説明

抗ウイルス剤、抗ウイルス繊維及び抗ウイルス繊維構造物

【課題】ウイルスを不活化させるに有効な抗ウイルス剤、抗ウイルス剤を担持した繊維製品、並びに繊維構造物を提供する。
【解決手段】抗ウイルス剤は、インフルエンザに対して有効な抗ウイルス剤であって、下記I式
【化1】


で示される金属フタロシアニン誘導体からなる。この抗ウイルス剤は繊維に担持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスに有効な金属フタロシアニンの誘導体を主成分とする抗ウイルス剤および抗ウイルス機能を備えた繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、SARS(重症急性呼吸器症候群)や鳥インフルエンザなどのウイルス病が世界的に猛威をふるい、特にインフルエンザウイルスは、次々と新種のものが発見され、人類にとって脅威となっている。本来、ウイルスの宿主域は限定され、哺乳類に感染するものは哺乳類だけ、鳥類に感染するものは鳥類だけというのが通常である。しかし、鳥インフルエンザウイルスは、鳥類のみならず哺乳類にも感染することができる広い宿主域をもつウイルスであるため、ヒトに対して感染する恐れがある。現在では、アジアやヨーロッパでもH5N1型インフルエンザが蔓延しており、それをベースにしたヒト新型インフルエンザの出現が危惧されている。
【0003】
また、鳥インフルエンザウイルスは、渡り鳥により遠隔地まで運搬されるため、食品のように疾病の発生した国からの輸入を停止し、検疫のみにより国内への侵入を阻止することができない。
【0004】
このようなインフルエンザウイルスを不活性化する剤が特許文献1に開示されている。このインフルエンザウイルス不活性化剤は、ヨウ素とβ−シクロデキストリンとを包含する溶液である。
【0005】
特許文献2には、金属フタロシアニンポリスルホン酸(具体例は、銅フタロシアニンテトラスルホン酸、ニッケルフタロシアニンテトラスルホン酸が例示)がレトロウイルスに効果があることが開示されている。さらに特許文献3には、フタロシアニンブルー(銅フタロシアニン)がコロナウイルス、SARS、ヘルペスウイルス、エイズウイルス、アデノウイルス、HBV、HCVに効果があることが開示されている。
【0006】
また特許文献2では、2価の金属イオンを中心金属とするフタロシアニンテトラスルホン酸に抗レトロウイルス増殖阻害効果があることを示している。これはレトロウイルス(HIV)特有の逆転写酵素(RT:reverse transcription)活性を阻害することにより、その増殖を抑制することと考えられている。また、抗レトロウイルス剤としては、逆転写酵素(RT)阻害剤またはプロテアーゼ阻害剤を組み合わせたものが一般的である。しかしながら、インフルエンザウイルスのようにウイルス表面にある突起HA(ヘマグルチニン)とNA(ノイラミターゼ)の活性により増殖するウイルスに対する増殖阻害効果は報告されていない。
【0007】
一方、特許文献4には金属フタロシアニン誘導体が担持された布帛のマスクが、殺菌、消臭機能を有する旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−328039号公報
【特許文献2】特開平3−264530号公報
【特許文献3】特開2005−9065号公報
【特許文献4】特開2004−357871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の発明者は、金属フタロシアニンの酵素様触媒作用を永年に渡って研究し、その吸着性や酸化還元触媒機能によって蛋白質を変性させることを見出した。インフルエンザウイルスの発生を全面的に取り除くことは極めて困難であることに鑑みて、本発明は、金属フタロシアニンの持つそのような特性を利用し、細菌の大きさよりもはるかに小さいウイルスに有効な抗ウイルス剤、その抗ウイルス剤を担持した繊維製品、並びに繊維構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためになされた本発明の請求項1に係る発明の抗ウイルス剤は、インフルエンザウイルスに対して有効な抗ウイルス剤であって、下記式
【化1】

(式中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属)で示される金属フタロシアニンからなる。
【0011】
同じく請求項2に係る発明の抗ウイルス剤は、インフルエンザウイルスに対して有効な抗ウイルス剤であって、下記I式
【化2】

(I式中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属、R、R、RおよびRは同一または異なる−COOH基または−SOH基、n1、n2、n3およびn4は0〜4で1≦n1+n2+n3+n4≦8を満たす正数)で示される金属フタロシアニン誘導体からなる。
【0012】
請求項3に係る発明の抗ウイルス剤は、請求項1または2に係る発明の抗ウイルス剤であって、該インフルエンザウイルスが鳥インフルエンザウイルスであることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明の抗ウイルス剤は、請求項3に係る発明の抗ウイルス剤であって、該鳥インフルエンザウイルスがA/whistling swan/Shimane/499/83(H5N3)株、及びA/Turkey/Wisconsin/1/66 (H9N2)株から選ばれる少なくとも1種類であることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明の抗ウイルス剤は、請求項1または2に係る発明の抗ウイルス剤であって、該インフルエンザウイルスがヒトインフルエンザウイルスであることを特徴とする。
【0015】
請求項6に係る発明の抗ウイルス剤は、請求項1または2に係る発明の抗ウイルス剤であって、該インフルエンザウイルスがブタインフルエンザウイルスであることを特徴とする。
【0016】
請求項7に係る発明の抗ウイルス剤は、請求項2に係る発明の抗ウイルス剤であって、上記I式中のMは、Fe、Co、Ni、およびCuから選択される金属、R、R、RおよびRは同一または異なる−COOH基または−SOH基、n1、n2、n3およびn4は0〜4で1≦n1+n2+n3+n4≦4を満たす正数で示される金属フタロシアニン誘導体であることを特徴とする。
【0017】
また、前記課題を解決するためになされた本発明の請求項8に係る発明の抗ウイルス繊維は、下記I式
【化3】

(I式中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属、R、R、RおよびRは同一または異なる−COOH基または−SOH基、n1、n2、n3およびn4は0〜4で1≦n1+n2+n3+n4≦8を満たす正数)で示される金属フタロシアニン誘導体を有効成分に含む抗ウイルス剤が繊維に担持されている。
【0018】
同じく請求項9に係る発明の抗ウイルス繊維は、請求項8に係る発明の抗ウイルス繊維であって、上記I式中のMはFe、R、R、RおよびRは同一または異なる−COOH基、n1、n2、n3およびn4は0〜4で1≦n1+n2+n3+n4≦4を満たす正数で示される金属フタロシアニン誘導体であることを特徴とする。
【0019】
請求項10に係る発明の抗ウイルス繊維は、請求項8に係る発明の抗ウイルス繊維であって、上記I式中のMはCo、R、R、RおよびRは同一または異なる−SOH基、n1、n2、n3およびn4は0〜1で1≦n1+n2+n3+n4≦2を満たす正数で示される金属フタロシアニン誘導体であることを特徴とする。
【0020】
さらに前記課題を解決するためになされた本発明の請求項11に係る発明の抗ウイルス繊維構造物は、請求項8に係る発明の抗ウイルス繊維を少なくとも一部に含むことを特徴とする。
【0021】
さらに前記課題を解決するためになされた本発明の請求項12に係る発明の抗ウイルス繊維製品は、請求項8に係る発明の抗ウイルス繊維を少なくとも一部に含み、衣類、寝具、カーテン、壁紙、カーペット、マット、シーツ、フィルター、マスク、ワイパー、タオル、防護衣類、防護ネット、廃鶏袋、鶏舎用品、医療用シートに形づくられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の抗ウイルス剤は、インフルエンザウイルスを不活化させるのに有効である。また、このウイルス剤を担持した繊維は、インフルエンザウイルスを不活化させるのに有効である。さらに、本発明の抗ウイルス繊維は繊維製品に加工され、本発明の繊維構造物を構成する。その抗ウイルス繊維構造物は、接触するウイルスに対して不活化効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の抗ウイルス剤は、インフルエンザウイルスに対して有効な抗ウイルス剤であって、下記式
【化4】

