説明

成形用金型

【課題】高い表面品質を必要とする意匠面を有した表側の表面部と、さほど表面品質の良否が問題とならない裏側の表面部とを有する薄物の成形品を成形する成形用金型であって、熱効率が高く、急速加熱、急速冷却を可能とし、前記意匠面に対して高い表面品質を確保することができる成形用金型を提供する。
【解決手段】対向して配設される上型2と下型3を備え、上型2と下型3は、相対的に近接離間方向に移動可能であり、上型2のプレス面21には成形品100の意匠面100aを形成する形成面21aが設けられるとともに、形成面21aの表面部は磁性体材料によって形成され、下型3のプレス面31には成形品100の裏側の表面部100bを形成する形成面31aが設けられるとともに、下型3は絶縁体材料によって形成され、下型3にの形成面31aの近傍には高周波加熱コイル33が、形成面21aに沿って埋設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形材料の凝固点または固化温度以下の温度に温調しながら成形品を成形する、成形用金型の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱可塑性樹脂からなる成形品の成形方法の一つとして、スタンピング成形が知られている。前記スタンピング成形は、成形品の材料となる熱可塑性樹脂(以下、「成形材料」と記す)を予め融点または軟化温度以上の温度にまで加熱して、該成形材料を軟化させ、その後、該成形材料の凝固点または固化温度以下の温度に予め温調された上型および下型によって、該成形材料を高圧力にて圧縮(プレス)して、成形品を成形する成形法である。
ここで、これら上型および下型によって構成される成形用金型は、前述のとおり、予め所定の温度(成形材料の凝固点または固化温度以下の温度。以下、同じ。)によって全体的に温調されているため、前記成形用金型が成形材料の圧縮(プレス)を開始すると、該成形材料はこれら上型および下型と接する表面部より内部に向かって急速に凝固し始める。
即ち、成形材料の表面部における流動性が急速に低下するため、これら上型および下型における成形材料と接する面(以下、「形成面」と記す)の形状の、成形材料の表面部への転写性が悪くなる。
一方、例えば、自動車部品のインパネボードやバンパーやフェンダーなどのような、互いに対向する二面、即ち表側と裏側とを有する成形品において、該裏側の表面部については、さほど表面品質(上型、あるいは下型の形成面に接して押圧される面の品質。以下、同じ。)の良否が問題とならないが、該表側の表面部(以下、「意匠面」と記す)については、通常高い表面品質が要求されることが多い。
しかし、前述したように、従来の成形用金型においては、成形される成形品の意匠面に対して、高い表面品質を確保することが困難であった。
【0003】
そこで、このような問題点を改善するために、「特許文献1」に示される技術が開示されている。
前記「特許文献1」においては、上型および下型を絶縁体(非磁性体)材料で形成し、金型割り面およびキャビティ内表面を絶縁体(非磁性体)材料の薄膜層とし、この層を電磁誘導可能にする加熱誘導用コイル(高周波加熱コイル)を上型および下型内に埋設し、このコイルに高周波電流を流し、発生する磁力線が薄膜層に吸収されて生じる渦電流により、キャビティ内表面付近を所定温度に昇温する、成形用金型に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−239070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記「特許文献1」によって示される成形用金型であれば、予め所定の温度に温調された上型、あるいは下型の形成面を、融点または軟化温度以上の温度にまで局部的に加熱することが可能となる。よって、互いに対向する二面、即ち表側と裏側とを有する成形品を成形する場合においても、意匠面(成形材料の表側の表面部)に接することとなる上型、あるいは下型の形成面を加熱することで、前記意匠面における成形材料の流動性の低下を防ぐことができる。
【0006】
しかし、前記「特許文献1」に示される成形用金型においては、加熱しようとする上型または下型の形成面を含む、薄膜層の表面(薄膜層において、キャビティ側の面)に対して、加熱誘導用コイル(高周波加熱コイル)が前記薄膜層の裏面(薄膜層において、キャビティと対向する側の面)側近傍に配設されている。
