説明

投射型画像表示システム

【課題】 黒表示においても輝度変化が視認されないマルチスクリーン画面を構成可能な投射型画像表示システムを提供する。
【解決手段】 複数の投射型画像表示装置を用いてマルチスクリーン画面を構成する投射型画像表示システムにおいて、隣接する投射型画像表示装置から投射される有効画像同士が重複する第1の領域以外の第2の領域を、少なくとも2つの領域に分割する。そして、分割された領域毎に、第1の領域の輝度に適合するよう、輝度のオフセット値を当該分割された画像信号に加算することでその画像信号を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の投射型画像表示装置を用いてマルチスクリーン画面を構成する投射型画像表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の投射型画像表示装置を用いてマルチスクリーンを構成する場合、隣接する投射型画像表示装置毎に画像の重複領域を設け、その重複領域の画像信号に対して輝度補正を行うことで継目を目立たなくしている。また、その重複領域を所定の幅とすることにより、投射型画像表示装置毎に輝度や色味などの特性が若干異なっていても、視認されにくくしている。
【0003】
ここで、投射型画像表示装置は、透過型では透過光を、反射型では反射光を完全に遮断することができないため、黒表示でも微小な輝度を持つ。従って、マルチスクリーン構成における黒表示では、有効画像の重複領域の輝度が有効画像の重複領域外の輝度より高くなってしまい継目が視認されてしまう。
【0004】
特許文献1には、隣接する投射型画像表示装置毎の有効画像の重複領域と有効画像の重複領域外とを独立に調整する技術が開示されている。また、特許文献2には、マルチスクリーンを構成した際の輝度分布に応じて、画像信号にオフセット値を加算する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−268625号公報
【特許文献2】特開2003−274319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば、反射型表示デバイスは構造上、有効画像領域の外側に素子の駆動回路があり、この駆動回路からの不要な反射光を無くすために黒表示と同等反射となるダミー画素を持つ。また、有効画像領域外への照明光を遮断するため遮光マスクを備える。遮光マスクは、ダミー画素を含め有効画像領域外を全て遮光するのが理想であるが、実際にはダミー画素部分は完全に遮光できない。この遮光できない部分のダミー画素が、有効画像領域の外周に所定の幅あり、有効画像領域の黒表示と同程度の反射光(周縁反射光)となる。また、遮光マスクにおいても微小ながら反射光(マスク反射光)がある。従って、反射型の投射型画像表示装置を複数用いてマルチスクリーンを構成する場合、これらの反射光が有効画像領域に重畳されることとなる。
【0007】
また、例えば、キーストン補正を併用する場合、補正後の有効画像領域外に黒表示領域が生じ、この黒表示領域が隣接する投射型画像表示装置の有効画像領域に重複されることとなる。
【0008】
しかし、特許文献1に開示された技術では、隣接する投射型画像表示装置毎の画像重複領域と画像重複領域外とで領域の判断を行っている。そのため、反射型の投射型表示装置を利用した場合、画像重複領域外にある周縁反射光やマスク反射光に対する領域判断ができない。キーストン補正を併用した場合も同様に、キーストン補正後の黒表示領域に対する領域判断ができない。従って、これらの領域が重複されることによる輝度変化に対する補正ができないという課題がある。
【0009】
一方、特許文献2に開示された技術では、反射型の投射型画像表示装置を利用した場合の周縁反射光やマスク反射光、あるいは、キーストン補正を併用した場合の黒表示領域を含めて、マルチスクリーン構成における輝度分布として補正が可能である。しかし、投射型画像表示装置はこれらの領域を判断する手段を持たないため、簡易に補正を行えないという課題がある。
【0010】
