説明

成膜装置、および成膜装置のクリーニング方法

【課題】硫化物を成膜する成膜装置において、安全かつ簡単にチャンバー内をクリーニングすることができる成膜装置、および成膜装置のクリーニング方法を提供する。
【解決手段】成膜対象を内部に収納するチャンバー2を備え、チャンバー2内の成膜対象(基板6)に硫化物を成膜する成膜装置1であって、クリーニングガス導入機構3と、雰囲気ガス排出機構4と、硫化水素除去機構5とを有する。成膜装置1をクリーニングする際は、導入機構3のバルブ32を開放し導入管31からクリーニングガスを導入して、チャンバー2内の付着物10を硫化水素に分解する。同時に、排出機構4の吸引機(ポンプ43)を作動させ、硫化水素を含むチャンバー2内の雰囲気ガスを排気する。排気された雰囲気ガスに含まれる硫化水素は、除去機構5により取り除かれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置に備わるチャンバーの内部に付着した硫化物を除去する機構を備えた成膜装置、およびチャンバーの内部に付着した硫化物を除去することで成膜装置をクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、気相法により成膜対象に薄膜を形成するための成膜装置として、真空蒸着装置や、イオンプレーティング装置、スパッタリング装置、CVD(化学気相成長)装置などが知られている(例えば、特許文献1を参照)。これらの成膜装置は、通常、成膜対象を収納するチャンバーと、チャンバーから気体を排気してチャンバー内を真空状態にする排気機構とを備え、ナノオーダーからミクロンオーダーの薄膜を形成することができる。
【0003】
一方、近年では、携帯機器の発達に伴い電池の薄型化が望まれており、そのような要請に応える電池として、電池に備わる正極層や負極層、電解質層などの各層を全て薄膜とした全固体型の非水電解質電池が注目されている。そこで、電池に備わる各層を上述した成膜装置により形成することが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−77413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した成膜装置で成膜を行うと、成膜対象だけでなくチャンバー内にも薄膜の原料が付着するため、チャンバー内を定期的にクリーニングする必要がある。例えば、上述した非水電解質電池の電解質層としてLiS+Pなどの硫化物が好適であるが、硫化物薄膜を気相法で形成すれば当然チャンバー内にも硫化物が付着することになる。
【0006】
一方、硫化物が加水分解などの化学反応により分解されることが知られているが、硫化物を加水分解すると非常に毒性の強い硫化水素が発生する。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、硫化物を成膜する成膜装置において、安全かつ簡単にチャンバー内をクリーニングすることができる成膜装置、および成膜装置のクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明成膜装置は、成膜対象を内部に収納するチャンバーを備え、チャンバー内の成膜対象に硫化物を成膜する成膜装置に係り、チャンバーの内部に付着した硫化物を硫化水素に加水分解するクリーニングガスをチャンバー内に導入するクリーニングガス導入機構と、前記硫化水素を含むチャンバー内の雰囲気ガスをチャンバー外に排出する雰囲気ガス排出機構と、前記雰囲気ガス排出機構に接続され、雰囲気ガスから硫化水素を取り除く硫化水素除去機構とを備えることを特徴とする。成膜する硫化物としては、例えば、LiS+Pや、LiPO−LiS−SiS、LiS−SiS−LiBOなどが挙げられる。
【0009】
クリーニングガス導入機構は、チャンバー内外に連通する導入管と、導入管を開閉するバルブとを有する。硫化物の成膜時には、バルブを閉じてチャンバー内の真空状態を維持させる。
【0010】
チャンバーに導入するクリーニングガスとしては、大気を使用することができる。大気に含まれる水蒸気は、硫化物を加水分解するので、効率良く確実にチャンバー内に付着した硫化物を除去することができる。クリーニングガス中に含まれる含水量を高くすることで、硫化物の分解効率を向上させることができる。硫化物の加水分解の結果、硫化水素が発生する。
【0011】
