説明

投与方法提案装置

【課題】がんのタイプに応じて抗がん剤の投与方法を提案する装置はなかった。
【解決手段】投与方法提案装置100は、がん患者のがんのタイプの入力を受け付ける入力部101と、入力されたがんのタイプに応じて、FEC(F:5-フルオロウラシル、E:エピルビシン、C:シクロホスファミド)投与サイクルと、ドセタキセル投与サイクルとの投与順序を判定する投与手順判定部102と、投与手順判定部102の判定結果である、FEC投与サイクルとドセタキセル投与サイクルとの投与順序を表示する表示部103とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
手術可能な乳がんの術前化学療法試験で実施される投薬方法を提案する投与方法提案装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、早期がん患者に対する薬剤の投与手順を入力すると、それに対するpCR(病理学的完全奏効:Pathological Complete Remission)の割合を表示するソフトウェアがオンライン上で提供されている(非特許文献1参照)。pCRとは、がんがほとんど消えた状態を意味する。
【0003】
しかし、このソフトウェアでは、がんのタイプに応じた薬剤の投与方法などの提案は行われていない。例えば、乳がんの場合、がん細胞に含まれるたんぱく質の量などにより、がんのタイプが大きく分けて4つのタイプに分類される。これらのがんは、タイプに応じて、同じ薬剤の投与に対しても異なる反応を示す。
【0004】
図5は、従来の手術可能な原発性乳がんを対象とした術前化学療法における薬剤投与方法を示す図である。同図に示すように、従来では、術前6ヶ月からFEC(F:5-フルオロウラシル 500mg/m(2)、E:エピルビシン 100mg/m(2)、C:シクロホスファミド 500mg/m(2))を3週おきに4回投与するサイクル(A)の後、ドセタキセルを3週おきに4回投与するサイクル(B)を連続して行うレジメン(以下、「JBCRG(Japan Breast Cancer Research Group)01試験」という。)が一般的に用いられている。
【0005】
これに対し、乳がんの場合、上記のように、ER(エストロゲンレセプタ:Estrogen Recepter)陽性/陰性とHer2(ヒト上皮増殖因子受容体:Human Epidermal growth factor Receptor−2)陽性/陰性との組合せで分類される4つのがんタイプがあり、それぞれのタイプで、上記JBCRG01試験に対するpCRの値が異なる。以下、陽性を「+」で表し、陰性を「−」で表す。例えば、上記JBCRG01試験ではER/Her2が(−/+)の場合に対して高いpCRを示し、ER/Her2が(+/+)の場合に、低いpCRを示すという結果が得られている。
【0006】
しかしながら、JBCRG01試験でpCRが低いER/Her2(+/+)のタイプでも、ER/Her2(+/−)のタイプでも、術前化学療法以外にホルモン療法あるいは放射線療法などの有効な治療法がある。これに対し、ER/Her2が(−/−)のタイプでは、未だに有効な治療法が見つかっていないという問題がある。
【非特許文献1】Adjuvant! Online; Decision making tools for health care professionals(http://www.adjuvantonline.com/index.jsp)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、がんのタイプに応じて、よりpCRが向上する可能性が高い投薬方法を提案する投与方法提案装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の投与方法提案装置は、上記目的を達成するために、がん患者のがんのタイプの入力を受け付ける入力手段と、入力されたがんのタイプに応じて、FEC(F:5-フルオロウラシル、E:エピルビシン、C:シクロホスファミド)投与サイクルと、ドセタキセル投与サイクルとの投与順序を判定する判定手段と、前記判定手段の判定結果に従って、前記FEC投与サイクルと前記ドセタキセル投与サイクルとの投与順序を表示する表示手段とを備える。これにより、本発明の投与方法提案装置は、がん患者のがんのタイプに応じて、より有効な抗がん剤の投与方法を提案することができる。
【0009】
また、本発明の投与方法提案装置は、前記判定手段は、入力されたがんのタイプが、「エストロゲンホルモン受容体が陰性、かつ、Her2(ヒト上皮増殖因子受容体:Human Epidermal growth factor Receptor−2)が陰性」である場合に、ドセタキセル投与サイクルをFEC投与サイクルに先だって行うと判定するとしてもよい。
【0010】
