説明

成長刺激タンパク質の使用

本発明は、個体における新たに発見された成長刺激タンパク質の阻害に関する。さらに、本発明は、前記成長刺激タンパク質の発現を下方調節し、又は前記タンパク質を不活性化することにより、個体において癌を予防若しくは治療し、又は癌の成長、浸潤、若しくは転移を予防若しくは治療し、又は他の過剰増殖性疾患を予防若しくは治療する方法に関する。さらに、本発明は、前記成長刺激タンパク質に基づいて、個体において癌又は他の過剰増殖性疾患を診断する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個体における新たに発見された成長刺激タンパク質の阻害に関する。さらに、本発明は、前記成長刺激タンパク質の発現を下方調節し、又は前記タンパク質を不活性化することにより、個体において癌を予防若しくは治療し、又は癌の成長、浸潤、若しくは転移を予防若しくは治療し、又は他の過剰増殖性疾患を予防若しくは治療する方法に関する。さらに、本発明は、前記成長刺激タンパク質に基づいて、個体において癌又は他の過剰増殖性疾患を診断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景を明らかにするための、本明細書で用いる刊行物及び他の材料、並びに、特に実施に関してさらなる詳細を提供するための事例は、参照により組み込まれる。
【0003】
癌は、世界中の全ての地域社会を悩ませている深刻な疾患である。男性の2人に1人、女性の3人に1人が一生の間に何らかの形の癌を発症すると推定されている。また、2005年の間にアメリカ合衆国のみにおいて55万人超の人々が癌によって死亡するとも推定されている。癌とは、細胞の制御されていない成長、生存、及び浸潤に関連する複雑で非常に様々な一連の疾患についての一般的な用語である。100を超える異なる型の癌、並びにそれぞれのサブタイプが存在するが、最近の研究によって、良性の細胞から癌細胞への形質転換に必要な限られた数の遺伝因子が明らかにされている(Zhaoら、2004年)。通常、ヒト細胞の形質転換にはRas GTPアーゼの活性化、テロメラーゼの過剰発現、腫瘍抑制タンパク質p53及び網膜芽細胞腫タンパク質(Rb)の不活性化、並びにプロテインホスファターゼ2A(PP2A)の阻害が必要であるとされている(Zhaoら、2004年)。これらの遺伝因子の機能を理解することで、異なる型の癌に広く適用可能となる癌治療の開発がなされ得ることは明らかである。
【0004】
上述したように、PP2A活性の阻害はヒトの初代細胞の形質転換の必要条件の1つであると同定されている(Zhaoら、2004年)。PP2Aは、触媒性サブユニット(PP2Ac又はC)、足場サブユニット(PR65又はA)、及び選択的な調節性Bサブユニットの1つからなる三量体のタンパク質複合体である(図1A)(Janssens及びGoris、2001年)。PP2Aは、プロテインキナーゼ及び他のシグナル伝達タンパク質の調節性のser/thr残基を脱リン酸化することにより細胞の挙動を調節する。発癌性の転写因子c−MycはPP2Aの多くの基質の1つである。c−Mycのセリン62のPP2A介在性の脱リン酸化によりプロテオソームによるタンパク質の分解が生じることが最近示された(Yehら、2004年)。重要なことには、PP2Aを不活性化するウイルススモールt抗原は、c−Mycの安定化によりその発癌性を発揮する(Yehら、2004年)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ウイルス抗原を研究ツールとして用いることによって、ヒト細胞の形質転換のためのPP2Aの阻害の重要性が確証されているが、自然発生的に形質転換されたヒト癌細胞における、PP2Aの阻害を生じさせる分子メカニズムは、現在のところ明らかにされていない。したがって、PP2Aが形質転換を阻害するメカニズムを解明する確かな必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、成長刺激タンパク質の発見に基づいている。本発明の発明者は、タンパク質KIAA1524(GenBank登録番号AAI30565、配列番号1)がプロテインホスファターゼ2A(PP2A)の内因性阻害剤であること、並びにタンパク質KIAA1524が腫瘍の成長及び癌細胞の増殖に必要であること、並びにタンパク質KIAA1524が癌組織において上方調節されることを見出した。
【0007】
したがって、一態様によれば、本発明はKIAA1524を阻害する治療作用物質をスクリーニング及び同定する方法に関し、前記方法は、a)反応容器内に固定化された第一のタンパク質を提供するステップと、b)前記容器に、候補作用物質及び標識された第二のタンパク質を同時に又は任意の順序で連続的に加えるステップと、c)前記第一のタンパク質が前記第二のタンパク質に結合するかどうかを決定するステップと、d)ステップc)における決定が否定的である場合に、前記候補作用物質を、KIAA1524を阻害する治療作用物質であると同定するステップとを含み、前記第一のタンパク質はKIAA1524であり、前記第二のタンパク質はPP2A、そのサブユニット、及びc−Mycからなる群から選択され、又はその逆である。
【0008】
別の態様によれば、本発明は、特許請求の範囲に記載した低分子干渉RNA及びペプチドなどの、KIAA1524を阻害する作用物質に関する。さらに、本発明はそのような作用物質を含む医薬組成物に関する。
【0009】
さらなる態様によれば、本発明は医薬組成物を生産する方法、及びそのような方法によって生産された医薬組成物に関し、前記方法は、KIAA1524を阻害する作用物質を同定するステップと、前記作用物質を薬学的に許容できる任意の適切な賦形剤と混合するステップとを含む。
【0010】
さらなる態様によれば、本発明は、特許請求の範囲に記載した医薬組成物を治療有効量投与することにより、KIAA1524の阻害が必要なヒト又は動物の患者においてKIAA1524を阻害する方法に関する。
【0011】
さらなる態様によれば、本発明は、癌及び他の過剰増殖性疾患からなる群から選択される疾患を治療、予防、及び/又は緩和するための医薬組成物を製造するための、KIAA1524を阻害する作用物質の使用に関する。
【0012】
さらなる別の態様によれば、本発明は、癌に罹患している疑いのある哺乳動物において悪性転化の浸潤性を決定する方法に関し、前記方法は、a)前記哺乳動物から得られた、悪性細胞を含む疑いのある試料におけるKIAA1524の発現レベルを評価するステップと、b)ステップa)の発現レベルを、非悪性の対照試料におけるKIAA1524の発現レベルと比較するステップと、c)前記試料におけるKIAA1524の発現レベルが非悪性の対照試料におけるKIAA1524の発現レベルよりも顕著に高い場合に、前記悪性転化を浸潤性であると決定するステップとを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、KIAA1524を、PP2Aと相互作用しその腫瘍抑制活性を阻害する成長刺激タンパク質として同定することに基づいている。したがって本発明は、新規な抗癌作用物質又は抗増殖作用物質の標的としてKIAA1524を提供する。
【0014】
KIAA1524を、PP2Aタンパク質複合体の足場サブユニットであるPR65タンパク質との免疫共沈降、及びその後の質量分析によるペプチド配列決定に基づいて、PP2A相互作用タンパク質として同定した。KIAA1524の、PP2A複合体と相互作用する能力を、内因性PR65タンパク質の免疫共沈降分析により、またKIAA1524の欠失突然変異体を用いることにより明らかにした。加えて、KIAA1524に標的化した低分子干渉RNA(siRNA)オリゴによりKIAA1524を減少させるとPP2Aのホスファターゼ活性が刺激されたことから、PP2A阻害剤としてのKIAA1524の機能的役割が明らかにされた。
【0015】
さらに、免疫共沈降実験に基づいて、KIAA1524を、転写因子c−Mycと直接相互作用するタンパク質であると同定した。前記相互作用はc−Mycタンパク質を安定化し、それによりその発癌性を高めることが示された。
【0016】
例えば、KIAA1524のsiRNAで細胞をトランスフェクトして、その後、細胞培養物及びインビボでのマウスモデルの両方における細胞増殖を決定することにより、癌細胞の挙動の調節におけるKIAA1524の役割を研究した。KIAA1524が減少すると、細胞増殖が阻害され、細胞の足場非依存性の成長が阻害され、かつマウスにおける腫瘍形成が損なわれた。さらに、KIAA1524が頭頚部扁平上皮癌(HNSCC)、結腸癌、及び乳癌などのヒトの悪性腫瘍において過剰発現することが見出された。特に、KIAA1524の過剰発現は、結腸癌及び乳癌の非浸潤性腫瘍よりも、結腸癌及び乳癌由来の浸潤性腫瘍で多く見られた。これらの結果、及び以下に開示する他の結果は、KIAA1524が癌細胞の成長を促進すること、したがってKIAA1524が癌治療の標的となることを示している。
【0017】
本発明は、KIAA1524を阻害する、ひいては癌、癌細胞の増殖、浸潤、転移、並びに他の過剰増殖性疾患、例えば乾癬、心筋肥大、及び良性腫瘍、例えば腺腫、過誤腫、及び軟骨腫の治療、予防、及び/又は緩和に有用な治療作用物質をスクリーニング及び同定する方法を目的とする。
【0018】
本明細書を通して用いられるように、「KIAA1524を阻害すること」という表現は、KIAA1524の発現を下方調節すること、KIAA1524の活性を阻害すること、KIAA1524を不活性化すること、及びPP2A複合体又はc−MycとのKIAA1524の相互作用を阻害することを含む。阻害及び遮断という語は互換的に用いられる。
【0019】
上記の方法は、a)反応容器内に固定化された第一のタンパク質を提供するステップと、b)前記容器に、候補作用物質及び標識された第二のタンパク質を同時に又は任意の順序で連続的に加えるステップと、c)前記第一のタンパク質が前記第二のタンパク質に結合するかどうかを決定するステップと、d)ステップc)における決定が否定的であるが治療作用物質の不在下では肯定的である場合に、前記候補作用物質を、KIAA1524を阻害する治療作用物質であると同定するステップとを含む。この方法において、前記第一のタンパク質はKIAA1524であり、前記第二のタンパク質はPP2A、そのサブユニット、すなわちPP2Acα若しくはβ、PR65α若しくはβ、又は任意の選択的なBサブユニット(B、B’、B”)、及びc−Mycからなる群から選択され、又はその逆である。
【0020】
マルチウェルプレートなどの反応容器への前記第一のタンパク質の固定化は、当技術分野で既知の任意の適切な方法によって行うことができる。そのような方法は当業者には明らかであり、当業者は、前記タンパク質の立体構造又は結合特性に影響を与えることなく前記タンパク質を固定化する方法についても充分に理解している。
【0021】
当技術分野で既知の任意の適切な標識及び標識方法を、前記第二のタンパク質の標識に用いることができる。好ましくは、前記標識は蛍光標識であり、例えば、緑色蛍光タンパク質、又はテキサスレッドなどの化学蛍光標識である。前記標識はまた、ルシフェリンなどの基質とインキュベートすると光を発するホタルルシフェラーゼのようなタンパク質でもあり得る。加えて、前記標識は、3−アミノ−9−エチルカルバゾールなどの基質とインキュベートすると比色反応を生じる西洋ワサビペルオキシダーゼのような酵素でもあり得る。
