説明

手すり装置

【課題】利用者の身体の移動を少なくしつつ安全且つ容易に移乗できる手すり装置を提供する。
【解決手段】固定部材に固定されるアーム部と、略鉛直方向の回動軸を中心として前記アーム部に対して回動可能に支持された身体保持部と、を備え、前記回動軸は、前記身体保持部の略中央に設けられ、使用者が前記回動軸を挟んで両手を前記身体保持部についた状態で前記回動軸を中心として身体の向きを変えることが可能とされたことを特徴とする手すり装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、一般的に、手すり装置に関し、具体的には、トイレやベッド室、浴室などに取り付けられる手すり装置に関する。
【背景技術】
【0002】
身体に障害をもたれた方や高齢者の方などにとって、立位を補助する手すり装置はきわめて有用である(例えば、特許文献1、2)。このような手すり装置としては、例えば、トイレ室の壁面に取り付けて、その取付部を支点として上下に跳ね上げたり、水平面内で回転させることにより、収納可能とすることができるものが開示されている。
【特許文献1】特開2000−41902号公報
【特許文献2】特開2004−73840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
身体に障害をもたれた方や高齢者の方などが、例えば車いすと腰掛け便器との間を移乗したり、車いすとベッドとの間を移乗する場合、単に立ち上がるだけではなく、立ち上がった状態で身体の向きを変える回旋動作が必要である。このような場合、従来の手すり装置では、手すりにつかまった状態でそのまわりを横方向に移動しなければならず、移動距離が大きいという点で改善の余地があった。また、身体の向きを変える回旋動作の際には、身体のバランスを崩しやすい点でも、改善の余地がある。
一方、これらの移乗に際して、床置きのターンテーブルや、立位移乗機などを用いることも考えられる。しかし、これらの装置を用いる場合、その設置に手間がかかったり、装置が大がかりになるなどの点で改善の余地がある。
【0004】
本発明の態様は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、利用者の身体の移動を少なくしつつ安全且つ容易に移乗できる手すり装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、固定部材に固定されるアーム部と、略鉛直方向の回動軸を中心として前記アーム部に対して回動可能に支持された身体保持部と、を備え、前記回動軸は、前記身体保持部の略中央に設けられ、使用者が前記回動軸を挟んで両手を前記身体保持部についた状態で前記回動軸を中心として身体の向きを変えることが可能とされたことを特徴とする手すり装置が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明の態様によれば、利用者の身体の移動を少なくしつつ安全且つ容易に移乗できる手すり装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
第1の発明は、固定部材に固定されるアーム部と、略鉛直方向の回動軸を中心として前記アーム部に対して回動可能に支持された身体保持部と、を備え、前記回動軸は、前記身体保持部の略中央に設けられ、使用者が前記回動軸を挟んで両手を前記身体保持部についた状態で前記回動軸を中心として身体の向きを変えることが可能とされたことを特徴とする手すり装置である。
これによれば、使用者は安定した姿勢で短い移動距離で安全且つ容易に身体の向きを変えることができる。その結果として、車いすと腰掛便器との間や、その他の各種の設備の間での移乗を行うことができる。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記回動軸を中心とした前記身体保持部の回動運動に対して抵抗を付与する抵抗付与手段をさらに備えたことを特徴とする手すり装置である。
これによれば、身体保持部の不意な回動を防止し、使用者はより安定して体重を身体保持部にかけることができる。
【0009】
第3の発明は、第1または第2の発明において、前記回動軸を中心とした前記身体保持部の回動を阻止する回動ロック機構をさらに備えたことを特徴とする手すり装置である。 これによれば、身体保持部の不意な回動を防止し、使用者は安定して車いすなどから立ち上がったり、腰掛便器などに座ることができる。
【0010】
