説明

慢性閉塞性肺疾患治療剤

【課題】効果的な慢性閉塞性肺疾患治療剤を提供する。
【解決手段】一般式:


[式中、Aは低級アルキレン基、Rはシクロアルキル基、カルボスチリル骨格の3位と4位間の結合は一重結合又は二重結合を示す]
で示されるカルボスチリル誘導体またはその塩、及びプロブコールを有効成分とする慢性閉塞性肺疾患治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性閉塞性肺疾患治療剤、さらに詳しくは、一般式(1)
【化1】

[式中、Aは低級アルキレン基、Rはシクロアルキル基、カルボスチリル骨格の3位と4位間の結合は一重結合又は二重結合を示す]
で示されるカルボスチリル誘導体またはその塩、及びプロブコールを有効成分とする慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
前記一般式(1)で示されるカルボスチリル誘導体またはその塩ならびにその製法は、特許文献1および特許文献2に記載されており、それが血小板凝集抑制作用、ホスホジエステラーゼ(PDE)の阻害作用、抗潰瘍作用、降圧作用及び消炎作用を有し、抗血栓症剤、脳循環改善剤、消炎剤、抗潰瘍剤、降圧剤、抗喘息剤、ホスホジエステラーゼ阻害剤などとして有用であることが知られている。さらに、この化合物が抗アレルギー疾患治療剤として有用であることも知られている(特許文献3)。また、COPD治療剤としても知られている(特許文献4)。
【0003】
COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease;慢性閉塞性呼吸器疾患)は、現在米国では心不全、脳梗塞、癌に続く第4位の死亡原因疾患となっている。他の疾患が減少傾向にあるのに対して、COPDは全世界的に増加傾向を示しており、かつ、潜在患者数が多いことからも、今後より多くの罹患者数をもつ疾患となることが予測される。COPDは、その原因の一つとして、喫煙、大気汚染などのガス、あるいは有害な微小粒子に起因する異常な炎症反応が挙げられ、慢性の閉塞性気道炎と肺気腫を伴う進行性の気流制限を特徴とする疾患である。
【0004】
現在、COPDに対する治療薬としては、抗コリン薬、β2受容体作動薬などの気道拡張薬が臨床で用いられているが、あくまで対症療法の域に留まっており、COPDに対する根本的治療薬はない。また、急性増悪期での抗炎症薬として、ステロイド薬が用いられているが、その有効性については確認されていない。
【0005】
COPDの慢性炎症には、肺での炎症性細胞の浸潤が大きな要素のひとつとなっているが、炎症性細胞から派生する酸化ストレス、また、炎症性細胞により障害を受ける肺の細胞から派生する酸化ストレス、あるいは、障害物質そのもの自体による酸化ストレスが慢性炎症に関与することも事実である。従って、炎症の場で派生する異常な酸化ストレスを制御することにより、慢性炎症をコントロールし、病態の進行を妨げる治療薬の開発が期待される。さらに、COPDの炎症の場となる肺では、肺胞内に浸潤してきた好中球から放出されるエラスターゼが肺気腫の発生に大きく関与することが知られており、他方、好中球エラスターゼは血液中ではα1−アンチトリプシン(α1−AT)により不活化されることが知られており、酸化ストレスがあるとα1−ATは酸化され、失活する結果、好中球エラスターゼは不活化されず、組織障害が生ずる面からも、酸化ストレスを制御する治療薬が病態の進行を妨げると考えられる。
【0006】
COPDの病態モデル動物としては、長期の煙草煙暴露の他、ブタ膵エラスターゼ(PPE)、ヒト好中球エラスターゼ等の各種タンパク質分解酵素を気管内に投与し肺気腫を生じさせる動物モデル、また、LPS、塩化カドミウム、二酸化窒素、オゾン、無機粉塵等の各種化学物質による刺激により肺の障害・炎症を惹起し肺気腫を生じさせる動物モデルが報告されている。一方、タイトスキン(Tight Skin)(Tsk+/−)、パリッド(Pallid)(C57BL/6J pa+/pa+)といった肺気腫が生じ易い自然発症奇形マウスの使用、あるいは、トランスジェニック(Transgenic)、遺伝子ターゲティング(Gene Targeting)といった遺伝子操作により作成したマウスも用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭63−20235号公報
【特許文献2】特開昭55−35019号公報
【特許文献3】特開平5−320050号公報
【特許文献4】特開平10−175864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、上記のとおり、COPDに対する治療薬としては、いくつか臨床で用いられてはいるものの、対症療法の域に留まっている薬物などであり、更に効果的なCOPD治療剤が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、種々研究を重ねるうちに、前記一般式(1)で表されるカルボスチリル誘導体、特に6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリル(シロスタゾール)又はその塩とプロブコールを併用あるいは合剤として投与した場合に、COPDの治療に対し顕著な相乗的活性を示すことがわかった。特に併用することによって、それぞれ単剤で使用する際の副作用を低減し、ステロイドの投与が必要となるような発作を消失させ、その症状を顕著に改善し、全身的なステロイドの投与量を減少させる効果も有している。しかも、これらの併用又は合剤により速効性があり、毒性も少なく、長期に渡って投与することができる。またシロスタゾールには気管支拡張作用があることが報告されており、この作用が併用又は合剤を用いた治療においてCOPDの症状改善により効果的に働くと考えられる。本発明は安全面の上で有効なCOPD治療剤である。
【0010】
本発明によれば、一般式:
【化2】

