説明

成分濃度測定装置

【課題】本発明は、上記の体動、温度変化、外光若しくは迷光、音響ノイズに関する問題を解決し、再現性がよく装着中における脱落の可能性を軽減させて正確な成分濃度測定が可能な成分濃度測定装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、開口部から挿入される被検体の外周を覆う枠体と、前記枠体の内側で前記被検体を囲んで配置される気密空間を形成し前記気密空間内の圧力に応じて前記被検体を押圧する押圧部材と、前記押圧部材に設けられ前記被検体に向けて強度変調光を出射する光出射手段と、前記押圧部材に設けられ前記被検体からの音響波を検出する音響検出手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間又は動物等の被検体の成分や、果物等の被測定物の成分濃度を測定する成分濃度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化が進み、成人病に対する対応が大きな課題になりつつある。血糖値などの検査においては血液の採取が必要なために患者にとって大きな負担となるので、血液を採取しない非侵襲な血液成分濃度測定装置が注目されている。現在までに開発された非侵襲な血液成分濃度測定装置としては、皮膚内に電磁波を照射し、測定対象とする血液成分、例えば、血糖値の場合はグルコース分子に吸収され、局所的に加熱して熱膨張を起こして生体内から発生する音響波を観測する、光音響法が注目されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
だが、光音響法による血液成分濃度測定装置は、グルコースと電磁波との相互作用は小さく、また生体に安全に照射しうる電磁波の強度には制限があり、生体の血糖値測定においては、十分な効果をあげるに至ってない。
【0004】
図10は、光音響法による従来の血液成分濃度測定装置の一例を示した概略構成図である。図10に示す血液成分濃度測定装置80は、駆動回路81、パルス光源83及び波形観測器84を格納する(例えば、非特許文献1参照。)。開口部86は、筐体85に形成され、被検体89が挿入される。駆動回路81はパルス状の励起電流をパルス光源83に提供し、パルス光源83はサブマイクロ秒の持続時間を有する光パルスを発生させる。パルス光源83によって発生された光パルスは、被検体89に照射される。光パルスは被検体89の内部にパルス状の光音響信号と呼ばれる音響波を発生させる。発生した音響波は、音響検出器82によって検出され、更に音圧に比例した電気信号に変換される。
【0005】
変換された電気信号の波形は波形観測器84により観測される。波形観測器84は上記励起電流に同期した信号によりトリガーされ、変換された電気信号は波形観測器84の管面上の一定位置に表示される。変換された電気信号は、積算・平均して測定することができる。このようにして得られた電気信号の振幅を解析して、被検体89の内部の血糖値、すなわちグルコースの量が測定される。図10に示す例の場合はサブマイクロ秒のパルス幅の電気信号を測定している。
【0006】
【特許文献1】特開2005−192611号公報
【非特許文献1】オウル大学(University of Oulu、Finland)学位論文「Pulse photoacoustic techniqus and glucose determination in human blood and tissue」(IBS 951−42−6690−0、http://herkules.oulu.fi/isbn9514266900/、2002年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光音響信号を逐次観察するために生体に装着する場合を考えると、従来の成分濃度測定装置では、正確な測定を行う上での問題点として以下の4つの問題がある。すなわち、一つ目は体動などによる光音響発生源と音響検出器との設置の位置関係若しくは押し付け圧力のズレ、二つ目は被検体における温度変化、三つ目は被検体に当たる励起光以外の外光若しくは迷光、四つ目は音響ノイズである。
【0008】
一つ目の体動の問題について述べる。光照射位置に関して、体動により被検体と光源及び音響検出器との位置が変化すると、光が当たっている部位の形状や状態の変化が生じる。特に対象物が生体、とりわけ生体中の血管内部の成分に注目しているため、光照射部の生体中の血管分布が変化してしまえば、音源分布や音響波信号強度も変化してしまう。このため光源から照射される光を被検体に照射する場合、被検体と音響検出器を密着させる強さによっても、得られた光音響信号強度に変化が生じるという問題があった。
【0009】
上記のような体動などに伴う光音響信号の検出出力強度の不安定性に関する問題に対して、従来の方法では光音響信号発生源と音響検出器との位置関係を固定する施策、体動などによる位置変化による光音響信号の検出出力強度の不安定性の除去に対する施策は行われていない。
【0010】
上記のような問題の解決方法の一つとして、光学的に生体情報を測定する装置においては、クランプ式機構が考えられている。クランプの相対する圧着部に励起光源及び音響検出器を取付けたもので、これら励起光源及び音響検出器とで被検体を挟むように固定する。しかしながらクランプ式機構ではセンサの固定は可能であるが、被検体への局所的な装着圧力により被検体の組織への血液流が減少し、正確な測定ができないという難点がある。
【0011】
次に二つ目の被検体における温度変化の問題について述べる。被検体の温度が変化すると、生体物質の吸収係数も変化し、これに伴い測定精度は影響を受ける。光学的に生体情報を測定する装置においては、特許文献2に示されているように、温調プレートを設けることにより被検体の温度制御、測定時の温度の一定化を図っている。しかし、温調プレートでは比熱が低いため外的な要因により温度の変化が容易に生じる。このため実際には被検体の温度制御や温度一定化は困難である。
【特許文献2】特開平11−47118号公報
【0012】
三つ目の外光若しくは迷光の問題について述べる。励起光以外の外光や励起光が散乱して再度入射した光、すなわち迷光でも被検体における生体物質は吸収をもつ。測定中に前記の外光や迷光が被検体に当たると正確な測定に影響を及ぼす。しかし、現在までに外光若しくは迷光に対する施策は行われていない。
【0013】
四つ目の音響ノイズについて述べる。光音響測定法は励起光により生じた音響波を高感度に検出する方法である。このため正確かつ高感度測定を行うためには音響ノイズを除去する必要がある。ここで音響ノイズとなりうるのは、外界に漂っている音響波と被検体において生じた音響波のうち所望の伝搬パスを通らなかった音響波である。
【0014】