よって、前記形成面を加熱する際は、先ず、加熱誘導用コイル(高周波加熱コイル)より発生する磁力線によって、前記薄膜層の裏面全体を加熱し、その後、前記薄膜層の裏面全体に発生した熱を前記薄膜層の表面に伝導させることによって行われる。つまり、加熱しようとする前記形成面を構成するキャビティ内表面のみを、成形材料の融点(軟化温度)以上の温度にまで局部的に加熱することは難しく、前記成形面を加熱する際は、常に金型割り面を含む薄膜層の裏面全体を加熱するための熱量が必要となっていた。
従って、前記「特許文献1」に示される成形用金型は、熱効率が低く、急速加熱・急速冷却に適さないものであった。
【0007】
本発明は、以上に示した現状の問題点を鑑みてなされたものであり、高い表面品質を必要とする意匠面を有した成形品を成形する成形用金型であって、熱効率が高く、急速加熱、急速冷却を可能とし、前記意匠面に対して高い表面品質を確保することができる成形用金型を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、互いに対向する二面のうちの何れか一方の面に意匠面が設けられた成形品を成形する成形用金型であって、互いに対向して配設される第一金型部位および第二金型部位を備え、前記第一金型部位および第二金型部位は、相対的に近接離間方向に移動可能に設けられ、前記第一金型部位における前記第二金型部位に対向する面には、前記成形品の意匠面を形成する第一形成面が設けられるとともに、前記第一形成面の表面部は、磁性体材料によって形成され、前記第二金型部位における前記第一金型部位に対向する面には、前記成形品の他方の面を形成する第二形成面が設けられるとともに、前記第二金型部位は絶縁体材料によって形成され、前記第二金型部位における前記第二形成面の近傍には、渦電流を発生させる高周波加熱コイルが、前記第一形成面に沿って埋設されるものである。
【0010】
請求項2においては、請求項1に記載の成形用金型であって、前記第一金型部位は磁性体材料によって形成されるものである。
【0011】
請求項3においては、請求項1または請求項2に記載の成形用金型であって、前記第一金型部位における前記第一形成面の近傍には、複数の温調水路が、前記第一形成面に沿って形成され、前記第二金型部位における前記第二形成面の近傍には、複数の温調水路が、前記第二形成面に沿って形成されるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
即ち、本発明における成形用金型によれば、高い表面品質を必要とする意匠面を有した成形品を成形する際、熱効率が高く、急速加熱、急速冷却を可能とし、前記意匠面に対して高い表面品質を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例に係る成形用金型の全体的な構成を示した断面図。
【図2】成形用金型を用いて成形品を成形する際の各工程を示した工程図。
【図3】成形用金型を用いたスタンピング成形の各工程の様子を経時的に示した図であり、(a)は材料加熱工程における加熱装置の状態を示した断面図、(b)は金型加熱工程における成形用金型の状態を示した断面図、(c)は成形工程における成形用金型の状態を示した断面図、(d)は取出工程における成形用金型の状態を示した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、発明の実施の形態を説明する。
【0015】
[成形用金型1]
先ず、本発明を具現化する成形用金型1の構成について、図1を用いて説明する。
なお、便宜上、図1における矢印Aの方向は、前方を示すものとして、また図1の上下方向は、成形用金型1の上下方向を示すものとして各々規定し、以下の説明を行う。
【0016】
成形用金型1は、例えばスタンピング成形に用いられる金型であって、上型2および下型3を有して構成される。また、これら上型2および下型3には温調機構がそれぞれ備えられるとともに、下型3には、上型2のプレス面21を局部的に加熱するための加熱機構が備えられる。
【0017】
ここで、前記スタンピング成形は、成形品の材料となる熱可塑性樹脂(以下、「成形材料」と記す)を予め融点または軟化温度以上の温度にまで加熱して、該成形材料を軟化させ、その後、該成形材料の凝固点または固化温度以下の温度に予め温調された上型2および下型3によって、前記成形材料を高圧力にて圧縮(プレス)して、成形品を成形する成形法である。
【0018】
