説明

成膜用粒子の搬送装置及び生成装置、並びに成膜装置

【課題】成膜に適さない巨大粒子の発生を抑制またはその除去をすることのできる装置を提供する。
【解決手段】粒子生成室1から伸びた搬送管2の第一分岐点に設けられた巨大粒子トラップ17と、第一分岐点から分岐された搬送管2の第二分岐点に設けられた、成膜室3内の基板8に向かう搬送管2の成膜用バルブ18A及び成膜室3内の余分粒子トラップ19に向かう搬送管2の捕集用バルブ18Bとを備え、巨大粒子トラップ17は、粒子生成室1から搬送管2の第一分岐点を越えて流れてきた巨大粒子を捕集し、成膜用バルブ18A及び捕集用バルブ18Bは、成膜時にそれぞれ開及び閉とされて第二分岐点に流れてきたナノ粒子を基板8に送り、成膜停止時にそれぞれ閉及び開とされて第二分岐点に流れてきたナノ粒子を余分粒子トラップ18に送る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子による成膜、特にガスデポジション成膜に用いられる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスデポジション法による成膜のための粒子は例えば、図1に例示したように粒子生成室1にて生成され、搬送管2を通して成膜室3に供給される。粒子生成室1では、高周波加熱コイル4が外周に設けられた坩堝5内の成膜材料6から例えば金属ナノ粒子等の微粒子が作られる。成膜室3では、真空排気されている成膜室3内に粒子生成室1からの粒子が搬送管2の先端ノズル21から噴出し、ステージ7上の基板8に堆積する。ステージ7はXY駆動手段9等を用いて適宜スキャン動作される。この粒子の搬送には、キャリアガスとしてHeガスを粒子生成室1内に流入させることがしばしば行われる。また搬送管2に流入しない粒子は、搬送管2の周りに同軸上に設けられた余分粒子排出管10からの真空排気によって、キャリアガスの一部とともに粒子生成室1外に排出される(例えば特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
ところで、粒子生成室1内で生成された粒子には、成膜に必要なナノ粒子の他に、成膜に適さない、特にガスデポジション法による成膜に適さない直径がマイクロメートルサイズにまで成長した巨大粒子が存在することがある。巨大粒子は、例えば、粒子生成室1内の対流によってナノ粒子が凝集することによって生成される。
【0004】
従来の搬送管2の構造は粒子生成室1から成膜室3に至るまでが単一の管で構成されている為、搬送管2内へ巨大粒子が入り込んだ場合は成膜室3まで一気に搬送され、膜表面に付着することによる膜品質の低下や、ノズル21の詰まりの原因となる。
【0005】
また、従来、成膜を停止するために搬送管2への生成粒子の流入を遮断する機構(例えばシャッター機構16と呼ぶ)を粒子生成室1内に設けることがあり、図2に示す粒子生成室1内で搬送管2を坩堝5から水平方向へ遠ざける方式や、図4に示す坩堝5と搬送管2との間に仕切り板15を挿入する方式により、微粒子が搬送管2へ入り込み難い形をとっている(例えば特許文献2参照)。
【0006】
これらの方式ではさらに、搬送管2内へ微粒子が入り込むのを防ぐ為に、搬送管2内を流れるHeガス流量を大きく超える流量(例えば、搬送管内流量1L/minに対し30L/min)のHeガスを流して、搬送管2と同軸上に形成された余分粒子排出管10の真空排気によって、生成した微粒子を全て排出している。Heガス流量を少なくした場合(例えば、搬送管内流量1L/minに対し5L/min以下)、搬送管2に吸引される気流の割合が大きくなり、微粒子がその気流に乗って搬送管2内に入り込み、基板8へ成膜されてしまうためである(図3、図5にて図示した搬送管2に流れ込む矢印を参照)。
【0007】
