説明

成型体用硬化性樹脂組成物、成型体及びその製造方法

【課題】 耐熱性等の基本性能に優れ、透明性等の光学特性を充分なものとした成型体とすることができ、成型時には、金型から取り出す際の離型性を優れたものとすることができる成型体用硬化性樹脂組成物、これを成型してなる成型体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 熱硬化性樹脂を含有する成型体用硬化性樹脂組成物であって、上記成型体用硬化性樹脂組成物は、1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物を必須成分として含有する成型体用硬化性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成型体用硬化性樹脂組成物、これを成型してなる成型体及びその製造方法に関する。より詳しくは、光学用途、オプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品材料、電気・電子部品材料等として有用な成型体用硬化性樹脂組成物、これを成型してなる成型体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性の樹脂組成物は、例えば、機械部品材料、電気・電子部品材料、自動車部品材料、土木建築材料、成形材料等として有用であり、また、塗料や接着剤の材料としても用いられるものである。更に、透明性を発現させることもできることから、電気・電子部品材料や光学用途における材料として特に有用である。例えば、デジタルカメラモジュールは、携帯電話等に搭載されるために小型化が進み、低コスト化も求められているため、従来より使用されている無機ガラスに代わって、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィン等のプラスチック材料からなるレンズの採用が進んでいる。近年においては、このプラスチック材料の新規用途として、車載用カメラや宅配業者向けバーコード読み取り機等の車載化ニーズが高まっている。これら用途に適用する際には、夏季の高温暴露等を考慮して、長時間の耐熱性、すなわち、従来のプラスチック材料よりも優れた耐熱性を必要とすることから、熱硬化型材料の検討が進んでいる。また、はんだリフロー工程に耐え得るプラスチック材料が求められている。
【0003】
従来の電気・電子部品材料や光学用途に用いられる材料に関し、粒径70nm以下の無機粒子を分散させた有機溶媒に、脂環式エポキシ樹脂を含有する熱硬化性樹脂を溶解させて混合し、次にこのものから有機溶媒を除去した後に、硬化剤を添加して混合することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、このような製造方法で得られる熱硬化性樹脂組成物は、光学用途等で用いることができるだけの充分な透明性は得られない。そのため、粗大な無機粒子を完全に消失させて一次粒子として充分に分散させ、これにより、可視光を無機粒子によって散乱されることなく、透明性を充分なものとすることが求められている。また、上記文献には、乾式シリカを溶媒分散した分散体と脂環式エポキシとからなる樹脂が開示されているが、このような樹脂組成物は、柔軟性、耐破壊性、増粘抑制効果、ビーズミルの混合等の際における不純物の混入防止等を適当なものとしたうえで、更に、透明性等の光学特性を充分に向上させるための工夫の余地があった。また、このような樹脂組成物を金型等を用いて成型加工するときには、硬化物を金型から取り出す際の離型性を向上させて成型体を生産性よく製造することが望まれていた。
【0004】
更に、エポキシ樹脂及び無機酸化物粒子を少なくとも含んでなる組成物を硬化させることにより成型したエポキシ樹脂成型体であって、該成型体中に平均粒径が50nm以下の無機酸化物粒子が分散していることを特徴とするエポキシ樹脂成形体が開示されている(例えば、特許文献2参照)。ここでは、湿式シリカとエポキシ樹脂とを含む例が開示されており、エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA(アッベ数34.1)を用いている。しかしながら、このような場合には、シリカ濃度を充分なものとしながらも溶媒脱気時の増粘を抑える必要があり、しかも、材料強度や透明性を向上するための工夫の余地があった。また、硬化物を金型から取り出す際の離型性を向上させて成型体を生産性よく製造することが望まれていた。更に、透明性と離型性とは、一方を高めるともう一方が低下する相反する関係にあるため、両立させるための工夫の余地があった。
したがって、従来においては、耐熱性等の基本性能を備えたものであって、透明性等の光学特性を向上させ、また生産性の面では、硬化物を金型から取り出す際の離型性が向上された、種々の光学部材に好適に適用できるものが見いだされていないといえる。成型体が優れた特性を示し、そのような成型体の生産性を改善することができれば、工業製品としての有用性が格段に高まることから、そのような成型体用硬化性樹脂組成物が求められるところであった。
【特許文献1】特開2004−346288号公報(第2、13頁等)
【特許文献2】特開2004−250521号公報(第2、7頁等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、耐熱性等の基本性能に優れるとともに、透明性等の光学特性を充分なものとすることができ、成型時には、金型から取り出す際の離型性に優れたものとすることができる、成型体用硬化性樹脂組成物、これを成型してなる成型体及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、耐熱性等の基本性能に優れる成型体用硬化性樹脂組成物について種々検討したところ、特定の化合物を必須成分として含有する成型体用硬化性樹脂組成物とすることで、成型時に金型から取り出す際の離型性に優れたものとすることができ、成型体を生産性よく製造することができることを見いだした。また、このような樹脂組成物とすることで、得られた成型体は、強度や耐熱性等の基本性能が高いだけでなく、アッベ数や屈折率等の光学特性を充分なものとしながらも透明性に優れ、光学用途等に好適に使用できる樹脂組成物とすることができることを見いだした。また、このような樹脂組成物において、離型剤を併用することにより、離型剤の効果を格段に向上させることができることを見いだした。更に、本発明の成型体用硬化性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂だけでは達成できない耐熱性を有することができ、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。そして、このような樹脂組成物は、レンズ等の光学用途、オプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品材料、電気・電子部品材料、自動車部品材料、土木建築材料、成形材料等の様々な用途に好適に適用することができることも見いだした。
【0007】
また、金型を用いて樹脂組成物を硬化させて成型する金型成型において、樹脂組成物の金型への追従性が良くなることも見いだした。金型成型において、特にレンズ成型等を行う場合には、成型体の膨れを防止することが重要であり、この膨れを防止するために樹脂組成物の金型への追従性が要求される。本発明者等は、上記特定の化合物を成型体用硬化性樹脂組成物に含有させることにより、上記のように、金型成型時において樹脂組成物の金型への追従性を高めることができることを見いだし、これにより成型体の膨れを防止できるため、本発明の成型体用硬化性樹脂組成物をレンズ成型等に好適に使用できることを見いだした。なお、特定の化合物は、溶媒としても使用され得るものである。従来の成型体用硬化性樹脂組成物を用いた金型成型では、樹脂組成物の金型への追従性を出すために通常は溶媒が添加されることはないため、本発明における特定の化合物を実質的に含有しないものである。
更に、この成型体用硬化性樹脂組成物を、微小な形状を有する微小成型体の製造等のように、短時間で硬化が完了する系に適用すると、上記特定の化合物の蒸発を防いで成型体中に特定の化合物を含むことができ、これにより、金型からの離型性を更に優れたものとすることができることも見いだした。そして、本発明の成型体用硬化性樹脂組成物は、特に、携帯電話用、デジカメ用等の撮像レンズ、ピックップレンズ等の微小光学系用として有用であることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、熱硬化性樹脂を含有する成型体用硬化性樹脂組成物であって、上記成型体用硬化性樹脂組成物は、1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物を必須成分として含有する成型体用硬化性樹脂組成物である。
ここで、熱硬化性樹脂は、熱により硬化し得る樹脂を意味するものであって、硬化方法を特定するものではない。したがって、本発明の成型体用硬化性樹脂組成物の硬化には、熱硬化と光硬化の両方を使用することができる。本発明の成型体用硬化性樹脂組成物が含む硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂として知られているものが好適に使用できる。
本発明はまた、上記成型体用硬化性樹脂組成物を成型してなる成型体でもある。
本発明はまた、上記成型体用硬化性樹脂組成物から得られた成型体中に、1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物を含有する成型体でもある。
本発明は更に、熱硬化性樹脂を含有する成型体用硬化性樹脂組成物から成型体を製造する方法であって、上記製造方法は、1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物を必須成分として含有させた成型体用硬化性樹脂組成物を成型する工程を含む成型体の製造方法でもある。
なお、本明細書中において、化合物等を「更に含有する」とは、工程手順を意味するものではなく、例えば従来の成型体用硬化性樹脂組成物に含有されるエポキシ樹脂と区別するために、「更に、もう1つの成分を含有する」ことを意味するものである。化合物等を「必須成分として含有する」、「必須成分とする」とは、本発明の効果を奏することになるように該化合物等を含有することを意味するものである。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明の成型体用硬化性樹脂組成物においては、熱硬化性樹脂を含有し、1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物を更に必須成分として含有することになる。以下、1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物を「特定の沸点を持つ化合物」、「特定の化合物」と称することもある。特定の化合物は、単独で用いても良く、複数を組み合わせて用いても良い。
本発明の成型体用硬化性樹脂組成物は、このような特定の化合物を更に必須成分として含有することによって、金型成型において硬化物を金型から取り出す際の離型性を向上させることができ、本願発明の作用効果が充分に発揮されることになる。
離型性が向上する理由としては、以下の理由が考えられる。上記化合物は、沸点が260℃以下であるため、加熱したときに状態変化し易いものである。すなわち、気化し易く、エネルギーの高い状態になりやすい化合物である。また、このような上記化合物は、熱硬化性樹脂に対する溶媒としての作用も有するものであり、樹脂成分との相溶性を有する。したがって、金型成型時において、加熱により樹脂組成物が溶融状態にある時には、樹脂成分や離型剤等の添加剤と共に均一に混合された状態にある。そして、溶融した樹脂組成物を金型に充填(射出・塗出)して硬化するときには、上記のように状態変化し易く、樹脂組成物中で金型の表層側に移行して析出したり、凝集したりする、いわゆるブリードアウトを生じ、これにより離型性を発揮する。
【0010】
上記のような金型成型においては、離型性を高めるために離型剤が使用される。離型剤は、樹脂成分との相溶性を有し、硬化時には上記したブリードアウトを生じて離型性を発揮するものが好ましく、離型剤のブリードアウト速度が速い程、短時間で離型性を発揮できるため生産性の向上が図れる。
本発明においては、樹脂組成物中に上記した特定の沸点を持つ化合物が含まれていると、該化合物がブリードアウトを生じる時に離型剤も共に金型の表層側へ移行させる作用を発揮し、これにより、離型剤のブリードアウト速度が高まり、短時間での硬化であっても離型性を充分に発揮して生産性の向上が図れる。また、離型剤が金型の表層側に析出し易くなることで、離型剤の効果がより発現し易くなると考えられる。更に、離型剤の離型性が向上することから離型剤の使用量を減少させることができる。
このように、上記特定の沸点を持つ化合物は、離型剤の効果を格段に高めることができるものであり、該化合物と共に用いる離型剤の好適な形態については、後述する。
【0011】
上記1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物は、上述したように本発明の成型体用硬化性樹脂組成物において、耐熱性等の基本性能を維持しながら、透明性等の光学特性を優れたものとし、また、硬化させて金型から取り出す際の離型性を向上させることができるものである。これにより、本発明の成型体用硬化性樹脂組成物は、成型体とした際には耐熱性等の基本性能、透明性等の光学特性に優れ、しかも、硬化させて金型から取り出す際には離型性に優れているため、成型体を製造工程で生産性よく連続生産することができる。
【0012】
上記1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物とは、そのような沸点を持ち、熱硬化性樹脂の溶媒として用いることができる化合物であればよい。上記特定の沸点を持つ化合物の1気圧下での沸点が260℃以下であることで、上述した離型性の向上効果がより顕著なものになる。特定の沸点を持つ化合物の沸点は、蒸発速度の観点からは低い方が好ましく、1気圧下での沸点の下限は、例えば30℃であることが好ましく、より好ましくは、40℃以上である。このように、特定の沸点を持つ化合物による作用機構としては、上述したように、成型体の表層に移行する(析出する、凝集する)ことにより、離型作用を発揮するものであると考えられる。
なお、1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物において好ましい化合物は、沸点のみで決まるわけではなく、樹脂組成物に対する相溶性や、成形加工時の移動速度等(ブリードアウト速度)も考慮したうえで、本発明の作用効果をより発揮できることにより決まるものである。
【0013】
上記1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物としては、例えば、アルコール類、多価アルコール誘導体、カルボン酸類、カルボン酸エステル類、カルボン酸無水物類、ケトン類、脂肪族炭化水素類及び芳香族炭化水素類等が挙げられ、これらの化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましく、アルコール類、多価アルコール誘導体、カルボン酸エステル類及びケトン類からなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、カルボン酸エステル類及びケトン類が特に好ましい。
このような化合物を必須成分として含有することにより、成型体用硬化性樹脂組成物及び成型体の透明性を充分なものとしたうえで、金型を用いて硬化する際に、離型性を向上させて成型体を容易に金型から剥がすことができることとなる。これにより、成型体の表面に傷をつけることなく連続生産が可能となり、電気・電子部品材料や光学用途における材料として特に有用なものとなる。このような上記特定の沸点を持つ化合物は、熱硬化性樹脂に対する溶媒としての作用があることから、上述したように成型体の表層に移行するブリードアウトを生じて離型性等を発揮すると考えられる。
また、上記化合物の構造としては、直鎖状、分岐状、環状等のいずれの構造であってもよい。
【0014】
上記1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物は、1気圧下で沸点150℃以下の化合物(A−1)の少なくとも1種と、1気圧下で沸点が150℃を超える化合物(A−2)の少なくとも1種とを含有する形態が好ましい。
上記1気圧下で沸点150℃以下の化合物(A−1)は、上記1気圧下で沸点が150℃を超える化合物(A−2)よりも気体化しやすいものであり、その沸点は、130℃以下であることが好ましい。より好ましくは、沸点110℃以下である。
1気圧下での沸点が150℃以下の化合物(A−1)としては、アルコール類が好ましい。1気圧下での沸点が150℃を超える化合物(A−2)としては、1気圧下で沸点が150℃を超え、260℃以下である化合物であればよいが、アルコール類であることが好ましい。より好ましくは、総炭素数6以上の脂肪族1価アルコール類である。
【0015】
上述のように蒸発速度(ブリードアウト速度)の観点からは、上記特定の沸点を持つ化合物の沸点は低い方が好ましいが、工業的プロセスを勘案すると、上記の沸点が150℃を超える化合物(A−2)が含まれていることが好ましい場合がある。例えば、光学用途用の樹脂組成物を成型加工する際には、成型加工時、あるいは、成型加工するに先立って、加熱脱泡処理を行うことがある。
このような加熱脱泡処理時には、比較的沸点の低い化合物(A−1)は蒸発してしまうことがあり、金型へ溶融した樹脂を充填(射出・塗出)したときに樹脂組成物中の化合物(A−1)の量が少なくなったり、場合によっては化合物(A−1)が含まれなくなり、化合物(A−1)自体が有する離型性や上記した離型剤のブリードアウト速度を高める効果が得られない恐れがある。
【0016】
一方、比較的沸点の高い化合物(A−2)は蒸発しにくいため、上記のような加熱脱泡処理を行う場合であっても、成型体中における特定の化合物の含有量を制御しやすくなる。
したがって、成型体中に特定の沸点を持つ化合物が含まれていなくても充分な離型性が得られる場合や、低温での加熱脱泡処理が可能である場合には、化合物(A−1)のみであっても良い。しかし、成型体中に特定の沸点を持つ化合物が含まれていることが好ましい場合や、上記のように加熱脱泡処理を必要とする光学用途用として用いる場合には、化合物(A−2)が含まれていることが好ましく、化合物(A−1)と化合物(A−2)とが共に含まれていることがより好ましい。また、化合物(A−1)と化合物(A−2)とを併用することにより、これらを含有する樹脂組成物が、成型加工条件によらずに特定の化合物を含有させる効果を充分に発揮するものとなる。
【0017】
上記アルコール類は、1気圧下で260℃以下の沸点を持つ一価又は多価のアルコールであればよい。総炭素数は、1〜12であることが好ましい。これにより、本発明の作用効果をより充分に発揮し、耐熱性等の基本性能、透明性等の光学特性等の機能を充分なものとしながら離型性を優れたものとすることができる。アルコール類の総炭素数は、2〜12であることがより好ましく、3〜8であることが更に好ましい。