なお、本実施例において、成形用金型1によって成形される成形品は、互いに対向する二面、即ち表側の表面部と裏側の表面部とを有する成形品であって、他方の面である裏側の表面部については、さほど表面品質(上型2、あるいは下型3のプレス面21・31に接して押圧される面の品質。以下、同じ。)の良否が問題とならないが、一方の面である表側の表面部(以下、「意匠面」と記す)については、通常高い表面品質が要求される。
そして、前記意匠面は、後述する上型2の形成面21aによって、また前記裏側の表面部は、後述する下型3の形成面31aによって、それぞれ形成される。
【0019】
成形用金型1を構成する、これら上型2および下型3は、上方から下方に向かって順に配設されるとともに互いに対向して設けられ、プレス装置10に備えられるスライド11およびボルスタ12に、各々着脱可能に固定保持される。
【0020】
そして、スライド11が上下方向(側面視において、矢印Aと直交する方向。以下、同じ。)に移動することで、上型2は下型3に対して近接離間方向に移動するようになっている。
【0021】
即ち、上型2が下降(下方向に移動)して下型3に近接することで、成形用金型1は「型閉じ」状態となり、上型2が上昇(上方向に移動)して下型3より離間することで、成形用金型1は「型開き」状態となる。
【0022】
上型2は絶縁体(非磁性体)材料によって形成され、その下面(下型3と対向する側の面)にはプレス面21が形成される。前記プレス面21は形成面21aと、金型割り面21bとを有して構成される。
【0023】
前記形成面21aは、成形用金型1によって成形材料を圧縮(プレス)する際、該成形材料の表側の表面部に圧接される部位である。
つまり、成形材料が成形用金型1によって圧縮(プレス)されることで、形成面21aの形状が成形材料の表側の表面部に転写され、成形品の意匠面が形成される。
【0024】
前記金型割り面21bは、成形用金型1によって成形材料を圧縮(プレス)する際、下型3と接触しないように、該下型3と幾分かの隙間を形成するようにして形成される。
【0025】
なお、金型割り面21bと下型3との間隙部には、成形材料が配置されることはなく、該金型割り面21bの形状が成形材料の表面部に転写されることはない。
【0026】
上型2の内部には、温調機構を構成する複数の温調水路22・22・・・が穿孔される。
前記温調水路22・22・・・は上型2の温度(より具体的には、上型2における形成面21aの表面温度)を、成形材料の凝固点(固化温度)以下の温度に予め温調するための水路であり、側面断面視において、所定の間隔を有しつつプレス面21の形成面21aに沿って配設される。
【0027】
なお、これら複数の温調水路22・22・・・は、図示しないが、一方の端部において、互いに連通されている。
【0028】
一方、成形用金型1の外部には、既知のボイラーなどから構成される給水手段(図示せず)が設けられ、これら複数の温調水路22・22・・・は、図示せぬ配管機器などを介して、前記給水手段と連通される。
【0029】
そして、前記給水手段によって、これら複数の温調水路22・22・・・の管内に、所定の温度(成形材料の凝固点または固化温度以下の温度。以下、同じ。)に加温された温水を各々供給することで、上型2のプレス面21に関する表面温度が所定の温度に温調される。
【0030】
次に、下型3の構成について説明する。
下型3は絶縁体(非磁性体)材料によって形成され、その上面(上型2と対向する側の側面)にはプレス面31が形成される。前記プレス面31は、前述した上型2と同様に、形成面31aと、金型割り面31bとを有して構成される。
【0031】
そして、成形材料が成形用金型1によって圧縮(プレス)されることで、形成面31aの形状が成形材料の裏側の表面部に転写され、成形品の裏側の表面部が形成される。
【0032】
なお、これら形成面31aおよび金型割り面31bの構成については、前述した上型2の形成面21aおよび金型割り面21bの構成と同等であるため、説明は省略する。
【0033】
下型3の内部には、温調機構を構成する複数の温調水路32・32・・・が穿孔されるとともに、加熱機構を構成する高周波加熱コイル33が埋設される。
前記温調水路32は下型3の温度(より具体的には、下型3における形成面31aの表面温度)を、成形材料の凝固点または固化温度以下の温度に予め温調するための水路である。
【0034】
