説明

成形装置および成形方法

【課題】ワークのセットや成形後の製品の取り出しが容易な成形装置および成形方法を提供すること。
【解決手段】成形装置30は、基台3、下金型5、上金型6、複数個の長孔12を有するプレートを上金型6上でスライドさせるスライド式シャッター10、および長孔12の大径孔部12aのみを挿通可能な先端部8aと長孔12の大径孔部12aおよび小径孔部12bのいずれも挿通可能な軸部8bを有する締め付け用ピストンロッド8を昇降させる複数本の締め付け用シリンダー7等を備える。締め付け用シリンダー7は、締め付け用ピストンロッド8の軸部8bとプレートの小径孔部を係合させた状態で締め付け用ピストンロッド8の先端部8aをプレートに押し当てて上金型6を下金型5に締め付ける。回動用シリンダー16は、上金型6と下金型5との間に成形材料が注入される前に、金型締めがされた状態で、基台3を水平配置から垂直配置に回動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂等の成形材料から成形品を成形する成形装置および成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
成形装置は、一般的にいわゆる押し当て式のものが主流であるが、固定側、可動側ともに押し当て力に耐え得るような強固な構造が要求されるため、プレス構造が大型化するという問題点がある。そこで、これに替わる方式として、いわゆる引付け式(締め付け式)の成形装置も利用されている(例えば、特許文献1,2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭61−17822号公報
【特許文献2】特開平05−79210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の引付け式の成形装置は、金型の移動方向が横方向のいわゆる横式であるため、ワークのセットや成形後の製品の取り出しが困難であった。
【0005】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、ワークのセットや成形後の製品の取り出しが容易な成形装置および成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る成形装置は、基台と、この基台上に固定された下金型と、この下金型に対向して配置され、前記下金型とともに成形材料を成形する上金型と、前記上金型上に設置され、大径孔部と小径孔部とが連設されてなる長孔が複数個設けられた平板部材からなるプレートを前記上金型の上面に平行な面内で前記長孔の長手方向にスライドさせることが可能なスライド式シャッターと、前記プレートに設けられた各長孔に対応して前記基台に複数本設けられ、それぞれ前記長孔の大径孔部のみを挿通可能な先端部と前記大径孔部および小径孔部のいずれも挿通可能な軸部とを有する締め付け用ピストンロッドが嵌入され、前記各締め付け用ピストンロッドの軸部が前記下金型および前記上金型にそれぞれ設けられた貫通孔を順次貫通し前記プレートに設けられた前記長孔の小径孔部を貫通した状態で前記締め付け用ピストンロッドを下方に駆動することにより前記締め付け用ピストンロッドの先端部を前記プレートに押し当てて前記上金型を前記下金型に締め付ける締め付け用シリンダーと、前記基台に設けられた水平な回動軸を中心に前記基台を回動させることが可能な回動機構と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、回動機構を設けることにより、成形材料の注入時には基台とともに上金型および下金型を垂直配置し、空気を上方に逃しながら成形材料を金型間に注入することができるので成形品の品質を向上させることができるとともに、ワークセット時や成形後の製品の取り出し時には基台とともに上金型および下金型を水平配置することにより、ワークのセットや成形後の製品の取り出しが容易になる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本実施の形態に係る成形装置の正面図である。
【図2】図2は、図1におけるA−A矢視図である。
【図3】図3は、締め付け用ピストンロッド8の先端部8aとスライド式シャッター10を介して型締めがされた状態を示す図である。
【図4】図4は、図3におけるB−B矢視図である。
【図5】図5は、締め付け用ピストンロッド8の先端部8aを下金型5内にまで下降させた状態を示す図である。
【図6】図6は、成形後、離型処理を行う際の締め付け用ピストンロッド8とスライド式シャッター10の配置関係を示す図である。
【図7】図7は、図2の成形装置30が垂直配置されたときの側面図である。
【図8】図8は、レバー17の動作を示した側面図である。
【図9】図9は、レバー17を正面からみたときの拡大構成図である。
【図10】図10は、成形処理のフローチャートとともにワークセット時における装置構成の概要を示した図である。
【図11】図11は、図10と同じフローチャートとともに成形材料の注入時における装置構成の概要を示した図である。
【図12】図12は、垂直配置された下金型5の断面を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明に係る成形装置および成形方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
実施の形態.
