説明

感熱式流量センサ

【課題】旋回渦の発生が抑制され、外部応力、及び熱応力による流量検出精度の低下が抑制された感熱式流量センサを提供する。
【解決手段】表面に、被検出流体の流量を検出する流量検出部が形成され、該流量検出部を構成するヒータが形成された部位に、裏面に開口する空洞部が形成されたセンサチップと、該センサチップを搭載する搭載部材と、を備える感熱式流量センサであって、搭載部材における空洞部との対向部位に、搭載部材からセンサチップの方向にのびる突起部が、センサチップとは離れて形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば内燃機関の吸入空気流量の測定に用いられる感熱式流量センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示されるように、平板状基材の表面に感熱抵抗膜よりなる発熱体(流量検出部)が形成され、平板状基材における流量検出部の下部が、部分的に除去されてなる空洞部が形成されたダイアフラムを有する流量検出素子(センサチップ)と、該センサチップを装着する凹状の収納部を有し、且つ被計測流体が流通する管路に設置される支持体(搭載部材)と、を備える感熱式流量センサが提案されている。該感熱式流量センサは、搭載部材における収納部底面に、空洞部を塞ぐように隆起した突出面を有しており、該突出面によって、空洞部全域、若しくは空洞部の一部が塞がれた構成となっている。このように、特許文献1に示される感熱式流量センサは、突出面によって、空洞部への被検出流体の流入が抑制され、空洞部内で乱流(旋回渦)が発生することが抑制された感熱式流量センサとなっている。
【特許文献1】特開2002−139360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、特許文献1に示される感熱式流量センサは、空洞部を突出面によって閉塞するために、空洞部の開口端と突出面の少なくとも一部が接触した構成となっている。すなわち、センサチップと突出面の少なくとも一部が接触した構成となっている。このように、センサチップと突出面が接触していると、突出面を介して、搭載部材からセンサチップの流量検出部に、搭載部材に作用する振動などの外部応力、及びセンサチップと搭載部材との線膨張係数差に起因する熱応力が伝達され、これら応力によって流量検出精度が低下する虞がある。
【0004】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、旋回渦の発生が抑制され、外部応力、及び熱応力による流量検出精度の低下が抑制された感熱式流量センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、表面に、被検出流体の流量を検出する流量検出部が形成され、該流量検出部を構成するヒータが形成された部位に、裏面に開口する空洞部が形成されたセンサチップと、該センサチップを搭載する搭載部材と、を備える感熱式流量センサであって、搭載部材における空洞部との対向部位に、搭載部材からセンサチップの方向にのびる突起部が、センサチップとは離れて形成されていることを特徴する。
【0006】
このように本発明によれば、搭載部材における空洞部との対向部位に突起部が形成されているので、該対向部位に突起部が形成されていない構成と比べて、空洞部をなす壁面と搭載部材とによって形成される流路(以下、単に流路と示す)における、空洞部へ被検出流体が流入する面積(空洞部の開口面積)が低減された構成となっている。これにより、空洞部へ流入する被検出流体の流量が低減され、流路を流れる被検出流体の流れが整流され、空洞部に乱流(旋回渦)が生じることが抑制される。
【0007】
また、突起部は、センサチップと離れて形成されている。すなわち、突起部は、センサチップと非接触で形成されている。これにより、突起部を介して、搭載部材からセンサチップに、搭載部材に作用する振動などの外部応力、及びセンサチップと搭載部材との線膨張係数差に起因する熱応力が、センサチップの流量検出部へ伝達されることが抑制される。このように、本発明に係る感熱式流量センサは、旋回渦の発生が抑制され、外部応力、及び熱応力による流量検出精度の低下が抑制された感熱式流量センサとなっている。
【0008】