そこで、本発明は、上記の体動、温度変化、外光若しくは迷光、音響ノイズに関する問題を解決し、再現性がよく装着中における脱落の可能性を軽減させて正確な成分濃度測定が可能な成分濃度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明は、被検体の外周を覆う枠体の内側に被検体を囲むように気密空間を形成する押圧部材で被検体を押圧することとした。
【0016】
具体的には、本発明に係る成分濃度測定装置は、開口部から挿入される被検体の外周を覆う枠体と、前記枠体の内側で前記被検体を囲んで配置される気密空間を形成し前記気密空間内の圧力に応じて前記被検体を押圧する押圧部材と、前記押圧部材に設けられ前記被検体に向けて強度変調光を出射する光出射手段と、前記押圧部材に設けられ前記被検体からの音響波を検出する音響検出手段と、を備える。
【0017】
本発明では、被検体を囲んで配置された気密空間内の圧力に応じて押圧部材が被検体を押圧するので、被検体の位置を固定することができる。これにより被検体の動きによる光源及び音響検出器と被検体との位置の変化を防ぐことができる。また、被検体周囲を囲む押圧部材が被検体と接触するので、押圧部材又は気密空間内の温度を加減することで、被検体の温度を調節することができる。また、被検体を押圧している際、被検体の周囲を押圧部材が取り囲み、さらにその周囲を枠体が取り囲むので、被検体に入射する外光や迷光を遮ることができる。さらに、被検体の周囲を押圧部材が取り囲むため、押圧部材に吸音材を適用すれば、外界からの音響ノイズを低減させ、所望の伝搬パス以外の音響波を吸音して高感度の音響検出が可能になる。従って、本発明は、再現性がよく装着中における脱落の可能性を軽減させて成分濃度を正確に測定することが可能となる。
【0018】
ここで、本発明の成分濃度測定装置の基本原理を、一例として、被検体の成分濃度を測定する場合について説明する。
【0019】
本発明では、異なる2波長の光の中の、第1の光の波長を、例えば被検体の測定対象の成分による吸光度が被検体の大部分を占める水による吸光度と顕著に異なる波長に設定し、第2の光の波長を水が第1の光の波長におけるのと合い等しい吸光度を示す波長に設定する。上記の波長の設定方法を、血液中のグルコースの濃度を測定する場合を例として図1により説明する。
【0020】
図1は常温における水とグルコース水溶液の吸光度特性を示す。図1において、縦軸は吸光度を示し、横軸は光の波長を示している。また、図1において、実線は水の吸光度特性を示し、破線はグルコース水溶液の吸光度特性を示している。図1に示す波長λはグルコースによる吸光度が水による吸光度と顕著に異なる波長であり、波長λは、水がλにおける吸光度と合い等しい吸光度を示す波長である。従って、例えば、第1の光の波長をλと設定し、第2の光の波長をλと設定することができる。
【0021】
以下の説明においては、一例として、第1の光の波長を測定対象の成分による吸光度が水による吸光度と顕著に異なる波長λに設定し、第2の光の波長を水が第1の光の波長λにおけるのと合い等しい吸光度を示す波長λに設定した場合を説明する。
【0022】
上記のように設定した異なる2波長の光の各々を、同一周波数で逆位相の信号により強度変調してパルス状の光として出射し、出射された異なる2波長の光が被検体の成分に吸収されて発生する音波を検出して、検出した音波の大きさから、被検体の測定対象の成分の濃度を測定する。上記のように強度変調された異なる2波長の光を出射した場合、第1の光を測定対象の成分と水の両方が吸収して被検体から発生する第1の音波と、第2の光を被検体の大部分を占める水が吸収して被検体から発生する第2の音波とは、周波数が等しくかつ逆位相である。従って、第1の音波と第2の音波は被検体内で重畳し、音波の差として、第1の音波の中の測定対象の成分が吸収して被検体から発生する音波の大きさのみが残留する。そこで、残留した音波により、第1の光が測定対象の成分が吸収して被検体から発生する音波のみを測定することができる。上記の測定においては、測定対象の成分と水の両方が吸収して発生する音波と水が吸収して発生する音波を個別に測定して差を演算するよりも、測定対象の成分が吸収して被検体から発生する音波を正確に測定することができる。
【0023】
さらに、被検体と音響検出器における音波検出素子との接触状態などの音波測定系の誤差の要因を除いて、高精度に測定する方法を以下に説明する。波長λの光及び波長λの光の各々に対する、被検体の大部分を占める水の吸収係数をα(w)及びα(w)として、被検体の測定対象の成分のモル吸収係数をα(g)及びα(g)とすれば、波長λの光及び波長λの光の各々により被検体から発生する音波の大きさs及びsを含む連立方程式は数式(1)で表される。
【0024】
【数1】

【0025】
上記の、数式(1)を解いて、被検体の測定対象の成分濃度Mを求めることができる。ここで、Cは制御あるいは予想困難な係数、すなわち、被検体と音波検出素子の結合状態、音波検出素子の感度、被検体において光により音波が発生される位置と音波検出素子との間の距離、被検体の比熱及び熱膨張係数、被検体の内部の音波の速度、波長λの光及び波長λの光の変調周波数、水の吸収係数及び被検体の成分のモル吸収係数、などに依存する未知定数である。さらに数式(1)でCを消去すると次の数式(2)が得られる。
【0026】
【数2】

【0027】
ここで、波長λの光及び波長λの光の各々に対する、被検体の大部分を占める水の吸収係数α(w)及びα(w)が等しくなるように選択されているので、α(w)=α(w)が成立し、さらに、s≒sであることを用いれば、成分濃度Mは数式(3)で表される。
【0028】
【数3】

【0029】
上記の数式(3)に、既知の係数として、α(w)、α(g)及びα(g)を代入し、さらに、波長λの光及び波長λの光の各々により被検体から発生する音波の大きさs及びsを測定して代入することにより、被検体の成分濃度Mを算出することができる。上記の数式(3)においては、2つの音波の大きさs及びsを個別に測定するよりも、それらの差s−sを測定して、別に測定した音波の大きさsで除する方が、被検体の成分濃度を高精度に測定することができる。
【0030】
そこで、本発明の成分濃度測定装置においては、まず、波長λの光及び波長λの光を、互いに逆位相の変調信号により強度変調して、1の光束に合波して出射することにより、被検体から発生する音波の大きさs及び音波の大きさsが相互に重畳して生じる音波の差(s−s)を測定する。次に、波長λの光を出射して、被検体から発生する音波の大きさsを測定する。上記のように測定した(s−s)とsとから、数式(3)により(s−s)÷sを演算して被検体の測定対象の成分濃度を高精度に測定することができる。
【0031】
本発明の成分濃度測定装置において、前記気密空間は、前記被検体の外周の全周に渡って前記被検体を囲んでいることが望ましい。
【0032】