図1は、本実施の形態に係る成形装置の正面図、図2は、図1におけるA−A矢視図である。図1および図2に示すように、成形装置30は、ベース1と、フレーム2と、基台3と、回動軸4と、下金型5と、上金型6と、締め付け用シリンダー7と、締め付け用ピストンロッド8と、スライド式シャッター10と、吊り治具15と、回動用シリンダー16と、レバー17と、回動用ピストンロッド19と、ブラケット20と、軸受24と、を備えている。また、成形装置30の上方には、吊上げ装置13が配置されている。なお、図1では、基台3、下金型5、上金型6、締め付け用ピストンロッド8、スライド式シャッター10、貫通孔11a,11b,11c、および長孔12については断面構成を示し、その他は側面構成を示している。
【0011】
設置面上にベース1が配置され、このベース1には支柱である1対のフレーム2が立設されている。フレーム2の上部には軸受24が設けられ、この軸受24に回動軸4が設けられている。また、回動軸4は基台3に固定されている。基台3は、回動軸4が取り付けられた箇所を除き、例えば長方形の平板状に形成されている。
【0012】
基台3上には下金型5が着脱可能に固定され、下金型5の上部には上金型6が対向して配置されている。また、図1および図2では、基台3が水平配置されているため、下金型5および上金型6も水平配置されている。なお、水平配置とは、基台3の金型搭載面あるいは上下金型の対向面(合わせ面)が水平に配置された状態である。
【0013】
基台3には、例えば8本の締め付け用シリンダー7が設けられている。8本のうち4本の締め付け用シリンダー7は、基台3の回動軸4に平行な一端縁に例えば等間隔で均等に配列され、残りの4本の締め付け用シリンダー7は、前記一端縁に対向する基台3の他端縁に同様に等間隔で均等に配列されている。また、基台3における締め付け用シリンダー7の各取り付け箇所に対応して、基台3には貫通孔11aが、下金型5には貫通孔11bが、上金型6には貫通孔11cがそれぞれ設けられ、貫通孔11a、11b、11cは互いに連通している。
【0014】
締め付け用シリンダー7は例えば油圧式のシリンダーであり、そのシリンダチューブ内には締め付け用ピストンロッド8が嵌合されている。締め付け用ピストンロッド8は基台3の金型搭載面に垂直な方向に延伸する軸部8bを本体とし、その先端に軸部8bよりも太径の先端部8aが設けられている。図1では、締め付け用ピストンロッド8は、貫通孔11a、11b、11cを順次貫通し、さらにスライド式シャッター10に設けられた長孔12を貫通し、その先端部8aがスライド式シャッター10の上面よりも上に突き出た状態にある。
【0015】
上金型6の上部には、吊り治具15が一体に設けられている。吊り治具15には、例えば吊上げ装置13から垂下された引掛け部14に係合するように穴が設けられている。したがって、引掛け部14が吊り治具15の穴に引掛けられた状態で吊上げ装置13を駆動することにより、上金型6は吊上げ装置13により吊上げられる。本実施の形態では、下金型5と上金型6とが水平配置された状態から吊上げ装置13により上金型6を吊上げることにより金型の開閉を行う。なお、吊り治具15は複数箇所に設けてもよい。また、吊上げ装置13および吊り治具15の具体的な構成は、図示例に限定されない。
【0016】
フレーム2の側方には回動用シリンダー16が配置され、この回動用シリンダー16はブラケット20によりフレーム2に取り付けられている。回動用シリンダー16は、例えば油圧式のシリンダーであり、その長手方向を鉛直方向にして配置されている。回動用シリンダー16のシリンダチューブ内には回動用ピストンロッド19が嵌合され、回動用ピストンロッド19の先端部18は、回動軸4に固定されたレバー17に連結している。回動用ピストンロッド19が上方向に伸びることにより、レバー17を押上げる。この時、回動用シリンダー16はレバー17の軌跡で傾動可能なように、ブラケット20に取り付けられている。また、図1に示すように、レバー17は回動軸4を介して、基台3に連結されているので、レバー17を90度回転させることにより、基台3が90度回転する。このように、回動用シリンダー16、回動用ピストンロッド19(先端部18含む)、レバー17、回動軸4、および軸受24は回動機構を構成する。なお、回動機構は、図示例に限らず、その他の構成とすることもできる。
【0017】
次に、スライド式シャッター10の構成について説明する。図3は、締め付け用ピストンロッド8の先端部8aとスライド式シャッター10を介して型締めがされた状態を示す図、図4は、図3におけるB−B矢視図である。