(式中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属)で示される金属フタロシアニンからなるか、または、I式に示す金属フタロシアニン誘導体は、下記I式
【化5】

に示す構造となる。
【0024】
(I式中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属、R、R、RおよびRは同一または異なる−COOH基または−SOH基、n1、n2、n3およびn4は0〜4で1≦n1+n2+n3+n4≦8を満たす正数)で示される金属フタロシアニン誘導体からなることを特徴とする。本発明でいう金属フタロシアニン誘導体とは、上記構造を有する金属フタロシアニン化合物またはその塩をいう。金属フタロシアニン化合物の塩としては、例えば無機塩基との塩、有機塩基との塩等が挙げられる。無機塩基との塩の好適な例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;ならびに銅(II)塩、アンモニウム塩などが挙げられる。有機塩基との塩の好適な例としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン等との塩が挙げられる。
【0025】
前記抗ウイルス剤は、インフルエンザウイルスに対して効果があり、鳥インフルエンザウイルスを不活化することができる。特にH5、あるいはH7の亜型のような強毒性のある高病原性鳥インフルエンザウイルスに有効である。本発明では、鳥インフルエンザウイルスA/whistling swan/Shimane/499/83 (H5N3)株、鳥インフルエンザウイルスA/Turkey/Wisconsin/1/66
(H9N2)株について抗ウイルス効果を証明しているが、H5N1型などの鳥インフルエンザウイルスにも効果があると考えられる。
【0026】
本発明の抗ウイルス剤は、ヒトインフルエンザウイルスに対する不活化効果も高く、あらゆる種類のインフルエンザウイルスに有効である。本発明では、ヒトインフルエンザウイルスA/Aichi/2/68 (H3N2)株について抗ウイルス効果を証明しているが、他のヒトインフルエンザウイルスにも効果があると考えられる。
【0027】
また、本発明の抗ウイルス剤は、ブタインフルエンザウイルスA/Swine/Iowa/15/30 (H1N1)株について抗ウイルス効果を証明している。
【0028】
本発明の抗ウイルス剤がインフルエンザウイルスに対して不活化効果を有する理由は、インフルエンザウイルスに対して、ウイルス表面にある突起HA(ヘマグルチニン)とNA(ノイラミターゼ)の活性を阻害するためと推定される。特に、金属フタロシアニンに−COOH基または−SOH基の官能基を導入した構造を有すると、HAとNAの活性阻害効果がより高くなると考えられる。
【0029】
I式中、MがFe、R、R、RおよびRがすべて−COOH基、n1、n2、n3およびn4が各々1であると、下記III式
【化6】

に示す構造となる。
【0030】
この鉄フタロシアニンテトラカルボン酸は、以下のようにして合成できる。ニトロベンゼンにトリメリット酸無水物と、尿素と、モリブデン酸アンモニウムと、塩化第二鉄無水物とを加えて撹拌し、加熱還流させて沈殿物を得る。得られた沈殿物にアルカリを加えて加水分解し、次いで酸を加えて酸性にすることで得られる。
【0031】
同じくI式に示す金属フタロシアニン誘導体は、I式中、MがCo、RおよびRが−COOH基である場合、下記IV式
【化7】