本発明では、気密空間が被検体の外周の全周にわたって囲むことで、押圧部材による被検体への押圧力を均一にし、被検体の固定を安定化させることができる。
【0033】
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記押圧部材の形成する前記気密空間は、空気、空気より比熱の高い気体、又は空気より比熱の高い液体が充填されていることが望ましい。
【0034】
気密空間内の温度を調整する場合には、気密空間内部を空気で充填することにより、簡易迅速に温度調整することができる。空気は比熱が低いため、容易に温度を増減させることができるためである。また、気密空間内の空気の出し入れをすることにより、被検体への押圧力を簡易な構成で調整することができる。また、気密空間内を空気より比熱の高い気体を充填することにより、被検体の押圧部材による固定と同時に比熱の高い気体の持つ十分な熱量により、被検体を急速且つ安定的に加熱又は冷却することができ、測定中に被検体の押圧部材による押圧部位の温度を一定に維持することができる。また、気密空間内の気体の出し入れをすることにより、被検体への押圧力の調整をすることができる。また、気密空間内を空気より比熱の高い液体を充填することにより、被検体の押圧部材による固定と同時に比熱の高い液体の持つ十分な熱量により、被検体を急速且つ安定的に加熱又は冷却することができ、測定中に被検体の押圧部材による押圧部位の温度を一定に維持することができる。また、気密空間内の液体の出し入れをすることにより、被検体への押圧力の調整を迅速にすることができる。液体による押圧では気体の場合と比較して強い圧力を出力することができるため、設定圧力への加圧・減圧を素早く行うことができるためである。
【0035】
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記押圧部材の形成する前記気密空間内の温度を変化させる気密空間温度可変手段をさらに備えることが望ましい。
【0036】
本発明では、気密空間内の温度を変化させる気密空間温度可変手段を備えることにより、被検体の押圧部材による押圧部位の温度が変化した場合でも気密空間内の温度を制御して押圧部材を通して押圧部位の温度を一定に維持することができる。そのため、正確な成分濃度測定が可能となる。
【0037】
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記押圧部材に設けられ前記被検体の前記押圧部材により押圧される押圧部位の温度を測定する温度センサをさらに備え、前記気密空間温度可変手段は、前記温度センサによって測定される温度に基づいて、前記押圧部位の温度を一定に維持することが望ましい。
【0038】
本発明では、温度センサにより被検体の押圧部位の温度を直接測定することにより、押圧部位の温度を最適な測定環境での温度に維持して成分濃度測定をすることができる。そのため、正確な成分濃度測定が可能となる。
【0039】
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記押圧部材は、伸縮性部材又は可塑性部材からなる袋状であることが望ましい。
【0040】
本発明では、押圧部材を伸縮性部材からなる袋状とすることにより、押圧部材自体を変形させ表面を被検体に密着させて、光源及び音響検出器を被検体により強固に固定することができる。そのため、正確な成分濃度測定が可能となる。また、押圧部材を可塑性部材からなる袋状とすることにより、押圧部材の表面を変形させ被検体に密着させて、光源及び音響検出器を被検体により強固に固定することができる。
【0041】
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記押圧部材は、遮光性又は/及び吸音性を有することが望ましい。
【0042】
本発明では、押圧部材に遮光性を持たせることにより、被検体に入射する外光や迷光を遮ると共に、押圧部位において光の照射点を限定することができる。そのため、正確な成分濃度測定が可能となる。また、押圧部材に吸音性を持たせることにより、外界からの音響ノイズを低減させると共に、反射音を除去して押圧部位のうち光の照射点から発生する音響波に限定した音響検出をすることができる。そのため、正確な成分濃度測定が可能となる。
【0043】
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記気密空間内の圧力を変化させる圧力可変手段をさらに備えることが望ましい。
【0044】
本発明では、気密空間内の圧力を変化させる圧力可変手段を備えることにより、押圧部材による被検体への押圧力の調整をすることが可能となる。そのため、成分濃度測定の際、被検体の固定が不十分な場合でも気密空間の圧力を制御して被検体への押圧力を十分なものとすることができる。
【0045】
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記押圧部材に設けられ前記被検体の前記押圧部材により押圧される押圧部位への押圧力を測定する圧力センサをさらに備え、前記圧力可変手段は、前記圧力センサによって測定される圧力に基づいて、前記押圧部位への押圧力を一定に維持することが望ましい。
【0046】
本発明では、圧力センサにより被検体の押圧部位への押圧力を直接測定することにより、押圧部位への押圧力を最適な測定環境に維持して成分濃度測定をすることができる。
【0047】
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記圧力可変手段は、前記気密空間内の圧力を50mmHg以上とすることが可能であることが望ましい。
【0048】
本発明では、圧力可変手段が気密空間内の圧力を50mmHg以上とすることが可能なことにより、被検体の血流が止まるほどの圧力まで高めたうえで成分濃度を測定することができる。そのため、血流を略停止させた場合の成分濃度に基づいて血流がある状態での成分濃度を補正することや短時間内の測定に対する血流による不安定性の影響を小さくすることができ、正確な成分濃度測定が可能となる。また、気密空間内の圧力を50mmHg以上とすることは、体動による光源及び音響検出手段の被検体に対する位置の固定をする上でも効果的である。
【0049】
また、本発明の成分濃度測定装置において、前記圧力可変手段は、前記気密空間内の圧力を設定する際に、予め設定された設定圧力よりも高い圧力とした後に前記設定圧力へと減圧することが望ましい。
【0050】
本発明では、圧力可変手段が気密空間内の圧力を設定された設定圧力よりも高い圧力とした後に設定圧力へと減圧することにより、押圧部材と被検体との間に存在する空気を除去して押圧部材の被検体への密着度を高めることができる。そのため、光が押圧部材と被検体との間に存在する空気により散乱することを防止して光の押圧部位への直接照射が可能となる。そのため、被検体から発生する音響波の強度を高めて正確な成分濃度測定が可能となる。
