説明

成分献血装置、及び成分献血装置の作動方法

【課題】単一の穿刺針部を有する成分献血装置において、返血の際に血漿成分を血漿浄化器により浄化して、献血行動にインセンティブを与えるとともに、当該血漿浄化器による血漿成分の浄化を適正かつ能率的に行う。
【解決手段】成分献血装置1は、単一の穿刺針部10と、血液を、少なくとも献血成分と、血漿成分と、返血成分に分離する遠心分離機11と、献血成分貯留部12と、穿刺針部10と遠心分離機11を接続する第1の回路13と、遠心分離機11と献血成分貯留部10を接続する第2の回路14と、遠心分離機11から第1の回路13に接続された第3の回路15と、を有し、第3の回路15には、血漿成分を浄化する血漿浄化器20が接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
採取した血液の成分を分離して特定の献血成分を採取し貯留すると共に、採取しなかった非献血成分を返血する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
献血には、全血献血と、特定成分を採取して他成分は返血される成分献血とがある。成分献血は、返血を行う必要があるため、採血(脱血)用と返血用の回路が必要になる。このため成分献血では、従来より、採血用の穿刺針と、返血用の穿刺針と、それぞれに接続される回路を有するダブルニードルの成分献血装置が用いられていた。このような構成の装置を用いることで、血液の流れが基本的に一方通行となるように献血が行われていた。
【0003】
しかしながら、ダブルニードルの場合、両腕等の2箇所に穿刺を行うため、ドナーの精神的負担、身体的負担が大きく、献血動機の心的抑制の要因ともなっていた。
【0004】
このようなドナーの負担を取り除き、ドナーの献血行動や献血動機のハードルを下げ、更に献血の現場での穿刺や回路設置における煩雑な作業を解消するために、シングルニードルでの成分献血が昨今主流になっている。
【0005】
シングルニードルの場合、単一の穿刺針部により採血と返血を行うので、回路の一部に順方向の血液の流れと逆方向の血液の流れの両方を行う部分ができる。この順方向の血流と逆方向の血流で共通の回路部分では、採血時と返血時の機能の双方を持たせて血流を制御する必要がある(特許文献1、2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−105581号公報
【特許文献2】特許3850429号公報
【特許文献3】特許3487609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、献血は、ドナーの慈善意識による行動により成り立っており、血液入手に対する直接のコストは発生しない。しかし、採取した血液の安全性やドナーの安全性を担保するために、血液との接触部分である回路自体を全数ディスポーザブル(使い捨て)にしている。また採取した血液の各種試験・評価による安全性確認を多面的に行っている。この結果、最終的に使用できる安全な血液には実質的に多大なコストがかかっている。
【0008】
血液製剤事業は、これらの血液の安全性やドナーの安全性のためのコストを負担し、またドナーに対して金銭的なインセンティブが禁止された中でドナーを確保するためのコストが必要であり、事業継続に必要なコストとしてこれらを負担する事業構造になっている。
【0009】
血液製剤事業は、血液の入手先であるドナーの行動が無ければ成り立たない事業構造であるにも関わらず、ドナーの献血機会が減少傾向にあるという現実がある。
【0010】
特に献血への意識を比較的高く有する層が老齢層側へシフトしつつある人口構成の歪みや、慈善意識から献血行動を起こす若年層のドナー数の減少などにより、健常人の献血による血液の確保が難しくなってきている。
【0011】
また、血液事業者側は、特に安全性担保を最優先事項として血液の確保を行っているため、血液検査において各種検査での血液に対する指標がある閾値を超えた不健康・疾患予備軍の血液を破棄する対応をとることが前提となっている。
【0012】
金銭の授与が禁止されて以降の血液事業者は、ドナーの献血行動の誘引やインセンティブのために、現物的な栄養ドリンクの提供や、献血手帳への記録等による達成感の感得を動機付けとしたリピーター確保などのドナー獲得のアプローチを行ってきた。
【0013】
しかしながら上述したように、献血行動を起こす若年層の人口減少と、献血行動を起こす人口の高齢化・不健康化が進行している現状では、血液を確保する上で、従来と異なったアプローチが必要となっている。
