説明

成形品の製造方法

【課題】品質の低下を招くことなく、簡易的に成形品を製造することのできる成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂材料からなる第1成形部となる中間製品であるケース本体10に対して、第1成形部の材料とは異なる材料からなる第2成形部であるグリップ20及び防水カバー30が一体成形によって接合される成形品であるケース100の製造方法において、中間製品であるケース本体10の表面に塗装を施す工程と、塗装が施されたケース本体10を金型内に配置して、第2成形部であるグリップ20及び防水カバー30をケース本体10に一体成形する工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装が施される成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、それぞれ異なる材料からなる複数の成形部を有する成形品を一体的に成形する技術が知られている。例えば、硬質の樹脂材料からなる第1成形部とエラストマーなどの軟質の材料からなる第2成形部とを一体的に備える成形品の場合、まず、第1成形部となる中間製品を成形する。そして、この中間製品を金型内に配置して、中間製品に対して第2成形部を射出成形等によって一体成形する。
【0003】
ここで、第2成形部には塗装を施さず、第1成形部には塗装を施す場合には、一体成形後に、第2成形部にマスキングを施した状態で塗装を行う。このような場合における成形品の製造工程について、図10を参照して説明する。図10は従来例に係る成形品の製造方法における製造工程図である。
【0004】
図10は、成形品の一例として、電動歯ブラシにおける胴体部分に備えられるケース500の場合の製造工程を示したものである。このケース500は、駆動源や駆動機構などが内部に備えられ、歯磨き時に使用者が手で握られる(手指で挟んで持たれる場合を含む)部分となる部材である。そして、このケース500は、硬質の樹脂材料からなるケース本体510と、ケース本体510に一体成形によって接合される、エラストマーからなるグリップ520とを備えている(図10(E)参照)。また、このケース500においては、グリップ520には塗装が施されずに、ケース本体510には塗装が施される。このように構成されるケース500の製造工程を説明する。なお、図10においては、各製造工程において、それぞれの工程で得られたものの側面図を示している。
【0005】
まず、中間製品であるケース本体510を射出成形等の成形方法によって成形する(図10(A)参照)。次に、このケース本体510を金型に配置して、グリップ520をケース本体510に一体成形(いわゆる二色成形(異材成形ともいう。以下、同様である。))する(同図(B)参照)。その後、金型から一体成形品を取り出して、グリップ520の表面にマスキングを施す。例えば、グリップ520の表面にマスキング用粘着テープMを貼る(同図(C)参照)。次に、一体成形品に塗装を施す。なお、図中Cは、塗料を示している(同図(D)参照)。そして、塗装を施した後に、マスキング用粘着テープMを剥がす(同図(E)参照)。
【0006】
このようにして、グリップ520の表面には塗装が施されておらず、ケース本体510には塗装が施されたケース500を製造することができる。
【0007】
以上の製造方法を採用する場合、グリップ520の表面に塗料が付着してしまわないようにするためには、グリップ520の表面に精度良くマスキングを施さなければならない。そのため、マスキング工程において手間がかかり、製造にかかる時間の短縮化の妨げとなってしまったり、製造コスト増の原因となってしまったりしていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、品質の低下を招くことなく、簡易的に成形品を製造することのできる成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0010】
すなわち、本発明の成形品の製造方法は、
樹脂材料からなる第1成形部となる中間製品に対して、第1成形部の材料とは異なる材料(例えば、第1成形部を構成する樹脂材料とは異なる樹脂材料,エラストマー,ゴム材料)からなる第2成形部が一体成形によって接合される成形品の製造方法において、
中間製品の表面(中間製品の表面全体または一部)に塗装を施す工程と、
塗装が施された中間製品を金型内に配置して、第2成形部を該中間製品に一体成形する工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、塗装が施された中間製品を金型内に配置して、第2成形部を該中間製品に一体成形する。従って、第2成形部には塗装を施さずに、中間製品に塗装を施す場合においても、塗装を施す際に、マスキングを施すことが不要となる。仮に、中間製品のうち第2成形部が接合される部分にマスキングを施すとしても、精度良くマスキングを施す必要はない。