【発明の効果】
【0051】
本発明の成分濃度測定装置は、体動、温度変化、外光若しくは迷光、音響ノイズに関する問題を解決し、再現性がよく装着中における脱落の可能性を軽減させて成分濃度を正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。また、本実施形態では、被検体として人体の指、足、耳を一例として説明するが、被検体を被測定物に置き換えれば被測定物の成分濃度を測定する場合の実施の形態とすることができる。
【0053】
(第一実施形態)
図2に、本実施形態に係る成分濃度測定装置の概略構成図を示す。また、図3に、図2の成分濃度測定装置の成分濃度測定時の概略構成図を示す。図2及び図3において、被検体5を除く枠体10、押圧部材13及びビス25は切断面を示し、その他の機械部品又は部材は概略図を示している。
【0054】
図2の成分濃度測定装置31は、開口部35から挿入される被検体5の外周を覆う枠体10と、枠体10の内側で被検体5を囲んで配置される気密空間16を形成し気密空間16内の圧力に応じて被検体5を押圧する押圧部材13と、押圧部材13に設けられ被検体5に向けて強度変調光を出射する光出射手段としての光源14と、押圧部材13に設けられ被検体5からの音響波を検出する音響検出手段としての音響検出器15と、を備える。また、気密空間16内の圧力を変化させる圧力可変手段としてのポンプ19と、気密空間16内の温度を変化させる気密空間温度可変手段としての温度調整器20と、被検体5の押圧時に被検体5に接触して被検体5の温度を測定する温度センサ22と、同様に被検体5に接触して被検体5への押圧力を測定する圧力センサ21と、光源14、ポンプ19及び温度調整器20を動作制御し、音響検出器15から出力される信号に基づいて成分濃度を測定する動作制御器26と、を備える。
【0055】
本実施形態では、枠体10は、被検体5の外周を覆う環状構造をしているが、被検体5の外周を覆うものであれば例えば角状であってもよい。また、被検体5を保持するため、円柱又は角柱であってもよい。また、例えば被検体5を指とした場合には、指自体を覆う筒形状であってもよい。少なくとも、光源14や音響検出器15を収容できるほどの長さが必要とされる。また、枠体10の内周は被検体5(例えば、本実施形態のように手の指)の太さに合わせて設定する。被検体5は、手の指の他、足の指、腕、足先、耳等、枠体10によりその外周を覆うことができる部位であればいずれであってもよい。また、枠体10は、耐久性を考慮し鉄、アルミ等の硬質の部材からなるものでもよいが、被検体5への安全性を考慮し可撓性のある樹脂からなる変形可能な部材からなるものであってもよい。但し、被検体5の体動による変形を生じないものとすることが望ましい。また、遮光性を持つ部材とすると、被検体5に入射する外光や迷光を遮り、また、吸音性を持つ部材とすると、外界からの音響ノイズを低減させることができる。
【0056】
本実施形態では、押圧部材13は、気密性のある気密性保持膜を適用している。気密性保持膜は、シリコンゴム等のエラストマ、ポリ塩化ビニル又はウレタン等の可撓性のある樹脂を例示できる。また、押圧部材13は、枠体10の内壁面に4点でビス25によって固定され、枠体10の内壁面との間に気密空間16を形成する。また、気密空間16を構成するため、押圧部材13は、開口部35及び枠体10の図面手前側の開口部においてシールされている。気密空間16内には、圧力媒体である空気等の気体、水等の液体が充填される。また、ビス25による固定の他、押圧部材13を枠体10の内壁面に直接貼付してもよい。また、ビス25は、枠体10の長手方向(図面の垂直方向)にも数箇所で押圧部材13を固定しており、気密空間16内の圧力媒体は、押圧部材13のビス25で固定されていない部分を通して気密空間16内を自由に移動可能である。また、押圧部材13を伸縮性部材又は可塑性部材からなる袋状とすることもできる。また、本実施形態では、気密空間16は、被検体5の外周の全周に渡って被検体5を囲んでいるが、被検体5の外周を囲んで配置されれば、例えば、被検体5の外周に沿って対称に設けた3箇所、4箇所に配置してもよい。
【0057】
また、気密空間16は、気密空間16内に充填された圧力媒体の出し入れにより内部圧力を可変する。これにより、押圧部材13は、気密空間16内の圧力が高まれば、図3に示すようにビス25による固定点を除く押圧部材13の部分が膨張して気密空間16内の圧力に応じて被検体5を押圧することができる。このとき、気密空間16が被検体5の外周を囲んで配置されているため、被検体5の位置を固定することができ、被検体5の動きによる光源14及び音響検出器15と被検体5との位置の変化を防ぐことができる。また、押圧部材13を伸縮性部材又は可塑性部材からなる袋状とすることにより、押圧部材13自体又は押圧部材13の表面を変形させ被検体5に密着させて、光源14及び音響検出器15を被検体5により強固に固定することができる。また、本実施形態のように、気密空間16を被検体5の外周の全周に渡って被検体5を囲めば、被検体5の押圧の際には、押圧部材13による被検体5への押圧力を均一にし、被検体5の固定をより安定化させることができる。また、図3に示すように、被検体5を押圧している際、被検体5の周囲を押圧部材13が取り囲み、さらにその周囲を枠体10が取り囲むので、被検体5に入射する外光や迷光を遮ることができる。さらに、被検体5の周囲を押圧部材13が取り囲むため、後述するように押圧部材13に吸音材を適用すれば、外界からの音響ノイズを低減させ、所望の伝搬パス以外の音響波を吸音して高感度の音響検出が可能になる。また、成分濃度測定の際に、被検体5の周囲を囲む押圧部材13が被検体5と接触するので、押圧部材13の温度を加減することで、被検体5の温度を調節することができる。そのため、成分濃度測定装置31は、再現性がよく装着中における脱落の可能性を軽減させて成分濃度を正確に測定することが可能となる。
【0058】
