説明

成膜装置及び成膜方法

【課題】基板の熱ダメージが低減され、且つ加熱時間が短縮された成膜装置及び成膜方法を提供する。
【解決手段】成膜処理対象の基板100を成膜処理前に予備加熱する加熱室10を備える成膜装置1であって、加熱室が、基板を加熱する加熱装置11と、加熱室に窒素ガスを導入するガス導入機構12と、加熱室から窒素ガスを排出することにより、一定の排気時間で加熱室内の圧力を所定の搬送圧力に減圧するガス排出機構13と、ガス排出機構を制御して加熱室から窒素ガスの排出を開始させるのと同時に、排気時間で基板の基板温度が設定温度になるように加熱装置の発熱量の制御を開始する制御装置14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理対象の基板の予備加熱を伴う成膜処理を行う成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば太陽電池反射防止膜の成膜などに使用されるインライン式成膜装置では、処理対象の基板の温度を予め決められた設定温度にした状態で、基板に膜を形成する。このため、成膜処理装置(P/C)に搬入される前に、基板は加熱室(L/C)で予備加熱される。そして、設定温度に達した基板が成膜処理装置に搬入され、成膜処理が行われる(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
基板の予備加熱では、例えばPID(Proportinal Integral Differential)演算などによって基板の温度を制御すると共に、加熱による基板のダメージを低減するために加熱室内を窒素(N2)雰囲気にする方法が提案されている。そして、予備加熱後に、加熱室内の窒素ガスを排気し、基板を成膜処理装置に搬入する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−196116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PID演算により基板の温度調節を行う場合、安定性を求める設定でPID演算を行うと、基板の温度が設定温度に達するまでの加熱時間が長くなる。また、基板の熱ダメージを低減させるために加熱室内を窒素雰囲気にする場合、基板の温度が設定温度に達した後に加熱室内の窒素ガスを排気するための排気時間が必要になり、基板を成膜処理装置に搬入するまでの時間が長くなる。その結果、インライン式成膜装置の加熱室における処理時間(加熱室タクト)が長くなり、成膜処理全体の処理効率が低下するという問題があった。
【0006】
上記問題点に鑑み、本発明は、基板の熱ダメージが低減され、且つ加熱時間が短縮された成膜装置及び成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、成膜処理対象の基板を成膜処理前に予備加熱する加熱室を備える成膜装置であって、加熱室が、(イ)基板を加熱する加熱装置と、(ロ)加熱室に窒素ガスを導入するガス導入機構と、(ハ)加熱室から窒素ガスを排出することにより、一定の排気時間で加熱室内の圧力を所定の搬送圧力に減圧するガス排出機構と、(ニ)ガス排出機構を制御して加熱室から窒素ガスの排出を開始させるのと同時に、排気時間で基板の基板温度が設定温度になるように加熱装置の発熱量の制御を開始する制御装置とを備える成膜装置が提供される。
【0008】
本発明の他の態様によれば、成膜処理対象の基板を成膜処理前に予備加熱する加熱室を備える成膜装置を用いる成膜方法であって、(イ)基板が格納された加熱室の内部に、所定の圧力になるまで窒素ガスを導入するステップと、(ロ)窒素ガスが導入された加熱室内において、加熱装置による基板の加熱を開始するステップと、(ハ)加熱室の圧力が搬送圧力に達するのと同時に基板の基板温度が設定温度に達するように、加熱室からの窒素ガスの排出と加熱装置の発熱量の減少とを同時に開始するステップと、(ニ)加熱室の圧力が搬送圧力に達し、且つ基板温度が設定温度に達する時刻に、加熱装置の発熱量を0%に制御するステップとを含む成膜方法
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基板の熱ダメージが低減され、且つ加熱時間が短縮された成膜装置及び成膜方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る成膜装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る成膜装置を用いた成膜方法を説明するためのタイミングチャートである。
【図3】比較例の成膜方法を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであることに留意すべきである。又、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施形態は、構成部品の構造、配置などを下記のものに特定するものでない。この発明の実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0012】
本発明の実施形態に係る成膜装置1は、成膜する前に処理対象の基板100を予備加熱する加熱室10を備える成膜装置である。図1に示した成膜装置1は、加熱室10と成膜処理を行う成膜処理装置20とを有するインライン式の成膜装置である。即ち、複数の基板100が搭載されたカート50は、開閉式のゲート30を介して、加熱室10と成膜処理装置20間を移動する。
【0013】
