説明

感熱消色性記録体

【課題】 発色性に優れ、かつ、加熱消色でき、極低温化(−50℃以下)に保存しても、再発色せず、しかも、経時安定性に優れ、鮮やかな色相濃度を有する感熱消色性記録体を提供する。
【解決手段】 支持体上に感熱消色性描線を形成してなる感熱消色性記録体であって、前記感熱消色性描線は、少なくともロイコ染料、顕色剤、結晶性物質からなる顕色トナーと、消色剤分散液とをそれぞれ個別に保存し、支持体上に上記顕色トナーによるインクジェットプリンターの印字後に上記消色剤分散液をインクジェットプリンターにより印字することにより、または、消色剤分散液を印字後に顕色トナーを印字することにより、感熱消色性描線が形成されることを特徴とする感熱消色性記録体。前記顕色トナーの印字部分に対して、消色剤分散液の印字を選択して印字し、感熱消色部分と非感熱消色部分とに分ける構成としてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロイコ染料の顕色、消色機構を利用した感熱消色性記録体に関し、更に詳しくは、発色性に優れ、かつ、加熱消色でき、極低温化(−50℃以下)に保存しても、再発色せず、しかも、経時安定性に優れ、鮮やかな色相濃度を有する感熱消色性記録体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ロイコ染料の顕色、消色機構を利用した感熱消色性記録体は、数多く知られている。
従来のロイコ染料を用いた感熱記録体の消色機構としては、例えば、1)顕色トナーと消色剤とを混合し、トナー粒子表面に消色剤を埋め込むことを特徴とする消色性トナーの製造方法(例えば、特許文献1参照)、2)記録紙上に、消色剤をあらかじめ塗布しておき、その上に(順番は逆でも可)顕色トナーを塗布することで、加熱消色性の記録体及びその製造方法(例えば、特許文献2参照)、3)顕色トナーもしくは消色剤をマイクロカプセルでコーティングすることで保存時の消色反応を抑制し、高い発色性を維持することを目的とする感熱記録材料(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【0003】
しかしながら、上記特許文献1では、感熱消色性のトナーを合成することができるが、顕色トナーと消色剤が常に混在しているため、上記発明のように非水性(固形)状態では安定性を確保することができるが、インクジェットプリンターで印字するために水分散液とすると、インク状態で消色反応が一部起こり、トナーの色相が低下するという課題がある。
【0004】
また、上記特許文献2では、顕色トナーと消色剤を別工程で塗布するため、それぞれの安定性を確保することができ、高い発色性を維持できるが、記録紙面上全体に消色剤が塗布されているため、選択的に加熱することで消色する部分を限定することができるが、記録紙全体を加熱した場合選択的に消色、非消色部分を制御することができないという課題がある。
更に、上記特許文献3では、顕色トナーもしくは消色剤をマイクロカプセル化することで、粒子径が増大し(直径が数μmとなり)、インクジェットプリンターで印字するには大きすぎるなどの使用上の課題がある。また、インクジェットカートリッジに充填し、カートリッジの詰まり、沈降を防止するためには、マイクロカプセルに頼らない経時保存安定性の確保が必要となるなどの課題があるのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−47768号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開平6−43691号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】特開平9−286177号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題及び現状に鑑み、これを解消しようとするものであり、発色性に優れ、かつ、加熱消色でき、極低温化(−50℃以下)に保存しても再発色せず、しかも、経時安定性に優れ、鮮やかな色相濃度を有する感熱消色性記録体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来の課題等に鑑み、鋭意研究を行った結果、支持体上に感熱消色性描線を形成してなる感熱消色性記録体であって、前記感熱消色性描線を、少なくともロイコ染料などの特定の顕色トナーを含む顕色インクと、消色剤分散液とをそれぞれ個別に保存し、支持体上に上記顕色インクによる印字後に上記消色剤分散液を印字することなどにより、上記目的の感熱消色性記録体が得られることを見い出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(17)に存する。
(1) 支持体上に感熱消色性描線を形成してなる感熱消色性記録体であって、前記感熱消色性描線は、少なくともロイコ染料、顕色剤、結晶性物質からなる顕色トナーを含有する顕色インクと、消色剤分散液とをそれぞれ個別に保存し、支持体上に上記顕色インクによる印字後に上記消色剤分散液を印字することにより、または、消色剤分散液を印字後に顕色インクを印字することにより、感熱消色性描線が形成されることを特徴とする感熱消色性記録体。
(2) 前記顕色インクの印字部分に対して、消色剤分散液の印字が選択して印字され、感熱消色部分と非感熱消色部分とに分けられる上記(1)記載の感熱消色性記録体。
(3) 前記顕色インクによる印字及び消色剤分散液の印字がインクジェットプリンターにより行われる上記(1)又は(2)記載の感熱消色性記録体。
(4) 前記消色剤は、非晶質樹脂、塩基性物質及びコレステロール誘導体から選らばれる少なくとも1種である上記(1)〜(3)の何れか一つに記載の感熱消色性記録体。
(5) 前記消色剤は、平均粒子径10〜2000nmの微粒子からなる上記(1)〜(4)の何れか一つに記載の感熱消色性記録体。
(6) 前記非晶質樹脂は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネートの混合、アロイ、コポリマーから選ばれる少なくとも1種である上記(4)又は(5)に記載の感熱消色性記録体。
