salmonicida感染に対し感染防御効果をもたらすことが示された。すなわち、出血病変の出現や潰瘍の形成を抑制し、さらには死亡が抑えられた。
特に、菌の増殖が至適水温以下の低水温下では皮膚病巣の形成をほぼ完全に抑制することが出来た(実験1)。
A. salmonicidaの増殖に好適、あるいはそれに近い水温での実験では、LBSカルチャー添加飼料(3%、および0.5%)給餌コイの生残率は、非添加飼料給餌コイと比較し有意に高かった(実験2、3)。
【0046】
防御メカニズムの一つとして、LBSカルチャーによるコイの基盤免疫能強化が推測される。現時点では確実なコイリンパ球活性化試験方法がないため、本試験ではマウスを用いてリンパ球活性化試験を実施した。その結果、LBSカルチャーはマウスリンパ球を活性化することが示された(実験4)。40倍〜2,560倍の広い範囲において有効であり、活性化の程度は陽性対照のコンカナバリンAよりも高いことから、その効果が強力であることが示された。
ゲルろ過の結果、有効成分は高分子量と低分子量の主として2つの部分に分離した。本実験は細菌成分を除去した材料での試験結果であり、このことはLBSカルチャー可溶性成分のみでもリンパ球活性化能を有することを示す。
上記より投与されたLBSカルチャーが腸管より吸収、あるいは血中に存在することにより、体に何らかの生理学的変化が起こり、感染防御効果をもたらすことが示された。LBSカルチャーはマウスリンパ球を活性化することから、コイ以外の多種の動物においても基盤免疫能(リンパ球、マクロファージ)を高め、免疫活性を増強し、感染病を防御できることが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】非定型Aeromonas salmonicida感染後におけるコイの肉眼病変を示す図である。
【図2】非定型Aeromonas salmonicida感染後におけるコイの生存率を示す図である。
【図3】非定型Aeromonas salmonicida感染後におけるコイの肉眼病変を示す図である。
【図4】非定型Aeromonas salmonicida感染後におけるコイの生存率を示す図である。
【図5】マウス脾細胞におけるリンパ球活性化を示す図である。
【図6】リンパ球活性化成分の分離を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有用菌を混合培養して得られる成分を含有する感染症予防剤。
【請求項2】
有用菌が乳酸菌、酵母菌および納豆菌である請求項1記載の予防剤。
【請求項3】
乳酸菌がラクトバチルス・パラカセイ、酵母菌がサッカロマイセス・セリビジェーおよびピチア・メンブラニファシエンス、ならびに納豆菌がバチルス・パミルスである請求項2記載の予防剤。
【請求項4】
感染症がAeromonas salmonicidaによる感染症である請求項1から3のいずれか1項に記載の予防剤。
【請求項5】
Aeromonas salmonicidaが非定型Aeromonas salmonicidaである請求項4記載の予防剤。
【請求項6】
感染症が魚類の感染症である請求項1から5のいずれか1項に記載の予防剤。
【請求項7】
魚類が淡水魚である請求項6記載の予防剤。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の予防剤を含む魚類用飼料。
【請求項9】
有用菌を混合培養して得られる成分を含有する免疫活性増強剤。
【請求項10】
有用菌を混合培養して得られる成分の有効量をヒト以外の動物に投与する工程を含む感染症の予防方法。
【請求項1】
有用菌を混合培養して得られる成分を含有する感染症予防剤。
【請求項2】
有用菌が乳酸菌、酵母菌および納豆菌である請求項1記載の予防剤。
【請求項3】
乳酸菌がラクトバチルス・パラカセイ、酵母菌がサッカロマイセス・セリビジェーおよびピチア・メンブラニファシエンス、ならびに納豆菌がバチルス・パミルスである請求項2記載の予防剤。
【請求項4】
感染症がAeromonas salmonicidaによる感染症である請求項1から3のいずれか1項に記載の予防剤。
【請求項5】
Aeromonas salmonicidaが非定型Aeromonas salmonicidaである請求項4記載の予防剤。
【請求項6】
感染症が魚類の感染症である請求項1から5のいずれか1項に記載の予防剤。
【請求項7】
魚類が淡水魚である請求項6記載の予防剤。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の予防剤を含む魚類用飼料。
【請求項9】
有用菌を混合培養して得られる成分を含有する免疫活性増強剤。
【請求項10】
有用菌を混合培養して得られる成分の有効量をヒト以外の動物に投与する工程を含む感染症の予防方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2010−77056(P2010−77056A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245941(P2008−245941)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(504135815)株式会社リタニアルバイオサイエンス (2)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(504135815)株式会社リタニアルバイオサイエンス (2)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】
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