第4の発明は、第1〜第3のいずれか1つの発明において、前記身体保持部の前記回動の範囲を制限するストッパ機構がさらに設けられたことを特徴とする手すり装置である。 これによれば、身体保持部の回動範囲を制限し、過度な回転により使用者が身体のバランスを崩すことなどを防止できる。
【0011】
第5の発明は、第1〜第4のいずれか1つの発明において、前記身体保持部の高さが可変とされたことを特徴とする手すり装置である。
これによれば、手すり装置を設置する設備のサイズや、使用者の体格に合わせて手すり装置の高さを調整することができる。
【0012】
第6の発明は、第1〜第5のいずれか1つの発明において、前記アーム部は、略水平の回動軸を中心として前記固定部材に対して回動可能とされたことを特徴とする手すり装置である。
これによれば、身体保持部を上方に跳ね上げることにより、手すり装置を使用しない時には邪魔にならないようにできる。また、身体保持部を単に上下させるだけで、手すり装置を使用可能な状態とし、または収納することができて便利である。
【0013】
第7の発明は、第6の発明において、前記アーム部は、前記略水平の回動軸を中心として上方に回動させた状態において固定されるロック機構を有することを特徴とする手すり装置である。
これによれば、身体保持部は上方に跳ね上げられて収納された状態を保持することができる。
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明をする。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付す。
図1は、本発明の実施の形態に係る手すり装置が設置されたトイレ室を例示する模式図である。
また、図2は、この手すり装置を上方から眺めた模式図である。
【0015】
トイレ室には、腰掛便器600が設置されている。そして、腰掛便器600の正面に、本実施形態の手すり装置10が設けられている。この手すり装置10は、身体保持部100と、身体保持部100を支持するアーム部200と、を備える。図1に表した具体例の場合、アーム部200は、トイレ室の壁面802に取り付けられた縦手すり300に取り付けられている。そして、身体保持部100は、図2に矢印Rで表したように、略鉛直方向の回動軸100Cを中心としてアーム部200に対して回動可能に支持されている。
【0016】
回動軸100Cは、身体保持部100の略中央に設けられている。ここで、「略中央」とは、身体保持部100に使用者が両手をついた時に、回動軸100Cが使用者の両手の間にあることをいう。従って、回動軸100Cは、身体保持部100の厳密に中央に設けられる必要はない。
【0017】
図3は、本実施形態の手すり装置の使用形態を例示する模式図である。
使用者900は、手すり装置10の身体保持部100に両手をついて立位を保持した状態のまま、回動軸100Cを中心として矢印Rの方向に移動することにより、身体の向きを変えることができる。使用者900が身体の向きを変えるまでの間、身体保持部100に対して、常に同じ姿勢を保つことができ、立位を安定して保持しつつ、身体の向きを変えることができる。従って、例えば車いすに乗った使用者900が腰掛便器600に対面するようにトイレ室に入室し、車いすから腰掛便器600に移乗する場合、手すり装置10の身体保持部100により立位を安定的に保持しつつ、小さな移動距離で身体の向きを反転させて、腰掛便器600に移乗することができる。
【0018】
図4は、比較例の手すり装置を例示する模式図である。
また、図5は、本比較例の手すり装置の使用態様を例示する模式図である。
本比較例の場合、トイレ室の壁面802には、縦手すり300と、これに連結された横手すり400と、が取り付けられている。例えば、車いす910に乗った使用者900がこの手すり装置を使用して車いす910から腰掛便器600に移乗する場合、まず、車いす910を腰掛便器600の正面まで接近させる。そして、使用者900は、車いす910から足をトイレ室の床に降ろし、上半身を斜めにねじって横手すり400を両手で握って、立ち上がる。しかる後に、横手すり400につかまりながら両足を踏み換えて、身体の向きを反転させる。この時、上半身は反対側にねじられた状態となる。しかる後に、横手すり400につかまりながら、腰掛便器600に腰をおろす。
【0019】
以上説明した本比較例の場合、使用者900は、車いす910から腰掛便器600に移乗する際に、横手すり400若しくは縦手すり300を両手で握った状態のまま、両足を順次踏み換え、上半身を一方(図5に表した具体例では右側)から他方(図5に表した具体例では左側)にねじって身体の向きを反転させる。