【0018】
図4では、上金型6の上面に例えば1対のスライド式シャッター10が取り付けられている。スライド式シャッター10は、例えば概略長方形の平板状部材からなるプレート25と、このプレート25を上方から押さえてその移動の際に案内を行う複数個のシャッター押さえ21と、プレート25をスライド範囲P内で駆動させるシャッター駆動機構22と、プレート25とシャッター駆動機構22を連結するジョイント部23と、を備えている。
【0019】
1対のプレート25は、上金型6上における対向する端縁にそれぞれ配置されている。また、1対のプレート25は、互いに平行である。プレート25は、上金型6の上面に平行な面内でかつスライド範囲P内で、プレート25の長手方向に往復動作可能である。図4では、スライド方向に互いに対向する上金型6の端をそれぞれE1,E2で示している。そして、一方のプレート25の端G2が端E2に一致し、他方のプレート25の端F1が端E1に一致した状態にある。なお、シャッター駆動機構22には例えばエアーシリンダーを用いることができる。
【0020】
プレート25上には、長手方向に例えば等間隔で4個の長孔12が設けられている。長孔12は、例えば大径孔部12aと小径孔部12bとが連設されてなり、長孔12の長手方向はプレート25のスライド方向に等しい。また、大径孔部12aは、締め付け用ピストンロッド8の先端部8aが挿通可能な大きさに設定されている。一方、小径孔部12bを含む長孔12のその他の部分は、締め付け用ピストンロッド8の軸部8bのみが挿通可能な大きさであり、先端部8aは挿通できないように設定されている。また、端G1,G2を有するプレート25では、長孔12の小径孔部12bはすべて端E1側に向いており、端F1,F2を有するプレート25では、長孔12の小径孔部12bはすべて端E2側に向いている。したがって、1対のプレート25は、動作時に互いに逆向きに動作する。なお、プレート25を、1対の分離した構成とせず、一体で構成することも可能である。この場合、すべての長孔12の小径孔部12bは同一方向を向く。また、本実施の形態では、小径孔部12bの径は例えば締め付け用ピストンロッド8の軸部8bの径と略等しく設定されている。
【0021】
プレート25の長孔12は、基台3に設けられた複数本の締め付け用シリンダー7にそれぞれ対応して設けられている。そして、プレート25のスライド位置にかかわらず、長孔12のいずれかの部分が貫通孔11a、11b、11cに連通した状態にある。
【0022】
図4は、図3におけるスライド式シャッター10のプレート25の位置に対応した図であり、締め付け用ピストンロッド8の軸部8bが小径孔部12bを貫通し、締め付け用ピストンロッド8の先端部8aがプレート25上に突き出た状態で、かつ先端部8aの下面がプレート25の上面と当接している。
【0023】
一方、図1では、締め付け用ピストンロッド8の軸部8bが大径孔部12aを貫通し、先端部8aがプレート25の上方に突き出た状態にある。この場合、プレート25の位置は、図4に示す位置とは異なり、端G1,G2を有するプレート25の端G1が上金型6の端E1に一致するようにスライドさせ、かつ、端F1,F2を有するプレート25の端F2が上金型6の端E2に一致するようにスライドさせた状態に対応する。
【0024】
このように、図1では、締め付け用ピストンロッド8が大径孔部12aを貫通した状態となるように、プレート25の位置が設定されている。この状態から、図3に示す状態に移行するには、プレート25を図4に示す位置にスライドさせ、長孔12の小径孔部12bを締め付け用ピストンロッド8の軸部8bに係合させ、さらに、締め付け用ピストンロッド8を下降させて先端部8aの下面をプレート25の上面に押し当てて上金型6を下金型5に締め付ける。
【0025】
図5は、締め付け用ピストンロッド8の先端部8aを下金型5内にまで下降させた状態を示す図である。図5では、スライド式シャッター10のプレート25は図1と同じ位置であり、締め付け用ピストンロッド8の軸部8bが長孔12の大径孔部12aを貫通した状態にある。したがって、図1にて、締め付け用ピストンロッド8を下降させると図5の配置に至り、図5にて、締め付け用ピストンロッド8を上昇させると図1の配置に至る。また、吊上げ装置13を用いて上金型6を下金型5から分離する際には、締め付け用ピストンロッド8は例えば下金型5内に待機させる(図5)。なお、締め付け用ピストンロッド8の先端部8aは、図5に示す高さ位置よりもさらに下降させることもできる。
