説明

投影装置

【課題】小型化および薄型化を担保しつつも諸収差を抑えるために必要な光学部材を配設することができる投影装置を提供すること。
【解決手段】投影装置は、画像を生成しスクリーンに向かって投射する投影光学システムと、投影光学システムから照射された光束を、投影装置の奥行き方向においてスクリーンから遠ざかる方向に偏向する第一の偏向手段と、第一の偏向手段により偏向された光束を、収差補正しつつ投影装置の天板面に向かうように偏向する第二の偏向手段と、天板面に沿って配設され、第二の偏向手段により偏向された光束をスクリーンに向かうように偏向する第三の偏向手段と、を有し、通常使用状態における投影装置のスクリーン中心を通り鉛直方向に延びる直線を含みスクリーンに垂直な平面による断面において、第二の偏向手段で反射した光束のうちスクリーン最下部に入射する最下部入射光線の光路が、スクリーンに対して略平行であるような構成にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、表示体の表示画像をスクリーン上に斜めに投影する斜め投影型の投影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表示体の表示画像を台形歪みを生じることなくスクリーン上に斜めに投影する斜め投影型の投影装置が知られている。このような斜め投影型の投影装置は、例えば、スクリーン背後から表示画像を投影し、該画像をスクリーン正面から観察することができるいわゆるリアプロジェクターとして好適な構成とされる。なお、本明細書において単に投影装置と記した場合には、斜め投影型の投影装置を指すものとする。
【0003】
一般に投影装置は、投影画像を生成する投影光学系と、投影光学系から照射された光束を偏向してスクリーンに導くミラーとを有している。該ミラーは、装置内部において、スクリーン(装置正面)に対向する位置、つまり装置背面側に設置することも可能である。しかし、装置背面側にミラーを配設した場合、スクリーンを介して装置外部から入射した光が該ミラーで反射して迷光成分となるおそれがある。そこで、該迷光成分の発生を回避するため、装置の天板側換言すればスクリーンに投影された画像の上方側に上記ミラーを配設することが提案されている。このような投影装置は、例えば、以下の特許文献1に記載される。
【0004】
【特許文献1】特開2005−43681号公報
【0005】
ここで、投影装置では歪曲収差等の諸収差を適正に補正する必要がある。既存の投影光学系を使用しつつも上記の諸収差を良好に補正するためには、投影光学系からスクリーンまでの光路中に非球面ミラーを配設することが好ましい。しかし、特許文献1に記載の従来の投影装置では、さらなる構成部材を配設する空間的余裕がない。より詳しくは、さらなる構成部材を追加しようとすると、他の構成部材の配置の妨げになったり、複数回折り曲げられる光路中に構成部材が進入してしまう。そのため、必然的に装置全体を大型化せざるを得なかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は上記の事情に鑑み、小型化および薄型化を担保しつつも諸収差を抑えるために必要な光学部材を配設することができる投影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1に記載の投影装置は、スクリーンの背面側に画像を斜めに投影する投影装置において、画像を生成しスクリーンに向かって光束を投射する投影光学システムと、投影光学システムから照射された光束を、投影装置の奥行き方向においてスクリーンから遠ざかる方向に偏向する第一の偏向手段と、第一の偏向手段により偏向された光束を、収差補正しつつ投影装置の天板面に向かうように偏向する第二の偏向手段と、天板面に沿って配設され、第二の偏向手段により偏向された光束をスクリーンに向かうように偏向する第三の偏向手段と、を有し、通常使用状態における投影装置のスクリーン中心を通り鉛直方向に延びる直線を含む断面において、上記光束のうちスクリーン最下部に入射する最下部入射光線の、第二の偏向手段と第三の偏向手段間における光路が、スクリーンに対して略平行であることを特徴とする。
【0008】
なお、本文においては、投影装置を説明するにあたり、便宜上、該投影装置を接地面が地面に水平となるように設置した状態(通常使用状態)を基準として各方向を説明する。
【0009】
請求項1に記載のように各部材を配置構成することにより、歪曲収差をはじめとする諸収差を補正しつつも装置全体の小型化や薄型化が保証された投影装置が提供される。
【0010】
