説明

成型用積層ハードコートフィルム及びその製造方法、並びに樹脂成型品の製造方法

【課題】成型性、耐擦傷性、及び密着性がいずれも良好な成型用積層ハードコートフィルムを提供する。
【解決手段】成型用積層ハードコートフィルム1は、基材フィルム11上に、活性エネルギー線硬化性樹脂を含有するハードコート層12及び保護フィルム13を順に設けてなる。ハードコート層12は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を活性エネルギー線硬化性樹脂の100重量部に対して1重量部〜10重量部の範囲で含有する。この成型用積層ハードコートフィルム1は、150℃以上の加熱処理した後、23℃、50%RHの雰囲気下における伸び率が30%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インモールド成型法や真空成型法による樹脂成型品の製造に用いられる成型用積層ハードコートフィルム及びその製造方法、並びに樹脂成型品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機等の携帯情報端末機器、ノート型パソコン、家電製品、自動車内外装部品などには樹脂成型品が多く用いられている。これらの樹脂成型品は、プラスチック樹脂を成型後にその意匠性を高めるため、通常その表面には印刷等による加飾を施している。従来、樹脂成型品への加飾方法としては、例えば射出成型等による3次元形状の樹脂成型品の表面に、着色塗料を塗装し、またはスクリーン印刷を施していた。さらに製品としての表面保護のためハードコート材料のスプレーやディッピングによりクリアハードコートを施す方法が行われていた。しかし、このような従来の加飾方法は、意匠性の高い加飾を行うことが困難であること、スプレー塗装などでは使用する塗料等に含まれる揮発性溶剤などの化学物質による作業環境への影響の懸念から、これに替わる方法として、フィルムの印刷や塗布により図柄やハードコート層を設けた加飾フィルムを用い、樹脂成型物の表面に設けるインモールド成型が普及してきた。
【0003】
インモールド成型法の一つであるインモールド転写は(In-moldDecoration:以下本明細書においては、「IMD法」と略称する。)、基材フィルムの片面にハードコート層や図柄層、接着層等を積層した転写箔が形成された加飾フィルムを、射出成型用金型の内部に保持し、射出成型と同時に転写箔を樹脂成型物の表面へ転写する技術である。このIMD法の場合、加飾フィルムのハードコート層や図柄層の支持体である基材フィルムは製品としては最終的に剥離され、樹脂成型物表面へは残らない。
【0004】
また、インモールド成型法のうちのもう一つの方法であるインモールドラミネーション(In-mold Lamination:以下本明細書においては「IML法」と略称する。)は基材フィルムの片面にハードコート層を、もう一方の面に図柄層や接着層等を形成した加飾フィルムを射出成型用金型の内部に保持し、射出成型と同時に加飾フィルムを樹脂成型物表面へ接着する技術である。IML法の類似法としてフィルムインサート成型があり、加飾フィルムを加熱(予備加熱)してから金型により加飾フィルムの予備成型物を得てから、次工程として射出成型用金型に保持し、射出成型により予備成型した加飾フィルム成型物と樹脂成型物とを接着し、一体化させる方法である。このIML法では、加飾フィルムは樹脂成型物と一体化し、上記IMD法と比べると深絞りの加飾成型物を製造できる点が特徴である。
【0005】
また、加飾フィルムを利用した成型方法として、上記インモールド成型法の他に、真空成型法がある。この真空成型法は、真空下で、加飾フィルムを加熱(予備加熱)してから予め作製した樹脂成型物と接触させ、フィルム両面にかかる空気圧差により加飾フィルムを伸ばしながら樹脂成型物の表面に貼り合わせる方法である。この真空成型法では、インモールド成型のような金型で挟み込む機械的な強い力でなく弱い空気圧しか働かないため、加飾フィルムを成型物の表面形状に追従させるには、フィルムの軟化温度より十分に高い温度で予備加熱を行う必要がある。予備加熱の温度が低すぎると、深絞りの3次元形状を持つ樹脂成型物へ加飾フィルムを貼り合わせる場合では、フィルムの伸ばされ方が不十分となり、例えば樹脂成型物が凹んだ90°の曲げ部分では、加飾フィルムを貼合してもシャープな曲げとならず浅い丸みを帯びた形状となり、樹脂成型物の本来の形状を損なう。また、加飾フィルムの基材フィルムの樹脂組成種により適切な予備加熱温度を選択する必要があり、二軸延伸のポリエステルフィルムを用いる場合は、ポリカーボネートやアクリル樹脂の基材フィルムに比べ硬いため、特に高温の予備加熱(150〜200℃程度)が必要とされる。
【0006】
以上のような加飾フィルムを利用した成型方法に用いられる加飾フィルムとして、種々の構成が従来提案されている(例えば特許文献1〜3など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−430034号公報
【特許文献2】特開2007−256485号公報
【特許文献3】特開2009−148438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の成型方法に用いられる加飾フィルムにおいては、主に次のような特性が要求される。
まず第1に成型性が必要とされる。つまり、3次元成型に追従する十分な伸長性と、伸ばされてもハードコート層にクラック等が入らないことが重要である。特に上記の深絞り成型が可能なIML法や真空成型法に用いる場合、成型性が特に良好であることが要求される。とりわけ、真空成型法の場合、成型時に高温予備加熱を行う場合には、加熱前は良好な伸長性を有していても、予備加熱によりハードコート層の熱硬化が進行してしまい伸長性が大きく劣化する問題がある。