【0026】
図6は、成形後、離型処理を行う際の締め付け用ピストンロッド8とスライド式シャッター10の配置関係を示す図である。図6では、スライド式シャッター10のプレート25は図3と同じ位置であり、締め付け用ピストンロッド8の中心軸線上に長孔12の小径孔部12bが位置している。ただし、締め付け用ピストンロッド8の先端部8aは上金型6内に配置され、先端部8aの上面がプレート25の下面に当接した状態にある。この状態で、締め付け用ピストンロッド8を上昇させると、締め付け用ピストンロッド8の先端部8aでプレート25を押し上げることになり、スライド式シャッター10が上金型6に取り付けられていることから上金型6も押し上げられることになる。したがって、図6の配置構成は、金型開きの際に利用することができる。
【0027】
次に、回動機構の動作について、図2、図7〜図9を参照して説明する。図7は、図2の成形装置30が垂直配置されたときの側面図、図8は、レバー17の動作を示した側面図、図9は、レバー17を正面からみたときの拡大構成図である。なお、図8、図9では、回動機構を中心に示しており、成形装置30の他の構成要素は省略している。また、図2、図7では、スライド式シャッター10のプレート25のみを示し、シャッター駆動機構22等は省略している。
【0028】
図2に示す状態で回動用シリンダー16を駆動し、回動用ピストンロッド19が上方向に伸びることにより、レバー17を押上げる。この時、回動用シリンダー16はレバー17の軌跡に従がって傾動する。すなわち、回動用ピストンロッド19を上昇させると、回動用シリンダー16は時計回りに傾動を続け、レバー17が水平に達した後(図8参照)、回転方向を反時計回りに転じて図7の状態に至るよう、ブラケット20に例えば軸支されている。また、図1に示すように、レバー17は回動軸4を介して、基台3に連結されているので、レバー17を90度回転させることにより、基台3が90度回転する。回動用ピストンロッド19の上昇は、基台3が垂直配置された状態になったときに停止するように制御される。ここで垂直配置とは、基台3の金型搭載面あるいは上下金型の対向面が水平面に対して垂直に配置された状態である。また、図7に示す状態から、図2に示す状態に成形装置30の配置を変化させるには、回動用ピストンロッド19を下降させればよい。このように、回動機構は、基台3の配置を少なくとも水平配置から垂直配置の範囲で可逆に回動させることが可能であり、回動用ピストンロッド19の高さに応じて、基台3の金型搭載面の傾斜角度も0°〜90°の範囲で任意に設定可能である。
【0029】
図8では、回動用シリンダー16が傾斜した状態を示している。また、図9では、回動用ピストンロッド19が下降した状態にある場合のレバー17の配置を示している。
【0030】
図7に示すような成形装置30の垂直配置は、上金型6と下金型5との間に成形材料を注入し硬化処理を行う際に利用される。成形材料は例えばシリコーン樹脂やエポキシ樹脂等である。成形材料の注入は、下方に配置された側の例えば下金型5の側面を介してなされるが、成形装置30が図1に示すように水平配置されていると、成形材料を注入するときに混入した空気が成形品の上部に溜まり製品の質が低下してしまうおそれがある。一方、図7に示すように成形装置30の垂直配置を利用することにより、空気を上方に逃しながら金型間に成形材料を充填することができるので、上記の問題点を解消することができる。なお、注入処理の詳細については後述する。
【0031】
一方、図1に示すような成形装置30の水平配置は、ワークセットや型締め、成形物の取り出しの際に利用される。
【0032】
また、本実施の形態では、上金型6、下金型5の相互の対向面(金型合わせ面)のうち、上金型6の表面にのみ例えばテフロン(登録商標)コートなどの離型処理を施す。これにより、成形材料の硬化処理後、上金型6を開く際に、成形物はテフロン(登録商標)コートからは剥離しやすいので上金型6からは容易に剥離し、下金型5に付着した状態になる。そして、下金型5を貫通するノックアウトピンで下金型5に付着した成形物を押し出すことにより成形物を下金型5から剥離する。
【0033】