に示す構造となる。
【0032】
同じくI式に示す金属フタロシアニン誘導体は、I式中、MがCo、RおよびRが−SOH基である場合、下記V式
【化8】

に示す構造となる。
【0033】
I式中、MがFe、RおよびRが−SOH基であると、下記VI式
【化9】

に示す構造となる。
【0034】
I式中、MがFe、R、R、RおよびRがすべて−COOH基、n1、n2、n3およびn4が各々2であると、下記VII式
【化10】

に示す構造となる。
【0035】
抗ウイルス剤となるこれらの金属フタロシアニン誘導体は、公知の方法により製造されるものであり、染料をはじめとし、酵素態様機能を有する機能性物質として上市もされている。例えば、「フタロシアニン −化学と機能−」(白井汪芳、小林長夫著、株式会社アイピーシー出版、平成9年2月28日発行)に記載の方法により、製造することができる。例えば、鉄フタロシアニンテトラカルボン酸は、ニトロベンゼンにトリメリット酸無水物と、尿素と、モリブデン酸アンモニウムと、塩化第二鉄無水物とを加えて撹拌し、加熱還流させて沈殿物を得、得られた沈殿物にアルカリを加えて加水分解し、次いで酸を加えて酸性にすることで得られる。コバルトフタロシアニンオクタカルボン酸は、上記鉄フタロシアニンテトラカルボン酸の原料であるトリメリット酸無水物に代えてピロメリット酸無水物、塩化第二鉄無水物に代えて塩化第二コバルトを用いて同様の方法で製造可能である。
【0036】
前記金属フタロシアニン誘導体は、官能基の数、すなわちn1〜n4の合計が4以下であることが好ましい。より好ましい官能基の数は、1または2である。官能基の数が4以下であると、抗ウイルス効果が高い傾向にある。特に、MがFeの場合、官能基はCOOH基であることが好ましい。また、MがCoの場合、官能基はSOH基であることが好ましい。特に、III式に示す構造を有する鉄(III)フタロシアニンテトラカルボン酸をはじめとし、コバルト(II)フタロシアニンモノスルホン酸、及びコバルト(II)フタロシアニンジスルホン酸の金属フタロシアニン誘導体が抗ウイルス効果が高い。上記金属フタロシアニン誘導体の抗ウイルス効果が高い理由は定かではないが、金属フタロシアニンの立体構造の違いによるものと考えられる。
【0037】
金属フタロシアニンの誘導体は、有機物、無機物の担体に担持または混合して抗ウイルス剤とすることもできる。金属フタロシアニン誘導体の担体に対する含有量は、担体に担持または混合でき、且つ抗ウイルス効果を発揮し得る範囲であれば特に限定されないが、例えば担体に対して金属フタロシアニン誘導体が0.1〜10質量%であることが好ましい。より好ましい金属フタロシアニン誘導体の含有量は、0.3〜5質量%であり、さらにより好ましくは0.5〜3質量%である。金属フタロシアニン誘導体の含有量が上記範囲を満たすと、十分な抗ウイルス効果を発揮することができる。
【0038】
有機物の担体としては、繊維が特に好ましい。繊維は、嵩量があり大きな表面積を持つため、金属フタロシアニン或いはその誘導体が効率よく空気中のウイルスに接触する。
【0039】
繊維素材は、例えばセルロース系繊維(木綿、麻、レーヨン、パルプなど)、蛋白質系繊維(羊毛、絹など)、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリウレタン系繊維などあらゆる天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維が使用される。なかでもセルロース系繊維、特に木綿またはレーヨンは、吸水性が良いため、吸水した担体として酵素様機能を発現するための好条件をそなえている。
【0040】
本発明の抗ウイルス繊維は、前記抗ウイルス剤を繊維に担持しているため、細菌の大きさよりも小さい様々なウイルスに対して不活化効果を有する。
【0041】
特に、本発明の抗ウイルス繊維は、インフルエンザウイルスに対して効果があり、鳥インフルエンザウイルスを不活化することができる。特にH5、あるいはH7の亜型のような強毒性のある高病原性鳥インフルエンザウイルスに有効である。
【0042】
抗ウイルス剤を担持した繊維は、あらかじめ前記天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維に前記金属フタロシアニンの誘導体からなる抗ウイルス剤を担持させて抗ウイルス繊維を構成してもよい。また、前記天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維を用いて糸、織編物、ウェブ、不織布、紙、ネット等の繊維構造物を構成した後に前記金属フタロシアニンの誘導体からなる抗ウイルス剤を担持させてもよい。
【0043】
繊維構造物を構成した後に前記金属フタロシアニンの誘導体を担持させる方法としては、バインダー成分を含む金属フタロシアニン誘導体溶液を繊維構造物へ印刷、噴霧またはコーターを用いて塗布する方法、繊維構造物を該溶液へ浸漬させる方法、あるいは直接染色、イオン染色などの染色法がある。イオン染色法とは、コットン、レーヨンなどの繊維にカチオン基を結合させ、そのカチオン基と染料の持つカルボキシル基やスルホン基のアニオン基をイオン的に結合させて行う染色法である。
【0044】
前記繊維素材に金属フタロシアニン誘導体を担持させるとき、繊維素材を予めカチオン化処理していることが好ましい。カチオン化処理することにより、金属フタロシアニン誘導体の担持効果が大きくなるとともに、金属フタロシアニン誘導体が高い活性状態を保つのでより一層の抗ウイルス効果を高めることができる。
【0045】
前記カチオン化処理におけるカチオン化剤は、例えば、第4級アンモニウム塩型クロルヒドリン誘導体、第4級アンモニウム塩型高分子、カチオン系高分子、クロスリンク型ポリアルキルイミン、ポリアミン系カチオン樹脂、グリオキザール系繊維素反応型樹脂等が挙げられ、これら単独または2種以上組み合わせたものが用いられる。特に、第4級アンモニウム塩型クロルヒドリン誘導体が好ましい。
【0046】
前記抗ウイルス繊維は、例えば、シート状物、樹脂成型物、無機成型物などに添加して用いることもできる。また、バインダー等を併用して、シート状物、樹脂成型物、無機成型物などに接着することができる。
【0047】
前記抗ウイルス繊維の断面形状は特に限定されず、円形、異形、中空等のいずれであってもよい。また、抗ウイルス繊維の繊維長も特に限定されず、長繊維、短繊維、微細繊維等のいずれであってもよい。長繊維であれば、紡糸後そのままボビン等に繊維を巻き付けることにより得ることができる。短繊維であれば、カッターなどで所定の繊維長に切断するか、天然繊維であればそのまま用いることができる。微細繊維であれば、グラインドミルなどですり潰すようにして裁断し、任意のメッシュを有する篩にかけて分級することにより得ることができる。すり潰して裁断した微細繊維は適度に湾曲している。さらに、前記抗ウイルス繊維の繊度は特に限定されず、用途に応じて適宜選定するとよい。
【0048】
本発明の抗ウイルス繊維構造物は、前記抗ウイルス繊維を少なくとも一部に含み、糸、織編物、ウェブ、不織布、紙、ネット等に成形して用いることができる。また、前記繊維構造物とフィルム等の他のシートと積層した積層シートとしてもよい。
【0049】
抗ウイルス繊維は、例えば衣類(帽子、手袋、ハンカチを含む)、寝具(布団、枕を含む)、カーテン、壁紙、カーペット、マット、シーツ、フィルター、マスク、ワイパー、タオル、防護衣類、防護ネット、廃鶏袋、鶏舎用品のごとき繊維製品の少なくとも一部に含まれて、日常の生活に供され、生活空間に飛散浮遊するウイルスを不活化させることができる。
【0050】
以下、本発明の抗ウイルス繊維構造物および抗ウイルス繊維製品について、具体的に例示する。本発明の抗ウイルス繊維構造物が不織布の場合、繊維ウェブの形成方法は、カード法、エアレイド法、湿式抄紙法、スパンボンド法、メルトブローン法、フラッシュ紡糸法、静電紡糸法などを用いることができる。得られた繊維ウェブは、エアースルー不織布や熱圧着不織布などのサーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、ニードルパンチ不織布、水流交絡不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布などに加工される。
【0051】
予め抗ウイルス剤が担持された抗ウイルス繊維を用いた場合、前記繊維ウェブは、抗ウイルス繊維100質量%であってもよいが、他の抗ウイルス繊維との混合、あるいは抗ウイルス効果が得られる範囲内で他の繊維と混合してもよい。他の繊維と混合する場合は、抗ウイルス繊維が少なくとも20質量%であることが好ましい。より好ましくは、少なくとも30質量%である。さらにより好ましくは、50質量%以上である。このようにして得られた繊維ウェブは、所定の加工が施されて不織布を得ることができる。
【0052】
例えば担体となる繊維(以下、担体用繊維ともいう)を準備し、繊維ウェブを作製し、不織布に加工した後、抗ウイルス剤を担持させる場合、繊維ウェブは、担体用繊維100質量%であってもよいが、他の抗ウイルス繊維との混合、あるいは抗ウイルス効果が得られる範囲内で他の繊維と混合してもよい。他の繊維と混合する場合は、担体用繊維が少なくとも20質量%であることが好ましい。より好ましくは、少なくとも30質量%である。さらにより好ましくは、50質量%以上である。このように、後加工で繊維ウェブまたは不織布に抗ウイルス剤を担持させる場合、不織布に他のシートを積層し一体化すると、例えば不織布強力が大きく生産速度を上げることができるなどの加工時の取り扱い性がよく、好ましい。他のシートとしては、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、フィラメントが1方向に配列され延伸された一方向延伸配列繊維不織布、フィラメントの配列方向が互いに直交するように積層されてなる経緯直交積層繊維不織布、湿式抄紙、ネット、フィルム、織編物などが挙げられる。特に、スパンボンド不織布、一方向延伸配列繊維不織布、および経緯直交積層繊維不織布は、積層した後の不織布強力を大きくすることができるので、補強層として好ましく用いられる。
【0053】
本発明の抗ウイルス繊維構造物には、他の抗ウイルス繊維を併用してもよい。抗ウイルス効果を有する物質を繊維に担持させた他の繊維としては、例えば分子中にカルボキシル基を有する繊維、具体的には重合鎖中にモノマー単位としてのマレイン酸成分を含む高分子からなる抗ウイルス物質を成分として含む繊維が挙げられる。この他の抗ウイルス繊維(以下、他の抗ウイルス繊維Mともいう)は、前記高分子がオレフィン−マレイン酸共重合高分子、スチレン−マレイン酸共重合高分子、ビニルエステル−マレイン酸共重合高分子、酢酸ビニル−マレイン酸共重合高分子、または塩化ビニル−マレイン酸共重合高分子であることが好ましい。さらに、前記高分子は、銅、銀、亜鉛から選ばれる金属のイオンを担持していることが好ましい。
【0054】
前記他の抗ウイルス繊維Mは、担体用繊維として、例えばセルロース系繊維(木綿、麻、レーヨン、パルプなど)、蛋白質系繊維(羊毛、絹など)、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリウレタン系繊維などあらゆる天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維が使用できる。なかでもセルロース系繊維は、上記セルロース材料が好ましい理由と同様に有利である。また、セルロース系繊維は、合成繊維のように静電気がおきて埃がたまることがないので、埃により反応サイトが塞がれることがなく、より抗ウイルス効果を発揮することができる。特にレーヨンは、吸水性が良く、繊度や繊維長を調整しやすいので、様々な繊維構造物および繊維製品に適用することができる。
【0055】
例えば、この酢酸ビニル−マレイン酸共重合体溶液は、公知の方法により得られるセルロースのビスコース溶液、あるいはセルロースの銅アンモニア溶液などの含金属アルカリ溶液と溶解混合した混合液を、紡糸ノズルを通じて紡糸液に吐き出して、いわゆる湿式紡糸により抗ウイルス繊維Mを得ることができる(例えば特公平8−13905号公報参照)。
【0056】
セルロースと共重合体との混合割合は、前者が60〜99質量%、後者が40〜1質量%程度が好ましい。セルロースの使用割合が60質量%未満の場合には、得られるセルロース系組成物は表面にべとつき感が生じることがあり、引き続く紡織、複合化などの工程に際してブロッキングなどの不利が生じることがある。また99質量%を越える場合には酢酸ビニル−マレイン酸共重合体を使用することによる抗ウイルス効果が低くなることがある。
【0057】