(7) 前記非晶質樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が30〜200℃である上記(4)〜(6)の何れか一つに記載の感熱消色性記録体。
(8) 前記塩基性物質は、結晶性物質で、その融点が30〜200℃である上記(4)又は(5)に記載の感熱消色性記録体。
(9) 前記塩基性物質は、融点が30〜200℃である結晶性物質とその結晶性物質に相溶できる塩基性物質からなる上記(8)に記載の感熱消色性記録体。
(10) 前記塩基性物質は、炭素鎖13〜20の鎖状分子であり、アミノ基を少なくとも1つ以上有する上記(4)、(8)又は(9)の何れか一つに記載の感熱消色性記録体。
(11) 前記コレステロール誘導体は、コール酸のアルキルエステルからなる上記(4)又は(5)に記載の感熱消色性記録体。
(12) 前記コレステロール誘導体は、その融点が30〜200℃である上記(4)、(5)及び(11)の何れか一つに記載の感熱消色性記録体。
(13) 前記ロイコ染料は、ラクトン骨格、ピリジン骨格、キナゾリン骨格、ビスキナゾリン骨格の何れか1つ以上を有する上記(1)〜(12)の何れか一つに記載の感熱消色性記録体。
(14) 前記顕色剤は、没食子酸エステル、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ビスフェノール誘導体から選ばれる少なくとも1種である上記(1)〜(13)の何れか一つに記載の感熱消色性記録体。
(15) 前記顕色トナーの結晶性物質は、40〜200℃の融点を有する物質である上記(1)〜(14)の何れか一つに記載の感熱消色性記録体。
(16) 前記顕色トナーの結晶性物質は、炭素鎖13〜20の鎖状分子であり、水酸基、エステル結合、エーテル結合、アミド結合から選ばれる極性基を少なくとも1つ以上有する上記(1)〜(15)の何れか一つに記載の感熱消色性記録体。
(17) 顕色トナーは、平均粒子径10〜2000nmの微粒子である上記(1)〜(6)の何れか一つに記載の感熱消色性記録体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、少なくともロイコ染料、顕色剤、結晶性物質からなる顕色トナーを含有する顕色インクと、消色剤分散液とを別々に保管し、顕色インクと消色剤分散液とによる各印字により支持体上に感熱消色性描線を形成することで、保管時の消色が起きず、優れた発色性を維持することができ、かつ、加熱消色でき、極低温化(−50℃以下)に保存しても再発色せず、しかも、経時安定性に優れ、鮮やかな色相濃度を有する感熱消色性記録体が提供される。
また、顕色インク及び消色剤分散液を微粒子化することで、インクジェットプリンターなどの印字部での詰まりやカートリッジ内での沈降を更に防止することができる。
更に、消色剤分散液の印字を、消色したい部分に限定して印字することで、記録紙などの記録体全体を加熱しても選択的に顕色トナーの発色を維持させることができ、同じ色の印字であっても、消色性の印字部分と非消色性の印字部分のように使い分けることができ、消色したい部分のみ消色可能となる感熱消色性記録体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明の感熱消色性記録体は、支持体上に感熱消色性描線を形成してなる感熱消色性記録体であって、前記感熱消色性描線は、少なくともロイコ染料、顕色剤、結晶性物質からなる顕色トナーを含有する顕色インクと、消色剤分散液とをそれぞれ個別に保存し、支持体上に上記顕色インクによる印字後に上記消色剤分散液を印字することにより、または、消色剤分散液を印字後に顕色インクを印字することにより、感熱消色性描線が形成されることを特徴とするものである。
【0011】
〔顕色トナー〕
本発明に用いる顕色トナーは、少なくともロイコ染料、顕色剤、結晶性物質からなる顕色粒子から構成される。
用いることができるロイコ染料としては、電子供与性染料で、発色剤としての機能するものであれば、特に限定されものではない。具体的には、発色特性に優れる顕色トナーを得る点から、例えば、3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、3−(4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3−(4−ジエチルアミノ−2−エトキシフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド、1,3−ジメチル−6−ジエチルアミノフルオラン、2−クロロ−3−メチル−6−ジメチルアミノフルオラン、3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−キシリジノフルオラン、2−(2−クロロアニリノ)−6−ジブチルアミノフルオラン、3,6−ジメトキシフルオラン、3,6−ジ−n−ブトキシフルオラン、1,2−ベンツ−6−ジエチルアミノフルオラン、1,2−ベンツ−6−ジブチルアミノフルオラン、1,2−ベンツ−6−エチルイソアミルアミノフルオラン、2−メチル−6−(N−p−トリル−N−エチルアミノ)フルオラン、2−(N−フェニル−N-−メチルアミノ)−6−(N−p−トリル−N−エチルアミノ)フルオラン、2−(3’−トリフルオロメチルアニリノ)−6−ジエチルアミノフルオラン、3−クロロ−6−シクロヘキシルアミノフルオラン、2−メチル−6−シクロヘキシルアミノフルオラン、3−メトキシ−4−ドデコキシスチリノキノリンなどが挙げられ、これらは、単独(1種)で又は2種以上を混合して(以下、単に「少なくとも1種」という)用いることができる。
更に、黄色〜赤色の発色を発現させるピリジン系化合物、キナゾリン系化合物、ビスキナゾリン系化合物等も用いることができる。
これらのロイコ染料は、ラクトン骨格、ピリジン骨格、キナゾリン骨格、ビスキナゾリン骨格の何れか1つ以上を有するものであり、これらの骨格(環)が開環することで優れた発色特性を発現するものである。
【0012】
本発明に用いる顕色剤は、ロイコ染料を発色させるものであり、結晶状態の粒子から構成され、この結晶状態で顕色トナー中に含有されるものである。