【0014】
そこで、本発明者らは、献血行動にインセンティブを与えるために、献血を行うことにより健康状態の改善・促進が図られるようにすることを考えている。具体的には、例えば返血の回路に血漿浄化器を設け、血漿成分からLDLなどの不要物質を除去し血漿成分を浄化してからドナーに返血することを考えている。しかしながら、返血の回路に血漿浄化器を単純に設けると、上述のように単一の穿刺針の成分献血装置の場合、例えば採血と返血の回路の一部が共通となるため、血漿浄化器に、血漿成分以外の血球成分などの返血成分が進入する可能性がある。例えば多くの血球成分が頻繁に血漿浄化器に進入すると、血漿浄化器の目詰まりや浄化能力の低下を招くことになる。
【0015】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、単一の穿刺針の成分献血装置において、返血の際に血漿成分を血漿浄化器により浄化して、献血行動にインセンティブを与えるとともに、当該血漿浄化器による血漿成分の浄化を適正かつ能率的に行うことをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成する発明は、成分献血を行うための成分献血装置であって、単一の穿刺針部と、血液を、少なくとも献血成分と、血漿成分と、返血成分に分離する遠心分離機と、前記献血成分を貯留する献血成分貯留部と、前記穿刺針部と前記遠心分離機を接続し、前記穿刺針部から前記遠心分離機に血液を送り、また前記遠心分離機から前記穿刺針部に前記返血成分を送るための第1の回路と、前記遠心分離機と前記献血成分貯留部を接続し、前記遠心分離機で分離された前記献血成分を前記献血成分貯留部に送るための第2の回路と、前記遠心分離機から前記第1の回路に接続され、前記遠心分離機で分離された血漿成分を前記第1の回路に戻し前記穿刺針部に戻すための第3の回路と、を有し、前記第3の回路には、前記血漿成分を浄化する血漿浄化器が接続されていることを特徴とする。なお、「献血成分」、「血漿成分」は、遠心分離機で分離された後のものであり、必ずしも純粋なものである必要はなく、それぞれ献血を行う成分、血漿を主成分とするものであればよい。血漿成分は、血球成分が混入していない状態であることが好ましい。
【0017】
本発明によれば、遠心分離機で分離された血漿成分を第1の回路に戻すための第3の回路を設け、当該第3の回路に、血漿浄化器を接続するので、献血を行うことにより血漿成分の浄化を行い、ドナーの健康状態の改善・促進を図ることができる。これにより、献血行動にインセンティブを与えて、より多くのドナーを確保できる。また、単一の穿刺針部を有する成分献血装置において、血漿成分以外の血球成分などの返血成分が頻繁かつ多量に血漿浄化器に進入することを防止できるので、血漿浄化器の目詰まりや浄化能力の低下が抑制される。この結果、血漿浄化器による血漿成分の浄化を適正かつ能率的に行うことができる。
【0018】
前記第3の回路には、前記血漿成分を一時的に貯留する血漿成分貯留部が接続されていてもよい。
【0019】
前記血漿浄化器は、前記第3の回路の前記血漿成分貯留部より前記遠心分離機側に配置されていてもよい。
【0020】
前記血漿浄化器は、前記第3の回路の前記血漿成分貯留部より前記第1の回路側に配置されていてもよい。
【0021】
前記第3の回路は、前記血漿成分貯留部が接続される分岐回路を有し、当該分岐回路に前記血漿浄化器が接続されていてもよい。
【0022】
前記分岐回路には、前記血漿浄化器を迂回するバイパス回路が接続されていてもよい。
【0023】
前記第1の回路は、前記穿刺針部から前記遠心分離機に血液を送るための採血回路と、前記遠心分離機から前記穿刺針部に前記返血成分を送るための返血回路を別個に有していてもよい。
【0024】
上記成分献血装置は、前記第1の回路の前記返血成分が、前記第3の回路に流入するのを抑制する流入抑制手段をさらに有していてもよい。
【0025】
前記血漿浄化器が、血漿成分から不要物質を分離除去する中空状の膜を有するものであってよい。
【0026】
前記血漿浄化器が、血漿成分から不要物質を吸着除去する吸着部材を有するものであってもよい。
【0027】
