説明

成形品中のアセトアルデヒド含有量が少ないポリエチレンテレフタレートの製造方法

【課題】本発明の目的は、上記従来技術が有していた問題点を解消し、悪臭、異臭の原因となったり、内容物の風味を変質させる恐れがあるアセトアルデヒドの含有量が少ないポリチレンテレフタレートの製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明の目的は、ポリエチレンテレフタレートを濃度1ppm〜10質量%のホスホニウム化合物と接触の水溶液と接触させることを特徴とするポリエチレンテレフタレートの製造方法によって達成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪臭、異臭の原因となったり、内容物の風味を変質させる恐れがあるアセトアルデヒドの含有量が少ない成形品を色相の悪化を伴わずに得ることのできる、固相重合されたポリエチレンテレフタレート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(PET)は、その優れた機械的性質、化学的性質から、繊維、フィルム、工業用樹脂、ボトル、カップ、及びトレイ等に成形されて広く用いられている。しかしながら、飲料充填用の中空容器の成形時においてアセトアルデヒド量が増加し悪臭や異臭、内容物の風味、香りが変化するおそれがある。
【0003】
これらの問題を解決する為に、ポリエステル中に含有されているアセトアルデヒドを減少させる方法が検討され、成形時に生成するオリゴマーとアセトアルデヒドを低減させるため、固相重合後のポリエチレンテレフタレートを水で処理することが提案されているが(例えば特許文献1参照。)、処理液が水である為十分な効果を得るためには比較的高温にするか、低温の水を用いて長時間の処理を行わなければならず、しかも、重合触媒がゲルマニウム化合物以外のチタン化合物である場合は全く効果が無い。
【特許文献1】特開平3−72524号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記従来技術が有していた問題点を解消し、悪臭、異臭の原因となったり、内容物の風味を変質させる恐れがあるアセトアルデヒドの含有量が少ないポリチレンテレフタレートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の目的は、ポリエチレンテレフタレートを濃度1ppm〜10質量%のホスホニウム化合物の水溶液と接触させることを特徴とするポリエチレンテレフタレートの製造方法によって達成することができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法によりアセトアルデヒド含有量の少ないポリエステルを得ることができ、そのポリエステル及びそのポリエステルからなる成形品は悪臭、異臭が少ない。またこのポリエステルを成形した成形品は、悪臭、異臭がなく内容物の変質の恐れがないので飲料を初めとする食料品用途に向いている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のポリエチレンテレフタレートは主たる酸成分がテレフタル酸成分であり、主たるグリコール成分がエチレングリコール成分であるポリエステルである。ここで「主たる」とは85mol%以上を該成分が占めることをいう。
【0008】
したがって15mol%以下の範囲においてテレフタル酸成分、エチレングリコール成分以外の他のエステル単位を含むことができる。このような共重合成分としては、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分、及びエチレングリコール以外のジオール成分又はオキシ酸成分を挙げることができ、具体的には、芳香族ジカルボン酸成分として例えば、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、ナトリウム−スルホイソフタル酸、ジブロモテレフタル酸などを挙げることができる。脂肪族ジカルボン酸成分として例えば、デカリンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などを、脂肪族ジカルボン酸として例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸などを挙げることができる。
【0009】
また、グリコール成分としては、脂肪族ジオール成分として例えば、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールなどを挙げることができる。芳香族ジオール成分として例えば、ビトロノン、カテコール、ナフタレンジオール、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル−スルホン、ビスフェノールA[2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン]、テトラブロモビスフェノールA、ビスヒドロキシエトキシビスフェノールAなどを挙げることができる。脂環式ジオール成分として例えばシクロヘキサンジオールなどを挙げることができる。脂肪族オキシカルボン酸成分として例えば、グリコール酸、ヒドロアクリル酸、3−オキシプロピオン酸などを、脂環式オキシカルボン酸成分として例えば、アシアチン酸、キノバ酸などを、芳香族オキシカルボン酸成分として例えばサリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、マンデル酸、アトロラクチン酸などを挙げることができる。