なお、これら複数の温調水路32・32・・・の構成については、前述した上型2の温調水路22・22・・・の構成と同等であるため、説明は省略する。
【0035】
前記高周波加熱コイル33は、上型2の形成面21aの表面温度を、成形材料の融点または軟化温度以上の温度にまで加熱させるためのものである。
高周波加熱コイル33は、下型3の内部における温調水路32・32・・・よりも下型3の形成面31a側の位置に配設される。
【0036】
即ち、成形用金型1が「型閉じ」された状態において、高周波加熱コイル33は、側面視にて上型2の形成面21aに沿って、前記形成面31aの近傍に配設される。
つまり、高周波加熱コイル33は、成形用金型1を構成する上型2および下型3のうち、成形品の意匠面を形成する上型2の形成面21aに対向して設けられた下型3の、形成面21aが形成された部分に対応する箇所に配設される。
換言すれば、高周波加熱コイル33は、絶縁体(非磁性体)材料によって形成される下型3の形成面31aの裏側であって、成形品の意匠面を形成する上型2の形成面21aと対向する部分に配設されるのである。
【0037】
一方、成形用金型1の外部には、既知の高周波発生装置(図示せず)が設けられ、高周波加熱コイル33は、図示せぬ配線機器などを介して、前記高周波発生装置と電気的に連結される。
【0038】
そして、前記高周波発生装置によって、高周波加熱コイル33に高周波電流が通電されると、該高周波加熱コイル33は磁力線を発生させる。
【0039】
高周波加熱コイル33によって発生された磁力線は、絶縁体(非磁性体)材料からなる下型3には吸収されず、導電体(磁性体)材料からなる上型2(より具体的には、上型2の形成面21a)に対して局部的に吸収される。
【0040】
その結果、下型3の形成面31aは、温調水路32・32・・・の管内に供給される温水によって所定の温度に維持される一方、上型2の形成面21aには渦電流が発生し、該渦電流によって、該形成面21aの表面は、成形材料の融点または軟化温度以上の温度にまで急速に加熱されるのである。
【0041】
なお、後述するように、成形用金型1によって成形品を成形する際、高周波加熱コイル33への高周波電流の通電は、成形用金型1の「型閉じ」が完了する前に行われ、成形用金型1の「型閉じ」が完了すると、高周波加熱コイル33への高周波電流の通電は停止される。
その結果、上型2の形成面21aの表面温度は、温調水路22・22・・・の管内に供給される温水によって、所定の温度にまで急速に冷却される。
【0042】
このように、本実施例における成形用金型1は、下型3に配設される高周波加熱コイル33によって、該下型3と対向して設けられる上型2の形成面21aのみを局部的に加熱することが可能な構成となっている。
つまり、従来の成形用金型においては、例えば、加熱しようとする上型の形成面を含む、薄膜層の表面(薄膜層において、キャビティ側の面)に対して、高周波加熱コイルが前記薄膜層の裏面(薄膜層において、キャビティと対向する側の面)側近傍に配設されており、形成面を加熱するためには、前記薄膜層の裏面全体を加熱する必要があったが、本実施例における成形用金型1によれば、加熱しようとする形成面21aのみを局部的に加熱すればよい。
【0043】
よって、本実施例における成形用金型1は、従来の成形用金型に比べて、加熱する部分(形成面21aの表面積)が小さくてすみ、急速加熱・急速冷却することが可能な構成となっている。
【0044】
また、成形用金型1においては、成形品の意匠面を形成する、導電体(磁性体)材料からなる上型2の形成面21aのみを、成形材料の融点または軟化温度以上の温度にまで加熱するため、消費エネルギー(高周波加熱コイル33によって消費される電力)が少なくてすみ熱効率もよい。
【0045】
また、成形用金型1には、成形品の表面部のうち高い表面品質を必要とする意匠面を形成する、上型2の形成面21aのみを、局部的に急速加熱・急速冷却することができるように、高周波加熱コイル33が配設されている。
よって、成形用金型1においては、上型2の形成面21a近傍における成形材料の流動性が向上し、該形成面21aの形状の成形材料の表面部に対する転写性も向上する。
つまり、成形用金型1においては、成形品の表面部のうち高い表面品質を必要とする意匠面を形成する、上型2の形成面21aのみを、局部的に急速加熱・急速冷却することで、前記成形品の意匠面の表面品質を効率よく向上させることができるのである。
【0046】