図6に示したストレートタイプ搬送管2及び図7に示した曲線曲げタイプ搬送管2の例においても、同様にシャッター機構16を用いた場合、大量なHeガスを必要とする。
【0008】
しかし、Heガスを大量に使用する条件ではHe価格が高価なことと、余分粒子排出管10から排出された微粒子の回収が困難であることから、そのランニングコストが非常に高くなってしまっている。
【0009】
また、図2〜図7に示す方式では粒子生成室1内の坩堝5上空に左右非対称な形状となるシャッター機構16を構成する必要があることから、成膜の開始、停止を繰り返す度に坩堝5上空の気流が乱れて乱流が起こり、巨大粒子が発生し易い状況となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平07-166332
【特許文献2】特開2007-23319
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】渕田英嗣, "ナノ粒子を使用したガスデポジション成膜装置とその応用," エアロゾル研究, Vol. 22, No. 1, pp. 26-33, 2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、巨大な粒子の発生を抑制またはその除去をすることのできる成膜用粒子の搬送装置及び生成装置、並びに成膜装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の課題を解決するものとして、成膜用粒子を粒子生成室から成膜室へ搬送する装置であって、
粒子生成室から伸びた搬送管の第一分岐点に設けられた巨大粒子トラップと、
第一分岐点から分岐された搬送管の第二分岐点に設けられた、成膜室内の基板に向かう搬送管の成膜用バルブ及び成膜室内の余分粒子トラップに向かう搬送管の捕集用バルブとを備え、
巨大粒子トラップは、粒子生成室から搬送管の第一分岐点を越えて流れてきた巨大粒子を捕集し、
成膜用バルブ及び捕集用バルブは、成膜時にそれぞれ開及び閉とされて第一分岐点から第二分岐点に流れてきたナノ粒子を基板に送り、成膜停止時にそれぞれ閉及び開とされて第一分岐点から第二分岐点に流れてきたナノ粒子を余分粒子トラップに送る、粒子搬送装置を提供する。
【0014】
また、成膜用粒子を粒子生成室から成膜室へ搬送する装置であって、
粒子生成室内からその上方に伸びた搬送管の分岐点にて分岐された第一経路に巨大粒子トラップが設けられ、第二経路に成膜室内の基板に向かう管路の成膜用バルブが設けられ、第三経路に成膜室内の余分粒子トラップに向かう管路の捕集用バルブが設けられており、
巨大粒子トラップは、分岐点を越えて流れてきた巨大粒子を捕集し、
成膜用バルブ及び捕集用バルブは、成膜時にそれぞれ開及び閉とされて分岐点から流れてきたナノ粒子を基板に送り、成膜停止時にそれぞれ閉及び開とされて分岐点から流れてきたナノ粒子を余分粒子トラップに送る、粒子搬送装置を提供する。
【0015】
また、前記粒子搬送装置を備えた粒子生成装置を提供する。
【0016】
さらにまた、前記粒子搬送装置を備えたガスデポジション装置等の成膜装置、及び前記粒子生成装置を備えたガスデポジション装置等の成膜装置を提供する。
【0017】
成膜装置は、粒子生成室にて生成された粒子を用いて成膜室にて成膜を行う装置であって、
粒子生成室から伸びた搬送管の第一分岐点に設けられた巨大粒子トラップと、
第一分岐点から分岐された搬送管の第二分岐点に設けられた、成膜室内の基板に向かう搬送管の成膜用バルブ及び成膜室内の余分粒子トラップに向かう搬送管の捕集用バルブとを備え、
巨大粒子トラップは、粒子生成室から搬送管の第一分岐点を越えて流れてきた巨大粒子を捕集し、
成膜用バルブ及び捕集用バルブは、成膜時にそれぞれ開及び閉とされて第一分岐点から第二分岐点に流れてきたナノ粒子を基板に送り、成膜停止時にそれぞれ閉及び開とされて第一分岐点から第二分岐点に流れてきたナノ粒子を余分粒子トラップに送る。
