説明

扁平状軟磁性粉末の製造方法、扁平状軟磁性粉末および電磁波吸収体

【課題】従来に比較して、高い透磁率特性を有する扁平状軟磁性粉末を提供する。
【解決手段】準備した原料の軟磁性粉末に対し、第1の熱処理を施す。次いで、第1の熱処理が施された軟磁性粉末を扁平化処理する。次いで、扁平化処理された軟磁性粉末に対し、第2の熱処理を施す。これにより高い透磁率特性を有する扁平状軟磁性粉末が得られる。第1の熱処理温度は、200℃〜1200℃の範囲内にあることが好ましい。本発明に係る扁平状軟磁性粉末は、(111)相の生成率と(200)相の生成率との合計の生成率が、15%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扁平状軟磁性粉末の製造方法、扁平状軟磁性粉末および電磁波吸収体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタル機器等の小型化・軽量化に伴い、高密度で電子部品が実装されるようになっている。電子部品の過密な実装は、放射される電磁波ノイズに起因する相互干渉の原因となる。この問題に対処するため、電磁波ノイズのエネルギーを吸収し、これを熱に変換する電磁波吸収体が開発され、実用化されている。
【0003】
電磁波吸収体としては、ゴムやプラスチック等のマトリクス材料中に扁平状軟磁性粉末が分散された2層構造のものが知られている。扁平状軟磁性粉末は、一般に、Fe−Si合金、Fe−Si−Al合金等から構成されており、原料となる非扁平状の軟磁性粉末を扁平化処理した後、熱処理を施すことにより製造されている。上記熱処理は、主に、扁平化処理により粉末に生じた加工歪を除去し、透磁率を改善するために行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、Fe−Si−Alを含む軟磁性粉末を扁平化処理し、その後500〜900℃で熱処理して扁平状軟磁性粉末を製造する技術が開示されている。また、特許文献2には、Fe−Si−Al系軟磁性粉末を粉砕し、得られたフレーク状軟磁性粉末を50〜100℃で熱処理する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−281783号公報
【特許文献2】特開平11−036001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上記扁平状軟磁性粉末は、高い透磁率特性を有していることが望ましい。上述した電磁波吸収体は、マトリクス材料中に分散させた扁平状軟磁性粉末の磁気損失、すなわち、虚数部透磁率μ”を利用し、不要な電磁波ノイズを熱に変換し吸収する。そのため、不要ノイズが発生している周波数帯域において扁平状軟磁性粉末の透磁率特性が高ければ、ノイズ抑制効果を向上させることが可能となるからである。
【0007】
また、磁性体の厚みは、抑制したい不要な電磁波ノイズが発生する周波数帯のμ”の大きさに反比例する。そのため、扁平状軟磁性粉末の透磁率特性が高ければ、上述した電磁波吸収体の薄型化に有利だからである。
【0008】
しかしならがら、これまでの技術は、理論的に高い透磁率特性を持つとされるセンダスト合金を用いても、製造プロセスに起因して透磁率特性の劣化が生じるため、これ以上の透磁率特性の向上は困難な状況であった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、従来に比較して、高い透磁率特性を有する扁平状軟磁性粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る扁平状軟磁性粉末の製造方法は、原料となる軟磁性粉末を準備する粉末準備工程と、上記粉末準備工程にて準備された軟磁性粉末を熱処理する第1の熱処理工程と、上記第1の熱処理工程にて熱処理された軟磁性粉末を扁平化処理する扁平化処理工程と、上記扁平化処理工程にて扁平状にされた軟磁性粉末を熱処理する第2の熱処理工程とを有することを要旨とする。
【0011】
ここで、上記第1の熱処理工程における熱処理温度は、200℃〜1200℃の範囲内にあることが好ましい。