また、従来の成形用金型においては、例えば、キャビティ面の背面に接近する任意の位置に穿たれた収容凹部に、該キャビティ面に向けて電磁誘導加熱器(高周波加熱コイル)を埋設し、該電磁誘導加熱器(高周波加熱コイル)によってキャビティ面の必要箇所を局部的に予備加熱するような構成のものも知られている。
【0047】
このような従来の成形用金型の場合、加熱しようとする上型、あるいは下型の形成面の裏側、且つ該形成面の近傍に、一個の電磁誘導加熱器(高周波加熱コイル)を埋設することととなり、前記成形面の面積が広ければ、電磁誘導加熱器(高周波加熱コイル)までの距離が部分的に大きく異なることとなる。
従って、成形面へ伝導された熱は不均一となり、該成形面の温度分布に偏りが生じることから、このような従来の成形用金型では、成形品の意匠面に対して高い表面品質を確保することが困難であった。
【0048】
このような従来の成形用金型に対して、本実施例における成形用金型1であれば、加熱しようとする形成面21aに沿って、高周波加熱コイル33が均一に配設されるため、これら高周波加熱コイル33によって、形成面21aは均一に熱せられ、該形成面21aの温度分布に偏りが生じることもなく、成形品の意匠面に対して高い表面品質を確保することができるのである。
【0049】
さらに、従来の成形用金型においては、例えば、少なくとも高熱伝導性金属層とそれに接する導電性(磁性)金属層の複合層からなり、これら高熱伝導層と導電性(磁性)層とが冶金的に接合している成形用金型であって、該導電性(磁性)層はキャビティ側に配設され、インダクタ(加熱誘導用装置)を成形用金型の間に挟むことでキャビティ面を予備加熱する構成のものも知られている。
【0050】
このような従来の成形用金型の場合、成形面の加熱終了後、成形用金型のキャビティ内に成形材料を投入する際は、先ず、該成形用金型よりインダクタ(加熱誘導用装置)を取り出して、その後、該成形用金型を閉じた後、該成形用金型に成形材料を投入する必要がある。
従って、このような成形用金型よりインダクタ(加熱誘導用装置)を取り出すための作業が余分に必要となるばかりか、このような作業を行う最中に、せっかく加熱された成形面の温度も低下することから、このような従来の成形用金型では、成形品の意匠面に対して高い表面品質を確保することが困難であった。
【0051】
このような従来の成形用金型に対して、本実施例における成形用金型1であれば、形成面21aを加熱する高周波加熱コイル33は下型3に備えられ、該高周波加熱コイル33を成形用金型1より取り外すような余分な作業もないことから、加熱された形成面21aの温度が低下することもなく、成形品の意匠面に対して高い表面品質を確保することができるのである。
【0052】
なお、本実施例における成形用金型1においては、成形品の意匠面を形成する形成面21aを有する上型2全体を導電体(磁性体)材料によって形成することとしているが、これに限定されるものではなく、前記形成面21aの表面のみを、導電体(磁性体)材料からなる薄膜層によって被覆するような構成としてもよい。
【0053】
また、本実施例における成形用金型1は、上型2の形成面21aによって成形品の意匠面を形成することとしているが、これに限定されるものではなく、下型3の形成面31aによって成形品の意匠面を形成することとしてもよい。
【0054】
また、本実施例における成形用金型1を構成する上型2および下型3は、上下方向に向かって配設される構成となっているが、これに限定されるものではなく、例えば左右方向(平面視において、矢印Aと直交する方向。以下、同じ。)に向かって配設される構成であってもよい。
【0055】
さらに、本実施例における成形用金型1は、スライド11により上型2のみを上下方向に向かって移動可能な構成としているが、これに限定されるものではなく、これら上型2および下型3が互いに相対的に近接離間するような構成であればよい。
例えば、下型3のみを上下方向に向かって移動可能な構成としてもよく、あるいはこれら上型2および下型3のいずれもが上下方向に向かって移動可能な構成としてもよい。
【0056】
[成形方法]
次に、本発明を具現化する成形用金型1を用いた成形品の成形方法について、図2および図3を用いて説明する。
なお、便宜上、図3における矢印Aの方向は、前方を示すものとして、また図3(a)および図3(b)乃至(d)の上下方向は、それぞれ加熱装置50および成形用金型1の上下方向を示すものとして各々規定し、以下の説明を行う。
【0057】