雰囲気ガス排出機構は、チャンバー内外に連通する排出管と、排出管を介して雰囲気ガスを吸引する吸引機とを有する。雰囲気ガスは、チャンバー内に付着した硫化物とクリーニングガスとが反応することで生成される硫化水素を含む。この排出口も適宜開閉する構成とすることが好ましい。
【0012】
硫化水素除去機構は、雰囲気ガス排出機構に接続され、チャンバーから吸引された雰囲気ガス中の硫化水素を除去する機構である。硫化水素除去機構は、この成膜装置以外の装置から発生した硫化水素を除去する構成を流用すれば良い。そのような構成として、例えば、成膜装置を設置した工場設備に併設される浄化装置などを挙げることができる。また、硫化水素除去機構は、成膜装置専用のものであっても良い。例えば、除去機構は、排気した雰囲気ガスから硫化水素を除去する除去材料を充填した予備室とする。このような予備室は、雰囲気ガスから硫化水素を除去するための時間を確保できるような構造にする。例えば、予備室の容積を大きくしたり、予備室内を蜂の巣状や迷路状にして雰囲気ガスの流路長を長くすると良い。予備室の配置位置は、雰囲気ガス排出機構に備わる吸引機の前段(チャンバー側)でも後段でも良いが、前段とすると硫化水素による吸引機の腐食を抑制できるので好ましい。一方、除去材料は、硫化水素を吸収したり無害な物質に変換したりできる物質であり、例えば、活性炭や酸化鉄、亜硝酸塩、次亜塩素酸塩などを挙げることができる。
【0013】
以上の構成を備える成膜装置であれば、硫化物の成膜に利用した後、チャンバー内の硫化物をクリーニングする際、チャンバー内に付着した硫化物を硫化水素に変換して効率よく除去することができる。また、硫化物の除去と同時に、この除去に伴って発生する硫化水素を処理できるので、クリーニング作業を安全に行える。
【0014】
(2)本発明成膜装置において、クリーニングガス導入機構に備わる導入管がチャンバーの上面に開口し、雰囲気ガス排出機構に備わる排出管がチャンバーの下面に開口することが好ましい。
【0015】
硫化水素は、空気よりも重く、チャンバーの底部にたまり易い。そのため、チャンバーの下面に排出管が開口していれば、硫化水素を効率よく排気できる。また、下面に開口する排出管に対して導入管をチャンバーの上面に開口させれば、チャンバー内の雰囲気ガスが導入管の開口部から排出管の開口部に向かって効率良く流れる。
【0016】
(3)本発明成膜装置において、雰囲気ガス排出機構に備わる排出管が、クリーニングガス導入機構に備わる導入管から最も離れた位置に開口することが好ましい。
【0017】
上記のような導入管と排出管の開口部の位置関係によれば、クリーニングガスをチャンバー内部の広範囲に行き渡らせることができ、雰囲気ガスの滞留も起こり難い。また、導入ガスをチャンバー内部の広範囲に行き渡らせることで、クリーニングガスが硫化物を加水分解することなく早期に排出管から排出されることを防止できる。その結果、チャンバー内の全域にわたって硫化物を除去できる。特に、チャンバーの上面の端部に導入管を開口させ、チャンバーの下面における導入管の開口部から最も離れた位置に排出管の開口部を設けることが好ましい。
【0018】
(4)本発明の成膜装置のクリーニング方法は、成膜装置のチャンバー内部に付着した硫化物を除去する成膜装置のクリーニング方法であって、以下の過程を備えることを特徴とする。
前記硫化物を硫化水素に加水分解するクリーニングガスを前記チャンバー内に導入する過程。
前記硫化水素を含むチャンバー内の雰囲気ガスをチャンバー外に排出する過程。
前記チャンバーから排気される雰囲気ガスから硫化水素を除去する過程。
【0019】
前記導入する過程と排出する過程とは同時でも時期をずらして行っても良いし、各過程を複数回行っても良い。例えば、[1]導入と排出を同時に開始する→導入と排出を同時に終了する、[2]排出開始→導入開始→導入と排出を同時に終了する、[3]排出開始→導入開始→導入終了→排出終了といった手順で行うことが挙げられる。もちろん、例示した手順以外の手順で行っても良い。
【0020】
本発明の成膜装置のクリーニング方法によれば、加水分解反応を利用することによりチャンバー内に付着した硫化物を簡単かつ確実に除去することができる。しかも、加水分解反応により発生する硫化物を除去するので、安全に成膜装置をクリーニングできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の成膜装置および成膜装置のクリーニング方法によれば、成膜対象に硫化物を成膜した後のチャンバーを容易にクリーニングすることができ、しかもクリーニング作業の安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態に示す成膜装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図1に基づいて説明する。