具体的に用いることができる顕色剤としては、発色特性に優れる顕色トナーを得る点から、没食子酸エステル、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ビスフェノール誘導体から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、具体的には、o−クレゾール、ターシャリーブチルカテコール、ノニルフェノール、n−オクチルフェノール、n−ドデシルフェノール、n−ステアリルフェノール、p−クロロフェノール、p−ブロモフェノール、o−フェニルフェノール、ヘキサフルオロビスフェノール、p−ヒドロキシ安息香酸n−ブチル、p−ヒドロキシ安息香酸n−オクチル、レゾルシン、没食子酸ドデシル、アセトフェノン、ベンゾフェノン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、1−フェニル−1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)−2−メチルプロパン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ヘキサン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ヘプタン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−オクタン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ノナン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−デカン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ドデカン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)エチルプロピオネート、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ヘプタン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ノナンなどが挙げられ、これらは、少なくとも1種用いることができる。
【0013】
本発明に用いる顕色トナーの結晶性物質は、溶融した状態でロイコ染料及び顕色剤を溶解させ、該結晶性物質が冷却(例えば、5〜20℃)することで結晶化させてロイコ染料、顕色剤を析出させて発色、顕色状態とするものであり、擦過等やその他の加熱(例えば、60〜80℃)で、結晶性物質が溶融し、ロイコ染料と顕色剤とを再溶解するため、ロイコ染料と顕色剤とが相互作用できなくなり、消色状態として機能するものであり、擦過等やその他の加熱が止まると、室温等に冷却され、結晶性物質が結晶化し再度ロイコ染料と顕色剤が析出、相互作用し、再顕色状態として機能するものである。
用いることができる結晶性物質は、上記機能を有するものであれば、特に限定されず、例えば、水酸基、エステル結合、エーテル結合、アミド結合などの極性基を少なくとも1つ以上有する化合物、具体的には、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、ドコサン酸、テトラドコサン酸、ヘキサドコサン酸、オクタドコサン酸などの飽和脂肪酸、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、イソステアリルアルコール、パルミトレイルアルコール、などの高級アルコール、上記脂肪酸とアミンのアミド類、上記脂肪酸とアルコールのエステル類、上記高級アルコールと、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコールとのエーテル類などが挙げられ、また、ジフェニルプロパンジオン、ジベンジオキシベンゼン、ジフェノキシベンゼン、ジイソプロピルナフタレン、ベンジルビフェニル、ベンジルナフチルエーテル、ジベンジルスルホキシド、ジメチルテレフタレート、ジフェニルカルボネート、ジフェニルスルホン、フルオランテン、フルオレン、メチルヒドロキシナフタレート、フェニルヒドロキシナフタレート、ステラニリド、などの芳香族化合物などが挙げられ、これらは、少なくとも1種用いることができる。
【0014】
好ましくは、擦過前の描線や、インキ状態での安定性を更に高めることができる点から、40〜200℃、更に好ましくは、40〜90℃の融点を有する結晶性物質であるものが望ましく、更に好ましくは、安定な顕色微粒子を得る点から、炭素数13〜20の鎖状分子であり、水酸基、エステル結合、エーテル結合、アミド結合などの極性基を少なくとも1つ以上有するものが望ましい。
好ましい結晶性物質としては、例えば、ステアリン酸(融点約70℃)、パルミチン酸(融点63℃)、ステアリン酸アミド(融点104℃)、ベヘニルアルコール(融点60℃)、ステアリン酸亜鉛(融点130℃)の使用が望ましい。
【0015】
本発明の顕色トナーは、少なくとも上記ロイコ染料、顕色剤、結晶性物質からなる顕色粒子を用いるものであり、その調製方法としては、例えば、溶融乳化方法を用いることにより調製でき、例えば、ロイコ染料、顕色剤、結晶性物質、乳化剤、水(イオン交換水、精製水、蒸留水、純水等、以下同様)を配合して加熱後、60〜95℃の条件下で高速ホモジナイザーなどの混練機等で撹拌した後、冷却(例えば、氷冷)することにより調製することができる。
これらのロイコ染料、顕色剤、結晶性物質の含有量は、ロイコ染料1に対して、質量比で顕色剤0.8〜3、結晶性物質1〜5である。
本発明の顕色トナーでは、上記ロイコ染料、顕色剤及び結晶性物質の種類、量などを好適に組み合わせることにより、任意の発色温度、消色温度とすることができる。
【0016】
得られる顕色粒子の平均粒子径は、着色性、発色性、易消色性の点から、10〜2000nm、更に好ましくは、80〜300nmであるものが望ましい。本発明(実施例等含む)で規定する「平均粒子径」は、粒度分布測定装置〔Unimodal測定(平均粒子径測定)〕にて、平均粒子径を測定した値である。