図2に示すように、成形用金型1を用いた成形品100(図3を参照)の成形方法は、材料加熱工程(ステップS101)と、金型加熱工程(ステップS102)と、成形工程(ステップS103)と、取出工程(ステップS104)とからなる四工程によって構成される。
【0058】
先ず初めに、材料加熱工程(ステップS101)について説明する。
材料加熱工程(ステップS101)は、熱可塑性樹脂からなる成形材料100A(図3(a)を参照)を、予め融点または軟化温度以上の温度にまで加熱して、該成形材料100Aを軟化させる工程である。
成形材料100Aの加熱は、例えば、以下に示すような加熱装置50によって行われる。
【0059】
即ち、図3(a)に示すように、加熱装置50は、箱形状の温室51や、後方から前方(図3(a)の矢印Aの方向。以下同じ。)に向かって、前記温室51を貫くようにして配設される搬送コンベア52や、前記温室51内において、該搬送コンベア52の近傍に配設される複数のヒーター53・53などにより構成される。
【0060】
そして、搬送コンベア52に載置された成形材料100Aは、該搬送コンベア52によって、温室51の入口部51aを通過して該温室51内へと搬送(搬入)される。
温室51内に搬送された成形材料100Aは、搬送コンベア52によって、さらに前方へと搬送されながら、複数のヒーター53・53によって、表面部より加熱されていく。
【0061】
その後、成形材料100Aは、温室51の出口部51bに到達する。この際、成形材料100Aの温度は融点または軟化温度以上の温度となり、成形材料100Aは軟化している。
そして、軟化した成形材料100Aは、搬送コンベア52によって、温室51の出口部51bを通過して該温室51の外部に搬送(搬出)されるのである。
【0062】
次に、金型加熱工程(ステップS102)について説明する。
金型加熱工程(ステップS102)は、材料加熱工程(ステップS101)の終了後、下型3に配設される高周波加熱コイル33によって、上型2の形成面21aのみを局部的に加熱する工程である。
【0063】
即ち、「型開き」状態となっている成形用金型1において、材料加熱工程(ステップS101)によって加熱された成形材料100Aが、下型3の形成面31a上に載置されると、上型2は下降を開始する。
【0064】
下降を開始した上型2は、図3(b)に示すように、下型3の上方側近傍、且つ成形材料100Aと接触しない位置に到達すると一旦停止し、その後、下型3に配設される高周波加熱コイル33に高周波電流が通電され、上型2の形成面21aが加熱される。
そして、上型2の形成面21aの表面温度が、成形材料100Aの融点または軟化温度以上の温度にまで十分に加熱されることで、金型加熱工程(ステップS102)は終了する。
【0065】
なお、金型加熱工程(ステップS102)の実行中において、上型2および下型3に各々配設される複数の温調水路22・22・・・32・32・・・の管内には、所定の温度に温められた温水が常に供給されている。
即ち、これら上型2および下型3の各プレス面21・31において、前記形成面21aを除いた他の部分(より具体的には、上型2の金型割り面21bと、下型3のプレス面31全体。以下、同じ。)の表面温度は、複数の温調水路22・22・・・32・32・・・に供給される温水によって、成形材料100Aの凝固点または固化温度以下の温度に温調される。
【0066】
次に、成形工程(ステップS103)について説明する。
成形工程(ステップS103)は、金型加熱工程(ステップS102)の終了後、成形用金型1を「型閉じ」して、成形材料100Aを高圧力にて圧縮(プレス)し、成形品100を成形する工程である。
【0067】
即ち、金型加熱工程(ステップS102)の終了後、上型2は再び下降を開始し、該上型2の形成面21aが成形材料100Aの上部に接触する。
その後、さらに上型2が下降することで、成形材料100Aは、上型2の形成面21aと、下型3の形成面31aとによって挟持されながら高圧力にて圧縮(プレス)される。
【0068】
なお、上型2が再び下降を開始するタイミングについては、金型加熱工程(ステップS102)において、上型2が一旦停止するとともに高周波加熱コイル33への高周波電流の通電が開始された時点からの経過時間によって予め定められており、高周波加熱コイル33への通電開始から所定の時間が経過すると上型2は再び下降を開始する。
【0069】