別の観点による本発明は、成分献血を行うための成分献血装置の作動方法であって、前記成分献血装置は、単一の穿刺針部と、血液を、少なくとも献血成分と、血漿成分と、返血成分に分離する遠心分離機と、前記献血成分を貯留する献血成分貯留部と、前記穿刺針部と前記遠心分離機を接続する第1の回路と、前記遠心分離機と前記献血成分貯留部を接続する第2の回路と、前記遠心分離機から前記第1の回路に接続された第3の回路と、前記第3の回路に接続され、血漿成分を浄化する血漿浄化器と、を有するものであり、前記穿刺針部から脱血された血液を前記第1の回路を通じて前記遠心分離機に送り、当該遠心分離機において、血液を少なくとも献血成分と、血漿成分と、返血成分に分離し、分離された献血成分を前記第2の回路を通じて前記献血成分貯留部に貯留し、前記血漿成分を前記第3の回路を通じて前記血漿浄化器で浄化して前記第1の回路に戻し、前記返血成分と共に前記第1の回路を通じて前記穿刺針部に戻すように、前記成分献血装置が作動することを特徴とする。
【0028】
前記成分献血装置は、前記第3の回路に接続され、前記血漿成分を一時的に貯留する血漿成分貯留部をさらに有するものであり、前記血漿成分を前記血漿浄化器で浄化する前、或いは浄化した後に当該血漿成分を前記血漿成分貯留部に一時的に貯留し、その後前記第1の回路に戻すようにしてもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、献血を行うことによりドナーの健康状態を改善及び促進できるので、献血行動に動機付けを与えることができ、より多くのドナーの確保が可能となる。また、ドナーの健康状態が改善することにより、次回以降の献血時に血液状態の改善が見られ、血液事業者の検査によって破棄される血液の比率を下げることができる。また、当該成分献血装置を実現するにあたり、血球成分などの返血成分が頻繁かつ多量に血漿浄化器に進入することがなく、血漿浄化器による血漿成分の浄化を適正かつ能率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】成分献血装置の構成の概略を示す模式図である。
【図2】血漿成分貯留部を有する成分献血装置の構成の概略を示す模式図である。
【図3】血漿成分貯留部の位置を変更した成分献血装置の構成の概略を示す模式図である。
【図4】第3の回路の分岐回路に血漿成分貯留部を接続した成分献血装置の構成の概略を示す模式図である。
【図5】分岐回路にバイパス回路を設けた成分献血装置の構成の概略を示す模式図である。
【図6】採血回路と返血回路を別個に有する血漿成分貯留部を有する成分献血装置の構成の概略を示す模式図である。
【図7】比較例の成分献血装置の構成の概略を示す模式図である。
【図8】実験で得られた圧力推移の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態にかかる成分献血装置1の構成の概略を示す模式図である。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0032】
成分献血装置1は、単一の穿刺針部10と、血液を、少なくとも献血成分と、血漿成分と、返血成分に分離する遠心分離機11と、献血成分を貯留する献血成分貯留部12と、穿刺針部10と遠心分離機11を接続し、穿刺針部10から遠心分離機11に血液を送り、また遠心分離機11から穿刺針部10に返血成分を送るための第1の回路13と、遠心分離機11と献血成分貯留部12を接続し、遠心分離機11で分離された献血成分を献血成分貯留部12に送るための第2の回路14と、遠心分離機11から第1の回路13の途中に接続され、遠心分離機11で分離された血漿成分を第1の回路13に戻すための第3の回路15を有している。
【0033】
第3の回路15には、血漿成分を浄化する血漿浄化器20が接続されている。血漿浄化器20には、血漿成分から不要物質を分離除去する中空状の膜を有するモジュール、或いは血漿成分から不要物質を吸着除去する吸着部材を有するモジュールが用いられている。中空状の膜を有する血漿浄化器20は、例えば断面に微細な孔を持った中空糸などの中空状の膜断面に血漿成分を通過させ、分子の大きさによって篩い分けするサイズろ過を用いたものである。吸着部材を有する血漿浄化器20は、例えば特定物質を標識した担体に血漿を接触させて、血漿成分中の不要物質を吸着させるもの、或いは担体自身と血漿成分を接触させて、物理的な吸着によって血漿成分中の不要物質を吸着させるものであり、例えば吸着部材である多孔質状のビーズを充填したモジュールである。
【0034】
また、例えば第1の回路13、第3の回路15には、それぞれの回路の送液を行うポンプP1、P2が接続されている。
【0035】