【0018】
また、成膜装置は、粒子生成室にて生成された粒子を用いて成膜室にて成膜を行う装置であって、
粒子生成室内からその上方に伸びた搬送管の分岐点にて分岐された第一経路に巨大粒子トラップが設けられ、第二経路に成膜室内の基板に向かう管路の成膜用バルブが設けられ、第三経路に成膜室内の余分粒子トラップに向かう管路の捕集用バルブが設けられており、
巨大粒子トラップは、分岐点を越えて流れてきた巨大粒子を捕集し、
成膜用バルブ及び捕集用バルブは、成膜時にそれぞれ開及び閉とされて分岐点から流れてきたナノ粒子を基板に送り、成膜停止時にそれぞれ閉及び開とされて分岐点から流れてきたナノ粒子を余分粒子トラップに送る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】従来例を示す図である。
【図2】シャッター機構を用いた従来例を示す図である。
【図3】図2の従来例においてキャリアガス流量が少ない場合のガス流について説明する図である。
【図4】シャッター機構を用いた従来例を示す図である。
【図5】図4の従来例においてキャリアガス流量が少ない場合のガス流について説明する図である。
【図6】粒子生成室と成膜室とをストレートタイプ搬送管で繋いだ従来例を示す図である。
【図7】粒子生成室と成膜室とを曲げタイプ搬送管で繋いだ従来例を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態を示す図である。
【図9】図8における搬送管の第一分岐点を円弧形状とした本発明の実施形態を示す図である。
【図10】第一分岐と第二分岐とを組み合わせた本発明の実施形態を示す図である。
【図11】粒子生成室からシャッター機構を取り除いた実施形態におけるHeガス流について説明する図である。
【図12】図11の実施形態に水冷ジャケットを付加した実施形態を示す図である。
【図13】図12の余分粒子排出管を取り除き、搬送管と同軸で無い箇所に生成室排気口を設けた実施形態を示す図である。
【図14】図13の生成室排気口をHe導入口の外周部へ、坩堝と同軸上に設けた実施形態を示す図である。
【図15】図14の実施形態の坩堝周りへ坩堝と同軸上に整流管を設けた実施形態を示す図である。
【図16】図15の実施形態の水冷ジャケットを生成室内部構造の一部とした実施形態を示す図である。
【図17】図16の坩堝の高周波誘導加熱方式の代わりに、抵抗加熱方式を用いた実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態では図8に例示したように、まず、粒子生成室(生成チャンバとも呼ぶ)1の上方に伸びた搬送管2に第一分岐点が設定され、この第一分岐点にT字管等の分岐手段が設けられて、搬送管2を粒子生成室1からの直進方向及び該直進方向に対して角度を持つ曲げ方向に分岐し、粒子生成室1からの直進方向経路上に巨大粒子トラップ17が設けられている。巨大粒子は、粒子生成室1からの流れに沿った上方縦方向に進んでトラップ17で捕集され、成膜の為のHeガス等のキャリアガス及びナノ粒子の流れは、粒子生成室1からの流れに対してある角度を持つ方向に曲げられて、成膜室3に送られる。この角度は、第一分岐点にて、ナノ粒子より質量の大きい巨大粒子が粒子生成室1からの流れから分離する一方、ナノ粒子が成膜室3の方向に流れることを可能ならしめる角度であればよく、本実施形態では直角に設定されている。
【0021】
次に、第一分岐点から上記角度を持って横方向に伸びた搬送管2には第二分岐点が設定され、この第二分岐点にT字管等の分岐手段が設けられて、搬送管2を成膜室3内の基板8に向かう経路及び成膜室3内に設けられた余分粒子トラップ19に向かう経路に分岐し、各経路に切り替えバルブ18A,18Bが設けられている。これら切り替えバルブ18A,18Bの開閉により、後述するように従来のシャッター機構に代わる成膜の開始及び停止制御機構が実現されている。