また請求項2に記載の投影装置によれば、スクリーンに入射した最下部入射光線と該スクリーンとがなす角度(単位:deg)をθとすると、スクリーンの垂線と第三の偏向手段がなす角度(単位:deg)は(θ/2)±1であることが望ましい。
【0011】
より具体的には、請求項3に記載の投影装置によれば、第一の偏向手段は、上記断面において、スクリーンと第二の偏向手段の間に配設されている。
【0012】
請求項4に記載の投影装置によれば、上記断面において、以下の条件を満たすことが望ましい。
【数3】

ただし、iは、光束のうちスクリーン最上部に入射する最上部入射光線に関し、投影光学システムの射出瞳から第三の偏向手段までの光路長(単位:mm)、
mは、最下部入射光線に関し、投影光学システムの射出瞳から第三の偏向手段までの光路長(単位:mm)、
ωは、スクリーンに入射した最上部入射光線と該スクリーンとがなす角度、および、スクリーンに入射した最下部入射光線と該スクリーンとがなす角度、の角度差(単位:deg)、
hは、スクリーンの高さ(単位:mm)、をそれぞれ表す。
【0013】
上記条件を満たすことにより、投影装置のサイズ、特に鉛直方向のサイズを大きくすることなく、収差補正作用を持つ第二の偏向手段を好適に配設することができる。
【0014】
請求項5に記載の投影装置によれば、第一の偏向手段は、上記断面において、最上部入射光線が該第一の偏向手段に入射する位置よりも、最下部入射光線が該第一の偏向手段に入射する位置の方がスクリーンに対して遠ざかるように傾けて配設されており、第二の偏向手段は、上記断面において、最上部入射光線が該第二の偏向手段に入射する位置よりも、最下部入射光線が該第二の偏向手段に入射する位置の方がスクリーンに対して遠ざかるように傾けて配設されている。
【0015】
また、請求項6に記載の投影装置によれば、以下の条件をさらに満たすことが望ましい。
【数4】

ただし、αは、上記断面において、第二の偏向手段で反射した最下部入射光線と、第二の偏向手段とがなす角度、を表す。
【0016】
上記条件をさらに満たすことにより、第二の偏向手段から第三の偏向手段へ向かう光束中、および第三の偏向手段からスクリーンへ向かう光束中に進入することなく、かつ装置のサイズを大型化することなく第一の偏向手段を適切に配設することが可能になる。
【0017】
請求項7に記載の投影装置によれば、投影光学システムは、光源と、光源から照射される光束を用いて画像を生成する画像生成部と、画像生成部から射出された光束をスクリーンに向かって投射する投影光学系と、を有することができる。
【0018】
なお、第一および第三の偏向手段は平面ミラーとして構成することが望ましい(請求項8)。また第二の偏向手段は、非球面ミラーとして構成することが望ましい(請求項9)。
【0019】
請求項10に記載の投影装置によれば、第二の偏向手段は、第一の偏向手段を介した光束が入射する領域内において、上記断面での形状は略平面であり、スクリーンに平行な面での断面形状は凸面であることが望ましい。第二の偏向手段をこのように構成することにより、斜め投影型の投影装置で比較的発生しやすい歪曲収差を良好に補正することができる。
【0020】
請求項11に記載の投影装置によれば、第二の偏向手段は、第一の偏向手段を介した光束が入射する領域内において、上記断面での形状は略平面であり、スクリーンに平行な面での断面形状は凹面であってもよい。第二の偏向手段をこのように構成することにより、第二の偏向手段に起因する非点隔差を小さく抑えることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明に係る投影装置によれば、第二の偏向手段で反射した光束のうち最下部入射光線がスクリーンと略平行な状態で第三の偏向手段に進むように該第二の偏向手段を配設することにより、収差補正用の光学部材を備えつつも装置の小型化や薄型化を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、通常使用状態における実施形態の投影装置100の概略構成を示す断面図である。投影装置100は、ハウジング50内に、投影光学システム1、第一平面ミラー2、非球面ミラー3、第二平面ミラー4、スクリーン5を有する。
【0023】
なお図1に示すように、以下の説明では、通常使用状態における投影装置100において、スクリーンの厚み方向をX方向、スクリーン5の鉛直方向をY方向、スクリーン5の水平方向をZ方向という。また、X方向の長さを(装置あるいは各部材の)奥行、Y方向の長さを(装置あるいは各部材の)高さ、Z方向の長さを(装置あるいは各部材の)幅という。すなわち図1は、X−Y平面での断面図である。なお、図1および後に示す全ての図面は、便宜上、スクリーン5の中心を通りY方向に延びる仮想上の直線を含むX−Y平面での断面図とする。よって、特に言及しない限り、以下の説明はすべて、X−Y平面での断面において行う。