前記他の抗ウイルス繊維Mには、さらに抗ウイルス作用を高めるために、銅、銀、亜鉛から選ばれる金属のイオンを含む溶液などに浸漬、コーティング等の加工を施して、銅イオン、銀イオン、及び亜鉛イオンから選ばれる少なくとも一つの金属イオンを担持することが好ましい。金属イオンとしては、銅イオンの抗ウイルス効果が高く、特に好ましい。前記抗ウイルス繊維Mに、銅イオンを担持させる方法としては、例えば硫酸銅(CuSO)あるいは硝酸銅(Cu(NO)などの溶液に浸漬して銅イオンを吸着し、担持することができる。亜鉛イオンを担持させる方法としては、塩化亜鉛(ZnCl)溶液に浸漬して亜鉛イオンを吸着し、担持することができる。
【0058】
上記他の抗ウイルス繊維Mを併用する場合、本発明の抗ウイルス繊維構造物は、予め本発明の抗ウイルス繊維と他の抗ウイルス繊維Mを混合して用いるか、上記方法に加えて前記他の抗ウイルス繊維Mに金属イオン溶液に接触させて、抗ウイルス繊維Mに金属イオンを担持させるか、あるいは、それぞれの担体用繊維を用意し、マレイン酸成分を含む高分子とフタロシアニン誘導体を付与するか、などの方法により得ることができる。
【0059】
本発明の抗ウイルス繊維構造物として、サーマルボンド不織布の一例を示す。本発明の抗ウイルス繊維と、熱接着性繊維と、必要に応じて他の抗ウイルス繊維、他の繊維を混合して繊維ウェブを形成し、熱接着性繊維を熱接着する温度で熱処理させて、サーマルボンド不織布を得ることができる。熱接着性繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル、ナイロン6,ナイロン66等のポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン等のポリオレフィン、などのポリマーまたは共重合ポリマーが少なくとも一部が繊維表面に露出した単一成分繊維または複合繊維を用いることができる。
【0060】
本発明の抗ウイルス繊維構造物として、ケミカルボンド不織布の一例を示す。まず、本発明の抗ウイルス繊維と、必要に応じて他の抗ウイルス繊維、他の繊維を混合して繊維ウェブを形成する。必要に応じて、繊維ウェブを不織布(例えば、ニードルパンチ不織布)に成形した後、バインダーを浸漬、噴霧(例えば、スプレーボンド)、コーティング(例えば、フォームボンド)等により付着させ、乾燥及び/またはキュアリングして、ケミカルボンド不織布を得ることができる。バインダーとしては、アクリルバインダー、ウレタンバインダーなどを用いることができる。バインダーの付着量は、不織布の形態を維持することができ、抗ウイルス効果を阻害しない範囲であれば、特に限定されない。例えば、不織布質量に対して、固形分で5〜50質量%であることが好ましい。
【0061】
本発明の抗ウイルス繊維構造物として、水流交絡不織布の一例を示す。まず、本発明の抗ウイルス繊維と、必要に応じて他の抗ウイルス繊維、他の繊維を混合して繊維ウェブを形成する。この繊維ウェブには、必要に応じて他のシートを積層することができる。他のシートとしては、例えば、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、一方向延伸配列繊維不織布、経緯直交積層繊維不織布、湿式抄紙、ネット、フィルム、織編物などが挙げられる。特に、スパンボンド不織布、一方向延伸配列繊維不織布、および経緯直交積層繊維不織布は、積層した後の不織布強力を大きくすることができるので、補強層として好ましく用いられる。繊維ウェブまたは積層シートには、例えば、孔径0.05mm以上0.5mm以下のオリフィスが、0.5mm以上1.5mm以下の間隔で設けられたノズルから、水圧1MPa以上10MPa以下の水流を、繊維ウェブの表裏面側からそれぞれ1〜4回ずつ噴射して繊維同士を交絡させて得ることができる。
【0062】
本発明の抗ウイルス繊維構造物において、防水性が必要な場合は、抗ウイルス繊維構造物の表面に防水性のフィルムを積層したり、押出ラミネート機等を用いて樹脂をラミネートして、防水性を有する抗ウイルス繊維構造物を得ることができる。また、透湿防水性が必要な場合は、メルトブローン不織布などの極細繊維不織布を積層したり、透湿性を有する樹脂をラミネートして、透湿防水性を有する抗ウイルス繊維構造物を得ることができる。
【0063】
このような防水性や透湿防水性を有する抗ウイルス繊維構造物は、例えば、病院用ベッドシーツ、病院用カーテン、手術用シーツ、実験シートなどの医療用シートに用いることができる。
【0064】
上記サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、及び水流交絡不織布は、例えば、エアフィルターに用いることができる。エアフィルターに用いる場合、中粗塵用フィルターであれば、構成する繊維の繊度は、2〜50dtexであることが好ましい。目付は10〜150g/mであることが好ましい。このようにして得られたエアフィルターは、エアコン、空気清浄機、掃除機などの家電用フィルターとして用いることができる。例えば、空気清浄機用フィルターであれば、ケミカルボンド不織布等の支持体と、抗ウイルス繊維構造物と、エレクトレット不織布やHEPA、ULPA等の高精度フィルター層の積層構造を有し、プリーツ(ひだ折り)加工されたシートが用いられる。
【0065】
本発明の抗ウイルス繊維構造物は、衛生マスク、サージカルマスク、防塵マスク(例えば、N95対応マスク(Particulate Respirator Type N95)、呼吸用保護具)等のマスクに用いることもできる。マスクに用いることができる抗ウイルス繊維構造物としては、前記サーマルボンド不織布や水流交絡不織布が挙げられる。マスクに用いることができる抗ウイルス繊維の繊度は、1〜10dtexであることが好ましい。より好ましくは、2〜8dtexである。目付は、30〜60g/mであることが好ましい。マスクの構成としては、例えば、外側から口側にかけて、補強不織布(例えば、スパンボンド不織布、サーマルボンド不織布)/本発明の抗ウイルス不織布/極細繊維不織布(例えば、メルトブローン不織布)/補強または柔軟不織布(例えば、スパンボンド不織布、サーマルボンド不織布)の積層構造にすると、抗ウイルス性能を効果的に発揮することができる。
【0066】
本発明の抗ウイルス繊維構造物の別の一例として、抗ウイルス繊維を5mm以下に切断した短繊維、または粉砕した微細繊維(以下、総称して繊維パウダーともいう)を他の繊維表面に担持させた不織布が挙げられる。このように繊維パウダーにした抗ウイルス繊維は、バインダーにより他の繊維表面に担持することができる。バインダーにより抗ウイルス繊維パウダーを担持する方法としては、例えば、抗ウイルス繊維パウダーと、バインダー(例えば、アクリルバインダー、ウレタンバインダーなど)を所定量添加してバインダー溶液を調製し、繊維基布に対してバインダー溶液を浸漬、噴霧(例えば、スプレーボンド)、コーティング(例えば、ナイフコーター、グラビアコーター)等により付着させ、乾燥及び/またはキュアリングして、抗ウイルス繊維パウダー担持不織布を得ることができる。また、別の方法としては、抗ウイルス繊維パウダーの水分散液を調整し、熱接着性繊維または湿熱接着性繊維を含む繊維構造物に水分散液を浸漬、噴霧、コーティング等により抗ウイルス繊維パウダーを付着させた後、熱処理して熱接着性繊維または湿熱接着性繊維によりパウダーを接着させて、抗ウイルス繊維パウダー担持不織布を得ることもできる。
【0067】
前記繊維基布としては、例えば、サーマルボンド不織布、スパンボンド不織布、水流交絡不織布等の不織布、織編物などを用いることができる。
【0068】
前記抗ウイルス繊維パウダー担持不織布は、例えば、防護衣に用いることができる。不織布を所定の形状に裁断し、不織布端部同士を重ねてヒートシール、超音波シール、高周波シールするか、縫製するか、などの方法で作製することができる。
【0069】
本発明の抗ウイルス織編物は、例えば、衣類、寝具(布団、枕を含む)、カーテン、カーペット、マット、シーツ、タオル、防護衣類、防護ネット、廃鶏袋、鶏舎用品、医療用シート材などに用いることができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により抗ウイルス剤を担持した抗ウイルス繊維を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
――抗ウイルス繊維の作製――
(実施例1)
直接染色法により抗ウイルスレーヨン繊維を作製した。濃度0.3%owf(on weight fiber:繊維重量比)のコバルト(II)フタロシアニンジスルホン酸ナトリウムの水溶液(浴比=1:20)600Lに、レーヨン繊維(繊度2.2dtex、繊維長38mm)30kgを入れ、65℃以上100℃以下で30分間攪拌し、レーヨン繊維を染色した。染色助剤として、硫酸ナトリウムを染色浴1リットルあたり30g使用した。ついでこの染色レーヨンを水で洗浄し、脱水、乾燥することにより、コバルト(II)フタロシアニンジスルホン酸ナトリウムが担持された抗ウイルス繊維を得た。
【0072】
(実施例2)
イオン染色法により抗ウイルスレーヨン繊維を作製した。カチオン化剤として、50g/LのカチオノンUK(一方社製の商品名)と、15g/Lの水酸化ナトリウム水溶液との混合液10Lに、実施例1に用いたレーヨン繊維1kgを浴比1:10の条件で入れ、85℃で45分間反応させた。得られたカチオン化レーヨン繊維を十分に水にて洗浄した後、繊維100質量部に対してコバルト(II)フタロシアニンモノスルホン酸及びコバルト(II)フタロシアニンジスルホン酸が1質量部(1%owf)混合した水酸化ナトリウム溶液(pH=12)10L中に浸し、80℃で30分間撹拌し、レーヨン繊維を染色した。得られた染色レーヨン繊維を十分に水にて洗浄して乾燥し、コバルト(II)フタロシアニンモノスルホン酸ナトリウム及びコバルト(II)フタロシアニンジスルホン酸ナトリウムが担持された抗ウイルス繊維を得た。
【0073】
(実施例3)
実施例2のカチオン化レーヨン繊維を十分に水にて洗浄した後、濃度1%owfの鉄(III)フタロシアニンモノスルホン酸及び鉄(III)フタロシアニンジスルホン酸が混合した水酸化ナトリウム溶液(pH=12)10L中に浸し、80℃で30分間撹拌し、レーヨン繊維を染色した。得られた染色レーヨン繊維を十分に水にて洗浄して乾燥し、鉄(III)フタロシアニンモノスルホン酸ナトリウム及び鉄(III)フタロシアニンジスルホン酸ナトリウムが担持された抗ウイルス繊維を得た。
【0074】
(実施例4)
実施例2のカチオン化レーヨン繊維を十分に水にて洗浄した後、濃度1%owfの鉄(III)フタロシアニンテトラカルボン酸の水酸化ナトリウム溶液(pH=12)10L中に浸し、80℃で30分間撹拌し、レーヨン繊維を染色した。得られた染色レーヨン繊維を十分に水にて洗浄して乾燥し、鉄(III)フタロシアニンテトラカルボン酸が担持された抗ウイルス繊維を得た。
【0075】
(比較例1)
比較例1として、実施例1に記載した未加工のレーヨン繊維について、同様の操作をしてウイルス増殖の有無を判定した。
【0076】
(比較例2)
比較例2として、実施例2で作製したカチオン化レーヨン繊維について、同様の操作をしてウイルス増殖の有無を判定した。
【0077】
――鳥インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス繊維の性能評価――
被検ウイルスは、国立大学法人鳥取大学鳥インフルエンザ研究センターに保管されている鳥インフルエンザウイルスA/whistling swan/Shimane/499/83 (H5N3)株を使用した。この鳥インフルエンザウイルスは、鳥インフルエンザウイルスA/コハクチョウ/島根/499/83(H5N3)とも称される。
【0078】
上記各実施例2〜4で試作した抗ウイルス繊維を約1.5cm長さに切り揃え、ポリエチレン袋に0.2gを入れ、被検ウイルスを燐酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline:PBS)で100倍(または1000倍)に希釈したウイルス液Aを各0.6mlずつポリエチレン袋に分注し、抗ウイルス繊維にウイルス液を染み込ませた。4℃で反応時間10分間(あるいは1分間、30分間)静置した。そのウイルス液を採取しPBSでさらに10倍段階希釈し、10日齢発育鶏卵(SPF)に0.2mlずつ漿尿膜腔内に接種した。2日間培養後、尿膜腔液Bを回収し、鶏赤血球凝集反応によりウイルス増殖の有無を判定した。
【0079】
ウイルス力価はReed & Muench (1938)の方法によって算出した。各試作抗ウイルス繊維のウイルス力価を表1に示してある。
【0080】
【表1】