請求項2に記載のように、突起部の一部が、空洞部の内部に配置された構成が好ましい。これによれば、空洞部内に旋回渦が生じうるスペースを無くし、且つ流路を流れる被検出流体の流れを整流することができる。これにより、空洞部内における旋回渦の発生が効果的に抑制され、旋回渦による流量検出精度の低下が効果的に抑制された感熱式流量センサとなっている。
【0009】
請求項3に記載のように、突起部の形状は、空洞部の形状と相似である構成が好ましい。これによれば、突起部の形状が空洞部の形状と異なる構成と比べて、効率よく空洞部内に旋回渦が生じうるスペースを無くすことができる。
【0010】
請求項4に記載のように、突起部には、被検出流体の通常時の流れ方向に対して上流側の端面から下流側の端面までを貫通する溝部が形成されている構成が好ましい。これによれば、流路を流れる被検出流体の流れを溝部によって整流することができる。
【0011】
請求項5に記載のように、搭載部材と突起部は、同一材料からなり、一体成形されてなる構成が良い。これによれば、搭載部材と突起部とが別々の部材である構成と比べて、部品点数を減らし、感熱式流量センサの製造工程を簡素化することができる。
【0012】
請求項6に記載のように、搭載部材における空洞部との対向部位には、搭載部材の表面とその裏面とを貫通する貫通孔が形成されており、突起部は、貫通孔に挿入され、搭載部材に圧入固定されてなる構成が良い。これによれば、センサチップを搭載部材に搭載した後に、貫通孔を介して空洞部の位置を確認することができるので、空洞部と突起部の位置が所望の位置に納まるように貫通孔の形状を微調整した後に、突起部と空洞部との位置を決定することができる。したがって、突起部を搭載部材に形成した後に、センサチップを搭載部材に搭載する製造工程を経て形成される感熱式流量センサと比べて、空洞部と突起部との位置精度が向上された感熱式流量センサとなっている。
【0013】
請求項7に記載のように、突起部は、黒色の材料によって形成されている構成が良い。ヒータが発熱すると、ヒータから熱輻射が放射され、放射された熱輻射の一部が、搭載部材によって乱反射される。すると、この乱反射によってヒータの周囲に形成された温度分布に揺らぎが生じ、流量検出精度が低下する虞がある。特に、本発明に係る感熱式流量センサの場合、請求項1で示したように、搭載部材における空洞部との対向部位に突起部が形成されているので、空洞部をなす壁面におけるヒータが形成された底部と搭載部材との距離が、突起部が設けられていない感熱式流量センサと比べて短くなっている。そのため、本発明に係る感熱式流量センサは、搭載部材によってヒータが形成された底部に反射される熱輻射の量が、突起部が設けられていない感熱式流量センサと比べて多く、熱輻射による影響を受け易い構成となっている。
【0014】
これに対して、請求項7に記載の発明は、突起部が黒色の材料によって形成されている。黒色は、熱輻射を吸収する性質を有しているので、これにより、突起部によってヒータが形成された底部に反射される熱輻射の量を低減することができる。このように、請求項7に係る感熱式流量センサは、熱輻射による流量検出精度の低下が抑制された感熱式流量センサとなっている。なお、熱輻射の反射を抑制する構成としては、例えば請求項8に記載のように、突起部の表面に、黒色の塗料が塗布された構成を採用することもできる。
【0015】
請求項9に記載のように、空洞部をなす壁面におけるヒータが形成された底部(以下、単に底部と示す)と対向する、突起部の対向面が、底部における突起部との対向面と平行である構成が良い。これによれば、突起部が、底部の対向面に沿う方向にずれたとしても、突起部の対向面と底部の対向面との距離を一定とすることができる。これにより、突起部が、底部の対向面に沿う方向にずれたとしても、突起部の対向面によって熱輻射を吸収する面積を確保することができる。なお、上記した底部は、請求項1に記載の、ヒータが形成された部位に相当する。
【0016】
請求項10に記載のように、空洞部をなす壁面の底部と対向する、突起部の対向面が、センサチップから搭載部材の方向へ凹む曲面となっている構成が良い。これによれば、突起部の対向面に放射される熱輻射の量を略均一とすることができる。したがって、熱輻射によって、突起部の対向面に形成される温度分布を一定とし、突起部によって放射される熱輻射が、ヒータの周囲に形成された温度分布に影響を及ぼし難い構成となっている。
【0017】