上記アルコール類としては、脂肪族アルコール類、ベンジルアルコール等の芳香環を有する芳香族アルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、カルビトール、グリセリン等の多価アルコール類が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
これらアルコール類の中でも脂肪族アルコール類が特に好ましく、脂肪族アルコール類の中でも飽和脂肪族アルコール類が好ましい。総炭素数は、1〜12であることが好ましく、2〜12であることがより好ましく、3〜12であることがさらに好ましい。また、樹脂組成物に対する相溶性を考慮すると、総炭素数は、3〜8であることが好ましい。工業的プロセスを勘案すると、脱泡処理におけるコントロール性の良さから、総炭素数は、6〜12であることが好ましい。特に、総炭素数が6〜8であると、上記した相溶性と脱泡処理におけるコントロール性の良さとを兼ね備えていることからより好ましい。総炭素数が6〜8である飽和脂肪族アルコール類としては、具体的には、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、オクチルアルコール、2−エチルヘキサノール等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
上記脂肪族アルコール類の具体例として、例えば、化合物(A−1)としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−アミルアルコール等が挙げられる。
また、化合物(A−2)としては、炭素数6〜12の脂肪族アルコール類が挙げられ、特に、炭素数6〜12の脂肪族1価アルコール類が好ましい。具体的には、1−ヘキサノール、4−メチル−2−ペンタノール、シクロヘキサノール等の炭素数6である化合物、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、メチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール等の炭素数7である化合物、オクチルアルコール(1−オクタノール)、2−エチルヘキサノール(2−エチルヘキシルアルコール)等の炭素数8である化合物、1−ノニルアルコール、イソノニルアルコール等の炭素数9である化合物、1−デシルアルコール、2−デシルアルコール等の炭素数10である化合物、1−ウンデシルアルコール等の炭素数11である化合物、1−ドデカノール(ラウリルアルコール)等の炭素数12である化合物が挙げられる。これらの中でも、炭素数が6〜8である、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、オクチルアルコール、2−エチルヘキサノールが特に好ましい。
上記した化合物(A−1)及び化合物(A−2)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
上記多価アルコール誘導体は、1気圧下で260℃以下の沸点を持つものであればよいが、総炭素数は、1〜12であることが好ましく、2〜12であることがより好ましく、3〜8であることが更に好ましい。これにより、本発明の作用効果をより充分に発揮し、耐熱性等の基本性能、透明性等の光学特性等の機能を充分なものとしながら離型性を優れたものとすることができる。
上記多価アルコール誘導体の具体例として、例えば、化合物(A−1)としては、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。
【0021】
また、化合物(A−2)としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、セロソルブ等の多価アルコールエーテル系化合物、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等の多価アルコールエーテルエステル類、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールジアセテート等の多価アルコールエステル系化合物等が挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
上記カルボン酸類は、1気圧下で260℃以下の沸点を持つ1価又は多価のカルボン酸であればよい。総炭素数は、1〜9であることが好ましい。これにより、本発明の作用効果をより充分に発揮することができる。上記総炭素数は、より好ましくは、2〜8であり、更に好ましくは、2〜7である。上記カルボン酸類の具体例として、例えば、化合物(A−1)としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の炭素数1〜3の脂肪族カルボン酸等が挙げられる。
また、化合物(A−2)としては、酪酸、ペンタン酸(吉草酸)、ヘキサン酸(カプロン酸)、オクタン酸(カプリル酸)、2,2−ジメチルプロピオン酸(ピバリン酸)等の炭素数4〜9の脂肪族カルボン酸等が挙げられる。これらの中でも、炭素数4〜9の脂肪族カルボン酸等が好ましい。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
上記カルボン酸エステル類としては、1気圧下で260℃以下の沸点を持ち、一つ以上のカルボン酸エステル基を有するものであればよい。総炭素数は、1〜12であることが好ましく、(1)上記アルコール類とカルボン酸とから得られるカルボン酸エステル、(2)メタノール、エタノール、プロパノール、ヘプタノール、ヘキサノール、グリセリン、ベンジルアルコール等の炭素数1〜7のアルコールと上記カルボン酸との組み合わせで得られるカルボン酸エステル、(3)酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、ブタン酸等の炭素数1〜18のカルボン酸と上記アルコール類との組み合わせで得られるカルボン酸エステル等が好適である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
カルボン酸エステル類における化合物(A−1)としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸−s−ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸アリル等の炭素数1〜5の脂肪族アルコールの酢酸エステル;プロピオン酸メチル、プロピオン酸−n−ブチル等の炭素数1〜4の脂肪族アルコールのプロピオン酸エステル;ギ酸メチル、ギ酸−n−プロピル、ギ酸−n−ブチル、ギ酸アミル等の炭素数1〜5の脂肪族ギ酸エステル等が挙げられる。
また、化合物(A−2)としては、酢酸−n−ヘキシル、酢酸−2−エチルヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸オクチル等の炭素数6以上の脂肪族アルコールの酢酸エステル;プロピオン酸イソアミル、プロピオン酸ベンジル等の炭素数5以上の脂肪族アルコールのプロピオン酸エステル;ギ酸ヘキシル、ギ酸ベンジル等の炭素数6以上の脂肪族アルコールのギ酸エステル;等の他、カプチル酸メチル、カプチル酸プロピル、カプチル酸アミル、カプリン酸メチル、カプリン酸エチル等が挙げられる。
これらのなかでも、酢酸イソプロピル、酢酸オクチル等が好ましい。特に好ましくは、酢酸イソプロピルである。
【0025】
上記カルボン酸無水物類は、1気圧下で260℃以下の沸点を持ち、一つ以上のカルボン酸無水物基を有するものであればよいが、総炭素数が1〜7であることが好ましい。化合物(A−1)としては、無水酢酸が挙げられ、化合物(A−2)としては、無水プロピオン酸、無水マレイン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸等の炭素数3〜7のカルボン酸無水物等が挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
上記ケトン類としては、1気圧下で260℃以下の沸点を持ち、一つ以上のケトン基を有するものであればよいが、総炭素数は1〜12であることが好ましい。
化合物(A−1)としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ブロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、4−メチル−3−ペンテン−2−オン(メチルオキシド)、ジエチルケトン、ジ−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、エチル−n−ブチルケトン、アセチルアセトン(2,4−ペンタジオン)、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
また、化合物(A−2)としては、ジイソブチルケトン、メチル−n−アミルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−ヘブチルケトン、ジアセトンアルコール(4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン)、ホロン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、イソホロン(イソアセトフェノン)、アセトフェノン等が挙げられる。
これらの中でも、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、N−メチルピロリドン等が好ましく、特に、メチルエチルケトンが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
上記脂肪族炭化水素類としては、1気圧下で260℃以下の沸点を持つ脂肪族炭化水素であればよいが、総炭素数は1〜12であることが好ましい。例えば、環状炭化水素類が好ましい。
上記芳香族炭化水素類としては、1気圧下で260℃以下の沸点を持ち、一つ以上の芳香族基を有する炭化水素であればよいが、総炭素数は7〜12であることが好ましい。
脂肪族、芳香族炭化水素類において、化合物(A−1)としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロヘキセン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、スチレン等が挙げられ、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン等が好ましい。また、化合物(A−2)としては、ノナン、デカン、ドデカン、デカリン、ジペンテン、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、アミルベンゼン、シメン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
本発明において、上記1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物は、成型体用硬化性樹脂組成物100質量%に対して、0.01〜5質量%含まれていることが好ましい。
特定の沸点を持つ化合物の含有量が0.01質量%未満であると、該化合物を添加する効果である離型性向上効果を充分に発揮することができない恐れがあり、また、含有量が5質量%を超えると、金型成型時において、樹脂組成物の金型への追従性が損なわれ、成型体に膨れが生じて光学用の成型体として使用する場合に、透明性や屈折率が低下してしまうと共に、成型体としての均質性が失われる恐れがあるためである。特定の沸点を持つ化合物の含有量は、0.05質量%以上4質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上3質量%以下であることが更に好ましい。
【0029】
本発明の成型体用硬化性樹脂組成物は、離型剤を更に含有することが好ましい。離型剤を含むことで離型性が向上する。また、上述のように、成型体用硬化性樹脂組成物を金型を用いて硬化する際に、特定の沸点を持つ化合物によって離型剤のブリードアウト速度が高まるため、離型剤の添加効果がより発揮されることとなる。これにより、容易に金型から硬化物(成型体)を剥がすことができ、該硬化物の表面に傷をつけることなく外観を制御して透明性を更に発現させることもできる。得られた成型体は、電気・電子部品材料や光学用途における材料として特に有用である。
上記離型剤は、該技術分野において通常用いられる離型剤であって、熱硬化性樹脂に溶解(相溶)又は分散するものであればよいが、熱硬化性樹脂に溶解(相溶)し得るものが好ましい。また、離型剤が硬化物(成型体)の表層に存在して離型性を発揮することを考慮すると、1気圧下で260℃を超える沸点を持つ化合物を必須成分とすることが本発明の好ましい実施形態である。なお、本明細書中、「1気圧下で260℃を超える沸点を持つ」とは、1気圧下で沸点を有しない不揮発性のものを含む。
本発明の成型体用硬化性樹脂組成物における上記離型剤は、1気圧下で260℃を超える沸点を持つ化合物を必須成分とし、更に、下記(1)〜(4)の形態のいずれか一つ又はこれらの組み合わせであることが好ましい。
【0030】
(1)上記離型剤は、アルコール類、カルボン酸類、カルボン酸エステル類、カルボン酸塩類及びカルボン酸無水物類からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を必須成分とする形態。(2)上記離型剤は、20℃で固体状である形態。(3)上記離型剤は、珪素化合物を必須成分とする形態。(4)上記離型剤は、重量分子量が500以上、10万以下の物質を含む形態。
【0031】
以下に上記(1)〜(4)の形態について詳述する。
上記(1)の形態は、離型剤が、アルコール類、カルボン酸類、カルボン酸エステル類、カルボン酸塩類及びカルボン酸無水物類からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を必須成分とするものである。この形態では、離型剤がアルコール類、カルボン酸類、カルボン酸エステル類及びカルボン酸塩類からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を必須成分とすることがより好ましく、アルコール類、カルボン酸類及びカルボン酸エステル類からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を必須成分とすることが更に好ましく、カルボン酸類を必須成分とする形態が特に好ましい。
【0032】
また、離型剤が、アルコール類、カルボン酸類、カルボン酸エステル類、カルボン酸塩類及びカルボン酸無水物類からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であって、かつ、総炭素数が13以上であることが好ましい。総炭素数は、15以上であることがより好ましく、18以上であることが更に好ましい。総炭素数の上限は、例えば36であることが好ましく、24であることがより好ましく、20であることが更に好ましい。
このような範囲の総炭素数を有することにより、ある程度の長鎖を有する化合物であれば、本発明の作用効果を発揮し、耐熱性等の基本性能や、透明性等の光学特性を損なうことなく、優れた剥離性を示すことができる。また、このような炭素数を有する上記化合物は、入手が比較的容易であり、経済性にも優れたものである。
なお、これらの化合物の構造は、直鎖状、分岐状、環状等のいずれの構造であってもよいが、中でも直鎖状であるものが好ましい。
【0033】
また、上記した化合物において、離型剤が、1気圧下で260℃を超える沸点を持ち、下記のような総炭素数を有するものであると更に好ましい。すなわち、化合物炭素数13以上のアルコール類(B−1);総炭素数10以上のカルボン酸類、総炭素数6以上のカルボン酸塩類、及び、総炭素数が8以上のカルボン酸無水物類(B−2);総炭素数13以上のカルボン酸エステル類(B−3);からなる群(B−1〜B−3)より選ばれる少なくとも1種の化合物を必須成分とすることが好ましい。これらの化合物は、上記離型剤に、1種又は2種以上を好ましく含有させることができる。
【0034】
以下に、炭素数13以上のアルコール類(B−1);炭素数10以上のカルボン酸類、炭素数6以上のカルボン酸塩類、及び、炭素数が8以上のカルボン酸無水物類(B−2);炭素数13以上のカルボン酸エステル類(B−3)について述べる。
【0035】
上記炭素数13以上のアルコール類(B−1)とは、1気圧下で260℃を超える沸点を持ち、炭素数が13以上である1価又は多価のアルコール類であればよく、特に、脂肪族1価アルコールが好ましい。具体的には、トリデシルアルコール、テトラデシルアルコール、ペンタデシルアルコール、パルミチルアルコール、マーガリルアルコール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、ミリスチルアルコ−ル、セチルアルコール等の脂肪族アルコールが好適である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、ステアリルアルコールがより好ましい。
【0036】
上記カルボン酸類(B−2)とは、1気圧下で260℃を超える沸点を持ち、炭素数が10以上である1価又は多価のカルボン酸であればよい。また、上記カルボン酸類は、脂肪族カルボン酸が好ましく、飽和脂肪族カルボン酸であることがより好ましい。また、炭素数は12以上であることが好ましく、13以上であることがより好ましい。具体的には、ラウリン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、1−ヘプタデカン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、1−ヘキサコサン酸、ベヘン酸等が好適であり、中でもラウリン酸、ステアリン酸がより好ましく、ステアリン酸が更に好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
上記カルボン酸塩類(B−2)とは、1気圧下で260℃を超える沸点を持ち、炭素数が6以上である1価又は多価のカルボン酸塩であればよい。また、上記カルボン酸塩類(B−2)は、脂肪族カルボン酸塩が好ましく、炭素数が10以上の脂肪族カルボン酸塩がより好ましく、炭素数が13以上の脂肪族カルボン酸塩が特に好ましい。本発明においては、上記カルボン酸類(B−2)と、アミン、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、及びスズからなる群より選ばれる1種との組み合わせで得られるカルボン酸塩等が好適である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム及び2−エチルヘキサン酸亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0038】