【0020】
図6は、第2の比較例の手すり装置を例示する模式図である。
本比較例の手すり装置は、身体保持部100と、身体保持部100を支持するアーム部200と、を備える。アーム部200は、トイレ室の壁面802に取り付けられた縦手すり300に取り付けられている。そして、身体保持部100は、図6(a)に矢印Rで表したように、身体保持部100の端部に設けられた回動軸100Cを中心としてアーム部200に対して回動可能に支持されている。
【0021】
本比較例の手すり装置を用いても、身体の回旋運動が可能である。例えば、図6(a)に表した状態において、車いすに乗った使用者は図面の下方から手すり装置に接近し、身体保持部100に両手をついて車いすから降り、立ち上がる。そして、図6(a)から図6(b)に表した状態となるまで身体保持部100に両手をついた状態のままで徐々に移動する。図6(b)に表した状態まで移動したら、身体保持部100に両手をついたまま腰掛便器600に対して斜め方向から腰掛ける。しかる後に、使用者は、腰掛便器600に座り直して身体の向きを正面に向ける。
しかし、図4〜図6に関して説明した比較例の場合、使用者の身体の移動距離が大きく、バランスを崩しやすいという点で改善の余地がある。
【0022】
図7は、使用者の姿勢と身体の重心の位置との関係を例示する模式図である。
図7(a)は、使用者の上半身が直立に近い状態を表す。このような状態においては、図7(b)に表したように、身体の重心900Gは、支持基底面900Sの範囲内にある。ここで、支持基底面は、使用者900の両足904を結ぶ直線により規定される範囲をいう。重心900Gが支持基底面900Sの範囲内にある時には、使用者900の身体は安定的に立位を保持できる。
【0023】
一方、図7(c)は、使用者900の上半身が前方に傾斜した状態を表す。このような状態においては、図7(d)に表したように、身体の重心900Gは、支持基底面900Sの外側に出てしまうことがある。このように重心900Gが支持基底面900Sの範囲を超えてしまうと、使用者900の身体は不安定となり、転倒しやすい状態となる。
【0024】
図4及び図5に関して前述した比較例の手すり装置の場合、使用者900は、横手すり400を両手で握って上半身を前方に傾斜させ、斜めにねじった状態で、両足を踏み換えることにより身体を反転させる必要がある。このような移乗動作に際しては、図7(c)及び(d)に例示したように、使用者900の身体の重心900Gが支持基底面900Sを超えることもあり得るが、使用者900が横手すり400につかまることにより、移乗を可能とするものであった。
【0025】
また、図6に関して前述した第2比較例の手すり装置の場合、身体保持部100に両手をついた使用者の移動距離が長い。すなわち、重心の移動距離が長いために、図7(c)及び(d)に例示したように、使用者の身体の重心が支持基底面を超える可能性が高くなる。また、図6に関して前述した第2比較例の手すり装置の場合、腰掛便器600から車いすに移乗する際には、図6(b)に表した状態において身体保持部100に両手をついて、図6(a)に表した状態まで戻る必要がある。この際に、使用者は、後ろ向きに移動しなくてもならず、移動しにくいとともに不安定になりやすく、また足下も躓きやすくなる。
【0026】
これに対して、本実施形態の手すり装置によれば、使用者900は、身体をより安定な状態に維持しつつ、少ない移動距離で安全に身体の向きを変えることができる。
図8〜図11は、本実施形態の手すり装置の使用態様を例示する模式図である。
車いす910に乗った使用者900が手すり装置10を使用して車いす910から腰掛便器600に移乗する場合、図8に表したように、車いす910を腰掛便器600の正面まで接近させる。そして、使用者900は、車いす910から足をトイレ室の床に降ろし、図9(a)に表したように、身体保持部100に両手をついて、立ち上がる。しかる後に、身体保持部100に両手をついて立位を保持した状態で両足を踏み換えて、図9(b)及び(c)に表したように、回動軸100Cの回りに矢印Rの方向に移動する。
【0027】
この際に、図10に例示した如く、使用者900は、身体保持部100に対して両手をついた状態で立位を保持することもでき、また、図11に例示した如く、身体保持部100に対して、前腕をついた状態で立位を保持することもできる。また、これらいずれの場合でも、使用者900は、身体の前面(腹部の辺り)を身体保持部100にあてて、身体保持部100に対してややもたれかかった楽な状態で立位を保持することも可能である。
