説明

抗ウイルス剤の塩

本発明は、抗ウイルス剤、とくにヒトライノウイルス(HRV)などのピコルナウイルス科によって引き起こされる感染症の処置に有用な塩、およびそれらの調製法に関する。本発明は、また、ピコルナウイルス感染症の処置における、これらの塩の使用にも関する。本発明の塩は、とりわけHRVの処置における使用に適しているが、本発明は、また、ピコルナウイルス科の他のウイルスにも適用できることを理解されたい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス剤、とくにヒトライノウイルス(HRV)などのピコルナウイルス科によって引き起こされる感染症の処置に有用な塩、およびそれらの調製法に関する。本発明は、また、ピコルナウイルス感染症の処置における、これらの塩の使用にも関する。本発明の塩は、HRVの処置における使用にとりわけ適しているが、本発明は、また、ピコルナウイルス科の他のウイルスにも適用できることを理解されたい。
【0002】
背景技術
ヒトライノウイルス(HRV)は、特定のピコルナウイルスであり、もっとも一般的な呼吸器系の感染性ウイルス因子である。実際に、それらは「風邪」の主因である。ウイルス粒子は、短い一本鎖RNAを取り囲むモジュラータンパク質殻(カプシド)からなる。
【0003】
カプシド結合阻害剤として作用し、また、近年ヒトでの臨床治験の主題となった具体的な抗ピコルナウイルス性化合物の1つは、4−[2−[1−(6−メチル−3−ピリダジニル)−4−ピペリジニル]−エトキシ]安息香酸エステル、別名「ピロダビル」である。親油性のピロダビルは貧水溶性を示し、シクロデキストリンのホストを用いて、しばしば製剤化される。得られる複合体は、水性媒体への可溶性がより高く、鼻内噴霧などの手段によって薬物の送達が可能となる。しかし、ピロダビルのエステル部は、容易に内因性の解裂が起こるため、選択された賦形剤に関わらず、分子の生体利用率が低くなることが示された。さらにまた、コストの他に、シクロデキストリンホスト分子は、医薬品の製剤化において別の面で不利であることが示された(Int.J.Pharm.,2002,246,25−35)。有望な別の抗ピコルナウイルス性化合物である「プレコナリル」は、経口避妊製剤を使用している患者に悪影響を及ぼすことが示された。
【0004】
望ましい水溶性を示し、生理的条件において安定であり、有害な相互作用が少ない、抗ピコルナウイルス性化合物が明らかに必要である。さらに、このような化合物が比較的容易に生成され、固体および溶液の形態での保存に安定であることが望ましい。
【0005】
発明の概要
国際公開第2002/50045号には、とくに好都合な抗ピコルノウイルス特性を示すことが見出された、新規な抗ウイルス性化合物類を開示している。国際公開第2002/50045号の表3中の化合物35の2種の特定の酸付加塩、即ちリン酸塩および硫酸塩が、ピコルナウイルスの処置に現在までに提案された他の化合物よりも特別な利点を示す、という驚くべき発見が今なされた。化合物35(以下の式Iによって示された「遊離塩基」)は、HRV2(IC500.001μg/mL)およびHRV14(IC500.005μg/mL)の両方に対して、強力な活性を示すことが示された。これらの試験は、担体溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)を用いて実施した。式Iの化合物に付与された化学名は、6−{2−[1−(6−メチル−3−ピラジニル)−4−ピペリジニル]エトキシ}−3−エトキシ−1,2−ベンズイソキサゾールである。
【化1】

【0006】
本発明による遊離塩基(式I)の酸付加塩の、とくに好ましい化学量論形態は、
a)遊離塩基とリン酸(2当量)の酸付加塩、および
b)遊離塩基と硫酸(1当量)の酸付加塩
である。
【0007】
したがって、一側面では、本発明は、式Iの化合物の遊離塩基のリン酸(2当量)付加塩を提供する。
【0008】
別の側面では、本発明は、式Iの化合物の遊離塩基の硫酸(1当量)付加塩を提供する。
【0009】
これらの塩は、以下の有利な諸特性を有する。
a)遊離塩基と同程度の強力な生物的活性を示す(例えば、対ヒトライノウイルスEC50は、式Iの化合物の遊離塩基では14.4nMであり、式Iの化合物の遊離塩基のリン酸(2当量)付加塩では17.7nMである);
b)遊離塩基の他の塩および遊離塩基自体よりも、実質的に高い水溶性を有する;
