説明

感磁性吸着材料およびヒスチジン含有ペプチドの回収方法

【課題】水中や有機溶媒中に含まれ、第一遷移金属イオンと相互作用を持つ物質を効率よく回収できる吸着材料とその回収方法を提供することを目的とする。
【解決手段】磁性粒子内包マイクロカプセルからなる感磁性吸着材料において、第一遷移金属イオンとキレートを形成したキレート基を側鎖に有する重合体がマイクロカプセル皮膜表面に結合していることを特徴とする感磁性吸着材料、および、ヒスチジン含有ペプチドを含む水溶液を該感磁性吸着材料と接触させて、ヒスチジン含有ペプチドを該感磁性吸着材料に吸着させた後、該感磁性吸着材料からヒスチジン含有ペプチドを溶離させることを特徴とするヒスチジン含有ペプチドの回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部磁場の働きにより容易に分散と凝集を制御できる新規な感磁性吸着材料に関するものであり、この感磁性吸着材料を利用して、水中や有機溶媒中に含まれるヒスチジン含有ペプチドを回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水中や有機溶媒中に微量含まれる有用な物質の回収には多くの困難が伴い、従って、この目的のためにさまざまな方法が提案されている。例えば金属イオンの場合には、金属イオンを水酸化物や硫化物に変換して、沈殿分離する方法がある。しかしながら、この沈殿分離法ではスラッジの発生が避けられない(例えば、特許文献1参照)。抽出試薬を用いる溶媒抽出法、イオン交換樹脂やキレート樹脂を用いる方法も提案されているが、溶媒抽出法では有害な有機廃液が多量に発生し、イオン交換樹脂やキレート樹脂を用いる方法は、これらの樹脂は、必ずしも選択性が高くないという問題がある(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
有用物質の一つとして、アンセリン、カルノシン等のヒスチジン含有ペプチドが知られている。ヒスチジン含有ペプチドは、生体pH平衡能、金属キレート作用、ラジカル消去能等の抗酸化剤としての機能を持つことが知られ、健康補助食品等の原料として注目されている物質である(例えば、特許文献3および4参照)。ヒスチジン含有ペプチドは、廃鶏エキスや魚類の加工廃液に含まれており、限外濾過法やイオン交換法を組み合わせて回収されているが、共存する塩の妨害を除くために脱塩操作が必要になるなど、操作数が増える等の問題がある。
【0004】
この問題を解決するために、アンセリン、カルノシンがヒスチジン構造を持っており、このヒスチジン構造と第一遷移金属イオンとの相互作用が強いことに注目した回収法が提案されている(例えば、特許文献5参照)。特許文献5の方法は、第一遷移金属イオンを固定化したイミノジ酢酸型キレート樹脂を用いて、選択的にアンセリン、カルノシンを吸着させるというものである。この方法によれば、大量の塩が共存する水溶液であっても、効率よくアンセリン、カルノシンを回収することができる。しかしながら、キレート樹脂は直径0.5mm前後のビーズ状であるため、充填塔方式による使用形態が取られ、加圧送水のための設備が必要である。処理量が増すに従い、目詰まりなど流量の低下が頻繁に起こり、その都度、逆洗を実施する必要が出てくる。吸着性能は樹脂の充填量や通水流速に依存しており、吸着性能を上げるために流速を小さくすると処理液量が少なくなり、樹脂充填量を増やさなければならないというジレンマを抱えている。また、樹脂粒子内部への被吸着物質の拡散速度が小さいという問題点もある。キレート樹脂が、ジビニルベンゼンなどの架橋剤によって剛直な三次元構造を有しているためである。拡散速度が遅いため、被吸着物質を溶出する際にも長い時間がかかるだけでなく、溶出液の濃度が低下してしまうという事態にも至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−299952号公報
【特許文献2】特開2007−313391号公報
【特許文献3】特表平11−505540号公報
【特許文献4】特開2004−359663号公報