請求項11に記載のように、搭載部材は、センサチップにおける被検出流体の通常時の流れ方向に対して上流側の端面に所定の隙間をもって隣接配置された上流側整流部と、センサチップにおける下流側の端面に所定の隙間をもって隣接配置された下流側整流部と、を有し、上流側整流部及び下流側整流部の上面が、センサチップの表面と略面一である構成が良い。
【0018】
これによれば、上流側整流部(若しくは下流側整流部)から流量検出部までの平坦な距離を稼ぐことで、流量検出部上での被検出流体の乱れ(乱流)を低減する(換言すれば、整流する)ことができる。また、センサチップと整流部とが接触しないので、搭載部材に作用する振動などの外部応力が、整流部を介してセンサチップの流量検出部に伝達されることを抑制することができる。また、空隙を介すことで、感熱式流量センサの周辺における被検出流体と空洞部とを連通させ、空洞部内の流体の温度が、感熱式流量センサの周辺の被検出流体の温度に追従して変化することができるようになっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。図1は、第1実施形態に係る感熱式流量センサの概略構成を示す平面図である。図2は、図1のII−II線に沿う断面図である。図3は、センサチップの概略構成を示す平面図である。図4(a)は、比較例としての突起部がない場合の断面図、図4(b)は、図1のIVb−IVb線に沿う断面図である。なお、図1及び図3においては、被検出流体の通常時の流れ方向を白抜き矢印で示し、図4においては、被検出流体の流れを、破線矢印で示す。また、以下においては、被検出流体の流れ方向を、単に流れ方向と示す。
【0020】
図1及び図2に示すように、感熱式流量センサ100は、要部として、センサチップ10と、該センサチップ10を搭載する搭載部材90と、を有している。さらに、本実施形態では、センサチップ10における流量検出部13の入出力を制御する回路チップ30と、該回路チップ30と電気的に接続される外部接続用端子としてのリード50と、リード50と回路チップ30との接続部位、回路チップ30、及び回路チップ30とセンサチップ10との接続部位を被覆・保護する封止樹脂70と、を有している。
【0021】
センサチップ10は、単結晶シリコンからなる基板11の表面11aに、被検出流体の流量を検出する流量検出部13が形成されたものである。図2及び図3に示すように、基板11の表面11a上には、絶縁膜12が形成されており、その絶縁膜12上に、流量検出部13が形成されている。流量検出部13は、発熱素子14と感温素子15とを有しており、これら素子14,15は、白金(Pt)等の金属薄膜、若しくは多結晶ケイ素(Si)や多結晶炭化ケイ素(SiC)等の半導体薄膜を絶縁膜12上に形成した後、該薄膜をパターニングすることで、流量検出部13と第1パッド17とを電気的に接続する配線16とともに形成される。なお、これら素子14,15、及び配線16を半導体薄膜によって形成する場合には、SOI基板のシリコン層をパターニングすることで、素子14,15、及び配線16を形成することもできる。流量検出部13及び配線16の表面上には、流量検出部13を保護するための絶縁性の保護膜(図示略)が形成されており、これにより、流量検出部13と配線16とが、被検出流体に含まれる異物などによって傷つくことが抑制された構成となっている。なお、発熱素子14は、特許請求の範囲に記載のヒータに相当する。
【0022】
基板11には、図1及び図2に示すように、基板11の裏面から異方性エッチングをすることで、先端部が平坦とされた四角錐形状の空洞部18と、絶縁膜12からなるメンブレン19と、が形成されている。発熱素子14はメンブレン19上に形成され、感温素子15は、基板11におけるメンブレン19を除く領域に形成されており、これによって発熱素子14と感温素子15とが熱的に分離されている。なお、メンブレン19は、特許請求の範囲に記載の空洞部をなす壁面におけるヒータが形成された底部に相当する。
【0023】
発熱素子14は、図3に示すように、通常時における流れ方向に対して上流側に配置された発熱素子14aと、下流側に配置された発熱素子14bとを有しており、それぞれ電流の供給量に応じて発熱する機能と、それ自身の抵抗値の変化に基づいて、自身の温度を感知する機能とを有している。したがって、上流側と下流側の各発熱素子14a,14bで生じる熱のうち、流体によって奪われる熱に基づき、流体の流量が検出される。また、上流側の発熱素子14aと下流側の発熱素子14bとのそれぞれに生じる熱のうち、流体によって奪われる熱量の差に基づき、流れ方向が検出される。