c)容易に生成し、且つ単離が簡単である;および
d)容易に結晶化し、且つ、これらの結晶塩は母液中および単離された形態の両方で安定である。
【0010】
これらの諸特性は、生物学的に活性な分子の遊離塩基の塩が有する場合、また、取扱い、製剤化などに関し補助する場合、とくに望ましいと認識されている。
【0011】
別の側面では、本発明は、塩および1種もしくは複数の担体のいずれか一方、または両方を含む医薬組成物を提供する。
【0012】
別の側面では、本発明は、遊離塩基とリン酸を反応させるステップを含む、リン酸付加塩を生成する方法を提供する。好ましくは、遊離塩基を約2モル当量のリン酸、より好ましくは約1.8から2.2モル当量のリン酸と接触せしめる。
【0013】
別の側面では、本発明は、遊離塩基と硫酸を反応させるステップを含む硫酸付加塩を生成する方法を提供する。好ましくは、遊離塩基を約1モル当量の硫酸、より好ましくは約0.8から1.2モル当量の硫酸と接触せしめる。
【0014】
別の側面では、本発明は、それを必要とする対象における、ピコルナウイルス感染症を処置する方法であって、一方の塩または両方の塩を投与することを含む方法を提供する。
【0015】
別の側面では、本発明は、それを必要とする対象における、ピコルナウイルス感染症を予防する方法であって、一方の塩または両方の塩を投与することを含む方法を提供する。
【0016】
別の側面では、本発明は、それを必要とする対象に、ピコルナウイルス感染症を処置するための医薬製造における、一方の塩または両方の塩の使用を提供する。
【0017】
別の側面では、本発明は、それを必要とする対象に、ピコルナウイルス感染症を予防するための医薬製造における、一方の塩または両方の塩の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】走査型電子顕微鏡法(SEM)を用いて得られた、本発明の好ましい一態様による式Iの化合物のリン酸(2eq)付加塩の結晶の、目盛り付き画像を示す図である。
【図2】本発明の好ましい一態様による式Iの化合物のリン酸(2eq)付加塩のX線粉末回折スペクトルを示す図である。2θピークの計算値(±0.2°)は、3.3°、6.7°、12.8°、13.3°、14.1°、19.2°、20.0°、21.1°および22.4°である。
【図3】本発明の好ましい一態様による式Iの化合物の硫酸(1eq)付加塩のX線粉末回折スペクトルを示す図である。2θピークの計算値(±0.2°)は、3.3°、6.7°、13.2°、15.5°、15.9°、18.9°および22.9°である。
【図4】本発明の好ましい一態様によるビス−リン酸二水素塩について、表3および4に記載の試験1および試験2で得られた水分含量結果を表す図である。
【図5】本発明の好ましい一態様によるビス−リン酸二水素塩について、表3および4に記載の試験1および試験2で得られた無水物アッセイ値結果を表す図である。
【図6】本発明の好ましい一態様によるビス−リン酸二水素塩について、表3および4に記載の試験1および試験2で得られた関連物質の合計量の結果を表す図である。
【図7】本発明の好ましい一態様によるモノ硫酸塩のX線結晶構造であり、(a)は非対称単位(楕円が30%の確率を示すORTEP図)を示し、また、b)は、b軸沿いの充填を表す図である。
【図8】本発明の好ましい一態様によるビス−リン酸二水素塩のX線結晶構造であり、(a)は、HPOおよびHOの無秩序(disorder)を示す非対称単位(楕円が30%の確率を示すORTEP図)を示し、b)は、HO分子およびHPOの無秩序を除いた非対称単位を示し(楕円が30%の確率を示すORTEP図)、c)はb軸沿いの充填を示す図である。
【図9】本発明の好ましい一態様によるビス−リン酸二水素塩の典型的なHPLCクロマトグラムを表す図である。これらの条件下で分析中、塩は少なくともある程度解離していると推測できる。
【0019】
発明の詳細な説明
理論に拘束されることを望むものではないが、式Iの化合物中に存在する窒素原子の中で、ピペリジニル窒素原子のみが、酸によって容易にプロトン化されると考えられる。
【化2】

【0020】
分子内のその他2つの窒素原子含有部分(ベンズイソキサゾリルおよびピリダジニルである)は、相対的に弱塩基であり、また、これらの基のいずれかと強酸が反応した場合のみ、安定な酸付加塩を生成するものと考えられた。一方、遊離塩基の化合物は強酸の作用に敏感であることも考えられ、このことは、安定な塩の生成と分子の分解との間のバランスを達成するという、遊離塩基の水溶性の向上に対する別の難題をもたらした。