【0022】
従来、粒子生成室1からの生成粒子を含むガス流路には直線状の搬送管2が用いられ(図6参照)、そのガス流方向を変更するときには搬送管2を緩やかに曲げて流路を変更することが必須と考えられ、実際にそのような設計が行われてきた(図7参照)。これに対し、本発明の発明者らは、図8の例に示すように、粒子生成室1から搬送管2内に直進導入されたガス流を、直進方向とこれに対してある角度を持つ方向、例えば直角方向とに2分岐することで(上記第一分岐点)、ナノ粒子よりも質量の大きい巨大粒子はその直進性が非常に高いことからキャリアガスの流れに乗らずに、分岐点を超えて巨大粒子トラップ17へと直進し、一方直角方向へはナノ粒子を含むガス流が成膜室3内の真空排気により吸引されて流路を曲げられて進み、且つこのガス流には粒径のほぼ揃ったナノ粒子のみが存在することを見出した。また、一度粒径のほぼ揃ったナノ粒子のみを含むことになったガス流は、更なる2分岐切り替えを行っても(上記第二分岐点)、搬送管2内に支障をきたすナノ粒子析出を認めることなく流路変更ができることをも確認した。本発明は、これら本発明の発明者らによる発見に基づき、巨大粒子の捕集機構、並びにナノ粒子生成に影響を与えない成膜停止機構を同時に提供することができる。
【0023】
成膜停止機構についてさらに説明すると、本実施形態では、直角方向に曲げられた搬送管2の成膜室3の上方における第二分岐点において、Heガスの流れを、成膜室3内の基板8に対向するように設けられたノズル21Aと成膜室3内の余分粒子トラップ19に対向するように設けられたノズル21Bとに向かう2系統へ分岐させ、それぞれの経路に成膜用バルブ18A及び捕集用バルブ18Bを設置し、基板8に向けたノズル21A側の成膜用バルブ18Aを開、余分粒子トラップ19に向けたノズル21B側の捕集用バルブ18Bを閉にすることで、ノズル21Aからのみナノ粒子を含むHeガスを吐出して成膜を行い、逆に、余分粒子トラップ19側のノズル21Bの捕集用バルブ18Bを開にするとき、基板8側のノズル21Aの成膜用バルブ18Aを閉とすることで、成膜を完全に停止する。これにより、粒子生成室1へ導入されるHeガス量に寄らずに完全な成膜停止が行えること、並びに、従来は排気せざるを得なかった成膜停止中の余分粒子を余分粒子トラップ19によって確実に捕集し、再利用することが可能になる。
【0024】
また、二つの切り替えバルブ18A,18Bを同時に片一方のみが開となるように切り替えることで、搬送管2内を流れるHeガス流量は一定となり、粒子生成室1及び成膜室3内の圧力は一定に保たれ、かつ粒子生成室1内のHeガス気流も一定に保たれる。よって巨大粒子の発生も抑制することができる。
【0025】
尚、切り替えバルブ18A,18Bは、例えば、搬送管2の内径以上の内径を持つことが好ましい。これにより、更にスムーズな流路の開閉並びに切り替えを行うことができる。
【0026】
また、切り替えバルブ18は、例えば、搬送管2の第二分岐点にて三方弁等の一つのバルブで経路を切り替えられるバルブとすることも出来る。
【0027】
また、巨大粒子トラップ17及び余分粒子トラップ19については、分岐搬送管2から吐出される粒子を捕らえることができるものであれば、その形状や寸法等は特に限定されない。
【0028】
図9に示した実施形態では、搬送管2の第一分岐点を円弧形状としている。この場合、巨大粒子トラップ17は円弧の接線方向に設けることも出来る。これにより、流路の滑らかな方向変更とともに巨大粒子のさらに効果的な捕集を実現することができる。
【0029】
図10に示した実施形態では、第二分岐点をなくし、第一分岐点において、十字型分岐管等の分岐手段により搬送管2を3分岐しており、粒子生成室1からの直進方向に沿った第一経路には巨大粒子トラップ17を、左右直角方向の第二及び第三経路にはそれぞれ成膜室3内の基板8及び余分粒子トラップ19に向かう管路の切り替えバルブ18A,18Bを設けている。この構成により、更にコンパクトかつシンプルなガス流路分岐切り替え構造を可能にしている。