第1の回路13と第3の回路15の接続部Aには、流入抑制手段としての三方コックなどの流路切り替えバルブ21が設けられている。この流路切り替えバルブ21により、採血時の穿刺針部10から遠心分離機11側のみの流れ、返血時の遠心分離機11から第1の回路13及び第3の回路15の両方を通じた穿刺針部10側への流れ、返血時の遠心分離機11から第1の回路13を通じた穿刺針部10側のみの流れ、返血時の遠心分離機11から第3の回路15を通じた穿刺針部10側のみの流れ等を選択的に実現できる。また、この流路切り替えバルブ21により、第1の回路13の返血成分が、接続部Aにおいて第3の回路15側に流入するのを抑制できる。
【0036】
成分献血装置1は、例えば遠心分離機11、ポンプP1、P2、流路切り替えバルブ21等の動作を制御する制御部30を有している。制御部30は、例えばコンピュータを有し、メモリに記録されたプログラムを実行し、遠心分離機11、ポンプP1、P2、流路切り替えバルブ21等の動作を制御することにより、成分献血装置1を動作させることができる。
【0037】
なお、上記穿刺針部10の材質としては、ステンレス鉱、ニッケルチタン合金等が例示される。第1の回路13、第2の回路14及び第3の回路15の材質としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、PETやPBTのようなポリエステル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン、ポリエステルエラストマー、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体等の熱可塑性エラストマー等が挙げられるが、その中でも特に、ポリ塩化ビニルが好ましい。各チューブがポリ塩化ビニル製であれば、十分な可撓性、柔軟性が得られるので取り扱いがしやすいためである。
【0038】
献血成分貯留部12は、血液センターへ提供される献血成分を貯留するものであり、献血成分貯留部12には、バッグが好適に用いられる。献血成分貯留部12の材質としては、ポリオレフィン、すなわちエチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン等のオレフィンあるいはジオレフィンを重合または共重合した重合体を用いることができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、EVAと各種熱可塑性エラストマーとのポリマーブレンド等、あるいは、これらを任意に組み合わせたものが挙げられる。さらには、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ−1、4−シクロヘキサンジメチルテレフタレート(PCHT)のようなポリエステルや、ポリ塩化ビニリデンを用いることもできる。
【0039】
血漿浄化器20の中空状の膜の例としては、エチレンビニルアルコール系共重合体、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、セルロースジアセテート等のセルロース誘導体、ポリオレフィン等からなる均質微細孔膜や非対称構造膜が挙げられ、具体的な製品としては、カスケードフローEC(旭化成クラレメディカル、日本)、CHAGALL(フレゼニウス、ドイツ)、ALBUSAVE(DIDECO、イタリア)等が挙げられる。また、血漿浄化器20の吸着除去に使用される担体の例としては、セファロース、ポリビニルアルコール、セルロース、エチレンビニルアルコール系共重合体、活性炭等が、特定物質の例としては、トリプトファン、プロテインA、フェニルアラニン、硫酸デキストラン、抗体、抗原、第4級アンモニウム等、ビタミン等が挙げられ、具体的な製品としては、イムソーバTR(旭化成クラレメディカル、日本)、リポソーバ(カネカ、日本)、TheraSorb(Miltenyi Biotec、ドイツ)等が挙げられる。
【0040】
次に、以上のように構成された成分献血装置1の動作について説明する。成分献血時に、ドナーに穿刺針部10が穿刺されると、先ず図1に示すポンプP1により、穿刺針部10から採血された血液が第1の回路13を通じて遠心分離機11に送られる。次に、遠心分離機11において、血液が、例えば献血成分としての血小板成分と、血漿成分と、その他の血球成分を主成分とする返血成分に分離される。なお、返血成分は、遠心分離機11によって献血成分と血漿成分とが除かれた後の残りの血液成分であり、この返血成分には、遠心分離機11で分離されなかった血漿や、十分に献血成分貯留部12に貯留された後の、献血を行う成分と同種の血球も含まれることがある。
【0041】