【0081】
表1中の*印を付したウイルス液Aが1000倍液である。
表1から実施例2〜4の抗ウイルス繊維を使用した尿膜腔液Bは、ウイルス液Aよりもウイルス力価が大幅に減少しており、ウイルス減少率は99%以上であった。これは、実施例2〜4の抗ウイルス繊維に鳥インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果があることを示している。比較例2の尿膜腔液Bは、ウイルス液Aよりもウイルス力価が減少していたが十分なものではなかった。特に、実施例2、4は、鳥インフルエンザウイルスの抗ウイルス効果が高いことがわかる。
【0082】
(実施例2−A)
1. 抗ウイルス不織布の作製
実施例2の抗ウイルス繊維を100質量%混合し、パラレルカード機を用いて繊維ウェブとし、水流交絡処理して、目付40g/mの抗ウイルス不織布を作製した。
【0083】
2. 抗ウイルスマスクの作製
得られた抗ウイルス不織布を、ポリプロピレンスパンボンド不織布の上に載置し、さらにポリプロピレンメルトブローン不織布とポリプロピレンスパンボンド不織布を重ね合わせて、縦15cm、横15cmに切断し、3段にプリーツ折りして、横方向の端の中央部に耳掛け紐を設け、シート端の四辺をヒートシール加工し、抗ウイルスマスクを作製した。
【0084】
得られた抗ウイルスマスクを7日間着用した後、前記抗ウイルス不織布を取り出し、鳥インフルエンザウイルス(H5N3株)のウイルス力価を測定したところ、尿膜腔液B(<102.25(EID50/0.2ml))は、ウイルス液A(106.75(EID50/0.2ml))よりもウイルス力価が大幅に減少し、99.99%のウイルス減少率であった。長時間の使用にも耐え得ることが確認できた。
【0085】
――ヒトインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス繊維の性能評価――
被検ウイルスは、ヒトインフルエンザウイルスA/Aichi/2/68 (H3N2)株を使用した。不織布の場合、約1.5cm長さ四方にカットした試験片を0.2g取り出すか、繊維の場合、約1.5cmの長さに切り揃えて0.2gの綿を用意し、それぞれをポリエチレン袋に入れ、被検ウイルスを燐酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline:PBS)で100倍に希釈したウイルス液Aを各0.6mlずつポリエチレン袋に分注し、抗ウイルス繊維にウイルス液を染み込ませた。4℃で反応時間10分間(あるいは1分間)静置した。そのウイルス液を採取しPBSでさらに10倍段階希釈し、10日齢発育鶏卵(SPF)に0.2mlずつ漿尿膜腔内に接種した。2日間培養後、尿膜腔液Bを回収し、鶏赤血球凝集反応によりウイルス増殖の有無を判定した。ウイルス力価はReed & Muench(1938)の方法によって算出した。
【0086】
実施例2〜4の試料におけるヒトインフルエンザウイルスのウイルス力価を表2に示す。
【0087】
【表2】