また、上記ロイコ染料、顕色剤、結晶性物質からなる顕色粒子は、インキでの熱的安定性及び易消色性の点から、好ましくは、その融点は、40〜150℃でことが好ましく、更に、60〜130℃であることが望ましい。
更に、この顕色粒子の熱容量は、10J/g以上であることが好ましく、特に好ましくは、10J/g以上〜500J/g以下であるものが望ましい。この顕色粒子の熱容量が10J/gより低いと、環境の僅かな温度変化で消色作用が発現することがあり、一方、500J/gより高いと、消色に必要なエネルギー量が多すぎて、擦過を長時間繰り返さないと消色できなくなるという課題を生じることがある。
なお、本発明(実施例等含む)で規定する上記ロイコ染料、顕色剤、結晶性物質からなる顕色粒子などの「融点」は、顕色トナー(乳化液)の乾燥残分を、示差走査熱量計(理学電機社製:DSC8230L)を用いて10℃/minの速度で昇温する条件で測定し、吸熱ピークのトップ温度を「融点」とし、吸熱ピーク面積を「熱容量」として測定した値である。
【0017】
〔顕色インク〕
本発明の顕色インクは、上記顕色トナーに、水の他、本発明の効果を損なわない範囲で、描線の固着性の向上の点から、固着剤、更に濡れ剤などを適宜含有して顕色インクとして調製される。
この顕色インクとして調製の際における顕色トナーの含有量は、顕色インクによる印字部分が発色性に優れ、かつ、加熱消色でき、鮮やかな色相濃度を有する機能を発揮できれば、特に限定されず、顕色インク中に、固形分量で5〜50質量%とすることが好ましい。
【0018】
〔消色剤分散液〕
本発明に用いる消色剤分散液は、非晶質樹脂、塩基性物質及びコレステロール誘導体から選らばれる少なくとも1種である消色剤を水などの溶媒に分散したものから構成される。
【0019】
〔非晶質樹脂による消色剤分散液〕
この非晶質樹脂による消色剤分散液による消色作用は、本発明による感熱消色性描線(顕色状態にある顕色粒子)を、擦過や加熱手段等による加熱で、結晶性物質が融解し、内包したロイコ染料及び/又は顕色剤が非晶質樹脂(粒子)中に溶解することで、消色状態となり、描線が消去されるものである。
用いることができる非晶質樹脂としては、本発明による感熱消色性描線を加熱により消色する機能を発揮できる非晶質樹脂であれば、特に限定されないが、好ましくは、好適な消色能を有する消色剤分散液を得ることができる点から、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリルニトリル樹脂、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、及びこれらとのポリカーボネートの混合、アロイ、コポリマーから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
更に好ましくは、加熱前の描線や、消色剤分散液での安定性を更に高めることができる点から、好ましくは、ガラス転移温度(Tg)が30〜200℃、更に好ましくは、Tgが30〜90℃となる非晶質樹脂が望ましく、また、消色剤の沈降を防止することができ、経時保管時の安定性を更に高めることができる点から、平均粒子径10〜2000nm、特に好ましくは、40〜300nmとなるものが望ましい。
【0020】
用いることができる非晶質樹脂による消色剤としては、ウレタン樹脂では、例えば、市販のウレタン樹脂エマルション(WBR−2019、大成ファインケミカル社製、Tg:45℃、平均粒子径120nm、全固形分32wt%)、アクリル樹脂では、例えば、市販のアクリル樹脂エマルション(AE116、JSR社製、Tg:50℃、平均粒子径80nm、全固形分40wt%)、アクリルニトリル樹脂では、例えば、市販のアクリルニトリル樹脂エマルション(Nipol1577、日本ゼオン社製、Tg:46℃、平均粒子径40nm、全固形分38wt%)、ポリスチレンでは、例えば、市販のポリスチレンエマルション(2507H、日本ゼオン社製、Tg58℃、平均粒子径160nm、全固形分35wt%)、ポリブタジエンでは、例えば、市販のポリブタジエンエマルション(LX433c、日本ゼオン社製、Tg50℃、平均粒子径150nm、全固形分30wt%)、ポリ塩化ビニルでは、例えば、市販のポリ塩化ビニルエマルション(モビニール1720、ニチゴーモビニール社製、Tg55℃、平均粒子径150nm、全固形分量48wt%)などが挙げられる。
【0021】
本発明の非晶質樹脂による消色剤分散液では、上記非晶質樹脂、水の他、本発明の効果を損なわない範囲で、描線の固着性の向上の点から、固着剤、更に濡れ剤などを適宜含有することができる。
上記消色剤となる非晶質樹脂の含有量は、顕色トナーによる印字部分を消色できる機能を発揮できれば、特に限定されず、消色剤分散液中に、固形分量で、5〜50質量%とすることが好ましい。
【0022】
〔塩基性物質による消色剤分散液〕
この塩基性物質による消色剤分散液による消色作用は、本発明による感熱消色性描線(顕色状態にある顕色粒子)の顕色剤を中和することで、ロイコ染料との相互作用を阻害するものである。すなわち、本発明による感熱消色性描線は、擦過や加熱手段等による加熱で、顕色粒子の結晶性物質及び消色剤(又は後述する消色剤を内包している結晶性物質)を融解させ、混合させるものであり、融解した結晶性物質内で、ロイコ染料と相互作用していた顕色剤と消色剤とが中和反応するため、ロイコ染料が顕色剤との相互作用を失い、消色状態となり、描線が消去されるものである。
用いることができる塩基性物質としては、本発明による感熱消色性描線を加熱により消色する機能を発揮できる塩基性物質であれば、特に限定されないが、好ましくは、好適な消色能を有する消色剤分散液を得ることができる点から、結晶性物質であり、その融点が好ましくは、30〜200℃、更に好ましくは、30〜150℃である塩基性物質が望ましく、例えば、これらの特性を有する炭素数13〜20の鎖状分子であり、アミノ基を少なくとも1つ以上有するものが挙げられる。