遠心分離機11により分離された血小板成分は、第2の回路14を通じて献血成分貯留部12に送られて貯留される。返血成分は、例えばポンプP1により、第1の回路13を通じて穿刺針部10に戻される。血漿成分は、第3の回路15を通じて接続部Aから第1の回路13に戻される。このとき、血漿成分は、血漿浄化器20を通過し、不要物質である例えば加齢に伴い増加する成分や、メタボリックシンドロームを誘発するとされている物質、具体的には、活性酸素やLDLコレステロール、尿素窒素、中性脂肪等が除去され浄化される。
【0042】
返血成分と、浄化された血漿成分は、接続部Aにおいて合流し、第1の回路13を通じて穿刺針部10に送られてドナーに返血される。なお、これらの成分献血装置1の動作は、制御部30がポンプP1、P2、遠心分離機11、流路切り替えバルブ21等を制御することにより実現される。
【0043】
以上の実施の形態によれば、遠心分離機11で分離された血漿成分を第1の回路13に戻すための第3の回路15を設け、当該第3の回路15に、血漿浄化器20を接続しているので、献血を行うことにより血漿成分の浄化を行い、ドナーの健康状態の改善、促進を図ることができる。これにより、献血行動にインセンティブを与えて、より多くのドナーを確保できる。また、単一の穿刺針部10を有する成分献血装置1において、血球成分などを含む返血成分が頻繁かつ多量に血漿浄化器20に進入することを防止できるので、血漿浄化器の目詰まりや浄化能力の低下を抑制することができ、この結果、血漿浄化器20による血漿成分の浄化を適正かつ能率的に行うことができる。
【0044】
第1の回路13と第3の回路15の接続部Aに、第1の回路13の返血成分が、第3の回路15に流入するのを抑制する流路切り替えバルブ21を設けているので、返血成分が接続部Aから第3の回路15に進入し血漿浄化器20に進入することを防止できる。これによっても、血漿浄化器20の浄化効率が維持される。
【0045】
血漿浄化器20が、血漿成分から不要物質を分離除去する中空状の膜を有するものである場合には、膜孔により不要物質を除去するので、大分子量の不要成分、例えばグロブリンの凝集体や免疫複合体などの膜孔を通過しない物質を除去することができる。また、血漿浄化器20が、血漿成分から不要物質を吸着除去する吸着部材を有するものである場合には、除去したい吸着対象に対応した吸着材を用いることで、血漿浄化の除去したい対象をドナーのニーズに対応することができる。特に、LDLを除去することを主眼においた場合は、LDLの吸着材であるリポソーバー(カネカ)を用いることができる。
【0046】
上記実施の形態の成分献血装置1において、例えば図2に示すように第3の回路15に、血漿成分を一時的に貯留する血漿成分貯留部40が接続されていてもよい。かかる場合、例えば血漿浄化器20は、血漿成分貯留部40よりも第1の回路13側に配置されていてもよい。この場合、遠心分離機11で分離された血漿成分は、第3の回路15を通じて血漿成分貯留部40に送られ一時的に貯留される。その後、返血時に、血漿成分貯留部40の血漿成分が、第3の回路15を通じて血漿浄化器20で浄化され、その後接続部Aから第1の回路13に戻され、穿刺針部10側に送られる。なお、その他の動作は、例えば上記実施の形態と同様になる。
【0047】
この実施の形態によれば、例えば採血時に遠心分離機11からの血漿成分を一時的に貯留することができるので、遠心分離機11による血小板成分、血漿成分の分離や、血小板成分の貯留をより長時間連続して行うことができる。また、血漿浄化器20が血漿成分貯留部40より第1の回路13側にあるので、血漿成分貯留部40に一時貯留した血漿を連続的に血漿浄化器20へ通過させるコントロールが容易になり、血漿浄化器20に流入する血漿量の変化(流速、流量)を小さくすることができる。
【0048】
前記実施の形態において、図3に示すように血漿浄化器20が、第3の回路15の血漿成分貯留部40より遠心分離機11側に配置されていてもよい。かかる場合、遠心分離機11で分離された血漿成分は、第3の回路15を通じて血漿浄化器20で浄化された後、血漿成分貯留部40に送られ一時的に貯留される。その後、返血時に、血漿成分貯留部40の血漿成分が、第3の回路15を通じて接続部Aから第1の回路13に戻され、穿刺針部10側に送られる。なお、その他の動作は、例えば上記実施の形態と同様になる。
【0049】
この実施の形態によれば、血漿浄化器20が、血漿成分貯留部40より遠心分離機11側にあり、血漿を一時貯留する前に不要物質を除去することができるので、血漿成分貯留部40で血漿を一次貯留した際に析出する可能性のあるにゅうびなどの析出を抑制することができる。