【0088】
表2から、実施例2〜4の試料を使用した尿膜腔液Bは、ウイルス液Aよりもウイルス力価が大幅に減少しており、ウイルス減少率が99%以上であった。これは、実施例2〜4の抗ウイルス繊維にヒトインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果があることを示している。
【0089】
――他のインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス繊維の性能評価――
被検ウイルスとして、以下のウイルスを使用した以外は、上記評価方法と同様の方法で実施例4の抗ウイルス繊維のウイルス力価を測定した。
(1)鳥インフルエンザウイルスA/Turkey/Wisconsin/1/66 (H9N2) 株
(2)ブタインフルエンザウイルスA/Swine/Iowa/15/30 (H1N1) 株
【0090】
【表3】

【0091】
表3から、実施例4の抗ウイルス繊維を使用した尿膜腔液Bは、ウイルス液Aよりもウイルス力価が大幅に減少しており、ウイルス減少率が99%以上であった。これは、実施例4の抗ウイルス繊維に別の種類のインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果があることを示している。
【0092】
(実施例5)
1. 抗ウイルス不織布の作製
実施例4の抗ウイルス繊維と、芯成分がポリプロピレン、鞘成分が高密度ポリエチレンからなる繊度2.2dtex、繊維長51mmの鞘芯型複合繊維(ダイワボウポリテック(株)製、NBF(H))を用いた。本発明の抗ウイルス繊維が60質量%と鞘芯型複合繊維が40質量%となるように混合し、パラレルカード機を用いて開繊してカードウェブを作製した。目付は、40g/mとした。
【0093】
得られたカードウェブは、孔径0.08mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いて、ウェブの表面に、水圧4MPaの柱状水流を2回噴射し、同様にその反対の表面に、水圧4MPaの柱状水流を2回噴射して繊維を交絡された。その後、ボックス型真空吸引装置にて、脱水後、ドラム型乾燥機(設定温度140℃)にて鞘芯型複合繊維の鞘成分で融着し、乾燥させて、水流交絡により一体化された水流交絡不織布(抗ウイルス不織布)を得た。
【0094】
2. 鳥インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス不織布の性能評価
抗ウイルス不織布を取り出し、ウイルス力価を測定したところ、尿膜腔液B(<102.25(EID50/0.2ml))は、ウイルス液A(106.75(EID50/0.2ml))よりもウイルス力価が大幅に減少し、99.99%のウイルス減少率であった。
【0095】
(実施例6)
1. 防水性抗ウイルス不織布の作製
実施例5の抗ウイルス不織布の表面に、押出ラミネート機を用いて、融点が103℃の低密度ポリエチレンを厚み30μmとなるようにラミネートして、防水性の抗ウイルス不織布を作製した。
【0096】
2. 医療用シート、実験シートの作製
この防水性不織布を医療用ベッドシーツや実験シートに用いたところ、防水性と抗ウイルス効果があることを確認できた。
【0097】
(実施例7)
1. 抗ウイルス繊維パウダー担持不織布の作製
(1)抗ウイルス繊維パウダーの作製
まず、実施例2の抗ウイルスレーヨン繊維を得た後、繊維長が0.1mmとなるようにカッターで切断し、抗ウイルス繊維パウダーを作製した。
【0098】
(2)別の抗ウイルス繊維パウダーの作製
次に、別の抗ウイルス繊維Mを以下の方法で作製した。酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体水溶性塩を、セルロースのビスコース溶液(セルロース濃度9%)に前記共重合体固形分がセルロース固形分100部に対して20部となるよう添加し、溶解した。各々の混合溶液を硫酸130g/L、硫酸亜鉛10g/L、硫酸ナトリウム250g/Lの強酸性浴中に白金ノズルから押出して紡糸した。常法により脱硫、精練漂白することにより、酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体が混合されたビスコースレーヨン繊維を得た後、繊維長が0.1mmとなるようにカッターで切断し、抗ウイルス繊維パウダーを作製した。繊度は3.3dtexであった。
【0099】
得られた繊維パウダーは、4%硫酸銅水溶液に浸漬して10分間放置したのち、蒸留水で洗浄し、70℃で3時間乾燥し、銅イオンが担持された抗ウイルス繊維Mパウダーの試料を得た。この抗ウイルス繊維Mパウダーの銅担持量は1質量%であった。
【0100】
得られた抗ウイルス繊維Mパウダーについて、鳥インフルエンザウイルス(H5N3株)に対するウイルス力価を測定したところ、尿膜腔液B(<100.5(EID50/0.2ml))は、ウイルス液A(107.5(EID50/0.2ml))よりもウイルス力価が大幅に減少し、99.999%のウイルス減少率であった。
【0101】
(3)不織布の作製
基布として、目付が40g/mのポリプロピレン製スパンボンド不織布を用意した。次に、抗ウイルス繊維パウダーを基布に接着させるアクリルエマルジョンバインダーを用意し、アクリルエマルジョンバインダーと、本発明の抗ウイルス繊維パウダー50質量%と、別の抗ウイルスレーヨン繊維Mパウダー50質量%を添加したバインダー溶液を調製した。前記基布の表面に、ナイフコーターを用いて、3g/mの繊維パウダーを塗布した。バインダーは、固形分で6g/m塗布されていた。次いで、150℃、3分間のキュアリングを施して、抗ウイルス繊維パウダー担持不織布を得た。
実施例7の試料における鳥インフルエンザウイルスのウイルス力価を表4に示す。
【0102】
【表4】

