説明

扁平銀粒子及びその製造方法

【課題】導体膜を形成した場合、粒子の配向性が高くなり、該導体膜が低抵抗のものとなる扁平銀粒子を提供すること。
【解決手段】本発明の扁平銀粒子は、XRD測定によって得られる(111)面のピークP111に対する、(200)面のピークP200の比P200/P111が0.3以下であることを特徴とする。この扁平銀粒子は、平面視において、略直線状の複数の辺によって画定される輪郭、特に三角形の輪郭を有することが好適である。この扁平銀粒子は、画像解析によって測定された一次粒子の平均粒径Dが0.01〜1μmであり、平均厚みが0.001〜0.15μmであることも好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扁平銀粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気回路を形成するための金属配線の微細化や薄層化が進められるに伴い、配線の低抵抗化や配線の一層の平坦化がより求められている。そのような微細な金属配線の形成には、銀粒子を含む導電性ペーストが使用されている。導電性ペーストに含まれる銀粒子には球状のものや扁平状のものがあることが知られている。球状の銀粒子を含む導電性ペーストを用いて配線を形成した場合、粒子どうしの点接触によって導通を確保しているため、配線が高抵抗となったり、配線の表面が粗くなったりして、均一な回路が形成できない等の問題が生じることがある。これに対して扁平状の粒子にはこのような不都合がない。
【0003】
従来、扁平状の銀粒子は、銀イオンの湿式還元によって生成した球状の銀粒子を、ビーズ媒体等を用いた機械的な処理によって製造していた(例えば特許文献1参照)。また、このような機械的な方法に代えて、本出願人は先に、銀イオンの湿式還元によって直接扁平状の銀粒子を製造する方法を提案した(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−321706号公報
【特許文献2】特開2009−13449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の技術では、球状の銀粒子に対して機械的な処理を行うことに起因して、得られる扁平粒子の大きさを一定に揃えることは容易でなく、また粒径の小さな扁平粒子を製造することには限界があった。また、製造に長時間を有し、また歩留りも下がるので、製造経費を抑えることが容易でなかった。特許文献2に記載の方法によれば、機械的な処理を行わないので、特許文献1に記載の技術が有する不都合が解決される。しかし、均一な粒径の扁平粒子が得られても、その粒子が多結晶体であると、粒界が多いことに起因して、低抵抗を達成することが容易でなく、また焼結温度を低くすることも容易でない。
【0006】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る扁平銀粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、XRD測定によって得られる(111)面のピークP111に対する、(200)面のピークP200の比P200/P111が0.3以下であることを特徴とする扁平銀粒子を提供するものである。
【0008】
また本発明は、前記の扁平銀粒子の好適な製造方法として、
水溶性銀化合物を含む水溶液に還元剤を添加して銀の還元を行う扁平銀粒子の製造方法において、
水溶性銀化合物を含む前記水溶液中にカルボン酸類、アミン類又はチオール類が共存する状態下、60℃以上に加熱された該水溶液に還元剤を逐次添加することを特徴とする扁平銀粒子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の扁平銀粒子は、これを用いて得られた導電性ペーストを塗布して導体膜を形成した場合、該粒子の配向性が高くなり、該導体膜が低抵抗のものとなり、かつ高平滑性を有するものとなる。その上、該導体膜は低温焼結性が高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施例1で得られた銀粒子の走査型電子顕微鏡像である。
【図2】図2は、実施例2で得られた銀粒子の走査型電子顕微鏡像である。
【図3】図3は、比較例1で得られた銀粒子の走査型電子顕微鏡像である。
【図4】図4は、比較例2で得られた銀粒子の走査型電子顕微鏡像である。