【0022】
候補作用物質の存在下で前記第一のタンパク質が前記第二のタンパク質に結合するかどうかについての決定は、用いる標識に応じて任意の適切な方法により行うことができる。例えば、蛍光標識を用いる場合、タンパク質の結合は、好ましくはレーザーである光源と、光又はレーザーによる励起に応じて蛍光標識から発せられる光を検出するセンサーとを含む光学機器によって決定することができる。例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ標識をその基質、例えば3−アミノ−9−エチルカルバゾールと組み合わせて用いる場合のような比色反応の場合、タンパク質の結合は、目的の波長領域における吸光度の変化により決定し得る。
【0023】
当業者には、本方法がまたインキュベーション及び洗浄などの様々な追加のステップも含み得るということは明らかであろう。例えば、洗浄は、結合していない第二のタンパク質を除去するためにステップb)の後に必要であり得る。
【0024】
本発明による一実施形態では、第一のタンパク質又は標的タンパク質を96ウェル、384ウェル、又は任意の同等のマルチウェルのプレート上に固定化すること、及び、それを、例えば緑色蛍光タンパク質、テキサスレッド、又はルシフェラーゼタンパク質に融合した第二のタンパク質とインキュベートすることによる、タンパク質−タンパク質相互作用の阻害剤のハイスループットスクリーニングに、本方法を用いることができる。プレートリーダーを用いて、蛍光標識から発せられた光を測定し、相互作用の場合にはウェルからの光シグナルを検出する。このようなアッセイをペプチド及び小分子化合物のライブラリーと組み合わせることで、容器内の蛍光シグナルの損失により検出される、タンパク質相互作用を阻害する潜在的な薬物様分子の同定が可能になろう。
【0025】
本発明はさらに医薬組成物を生産する方法を目的としており、前記方法は、KIAA1524を阻害する作用物質を同定すること、及び前記作用物質を薬学的に許容できる当業者に周知の任意の適切な賦形剤と混合することを含む。一実施形態では、前記同定は上述したスクリーニング方法及び同定方法を用いて行われる。
【0026】
さらに、本発明は、本発明によって生産された医薬組成物を治療有効量投与することにより、KIAA1524の阻害が必要なヒト又は動物の患者においてKIAA1524を阻害する方法を目的とする。
【0027】
本方法はあらゆる癌の治療に有用となり得ると考えられる。しかし、本方法は、特定の組織に位置する癌、及び手術又は放射線照射によっては治療が困難又は不可能であろう癌の治療又は予防に特に適している。そのような癌の例としては、頭頚部扁平上皮癌、結腸癌、及び乳癌が挙げられる。
【0028】
本方法はまた、KIAA1524が発現する過剰増殖性疾患の治療にも有用であり得ると考えられる。そのような疾患としては、乾癬、心筋肥大、並びに、腺腫、過誤腫、及び軟骨腫などの良性腫瘍が挙げられる。
【0029】
本発明による方法は、単一の治療方法若しくは予防方法として、又は細胞毒性作用物質の投与、手術、放射線治療、免疫療法などの他の方法と組み合わせたアジュバント療法として達成され得る。
【0030】
本発明による様々な実施形態によって同定され得る、及び/又は本発明による方法において有用な作用物質は、限定はしないが、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、及びリボザイム分子などのオリゴヌクレオチド、ペプチド、ペプチド模倣物、化合物、小分子、前記KIAA1524に対する抗体、並びにKIAA1524のタンパク質立体構造に作用してそれを不活性化させるアプタマー(オリゴヌクレオチド)を含む。
【0031】
好ましい実施形態によれば、前記作用物質はKIAA1524の発現を下方調節する作用物質である。
【0032】
好ましい一実施形態によれば、KIAA1524の下方調節は例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、修飾されたヌクレオチド、異なる種類のヌクレオチドを組み合わせた配列を用いて、KIAA1524の合成を防止又は変更することにより可能である。アンチセンスオリゴヌクレオチドはDNA分子又はRNA分子であり得る。
【0033】
KIAA1524のmRNAを切断するリボザイムもまた含まれる。リボザイム技術は例えば以下の刊行物に記載されている。「癌遺伝子標的の同定及び検証のためのリボザイム技術(Ribozyme technology for cancer gene target identification and validation)」、Liら、Adv.Cancer Res.2007年、96:103−43。また、低分子干渉RNA分子(siRNA)も有用であろう。siRNAの適用はここ数年、新たな治療の開発において重要なものとなってきている。O Heidenreichは、European Pharmaceutical Review、第1号、2005年における論文「低分子干渉RNAからの治療法の構築(Forging therapeutics from small interfering RNAs)」において、医薬品としての適用についての概説を示している。腫瘍及び癌、肉腫、高コレステロール血症、神経芽細胞腫、並びに実質型角膜ヘルペスの治療について、原理が特に示されている。
【0034】
siRNAの原理は文献に広く示されている。例として、米国特許公開第2003/0143732号、第2003/0148507号、第2003/0175950号、第2003/0190635号、第2004/0019001号、第2005/0008617号、及び第2005/0043266号を挙げることができる。siRNAの二本鎖分子はアンチセンス領域及びセンス鎖を含み、前記アンチセンス鎖は特定のタンパク質をコードするmRNA配列における標的領域に相補的な配列を含み、センス鎖は前記アンチセンス鎖に相補的な配列を含む。したがって、siRNAの二本鎖分子は2つの核酸断片の集合であり、一方の断片は前記siRNA分子のアンチセンス鎖を含み、第二の断片はそのセンス鎖を含む。センス鎖及びアンチセンス鎖は、ポリヌクレオチドリンカー又は非ヌクレオチドリンカーであり得るリンカー分子を介して共有結合し得る。アンチセンス鎖及びセンス鎖の長さは典型的には各々およそ19から21ヌクレオチドである。しかし、対応する従来の21merの低分子干渉RNA(siRNA)よりも強力であると最近報告された(Kimら、2005年)、合成二本鎖RNA(dsRNA)のDicerの基質である25〜30ヌクレオチド長の二本鎖もまた利用可能である。典型的には、アンチセンス鎖及びセンス鎖は両方とも、少しのヌクレオチド、典型的には2個のヌクレオチドの、3’末端の突出を有する。アンチセンスの5’末端は典型的にはリン酸基(P)である。末端のリン酸基(P)を有するsiRNAの二本鎖は、一本鎖のアンチセンスよりも細胞内に投与することが容易である。細胞内において、活性なsiRNAアンチセンス鎖が形成され、それが標的mRNAの標的領域を認識する。このことから、RISCエンドヌクレアーゼ複合体(RISCは、RNA誘導性サイレンシング複合体)により標的RNAが切断され、また、RNA依存性のRNAポリメラーゼ(RdRP)によりさらなるRNAが合成され、それによりDICERが活性化しさらなるsiRNAの二本鎖分子が生じ得、それによって応答が増幅される。
【0035】
低分子干渉RNAに関する課題の1つは、対応するmRNAに対する強力なsiRNAの同定である。不完全な相補性を有する遺伝子はsiRNAによって間違えて下方調節されてしまい、それによりデータの解釈及び潜在的な毒性において問題が生じることに留意されたい。しかしこれは、設計アルゴリズムを用いて適切なsiRNAを慎重に設計することにより部分的に対処し得る。これらのコンピュータプログラムは、siRNAのサイレンシング効果を増強する特徴である、低いGC含有量、内部反復の欠如、A/Uに富んだ5末端、及び高い局所的な結合自由エネルギーを有する配列範囲を見出すための一連のルールを用いて、所与の標的配列をふるい出す。
【0036】
本発明において有用な作用物質を同定するために、市販の及び市販されていないアルゴリズムを用いていくつかの異なるKIAA1524のsiRNAを設計した。この目的のために、KIAA1524の全長cDNA配列(GenBank登録番号NM_020890)を、siRNAアルゴリズムプログラム(http://www.mwg−biotech.com/html/s_synthetic_acids/s_sirna_design.shtml)、及びWenwu Cuia、Jianchang Ningb、Ulhas P.Naika、Melinda K.Duncanaにより開発されたスタンドアロンプログラム(RNAi設計ツールであるOptiRNAi、「生物医学におけるコンピュータ手法及びプログラム(Computer Methods and Programs in Biomedicine)」(2004年)75、67−73)にロードした。さらに、アルゴリズムにより生成したsiRNA配列を次にゲノム規模でのDNA配列のアラインメント(BLAST)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast)を通してスクリーニングし、オフターゲット効果を有するsiRNAを排除した。つまり、標的遺伝子(KIAA1524)よりも他の遺伝子とマッチしている配列領域をたとえ短くても有する全てのこれらのsiRNAを、さらなる利用に非常に有益なものであると考えた。このアプローチにより、配列番号2から6で示される5つの潜在的なsiRNAが同定された。
【0037】
次に、得られたsiRNAを異なる細胞系にトランスフェクトし、mRNAを分解する及びKIAA1524の翻訳をさらに減少させるそれらの能力を、KIAA1524に特異的な抗体でsiRNAを処理した後のKIAA1524タンパク質の量を測定することにより、タンパク質レベルで研究した。表1において、用いた最低濃度でKIAA1524タンパク質の最も強い下方調節を示したsiRNA配列にアスタリスクで印を付した。
【0038】
【表1】

【0039】
したがって本発明は、配列番号2から6からなる群から選択されるKIAA1524のsiRNA、及び医薬品としてのそれらの使用に関する。配列番号2及び4で示される好ましいsiRNA、並びに配列番号3及び6で示されるより好ましいsiRNAが提供される。いくつかの適用では、前記siRNAが21〜25ヌクレオチドより長くてもよく、又はdsRNAのdicerの基質である二本鎖でもよいことは明らかである。
【0040】
オリゴヌクレオチド(アンチセンス、siRNA、又はリボザイム分子など)は、医薬品として用いる場合、標的細胞内に導入される。送達は、2つの基本的に異なる手段、1)オリゴヌクレオチドの外因性の送達、又は2)DNA配列がベクター内に位置する場合の、オリゴヌクレオチドをコードするDNA配列の内因性の転写で達成され得る。
【0041】
正常な、修飾されていないRNAは、生細胞内に存在するリボヌクレアーゼ酵素により分解されるため、生理的条件下における安定性が低い。オリゴヌクレオチドを外因的に投与する場合、既知の方法によって分子を修飾し、化学分解及び酵素分解に対するその安定性を高めることが非常に望ましい。