【0021】
遊離塩基(式I)と約1モル当量の硫酸の反応により、顕著なことに、分子の分解が全く観察されずに、ビス−プロトン化遊離塩基のモノ硫酸塩(式II)を生成するという驚くべき発見が今やなされた。本明細書において、この付加塩は、6−{2−[1−(6−メチル−3−ピリダジニル)−4−ピペリジニル]エトキシ}−3−エトキシ−1,2−ベンズイソキサゾール硫酸塩(1:1)を指す。「(1:1)」という用語は、式Iの遊離塩基のビス−プロトン化共役酸と硫酸ジアニオンのモル比を示す。
【化3】

【0022】
さらに、遊離塩基(式I)と約2モル当量のリン酸の反応により、やはりいかなる分解も観察されることなく、ビス−プロトン化遊離塩基のビス−リン酸二水素塩(式III)を生成する驚くべき発見がなされた。本明細書において、この付加塩は、6−{2−[1−(6−メチル−3−ピリダジニル)−4−ピペリジニル]エトキシ}−3−エトキシ−1,2−ベンズイソキサゾールビス−リン酸二水素塩(1:2)を指す。「(1:2)」という用語は、式Iの遊離塩基のビス−プロトン化共役酸とリン酸二水素アニオンのモル比を示す。
【化4】

【0023】
所与の活性化合物の所与の塩が、医薬品として使用するために適したものとなる、1つまたは複数の特性を示す場合があり得るが、これまでに発見されたこれら2種の塩の特性について、とくに驚くべきことは、それらの塩が、式Iの化合物の他の塩よりも実質的に優れていることである。
【0024】
式Iの遊離塩基と以下の酸類、酢酸、クエン酸、安息香酸、フマル酸、D−グルコン酸、臭化水素酸、塩酸、マレイン酸、硝酸、シュウ酸、リン酸、硫酸、L−(+)−酒石酸、トルエンスルホン酸、およびメタンスルホン酸の反応から生成した反応生成物の中で、硝酸、リン酸、硫酸、塩酸、シュウ酸、およびL−(+)−酒石酸から生成した塩のみが、さらに潜在的に医薬用途に適すると思われる、遊離塩基の塩または共結晶を生成することが実証された。
【0025】
硝酸と式Iの遊離塩基の反応から生成した酸付加塩は、最適とは言えない水溶性を示した。式Iの遊離塩基と酒石酸を接触させて生成した生成物は、実質的に共結晶性化合物であり、また、望ましい酸付加塩ではないことが後に示された。
【0026】
以下の技術を用いて、酸付加塩の特性を決定し、また、それらの塩の溶解度および安定性を決定した。
a)目視検査
b)ラマン分光法(塩/共結晶生成の決定)
c)X線粉末回折分光法(生成物の結晶性の決定)
d)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析(逆相、副生物生成の決定)
e)示差走査熱量測定(融点/分解温度決定)
f)元素分析(純度/吸湿性の決定)
g)溶解度決定(固体が必ず残存し、ろ過後の飽和溶液の濃度を、HPLCを用いて決定できるような条件下で、10mgの塩を、ある時間少量の水に接触させた。)
h)試験中の近赤外分光法およびラマン分光法、および試験終了時のHPLC分析による非侵襲的な特性決定を含めた、異なるストレス条件下での4週間保存(25℃で乾燥、25℃で相対湿度(rh)75%、25℃でrh90%、40℃で乾燥、40℃でrh75%、40℃でrh90%)。
【0027】
特性評価の方法およびパラメータのさらなる詳細は例5に示す。
【0028】
表1は、式Iの遊離塩基の酸付加塩について得られた比較結果を示す。暗色のセルは、医薬品としてその塩の使用が望ましくない結果を示す。塩2および4は水溶性および保存安定性に関して、他の塩よりも顕著に優れていることがわかる。シュウ酸:遊離塩基が2:1の塩の元素分析結果は予測された結果と一致しなかったため、1873mg/mLというやや高い溶解度は意味のある結果として考慮しなかった。
【表1】

【0029】
理論に拘束されることを望むものではないが、式Iの化合物の3つの塩基性窒素含有部分のうち2つは相対的に弱いが、塩の生成におけるそれらの関与が、必ずしも強酸の使用を暗示するものではない、ということは明らかであろう。リン酸は、硫酸、塩酸、および硝酸などの他の無機酸よりも弱い酸である。それにもかかわらず、非常に驚くべきことに、リン酸の付加塩(表1の塩4)は、結晶であるばかりでなく、幅広い条件下で安定であることが実証された。実際に、表1で見られるように、塩酸で生成された塩(表1の塩1)の安定性は、リン酸で生成された塩(表1の塩4)より劣っていた。