【0028】
このようにして、使用者900は、立位を楽に保持しつつ、両足を順次踏み換えて身体の向きを簡単に反転させることができる。図9(c)に表したように身体を反転させたら、身体保持部100に両手をついて身体を安定させた状態で、腰掛便器600に楽に座ることができる。
また、腰掛便器600から車いす910に移乗する際にも、手すり装置10を使用して同様のステップを実行することにより、安全且つ容易に移乗することができる。
【0029】
本実施形態によれば、図9(a)〜(c)に表した一連の動作に際して、図7(a)及び(b)に関して前述したように、使用者900の身体の重心900Gは常に支持基底面900Sの範囲内に近い状態を維持することができる。つまり、使用者900の身体は、立位を安定して保持した状態を維持できる。また同時に、使用者900は、身体保持部100の回動軸100Cを中心として両足を順次踏み換えるだけで身体を反転させることができ、身体を左右にねじった不安定な姿勢をとる必要がない。また、図6に関して前述した第2比較例のように、後ろ向きに移動する必要もない。つまり、身体的な負担が少なくて済む。そしてさらに、回動軸100Cを中心とした短い距離の移動で済むため、使用者900の移動距離も小さく、短時間で安全且つ容易に身体の向きを変えることができる。
【0030】
以上説明したように、本実施形態によれば、使用者は安定した姿勢で短い移動距離で安全且つ容易に身体の向きを変えることができる。その結果として、車いすと腰掛便器との間や、その他の各種の設備の間での移乗を行うことができる。
【0031】
ここで、身体保持部100の回動運動に対しては、所定の抵抗を設けてもよい。すなわち、身体保持部100の回動に対して抵抗が極めて少ないと、使用者900が身体保持部100に片手または両手をついて立位を保持しようとした時に、身体保持部100が不意に回動し、使用者900が身体のバランスを崩す場合もあり得る。このような場合に、後に詳述するロック機構やストッパ機構を設けることが有効であるが、これらとは別に、またはこれらに加えて、身体保持部100の回動運動に対して、例えばブレーキやオイルダンパ、ER流体クラッチなどと呼ばれるクラッチなどを用いた抵抗付与手段により抵抗を適宜付与することにより、身体保持部100の不意な回動を防止し、使用者900がより安定して体重をかけることが可能となる。ここで、ER流体クラッチとは、電圧をかけると見かけの粘度が変化するER(Electro Rheological)流体(電気粘性流体)を入力軸と出力軸との間に充填し、印加される電圧を変え、ER流体の微粒子相互の固着状態を制御して、伝達トルクを可変としたクラッチである。
【0032】
ところで、図8に例示した具体例の場合、身体保持部100の回動軸100Cは、腰掛便器600の中心線600Lとほぼ一致した位置に設けられている。しかし、本発明はこれには限定されない。
図12及び図13は、身体保持部100と腰掛便器600との位置関係を例示する模式図である。
図12に表した具体例の場合、身体保持部100の回動軸100Cは、身体保持部100の幅方向の中心線100Lの上に設けられている。そして、回動軸100Cは、腰掛便器600の中心線600Lよりもアーム部200が固定されている壁面802の方向にずれている。このようにすると、例えば、狭いトイレ室において、使用者900が手すり装置10により身体の向きを反転させる際に、壁面802に対向する壁面804に使用者900の背中が干渉することを防止できる。また、使用者900は、身体を反転させる際に、腰掛便器600の中心線600Lの近くを移動することで、より短い移動距離で移乗することが可能となる。
【0033】
図13に表した具体例の場合、身体保持部100の幅方向の中心線100Lと、腰掛便器600の中心線600Lと、は一致していない。ただし、身体保持部100の回動軸100Cは、中心線100Lの上にはなく、腰掛便器600の中心線600Lよりもアーム部200が固定されている壁面802の方向にずれている。
【0034】
このようにしても、図12に関して前述した具体例と同様に、狭いトイレ室において、壁面804に使用者900の背中が干渉することを防止でき、また、使用者900は、より短い移動距離で移乗することが可能となる。
【0035】
図14は、本実施形態の手すり装置の具体例を表す模式図である。