【0042】
インビボで外因的に投与されるヌクレオチドの修飾は当技術分野において広く記載されている。基本的に、ヌクレオチドの任意の部分、すなわちリボース糖、塩基、及び/又はヌクレオチド間のリン酸ジエステル鎖を修飾し得る。例えば、リボース単位から2’−OH基を除去して2’−デオキシリボースヌクレオチドとすると安定性が向上する。この基における他の修飾、すなわちアルキル基、アルケニル基、アリル基、アルコキシアルキル基、ハロ基、アミノ基、アジド基、又はスルフヒドリル基によるリボース2’−OH基の置換もまた先行文献に開示されている。リボース単位における他の修飾も実施し得、すなわちリボースの2’位と4’位との間にメチレン結合を含むロックされた核酸(LNA)を、固有の安定性を高めるために採用し得る。
【0043】
さらに、ヌクレオチド間のリン酸ジエステル結合を修飾して、例えば、1つ又は複数の酸素を硫黄、アミノ基、アルキル基、又はアルコキシ基で置換することができる。ヌクレオチド内の塩基もまた修飾し得る。
【0044】
好ましくは、オリゴヌクレオチドは、リボース糖における1つ若しくは複数の2’−ヒロドキシル基の修飾、及び/又は1つ若しくは複数のヌクレオチド間のリン酸ジエステル結合における修飾、及び/又はリボース糖の2’位と4’位との間における1つ若しくは複数のロックされた核酸(LNA)の修飾を含む。
【0045】
特に、好ましい修飾は例えば、2’−デオキシ、2’−O−メチル、2’−ハロ、例えばフルオロ又は2’−メトキシエチルによる、1つ又は複数の2’−OH基の置換である。特に好ましいものは、いくつかのヌクレオチド間のリン酸ジエステル結合も修飾されている、例えばホスホロチオエート結合により置換されている、オリゴヌクレオチドである。
【0046】
上述した修飾は非限定的な例にすぎないということに留意されたい。
【0047】
好ましい一実施形態によれば、スクリーニングアッセイによって同定可能な、又は本発明による方法において有用な作用物質は、PP2A複合体又は転写因子c−Mycとの前記KIAA1524の相互作用を阻害することにより腫瘍の成長及び増殖を予防又は阻害する。或いは、前記作用物質は、PP2A又はc−MycとのKIAA1524の相互作用に依存しない、KIAA1524の成長及び増殖を増強する効果を阻害する。前記作用物質は、例えば、ペプチド、ペプチド模倣物、小分子、前記KIAA1524に対する抗体、又はKIAA1524のタンパク質立体構造に作用してそれを不活性化させるアプタマー(オリゴヌクレオチド)であり得る。
【0048】
PR65の免疫共沈降実験の結果により、KIAA1524がPP2Aタンパク質複合体のPR65サブユニット及びPP2Acサブユニットの両方と相互作用することが示された。タンパク質−タンパク質相互作用に介在するKIAA1524内の領域を同定するために、KIAA1524タンパク質の任意の領域が欠失することによりPP2Aとのその結びつきがなくなるかどうかを研究した。この目的のために、タンパク質をコードする配列のおよそ50〜100個のアミノ酸に対応する各欠失を有する、一連のKIAA1524欠失構築物を生成し、HeLa細胞に一過性にトランスフェクトした。11個のKIAA1524欠失体のうち、461〜533の間のアミノ酸を欠くKIAA1524が、免疫共沈降実験で示されるPR65に対する結合の低下を反復実験において示した唯一の突然変異体であった。したがって、配列番号1のアミノ酸461からアミノ酸533までの領域は、癌の新規な治療法にとって特に重要な標的である。
【0049】
したがって、特に好ましい実施形態によれば、作用物質は、アミノ酸461から533までの領域のKIAA1524、又は、PP2A複合体とKIAA1524タンパク質との間の相互作用に関与するKIAA1524上の任意の他の領域を不活性化する。前記作用物質は、例えば、ペプチド、ペプチド模倣物、小分子、前記KIAA1524に対する抗体、又はKIAA1524のタンパク質立体構造に作用してそれを不活性化させるアプタマー(オリゴヌクレオチド)であり得る。
【0050】
より具体的には、本発明は、配列番号1で示されるKIAA1524のアミノ酸461〜533の領域のアミノ酸に対応する、3から60個の任意の長さのアミノ酸、好ましくは3から30個、好ましくは6から18個、好ましくは6から12個、又は好ましくは9から12個のアミノ酸を含む遮断ペプチドを提供する。いくつかの適用において前記遮断ペプチドが60個のアミノ酸よりも長くてもよいことは明らかである。本発明によるペプチドはPP2A複合体の構成要素に結合し、KIAA1524とPP2Aとの間の相互作用を阻害し、それによりPP2Aの腫瘍抑制活性を誘導し、かつ他方で、KIAA1524を阻害又は遮断する。本発明による他の実施形態では、前記遮断ペプチドは、配列番号7から30からなる群から選択される少なくとも1つの、好ましくは1から20個の、好ましくは1から10個の、好ましくは2から6個の、好ましくは2から4個の、又は好ましくは3から4個の連続配列、及びその保存的な配列変異体を含む。
【0051】
KIAA1524の減少が、PP2A複合体とその基質であるc−Mycとの機能的な相互作用に影響を与えるかどうかを研究するために、KIAA1524のsiRNAをトランスフェクトした後のHeLa細胞抽出物においてc−Mycの定常的な発現レベルを研究した。図3Aに示すように、siRNA誘導性のKIAA1524の減少により、HeLa細胞におけるc−Mycタンパク質の発現は下方調節されたが、一方、図3Bに示すように、c−MycのmRNAの発現は影響を受けなかった。これらの結果により、KIAA1524がc−Mycタンパク質レベルを転写後に調節することが示された。c−Mycタンパク質レベルの減少がタンパク質の不安定化により生じるかどうかを研究するために、内因性c−Mycタンパク質の半減期に対するKIAA1524の減少の影響をパルスチェイス分析により調べた。実験の項においてより詳細に記載するように、KIAA1524の減少はc−Mycタンパク質の安定性を顕著に低下させ、つまりKIAA1524がc−Mycの安定性の重要な調節因子であることを示している。
【0052】
細胞抽出物のc−Myc及びKIAA1524の免疫共沈降により、これらのタンパク質の間の物理的関連が明らかにされた(図3D)。KIAA1524とc−Mycとの間の相互作用をさらに解明するため、Flagタグ付けされた全長組換えKIAA1524を昆虫細胞において産生し、c−Mycの組換えGST融合アミノ末端部分(GenBank登録番号NP_002458の配列のアミノ酸1〜262)を用いた、インビトロでのタンパク質−タンパク質相互作用のアッセイを実施した。結果は、GST−c−Mycの1〜262はKIAA1524と相互作用するが、一方、GST−Mycの1〜120のサイズに対応する、GST−Mycの1〜262のタンパク質分解断片はKIAA1524と相互作用しないということを示した。したがって、c−Mycのドメイン120〜262はKIAA1524へのc−Mycの直接的な結合に介在すると予想される。前記c−Mycのドメイン120〜262は143個のアミノ酸を含み、配列番号31で示されるアミノ酸1〜143に対応する。
【0053】
したがって本発明は、KIAA1524とc−Mycとの相互作用の阻害に有用な遮断ペプチドを提供する。特定の一実施形態では、配列番号31で示されるアミノ酸1〜143に対応する、3から60個の任意の長さのアミノ酸、好ましくは3から30個、好ましくは6から18個、好ましくは6から12個、又は好ましくは9から12個のアミノ酸を含み、KIAA1524を阻害する遮断ペプチドが提供される。前記結合によりKIAA1524とc−Mycとの間の相互作用が阻害され、それによりKIAA1524が阻害又は遮断される。本発明による他の実施形態では、前記遮断ペプチドは、配列番号32から79からなる群から選択される少なくとも1つの、好ましくは1から20個の、好ましくは1から10個の、好ましくは2から6個の、好ましくは2から4個の、又は好ましくは3から4個の連続配列、及びその保存的な配列変異体を含む。
【0054】
本発明によるペプチドの遮断能力を試験するために、前記ペプチドをHeLa癌細胞などの細胞に投与し、ペプチドの性質に応じて、a)PP2Aに対するKIAA1524の結合を防止するそれらの能力、又はb)c−Mycに対するKIAA1524の結合を防止するそれらの能力のいずれかを、KIAA1524−PP2A相互作用の免疫沈降分析などの任意の適切な方法によって、又はc−Mycのセリン62のリン酸化に特異的な抗体を用いた、細胞溶解物のウェスタンブロット分析によって検出する。前記結合を統計的に有意な程度に防止するペプチドを遮断ペプチドであると考える。
【0055】
「保存的な配列変異体」という表現は、本明細書において、アミノ酸配列の修飾により生じる、本発明によるペプチドの結合特性を顕著に改変しない変異体を意味する。そのような修飾は当業者に明らかであり、それらは類似のアミノ酸によるアミノ酸の置換、並びにアミノ酸の欠失及び付加により生じるアミノ酸配列変異体を含む。9個超のアミノ酸、好ましくは12個超、好ましくは18個超、又は好ましくは30個超のアミノ酸を含むペプチドなどの、本発明による、より長いペプチドに関して、本発明は、上述のポリペプチドと少なくとも90%の同一性、又は少なくとも95%、96%、97%、98%、若しくは99%の同一性を有するものを含む。
【0056】
医薬品として用いる場合、本発明による遮断ペプチドは、静脈内投与、腹腔内投与、及び髄腔内投与などの任意の適切な方法によって投与し得る。一実施形態では、遮断ペプチドは、当技術分野で既知の、細胞膜を越えて融合タンパク質を運ぶ細胞透過性ペプチド(CPP)に融合される。そのような融合ペプチドは、例えば静脈内投与、腹腔内投与、及び髄腔内投与によって投与し得る。当業者には、そのような本発明による遮断ペプチド及び融合ペプチドを、技術が進歩するに従って、あらゆる他の適切な投与方法又は投与経路によって投与し得るということが自明であろう。
【0057】
HNSCC、結腸癌、及び乳癌などのヒト癌組織においてKIAA1524が過剰発現しているという先の発見に加え、KIAA1524の発現レベルが腫瘍悪性度に相関するということを見出した。例えば、乳癌の悪性のサブタイプは、良性のサブタイプよりも統計上有意に多くのKIAA1524を発現した。さらに、腫瘍悪性度が高い結腸癌は悪性度の低い結腸癌よりも統計上有意に多くのKIAA1524を発現した。
【0058】
本発明はまた、癌又は過剰増殖性疾患を診断する方法にも関し、その方法は、
i)RT−PCR又はハイブリダイゼーション技術によって、前記組織又は体液からKIAA1524のmRNAの発現を決定し、或いは
ii)タンパク質KIAA1524を含むと予想される組織若しくは体液を、前記KIAA1524を認識する抗体にさらし、前記抗体を検出及び/若しくは定量し、又は前記組織若しくは体液をプロテオミクス技術による分析にかけることにより、組織又は体液におけるKIAA1524タンパク質のレベルを検出又は定量することに基づく。
【0059】
ハイブリダイゼーション技術には、例えばDNAハイブリダイゼーション及びノーザンブロットが含まれる。抗体の検出又は定量は、標識結合免疫吸着アッセイ、ウェスタンブロット、及び免疫組織化学法などの標準的な免疫アッセイ手順によって実施することができる。