【0012】
また、上記粉末準備工程にて準備される軟磁性粉末は、Fe−Si系合金、Fe−Al系合金、および、Fe−Si−Al系合金から選択される1種または2種以上より構成されることが好ましい。
【0013】
この際、上記Fe−Si−Al系合金は、質量%で、Si:9.0〜10.0%、Al:6.0%〜7.0%を含んでいることが好ましい。
【0014】
本発明に係る扁平状軟磁性粉末は、下式で示される(111)相の生成率と(200)相の生成率との合計の生成率が、15%以上であることを要旨とする。
・(111)相の生成率
=(111)相の回折ピーク強度/(220)相の回折ピーク強度×100
(つまり、(111)相の回折ピーク強度を(220)相の回折ピーク強度で除して、100を乗じた値である。)
・(200)相の生成率
=(200)相の回折ピーク強度/(220)相の回折ピーク強度×100
(つまり、(200)相の回折ピーク強度を(220)相の回折ピーク強度で除して、100を乗じた値である。)
【0015】
ここで、本発明に係る扁平状軟磁性粉末は、下式で示される(200)相に対する(111)相の生成比が、0.9〜1.2の範囲内にあることが好ましい。
・(200)相に対する(111)相の生成比
=(111)相の回折ピーク強度/(200)相の回折ピーク強度
【0016】
本発明に係る電磁波吸収体は、上述した本発明に係る扁平状軟磁性粉末を含むことを要旨とする。
【0017】
ここで、本発明に係る電磁波吸収体は、実数部透磁率μ’が100以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る扁平状軟磁性粉末の製造方法は、原料となる軟磁性粉末を準備する粉末準備工程と、粉末準備工程にて準備された軟磁性粉末を熱処理する第1の熱処理工程と、第1の熱処理工程にて熱処理された軟磁性粉末を扁平化処理する扁平化処理工程と、扁平化処理工程にて扁平状にされた軟磁性粉末を熱処理する第2の熱処理工程とを有している。そのため、従来に比べ、高い透磁率特性を有する扁平状軟磁性粉末を得ることができる。これは以下の理由によるものと推察される。
【0019】
すなわち、本発明に係る扁平状軟磁性粉末の製造方法によれば、第1の熱処理により透磁率特性の向上に寄与する規則相が生成し、第1の熱処理を行わない場合に比べ、全体の規則相が増加する。そして、当該規則相が増加した状態で扁平化処理がなされ、その後、扁平化処理により劣化した透磁率を改善するために第2の熱処理がなされる。
【0020】
そのため、扁平化処理後のみに熱処理を行う従来の扁平状軟磁性粉末の製造方法に比較して、第2の熱処理後に存在する規則相を多くすることができ、これにより、従来より高い透磁率特性を有する扁平状軟磁性粉末を得ることができるものと考えられる。また、第1の熱処理により結晶粒径が粗大化するため、扁平化処理時に粉末の破片サイズが相対的に大きくなり、扁平化されやすくなる。このことも透磁率特性の向上に寄与しているものと考えられる。
【0021】
ここで、第1の熱処理工程における熱処理温度が200℃以上である場合には、第1の熱処理時に透磁率特性の向上に寄与する規則相が生成しやすく、第1の熱処理後における全体の規則相を増加させやすくなる。また、第1の熱処理工程における熱処理温度が1200℃以下である場合には、粉末同士の融着を抑制しやすく、粒成長によりその後の扁平化処理も行いやすい。
【0022】
また、粉末準備工程にて準備される軟磁性粉末が、Fe−Si系合金、Fe−Al系合金、および、Fe−Si−Al系などの規則合金から選択される1種または2種以上より構成されている場合には、他の合金系より構成される場合に比べ、得られる扁平状軟磁性粉末の透磁率特性を高くしやすくなる。
【0023】
この際、上記Fe−Si−Al系合金が、質量%で、Si:9.0%〜10.0%、Al:6.0%〜7.0%を含んでいる場合には、扁平化処理に起因して合金組成中のSiおよびAlの選択的な酸化による組成ズレが生じても、高い透磁率特性を有する扁平状軟磁性粉末が得られやすい。
【0024】