【図5】図5は、実施例1で得られた銀粒子のXRD回折図である。
【図6】図6は、比較例1で得られた銀粒子のXRD回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の銀粒子は、その形状が扁平であることによって特徴付けられる。具体的には、対向する略平坦な2つの面を有し、該面の大きさ(横断長さ)が厚みに比べて大きくなっている板状の形状をしている。銀粒子を平面視した場合、この板状の形状は、略直線状の複数の辺によって画定される輪郭を有する形状になっている。例えば三角形、四角形、五角形、六角形等の多角形の輪郭を有する形状になっている。このような直線状の輪郭を有する粒子は、銀の結晶性が高いことを意味している。また、後述する図1から明らかなように、本発明の扁平銀粒子は、その輪郭をなす隣り合う直線によって形成される角部が鋭いものになっている。このことも、銀の結晶性が高いことを意味している。なお「平面視」とは、本発明の扁平銀粒子をその板面と直交する方向からみたときの状態のことである。
【0012】
粒子の充填密度を一層高める観点から、本発明の扁平銀粒子は、その板面が三角形の形状をしていることが好ましい。この場合、該三角形は正三角形であることを要しないが、形状が正三角形に近づくほど好ましい。後述する製造方法に従えば、正三角形の扁平銀粒子を首尾良く製造することができる。なお、本発明の銀粒子は、そのすべてが三角形の形状をしていることが望ましいが、すべての粒子が三角形の形状をしていることは要しない。本発明の銀粒子を走査型電子顕微鏡で5000〜50000倍程度に拡大して観察したとき、観察粒子数(N=100)うちの20%以上の粒子が三角形であれば、本発明の効果は十分に達成される。
【0013】
本発明の銀粒子はその扁平度が高いことから、該粒子を用いて形成された導体膜における粒子の配向性が高いものとなる。粒子の配向性の程度は、XRD測定によって評価することができる。詳細には、粒子の配向性が高いほど、XRD測定によって得られる回折ピークのうち、板面に由来するピークの強度が非常に高くなり、他の回折ピークは相対的に低くなる。したがって、XRD測定によって得られる回折ピークのうち、最も強度の高いピークと、その次に強度の高いピークとの比を比較することで、配向性の程度を評価できる。また本発明の銀粒子は、緻密な導体膜を形成する観点から、(111)面の回折ピークが最も強いことが好ましい。そして、本発明者らの検討の結果、本発明の銀粒子は、最も強度の高いピークが、板面である(111)面の回折ピークであり、次の強度の高いピークが(200)面の回折ピークであることが判明した。そこで本発明においては、(111)面のピークP111に対する、(200)面のピークP200の比P200/P111を銀粒子の配向性の尺度とすることとした。この値が小さければ小さいほど、銀粒子の配向性が高いことを意味する。
【0014】
本発明の扁平銀粒子は、前記の比P200/P111が0.3以下という非常に小さな値となっている。比P200/P111が0.3以下であることによって、本発明の扁平銀粒子は、均一な板面を持つものとなる。このことに起因して、該扁平銀粒子を原料として形成された膜は平坦なものとなるという有利な効果、及び面と面の接触が十分になることから更に低い抵抗値を得ることができるという有利な効果が奏される。これらの有利な効果を一層顕著なものとする観点から、本発明の扁平銀粒子における比P200/P111の値は、0.2以下であることが好ましく、0.1以下であることが更に好ましく、0.002以下であることが一層好ましい。
【0015】
前記の比P200/P111を求めるためのXRD測定の条件は次のとおりである。測定装置として理学電機株式会社製のRINT−2200を用いる。0.04deg(2θ)のサンプリング間隔で20〜100degの範囲を測定する。扁平銀粒子は、遠心分離機(株式会社久保田製作所製の高速大容量冷却遠心機7780)を用いて10000Gで5分処理することで固液分離した後、固体を回収し試料台へ塗布することで試料台へ保持する。
【0016】
本発明の銀粒子は、扁平であるにもかかわらずその大きさが小さいこと、つまり微粒であることによっても特徴付けられる。具体的には、扁平銀粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、画像解析して算出された板面の平均粒径Dが好ましくは0.01〜1μmという微粒のものであり、更に好ましくは0.01〜0.5μm、一層好ましくは0.01〜0.3μmである。本発明の銀粒子がこのような微粒のものであることによって、該粒子が扁平なものであることとの相乗効果で、粒子の充填密度が一層高くなる。