また、押圧部材13は、遮光性又は/及び吸音性を持つことが望ましい。押圧部材13に遮光性を持たせることにより、被検体5に入射する外光や迷光を遮ると共に、押圧部位において後述の光源14からの光の照射点を限定することができる。ここで、押圧部位とは、押圧部材13と接する被検体5の部位をいう。また、押圧部材13に吸音性を持たせることにより、外界からの音響ノイズを低減させると共に、反射音を除去して押圧部位のうち光の照射点から発生する音響波に限定した音響検出を後述の音響検出器15においてすることができる。これにより正確な成分濃度測定が可能となる。さらに、押圧部材13の被検体5と接触する部分にグリース等のゲル状材料を被覆すると、被検体5と押圧部材13との密着状態、並びに光源14、音響検出器15、後述する圧力センサ21及び温度センサ22と被検体5との接触状態を密にすることができるため望ましい。例えば、ゲル状材料が音響検出器15と被検体5との間で音響整合物質として機能し音響結合を図ることができる。押圧部材13に材料面から吸音効果を持たせるために、例えば、母材をシリコンゴム等のエラストマ、ポリ塩化ビニル又はウレタンとし、母材中に適量かつ適当な粒子径のタングステン粉末などの金属粉が混入してある構成とする。また、押圧部材13に構造面から吸音効果を持たせるために、例えば、押圧部材13の内部に入射した音響波が効率よく散乱されるような大きさ且つ可撓性のある樹脂で三次元構造、たとえば柱状構造などを形成させる。また、押圧部材13に遮光性を持たせるために、本実施形態では、押圧部材13の被検体5と接する表面に迷光除去コーティングを施している。また、反対側の表面に迷光除去コーティングを施していてもよい。また、本実施形態では、枠体10及び押圧部材13をそれぞれ別個の部材として説明しているが、これらは一体化されていてもよい。
【0059】
気密空間16内を満たす圧力媒体は、空気、特定の気体又は液体を例示できる。圧力媒体は、後述のポンプ19によって出し入れされ、気密空間16内の圧力を可変して被検体5への押圧力の調整をすることができる。また、後述の温度調整器20により温度が可変され、成分濃度測定時には、図3に示すように被検体5に密着した押圧部材13を介して押圧部位の温度を変化させることができる。特に、圧力媒体を空気とした場合には、外部から空気を取り入れて簡易な構成で被検体5への押圧力を調整することができる。また、圧力媒体を液体とした場合には、被検体5への押圧力の調整を迅速にすることができる。液体による押圧では気体の場合と比較して強い圧力を出力することができるため、設定圧力への加圧・減圧を素早く行うことができるためである。
【0060】
また、圧力媒体は、特定の気体、液体とする場合には、空気より比熱の高いものとすることが望ましい。気密空間16内を空気より比熱の高い気体又は液体を充填することにより、被検体5の押圧部材13による固定と同時に比熱の高い気体又は気体の持つ十分な熱量により、被検体5を急速且つ安定的に加熱又は冷却することができ、測定中に被検体5の押圧部材13による押圧部位の温度を一定に維持することができる。また、成分濃度測定の際に、図3に示すように被検体5の周囲を囲む押圧部材13が被検体5と接触するので、気密空間16内の圧力媒体の温度を加減することで、被検体5の温度を調節することができる。
【0061】
光源14は、例えば、前述した波長λ,λの2つの強度変調光を合波して出射する半導体レーザを適用することができる。光源14は、押圧部材13の被検体5と接する表面、押圧部材13の内部、押圧部材13の内側の表面いずれの箇所に設けられていてもよい。光源14を押圧部材13の被検体5と接する表面に設けた場合には、被検体5に接触して直接被検体5に光を照射することができる。光源14を押圧部材13の内部又は内側の表面に設けた場合には、押圧部材13を介した光照射となるが、被検体5に接触することなく押圧部材13によって保護されるため耐久性が向上する。また、光源14を押圧部材13の内部に設ける場合は、光源14の光の照射部を押圧部材13から突出させるか、押圧部材13の光の照射部分を透明にすることが考えられる。また、光源14を押圧部材13の内側表面に設ける場合は、押圧部材13の光の照射部分を透明にすることが考えられる。いずれの場合も押圧部材13の遮光性により被検体5への光の照射強度を弱めないようにするためである。
【0062】
また、光源14は、ヒーター又はペルチェ素子で加熱又は冷却することにより出射する光の波長を変化させることができる。例えば、各々の波長を一方の光の波長を測定対象とする成分が特徴的な吸収を呈する波長とし、他方の光の波長を水が一方の光の波長におけるのと相等しい吸収を呈する波長とする。これにより、水や測定対象とする成分以外の成分による吸収の影響を少なくして成分濃度測定の測定精度を高くすることができる。ここで、前述のように測定対象とする成分をグルコース又はコレステロールとした場合には、グルコース又はコレステロールの特徴的な吸収を示す波長を照射することによって、グルコース又はコレステロールの濃度を高精度に測定することができる。
【0063】
また、光源14からの光を強度変調光とするには、例えば、後述の動作制御器26内に備えた不図示の発振器から矩形波信号を出力することとし、光源14からの2つの光の各々を動作制御器26内に備えた不図示の駆動回路を介して同一周波数で互いに逆位相の矩形波信号により直接変調する。このように、2つの光の各々を同一周波数で互いに逆位相の矩形波信号により直接変調することにより、異なる2波長の光を発生し同時に変調することが可能となる。
【0064】
音響検出器15は、光源14から出射された光により被検体5で発生する音波を検出し、音波の振幅に比例した電気信号を出力する。この場合、後述の動作制御器26には、音響検出器15からの電気信号から高周波ノイズを除去して出力するフィルタを備え、フィルタからの電気信号を前述した矩形波信号を出力する発振器からの変調信号により同期検波し、音圧に比例する電気信号を出力するとよい。音波を変調周波数に同期した同期検波により検出することで、音波を高精度に検出することができる。音響検出器15は、押圧部材13の被検体5と接する表面、押圧部材13の内部、押圧部材13の内側の表面いずれの箇所に設けられていてもよい。押圧部材13の被検体5と接する表面に設けた場合には、被検体5に接触して直接被検体5からの音響波を検出することができる。押圧部材13の内部又は内側の表面に設けた場合には、押圧部材13を介した音響検出となるが、被検体5に接触することなく押圧部材13によって保護されるため耐久性が向上する。
【0065】
ポンプ19は、中空パイプ18bと接続される。また、中空パイプ18aは、枠体10に設けられた注入口17に接続される。また、中空パイプ18a,18bは互いに接続されている。また、中空パイプ18a,18bは、チューブであってもよい。注入口17は、気密空間16と連通している。これにより、ポンプ19は、後述の動作制御器26からの指令に応じて気密空間16内の圧力媒体を中空パイプ18を通じて出し入れして気密空間16内の圧力を変化させることができる。本実施形態では、圧力可変手段として機械的に気密空間16内の圧力を変化させるポンプ19を適用しているが、簡易的には注射器又はゴム球などを適用して手動で気密空間16内の圧力を変化させてもよい。また、注入口17に可撓性のある樹脂から成る一方向弁を備えると、ポンプ19、注射器又はゴム球で圧力媒体を入れた後、手動で一方向弁を変形させることにより圧力媒体を抜いて、気密空間16内の圧力を減圧させることができる。
【0066】