【0030】
さらに驚くべき結果は、遊離塩基の2重プロトン化により、遊離塩基の塩酸による単一プロトン化生成物よりも高い安定性を示す生成物(式IIおよびIIIの両方の塩)が得られることである。
【0031】
さらに、式IIIのビス−リン酸二水素塩の溶解度は、モノ−リン酸二水素塩(表1の塩3)の溶解度による外挿から予測されるものより大きいことは明らかであろう。
【0032】
ビス−リン酸二水素塩の安定性は、以下の試験パラメータを用いて試験を行った。
i)外観
ii)水分含量
iii)アッセイ値(無水物基準)
iv)関連化合物(個々の最大値として報告)
v)関連化合物(合計)
【0033】
ビス−リン酸二水素塩の規格を表2に示す。特性決定の方法、パラメータ、および典型的なHPLCによるアッセイ値データは例5に示す。
【表2】

【0034】
ビス−リン酸二水素塩のバッチ試料2つを、25℃/相対湿度60%の暗室で、それぞれ、12カ月間(試験1、バッチ1)および36カ月間(試験2、バッチ2)保存した。両バッチ試料を、また、40℃/相対湿度75%の加速条件下、暗室で6カ月間保存した。試料を、適切な時間間隔を設けて試験した。実寸大の一次パッケージ単位と同等の褐色ガラスビン中で試験を実施した。
【0035】
その結果は、表3(試験1)および表4(試験2)ならびに図4から図6に示すように、ビス−リン酸二水素塩の長期安定性を実証するものである。
【表3】


【表4】

【0036】
本発明の酸付加塩は、一見すると過不足のない(exact)モル比のアニオンとカチオンを用いて記載されている。しかしながら、該酸付加塩は、塩の生成に用いた反応条件により、塩、遊離塩基、および適切な場合には過剰の酸の混合物を含んでもよいことは理解される。例えば、1モル当量未満の硫酸(例えば0.7eq)が、式Iの遊離塩基と反応する場合、反応の単離生成物は、ある割合の式IIの塩とある割合の式Iの遊離塩基とを含む可能性が高い。しかし、混合物は、1モル当量の酸を用いて生成する塩の、多くの有利な特性を依然として示すことができる。同様に、2モル当量より多いリン酸(例えば、2.6eq)が、式IIの遊離塩基と反応する場合、単離生成物は、ある割合の式IIIの塩とある割合の過剰のリン酸とを含んでいる可能性が高い。しかし、混合物は、2モル当量の酸を用いて、このように生成した塩の、多くの有利な特性を依然として示すことができる。このような混合物は本発明の範囲に包含すると理解される。したがって、本発明の好ましい一態様では、式Iの化合物の酸付加塩を含む、より好ましくは、式Iの化合物の酸付加塩から本質的になる混合物を提供する。
【0037】
本発明は、また、式IIの塩を生成する方法であって、式Iの遊離塩基と硫酸を接触せしめることを含む方法も提供する。本発明は、また、式IIIの塩を生成する方法であって、式Iの遊離塩基とリン酸を接触せしめることを含む方法も提供する。塩の生成において、最終生成物は、式IIおよびIIIの塩の化学量論とは異なる化学量論の塩が、混ざる可能性があることが理解される。ある態様では、式IIの塩は、遊離塩基と0.5から1.5モル当量(好ましくは、0.9から1.1モル当量)の硫酸を接触させることによって生成する。ある態様では、式IIIの塩は、遊離塩基と1.5から2.5モル当量(好ましくは、1.8から2.2モル当量)のリン酸を接触させることによって生成する。それぞれの場合において、遊離塩基、および硫酸/リン酸を完全に溶解することができるが、式II/IIIの生成物塩については貧溶媒となる反応溶媒(単数または複数)を使用するのが好ましい。イソプロパノールは、ビス−リン酸二水素塩の生成には好ましいが、エタノール、およびそれ程ではないがメタノールは、他の代替例を提供する。リン酸および硫酸はどちらも、ある量の水をしばしば含有することが理解される。反応溶媒を適切に選択することは、母液からの塩の分離を容易にするものであって、本技術分野でよく知られた技術である。別法として、硫酸自体またはリン酸自体のいずれかを使用することにより、溶媒の使用を避け得ることもできる。いかなる場合においても、標準的な技術を有する化学者であれば、塩の生成の最適化、および/または塩生成に続く反応混合物からの塩の回収を最適化するために、反応中および/または反応後、反応混合物の温度を容易に変更することが理解される。例えば、溶液中に残る塩の量を低下させるために、反応混合物を冷却する前に、遊離塩基および酸の溶解および/または完全な混合を促進するように、初めに加熱してもよい。