本具体例の手すり装置10も、身体保持部100とアーム部200とを備えている。そして、鉛直方向に延在した縦手すり300にアーム部200が取り付けられている。アーム部200は、縦手すり300に固定される固定部210と、固定部210に接続され略水平な回動軸の回りに回動可能とされた連結部220と、連結部220から延在した支持体230と、支持体230の先端付近に設けられた回動支持部240と、を有する。
【0036】
連結部220が回動することにより、身体保持部100を上方に跳ね上げることができ、図14(a)に表したように使用可能な状態から、図14(b)に表した収納状態にすることができる。このようにすれば、手すり装置10を使用しない時には邪魔にならず、しかも、身体保持部100を単に上下させるだけで、手すり装置10を使用可能な状態とし、または収納することができて便利である。
【0037】
なお、連結部220が略鉛直な回動軸を中心として回動可能としてもよい。このようにすれば、身体保持部100を上方に跳ね上げる代わりに、連結部220の回動軸を中心として水平面内で回動させることにより、身体保持部100とアーム部200を壁面に接近させ、収納状態とすることができる。またこの場合には、使用時に連結部220が回動しないようにロック機構を適宜設けるとよい。
【0038】
一方、縦手すり300に対する固定部210の取付位置を変更可能とすることにより、手すり装置10の高さを調節可能とすることができる。例えば、固定部210にロック機構を設け、ロックを解除した状態で縦手すり300に対して固定部210を上下方向に移動可能とする。そして、固定部210の高さを決めたら、ロックすることにより、縦手すり300に固定する。このようにすれば、手すり装置10を設置する設備のサイズや、使用者900の体格などにより、手すり装置10の高さを調節することができる。
【0039】
図15は、本実施形態の手すり装置の他の具体例を表す模式図である。
本具体例においては、手すり装置10は、壁面802に直接固定されている。すなわち、壁面802に、固定部210が固定され、この固定部210に連結部220が接続されている。固定部210は、壁面802に対する取付強度を確保するための部材であり、例えば、壁面802を補強する板状の部材を用いることができる。また、本具体例においても、図14に関して前述したものと同様に、連結部220は略水平な回動軸の回りに回動可能としてもよい。
【0040】
図16及び図17は、本具体例の手すり装置の連結部220に設けられたロック機構を例示する模式図である。すなわち、図16(a)は身体保持部100が使用可能な状態を表し、図16(b)は身体保持部100が上方に跳ね上げられて収納された状態を表す。また、図17(a)及び(b)は、図16(a)及び(b)に表した状態の一部拡大図である。
【0041】
本具体例においては、連結部220にブラケット222と、フック224と、が設けられている。図16(a)及び図17(a)に表したように、身体保持部100を下方に降ろした状態においては、フック224は解除された状態にある。一方、図16(b)及び図17(b)に表したように身体保持部100を上方に跳ね上げると、フック224は、ブラケット222と係合し、ロックされた状態となる。すなわち、身体保持部100は上方に跳ね上げられて収納された状態を保持することができる。この手すり装置10を使用する時には、フック224を持ち上げてブラケット222との係合を解除し、身体保持部100を下方に降ろせばよい。
【0042】
図18は、本実施形態の手すり装置のさらに他の具体例を表す模式図である。
本具体例においても、手すり装置10は、壁面802に直接、取り付けられている。そして、連結部220と回動支持部240と、を協働させることにより、身体保持部100の高さを調節可能としている。例えば、連結部220を略水平な回動軸の回りに回動可能とする。一方、回動支持部240は、略鉛直軸の回りに回動可能に身体保持部100を支持するとともに、略水平な回動軸の回りにも身体保持部100を支持可能とする。身体保持部100の高さを調節する際には、連結部220を適宜回動させ、また、回動支持部240を略水平な回動軸の回りに適宜回動させる。このようにすれば、身体保持部100の姿勢を変化させることなく、図18に破線で例示したように、その高さを調節することが可能となる。なお、高さを調節した後は、連結部220の回動軸と、回動支持部240の略水平な回動軸と、は適宜ロック可能とすればよい。
【0043】
図19は、本実施形態の手すり装置のさらに他の具体例を表す模式図である。