上記カルボン酸無水物類(B−2)とは、1気圧下で260℃を超える沸点を持ち、炭素数が8以上であるカルボン酸無水物であればよい。また、上記カルボン酸無水物類は、脂肪族カルボン酸無水物が好ましい。より好ましくは、炭素数が10以上の脂肪族カルボン酸無水物である。より好ましくは、炭素数が13以上である。具体的には、無水コハク酸、無水フタル酸等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上述の化合物の中でもより好ましくは、ステアリン酸及びステアリン酸エステル等のステアリン酸系化合物である。このように、本発明の成型体用硬化性樹脂組成物は、ステアリン酸系化合物を含有するものが好ましい。より好ましくは、ステアリン酸である。
【0039】
上記カルボン酸エステル類(B−3)とは、1気圧下で260℃を超える沸点を持ち、総炭素数が13以上であるカルボン酸エステルであればよく、(1)上記アルコール類(B−1)と上記カルボン酸類(B−2)とから得られるカルボン酸エステル、(2)メタノール、エタノール、プロパノール、ヘプタノール、ヘキサノール、グリセリン、ベンジルアルコール等の炭素数1〜7のアルコール類と上記カルボン酸類(B−2)との組み合わせで得られるカルボン酸エステル、(3)酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、ブタン酸等の炭素数1〜7のカルボン酸と上記アルコール類(B−1)との組み合わせで得られるカルボン酸エステル等が好適である。好ましいカルボン酸は、上記カルボン酸類(B−2)において上述した好ましい形態と同様である。これらのなかでも、ステアリン酸メチルエステル、ステアリン酸エチルエステル等が好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、上記離型剤が1気圧下で260℃を超える沸点を持ち、総炭素数が13以上であるカルボン酸エステル類が20℃で固体状である形態は、本発明の好ましい実施形態の一つである。これは言い換えれば、1気圧下で260℃を超える沸点を持ち、総炭素数が13以上であるカルボン酸エステル類が好ましい形態であることになる。
【0040】
次に、上記(2)の形態について説明する。
上記(2)の形態は、離型剤が、20℃で固体状であるものである。この形態において、離型剤は、25℃で固体状であることがより好ましく、30℃で固体状であることが更に好ましく、50℃で固体状であることが特に好ましい。
このような特性を有する離型剤を用いると、金型成型の硬化時において、本発明における特定の化合物による離型剤のブリードアウト速度の向上効果が顕著になる。例えば、成型温度が低い場合には、融点の高い離型剤は通常はブリードアウトし難いが、上記1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物と併用することで、該化合物によって離型剤がより成型体の表面側に移行されやすくなり、ブリードアウト速度が格段に向上するためであると考えられる。また、成型体の表面側に析出、凝集した離型剤は、上記のような特性を有することで、成型体の温度が下がるにつれてより固化しやすくなり、表面に析出した状態となって離型性を格段に高めることになると考えられる。これにより、耐熱性等の基本性能、透明性等の光学特性を充分に維持しながら、離型性を格段に優れたものとすることができる。
【0041】
次に、上記(3)の形態について説明する。
上記(3)の形態は、離型剤が、珪素化合物(B−4)を必須成分とするものである。この形態において、珪素化合物(B−4)は、ポリシロキサン化合物であることが好ましい。すなわち、上記離型剤がポリシロキサン化合物を必須成分とすることが本発明の好ましい形態である。
上記ポリシロキサン化合物は、通常は50℃で液状である。
上記ポリシロキサン化合物は、後述する、2置換シロキサンからなる構造単位を有するポリシロキサンであることが好ましい。言い換えれば、2置換シロキサン単位を構造単位とするポリシロキサン化合物であることが好ましい。上記2置換シロキサン単位とは、珪素原子の4本の結合手のうち、2本がシロキサンを形成する酸素と結合し、残りの2つがポリオキシアルキレン鎖、アリール基又はその他の有機基(官能基)と結合するものを意味する。なお、上記「2置換シロキサン」は、「2置換シロキサン単位」、「2官能シロキサン」、「2官能シロキサン単位」ともいう。
【0042】
上記珪素化合物(B−4)は、アリール基及び/又はポリオキシアルキレン鎖を有するものであることが好ましい。このとき、アリール基及び/又はポリオキシアルキレン鎖が珪素化合物を構成する少なくとも1つの珪素に結合していることになる。これにより、成型体用硬化性樹脂組成物中における珪素化合物(B−4)とその他の成分との相溶性及び離型性を共に優れたものとすることが可能となる。
該珪素化合物(B−4)は、例えば、1つの珪素原子を有するもの(本明細書中、モノマーともいう。)であってもよく、2つ以上の珪素原子を有するもの(本明細書中、ポリマーともいう。)であってもよい。
【0043】
上記珪素化合物(B−4)のモノマーとしては、ポリオキシアルキレン鎖及び/又はアリール基が珪素化合物を構成する1つの珪素に結合したものであればよく、例えば、ポリオキシアルキレン鎖及び/又はアリール基が2個結合した2置換体、ポリオキシアルキレン鎖と他の置換基とがそれぞれ1個結合した2置換体、アリール基と他の置換基とがそれぞれ1個結合した2置換体が挙げられる(例えば、ジアルコキシシラン等)。
また、ポリオキシアルキレン鎖及び/又はアリール基が3個結合した3置換体(例えば、トリアルコキシシラン等)、ポリオキシアルキレン鎖及び/又はアリール基が2個と他の置換基が1個結合した3置換体、ポリオキシアルキレン鎖1個と他の置換基が2個結合した3置換体、アリール基1個と他の置換基が2個結合した3置換体であってもよい(例えば、モノアルコキシシラン等)。これらの2置換体又は3置換体の中でも、ポリオキシアルキレン鎖及び/又はアリール基を有するジアルコキシシラン、ポリオキシアルキレン鎖及び/又はアリール基を有すモノアルコキシシランが好ましく、これらは、単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。具体的には、トリフェニルメトキシシラン及び/又はフェニルメチルジエトキシシランが特に好適である。
該珪素化合物のポリマーとしては、シロキサン結合を有する2個以上の珪素原子を有し、シロキサン結合を構成する少なくとも1個の珪素原子にポリオキシアルキレン鎖及び/又はアリール基が結合したポリシロキサン化合物(本明細書中、ポリシロキサンともいう。)であることが好ましい。
【0044】
また、ポリオキシアルキレン鎖を有する珪素化合物としては、ジアルコキシシラン等の2置換体やトリアルコキシシラン等の3置換体が好ましい。
更に、上記珪素化合物におけるポリオキシアルキレン鎖とアリール基との合計含有量は、モノマー1個当たり(珪素原子当たり)、1〜4であることが好ましい。より好ましくは、2〜4であり、更に好ましくは、3又は4である。
具体的には、フェニルトリメトキシシラン及び/又はフェニルメチルジエトキシシランが特に好適である。
【0045】
上記珪素化合物(B−4)のポリマーとしては、シロキサン結合を有する2個以上の珪素原子を有し、シロキサン結合を構成する少なくとも1個の珪素原子にポリオキシアルキレン鎖及び/又はアリール基が結合したポリシロキサン化合物であることが好ましい。
最も小さいポリマーは、2量体であり、例えば下記式(1)で表されるものである。
【0046】
【化1】

【0047】
式中、Aは、任意の基であるが、少なくとも1つのAは、ポリオキシアルキレン鎖又はアリール基を表す。
【0048】
上記珪素化合物(B−4)におけるポリオキシアルキレン鎖、アリール基以外のその他の置換基は、珪素化合物の珪素に結合する有機基であって、本発明の効果を妨げないものであればよいが、非加水分解性基が好ましい。非加水分解性基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、エポキシ基等が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよいが、中でもメチル基が好ましい。
【0049】
上記珪素化合物(B−4)の含有量としては、本発明の成型体用硬化性樹脂組成物100質量%に対して、0.01質量%以上、10質量%以下であることが好ましい。このような含有量とすることで、硬化性樹脂組成物並びに得られる成型体は、透明性に特に優れるものとなる。珪素化合物(B−4)の含有量が0.01質量%未満であると、上記した効果が不充分となる恐れがあり、10質量%を超えると、樹脂が硬化しにくくなる等の恐れがある。より好ましくは、0.01〜5質量%であり、更に好ましくは、0.1〜2質量%である。
【0050】
(ポリマーの構造と原料)
上記珪素化合物(B−4)におけるポリマーの構造としては、例えば、鎖状、ラダー状、かご状、粒子状が挙げられる。鎖状としては、分岐のない線状のもの、分岐した線状のものが挙げられるが、本発明においては、分子構造が鎖状である形態が好ましい。より好ましくは、分岐のない線状である形態である。このような構造を有する珪素化合物(B−4)のポリマーは、例えば、下記の方法で製造されたものであることが好ましい。
鎖状(分岐のない線状);ジアルコキシシラン(主鎖)の加水分解・縮合物、又は、必要に応じてジアルコキシシラン(主鎖)とモノアルコキシシラン(末端)との加水分解・縮合物。
鎖状(分岐した線状);ジアルコキシシラン(主鎖)とトリアルコキシシランとの共加水分解した縮合物、ジアルコキシシラン(主鎖)とテトラアルコキシシランとの共加水分解した縮合物、ジアルコキシシラン(主鎖)とトリアルコキシシランとテトラアルコキシシランとの共加水分解した縮合物。必要に応じて、共加水分解の前又は共加水分解中にモノアルコキシシランを添加。
ラダー状;トリアルコキシシラン(主鎖)の加水分解・縮合物。
かご状;トリアルコキシシラン(主鎖)の加水分解・縮合物。
粒子状;テトラアルコキシシラン及び/又はトリアルコキシシランを必須として、好ましくはこれらを主成分とした加水分解・縮合物。
上記した何れの場合も、ポリオキシアルキレン鎖及び/又はアリール基が結合した珪素原子を有するアルコキシシランを必須として、上記構造のポリマーを製造するものであることが好ましい。上記アルコキシシランは、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン及びトリアルコキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1種以上である。
【0051】
上記珪素化合物(B−4)は、上述したように2置換シロキサン単位を分子中に有することが好ましく、言い換えれば、2置換シロキサン単位を有することが好ましく、上記ポリシロキサン化合物であることが特に好ましい。分子中における2置換シロキサン単位数は、全ての珪素原子数を100%としたときに、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。
【0052】
上記ポリシロキサン化合物におけるポリオキシアルキレン鎖及び/又はアリール基の位置としては、ポリオキシアルキレン鎖及び/又はアリール基が、ポリシロキサン化合物中の末端珪素原子に結合するもの、ポリシロキサン化合物中の非末端珪素原子に結合するもののいずれも好適である。
【0053】
上記ポリシロキサン化合物の具体例としては、例えば、ポリシロキサンの側鎖の一部がフェニル基であるシリコーンオイル〔(商品名KF−56、信越化学社製)、(商品名HIVAC−F−4、信越化学社製)〕や、両末端にポリオキシエチレン鎖とポリオキシプロピレン鎖とを有する有機基を導入した変性シリコーンオイル〔(商品名KF−6004、信越化学社製)等が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
次に、上記(4)の形態について説明する。
上記(4)の形態は、上記離型剤が、重量平均分子量が500以上、10万以下である物質を含むものである。重量平均分子量が500未満であると、本発明の効果を充分に発揮することができなくなる恐れがある。10万を超えると、樹脂成分との相溶性が不良となり、本発明の効果を充分に発揮することができなくなる恐れがある。より好ましくは、1000以上10000以下である。
このような重量平均分子量を有する物質を含むことにより、耐熱性等の基本性能、透明性等の光学特性を充分に維持しながら、離型性を格段に優れたものとすることができる。これは、上記1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物が、このような重量平均分子量を有する物質を含む離型剤のブリードアウト速度を格段に向上させて、離型性が顕著なものとなるためであると考えられる。
なお、離型剤の重量平均分子量の測定方法としては、例えば下記の方法を用いることができる。
【0055】
また、離型剤が珪素化合物(B−4)であるときには、その重量平均分子量は、500以上、10万以下であることが好ましく、1000〜9万であることがより好ましく、1500〜8万であることが更に好ましい。このような重量平均分子量を有する珪素化合物(B−4)を用いることで、離型性を優れたものとする本発明の効果がより顕著に発揮されることになる。
なお、重量平均分子量の測定方法としては、例えば下記の方法を用いることができる。
【0056】
<重量平均分子量の測定方法>
上記離型剤の重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。HLC−8220GPC(商品名、東ソー社製)を用い、下記の条件で測定することが好ましい。
<重量平均分子量の測定条件>
カラム:東ソー社製「TSK−GEL SUPER HZM−N 6.0*150」×4本
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:0.6mL/分
温度:40℃
検量線:ポリスチレン標準サンプル(東ソー社製)を用いて作成。
【0057】
本発明においては、上記した形態の中でも、離型剤が、上記(1)かつ(2)の形態である化合物を必須成分とする形態がより好ましい。この形態は、化合物(B−1)〜(B−3)の少なくとも1種であって、20℃で固体状であるものを必須成分とする形態である。すなわち、上記離型剤がアルコール類、カルボン酸類、カルボン酸エステル類、カルボン酸塩類及びカルボン酸無水物類からなる群より選ばれる少なくとも1種であって、総炭素数が13以上である化合物を必須成分とし、該化合物が20℃で固体状である形態である。この形態にあっては、該化合物は、30℃で固体状である形態がより好ましく、50℃で固体状である形態が更に好ましい。
【0058】
また上記離型剤が、上記(3)かつ(4)の形態である化合物を必須成分とする形態も、本発明における好ましい形態の一つである。この形態は、珪素化合物(B−4)の少なくとも1種であって重量平均分子量が500以上、10万以下であるものを必須成分とする形態である。すなわち、上記離型剤が珪素化合物(B−4)を必須成分とし、珪素化合物(B−4)の重量平均分子量が500以上、10万以下である形態がより好ましい。
【0059】
また、上記(1)の形態である化合物と上記(3)の形態である化合物とを必須成分とする形態、言い換えれば、化合物(B−1)〜(B−3)の少なくとも1種と珪素化合物(B−4)の少なくとも1種とを必須成分とする形態がより好ましい。そして、上記(2)の形態である化合物と(4)の形態である化合物とを必須成分とする形態がより好ましい。更に、上記(1)かつ(2)の形態である化合物と、上記(3)かつ(4)の形態である化合物とを必須成分とする形態が特に好ましい。
【0060】
本発明の成型体用硬化性樹脂組成物において、上記のような形態を有する離型剤の含有量としては、本発明の成型体用硬化性樹脂組成物100質量%に対して、0.01質量%以上、10質量%以下であることが好ましい。離型剤の含有量が0.01質量%未満では、離型剤の含有効果が不充分となる恐れがあり、10質量%を超えると樹脂が硬化しにくくなる等の恐れがある。より好ましくは、0.01〜5質量%であり、更に好ましくは、0.1〜2質量%である。
【0061】
ここで、上記した1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物(A−1)〜(A−2)、及び、上記化合物(B−1)〜(B−4)の具体例とその融点、沸点等を下記表1、表2に示す。下記表1、表2中、A−1は、1気圧下で150℃以下の沸点を持つ化合物を表す。A−2は、1気圧下で150℃を超え、260℃以下の沸点を持つ化合物を表す。B−1は、260℃を超える沸点を持つアルコール類を表す。B−2は、260℃を超える沸点を持つカルボン酸類、カルボン酸塩類又はカルボン酸無水物類を表す。B−3は、260℃を超える沸点を持つカルボン酸エステル類を表す。B−4は、珪素化合物を意味する。MEKは、メチルエチルケトンを意味する。沸点は、特に記載がなければ、1気圧下で測定したものである。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
上記特定の化合物及び/又は特定の離型剤は、成型終了後の成型体にも残存することが好ましい。これにより、成型終了時点でも充分な離型性を得ることができる。
その存在については、成型加工により得られた成型体に熱分解GC−Mass(ガスクロマトグラフ質量)スペクトルでの測定を行うことにより確認することが可能である。
すなわち、本発明は、本発明の成型体用硬化性樹脂組成物から得られた成型体中に、1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物が含有されることを特徴とする成型体でもある。
その好ましい形態は、本発明の成型体用硬化性樹脂組成物及び成型体における好ましい形態と同様である。
【0065】
上記「成型体用硬化性樹脂組成物から得られた成型体」とは、例えば成型体用硬化性樹脂組成物を成型加工してなる成型体、特に金型成型してなる成型体であることが好ましい。
本発明の成型体用硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を含有するものである。上記熱硬化性樹脂としては、本発明の作用効果を発揮する限り特に限定されないが、樹脂組成物中の熱硬化性樹脂以外の成分との相溶性に優れ、該成分が熱硬化性樹脂に均一に分散されるものであることが好ましい。熱硬化性樹脂は、熱可塑性樹脂に比べて、加工の面に困難さを伴うことから現在は普及していないが、本発明においては、例えば、上記特定の化合物や特定の離型剤等を用いることで、熱硬化性樹脂であっても好適に用いることができる。したがって、本発明の樹脂組成物は、例えば、プラスチックレンズ用途等にも適用できるようになり、無機ガラス等からなるレンズに比べて加工が容易であり、大きさや形状を自由に変えられ、大量生産にも好適である。
【0066】