【0009】
第2に表面硬度(鉛筆硬度、耐擦傷性)が必要とされる。上記のIML法や真空成型法の場合、加飾フィルムは樹脂成型物と一体化しハードコート層を最表面に配置し、樹脂成型物の表面保護機能を持たせる必要がある。そのためには、高い表面硬度が必要とされるが、一般にハードコート層の硬さと伸長性とはトレードオフの関係にあり、両者の特性を両立させることが従来の課題となっていた。
【0010】
第3に基材フィルムとハードコート層との密着性が必要とされる。密着性が悪いと、成型時に膜剥がれ等の不具合が発生する。
また、以上の他にも、巻取り加工適性が必要とされる。加飾フィルムは、その製造後、巻き取った状態で保管されるため、ハードコート層が崩れることなく巻取り・保管ができる程度の保持力(凝集力)が要求される。
ところが、本発明者の検討によると、上記特許文献等に提案されている従来の加飾フィルムは、いずれも上述の特性がバランス良く得られないという問題のあることが判明した。
【0011】
そこで、本発明の目的は、成型性、耐擦傷性、および密着性がいずれも良好である成型用積層ハードコートフィルム及びその製造方法、並びにこの積層ハードコートフィルムを用いる樹脂成型品の製造方法を提供することである。特に、成型時に高温予備加熱を行う真空成型法に用いるのに好適な成型用積層ハードコートフィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を達成するために鋭意検討した結果、基材フィルム上に、活性エネルギー線硬化性樹脂を含有するハードコート層を設けてなる成型用積層ハードコートフィルムであって、前記ハードコート層は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を前記活性エネルギー線硬化性樹脂の100重量部に対して1重量部〜10重量部の範囲で含有し、前記積層ハードコートフィルムは、150℃以上の加熱処理した後、23℃、50%RHの雰囲気下における伸び率が30%以上であること(請求項1の発明)により前記課題を解決できることを見出した。
【0013】
ここで、前記基材フィルムとしては、伸長時応力(100%伸長時応力=F100)が、常温(23℃)では、50MPa<F100<135MPaの範囲にある易成型二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムであることが好ましい(請求項2の発明)。
【0014】
また、本発明の成型用積層ハードコートフィルムは、前記ハードコート層の前記基材フィルムとは反対側に保護フィルムを設けてなり、前記保護フィルムは前記ハードコート層から剥離可能である構成とすることが好ましい(請求項3の発明)。
【0015】
また、本発明は、上記成型用積層ハードコートフィルムの好適な製造方法についても提供するものである。すなわち、基材フィルムの一方の面に、少なくとも活性エネルギー線硬化性樹脂、重合開始剤及びヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有する塗料組成物を塗工、乾燥してハードコート層を形成し、必要に応じ前記ハードコート層に対して活性エネルギー線を照射し、しかる後、前記ハードコート層の前記基材フィルムとは反対側に保護フィルムを積層することを特徴とする成型用積層ハードコートフィルムの製造方法である(請求項4の発明)。
【0016】
また、上記本発明の製造方法により得られた成型用積層ハードコートフィルムは、150℃以上の加熱処理した後、23℃、50%RHの雰囲気下における伸び率が30%以上である(請求項5の発明)。
【0017】
また、本発明は、上記成型用積層ハードコートフィルムを用いる樹脂成型品の製造方法についても提供するものである。すなわち、請求項1乃至3のいずれかに記載の成型用積層ハードコートフィルム、あるいは、請求項4又は5に記載の成型用積層ハードコートフィルムの製造方法により得られる成型用積層ハードコートフィルムを用いる樹脂成型品の製造方法であって、前記積層ハードコートフィルムに必要に応じ印刷等による加飾層を形成した後、次いでその上に接着層を形成した後に、前記積層ハードコートフィルムに150℃以上の予備加熱を施し、次いで前記積層ハードコートフィルムを成型により樹脂成型体と一体化させ、しかる後、前記樹脂成型体と一体化させた前記積層ハードコートフィルムに対し活性エネルギー線による後露光を行うことを特徴とする樹脂成型品の製造方法である(請求項6の発明)。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、成型性、耐擦傷性、および密着性がいずれも良好である成型用積層ハードコートフィルムを提供することができる。
また、本発明によれば、上記成型用積層ハードコートフィルムの好適な製造方法を提供することができる。
本発明によれば、特に成型時に高温予備加熱を行う真空成型法に用いるのに好適な成型用積層ハードコートフィルム及びその製造方法を提供することができる。
【0019】
また、本発明によれば、上記積層ハードコートフィルムを用いることにより、例えば光沢、深みのある、意匠性の高い樹脂成型品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の成型用積層ハードコートフィルムの一実施の形態を示す層構成の断面図である。
【図2】加飾層を設けた成型用積層ハードコートフィルムの層構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
[成型用積層ハードコートフィルム]