本発明に係る扁平状軟磁性粉末は、上述の(111)相の生成率と(200)相の生成率との合計の生成率が15%以上である。そのため、従来より高い透磁率特性を有する。したがって、これを例えば、電磁波吸収体に用いれば、高いノイズ抑制効果を発揮することが可能となる。
【0025】
また、上述の(200)相に対する(111)相の生成比が0.9〜1.2の範囲内にある場合には、生成した規則相のバランスに優れるため、高い透磁率特性を発揮しやすくなる。
【0026】
本発明に係る電磁波吸収体は、上述した高い透磁率特性を有する扁平状軟磁性粉末を含有している。そのため、高いノイズ抑制効果を発揮できる。また、シート状にした場合に、薄型化を図りやすい。また、電磁波吸収体の透磁率特性を向上させるために、扁平状軟磁性粉末を無理に高充填する必要がなく、良好な柔軟性、加工性等を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例3に係る扁平状軟磁性粉末について測定されたX線回折スペクトルである。
【図2】比較例2に係る扁平状軟磁性粉末について測定されたX線回折スペクトルである。
【図3】実施例3について、各工程後における粉末の(111)相の生成率と(200)相の生成率との合計の生成率を示した図である。
【図4】比較例2について、各工程後における粉末の(111)相の生成率と(200)相の生成率との合計の生成率を示した図である。
【図5】実施例1および実施例3に係る電磁波吸収シートについて測定された透磁率データを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態に係る扁平状軟磁性粉末の製造方法(以下、「本製造方法」ということがある。)、扁平状軟磁性粉末(以下、「本粉末」ということがある。)、電磁波吸収体(以下、「本吸収体」ということがある。)について詳細に説明する。
【0029】
1.本製造方法
本製造方法は、粉末準備工程と、第1の熱処理工程と、扁平化処理工程と、第2の熱処理工程とを有している。以下、各工程順に説明する。
【0030】
(1)粉末準備工程
粉末準備工程は、原料となる軟磁性粉末を準備する工程である。なお、原料となる軟磁性粉末は、未だ扁平化処理されていない粉末である。上記軟磁性粉末を構成する材質としては、例えば、純Fe、Fe−Si、Fe−Si−Cr、Ni−Fe、Mo−Ni−Feやアモルファス合金等を例示することができる。粉末準備工程で準備する軟磁性粉末は、1種の軟磁性粉末から構成されていても良いし、2種以上の異なる軟磁性粉末から構成されていても良い。
【0031】
上記軟磁性粉末を構成する材質は、好ましくは、Fe基合金であり、より好ましくは、他の合金系に比較して得られる扁平状軟磁性粉末の透磁率特性を高くしやすくなる等の観点から、Fe−Si系合金、Fe−Al系合金、Fe−Si−Al系合金等であると良い。さらに好ましくは、磁歪定数、磁気異方性がともに零となり、高い透磁率と低い保磁力が得られる等の観点から、Fe−Si−Al系合金であると良い。
【0032】
例えば、上記軟磁性粉末を構成する材質として、Fe−Si−Al系合金を選択する場合、質量%で、Siを、8.5〜10.5%、好ましくは、9.0〜10.0%を含有していると良い。また、質量%で、Alを、5.5〜7.5%、好ましくは、6.0〜7.0%を含有していると良い。Si含有量、Al含有量が上記範囲内にある場合には、扁平化処理に起因して合金組成中のSiおよびAlの選択的な酸化による組成ズレが生じても、高い透磁率特性を有する扁平状軟磁性粉末が得られるからである。
【0033】
本粉末準備工程において、上記軟磁性粉末は、自ら製粉しても良いし、他から供給を受けても良い。上記粉末の製粉方法は、特に限定されるものではないが、好ましくは、合金組成の均一化等の観点から、溶湯噴霧法を好適な方法として例示することができる。溶湯噴霧法では、酸素含有量を低減し、保磁力を低く抑える等の観点から、窒素、アルゴン等の酸素を含まないガスを用いて噴霧を行うと良く、さらに、製粉後も空気を遮断しておくことが望ましい。
【0034】
(2)第1の熱処理工程