【0017】
前記の画像解析による平均粒径Dは、SEMを用い5000倍〜50000倍に拡大して直接観察して得られるSEM像に基づき、個々の銀粒子(測定サンプル数は100個以上)の面積から粒子径を求め、測定サンプル数で平均することで求められる。
【0018】
本発明の扁平銀粒子における板面の平均粒径が前記の範囲であるのに対して、該粒子の厚み、すなわち2つの対向する板面間の距離は、板面の平均粒径よりも小さくなっている。具体的には、好ましくは0.001〜0.15μm、更に好ましくは0.001〜0.05μmになっている。扁平銀粒子の厚みは、SEMによる直接観察で測定される実測値を平均して(測定サンプル数50個以上)求められる。
【0019】
本発明の銀粒子は、一次粒子の凝集の程度が低いことによっても特徴付けられる。つまり分散性が良好であることによっても特徴付けられる。一次粒子の凝集の程度は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50と、画像解析によって測定された一次粒子の平均粒径Dとの比D50/Dで表すことができる。この値が1に近づくほど、一次粒子の凝集の程度は小さくなる。一般に、粒子の凝集は粒径が小さくなるほど、その程度が甚だしくなるところ、本発明の扁平銀粒子においては、その平均粒径が上述のとおり小さいものであるにもかかわらず、凝集の程度が低くなる。このような扁平銀粒子は、例えば後述する製造方法に従い得ることができる。
【0020】
本発明の扁平銀粒子における凝集の程度はD50/Dで表して好ましくは0.5〜3.0、更に好ましくは0.8〜1.5である。このような低凝集の扁平銀粒子によれば、これを原料として塗膜を形成すると、該塗膜は均一なものとなるので、薄くかつ均一な配線が作製できるという有利な効果が奏される。
【0021】
レーザー回折散乱式粒度分布測定は次の方法で行う。銀粒子0.1gをSNディスパーサント5468(サンノプコ社製)の0.1重量%水溶液120mlと混合する。得られた液を、超音波ホモジナイザ(日本精機製作所製 US−300T)で5分間分散させる。次いで、屈折率に1.51を採用して日機装社製マイクロトラック9320HRA X−100を用いて粒度分布を測定する。また、画像解析径のD50が100nm以下の粒子については、日機装社製のマイクロトラックUPA9340−UPAを用いて粒度分布を測定する。
【0022】
本発明の扁平銀粒子が後述する方法によって製造される場合、該粒子はその結晶子径が、機械的に製造された扁平銀粒子に比べて大きくなる。結晶子径が大きいことは、粒界が少なくなるので、低い抵抗値を得る観点から好ましい。この観点から、本発明の扁平銀粒子における結晶子径は、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることが更に好ましい。扁平銀粒子の結晶子径は、例えば該粒子のX線回折によって測定される回折角のピークの半価幅から求めることができる。
【0023】
次に、本発明の扁平銀粒子の好適な製造方法について説明する。本製造方法では、水溶性銀化合物を含む水溶液に還元剤を添加して銀の還元を行うという化学的方法で扁平銀粒子を得る。先に述べた特許文献1に記載されているような機械的な方法は、本製造方法では採用していない。本製造方法では、反応液中に特定の化合物が共存した条件下に銀の還元を行うことを特徴の一つとしている。また、銀の還元を、反応液を加熱した条件下に徐々に行うことも特徴の一つとしている。
【0024】
本発明においては、先ず水溶性銀化合物を含む水溶液(以下「銀含有水溶液」とも言う。)を調製する。水溶性銀化合物としては、例えば硝酸銀、酢酸銀、硫酸銀などが用いられる。
【0025】
銀含有水溶液は、銀化合物を好ましくは0.01〜0.3mol/L、更に好ましくは0.01〜0.1mol/L含む。この範囲の割合で銀化合物が含まれていることで、粒径の均一性の高い扁平銀粒子が得られやすくなる。
【0026】