【特許文献5】特開2008―179557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の様な事情に着目してなされたものであって、その課題とするところは水中や有機溶媒中に含まれ、第一遷移金属イオンと相互作用を持つヒスチジン含有ペプチドを効率よく回収できる吸着材料とその回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を鋭意研究し、磁性粒子内包マイクロカプセルからなる感磁性吸着材料において、第一遷移金属イオンとキレートを形成したキレート基を側鎖に有する重合体がマイクロカプセル皮膜表面に結合していることを特徴とする感磁性吸着材料が、前記課題の解決に極めて有効なことを見いだして本発明に到達した。
【0008】
本発明者は、キレート基がイミノジ酢酸基であることが好ましいこと、また、第一遷移金属イオンが銅(II)イオンであることが好ましいこと、さらに、マイクロカプセルの皮膜がin situ重合法または界面重合法によって製造されていることが好ましいことを見いだした。
【0009】
本発明者は、さらに、上述した感磁性吸着材料を、ヒスチジン含有ペプチドを含む水溶液と接触させてこれらを吸着させた後、該吸着材料からヒスチジン含有ペプチドを溶離させることにより、効率よくヒスチジン含有ペプチドを回収できることを見いだした。
【発明の効果】
【0010】
本発明の感磁性吸着材料は、第一遷移金属イオンとキレートを形成したキレート基を有する側鎖を有する重合体がカプセル皮膜表面に結合している。従って、第一遷移金属イオンと相互作用を持つ物質であれば、水中や有機溶媒中に微量含まれている場合であっても、効率よく吸着することができる。吸着後の溶出も速やかである。また、感磁性を有していることから、充填塔方式の使用形態を取る必要がなく、吸着後は、外部磁場を加えることにより容易に集めることができる。従って、目詰まりに伴う流量低下や逆洗といった問題を避けることができる。カプセル皮膜をin situ重合法または界面重合法によって製造した場合には、特に化学的安定性や機械的強度が高くなり、外部磁場を加えて集める際の破損もない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の感磁性吸着材料は、磁性粒子内包マイクロカプセルからなり、第一遷移金属イオンとキレートを形成したキレート基を側鎖に有する重合体がマイクロカプセル皮膜表面に結合している。
【0012】
本発明において用いられる磁性粒子は、金属およびその酸化物、合金およびその酸化物からなる群から選択される少なくとも1種以上の磁性材料から形成されていることが好ましい。金属としては、鉄、コバルトまたはニッケル等が挙げられる。化学的な安定性に優れることから、マグヘマイト、マグネタイト、ニッケル亜鉛フェライト、およびマンガン亜鉛フェライトからなる群から選択される少なくとも1種以上の磁性粒子が好ましく、その中でも、大きな磁化量を有するために、感磁性が優れるマグネタイトが特に好ましい。磁性粒子のサイズについては、マイクロカプセルに内包されるサイズのものであれば特に制限はないが、磁性粒子の最も長い軸の長さが4nm〜10μmのものが好ましい。
【0013】
本発明において用いられる磁性粒子の形状には特に制限はなく、球状、楕円球状、板状、針状、または、立方体状などの多面体状であってもよいが、マイクロカプセルに内包させることから、球状または楕円球状であることが好ましい。
【0014】
本発明において用いられるマイクロカプセルの直径は1〜500μmが好ましい。直径が1μmより小さいと、内包される磁性粒子が少なくなり、感磁性が小さくなる場合がある。直径が500μmより大きい場合には、機械的な強度が低下してくる場合がある。なお、マイクロカプセルの直径はその電子顕微鏡写真に基づいて求められる。
【0015】
本発明において、マイクロカプセルのカプセル皮膜に特に制限はない。例えば、ゼラチン、ポリ乳酸、エチルセルロース、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、ポリウレア、メラミンホルマリン樹脂、尿素ホルマリン樹脂、ポリアクリルアミド、アクリル酸エチル/アクリル酸ヒドロキシエチルコポリマー等で形成されたカプセル皮膜を用いることができる。これらの皮膜の中で、in situ重合法または界面重合法で形成されるものが、熱的、化学的に安定で、機械的強度が高いので好ましい。in situ重合法または界面重合法で形成される皮膜の具体例としては、メラミンホルマリン樹脂、尿素ホルマリン樹脂、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア等を挙げることができる。このようなカプセル皮膜を有するマイクロカプセルとその製造方法に関しては、例えば近藤保他著、「新版マイクロカプセル−その製法・性質・応用」三共出版株式会社、1987年、近藤保他編、「マイクロカプセル その機能と応用」財団法人日本規格協会、1991年等に詳しく記載されている。