【0060】
本発明はまた、ハイブリダイゼーション技術、又はDNA若しくはRNAの配列決定、又はRNA若しくはDNAのRT−PCR分析による、KIAA1524遺伝子における突然変異又は一塩基多型の検出又は定量に基づいて癌又は過剰増殖性疾患を診断する方法に関する。
【0061】
診断は、KIAA1524のみによって、又は他のタンパク質若しくは遺伝子と組み合わせたKIAA1524で実施し得る。
【0062】
より具体的には、本発明は、癌に罹患している疑いのある哺乳動物において悪性転化の浸潤性を決定する方法に関し、前記方法は、a)前記哺乳動物から得られた、悪性細胞を含む疑いのある試料におけるKIAA1524の発現レベルを評価するステップと、b)ステップa)の発現レベルを、非悪性の対照試料におけるKIAA1524の発現レベルと比較するステップと、c)前記試料におけるKIAA1524の発現レベルが非悪性の対照試料におけるKIAA1524の発現レベルよりも顕著に高い場合に、前記悪性転化を浸潤性であると決定するステップとを含む。好ましくは、前記試料におけるKIAA1524の発現レベルは、前記対照試料よりも2倍超、好ましくは3倍超高い。
【0063】
本発明による一実施形態では、上記の方法を用いて、ステップc)でKIAA1524の発現レベルが非悪性の対照試料又は非浸潤性の悪性度I及びIIの試料におけるKIAA1524の発現レベルよりも顕著に高い場合に、悪性転化の悪性度を悪性度III又はIVと決定することにより、結腸癌などの癌に罹患している疑いのある哺乳動物において悪性転化の悪性度を決定する。さらに、本発明は、前記発現レベルが悪性度II又は非悪性の対照試料よりも2倍超、好ましくは3倍超高い場合に、浸潤性で転移性の悪性度III及びIVを非浸潤性で非転移性の悪性度IIから区別する方法を提供する。
【0064】
本発明によるさらなる実施形態では、上記の方法を用いて、KIAA1524の発現レベルが非悪性の対照試料よりも2倍超、好ましくは3倍超高い場合に、浸潤性の腺管癌(IDC)、浸潤性の小葉癌(ILC)、及び腺管面疱癌を伴うIDC(IDC+ICC)などの浸潤性の腫瘍型の乳癌を粘液性癌から区別する。
【0065】
本発明は以下の非限定的な実験の項によって明らかにされよう。
【実施例】
【0066】
実験の項
結果
KIAA1524の同定
HT−1080細胞からPP2A相互作用タンパク質を同定するために、PP2A複合体の足場サブユニットであるTAPタグ付けされたPR65タンパク質を安定して過剰発現する細胞クローンを生成した(図1A)。偽のトランスフェクションを行った対照又はPR65TAP発現細胞の細胞質抽出物のTAP精製により、PR65TAPと共精製するが対照細胞の最終溶出物には存在しない、いくつかのタンパク質が明らかになった(図1B)。その後、これらの推定PR65相互作用タンパク質のいくつかを、質量分析によるペプチド配列決定により同定した。PR65TAP複合体から同定されるタンパク質には触媒性サブユニット(PP2Ac)及びPP2AのBサブユニットの両方が含まれ、これによりアプローチが検証される(図1B)。加えて、KIAA1524を新規な推定PP2A関連タンパク質であると同定することができた。KIAA1524は、いずれの細胞機能もこれまでに同定されていない、90kDAの細胞質タンパク質である(図2)(Soo Hooら、2002年)。以下に示す結果により、KIAA1524は、癌において特異的に上方調節される、PP2Aの内因性阻害剤であると同定される。
【0067】
PR65の免疫共沈降分析の結果により、内因性のKIAA1524が内因性のPR65及びPP2Acと相互作用することが示される(図1C)。KIAA1524とPP2A複合体との間のタンパク質−タンパク質相互作用に介在するKIAA1524の領域を同定するために、KIAA1524欠失突然変異体をコードする一連のcDNA構築物を構築した。この目的のために、一連のFlagタグ付けされたKIAA1524欠失構築物をHeLa細胞内に48時間、一過性にトランスフェクトし、その後、抗Flag抗体との免疫沈降を行った。KIAA1524突然変異体とPP2A複合体との間の相互作用を、PR65サブユニットのウェスタンブロット分析により評価した。Flag−KIAA1524野生型(KIAA1524wt)(図2A)構築物の免疫沈降により、内因性のPR65タンパク質との明らかな相互作用が示された(図1D及び3A)。相互作用は、低い(150mMのNaCl)又は中程度(300mMのNaCl)の両方のストリンジェンシー条件下において生じた。しかし、461〜533の間のアミノ酸を欠いているKIAA1524の突然変異体(KIAA1524mut)(図2A)では、PR65との相互作用が大きく減少した(図1D及び3A)。KIAA1524mutは、11個の欠失突然変異体のうち、両方のストリンジェンシー条件下においてPR65に対する結合の低下を示した唯一の突然変異体であった。
【0068】
次に、KIAA1524wt構築物又はKIAA1524mut構築物のいずれかとHA−PP2Acを同時トランスフェクトした細胞の、PP2AcとKIAA1524との同時局在を研究した。図1Eに示すように、トランスフェクトした細胞の共焦点画像分析によりPP2AcとKIAA1524wtとの同時局在が明らかになったが、一方、PP2AcとKIAA1524mutとでは同時局在は見られなかった(図1E)。PP2Aの機能の調節におけるKIAA1524の役割を研究するために、低分子干渉RNA(siRNA)オリゴを用いてHeLa細胞におけるKIAA1524の発現を阻害した。重要なことに、siRNAによるKIAA1524の発現の減少により、PP2Acの免疫沈降物で測定されたように、PP2Aのホスファターゼ活性が刺激された(図1F)。これらの結果を総合すると、KIAA1524が培養細胞においてPP2A複合体と相互作用し、その触媒活性を阻害するということが示される。さらに、データは、相互作用が中程度のイオン強度で安定であること、及びKIAA1524のアミノ酸461〜533がKIAA1524のPP2A相互作用ドメインを含むことを示す。
【0069】
KIAA1524はc−Mycタンパク質の安定性を高める
KIAA1524の特徴付けされていない細胞機能を明らかにするために、スクランブルsiRNA及びKIAA1524のsiRNAをトランスフェクトしたHeLa細胞のゲノム規模での遺伝子発現プロフィールを72時間後に比較した。注目すべきことに、Sentrix(登録商標)Human−6 Expression BeadChip(Illumina Inc.)内に含まれる遺伝子の少数の画分(26091のうち76)のみが、スクランブルsiRNAをトランスフェクトした細胞及びKIAA1524のsiRNAをトランスフェクトした細胞の間で、再現性があり統計的に有意な(p<0.05、データは示していない)発現レベルの違いを示した(図1F)。PP2Aの活性は形質転換に関与する2つの転写因子、p53及びc−Mycの活性を調節すると示されている。KIAA1524が減少した細胞の転写プロフィールに関してこれらの2つの転写因子を特徴付けるために、KIAA1524の減少に影響される76個の遺伝子のリストを、p53及びc−Mycについて発行された標的遺伝子のデータベースと比較した。p53標的遺伝子のデータベース(http://p53.bii.a−star.edu.sg/aboutp53/targetgene/index.php)に基づくと、KIAA1524の減少に影響を受ける76個の遺伝子のうち1つのみが、そのプロモーター内にp53結合部位を有するか又はp53に転写調節されると公表されている。しかし、c−Myc標的遺伝子のデータベース(http://www.myc−cancer−gene.org/site/mycTargetDB.asp)と比較すると、KIAA1524の減少に影響を受ける遺伝子の16%(12/76)がそれらのプロモーター領域においてc−Mycを結合することが見出された。これらの所見は、公表されている、c−Mycタンパク質の安定性を調節するPP2Aの役割と共に、KIAA1524がc−Mycの機能を調節し得るということを示唆している。
【0070】
上述したように、ウイルススモールt抗原は、c−Mycのセリン62をPP2A介在性の脱リン酸化から保護することにより、c−Mycタンパク質を安定化させる。KIAA1524の減少がc−Mycの発現を調節するかどうかを研究するために、KIAA1524のsiRNA又はスクランブルsiRNA(Scr.)でトランスフェクトした細胞で、ウェスタンブロットによりc−Mycの定常的なタンパク質レベルを試験した。KIAA1524のsiRNAでの処理によりc−Mycタンパク質の発現が明らかに下方調節されたが、一方、c−MycのmRNAの発現レベルは同一の試料において変化しなかった(図4A及び4B)。このことは、KIAA1524が転写後にc−Mycタンパク質のレベルを調節することを意味する。実際、内因性のc−Mycタンパク質の半減期に対するKIAA1524の減少の影響を分析すると、スクランブルsiRNAをトランスフェクトした細胞ではシクロヘキシミド処理(100mg/ml)の1時間後におよそ40%のc−Mycタンパク質が細胞内に存在したのに対し、KIAA1524が減少するとc−Mycタンパク質の安定性は顕著に低下した。
【0071】
KIAA1524はc−Myc関連PP2A活性を阻害する
上記の結果は、KIAA1524がPP2A複合体と相互作用し、c−Mycの安定性を高めることを示す。KIAA1524がc−Myc関連PP2A活性を実際に阻害するかどうかを研究するために、スクランブルsiRNA及びKIAA1524のsiRNAをトランスフェクトした細胞のc−Mycの免疫沈降物を、基質として6,8−ジフルオロ−4−メチルウンベリフェリルホスフェートを用いる(Pastulaら、2003年)、インビトロでのPP2Aアッセイにかけた。重要なことに、siRNAによるKIAA1524の減少により、c−Myc免疫沈降物におけるPP2A活性が顕著に増加した(図4C)。興味深いことに、免疫沈降物の分析により、PP2Ac及びc−Mycが構成的に互いに複合していること、及びKIAA1524の減少がc−Myc−PP2Acの相互作用に影響を与えないことがさらに明らかになった(図4D)。総合すると、これらの結果は、KIAA1524がc−Myc−PP2A複合体におけるPP2Aの活性を阻害し、c−Mycのタンパク質分解を防止することを示している。
【0072】
細胞抽出物のc−Myc及びKIAA1524の免疫共沈降により、これらのタンパク質の間の物理的関連が示されたが(図4D)、KIAA1524とc−Mycとの間の相互作用が直接的なものであるかどうかは明らかにされていない。c−MycとのKIAA1524の相互作用をさらに特徴付けるため、インビトロでのタンパク質−タンパク質相互作用アッセイにおいて、精製されたFlag−KIAA1524タンパク質を、c−Mycの組換えGST融合アミノ末端部分(アミノ酸1〜262)と共に用いた。Flag抗体樹脂は組換えFlag−KIAA1524とGST−Mycとを免疫共沈降させるが、一方、Flag−KIAA1524はGSTのみとは免疫共沈降しないということが見出され(図5A)、このことは、KIAA1524がc−Mycのアミノ末端に直接結合することを示している。興味深いことに、KIAA1524は、アミノ酸1〜120に対応するGST−c−Myc欠失体とは免疫共沈降しなかった(図5A)。これらの結果は、c−MycのKIAA1524相互作用ドメインがc−Myc上のアミノ酸120〜262の間にあることを示している(図5B)。