一方、従来の成形装置では、可動金型、固定金型の双方の対向面に離形処理が施される。そのため、ワークをいずれか一方の金型にねじで固定し、成形処理後に成形物をいずれか一方の金型にねじで固定した状態を保ち、離型時には、ねじをはずした後にノックアウトピンで押し出して成形物を取り外す。しかしながら、ねじを使用すると金属粉が成形物に付着する可能性がある。そのため、成形材料を絶縁材料として成形処理を行う場合、絶縁性を低下させる金属粉が成形物に付着することになり、絶縁性能上好ましくない。例えば、避雷器は、積層された酸化亜鉛素子の周囲にシリコーンゴムなどの絶縁材料を外被として成形して作成されるが、成形の際に金属粉が付着すると、絶縁破壊につながる可能性がある。これに対して、本実施の形態では、ワークを下金型5に設置する際に、ねじなどで固定することなく、その代りに、上金型6の金型合わせ面にのみ例えばテフロン(登録商標)コートなどの離型処理を施し、上金型6と下金型5との間で離型力に差を持たせることで、離型時に、成形物を下金型5に残すようにしている。したがって、ねじを使用することによる金属粉の発生の可能性がない。なお、離形処理としては、例えば中性洗剤などの離型剤を表面に塗布する方法であってもよい。
【0034】
なお、基台3には図示しないノックアウト機構が設けられている。ノックアウト機構は、下金型5内に配置された図示しないノックアウトピンと、このノックアウトピンを駆動させるための図示しないシリンダーを備えている。ノックアウト動作時にノックアウトピンが下金型5から上方へ突き出て成形物を押し上げる。なお、ノックアウトピンは、成形物の例えば両端を押上げることで、成形物を下金型5から離型させ、両端に配置された1対のノックアウトピンはシリンダーの稼働により同軸で持ち上がる構造となっている。
【0035】
次に、成形装置30による成形処理について図10、図11等を参照して説明する。図10は、成形処理のフローチャートとともにワークセット時における装置構成の概要を示した図、図11は、図10と同じフローチャートとともに成形材料の注入時における装置構成の概要を示した図である。成形物としては、例えば積層された酸化亜鉛素子の周囲にシリコーンゴムなどの絶縁材料を外被として成形して作成される避雷器などである。
【0036】
まず、上金型6および下金型5が基台3とともに水平配置された状態で、吊上げ装置13により上金型6を吊上げ、金型開きを行う(S1)。その際、スライド式シャッター10のプレート25と締め付け用ピストンロッド8の配置は、例えば図5に示すとおりである。
【0037】
つづいて、吊上げ装置13で上金型6を吊上げた状態で、下金型5にワーク41をセットする(S2、図10)。一方、成形材料を注入するための圧入装置35に成形材料として例えばシリコーン樹脂を充填した後(T1)、圧入装置35のタンクを成形装置30の近くに移動させ、成形材料を注入するためのホースを例えば下金型5の側面に設けられた注入口40にセットする(T2、図10)。このとき、成形材料の注入は、空気を上方に逃しながら注入するため、下方から行うことが望ましい。図12は、垂直配置された下金型5の断面を示した図であり、下側に成形材料の注入口81、上側に気泡が抜ける脱気口82が設けられ、下金型5の内部空間にはワーク41が配置されるとともにその周囲に内部空間の形状に従って成形材料が充填され、ワーク41には成形材料からなる胴部80aと笠部80bが形作られている。なお、図12は、避雷器の成形を例にしている。上下金型を垂直に配置した状態で、注入口81から成形材料を注入すると、気泡は金型の上部に設けた脱気口82から抜ける。なお、図10、図11では、成形装置30の概略構成を模式的に示したものであり、図1〜図9で示した構成の一部を省略し、吊上げ装置13も省略している。また、回動用シリンダー16やフレーム2はカバー42内に配置されている。
【0038】
次に、上金型6を下金型5に合わせ、吊上げ装置13を上金型6から切り離す。さらに、締め付け用シリンダー7の締め付け用ピストンロッド8を上昇させ、締め付け用ピストンロッド8の先端部8aを上金型6の上部に設置されたスライド式シャッター10のプレート25の太径孔部8aに挿通させ、先端部8aの全体がプレート25の上面より上に突き出た状態(図1)でプレート25をスライドさせ、プレート25の小径孔部12bに締め付け用ピストンロッド8の軸部8bを係合させる。そして、締め付け用ピストンロッド8を下降させることにより、上金型6と下金型5との締め付けを行う(S3、図3)。
【0039】
次に、回動用シリンダー16により、上金型6および下金型5を基台3とともに垂直配置状態に回動させ(S4)、圧入装置35により成形材料の金型間への注入を行う(S5、図11)。このとき、複数本の締め付け用シリンダー7で型締めを行っているので、樹脂が金型合わせ面から漏れないように均等に締め付けることができる。そして、成形材料の注入(S5)、硬化(S6)が終われば、回動用シリンダー16により、上金型6および下金型5を基台3とともに水平配置状態に回動させ(S7)、S3以前の配置に戻す。