【0010】
更にポリエステルの構成する高分子鎖が実質的に線状である範囲内で3価以上の多官能化合物、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリカルバリル酸、没食子酸などを共重合してもよく、必要に応じて単官能化合物、例えばo−ベンゾイル安息香酸、ナフトエ酸などを添加してもよい。
【0011】
上記ポリエステルは、従来公知のポリエチレンテレフタレート製造方法を用いて製造すればよく、例えば、テレフタル酸及びエチレングリコールを用いてエステル化反応を行い、あるいはテレフタル酸の低級アルキルエステル(例えばジメチルエステル)及びエチレングリコールを用いてエステル交換反応を行って、得られた反応生成物を更に重縮合反応させることによって製造できる。上記共重合成分は、エステル交換反応前若しくは重縮合反応前に添加することにより、適切な共重合体を製造することができる。
【0012】
これらのポリエステルを製造する際にエステル交換触媒、重合触媒、安定剤などを使用することが好ましい。これらの触媒、安定剤などはポリエステル、特にポリエチレンテレフタレートの触媒、安定剤などとして知られているものを用いることができる。勿論、必要に応じて他の添加剤、例えば、着色剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤などを使用してもよい。
【0013】
得られたポリエチレンテレフタレートはペレット化されたのち固相重合工程で更に重縮合を進めてもよく、その固相重合方法に関しては従来公知のいずれの方法を採用してもよい。
【0014】
本発明においては、固相重合されたポリエステルペレットをホスホニウム化合物の水溶液とを接触させる必要がある。ホスホニウム化合物としては電離することによりホスホニウムイオンが生成する化合物を指すが、特にテトラアルキルホスホニウム塩、テトラアルキルホスホニウムヒドロキサイド、テトラフェニルホスホニウム塩、テトラフェニルホスホニウムヒドロキサイド、モノアルキルトリフェニルホスホニウム塩が好ましく挙げられる。テトラアルキルホスホニウム塩、テトラアルキルヒドロキサイド、モノアルキルトリフェニルホスホニウム塩のアルキル基としては炭素数1〜6の直鎖状、分岐状のアルキル基が好ましい。具体的にホスホニウム塩としては、テトラメチルホスホニウムフロライド、テトラメチルホスホニウムクロライド、テトラメチルホスホニウムブロマイド、テトラエチルホスホニウムクロライド、テトラエチルホスホニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムフロライド、テトラブチルホスホニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムブロマイド、テトラヒドロキシメチルホスホニウムサルフェート、テトラフェニルホスホニムフロライド、テトラフェニルホスホニムクロライド、テトラフェニルホスホニムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、エチルトリフェニルホスホニウムクロライド、エチルトリフェニルホスホニウムブロマイド、エチルトリフェニルホスホニウムヨード、ブチルトリフェニルホスホニウムクロライド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロマイド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロマイドを例示することができる。
【0015】
一方ホスホニウムヒドロキサイドとしては、テトラメチルホスホニウムヒドロキサイド、テトラエチルホスホニウムヒドロキサイド、テトラブチルホスホニウムヒドロキサイド、テトラフェニルホスホニウムヒドロキサイド、エチルトリフェニルホスホニウムヒドロキサイド、ブチルトリフェニルホスホニウムヒドロキサイド、ベンジルトリフェニルホスホニウムヒドロキサイドを例示することができる。これらのホスホニウム化合物のうち、特に商業的に大量生産されていることと、分子量が低いことからコスト面でテトラエチルホスホニウムヒドロキサイドが有利である。
【0016】
ホスホニウム化合物の水溶液は濃度1ppm〜10質量%の範囲にある必要がある。その濃度が1ppm未満であると、成形時のアセトアルデヒド減少効果は不十分であり、10質量%を越えるとコストの増大になる。該濃度の好ましい範囲は10ppm〜5質量%であり、更に好ましくは100ppm〜2質量%である。
【0017】
ホスホニウム化合物水溶液とポリエステルの接触させる方法としては、バッチ式、連続式のいずれでも良い。例えばバッチ式の場合、処理装置にホスホニウム化合物水溶液とポリエチレンテレフタレートチップを入れて接触させる方法などが例示できる。また連続式の場合は、連続的にホスホニウム化合物水溶液を向流あるいは並流で供給し、ペレットと接触させる方法などが例示できる。さらに重合反応によって得られたポリエチレンテレフタレートをチップ化する際に、ホスホニウム化合物水溶液を溶融ポリエチレンテレフタレートに接触させて冷却固化する方法でも良い。また他にホスホニウム化合物水溶液の代わりにホスホニウム化合物を十分な濃度で溶解できるような有機溶媒があれば、その有機溶媒を用いて行うことも出来る。
【0018】