【0050】
前記実施の形態では、血漿成分貯留部40が第3の回路15の主回路に直接接続されていたが、例えば図4に示すように第3の回路15が、血漿成分貯留部40が接続される分岐回路50を有し、当該分岐回路50に血漿浄化器20が接続されていてもよい。当該分岐回路50は、単線であり、第3の回路15の主回路51から分岐している。分岐回路50と主回路51の接続部Bには、例えば流路切り替えバルブ52が設けられる。かかる場合、遠心分離機11で分離された血漿成分は、第3の回路15の主回路51及び分岐回路50を通じて血漿浄化器20で浄化された後、血漿成分貯留部40に送られ一時的に貯留される。その後、返血時に、例えば血漿成分貯留部40の血漿成分が、分岐回路50を通じて再度血漿浄化器20で浄化された後、第3の回路15の主回路51を通じて接続部Aから第1の回路13に戻される。なお、その他の動作は、例えば上記実施の形態と同様になる。
【0051】
この実施の形態によれば、血漿浄化器20の血漿浄化のキャパシティを超えて血漿浄化器20が詰まりを生じるような場合に、血漿浄化器20および血漿成分貯留部40を経ずに第1の回路13に血漿を戻すように制御することができる。
【0052】
前記実施の形態において、図5に示すように分岐回路50に、血漿浄化器20を迂回するバイパス回路60が接続されていてもよい。分岐回路50とバイパス回路60の接続部には、例えば流路切り替えバルブ61が設けられる。かかる場合、例えば血漿成分は、遠心分離機11から血漿成分貯留部40に送られるとき、または血漿成分貯留部40から第1の回路13側に戻されるときのいずれかで血漿浄化器20を通過し、浄化される。そして、血漿成分が、血漿浄化器20で浄化されないときにバイバス回路60を通過する。なお、その他の動作は、例えば上記実施の形態と同様になる。こうすることにより、例えば双方向で血漿浄化を行わずに、一方向でのみ血漿浄化を行う血漿浄化器20であっても使用することができる。
【0053】
以上の実施の形態における成分献血装置1の第1の回路13は、例えば図6に示すように穿刺針部10から遠心分離機11に血液を送るための採血回路70と、遠心分離機11から穿刺針部10に返血成分を送るための返血回路71を別個に有していてもよい。返血回路71は、例えば遠心分離機11から接続部Aに接続される。また、返血回路71には、例えば返血成分貯留部72が接続される。かかる場合、例えば採血時に、穿刺針部10から採血された血液が第1の回路13の採血回路70を通じて遠心分離機11に送られる。遠心分離機11により分離された返血成分は、返血回路71を通じて返血成分貯留部72に送られ一時的に貯留される。その後、返血成分は、返血時に返血成分貯留部72から返血回路71を通じて穿刺針部10に送られる。なお、その他の動作は、例えば上記実施の形態と同様になる。また、返血成分貯留部72は、返血回路71に直接接続されずに、上記血漿成分貯留部40の場合のように分岐回路を介して接続されていてもよい。
【0054】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に相到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。例えば以上の実施の形態で記載した成分献血装置1の回路構成は、実質的に同じ機能を有するものであれば、他の構成を有するものであってもよい。献血成分は、血小板成分に限られず、白血球、赤血球などの他の成分であってもよい。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を記載する。実施例は請求の範囲を限定して解釈するものではない。
【0056】
(実施例1)
実施例1では、図2と同様の構成の成分献血装置1を用いて実験を行った。当該成分献血装置1は、ALYX(Fenwal社製)を用いて製造した。ALYXは、単一の穿刺針部(シングルニードル)を有する成分献血装置であり、遠心分離機11に流入する第1の回路13と、遠心分離機11と、遠心分離機11から第1の回路13と回路部分を共通にしない第3の回路15と、第3の回路15と連結した血漿成分貯留部40と、第2の回路14と、献血成分貯留部12を有している。これに、流路切り替えバルブとしての3方コック21、血漿浄化器20(膜型血漿成分分離器:CascadefloEC50W、旭化成クラレメディカル株式会社)を接続して、成分献血装置1を製造した。また、返血時の圧力推移を計測するため、第3の回路15に圧力計(コパル電子)を接続した。