[式中、Aは低級アルキレン基、Rはシクロアルキル基、カルボスチリル骨格の3位と4位間の結合は一重結合又は二重結合を示す]
で示されるカルボスチリル誘導体またはその塩、及びプロブコールを有効成分とする慢性閉塞性肺疾患治療剤を提供する。
【0011】
また本発明によれば、6-[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリル(シロスタゾール)またはその塩、及びプロブコールを有効成分とする慢性閉塞性肺疾患治療剤を提供する。
【0012】
本発明によれば、慢性閉塞性肺疾患治療用の上記の有効成分を含む組成物を提供する。
【0013】
また本発明によれば、慢性閉塞性肺疾患治療剤を製造するための上記カルボスチリル誘導体またはその塩、及びプロブコールの使用を提供する。
【0014】
また本発明によれば、治療が必要な患者に上記カルボスチリル誘導体またはその塩、及びプロブコールの有効量を投与することを特徴とする慢性閉塞性肺疾患の治療方法を提供する。
【0015】
本発明によれば、カルボスチリル誘導体(1)、特に6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリルまたはその塩と、プロブコールとの併用で、COPDに対する顕著な効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】エラスターゼで処理したCOPDモデルマウスにおける、肺胞径長に対する併用効果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の合剤の1つの成分として含有される、または併用して用いられるカルボスチリル誘導体は、式:
【化3】