【0024】
また、説明の便宜上、スクリーン5を投影装置100の前面と定義し、スクリーン5に対向するハウジング50の面を装置背面と定義する。同様に、投影装置100が設置された状態におけるハウジング50の接地面を装置底面、底面に対向するハウジング50の面を天板面、と定義する。
【0025】
投影光学システム1は、光源11、図示しない液晶素子を含む画像生成部12、投影光学系13を有する。投影光学システム1は、装置の後方下部、つまり、装置底面および装置背面に近接して配置される。そして、投影光学システム1は、スクリーン5上方に向かって光束を照射する。なお、図示する投影光学系13は、2枚のレンズから構成されているが、これはあくまで模式的に示したに過ぎず、実際はさらに多数のレンズ等から構成される。
【0026】
投影光学システム1から照射される光束は発散しつつ第一平面ミラー2に入射する。第一平面ミラー2は、入射光束をスクリーン5から遠ざかる方向に反射して、非球面ミラー3に導く。ここで、投影光学システム1から照射される光束を直接非球面ミラー3に入射させる構成も考えられる。しかし、該構成では、装置の小型化を維持するためには、投影光学システム1と非球面ミラー3間の距離を短く設定しなければならない。そのため、非球面ミラー3の収差補正効果やスクリーン5全域に像を投影するために十分な光路長を確保することが困難となるといった問題が生じて好ましくない。本実施形態では、X方向において、第一平面ミラー2をスクリーン5と非球面ミラー3の間に配設して適切に光路を折り曲げたことにより、上記の問題を解決している。
【0027】
非球面ミラー3は、光束が入射する範囲(いわゆる有効径内)において、投影光学システム1の投影光学系13では十分に補正することができない台形歪み成分や歪曲収差等の諸収差を補正するために好適な面形状を有している。好適な面形状とは、投影光学系13でどの程度上記の諸収差が残存するかに応じて決定される。ただし、一般的に投影装置100のように斜め投影型では、たる型の歪曲収差が大きく発生する傾向がある。これを踏まえ、本実施形態の非球面ミラー3は、凸面鏡(後述の図3に示す符号3’参照)の周縁部を一部切り出した形状を有する。つまり非球面ミラー3は、X−Y平面での断面では略平面、X−Y平面に直交しかつY方向に平行な面(つまり、スクリーン5に平行なY−Z平面)では光束が入射してくる方向に向かって凸となる断面形状を呈する。非球面ミラー3は、入射光束を装置上方、つまり天板面に向かって反射する。なお、各ミラー2、3の配置構成については、後に詳述する。
【0028】
装置天板面には第二平面ミラー4が配設されている。第二平面ミラー4は、X−Z平面に対して所定量傾けられた状態でハウジング50(装置天板)に取り付けられている。そして第二平面ミラー4は、入射光束を反射してスクリーン5に導く。第二平面ミラー4で反射した光束は、スクリーン5の背面側に像を結ぶ。ユーザは、スクリーン5を正面、つまり図1紙面における左側からスクリーン5を臨むことによって該像を観察することができる。
【0029】
次に、本発明の主たる特徴の一つである、第一平面ミラー2と非球面ミラー3の装置内部における配置構成について詳述する。図2は、投影装置100の小型化、薄型化を担保することができる各ミラー2、3の好適な配置を説明するための説明図であって、投影光学システム1から照射された光束の光路の一部を展開して示す図である。図3は、図2と同様の説明図であって、該光束の光路を全て展開して示す図である。既述の図1を含め各図において、投影光学システム1から照射された光束のうち、最終的にスクリーン5最下部に入射することになる光線(最下部入射光線という。)を一点鎖線で示す。また、該光束のうち、最終的にスクリーン5最上部に入射することになる光線(最上部入射光線という。)を破線で示す。
【0030】
図2、図3に示す各記号は以下のように定義される。
A…スクリーン5の最下部。
B…スクリーン5の最上部。
C…第二平面ミラー4における最もスクリーンに近い端部。該端部は、第二平面ミラー4における最上部入射光線の入射位置に相当する。
D…第二平面ミラー4における最もスクリーンから遠い端部。該端部は、第二平面ミラー4における最下部入射光線の入射位置に相当する。
E…点Bから延ばしたスクリーン5に対する垂線と、非球面ミラー3で反射して第二平面ミラー4に入射する最下部入射光線の光路および該光路を延長した線との交点。
F…点Aから延ばしたスクリーン5に対する垂線と、非球面ミラー3で反射して第二平面ミラー4に入射する最下部入射光線の光路および該光路を延長した線との交点。