【0030】
以上の各実施形態によれば、成膜停止機構を粒子生成室1外に設置することにより、坩堝5上空の気流を乱す構造物がなくなることから、粒子生成室1内に発生するHeガスの流れは均一になり、巨大粒子の発生を抑制でき、また効率の良い搬送管2への粒子導入を実現することができる。
【0031】
また、図7に示した搬送管2と同心形状に設けられた余分粒子排出管10を図8〜図10の実施形態にて同様に設けた場合でも、やはり粒子生成室1内にて搬送管2及び余分粒子排出管10の入口付近の気流を乱す構造物がないことから、図11に示すように、均一なHeガスの流れを作ることができる。
【0032】
ところで、図8〜図10並びに図12に例示するように、粒子生成室1には、キャリアガスが対流する坩堝5の上方空間を少なくとも覆うように、また上記余分粒子排出管10が設けられている場合には坩堝5の上方空間を含む余分粒子排出管10の下方周囲空間を少なくとも覆うように余分粒子捕集手段12を設けてもよい。この余分粒子捕集手段12としては、例えば図示したお椀形状の水冷ジャケット12を用いることができ、対流を促進し、坩堝5上空のナノ粒子を搬送管2へ導く効率が向上し、成膜速度が向上する。また、対流中に成長した巨大粒子は水冷ジャケット12に捕集され、水冷ジャケット12に捕まらなかった巨大粒子は、図8〜図10に示した巨大粒子トラップ17に捕集されて、結果、より一層効果的に成膜室3への巨大粒子の流入を防ぐことができる。
【0033】
余分粒子捕集手段12についてさらに説明すると、水冷ジャケット12を構成するお椀型に湾曲した板の外側に巻きつけるように配置された水冷管121に冷却水を流し、お椀型湾曲板を冷却する。冷却されたお椀の内側面には、粒子生成室1内を対流する巨大粒子が接触し、吸着されることで、巨大粒子を粒子搬送管2内に流入させないよう積極的に捕集することができる。
【0034】
また、余分粒子捕集手段12は、後述する整流手段14によって坩堝5上方に流れるキャリアガスのうち、粒子搬送管2に流入しなかったガスについて、水冷ジャケット12の内面に沿ってゆるやかに粒子生成室1の下方へと流れの向きを変えることで気流を整え、坩堝5周りの乱流の発生を抑えることができ、巨大粒子の発生を抑制できる。
【0035】
図12の余分粒子捕集手段12は、その壁面の図12の視点から見た断面形状が円弧状になっているが、例えば多角形形状でも良く、この場合でも図12の形態と同様に対流粒子の吸着及びキャリアガスの整流を効果的に実現することができる。
【0036】
ここで、粒子生成室1内へのHe導入量を搬送管2に流れるHe流量に近付けた場合、図11及び図12に示した余分粒子排出管10から排気されるHeガス量は極小になるため、図13に示す通り、搬送管2と同軸上の余分粒子排出管10がなくても粒子生成室1内のHeガス気流に影響を与えない。図13の実施形態では搬送管2と同軸ではない位置に生成室排気口を設けて粒子生成室1内を真空排気し、生成室内の圧力を一定に保っている。
【0037】
また例えば、図8〜図10並びに図14に示す通り、坩堝5と同軸上に設けたHe導入口11の外側同軸上に生成室排気口13を設けることで、水冷ジャケット12により下方に向けられた、搬送管2へ入らなかったHeガスを効率よく排出でき、坩堝5の周りを流れるHeガスは常に導入されたばかりのクリーンなガスとなり、巨大粒子やコンタミの搬送管2への吸引を避ける効果が高まり、成膜される膜の品質が向上する。
【0038】
さらに例えば、図8〜図10並びに図15に示す通り、坩堝5周囲の気流を整える為の整流手段14を、He導入口11と生成室排気口13との間に設けることにより、坩堝5周りへクリーンなHeガス気流を導く効率を更に向上させることができる。