[式中、Aは低級アルキレン基、Rはシクロアルキル基、カルボスチリル骨格の3位と4位間の結合は一重結合又は二重結合を示す]
のテトラゾリルアルコキシ−ジヒドロカルボスチリル誘導体またはその塩である。
【0018】
上記式(1)において、シクロアルキル基には、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルおよびシクロオクチルのようなC〜Cシクロアルキル基が含まれる。好ましいシクロアルキル基はシクロヘキシルである。低級アルキレン基には、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、テトラメチレン、ブチレンおよびペンチレンのようなC〜Cアルキレン基が含まれ、好ましいのはテトラメチレンである。
【0019】
好ましいカルボスチリル誘導体は、6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリルであり、抗血小板薬としてシロスタゾールの商品名で市場に出ている。
【0020】
本発明のカルボスチリル誘導体(1)は、医薬的に許容される酸を作用させることによって容易に塩を形成し得る。該酸としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸等の無機酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸等の有機酸を挙げることができる。
【0021】
これらのカルボスチリル誘導体(1)およびその塩、並びにその製造方法については、特許文献2(対応米国特許第4,277,479号)に開示されている。
【0022】
もう一つの活性成分であるプロブコールは、化学名が4,4’−イソプロピリデンジチオビス[2,6−ジ−tert−ブチルフェノール]である化合物であり、すでに抗高脂血症剤として市場に出ている。この化合物が酸化LDL(酸化低密度リポタンパク質)の産生の阻害活性を有することも知られている(J. Clin. Invest., 77, p.641, 1986)。
【0023】
これらの活性成分、カルボスチリル誘導体(1)およびプロブコールは、一緒に投与してもよく、または同時にもしくは別の時に別々に投与してもよい。これらの成分は通常、従前の医薬製剤形に用いてもよい。そして、これらの成分は、単一製剤形または分離した製剤形での医薬製剤に調製してもよい。
【0024】
これらの活性成分の用量は、特定の範囲に制限されない。カルボスチリル(1)またはその塩は、成人(体重50kg)で50〜200mg/日の量で用いてもよく、1日1回または1日2回〜数回に分けて投与される。プロブコールは、成人(体重50kg)で100〜1000mg/日の量で用いてもよく、1回で投与されてもよく、または好ましくは1日の用量を1日2回〜数回に分けて投与してもよい。これらの成分が単一の製剤で調製される場合、カルボスチリル誘導体(1)またはその塩の1重量部あたりプロブコールが0.25〜10重量部の比率で混合される。また、合剤の製剤においては、これに限らないが、例えばその活性成分の和がその製剤の組成物に対して0.1〜70重量%含まれている。
【0025】
本発明の合剤あるいは併用して用いる場合のそれぞれの製剤の形態としては、例えば、特許文献4に挙げられている製剤が挙げられ、その代表的なものとして、錠剤、カプセル剤などの経口固形剤、シロップ剤、エリキシル剤などの経口液剤、注射剤など非経口投与用製剤、並びに吸入剤などが挙げられる。
【0026】
錠剤、カプセル剤、経口液剤のような製剤は、常法によって製造できる。錠剤は、活性成分を、ゼラチン、デンプン、乳糖、ステアリン酸マグネシウム、タルク、アラビアガムなどのような通常の医薬担体と混合することで製造してもよい。カプセル剤は、医薬的に不活性な充填剤または希釈剤と混合し、硬ゼラチンカプセルまたは軟カプセルに充填することで製造してもよい。シロップ剤またはエリキシル剤のような経口液剤は、活性成分と、甘味料(例えば、ショ糖)、保存剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、着色料、および香料などとを混合して製造される。非経口投与用製剤もまた、常法、例えば、本発明の活性成分を無菌の水性担体(好ましくは水または生理食塩水)に溶かして調製してもよい。非経口投与に適した好ましい液剤は、上述の活性成分の1日用量を水および有機溶媒に溶かし、更に分子量300〜5000を有するポリエチレングリコールに溶かして、好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ポリビニルピロリドンおよびポリビニルアルコールのような潤滑剤と混ぜて製造される。上記の液剤は好ましくは更に、殺菌剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノール、チメロサール)、殺真菌剤、および更に適宜等張剤(例えば、ショ糖、塩化ナトリウム)、局所麻酔剤、安定剤、および緩衝剤などと混合してもよい。安定性を維持する観点から、非経口投与用製剤をカプセルに充填し、続いて通常の凍結乾燥技術で水溶媒を除いてもよく、使用に際しては、水溶媒に溶かして液剤に戻される。吸入剤は常法に従って製造される。すなわち、活性成分化合物を粉末または液状にして、吸入噴射剤および/または担体中に配合し、適当な吸入容器に充填することにより製造される。また上記活性成分化合物が粉末の場合は通常の機械的粉末吸入器を、液状の場合はネブライザー等の吸入器をそれぞれ使用することもできる。さらに吸入剤には、必要に応じて従来より使用されている界面活性剤、油、調味料、シクロデキストリンまたはその誘導体等を適宜配合することができる。