【0073】
これらの実験を総合すると、c−Myc関連PP2A活性をKIAA1524が阻害することの確かな生化学的証拠が得られる。さらに、c−Mycのアミノ末端に対するKIAA1524の直接的な結合により、c−Myc関連PP2A活性に対するKIAA1524の観察された選択性についての最もふさわしい説明が得られる。
【0074】
KIAA1524は腫瘍の成長に必要である
癌細胞の挙動の調節におけるKIAA1524の役割を研究するために、HeLa細胞をKIAA1524のsiRNAでトランスフェクトし、細胞培養物及びインビボでのマウスモデルの両方において細胞増殖を研究した。次に、細胞増殖の調節におけるKIAA1524の役割を、HeLa細胞におけるチミジン組み込みアッセイによって分析した。スクランブルsiRNAをトランスフェクトした細胞と比較して、KIAA1524の減少により、トランスフェクションの72時間後の細胞増殖が顕著に阻害された(図6A)。しかし、KIAA1524のsiRNAのトランスフェクションは、細胞DNA含有量のFACS分析においてサブG1画分を誘導せず(図6B)、またPARPタンパク質の切断も誘導せず(図6C)、このことは、KIAA1524の減少がプログラム細胞死を誘導しないことを示している。
【0075】
HeLa細胞の腫瘍形成能に対するKIAA1524の寄与を評価するために、単層上の高密度の増殖巣を形成するこれらの細胞の能力に対する、及び足場に依存せずに成長するそれらの能力に対する、KIAA1524の減少の影響を分析した。この目的のために、まず、トランスフェクションの10日後にsiRNAを1回トランスフェクトすることによりKIAA1524の減少の効率を研究し、KIAA1524タンパク質の発現のおよそ50%が10日後にも依然として減少することを見出した。KIAA1524の減少により、トランスフェクションの10日後のHeLa細胞の増殖巣の形成はなくなり(図6D)、また、細胞を寒天上に播種した10日後に測定されたように、寒天上でのHeLa細胞の足場非依存性の成長が明らかに阻害された(図6E)。
【0076】
インビボにおけるKIAA1524の腫瘍形成の役割を評価するために、KIAA1524のsiRNA又はスクランブルsiRNAで72時間トランスフェクトしたHeLa細胞を無胸腺マウスに皮下投与し、触知可能な腫瘍のサイズを測定することにより腫瘍の成長を観察した。重要なことに、siRNAによるKIAA1524の減少により全ての腫瘍のサイズが減少し(図6F)、27日目の腫瘍重量が顕著に阻害された(図6G)。
【0077】
総合すると、これらのデータは、KIAA1524の発現が、形質転換された細胞の表現型の維持の新規なメカニズムであること、及びKIAA1524がインビボで腫瘍の成長を促進することを示す。
【0078】
KIAA1524はヒトの悪性腫瘍において過剰発現する
上記に示した結果により、KIAA1524がPP2A介在性のc−Mycの分解を阻害し、癌細胞の成長及び増殖を促進することについての証拠が得られる。これらの特徴に基づいて、KIAA1524は癌治療のための新規な薬物標的となり得る。癌治療におけるタンパク質標的への期待を満たすためには、KIAA1524はヒト癌組織において過剰発現することが好ましい。本発明者による定量RT−PCR分析によると、KIAA1524のmRNAは、骨髄、前立腺、睾丸、小脳、及び大脳以外の21の非悪性試料の大部分において非常に低いレベル(β−アクチンのmRNAの発現レベルの1%未満)で発現した(図7A)。非悪性細胞と悪性細胞との間でKIAA1524のタンパク質レベルを比較するために、異なる細胞型の全細胞溶解物をKIAA1524について免疫ブロットした。図7Aと一致して、非常に低いレベルのKIAA1524タンパク質がヒト表皮角化細胞(HEK)、非腫瘍形成性MEF、及び不死化NIH3T3マウス線維芽細胞において検出された。しかし、KIAA1524タンパク質はHeLa細胞及びHT−1080線維肉腫細胞の両方において高いレベルで発現し、このことは、KIAA1524の発現が細胞の腫瘍形成能と相関し得ることを示している。
【0079】
さらに、ヒトの頭頚部扁平上皮癌(HNSCC)におけるKIAA1524の発現レベルを分析した。KIAA1524のmRNAのリアルタイムPCR分析により、対照として用いた正常なヒト表皮角化細胞と比較して、36のHNSCC細胞系におけるKIAA1524の統計的に有意な過剰発現が示された(図7B)。KIAA1524のmRNAはまた、HNSCCの腫瘍生検において、体の同一領域に由来する良性の対照組織よりも過剰発現した(図7C)。重要なことに、HNSCC試料の免疫組織化学的染色により、周囲の間質細胞と比較して腫瘍細胞においてKIAA1524がより高く発現することも確認された(図7D)。
【0080】
最後に、HNSCCに由来する原発癌細胞系においてもKIAA1524がc−Mycタンパク質のレベルを調節するかどうかを研究するため、3つの異なるHNSCC細胞系をKIAA1524のsiRNAでトランスフェクトし、ウェスタンブロッティングによってc−Mycの発現について分析した。図7Eに示すように、KIAA1524の減少により、調べた全ての細胞系においてc−Mycタンパク質のレベルが明らかに下方調節された。重要なことに、c−Mycの免疫沈降物の分析の結果、KIAA1524の減少によりHNSCC細胞系におけるc−Myc関連PP2Aホスファターゼ活性の上昇も生じることが明らかになった。
【0081】
HNSCC細胞の増殖の調節におけるKIAA1524の役割を調べるために、UT−SCC−7細胞系及びUT−SCC−9細胞系にKIAA1524のsiRNAのトランスフェクションを施し、これらの細胞系の高密度の増殖巣の形成を10日間観察した。両方の細胞系において、KIAA1524の減少により増殖巣の形成が顕著に減少した。重要なことに、KIAA1524の減少により、トランスフェクションの21日後の、軟寒天におけるUT−SCC−7細胞及びUT−SCC−9細胞の両方の足場非依存性の成長もまた顕著に減少した。HeLa細胞において示されたKIAA1524のsiRNAの特異性と一致して、KIAA1524の2つの個別のsiRNAにより軟寒天においてUT−SCC−9細胞が同様に阻害された。
【0082】
最後に、UT−SCC細胞のインビボでの腫瘍の成長に対するKIAA1524の役割を評価するために、KIAA1524のsiRNA又はスクランブルsiRNAでトランスフェクトしたUT−SCC−7細胞及びUT−SCC−9細胞の両方をSCIDマウスの背部に投与した。この作業において示される、悪性細胞の成長及び腫瘍の進行に対するKIAA1524の重要性を示す全ての他のデータと一致して、KIAA1524のsiRNAをトランスフェクトしたUT−SCC−7細胞及びUT−SCC−9細胞を投与したマウスの、それぞれ5頭のうち3頭のみ、及び6頭のうち2頭のみが、実験の終了である65日目に触知可能な腫瘍を発現した。さらに、KIAA1524のsiRNAにより、スクランブルsiRNAをトランスフェクトした細胞と比較して、両方のUT−SCC細胞で腫瘍の平均サイズが減少した。
【0083】
上記の結果がHNSCCに限定されていることを確認するために、43個のヒト結腸癌試料及び正常な結腸由来の5つの対照試料で、KIAA1524の発現をRT−PCRによって分析した。HNSCCのデータと一致して、KIAA1524のmRNAは、対照組織と比較して、ヒト結腸癌組織において顕著に過剰発現した(図8A)。
【0084】
さらに、結腸癌の腫瘍悪性度に対するKIAA1524のmRNAの発現を比較したところ、KIAA1524の発現が、非浸潤性の悪性度IIの腫瘍又は対照の結腸組織と比較して、浸潤性の悪性度III及び悪性度IVの腫瘍において顕著に高いということが明らかになった(図8B)。分析に用いた組織試料の腫瘍悪性度は、標準的な病理学的基準によってあらかじめ決定されている。
【0085】
KIAA1524が過剰発現しているかどうかを研究するために、HNSCC及び結腸癌に加えて、乳癌の試料においても、以前に特徴付けられた159個のヒト乳腺腫瘍及び正常な乳房の試料(Comeら、2006年)においてKIAA1524の発現を評価した。重要なことに、KIAA1524が、正常な組織と比較して、ヒト乳腺腫瘍において顕著に過剰発現することが見出された(図9A)。乳癌のサブタイプの間でKIAA1524の発現を比較すると、KIAA1524の過剰発現は3つの浸潤性の乳腺癌のサブタイプの全て、すなわち浸潤性の腺管癌(IDC)、浸潤性の小葉癌(ILC)、及び腺管面疱癌を伴うIDC(IDC+ICC)において見られた(図9B)。対照として、予後良好な乳腺腫瘍である粘液性癌が、浸潤性の腫瘍より統計的に低い、正常な乳房と同様のKIAA1524のmRNAの発現を示した(図9B)。
【0086】
総合すると、この結果により、KIAA1524が腫瘍の成長及び癌細胞の増殖を促進することが示され、c−Myc関連PP2A活性の抑制が、KIAA1524にその細胞効果を発揮させる分子メカニズムの少なくとも1つであることが強く示される。
【0087】
材料及び方法
抗体
KIAA1524に対するウサギポリクローナル抗体が公表されている(Soo Hooら、2002年)(フロリダ大学のChan博士により提供していただいた)。PP2Ac、PR65、Flag、HA、GST、PARP、c−Myc、及びアクチンに対する抗体を、Santa Cruz biotechnologies inc.から入手した。
【0088】
プラスミド構築物
PR65TAPタグベクターのPR65αをpRC/CMV.HA PR65a(スイス、バーゼル、Friendrich Miescher−InstitutのBrian A.Hemmings博士から譲っていただいた)からPCR増幅し、XhoI部位及びBamHI部位を用いてTAPベクターであるJW16(Westermarckら、2002年)内にクローニングした。Flag−KIAA1524wt構築物を、公表されているKIAA1524の全長cDNA(Soo Hooら、2002年)(フロリダ大学のChan博士により提供していただいた)からPCRで構築した。Flag−KIAA1524mutのcDNA構築物を、5−Ttaatagagaaacttcagtctggaatg(配列番号80)及び5−Gtggtaaaggatcagatttgtgatgtgaga(配列番号81)のオリゴを用いてプラスミドFlag−KIAA1524wtからPCRで構築した。その後、全てのクローンをDNAの配列決定により検証した。
【0089】
患者の試料
インフォームドコンセントの後、Turku大学中央病院において1990年から2002年の間にHNSCCから手術によって除去された腫瘍から、腫瘍試料を集めた。HNSCCの研究のために、正常な試料を口蓋垂軟口蓋咽頭形成術を受けている患者から集めた。試料は29歳から87歳までの男女から集めた。
【0090】