銀含有水溶液中には、前記の銀化合物に加えて、カルボン酸類、アミン類又はチオール類を共存させておく。これらの化合物は、それが有する官能基が、銀イオンが銀に還元して生じる核粒子における(111)結晶面に特異吸着し、該結晶面における銀の析出・成長を抑制することが本発明者らの検討の結果判明した。この析出・成長の抑制に起因して銀の析出・成長は一つの面方向に沿って優先的に進行する。その結果、得られる銀粒子は扁平の形状になる。例えばカルボン酸類基であればカルボキシル基が、(111)結晶面に特異吸着する。アミン類やチオール類であれば、アミノ基の窒素原子やチオール基の硫黄原子が(111)結晶面に特異吸着する。
【0027】
前記のカルボン酸類としては、例えばクエン酸、酢酸、酪酸等のアルキル鎖の炭素数が5以下の一価又は多価カルボン酸などを用いることができる。アミン類としては、例えばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン等のアルキル鎖の炭素数が5以下の一価又は多価アミンなどを用いることができる。チオール類としては、例えばメタンチオール、エタンチオール、プロパンチオール等のアルキル鎖の炭素数が5以下の一価又は多価チオールなどを用いることができる。これらの化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
前記のカルボン酸類、アミン類又はチオール類の使用量は、その合計量を、銀イオン1モルに対して0.001〜1.0モル、特に0.1〜1.0モルに設定することが、これらの化合物を銀の(111)面にのみ吸着させる観点から好ましい。特に、これらの合計量を、銀イオン1モルに対して0.001〜0.5モルにすることで、得られる銀粒子を微粒なものとすることができる。これらの化合物の使用量が前記の範囲よりも多量の場合には、発生した核粒子の全体をこれらの化合物が包囲してしまい、(111)面以外の面にも吸着が起こりやすくなる。その結果、核粒子の成長が等方的に起こりやすくなり、得られる銀粒子の扁平度を高めることが容易でなくなる。
【0029】
銀含有水溶液は、保護コロイドを含んでいてもよい。保護コロイドは、銀イオンの還元によって生じる銀の核粒子どうしの立体障害剤として寄与し、粒子どうしの凝集を防止して、粒子の分散状態を良好にする作用を有している。保護コロイドとしては、分子量が100以上であるタンパク質(例えばゼラチン)や、寒天が挙げられる。保護コロイドの使用量は、例えば保護コロイドとしてゼラチンを用いる場合には、銀1モルに対して20〜80gであることが好ましい。保護コロイドの使用量をこの範囲内に設定することで、銀イオンの還元速度を過度に低下させることなく、銀粒子の分散状態を良好にすることができる。また、銀粒子の粒度分布がブロードになることを防止することができる。
【0030】
銀含有水溶液とは別に、還元剤水溶液を調製する。還元剤としては、例えばアスコルビン酸、イソアスコルビン酸、エリソルビン酸、それらの塩等の水に可溶であり、かつ還元力を持つ化合物を用いることができる。還元剤水溶液における還元剤の濃度は、0.01〜1mol/L、特に0.05〜0.5mol/Lとすることが好ましい。銀1当量を還元するのに使用される還元剤の量は、0.8〜10当量、特に1.4〜10当量とすることが、十分な還元速度を確保しつつ、扁平な形状の銀粒子を得る点から好ましい。これに対して、先に述べた特許文献2に記載の扁平銀粒子の製造方法においては、還元剤の使用量は本製造方法よりも少ない銀1当量あたり0.8〜1.4当量に設定されている。
【0031】
目的とする扁平銀粒子を得るためには、銀含有水溶液に、還元剤水溶液を添加する。この場合、還元剤水溶液を、銀含有水溶液に徐々に添加すること、つまり逐次添加することが重要である。逐次添加することで、銀の析出及び粒子の成長が緩やかに進行し、目的とする扁平銀粒子を首尾良く得ることができる。還元剤水溶液を一括添加してしまうと、銀イオンの還元を十分にコントロールできず、銀粒子が丸みを帯びたものとなる傾向にある。還元剤水溶液は、例えば1〜120分、特に15〜60分かけて徐々に添加することが好ましい。
【0032】