このように、成分濃度測定装置31は、ポンプ19を備えることにより、成分濃度測定の際、被検体5の固定が不十分な場合でも気密空間16の圧力を制御して被検体5への押圧力を十分なのもとすることができる。この場合、ポンプ19は、気密空間16内の圧力を50mmHg以上とするまで加圧できることが望ましい。被検体5の血圧の下限は、50mmHg未満である場合が多いため、気密空間16内の圧力を50mmHg以上とすると、血流を略停止させた場合の成分濃度に基づいて血流がある状態での成分濃度を補正することや短時間内の測定に対する血流による不安定性の影響を小さくすることができ、正確な成分濃度測定が可能となる。また、気密空間16内の圧力を50mmHg以上とすることは、体動による光源14、音響検出器15、圧力センサ21及び温度センサ22の被検体5に対する位置の固定をする上でも効果的である。また、ポンプ19は、気密空間16内の圧力を設定する際に、予め設定された設定圧力よりも高い圧力とした後に設定圧力へと減圧することが望ましい。これにより、押圧部材13と被検体5との間に存在する空気を除去して押圧部材13の被検体5への密着度を高めることができる。そのため、光が押圧部材13と被検体5との間に存在する空気により散乱することを防止して光源14から押圧部位への光の直接照射が可能となり、被検体5から発生する音響波の強度を高めて正確な成分濃度測定が可能となる。この場合、後述の圧力センサ21により測定される押圧部位への圧力から気密空間16内の圧力を予測して設定圧力とすることとしてもよいし、気密空間16内に別途圧力センサを設けて直接気密空間16内の圧力を測定して設定圧力とすることとしてもよい。
【0067】
温度調整器20は、ポンプ19と注入口17との間の中空パイプ18に設けられている。温度調整器20は、後述の動作制御器26からの指令に応じて中空パイプ18を加熱・冷却して中空パイプ18の壁面を介して中空パイプ18の内部に流れる圧力媒体の温度を調整する。例えば、中空パイプ18に接触させた温度センサ(不図示)から圧力媒体の温度を検出して一定温度に維持することができる。これにより、被検体5の押圧部材13による押圧部位の温度が変化した場合でも気密空間16内の温度を制御して押圧部材13を通して押圧部位の温度を一定に維持することができ、正確な成分濃度測定が可能となる。本実施形態では、温度調整器20は、中空パイプ18の途中に設けられているが、例えば、気密空間16内で発熱又は冷却して気密空間16内の圧力媒体の温度を直接調整することとしてもよい。
【0068】
温度センサ22は、押圧部材13に設けられ、成分濃度測定時には、図3に示すように押圧部材13と共に被検体5に接触して押圧部位の温度を測定し、温度に応じた電気信号を出力する。温度センサ22は、押圧部材13の被検体5と接する表面、押圧部材13の内部、押圧部材13の内側の表面いずれの箇所に設けられていてもよい。温度センサ22を押圧部材13の被検体5と接する表面に設けた場合には、被検体5に接触して直接被検体の温度を測定することができる。温度センサ22を押圧部材13の内部又は内側の表面に設けた場合には、押圧部材13を介した温度測定となるが、被検体5に接触することなく押圧部材13によって保護されるため耐久性が向上する。このように、温度センサ22を設けることにより、被検体5の押圧部位の温度を直接測定してその結果を温度調整器20にフィードバックすることができる。そのため、押圧部位の温度を最適な測定環境での温度に維持して成分濃度測定をすることができ、正確な成分濃度測定が可能となる。
【0069】
圧力センサ21は、押圧部材13に設けられ、成分濃度測定時には、図3に示すように押圧部材13と共に被検体5に接触して押圧部位への押圧力を測定し、圧力に応じた電気信号を出力する。圧力センサ21は、押圧部材13の被検体5と接する表面又は押圧部材13の内部いずれの箇所に設けられていてもよい。圧力センサ21を押圧部材13の内部に設ける場合には、圧力センサ21の圧力感知部分を押圧部材13の被検体5と接する部分から突出させることが必要となると考えられる。押圧時に圧力センサ21の圧力感知部分を被検体5と接触させるためである。圧力センサ21は、例えば、圧電型の圧力センサ21を適用することができ、圧力センサ21の出力する直流信号をポンプ19にフィードバックすることができる。これにより、被検体5の押圧部位への押圧力を直接測定して押圧部位への押圧力を最適な測定環境に維持して成分濃度測定をすることができる。
【0070】
動作制御器26は、成分濃度測定の際、光源14から光を出射させることと同期して音響検出器15から出力される電気信号を基に成分濃度を測定する。光源14から異なる時間に出射させた2波長の光及び1波長の光による音響波の大きさをそれぞれ記憶する。そして、予め記憶した前述の数式(3)から(s−s)÷sの演算を実行して、測定対象の成分濃度を算出することができる。また、動作制御器26は、ポンプ19に設定圧力情報と共に動作開始指令を出力し、温度調整器20に設定温度情報と共に動作開始指令を出力する。動作停止については、ポンプ19及び温度調整器20でそれぞれ測定温度又は測定圧力を検出して停止することとしてもよいし、動作制御器26が測定圧力及び温度をポンプ19及び温度調整器20から取得して設定温度を検出して停止することとしてもよい。
【0071】
ここで、本実施形態に係る成分濃度測定の測定方法の一例について図2及び図3を参照して説明する。
【0072】
まず、被検体5が枠体10に開口部35から挿入された状態で、動作制御器26は、設定温度情報と共に温度調整器20に動作開始指令を出力する。温度調整器20は、動作制御器26からの動作開始指令に応じて発熱し、中空パイプ18内の圧力媒体の温度を一定の温度に維持する。圧力媒体の温度が設定温度で一定となると、温度調整器20は、温度を維持すると共に、温度調整完了信号を動作制御器26に出力する。動作制御器26は、温度調整器20からの温度調整完了信号に応じて、ポンプ19に気密空間16内の設定圧力情報と共にポンプ19に動作開始指令を出力する。ポンプ19は、動作制御器26からの動作開始指令に応じて気密空間16内に中空パイプ18を通じて圧力媒体を移動させて押圧部材13を膨張させる。押圧部材13は、膨張により被検体5と接触し、気密空間16内の圧力に応じて被検体5を押圧する。
【0073】
ここで、温度センサ22及び圧力センサ21は、押圧部材13の被検体5への接触と共に被検体5に接触してそれぞれ温度・圧力を検出する。この際、ポンプ19は、圧力センサ21の測定結果を基に気密空間16内の圧力を調整して設定圧力まで加圧する。この場合、前述したようにポンプ19は、設定圧力より高い圧力まで加圧した後に設定圧力まで減圧する。設定圧力となると、ポンプ19は、圧力を維持すると共に、圧力調整完了信号を動作制御器26に出力する。また、温度調整器20は、温度センサ22の測定結果を基に被検体5の温度を一定温度に維持するように圧力媒体の温度を調整し、温度を維持すると共に、温度調整完了信号を動作制御器26に出力する。これにより成分濃度測定の測定環境が整う。