具体的には、上記特性を有するラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン(オクタデシルアミン)などの一級アミン類の他、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基などを有する2級アミン類、3級アミン類から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0023】
また、本発明では、加熱前の描線や、消色剤分散液での安定性を更に高めることができる点から、融点が30〜200℃、好ましくは、30〜150℃である(消色剤用の)結晶性物質と、この結晶性物質に相溶できる上述の塩基性物質とからなる消色剤を用いることができる。
用いることができる消色剤用の結晶性物質としては、上述した顕色粒子の結晶性物質の他に、融点が30〜150℃である結晶性物質を用いることができるものであり、例えば、ステアリン酸(融点約70℃)、パルミチン酸(融点63℃)、ステアリン酸アミド(融点104℃)、ベヘニルアルコール(融点60℃)、ステアリン酸亜鉛(融点130℃)などの極性基を有する結晶性物質だけでなく、更に、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス〔融点は、それぞれ分子量に依存し、使用可能な(消色剤用の)結晶性物質としては、融点302150℃である〕なども使用することができる。
【0024】
この消色剤分散液は、上記塩基性物質からなる消色粒子や、少なくとも上記塩基性物質、結晶性物質からなる消色粒子を用いるものであり、その調製方法としては、溶融乳化方法を用いることにより調製でき、例えば、消色剤分散液中に、塩基性物質が固形分量で1〜30質量%、結晶性物質3〜30質量%、乳化剤0.01〜10質量%、水などを配合して加熱後60〜95℃の条件下で高速ホモジナイザーなどの混練機等で撹拌した後、冷却(例えば、氷冷)することにより調製することができる。更に、描線の固着性の向上の点から、固着剤、更に濡れ剤などを適宜含有することができる。
また、消色剤の沈降を防止することができ、経時保管時の安定性を更に高めることができる点から、消色剤の平均粒子径は10〜2000nm、特に好ましくは、80〜300nmとなるものを使用することが望ましい。
【0025】
更に、上記少なくとも上記塩基性物質、結晶性物質からなる消色粒子(消色剤)は、インキでの熱的安定性及び易消色性の点から、好ましくは、その融点は、40〜150℃であることが好ましく、更に、60〜130℃であることが望ましい。
また、この消色粒子(消色剤)の熱容量は、10J/g以上であることが好ましく、特に好ましくは、10J/g以上〜500J/g以下であるものが望ましい。この消色粒子の熱容量が10J/gより低いと、環境の僅かな温度変化で消色作用が発現することがあり、一方、500J/gより高いと、消色に必要なエネルギー量が多すぎて、擦過を長時間繰り返さないと消色できなくなるという課題を生じることがある。
【0026】
〔コレステロール誘導体による消色剤分散液〕

このコレステロール誘導体による消色剤分散液による消色作用は、本発明による感熱消色性描線(顕色状態にある顕色職粒子)を、擦過や加熱手段等による加熱で、消色剤自体も擦過等による加熱で、溶融し、同様に溶融した結晶性物質に溶解したロイコ染料と顕色剤とを取り込むことで非結晶化する。ロイコ染料と顕色剤を取り込むことで消色剤が非結晶化するため、冷却後も、ロイコ染料と顕色剤との相互作用を防止し消色状態を維持するものである。
用いることができるコレステロール誘導体としては、上記機能を発揮できるコレステロール誘導体であれば、特に限定されないが、好ましくは、好適な消色能を有するインキを得ることができる点から、コレステロール誘導体はコール酸のアルキルエステルであるものが望ましい。
本発明では、加熱前の描線や、消色剤分散液状態での安定性を更に高めることができる点から、消色剤の融点は、30〜200℃、好ましくは、30〜170℃、更に好ましくは、60〜150℃となるものが望ましい。
具体的に用いることができるコレステロール誘導体としては、具体的には、コール酸メチル(融点150℃)、テストステロン(融点約160℃)、メチルテストステロン(融点約160℃)、リトコール酸(融点約190℃)、コール酸(融点約190℃)、コレステロール(融点約150℃)、ラノステロール(融点約140℃)などの少なくとも1種が挙げられる。
【0027】
この消色剤分散液は、少なくとも上記コレステロール誘導体、好ましくは、少なくとも上記コレステロール誘導体及び結晶性物質からなる消色粒子を用いるものであり、その調製方法としては、溶融乳化方法を用いるとすることにより調製でき、例えば、コレステロール誘導体を固形分量で1〜30質量%、結晶性物質3〜30質量%、乳化剤0.01〜10質量%、水等を配合して加熱後60〜95℃の条件下で高速ホモジナイザーなどの混練機等で撹拌した後、冷却(例えば、氷冷)することにより消色粒子を調製することができる。更に、描線の固着性の向上の点から、固着剤、更に濡れ剤などを適宜含有することができる。
また、消色剤の沈降を防止することができ、経時保管時の安定性を更に高めることができる点から、消色剤の平均粒子径は10〜2000nm、特に好ましくは、80〜300nmとなるものを使用することが望ましい。
【0028】
〔感熱消色性記録体〕
本発明の感熱消色性記録体は、支持体上に、感熱消色性描線を形成してなるものである。この感熱消色性描線は、上記構成の顕色インクと消色剤分散液とをそれぞれ個別に保存し、支持体上に上記顕色インクによる印字後に上記消色剤分散液を印字することにより、または、消色剤分散液を印字後に顕色インクを印字することにより、感熱消色性描線が形成されるものである。
【0029】
本発明に用いる支持体としては、例えば、紙、各種不織布、織布、ポリエチレンテレフタレートやポリプロピレン等のプラスチックフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂をラミネートしたフィルムラミネート紙、プラスチックフィルムと同様の素材で作製した合成紙、アルミニウム等の金属箔、ガラス等、またはこれらを組み合わせた複合シートを挙げることができ、目的に応じて任意に用いることができるが、これらに限定されるものではない。
