説明

成形体用粉末の供給方法

【課題】粉末により成形体を形成するにあたり、金型に充填される粉末の量のばらつきを低減することができる成形体用粉末の供給方法を提供する。
【解決手段】本発明供給方法は、成形体の原料となる粉末Pをホッパ10からホース12を通してシュートボックス11に供給するための方法である。ホース12に複数のノズル13a,13b,13c,13d,13eを固定させ、圧縮空気を貯留するボンベ部14から各ノズルを介してホース12内に圧縮空気を送入しながら、シュートボックス11に粉末Pを供給する。圧縮空気を送入することで、ホース12におけるシュートボックス11との接続箇所の近傍での粉末の詰まりなどを低減して、シュートボックス11に所定量の粉末Pを供給することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末の成形体を成形する金型にシュートボックスにより粉末を充填する際に利用する成形体用粉末の供給方法に関するものである。特に、金型に充填される粉末の量のばらつきを低減することができる成形体用粉末の供給方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、粉末冶金法により製造された各種の焼結材が自動車用部品、一般機械の部品などに利用されている。粉末冶金法では、一般に、原料となる金属粉末を成形用金型に充填して成形し、得られた成形体を焼結して焼結材を製造する。上記金型に原料となる金属粉末を充填する際には、特許文献1に記載されるような給粉装置が利用される。この給粉装置は、金型の上方に設置され、粉末が貯留されたホッパと、このホッパ内の粉末を金型に充填するためのシュートボックスと、上記ホッパと上記シュートボックスとを連結するホースとを具える。シュートボックスは、上記金型表面を移動可能であり、ホッパからホースを通って粉末が供給されたら、金型上の所定位置から金型のキャビティに移動して、粉末をその自重により自由落下させてキャビティに充填する。上記ホース内の粉末の移送は、粉末の自重により行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07-164193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来より、焼結材の重量のばらつきや寸法精度のばらつきを低減することが望まれている。
【0005】
特許文献1では、金型のキャビティ内に充填される粉末の充填密度を均一的にするために、シュートボックスに振動を付与することを提案している。しかし、本発明者らが調べたところ、従来の供給方法では、シュートボックス自体に供給される粉末量にばらつきがあるとの知見を得た。そして、シュートボックスへの供給量の不安定さが結果として、金型のキャビティへの充填量のばらつきを生じ、引いては、成形体や焼結材の重量や寸法精度のばらつきを生じていたと考えられる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、金型への粉末の供給量のばらつきを低減することができる成形体用粉末の供給方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、粉末をシュートボックスに移送するホース内での粉末の流動性を高める構成とすることで、上記目的を達成する。
【0008】
具体的には、本発明は、成形体用粉末をホッパからホースを通してシュートボックスに供給するための成形体用粉末の供給方法に係るものである。特に、本発明供給方法では、上記ホース内に気体を送入しながら上記シュートボックスに上記粉末を供給する。
【0009】
従来のように粉末の自重のみにより当該粉末をシュートボックスに移送する場合、特に、ホースの下方側の粉末は、ホースの上方側の粉末に押し付けられることで、シュートボックスに近いホースの下方側領域で粉末が留まり易い。これに対し、上記構成によれば、ホース内に強制的に流入された気体により粉末をシュートボックス側に圧送することができる。即ち、上記気体の強制流入により、ホース内の粉末が流動し易くなることで、ホース内の粉末を効率よくシュートボックスに供給することができる。特に、金属粉末の成形体を作製する場合では、原料粉末に、金属粉末に加えて潤滑剤などを含有させていることが多い。この潤滑剤により、金属粉末同士が固まってブリッジが生じたり、ホース内壁に金属粉末が付着するなどして、ホース内で粉末が留まったり、シュートボックスに落下し難くなったりする。これに対して、上述のようにホース内に気体を送入することで、粉末同士の付着やホース内壁への付着、留まりなどを抑制して、ホッパからホースに移送された粉末の実質的に全量をシュートボックスに移送させることができる。シュートボックスに所定量の粉末が十分に供給されることで、シュートボックスから金型のキャビティに所定量の粉末を充填することができる。そのため、本発明供給方法によれば、成形体や焼結材の重量のばらつきや寸法のばらつきを低減することができ、均一的な重量で寸法精度の高い焼結材の大量生産に寄与することができると期待される。
【0010】