第1の熱処理工程は、上記粉末準備工程にて準備された軟磁性粉末を熱処理する工程である。本製造方法は、次工程である扁平化処理工程の前にこの第1の熱処理工程を有することを最大のポイントとしている。準備された軟磁性粉末に対して第1の熱処理工程を施すと、透磁率特性の向上に寄与する規則相を増加させることができる。
【0035】
ここで、第1の熱処理工程の熱処理温度は、当該熱処理後に規則相を増加させることができ、かつ、粉末同士が融着を生じない範囲内から選択することができる。
【0036】
具体的に、第1の熱処理工程における熱処理温度の下限は、規則相が生成しやすい等の観点から、好ましくは、200℃以上、より好ましくは、600℃以上、さらに好ましくは、800℃以上であると良い。一方、第1の熱処理工程における熱処理温度の上限は、粉末同士の融着を抑制しやすく、粒成長によりその後の扁平化処理も行いやすくなる等の観点から、好ましくは、1200℃以下、より好ましくは、1100℃以下、さらに好ましくは、1000℃以下であると良い。
【0037】
第1の熱処理工程における熱処理時間の下限は、粉末への均一な熱拡散等の観点から、好ましくは、30分以上、より好ましくは、1時間以上、さらに好ましくは、2時間以上であると良い。一方、第1の熱処理工程における熱処理時間の上限は、生産性の向上等の観点から、好ましくは、5時間以下、より好ましくは、3時間以下であると良い。
【0038】
第1の熱処理工程における熱処理は、粉末の酸化防止と融着防止等の観点から、アルゴン、窒素等の不活性雰囲気下にて行うことが好ましい。
【0039】
なお、第1の熱処理工程における熱処理方法としては、真空焼成炉、ロータリーキルン等を例示することができる。
【0040】
(3)扁平化処理工程
扁平化処理工程は、上記第1の熱処理工程にて熱処理された軟磁性粉末を扁平化処理する工程である。
【0041】
扁平化手段としては、アトライタ、ボールミル等を例示することができる。高い扁平度を実現するためには、ある長さの時間に亘って処理することが好ましいが、あまり長い時間に亘って処理しても、かえって扁平度が低下する傾向がある。これは、扁平化された粉末が切断・分断され、細分化されるためと考えられる。
【0042】
したがって、扁平化処理には最適な時間が存在する。最適な処理時間は、粉末を構成する合金種によっても異なる。当該合金種が上述したFe−Si系合金、Fe−Al系合金、Fe−Si−Al系合金等である場合には、好ましくは、30時間以下であると良い。
【0043】
(4)第2の熱処理工程
第2の熱処理工程は、上記扁平化処理工程にて扁平状にされた軟磁性粉末を熱処理する工程である。この第2の熱処理工程により、主として、扁平化処理により粉末に生じた加工歪を除去し、透磁率特性を改善することができる。
【0044】
具体的に、第2の熱処理工程の熱処理温度の下限は、規則相が生成しやすい等の観点から、好ましくは、200℃以上、より好ましくは、600℃以上、さらに好ましくは、800℃以上であると良い。一方、第2の熱処理工程における熱処理温度の上限は、粉末同士の融着を抑制する等の観点から、好ましくは、1200℃以下、より好ましくは、1100℃以下、さらに好ましくは、1000℃以下であると良い。
【0045】
第2の熱処理工程における熱処理時間の下限は、粉末への均一な熱拡散等の観点から、好ましくは、30分以上、より好ましくは、1時間以上、さらに好ましくは、2時間以上であると良い。一方、第2の熱処理工程における熱処理時間の上限は、生産性の向上等の観点から、好ましくは、5時間以下、より好ましくは、3時間以下であると良い。
【0046】
第2の熱処理工程における熱処理は、粉末の酸化防止と融着防止等の観点から、アルゴン、窒素等の不活性雰囲気下にて行うことが好ましい。
【0047】
なお、第2の熱処理工程における熱処理方法としては、真空焼成炉、ロータリーキルン等を例示することができる。
【0048】
2.本粉末
本粉末は、上述した本製造方法により好適に製造することができる。本粉末は、扁平状に形成されている。本粉末のアスペクト比は、次のようにして測定することができる。
【0049】