【0040】
次に、締め付け用シリンダー7の締め付け用ピストンロッド8を一旦上昇させ、スライド式シャッター10のプレート25をスライド可能な状態にし、プレート25をスライドさせて締め付け用ピストンロッド8の軸部8bと長孔12の小径孔部12bとの係合を開放するとともに長孔12の大径孔部12aが貫通孔11a〜11cと連通するようにした後、締め付け用ピストンロッド8を下降させる。このとき、締め付け用ピストンロッド8の先端部8aの上面は少なくとも上金型6の上面よりも下に配置されるように締め付け用ピストンロッド8が下げられている。
【0041】
次に、スライド式シャッター10のプレート25を再度スライドさせ、長孔12の小径孔部12bが貫通孔11a〜11cと連通するようにする。そして、プレート25のこのような配置のもとで、締め付け用ピストンロッド8を押し上げる(図6)。締め付け用ピストンロッド8の先端部8aの径は小径孔部12bの径よりも大きいことから、先端部8aは必ずプレート25の一部と当接することになり、締め付け用ピストンロッド8はその先端部8aによりプレート25を上方に押し上げる。このとき、プレート25は、プレート押さえ21により上金型6に固定されているので、上金型6も同様に押し上げられることになる。このように、締め付け用ピストンロッド8の先端部8aがスライド式シャッター10のプレート25を押し上げることにより上金型6が上昇する。そして、上金型6と下金型5との間が開離した後は、締め付け用ピストンロッド8の上昇を停止し、吊上げ装置13を用いて上金型6を吊上げることにより、金型開きが行われる(S8)。このように、締め付け用ピストンロッド8により金型間を僅かに開放した後は、吊上げ装置13を用いて上金型6を吊上げればよいので、締め付け用シリンダー7のストロークを長くとらなくて済む。なお、上金型6および下金型5は成形物を抱き込むように締め付け、下金型5に成形物が付着するので、金型を開く際には、非常に大きな軸力が必要になる。そこで、本実施の形態では、離型をするときは、締め付け用シリンダー7の軸力を利用し、金型間が僅かにでも開いた後は、吊上げ装置13で上金型6を吊り上げる。
【0042】
また、本実施の形態では、上金型6の金型合わせ面にのみテフトンコート加工が施されているので、金型開き後、成形物は下金型5に付着した状態にある。そこで、ノックアウト機構(図示せず)を駆動してノックアウトピン(図示せず)で下金型5に付着した状態にある成形物を押し出すことにより(S9)、製品を取り出す(S10)。こうして製品が仕上げられ、成形物の取り出し後、下金型5の清掃を行う(S11)。
【0043】
本実施の形態によれば、下金型5を水平に配置した状態で、ワークをセットし、あるいは成形後の製品を取り出すので、ワークセットや成形後の製品の取り出しが容易である。
【0044】
また、本実施の形態では、成形材料の注入時に、上金型6および下金型5を型締めした状態で回動機構の制御により上下金型を90°回動させて垂直配置する。これにより、空気を上方に逃しながら成形材料を注入することができるので、成形物内部に気泡が形成されることが低減され、成形後の製品の品質が向上する。
【0045】
また、本実施の形態では、スライド式シャッター10のプレート25をスライドさせ、プレート25の長孔12の小径孔部12bに締め付け用ピストンロッド8の軸部8bをロックした状態で、締め付け用ピストンロッド8を下方に駆動しプレート25を介して型締めを行う。また、金型開きの際には、スライド式シャッター10のプレート25を上記と逆向きにスライドさせ、締め付け用ピストンロッド8の先端部8aを長孔12の大径孔部12aを経て下降させ上金型6内に配置し、次に再度スライド式シャッター10のプレート25を上記と同じ向きにスライドさせ、締め付け用ピストンロッド8の先端部8aを長孔12の小径孔部12bを中心に下方から押し当てることで、プレート25を介して上金型6を下金型5から開くことができる。このように、本実施の形態では、スライド式シャッター10は金型開き用にも利用できるようになっている。
【0046】
また、本実施の形態では、スライド式シャッター10を利用して上金型6を開いた後、上金型6を吊上げ装置13により吊上げて下金型5から分離するようにしている。そのため、従来のようにシリンダーを用いて金型を離接する方法に比べて、作業可能空間が格段に広くなるとともに、従来のようにシリンダーストロークが長くなることもない。