まず、本発明の成型用積層ハードコートフィルムについて説明する。
図1は本発明の成型用積層ハードコートフィルムの一実施の形態を示す層構成の断面図である。
図1に示す本発明の成型用積層ハードコートフィルム1においては、基材フィルム11上に、ハードコート層12を設け、さらにこのハードコート層12の上に、保護フィルム13を設けた構成となっている。
【0022】
本発明に用いることのできる上記基材フィルム11としては、特に限定されないが、熱成型可能な材料であって、伸長時応力が低く、弱い力で伸ばすことが可能な材料であることが好ましい。本発明においては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、アクリルフィルム、ポリカーボネート(PC)フィルムなどを好ましく使用することができる。上記ポリエチレンテレフタレートフィルムの場合、汎用の二軸延伸PETフィルムを用いてもよいが、より良好な成型性を得るためには、易成型二軸延伸PETフィルムを用いることが特に好ましい。この易成型二軸延伸PETフィルムは、熱軟化温度が低く、弱い力で伸ばすことができ、しかも比較的安価な材料である。易成型二軸延伸PETフィルムの伸長時応力(100%伸長時応力=F100)は、常温では、50MPa<F100<135MPaの範囲である。F100値が135MPaより大きいと高温予備加熱したとしても成型時の伸びが不十分となり樹脂成型物の表面形状に追従できず、また樹脂成型物へ追従できたとしても、基材フィルムを伸ばした残留応力のため、樹脂成型物と貼合した成型用積層フィルムの全体が反り返る「戻り」が生じてしまう。また、F100値が50MPaより小さいと、腰のない柔らかいフィルムとなりハードコート層の鉛筆硬度の低下や、成型作業時のハンドリング性に支障がある。
【0023】
また、上記アクリルフィルム、ポリカーボネート(PC)フィルムは、いずれも無延伸フィルムで、いずれの成型法にも好適に利用することができる。
基材フィルム11の厚さについても特に制限はないが、例えば25μm〜150μm程度が使用される。例えばIMD法には、50μm以下程度の薄手のものが好ましく使用され、真空成型法やIML法には、100μm以上程度の厚手のものが好ましく使用される。
【0024】
上記ハードコート層12に含まれる樹脂としては、本発明においては、被膜を形成する樹脂であれば特に制限なく用いることができるが、特にハードコート層表面に硬度(鉛筆硬度、耐擦傷性)を付与し、また活性エネルギー線の露光量によって架橋度合を調節することが可能であり、ハードコート層12の伸長性と硬度の両者の調節が可能になるという点で、活性エネルギー線硬化性樹脂を好ましく用いることができる。
【0025】
本発明に用いられる活性エネルギー線硬化性樹脂は、活性エネルギー線(例えば紫外線、電子線等)を照射することによって硬化する透明な樹脂であれば、特に限定されるものではなく、例えば、ウレタンアクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂等の中から適宜選択することができる。活性エネルギー線硬化性樹脂として好ましいものは、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する紫外線硬化可能な多官能アクリレートからなるものが挙げられる。分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する紫外線硬化可能な多官能アクリレートの具体例としては、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のポリオールポリアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルのジアクリレート、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルのジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルのジ(メタ)アクリレートなどのエポキシ(メタ)アクリレート、多価アルコールと多価カルボン酸及び/またはその無水物とアクリル酸とをエステル化することによって得ることができるポリエステル(メタ)アクリレート、多価アルコール、多価イソシアネート及び水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させることによって得られるウレタン(メタ)アクリレート、ポリシロキサンポリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0026】
前記の紫外線硬化可能な多官能アクリレートは単独または2種以上混合して用いてもよく、その含有量はハードコート層用塗料の樹脂固形分に対して、好ましくは50〜95重量%である。なお、上記の多官能(メタ)アクリレートの他に、ハードコート層用塗料の樹脂固形分に対して、好ましくは10重量%以下の2−ヒドロキシ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の単官能アクリレートを添加することもできる。
【0027】
また、上記ハードコート層12に含まれる樹脂としては、上記活性エネルギー線硬化性樹脂の他に、ポリエチレン、ポロプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、ウレア樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ、ケイ素樹脂等の熱硬化性樹脂をハードコート層12の伸長性と硬度を損わない範囲内で含有してもよい。
【0028】