結腸癌及び正常な結腸組織におけるKIAA1524の発現を、結腸癌の43個の試料(31歳から93歳までの男女)及び正常な結腸組織の5つの試料(37歳から91歳までの男女)を含むTissueScanリアルタイム結腸癌(HCRT101)cDNAパネル(Origene)を用いることで調べた。21の異なる正常なヒト組織から抽出された全RNAをBD Biosciences(Palo Alto、カナダ)から入手し、かつ、フィンランドのTurku大学のKlaus Elenius教授から譲っていただいた。試料は1人の患者からのRNA抽出(小脳、大脳、心臓、肝臓、及び肺)又は2から84人の患者のプールされたRNAの抽出(副腎、骨髄、腎臓、胎盤、前立腺、唾液腺、骨格筋、脾臓、胸腺、甲状腺、気管、子宮、結腸、小腸、及び乳腺)のいずれかからなるものであった。
【0091】
乳癌及び正常な乳腺組織におけるKIAA1524の発現を、先に記載した組織試料(Comeら、2006年)を用いて調べた。
【0092】
細胞培養
ヒトSCC細胞系を、頭頚部SCCの原発腫瘍(UT−SCC−8)、再発腫瘍、又は転移(UT−SCC−7、UT−SCC−9)から確立した。6nmol/lのグルタミン、非必須アミノ酸、100U/mlのペニシリン、100mgのストレプトマイシン、及び10%ウシ胎児血清(FCS)を補ったDMEMにおいて、SCC細胞を培養した。正常なヒト表皮角化細胞を、SingleQuots(登録商標)(Cambrex Bioscience Walkersville、米国メリーランド州)を補ったケラチノサイト基礎培地(Keratinocyte Basal Medium)2(KBM(登録商標)−2)において培養した。HT−1080、HeLa、及びHK293を含む全ての他の細胞系を、100U/mlのペニシリン、100mgのストレプトマイシン、及び10%FCSを補ったDMEMにおいて培養した。
【0093】
一過性トランスフェクション及びsiRNA処理
FuGene6トランスフェクション試薬(Roche)を製造者の指示に従って用いて、サブコンフルエントな細胞を一過性にトランスフェクトした。siRNA処理のために、細胞を80%のコンフルエンスまで成長させ、培地を、何も補っていないDMEMで置き換えた。二本鎖RNAオリゴヌクレオチド(スクランブル:5’−UAACAAUGAGAGCACGGCTT−3’(配列番号82)及び5’−CCUACAUCCCGAUCGAUGAUGTT−3’(配列番号83)、KIAA1524:5’−CUGUGGUUGUGUUUGCACUTT−3’(配列番号84)及び5’−ACCAUUGAUAUCCUUAGAATT−3’(配列番号6)、IBA)をOligofectamine(商標)試薬(Invitrogen)で調製し、細胞に加えた。4〜6時間のインキュベーションの後、培地を10%FCSに平衡させ、siRNA処理を適切な長さの時間まで延長した。
【0094】
RNAの単離及びcDNAの合成
TRIzol試薬(Invitrogen)を製造者の手順に従って用いて、培養細胞から全RNAを抽出した。臨床腫瘍試料から、酸性グアニジウム−チオシアネート−フェノール−クロロホルム法を用いてRNAを抽出した。可能性のある汚染DNAを排除するため、RNA試料を5単位のDNアーゼI(Roche)で処理した。鋳型としての1μgの全RNA、0.5μgのランダムヘキサマー、及び200単位のモロニーマウス白血病ウイルスRNアーゼHマイナス逆転写酵素(どちらもPromega、米国ウィスコンシン州Madisonから入手)を25μlの全量に含む反応において、製造者の手順に従ってcDNAを合成した。
【0095】
免疫蛍光
HA−PP2Ac及びFlag−KIAA1524のcDNA構築物でのトランスフェクションの24時間後に、ガラスカバースリップ上で培養したHeLa細胞を透過処理し、PTEMF(100mMのPipes(pH6.8)、10mMのEGTA、1mMのMgCl、0.2%トリトンX−100、及び4%ホルムアルデヒド)において10分間固定した。PBSで3回洗浄した後、非特異的抗体の結合を、PBSにおける3%のBSAで30分間遮断した。その後カバースリップをHA及びFlagタグ特異的抗体と、PBSにおける2%のBSA内で室温で1時間インキュベートした。3回洗浄した後、結合した抗体を、Cy3及びCy2と結合した二次抗体(Jackson ImmunoResearch)と室温で1時間インキュベートすることで可視化した。PBSで3回洗浄した後、カバースリップを50%グリセロール、PBS、及び2%w/vのDABCO(Sigma−Aldrich)内に置いた。同時局在の分析のために、共焦点レーザー走査顕微鏡(LSM510、Carl Zeiss Inc.)を用いて画像を得た。
【0096】
免疫沈降及びホスファターゼアッセイ
プロテインG−セファロースビーズを、20mMのHEPES−KOH(pH7.5)、300mMのNaCl、0.25mMのEGTA、1.5mMのMgCl、0.25%NP−40、プロテアーゼ阻害剤(Roche)、10mMのb−グリセロリン酸、及び0.5mMのDTT内において、PR65、PP2Ac、c−Myc抗体、又は対照の免疫前血清と、4℃で2時間、回転機上で撹拌した。Flag−KIAA1524突然変異体の免疫沈降を、Flag抗体樹脂(M3、Sigma)を用いて実施した。その後、沈殿したビーズを細胞溶解物と混合し、4℃で一晩インキュベートした。その後、沈殿したビーズを、50mMのTris−HCl(pH7.4)、150mMのNaCl、0.3%NP−40、及び0.5mMのDTTで4回洗浄し、結合したタンパク質を、Trueブロット二次抗体を用いてウェスタンブロッティングにより分析した。ホスファターゼアッセイのために、免疫複合体をビーズ上に保持し、等量のビーズを加えて、6,8−ジフルオロ−4−メチルウンベリフェリルホスフェート(DiFMUP)基質を有するタンパク質セリン/スレオニンホスファターゼアッセイキット(Molecular Probes、米国オレゴン州Eugene)を製造者の指示に従って用いてホスファターゼアッセイを行った。
【0097】
KIAA1524とc−Mycとの間の直接的な相互作用を研究するために、バキュロウイルスを用いてFlag−KIAA1524を昆虫細胞において発現させ、以前に記載されているように(Nordlundら、2005年)、均質になるまでFlag抗体樹脂(M3、Sigma)によってアフィニティー精製した。相互作用アッセイのために、Flag−KIAA1524タンパク質を、低いpH条件を用いてFlag抗体ビーズから溶出した。このKIAA1524タンパク質の純度及び量を、SDS−pageゲル及びクマシー染色により各ステップにおいて分析した。KIAA1524調製物において、他の汚染タンパク質は同定されなかった。GSTタンパク質を細菌により産生し、標準的な手順に従ってアフィニティー精製し、GST−Myc1−262をSanta Cruz Inc.から購入した。抗Flag M3樹脂(Sigma)に固定化された1μgのFlag−KIAA1524を、等モル濃度の量の可溶性GST−c−Myc及びGSTタンパク質と、20mMのTris(pH7.4)、0.2mMのEDTA、0.1MのNaCl、0.5mMのDTT、及びコンプリートプロテアーゼインヒビター(Roche)を含む0.5mlの緩衝液においてインキュベートすることにより、プルダウンアッセイを実施した。KIAA1524タンパク質調製物における昆虫のPP2Aの不在をホスファターゼアッセイによって管理した。抗Flag M3樹脂を全ての実験における対照樹脂として用いた。結合したタンパク質を、0.2%NP−40を補った結合緩衝液で洗浄し、続いて、試料緩衝液中で煮沸し、SDS−PAGEにおいて分解し、GST及びKIAA1524抗体と免疫ブロットした。
【0098】
定量逆転写PCR分析
cDNA試料の定量リアルタイム逆転写PCR(RT−PCR)分析を、Primer Expresssソフトウェア(PE Biosystems)を用いて設計した特異的プライマー及び蛍光プローブを用いて実施し、KIAA1524及びβ−アクチンのmRNAのレベルを特異的に定量した。プライマー及びプローブの配列を以下に示す。
【0099】
KIAA1524:
プローブ:att gct cag cat cgc tgt caa aga act ca(配列番号85)
フォワード:aag ctc tag ccc ttg cac agg(配列番号86)
リバース:gtc cgt gcc tct gtt tca gc(配列番号87)
【0100】
β−アクチン
プローブ:atg ccc tcc ccc atg cca tcc tgc gt(配列番号88)
フォワード:tca ccc aca ctg tgc cca tct acg c(配列番号89)
リバース:cag cgg aac cgc tca ttg cca atg g(配列番号90)
【0101】
最終体積が25μlの、300nMのプライマー(Medprobe)、200nMの5’6−FAM(PE Biosystems)、12.5μlのTaqManユニバーサルPCR Master Mix(PE Biosystems)、及び0.5μlの鋳型cDNAを含む溶液において、PCRを実施した。温度サイクルはABI PRISM 7700配列検出器(PE Biosystems)で実施した。サイクルは50℃で2分間及び95℃で10分で開始し、続いて95℃で15秒及び60℃で1分を40サイクル行った。特異的PCR産物の蓄積を蛍光の増加としてリアルタイムで検出した。観察された蛍光をサイクル数に対してプロットして増幅プロットを生成し、CT値を決定、すなわち、蛍光シグナルが蛍光単位に対するCT値0.05を超えたサイクル数を決定した。CT値の各決定は2回ずつ行い、同じ試料で同時に2回行ったβ−アクチン発現の測定のCT値で標準化した。2つの平行なCT値の間の範囲は全ての測定において平均の5%未満であった。分析した遺伝子(標的遺伝子)の相対発現を、相対発現=2−ΔCTという式(ここで、ΔCT=CT(標的遺伝子)−CT(β−アクチン))を用いて推定した。標的遺伝子の相対発現を100倍して、mRNAの量をβ−アクチンのmRNAの量のパーセンテージとして表した。
【0102】
軟寒天における成長、増殖巣形成、及びマウスにおける腫瘍形成
増殖巣形成アッセイ及び軟寒天における足場非依存性の成長のために、HeLa細胞をトリプシン処理し、siRNA処理の48時間後に10cmのプレートに細胞4×105個にして播種した。軟寒天アッセイを、文献に記載されているように10%FBSを含む培地で実施した。9日間のインキュベーションの後、培養物を二重盲検で写真撮影した。生存しているコロニーの形の細胞を顕微鏡画像(倍率×5)で測定した。各画像で見られたコロニーの数及びサイズを、NIH(http://rsb.info.nih.gov/ij/)のImageJ 1.33uソフトウェアを用いて分析した。足場非依存性コロニーを200〜10000ピクセルの間の数に従って分類した。
【0103】
MEFにおける増殖巣形成アッセイのために、6ウェルプレートに、1ウェル当たり、レトロウイルスにより形質導入したMEFの200個又は500個の細胞を、フィーダーである8.3×10個のNIH3T3細胞と共に播種した。細胞を1〜2週間成長させた。メタノール固定した細胞をギムザ染色した。感染細胞100個当たりの増殖巣の数を計算した。
【0104】