【0038】
本発明の酸付加塩は、本質的に結晶形態で存在することが好ましいが、このような化合物は、例えば、固体生成物が生成する条件に応じて、部分的に結晶、またはさらにアモルファス形態で存在してもよいことが理解される。これらの形態も、本発明が意図するものである。ある結晶性化合物は、異なる結晶形態、つまり多形として知られている現象、で存在してもよいことがさらに理解される。これらの個々の結晶形態、およびその混合物も、本発明が意図するものである。当業者であれば、式Iの遊離塩基に酸が作用することによって生成する固体の性質に影響を及ぼす多くの異なるパラメータを変更することができることを認識すると思われる。
【0039】
本発明は、また、式IIおよびIIIの酸付加塩の溶媒和物(水和物を含む)にも関する。結晶化に使用する溶媒は、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、i−PrOH)、アルデヒド類、ケトン類(例えば、アセトン)、エステル類(例えば、酢酸エチル)および水を含んでよく、それらの各々は塩生成物中に、ある程度必然的に取り込まれる可能性がある。塩生成物中の溶媒分子(単数または複数)の量および位置は、結晶化溶媒(単数または複数)、結晶化時の温度、結晶化時の圧力、結晶化速度、分子間および分子内力、単離に続く保管および乾燥条件などの要因で決まる。好ましくは、塩生成物の生成に使用する溶媒は、医薬として許容されるものである。
【0040】
本発明は、また、本発明の塩の1つまたは両方を、好ましくは、治療上有効な量で、1種または複数の医薬として許容される固体および/または液体の担体と一緒に含む、固体および液体の医薬組成物も提供する。本明細書で使用する「医薬として許容される担体」という用語は、充填剤、希釈剤、賦形剤、添加物、またはカプセル化用物質などの用語を包含し、局所、局部、または全身投与において、安全に使用することができるものである。本発明の医薬として活性な誘導体は、着香料、安定化剤、潤沢剤、懸濁剤、結合剤、保存剤、錠剤崩壊剤、およびカプセル化用材料などの本技術分野でよく知られた医薬として許容される担体で容易に製剤化することができる。このような担体は、本発明の化合物を、錠剤、粉剤、カシェ剤、トローチ剤、丸剤、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー剤、懸濁剤などの剤形で製剤化することを可能にする。これらの担体は、本技術分野でよく知られており、糖類、スターチ類、セルロースおよびその誘導体、麦芽、ゼラチン、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、硫酸カルシウム、植物油、合成油、多価アルコール類、アルギン酸、リン酸緩衝溶液、乳化剤、ペクチン、トラガカント、低融点ワックス、ココアバター、等張食塩水、および発熱物質を含有しない(pyrogen−free)水を含むことができる。
【0041】
本発明の塩の驚くべき特性が、当該塩は固体の医薬組成物の使用にとくに適したものにする。例えば、これらは吸湿性に乏しいので取扱い(秤量、輸送など)を容易にするばかりでなく、それらの安定性は合成および単離後の保存期間の伸長を容易ならしめる。とくに、経口用の医薬組成物は、必要な場合、錠剤または糖衣錠コア(dragee core)を得るために、適切な助剤を添加した後、活性化合物と固体の賦形剤を一緒に混合し、場合により得られた混合物を粉砕および顆粒混合物を加工することによって得ることができる。適切な賦形剤は、糖類(ラクトース、グルコース、スクロース、マニトール、またはソルビトールを含む)、および、とうもろこしでんぷん、小麦でんぷん、米でんぷん、じゃがいもでんぷん、ゼラチン、トラガントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル−セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース調製品、およびポリビニルピロリドン(PVP)などの充填剤を含む。所望により、架橋化ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸またはその塩(アルギン酸ナトリウムなど)などの崩壊剤を加えてもよい。本発明は、また、適切な被覆剤を含む糖衣錠コアも提供する。この目的のために、濃縮糖の溶液を使用してよく、場合により、アラビアガム、タルク、ポリビニルピロリドン、カーボポールゲル、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラッカー溶液、ならびに適切な有機溶媒または溶媒混合物を含んでもよい。識別用または活性化合物の用量の異なる組合せを特徴付けるために、色素または顔料を錠剤または糖衣に加えてもよい。