【0103】
表4から、実施例7の試料を使用した尿膜腔液Bは、ウイルス液Aよりもウイルス力価が大幅に減少しており、ウイルス減少率が99%以上であった。これは、実施例6の抗ウイルス繊維パウダー担持不織布に鳥インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果があることを示している。
【0104】
2. 防護衣の作製
実施例7の抗ウイルス繊維パウダー担持不織布を所定の形状に裁断し、不織布端部同士を重ねて熱融着させて、防護衣を作製した。不織布自体が柔軟であり、繊維パウダーの脱落もないため、防護衣として使用できることを確認できた。
【0105】
(実施例8)
1. 抗ウイルス不織布の作製
(1)抗ウイルス繊維の準備
実施例2と同様の方法で加工して得られた繊度15dtex、繊維長64mmのコバルト(II)フタロシアニンモノスルホン酸ナトリウム及びコバルト(II)フタロシアニンジスルホン酸ナトリウムが担持された抗ウイルスレーヨン繊維を準備した。
(2)抗ウイルス繊維Mの準備
実施例7と同様の方法で紡糸して得られた繊度7.8dtex、繊維長51mmの酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体が混合されたビスコースレーヨン繊維の試料を準備した。
(3)不織布の作製
繊度30dtex、繊維長64mmのポリエステル繊維を用意し、本発明の抗ウイルスレーヨン繊維40質量%と、抗ウイルス繊維M20質量%と、ポリエステル繊維40質量%を混合し、カード機を用いて開繊したカードウェブをクロスレイヤーで積層ウェブを作製した。次いで、アクリルバインダーを積層ウェブの両面にスプレーして、120℃、1分間乾燥し、150℃、3分間キュアリングして、ケミカルボンド不織布を作製した。アクリルバインダーは固形分で15質量%付着していた。目付は、60g/mとした。
【0106】
2. エアフィルターの作製
得られたケミカルボンド不織布を所定の大きさに裁断して、プラスチック製ユニットにはめ込んで、空気清浄機用プレフィルターを作製した。
【0107】
(実施例9)
1. 抗ウイルス不織布の作製
【0108】
(1)抗ウイルス繊維の作製
実施例2のカチオン化レーヨン繊維を十分に水にて洗浄した後、濃度1%owfの鉄(III)フタロシアニンモノスルホン酸及び鉄(III)フタロシアニンジスルホン酸が混合した水酸化ナトリウム溶液(pH=12)10L中に浸し、80℃で30分間撹拌し、レーヨン繊維を染色した。得られた染色レーヨン繊維を十分に水にて洗浄して乾燥し、鉄(III)フタロシアニンモノスルホン酸ナトリウム及び鉄(III)フタロシアニンジスルホン酸ナトリウムが担持された、繊度5.5dtex、繊維長51mmの本発明の抗ウイルスレーヨン繊維を用意した。
【0109】
(2)抗ウイルス繊維Mの準備
実施例7と同様の方法で紡糸して得られた繊度7.8dtex、繊維長51mmの酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体が混合されたビスコースレーヨン繊維(抗ウイルス繊維M)の試料を用意した。
【0110】
(3)不織布の作製
さらに実施例5で用いた鞘芯型複合繊維を用意した。本発明の抗ウイルス繊維40質量%と、抗ウイルス繊維M30質量%と、鞘芯型複合繊維30質量%を混合し、カード機を用いて開繊したカードウェブをクロスレイヤーで積層ウェブを作製した。次いで、140℃の熱風加工機で熱処理して、鞘芯型複合繊維の鞘成分を溶融させて、サーマルボンド不織布を作製した。目付は、60g/mとした。
【0111】
実施例9の試料における鳥インフルエンザウイルス(H5N3株)のウイルス力価を表5に示す。
【0112】
【表5】