P…各ミラー2、3を配設した場合における投影光学系13の射出瞳位置。
P’…非球面ミラー3を平面と仮定した場合における、各ミラー2、3で折り曲げられた光路を展開した際の点Pに相当する位置。
Q…非球面ミラー3における最下部入射光線の入射位置。また図3に示すように、非球面ミラー3において、投影光学系13の光軸AXから最も遠い点でもある。
R…非球面ミラー3における最上部入射光線の入射位置。また図3に示すように、非球面ミラー3において、投影光学系13の光軸AXから最も近い点でもある。なお、図3において、三角形PQRと三角形P’QRとは線分QR(非球面ミラー3)に対して線対称の関係にある。
S…第一平面ミラー2における最下部入射光線の入射位置。
T…第一平面ミラー2における最上部入射光線の入射位置。
θ…スクリーン5とスクリーンに入射した最下部入射光線がなす角度。
ω…スクリーン5とスクリーン5に入射した最上部入射光線がなす角度と、角度θとの角度差。常に正の値を採る。
α…非球面ミラー3と、非球面ミラー3に入射する最下部入射光線がなす角度。
【0031】
なお、上記のうち角度に関する定義はいずれも鋭角(単位:deg)であるものとする。つまり、図2、図3において、角度θは∠BAD、角度ωは∠BP’D、角度αは∠SQRである。ここで、上記の通り図2は光路を一部展開した図である。よって、線分QDと線分FQは同一直線上にあるとみなされる。従って、図2では角度αを∠FQRとして示している。付記するに、角度αが非球面ミラー3とスクリーン5のなす角度に等しく構成した場合、非球面ミラー3で反射して第二平面ミラー4に入射する最下部入射光線は、スクリーン5と略平行に進む。これにより、装置のさらなる薄型化が達成される。以下に説明する角度に関しても全て同様に鋭角である。また、投影光学系13の光軸AXは二点鎖線で示される。
【0032】
なお、点線3’は、X−Y断面における非球面ミラー3のベースとなる凸面鏡の断面形状を仮想的に示す。非球面ミラー3は、点線3’によって示される凸面鏡の周縁部を一部切り出した形状であることが図3から読み取れる。
【0033】
投影装置100の小型化、薄型化を実現するためには、投影装置100において、光束の光路中に進入しないように各ミラー2、3を配置することができる空間(以下、配置空間という)を、装置全体のサイズを変更することなく最大限確保する必要がある。配置空間を最大限確保するために、各部材は、非球面ミラー3で反射した最下部入射光線とスクリーン5が略平行となるように配置構成される。
【0034】
具体的には、非球面ミラー3で反射した最下部入射光線とスクリーン5が平行であるとすると、以下の式(1)
∠ADQ=∠BAD=θ…(1)
が成立する。式(1)より、
∠ECD=1/2∠ADQ=θ/2…(2)
が導出される。つまり、第二平面ミラー4は、垂線CEとなす角がθ/2、換言すれば、第二平面ミラー4とスクリーン5がなす角度が(90−θ/2)°となるように配設される。なお、実際の装置では、各ミラーの個体差や厚み、リブ等の影響に鑑み、第二平面ミラー4は垂線CEとなす角が(θ/2)±1°となるように配設される。
【0035】
図2では、点Rを線分AF上に配置し、点Sを線分CR(または線分CP’)上に配置し、線分STの延長線を点Aに一致させている。この構成は、各ミラー2、3の最も底面側の端部がスクリーン5最下部を含むX−Z平面に最も近接している状態を意味する。該構成は、各ミラー2、3の使用領域を小さく抑えることができる、換言すれば各ミラー2、3のサイズを小型化することができる。また、特に第一平面ミラー2の傾きの自由度が高いという利点がある。つまり、図2、図3は、投影装置100において装置全体を大型化させないという前提の下、光路中に進入することなく各ミラー2、3を配設することが最も簡易に達成できる構成である。従って、光路中に進入することなく各ミラー2、3を配設することができない配置構成は、本発明の課題を有効に解決できない構成となる。
【0036】
配置空間内において、第一平面ミラー2は、点Tよりも点Sの方がスクリーン5からX方向に遠ざかるように傾いて配設される。また、非球面ミラー3は、点Rよりも点Qの方がスクリーン5からX方向に遠ざかるように傾いて配設される。このような各ミラー2、3の配置構成についてさらに説明を加える。
【0037】
ここで、非球面ミラー3で反射し第二平面ミラー4に入射する最下部入射光線を示す線分QDと、射出瞳から射出され第一平面ミラー2に入射する最下部入射光線を示す線分PSと、がなす角度をβとする。また、非球面ミラー3に相当する線分QRと、第一平面ミラー2に相当する線分STと、がなす角度をγとする。なお、角度β、γは、各々を規定する二本の線分がハの字状(つまり、装置底面側に向かって広がる状態)であれば正、逆ハの字状(つまり装置天板面側に向かって広がる状態)であれば負(したがって平行であればゼロ)とする。角度βと角度γの間には、以下の式(3)のような関係が成立する。