上記ハードコート層12は、本発明の成型用積層ハードコートフィルム1を巻取り加工ができる程度の保持力(凝集力)が必要である。そのためには、ハードコート層12に含まれる樹脂は、好ましくは常温乃至は40℃程度(巻取り保管温度に相当)の範囲で指触感で粘着性がないことが好ましい。なお、図1のようにハードコート層12の上に保護フィルム13を設ける構成においては、上述のように巻取り加工ができる程度の保持力は最低限必要であるが、この保持力を損わなければ粘着性があってもよい。
【0029】
また、本発明においては、上記ハードコート層12には、成型時の予備加熱による熱硬化を抑制するための耐熱安定化剤(酸化防止剤)を含有する。特に真空成型法において成型時に高温予備加熱(150〜200℃程度)を行う場合、加熱前は良好な伸長性を有していても、予備加熱によりハードコート層の熱硬化が進行してしまい伸長性が大きく劣化する恐れがある。
【0030】
本発明においては、上記耐熱安定化剤としてヒンダードフェノール系酸化防止剤を用いるのが好適である。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、前記活性エネルギー線硬化性樹脂の100重量部に対して1重量部〜10重量部の範囲で含有することが好適である。含有量が1重量部未満であると、上述の熱硬化を抑制する効果が十分に得られない恐れがある。また、含有量が10重量部よりも多いと、熱硬化抑制の点では問題はないが、本発明者の検討によると、耐熱安定化剤による硬化阻害が起こり、樹脂成型後に後露光を行ってもハードコート層が十分に硬化せず、耐擦傷性(硬度)が得られず、また積層フィルムの密着性にも問題がある。以上のように耐熱安定化剤としては、ハードコート層の硬化性や密着性を維持し、かつ熱硬化抑制の効果とのバランスが良いことから、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好適に用いられる。
なお、上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤のほかに、たとえばヒンダードアミン系光安定化剤(HALSなど)、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、消泡剤、レベリング剤、など本発明の効果を変えない範囲で併用してもよい。光重合開始剤としてアセトフェノン類、ベンゾフェノン類など紫外線により紫外線硬化性樹脂が十分硬化できる範囲で公知公用のものが利用できる。
【0031】
また、上記ハードコート層12に添加するその他の添加剤として、本発明の効果を損わない範囲で、表面張力調整剤、防汚剤、表面の傷付き防止のためシリカやアルミナ等のナノ微粒子分散体、帯電防止剤などを必要に応じて含有してもよい。
【0032】
本発明のハードコート層12の塗膜厚さは、特に制約されるわけではないが、例えば3〜30μm程度の範囲であることが好適である。厚さが3μmよりも薄いと必要な硬度が得られ難くなる。また、厚さが30μmよりも厚いと良好な伸長性が得られ難くなる。
【0033】
上記保護フィルム13は、上記ハードコート層12の基材フィルム11とは反対側に設けられ、上記ハードコート層12から剥離可能である。この保護フィルム13を設けることにより、本発明に係るシート状の成型用積層ハードコートフィルム1を巻き取った状態で安定に保管しておくことが可能である。また、上記保護フィルム13は、最終的には、樹脂成型品の製造工程のいずれかの段階で剥離されるため、上記ハードコート層12への粘着剤の転移がない(粘着剤が残らない)ように剥離できる構成とすることが好適である。
【0034】
また、上記保護フィルム13が積層された積層ハードコートフィルム1を樹脂成型体の成型工程に供する場合、上記保護フィルム13は上記ハードコート層12の成型時の伸びに追従可能な伸長性を備えていることが好ましい。また、上記積層ハードコートフィルム1の製造における露光工程(詳しくは後述)、および樹脂成型品の製造における後露光工程(詳しくは後述)に対応できるように、上記保護フィルム13は例えば紫外線透過性を有することが好適である。
【0035】
また、上記保護フィルム13のハードコート層12と接する側の表面形状が、保護フィルム13を剥離した際にハードコート層12の表面に転写されるような構成としてもよい。たとえば、保護フィルム13の表面に凹凸形状を形成し、この凹凸形状がハードコート層12の表面に転写されることで、ハードコート層12の表面をマット調(艶消し)にさせることが可能である。また、保護フィルム13の表面を平滑にすることでハードコート層の表面に光沢感が生まれる。
【0036】
本発明に用いることのできる上記保護フィルム13としては、上述の特性を有する材料であれば特に限定されないが、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリオレフィン系フィルム(例えばポリエチレン、ポリプロピレンなど)などを好ましく使用することができる。上記ポリエチレンテレフタレートフィルムの場合、汎用の二軸延伸PETフィルムを用いてもよいが、伸長性の点では、易成型二軸延伸PETフィルムを用いることが特に好ましい。
【0037】
また、上記保護フィルム13として上記PETフィルム等を用いる代わりに、例えばポリビニルアルコール(PVA)等の水系樹脂塗料をハードコート層12の上に塗工することにより保護フィルム13を形成してもよい。このような保護フィルムの塗料としては、塗工時に下地となるハードコート層を溶解しない塗料が好ましく、塗料の希釈溶媒がアルコール系や水系であることが更に好ましい。