【0042】
好ましい態様において、本発明による式Iの化合物の酸付加塩を含む医薬組成物は経口送達用途に製剤化する。
【0043】
経口的に使用することができる医薬品は、ゼラチン製の押し型カプセル、ならびにゼラチンおよびグリセロールまたはソルビトールなどの可塑剤から作製されるソフトな密封カプセルを含む。押し型カプセルは、ラクトースなどの充填剤、でんぷんなどの結合剤、および/または、タルクまたはステアリン酸マグネシウムなどの潤沢剤、および、場合により、安定化剤との混合物中に、活性成分を含有することができる。ソフトカプセルの場合、活性化合物は、脂肪酸、液状パラフィン、または液状ポリエチレングリコールなどの適切な液体に溶解、または懸濁してよい。さらに、安定化剤を添加してよい。
【0044】
本発明の各塩の比較的高い水溶性のおかげで、各塩は極性(とくに水性)溶媒(単数または複数)を含む医薬組成物での使用に適したものとなる。とくに、本発明が提供する液体医薬組成物は、当業者に既知の許容される希釈剤および担体を含有してよく、生理食塩水、滅菌水、エトキシ化および非エトキシ化界面活性剤、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、脂肪アルコール、脂肪酸、炭化水素油(パーム油、ココナッツ油、および鉱油など)、ココアバターワックス、シリコンオイル、pH平衡剤、セルロース誘導体、非イオン性有機および無機塩基などの乳化剤、合成ゴム、樹脂、保存剤、ワックスエステル、ステロイドアルコール類、トリグリセリドエステル類、レシチンおよびセファリンなどのリン脂質類、多価アルコールのエステル類、脂肪アルコールのエステル類、親水性ラノリン誘導体、親水性蜜ロウ誘導体、およびゲスト分子(例えば、本発明の塩)の一部の溶媒への曝露を改変できるシクロデキストリン(例えば、α−、β−、および/またはγ−シクロデキストリン)などのホスト分子が含まれるが、それらに限定されない。
【0045】
本発明の組成物は、また、噴霧器(nebuliser)用の鼻もしくは肺吸入エアロゾルもしくは溶液として、または吸入用超微細粉剤(好ましくは、サイズが1から10ミクロン以下の程度の粒子)として、単独またはラクトースなどの不活性な担体、または他の医薬として許容される賦形剤と組み合わせて、気道に投与してもよい。エアロゾルは、クロロフルオロカーボン(CFC)、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の適切なガスなどの適切な噴射剤と共に、加圧パックで塩が提供されるものを含む。エアロゾルは、また、レシチンなどの界面活性剤を都合よく含有してもよい。薬物の用量は、計量バルブを備えることによって制御することができる。塩は、また、鼻腔内でゲルを生成する医薬製剤で提供してもよい。粉剤組成物は、例えば(例えばゼラチンの)カプセルまたはカートリッジ、またはそれらから吸入器によって粉剤を投与し得るブリスターパックの単位用量形態で提供してもよい。
【0046】
したがって、さらに別の好ましい態様では、本発明による式Iの化合物の酸付加塩を含む医薬組成物を鼻腔内送達用に製剤化する。
【0047】
本発明の医薬組成物は、活性化合物の徐放用途に提供してよい。
【0048】
本発明の医薬組成物は、好ましくは単位剤形で提供する。
【0049】
本発明の医薬組成物は、また、1種または複数の他の治療用、および/または予防用の成分を含んでもよい。本発明の塩は、既知の抗ウイルス剤または抗レトロウイルス剤、またはウイルス感染症の処置に使用する他の医薬品と組み合わせても有用となり得る。このような追加的な医薬品の代表例には、免疫調節剤、免疫賦活剤、抗生物質、および抗炎症剤が含まれる。例示的な抗ウイルス剤は、ザナミビル、リマンチジン、アマンチジン、リバビリン、AZT、3TC、(−)FTC、アシクロビル、ファムシクロビル、ペンシクロビル、ddI、ddC、ガンシクロビル、サキナビル、ロビリド、その他の非ヌクレオシド逆転写酵素(RT)阻害剤およびプロテアーゼ阻害剤、抗ウイルスおよび抗受容体抗体、ならびにICAM−1などの受容体類似体を含む。例示的な免疫調節剤および免疫賦活剤は、種々のインターロイキン、サイトカインおよび抗体調製物を含む。例示的な抗生物質は、抗真菌剤および抗細菌剤を含む。例示的な抗炎症剤は、グルココルチコイドおよび非ステロイド系抗炎症化合物を含む。