【0016】
本発明で用いられる第一遷移金属イオンとしては、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛のイオンを挙げることができる。これらの中では、さまざまな物質と安定な錯体を形成する銅(II)イオンが好ましい。
【0017】
本発明で用いられるキレート基の具体例としては、イミノジ酢酸、イミノジホスホノメタン、ニトリロトリ酢酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、1,3−プロパンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、イミノジエタノール等から誘導される基を挙げることができる。また、各種多価アミン、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン等から誘導される基、各種アミノ酸、例えば、フェニルアラニン、リジン、ロイシン、バリン、プロリン等から誘導される基、各種糖類、例えば、グルカミン、N−メチルグルカミン等から誘導される基、8−ヒドロキシキノリンから誘導される基等を挙げることができる。これらの中で、第一遷移金属イオンに対して安定なキレートを形成するイミノジ酢酸から誘導される基が好ましい。
【0018】
キレート基を側鎖に有する重合体をマイクロカプセル皮膜表面に結合させるには、キレート基を有するモノマーを皮膜にグラフト重合させる方法、キレート基と反応しうる部位を有するモノマーを皮膜にグラフト重合させ、次いで、キレート基を反応させる方法がある。グラフト率が高く、キレート基を高密度に導入することができるので、後者の方法が好ましい。キレート基と反応しうる部位を有するモノマーの具体例としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテルのようなエポキシ基を有するモノマー、ビニルクロリド、アリルクロリド、クロロメチルスチレンのようなハロゲン原子を有するモノマーを挙げることができる。グラフト重合を開始させる方法としては、放射線を使う方法、増感剤と紫外線を併用する方法、レドックス開始剤を使う方法等がある。レドックス開始剤を使う方法は、特殊な装置が不要で、安全性が高く、温和な条件下で収率よくグラフトすることができるので好ましい。レドックス開始剤の具体例としては、低原子価の鉄イオンや銅イオンと過酸化水素や過硫酸塩の組み合わせや、4価のセリウム塩を挙げることができる。
【0019】
本発明においては、第一遷移金属イオンとキレートを形成したキレート基を側鎖に有する重合体がマイクロカプセル皮膜表面に結合した磁性粒子内包マイクロカプセルからなる感磁性吸着材料を、ヒスチジン含有ペプチドを含む水溶液と接触させてこれらを吸着させた後、該感磁性吸着材料からヒスチジン含有ペプチドを溶離させることにより、効率よくヒスチジン含有ペプチドが回収される。ヒスチジン含有ペプチドとしては、アンセリン、カルノシン、ホモカルノシン、オフィジン等が挙げられ、これらを含む水溶液は、廃鶏エキスや魚類の加工廃液等、塩類を含むものであっても構わない。吸着効率を高めるために、ヒスチジン含有ペプチドを含む水溶液は、pH5〜9に調整しておくことが好ましい。ヒスチジン含有ペプチドを吸着させた感磁性吸着材料は、その感磁性を活用して、外部から磁場を加えることにより容易に水溶液から分離することができる。クエン酸、イミノジ酢酸、イミダゾール等の水溶液と感磁性吸着材料を攪拌することにより、吸着されたヒスチジン含有ペプチドは容易に溶離させることができる。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものでない。なお、実施例中の部数や百分率は、特にことわりのない場合、質量基準である。
【0021】
<界面重合法による感磁性マイクロカプセル1の製造>