【0074】
動作制御器26は、ポンプ19及び温度調整器20からの温度調整完了信号及び圧力調整完了信号を取得すると、光源14に光出射信号を出力して前述の異なる2波長λ,λの光を出射させる。また、同時に音響検出器15から出力される電気信号を取得する準備を行う。音響検出器15は、光源14からの光により被検体5で発生した音響波を検出する。動作制御器26は、音響検出器15から出力される電気信号を取得し、検波した上で音響波の大きさとして記憶する。その後、動作制御器26は、光源14に光出射信号を出力して波長λの光を出射させ、音響検出器15から出力される電気信号を取得し、検波した上で音響波の大きさとして記憶する。そして、予め記憶した前述の数式(3)から(s−s)÷sの演算を実行して、測定対象の成分濃度を算出する。
【0075】
その後、動作制御器26は、ポンプ19に動作終了信号を出力する。ポンプ19は、動作制御器26からの動作終了信号に応じて圧力媒体を移動させ、気密空間16内の圧力を減圧させ、成分濃度測定を終了させる。
【0076】
(第二実施形態)
図4に、本実施形態に係る成分濃度測定装置の概略構成図を示す。また、図5に、図4の成分濃度測定装置の成分濃度測定時の概略構成図を示す。図4及び図5において、被検体5を除く枠体10、押圧部材13及びビス25は切断面を示し、その他の機械部品又は部材は概略図を示している。符号が図2と同一のものは相互に同一であるため、ここでは説明を省略する。また、成分濃度測定装置の動作手順についても第一実施形態で説明したものと同様であるため説明を省略する。
【0077】
本実施形態では、図2と比較して、気密空間16を3箇所に設け被検体5を3方向から押圧するようにした点が異なる。これにより、押圧時には押圧部材13が膨張し、図5に示すように被検体5を囲んで配置された気密空間16内の圧力に応じて被検体5を押圧するため、被検体5の位置を固定することができ、被検体5の動きによる光源14及び音響検出器15と被検体5との位置の変化を防ぐことができる。また、押圧部材13を伸縮性部材又は可塑性部材からなる袋状とすることにより、押圧部材13自体又は押圧部材13の表面を変形させ被検体5に密着させて、光源14及び音響検出器15を被検体5により強固に固定することができる。また、本実施形態のように、気密空間16を被検体5の外周の全周に渡って被検体5を囲めば、被検体5の押圧の際には、押圧部材13による被検体5への押圧力を均一にし、被検体5の固定を安定化させることができる。また、図5に示すように、被検体5を押圧している際、被検体5の周囲を押圧部材13が取り囲み、さらにその周囲を枠体10が取り囲むので、被検体5に入射する外光や迷光を遮ることができる。さらに、被検体5の周囲を押圧部材13が取り囲むため、後述するように押圧部材13に吸音材を適用すれば、外界からの音響ノイズを低減させ、所望の伝搬パス以外の音響波を吸音して高感度の音響検出が可能になる。また、成分濃度測定の際に、被検体5の周囲を囲む押圧部材13が被検体5と接触するので、押圧部材13の温度を加減することで、被検体5の温度を調節することができる。そのため、成分濃度測定装置32は、再現性がよく装着中における脱落の可能性を軽減させて成分濃度を正確に測定することが可能となる。
【0078】
(第三実施形態)
図6に、本実施形態に係る成分濃度測定装置の概略構成図を示す。また、図7に、図6の成分濃度測定装置の成分濃度測定時の概略構成図を示す。図6及び図7において、被検体6を除く枠体11、押圧部材13及びビス25は切断面を示し、その他の機械部品又は部材は概略図を示している。符号が図2と同一のものは相互に同一であるため、ここでは説明を省略する。また、成分濃度測定装置の動作手順についても第一実施形態で説明したものと同様であるため説明を省略する。
【0079】
本実施形態では、図2と比較して、被検体6としての足先で成分濃度を測定する点が異なる。そのため、枠体11も足先の形状に合わせ楕円形状にしている。このように、枠体11の形状を変えれば、足先などの扁平な部位においても成分濃度測定が可能となる。これにより、押圧時には押圧部材13が膨張し、図7に示すように被検体6を囲んで配置された気密空間16内の圧力に応じて被検体6を押圧するため、被検体6の位置を固定することができ、被検体6の動きによる光源14及び音響検出器15と被検体6との位置の変化を防ぐことができる。また、押圧部材13を伸縮性部材又は可塑性部材からなる袋状とすることにより、押圧部材13自体又は押圧部材13の表面を変形させ被検体6に密着させて、光源14及び音響検出器15を被検体6により強固に固定することができる。また、本実施形態のように、気密空間16を被検体6の外周の全周に渡って被検体6を囲めば、被検体6の押圧の際には、押圧部材13による被検体6への押圧力を均一にし、被検体6の固定を安定化させることができる。また、図7に示すように、被検体6を押圧している際、被検体6の周囲を押圧部材13が取り囲み、さらにその周囲を枠体11が取り囲むので、被検体6に入射する外光や迷光を遮ることができる。さらに、被検体6の周囲を押圧部材13が取り囲むため、後述するように押圧部材13に吸音材を適用すれば、外界からの音響ノイズを低減させ、所望の伝搬パス以外の音響波を吸音して高感度の音響検出が可能になる。また、成分濃度測定の際に、被検体6の周囲を囲む押圧部材13が被検体6と接触するので、押圧部材13の温度を加減することで、被検体6の温度を調節することができる。そのため、成分濃度測定装置33は、再現性がよく装着中における脱落の可能性を軽減させて成分濃度を正確に測定することが可能となる。
【0080】
(第四実施形態)
図8に、本実施形態に係る成分濃度測定装置の概略構成図を示す。また、図9に、図8の成分濃度測定装置の成分濃度測定時の概略構成図を示す。図8及び図9において、被検体7を除く枠体12、蓋体28、シール部材29、押圧部材13及びビス25は切断面を示し、その他の機械部品又は部材は概略図を示している。符号が図2と同一のものは相互に同一であるため、ここでは説明を省略する。また、成分濃度測定装置の動作手順についても第一実施形態で説明したものと同様であるため説明を省略する。
【0081】