【0024】
感温素子15は、流れ方向に対して上流側に配置された感温素子15aと、下流側に配置された感温素子15bとを有しており、それ自身の抵抗値の変化に基づいて、自身の温度を感知する機能を有している。したがって、上流側の発熱素子14aと上流側の感温素子15aとの温度差、及び、下流側の発熱素子14bと下流側の感温素子15bとの温度差に基づき、各発熱素子14a,14bに供給される電流量が制御されるようになっている。
【0025】
回路チップ30は、単結晶シリコンからなる基板31に、流量検出部13の入出力を制御する制御回路(図示略)が形成されたものである。基板31の表面31a上には、上記した制御回路と、該制御回路の配線端部と接続される第2パッド32と、制御回路を介して第2パッド32と電気的に接続される第3パッド33と、が形成されている。第2パッド32は、AlやAuなどからなる第1ボンディングワイヤ71を介してセンサチップ10の第1パッド17と電気的に接続され、第3パッド33は、AlやAuなどからなる第2ボンディングワイヤ72を介してリード50と電気的に接続されている。このように、センサチップ10とリード50とが回路チップ30を介して電気的に接続され、センサチップ10が、外部(例えば外部ECU)と信号を授受することができる構成となっている。
【0026】
リード50は、回路チップ30と電気的に接続され、外部と信号の授受を行うものである。本実施形態において、リード50と支持部材51は一つのリードフレームによって構成されており、後述する搭載部材90をモールド成形した後(リード50と支持部材51とを、搭載部材90によって連結した後)、リード50と支持部材51とを繋ぐ不要部分を切り離すことで、リード50と支持部材51とが互いに独立するようになっている。不要部分は、リードフレームの外周フレームに相当し、リード50と支持部材51を一時的に連結する機能を果たす。支持部材51は、リードフレームのアイランドに相当し、その表面に回路チップ30とセンサチップ10とが配置される。
【0027】
封止樹脂70は、リード50と回路チップ30との接続部位、回路チップ30、及び回路チップ30とセンサチップ10との接続部位を被覆・保護するものである。封止樹脂70は、搭載部材90に連結された支持部材51に、回路チップ30とセンサチップ10とを接着固定し、リード50と回路チップ30とを第2ボンディングワイヤ72を介して電気的に接続し、回路チップ30とセンサチップ10とを第1ボンディングワイヤ71を介して電気的に接続した後、溶融状態の樹脂を、後述するベース側壁部96によって囲まれた領域内に塗布し、該樹脂を冷却固化することで形成される。なお、図示しないが、センサチップ10(基板11)の表面11aにおける第1パッド17と流量検出部13との間には、上記した溶融状態の樹脂が流量検出部13に流入することを防ぐダム材が設けられており、該ダム材によって、流量検出部13が、樹脂によって被覆されないようになっている。
【0028】
搭載部材90は、センサチップ10を搭載するものである。本実施形態に係る搭載部材90は、リード50と支持部材51とを連結し、支持部材51を介して、センサチップ10と回路チップ30を搭載する構成となっている。搭載部材90は、図1及び図2に示すように、リード50と支持部材51とを連結する底部91と、センサチップ10と回路チップ30の周囲を取り囲むように、底部91の周縁部に設けられた壁部92と、底部91における空洞部18との対向部位に形成された突起部93と、を有する。これら底部91、壁部92、突起部93は、同一材料からなり、モールド成形によって一体成形される。
【0029】
底部91は、リード50の一部と回路チップ30とが配置される平面略矩形状のベース部94と、センサチップ10が配置される平面略矩形状の舌部95と、を有している。ベース部94は、リード50と支持部材51とを連結する機能を果たし、舌部95は、感熱式流量センサ100の裏面側を流れる被検出流体が空洞部18に流入することを抑制する機能を果たす。なお、図2に示すように、センサチップ10は、センサチップ10における第1パッド17の形成領域の裏面に設けられた接着剤を介して舌部95に固定されており、接着剤の高さの分、センサチップ10と舌部95との間に空隙が形成された構成となっている。
【0030】