【0057】
上記成分献血装置1を用いて、社内ボランティアからの血液1.39Lに抗凝固剤として210mLの割合でACD−A液(組成:クエン酸ナトリウム22.0g/L、クエン酸8.0g/L、グルコース22.0g/L)を加えて調整した全血1.6Lから血小板成分を分離採取する操作を実施した。遠心分離機11に血液を採血する際には血漿浄化器20に血液が通流しないように3方コック21を操作し、返血する際には血漿浄化器20に血漿が通流するように3方コック21を操作した。返血処理中の圧力推移と、返血中のLDLコレステロール濃度の測定を実施した。LDLコレステロール濃度は、返血液を血清分離し、SRLにて測定を行った。LDLコレステロールの除去率は、返血後のLDLコレステロール濃度を元血液のLDLコレステロール濃度で除することにより算出した。
【0058】
(実施例2)
血漿浄化器20としてLDL吸着器(リポソーバ(株式会社カネカ))を用いて実験を行った。血漿浄化器20以外は実施例1と同様の装置であり、同様の測定を実施した。
【0059】
(実施例3)
実施例3では、図3と同様の構成の成分献血装置1を用いて、実施例1と同様の実験を行った。
【0060】
(実施例4)
実施例4では、図3と同様の構成の成分献血装置1を用いて、実施例2と同様の実験を行った。
【0061】
(実施例5)
実施例5では、図1と同様の構成の成分献血装置1を用いて、実施例1と同様の実験を行った。
【0062】
(比較例1)
比較例1では、血漿成分を遠心分離機から穿刺針部に戻す専用の回路を有さない成分献血装置を用いて、上記実施例1と同様の実験を行った。具体的には、例えば図7に示すように当該成分献血装置100は、単一の穿刺針部10と遠心分離機11を接続する第1の回路101を有し、当該第1の回路101に血漿浄化器20が接続されている。第1の回路101には、血漿浄化器20を迂回するバイパス回路102が接続されている。また、遠心分離器11には、献血成分貯留部12に連通する第2の回路103が接続されている。
【0063】
成分献血装置100では、採血時に穿刺針部10から遠心分離機11に第1の回路101のバイパス回路102を通って血液が送られる。遠心分離機11で分離された血小板成分は、献血成分貯留部12に送られ貯留される。その後返血時には、血小板成分以外の血漿成分は、遠心分離機11から穿刺針部10に血漿浄化器20を通って送られ、血球成分を含む返血成分は、遠心分離機11から穿刺針部10にバイパス回路102を通って送られる。
【0064】
(比較例2)
血漿浄化器20としてLDL吸着器(リポソーバ(株式会社カネカ))を用いて実験を行った。血漿浄化器20以外は比較例1と同様の装置であり、同様の測定を実施した。
【0065】
上記実験で得られた圧力推移の結果を図8に示す。実施例1〜5ではいずれも1.6Lの血液処理において血漿浄化器20の許容耐圧以上になることはなかった。一方、比較例1、2ではいずれも回路中に残存する血球成分が血漿浄化器20に導入され、血漿浄化器20による血漿処理開始時から圧力の上昇が観察された。比較例1では400ml血液処理時に血漿浄化器(CascadefloEC50W)の耐圧である66.6kPa以上となり、それ以上の血液処理を行うことが出来ず、また、比較例2では200ml血液処理時に血漿浄化器(リポソーバ)の許容耐圧である13.3kPa以上となり、それ以上の血液処理を行うことが出来なかった。
【0066】
次に、LDLコレステロール除去率を表1に示す。実施例1〜5においては、1.6Lの血液中のLDLコレステロールをほぼ全量除去できるのに対し、比較例1、2では、圧上昇に伴い、血液処理量が少ないため、十分な除去が出来なかった。
【0067】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、単一の穿刺針の成分献血装置において、返血の際に血漿成分を血漿浄化器により浄化して、献血行動にインセンティブを与えるとともに、当該血漿浄化器による血漿成分の浄化を適正かつ能率的に行う際に有用である。
【符号の説明】
【0069】
1 成分献血装置
10 穿刺針部
11 遠心分離機
12 献血成分貯留部
13 第1の回路
14 第2の回路
15 第3の回路
20 血漿浄化器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分献血を行うための成分献血装置であって、
単一の穿刺針部と、
血液を、少なくとも献血成分と、血漿成分と、返血成分に分離する遠心分離機と、
前記献血成分を貯留する献血成分貯留部と、