加熱室10は、図1に示すように、基板100を加熱する加熱装置11と、加熱室10に窒素(N2)ガスを導入するガス導入機構12と、加熱室10から窒素ガスを排出することにより、一定の排気時間tdで加熱室10内の圧力を所定の搬送圧力Ptに減圧するガス排出機構13と、ガス排出機構13及び加熱装置11を制御する制御装置14とを備える。
【0014】
制御装置14は、ガス排出機構13を制御して加熱室10から窒素ガスの排出を開始させるのと同時に、排気時間tdで基板100の基板温度Tbが設定温度Tsになるように加熱装置11の発熱量Ehの制御を開始する。より具体的には、制御装置14は、基板100の基板温度Tbをリアルタイムで監視する。そして、例えば基板温度Tbを用いたPID演算を行って、制御を開始してから排気時間tdで基板温度Tbが設定温度Tsになるように加熱装置11の発熱量Ehを制御する。
【0015】
図1に示した制御装置14は、カート50の温度をモニタすることにより、カート50に搭載された基板100の基板温度Tbを監視している。そして、PID演算を開始した後は、制御信号Shによって加熱装置11の発熱量Ehを制御し、制御信号Sdによってガス排出機構13を制御する。また、図示を省略する圧力計によって加熱室10内の圧力Pgが測定され、圧力Pgは制御装置14によってリアルタイムで監視される。
【0016】
カート50に搭載された基板100を加熱する加熱装置11には、例えばランプヒータなどを採用可能である。加熱装置11の発熱量Ehに応じて、基板100が加熱される。即ち、加熱装置11の発熱量Ehが大きいほど基板100の温度の上昇率が増大し、加熱装置11の発熱量Ehを低下させることにより、基板100の温度の上昇率が低下する。
【0017】
「搬送圧力」とは、成膜処理装置20内部の圧力である。加熱室10内の圧力と成膜処理装置20内部の圧力とが搬送圧力Ptで一致したときに、ゲート30が開いて、基板100を搭載したカート50が加熱室10から成膜処理装置20に搬送される。その後、成膜処理装置20において成膜処理が行われる。
【0018】
なお、排気時間tdは加熱室10の構造やガス排出機構13の能力によって定まる時間であり、成膜装置1ごとに予め決定されている時間である。
【0019】
図2は、図1に示した加熱室10における基板100の加熱方法を示すタイミングチャートである。以下に、図2を参照して、加熱室10における基板100の加熱方法を説明する。
【0020】
まず、カート50に成膜処理対象の複数の基板100が搭載され、カート50は加熱室10に搬入される。このとき、加熱室10内部は大気圧であるため、ガス排出機構13によって加熱室10の内部を真空状態にする。
【0021】
その後、ガス導入機構12によって、所定の圧力になるまで窒素ガスが加熱室10の内部に導入される。加熱室10の窒素ガスの圧力Pgは、加熱装置11による加熱によって基板100が受けるダメージを低減するように設定される。例えば、加熱装置11の発熱量Ehが100%であるときの圧力Pgの値Pmは1000Paに設定される。
【0022】
そして、時刻t0において、窒素ガスが導入された加熱室10内で、加熱装置11によって基板100とカート50が加熱され始める。その後、加熱装置11の発熱量Ehが100%、加熱室10の窒素ガスの圧力PgがPmである状態を維持したまま、加熱装置11により基板100が加熱され続ける。その結果、図2に示すように、基板温度Tbが徐々に上昇する。
【0023】
時刻t1において、制御装置14によってPID演算が開始され、制御装置14の制御により加熱装置11の発熱量Ehが減少され始める。同時に、制御装置14によってガス排出機構13が制御され、加熱室10から窒素ガスの排出が開始される。これにより、図2に示すように、発熱量Ehが徐々に減少すると共に、加熱室10の圧力Pgが徐々に低下する。基板温度Tbは、PID演算の結果に従って徐々に上昇する。
【0024】
時刻t2において、加熱室10の圧力Pgが搬送圧力Ptに達すると同時に、基板温度Tbが設定温度Tsに達する。そして、加熱装置11の発熱量Ehは0%に制御される。以上により、加熱室10における基板100の予備加熱は完了する。
【0025】
加熱室10から窒素ガスの排出を開始する時刻t1は、基板温度Tbが、PID演算による制御によって時刻t1から排気時間td後に設定温度Tsに達する基板温度である時刻に設定される。例えば、設定温度Tsが450℃であるときに、排気時間tdの間に基板温度が10℃上昇して450℃になるとする。このとき、基板温度Tbが440℃である時刻t1から加熱室10から窒素ガスの排出を開始し、同時にPID演算による加熱装置11の発熱量Ehの制御を開始する。これにより、排気時間tdの間に基板温度が設定温度Tsに達する。
【0026】
したがって、図1に示した加熱室10によれば、基板温度Tbが設定温度Tsになる直前まで加熱装置11の発熱量Ehを100%にすることができる。そして、排気時間tdの間だけPID演算を行って加熱装置11の発熱量Ehを低下させる。これにより、加熱室10の圧力Pgが搬送圧力Ptに達する時刻と、基板温度Tbが設定温度Tsに達する時刻を同期させることができる。
【0027】
上記のように、時刻t1〜時刻t2の間では、加熱室10の窒素ガスが減少する。しかし、窒素ガスの減少と同時に加熱装置11の発熱量Ehが減少するため、加熱装置11の加熱による基板100ダメージは低減される。
【0028】