壁部92は、底部91の上面91aにおけるベース部94の周縁部に設けられた平面略C字状のベース側壁部96と、上面91aにおける舌部95の周縁部に設けられた平面略コの字状の舌側壁部97と、を有し、ベース側壁部96の端部外面と、舌側壁部97の端部とが連結された構成となっている。壁部92の上面92aにおける舌側壁部97の上面は、センサチップ10の表面11aと略面一となるように設計されており、流れ方向において、舌側壁部97におけるセンサチップ10と対向する端部とは反対の端部から流量検出部13までの平坦な部分の距離を稼ぐことで、流量検出部13上での乱流が低減される(換言すれば、整流される)ようになっている。また、センサチップ10の側面と舌側壁部97の内壁面との間には所定の隙間(クリアランス)が形成され、該クリアランスと、センサチップ10と舌部95との間の空隙とが連通されるようになっている。これにより、感熱式流量センサ100の周辺における被検出流体と空洞部18とが連通され、空洞部18内の被検出流体の温度が、感熱式流量センサ100の周辺の被検出流体の温度に追従して変化することができるようになっている。さらに、ベース側壁部96は、底部91の上面91aからの高さが回路チップ30よりも高く設定され、これにより、リード50と回路チップ30との接続部位、回路チップ30、及び回路チップ30とセンサチップ10との接続部位を被覆する封止樹脂70を充填するための高さが確保された構成となっている。なお、上記した舌側壁部97における、センサチップ10に対して上流側に配置される部位が、特許請求の範囲に記載の上流側整流部に相当し、センサチップ10に対して下流側に配置される部位が、特許請求の範囲に記載の下流側整流部に相当する。
【0031】
次に、本実施形態の特徴点である突起部93とその作用効果を説明する。図2に示すように、搭載部材90の底部91における空洞部18との対向部位に、底部91からセンサチップ10の方向にのびる突起部93が、センサチップ10と離反して形成されている。本実施形態に係る突起部93は、空洞部18の形状と相似の形状を有し、先端部が平坦とされた四角錐形状となっている。また、突起部93の一部が、空洞部18の内部に配置されている。これにより、突起部93によって、空洞部18をなす壁面と搭載部材90(底部91)とによって形成される流路(以下、単に流路と示す)における、空洞部18へ被検出流体が流入する面積(空洞部18の開口面積であり、以下、単に流入面積と示す)を低減し、空洞部18内で被検出流体が旋回するスペースを無くすことができる。
【0032】
図4に示すように、被検出流体は、センサチップ10と壁部92(舌側壁部97)との間のクリアランスを介して、センサチップ10と底部91(舌部95)との間の空隙に流れ込む。そして、図4(a)に示すように、突起部93が底部91における空洞部18との対向部位に設けられていない場合、流路の流入面積が十分に確保され、空洞部18のスペースが十分に確保されているので、被検出流体が空洞部18内に流入し、空洞部18内で旋回渦が生じる虞がある。空洞部18内で旋回渦が生じると、メンブレン19上の温度分布にばらつきが生じ、これによってメンブレン19に形成された発熱素子14の抵抗値にばらつきが生じ、流量検出精度が低下する虞がある。
【0033】
これに対し、図4(b)に示すように、突起部93が底部91における空洞部18との対向部位に設けられている場合、流路の流入面積が低減されているので、空洞部18に流入する被検出流体の流量を低減し、流路を流れる被検出流体の流れを整流することができる。これにより、空洞部18内で旋回渦が生じることを抑制することができる。また、本実施形態では、突起部93の一部が空洞部18内に配置され、空洞部18のスペースが低減されている。したがって、被検出流体を流路に沿って流すことで、被検出流体の流れを整流することができる。これにより、空洞部18内で旋回渦が生じることをより効果的に抑制することができる。以上により、感熱式流量センサ100は、旋回渦による流量検出精度の低下が抑制された感熱式流量センサとなっている。
【0034】