磁性流体((株)シグマハイケミカル製、商品名:E−600;磁性成分80%)20g、ノルボルネンジイソシアネート8.6g、酢酸エチル50g、スチレン−無水マレイン酸共重合体のナトリウム塩8g、水90gの混合物をホモミキサーで20秒間攪拌混合して、平均粒径6μmの油滴粒子を含むO/Wエマルションを得た。ここへ、ジエチレントリアミン4.5gを水100gに溶かした溶液を加え、80℃にて3時間加熱攪拌して、感磁性マイクロカプセル1のスラリーを得た。仕込みに用いた磁性体はほぼ全量マイクロカプセルに内包されていた。走査型電子顕微鏡の観察によれば、直径5〜10μm程度の陥没構造を持つ粒子であった。
【0022】
<感磁性キレート材料1の製造>
感磁性マイクロカプセル1のスラリー6.8gを蒸留水40mlで希釈し、メタクリル酸グリシジル1.2gとドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1gを加えて、窒素雰囲気下にて攪拌した。ここへ、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)0.24gを0.1規定硝酸20mlに溶かした溶液を室温にて滴下し、さらに2時間攪拌した。この反応物へさらに、イミノジ酢酸ナトリウム3.54gとエタノール30mlを加えて、3.5時間環流した。冷却後、蒸留水70mlを加え15分攪拌後、永久磁石で固形分を引き寄せつつ、上澄みをデカンテーションで除いた。蒸留水200mlを用いて同様の操作を2回繰り返し、最後に固形物を濾過し、感磁性キレート材料1を得た。収量は1.5gであった。
【0023】
<感磁性キレート材料2の製造>
イミノジ酢酸ナトリウム3.54gの替わりに、イミノジプロピオン酸ナトリウム4.1gを用いる以外は、感磁性キレート材料1の製造と同様に操作して、感磁性キレート材料2を1.6g得た。
【0024】
<感磁性キレート材料3の製造>
イミノジ酢酸ナトリウム3.54gの替わりに、エチレンジアミンテトラ酢酸モノ(2−メルカプトエチルアミド)トリナトリウム塩8.34gを用いる以外は、感磁性キレート材料1の製造と同様に操作して、感磁性キレート材料3を1.8g得た。
【0025】
<in situ重合法による感磁性マイクロカプセル2の製造>
磁性流体((株)シグマハイケミカル製、商品名:E−600;磁性成分80%)20gへ、酢酸でpHを4.5、濃度を5質量%に調整したα−メチルスチレン−無水マレイン酸共重合体水溶液100gを加え、ホモミキサーで1分間攪拌混合した。ここへ、予めメラミン粉末5gに37%ホルムアルデヒド水溶液6.5gと水10gを加え、pHを8に調整した後、液温70℃まで加熱して調製しておいた、メラミン−ホルマリン初期縮合物水溶液を添加し、70℃で2時間攪拌した後、pHを9に調整して感磁性マイクロカプセル2のスラリーを得た。仕込みに用いた磁性体はほぼ全量マイクロカプセルに内包されていた。走査型電子顕微鏡の観察によれば、直径5〜10μmの球状または楕円球状構造を持つ粒子であった。
【0026】
<感磁性キレート材料4の製造>
感磁性マイクロカプセル2のスラリー5.0gを蒸留水40mlで希釈し、メタクリル酸グリシジル1.2gとドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1gを加えて、窒素雰囲気下にて攪拌した。ここへ、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)0.24gを0.1規定硝酸20mlに溶かした溶液を室温にて滴下し、さらに2時間攪拌した。この反応物へさらに、イミノジ酢酸ナトリウム3.54gとエタノール30mlを加えて、3.5時間環流した。冷却後、蒸留水70mlを加え15分攪拌後、永久磁石で固形分を引き寄せつつ、上澄みをデカンテーションで除いた。蒸留水200mlを用いて同様の操作を2回繰り返し、最後に固形物を濾過し、感磁性キレート材料4を得た。収量は1.5gであった。
【0027】
<ラジカル重合法による感磁性マイクロカプセル3の製造>
磁性流体((株)シグマハイケミカル製、商品名:E−600;磁性成分80%)20gへ、t−ブチルパーオキシピバレート0.2g、ジ−sec−ブチル−パーオキシジカーボネート0.1g、α−メチルスチレンダイマー0.2g、メチルメタクリレート9g、ヒドロキエチルメタクリレート1gを混合した。このものへ、亜硫酸ナトリウム0.03gと10%部分ケン化ポリ酢酸ビニル水溶液7gを蒸留水120mlに溶かした溶液を加え、窒素雰囲気下で室温にてホモミキサーで1分間攪拌混合し、次いで80℃で4時間加熱攪拌して、感磁性マイクロカプセル3のスラリーを得た。仕込みに用いた磁性体はほぼ全量マイクロカプセルに内包されていた。走査型電子顕微鏡の観察によれば、直径10〜20μmの球状構造を持つ粒子であった。