【0050】
本明細書で使用する「有効量」という用語は、処置または予防を必要とする対象に、単一用量、または一連の一部として、望ましい結果をもたらすのに有効な1種または複数の活性物質の量に関する。このような効果は、例えば、特定のウイルス(単数または複数)粒子数の減少によって、または対象の症状の軽減によって測定することができる。有効量は、処置する個体の健康状態および体調、処置する対象の分類学的グループ、組成物の剤形、医学的状態に関する診断、および他の関連要因に依存して変わるであろう。投与する医薬としての活性化合物(単数または複数)の量は、対象の年齢、性別、体重および一般的な健康状態を含めて処置する対象に依存してよい。有効量は、決まった手順の試験によって決定することができる、比較的幅広い範囲に包含するであろう。ある場合において、「有効量」の活性成分の投与は、対象の症状および/または関連するウイルス粒子数について、50%の減少が生じることがある。対象に投与する活性化合物の用量は、ウイルス感染症の症状の低下または緩和など、時間の経過に伴って、対象の有益な応答を達成するのに十分な量とすべきである。この点において、投与向けの活性化合物(単数または複数)の正確な量は、医師の判断で決まるであろう。投与すべき活性化合物(単数または複数)の有効量の決定に際しては、ウイルス感染症と関連する症状の重篤度、および/またはウイルス感染症の程度を決定するある別の手段を、医師が評価してよい。したがって、100mgの活性成分、またはもっと幅広く1錠当たり0.1から400mgを含む製剤が、単位用量形態の適切な典型例である。
【0051】
本明細書で使用する「対象」または「個体」または「患者」という用語は、互換的に使用してよく、処置または予防が望まれる任意の対象、好ましくは脊椎動物の対象、およびさらにより好ましくは、哺乳動物の対象を指す。もっとも好ましくは、対象はウイルス、好ましくは、ピコルナウイルス科ファミリー、とくにHRVの処置または予防を必要とするヒトである。
【0052】
したがって、別の側面では、本発明は、それを必要とする対象における、ピコルナウイルス感染症を処置する方法であって、式IIおよび/または式IIIの塩を投与することを含む方法を提供する。
【0053】
別の側面では、本発明は、それを必要とする対象における、ピコルナウイルス感染症を予防する方法であって、式IIおよび/または式IIIの塩を投与することを含む方法を提供する。
【0054】
別の側面では、本発明は、それを必要とする対象のピコルナウイルス感染症を処置するための医薬の製造における、式IIおよび/または式IIIの塩の使用を提供する。
【0055】
別の側面では、本発明は、それを必要とする対象のピコルナウイルス感染症を予防するための医薬の製造における、式IIおよび/または式IIIの塩の使用を提供する。
【0056】
ピコルナウイルス感染症は、ピコルナウイルス科ファミリーの任意のウイルスによって引き起こすことができる。代表的なファミリーメンバーは、ヒトライノウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルスおよびエコーウイルスを含むエンテロウイルス、ヘパトウイルス、カーディオウイルス、アフトウイルス、A型肝炎、ならびにこれらウイルスの1種または複数の血清型を含めた特定の属に未だ帰属が決定していない他のピコルナウイルスを含む。好ましくは、本発明は、1種または複数の血清型のライノウイルスが引き起こす感染症の予防または処置に使用する。
【0057】
本明細書で使用する「処置」および「処置する」という用語は、対象、好ましくは哺乳動物(非ヒト哺乳動物またはヒト)、より好ましくはヒトの状態または疾患の任意の処置を包含し、また、(i)ウイルス感染症を阻止する、即ちその増殖を抑止する、(ii)感染症を緩和する、即ち感染症の重篤度を低減する、または(iii)感染症によって引き起こされる状態、即ち感染症の症状を緩和する、ことを含む。本明細書で使用する「予防」および「予防する」という用語は、対象、好ましくは哺乳動物(非ヒト哺乳動物またはヒト)、より好ましくはヒトの状態または疾患の防止または予防を包含し、また、感染症にかかりやすい恐れがあるが、まだ感染したと診断されていない対象に、ウイルス感染症が起こるのを防止することを含む。