マウス実験のために、トランスフェクトした細胞3×10個を免疫不全マウスの脇腹に皮下投与した。その後、触診により3日ごとに腫瘍の形成を評価し、触知可能な腫瘍のサイズを精密機器によって測定した。実験は28日目に終了した。マウスでの全ての実験は、動物管理の制度的なガイドラインに従って行い、フィンランドのTurku大学の動物実験審査委員会の許可を得たものである。
【0105】
ウェスタンブロット分析
SDS−PAGEゲル電気泳動によるタンパク質の分離の後、タンパク質をImmobilo−P膜(Millipore、米国マサチューセッツ州Billerica)に移した。一次抗体及び二次抗体とのインキュベーションの後、免疫ブロットしたタンパク質を高感度化学発光(ECL、Amersham Biosciences)によって可視化した。
【0106】
免疫組織化学
KIAA1524の、パラフィン包埋した腫瘍切片及び対照の組織切片の免疫染色を、PBSに1:100で希釈したp90抗体(Soo Hooら、2002年)を用いて実施した。免疫染色は、ジアミノベンジジン(DAB)を組み合わせたアビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ複合体法(VectaStain、Vector Labs、米国カリフォルニア州Burlingame)で行い、ヘマトキシリンで対比染色した。
【0107】
タンデムアフィニティー精製のための溶解物の調製
PR65TAPタンパク質を安定して発現するHT−1080細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、緩衝液A(10mMのHepes(pH7.9)、10mMのKCl、0.1mMのEDTA、0.1mMのEGTA、1.5mMのMgCl、コンプリートプロテアーゼインヒビター、20mMのb−グリセロリン酸、25mMのNaF、0.5mMのPMSF、及び0.5mMのDTT)内に再懸濁した。細胞を氷上でインキュベートし、ボルテックスし、そしてその後3900rpmで3分間遠心分離して細胞質溶解物を得た。次に、IgG結合緩衝液(IBB:10mMのTris HCl(pH8.0)、150mMのNaCl、0.2%NP−40、0.5mMのDTT)として、同レベルのNaClとNP−40とを含むように抽出物を調整した。次に、調整した抽出物を、IBBで洗浄したIgGセファロース4 Fast Flow(Amersham)を含むPoly−Prep(登録商標)クロマトグラフィーカラム(BioRad)上に添加した。抽出物を4℃で4時間インキュベートし、その後10mlのIBBで3回洗浄した。次に、ビーズをTEV切断緩衝液(TCB:10mMのTris HCl(pH8.0)、150mMのNaCl、0.3%NP−40、0.5mMのEDTA、及び0.5mMのDTT)及び組換えタバコエッチウイルスプロテアーゼ(TEV)において、4℃で一晩インキュベートした。カルモジュリンビーズ(Startagene)を、Poly−Prep(登録商標)クロマトグラフィーカラムにおいてカルモジュリン結合緩衝液(CBB:10mMのb−メルカプトエタノール、50mMのTris HCl(pH8.0)、150mMのNaCl、1mMの酢酸Mg、1mMのイミダゾール、2mMのCaCl、及び0.2%NP−40)で洗浄した。次に、TEVの溶出物をカラムから回収し、カルモジュリンビーズに結合するよう調整した(1mlの各溶出物に対して、1MのCaClを4ml、及びCBBを3ml)。調整した溶出物を4℃で2時間インキュベートし、その後10mlのCBBで3回洗浄した。次に、カルモジュリンビーズに結合したタンパク質をカルモジュリン溶出緩衝液(CEB:10mMのb−メルカプトエタノール、10mMのTris HCl(pH8.0)、150mMのNaCl、1mMの酢酸Mg、1mMのイミダゾール、5mMのEGTA、及び0.2%NP−40)で回収するか、又はSDSローディングバッファー内で煮沸して回収した。
【0108】
質量分析によるタンパク質の同定
目的のタンパク質バンドをゲルから切り取り、還元し、アルキル化し、以前に記載されているようにトリプシンで一晩消化した。抽出されたペプチドを、ナノフローHPLCシステム(LC Packings、米国カリフォルニア州San Francisco)と組み合わせた、ハイブリッドリニアイオントラップ機器(Q−Trap、Applied Biosystems、米国マサチューセッツ州Framingham)で、LC−MS/MSにより特徴付けた。得られたペプチド断片のスペクトルを、包括的で非冗長なタンパク質データベースに対して、Mascotを用いてサーチした。最低3つのマッチしたトリプシンペプチドが各タンパク質の同定に必要であり、必要であれば、手作業での検査により断片の正確なイオンの割り当てを確実にした。
【0109】
遺伝子発現分析
スクランブルsiRNA又はKIAA1524のsiRNAのいずれかでのトランスフェクションの72時間後にHeLa細胞から抽出された全RNAを、Sentrix(登録商標)Human−6 Expression BeadChipアレイ(Illumina Inc.)により、ゲノム規模での遺伝子発現プロフィールについて分析した。cDNAの増幅、標識、及びハイブリダイゼーションは、製造者の指示及び標準的な手順に従って、フィンランドDNAマイクロアレイセンター(バイオテクノロジーセンター、Turku大学及びAbo Akademi大学、Turku、フィンランド)で行った。アレイから得られたデータを、フィンランド、TurkuのTurku大学及びAbo Akademi大学のバイオテクノロジーセンターに所在のバイオインフォマティクス中央施設で分析した。スクランブルsiRNAをトランスフェクトした細胞と比較して、2つの実験の両方において発現レベルが少なくともlog0.5変化するという基準に従って、発現がKIAA1524の減少に応じて顕著に変化した76個の遺伝子のリストをフィルターした。
【0110】
統計の方法
図6G、8A、8B、9A、及び9Bについては、統計的有意性はマンホイットニーのU検定によって決定し、統計分析を有する全ての他の実験については、統計分析はスチューデントt検定で行った。
【0111】
本発明の方法が、わずか一部のみが本明細書において開示されているにすぎない様々な実施形態の形に組み込まれ得ることは理解されよう。当業者には、他の実施形態が存在し、かつそれが本発明の趣旨に反しないことが明らかであろう。したがって、記載された実施形態は例示的なものであり、制限的であると解釈されるべきではない。
【0112】
(参考文献)

【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】KIAA1524がPP2Aの内因性阻害剤であることを示す図である。図1A)は、PR65足場、PP2Ac触媒性サブユニット、及び調節性Bサブユニットを含む、PP2A複合体の概略図を示す。TAP精製に用いるPR65タンパク質のTAP融合体が示されている。図1B)HT−1080線維肉腫細胞からのPR65タンパク質複合体のTAPの精製である。PR65TAP溶出物内のタンパク質を、質量分析によるペプチド配列決定によって同定した。図1C)HeLa細胞の細胞質抽出物の、PR65抗体との免疫共沈降分析により、内因性KIAA1524、PR65、及びPP2Acタンパク質の間の相互作用が明らかになる。PIは免疫前血清であり、インプットはインプット作用物質である。図1D)PR65の結合を欠いたKIAA1524タンパク質の突然変異体の、免疫共沈降分析による同定である。図1E)提示した発現構築物でトランスフェクトしたHeLa細胞を、KIA1524−PP2Acの同時局在について共焦点顕微鏡法で分析した。図1F)siRNA介在性の、HeLa細胞におけるKIAA1524タンパク質の発現の減少により、免疫沈降したPP2Acのセリン/スレオニンホスファターゼ活性が増大する。
【図2】KIAA1524タンパク質を示す図である。図2A)KIAA1524タンパク質の予測上の構造により、いくつかの推定上のタンパク質−タンパク質相互作用ドメインが明らかになる。図1D及び1Eで分析されたKIAA1524mutタンパク質である。図2B)KIAA1524タンパク質のアミノ酸配列である(配列番号1)。
【図3】KIAA1524におけるPP2A相互作用ドメインの同定を示す図である。図3A)KIAA1524欠失構築物と、HeLa細胞溶解物の内因性PR65との免疫共沈降。提示したFlag−KIAA1524タンパク質とPP2A複合体との免疫共沈降を、PR65抗体を用いた抗Flag免疫沈降物のウェスタンブロッティングによって分析した。KIAA1524欠失体の免疫沈降効率をKIAA1524のイムノブロッティングによって確認した。図3B)KIAA1524における推定上のPP2A介在性ドメインの同定。図3Aにおける結果は、野生型KIAA1524はPP2A(RP65)と相互作用する一方、461〜533のドメインが欠失しているKIAA1524ではPP2Aとの相互作用が損なわれることを示す。したがって、KIAA1524のドメイン461〜533は、KIAA1524とPP2Aとの間の相互作用に介在すると予想される。
【図4】KIAA1524がc−Myc関連PP2A活性及びc−Mycの分解を阻害することを示す図である。図4A)KIAA1524タンパク質のsiRNA誘導性の減少により、HeLa細胞におけるc−Mycタンパク質の発現が下方調節される。図4B)KIAA1524タンパク質のsiRNA誘導性の減少はc−MycのmRNAの発現を阻害しない。図4C)KIAA1524タンパク質のsiRNA誘導性の減少は、c−Myc免疫沈降物におけるPP2Aの活性を増強する。図4D)KIAA1524タンパク質はPP2Acタンパク質とc−Mycタンパク質との間の相互作用を調節しない。スクランブルsiRNA又はKIAA1524のsiRNAのいずれかでトランスフェクトしたHeLa細胞を、c−Myc特異的抗体との免疫共沈降分析にかけた。免疫沈降物におけるタンパク質をその後、提示した抗体によって研究した。
【図5】c−MycにおけるKIAA1524相互作用ドメインの同定を示す図である。図5A)固定化された組換えFlag−KIAA1524タンパク質及び組換えGSTタンパク質との、又はGST−c−Myc 1−262タンパク質との、インビトロでの結合アッセイ。GST(上部)又はKIAA1524(下部)での溶出物の免疫ブロット。インプットは、相互作用アッセイに用いたGSTタンパク質である。同様の結果であった3回の個別の実験の代表的なブロットを示している。図5B)c−Myc.KIAA1524上での、KIAA1524結合ドメインとしてのc−Mycの105〜262の同定の概略図。