また、これらの支持体は、不透明、透明、半透明のいずれでもよく、支持体表面を親水処理、粗面処理または各種高分子類を支持体表面に塗布するなどの処理をしてもよい。
【0030】
本発明において、支持体上に感熱消色性描線を形成する方法としては、前記顕色インクと、消色剤分散液とをそれぞれ個別に保存し、支持体上に上記顕色インクによる印字後に上記消色剤分散液を印字することにより感熱消色性描線が形成できるもの、または、消色剤分散液を印字後に顕色インクを印字することにより感熱消色性描線(文字、図形などの標章)が形成できるものであれば、特に限定されず、例えば、インクジェットプリンターなどのプリンター、スタンプ、手書き等の塗布による印字などが挙げられ、好ましくは、作業性、効率性、使用性などの点から、インクジェットプリンターによる印字が好ましい。
また、消色剤分散液による印字は、消色したい部分に限定して印字することで、記録紙などの記録体全体を加熱しても選択的に顕色トナーの発色を維持させることができ、同じ色の印字であっても、消色性の印字部分と非消色性の印字部分のように使い分けるようにしてもよいものである。これにより、消色したい部分のみ消色可能となる感熱消色性記録体を容易にえることができる。
【0031】
このように構成される本発明の感熱消色性記録体では、前記顕色インクと、消色剤分散液とをそれぞれ個別に保存したものを用いるものであり、支持体上に上記顕色インクによる印字後に上記消色剤分散液を当該顕色インクによる印字部分に重ねて印字して感熱消色性描線(文字、図形などの標章)を形成することにより、または、消色剤分散液を印字後に顕色インクを当該消色剤分散液による印字部分に重ねて印字することにより、更に、消色剤分散液の印字を、消色したい部分に限定して印字することにより、感熱消色性描線(文字、図形などの標章)などを形成することにより作製されるものである。
【0032】
本発明の感熱消色性記録体では、消色状態を維持させるために必須となる成分が、上記非晶質樹脂、塩基性物質及びコレステロール誘導体から選らばれる消色剤分散液である。
これらの消色機構は、不可逆的に消色状態を維持できる消色機構である。本発明では、顕色インク中の顕色粒子は、結晶性物質とロイコ染料、顕色剤が含有してあり、結晶性物質が結晶化することで、ロイコ染料と顕色剤とが相互作用し顕色状態となっている。
この顕色トナーを含有するインクの印字物(乾燥した顕色トナー、以下顕色描線)に消色剤が紙面上で接触している状態で、紙面を加熱されると、結晶性物質が溶融し、ロイコ染料と顕色剤が消色剤に取り込まれる。消色剤自体は結晶化しないため、冷却後、ロイコ染料と顕色剤との相互作用を防止し消色状態を維持することができるものである。
【0033】
上記非晶質樹脂による消色剤の作用は、溶融した結晶性物質に溶解したロイコ染料と顕色剤とを取り込み、消色剤自体は結晶化しないため、冷却後、ロイコ染料と顕色剤との相互作用を防止し消色状態を維持するものである。具体的には、上述の非晶質の樹脂を消色剤として用いるものである。この消色機構は、結晶性物質の熱的ヒステリシスに頼るものでなく、結晶性物質から非晶質樹脂の中にロイコ染料及びまたは顕色剤を取り込むことで、消色するものである。本消色機構ではロイコ染料及びまたは顕色剤を取り込んだ(溶解させた)非晶質樹脂は、冷却しても結晶化しないため、極低温下(例えば、−30℃以下、更に、−50℃以下、以下同様)での再発色を防止することができる。
【0034】
また、上記塩基性物質による消色剤の作用は、塩基性物質による消色剤分散液の作用は、消色剤となる塩基性物質が顕色剤を中和することで、ロイコ染料との相互作用を阻害することである。擦過等による加熱で、顕色粒子の結晶性物質及び、消色剤又は印字により消色剤を内包することとなった結晶性物質を融解させ、混合させる。融解した結晶性物質内で、ロイコ染料と相互作用していた顕色剤と消色剤とが中和反応するため、ロイコ染料が顕色剤との相互作用を失い、消色状態となる。本発明における消色剤は、結晶性の塩基性物質、例えば、上述の長い炭素鎖を有するアミン等が結晶性の消色剤として用いるものである。この加熱で溶融した顕色粒子の結晶性物質が、加熱を止めたことで冷却され、再結晶化しても、顕色剤が塩基性物質による消色剤と中和された状態が維持されるので、ロイコ染料が再発色することが防止できる。また、本発明の塩基性物質による消色機構は、顕色粒子における結晶性物質の熱的ヒステリシスに頼るものでなく、顕色剤を塩基性物質により中和することで、消色するものである。ロイコ染料、顕色剤を含む顕色粒子、消色剤粒子もしくは消色剤を含む結晶性粒子ともに、別々に保存され、描線状態では結晶化しているため、擦過等による加熱を加えるまでは、安定に分離しておくことができる。
更に、本発明の塩基性物質による消色機構では、感熱消色性描線はロイコ染料に消色すべき顕色剤が中和されているため、消色描線を極低温下に冷却し結晶化しても、ロイコ染料の再発色を防止することができる。
【0035】
更に、上記コレステロール誘導体による消色剤の作用は、本発明による感熱消色性描線(顕色状態にある顕色粒子)を擦過等により加熱すると、消色剤自体も擦過等による加熱で溶融し、同様に溶融した結晶性物質に溶解したロイコ染料と顕色剤とを取り込むことで非晶質化する。ロイコ染料と顕色剤を取り込むことで消色剤が非晶質化するため、冷却後も、ロイコ染料と顕色剤との相互作用を防止し消色状態を維持するものである。具体的には、上述のコレステロール誘導体の単独もしくは複合粒子を消色剤として用いるものである。この消色機構は、結晶性物質の熱的ヒステリシスに頼るものでなく、結晶性物質からロイコ染料及びまたは顕色剤を取り込むことで、消色剤が非晶質化し消色するものである。また、ロイコ染料及びまたは顕色剤を取り込んだ(相溶)消色剤は、冷却しても結晶化しないため、極低温下での再発色を防止することができる。
【0036】
本発明では、顕色粒子、消色剤微粒子ともに(マイクロカプセルにて保護する必要がないため)、微粒子化が可能であり、より色相濃度が高く、必要とする消色エネルギーが少ない感熱消色性記録体が作製可能となるものである。