すなわち、先ず、本粉末の平均粒径D50(レーザー回折・散乱方式粒度分布測定装置により測定された、体積分布の積算で50%になる値)を測定する。次いで、本粉末を樹脂に埋め込んで研磨し、粉末の厚さ方向を光学顕微鏡で観察して最大厚みtmaxと最小厚みtminとを求め、その平均値(tmax+tmin)/2を平均の厚みtaとする。taの値を任意の粒子100個について求め、それらの平均値でD50を除算した値を本粉末のアスペクト比とする。
【0050】
本粉末のアスペクト比は、好ましくは、30以上、より好ましくは、50以上の範囲内にあると良い。本粉末のアスペクト比が上記範囲内にある場合には、電磁波吸収体等に使用したときに、高い透磁率特性を発揮でき、ノイズ抑制効果の向上等を図ることができるからである。
【0051】
本粉末の平均粒径D50は、樹脂中への粉末分散性等の観点から、好ましくは、100μm以下、より好ましくは、80μm以下の範囲内にあると良い。
【0052】
ここで、本粉末は、下式で示される(111)相の生成率と(200)相の生成率との合計の生成率が15%以上である。上記合計の生成率は、好ましくは、センダスト等の軟磁性特性の発現要因となる結晶磁気異方性定数の最適化などの観点から、18%以上、より好ましくは、19%以上であると良い。なお、(111)相の生成率と(200)相の生成率との合計の生成率の上限は、特に限定されるものではない。当該合計の生成率が多いほど、高い透磁率特性が得られるからである。
・(111)相の生成率
=(111)相の回折ピーク強度/(220)相の回折ピーク強度×100
・(200)相の生成率
=(200)相の回折ピーク強度/(220)相の回折ピーク強度×100
【0053】
また、本粉末は、下式で示される(200)相に対する(111)相の生成比が、0.9〜1.2の範囲内にあると良い。生成した規則相のバランスに優れるため、高い透磁率特性を発揮しやすくなるからである。上記生成比は、好ましくは、センダスト等の軟磁性特性の発現要因となる結晶磁気異方性定数の最適化などの観点から、より好ましくは、0.92〜1.15の範囲内にあると良い。
・(200)相に対する(111)相の生成比
=(111)相の回折ピーク強度/(200)相の回折ピーク強度
【0054】
なお、上記生成率、生成比は、X線回折装置を用い、本粉末についてX線回折スペクトルを測定することで算出することが可能である。
【0055】
本粉末を構成する材質としては、例えば、純Fe、Fe−Si、Fe−Si−Cr、Fe−Al、Fe−Si−Al、Ni−Fe、Mo−Ni−Feやアモルファス合金等を例示することができる。なお、本粉末は、1種の扁平状軟磁性粉末から構成されていても良いし、2種以上の異なる扁平状軟磁性粉末から構成されていても良い。
【0056】
本粉末を構成する材質は、好ましくは、Fe基合金であり、より好ましくは、他の合金系に比較して透磁率特性を高くしやすくなる等の観点から、Fe−Si系合金、Fe−Al系合金、Fe−Si−Al系合金等であると良い。さらに好ましくは、磁歪定数、磁気異方性がともに零となり、高い透磁率と低い保磁力が得られる等の観点から、Fe−Si−Al系合金であると良い。
【0057】
本粉末を構成する材質がFe−Si−Al系合金である場合、質量%で、Siを、9.0〜10.0%、好ましくは、9.3〜9.7%を含有していると良い。また、質量%で、Alを、6.0〜7.0%、好ましくは、5.2〜5.8%を含有していると良い。Si含有量、Al含有量が上記範囲内にある場合には、高い透磁率特性を有するからである。
【0058】
3.本吸収体
本吸収体は、本粉末を含有している。具体的には、本吸収体は、ゴム、エラストマー、樹脂等のマトリクス材料中に本粉末が分散された構造を有している。
【0059】
上記マトリクス材料としては、塩素化ポリエチレン、アクリル系ゴム、エチレンアクリルゴム等を好適な材料として例示することができる。なお、マトリクス材料は1種または2種以上の材料を併用することも可能である。
【0060】
本吸収体中に含まれる本粉末の含有量は、要求される透磁率特性、本吸収体の厚み等を考慮して選択することができる。透磁率特性、厚み等のバランスなどの観点から、好ましくは、20〜60体積%、より好ましくは、40〜55体積%の範囲内にあると良い。