【図6】KIAA1524が癌細胞の成長に必要であることを示す図である。図6(A)スクランブルsiRNA又はKIAA1524のsiRNAで72時間トランスフェクトしたHeLa細胞の、細胞増殖のためのチミジンの組み込み。4回の実験の平均+S.D.を示している。*は、スチューデントt検定でp<0.05である。図6B)スクランブルsiRNA又はKIAA1524のsiRNAで72時間トランスフェクトしたHeLa細胞の細胞周期の進行についての、DNA量のフローサイトメトリー分析。結果は、同様の結果であった4回の反復実験の代表的な実験のものである。図6C)KIAA1524欠失体は、KIAA1524のsiRNAのトランスフェクションの72時間後のイムノブロッティングによって検出されたように、HeLa細胞においてポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ(PARP)の切断を誘導しない。全長の(110kD)及びカスパーゼで切断された形態のPARPタンパク質の予想される分子量を右側に示す。図6D)スクランブルsiRNA又はKIAA1524のsiRNAでトランスフェクトしたHeLa細胞の単層上の高密度の増殖巣の形成。上は、代表的な光学顕微鏡画像である。下は、Image Jソフトウェアによる、再播種の10日後の増殖巣の数の定量。4回の実験の平均+S.D.を示している。*は、スチューデントt検定でp=0.002である。図6E)KIAA1524タンパク質のsiRNA誘導性の減少により、寒天上でのHeLa細胞の足場非依存性の成長が阻害される。図6F)スクランブルsiRNA(Scr)又はKIAA1524のsiRNAでトランスフェクトしたHeLa細胞を、免疫不全マウスにおいて腫瘍の成長について分析した。各群につき6頭のマウスの腫瘍容積の平均+SDを示す。図6G)図6F)で示した実験と同様に行った個別の実験の27日目の腫瘍の重量(mg)。*は、マンホイットニーのU検定でp=0.034である。
【図7】KIAA1524がヒトの頭頚部扁平上皮癌(HNSCC)において過剰発現していることを示す図である。図7A)KIAA1524のmRNAの発現を、正常な組織試料の定量RT−PCR分析により定量した。KIAA1524の発現をβ−アクチンとの関連で示す。図7B)KIAA1524のmRNAの発現を、HNSCC細胞系及びヒト表皮角化細胞(HEK)で、TaqmanリアルタイムPCR分析によって研究した。図7C)KIAA1524のmRNAの発現をHNSCC腫瘍試料及び正常な組織の対照試料で、TaqmanリアルタイムPCR分析によって研究した。図7D)KIAA1524抗体を用いたHNSCC組織の免疫染色分析は、腫瘍細胞における細胞質KIAA1524の強い染色を示している(腫瘍細胞の小塊は矢印で示されている)。図7E)KIAA1524タンパク質のsiRNA誘導性の減少により、HNSCC細胞系におけるc−Mycタンパク質の発現が下方調節される。
【図8】KIAA1524がヒトの結腸癌において過剰発現していることを示す図である。図8A)結腸癌組織及び非悪性の結腸組織(対照)におけるKIAA1524のmRNAの発現の定量RT−PCR分析。試料の発現の平均+S.D.を示している。*は、マンホイットニーのU検定でp<0.05である。図8B)ヒト結腸癌におけるKIAA1524の発現レベルと腫瘍悪性度との間の関連性。悪性度III〜IVと悪性度IIとの間(*はマンホイットニーのU検定でp<0.0001)及び悪性度III〜IVと正常な試料との間(*はマンホイットニーのU検定でp=0.0019)のKIAA1524発現の統計的な違いを観察した。
【図9】KIAA1524がヒトの乳癌において過剰発現していることを示す図である。図9A)正常な乳腺組織又は腫瘍乳腺組織におけるKIAA1524の発現。図9B)KIAA1524の発現はヒトの乳腺腫瘍の型に依存する。2試料のウィルコクソン(マンホイットニー)の順位和検定を統計分析に用いた。*は、正常な乳房と比較してp<0.05であり、**は、粘液性腫瘍と比較してp<0.005である。ハウスキーピング遺伝子のβ−アクチンを標準化に用いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
KIAA1524を阻害する治療作用物質をスクリーニング及び同定する方法であって、
a)反応容器内に固定化された第一のタンパク質を提供するステップと、
b)前記容器に、候補作用物質及び標識された第二のタンパク質を同時に又は任意の順序で連続的に加えるステップと、
c)前記第一のタンパク質が前記第二のタンパク質に結合するかどうかを決定するステップと、
d)ステップc)における決定が否定的である場合に、前記候補作用物質を、KIAA1524を阻害する治療作用物質であると同定するステップと
を含み、前記第一のタンパク質がKIAA1524であり、前記第二のタンパク質がPP2A、そのサブユニット、及びc−Mycからなる群から選択され、又はその逆である方法。
【請求項2】
前記第二のタンパク質が、蛍光標識、発光標識、及び比色標識からなる群から選択される標識で標識されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップc)がプレートリーダーにより実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
配列番号2から6からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含み、KIAA1524を阻害する低分子干渉RNA。
【請求項5】
配列番号7から30、32から79、及びその保存的な配列変異体からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含み、KIAA1524を阻害するペプチド。
【請求項6】
前記ペプチドが、配列番号32から79及びその保存的な配列変異体からなる群から選択される1から20個の連続配列を含む、請求項5に記載のペプチド。
【請求項7】
前記ペプチドが、配列番号7から30及びその保存的な配列変異体からなる群から選択される1から20個の連続配列を含む、請求項5に記載のペプチド。
【請求項8】
医薬組成物を生産する方法であって、KIAA1524を阻害する作用物質を同定するステップと、前記作用物質を薬学的に許容できる任意の適切な賦形剤と混合するステップとを含む方法。
【請求項9】
前記同定が請求項1に記載の方法によって実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項8に従って生産され、又は請求項4に記載のsiRNA若しくは請求項5から7までのいずれか一項に記載のペプチドを含む医薬組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の医薬組成物を治療有効量投与することにより、KIAA1524の阻害が必要なヒト又は動物の患者においてKIAA1524を阻害する方法。
【請求項12】
前記患者が、癌及び他の過剰増殖性疾患からなる群から選択される疾患に罹患している、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記癌が、頭頚部扁平上皮癌、乳癌、及び結腸癌からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記過剰増殖性疾患が、乾癬、心筋肥大、及び良性腫瘍からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
癌及び他の過剰増殖性疾患からなる群から選択される疾患を治療、予防、及び/又は緩和するための医薬組成物を製造するための、KIAA1524を阻害する作用物質の使用。
【請求項16】
前記癌が、頭頚部扁平上皮癌、乳癌、及び結腸癌からなる群から選択される、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記過剰増殖性疾患が、乾癬、心筋肥大、及び良性腫瘍からなる群から選択される、請求項15に記載の使用。
【請求項18】
作用物質がアンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA(siRNA)、又はリボザイムである、請求項15に記載の使用。
【請求項19】
前記siRNAが配列番号2から6からなる群から選択される、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
作用物質が、PP2A複合体若しくは転写因子c−Mycとの前記KIAA1524タンパク質の相互作用を阻害することにより細胞の増殖及び成長を予防若しくは阻害し、又は前記作用物質が、PP2A若しくはc−MycとのKIAA1524の相互作用に依存しない、KIAA1524の増殖及び成長の効果を阻害する、請求項15に記載の使用。
【請求項21】
作用物質がペプチド、小分子、抗体、又はアプタマーである、請求項15に記載の使用。
【請求項22】
前記ペプチドが、配列番号7から30、32から79、及びその保存的な配列変異体からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含む、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記ペプチドが、配列番号32から79及びその保存的な配列変異体からなる群から選択される1から20個の連続配列を含む、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
前記ペプチドが、配列番号7から30及びその保存的な配列変異体からなる群から選択される1から20個の連続配列を含む、請求項22に記載のペプチド。
【請求項25】
作用物質が、アミノ酸461から533までの領域のKIAA1524、又は、PP2A複合体とKIAA1524タンパク質との間の相互作用に関与するKIAA1524上の任意の他の領域を不活性化する、請求項15に記載の使用。
【請求項26】
癌に罹患している疑いのある哺乳動物において悪性転化の浸潤性を決定する方法であって、
a)前記哺乳動物から得られた、悪性細胞を含む疑いのある試料におけるKIAA1524の発現レベルを評価するステップと、
b)ステップa)の発現レベルを、非悪性の対照試料におけるKIAA1524の発現レベルと比較するステップと、
c)前記試料におけるKIAA1524の発現レベルが非悪性の対照試料におけるKIAA1524の発現レベルよりも顕著に高い場合に、前記悪性転化を浸潤性であると決定するステップと
を含む方法。
【請求項27】
前記試料におけるKIAA1524の発現レベルが非悪性の対照試料又は非浸潤性の悪性度I及びIIの試料よりも2倍超高い場合に、前記悪性転化を悪性度III又はIVと決定するステップをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記癌が結腸癌である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記試料におけるKIAA1524の発現レベルが非悪性の対照試料よりも2倍超高い場合に、浸潤性の腺管癌(IDC)、浸潤性の小葉癌(ILC)、及び腺管面疱癌を伴うIDC(IDC+ICC)からなる群から選択される浸潤性の腫瘍型を、非浸潤性の腫瘍型から区別するステップをさらに含む、請求項26に記載の方法。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−530593(P2009−530593A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558839(P2008−558839)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【国際出願番号】PCT/FI2007/050137
【国際公開番号】WO2007/104835
【国際公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(508278402)
【出願人】(508278413)
【出願人】(508278424)
【Fターム(参考)】