【0039】
整流手段14についてさらに説明すると、図示した整流手段14は、He導入口11から坩堝5を取り囲み、坩堝5上方へ延びる整流管14となっており、粒子生成室1内に供給されたHeガスを坩堝5上方の搬送管2に導いている。この整流管14は、粒子生成室1の底部から複数のHe導入口11を囲んで上方に真っ直ぐ伸びる立ち上がり部141と、立ち上がり部から坩堝5の方向へ傾斜して伸びる傾斜部142と、傾斜部142から坩堝5と高周波加熱コイル4との間を通って坩堝5を囲み、坩堝5上方へ延びる筒状の垂直部143とを有している(図15参照)。
【0040】
立ち上がり部141及び傾斜部142は、粒子生成室1内におけるHe導入口11からのHeガス流入空間を坩堝5下方の空間に制限し、この空間内に流入したHeガスを坩堝5方向へ導く。垂直部143は、傾斜部142により坩堝5下方に導かれたHeガスを、垂直部123と坩堝5との間に形成された空隙を通して坩堝5上方へ通す。これにより、He導入口11から粒子生成室1内に供給されて、整流管14の上部開口から流れ出るHeガスは、坩堝5の上空に局所的に流れるように拘束されることによって、拡散が抑えられ、搬送管2の入口付近のHeガス密度が増大する。
【0041】
また、供給されるガス流量と搬送管2及び余分粒子排出管10により排出されるガス流量をほぼ同じとすることができ、坩堝5と搬送管2との間のHeガスの流れが整流されて、ナノ粒子の拡散をさらに防ぐことで成膜速度を上げることができる。また、Heガスの供給流量を少なくしても整流効果が出ることから、ガスの消費量を低減できる。
【0042】
勿論、整流管14は図15の実施形態に限定されるものではなく、例えば、図15の立ち上がり部141が無い形態であって、粒子生成室1の底部から直接傾斜部142が坩堝5方向に伸びた、傾斜部142と垂直部143との2段構成となっている整流管(図示なし)や、図15の傾斜部142の代わりに、立ち上がり部141と垂直部143を繋ぐ部分が水平になっている形態(図示なし)や、立ち上がり部141及び傾斜部142の代わりに、粒子生成室1の底部から垂直部143に向かむ部分が湾曲した曲面部になっている形態(図示なし)や、曲面部と垂直部143との接合部が滑らかな曲面で形成されている形態(図示なし)や、より簡素化された、底面部から上面の開口部までが一定の傾斜を持つ形状、あるいは底面部から上面の開口部までが垂直に伸びた形状など、同様な効果を実現できる限り、様々な形態を考慮できる。
【0043】
以上の各実施形態についてはHeガスを中心に説明してきたが、Heガス以外のキャリアガスを用いても良いことは言うまでもない。
【0044】
本発明の更なる実施形態として、図16に示すように、水冷ジャケット12を、粒子生成室1から独立した部品ではなく、粒子生成室1と一体としてもよく、例えば図16の実施形態では生成室内壁の一部構造としている。
【0045】
また、図17に示す実施形態では、坩堝5の加熱方法として、高周波誘導加熱に寄らず、通電加熱ヒータ20及び通電加熱ヒータ用電極22を坩堝5を囲むように設けてなる通電加熱ヒータ方式などの同軸円筒構造を用いている。これによればさらに粒子生成室1内の気流制御効率を向上出来る。従来存在した高周波誘導加熱用コイルがなくなることから、整流管14外側の気流を乱さずに、スムーズに粒子生成室1外へキャリアガスを排出できる。
【0046】
以上詳述した本発明は、ガスデポジション法による成膜以外にも、例えばエアロゾルデポジション法といった様々な成膜手法に適用でき、上述した各実施形態と同様に巨大粒子の発生抑制及び除去等の効果を実現することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 粒子生成室
2 搬送管
21,21A,21B ノズル
3 成膜室
4 高周波加熱コイル
5 坩堝
6 成膜材料