上記保護フィルム13の厚さについては表面保護機能と、剥がすときに破れないための最低限の膜強度が必要なため、10μm〜50μm程度が好適である。また、成型や後露光の前後において適宜剥がすことができるが、印刷や蒸着などの工程傷、成型時あるいは製品出荷が完了するまでのハードコート層へのゴミ等の付着物や汚染を防止する目的で、成型用積層フィルムを具した樹脂成型物が最終製品として使用されるまで貼り付けた状態とすることもできる。ハードコート層を後露光により硬化した後に剥がす場合はハードコート層と固着する場合もあり、ハードコート層と過度に接着することなく、かつ容易に剥がせるバランスの取れた剥離性、また保護フィルムの成分がハードコート層に転移しないことが必要である。
接着層の材質は特に限定されないが、アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、ゴム系、シリコーン系粘着剤等の汎用の材料を挙げることができる。
【0038】
本発明に係る上記構成の積層ハードコートフィルム1は、150℃以上の加熱処理した後、23℃、50%RHの雰囲気下における伸び率が30%以上である。これにより、特に真空成型法などの樹脂成型法の場合、成型時に高温(150℃以上)の予備加熱を行ってもハードコート層の熱硬化を抑制し、良好な成型性(伸び率)を維持することができる。
なお、図1に示す層構成は本発明の一実施の形態であり、これに限定されず、たとえば上記ハードコート層12と基材フィルム11との間に密着性を高めるためのウレタン樹脂等を塗布しアンカー層を設けることや、基材フィルムをコロナ処理やプラズマ処理により易接着処理することもできる。また、上記ハードコート層12の上に反射防止層を設けることもできる。
【0039】
[成型用積層ハードコートフィルムの製造方法]
次に、本発明に係る成型用積層ハードコートフィルムの製造方法について説明する。
本発明は、上記成型用積層ハードコートフィルム1の好適な製造方法についても提供するものである。
すなわち、基材フィルム11の一方の面に、少なくとも活性エネルギー線硬化性樹脂、重合開始剤及びヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有する塗料組成物を塗工、乾燥してハードコート層12を形成し(工程1)、必要に応じ前記ハードコート層12に対して活性エネルギー線を照射し(工程2)、しかる後、前記ハードコート層12の前記基材フィルム11とは反対側に保護フィルム13を積層する(工程3)ことを特徴とする成型用積層ハードコートフィルムの製造方法である。
【0040】
上記工程1では、活性エネルギー線硬化性樹脂、重合開始剤及びヒンダードフェノール系酸化防止剤、その他の添加剤等を適当な溶媒に溶解、分散した塗料を上記基材フィルム11上に塗工、乾燥してハードコート層12を形成する。溶媒としては、前記樹脂の溶解性に応じて適宜選択でき、少なくとも固形分(樹脂、重合開始剤、酸化防止剤、その他添加剤)を均一に溶解あるいは分散できる溶媒であればよい。そのような溶媒としては、例えば、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン等)、脂環式炭化水素類(シクロヘキサン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等)、ハロゲン化炭素類(ジクロロメタン、ジクロロエタン等) 、エステル類( 酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等)、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール等)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)、セロソルブアセテート類、スルホキシド類、アミド類などが例示できる。また、溶媒は単独で使用しても混合して使用してもよい。
【0041】
塗工方法については特に限定しないが、グラビア塗工、マイクログラビア塗工、ファウンテンバー塗工、スライドダイ塗工、スロットダイ塗工など、塗膜厚さの調整が容易な方式で塗工が可能である。なお、ハードコート層12の膜厚は、フィルム断面写真を顕微鏡等で観察し、塗膜界面から表面までを実測することにより測定可能である。
【0042】
上記工程2では、必要に応じて、塗工したハードコート層12に対して活性エネルギー線を例えば50mJ/cm以下の少ない露光量で照射する。これによって、ハードコート層12に含有される活性エネルギー線硬化性樹脂の架橋が若干程度進行し、謂わば半硬化状態となる。上記ハードコート層12の塗工後の例えば熱風乾燥により、塗膜中の溶媒が揮発し、あるいは熱架橋が若干程度進行することによりハードコート層12の保持力がある程度得られる場合には、上記工程2は必ずしも実施しなくてもよいが、塗工したハードコート層12の伸長性と保持力の両方の特性をバランス良く調節するためには、上記工程2を実施することが有利である。
【0043】
照射する活性エネルギー線としては、樹脂の種類に応じて紫外線、電子線等を用いる。紫外線源としては、たとえば高圧水銀灯、メタルハライドランプ、無電極ランプなどが挙げられる。
なお、露光量(積算)が例えば50mJ/cmを超えると、ハードコート層12に含有される活性エネルギー線硬化性樹脂の架橋度合が高くなり過ぎて、塗工したハードコート層12の伸長性が劣化する恐れがある。
【0044】
上記工程3では、ハードコート層12の表面に、つまり基材フィルム11とは反対側に保護フィルム13を積層する。前述のように、例えばPETフィルム等をハードコート層12の表面に貼り合わせることにより、またはポリビニルアルコール(PVA)等の水系樹脂をハードコート層12の上に塗工することにより保護フィルム13を形成してもよい。