【0024】
<成膜装置の構成>
図1は、真空蒸着により成膜対象に薄膜を形成する成膜装置1の概略構成図であって、この成膜装置1は、成膜対象である基板6を収納するチャンバー2を備える。チャンバー2内における基板6に対向する位置には硫化物を含む蒸発源7が配置されている。蒸発源7は、加熱手段8に加熱されて蒸発し、対向位置にある基板6に薄膜9として付着する。蒸発した硫化物は、チャンバー2内を四方に拡散するので、チャンバー2の内壁にも付着する。本実施形態の成膜装置1は、成膜時にチャンバー2の内壁に付着した硫化物からなる付着物10を安全かつ効果的に除去する構成を備える。以下、成膜装置1に備わる各構成について詳細に説明する。
【0025】
成膜装置1は、チャンバー2の上面におけるチャンバー2の側面近傍(紙面右側)に開口する導入管31と、導入管31の途中に取り付けられるバルブ32とで構成されるクリーニングガス導入機構3を備える。クリーニングガスは、硫化物を加水分解する水分を含有していれば良く、大気を利用することができる。大気に更に水蒸気を付加してクリーニングガスとしても良い。
【0026】
本成膜装置1において、上記導入管31にはクリーニングガスを圧送するための構成(例えば、圧送ポンプ)は備わっていない。これは、後述する雰囲気ガス排出機構4によりチャンバー2内の雰囲気ガスを吸引することで、チャンバー2内が陰圧になるので、導入機構3にポンプを設けなかったとしてもチャンバー2内へのガスの導入に特に支障はないからである。また、上記のようにクリーニングガスを大気とする場合、クリーニングガスの貯留タンクも不要となるため、単に導入管31のチャンバー2外部側は大気に開口しているだけで良い。
【0027】
ところで、従来の成膜装置にもチャンバー内に気体を導入する構成が設けられることがあるが、その構成は本成膜装置におけるクリーニングガス導入機構とは独立して設けられる構成である。
【0028】
例えば、スパッタリング装置などでは、チャンバー外から基板の近傍に伸び、アルゴンなどのスパッタガスを導入するスパッタガス導入管を備えている。このスパッタガス導入管は、アルゴンガスを貯留するタンクと圧送ポンプを伴う構成である。これに対して、既に述べたように、本成膜装置1はクリーニングガスとして大気を利用しており、導入管31のチャンバー2とは反対側の端部は大気中に開口しているだけでタンクも圧送ポンプも接続されていない。
【0029】
また、導入管31とスパッタガス導入管との相違に関し、成膜時の雰囲気圧力は10−6Pa〜100Pa程度に維持することが好ましいので、スパッタガス導入管から導入されるガスの流量は1〜50cc/min程度である。これに対して、本成膜装置1のクリーニングガス導入機構3は、チャンバー2内部のクリーニングを目的として設けられるものであり、大量のクリーニングガスをチャンバー2に導入する必要がある。例えば、クリーニングガスの流量は100cc/min以上が必要である。
【0030】
成膜装置1は、チャンバー2の下面におけるチャンバー2の側面近傍(紙面左側)に開口する排出管41と、排出管41の端部に取り付けられる排気ポンプ43と、排出管41の途中に取り付けられるバルブ42とで構成される雰囲気ガス排出機構4を有する。排出管41は、クリーニングガス導入機構3の導入管3から最も遠い位置に配置されており、導入管3から導入されたクリーニングガスはチャンバー2内に拡散した上で、排出管41から排出される。
【0031】
雰囲気ガス排出機構4は、成膜時の圧力調整に使用する排気機構を利用しても良いし、別途設けても良い。なお、成膜を実施する際は、バルブ42を開放して排気ポンプ43を動作させ、排出管41を通じてチャンバー2内を真空状態(10−5Pa〜10−1Pa程度)に維持する。
【0032】
さらに、雰囲気ガス排出機構4のポンプ43は、配管を介して浄化装置5(硫化水素除去機構)に繋がっている。浄化装置5は、成膜装置1が設けられる施設に備わる装置であって、この成膜装置1を含む施設内の硫化水素発生源からの硫化水素を一括して無害化する装置である。
【0033】