7 ステージ
8 基板
9 XYステージ駆動手段
10 余分粒子排出管
11 He導入口
12 水冷ジャケット
121 水冷管
13 生成室排気口
14 整流管
141 立ち上がり部
142 傾斜部
143 垂直部
15 仕切板
16 シャッター機構
17 巨大粒子トラップ
18,18A,18B 切り替えバルブ
19 余分粒子トラップ
20 通電加熱式ヒータ
22 通電加熱式ヒータ用電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜用粒子を粒子生成室から成膜室へ搬送する装置であって、
粒子生成室から伸びた搬送管の第一分岐点に設けられた巨大粒子トラップと、
第一分岐点から分岐された搬送管の第二分岐点に設けられた、成膜室内の基板に向かう搬送管の成膜用バルブ及び成膜室内の余分粒子トラップに向かう搬送管の捕集用バルブとを備え、
巨大粒子トラップは、粒子生成室から搬送管の第一分岐点を越えて流れてきた巨大粒子を捕集し、
成膜用バルブ及び捕集用バルブは、成膜時にそれぞれ開及び閉とされて第一分岐点から第二分岐点に流れてきたナノ粒子を基板に送り、成膜停止時にそれぞれ閉及び開とされて第一分岐点から第二分岐点に流れてきたナノ粒子を余分粒子トラップに送る、粒子搬送装置。
【請求項2】
第一分岐点は搬送管を粒子生成室からの直進方向及び該直進方向と角度を持つ曲げ方向に分岐し、直進方向経路に巨大粒子トラップが設けられ、曲げ方向経路に第二分岐点が設けられている、請求項1に記載の粒子搬送装置。
【請求項3】
粒子生成室からの直進方向との角度が略直角である、請求項2に記載の粒子搬送装置。
【請求項4】
第一分岐点は円弧形状となっており、円弧形状の接線方向に巨大粒子トラップが設けられている、請求項1に記載の粒子搬送装置。
【請求項5】
成膜用バルブ及び捕集用バルブは一つの切り替えバルブで構成されている、請求項1乃至4のいずれかに記載の粒子搬送装置。
【請求項6】
第一分岐点に第二分岐点が組み合わされている、請求項1乃至5記載の粒子搬送装置。
【請求項7】
成膜用粒子を粒子生成室から成膜室へ搬送する装置であって、
粒子生成室内からその上方に伸びた搬送管の分岐点にて分岐された第一経路に巨大粒子トラップが設けられ、第二経路に成膜室内の基板に向かう管路の成膜用バルブが設けられ、第三経路に成膜室内の余分粒子トラップに向かう管路の捕集用バルブが設けられており、
巨大粒子トラップは、分岐点を越えて流れてきた巨大粒子を捕集し、
成膜用バルブ及び捕集用バルブは、成膜時にそれぞれ開及び閉とされて分岐点から流れてきたナノ粒子を基板に送り、成膜停止時にそれぞれ閉及び開とされて分岐点から流れてきたナノ粒子を余分粒子トラップに送る、粒子搬送装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の粒子搬送装置を備えた粒子生成装置であって、粒子生成室内に対流する粒子を吸着して捕集する余分粒子捕集手段を備える、粒子生成装置。
【請求項9】
余分粒子捕集手段は水冷ジャケットである、請求項8に記載の粒子生成装置。
【請求項10】
余分粒子捕集手段は粒子生成室と一体とされている、請求項8又は9に記載の粒子生成装置。
【請求項11】
搬送管と同軸でない位置に生成室排気口が設けられている、請求項8乃至10のいずれかに記載の粒子生成装置。
【請求項12】
生成室排気口は、キャリアガス導入口の外側同軸上に設けられている、請求項11に記載の粒子生成装置。
【請求項13】
坩堝の上方に位置する搬送管への粒子キャリアガスの流れを作る整流手段を備える、請求項8乃至12のいずれかに記載の粒子生成装置。
【請求項14】
整流手段は、キャリアガス供給口から坩堝を囲み、坩堝上方へ延びる整流管である、請求項13に記載の粒子生成装置。
【請求項15】
粒子生成室にて生成された粒子を用いて成膜室にて成膜を行う装置であって、