【0045】
以上のようにして製造されたシート状の積層ハードコートフィルム1は、巻き取られて保管される。本発明により得られた積層ハードコートフィルム1は、その使用前(成型前)においては、良好な伸長性(伸び率)と巻取り加工適性(保持力)とを兼ね備えている。
【0046】
[樹脂成型品の製造方法]
次に、本発明に係る樹脂成型品の製造方法について説明する。
本発明は、上記成型用積層ハードコートフィルムを用いる樹脂成型品の製造方法についても提供するものである。
すなわち、上記積層ハードコートフィルム1に必要に応じ印刷等による加飾層を形成した(工程A)後、次いでその上に接着層を形成した後に、前記積層ハードコートフィルム1に150℃以上の予備加熱を施し(工程B)、次いで前記積層ハードコートフィルム1を成型により樹脂成型体と一体化させ(工程C)、しかる後、前記樹脂成型体と一体化させた前記積層ハードコートフィルム1に対し活性エネルギー線による後露光を行う(工程D)ことを特徴とする樹脂成型品の製造方法である。
【0047】
上記工程Aでは、上記積層ハードコートフィルム1の基材フィルム11面に必要な意匠性を持たせるための印刷、蒸着等による加飾層(図柄層)を形成する。図2は、加飾層14を形成した積層フィルム(すなわち加飾フィルム2)の層構成を示している。
印刷法としては、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、インクジェットなど公知の印刷法を利用することができる。
【0048】
上記工程Bでは、その上に接着層を形成した後に、上記積層ハードコートフィルム1あるいは加飾層を形成した加飾フィルム2(なお説明の便宜上、以下、加飾フィルム2を含めて「積層ハードコートフィルム1」として説明する。)を成型前に軟化させることを目的として予備加熱を行う。予備加熱温度は基本的には使用しているフィルムの種類によって決定される。例えばPETフィルムは他の種類のフィルムよりも高温の予備加熱が必要である。易成型PETフィルムは汎用PETフィルムよりも熱軟化温度が低い。また、必要な予備加熱温度は、成型法によっても異なり、真空成型法では特に高い加熱温度が必要である。易成型PETフィルムは、真空成型法で30%以上の伸び率、更には100〜300%以上の特に成型性が必要とされる場合、180〜200℃程度の高温でないと成型が困難である。本発明においては、前述したように、ハードコート層12に耐熱安定化剤(酸化防止剤)を含有させることにより、成型時の高温予備加熱による熱硬化が進んでフィルムの伸長性が劣化するのを抑制することができる。従って、本発明の積層ハードコートフィルムは、成型時に高温での予備加熱が必要とされる成型法に特に好適に用いることができる。
【0049】
上記工程Cでは、上記積層ハードコートフィルム1を成型により樹脂成型体と一体化させる。例えば真空成型法では、予備加熱した積層ハードコートフィルム1を予め作製した樹脂成型物と接触させ、フィルムを伸ばしながら樹脂成型物の表面に貼り合わせて一体化させる。
代表的な真空成型機としては、例えば、市販されている両面真空成型機(布施真空社製)等を使用できる。基本的な原理は、上下に成型用積層シートで分けられた2つの真空室を有しており、下側の真空室に上下に昇降可能な昇降台が設置され、樹脂成型物はこの昇降台にセットされる。上下真空室が真空にされ、上側より赤外線ランプヒーターにより成型用積層シートに予備加熱が行われる。次に上側真空室を加圧する(或いは大気圧に戻す)ことでフィルム上下に差圧が生じ、樹脂成型物の表面凹凸へ成型用積層フィルムが追従しながら伸ばされ、接着層を介して成型物表面へ密着される。その後、成形機から一体化した成型物を取り出す。
【0050】
上記工程Dでは、上記樹脂成型体と一体化させた前記積層ハードコートフィルム1に対し活性エネルギー線照射による後露光を行う。この後露光によってハードコート層12を完全硬化させる。活性エネルギー線源は、前述の積層ハードコートフィルム1の製造工程(工程2)と同様のものを利用できる。後露光の露光量は、ハードコート層12を完全硬化させるのに必要な露光量であり適宜設定すればよい。
上記後露光を終えた樹脂成型品は、適宜トリミング等の仕上げ加工を行って完成する。
【0051】
以上説明したように、本発明によれば、成型前においては積層ハードコートフィルムの良好な成型性(伸長性)を発揮できる。そして、成型時に高温の予備加熱を施しても熱硬化を抑制し、成型時にも良好な成型性を維持することができる。また、耐熱安定化剤による光硬化阻害が起こらないため、成型後の後露光により十分な耐擦傷性(硬度)を確保でき、また積層フィルムの密着性も良好である。すなわち、本発明によれば、成型性、耐擦傷性、密着性のいずれも良好であり、これらの特性がバランス良く得られる成型用積層ハードコートフィルムを提供することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例にて本発明を例証するが、本発明を限定することを意図するものではない。
なお、塗膜厚さは、走査型電子顕微鏡にて断面を観察し、計測した。また、特に断らない限り、以下に記載する「部」及び「%」は、それぞれ「重量部」及び「重量%」を表す。
【0053】
[実施例1]
<塗料調製>