従って、本発明では、マイクロカプセルを用いずに、擦過やドライヤー等による簡単な加熱で容易に消色でき、極低温化に保存しても、再発色せず、しかも、経時安定性に優れ、鮮やかな色相濃度を有する感熱消色性記録体が得られるものとなる。
また、顕色インク及び消色剤分散液を微粒子化することで、インクジェットプリンターなどの印字部での詰まりやカートリッジ内での沈降を更に防止することができる。
更に、消色剤分散液の印字を、消色したい部分に限定して印字することで、記録紙などの記録体全体を加熱しても選択的に顕色トナーの発色を維持させることができ、同じ色の印字であっても、消色性の印字部分と非消色性の印字部分のように使い分けることができる好適な消色能を有する感熱消色性記録体を得ることができる。
【実施例】
【0037】
次に、製造例、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0038】
〔製造例1〜9〕
(製造例1)
以下の方法で、顕色インク1を調製した。
CVL(クリスタルバイオレットラクトン、ロイコ染料、山田化学社製) 1質量部
ヘキサフルオロビスフェノールA(顕色剤、融点約130℃、熱容量60J/g、東京化成社製、以下同様) 1質量部
ベヘニルアルコール80(結晶性物質、融点約60℃、日光ケミカル社製、以下同様)
8質量部
ドデシル硫酸ナトリウム(乳化剤、和光純薬工業社製) 1質量部
イオン交換水 89質量部
以上の配合の顕色トナーを80℃で2時間加熱した。
次いで、80℃条件下で高速ホモジナイザーにて、15,000rpmにて、10分間高速撹拌した後、直ちに氷冷し、顕色トナー1(平均粒子径230nm)を調製した。この顕色粒子は、融点70℃、熱容量31J/gであった。
更に、以下の方法で、顕色インク1を調製した。
顕色トナー1 50質量部
ジョンクリル61J(固着剤、BASFジャパン社製) 10質量部
イオン交換水 40質量部
【0039】
(製造例2)
以下の方法で、顕色インク2を調製した。
RED−500(ロイコ染料、山田化学社製) 1質量部
ヘキサフルオロビスフェノールA(顕色剤、東京化成社製) 1質量部
ベヘニルアルコール80(結晶性物質、日光ケミカル社製) 8質量部
ドデシル硫酸ナトリウム(乳化剤、和光純薬工業社製) 1質量部
イオン交換水 89質量部
以上の配合のトナー液を80℃で2時間加熱した。
80℃条件下で高速ホモジナイザーにて、15,000rpmにて、10分間高速撹拌した後、直ちに氷冷し、顕色トナー2(平均粒子径140nm)を調製した。この顕色粒子は、融点70℃、熱容量33J/gであった。
さらに以下の方法で、顕色インク2を調製した。
顕色トナー2 50質量部
ジョンクリル61J(固着剤、BASFジャパン社製) 10質量部
イオン交換水 40質量部
【0040】
(製造例3)
以下の方法で、顕色インク3を調製した。
BLACK−202(ロイコ染料、山田化学社製) 1質量部
ヘキサフルオロビスフェノールA(顕色剤、東京化成社製) 1質量部
ベヘニルアルコール80(結晶性物質、日光ケミカル社製) 8質量部
ドデシル硫酸ナトリウム(乳化剤、和光純薬工業社製) 1質量部
イオン交換水 89質量部
以上の配合のトナー液を80℃で2時間加熱した。
80℃条件下で高速ホモジナイザーにて、15,000rpmにて、10分間高速撹拌した後、直ちに氷冷し、顕色トナー3(平均粒子径140nm)を調製した。この顕色粒子は、融点70℃、熱容量30J/gであった。
さらに以下の方法で、顕色インク3を調製した。
顕色トナー3 50質量部
ジョンクリル61J(固着剤、BASFジャパン社製) 10質量部
イオン交換水 40質量部
【0041】
(製造例4)
以下の方法で、消色剤分散液1を調製した。
WBR−2019(ウレタン樹脂エマルション、消色剤、大成ファインケミカル社製、Tg:45℃、平均粒子径:120nm、全固形分32wt%、以下同様)40質量部
ジョンクリル61J(固着剤、BASFジャパン社製) 10質量部
イオン交換水 50質量部
【0042】
(製造例5)
以下の方法で、消色剤分散液2を調製した。
オクタデシルアミン(塩基性物質、関東化学社製) 2質量部
ベヘニルアルコール80(結晶性物質、日光ケミカル社製) 8質量部
ドデシル硫酸ナトリウム(乳化剤、和光純薬工業社製) 1質量部
イオン交換水 89質量部
以上の配合の消色液を80℃で2時間加熱した。
80℃条件下で高速ホモジナイザーにて、15,000rpmにて、10分間高速撹拌した後、直ちに氷冷し、消色剤2(平均粒子径140nm)を調製した。この消色粒子は、融点70℃、熱容量100J/gであった。
さらに以下の方法で、消色剤分散液2を調製した。
消色液2 40質量部
ジョンクリル61J(固着剤、BASFジャパン社製) 10質量部
イオン交換水 50質量部
【0043】
(製造例6)
以下の方法で、消色分散液3を調製した。
コール酸メチル(コレステロール誘導体、和光純薬社製) 5質量部
ドデシル硫酸ナトリウム(乳化剤、和光純薬工業社製) 1質量部
イオン交換水 94質量部
以上の配合の消色液を高速ホモジナイザーにて、15,000rpmにて、10分間高速撹拌し、消色液3(平均粒子径150nm)を調製した。この消色粒子は、融点68℃、熱容量35J/gであった。
さらに以下の方法で、消色剤分散液3を調製した。
消色液3 40質量部
ジョンクリル61J(固着剤、BASFジャパン社製) 10質量部
イオン交換水 50質量部
【0044】
(製造例7〜9)
上記製造例1〜3における顕色インク1〜3に、消色剤分散液1〜3を1:1で混合したインクを、顕色インク4〜6とした。
【0045】
〔実施例1〜3及び比較例1〜3〕
実施例1〜3では、インクジェットプリンター(PM−3000C、エプソン社製)に、上記製造例1〜3の顕色インク1〜3及び製造例4〜6の消色剤分散液1〜3とを別々にインクジェットプリンターのカートリッジに充填して、コピー用紙からなる支持体上に感熱消色性描線を形成した。実施例1〜3では、支持体上に、初めに、上記顕色インク1〜3による印字後に上記消色剤分散液1〜3を重ねて印字することにより感熱消色性描線を形成した。