なお、本発明は、装置として実現できるだけでなく、その装置を構成する処理手段をステップとする方法として実現したり、それらステップをコンピュータに実行させるプログラムとして実現したり、そのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能なCD−ROMなどの記録媒体として実現したり、そのプログラムを示す情報、データ又は信号として実現したりすることもできる。そして、それらプログラム、情報、データ及び信号は、インターネット等の通信ネットワークを介して配信してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の投与方法提案装置によれば、がんのタイプを入力することにより、入力されたがんのタイプに対して、より有効な薬剤の投与手順を示すレジメンを提案することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の投与方法提案装置について詳細に説明する。
【0013】
(実施の形態)
図1は、本発明の投与方法提案装置の外観の一例を示す図である。本発明の投与方法提案装置は、がんのタイプを入力することによって、入力されたがんのタイプに対して、より有効な薬剤とその投与手順とを示すレジメンを提案する投与方法提案装置である。
【0014】
同図に示すように、本発明の投与方法提案装置は、典型的には、汎用コンピュータあるいはパーソナルコンピュータなどによって実現される。投与方法提案装置は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びI/Oポートなどを備える。言い換えると、この投与方法提案装置は、CPUが、ROMまたはRAMなどに記憶されている投与方法提案プログラムを、これらのメモリから読み出し、ロードして実行することにより実現される。I/Oポートは、キーボード、マウス、USBメモリなどを介して、外部からのデータの入力を受け付ける。
【0015】
図2は、本発明の投与方法提案装置100の構成を示すブロック図である。同図に示すように、投与方法提案装置100は、入力部101、投与手順判定部102、表示部103及び表示制御部104を備える。入力部101は、操作者の入力を受け付けるマウス、キーボードなどであり、例えば、患者の氏名、年齢、性別、病名および症状などとともに、がんのタイプなどの患者に関するデータの入力を受け付ける。投与手順判定部102は、入力部101で受け付けられたがんの病名およびがんのタイプなどに応じて薬剤の投与手順を判定する。表示部103は、プラズマディスプレイ及び液晶ディスプレイなどのモニタであり、表示制御部104によって生成される表示画像を表示する。表示制御部104は、操作者に入力を促すためのメニュー画面および投与手順判定部102によって判定された薬剤の投与手順をなどを表す表示画像を生成し、表示部103に表示させる。
【0016】
図3は、FEC投与サイクルとドセタキセル投与サイクルの投与順序を逆転した場合のpCR変化の一例を示す図である。
【0017】
図3の表の最上段は、乳がんのタイプを表すER陽性/陰性とHer2陽性/陰性との組合せを示している。左から、ER/Her2が、(+/+)、(+/−)、(−/+)、(−/−)を示している。
【0018】
また、図3の中段のA→Bの例は、200例の患者を対象とし、図5に示したJBCRG01試験の術前化学療法を行った場合の、がんタイプごとのpCRを示している。この場合、ER/Her2が(+/+)のときpCRが10%であり、(+/−)のときは30〜35%、(−/+)のときは60%以上であり、(−/−)のときは35%以上であることが治験の結果として得られている。
【0019】
さらに、図3の下段のB→Aの例は、130例の患者を対象とし、図5に示したJBCRG01試験とはFEC投与サイクルとドセタキセル投与サイクルの投与順序を逆転した場合のがんタイプごとのpCRを示している。以下、このレジメンを「JBCRG03試験」という。この場合、ER/Her2が(−/−)のとき、pCRが60%以上となり、顕著な変化を見せている。
【0020】
従来、ER/Her2が、(+/+)、(+/−)、および(−/+)の場合、術前化学療法以外にも有効な治療法があったが、ER/Her2が(−/−)の場合については有効な治療法がなく、ER/Her2が(−/−)に対してpCRを60%以上に向上できたことは特段の効果を示すものであるといえる。
【0021】
図4は、本願発明の投与方法提案装置の動作を示すフローチャートである。
まず、入力部101は、操作者から、ER/Her2などのがんのタイプを示す患者データの入力を受け付ける(S401)。投与手順判定部102は、入力されたがんのタイプER/Her2が(−/−)か否かを判定し(S402)、(−/−)であればFECおよびドセタキセルの投与サイクルがB→AとなるJBCRG03試験が好ましいレジメンであると判定する(S403)。入力されたがんのタイプER/Her2が(−/−)でなければ、FEC及びドセタキセルの投与サイクルがA→BとなるJBCRG01試験が好ましいレジメンであると判定する(S404)。表示制御部104は、投与手順判定部102の判定結果であり、入力されたがんのタイプに、より有効なレジメンを示すFECおよびドセタキセルの投与手順を表示するための表示画像を生成する。表示部103は、表示制御部104によって生成された表示画像を表示する(S405)。
【0022】
以上のように、本発明によれば、ER/Her2などで表されるがんのタイプを入力することによって、JBCRG01試験とJBCRG03試験とのように、薬剤の投与手順が逆であり、しかも、がんのそれぞれのタイプに対して最も有効なレジメンを提案することができるという効果がある。
【0023】