もちろん、成膜装置1の専用の硫化水素除去機構を設けても良い。例えば、硫化水素除去機構として、ポンプ43とバルブ42との間に予備室を設けて、予備室の内部に硫化水素の除去材料を充填しても良い。予備室は、雰囲気ガスをできるだけ長時間にわたって除去材料に接触させるために、例えば、容積を大きくしたり、その内部構造を複雑形状にすることが好ましい。この予備室は、硫化水素に対する耐食性の高い材料、例えば、ステンレス、Ni合金などにより構成すると良い。このような構成によれば、ポンプ43の内部機構に腐食性の硫化水素が高濃度で流入しないようにできる。
【0034】
<成膜装置のクリーニング作業>
以上の構成を有する成膜装置1で硫化物を成膜した後、以下の手順でチャンバー2の内壁に付着した硫化物を含む付着物10を除去する。
【0035】
まず、クリーニングガス導入機構3のバルブ32と雰囲気ガス排出機構4のバルブ42を開放すると共に、排出機構4のポンプ43を動作させる。その結果、チャンバー2の外部からチャンバー2の内部に導入機構3の導入管31(導入口)を介して大気が流入する。流入した大気に含まれる水分は、チャンバー2の内壁に付着した硫化物9を加水分解して硫化水素を含む分解生成物を発生させる。
【0036】
分解生成物を含有するチャンバー2内の雰囲気ガスは、雰囲気ガス排出機構4の排出管41を介してチャンバー2から排気される。排気された雰囲気ガスは、浄化装置5に導入されて無害化される。
【0037】
この一連の工程を行うには、バルブ32,42を開放させ、ポンプ43を動作させるだけで、チャンバー2内の硫化物を自動的に除去できるのでクリーニング作業を容易に行うことができる。また、この一連の工程において、硫化水素を含む雰囲気ガスは成膜装置1から漏れることがないし、作業者が成膜装置1の近くにいる必要もないので、安全にチャンバー2の内部をクリーニングすることができる。
【0038】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明成膜装置、および成膜装置のクリーニング方法によれば、硫化物の成膜を行った成膜装置を簡単かつ安全にクリーニングすることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 成膜装置
2 チャンバー
3 クリーニングガス導入機構 31 導入管 32 バルブ
4 雰囲気ガス排出機構 41 排出管 42 バルブ 43 ポンプ
5 浄化装置(硫化水素除去機構)
6 基板(成膜対象)
7 蒸発源
8 加熱手段
9 薄膜
10 付着物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜対象を内部に収納するチャンバーを備え、チャンバー内の成膜対象に硫化物を成膜する成膜装置であって、
チャンバーの内部に付着した硫化物を硫化水素に加水分解するクリーニングガスをチャンバー内に導入するクリーニングガス導入機構と、
前記硫化水素を含むチャンバー内の雰囲気ガスをチャンバー外に排出する雰囲気ガス排出機構と、
前記雰囲気ガス排出機構に接続され、雰囲気ガスから硫化水素を取り除く硫化水素除去機構とを備え、
前記クリーニングガス導入機構は、チャンバー内外に連通する導入管と、導入管を開閉するバルブとを有し、
前記雰囲気ガス排出機構は、チャンバー内外に連通する排出管と、排出管を介して雰囲気ガスを吸引する吸引機とを有することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記導入管は、前記チャンバーの上面に開口し、前記排出管は、前記チャンバーの下面に開口することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記排出管は、前記導入管から最も離れた位置に開口することを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
成膜装置のチャンバー内部に付着した硫化物を除去する成膜装置のクリーニング方法であって、
前記硫化物を硫化水素に加水分解するクリーニングガスを前記チャンバー内に導入する過程と、
前記硫化水素を含むチャンバー内の雰囲気ガスをチャンバー外に排出する過程と、
前記チャンバーから排気される雰囲気ガスから硫化水素を除去する過程と、
を備えることを特徴とする成膜装置のクリーニング方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−236011(P2010−236011A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84814(P2009−84814)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】