上記で挙げられた添加剤の具体的な例示、調製方法等については、これに制限されないが、特許文献4に開示されているものが挙げられる。
【実施例1】
【0027】
ヒト好中球由来のエラスターゼ処理したC57BL/6Jマウスの肺障害に対するシロスタゾール・プロブコールの併用効果
実験方法
動物:日本チャールスリバー(株)より購入した、5週齢の雌性C57BL/6Jマウスを使用した。
群構成:以下の5群とした。
無処置(正常対照)群 n=4匹
エラスターゼ処置コントロール群 n=6匹
エラスターゼ処置 0.3% シロスタゾール投与群 n=6匹
エラスターゼ処置 0.5% プロブコール投与群 n=6匹
エラスターゼ処置 0.3% シロスタゾール + 0.5% プロブコール投与群 n=6匹
【0028】
5週齢の雌性C57BL/6Jマウスを、投薬開始日に、体重に基づいて、層別無作為化法(SASソフトウェア、R8.1を使用)により群分けした。群分け直後より、無処置群とコントロール群には、MF飼料を、薬物投与群には、MF飼料にシロスタゾールあるいは/およびプロブコールを所定の割合で配合した混餌飼料を自由摂取させた。投薬開始7日目に、ペントバルビタール麻酔を施したマウスに、喉頭よりスプレイヤー(Penn-Century社製)を用いてヒト好中球由来エラスターゼ(Elastin Products Co.Inc.社製)を20U/50μLの用量で気管内投与した。エラスターゼ投与3週後に、動物はエーテル麻酔下で腹大静脈より放血致死し、肺を摘出し、10%中性ホルマリン緩衝液にて潅流固定した。ホルマリン固定した肺組織は、バイオ病理研究所にてパラフィン包埋、薄切、マッソントリクローム(Masson Tricrom)染色、HE染色を行なった。病理組織の評価は、肺胞障害の客観的指標である、平均肺胞径長(M.S.Dunnill, Torax(1962),17,320)で行った。
【0029】
統計解析
薬物単独の効果および併用効果を検討する目的で,以下の各群について,統計解析を実施した。
1)エラスターゼ処理群
2)0.3%シロスタゾール投与群
3)0.5%プロブコール投与群
4)0.3%シロスタゾール+0.5%プロブコール投与群
併用効果を確認するため、エラスターゼ処理群とシロスタゾール投与群、およびプロブコール投与群と併用投与群の間で2元配置分散分析を実施し、交互作用の有無を検定した。
エラスターゼ処理群に対するシロスタゾール投与群、プロブコール投与群の比較について、ダネット(Dunnett)検定を行った。また、併用投与群に対するシロスタゾール投与群、プロブコール投与群の比較について、ダネット検定を行った。
なお、すべての検定は両側検定を使用し、有意水準は5%とした。検定はSASソフトウェア(SAS Institute Japan , R8.1)を使用した。
【0030】
結果
エラスターゼを処理したCOPDモデルマウスにおける、平均肺胞径長に対する併用効果
エラスターゼ処理コントロール群(178.8±22.4μm)に対して、0.3%シロスタゾール投与群(116.9±14.3μm)、0.5%プロブコール投与群(86.2±4.8μm)、および0.3%シロスタゾール+0.5%プロブコール投与群(67.5±3.7μm)は、いずれも有意な抑制効果を示し(平均±標準偏差、P<0.01)、併用投与群においては、無処置(正常対照)群(51.4±1.9μm)と同程度にまで改善することが示された。
各単剤投与群と併用投与群の比較では、併用投与群が0.5%プロブコール投与群または0.3%シロスタゾールの各単剤投与群よりも有意な平均肺胞径長の減少作用が認められた(図1)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:
【化1】

[式中、Aは低級アルキレン基、Rはシクロアルキル基、カルボスチリル骨格の3位と4位間の結合は一重結合又は二重結合を示す]
で示されるカルボスチリル誘導体またはその塩、及びプロブコールを有効成分とする慢性閉塞性肺疾患治療剤。
【請求項2】
カルボスチリル誘導体が6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリルまたはその塩である請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
慢性閉塞性肺疾患治療剤を製造するための請求項1または2のカルボスチリル誘導体またはその塩、及びプロブコールの使用。
【請求項4】
治療が必要な患者に請求項1または2のカルボスチリル誘導体またはその塩、及びプロブコールの有効量を投与することを特徴とする慢性閉塞性肺疾患の治療方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−520872(P2010−520872A)
【公表日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−552375(P2009−552375)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【国際出願番号】PCT/JP2008/054689
【国際公開番号】WO2008/111662
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】