本実施形態では、図2と比較して、被検体7としての耳珠で成分濃度を測定する点が異なる。そのため、枠体12を筒状とし、それに伴って押圧部材13を三箇所でビス25により固定している。また、枠体12には開口部37を備えた蓋体28が嵌合されている。また、蓋体28と押圧部材13を固定するためのシール部材29が開口部37に嵌合されている。被検体7は、耳珠の他、耳垂等外耳の各部位を採用することができる。このように、枠体12の形状及び押圧部材13の設置方法を変えれば、生体の比較的小さい部位においても成分濃度測定が可能となる。これにより、押圧時には押圧部材13が膨張し、図9に示すように被検体7を囲んで配置された気密空間16内の圧力に応じて被検体7を押圧するため、被検体7の位置を固定することができ、被検体7の動きによる光源14及び音響検出器15と被検体7との位置の変化を防ぐことができる。また、押圧部材13を伸縮性部材又は可塑性部材からなる袋状とすることにより、押圧部材13自体又は押圧部材13の表面を変形させ被検体7に密着させて、光源14及び音響検出器15を被検体7により強固に固定することができる。また、本実施形態のように、気密空間16を被検体7の外周の全周に渡って被検体7を囲めば、被検体7の押圧の際には、押圧部材13による被検体7への押圧力を均一にし、被検体7の固定を安定化させることができる。また、図9に示すように、被検体7を押圧している際、被検体7の周囲を押圧部材13が取り囲み、さらにその周囲を枠体12が取り囲むので、被検体7に入射する外光や迷光を遮ることができる。さらに、被検体7の周囲を押圧部材13が取り囲むため、後述するように押圧部材13に吸音材を適用すれば、外界からの音響ノイズを低減させ、所望の伝搬パス以外の音響波を吸音して高感度の音響検出が可能になる。また、成分濃度測定の際に、被検体7の周囲を囲む押圧部材13が被検体7と接触するので、押圧部材13の温度を加減することで、被検体7の温度を調節することができる。そのため、成分濃度測定装置34は、再現性がよく装着中における脱落の可能性を軽減させて成分濃度を正確に測定することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の成分濃度測定装置は、日常の健康管理や美容上のチェックに利用することができる。また、人間の生体ばかりでなく、動物の生体についても健康管理に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】常温における水とグルコース水溶液の吸光度特性を示した図である。
【図2】1実施形態に係る成分濃度測定装置の概略構成図である。
【図3】図2の成分濃度測定装置の成分濃度測定時の概略構成図である。
【図4】1実施形態に係る成分濃度測定装置の概略構成図である。
【図5】図4の成分濃度測定装置の成分濃度測定時の概略構成図である。
【図6】1実施形態に係る成分濃度測定装置の概略構成図である。
【図7】図6の成分濃度測定装置の成分濃度測定時の概略構成図である。
【図8】1実施形態に係る成分濃度測定装置の概略構成図である。
【図9】図8の成分濃度測定装置の成分濃度測定時の概略構成図である。
【図10】従来の血液成分濃度測定装置の一例を示した概略構成図である。
【符号の説明】
【0084】
5,6,7:被検体
10,11,12:枠体
13:押圧部材
14:光源
15:音響検出器
16:気密空間
17:注入口
18,18a,18b:中空パイプ
19:ポンプ
20:温度調整器
21:圧力センサ
22:温度センサ
25:ビス
26:動作制御器
28:蓋体
29:シール部材
31,32,33,34:成分濃度測定装置
35,36,37:開口部
80:血液成分濃度測定装置
81:駆動回路
82:音響検出器
83:パルス光源
84:波形観測器
85:筐体
86:開口部
89:被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部から挿入される被検体の外周を覆う枠体と、
前記枠体の内側で前記被検体を囲んで配置される気密空間を形成し前記気密空間内の圧力に応じて前記被検体を押圧する押圧部材と、
前記押圧部材に設けられ前記被検体に向けて強度変調光を出射する光出射手段と、
前記押圧部材に設けられ前記被検体からの音響波を検出する音響検出手段と、
を備える成分濃度測定装置。
【請求項2】
前記気密空間は、前記被検体の外周の全周に渡って前記被検体を囲んでいることを特徴とする請求項1に記載の成分濃度測定装置。
【請求項3】
前記押圧部材の形成する前記気密空間は、空気、空気より比熱の高い気体、又は空気より比熱の高い液体が充填されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の成分濃度測定装置。
【請求項4】
前記押圧部材の形成する前記気密空間内の温度を変化させる気密空間温度可変手段をさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の成分濃度測定装置。
【請求項5】
前記押圧部材に設けられ前記被検体の前記押圧部材により押圧される押圧部位の温度を測定する温度センサをさらに備え、前記気密空間温度可変手段は、前記温度センサによって測定される温度に基づいて、前記押圧部位の温度を一定に維持することを特徴とする請求項4に記載の成分濃度測定装置。
【請求項6】
前記押圧部材は、伸縮性部材又は可塑性部材からなる袋状であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の成分濃度測定装置。
【請求項7】
前記押圧部材は、遮光性又は/及び吸音性を有することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の成分濃度測定装置。
【請求項8】
前記気密空間内の圧力を変化させる圧力可変手段をさらに備えることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の成分濃度測定装置。
【請求項9】
前記押圧部材に設けられ前記被検体の前記押圧部材により押圧される押圧部位への押圧力を測定する圧力センサをさらに備え、前記圧力可変手段は、前記圧力センサによって測定される圧力に基づいて、前記押圧部位への押圧力を一定に維持することを特徴とする請求項8に記載の成分濃度測定装置。
【請求項10】
前記圧力可変手段は、前記気密空間内の圧力を50mmHg以上とすることが可能であることを特徴とする請求項8又は9に記載の成分濃度測定装置。
【請求項11】
前記圧力可変手段は、前記気密空間内の圧力を設定する際に、予め設定された設定圧力よりも高い圧力とした後に前記設定圧力へと減圧することを特徴とする請求項8から10のいずれかに記載の成分濃度測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−301154(P2007−301154A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132668(P2006−132668)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(000102739)エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社 (265)
【Fターム(参考)】