そして、図3(c)に示すように、上型2は、予め定められた下限位置に到達すると一旦停止するとともに、下型3に配設される高周波加熱コイル33への高周波電流の通電が停止する。
【0070】
なお、成形工程(ステップS103)の実行中において、上型2および下型3に各々配設される複数の温調水路22・22・・・32・32・・・の管内には、所定の温度に温められた温水が常に供給されている。
即ち、高周波加熱コイル33への高周波電流の通電が停止した後、上型2の形成面21aの表面温度は急速に冷却されるとともに、温調水路22・22・・・の管内に供給される温水によって、所定の温度に保たれることで、これら上型2および下型3の各プレス面21・31の表面温度は、複数の温調水路22・22・・・32・32・・・に供給される温水によって、所定の温度に温調される。
【0071】
その後、このような「型閉じ」された状態によって、成形用金型1が保持されることで、成形材料100Aは、上型2および下型3の各形成面21a・31aを通じて熱を奪われて冷却されていき、成形品100が完成する。
即ち、このような「型閉じ」された状態によって、成形用金型1は、予め定められた一定時間保持されることとなり、該一定時間の経過によって成形工程(ステップS103)は終了する。
【0072】
次に、取出工程(ステップS104)について説明する。
取出工程(ステップS104)は、成形工程(ステップS103)の終了後、完成した成形品100を成形用金型1内より取り出す工程である。
【0073】
即ち、図3(d)に示すように、成形工程(ステップS103)の終了後、上型2は上昇を開始し、成形用金型1が「型開き」される。
そして、「型開き」状態となった成形用金型1より成形品100が取り出され、取出工程(ステップS104)は終了する。
【0074】
このように、材料加熱工程(ステップS101)と、金型加熱工程(ステップS102)と、成形工程(ステップS103)と、取出工程(ステップS104)とからなる四工程を順に進めることで、表側と裏側とを有する薄物の成形品100は、成形用金型1によって成形される。
そして、図3(d)に示すように、成形された成形品100において、高い表面品質が要求される表側の表面部、即ち意匠面100aの形状は、上型2の形成面21aによって形成され、さほど表面品質の良否が問題とならない裏側の表面部100bの形状は、下型3の形成面31aによって形成されるのである。
【0075】
以上のように、本実施例における成形用金型1は、互いに対向する二面のうちの何れか一方の面(本実施例においては、成形品100の表側の表面部)に意匠面100aが設けられた成形品100を成形する成形用金型1であって、互いに対向して配設される第一金型部位(本実施例においては、上型2)および第二金型部位(本実施例においては、下型3)を備え、前記上型(第一金型部位)2および下型(第二金型部位)3は、相対的に近接離間方向に移動可能に設けられ、前記上型(第一金型部位)2における前記下型(第二金型部位)3に対向する面、つまり上型(第一金型部位)2のプレス面21には、前記成形品100の意匠面100aを形成する形成面(第一形成面)21aが設けられるとともに、前記形成面(第一形成面)21aの表面部は、導電体(磁性体)材料によって形成され、前記下型(第二金型部位)3における前記上型(第一金型部位)2に対向する面、つまり下型(第二金型部位)3のプレス面31には、前記成形品100の他方の面(本実施例においては、成形品100の裏側の表面部100b)を形成する形成面(第二形成面)31aが設けられるとともに、前記下型(第二金型部位)3は絶縁体材料によって形成され、前記下型(第二金型部位)3における前記形成面(第二形成面)31aの近傍には、渦電流を発生させる高周波加熱コイル33が、前記形成面(第一形成面)21aに沿って埋設されることとしている。
【0076】
このような構成を有することで、本実施例における成形用金型1によれば、高い表面品質を必要とする意匠面100a(図3(d)を参照)を有した成形品100を成形する際、熱効率が高く、急速加熱、急速冷却を可能とし、前記意匠面100aに対して高い表面品質を確保することができる。
【0077】
即ち、本実施例における成形用金型1は、成形品100の表面部のうち高い表面品質を必要とする意匠面100aを形成する、上型2の形成面21aのみを、局部的に急速加熱・急速冷却することができるように、高周波加熱コイル33が下型3に配設されている。