なお、上記治験の対象となった患者は60才以下のみであり、60才を超える患者については結果が不明である。
【0024】
また、上記実施の形態では、FEC投与サイクルとドセタキセル投与サイクルの投与順序を逆転した場合についてのみ説明したが、本発明はこれに限定されず、あらゆるがんに対するレジメンについて臨床試験結果を収集し、それらに応用することも可能である。
【0025】
さらに、上記実施の形態では、FECの投与サイクルを3週おきに4回、ドセタキセルを3週おきに4回投与するサイクルを例として説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、FECの投与サイクルを3週おきに3回、ドセタキセルを3週おきに3回投与するサイクルを用いてもよい。
【0026】
また、上記実施の形態では、FECの投与サイクルとドセタキセルの投与サイクルとの2つの投与サイクルの順序を入れ替える場合についてのみ説明したが、本発明はこれに限定されず、複数のレジメンで示される投与サイクルの連続投与の順序を、がんのタイプに応じて変更し、提案するとしてもよい。
【0027】
さらに、FEC投与サイクルとドセタキセル投与サイクルとのうち、先行して行われた投与サイクルの後、pCR検査を行うことにより、実施されたレジメンの適否をより精度よく判定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、投与方法提案装置に適用でき、特に乳がんの術前化学療法における抗がん剤投与方法提案装置等に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本願発明の投与方法提案装置の外観の一例を示す図である。
【図2】図2は、本願発明の投与方法提案装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、FEC投与サイクルとドセタキセル投与サイクルの投与順序を逆転した場合のpCR変化の一例を示す図である。
【図4】図4は、本願発明の投与方法提案装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】図5は、従来のFEC投与サイクル及びドセタキセル投与サイクルの投与例を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
100 投与方法提案装置
101 入力部
102 投与手順判定部
103 表示部
104 表示制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
がん患者のがんのタイプの入力を受け付ける入力手段と、
入力されたがんのタイプに応じて、FEC(F:5-フルオロウラシル、E:エピルビシン、C:シクロホスファミド)投与サイクルと、ドセタキセル投与サイクルとの投与順序を判定する判定手段と、
前記判定手段の判定結果に従って、前記FEC投与サイクルと前記ドセタキセル投与サイクルとの投与順序を表示する表示手段と
を備えることを特徴とする投与方法提案装置。
【請求項2】
前記判定手段は、入力されたがんのタイプが、「エストロゲンホルモン受容体が陰性、かつ、Her2(ヒト上皮増殖因子受容体:Human Epidermal growth factor Receptor−2)が陰性」である場合に、ドセタキセル投与サイクルをFEC投与サイクルに先だって行うと判定する
ことを特徴とする請求項1記載の投与方法提案装置。
【請求項3】
入力手段が、がん患者のがんのタイプの入力を受け付け、
判定手段が、入力されたがんのタイプに応じて、FEC(F:5-フルオロウラシル、E:エピルビシン、C:シクロホスファミド)投与サイクルと、ドセタキセル投与サイクルとの投与順序を判定し、
表示手段が、前記判定結果に従って、前記FEC投与サイクルと前記ドセタキセル投与サイクルとの投与順序を表示する
ことを特徴とする投与方法提案方法。
【請求項4】
投与方法提案装置のためのプログラムであって、
コンピュータを、がん患者のがんのタイプの入力を受け付ける入力手段と、入力されたがんのタイプに応じて、FEC(F:5-フルオロウラシル、E:エピルビシン、C:シクロホスファミド)投与サイクルと、ドセタキセル投与サイクルとの投与順序を判定する判定手段と、前記判定手段の判定結果に従って、前記FEC投与サイクルと前記ドセタキセル投与サイクルとの投与順序を表示する表示手段として機能させるプログラム。
【請求項5】
がんのタイプが、「エストロゲンホルモン受容体が陰性、かつ、Her2(ヒト上皮増殖因子受容体:Human Epidermal growth factor Receptor-2)が陰性」である場合に、ドセタキセル投与サイクルを、FEC(F:5-フルオロウラシル、E:エピルビシン、C:シクロホスファミド)投与サイクルに先だって行う
ことを特徴とする投与方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−118449(P2011−118449A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81723(P2008−81723)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(508092392)有限責任中間法人JBCRG (1)
【Fターム(参考)】