【0028】
<感磁性キレート材料5の製造>
感磁性マイクロカプセル3のスラリー5.3gを蒸留水40mlで希釈し、メタクリル酸グリシジル1.2gとドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1gを加えて、窒素雰囲気下にて攪拌した。ここへ、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)0.24gを0.1規定硝酸20mlに溶かした溶液を室温にて滴下し、さらに2時間攪拌した。この反応物へさらに、イミノジ酢酸ナトリウム3.54gとエタノール30mlを加えて、3.5時間環流した。冷却後、蒸留水70mlを加え15分攪拌後、永久磁石で固形分を引き寄せつつ、上澄みをデカンテーションで除いた。蒸留水200mlを用いて同様の操作を2回繰り返し、最後に固形物を濾過し、感磁性キレート材料5を得た。収量は1.4gであった。
【0029】
実施例1
濃度3.9mMの硫酸銅水溶液250mlへ、感磁性キレート材料1を1.0g加え、室温で14時間攪拌した後、磁石強度0.45Tの永久磁石を用いて固形分と母液を分離し、固形分を濾取、水洗して、感磁性吸着材料1を得た。母液中に残存する銅イオンを誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により定量した結果から、この感磁性吸着材料1の1.0gあたりの銅イオン担持量は0.8mmolであることが分かった。
【0030】
80mgの感磁性吸着材料1を、濃度1.25mMのカルノシン水溶液10mlに加えて3時間攪拌した後、磁石強度0.45Tの永久磁石を用いて感磁性吸着材料1と母液を分離した。母液のカルノシン濃度を、N−ベンゾイルヒスチジンを標準物質として、HPLC(ODS、移動相は0.2Mリン酸二水素アンモニウム水溶液:アセトニトリル=95:5、吸光度測定波長は220nm)で求めた結果から、初期のカルノシンの90%が感磁性吸着材料1に吸着されていることが分かった。この吸着されたカルノシンは、濃度10mMのイミダゾール水溶液により、定量的に溶出された。また、一連の操作において、感磁性吸着材料1の凝集や破損は生じなかった。
【0031】
実施例2
硫酸銅の替わりに硫酸ニッケルを用いる以外は、実施例1と同様に操作し、感磁性吸着材料2を得た。得られた感磁性吸着材料2は、1.0gあたりニッケルを0.6mmol担持していた。感磁性吸着材料2を使って、実施例1と同様にカルノシンの抽出と溶出を行ったところ、40%が抽出され、定量的に溶出された。実施例1と同様、一連の操作において、感磁性吸着材料2の凝集や破損は生じなかった。
【0032】
実施例3
硫酸銅の替わりに塩化亜鉛を用いる以外は、実施例1と同様に操作し、感磁性吸着材料3を得た。得られた感磁性吸着材料3は、1.0gあたり亜鉛を0.4mmol担持していた。感磁性吸着材料3を使って、実施例1と同様にカルノシンの抽出と溶出を行ったところ、20%が抽出され、定量的に溶出された。実施例1と同様、一連の操作において、感磁性吸着材料3の凝集や破損は生じなかった。
【0033】
実施例4
硫酸銅の替わりに塩化コバルトを用いる以外は、実施例1と同様に操作し、感磁性吸着材料4を得た。得られた感磁性吸着材料4は、1.0gあたりコバルトを0.4mmol担持していた。感磁性吸着材料4を使って、実施例1と同様にカルノシンの抽出と溶出を行ったところ、20%が抽出され、定量的に溶出された。実施例1と同様、一連の操作において、感磁性吸着材料4の凝集や破損は生じなかった。
【0034】
実施例5
感磁性キレート材料1の替わりに感磁性キレート材料2を用いる以外は、実施例1と同様に操作し、感磁性吸着材料5を得た。得られた感磁性吸着材料5は、1.0gあたり銅を0.4mmol担持していた。感磁性吸着材料5を使って、実施例1と同様にカルノシンの抽出と溶出を行ったところ、40%が抽出され、定量的に溶出された。実施例1と同様、一連の操作において、感磁性吸着材料5の凝集や破損は生じなかった。
【0035】
実施例6