また、接触させるポリエチレンテレフタレートの形態はチップに限定されることはなく、例えばシートであっても良い。この場合には、例えば連続式の処理装置にポリエチレンテレフタレートシートを連続的に導入し、ホスホニウム化合物水溶液と接触させる方法などが例示できる。またホスホニウム化合物水溶液とポリエチレンテレフタレートを接触させる際の温度としては特に制限はないが、通常は10℃から60℃程度の加温された状態で接触させることが好ましい。また接触時間は、通常5分〜10時間、好ましくは10分〜8時間、より好ましくは30分〜6時間程度である。中でもチップの形態でホスホニウム化合物水溶液と接触処理させるのが、容易に行える点で好ましい。
【0019】
これらの方法により処理されたポリエチレンテレフタレートは、乾燥させることが好ましいが、通常用いられているポリエチレンテレフタレートの乾燥処理方法を用いることが出来るほか、真空吸引装置付きの紡糸機を用いて乾燥すること無しに紡糸しても良い。
前述の各種の処理条件は、製造するポリエチレンテレフタレートの製造量、固有粘度、形態(チップ又はシート等)、形態のサイズ等によって適宜選択すれば良い。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定を受けるものでは無い。
【0021】
[実施例1]
予め225質量部のオリゴマーが滞留する反応器内に、撹拌下、窒素雰囲気で255℃、常圧下に維持された条件下に、179質量部の高純度テレフタル酸と95質量部のエチレングリコールとを混合して調製されたスラリーを一定速度で供給し、反応で発生する水とエチレングリコールを系外に留去ながら、エステル化反応を4時間し反応を完結させた。この時のエステル化率は、98%以上で、生成されたオリゴマーの重合度は、約5〜7であった。
【0022】
このエステル化反応で得られたオリゴマー225質量部を重縮合反応槽に移し、重縮合触媒として、テトラブトキシチタネート0.018質量部を投入した。引き続き重縮合反応槽内の反応温度を255から280℃、また、反応圧力を常圧から60Paにそれぞれ段階的に上昇及び減圧し、反応で発生する水、エチレングリコールを系外に除去しながら重縮合反応を行った。
【0023】
重縮合反応の進行度合いを、重縮合反応槽内の撹拌翼への負荷をモニターしなから確認し、所望の重合度に達した時点で、重縮合反応を終了した。その後、重縮合反応槽内の反応物を吐出部からストランド状に連続的に押し出し、冷却、カッティングして、約3mm程度の粒状ペレットを得た。この時の重縮合反応時間は110分間であり、得られたポリエチレンテレフタレートペレットの固有粘度は0.52であった。
【0024】
次いで、得られたポリエチレンテレフタレートのペレットを220℃、15時間真空下で固相重合した。得られたペレット(固有粘度0.75)1kgを、25℃、0.5質量%のテトラエチルホスホニウムヒドロキシド水溶液2.5kgを入れた容積5リットルの処理装置に入れて4時間接触処理させた。引き続き、テトラエチルホスホニウムヒドロキシド水溶液を除いた後160℃、5時間窒素気流下で乾燥させた後、プリフォーム成形体を下記の方法で成形した。
【0025】
ポリエチレンテレフタレート5kgを温度160℃、常圧、N流入下条件で3時間乾燥させ、乾燥ポリエチレンテレフタレートを射出成形機(日精樹脂工業株式会社製FN−2000にて、シリンダー温度280℃、サイクル30秒で、外径約28mm、内径約19mm、長さ136mm、胴部肉厚4mm,重量約56gの円筒状のプリフォームを射出成形した。成形プリフォームの口部からサンプル片を切り出して凍結粉砕しバイアル瓶に仕込み、150℃×60分保持し、株式会社日立製作所製ヘッドスペースガスクロマトグラフィーでアセトアルデヒド(AA)含量を測定して求めた。
【0026】
[比較例1]
実施例1において、テトラエチルホスホニウムヒドロキシド水溶液への接触処理を行わなかった以外は、同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0027】
[比較例2]
実施例1において、接触処理させる液として処理装置内に水を入れ高温熱水処理したこと以外は同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の製造方法によりアセトアルデヒド含有量の少ないポリエステルを得ることができ、そのポリエステル及びそのポリエステルからなる成形品は悪臭、異臭が少ない。またこのポリエステルを成形した成形品は、悪臭、異臭がなく内容物の変質の恐れがないので飲料を初めとする食料品用途に向いている。この点において、工業上の意義は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートを濃度1ppm〜10質量%のホスホニウム化合物の水溶液と接触させることを特徴とするポリエチレンテレフタレートの製造方法。
【請求項2】
接触させたホスホニウム化合物がテトラエチルホスホニウムヒドロキシドであることを特徴とする請求項1記載のポリエチレンテレフタレートの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法により得られたポリエチレンテレフタレート。

【公開番号】特開2006−213837(P2006−213837A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28662(P2005−28662)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】