【0047】
一方、従来の引付け式の成形装置は、金型の移動方向が横方向のいわゆる横式であるため、ワークセットのセットや成形後の製品の取り出しが困難であり、また、金型の段取り作業も困難であった。また、可動金型と固定金型との間で作業可能開放距離が確保できるようにするために、シリンダーストロークを長くする必要があった。一方、本実施の形態では、シリンダーストロークは従来の引付け式の成形装置よりも短くなるので、装置の大型化が回避されるとともに、油圧シリンダーに使用する油量も削減される。
【0048】
また、従来の引付け式の成形装置では、型締めシリンダーと型開閉シリンダーの2種類のシリンダーを設ける必要があり、構造が複雑化している(特許文献1,2)。これに対して、本実施の形態では、締め付け用シリンダー7を設けるだけでよいので構造が簡素化されている。
【0049】
また、本実施の形態はいわゆる締め付け式であることから、いわゆる押し当て式に比べてプレス構造がコンパクト化され、装置の大型化が回避される。
【0050】
また、本実施の形態によれば、複数本の締め付け用シリンダー7を上金型6および下金型5に貫通させ、これらの締め付け用シリンダー7を用いて上金型6および下金型5を締め付けているので、金型の締付けが均一化し、金型合わせ面が安定する。よって、低い締付け力でも金型合わせ面からの樹脂漏れを防ぐことができる。また、低い締め付け力でも成形処理が可能となることから、例えばアルミニウム製の金型など鉄製に比べて重量の軽い金型を使用することができる。
【0051】
また、本実施の形態によれば、上金型6にのみテフロン(登録商標)コート等の離型処理が施されているため、成形材料である樹脂の付着は下金型5のみとなる。よって、下金型5のみを清掃すればよく、しかも上金型6を清掃するよりも清掃がしやすい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂等の成形材料から成形品を成形する成形装置として有用である。
【符号の説明】
【0053】
1 ベース
2 フレーム
3 基台
4 回動軸
5 下金型
6 上金型
7 締め付け用シリンダー
8 締め付け用ピストンロッド
8a 先端部
8b 軸部
10 スライド式シャッター
11a,11b,11c 貫通孔
12 長孔
12a 大径孔部
12b 小径孔部
13 吊上げ装置
14 引掛け部
15 吊り治具
16 回動用シリンダー
17 レバー
18 先端部
19 回動用ピストンロッド
20 ブラケット
22 シャッター駆動機構
23 ジョイント部
24 軸受
25 プレート
30 成形装置
35 圧入装置
40 注入口
41 ワーク
42 カバー
80a 胴部
80b 笠部
81 注入口
82 脱気口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、
この基台上に固定された下金型と、
この下金型に対向して配置され、前記下金型とともに成形材料を成形する上金型と、
前記上金型上に設置され、大径孔部と小径孔部とが連設されてなる長孔が複数個設けられた平板部材からなるプレートを前記上金型の上面に平行な面内で前記長孔の長手方向にスライドさせることが可能なスライド式シャッターと、
前記プレートに設けられた各長孔に対応して前記基台に複数本設けられ、それぞれ前記長孔の大径孔部のみを挿通可能な先端部と前記大径孔部および小径孔部のいずれも挿通可能な軸部とを有する締め付け用ピストンロッドが嵌入され、前記各締め付け用ピストンロッドの軸部が前記下金型および前記上金型にそれぞれ設けられた貫通孔を順次貫通し前記プレートに設けられた前記長孔の小径孔部を貫通した状態で前記締め付け用ピストンロッドを下方に駆動することにより前記締め付け用ピストンロッドの先端部を前記プレートに押し当てて前記上金型を前記下金型に締め付ける締め付け用シリンダーと、
前記基台に設けられた水平な回動軸を中心に前記基台を回動させることが可能な回動機構と、
を備えることを特徴とする成形装置。
【請求項2】
前記回動機構は、前記上金型と下金型との間に前記成形材料が注入される前に、前記上金型と下金型とが前記締め付け用シリンダーにより締め付けられた状態で前記基台を水平配置から垂直配置に回動させることを特徴とする請求項1に記載の成形装置。
【請求項3】
前記回動機構は、前記上金型と下金型との間に前記成形材料が注入され、前記成形材料が硬化した後に、前記基台を垂直配置から水平配置に回動させることを特徴とする請求項2に記載の成形装置。
【請求項4】