また、突起部93は、センサチップ10と離反して、搭載部材90の底部91に形成された構成となっている。すなわち、突起部93とセンサチップ10とが非接触の構成となっている。これにより、突起部93を介して、搭載部材90からセンサチップ10に、搭載部材90に作用する振動などの外部応力、及びセンサチップ10と搭載部材90との線膨張係数差に起因する熱応力が、センサチップ10の流量検出部13へ伝達されることが抑制され、これら応力による流量検出精度の低下が抑制された感熱式流量センサ100ともなっている。このように、本実施形態の感熱式流量センサ100は、旋回渦の発生が抑制され、外部応力、及び熱応力による流量検出精度の低下が抑制された感熱式流量センサとなっている。
【0035】
本実施形態では、突起部93の形状が、空洞部18の形状と同一となっている。これによれば、突起部93の形状が空洞部18の形状と異なる構成と比べて、効率よく空洞部18のスペースを無くすことができる。
【0036】
本実施形態では、搭載部材90を構成する底部91、壁部92、及び突起部93が、モールド成形によって一体成形されている。これにより、搭載部材90と突起部93とが別々の部材である構成と比べて、部品点数を低減し、感熱式流量センサの製造工程を簡素化することができる。
【0037】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0038】
本実施形態では、突起部93の一部が、空洞部18内に配置される例を示した。しかしながら、例えば、図5に示すように、突起部93が空洞部18内に配置されず、突起部93がセンサチップ10と離反した構成を採用することもできる。この構成においても、流路の流入面積が低減された構成となっているので、空洞部18に流入する被検出流体の流量を低減し、流路を流れる被検出流体の流れを整流することができる。これにより、空洞部18内で旋回渦が生じることを抑制し、流量検出精度の低下を抑制することができる。また、突起部93とセンサチップ10とが離反する構成となっているので、突起部93を介して、搭載部材90からセンサチップ10に、搭載部材90に作用する振動などの外部応力、及びセンサチップ10と搭載部材90との線膨張係数差に起因する熱応力が、センサチップ10の流量検出部13へ伝達されることを抑制することができる。図5は、突起部の変形例を説明するための断面図であり、破線矢印は、被検出流体の流れを示す。
【0039】
本実施形態では、搭載部材90を構成する底部91、壁部92、及び突起部93が、モールド成形によって一体成形される例を示した。しかしながら、突起部93の形成方法は、上記例に限定されず、例えば、底部91の上面91aにおける空洞部18との対向部位に、突起部材を接着固定することで突起部93を形成しても良い。若しくは、例えば、図6に示すように、底部91における空洞部18との対向部位に貫通孔98を設けておき、センサチップ10を搭載部材90に接着固定した後で、貫通孔98に、底部91の上面91aの裏面側から、突起部材を挿入し、圧入固定することで、突起部93を形成しても良い。このように、搭載部材90と突起部93とを別々の部材によって形成する場合、突起部93の形成材料を、適宜選択することができる。また、上記したように、突起部材を搭載部材90の貫通孔98に挿入し、圧入固定することで突起部93を形成する場合、センサチップ10を搭載部材90に接着固定した後に、貫通孔98を介して空洞部18の位置を確認することができる。したがって、空洞部18と突起部93の位置が所望の位置に納まるように貫通孔98の形状を微調整した後に、突起部93と空洞部18との位置を決定することができる。これにより、突起部を搭載部材に形成した後に、センサチップを搭載部材に搭載する製造工程を経て形成される感熱式流量センサと比べて、空洞部18と突起部93との位置精度を向上することができる。図6は、搭載部材の変形性を説明するための断面図である。
【0040】
本実施形態では、突起部93が、空洞部18の形状と相似の形状を有する例を示した。しかしながら、突起部93の形状は、空洞部18の形状と異なっても良い。しかしながら、空洞部18のスペースを効率よく無くすのであれば、突起部93の形状は、空洞部18の形状と相似であることが好ましい。
【0041】
本実施形態では、突起部93は、先端部が平坦とされた四角錐形状を有している例を示した。しかしながら、例えば、図7〜図9に示すように、突起部93の形状を、先端部が平坦とされた円錐形状、直方体、若しくは複数の直方体を積層し、該直方体の搭載面積が底部91からセンサチップ10に向かうに従って小さくなる形状としても良い。なお、突起部93を直方体によって形成する場合、セラミックは金属と比べて矩形状に整形しやすいので、突起部93の形成材料として、セラミックが好適である。図7〜図9は、突起部の変形例を示す図であり、(a)が平面図、(b)が断面図を示している。