β=2γ…(3)
【0038】
β<−ωとなると、線分PSが線分SRよりも装置背面側に位置してしまい、線分PSと線分RQが交差してしまうことになる。これは、射出瞳位置Pから第一平面ミラー2に向かう光束の光路中に非球面ミラー3が進入してしまうため、該光束の一部にケラレが生じ好ましくない。
【0039】
これに対して、角度γ(=β/2)、ωが以下の式(4)、
γ≧−ω/2…(4)
を満たすとき、ケラレを発生させることがないミラー配置が実現できる。そこで以下、角度γが式(4)を満たすような投影装置100の具体的数値構成に関する条件について説明する。
【0040】
X−Y断面での投影装置100を、点Aを原点としたXY座標系に展開した場合、スクリーン5の高さをh、装置100の奥行をwとすると、点A、B、Fの座標(x、y)はそれぞれ、
A(0、0)
B(0、h)
F(w、0)
として定義される。ここで、線分P’Cの長さをi、線分P’Rの長さをm、線分RFの長さをkとすると、以下の式(5)、(6)が成立する。ただし、いずれの長さも単位はmmとする。
【0041】
w=i・sinω…(5)
k=m・sinω…(6)
【0042】
ここで、以下の条件(a)、
【数5】

を満たすように構成することにより、特に非球面ミラー3をスクリーン5のサイズによって規定される領域ABEF内に収めることができる。条件(a)を満足しない場合、非球面ミラー3の使用領域における端部がスクリーン5最下部を含むX−Z平面よりも下方に位置することになる。このことは、装置の大型化を招く要因となるため好ましくない。
【0043】
ここで、線分RQは、以下の式(7)、
y=(x−(w−k))/tanα…(7)
により規定される。式(7)より、点Qは、
Q(w、k/tanα)
として定義される。
【0044】
図2において、光路を一部展開したことから、線分SQおよび線分FQは、線分QRに対して線対称な関係にある。つまり、以下の式(8)および(9)が成立する。
∠SQR=∠FQR=α…(8)
∠SQF=2α…(9)
【0045】
式(8)、(9)より、線分SQは以下の式(10)により規定される。
y=(x−w)/tan2α+k/tanα…(10)
また上述した各値より、線分CRは以下の式(11)により規定される。
y=h−x/tanω…(11)
【0046】
式(10)、式(11)の二式を解くことにより各線分SQ、CRの交点、つまり点Sのx座標Sx、y座標Syが以下のように求まる。
Sx (w/tan2α−ktanα+h)(1/tan2α+1/tanω)
Sy h−Sx/tanω
【0047】
点Tは原点(点A)と一致することから、線分STの傾きは、Sy/Sxにより求まる。上記Sx、Syの値より、線分STの傾きSy/Sxは以下の式(12)により求まる。
Sy/Sx=h/Sx−1/tanω…(12)
【0048】
ここで上記の式(4)に基づいて、以下の式(13)が導出される。
1/tan(α+γ)≦1/tan(α−ω/2)…(13)
【0049】
式(13)の左辺は、線分STの傾きSy/Sxに等しい。従って、式(13)は、以下の式(14)、さらには式(15)に変換される。
h/Sx−1/tanω≦1/tan(α−ω/2)…(14)
h/Sx≦(1/tan(α−ω/2)+1/tanω)…(15)
【0050】
式(15)に上記Sxの値を代入すると、以下の条件(b)が導出される。
【数6】

【0051】
条件(b)を満たすように各部材を配置構成することにより、投影装置100の小型化、薄型化を維持した状態で、かつケラレを発生させることなく、第一平面ミラー2および非球面ミラー3を配設することができる。なお、条件(b)を満たさない場合、射出瞳位置Pから第一平面ミラー2に向かう光束の光路中に非球面ミラー3の一部が進入することになり好ましくない。
【0052】
以下、上記実施形態の具体的実施例を説明する。図4は実施例の投影装置100を示すX−Y断面図である。なお、図4に示す投影装置は、図示を簡略化するため、光源11、画像生成部12、ハウジング50は省略している。図4に示す実施例の投影装置100の具体的数値構成は、以下の表1に示される。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように実施例の投影装置100は、第二平面ミラー4と垂線CEがなす角度を、θ/2にマージンとしての1°を加算した14°とした。これにより、非球面ミラー3のリブおよび厚みによって非球面ミラー3が装置背面側のハウジング50と干渉することがないように設計している。このようにマージンとして±1°設定すると、最下部入射光線がスクリーン5に入射する際の入射角は、±2°変化する。非球面ミラー3で反射して第二平面ミラー4に入射する最下部入射光線がスクリーン5と略平行に進む状態とは、最下部入射光線がスクリーン5に入射する際の入射角が±2°変化することを許容する状態を言う。