粒子生成室から伸びた搬送管の第一分岐点に設けられた巨大粒子トラップと、
第一分岐点から分岐された搬送管の第二分岐点に設けられた、成膜室内の基板に向かう搬送管の成膜用バルブ及び成膜室内の余分粒子トラップに向かう搬送管の捕集用バルブとを備え、
巨大粒子トラップは、粒子生成室から搬送管の第一分岐点を越えて流れてきた巨大粒子を捕集し、
成膜用バルブ及び捕集用バルブは、成膜時にそれぞれ開及び閉とされて第一分岐点から第二分岐点に流れてきたナノ粒子を基板に送り、成膜停止時にそれぞれ閉及び開とされて第一分岐点から第二分岐点に流れてきたナノ粒子を余分粒子トラップに送る、成膜装置。
【請求項16】
第一分岐点は搬送管を粒子生成室からの直進方向及び該直進方向と角度を持つ曲げ方向に分岐し、直進方向経路に巨大粒子トラップが設けられ、曲げ方向経路に第二分岐点が設けられている、請求項15に記載の成膜装置。
【請求項17】
粒子生成室からの直進方向との角度が略直角である、請求項16に記載の成膜装置。
【請求項18】
第一分岐点は円弧形状となっており、円弧形状の接線方向に巨大粒子トラップが設けられている、請求項15に記載の成膜装置。
【請求項19】
成膜用バルブ及び捕集用バルブは一つの切り替えバルブで構成されている、請求項15乃至18のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項20】
第一分岐点に第二分岐点が組み合わされている、請求項15乃至19記載の成膜装置。
【請求項21】
粒子生成室にて生成された粒子を用いて成膜室にて成膜を行う装置であって、
粒子生成室内からその上方に伸びた搬送管の分岐点にて分岐された第一経路に巨大粒子トラップが設けられ、第二経路に成膜室内の基板に向かう管路の成膜用バルブが設けられ、第三経路に成膜室内の余分粒子トラップに向かう管路の捕集用バルブが設けられており、
巨大粒子トラップは、分岐点を越えて流れてきた巨大粒子を捕集し、
成膜用バルブ及び捕集用バルブは、成膜時にそれぞれ開及び閉とされて分岐点から流れてきたナノ粒子を基板に送り、成膜停止時にそれぞれ閉及び開とされて分岐点から流れてきたナノ粒子を余分粒子トラップに送る、成膜装置。
【請求項22】
粒子生成室内に対流する粒子を吸着して捕集する余分粒子捕集手段を備える、請求項15乃至21のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項23】
余分粒子捕集手段は水冷ジャケットである、請求項22に記載の成膜装置。
【請求項24】
余分粒子捕集手段は粒子生成室と一体とされている、請求項22又は23に記載の成膜装置。
【請求項25】
搬送管と同軸でない位置に生成室排気口が設けられている、請求項15乃至24のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項26】
生成室排気口は、キャリアガス導入口の外側同軸上に設けられている、請求項25に記載の成膜装置。
【請求項27】
坩堝の上方に位置する搬送管への粒子キャリアガスの流れを作る整流手段を備える、請求項15乃至26のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項28】
整流手段は、キャリアガス供給口から坩堝を囲み、坩堝上方へ延びる整流管である、請求項27に記載の成膜装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2012−112018(P2012−112018A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263946(P2010−263946)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(392036108)株式会社みくに工業 (17)
【Fターム(参考)】