【0061】
本吸収体の実数部透磁率μ’は、100以上であることが好ましい。より好ましくは、150以上、さらに好ましくは、200以上であると良い。高い透磁率特性を発揮でき、ノイズ抑制効果の向上等を図ることができるからである。
【0062】
本吸収体の形状は、用途に応じて適宜選択することができる。各種用途への適用範囲が広くなる等の観点から、好ましくは、シート状等の平面状であると良い。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例を用いてより具体的に説明する。
1.実施例および比較例に係る扁平状軟磁性粉末、電磁波吸収シートの作製
(実施例)
表1に示す化学組成を有するFe−Si−Al系合金溶湯をアルゴンガス雰囲気中で噴霧し、原料となる軟磁性粉末を製粉した。また、得られた軟磁性粉末の平均粒径D50をレーザー回折・散乱方式粒度分布測定装置を用いて測定した。
【0064】
次いで、得られた軟磁性粉末を、アルゴンガス雰囲気下にて、表1に示す熱処理温度で3時間、熱処理した(第1の熱処理)。
【0065】
また、表2に示すように、Fe−9.5%Si−6.0%Alの化学組成を有する原料軟磁性粉末については、第1の熱処理温度の好適範囲を調査する目的で、第1の熱処理温度を変化させた。
【0066】
次いで、上記第1の熱処理がなされた軟磁性粉末を、以下の配合にてアトライタに入れ、24時間に亘って扁平化処理した。
−配合−
軟磁性粉末:1.0kg
媒体 :2.0L(ナフテゾール)
ボール :18kg(SUJ2、径4.8mm)
潤滑剤 :10g(ステアリン酸亜鉛)
【0067】
次いで、上記扁平化処理がなされた軟磁性粉末を、アルゴンガス雰囲気下にて、表1、2に示す熱処理温度で2時間、熱処理した(第2の熱処理)。以上により、各実施例に係る扁平状軟磁性粉末を得た。
【0068】
次に、得られた扁平状軟磁性粉末を用いて電磁波吸収シートを作製した。すなわち、トルエン300重量部に塩素化ポリエチレン15重量部を溶解し、ゴムの溶液を作製し、当該溶液中に、上記扁平状軟磁性粉末を85重量部投入、混合して分散液とした。
【0069】
次いで、得られた分散液を、ポリエステル樹脂フィルム(基材)上にドクターブレード法により塗布した。塗布に当たり、乾燥後に得られるシートの厚みが0.1mmとなるようにブレード間隙を調節した。
【0070】
次いで、塗布した溶液を自然乾燥させた後、温度130℃、圧力15MPa、時間3分間の条件にてプレスした。これにより、各実施例に係る電磁波吸収シートを作製した。
【0071】
(比較例)
上述した実施例に係る扁平状軟磁性粉末の作製において、表1に示す化学組成を有するFe−Si−Al系合金溶湯を用いて、原料となる軟磁性粉末を製粉後、第1の熱処理を行うことなく扁平化処理を行った後、表1に示す熱処理温度で2時間、第2の熱処理を行った以外は同様にして、各比較例に係る扁平状軟磁性粉末を得た。
【0072】
また、上述した実施例に係る電磁波吸収シートの作製において、実施例に係る扁平状軟磁性粉末に代えて比較例に係る扁平状軟磁性粉末を用いた以外は同様にして、各比較例に係る電磁波吸収シートを作製した。
【0073】
2.評価
(平均粒径D50、アスペクト比)
作製した扁平状軟磁性粉末について、上述した測定方法により、その平均粒径D50、アスペクト比を求めた。
【0074】
(保磁力Hc)
作製した扁平状軟磁性粉末100mgをプラスチック容器にいれ、パラフィンで固化したサンプルを作製し、Hcメーター(東北特殊鋼(株)製、「K−HC1000」)を用いて、扁平状軟磁性粉末の保磁力Hcを測定した。
【0075】
(飽和磁束密度Bs)
上記で作製したサンプルにつき、振動試料型磁力計(理研電子(株)製)を用いて、扁平状軟磁性粉末の飽和磁束密度Bsを測定した。
【0076】
(規則相の生成率・生成比)
X線回折装置((株)リガク製、粉末X線回折装置(RINT−TTRIII)、管球:Co)を用い、θ=20〜80°の範囲にわたって、作製した扁平状軟磁性粉末の回折線強度を測定した。実施例3および比較例2に係る扁平状軟磁性粉末について測定されたX線回折スペクトルを代表例として図1、図2に示す。