【0055】
また、表1より、条件(a)に関する左辺が588.6、右辺が745.6となり、該条件を満足した構成であることが分かる。よって、非球面ミラー3における最上部入射光線入射位置がスクリーン5最下部を含むX−Z平面よりも上方に位置しており、装置全体の小型化に寄与している。
【0056】
同様に表1より、条件(b)に関する左辺が1.08、右辺が1.56となり、該条件を満足した構成であることが分かる。図2に示すように、点Sが線分CR(非球面ミラー3で反射した最上部入射光線の光路)に略接するように第一平面ミラー2を配置する場合において、条件(b)の等号が成立するとき最も射出瞳P’が紙面上方(第二平面ミラー4に近い方向)に位置する。これにより、図1中符号6に示す、一般に装置の袴と呼称される、スクリーン5の最下部よりもさらに下方の部分を最小化させることができるため好適である。ただし、本実施例のように、点Sを線分CRから距離を置いて配設した場合には、角度γをω/2よりも僅かに小さくしても、ケラレを発生させることなく、かつ袴6を最小(さらに構成によってはフレームレス化)することができる。
【0057】
以上が本発明の実施形態の説明である。本発明に係る投影装置は上記実施形態の構成に限定されるものではない。例えば、以下のような変形を行った投影装置であっても、上記の各条件を満たすように各部材を配置、構成することにより、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0058】
変形例の投影装置の概略的な構成は、上記実施形態の投影装置の構成を示す図1と同様に表れる。図5は、図3に対応する図であり、変形例の投影装置における光路を全て展開して示す図である。図5に示すように、変形例の投影装置は、非球面ミラー3aが凹面鏡3a’の周縁部を一部切り出した形状を有する以外は上記実施形態の投影装置と略同一の構成である。
【0059】
非球面ミラー3aの面形状について説明を加える。非球面ミラー3aは、X−Y平面での断面では略平面、X−Y平面に直交しかつY方向に平行な面(つまり、スクリーン5に平行なY−Z平面)では装置鉛直上方に向かって凹となる断面形状を呈する。このような非球面ミラー3aを採用することにより、該ミラー3a自身に起因して発生する非点隔差を小さく抑えることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施形態の投影装置の概略構成を表す図である。
【図2】本実施形態の投影装置内部の光路を一部展開して示す図である。
【図3】本実施形態の投影装置内部の光路を展開して示す図である。
【図4】実施例の投影装置の概略構成を示す図である。
【図5】変形例の投影装置内部の光路を展開して示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1 投影光学システム
11 光源
13 投影光学系
2 第一平面ミラー
3、3a 非球面ミラー
4 第二平面ミラー
5 スクリーン
100 投影装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリーンの背面側に画像を斜めに投影する投影装置において、
前記画像を生成し前記スクリーンの背面に向かって光束を投射する投影光学システムと、
前記投影光学システムから照射された前記光束を、前記投影装置の奥行き方向において前記スクリーンから遠ざかる方向に偏向する第一の偏向手段と、
前記第一の偏向手段により偏向された前記光束を、収差補正しつつ前記投影装置の天板面に向かうように偏向する第二の偏向手段と、
前記天板面に沿って配設され、前記第二の偏向手段により偏向された前記光束を前記スクリーンの背面に向かうように偏向する第三の偏向手段と、を有し、
通常使用状態における前記投影装置のスクリーン中心を通り鉛直方向に延びる直線を含みスクリーンに垂直な平面による断面において、前記光束のうち前記スクリーン最下部に入射することになる最下部入射光線の、前記第二の偏向手段と前記第三の偏向手段間における光路が、前記スクリーンに対して略平行であることを特徴とする投影装置。
【請求項2】
請求項1に記載の投影装置において、