上記熱硬化性樹脂としては、熱硬化性を有するとともに、高分子量からモノマー程度の分子量を有する樹脂を含有するものであれば特に限定されない。熱硬化性樹脂の形態としては、例えば、(1)液状又は固形の硬化性樹脂からなる形態、(2)液状又は固形の硬化性樹脂と、該樹脂成分よりも低分子量の硬化性化合物若しくは溶剤(非硬化性)等とを含有する形態、及び、(3)液状又は固形の非硬化性樹脂と、該樹脂成分よりも低分子量の硬化性化合物とを含有する形態等が挙げられる。上記(3)の形態としては、例えば、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)等のアクリル樹脂のオリゴマー成分と(メタ)アクリレートモノマー等とを含有する形態を挙げることができる。
【0067】
上記熱硬化性樹脂は、カチオン硬化性樹脂(以下、「カチオン硬化性化合物」又は「カチオン重合性基を有する樹脂成分」とも言う)であることが好ましい。
上記カチオン硬化性樹脂とは、カチオン重合性基を分子中に少なくとも1個有する化合物であり、本発明においては、カチオン重合性基を2個以上有する化合物であることが好ましい。より好ましくは、カチオン重合性基を2個以上有する多官能カチオン硬化性化合物である。
【0068】
本発明の成型体用硬化性樹脂組成物は、上記カチオン硬化性樹脂を含有することにより、硬化反応(カチオン重合反応)をより短時間で達成でき、硬化速度を高めることができる。また、上記した特定の沸点を有する化合物や離型剤が蒸発して硬化物中に実質的に含有されなくなることを充分に抑制することができ、本発明の効果がより顕著に発揮されることになる。また、従来の熱硬化性プラスチック材料と同等の作業性を有しながら、無機ガラスに匹敵する耐熱性を示し、成型性や加工性に優れるといった優れた特性を発揮することができ、更に、硬化物は、離型性(離型強度)に優れたものとなる。
上記カチオン硬化性樹脂としては、特に限定されないが、エポキシ樹脂(以下、「エポキシ化合物」、「エポキシ基含有化合物」ともいう)が好適である。
【0069】
このような効果が得られるカチオン重合性基としては、グリシジルエーテル基、グリシジルエステル基等のグリシジル基;芳香族グリシジルエーテル化合物の水添物等の完全又は部分飽和脂肪族環状炭化水素に結合したグリシジルエーテル基;オキセタン基;ジオキソラン基;トリオキサン基;エポキシシクロへキサン基等の脂環式エポキシ基を含むエポキシ基;ビニルエーテル基;スチリル基等が好適である。
上記カチオン重合性基の中でも、レンズ等の光学用樹脂組成物においては、脂環式エポキシ基、飽和脂肪族環状炭化水素に直接的又は間接的に結合したグリシジルエーテル基が好ましい。これらのカチオン重合性基を有することで、硬化速度に優れる硬化性樹脂組成物とすることができる。特に、脂環式エポキシ基が好ましい。脂環式エポキシ基の中でもエポキシシクロヘキサン基が好ましい。なお、カチオン重合性基の硬化特性は、基の種類のみならず、該基が結合した有機骨格にも影響される。
【0070】
上記カチオン硬化性樹脂を含有することにより、硬化反応(カチオン重合反応)をより短時間で達成でき、硬化速度を高めることができる。また、上記1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物や離型剤が蒸発して硬化物中に実質的に含有されなくなることを充分に抑制することができ、本発明の効果がより顕著に発揮されることになる。また、従来の熱硬化性プラスチック材料と同等の作業性を有しながら、無機ガラスに匹敵する耐熱性を示し、成型性や加工性に優れるといった優れた特性を発揮することができ、更に、硬化物は、離型性(離型強度)に優れたものとなる。上記カチオン硬化性樹脂としては、特に限定されないが、エポキシ樹脂(以下、「エポキシ化合物」、「エポキシ基含有化合物」ともいう)が好適である。
【0071】
上記エポキシ樹脂とは、エポキシ基を少なくとも1つ有する化合物である。本明細書中で「エポキシ基」とは、3員環のエーテルであるオキシラン環を含む基を意味する。具体的には、エポキシ基、エポキシ基の構造を含むグリシジル基が好ましい。エポキシ基としては、エポキシシクロヘキシル基等のエポキシ基、グリシジルエーテル基、グリシジルエステル基等のグリシジル基等が好適である。
上記エポキシ基含有化合物は、脂肪族エポキシ化合物、水添エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、及び、芳香族エポキシ化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つを含むものであることが好ましい。
【0072】
上記脂肪族エポキシ化合物としては、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好適であり、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG600)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(PPG)、グリセロール、ジグリセロール、テトラグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン及びその多量体、ペンタエリスリトール及びその多量体、グルコース、フルクトース、ラクトース、マルトース等の単/多糖類等とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるもの、プロピレングリコール骨格、アルキレン骨格、オキシアルキレン骨格を有するもの等が好適である。
中でも、中心骨格にプロピレングリコール骨格、アルキレン骨格、オキシアルキレン骨格を有する脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂等が好適である。
【0073】
上記水添エポキシ化合物としては、飽和脂肪族環状炭化水素骨格に直接的又は間接的に結合したグリシジルエーテル基を有する多官能グリシジルエーテル化合物(以下、単に「多官能グリシジルエーテル化合物」ともいう。)が好適である。具体的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂等の芳香族多官能グリシジルエーテル化合物の水添物が好適であり、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
より好ましくは、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールF型エポキシ樹脂等である。更に好ましくは、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールF型エポキシ樹脂等である。また、芳香族エポキシ化合物の完全又は部分水添物等が好ましい。なお、芳香族エポキシ化合物は、芳香族グリシジルエーテル化合物を含む。
【0074】
上記脂環式エポキシ化合物としては、脂環式エポキシ基を有する多官能脂環式エポキシ化合物(以下、単に「多官能脂環式エポキシ化合物」ともいう。)が好適である。具体的には、エポキシシクロヘキサン骨格(エポキシシクロヘキサン基)を有するエポキシ樹脂、環状脂肪族炭化水素に直接又は炭化水素基を介してエポキシ基が付加したエポキシ樹脂等が好適であり、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。より好ましくは、エポキシシクロヘキサン骨格を有するエポキシ樹脂である。
上記エポキシシクロヘキサン骨格を有するエポキシ樹脂としては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、イプシロン−カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3´,4´−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス−(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート等が好ましい。
上記エポキシシクロヘキサン骨格を有するエポキシ樹脂以外の脂環式エポキシ化合物としては、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物、トリグリシジルイソシアヌレート等のヘテロ環含有のエポキシ樹脂等の脂環式エポキシド等が挙げられる。
【0075】
上記芳香族エポキシ化合物としては、ビスフェノール骨格、フルオレン骨格、ビフェニル骨格、ナフタレン環、アントラセン環等の芳香環共役系を有するグリシジル化合物が好ましく、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。より好ましくは、フルオレン骨格を有するエポキシ及び/又はグリシジル化合物(フルオレン化合物)であり、芳香族グリシジルエーテル化合物が好適である。また、芳香族エポキシ化合物の臭素化化合物を用いることで高屈折率化できるが、アッベ数が若干上昇することとなり、用途に応じて用いることが好ましい。
【0076】
本発明においては、上記した芳香族エポキシ化合物の中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂(フルオレンエポキシ樹脂)、ブロモ置換基を有する芳香族エポキシ樹脂等が好適であり、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フルオレンエポキシ樹脂が特に好適である。これらは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フルオレンエポキシ(大阪ガスケミカル社製)オンコート EX−1020又はオグソールEG210、フルオレンエポキシ(大阪ガスケミカル社製)オンコート EX−1010又はオグソールPG等が好ましく、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。より好ましくは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フルオレンエポキシ(大阪ガスケミカル社製)オグソールEG−210である。
中でも、後述のように成型体の硬化時に光照射等を行う場合に、光照射時の外観劣化抑制を目的とする場合には、上記脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂やエポキシシクロヘキサン骨格を有するエポキシ樹脂が、より好適に用いられる。
【0077】
上記エポキシ基含有化合物の中でも、脂環式エポキシ化合物、水添エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物がこの順に好ましい。
具体的には、脂環式エポキシ化合物としては、脂環式エポキシ基を有する多官能脂環式エポキシ化合物(以下、単に「多官能脂環式エポキシ化合物」とも言う。)が好適である。
水添エポキシ化合物としては、飽和脂肪族環状炭化水素骨格に直接的又は間接的に結合したグリシジルエーテル基を有する多官能グリシジルエーテル化合物(以下、単に「多官能グリシジルエーテル化合物」とも言う。)が好適である。
脂肪族エポキシ化合物としては、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好適である。脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂の好ましい形態は、上述した通りである。
【0078】
芳香族エポキシ化合物としては、芳香族グリシジルエーテル化合物が好適である。上記芳香族グリシジルエーテル化合物としては、例えば、エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、高分子量エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ノボラック・アラルキルタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。
上記エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール等のビスフェノール類とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるものが好適である。
上記高分子量エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、上記エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を上記ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール等のビスフェノール類と更に付加反応させることにより得られるものが好適である。
【0079】
上記ノボラック・アラルキルタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、ナフトール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール等のフェノール類とホルムアルデヒド、アセトアルテヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、ジシクロペンタジエン、テルペン、クマリン、パラキシリレングリコールジメチルエーテル、ジクロロパラキシリレン、ビスヒドロキシメチルビフェニル等を縮合反応させて得られる多価フェノール類を更にエピハロヒドリンと縮合反応することにより得られるものが好適である。
【0080】
芳香族エポキシ樹脂としては、更に、テトラメチルビフェノール、テトラメチルビスフェノールF、ハイドロキノン、ナフタレンジオール等とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる芳香族結晶性エポキシ樹脂、及び、更に上記ビスフェノール類やテトラメチルビフェノール、テトラメチルビスフェノールF、ハイドロキノン、ナフタレンジオール等を付加反応させることにより得られる芳香族結晶性エポキシ樹脂の高分子量体;テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、安息香酸とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0081】
上記したエポキシ樹脂は、短時間で硬化を行うことができるものであるため、本発明の成型体用硬化性樹脂組成物を短時間で硬化を行う際にも、離型性と透明性とを両立するという本発明の効果が顕著に発揮されることになる。中でも、硬化性樹脂組成物の硬化速度が高い点で、多官能脂環式エポキシ化合物、多官能水添エポキシ化合物が好ましく、触媒量が同じであれば、より短時間で硬化物を得ることができる。また、光照射時の外観劣化抑制を目的とした場合には、上記脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂やエポキシシクロヘキサン骨格を有するエポキシ樹脂がより好適に用いられる。
【0082】
上記エポキシ樹脂としては、更に、ヒダントインやシアヌール酸、メラミン、ベンゾグアナミンとエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる室温で固形の3級アミン含有グリシジルエーテル型エポキシ樹脂も用いることができる。
【0083】
本発明の硬化性樹脂組成物は、アッベ数が45以上である熱硬化性樹脂を含むものが好ましい。上記熱硬化性樹脂としては、アッベ数が45以上を含むものであれば、本発明の作用効果を発揮する限り特に限定されない。
上記アッベ数が45以上である熱硬化性樹脂の含有量としては、全熱硬化性樹脂中に1質量%以上含まれることが好ましい。アッベ数が45以上の熱硬化性樹脂の含有量としてより好ましくは、全熱硬化性樹脂中に5質量%以上であり、更に好ましくは、10質量%以上である。特に、高アッベ数が要求される光学用途に対しては、アッベ数が45以上の熱硬化性樹脂の含有量は、全熱硬化性樹脂中に60質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上である。低アッベ数でもよい光学用途に対しては、アッベ数が45以上の熱硬化性樹脂の含有量は、全熱硬化性樹脂中に1〜70質量%であることが好ましい。より好ましくは10〜60質量%であり、更に好ましくは20〜50質量%である。
【0084】
上記アッベ数が45以上である熱硬化性樹脂としては、カチオン硬化性樹脂であることがより好ましく、エポキシ樹脂であることが更に好ましい。また、アッベ数が45以上である熱硬化性樹脂を含む硬化性樹脂組成物は、カチオン硬化触媒を含むことが好ましい。なお、カチオン硬化触媒については、後述する。
上記アッベ数が45以上である熱硬化性樹脂としては、カチオン重合性基を分子中に少なくとも1個有する化合物であることが好ましいが、より好ましくは、エポキシ化合物である。上記アッベ数が45以上であるエポキシ樹脂の好ましい形態としては、エポキシ化合物の好ましい形態として上述した通りである。
【0085】
上記アッベ数が45以上である熱硬化性樹脂として具体的には、脂環式エポキシ化合物、水添エポキシ化合物が好適である。
これらの中でも、より好ましくは脂環式エポキシ化合物;水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールF型エポキシ樹脂等であり、更に好ましくは、脂環式エポキシ化合物である。また、上記珪素化合物を用いる場合は、硬化性樹脂組成物の安定性と硬化させる際の硬化特性の点からも、脂環式エポキシ化合物が好適である。
【0086】
上記エポキシ樹脂として、脂環式エポキシ樹脂を用いることで、アッベ数の向上が可能であり、光学特性を優れたものとすることができ、種々の用途に好適に用いることができる。
上記脂環式エポキシ樹脂としては、CELL−2021P、セロキサイド2081、EHPE−3150(商品名、いずれもダイセル化学工業社製)等が好ましい。このように、脂環式エポキシ樹脂を必須とする成型体用硬化性樹脂組成物もまた、本発明の好ましい形態の一つである。脂環式エポキシ樹脂は、成型体用硬化性樹脂組成物を構成する熱硬化性樹脂に含まれていればよく、その含有量は特に限定されないが、総熱硬化性樹脂中40質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、60質量%以上であり、更に好ましくは、80質量%以上であり、特に好ましくは、実質的にすべてが脂環式エポキシ樹脂であることである。これにより、本発明の効果をより充分に発揮することができる。
【0087】
本発明における熱硬化性樹脂組成物は、アッベ数が45以上であるエポキシ化合物以外の脂環式化合物を含有するものであっても良い。
上記アッベ数が45以上であるエポキシ化合物以外の脂環式化合物としては、例えば、脂環式変性ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレート(日本化薬社製の「R−629」又は「R−644」);テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、モルフォリノエチル(メタ)アクリレート等の構造中に酸素原子及び/又は窒素原子を有する脂環式アクリレート;N−シクロヘキシルマレイミド等の脂環式単官能マレイミド類;N,N´−メチレンビスマレイミド、N,N´−エチレンビスマレイミド、N,N´−トリメチレンビスマレイミド、N,N´−ヘキサメチレンビスマレイミド、N,N´−ドデカメチレンビスマレイミド、1,4−ジマレイミドシクロヘキサン等の脂環式ビスマレイミド等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0088】