銀含有水溶液に、還元剤水溶液を添加するときには、銀含有水溶液を加熱しておくことも重要である。これによって、略直線状の複数の辺によって画定される輪郭を有する扁平銀粒子を首尾良く得ることができる。また銀の結晶性を高めることもできる。これに対して、例えば室温状態の銀含有水溶液に還元剤水溶液を逐次添加した場合、粒子の輪郭は丸みを帯びたものとなり、銀の結晶性も高くならない。特に、銀含有水溶液を、大気圧下において60℃以上に加熱しておき、その加熱下に還元剤水溶液を添加し、還元剤水溶液の添加後もその温度を維持することで、意外にも、略直線状の複数の辺によって画定される輪郭を有する扁平銀粒子を首尾良く得ることができることが判明した。先に述べた特許文献2においては、カルボン酸類の一種であるクエン酸の共存下に銀イオンの還元を行っているところ、還元時の液温は50℃に設定されている。
【0033】
還元中の反応液のpHは、得られる銀粒子の形状に影響を及ぼす。目的とする扁平状の銀粒子を得る観点からは、pHを0.1〜7、特に1〜4に制御することが好ましい。pHの制御には、例えば酢酸、硝酸、硫酸、クエン酸等の水に可溶な酸性添加剤等を用いることができる。
【0034】
本還元工程によって銀粒子が析出した後も、液の攪拌を継続させて熟成を行うことが好ましい。熟成は1〜120分、特に30〜60分行うことが好ましい。熟成によって還元が十分に進行し、目的とする扁平銀粒子はその一次粒子の凝集が起こりにくくなるので好ましい。その後は常法に従い、粒子を沈降させ、上澄みを抜き、濾過、洗浄、乾燥工程を経て、目的とする扁平銀粒子を得る。
【0035】
このようにして得られた扁平銀粒子は、例えば導電性ペーストの原料として好適に用いられる。この導電性ペーストは、本発明の扁平銀粒子の他に、樹脂と有機溶媒を含むものである。この樹脂としては例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ケイ素樹脂、ユリア樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。この導電性ペーストにおける銀粒子としては、本発明の扁平銀粒子のみを用いてもよく、あるいは該扁平銀粒子と球形等の他の形状の銀粒子とを組み合わせて用いてもよい。本発明の扁平銀粒子と球他の形状の銀粒子とを組み合わせて用いることで、ペーストの粘度調整を精密に行うことが容易になる。導電性ペーストにおける銀粒子の割合は、80〜90重量%、特に85〜90重量%とすることが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0037】
〔実施例1〕
500mLビーカーに純水200mLを入れ、そこに硝酸銀10gを入れた後、60℃に昇温した。その液にクエン酸一水和物10g(銀1モルに対して0.81モル)及びゼラチン1.5gを添加し60℃で加熱保持し母液(銀含有水溶液)とした。この操作とは別に、純水200mlにアスコルビン酸10.6g(銀1モルに対して2当量)を混ぜて溶解させ還元剤水溶液を調製した。60℃に加熱された母液に、同じく60℃に加熱された還元剤水溶液を30分かけて添加して(添加速度6.6mL/分)、還元により銀粒子を析出させた。反応系のpHは、約3.0であった。還元剤水溶液の添加完了後も引き続き撹拌を行い1時間熟成させた。その後、限外濾過によって、生成した扁平銀粒子を洗浄し回収した。得られた扁平銀粒子のSEM像を図1に示す。
【0038】
〔実施例2〕
500mLビーカーに純水200mLを入れ、そこに硝酸銀5gを入れた後、75℃に昇温した。その液にクエン酸一水和物0.15g(銀1モルに対して0.024モル)及びゼラチン0.75gを添加し75℃で加熱保持し母液(銀含有水溶液)とした。この操作とは別に、純水200mlにアスコルビン酸5.3g(銀1モルに対して2当量)を混ぜて溶解させ還元剤水溶液を調製した。75℃に加熱された母液に、同じく75℃に加熱された還元剤水溶液を60分かけて添加して(添加速度3.3mL/分)、還元により銀粒子を析出させた。反応系のpHは、約3.5であった。還元剤水溶液の添加完了後も引き続き撹拌を行い1時間熟成させた。その後、限外濾過によって、生成した扁平銀粒子を洗浄し回収した。得られた扁平銀粒子のSEM像を図2に示す。
【0039】
〔比較例1〕
三井金属鉱業株式会社製の球状銀粒子であるEHD(商品名、D50=0.48μm)500gと、メタノール100gと、銀粒子に対して0.3重量%のオレイン酸とを混合した。この混合物を0.1mmのジルコニアビーズ800gと混合し、ディスパーマットを用いて撹拌混合した。銀粒子がプレート状になるまで撹拌混合を行った。得られた扁平銀粒子のSEM像を図3に示す。
【0040】
〔比較例2〕