また、成形用金型1においては、成形品100の意匠面100aを形成する、導電体(磁性体)材料からなる上型2の形成面21aのみを、成形材料の融点または軟化温度以上の温度にまで加熱するため、消費エネルギー(高周波加熱コイル33によって消費される電力)が少なくてすみ熱効率もよい。
【0078】
このようなことから、本実施例における成形用金型1においては、上型2の形成面21a近傍における成形材料の流動性が向上し、該形成面21aの形状が、成形材料100Aの表面部に転写される際の転写性も向上する。
従って、成形用金型1においては、成形品100の表面部のうち高い表面品質を必要とする意匠面100aを形成する、上型2の形成面21aのみを、局部的に急速加熱・急速冷却することで、前記成形品100の意匠面100aの表面品質を効率よく向上させることができるのである。
【0079】
また、本実施例における成形用金型1は、前記上型(第一金型部位)2全体が導電体(磁性体)材料によって形成されることとしている。
【0080】
このような構成を有することで、例えば、上型2における形成面21aの表面のみを、導電体(磁性体)材料からなる薄膜層によって被覆するような構成とした場合に比べて、該薄膜層の剥離など、予期せぬ事態を未然に防ぐことができ、成形品100の意匠面100aに対して、安定して高品質を確保することが可能となるのである。
【0081】
また、本実施例における成形用金型1は、前記上型(第一金型部位)2における前記形成面(第一形成面)21aの近傍には、複数の温調水路22・22・・・が、前記形成面(第一形成面)21aに沿って形成され、前記下型(第二金型部位)3における前記形成面(第二形成面)31aの近傍には、複数の温調水路32・32・・・が、前記形成面(第二形成面)31aに沿って形成されることとしている。
【0082】
このような構成を有することで、上型2の形成面21aの加熱・冷却に関わらず、該形成面21aおよび下型3の形成面31aの温度を常に所定の温度に保温することが可能になる。
よって、これら温調水路22・22・・・33・33・・・に供給される温水の温度を調整することで、成形材料100Aの冷却時間を調整することが可能となり、成形品100全体に対して、高い表面品質を確保することができるのである。
【符号の説明】
【0083】
1 成形用金型
2 上型(第一金型部位)
3 下型(第二金型部位)
21 プレス面
21a 形成面(第一形成面)
22 温調水路
32 温調水路
31a 形成面(第二形成面)
33 高周波加熱コイル
100 成形品
100a 意匠面
100b 表面部(裏面)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する二面のうちの何れか一方の面に意匠面が設けられた成形品を成形する成形用金型であって、
互いに対向して配設される第一金型部位および第二金型部位を備え、
前記第一金型部位および第二金型部位は、相対的に近接離間方向に移動可能に設けられ、
前記第一金型部位における前記第二金型部位に対向する面には、前記成形品の意匠面を形成する第一形成面が設けられるとともに、前記第一形成面の表面部は、磁性体材料によって形成され、
前記第二金型部位における前記第一金型部位に対向する面には、前記成形品の他方の面を形成する第二形成面が設けられるとともに、前記第二金型部位は絶縁体材料によって形成され、
前記第二金型部位における前記第二形成面の近傍には、渦電流を発生させる高周波加熱コイルが、前記第一形成面に沿って埋設される、
ことを特徴とする成形用金型。
【請求項2】
前記第一金型部位は磁性体材料によって形成される、
ことを特徴とする、請求項1に記載の成形用金型。
【請求項3】
前記第一金型部位における前記第一形成面の近傍には、複数の温調水路が、前記第一形成面に沿って形成され、
前記第二金型部位における前記第二形成面の近傍には、複数の温調水路が、前記第二形成面に沿って形成される、
ことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の成形用金型。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−40847(P2012−40847A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186496(P2010−186496)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】