〔可とう性成分〕
上記成型体用硬化性樹脂組成物においては、本発明の効果を損なわない範囲であれば、可とう性成分を、機械的強度の改善等を目的として適宜含有させることができる。可とう性成分を含むことにより、一体感のある成型体用硬化性樹脂組成物とすることができる。上記可とう性成分としては、(1)上記エポキシ樹脂とは異なる化合物からなる可とう性成分である形態、(2)エポキシ樹脂の1種が可とう性成分である形態のいずれの形態であっても好適に適用することができる。
可とう性成分の含有量は特に限定されず、適宜選択すればよい。通常は、成型体用硬化性樹脂組成物100質量%に対して、0.01〜50質量%の範囲から選択され、好ましくは、0.1〜20質量%の範囲から選択される。
上記可とう性成分としては、具体的には、−〔−(CH−O−〕−で表されるオキシアルキレン骨格を有する化合物(nは2以上、mは1以上の整数である。好ましくは、nは2〜12、mは1〜1000の整数である。より好ましくは、nは3〜6、mは1〜20の整数である。)である。上記可とう性成分としては、オキシアルキレン骨格を有し、エポキシ基を有する化合物が好ましい。中でも、オキシブチレン骨格を有し、エポキシ基を有する化合物が好ましく、工業製品としては、例えば、ジャパンエポキシレジン社製のYL−7217(エポキシ当量437、液状エポキシ樹脂)が挙げられる。
【0089】
また、その他、可とう性成分として好ましい化合物としては、例えば、ジャパンエポキシレジン社製のYL−7170(YX−8040)(エポキシ当量1000、水添ビスフェノール型エポキシ樹脂)等の水添エポキシ化合物;ジャパンエポキシレジン社製のJER1007(エポキシ当量1750〜2200、ビスフェノールA型エポキシ樹脂)等の芳香族エポキシ化合物;ダイセル化学工業社製のEHPE3150(常温で固形状)高分子量脂環式固形エポキシ樹脂;ダイセル化学工業社製のセロキサイド2081(常温で液状)等の総炭素数4以上のアルキレン骨格を有するエポキシ樹脂;等のエポキシ化合物が例示される。
ジャパンエポキシレジン社製のYL−7170(YX−8040)、ジャパンエポキシレジン社製のJER1007は、高分子量である点からも好ましく使用し得る。
その他、液状ニトリルゴム等の液状ゴム、ポリブタジエン等の高分子ゴム、粒径100nm以下の微粒子ゴム等も好ましい。
より好ましくは、末端や側鞘や主鎖骨格等に硬化性の官能基を含む化合物である。このように、上記可とう性成分として硬化性の官能基を含んでなる成型体用硬化性樹脂組成物もまた、本発明の好ましい形態の一つである。なお、上記「硬化性の官能基」とは、「エポキシ基等の熱又は光で硬化する官能基(樹脂組成物を硬化反応をさせる基)」をいう。
【0090】
硬化性の官能基を含む化合物の中でも特に好ましくは、エポキシ樹脂であり、オキシブチレン骨格を含むエポキシ樹脂がより好ましい。
本発明の成型体用硬化性樹脂組成物としては、上述のように、可とう性成分を含むことが好適である。より好ましくは、可とう性材料(エポキシが好ましい)を含んでなる脂環式硬化性物質を含む形態がより好ましい。可とう性成分としては、エポキシ樹脂が特に好ましい。
上記エポキシ樹脂の1分子当たりの平均エポキシ基数としては、通常は2個のものを使用するが、場合によっては3個以上のものを使用することもできる。
【0091】
上記成型体用硬化性樹脂組成物としてはまた、熱硬化性樹脂を含む成型体用硬化性樹脂組成物であって、該成型体用硬化性樹脂組成物は、2種以上の熱硬化性樹脂で調製される形態が好ましい。このような形態に調製することにより、連続生産が可能となり、一体感を有し、強度が高く、透明性・耐熱性が高い熱硬化性樹脂を得ることができる。このような特性を有する成型体用硬化性樹脂組成物は、光学材料として好適に使用でき、例えば、500nmでの透過率が80%以上であるレンズ材料(光学材料)としても有用な熱硬化性材料を提供することができる。
【0092】
上記2種以上の熱硬化性樹脂は、分子量が700以上の樹脂と、この樹脂よりも分子量が低い熱硬化性樹脂とを必須とするものが好ましく、中でも、分子量が700以上のものと700未満のものとを必須とするものがより好ましい。また、該2種以上の熱硬化性樹脂を含む成型体用硬化性樹脂組成物であることが好ましい。分子量が700以上のもの(高分子量有機樹脂、高分子材料)と700未満のもの(低分子量有機樹脂、低分子材料)とを必須とすることにより、製造時における粘度の低減と製品の機械強度の向上という効果が得られることとなる。
【0093】
上記成型体用硬化性樹脂組成物においては、高分子材料と低分子材料とを含むことが好適であるが、これらの調製方法としては、低分子材料(と必要に応じてその他の成分と)を混合し、高分子材料を添加する方法が好ましい。このように混合することで、成型体用硬化性樹脂組成物の粘度が上昇することなく、好適な樹脂組成物を得ることができる。また、高分子材料の樹脂組成物へのなじみをよくすることができる。このように、熱硬化性樹脂を含有する成型体用硬化性樹脂組成物を製造する方法であって、該製造方法は、2種以上の熱硬化性樹脂を混合して調製する工程を含む成型体用硬化性樹脂組成物の製造方法もまた、本発明の好ましい実施形態の一つである。このような製造方法としてより好ましくは、上記2種以上の熱硬化性樹脂が、分子量が700以上のもの(高分子材料)と700未満のもの(低分子材料)とを必須とするものである形態である。なお、上記分子量の測定方法としては、上述と同様であることが好ましい。
【0094】
上記分子量が700以上の高分子材料と分子量が700未満の低分子材料との割合(質量割合)としては、樹脂組成物全体に対して、分子量が700以上の高分子材料が、10〜90%含まれていることが好ましい。より好ましくは、20〜80%であり、更に好ましくは、30〜70%である。
上記2種以上の熱硬化性樹脂としては、2種以上のエポキシ樹脂であることが好ましい。中でも、脂環式エポキシ樹脂を含むことが好適である。
【0095】
〔低アッベ数・高屈折率化〕
上記樹脂組成物及び成型体において、低アッベ数、高屈折率のものを得る場合、不飽和結合量が多い熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。すなわち、熱硬化性樹脂を含む硬化性樹脂組成物であって、上記硬化性樹脂組成物は、硬化後の硬化体100質量%に対して不飽和結合量が40質量%以上である硬化性樹脂組成物が好ましい。
ここでいう「不飽和結合量」とは、硬化体に含有される不飽和結合量の総量を意味する。熱硬化性樹脂以外の成分(その他の成分)が不飽和結合を有する場合、その他の成分が有する不飽和結合も上記総量に含まれる。
【0096】
上記樹脂組成物は、硬化後の硬化体(硬化物ともいう。)100質量%に対して不飽和結合を40質量%以上有するものであることが好ましい。ここで、不飽和結合量とは、不飽和結合を形成する炭素原子、硫黄原子、窒素原子、ホウ素原子、ケイ素原子、リン原子、ゲルマニウム原子、酸素原子、及び、付加する水素原子、ハロゲン原子の合計質量である。すなわち、硬化体100質量%中に含まれる不飽和結合を形成する原子、並びに、該原子に結合している水素原子及びハロゲン原子の合計質量である。具体的には、−CHCHCHCl−CH=CCl−CHCH−構造を有する場合、不飽和結合量は、CH=CCl部分の合計質量を意味する。
また炭素原子が芳香環を形成する場合、不飽和結合量は、硬化体100質量%中に含まれる芳香環の質量%を表すものとする。すなわち、芳香環が置換基を有する場合に不飽和結合の合計量を求めるには、不飽和結合を有さない置換基の質量は含めずに、炭素原子と水素原子とによって構成される芳香環の質量のみを不飽和結合の合計量の計算に算入する。なお、芳香環にハロゲン原子が置換基として結合している場合は、上記定義よりハロゲン原子の質量も含めて、不飽和結合の合計量を算出する。本発明においては、不飽和結合が芳香環によって構成される形態が好ましい形態の一つである。
【0097】
上記熱硬化性樹脂においては、熱硬化性樹脂が芳香環を有し、硬化後の硬化体100質量%に対して芳香環量が40質量%以上であることが好適であるが、アッベ数は35以下であることが好ましい。アッベ数が35以下であるとは、「全熱硬化性樹脂のアッベ数の平均値が35以下である」ことを意味するものであり、アッベ数が35を超える熱硬化性樹脂が含まれていてもよい。低アッベ数用の硬化性樹脂組成物としては、アッベ数が45以上の熱硬化性樹脂を必須として含み、全熱硬化性樹脂のアッベ数の平均値が35以下であることが好ましい。一方、熱硬化性樹脂には、上述のように、アッベ数が45以上の熱硬化性樹脂を成分として含むことが好ましい。アッベ数が45以上の熱硬化性樹脂を含まないと、カチオン硬化速度があがらず、生産性が充分ではなくなる恐れがある。アッベ数が45以上の熱硬化性樹脂の割合としては、熱硬化性樹脂100質量%中、1質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、5質量%以上であり、更に好ましくは、10質量%以上であり、特に好ましくは、20質量%以上である。本発明においては、熱硬化性樹脂のアッベ数を35以下(全熱硬化性樹脂のアッベ数の平均値が35以下)とすることで、硬化性樹脂組成物を光学用途に用いた場合に、光学特性に優れたものとすることができる。熱硬化性樹脂のアッベ数が35を超えると、光の波長分散を大きくできない恐れがあり、充分な光学特性を発揮せず、種々の光学用途に好適な材料とはならない恐れがある。
【0098】
また、本発明の硬化性樹脂組成物を硬化させて光学部材(例えば、レンズ)として用いる場合には、アッベが35以下である効果が顕著に発揮されることとなる。具体的には、本発明における低アッベ数の光学部材(レンズ)を高アッベ数のレンズと組み合わせて用いることで、光の分散が小さくなり、解像度があがり、にじみが生じないといった効果が発現する。このような優れた光学特性は、組み合わせるレンズのアッベ数の差が大きいほど顕著である。レンズのアッベ数の差は、20以上であることが望ましいが、一般的にレンズのアッベ数は20〜70の範囲であり、高アッベ数のレンズとしてはアッベ数20〜40のレンズが主流であることから、アッベ数が20以上異なるレンズを組み合わせることは容易ではない。少しでもアッベ数の差を大きくするためには、低アッベ数のレンズのアッベ数をより小さくすることが有効である。例えば、アッベ数が33.5のレンズとアッベ数が36.3のレンズとを用いた場合に、これらのレンズのアッベ数の差は2.8であるが、2.8程度の差であっても、光学用途においては、効果の面で顕著な差が生じることとなる。
【0099】
上記熱硬化性樹脂においては、後述するような好適な形態を適宜組み合わせることによりアッベ数を35以下とすることができる。上記アッベ数として好ましくは、35以下であり、より好ましくは、34以下であり、更に好ましくは、33.5以下であり、特に好ましくは、30以下である。上記熱硬化性樹脂としては、上述のように、アッベ数が35以下(全熱硬化性樹脂のアッベ数の平均値が35以下)のものであれば特に限定されないが、例えば、アッベ数35以下の熱硬化性樹脂が全熱硬化性樹脂中40質量%以上含まれることが好ましい。アッベ数35以下の熱硬化性樹脂の割合としてより好ましくは、60質量%以上であり、更に好ましくは、80質量%以上であり、上限は99質量%である。
【0100】
上記アッベ数35以下の熱硬化性樹脂としては、多価フェノール化合物、重合性不飽和結合を有する化合物、芳香族エポキシ(「芳香族エポキシ化合物」とも言う。)を単独で、又は、2種以上の混合物として使用することができる。これらの中でも、光学特性に優れたものとすることができ、種々の用途に好適に用いることができる点で、芳香族エポキシ化合物を必須とすることが好ましい。このように、上記熱硬化性樹脂は、芳香族エポキシ化合物を必須とする上記硬化性樹脂組成物もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
上記芳香族エポキシ化合物の含有量としては、熱硬化性樹脂100質量%中において、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、99質量%であることが特に好ましい。
上記アッベ数は、屈折率計を用いて評価することができる。屈折率計としては、例えばDR−M2(商品名、アタゴ社製)を用いて20℃にて評価することが好ましい。
【0101】
本発明の成型体用硬化性樹脂組成物における熱硬化性樹脂としては、多価フェノール化合物、重合性不飽和結合を有する化合物を用いることも可能である。
上記多価フェノール化合物としては、フェノール性水酸基を少なくとも1つ有する芳香族骨格同士が、総炭素数が2以上の有機骨格を介して結合してなる構造を有するものを好適に使用することができる。上記多価フェノール化合物において、芳香族骨格とは、フェノール性水酸基を少なくとも1つ有する芳香環である。この芳香族骨格は、フェノール型等の構造を有する部位であり、フェノール型、ハイドロキノン型、ナフトール型、アントラセノール型、ビスフェノール型、ビフェノール型等が好適である。これらの中でもフェノール型が好ましい。また、これらフェノール型等の構造を有する部位は、アルキル基、アルキレン基、アラルキル基、フェニル基、フェニレン基等によって適宜置換されていてもよい。
【0102】
上記多価フェノール化合物において、有機骨格とは、多価フェノール化合物を構成する芳香環骨格同士を結合し、炭素原子を必須とする部位を意味するものである。また、総炭素数が2以上の有機骨格としては、環構造を有することが好ましい。環構造とは、脂肪族環、芳香族環等といった環を有する構造であり、環としては、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が好ましい。更に、有機骨格としては、トリアジン環、フォスファゼン環等の窒素原子を含有する環構造及び/又は芳香環を有することが好ましく、中でもトリアジン環及び/又は芳香環を有することが特に好ましい。なお、多価フェノール化合物は、上記以外の芳香族骨格や有機骨格を有していてもよく、また、フェノール性水酸基を少なくとも1つ有する芳香族骨格同士が、炭素数が1の有機骨格(メチレン)を介して結合してなる構造を同時に有していてもよい。
【0103】
上記重合性不飽和結合を有する化合物としては、重合性不飽和結合を有するものであればよいが、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、フマレート基及びマレイミド基からなる群より選択される1種以上の基を有する化合物であることが好ましい。すなわち、(メタ)アクリロイル基を有する化合物、ビニル基を有する化合物、フマレート基を有する化合物及びマレイミド基を有する化合物よりなる群から選択される1種以上の化合物であることが好ましい。なお、本発明においては、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基とメタクリロイル基とを意味するものであり、アクリロイル基を有する場合、アクリロイル基中にビニル基を有することになるが、この場合には、アクリロイル基とビニル基とを有することとしないで、アクリロイル基を有することとする。また、フマレート基とは、フマレート構造を有する基、すなわちフマル酸エステルの構造を有する基を意味する。
【0104】
本発明の成型体用硬化性樹脂組成物は、更に熱可塑性樹脂等の非硬化性成分を含有するものであってもよい。また、熱硬化性樹脂として、熱可塑性樹脂等の非硬化性成分と低分子量の硬化性化合物とを含有するものを使用することもできる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンからなるABS樹脂、塩化ビニル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、アセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキシド、ポリエステル、ポリイミド等を挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂と併用する低分子量の硬化性化合物としては、多価フェノール化合物、重合性不飽和結合を有する化合物、及び、エポキシ樹脂について上記のように例示した中から、適宜選択して使用すればよい。
また、熱可塑性樹脂等の非硬化性成分と低分子量の硬化性化合物とを併用する場合には、上記熱硬化性樹脂の割合は、成型体用硬化性樹脂組成物100質量%に対して、90質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、95質量%以上であり、更に好ましくは、98質量%以上である。
【0105】
本発明の成型体用硬化性樹脂組成物は、硬化剤を含有することが好ましい。中でも、本発明の成型体用硬化性樹脂組成物が熱潜在性カチオン硬化触媒(熱潜在性硬化剤)を更に含有することが好ましい。熱潜在性カチオン硬化触媒とは、熱潜在性カチオン発生剤、カチオン重合開始剤とも呼ばれ、加熱によりカチオン種を含む化合物が励起され、熱分解反応が起こり、硬化温度になれば、硬化剤としての実質的な機能を発揮するものである。熱潜在性カチオン硬化触媒は、硬化剤として一般に使用されている酸無水物類、アミン類、フェノール樹脂類等とは異なり、樹脂組成物に含まれていても、樹脂組成物の常温での経時的な粘度上昇やゲル化を引き起こすことなく、また、熱潜在性カチオン硬化触媒の作用として、硬化反応を充分に促進して優れた効果を発揮することができ、ハンドリング性に優れた樹脂組成物を提供することが可能となる。
【0106】
このような熱潜在性カチオン硬化触媒を用いることにより、例えば、室温で硬化が進むような熱硬化性樹脂を用いた場合であっても、室温で硬化を進まないようにすることができ、硬化反応のハンドリングが容易にできるようになる。また、得られる成型体の耐湿性が劇的に改善され、過酷な使用環境においても成型体が有する優れた光学特性を保持し、種々の用途に好適に用いることができるものとなる。通常、水分が樹脂組成物やその成型体(硬化物)に含まれると、水分は屈折率が低いため濁りの原因になるが、熱潜在性カチオン硬化触媒を用いると、優れた耐湿性が発揮できることから、このような濁りが抑制され、レンズ等の光学用途に好適に用いることができる。特に車載用カメラや宅配業者向けバーコード読み取り機等の用途では、長時間の紫外線照射や夏季の高温暴露により黄変や強度劣化が懸念されるが、これらの現象は空気や水分の存在下での紫外線照射又は熱線暴露の影響により酸素ラジカルが発生することが原因と考えられる。耐湿性が向上することで、成型体への吸湿が抑制され、紫外線照射又は熱線暴露による酸素ラジカル発生も抑えられるため、成型体は黄変や強度低下を引き起こすことなく、長時間にわたり優れた耐熱性を発揮する。
【0107】
上記熱潜在性カチオン硬化触媒は、例えば下記一般式(2);
(RZ)+m(AXn)−m (2)