【0042】
流路を流れる被検出流体の流れを整流する構成としては、例えば、図10に示すように、突起部93に、突起部93における上流側の端面から下流側の端面までを貫通する溝部93aを形成すると良い。これによれば、流路を流れる被検出流体の流れを溝部93aによって整流することができる。図10は、突起部の変形例を示す断面図である。
【0043】
本実施形態では、突起部93の形成材料について特に言及しなかったが、突起部93は、黒色の材料によって形成すると良い。突起部93と対向するメンブレン19上に形成された発熱素子14が発熱すると、発熱素子14から熱輻射が放射され、放射された熱輻射の一部が、舌部95や突起部93によって乱反射される。すると、この乱反射によって発熱素子14の周囲に形成された温度分布に揺らぎが生じ、流量検出精度が低下する虞がある。特に、本実施形態の感熱式流量センサ100の場合、搭載部材90におけるメンブレン19との対向部位に突起部18が形成されているので、メンブレン19(発熱素子14)と搭載部材90との距離が、突起部が設けられていない感熱式流量センサと比べて短くなっている。そのため、本発明に係る感熱式流量センサ100は、搭載部材90によってメンブレン19に反射される熱輻射の量が、突起部が設けられていない感熱式流量センサと比べて多く、熱輻射の影響を受け易い構成となっている。
【0044】
この熱輻射の影響を低減する構成としては、上記したように、突起部93が黒色の材料によって形成されている構成を採用することができる。黒色は熱輻射を吸収する性質を有しているので、突起部93によって反射される熱輻射の量を低減することができる。なお、熱輻射の反射を抑制する構成としては、上記例に限定されず、例えば、突起部93の表面に、黒色の塗料が塗布された構成を採用することもできる。このような黒色の塗料としては、例えば、黒鉛を含む塗料を用いることができる。また、発熱素子14から放射される熱輻射は、搭載部材90の舌部95にも放射されるので、舌部95を、黒色の材料によって形成すると良い。若しくは、舌部95の表面を黒色の塗料によってコーティングしても良い。
【0045】
なお、上記したように、突起部93を黒色の材料によって形成する場合、若しくは、突起部93の表面を黒色の塗料でコーティングする場合、図11に示すように、突起部93におけるメンブレン19との対向面93bが、メンブレン19における突起部93との対向面19aと平行である構成が良い。これによれば、突起部93が、メンブレン19の対向面19aに沿う方向にずれたとしても、突起部93の対向面93bとメンブレン19の対向面19aとの距離を一定とすることができる。これにより、突起部93が、対向面19aに沿う方向にずれたとしても、突起部93の対向面93bによって熱輻射を吸収する面積を確保することができる。図11は、突起部とメンブレンの構成を説明するための断面図である。なお、メンブレン19の対向面19aが、特許請求の範囲に記載の底部における突起部との対向面に相当する。
【0046】
なお、突起部93の対向面93bは、図12に示すように、センサチップ10から搭載部材90の方向へ凹む曲面となっている構成が良い。これによれば、突起部93の対向面93bに放射される熱輻射の量を、対向面93bにて略均一とすることができる。したがって、熱輻射によって、突起部93の対向面93bに形成される温度分布を一定とし、突起部93によって放射される熱輻射が、発熱素子14の周囲に形成された温度分布に影響を及ぼし難い構成とすることができる。図12は、突起部の変形例を示す断面図である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】第1実施形態に係る感熱式流量センサの概略構成を示す平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】センサチップの概略構成を示す平面図である。
【図4】(a)は、比較例としての突起部がない場合の断面図、(b)は、図1のIVb−IVb線に沿う断面図を示す。
【図5】突起部の変形例を説明するための断面図である。
【図6】搭載部材の変形例を説明するための断面図である。
【図7】突起部の変形例を示す図であり、(a)が平面図、(b)がVIIb−VIIb線に沿う断面図を示している。