これに対して、比較例1〜3では、上記インクジェットプリンターに、上記製造例7〜9の顕色インク4〜6インクジェットプリンターのカートリッジに充填して、支持体上に上記実施例1〜3と同じ感熱消色性描線を形成した。
実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた印字描線の発色性、消色性、再復元性を下記各評価方法で評価した。
【0046】
(発色性の評価方法)
支持体上に形成した感熱消色性描線を下記評価基準で官能評価した。
評価基準:
○:かすれなく印字可能。色相濃度も高い。
△:カスレあり。一部消色している部分がある。
×:印字不可。
【0047】
(消色性の評価方法)
支持体上に形成した感熱消色性描線をホットプレートにより100℃に加熱し、その消色性を下記評価基準で官能評価した。また、上記で消去した箇所を含む記録体を−50℃の冷凍庫の中に3時間保存して後の再復元性を下記評価基準で評価した。
加熱による消色性の評価基準:
○:消色でき、描線が認識されない。
△:一部消色しない。もしくは全体的に薄く色相が残る。
×:消色不可。描線に変化無し。
−50℃下での感熱消色性描線の耐復元性の評価基準:
○:消色描線は、変化無し。復元しない。
△:一部復元部分がある。もしくは全体的に薄く色相が復元する。
×:描線が復元する。筆記描線が認識できる。
【0048】
【表1】

【0049】
上記表1の結果から明らかなように、実施例1〜3は、発色性も高く、100℃に加熱することで描線を確実に消色することができた。また、実施例1〜3の顕色トナー1〜3での印字面に、実施例4〜6の消色剤分散液1〜3を追加で印字しなかった部分は、100℃での加熱後も描線は維持され、選択的に消色性を付与することができ、また、−50℃の冷凍庫の中に3時間保存して後も再発色することがないことが判った。
これに対し、実施例1〜3の顕色トナー1〜3に、あらかじめ実施例4〜6の消色剤分散液1〜3を混合してある比較例1〜3の顕色トナー4〜6で印字した部分は発色性も低く、インク状態での保存時に消色してしまっていることが判った。また、100℃に加熱することで紙面の印字部全体が消色してしまい、選択的に描線を残すことができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に感熱消色性描線を形成してなる感熱消色性記録体であって、前記感熱消色性描線は、少なくともロイコ染料、顕色剤、結晶性物質からなる顕色トナーを含有する顕色インクと、消色剤分散液とをそれぞれ個別に保存し、支持体上に上記顕色インクによる印字後に上記消色剤分散液を印字することにより、または、消色剤分散液を印字後に顕色インクを印字することにより、感熱消色性描線が形成されることを特徴とする感熱消色性記録体。
【請求項2】
前記顕色インクの印字部分に対して、消色剤分散液の印字が選択して印字され、感熱消色部分と非感熱消色部分とに分けられる請求項1記載の感熱消色性記録体。
【請求項3】
前記顕色インクによる印字及び消色剤分散液の印字がインクジェットプリンターにより行われる請求項1又は2記載の感熱消色性記録体。
【請求項4】
前記消色剤は、非晶質樹脂、塩基性物質及びコレステロール誘導体から選らばれる少なくとも1種である請求項1〜3の何れか一つに記載の感熱消色性記録体。
【請求項5】
前記消色剤は、平均粒子径10〜2000nmの微粒子からなる請求項1〜4の何れか一つに記載の感熱消色性記録体。
【請求項6】
前記非晶質樹脂は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネートの混合、アロイ、コポリマーから選ばれる少なくとも1種である請求項4又は5に記載の感熱消色性記録体。
【請求項7】
前記非晶質樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が30〜200℃である請求項4〜6の何れか一つに記載の感熱消色性記録体。
【請求項8】
前記塩基性物質は、結晶性物質で、その融点が30〜200℃である請求項4又は5に記載の感熱消色性記録体。
【請求項9】
前記塩基性物質は、融点が30〜200℃である結晶性物質とその結晶性物質に相溶できる塩基性物質からなる請求項8に記載の感熱消色性記録体。
【請求項10】
前記塩基性物質は、炭素鎖13〜20の鎖状分子であり、アミノ基を少なくとも1つ以上有する請求項4、8又は9の何れか一つに記載の感熱消色性記録体。
【請求項11】
前記コレステロール誘導体は、コール酸のアルキルエステルからなる請求項4又は5に記載の感熱消色性記録体。
【請求項12】
前記コレステロール誘導体は、その融点が30〜200℃である請求項4、5及び11の何れか一つに記載の感熱消色性記録体。
【請求項13】
前記ロイコ染料は、ラクトン骨格、ピリジン骨格、キナゾリン骨格、ビスキナゾリン骨格の何れか1つ以上を有する請求項1〜12の何れか一つに記載の感熱消色性記録体。
【請求項14】
前記顕色剤は、没食子酸エステル、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ビスフェノール誘導体から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜13の何れか一つに記載の感熱消色性記録体。
【請求項15】
前記顕色トナーの結晶性物質は、40〜200℃の融点を有する物質である請求項1〜14の何れか一つに記載の感熱消色性記録体。
【請求項16】
前記顕色トナーの結晶性物質は、炭素鎖13〜20の鎖状分子であり、水酸基、エステル結合、エーテル結合、アミド結合から選ばれる極性基を少なくとも1つ以上有する請求項1〜15の何れか一つに記載の感熱消色性記録体。
【請求項17】
顕色トナーは、平均粒子径10〜2000nmの微粒子である請求項1〜16の何れか一つに記載の感熱消色性記録体。

【公開番号】特開2012−71539(P2012−71539A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219541(P2010−219541)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】