本具体例においては、身体保持部100の回動を阻止するロック機構が設けられている。すなわち、回動支持部240には、フランジ244が取り付けられている。フランジ244は、身体保持部100の回動方向には回動せず、身体保持部100が回動する場合でも、アーム部200に対して相対的に固定され状態を維持する。一方、身体保持部100には、支点112を中心した傾動が可能とされたレバー110が設けられている。レバー110の外周側の先端には、押しボタン114が設けられ、一方、レバー110の内周側の先端には、スプリングなどの付勢手段116により適宜付勢されたロックピン118が設けられている。フランジ244の裏面側には、ロック孔246が適宜設けられている。 身体保持部100を回動させると、図19(c)に表したようにロックピン118がフランジ244の裏面を摺動し、ロック孔246の位置においては、図19(d)に表したように、ロックピン118がロック孔246に挿入されて身体保持部100が固定される。つまり、身体保持部100の回動を禁止することができる。
【0044】
この状態から身体保持部100を回動させたい場合には、図19(b)に表したように、押しボタン114を矢印の方向に押せばよい。すなわち、押しボタン114を押すとレバー110が支点112を中心として傾動し、ロックピン118がロック孔246から引き抜かれる。このようにしてロック状態を解除し、身体保持部100を回動させることができる。
【0045】
本具体例によれば、例えば使用者が車いすから腰掛便器に移乗する際に、まず、車いすから立ち上がる時(図8に例示した状態)において、身体保持部100をロックして回動を禁止することができる。このようにすれば、身体保持部100が不意に回動することがなく、使用者900は安定して車いす910から立ち上がることができる。使用者900は、車いす910から立ち上がったら、押しボタン114を押して身体保持部100を回動可能な状態とし、回動軸100Cを中心として身体を反転させることができる。
【0046】
また、使用者900が身体保持部100により立位を保持して身体を反転させた後に、腰掛便器600に座る際にも、身体保持部100をロックして回動を禁止することにより、身体保持部100が不意に回動することがなく、使用者900は安定して腰掛便器600に座ることができる。
図20は、本実施形態の手すり装置のさらに他の具体例を表す模式図である。
本具体例においては、身体保持部100の回動範囲を制限するストッパ機構が設けられている。すなわち、回動支持部240に設けられた回転軸には、突起248が設けられている。一方、回転軸を受ける軸受け部には、ストッパ130、140が設けられている。
【0047】
身体保持部100を左回りに回動させると、図20(b)に表したように突起248とストッパ130とが当接した状態で回動が阻止される。一方、身体保持部100を右回りに回動させると、図20(c)に表したように突起248とストッパ140とが当接した状態で回動が阻止される。このようなストッパ機構を設けることにより身体保持部100の回動範囲を制限し、過度な回動により使用者900が身体のバランスを崩すことなどを防止できる。
【0048】
図21は、本実施形態の手すり装置10に設けることができる身体保持部100の平面形状を例示する模式図である。
身体保持部100は、図21(a)に例示したごとく、楕円形または長円形とすることができる。また、図21(b)に例示した如く、略円形としてもよい。この場合、どの位置からでも使用者が手をかけることができる。
【0049】
また、図21(c)に表したように、身体保持部100を略半円形としてもよい。この場合、使用者は、身体保持部100の直線部の側から手をかけてもよく、また円弧部の側から手をかけてもよい。
また、図21(d)に表したように、身体保持部100を略円弧形としてもよい。この場合にも、使用者は、身体保持部100の内側の円弧部の側から手をかけてもよく、また外側の円弧部の側から手をかけてもよい。
またさらに、図21(e)に表したように、身体保持部100を略円弧形とし、さらにその回動軸100Cを円弧の中心付近としてもよい。この場合には、自動車のハンドルの如く、略円弧形の身体保持部は、回動軸100Cに連結された連結部150を有する。連結部150は、例えば、略スポーク状とすることができる。この場合にも、使用者は、身体保持部100の回動軸100Cの側から手をかけてもよく、また外側の円弧部の側から手をかけてもよい。