前記スクリーンに入射した前記最下部入射光線と前記スクリーンとがなす角度(単位:deg)をθとすると、前記スクリーンの垂線と前記第三の偏向手段がなす角度(単位:deg)は(θ/2)±1であることを特徴とする投影装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の投影装置において、
前記第一の偏向手段は、前記断面において、前記スクリーンと前記第二の偏向手段の間に配設されていることを特徴とする投影装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の投影装置において、
前記断面において、以下の条件、
【数1】

ただし、iは、前記断面において、前記光束のうち前記スクリーン最上部に入射することになる最上部入射光線に関し、前記投影光学システムの射出瞳から前記第三の偏向手段までの光路長、
mは、前記最下部入射光線に関し、前記投影光学システムの射出瞳から前記第三の偏向手段までの光路長、
ωは、前記スクリーンに入射した前記最上部入射光線と前記スクリーンとがなす角度、および、前記スクリーンに入射した前記最下部入射光線と前記スクリーンとがなす角度、の角度差、
hは、前記スクリーンの高さ、をそれぞれ表す、
を満たすことを特徴とする投影装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の投影装置において、
前記第一の偏向手段は、前記断面において、前記最上部入射光線が該第一の偏向手段に入射する位置よりも、前記最下部入射光線が該第一の偏向手段に入射する位置の方が前記スクリーンに対して遠ざかるように傾けて配設されており、
前記第二の偏向手段は、前記断面において、前記最上部入射光線が該第二の偏向手段に入射する位置よりも、前記最下部入射光線が該第二の偏向手段に入射する位置の方が前記スクリーンに対して遠ざかるように傾けて配設されていることを特徴とする投影装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の投影装置において、
【数2】

ただし、iは、前記断面において、前記光束のうち前記スクリーン最上部に入射する最上部入射光線に関する前記投影光学システムの射出瞳から前記第三の偏向手段までの光路長(単位:mm)、
mは、前記最下部入射光線に関する前記投影光学システムの射出瞳から前記第三の偏向手段までの光路長(単位:mm)、
ωは、前記スクリーンに入射した前記最上部入射光線と前記スクリーンとがなす角度、および、前記スクリーンに入射した前記最下部入射光線と前記スクリーンとがなす角度、の角度差(単位:deg)、
hは、前記スクリーンの高さ(単位:mm)、
αは、前記断面において、前記第二の偏向手段に入射した前記最下部入射光線と、前記第二の偏向手段とがなす角度、をそれぞれ表す、
を満たすことを特徴とする投影装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の投影装置において、
前記投影光学システムは、光源と、前記光源から照射される光束を用いて画像を生成する画像生成部と、前記画像生成部から射出された光束を前記スクリーンに向かって投射する投影光学系と、を有することを特徴とする投影装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の投影装置において、
前記第一および第三の偏向手段は平面ミラーであることを特徴とする投影装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の投影装置において、
前記第二の偏向手段は非球面ミラーであることを特徴とする投影装置。
【請求項10】
請求項9に記載の投影装置において、
前記第二の偏向手段は、前記第一の偏向手段を介した光束が入射する領域内において、前記断面での形状は略平面であり、前記スクリーンに平行な面での断面形状は凸面であることを特徴とする投影装置。
【請求項11】
請求項9に記載の投影装置において、
前記第二の偏向手段は、前記第一の偏向手段を介した光束が入射する領域内において、前記断面での形状は略平面であり、前記スクリーンに平行な面での断面形状は凹面であることを特徴とする投影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−33291(P2008−33291A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170218(P2007−170218)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】