本発明は、黒表示においても輝度変化が視認されないマルチスクリーン画面を構成可能な投射型画像表示システムを提供する。また、本発明は、例えば、有効画像の重複領域外にある周縁反射光やマスク反射光、あるいはキーストン補正を併用した場合でも、黒表示領域の判断を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面によれば、複数の投射型画像表示装置を用いてマルチスクリーン画面を構成する投射型画像表示システムであって、隣接する投射型画像表示装置から投射される有効画像同士が重複する第1の領域以外の第2の領域を、少なくとも2つの領域に分割する分割手段と、前記分割手段により分割された領域毎に、前記第1の領域の輝度に適合するよう、輝度のオフセット値を画像信号に加算することで該画像信号を補正する補正手段とを備えることを特徴とする投射型画像表示システムが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数の投射型画像表示装置を用いて構成されるマルチスクリーン画面において、有効画像の重複領域外にある周縁反射光やマスク反射光、あるいは黒表示領域を考慮した黒表示の補正を簡易に行うことができる。そのため、黒表示においても画面の一体感を損なうことのないマルチスクリーン画面を構成可能な投射型画像表示システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態における投射型画像表示装置の概略ブロック図。
【図2】投射型画像表示装置を横に2台並べた場合の説明図。
【図3】投射型画像表示装置を横に2台並べ、キーストン補正を適用した場合の説明図。
【図4】投射型画像表示装置を縦横にそれぞれ2台並べた場合の説明図。
【図5】実施形態における投射型画像表示装置の構成を示すブロック図。
【図6】実施形態における投射型画像表示装置の制御手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の実施に有利な具体例を示すにすぎない。また、以下の実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の課題解決のために必須のものであるとは限らない。
【0015】
本実施形態における投射型画像表示システムは、複数の投射型画像表示装置を含み、これらの投射型画像表示装置を用いて、マルチスクリーン画面を構成するものである。図1は、上記複数の投射型画像表示装置のうちの1つについての概略ブロックの一例を示す。この投射型画像表示装置は、画像重複部補正回路100、黒表示補正回路200、ライトバルブ駆動部300、ライトバルブ400を備える。
【0016】
複数の投射型画像表示装置を用いてマルチスクリーン画面を構成する場合、隣接する投射型画像表示装置毎に重複する画像領域を設ける。画像重複部補正回路100は、重複領域の画像信号に対して輝度補正を行うことで継目を目立たなくするものである。画像重複部補正回路100は、補正タイミング生成回路110、補正係数生成回路120、乗算器130を含む。
【0017】
補正タイミング生成回路110は、同期信号から画像重複領域における画素位置を生成する。補正係数生成回路120は、補正タイミング生成回路110で生成された画素位置を基に画像重複領域における補正係数を生成する。乗算器130は、補正係数生成回路120で生成された補正係数を入力画像信号に乗じて、これにより輝度補正された画像信号を出力する。
【0018】
黒表示補正回路200は、座標指定部210、オフセット付加タイミング生成回路220、オフセット値生成回路230、加算器240を含む。座標指定部210は、画像の領域分割を行う際に、領域の境界を表す座標値を指定する。境界の指定は、例えば、少なくとも2つの座標を指定することで行われる。領域は、その指定された座標を結ぶ直線で分割される。オフセット付加タイミング生成回路220は、座標指定部210で指定された座標と同期信号とから輝度値のオフセットを付加するタイミングを生成する。オフセット値生成回路230は、オフセット付加タイミング生成回路220で生成されたオフセット付加タイミングに合わせて、分割された領域毎の輝度のオフセット値を生成する。加算器240は、オフセット値生成回路230で生成されたオフセット値を画像重複部補正回路100で輝度補正された画像信号に加算する。このようにして、黒表示補正回路200は、黒表示における輝度が均一になるよう補正する。
【0019】
画像重複部補正回路100で画像重複領域の輝度補正が行われ、かつ、黒表示補正回路200で黒表示補正が行われた画像信号は、ライトバルブ駆動部300、ライトバルブ400を介して投射される。
【0020】
次に、黒表示補正回路200の動作について具体的に説明する。
図2(A)は反射型の投射型画像表示装置を横に2台並べた場合の投射画像を示す。なお、左側投射画像は破線で示す。図2(A)において、1000は有効画像領域である。1100は反射型表示デバイスにおいて有効画像領域の外周に存在する反射光の重複領域(周縁反射重複領域)である。1200は表示デバイスへの照明光を遮断するための遮光マスクにおける反射光の重複領域(マスク反射重複領域)である。破線で示す左側の投射画像においても、有効画像領域の外側に同様の反射光領域が存在し、右側の投射画像における有効画像領域に重複して投射される。これらの領域を(1)〜(4)で示す。(1)は有効画像同士が重複する第1の領域である。一方、(2)〜(4)は有効画像同士が重複する第1の領域以外の第2の領域である。第2の領域は、具体的には、(2)の周縁反射重複領域、(3)のマスク反射重複領域、(4)の非重複領域に分けることができる。