(式中、Zは、S、Se、Te、P、As、Sb、Bi、O、N及びハロゲン元素からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を表す。R、R、R及びRは、同一又は異なって、有機基を表す。a、b、c及びdは、0又は正数であり、a、b、c及びdの合計はZの価数に等しい。カチオン(RZ)+mはオニウム塩を表す。Aは、ハロゲン化物錯体の中心原子である金属元素又は半金属元素(metalloid)を表し、B、P、As、Al、Ca、In、Ti、Zn、Sc、V、Cr、Mn及びCoからなる群より選ばれる少なくとも一つである。Xは、ハロゲン元素を表す。mは、ハロゲン化物錯体イオンの正味の電荷である。nは、ハロゲン化物錯体イオン中のハロゲン元素の数である。)で表されるものであることが好ましい。
【0108】
上記一般式(2)で表される熱潜在性カチオン硬化触媒は、一般に、硬化温度でカチオンが発生することになる。硬化温度としては、25〜250℃であることが好ましい。より好ましくは60〜200℃、更に好ましくは80〜180℃である。
また硬化条件としては、硬化温度を段階的に変化させてもよい。例えば、樹脂組成物の硬化物を製造する上での生産性を向上する目的で型内に所定の温度・時間で保持した後、型から取り出して空気又は窒素等の不活性ガス雰囲気内に静置して熱処理することも可能である。この場合の硬化温度としては、型内保持温度を25〜250℃とすることが好ましい。より好ましくは60〜200℃であり、更に好ましくは80〜180℃である。保持時間は、例えば10秒〜5分が好ましい。より好ましくは30秒〜5分であり、更に好ましくは1分〜3分である。
【0109】
上記一般式(2)の陰イオン(AXn)−mの具体例としては、テトラフルオロボレート(BF)、ヘキサフルオロホスフェート(PF)、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF)、ヘキサフルオロアルセネート(AsF)、ヘキサクロロアンチモネート(SbCl)等が挙げられる。
更に一般式AXn(OH)で表される陰イオンも用いることができる。また、その他の陰イオンとしては、過塩素酸イオン(ClO)、トリフルオロメチル亜硫酸イオン(CFSO)、フルオロスルホン酸イオン(FSO)、トルエンスルホン酸イオン、トリニトロベンゼンスルホン酸イオン等が挙げられる。
【0110】
上記熱潜在性カチオン硬化触媒の具体例としては、AMERICUREシリーズ(アメリカン・キャン社製)、ULTRASETシリーズ(アデカ社製)、WPAGシリーズ(和光純薬社製)等のジアゾニウム塩タイプ;UVEシリーズ(ゼネラル・エレクトリック社製)、FCシリーズ(3M社製)、UV9310C(GE東芝シリコーン社製)、Photoinitiator2074(ローヌプーラン社製)、WPIシリーズ(和光純薬社製)等のヨードニウム塩タイプ;CYRACUREシリーズ(ユニオンカーバイド社製)、UVIシリーズ(ゼネラル・エレクトリック社製)、FCシリーズ(3M社製)、CDシリーズ(サトーマー社製)、オプトマーSPシリーズ・オプトマーCPシリーズ(アデカ社製)、サンエイドSIシリーズ(三新化学工業社製)、CIシリーズ(日本曹達社製)、WPAGシリーズ(和光純薬社製)、CPIシリーズ(サンアプロ社製)等のスルホニウム塩タイプが挙げられる。
【0111】
本発明の成型体用硬化性樹脂組成物は、硬化させて金型から取り出す際に4×10−2N/m以下の強度(剥離強度)で離型するものであることが好ましい。
上記成型体用硬化性樹脂組成物において、4×10−2N/m以下の強度で離型するとは、該技術分野において容易に剥離し、製造工程で生産性よく製造することができ、成型体の連続生産ができると評価されることを意味する。離型強度が、4×10−2N/mを超えると生産性よく製造できず、経済性に優れたものとならない恐れがある。剥離強度として好ましくは、2×10−2N/m以下であり、より好ましくは、1×10−2N/m以下であり、更に好ましくは、1×10−3N/m以下であり、特に好ましくは、1×10−4N/m以下である。
【0112】
上記剥離強度は、成型体の連続生産時に必要な条件として、副反応が生じる150℃以下の温度で短時間にある程度の材料硬度(4×10−2N/m以下の強度で離型する)であることが好ましい。このような剥離強度(材料硬度)は、例えば、以下のようにして評価することができる。140℃、2.5分で樹脂組成物をSUS304基板状に高さ1mmで硬化し、30℃、30秒以内で冷却し、樹脂とSUS304との界面にカッター(エヌティー社製、本体型番:L−500、刃の型番:BL−150P)を所望の力(例えば、剥離強度4×10−2N/mの力)で押し当てて、離型のしやすさを評価することができる。なお、剥離強度4×10−2N/mの力は、1.5kgの荷重を長さ2cmの樹脂と、SUS304との界面にカッターを用いて加えたときの値として算出している。なお、カッターの刃先の荷重が加わる面積を、0.04cmとした。
【0113】
本発明の成型体用硬化性樹脂組成物の硬化方法としては、熱硬化や光硬化等の種々の方法を好適に用いることができる。また、成型方法は、注型により硬化するものであることが好ましい。例えば、成型体用硬化性樹脂組成物に硬化剤や必要に応じてその他の材料を混合して1液とし、硬化物の形状に合わせた金型に該混合液を充填(射出・塗出)して硬化させ、その後、硬化物を金型から取り出す方法が好適に用いられる。注型方法においては、通常は溶媒を用いないことから、本発明の効果をより充分に発揮することになる。
なお、上述したように短時間で硬化反応が進行する条件下においても本発明の効果を充分に発揮することができることから、カチオン硬化が好ましい。
【0114】
このような方法においては、硬化剤等を混合した成型体用硬化性樹脂組成物の粘度は、取り扱いを考慮すると、著しく上昇しない方が好ましい。取り扱いが容易である粘度としては、例えば、混合直後に比べて25℃で3日間保存した後の成型体用硬化性樹脂組成物の粘度が、200%以下であることが好ましい。この粘度が200%を超えると、金型への液の充填(射出・塗出)が困難となり得る恐れがあり、金型内での流動性にも悪影響を与える恐れがある。より好ましくは、180%以下であり、更に好ましくは、150%以下である。このように、上記成型体用硬化性樹脂組成物は、1液での混合物の粘度上昇率が、25℃で3日間保存した後に混合直後に比べて200%以下となる成型体用硬化性樹脂組成物もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
【0115】
上記成型体用硬化性樹脂組成物を硬化して硬化物を製造する方法としては、通常用いられている方法を好適に使用することができ、例えば、硬化剤を用いて熱硬化することにより硬化物とすることができる。製造方法は、後述するように樹脂組成物の種類に応じて適宜選択することができるが、上記成型体用硬化性樹脂組成物を短時間で硬化反応させるものが好ましく、5分以内で硬化させて硬化物を製造する方法であることが好ましい。具体的には、上記成型体用硬化性樹脂組成物に硬化剤や必要に応じてその他の材料を混合して1液とし、硬化物の形状に合わせた金型に該混合液を充填(射出・塗出)して、5分以内で硬化させることが好ましい。金型を用いた硬化を短時間で行うことにより、上記260℃以下の沸点を持つ化合物の蒸発を充分に抑制して本発明の効果を充分に発揮することが可能となり、また経済性に優れた方法とすることができる。
【0116】
上記硬化時間(金型を用いた硬化時間)が5分を超えると、上記260℃以下の沸点を持つ化合物が蒸発して硬化物中に実質的に含有されなくなり、離型性等の本発明の効果を十分に発揮できなくなる恐れがある。したがって、硬化時間は、より好ましくは、4分以内であり、更に好ましくは、3.5分以内であり、最も好ましくは、3分以内である。上記硬化温度としては、硬化させる樹脂組成物等に応じて適宜設定することができるが、80〜200℃であることが好ましい。より好ましくは、100〜180℃であり、更に好ましくは、110〜150℃である。具体的には、140℃で3分硬化させることが好適である。
上記硬化方法においては、金型から取り出し、形状を保てる程度の硬度であればよく、1×10−3N/m以上の力で押し出したときの形状変化の割合が10%以下の硬化強度(硬度)であることが好ましい。上記形状変化の割合として好ましくは、1%以下であり、より好ましくは、0.1%以下であり、更に好ましくは、0.01%以下である。
【0117】
本発明の成型体用硬化性樹脂組成物においては、上記のように5分以内で硬化させた後、硬化物を金型から取り出し、ポストキュア(ベーク)を行うことが好ましい。ポストキュアを行うことにより、硬化物が充分な硬度をもち、種々の用途に好適に用いることができる。また、ポストキュアにおいては、ある程度の硬度を持つ硬化物を更に硬化させる点から、取り扱い性に優れている。また、金型を用いないでよいことから、小さな面積で大量の製品をポストキュアできる利点がある。
上記ポストキュアにおいて、硬化温度及び硬化時間は、硬化させる樹脂組成物等に応じて適宜設定することができる。例えば、硬化温度としては、80〜200℃であることが好ましい。より好ましくは、100〜180℃であり、更に好ましくは、110〜150℃である。ポストキュアの硬化時間は、硬化温度にも依存するが、1〜48時間であることが好ましい。より好ましくは、1〜10時間であり、更に好ましくは、2〜5時間である。
【0118】
本発明の樹脂組成物は、上述した樹脂の他に、更に添加剤を含有してもよく、添加剤としては、硬化促進剤、反応性希釈剤、不飽和結合をもたない飽和化合物、顔料、染料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、非反応性化合物、連鎖移動剤、熱重合開始剤、嫌気重合開始剤、重合禁止剤、無機充填剤や有機充填剤、カップリング剤等の密着向上剤、熱安定剤、防菌・防カビ剤、難燃剤、艶消し剤、消泡剤、レベリング剤、湿潤・分散剤、沈降防止剤、増粘剤・タレ防止剤、色分かれ防止剤、乳化剤、スリップ・スリキズ防止剤、皮張り防止剤、乾燥剤、IR(赤外線)カット剤、防汚剤、帯電防止剤、導電剤(静電助剤)等を含有してもよい。
【0119】
以下、本発明の樹脂組成物の硬化方法について説明する。本発明の樹脂組成物の硬化には、使用する樹脂の性質に応じて、従来公知の方法を採用することができる。
本発明の樹脂組成物の熱硬化性樹脂として、例えばエポキシ樹脂を含有する場合は、上述のように、硬化剤を用いて熱硬化することにより、硬化物とすることができる。上記硬化剤としては、上述した熱潜在性カチオン硬化触媒を用いることが好ましい。また、熱潜在性カチオン硬化触媒以外の硬化剤としては、例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸、無水ピロメリット酸、メチルナジック酸等の酸無水物類;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、テルペンフェノール樹脂等の種々のフェノール樹脂類;種々のフェノール類とヒドロキシベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、グリオキザール等の種々のアルデヒド類との縮合反応で得られる多価フェノール樹脂等の各種のフェノール樹脂類;BF錯体、スルホニウム塩類、イミダゾール類等の1種又は2種以上を用いることができる。また、上記エポキシ樹脂を多価フェノール化合物で硬化することもできる。
【0120】
上記エポキシ樹脂を含有する成型体用硬化性樹脂組成物の硬化においては、硬化促進剤を用いることができ、例えば、トリフェニルホスフィン、トリブチルヘキサデシルホスフォニウムブロマイド、トリブチルホスフィン、トリス(ジメトキシフェニル)ホスフィン等の有機リン化合物等の1種又は2種以上が好適である。上記硬化温度としては、70〜200℃が好ましい。より好ましくは、80〜150℃である。
【0121】
本発明の成型体用硬化性樹脂組成物の熱硬化性樹脂として、多価フェノール化合物を含有する場合は、硬化剤を用いて熱硬化することにより、硬化物とすることができる。上記硬化剤としては、エポキシ基を少なくとも2つ有する化合物(エポキシ樹脂系硬化剤ともいう。)を挙げることができ、上記エポキシ基を少なくとも2個有する化合物としては、1分子内に平均2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が好適であり、上記した各種の多官能エポキシ樹脂を用いることができる。
【0122】
上記多価フェノール化合物とエポキシ樹脂系硬化剤との配合質量比(多価フェノール化合物/エポキシ樹脂系硬化剤)としては、30/70以上となるようにすることが好ましく、また、70/30以下となるようにすることが好ましい。30/70未満であると、形成される硬化物の機械的物性等が低下する恐れがあり、70/30を超えると、難燃性が不充分となる恐れがある。より好ましくは、35/65以上であり、また、65/35以下である。上記硬化には硬化促進剤を使用してもよく、上記硬化促進剤としては、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類;2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルメチルアミン、DBU(1,8−ジアザビシクロ〔5.4.0〕−7−ウンデセン)、DCMU(3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素)等のアミン類;トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(ジメトキシフェニル)ホスフィン等の有機リン化合物等が好適である。
【0123】
本発明の樹脂組成物の熱硬化性樹脂として、重合性不飽和結合を有する化合物を含有する場合の硬化方法としては、活性エネルギー線の照射による硬化方法、熱による硬化方法が挙げられるが、本発明の樹脂組成物が200〜400nmに固有の分光感度を有しており、光潜在性ラジカル硬化触媒の不在下において、波長180〜500nmの紫外線又は可視光線を照射することによって重合させることができ、とりわけ、254nm、308nm、313nm、365nmの波長の光が硬化に有効であるので、活性エネルギー線の照射による硬化方法が好適である。また、本発明の樹脂組成物は、空気中及び/又は不活性ガス中のいずれにおいても硬化させることができる。
【0124】
上記重合性不飽和結合を有する化合物を含有する樹脂組成物は、上述した紫外線又は可視光線以外の活性エネルギー線の照射によっても硬化させることができ、活性エネルギー線としては、ラジカル性活性種を生成させることができるものであればよく、上述した紫外線又は可視光線の他に、電子線、α線、β線、γ線のような電離放射線、マイクロ波、高周波、赤外線、レーザー光線等が好適であり、ラジカル性活性種を発生させる化合物の吸収波長を考慮して適宜選択すればよい。
【0125】
上記波長180〜500nmの紫外線又は可視光線の光発生源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、水銀−キセノンランプ、エキシマーランプ、ショートアーク灯、ヘリウム・カドミニウムレーザー、アルゴンレーザー、エキシマーレーザー、太陽光等が好適である。上記波長180〜500nmの紫外線又は可視光線の照射時間としては、活性エネルギー線の波長照射量によって適宜設定すればよいが、0.1マイクロ秒〜30分が好ましく、0.1ミリ秒〜1分がより好ましい。
【0126】
上記活性エネルギー線の照射による硬化においては、硬化反応をより効率的に行うために、公知慣用の光潜在性ラジカル硬化触媒を添加して硬化させてもよい。上記光潜在性ラジカル硬化触媒の配合量としては、本発明の熱硬化性樹脂100質量部に対して、0.1質量部〜10質量部であることが好ましい。0.1質量部未満であると、光重合が効率的に進行しない恐れがあり、一方、10質量部を超えても、硬化速度の更なる向上効果はなく、逆に硬化が不充分となる恐れがある。
【0127】
上記光潜在性ラジカル硬化触媒としては、分子内結合開裂型の光潜在性ラジカル硬化触媒、分子内水素引き抜き型の光潜在性ラジカル硬化触媒等が挙げられる。上記分子内結合開裂型の光潜在性ラジカル硬化触媒としては、ジエトキシアセトフェノン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン(チバ・ガイギー社製「イルガキュア907」)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(メルク社製「ダロキュア1173」)、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・ガイギー社製「イルガキュア184」)、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン(メルク社製「ダロキュア1116」)、ベンジルジメチルケタール(チバ・ガイギー社製「イルガキュア651」)、オリゴ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−「4−(1−メチルビニル)フェニル「プロパン」(ラムベルティ社製「エサキュアーKIP100」)、4−(2−アクリロイル−オキシエトキシ)フェニル−2−ヒドロキシ−2−プロピルケトン(チバ・ガイギー社製「ZLI3331」等のアセトフェノン系、ベンゾイン、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインアルキル等のベンゾイン誘導体、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとベンゾフェノンとの混合物(チバ・ガイギー社製「イルガキュア500」)、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(BASF社製「ルシリンTPO」)、ビスアシルホスフィンオキサイド(チバ・ガイギー社製「CGI1700」)等のアシルホスフィンオキサイド系、ベンジル及びベンジル誘導体、メチルフェニルグリオキシエステル、3,3´,4,4´−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン(日本油脂社製「BTTB」)等が好適である。
【0128】
上記分子内水素引き抜き型光潜在性ラジカル硬化触媒としては、ベンゾフェノン、ο−ベンゾイル安息香酸メチル及びο−ベンゾイル安息香酸アルキル、4−フェニルベンゾフェノン、4,4´−ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4´−メチル−ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3´,4,4´−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3´−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等のチオキサントン系、ミヒラーケトン、4,4´−ジエチルアミノベンゾフェノン等のアミノベンゾフェノン系、10−ブチル−2−クロロアクリドン、2−エチルアンスラキノン、9,10−フェナンスレンキノン、カンファーキノン等が好適である。