【0077】
そして、得られたX線回折スペクトルから、(111)相の生成率、(200)相の生成率、(111)相の生成率と(200)相の生成率との合計の生成率、(200)相に対する(111)相の生成比を以下の式より求めた。
・(111)相の生成率
=(111)相の回折ピーク強度/(220)相の回折ピーク強度×100
・(200)相の生成率
=(200)相の回折ピーク強度/(220)相の回折ピーク強度×100
・(111)相の生成率と(200)相の生成率との合計の生成率
=(111)相の生成率+(200)相の生成率
・(200)相に対する(111)相の生成比
=(111)相の回折ピーク強度/(200)相の回折ピーク強度
=(111)相の生成率/(200)相の生成率
【0078】
また、実施例3および比較例2に係る扁平状軟磁性粉末については、原料の軟磁性粉末の製粉後、第1の熱処理後、扁平処理後、第2の熱処理後についても、上記と同様にして規則相の回折線強度を測定し、(111)相の生成率と(200)相の生成率との合計の生成率の変化を調査した。その結果を、図3(実施例3)、図4(比較例2)に示す。
【0079】
(透磁率特性)
作製した電磁波吸収シートにつき、その透磁率の実数項μ’および虚数項μ”を以下のようにして測定した。
【0080】
<透磁率の実数項μ’>
作製した電磁波吸収シートを外径7mm×内径3mmのリング形状に打ち抜き、インピーダンス測定器(アジレントテクノロジー社製、「プレシジョンインピーダンスアナライザーHP4294A」)を用いて、1MHzにおける上記サンプルのインピーダンス特性を測定し、その値からμ’を算出した。
【0081】
<透磁率の虚数項μ”>
上記サンプルを対象に、上記インピーダンス測定器を用いて、0.01〜100MHzの範囲における損失項を測定し、その最大値を採用した。
なお、実施例1および実施例3に係る電磁波吸収シートについて測定された透磁率データを代表例として図5に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
以上の結果から次のことが分かる。すなわち、比較例に係る扁平状軟磁性粉末は、いずれも、原料となる軟磁性粉末を製粉後、扁平化処理を行う前に熱処理を行うことなく作製されている。そのため、相対的に透磁率が低い。
【0085】
これに対し、実施例に係る扁平状軟磁性粉末は、いずれも、原料となる軟磁性粉末を製粉後、扁平化処理を行う前に熱処理を行った上で作製されている。そのため、相対的に透磁率が高い。
【0086】
上記相違について表1および図3、4を用いて詳細に検討する。図3、4に示すように、第1の熱処理を行うと、これに起因して規則相である(111)相および(200)相が生成し、第1の熱処理を行わない場合に比べ、全体の規則相が増加する。当該規則相が増加した状態で扁平化処理がなされると、規則相の割合は低下する。扁平化により規則相の割合が低下する現象は、第1の熱処理を行わない場合でも同様に見られる。
【0087】
しかしながら、本発明のように第1の熱処理を行った場合には、扁平化処理後に存在する規則相が明らかに多い。その後、第2の熱処理がなされると、ともに規則相が生成するが、第1の熱処理を行った方が、最終的な規則相の存在割合が高くなる。そのため、表1に示すように、実施例に係る扁平状軟磁性粉末は、比較例に係る扁平状軟磁性粉末よりも高い透磁率特性を発揮できるものと考えられる。上記現象のメカニズムは定かではないが、本発明者らは、扁平化処理前の熱処理により生成した規則相は、扁平化処理によってほとんど減少せず、扁平化処理後の熱処理まで高い規則度を保つことが可能なのではないかと推測している。
【0088】
また、表2に示すように、第1の熱処理温度が200℃以上である場合には、保磁力Hcが大きく低下している。そのため、この場合には、第1の熱処理により規則相が生成しやすく、第1の熱処理後における全体の規則相を増加させやすくなることが分かる。一方、第1の熱処理温度が1000℃以下であれば、粉末同士の融着を抑制しやすく、その後の扁平化処理も行いやすいと言える。とりわけ、第1の熱処理温度が600〜800℃の範囲内である場合には、保磁力Hcの低下および融着抑制効果に優れており、好適であると言える。