【0021】
図2(B)は、図2(A)の投射画像の黒表示における輝度断面例を示す図である。図に示す通り、領域(1)が最も輝度が高く、次いで(2)→(3)→(4)と輝度が低下する。黒表示における補正では、これらの領域を独立に指定し補正する必要がある。
【0022】
図2(C)は、座標指定部210での座標指定例を示す。図2の例では、有効画像領域に上述した如く4つの輝度領域が存在する。従って、座標指定部210では、P10(x1,0)−P11(x1,ymax)、P20(x2,0)−P21(x2,ymax)、P30(x3,0−P31(x3,ymax)の6つの座標値をそれぞれ対で指定する。これにより指定された座標値によって規定される境界で画像が分割されることになる。指定方法は特に限定するものではないが、例えばマーカーを表示しそのマーカーを移動させるなどの方法をとることができる。この例では、それぞれ対で指定する座標を結ぶ直線のx座標は同一である。従って、画面左上を座標の原点として、x<x1,x1≦x<x2、x2≦x<x3、x3≦xのタイミングをオフセット付加タイミング生成回路220で生成する。
【0023】
そして、オフセット値生成回路230は、分割された領域毎に、例えば図2(D)で示すように、(1)の領域の輝度に適合するようなオフセット値を生成し、加算器240で当該分割された領域の画像信号に加算する。ところで、領域(1)〜(4)の輝度は急峻に変化するものではないため、領域毎に一様なオフセット値とした場合、領域の境界が視認される可能性がある。そこで、例えば、図2(E)で示すように、領域(1)に離れるに従い徐々に大きくなるオフセット値を生成するようにしてもよい。具体的には例えば、領域を分割する線分から離れるに従って徐々に隣接する領域のオフセット値と等しくなるような補正値をオフセット値生成回路230で生成するようにしてもよい。
【0024】
図3は、反射型の投射型画像表示装置を横に2台並べ、キーストン補正を適用した場合の投射される画像を示す。図3(A)において、1000は有効画像領域、1001はキーストン補正適用による黒表示領域、1100は反射型表示デバイスにおいて有効画像領域の外周に存在する反射光(周縁反射光)領域である。なお、ここでは、説明を簡略化するため、図2で示した、マスク反射重複領域はないものとする。また、(1)は有効画像の重複領域、(1)’はキーストン補正適用による黒表示の重複領域、(2)は周縁反射重複領域、そして(3)は非重複領域である。ここで、領域(1)と領域(1)’は、いずれも左側画像の黒表示が重複される領域であるため同じ輝度となる。
【0025】
図3(B)は、座標指定部210での座標指定例を示し、P10(x10,0)−P11(x11,ymax)、P20(x20,0)−P21(x21,ymax)の4つの座標をそれぞれ対で指定する。この例では、水平方向(x座標)のみの分割であり、画面左上を座標の原点として水平位置をx1、x2、垂直位置をyとすると以下の式でそれぞれの領域に分割することができる。
x1=x10+{(x11−x10)/ymax}×y、
x2=x20+{(x21−x20)/ymax}×y
従って、x<x1,x1≦x<x2、x2≦xのタイミングをオフセット付加タイミング生成回路220で生成する。そして、それぞれの座標で分割される領域に対して個別のオフセット値をオフセット値生成回路230で生成し、加算器240で画像信号に加算する。
【0026】
図4(A)は、反射型の投射型画像表示装置を縦横にそれぞれ2台並べた場合の投射画像を示す。なお、着目投射画像以外は破線で示す。ここで、それぞれの投射画像には周縁反射光領域があるものとしている。この場合、着目投射画像には、領域(1)〜(9)が生じる。(1)は有効画像の4面重複領域、(2)は有効画像の2面重複領域+周縁反射重複領域、(3)は有効画像の2面重複領域、(4)は有効画像の2面重複領域+2面周縁反射重複領域である。さらに、(5)は2面周縁反射重複領域、(6)は周縁反射重複領域、(7)は有効画像の2面重複領域、(8)は周縁反射重複領域、そして(9)は非重複領域である。
【0027】
図4(B)は、座標指定部210での座標指定例を示す。図4の例では、有効画像領域に上述した如く9つの輝度領域が存在する。座標指定部210では、水平方向の領域分割として、Px10(x1,0)−Px11(x1,ymax)、Px20(x2,0)−Px21(x2,ymax)の4つの座標をそれぞれ対で指定する。また、垂直方向の領域分割として、Py10(0,y1)−Py11(xmax,y1)、Py20(0,y2)−Px21(xmax,y2)の4つの座標をそれぞれ対で指定する。