【0113】
表5から、実施例9の試料を使用した尿膜腔液Bは、ウイルス液Aよりもウイルス力価が大幅に減少しており、ウイルス減少率が99%以上であった。これは、実施例9の抗ウイルス不織布に鳥インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果があることを示している。
【0114】
(実施例10)
1. 抗ウイルス織物の作製
実施例2のカチオン化レーヨン繊維と、実施例6と同様の方法で紡糸して得られた繊度1.4dtex、繊維長38mmの酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体が混合されたビスコースレーヨン繊維と、繊度1.45dtex、繊維長35mmの再生ポリエステル繊維(帝人ファイバー(株)製、商品名エコペット)を用いた。カチオン化レーヨン繊維25質量%とマレイン酸を含むレーヨン繊維25質量%と再生ポリエステル繊維50質量%が混紡された14番手の単糸(より係数4.3〜4.5)を作製した。次に、エアージェット織機を用いて、経糸89本/インチ、緯糸51本/インチ、3/1綾目の織物を作製した。
【0115】
次に、上記織物に対して、イオン染色法によりコバルト(II)フタロシアニンモノスルホン酸ナトリウム及びコバルト(II)フタロシアニンジスルホン酸ナトリウムが担持された本発明の抗ウイルス繊維を得た。その後、ジッカー染色機を用いて金属イオン加工を施した。繊維質量に対して0.5%owfの硫酸銅水溶液をジッカー染色機に添加し、織物を浸漬した。次いで、ニップロールで絞られた後、水洗槽で十分に水洗されて、120℃で乾燥して、銅イオンが担持した抗ウイルス繊維Mを含む織物の試料を得た。
【0116】
2. 作業衣の作製
実施例10の織物を所定の形状に裁断し、織物端部同士を重ねて縫製して、作業衣を作製した。着用性も良好であった。
【0117】
(実施例11)
1.抗ウイルス不織布の作製
実施例3と同様の方法で得られた繊度1.7dtex、繊維長38mmの抗ウイルス繊維を20質量%と、実施例7と同様の方法で紡糸して得られた繊度1.7dtex、繊維長38mmの酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体が混合された銅担持ビスコースレーヨン繊維(抗ウイルス繊維M)の試料を30質量%と、繊度2.2dtex、繊維長51mmのポリエステル系熱接着性複合繊維(ユニチカ(株)製、商品名メルティ)を50質量%用いた。これらの繊維を混合し、パラレルカード機を用いて繊維ウェブとし、水流交絡処理して、目付50g/mの抗ウイルス不織布を作製した。
【0118】
前記抗ウイルス不織布についてウイルス力価を測定したところ、尿膜腔液B(<100.75(EID50/0.2ml))は、ウイルス液A(106.75(EID50/0.2ml))よりもウイルス力価が大幅に減少し、99.999%のウイルス減少率であった。
【0119】
2. 抗ウイルスマスクの作製
得られた抗ウイルス不織布を、ポリプロピレンスパンボンド不織布の上に載置し、さらにポリプロピレンメルトブローン不織布とポリプロピレンスパンボンド不織布を重ね合わせて、縦15cm、横15cmに切断し、3段にプリーツ折りして、横方向の端の中央部に耳掛け紐を設け、シート端の四辺をヒートシール加工し、抗ウイルスマスクを作製した。
【0120】
この抗ウイルスマスクは、外側から内側(口側)に向けて保護不織布(スパンボンド不織布)/精密濾過用不織布(メルトブローン不織布)/抗ウイルス不織布/保護不織布(スパンボンド不織布)の構成とした。このマスクを装着したところ、息苦しさもなく、装着性も良好であった。
【0121】
(実施例12)
1. 抗ウイルス不織布の作製
実施例7の繊度7.8dtex、繊維長76mmの酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体が混合されたビスコースレーヨン繊維(本発明)の試料を30質量%と、実施例6と同様の方法で得られた繊度5.6dtex、繊維長76mmの抗ウイルス繊維Pを30質量%と、芯成分がポリプロピレン、鞘成分が高密度ポリエチレンからなる繊度2.2dtex、繊維長51mmの鞘芯型複合繊維(ダイワボウポリテック(株)製、NBF(H))を40質量%用いた。これらの繊維を混合し、パラレルカード機を用いて開繊したカードウェブを作製した。次いで、一対のエンボスロール/フラットロールからなる熱ロール加工機を用いて140℃で熱処理して、鞘芯型複合繊維の鞘成分を溶融し部分的に圧着(エンボス面積率約18%)させて、サーマルボンド不織布(抗ウイルス不織布)2種類を作製した。目付は、それぞれ15g/m、30g/mであった。
前記抗ウイルス不織布について、鳥インフルエンザウイルス(H5N3株)のウイルス力価を測定したところ、いずれも尿膜腔液B(<101.50(EID50/0.2ml))は、ウイルス液A(106.75(EID50/0.2ml))よりもウイルス力価が大幅に減少し、99.999%のウイルス減少率であった。
2. エアフィルターの作製
ポリエステル繊維とレーヨン繊維を混合したケミカルボンド不織布を支持体とし、その支持体の上にホットメルト剤を噴霧した後に、得られた抗ウイルス不織布を積層し、ホットメルト剤により一体化した。次いで、その抗ウイルス不織布の上にホットメルト剤を噴霧した後に、目付が約150g/mのエレクトレット不織布(精密フィルター層)を積層し、ホットメルト剤により一体化した。得られたシートは、プリーツ加工機によりプリーツ折りされて、プラスチック製ユニットにはめ込まれ、空気清浄機用フィルターを作製した。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の抗ウイルス剤は、本発明の抗ウイルス繊維の原材料として使用できる。また、本発明の抗ウイルス繊維を少なくとも一部に含む抗ウイルス繊維構造物は、糸、織編物、ウェブ、不織布、紙、ネット等に成形して、様々な繊維産業に使用できる。その抗ウイルス繊維構造物は、接触するウイルスを効果的に不活化させ、医療に役立つ。
【0123】
さらに、前記抗ウイルス繊維を少なくとも一部に含む抗ウイルス繊維製品は、例えば、衣類、寝具(布団、枕を含む)、カーテン、壁紙、カーペット、マット、シーツ、フィルター、マスク、ワイパー、タオル、防護衣類、防護ネット、廃鶏袋、鶏舎用品、医療用シートに形づくられて使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフルエンザウイルスに対して有効な抗ウイルス剤であって、下記式
【化1】

(式中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属)で示される金属フタロシアニンからなる抗ウイルス剤。
【請求項2】
インフルエンザウイルスに対して有効な抗ウイルス剤であって、下記I式
【化2】

(I式中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属、R、R、RおよびRは同一または異なる−COOH基または−SOH基、n1、n2、n3およびn4は0〜4で1≦n1+n2+n3+n4≦8を満たす正数)で示される金属フタロシアニン誘導体からなる抗ウイルス剤。
【請求項3】
該インフルエンザウイルスが鳥インフルエンザウイルスであることを特徴とする請求項1または2に記載の抗ウイルス剤。
【請求項4】
該鳥インフルエンザウイルスがA/whistling swan/Shimane/499/83(H5N3)株、及びA/Turkey/Wisconsin/1/66 (H9N2)株から選ばれる少なくとも1種類であることを特徴とする請求項3に記載の抗ウイルス剤。
【請求項5】
該インフルエンザウイルスがヒトインフルエンザウイルスであることを特徴とする請求項1または2に記載の抗ウイルス剤。
【請求項6】
該インフルエンザウイルスがブタインフルエンザウイルスであることを特徴とする請求項1または2に記載の抗ウイルス剤。
【請求項7】
上記I式中のMは、Fe、Co、Ni、およびCuから選択される金属、R、R、RおよびRは同一または異なる−COOH基または−SOH基、n1、n2、n3およびn4は0〜4で1≦n1+n2+n3+n4≦4を満たす正数で示される金属フタロシアニン誘導体であることを特徴とする請求項2に記載の抗ウイルス剤。
【請求項8】
下記I式
【化3】

(I式中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属、R、R、RおよびRは同一または異なる−COOH基または−SOH基、n1、n2、n3およびn4は0〜4で1≦n1+n2+n3+n4≦8を満たす正数)で示される金属フタロシアニン誘導体を有効成分に含む抗ウイルス剤が繊維に担持されている抗ウイルス繊維。
【請求項9】
上記I式中のMはFe、R、R、RおよびRは同一または異なる−COOH基、n1、n2、n3およびn4は0〜4で1≦n1+n2+n3+n4≦4を満たす正数で示される金属フタロシアニン誘導体であることを特徴とする請求項8に記載の抗ウイルス繊維。
【請求項10】
上記I式中のMはCo、R、R、RおよびRは同一または異なる−SOH基、n1、n2、n3およびn4は0〜1で1≦n1+n2+n3+n4≦2を満たす正数で示される金属フタロシアニン誘導体であることを特徴とする請求項8に記載の抗ウイルス繊維。
【請求項11】
請求項8に記載の抗ウイルス繊維を少なくとも一部に含むことを特徴とする抗ウイルス繊維構造物。
【請求項12】
請求項8に記載の抗ウイルス繊維を少なくとも一部に含み、衣類、寝具、カーテン、壁紙、カーペット、マット、シーツ、フィルター、マスク、ワイパー、タオル、防護衣類、防護ネット、廃鶏袋、鶏舎用品、医療用シートに形づくられた抗ウイルス繊維製品。

【公開番号】特開2010−30983(P2010−30983A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38488(P2009−38488)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000002923)ダイワボウホールディングス株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【出願人】(504322611)学校法人 京都産業大学 (27)
【Fターム(参考)】