図3に、安定性を求める設定でPID演算を行う比較例のタイミングチャートの例を示す。図3の時刻t0において、加熱装置11によって基板100とカート50の加熱が開始される。このとき、加熱装置11の発熱量Ehが100%、加熱室10の窒素ガスの圧力PgがPmである。
【0029】
時刻t11において、加熱装置11の発熱量Ehが制御され始める。時刻t11は、PID演算による制御によって基板温度Tbがゆっくりと設定温度Tsに達するように加熱装置11の発熱量Ehの制御を開始する時刻として設定される。このため、図2に示した時刻t0から時刻t1までの時間に比べて、時刻t0から時刻t11までの時間は短い。
【0030】
時刻t12において基板温度Tbが設定温度Tsに達すると、加熱装置11の発熱量Ehは0%に制御される。そして、時刻t12において、加熱室10から窒素ガスの排出が開始される。
【0031】
時刻t12から排気時間td後の時刻t13において、加熱室10の圧力Pgが搬送圧力Ptに達する。以上により、比較例の加熱室10における基板100の予備加熱は完了する。
【0032】
上記のように、比較例では、PID演算を行って出力の調整を開始するタイミングが早いため、発熱量Ehが100%である時間が短い。このため、PID演算に基づいて基板100を加熱する時間が長い。つまり、図2を参照して説明した成膜方法と比較して、基板100を加熱する時間が長い。更に、基板温度Tbが設定温度Tsに達した後に、加熱室10から窒素ガスを排出するため、加熱室10におけるトータルの処理時間が長くなる。
【0033】
これに対し、図1に示した加熱室10では、加熱装置11の発熱量Ehが100%である時間が長く設定され、PID演算を行って加熱する時間が短い。更に、PID演算に基づいて基板100を加熱する時間と加熱室10から窒素ガスを排出する時間とを一致させている。したがって、加熱室10で基板100を予備加熱することにより、トータルの加熱時間を短縮できる。
【0034】
以上に説明したように、本発明の実施形態に係る成膜装置1では、加熱室10から窒素ガスが排出される排気時間tdとPDI演算に基づいて加熱装置11を制御する時間とを同期させることにより、加熱装置11の発熱量Ehが100%である時間が長く設定され、且つPID演算を行って基板100を加熱する時間に合わせて窒素ガスの排出が完了する。その結果、加熱室10で基板100を予備加熱するトータルの処理時間を短縮することができる。
【0035】
したがって、図1に示した成膜装置1によれば、基板100の熱ダメージが低減され、且つ加熱時間の短縮を実現できる。これにより、成膜装置1によるスループットが向上し、生産性を上げることができる。
【0036】
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0037】
1…成膜装置
10…加熱室
11…加熱装置
12…ガス導入機構
13…ガス排出機構
14…制御装置
20…成膜処理装置
30…ゲート
50…カート
100…基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜処理対象の基板を成膜処理前に予備加熱する加熱室を備える成膜装置であって、
前記加熱室が、
前記基板を加熱する加熱装置と、
前記加熱室に窒素ガスを導入するガス導入機構と、
前記加熱室から前記窒素ガスを排出することにより、一定の排気時間で前記加熱室内の圧力を所定の搬送圧力に減圧するガス排出機構と、
前記ガス排出機構を制御して前記加熱室から前記窒素ガスの排出を開始させるのと同時に、前記排気時間で前記基板の基板温度が設定温度になるように前記加熱装置の発熱量の制御を開始する制御装置と
を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記基板温度をリアルタイムで監視し、前記基板温度を用いたPID演算を行って、前記排気時間で前記基板温度が前記設定温度に達するように前記加熱装置の発熱量を制御することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記加熱室からの前記窒素ガスの排出を開始するまでは、前記加熱装置の発熱量が最大であることを特徴とする請求項1又は2に記載の成膜装置。
【請求項4】
成膜処理対象の基板を成膜処理前に予備加熱する加熱室を備える成膜装置を用いる成膜方法であって、
前記基板が格納された前記加熱室の内部に、所定の圧力になるまで窒素ガスを導入するステップと、
前記窒素ガスが導入された前記加熱室内において、加熱装置による前記基板の加熱を開始するステップと、
前記加熱室の圧力が搬送圧力に達するのと同時に前記基板の基板温度が設定温度に達するように、前記加熱室からの前記窒素ガスの排出と前記加熱装置の発熱量の減少とを同時に開始するステップと、
前記加熱室の圧力が前記搬送圧力に達し、且つ前記基板温度が前記設定温度に達する時刻に、前記加熱装置の発熱量を0%に制御するステップと
を含むことを特徴とする成膜方法。
【請求項5】
前記基板温度をリアルタイムで監視し、前記基板温度を用いたPID演算を行って、前記加熱装置の発熱量を減少させ始めた時刻から前記排気時間で前記基板温度が前記設定温度に達するように前記加熱装置の発熱量を制御することを特徴とする請求項4に記載の成膜方法。
【請求項6】
前記加熱室からの前記窒素ガスの排出を開始するまでは、前記加熱装置の発熱量が最大であることを特徴とする請求項4又は5に記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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