【0129】
上記光潜在性ラジカル硬化触媒として用いることができるその他の化合物としては、2,2−ジメトキシ−1,2ージフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン及びこれらの誘導体、4−ジメチルアミノ安息香酸エステル、1,1−ジアルコキシアセトフェノン、ベンゾフェノン及びベンゾフェノン誘導体、ベンゾイル安息香酸アルキル、ビス(4−ジアルキルアミノフェニル)ケトン、ベンジル及びベンジル誘導体、ベンゾイン及びベンゾイン誘導体、ベンゾインアルキルエーテル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、チオキサントン及びチオキサントン誘導体、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−フェニルホスフィンオキサイド等が好適である。
【0130】
上記光重合開始剤光潜在性ラジカル硬化触媒としては、光カチオン重合開始剤を用いることもできる。上記光カチオン重合開始剤としては、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムホスフェート、p−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、p−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−クロルフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−クロルフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス[4−(ジフェニルスルフォニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロフォスフェート、ビス[4−(ジフェニルスルフォニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロアンチモネート、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe−ヘキサフルオロホスフェート、ジアリルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート等が好適である。これらは市場より容易に入手することができ、例えば、SP−150、SP−170(旭電化社製);イルガキュア261(チバ・ガイギー社製);UVR−6974、UVR−6990(ユニオンカーバイド社製);CD−1012(サトーマー社製)等が好適である。光カチオン重合開始剤としては、これらの中でも、オニウム塩を使用することが好ましい。また、オニウム塩としては、トリアリールスルホニウム塩及びジアリールヨードニウム塩のうち少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0131】
上記活性エネルギー線の照射による硬化においては、更に、光増感剤を併用することが好ましい。上記光増感剤の配合量は、本発明の樹脂組成物100質量%に対して、0.1〜20質量%であることが好ましい。0.1質量%未満であると、光重合が効率的に進行しない恐れがあり、20質量%を超えると、塗膜内部へ紫外線が透過するのを妨げ、硬化が不充分となる恐れがある。より好ましくは、0.5〜10質量%である。
【0132】
上記光増感剤としては、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2−ジメチルアミノ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(n−ブトキシ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸2−エチルヘキシル等のアミン類等が好適である。
上記重合性不飽和化合物を含有する樹脂組成物の硬化においては、上述した添加剤を更に添加して硬化してもよい。
本発明の成型体用硬化性樹脂組成物は、上述する硬化方法によって成型体を得ることができる。
本発明はまた、上述した成型体用硬化性樹脂組成物を成型してなる成型体でもある。
本発明の成型体の原料樹脂組成物、硬化方法等の好ましい形態は、それぞれ本発明の成型体用硬化性樹脂組成物、その硬化方法の好ましい形態と同様である。
【0133】
本発明は、熱硬化性樹脂を含有する成型体用硬化性樹脂組成物から成型体を製造する方法であって、上記製造方法は、1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物を更に必須成分として含有させた成型体用硬化性樹脂組成物を成型する工程を含む成型体の製造方法でもある。
本発明の成形体の製造方法の原料、反応条件等の好ましい形態は、本発明の成型体用硬化性樹脂組成物、成型体において上述した好ましい形態と同様である。
【0134】
本発明の成型体は、種々の光学特性に優れたものとなる。例えば、成型体の濁度としては、20%以下であることが好ましい。このように、上記樹脂組成物の硬化物の濁度が20%以下である樹脂組成物もまた、本発明の好ましい形態の一つである。より好ましくは18%以下であり、更に好ましくは15%以下である。上記成型体の濁度は、5%以下が好ましい。より好ましくは2%以下であり、更に好ましくは1%以下である。
透明性としては、成型体の可視光領域(波長が360〜780nmの領域)の光透過率が75%以上であることが好ましい。より好ましくは80%以上であり、更に好ましくは85%以上であり、特に好ましくは87%以上である。
【0135】
上記成型体において、成型体の屈折率・アッベ数は、適用される光学系の光学設計に応じて幅広い数値が求められる。なお、硬化物の光線透過率はJIS K7361−1に、濁度はJIS K7136に、屈折率・アッベ数はJIS K7142にそれぞれ準拠した方法で測定できる。
上記成型体のPCT(プレッシャークッカーテスト)後の吸湿率(30℃、相対湿度40%の空気中における飽和吸湿率)は、硬化条件により変化するが、硬化条件を最適化することにより.1.0%以下にすることが好ましい。より好ましくは0.5%以下であり、更に好ましくは0.2%以下である。
【0136】
上記成型体の耐熱性は、クラック発生等の外観の変化が全くなく、全光線透過率・濁度の変化率が20%以下であることが好ましい。より好ましくは15%以下であり、更に好ましくは10%以下である。
【0137】
上述のように成型体が優れた透明性等の光学特性を発揮することにより、光学用途、オプトデバイス用途、表示デバイス用途等の種々の用途に好適に用いることができる。具体的には、眼鏡レンズ、カメラレンズ、フィルター、回折格子、プリズム、光案内子、光ビーム集光レンズや光拡散用レンズ、ウォッチガラス、表示装置用のカバーガラス等の透明ガラスやカバーガラス等の光学用途;フォトセンサー、フォトスイッチ、LED(Light Emitting Diode)、発光素子、光導波管、合波器、分波器、断路器、光分割器、光ファイバー接着剤等のオプトデバイス用途;LCD(Liquid Crystal Display)や有機EL(Electro Luminescence)やPDP(Plasma Display Panel)等の表示素子用基板、カラーフィルター用基板、タッチパネル用基板、ディスプレイ保護膜、ディスプレイバックライト、導光板、反射防止フィルム、防曇フィルム等の表示デバイス用途等が好適である。
上記硬化物の形状としては、用途に応じて適宜設定することができ、特に限定されず、異形品等の成形体、フィルム、シート、ペレット等の形態も挙げられる。
【0138】
中でも、透明性等の光学特性に優れることから、レンズ成型等の用途に好適であり、微小光学系の用途等が特に好適である。微小光学系としては、携帯電話用、デジカメ用等の撮像レンズ、ピックアップレンズ等が挙げられる。このような成型体は、微細加工により調製することになるため、短時間で硬化が完了する。本発明の成型体用硬化性樹脂組成物においては、短時間で硬化を行う際にも離型性と透明性とを両立することができるものであるため、本発明の効果がより顕著に発揮されることになる。また、上述したように上記1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物の蒸発を抑制することができ、本発明の効果がより顕著に発揮されることになる。
【0139】
また、本発明の成型体用硬化性樹脂組成物は離型性に優れることから、単位体積に対する表面積の大きな硬化物が好ましい。硬化物における単位体積に対する表面積としては、例えば、(表面積)/(単位体積)=0.1mm/mm以上であることが好ましい。より好ましくは、1mm/mm以上であり、更に好ましくは、3mm/mm以上である。また、好ましい上限は、100mm/mmである。これにより、本発明の効果が顕著に発揮される。より好ましくは離型表面積(mm)/単位体積(mm)の比が、上記範囲にあるものである。
なお、上記離型表面積(mm)とは、樹脂組成物の硬化後、金型から取り出す前に、金型と硬化物とが接している面積を意味する。
上記体積に対する表面積の大きな硬化物としては、例えば、微小な硬化物、薄膜等が挙げられる。
【発明の効果】
【0140】
本発明の成型体用硬化性樹脂組成物、成型体及びその製造方法は、上述の構成よりなり、成型体が耐熱性等の基本性能に優れ、しかも、金型から取り出す際の離型性と透明性等の光学特性とを両立することができ、光学用途、オプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品材料、電気・電子部品材料等として有用な成型体用硬化性樹脂組成物、成型体及びその製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0141】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0142】
実施例1
成型体用硬化性樹脂組成物の調製
ガスインレット、冷却管、攪拌棒付きの四つ口フラスコに、熱硬化性樹脂として液状のエポキシ樹脂CELL−2021P(脂環式エポキシ樹脂、商品名、ダイセル化学工業社製)30部、EHPE−3150(脂環式エポキシ樹脂、商品名、ダイセル化学工業社製)20部、及び、オグソールEG210(芳香族エポキシ樹脂、商品名、大阪ガスケミカル株式会社製)50部と、離型剤としてステアリン酸0.5部とを仕込み、130℃でよく攪拌して均一にした。その後、70℃まで降温した。次いで、1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物として酢酸イソプロピル0.5部を投入し、均一に攪拌した。冷却後、微黄色で透明な粘凋性を有する液体を得た。
この液体を40℃に冷却した後、熱潜在性カチオン硬化触媒としてサンエイドSI−80L(商品名、三新化学工業社製)を全質量に対して0.6部となるように投入し、均一に混合した。
【0143】
成型体の調製
上記調製を行った樹脂組成物(以下、調製液ともいう。)に、必要に応じて50℃の熱を加えて減圧脱泡処理を行い、金型に注入して140℃で3分の硬化を行った。そして、硬化物を金型から剥離させて、成型体である250μm厚の注型板(塗膜)を得た。
この実施例1における樹脂組成物の組成を下記表3に示す。
【0144】
上記調製液及び成型体(注型板)を用いて、下記の方法により各種物性の測定を行った。
物性
<離型性>
本発明における成型体には、成型体の連続生産時に必要な条件として、副反応が生じる250℃以下の温度で短時間にある程度の材料硬度を達成することが要求される。そこで、上記調製液を、アプリケータを用いてSUS304基板上に高さ(厚み)1mmとなるように塗工し、140℃、2.5分の条件下で硬化した。そして、硬化した樹脂(塗膜)とSUS304基板との界面にカッター(エヌティー社製、本体型番:L−500、刃の型番:BL−150P)を4×10−2N/mの力で押し当てて硬化した樹脂を剥離させ、剥離のし易さを評価することにより、離型性の評価とした。
剥離強度4×10−2N/mの力は、SUS304基板上に形成された、高さ(厚み)1mm、長さ2cmの樹脂と、SUS304基板との界面に、1.5kgの荷重をカッターを用いて加えたときの値として算出している。なお、カッターの刃先の荷重が加わる面積は、0.04cmとした。また、塗膜の幅は2cmであり、離型表面積と単位体積の割合(表面積)/(体積)は、1mm/mmである。
離型性の評価は、下記の8段階で行った。
8(強い、はがすことが困難)>7>6>5>4>3>2>1(弱い、容易に剥離)
すなわち、上記試験においては、数値が低い程、離型性に優れている。また、上記評価のランクが7以下の数値であれば、数μmオーダーでの精密な表面形状が要求されるレンズ等の光学製品として光学用途に適用可能なレベルであり、該光学製品の連続製造が可能なレベルであると判断した。
【0145】
<透明性>
透明性は、硬化前の樹脂組成物(調製液)と硬化後の樹脂組成物(硬化物)とについて、濁度計(日本電色社製、NDH2000)を用いて、25℃におけるヘイズ値(透過率)を測定し、下記のように5段階で評価をした。なお、目視にて明らかに光学用途として不適な濁りが観察されたものは、調製液については液濁、硬化物については固濁と、下記評価と合わせて下記表中に記載した。また、上記評価のランクが4以下の数値であれば、数μmオーダーでの精密な表面形状が要求されるレンズ等の光学製品として光学用途に適用可能なレベルであると判断した。
(調製液):光路長1cmのセルに上記調製液を注ぎ入れ、上記濁度計を用いてヘイズを測定した。
(硬化物):上記した250μm厚の成型体のヘイズを、上記濁度計を用いて測定した。
(評価):上記のように測定した調製液及び硬化物の両方のヘイズ値を考慮して、下記のように5段階で透明性の評価を行った。
5(濁っている)>4>3>2>1(透明)
【0146】
<粘度>
粘度の測定は、硬化剤を加える前の樹脂組成物について、R/Sレオメーター(米国ブルックフィールド社製)を用いて、40℃、回転速度D=1/sの条件下で行った。なお、粘度20Pa・s以上では、RC25−1の測定治具を使用し、粘度20Pa・s未満では、RC50−1の治具を使用した。
また、回転速度D=1/s時点の粘度が測定できないものについては、回転速度D=5〜100/sの値を外挿して、樹脂組成物の粘度として評価した。
【0147】
<屈折率、アッベ数の評価>
屈折率及びアッベ数の測定は、JIS K7142に準拠した方法で、下記の方法によりそれぞれ測定を行った。
屈折率は、上記硬化物(250μm厚の成型体)について、屈折率計(アタゴ社製、DR−M2)を用いて、測定波長を486nm、589nm、656nmとして、20℃の条件下で測定した。
アッベ数は、上記硬化物(250μm厚の成型体)について、屈折率計(アタゴ社製、DR−M2)を用いて、20℃の条件下で測定した。
上記した各種物性の測定及び評価結果を、下記表4に示す。
【0148】
実施例2〜23
実施例2〜15、実施例17〜23は、特定の沸点を持つ化合物に加えて特定の有機基を持つ珪素化合物を用い、樹脂組成物の組成を表3及び表5に示すようにした。珪素化合物は、エポキシ樹脂と同様に仕込み、130℃で良く攪拌して均一にした。そして、それ以外は実施例1と同様にして成型体用硬化性樹脂組成物及び成型体の調製を行って、上記した各種物性を測定した。
また、実施例16は、特定の有機基を持つ珪素化合物を用いずに樹脂組成物の組成を表5に示すようにした。そして、それ以外は実施例1と同様にして成型体用硬化性樹脂組成物及び成型体の調製を行って、上記した各種物性を測定した。
実施例2〜23において、得られた評価結果を、下記表6及び表8に示す。
【0149】
比較例1〜16
本発明における特定の沸点を有する化合物を用いずに、樹脂組成物の組成を表4に示すようにした。そして、それ以外は実施例1と同様にして成型体用硬化性樹脂組成物及び成型体の調製を行って、上記した各種物性を測定した。得られた評価結果を、下記表7に示す。
【0150】
実施例10、12、及び、20の成型体(硬化条件:1mm厚の樹脂組成物を140℃、2.5分で硬化した。)について、熱分解GC−Mass(ガスクロマトグラフ質量)スペクトル測定を行った。測定に使用した装置及び測定条件を、下記に示す。
(装置)
GC−Mass:サーモクエスト社製 Polaris Q
熱分解装置:フロンティアラボ社製 PY2020D
(条件)
熱分解温度:260℃、ガス:He 1ml/mm
カラム(0.25mm内径×30m、膜厚0.25μm、TRACETM TR−5MS GCカラム)
(結果)
実施例10、12、及び、20の成型体には、ドデカノール、ステアリン酸、エポキシ分解物のピークが観測された。
また、元素分析によりケイ素が確認できた。
この測定結果より、実施例10、12、及び、20の成型体中には、本発明における特定の化合物、離型剤、及び、熱硬化性樹脂が含まれていることが明らかになった。また、実施例実施例10、12、及び、20の成型体は、表6及び表8から明らかなように、いずれも離型性に優れている。
【0151】
実施例24〜36、参考例1〜3
特定の沸点を持つ化合物の種類を表9に示すように変更し、樹脂組成物の組成を表9に示すようにした。そして、それ以外は実施例1と同様にして成型体用硬化性樹脂組成物及び成型体の調製を行って、上記した各種物性を測定した。得られた評価結果を、下記表9に示す。
【0152】
比較例17
特定の沸点を持つ化合物に代えて、1気圧下で260℃を超える沸点を持つ化合物であるヘキサデカノール(1−ヘキサデカノール、沸点344℃)を用い、樹脂組成物の組成を表9に示すようにした。そして、それ以外は実施例1と同様にして成型体用硬化性樹脂組成物及び成型体の調製を行って、上記した各種物性を測定した。得られた評価結果を、下記表9に示す。
【0153】
実施例37、38
特定の有機基を持つ珪素化合物としてシロキサン化合物を用い、樹脂組成物の組成を表10に示すようにした。シロキサン化合物は、実施例37ではBYK−333(ビックケミー・ジャパン社製、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン溶液)を用い、実施例38ではBYK−307(ビックケミー・ジャパン社製、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)を用いた。これらのシロキサン化合物は、エポキシ樹脂と同様に仕込み、130℃で良く攪拌して均一にした。
そして、それ以外は実施例1と同様にして成型体用硬化性樹脂組成物及び成型体の調製を行って、上記した各種物性を測定した。得られた評価結果を、下記表11に示す。
【0154】
実施例39
オキセタン化合物を配合して樹脂組成物の組成を表10に示すようにし、下記のようにして、樹脂組成物の調製を行った。