上記ホースにおける気体の送入箇所は、適宜選択することができる。特に、上記ホースにおける上記シュートボックスとの接続箇所の近傍から上記気体を送入する構成とすることが好ましい。上述のように粉末をその自重によりホース内を移動させると、ホースの下方側に位置するシュートボックスとの接続箇所の近傍は、粉末が滞留し易くなる。そのため、少なくとも、ホースにおけるシュートボックスとの接続箇所の近傍に気体を送入することで、粉末をシュートボックスに効率よく供給することができる。なお、シュートボックスとの接続箇所の近傍とは、当該接続箇所からホースの長さの1/3までの領域を言う。
【発明の効果】
【0011】
本発明成形体用粉末の供給方法によれば、シュートボックスへの粉末の供給量を均一的にすることができ、引いては金型への粉末の充填量のばらつきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明供給方法に利用する給粉装置を説明する概略構成図である。
【図2】図2は、本発明供給方法に利用する給粉装置において、ホースに取り付けられたノズル部分を拡大して示す模式説明図である。
【図3】図3は、シュートボックス内の粉末の重量及び成形体の重量と、給粉回数・成形体の個数との関係を示すグラフであり、図3(I)は、ホース内に気体を送入しながら粉末を移送する供給方法Iを利用した場合、図3(II)は、粉末の自重のみで粉末を移送する供給方法IIを利用した場合を示す。
【図4】図4は、供給方法I,IIを利用した場合のシュートボックス内の粉末の重量の標準偏差、及び成形体の重量の標準偏差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
後述する二つの異なる供給方法I,IIを利用して、金属粉末をシュートボックスに供給した後、シュートボックスから成形用金型に充填して成形体を複数作製し、得られた成形体の重量と、シュートボックス内に供給した粉末の重量とを調べた。
【0014】
ここでは、金属粉末として、Fe-1.75%Ni-0.5%Mo+1.5%Cu(単位:質量%)の組成のFe系合金粉末(ヘガネスAB社製Distaloy-AB)に0.2質量%のGr(グラファイト)、0.6質量%の潤滑剤(エチレンビスステアリン酸アミド)を混合した混合粉末を利用した。
【0015】
供給方法I,IIではいずれも、図1に示す給粉装置を利用した。給粉装置1は、成形体の原料となる粉末Pを金型20のキャビティ21に充填するための装置であり、上記粉末Pが貯留されたホッパ10と、ホッパ10内の粉末Pをキャビティ21に充填するためのシュートボックス11と、ホッパ10とシュートボックス11とを連結するホース12とを具える。給粉装置1の基本的構成は、従来の給粉装置と同様である。ホッパ10は、金型20の上方に配置され、シュートボックス11は、ホッパ10よりも下方に配置されて、図示しない移動機構により、金型20表面のプレート22上を白矢印に示す方向に往復移動可能である。ホッパ10からシュートボックス11に所定量の粉末Pを供給したら、金型20上の所定位置からキャビティ21側にシュートボックス11を移動させ、シュートボックス11内の粉末Pを粉末Pの自重などにより自由落下させてキャビティ21に充填する。なお、図1では省略しているが、金型20は、ダイホルダ、上・下パンチ、コアロッドなどを具える一般的なアセンブリである。
【0016】
特に、図1に示す給粉装置1は、ホース12内に気体を強制的に送入可能な構成としている。具体的には、給粉装置1では、ホース12の長手方向に離間されて挿入固定された複数のノズル13(13a,13b,13c,13d,13e)と、圧縮空気を貯留するボンベ部14とを具える。ボンベ部14と各ノズル13とは、連結管15により連結されている。なお、図1では一部省略しているが全てのノズル13がボンベ部14に連結されている。そして、ボンベ部14内の圧縮空気は、連結管15を介して各ノズル13に送られ、各ノズル13を介してホース12内に送入される。ここでは、図2に示すように、各ノズル13の端面は、ノズル13の軸方向に交差する面で切断した傾斜形状としており、開口部13oが下方のシュートボックス側を向くように、各ノズル13をホース12に固定している。開口部13oを傾斜面とし、かつこの傾斜面を下方側に向けて各ノズル13を配置することで、開口部をノズルの軸方向に直交する面とし、かつこの直交面を鉛直方向に直交するように配置する場合と比較して、粉末Pを下方のシュートボックス側に移送させ易い。また、圧縮空気の流入を停止した場合に開口部13oから粉末Pがボンベ部側に逆流することがない。なお、図2では、粉末Pを強調して示す。
【0017】
各ノズル13の材質、直径、ノズルの本数などは適宜選択することができる。また、各ノズル13をホース12に固定する位置や隣り合うノズル間の間隔などは適宜選択することができる。ここでは、図1に示すように、ホース12においてシュートボックス11との接続箇所の近傍、具体的には、ホース12において当該接続箇所からホースの長さの1/3以内の箇所に、少なくとも一つのノズル13を取り付け、ホース12における当該接続箇所の近傍に圧縮空気が流入されるようにしている。より具体的には、ここでは、各ノズル13は、材質:SUS鋼、外径:φ5mm、内径:φ3mmとし、シュートボックス11より1m上の位置に、50cm間隔で5本設置した。