本比較例は、特許文献2の実施例1をトレースしたものである。0.3mol/lの硝酸銀溶液2Lに、クエン酸一水和物100g(銀1モルに対して0.8モル)及びゼラチン15gを添加して銀含有水溶液を調製し、50℃に加熱保持した。この操作とは別に、アスコルビン酸53g(銀1モルに対して0.6モル)を2Lの水に溶解させて還元剤水溶液を調製した。還元剤水溶液も50℃に加熱保持した。次に、銀含有水溶液を撹拌しながら還元剤水溶液を30分かけて逐次添加した(添加速度66.7mL/分)。添加終了後も、50℃に保温した状態で1時間撹拌を行い熟成させた。その後、限外濾過によって、生成した銀粒子を洗浄し回収した。得られた扁平銀粒子のSEM像を図4に示す。
【0041】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた銀粒子について、先に述べた方法でXRD測定を行いP200/P111を求めた。XRD回折図を図5(実施例1)及び図6(比較例1)に示す。また、平均粒径D及び平均厚みT並びに体積累積粒径D50を求めた。更に、以下の方法で導電性ペーストを調製し、該ペーストから導体膜を形成し、その比抵抗を測定した。それらの結果を以下の表1に示す。なお同表には、参考値として、銀のJCPDSデータも併せて記載されている。
【0042】
〔導体膜の比抵抗〕
銀粒子50gと、エチルセルロース2.5gと、テルピネオール47.5gとを、3本ロールで混練してペーストを調製した。このペーストを用いスクリーン印刷によって、厚み10μmのパターンをアルミナ基板上に印刷し、このパターンを空気中200℃で1時間焼成した。得られた導体膜の比抵抗を、四探針抵抗測定機(三菱化学株式会社製ロレスタGP)で測定した。
【0043】
【表1】

【0044】
図1及び2に示す結果から明らかなように、実施例1及び2の銀粒子は略正三角形の扁平形状をしており、しかも角部が鋭く、結晶性が高いことが判る。また、表1に示す結果から明らかなように、実施例1及び2の銀粒子は微粒であるにもかかわらず分散性が良好であることも判る。更に、該銀粒子から形成された導体膜はその比抵抗値が低いことが判る。これに対して比較例1の銀粒子は、球状の銀粒子を機械的に処理して扁平化したものであり、一部に扁平化されていない粒子が残存していることが判る。これらの粒子は、粒子径が大きいので導体膜の比抵抗は低くなるが、微細で平坦な配線を作製することができない。比較例2の銀粒子は扁平であるものの、丸みを帯びているので、粒子どうしの接点が少なく導電性が得られにくい。更に、D50/Dの値が実施例1よりも高いことから、凝集が強く、緻密な膜を形成しにくい。このことから200℃の焼成では導電性を有する膜が得られない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
XRD測定によって得られる(111)面のピークP111に対する、(200)面のピークP200の比P200/P111が0.3以下であることを特徴とする扁平銀粒子。
【請求項2】
平面視において、略直線状の複数の辺によって画定される輪郭を有する請求項1記載の扁平銀粒子。
【請求項3】
平面視において三角形の輪郭を有する請求項2記載の扁平銀粒子。
【請求項4】
画像解析によって測定された一次粒子の平均粒径Dが0.01〜1μmであり、平均厚みが0.001〜0.15μmである請求項1ないし3のいずれか一項に記載の扁平銀粒子。
【請求項5】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50と前記平均粒径Dとの比D50/Dが1.5以下である請求項1ないし4のいずれか一項に記載の扁平銀粒子。
【請求項6】
水溶性銀化合物を含む水溶液に還元剤を添加して銀の還元を行う扁平銀粒子の製造方法において、
水溶性銀化合物を含む前記水溶液中にカルボン酸類、アミン類又はチオール類が共存する状態下、60℃以上に加熱された該水溶液に還元剤を逐次添加することを特徴とする扁平銀粒子の製造方法。
【請求項7】
前記カルボン酸類がクエン酸である請求項6記載の製造方法。

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−36481(P2012−36481A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179974(P2010−179974)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】