オクタノール0.5部、オグソールEG−210(大阪瓦欺社製、フルオレンエポキシ樹脂)50部、JER828EL(ジャパンエポキシレジン社製、ビスフェノールAエポキシ樹脂)45部、EHO(宇部興産株式会社製、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン)5部、ステアリン酸0.5部を100℃下で混合を行った。冷却後、サンエイドSI−80L(三新化学工業社製、熱酸発生剤)1部を加えて自公転式遠心混合装置(シンキー社製、あわとり練太郎)を用いて混合脱泡を行うことによって、樹脂組成物を作成した。この樹脂組成物を用いて、上記と同様に成型体を調製し、各種物性等を測定した。
得られた測定結果を表11に示す。
【0155】
実施例40
特定の有機基を持つ珪素化合物としてシロキサン化合物であるBYK−333(ビックケミー・ジャパン社製、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン溶液)0.1部を用い、樹脂組成物の組成を表10に示すようにした。そしてそれ以外は実施例39と同様にして成型体を調製し、各種物性等を測定した。
得られた測定結果を表11に示す。
【0156】
実施例41
オキセタン樹脂、ラジカル重合発生剤、及びシロキサン化合物を加えて樹脂組成物の組成を表10に示すようにし、下記のようにして成型体を調製し、各種物性等を測定した。
オクタノール0.5部、オグソールEA−0200(大阪ガスケミカル社製、フルオレンアクリレート)50部、JER828EL(ジャパンエポキシレジン社製、ビスフェノールAエポキシ樹脂)30部、Eternacoll@OXBP(宇部興産社製、オキセタン樹脂)20部、及び、ステアリン酸0.5部を100℃下で混合を行った。冷却後、サンエイドSI−80L(三新化学工業社製、熱酸発生剤)0.5部、BYK−333(ビックケミー・ジャパン社製、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン溶液)0.1部及び、パープチルO(日油社製、ラジカル発生剤)1部を加えて、自公転式遠心混合装置(シンキー社製、あわとり練太郎)を用いて混合脱泡を行うことによって、樹脂組成物を作成した。
得られた樹脂組成物を用いて、上記実施例1と同様に成型体を調製し、各種物性等を測定した。なお、樹脂組成物の硬化は、窒素雰囲気下で行った。
得られた測定結果を表11に示す。
【0157】
実施例42
芳香族エポキシ樹脂(JER828EL、ジャパンエポキシレジン社製、ビスフェノールAエポキシ樹脂)、オキセタン樹脂、及び、熱潜在性カチオン硬化触媒(サンエイドSI−80L、三新化学工業社製)を配合せず、樹脂組成物の組成を表10に示すようにした。そしてそれ以外は、実施例41と同様にして、樹脂組成物及び成型体の調製を行い、各種物性等を測定した。なお、樹脂組成物の硬化は、窒素雰囲気下で行った。
得られた測定結果を表11に示す。
【0158】
実施例43
ラジカル重合開始剤及び熱潜在性カチオン硬化触媒(サンエイドSI−80L、三新化学工業社製)を配合せず、スルホニウム塩SP−172(商品名、旭電化社製)及び重合開始剤(イルガキュア189溶液、チバ・ガイギー社製)を加えて、樹脂組成物の組成を表10に示すようにした。そしてそれ以外は、実施例41と同様にして、樹脂組成物及び成型体の調製を行い、各種物性等を測定した。ただし、樹脂組成物の硬化は、窒素雰囲気下で光硬化により行った。すなわち、高圧水銀ランプを光源とする露光機(MA−60F、ミカサ社製)を用いて、照度10mW/cmで15分間、露光エネルギー9J/cmの紫外線照射により行った。
得られた測定結果を表11に示す。
【0159】
比較例17
特定の沸点を持つ化合物であるオクタノールを配合せずに、樹脂組成物の組成を表10に示すようにした。そしてそれ以外は実施例39と同様にして成型体を調製し、各種物性等を測定した。
得られた測定結果を表11に示す。
【0160】
比較例18
特定の沸点を持つ化合物であるオクタノール、及び、オキセタン化合物を配合せずに、樹脂組成物の組成を表10に示すようにした。そしてそれ以外は実施例39と同様にして成型体を調製しようとしたが、樹脂組成物は硬化しなかった。
得られた測定結果を表11に示す。
【0161】
なお、下記表中、「融点」とは、成型体用硬化性樹脂組成物の融点を意味する。また、()内の数値は、質量部を表す。更に、略号、商品名等は、下記のものを表す。
(1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物)
MEK:メチルエチルケトン
(熱潜在性カチオン硬化触媒)
SI−80L:サンエイドSI−80L(熱潜在性カチオン硬化触媒〔芳香族スルホニウム塩〕、商品名、三新化学工業株式会社製)
SI−100L:サンエイドSI−100L(熱潜在性カチオン硬化触媒〔芳香族スルホニウム塩〕、商品名、三新化学工業株式会社製)
【0162】
(熱硬化性樹脂)
CELL−2021P(脂環式エポキシ樹脂、商品名、ダイセル化学工業社製)
セロキサイド2081(脂環式エポキシ樹脂、商品名、ダイセル化学工業社製)
EHPE−3150(脂環式エポキシ樹脂、商品名、ダイセル化学工業社製)
オグソールEG210(芳香族エポキシ樹脂(フルオレンエポキシ化合物)、商品名、大阪ガスケミカル株式会社製)
オグソールPG100(芳香族エポキシ樹脂(フルオレンエポキシ化合物)、商品名、大阪ガスケミカル株式会社製)
オグソールEA−0200(フルオレンアクリレート、商品名、大阪ガスケミカル株式会社製)
JER828EL(芳香族エポキシ樹脂(ビスフェノールAエポキシ樹脂)、商品名、ジャパンエポキシレジン社製)
(アリール基及び/又ポリアルキレングリコール鎖を有する珪素化合物)
KF−56(ポリシロキサンの側鎖の一部がフェニル基であるストレートシリコーンオイル〔離型剤〕、重量平均分子量1.75×10、商品名、信越シリコーン社製)
KF−6004(両末端にポリオキシエチレン鎖とポリオキシプロピレン鎖とを有する有機基を導入した変性シリコーンオイル〔離型剤〕、重量平均分子量7.7621×10、商品名、信越シリコーン社製)
HIVAC−F−4(ポリシロキサンの側鎖の一部がフェニル基であるストレートシリコーンオイル〔離型剤〕、重量平均分子量1.51×10、商品名、信越シリコーン社製)
BYK−333(商品名、ビックケミー・ジャパン社製、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン溶液〔シロキサン化合物〕)
BYK−307(商品名、ビックケミー・ジャパン社製、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン〔シロキサン化合物〕)
【0163】
(熱硬化性樹脂に溶解しない珪素化合物)
KS−707(溶液型シリコーンオイル、商品名、信越シリコーン社製)
KF−96(オイル型シリコーンオイル、商品名、信越シリコーン社製)
KF−412(オイル型シリコーンオイル、商品名、信越シリコーン社製)
KF−53(ポリシロキサンの側鎖の一部がフェニル基であるストレートシリコーンオイル、商品名、信越シリコーン社製)
KF−54(商品名、ポリシロキサンの側鎖の一部がフェニル基であるストレートシリコーンオイル、重量平均分子量2.27×10、信越シリコーン社製)
X−22−169AS(商品名、両末端に脂環式エポキシ骨格を導入した両末端型/脂環式エポキシ変性シリコーンオイル、重量平均分子量6.85×10、信越シリコーン社製)
X−22−163(商品名、両末端に脂肪族エポキシ骨格を導入した両末端型/エポキシ変性シリコーンオイル、重量平均分子量1.15×10、信越シリコーン社製)
SF 8421(商品名、シリコーンオイル、東レ・ダウ・コーニングシリコーン社製)
【0164】
(オキセタン化合物)
EHO(商品名、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、宇部興産株式会社製)
OXBP(商品名、4,4´−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル、オキセタン樹脂、宇部興産株式会社製)
(ラジカル硬化触媒)
パープチルO(商品名、日油社製、ラジカル発生剤)
(光潜在性カチオン硬化触媒)
SP−172(商品名、旭電化社製)
(光潜在性ラジカル硬化触媒)
イルガキュア189(商品名、チバ・ガイギー社製)
(分散剤)
プラクセルFM−1(ダイセル化学工業株式会社製)
【0165】
【表3】

【0166】
【表4】

【0167】
【表5】

【0168】
【表6】

【0169】
【表7】

【0170】
【表8】

【0171】
【表9】

【0172】
【表10】

【0173】
【表11】

【0174】
上述した実施例及び比較例から、本発明の数値範囲の臨界的意義については、次のようにいえることがわかった。すなわち、上記成型体用硬化性樹脂組成物は、1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物を更に必須成分として含有することにより、離型性と透明性等の光学特性とを両立する有利な効果を発揮し、また、その効果が顕著であることがわかった。更に、熱硬化性樹脂として耐熱性等の基本性能に優れたエポキシ樹脂等を使用していることから、上記成型体用硬化性樹脂組成物は上記特性に加えて耐熱性等の基本性能をも兼ね備えていることが明らかである。
【0175】
数値範囲の上限の技術的意義については、本発明における1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物である酢酸イソプロビルを使用する実施例1と、1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物を使用しない比較例2、及び、1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物を使用せず、代わりに1気圧下で260℃を超える沸点を持つ化合物であるヘキサデカノールを使用した比較例17とを比較すると明らかである。なお、実施例1、比較例2、及び、比較例17は、使用する硬化性樹脂の組成や、離型性としてステアリン酸を使用する点においては共通する。
実施例1では、離型性が5であるが、それに対して、比較例2及び比較例17では、いずれも離型性が8である。
このように、実施例1では、成型体の連続製造が可能であるレベルであるが、比較例2及び比較例17では、成型体を連続製造することができない。
【0176】
より詳しくは、実施例27、30〜34と比較例2とを比較すると、特定の沸点を持つ化合物であるオクタノールが含まれていない比較例2では、離型性は8であり、成型体を連続製造することができない。これに対し、オクタノールが0.01質量%含まれている実施例34は、離型性が7であり離型性が向上しており、数μmオーダーでの精密な表面形状が要求されるレンズ等の光学製品ように光学用途に適用可能なレベルであり、該光学製品の連続製造が可能なレベルであった。また、オクタノールが樹脂組成物100質量%に対して0.1質量%含まれている実施例33では、離型性が4まで向上しており、成型体の連続製造が良好に行えるレベルとなっている。更に、オクタノールが樹脂組成物100質量%に対して0.5質量%含まれている実施例27では、離型性は2まで向上しており、3質量%含まれている実施例31では、離型性が1まで向上しており、光学用途等においても好適に利用できる程度の離型性を有している。
【0177】
なお、オクタノールが樹脂組成物100質量%に対して10質量%含まれている参考例1及び6質量%含まれている参考例2では、離型性の評価に(気泡)とあるが、この成型体中における気泡とは、金型成型時において樹脂組成物中にある気体(空気)が、脱気しきれなかったことによって生じたものである。ただし、このような気泡が成型体中に発生しても、充分な離型性を有することで成型体の連続製造が可能である限り、成型体の用途によっては使用が可能である。
また、特定の沸点を有する化合物が含まれていない比較例15において離型性が2という評価が得られているが、透明性に劣っており、上記した光学用途等に利用できるものではない。
【0178】
実施例39、40は、硬化性樹脂として芳香族エポキシ樹脂(フルオレンエポキシ樹脂及びビスフェノールAエポキシ樹脂)を主成分とするが、オキセタン化合物を併用しているために、いずれも屈折率が1.6と高く、しかも硬化性に優れる結果となった。また、実施例41、43は、硬化性樹脂として芳香族エポキシ樹脂(ビスフェノールAエポキシ樹脂)とフルオレン(メタ)アクリレートとを併用しているため、いずれも屈折率が1.6と高く、しかも硬化性に優れる結果となった。
これらの実施例39、40、41、及び、43において得られた硬化物は、1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物を含む樹脂組成物からなるために、いずれも離型性の評価が3以下のランクと優れた離型性を有するものであり、しかも透明性にも優れるものであった。
また、実施例40は、樹脂組成物に更にオキシアルキレン鎖を有する珪素化合物(シロキサン化合物)を含有させているために、実施例39に比べて離型性に優れる結果となった。
比較例19の樹脂組成物は、硬化性樹脂が芳香族エポキシ樹脂(フルオレンエポキシ樹脂及びビスフェノールAエポキシ樹脂)のみからなるが、上記した硬化条件、すなわち、140℃で3分という短時間の加熱では、充分に硬化しない結果となった。
【0179】
これに対し比較例18は、樹脂組成物に硬化性樹脂として比較例19と同様の芳香族エポキシ樹脂に少量のオキセタン化合物を含有させた結果、硬化性が改善され、屈折率が1.6と高い屈折率を有する硬化物が得られた。しかし、離型性の評価はランクが8であり、レンズ等の光学用途に適用するには充分とは言えない結果であり、また、連続成型に供すには問題のあるレベルであった。
【0180】
実施例41〜43は、硬化性樹脂としてフルオレン(メタ)アクリレートを用いている為に、硬化性に優れ、屈折率も1.6以上と高いが、硬化性樹脂として芳香族エポキシ樹脂を併用している実施例41、43は、実施例42に比べて樹脂組成物の粘度が低い為に、業性に優れるものであった。また、離型性の評価はランク1であり、最高ランクであった。
【0181】
上記のことから、本発明における硬化性樹脂組成物は、成型体を工業的に生産して光学用途、オプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品材料、電気・電子部品材料等の用途において使用することができるという際立った効果を奏するものであるということが明らかである。
【0182】
なお、上述した実施例及び比較例では、離型剤としてステアリン酸を使用しているが、離型剤である限り、樹脂組成物の表層により速く移行されることにより、離型剤が有する離型作用をより充分に発揮することができる機構は同様である。したがって、離型剤に対して、260℃以下の沸点を持つ化合物を含有させれば、本発明の有利な効果を発現することは確実であるといえる。少なくとも、離型剤として260℃を超える沸点を持つ化合物を用いて成型体を調製する場合においては、上述した実施例及び比較例で充分に本発明の有利な効果が立証され、本発明の技術的意義が裏付けられている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂を含有する成型体用硬化性樹脂組成物であって、
該成型体用硬化性樹脂組成物は、1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物を必須成分として含有することを特徴とする成型体用硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記化合物の含有量は、成型体用硬化性樹脂組成物100質量%に対して、0.01〜5質量%であることを特徴とする請求項1に記載の成型体用硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記成型体用硬化性樹脂組成物は、離型剤を更に含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の成型体用硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記離型剤は、1気圧下で260℃を超える沸点を持つ化合物を含むことを特徴とする請求項3に記載の成型体用硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記離型剤は、アルコール類、カルボン酸類、カルボン酸エステル類、カルボン酸塩類及びカルボン酸無水物類からなる群より選ばれる少なくとも1種であって、かつ、総炭素数が13以上である化合物を含むことを特徴とする請求項3又は4に記載の成型体用硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記離型剤は、50℃で固体状であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の成型体用硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記離型剤は、ポリシロキサン化合物を含むことを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の成型体用硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
前記離型剤は、重量平均分子量が500以上、10万以下である物質を含むことを特徴とする請求項3〜7のいずれかに記載の成型体用硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
前記熱硬化性樹脂は、カチオン硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の成型体用硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
前記成型体用硬化性樹脂組成物は、熱潜在性カチオン硬化触媒を更に含有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の成型体用硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の成型体用硬化性樹脂組成物を成型してなることを特徴とする成型体。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の成型体用硬化性樹脂組成物から得られた成型体であって、該成型体は、1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物を含むことを特徴とする成型体。
【請求項13】
熱硬化性樹脂を含有する成型体用硬化性樹脂組成物から成型体を製造する方法であって、該製造方法は、1気圧下で260℃以下の沸点を持つ化合物を必須成分として含有させた成型体用硬化性樹脂組成物を成型する工程を含むことを特徴とする成型体の製造方法。

【公開番号】特開2009−256585(P2009−256585A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247571(P2008−247571)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】