前記回動機構は、前記回動軸に固定されたレバーと、このレバーにその先端部が連結された回動用ピストンロッドを昇降させることにより前記レバーを介して前記回動軸を回動させる回動用シリンダーと、を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の成形装置。
【請求項5】
成形処理後、前記基台が水平配置された状態で、前記上金型を前記下金型から開く際に、
前記スライド式シャッターは前記大径孔部が前記貫通孔に連通するよう前記プレートをスライドさせ、
前記締め付け用シリンダーは、前記大径孔部を介して前記締め付け用ピストンロッドの先端部を下降させ、
前記スライド式シャッターは、前記小径孔部が前記貫通孔に連通するよう前記プレートをスライドさせ、
前記締め付け用シリンダーは、前記締め付け用ピストンロッドの先端部を前記小径孔部に合わせて下方から押し当てた状態で前記締め付け用ピストンロッドを上方へ駆動させることにより前記プレートを介して前記上金型を前記下金型から開くことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の成形装置。
【請求項6】
前記上金型には吊り治具が設けられ、
ワークが前記下金型に設置されるときまたは成形後の成形物が前記成形装置から取り出されるときに、前記基台が水平配置されかつ前記締め付け用ピストンロッドが前記下金型内に配置された状態で、吊上げ装置が、前記吊り治具を介して前記上金型を吊上げることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の成形装置。
【請求項7】
前記上金型および前記下金型の相互の対向面のうち、前記上金型の対向面にのみ離型処理が施されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の成形装置。
【請求項8】
前記離型処理は、テフロン(登録商標)コート加工であることを特徴とする請求項7に記載の成形装置。
【請求項9】
前記基台には、成形処理後に前記下金型に付着した成形物を押し出すためのノックアウトピンが設けられていることを特徴とする請求項7または8に記載の成形装置。
【請求項10】
水平配置された基台上に下金型が固定されこの下金型上に上金型が配置された状態で、吊上げ装置により前記上金型を吊上げて前記上金型を前記下金型から開くステップと、
前記下金型にワークをセットするステップと、
前記上金型を前記下金型に合わせ、前記吊上げ装置を前記上金型から切り離した後、前記基台に複数本設けられた締め付け用シリンダーの締め付け用ピストンロッドを前記下金型および前記上金型にそれぞれ設けられた貫通孔を順次貫通して上昇させ、前記締め付け用ピストンロッドの先端部を前記上金型の上部に設置されたスライド式シャッターのプレートに設けられた長孔の太径孔部に挿通させ、前記先端部の全体が前記プレートの上面より上に突き出た状態で前記プレートをスライドさせて前記大径孔部に連設され前記先端部よりも径の小さい小径孔部に前記締め付け用ピストンロッドの軸部を係合させ、前記締め付け用ピストンロッドを下降させることにより、前記上金型と前記下金型との締め付けを行うステップと、
回動機構により、前記上金型および前記下金型を前記基台とともに垂直配置状態に回動させるステップと、
成形材料を前記上金型と前記下金型との間に注入するステップと、
前記成形材料の注入、硬化後に、前記回動機構により、前記上金型および前記下金型を前記基台とともに水平配置状態に回動させるステップと、
を含むことを特徴とする成形方法。
【請求項11】
前記上金型および前記下金型を前記基台とともに水平配置状態に回動させた後、前記締め付け用ピストンロッドを上昇させるステップと、
前記締め付け用ピストンロッドの軸部と前記小径孔部との係合を開放し、前記大径孔部が前記貫通孔と連通するように前記プレートをスライドさせるステップと、
前記締め付け用ピストンロッドを下降させるステップと、
前記小径孔部が前記貫通孔と連通するように前記プレートをスライドさせるステップと、
前記締め付け用ピストンロッドを上昇させるステップと、
前記上金型が前記下金型から開いた後、前記締め付け用ピストンロッドの上昇を停止し、前記吊上げ装置を用いて前記上金型を吊上げるステップと、
を含むことを特徴とする請求項10に記載の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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