【0012】
ここで、中間製品を配置する金型における中間製品が接触する部位の寸法は、塗装が施された後の中間製品の寸法を基準に設定されているとよい。
【0013】
こうすることで、塗膜(塗料)が剥がれてしまったり、型割線(パーティングライン)の部分においてバリが大きくなってしまったりすることを、より確実に抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、品質の低下を招くことなく、簡易的に成形品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0016】
(実施例)
図1〜図9を参照して、本発明の実施例に係る成形品の製造方法について説明する。
【0017】
<成形品>
図1〜図3を参照して、本発明の実施例に係る製造方法によって製造される成形品について説明する。なお、本実施例においては、成形品の一例として、電動歯ブラシにおける胴体部分に備えられるケースの場合を説明する。このケースは、駆動源や駆動機構などが内部に備えられ、歯磨き時に使用者が手で握られる(手指で挟んで持たれる場合を含む)部分となる部材である。
【0018】
図1は本発明の実施例に係る成形品の斜視図である。図1に示すように、本発明の実施例に係る成形品としてのケース100は、第1成形部としてのケース本体10と、第2成形部としてのグリップ20及び防水カバー30とから構成される。この防水カバー30には、スイッチ部31が設けられている。また、本実施例に係るケース100においては、ケース本体10の外装となる部分に塗装が施される。そして、グリップ20と防水カバー30には塗装は施されない。
【0019】
本実施例においては、ケース本体10は、その内部に駆動源等を収納する役割を担うため、その素材として、ABSなどの硬質の樹脂材料が用いられる。グリップ20は滑り止めの役割を担うため、その素材として、滑りにくいエラストマーが用いられる。防水カバー30は、防水機能だけでなく、ケース本体10の内部に配置される押しボタンスイッチを、スイッチ部31を介して外部から押し込めるようにするための役割も担う。そのため、その素材として、柔軟性を有するエラストマーが用いられる。
【0020】
グリップ20と防水カバー30は、ケース本体10に対して、それぞれ一体成形によって接合される。すなわち、本実施例においては、まず、ケース本体10(中間製品)が成形される。そして、このケース本体10に対して、グリップ20と防水カバー30が順次一体成形される。図2は本発明の実施例に係る中間製品(ケース本体)に第2成形部(のうちの一つ(グリップ))が一体成形されたものを示す斜視図である。図3は本発明の実施例に係る中間製品(ケース本体)の斜視図である。
【0021】
図3に示すように、中間製品であるケース本体10には、グリップ接合部12及び防水カバー接合部13が設けられている。これらは、ケース本体10における外装面よりも内部に凹んだ位置に設けられている。これにより、ケース本体10における外装面とグリップ20の表面との境界部、及びケース本体10における外装面と防水カバー30との境界部に段差が生じないように構成されている。
【0022】
<成形品の製造方法>
特に、図4〜図8を参照して、本発明の実施例に係る成形品の製造方法について、製造工程の順に説明する。図4は本発明の実施例に係る成形品の製造方法における製造工程図である。なお、図4においては、各製造工程において、それぞれの工程で得られたものの側面図を示している。
【0023】
図5は本発明の実施例に係る一体成形(グリップの一体成形)を行う際の金型内の状態を示す模式的断面図(長手方向に垂直な断面図)である。図6は本発明の実施例に係る一体成形(グリップの一体成形)を行う際の金型内の状態を示す模式的断面図(長手方向に平行な断面図)である。なお、図6においては、理解を容易にするために、一体成形されるグリップの模式的断面図も併せて示している。
【0024】
図7は本発明の実施例に係る一体成形(防水カバーの一体成形)を行う際の金型内の状態を示す模式的断面図(長手方向に垂直な断面図)である。図8は本発明の実施例に係る一体成形(防水カバーの一体成形)を行う際の金型内の状態を示す模式的断面図(長手方向に平行な断面図)である。なお、図8においては、理解を容易にするために、一体成形される防水カバーの模式的断面図も併せて示している。
【0025】
なお、図5及び図7においては、ケース100において、スイッチ部31が形成される部分を通る位置の断面を示している。また、図6及び図8においては、ケース100における左右の中心面の断面を示している。
【0026】
本実施例においては、まず、第1成形部としてのケース本体10(中間製品)を、射出成形等の適宜の成形方法によって成形する(図4(A)参照)。