【0028】
この例では、それぞれ対で指定する座標を結ぶ直線のx座標及びy座標は同一である。従って、画面左上を座標の原点として、x<x1,x1≦x<x2、x2≦x<x3、x3≦x、及び、y<y1,y1≦y<y2、y2≦y<y3、y3≦yの9つの組み合わせでそれぞれの領域を指定可能である。これら9つのタイミングをオフセット付加タイミング生成回路220で生成する。そして、それぞれの座標で分割される領域に対して、個別のオフセット値をオフセット値生成回路230で生成し、加算器240で画像信号に加算する。
【0029】
本実施形態によれば、有効画像の重複領域外に重複される周縁反射光やマスク反射光、あるいはキーストン補正併用時の黒表示領域を考慮して、個別の領域指定が可能である。また、個別に指定した領域毎に独立してオフセットを付加することが可能となる。これにより、黒表示でも継目が目立たず画面の一体感を損なうことのないマルチスクリーン画面を提供することが可能となる。
【0030】
上述した実施形態において、投射型画像表示装置の各機能は専用回路によって構成されてもよいし、図5に示すように、コンピュータで制御される構成をとってもよい。図5の例では、画像重複部補正回路100、黒表示補正回路200、ライトバルブ駆動部300はそれぞれ、CPU500により制御される。CPU500には、主記憶装置として機能するRAM600、固定的なデータやプログラムを記憶しているROM700も接続されている。ROM700は、制御プログラム710を含み、CPU500がこの制御プログラム710を実行することにより上述したような制御処理が実現される。すなわち、CPU500は、図6のフローチャートに示すように、座標指定部210で指定された座標値に基づき領域を分割し(S10)、分割された領域毎に、オフセット値を画像信号に加算することで画像信号を補正する(S20)。
【0031】
(他の実施形態)
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。この場合、そのプログラム、及び該プログラムを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の投射型画像表示装置を用いてマルチスクリーン画面を構成する投射型画像表示システムであって、
隣接する投射型画像表示装置から投射される有効画像同士が重複する第1の領域以外の第2の領域を、少なくとも2つの領域に分割する分割手段と、
前記分割手段により分割された領域毎に、前記第1の領域の輝度に適合するよう、輝度のオフセット値を当該分割された領域の画像信号に加算することで該画像信号を補正する補正手段と、
を備えることを特徴とする投射型画像表示システム。
【請求項2】
領域が分割される境界を表す座標値を指定する座標指定手段を更に有し、
前記分割手段は、前記座標指定手段により指定された座標値により規定される境界で前記第2の領域を分割することを特徴とする請求項1に記載の投射型画像表示システム。
【請求項3】
前記補正手段は、前記分割手段により分割された領域毎に、一様なオフセット値を生成することを特徴とする請求項1又は2に記載の投射型画像表示システム。
【請求項4】
前記補正手段は、前記分割手段により分割された領域毎に、前記第1の領域から離れるに従い徐々に大きくなるオフセット値を生成することを特徴とする請求項1又は2に記載の投射型画像表示システム。
【請求項5】
複数の投射型画像表示装置を用いてマルチスクリーン画面を構成する投射型画像表示システムの制御方法であって、
分割手段が、隣接する投射型画像表示装置から投射される有効画像同士が重複する第1の領域以外の第2の領域を、少なくとも2つの領域に分割する分割ステップと、
補正手段が、前記分割ステップで分割された領域毎に、前記第1の領域の輝度に適合するよう、輝度のオフセット値を当該分割された領域の画像信号に加算することで該画像信号を補正する補正ステップと、
を有することを特徴とする投射型画像表示システムの制御方法。
【請求項6】
コンピュータに、請求項5に記載の制御方法の各ステップを実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−234072(P2012−234072A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103226(P2011−103226)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】