また一方、図21(f)に表したように、身体保持部100を、回動軸100Cを中心に一方に折れ曲がった形状としてもよい。この場合にも、使用者は、身体保持部100の折れ曲がった内側から手をかけてもよく、または折れ曲がった外側から手をかけてもよい。
【0050】
図22は、本実施形態の手すり装置10に設けることができる身体保持部100の形状の他の具体例を例示する模式図である。すなわち、図22(a)は身体保持部100を上方から眺めた平面図であり、図22(b)はその正面図である。
本具体例においては、身体保持部100の上面に、左右に延在した握り手180が設けられている。使用者は、握り手180をつかむことにより、立位をよりしっかりと保持することが可能となる。
【0051】
以上、身体保持部100の形状についていくつかの具体例を挙げたが、本発明はこれら具体例に限定されない。身体保持部100の平面形状としては、その他、多角形状、不定形状を含む各種の平面形状を採用することができる。またさらに、身体保持部100の平面形状は、2以上の互いに離間した部分を有するものとしてもよい。例えば、それぞれが回動軸100Cに連結された2つの独立した支持部を設けてもよい。この場合、使用者は、これら2つの支持部にそれぞれ片手ずつをあてることができる。
【0052】
一方、身体保持部100の構造としては、例えば、鋼板などの機械的な強度が高い支持体の表面を軟質の材料の被覆層で覆ったものを用いることができる。表面を覆う被覆層としては、例えば発泡ウレタン層と、その表面を覆う樹脂シートと、を用いることができる。発泡ウレタンにより、使用者の手や身体を軟らかく受け止めることができる。また、樹脂シートで表面を覆うことにより、例えば、汚れた場合でも水拭きなどにより清潔な状態を維持することが容易となる。
【0053】
ところで、本実施形態の手すり装置10は、車いすと腰掛便器600との間の移乗に限らず、その他の各種の場面において用いることができる。
図23は、ベッドと車いすとの間で移乗する場合を例示した模式図である。
すなわち、ベッド700の近傍に本実施形態の手すり装置10を設置すれば、使用者900がベッド700から車いす910に移乗する際に、または車いす910からベッド700に移乗する際に、安全且つ容易に移乗することができ、極めて有用となる。この場合、ベッド700のフレームや、ベッド700が設けられた部屋の壁面などに本実施形態の手すり装置10を設置すればよい。
【0054】
図24は、浴槽と車いすとの間で移乗する場合を例示した模式図である。
すなわち、浴槽720の近傍に本実施形態の手すり装置10を設置すれば、使用者900が車いす910から浴槽720に移乗する際に、または、浴槽720から車いす910に移乗する際に、安全且つ容易に移乗することができ、同様に極めて有用となる。
【0055】
その他、病院の診察台や検査設備、またダイニングテーブルや書斎あるいはその他各種の場所に設置される椅子やベンチなどに、本実施形態の手すり装置を付設することにより、身体に障害をもたれた方や高齢者の方などが安全且つ容易に身体の向きを変えることができ、車いすやその他各種の設備との間の移乗を容易にすることができる。
【0056】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明をした。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
前述の具体例に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、身体保持部100、アーム部200、連結部210、連結部220、支持体230、回動支持部240などの形状、構造、寸法、数、材質、配置などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施例が備える各要素は、可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態に係る手すり装置が設置されたトイレ室を例示する模式図である。
【図2】手すり装置を上方から眺めた模式図である。
【図3】本実施形態の手すり装置の使用形態を例示する模式図である。
【図4】比較例の手すり装置を例示する模式図である。
【図5】比較例の手すり装置の使用態様を例示する模式図である。
【図6】第2の比較例の手すり装置を例示する模式図である。
【図7】使用者の姿勢と身体の重心の位置との関係を例示する模式図である。
【図8】本実施形態の手すり装置の使用態様を例示する模式図である。
【図9】本実施形態の手すり装置の使用態様を例示する模式図である。