【0027】
そして、本実施例においては、次に、ケース本体10に対して塗装を施す(図4(B)参照)。このとき、グリップ接合部12や防水カバー接合部13に塗料が付着しても構わない。従って、これらの部分にマスキングを施す必要はない。仮に、マスキングを施すとしても、精度良くマスキングする必要はなく、大雑把に施せばよい。なお、図4中、Cは塗料(塗膜)を示している。
【0028】
次に、塗装を施したケース本体10を金型内に配置して、グリップ20と防水カバー30を、それぞれケース本体10に一体成形する(図4(C)参照)。グリップ20と防水カバー30を一体成形する順序はいずれが先でも良く、同時であっても構わない。本実施例では、グリップ20を一体成形した後に、防水カバー30を一体成形している。
【0029】
まず、図5及び図6を参照して、グリップ20を一体成形する工程について説明する。グリップ20を一体成形する際に用いる金型は、ケース本体10を固定する筒状の支持部材201と、第1上型202及び下型203とから構成される。
【0030】
このように構成される金型によれば、ケース本体10を支持部材201に固定させることで、第1上型202と下型203とケース本体10との間に形成される空間領域が、グリップ20を成形するためのキャビティcav1となる。そして、このキャビティcav1に、溶融状態にあるエラストマーを湯道301から流し込むことで、ケース本体10に対してグリップ20を一体成形(いわゆる二色成形)することができる。
【0031】
ここで、第1上型202には、ケース本体10が接触する部位202aが設けられている。そして、本実施例においては、この部位202aを含む部位の寸法は、塗装が施された後のケース本体10の寸法を基準に設定されている。
【0032】
次に、図7及び図8を参照して、防水カバー30を一体成形する工程について説明する。防水カバー30を一体成形する際に用いる金型は、グリップ20を一体成形する際に用いた支持部材201及び下型203と、グリップ20を一体成形する際のものとは異なる第2上型204とから構成される。つまり、防水カバー30を一体成形する際には、上型のみを交換すればよい。
【0033】
このように構成される金型によれば、第2上型204とケース本体10との間に形成される空間領域が、防水カバー30を成形するためのキャビティcav2となる。そして、このキャビティcav2に、溶融状態にあるエラストマーを湯道302から流し込むことで、ケース本体10に対して防水カバー30を一体成形することができる。
【0034】
以上のように、グリップ20と防水カバー30には塗装は施されず、ケース本体10には塗装が施されたケース本体10を製造することができる。
【0035】
<本実施例の優れた点>
本実施例に係る製造方法によれば、塗装が施されたケース本体10を金型内に配置して、グリップ20及び防水カバー30を、ケース本体10に一体成形する。そのため、塗装を施さないグリップ20及び防水カバー30に塗料が付着してしまうことはない。従って、ケース本体10におけるグリップ接合部12や防水カバー接合部13には塗料が付着しても構わないので、塗装を施す際に、これらにマスキングを施す必要がない。仮に、マスキングを施すとしても、精度良くマスキングを施す必要はない。
【0036】
また、本実施例においては、第1上型202には、ケース本体10が接触する部位202aが設けられている。そして、この部位202aを含む部位の寸法は、塗装が施された後のケース本体10の寸法を基準に設定されている。
【0037】
従って、ケース本体10に施された塗膜(塗料)が剥がれてしまったり、型割線(パーティングライン)の部分においてバリが大きくなってしまったりすることを、より確実に抑制できる。この点について、図9を参照して説明する。図9は比較例に係る一体成形(グリップの一体成形)を行う際の金型内の状態を示す模式的断面図(長手方向に垂直な断
面図)である。この図9は上述した図5に相当する図である。図5に示すものと同一の構成には同一の符号を付している。
【0038】
この比較例では、第1上型202Xにおいて、ケース本体10が接触する部位202bを含む部位の寸法は、塗装が施される前のケース本体10の寸法を基準に設定されている。この比較例の場合には、型締め時において、塗装が施されることで塗膜厚分の厚みの増したケース本体10が第1上型202Xから受ける力が必要以上に大きくなってしまう。そのため、ケース本体10に施された塗膜(塗料)の一部が剥がれてしまったり傷ついてしまったりするおそれがある。また、図9に示すように、ケース本体10が塗膜厚分だけ厚みが増したため、第1上型202Xと下型203とが完全に密着せずに、型割線(図中矢印Sに示す部分)にできるバリが大きくなってしまうおそれがある。
【0039】