【図8】突起部の変形例を示す図であり、(a)が平面図、(b)がVIIIb−VIIIb線に沿う断面図を示している。
【図9】突起部の変形例を示す図であり、(a)が平面図、(b)がIXb−IXb線に沿う断面図を示している。
【図10】突起部の変形例を示す断面図である。
【図11】突起部とメンブレンの構成を説明するための断面図である。
【図12】突起部の変形例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0048】
10・・・センサチップ
18・・・空洞部
19・・・メンブレン
30・・・回路チップ
50・・・リード
70・・・封止樹脂
90・・・搭載部材
93・・・突起部
100・・・感熱式流量センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に、被検出流体の流量を検出する流量検出部が形成され、該流量検出部を構成するヒータが形成された部位に、裏面に開口する空洞部が形成されたセンサチップと、
該センサチップを搭載する搭載部材と、を備える感熱式流量センサであって、
前記搭載部材における前記空洞部との対向部位に、前記搭載部材から前記センサチップの方向にのびる突起部が、前記センサチップとは離れて形成されていることを特徴とする感熱式流量センサ。
【請求項2】
前記突起部の一部が、前記空洞部の内部に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の感熱式流量センサ。
【請求項3】
前記突起部の形状は、前記空洞部の形状と相似であることを特徴とする請求項2に記載の感熱式流量センサ。
【請求項4】
前記突起部には、被検出流体の通常時の流れ方向に対して上流側の端面から下流側の端面までを貫通する溝部が形成されていることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の感熱式流量センサ。
【請求項5】
前記搭載部材と前記突起部は、同一材料からなり、一体成形されてなることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の感熱式流量センサ。
【請求項6】
前記搭載部材における前記空洞部との対向部位には、前記搭載部材の表面とその裏面とを貫通する貫通孔が形成されており、
前記突起部は、前記貫通孔に挿入され、前記搭載部材に圧入固定されてなることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の感熱式流量センサ。
【請求項7】
前記突起部は、黒色の材料によって形成されていることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の感熱式流量センサ。
【請求項8】
前記突起部の表面には、黒色の塗料が塗布されていることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の感熱式流量センサ。
【請求項9】
前記空洞部をなす壁面における前記ヒータが形成された底部と対向する、前記突起部の対向面が、前記底部における前記突起部との対向面と平行であることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の感熱式流量センサ。
【請求項10】
前記空洞部をなす壁面における前記ヒータが形成された底部と対向する、前記突起部の対向面が、前記センサチップから前記搭載部材の方向へ凹む曲面となっていることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の感熱式流量センサ。
【請求項11】
前記搭載部材は、前記センサチップにおける被検出流体の通常時の流れ方向に対して上流側の端面に所定の隙間をもって隣接配置された上流側整流部と、前記センサチップにおける下流側の端面に所定の隙間をもって隣接配置された下流側整流部と、を有し、
前記上流側整流部及び前記下流側整流部の上面が、前記センサチップの表面と略面一であることを特徴とする請求項1〜10いずれか1項に記載の感熱式流量センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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