【0089】
また、実施例2〜4に示すように、出発原料に用いる軟磁性粉末のFe−Si−Al系合金が、質量%で、Si:9.0〜10.0%、Al:6.0〜7.0%を含んでいる場合には、高い透磁率特性を得られることが分かる。これは、扁平化処理に伴う合金組成中のSiおよびAlの選択的な酸化による組成ズレを考慮して、原料段階で合金組成を予め最適範囲に調整しておくことで、上記組成ズレが生じても、扁平状軟磁性粉末を構成するFe−Si−Al系合金組成の範囲が、高い透磁率を発揮可能な範囲内におさまりやすくなるためである。
【0090】
また、実施例2〜4に係る扁平状軟磁性粉末は、(200)相に対する(111)相の生成比が0.9〜1.2の範囲内にある。そのため、生成比が0.9〜1.2の範囲内にない他の実施例に比較して、高い透磁率特性を発揮しやすいことが分かる。
【0091】
また、実施例に係る電磁波吸収シートは、上述した高い透磁率特性を有する実施例に係る扁平状軟磁性粉末を含有しているため、高いノイズ抑制効果を発揮できることが分かる。
【0092】
以上、本発明の実施形態、実施例について説明した。本発明は、これらの実施形態、実施例に特に限定されることなく、種々の改変を行うことが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料となる軟磁性粉末を準備する粉末準備工程と、
前記粉末準備工程にて準備された軟磁性粉末を熱処理する第1の熱処理工程と、
前記第1の熱処理工程にて熱処理された軟磁性粉末を扁平化処理する扁平化処理工程と、
前記扁平化処理工程にて扁平状にされた軟磁性粉末を熱処理する第2の熱処理工程と、
を有することを特徴とする扁平状軟磁性粉末の製造方法。
【請求項2】
前記第1の熱処理工程における熱処理温度は、200℃〜1200℃の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の扁平状軟磁性粉末の製造方法。
【請求項3】
前記粉末準備工程にて準備される軟磁性粉末は、Fe−Si系合金、Fe−Al系合金、および、Fe−Si−Al系合金から選択される1種または2種以上より構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の扁平状軟磁性粉末の製造方法。
【請求項4】
前記Fe−Si−Al系合金は、質量%で、Si:9.0〜10.0%、Al:6.0%〜7.0%を含むことを特徴とする請求項3に記載の扁平状軟磁性粉末の製造方法。
【請求項5】
下式で示される(111)相の生成率と(200)相の生成率との合計の生成率が、15%以上であることを特徴とする扁平状軟磁性粉末。
但し、
(111)相の生成率=(111)相の回折ピーク強度/(220)相の回折ピーク強度×100
(200)相の生成率=(200)相の回折ピーク強度/(220)相の回折ピーク強度×100
【請求項6】
下式で示される(200)相に対する(111)相の生成比が、0.9〜1.2の範囲内にあることを特徴とする請求項5に記載の扁平状軟磁性粉末。
但し、
(200)相に対する(111)相の生成比
=(111)相の回折ピーク強度/(200)相の回折ピーク強度
【請求項7】
請求項5または6に記載の扁平状軟磁性粉末を含むことを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項8】
実数部透磁率μ’が100以上であることを特徴とする請求項7に記載の電磁波吸収体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−196123(P2010−196123A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43353(P2009−43353)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】