これに対して、本実施例によれば、第1上型202において、ケース本体10が接触する部位202aを含む部位の寸法は、塗装が施された後のケース本体10の寸法を基準に設定されているので、上記のような不具合は生じない。なお、一般的に、金型は寸法誤差を考慮して設計される(つまり、所定のクリアランスを設けた寸法で設計される)。そのため、中間製品に施す塗装の塗膜の厚みが薄い場合には、上記のクリアランスの範囲に塗膜厚が収まる場合もある。このような場合には、ケース本体10が接触する部位202bを含む部位の寸法を、塗装が施された後のケース本体10の寸法を基準にする必要はない。
【0040】
以上のように、本実施例に係る成形品の製造方法によれば、従来必要としていたマスキング工程が不要となる。あるいは、マスキングを施すとしても、大雑把にマスキングすればよい。従って、品質の低下を招くことなく、簡易的に成形品を製造することができる。また、これに伴い、製造にかかる時間を短縮化することができ、製造コストを削減することもできる。
【0041】
なお、本実施例においては、電動歯ブラシに備えられるケースの場合を例にして説明したが、本発明は、勿論これに限られることはなく、各種成形品に適用することができる。
【0042】
また、本実施例では、硬質の樹脂材料(ABSなど)にエラストマーを一体成形する場合を例にして説明したが、異種材料(樹脂と樹脂、樹脂とエラストマー、樹脂とゴムなど)によって一体成形される各種成形品に適用することができる。
【0043】
なお、従来、塗装を施した成形品を金型内に配置して、更に、他の材料を用いて一体成形するという発想はなかった。その理由は、そのような成形を行うと、塗膜(塗料)の一部が剥がれたり、傷ついてしまったりするという思い込みによるものであったと考えられる。
【0044】
しかしながら、実際上は、塗装を施した樹脂成形品を金型に配置して、他の材料を用いて一体成形しても、樹脂成形品に施した塗膜(塗料)の一部が剥がれたり、傷ついてしまったりすることがないことを確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は本発明の実施例に係る成形品の斜視図である。
【図2】図2は本発明の実施例に係る中間製品(ケース本体)に第2成形部(グリップ)が一体成形されたものを示す斜視図である。
【図3】図3は本発明の実施例に係る中間製品(ケース本体)の斜視図である。
【図4】図4は本発明の実施例に係る成形品の製造方法における製造工程図である。
【図5】図5は本発明の実施例に係る一体成形(グリップの一体成形)を行う際の金型内の状態を示す模式的断面図(長手方向に垂直な断面図)である。
【図6】図6は本発明の実施例に係る一体成形(グリップの一体成形)を行う際の金型内の状態を示す模式的断面図(長手方向に平行な断面図)である。
【図7】図7は本発明の実施例に係る一体成形(防水カバーの一体成形)を行う際の金型内の状態を示す模式的断面図(長手方向に垂直な断面図)である。
【図8】図8は本発明の実施例に係る一体成形(防水カバーの一体成形)を行う際の金型内の状態を示す模式的断面図(長手方向に平行な断面図)である。
【図9】図9は比較例に係る一体成形(グリップの一体成形)を行う際の金型内の状態を示す模式的断面図(長手方向に垂直な断面図)である。
【図10】図10は従来例に係る成形品の製造方法における製造工程図である。
【符号の説明】
【0046】
10 ケース本体
12 グリップ接合部
13 防水カバー接合部
20 グリップ
30 防水カバー
31 スイッチ部
100 ケース
201 支持部材
202,202X 第1上型
202a,202b (ケース本体が接触する)部位
203 下型
204 第2上型
301 湯道
302 湯道
cav1 キャビティ
cav2 キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料からなる第1成形部となる中間製品に対して、第1成形部の材料とは異なる材料からなる第2成形部が一体成形によって接合される成形品の製造方法において、
中間製品の表面に塗装を施す工程と、
塗装が施された中間製品を金型内に配置して、第2成形部を該中間製品に一体成形する工程と、を含むことを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項2】
中間製品を配置する金型における中間製品が接触する部位の寸法は、塗装が施された後の中間製品の寸法を基準に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−125937(P2009−125937A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299744(P2007−299744)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(503246015)オムロンヘルスケア株式会社 (584)
【Fターム(参考)】