感磁性キレート材料1の替わりに感磁性キレート材料3を用いる以外は、実施例1と同様に操作し、感磁性吸着材料6を得た。得られた感磁性吸着材料6は、1.0gあたり銅を0.5mmol担持していた。感磁性吸着材料6を使って、実施例1と同様にカルノシンの抽出と溶出を行ったところ、55%が抽出され、定量的に溶出された。実施例1と同様、一連の操作において、感磁性吸着材料6の凝集や破損は生じなかった。
【0036】
実施例7
感磁性キレート材料1の替わりに感磁性キレート材料4を用いる以外は、実施例1と同様に操作し、感磁性吸着材料7を得た。得られた感磁性吸着材料7は、1.0gあたり銅を0.7mmol担持していた。感磁性吸着材料7を使って、実施例1と同様にカルノシンの抽出と溶出を行ったところ、85%が抽出され、定量的に溶出された。一連の操作において、感磁性吸着材料7の凝集や破損は生じなかった。
【0037】
実施例8
感磁性キレート材料1の替わりに感磁性キレート材料5を用いる以外は、実施例1と同様に操作し、感磁性吸着材料8を得た。得られた感磁性吸着材料8は、1.0gあたり銅を0.5mmol担持していた。感磁性吸着材料8を使って、実施例1と同様にカルノシンの抽出と溶出を行ったところ、40%が抽出され、定量的に溶出された。一連の操作において、感磁性吸着材料8の凝集はなかったものの、一部にカプセルの破損が見られた。
【0038】
比較例1
濃度3.9mMの硫酸銅水溶液250mlへ、キレート樹脂(三菱化学(株)製、商品名:ダイヤイオンCR−11)を1.0g加え、室温で14時間攪拌した後、濾紙を用いて固形分と母液を分離し、固形分を濾取、水洗して、非感磁性吸着樹脂1を得た。母液中に残存する銅イオンを誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により定量した結果から、この非感磁性吸着樹脂1の1.0gあたりの銅イオン担持量は0.8mmolであることが分かった。
【0039】
80mgの非感磁性吸着樹脂1を、濃度1.25mMのカルノシン水溶液10mlに加えて所定の時間攪拌した後、濾紙を用いて固形分と母液を分離した。母液のカルノシン濃度を、N−ベンゾイルヒスチジンを標準物質として、HPLC(ODS、移動相は0.2Mリン酸二水素アンモニウム水溶液:アセトニトリル=95:5、吸光度測定波長は220nm)で求めた結果から、攪拌時間が3時間では初期のカルノシンの50%が非感磁性吸着樹脂1に吸着され、攪拌時間を20時間にすることで90%が吸着されていることが分かった。吸着されたカルノシンはいずれの場合も、濃度10mMのイミダゾール水溶液により、定量的に溶出された。
【0040】
実施例1と実施例2〜4の比較から、第一遷移金属イオンとしては銅イオン(II)が好ましいことが分かる。実施例1と実施例5〜6の比較から、キレート基としてはイミノジ酢酸基が好ましいことが分かる。実施例1、7と実施例8の比較から、マイクロカプセルの製造法としては界面重合法およびin situ重合法が好ましいことが分かる。また、実施例1〜8と比較例1との比較から、本発明の感磁性吸着材料は永久磁石により容易に分離でき、精製もまた容易であるうえ、カルノシンの吸着も速やかであるので、実用性が高いことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子内包マイクロカプセルからなる感磁性吸着材料において、第一遷移金属イオンとキレートを形成したキレート基を側鎖に有する重合体がマイクロカプセル皮膜表面に結合していることを特徴とする感磁性吸着材料。
【請求項2】
該キレート基が、イミノジ酢酸から誘導される基である請求項1記載の感磁性吸着材料。
【請求項3】
該第一遷移金属イオンが、銅(II)イオンである請求項1記載の感磁性吸着材料。
【請求項4】
マイクロカプセルの皮膜がin situ重合法または界面重合法によって製造されていることを特徴とする、請求項1〜3記載の感磁性吸着材料。
【請求項5】
ヒスチジン含有ペプチドを含む水溶液を、請求項1〜4のいずれかに記載の感磁性吸着材料と接触させて、ヒスチジン含有ペプチドを該感磁性吸着材料に吸着させた後、該感磁性吸着材料からヒスチジン含有ペプチドを溶離させることを特徴とするヒスチジン含有ペプチドの回収方法。

【公開番号】特開2010−207712(P2010−207712A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56222(P2009−56222)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】