ポリマー型アクリレート系紫外線硬化性樹脂「ユニディックRC29-117(商品名)」(固形分50%、DIC(株)製)100部と、イルガキュア184(光重合開始剤、(株)チバスペシャリティーケミカル製)5部と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(耐熱安定化剤)「IRGANOX1010(商品名)」((株)チバスペシャリティーケミカル製)2部と、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤TINUVIN1130(商品名)((株)チバスペシャリティーケミカル製)2部とレベリング剤F−177(フッ素系レベリング剤、DIC(株)社製)0.3部を酢酸ブチルで紫外線硬化性樹脂の塗料中の固形分濃度が35%となるまで希釈し十分攪拌して塗料を調製した。
<積層ハードコートフィルム作製>
厚さ125μmの二軸延伸易成型PETフィルム「ソフトシャインX1130(商品名)」(伸長時応力F100=87MPa、東洋紡(株)製)の一方の面に上記塗料をバーコーターで塗工し、210℃で3分間熱風乾燥した。得られた塗膜の厚さは7μmであった。次いで、ラミネーターを用いて、厚さ50μmのポリオレフィン系フィルム(商品名:ヒタレックスML-2020、日立化成工業(株)製)を上記塗膜表面に貼り合わせて積層ハードコートフィルムを作製した。
【0054】
[実施例2]
<塗料調製>
上記耐熱安定化剤の添加量を10部としたこと以外は実施例1と同様の塗料を調整した。
<積層ハードコートフィルム作製>
上記塗料を用いて実施例1と同様にして積層ハードコートフィルムを作製した。
【0055】
[実施例3]
<塗料調製>
上記耐熱安定化剤の添加量を10部としたこと以外は実施例1と同様の塗料を調整した。
<積層ハードコートフィルム作製>
塗工後の熱処理温度を220℃としたこと以外は上記塗料を用いて実施例1と同様にして積層ハードコートフィルムを作製した。
【0056】
[実施例4]
<塗料調製>
上記耐熱安定化剤の添加量を10部としたこと以外は実施例1と同様の塗料を調整した。
<積層ハードコートフィルム作製>
塗工後の熱処理温度を160℃としたこと以外は上記塗料を用いて実施例1と同様にして積層ハードコートフィルムを作製した。
【0057】
[実施例5]
<塗料調製>
上記耐熱安定化剤をヒンダードフェノール系酸化防止剤「IRGANOX1098(商品名)」((株)チバスペシャリティーケミカル製)に変更し、その添加量を2部としたこと以外は実施例1と同様にして塗料を調整した。
<積層ハードコートフィルム作製>
上記塗料を用いて実施例1と同様にして積層ハードコートフィルムを作製した。
【0058】
[実施例6]
<塗料調製>
上記耐熱安定化剤をヒンダードフェノール系酸化防止剤「IRGANOX1098(商品名)」((株)チバスペシャリティーケミカル製)に変更し、その添加量を10部としたこと以外は実施例1と同様にして塗料を調整した。
<積層ハードコートフィルム作製>
上記塗料を用いて実施例1と同様にして積層ハードコートフィルムを作製した。
【0059】
[実施例7]
<塗料調製>
上記紫外線硬化性樹脂をウレタンアクリレート系紫外線硬化性樹脂「フォルシードNo.370C(商品名)」(固形分40%、中国塗料(株)製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして塗料を調整した。
<積層ハードコートフィルム作製>
上記塗料を用いて実施例1と同様にして積層ハードコートフィルムを作製した。
【0060】
[実施例8]
<塗料調製>
上記紫外線硬化性樹脂をウレタンアクリレート系紫外線硬化性樹脂「フォルシードNo.370C(商品名)」(固形分40%、中国塗料(株)製)に変更するとともに、上記耐熱安定化剤(実施例1と同じ)の添加量を10部としたこと以外は実施例1と同様にして塗料を調整した。
<積層ハードコートフィルム作製>
上記塗料を用いて実施例1と同様にして積層ハードコートフィルムを作製した。
【0061】
[実施例9]
<積層ハードコートフィルム作製>
「ソフトシャインX1130」を厚さ125μmの二軸延伸易成型PETフィルム「ソフトシャインTA009(商品名)」(伸長時応力F100=131MPa、東洋紡(株)製)としたこと以外は実施例1と同じ塗料を用い、同様にして積層ハードコートフィルムを作製した。
【0062】
[実施例10]
<積層ハードコートフィルム作製>
「ソフトシャインX1130」を厚さ125μmの二軸延伸PETフィルム「コスモシャインA4300(商品名)」(伸長時応力F100=153MPa、東洋紡(株)製)としたこと以外は実施例1と同じ塗料を用い、同様にして積層ハードコートフィルムを作製した。
【0063】
[比較例1]
<塗料調製>
上記耐熱安定化剤を添加しなかったこと以外は実施例1と同様の塗料を調整した。
<積層ハードコートフィルム作製>
上記塗料を用いて実施例1と同様にして積層ハードコートフィルムを作製した。
【0064】
[比較例2]
<塗料調製>
上記耐熱安定化剤の添加量を15部としたこと以外は実施例1と同様にして塗料を調整した。
<積層ハードコートフィルム作製>
上記塗料を用いて実施例1と同様にして積層ハードコートフィルムを作製した。
【0065】
[比較例3]
<塗料調製>
上記紫外線硬化性樹脂をウレタンアクリレート系紫外線硬化性樹脂「フォルシードNo.370C(商品名)」(固形分40%、中国塗料(株)製)に変更するとともに、上記耐熱安定化剤を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして塗料を調整した。
<積層ハードコートフィルム作製>
塗工後の熱処理温度を180℃としたこと以外は上記塗料を用いて実施例1と同様にして積層ハードコートフィルムを作製した。
【0066】
以上のようにして作製された実施例及び比較例の各積層ハードコートフィルムを次の項目について評価し、その結果を纏めて後記表1に示した。
(1)伸び率