前記穿刺針部と前記遠心分離機を接続し、前記穿刺針部から前記遠心分離機に血液を送り、また前記遠心分離機から前記穿刺針部に前記返血成分を送るための第1の回路と、
前記遠心分離機と前記献血成分貯留部を接続し、前記遠心分離機で分離された前記献血成分を前記献血成分貯留部に送るための第2の回路と、
前記遠心分離機から前記第1の回路に接続され、前記遠心分離機で分離された血漿成分を前記第1の回路に戻し前記穿刺針部に戻すための第3の回路と、を有し、
前記第3の回路には、前記血漿成分を浄化する血漿浄化器が接続されていることを特徴とする、成分献血装置。
【請求項2】
前記第3の回路には、前記血漿成分を一時的に貯留する血漿成分貯留部が接続されていることを特徴とする、請求項1に記載の成分献血装置。
【請求項3】
前記血漿浄化器は、前記第3の回路の前記血漿成分貯留部より前記遠心分離機側に配置されていることを特徴とする、請求項2に記載の成分献血装置。
【請求項4】
前記血漿浄化器は、前記第3の回路の前記血漿成分貯留部より前記第1の回路側に配置されていることを特徴とする、請求項2に記載の成分献血装置。
【請求項5】
前記第3の回路は、前記血漿成分貯留部を接続する分岐回路を有し、当該分岐回路に前記血漿浄化器が接続されていることを特徴とする、請求項2に記載の成分献血装置。
【請求項6】
前記分岐回路には、前記血漿浄化器を迂回するバイパス回路が接続されていることを特徴とする、請求項5に記載の成分献血装置。
【請求項7】
前記第1の回路は、前記穿刺針部から前記遠心分離機に血液を送るための採血回路と、前記遠心分離機から前記穿刺針部に前記返血成分を送るための返血回路を別個に有していることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の成分献血装置。
【請求項8】
前記第1の回路の前記返血成分が、前記第3の回路に流入するのを抑制する流入抑制手段をさらに有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の成分献血装置。
【請求項9】
前記血漿浄化器が、血漿成分から不要物質を分離除去する中空状の膜を有するものであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の成分献血装置。
【請求項10】
前記血漿浄化器が、血漿成分から不要物質を吸着除去する吸着部材を有するものであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の成分献血装置。
【請求項11】
成分献血を行うための成分献血装置の作動方法であって、
前記成分献血装置は、
単一の穿刺針部と、
血液を、少なくとも献血成分と、血漿成分と、返血成分に分離する遠心分離機と、
前記献血成分を貯留する献血成分貯留部と、
前記穿刺針部と前記遠心分離機を接続する第1の回路と、
前記遠心分離機と前記献血成分貯留部を接続する第2の回路と、
前記遠心分離機から前記第1の回路に接続された第3の回路と、
前記第3の回路に接続され、血漿成分を浄化する血漿浄化器と、を有するものであり、
前記穿刺針部から採血された血液を前記第1の回路を通じて前記遠心分離機に送り、当該遠心分離機において、血液を少なくとも献血成分と、血漿成分と、返血成分に分離し、分離された献血成分を前記第2の回路を通じて前記献血成分貯留部に貯留し、前記血漿成分を前記第3の回路を通じて前記血漿浄化器で浄化して前記第1の回路に戻し、前記返血成分と共に前記第1の回路を通じて前記穿刺針部に戻すように、前記成分献血装置が作動することを特徴とする、成分献血装置の作動方法。
【請求項12】
前記成分献血装置は、
前記第3の回路に接続され、前記血漿成分を一時的に貯留する血漿成分貯留部をさらに有するものであり、
前記血漿成分を前記血漿浄化器で浄化する前、或いは浄化した後に当該血漿成分を前記血漿成分貯留部に一時的に貯留し、その後前記第1の回路に戻すことを特徴とする、請求項11に記載の成分献血装置の作動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−253152(P2010−253152A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108845(P2009−108845)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000116806)旭化成クラレメディカル株式会社 (133)
【Fターム(参考)】