【0018】
なお、ここでは、圧縮空気を利用しているが、粉末Pと反応するなどの不具合が生じない範囲で、種々の気体を利用することができる。例えば、窒素、アルゴンなどの不活性ガスなどが挙げられる。また、ここでは、圧縮気体(空気)を貯留したボンベ部14を具え、バルブの開閉により、気体の流入量や流入圧力を調整する構成としているが、例えば、給粉装置にコンプレッサを具えておき、コンプレッサにより周囲の空気を圧縮して、各ノズル13を介してホース12内に圧縮空気を強制流入する構成としてもよい。この場合、コンプレッサを制御することで、空気の流入量や流入圧力を調整することができる。
【0019】
そして、供給方法Iでは、上記複数のノズル13を具える給粉装置1を利用し、ホース12内に圧縮空気を強制流入した状態で、ホッパ10から所定量の粉末Pをホース12に導入した。ホースへの導入から所定時間経過後、圧縮空気の流入を停止し、シュートボックス11からホース12を取り外し、シュートボックス11内の粉末Pの重量を測定した。その結果を図3(I)に示す。ここでは、5本のノズルから圧縮空気の導入を行った。また、供給方法I,IIのいずれにおいても、ホッパからシュートボックスに1回に供給する粉末の量は、所定の成形体(後述するリング状体)に必要な重量に設定した。
【0020】
一方、供給方法IIでは、上記圧縮空気の流入を行わずに、ホッパ10から所定量の粉末Pをホース12に導入した。ホースへの導入から所定時間経過後、シュートボックス11からホース12を取り外し、シュートボックス11内の粉末Pの重量を測定した。その結果を図3(II)に示す。
【0021】
重量を測定したシュートボックス11内の粉末Pを金型20のキャビティ21に充填して、粉末Pを冷間で圧縮成形し(成形圧力:500MPa)、外径:φ80mm、内径:φ50mm、厚さ:30mmのリング状の成形体を作製した。そして、得られた各成形体の重量を測定した。その結果を図3(I),(II)に示す。また、シュートボックス内の粉末の重量の標準偏差、及び成形体の重量の標準偏差を図4に示す。
【0022】
図3に示すように、ホース内に気体を送入しながらシュートボックスに粉末を供給した供給方法Iを利用した場合、気体を送入しない供給方法IIと比較して、給粉回数が多くなっても、シュートボックス内に供給される粉末の量が均一的で安定していることが分かる。また、成形体の重量も変動が小さいことが分かる。これらのことは、図4に示すように、供給方法Iの方が、標準偏差が小さいことからも裏付けられる。この理由は、気体の送入により、ホース内で粉末が留まり難くなったためであると考えられる。
【0023】
上記試験結果から、ホッパからホースを介してシュートボックスへの粉末の移送に際して、ホース内に気体を流入することで、シュートボックス内に供給される粉末量を均一的にでき、その結果、成形体の重量を均一的にできることが分かる。そして、成形体の重量が均一的であることから、焼結材の重量も均一的にできると期待される。また、シュートボックス内に供給される粉末量が均一的であることで、所望の成形体を精度よく成形することができる。従って、本発明供給方法によれば、寸法精度に優れる焼結材の大量生産に好適に利用できると期待される。
【0024】
なお、上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、ノズルの孔径、個数、ホースに対する配置位置などを適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明成形体用粉末の供給方法は、粉末冶金法により各種の焼結材を製造するにあたり、粉末成形体を形成する金型に粉末を供給する際に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 給粉装置 10 ホッパ 11 シュートボックス 12 ホース
13,13a,13b,13c,13d,13e ノズル 13o 開口部 14 ボンベ部 15 連結管
20 金型 21 キャビティ 22 プレート
P 粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形体用粉末をホッパからホースを通してシュートボックスに供給するための成形体用粉末の供給方法であって、
前記ホース内に気体を送入しながら前記シュートボックスに前記粉末を供給することを特徴とする成形体用粉末の供給方法。
【請求項2】
前記ホースにおける前記シュートボックスとの接続箇所の近傍から、前記気体を送入することを特徴とする請求項1に記載の成形体用粉末の供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−275591(P2010−275591A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129651(P2009−129651)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】