【図10】本実施形態の手すり装置の使用態様を例示する模式図である。
【図11】本実施形態の手すり装置の使用態様を例示する模式図である。
【図12】身体保持部100と腰掛便器600との位置関係を例示する模式図である。
【図13】身体保持部100と腰掛便器600との位置関係を例示する模式図である。
【図14】本実施形態の手すり装置の具体例を表す模式図である。
【図15】本実施形態の手すり装置の他の具体例を表す模式図である。
【図16】本具体例の手すり装置の連結部220に設けられたロック機構を例示する模式図である。
【図17】本具体例の手すり装置の連結部220に設けられたロック機構を例示する模式図である。
【図18】本実施形態の手すり装置のさらに他の具体例を表す模式図である。
【図19】本実施形態の手すり装置のさらに他の具体例を表す模式図である。
【図20】本実施形態の手すり装置のさらに他の具体例を表す模式図である。
【図21】本実施形態の手すり装置10に設けることができる身体保持部100の平面形状を例示する模式図である。
【図22】本実施形態の手すり装置10に設けることができる身体保持部100の形状の他の具体例を例示する模式図である。
【図23】ベッドと車いすとの間で移乗する場合を例示した模式図である。
【図24】浴槽と車いすとの間で移乗する場合を例示した模式図である。
【符号の説明】
【0058】
100 身体保持部、100C 回動軸、100L 中心線、110 レバー、112 支点、114 押しボタン、116 付勢手段、118 ロックピン、130 ストッパ、140 ストッパ、150 連結部、180 握り手、200 アーム部、210 固定部、210 連結部、220 連結部、222 ブラケット、224 フック、230 支持体、240 回動支持部、244 フランジ、246 ロック孔、248 突起、600 腰掛便器、600L 中心線、700 ベッド、720 浴槽、802 壁面、804 壁面、900 使用者、900G 重心、900S 支持基底面、904 両足、910 車いす

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部材に固定されるアーム部と、
略鉛直方向の回動軸を中心として前記アーム部に対して回動可能に支持された身体保持部と、
を備え、
前記回動軸は、前記身体保持部の略中央に設けられ、
使用者が前記回動軸を挟んで両手を前記身体保持部についた状態で前記回動軸を中心として身体の向きを変えることが可能とされたことを特徴とする手すり装置。
【請求項2】
前記回動軸を中心とした前記身体保持部の回動運動に対して抵抗を付与する抵抗付与手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1記載の手すり装置。
【請求項3】
前記回動軸を中心とした前記身体保持部の回動を阻止する回動ロック機構をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の手すり装置。
【請求項4】
前記身体保持部の前記回動の範囲を制限するストッパ機構がさらに設けられたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の手すり装置。
【請求項5】
前記身体保持部の高さが可変とされたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の手すり装置。
【請求項6】
前記アーム部は、略水平の回動軸を中心として前記固定部材に対して回動可能とされたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の手すり装置。
【請求項7】
前記アーム部は、前記略水平の回動軸を中心として上方に回動させた状態において固定されるロック機構を有することを特徴とする請求項6記載の手すり装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2009−299430(P2009−299430A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158480(P2008−158480)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「人間支援型ロボット実用化基盤技術開発介護動作支援ロボット及び実用化技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】