JIS K 7127の引張り試験に準拠した。上記熱処理後、放置し、23℃、50%RHの雰囲気下で測定した。保護フィルムを剥離し、幅15mm×長さ150mmの試験片を、引張速度50mm/分、チャック間距離100mmで引張り、表面のハードコート層にクラックが入るまでの引張伸度を測定した。
【0067】
各積層ハードコートフィルムに500mJ/cmの露光量の紫外線を照射してハードコート層を硬化させた後に耐擦傷性と密着性を測定した。
(2)耐擦傷性
保護フィルムを剥離してから、スチールウール#0000を100g/cmの荷重をかけながら10往復させ、傷の発生具合を目視で評価した。目視でも傷が目立たず問題のないものを「○」、傷が多少入るが実用上問題のないものを「△」、傷が目立ち実用上問題のあるものを「×」とした。
【0068】
(3)密着性
JIS K 5600-5-6の碁盤目試験に準拠し、ハードコート層と基材フィルムとの密着性を評価した。各積層ハードコートフィルムの保護フィルムを剥離してから、カッターで100マスの碁盤目を形成し、上から粘着テープを押し付け、剥離することを5回繰り返した後、ハードコート層の残面積率を測定した。残面積率が95%以上のものを「○」、95%未満のものを「×」とした。
【0069】
【表1】

【0070】
以上の表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1〜8の場合はいずれも、高温の加熱処理(成型時の予備加熱に相当)を施しても熱硬化を抑制でき、良好な成型性(伸び率)を備えている。しかも、耐熱安定化剤による光硬化阻害はなく、耐擦傷性、密着性ともに良好である。つまり、成型性、耐擦傷性、密着性の各特性がバランス良く発揮されている積層ハードコートフィルムが得られる。
これに対して、耐熱安定化剤を添加していない比較例1、3においては、密着性、耐擦傷性は良好であるものの、高温の加熱処理による熱硬化を抑制できず、フィルムの伸び率が小さく、良好な成型性が得られない。また、耐熱安定化剤の添加量の多い比較例2においては、フィルムの伸び率は大きいものの、耐熱安定化剤による光硬化阻害が生じ、耐擦傷性、密着性が不良である。
【符号の説明】
【0071】
1 成型用積層ハードコートフィルム
2 加飾フィルム
11 基材フィルム
12 ハードコート層
13 保護フィルム
14 加飾層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム上に、活性エネルギー線硬化性樹脂を含有するハードコート層を設けてなる成型用積層ハードコートフィルムであって、
前記ハードコート層は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を前記活性エネルギー線硬化性樹脂の100重量部に対して1重量部〜10重量部の範囲で含有し、
前記積層ハードコートフィルムは、150℃以上の加熱処理した後、23℃、50%RHの雰囲気下における伸び率が30%以上であることを特徴とする成型用積層ハードコートフィルム。
【請求項2】
前記基材フィルムは、伸長時応力(100%伸長時応力=F100)が、常温(23℃)では、50MPa<F100<135MPaの範囲にある易成型二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムであることを特徴とする請求項1に記載の成型用積層ハードコートフィルム。
【請求項3】
前記ハードコート層の前記基材フィルムとは反対側に保護フィルムを設けてなり、前記保護フィルムは前記ハードコート層から剥離可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載の成型用積層ハードコートフィルム。
【請求項4】
基材フィルムの一方の面に、少なくとも活性エネルギー線硬化性樹脂、重合開始剤及びヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有する塗料組成物を塗工、乾燥してハードコート層を形成し、必要に応じ前記ハードコート層に対して活性エネルギー線を照射し、しかる後、前記ハードコート層の前記基材フィルムとは反対側に保護フィルムを積層することを特徴とする成型用積層ハードコートフィルムの製造方法。
【請求項5】
得られた成型用積層ハードコートフィルムは、150℃以上の加熱処理した後、23℃、50%RHの雰囲気下における伸び率が30%以上であることを特徴とする請求項4に記載の成型用積層ハードコートフィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれかに記載の成型用積層ハードコートフィルム、あるいは、請求項4又は5に記載の成型用積層ハードコートフィルムの製造方法により得られる成型用積層ハードコートフィルムを用いる樹脂成型品の製造方法であって、
前記積層ハードコートフィルムに必要に応じ印刷等による加飾層を形成した後、次いでその上に接着層を形成した後に、前記積層ハードコートフィルムに150℃以上の予備加熱を施し、次いで前記積層ハードコートフィルムを成型により樹脂成型体と一体化させ、しかる後、前記樹脂成型体と一体化させた前記積層ハードコートフィルムに対し活性エネルギー線による後露光を行うことを特徴とする樹脂成型品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−210756(P2012−210756A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77477(P2011−77477)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(502368059)日本製紙ケミカル株式会社 (86)
【Fターム(参考)】