【0058】
次にいくつかの例を参照しながら、本発明を説明する。本発明について以下に記載される個別性(particularity)は、前記した本発明についての一般性(generality)に代わるものではないことを理解されたい。
【0059】
(例1)
6−{2−[1−(6−メチル−3−ピリダジニル)−4−ピペリジニル]エトキシ}−3−エトキシ−1,2−ベンズイソキサゾールリン酸塩[式III]
【化5】


式Iの遊離塩基(1kg)をイソプロパノール(24L)に加えた。懸濁液を加熱して還流し、塩基を溶解した。イソプロパノール(2.3L)中のリン酸水溶液(81% w/w、0.63kg、2.1eq)を80℃に加熱した後、遊離塩基の還流溶液に、かき混ぜながら素早く加えた。直ちに沈殿物が生成した。スラリーを78℃から82℃の間で5分間加熱した後、室温に冷却した。固体生成物をイソプロパノール(3×10L)、次にアセトン(3×10L)で洗浄した後、減圧下40℃で一定の質量になるまで乾燥し、鮮黄色結晶性固体として表題の化合物を得た(1.5kg、97%)。
【0060】
(例2)
6−{2−[1−(6−メチル−3−ピリダジニル)−4−ピペリジニル]エトキシ}−3−エトキシ−1,2−ベンズイソキサゾール硫酸塩[式II]
【化6】


式Iの遊離塩基(1g)のテトラヒドロフラン(52mL)溶液を、硫酸の水溶液(0.05M、52mL、1eq)に加えた。混合物はすぐに濁った。以下の減圧プログラムに従い、室温で溶媒をゆっくり除去して塩を単離した。
【表5】

【0061】
(例3)
サイズ0の褐色ゼラチン製ハードカプセルに塩を充填することにより、式IIIの塩を含む医薬組成物を調製し、無水グルコースで重量を整えた。カプセルの組成を表5にまとめた。
【表6】

【0062】
(例4):X線結晶解析法
X線結晶構造は、メタノールから再結晶化した後のモノ硫酸塩およびビス−リン酸二水素塩について取得した。
(i)モノ硫酸塩(分子式[C2128](SO))
モノ硫酸塩の再結晶化のために、6種の異なる溶媒(エタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、および2−プロパノール)を評価した。高温において、メタノールにおける塩の溶解度が一番高いことを示したので、これを選択した。20mgのモノ硫酸塩を40℃の温メタノールに溶解し、次に室温までゆっくり冷却すると黄色結晶が生成した。黄色結晶を、グラファイト−モノクロメータを備えたStoe Mark II−Imaging Plate Diffractometer System(Stoe&Cie、2002)上にマウントした。
【0063】
データの収集は、Mo−Kα照射(λ=0.71073Å)を用いて、−100℃で実施した。135mmの画像プレート距離、φ=0°、および)<ω<180°で、1露光当たり10分で180露光を取得し、結晶はωについて1°ずつ振動した。解像度はDmin−Dmax0.82−24.00Åであった。
【0064】
モノ硫酸塩は、中心対称性の単斜格子、空間群P2/cに結晶化した。この化合物の構造は、プログラムSHELXS−97(Sheldrick,G.M.,Acta Cryst.(2008)A64,112−122)を利用して、直接法により解き、また、SHELXH−97を用いた、Fのフルマトリックス最小二乗法(full matrix least squares)(Spek,A.L.J.Appl.Cryst.(2003)36,7−13)により精密化した。N−H水素原子は、差フーリエマップから導き、次に、ライディング原子(riding atom)として取り扱い、一方、残りの水素原子は計算位置に直接含め、SHELXL−97のデフォルトパラメータを用いてライディング原子として取り扱った。非水素原子を全て異方的に精密化した。吸収の修正は適用しなかった。結晶は、そのサイズ(0.50×0.45×0.03mm)に関連して、微弱に回折するのみであった。結晶は、非常に薄い板状として得られた。構造は、結合距離および角度について、許容標準不確かさを利用して精密化した。
【0065】
モノ硫酸塩のX線結晶データ
結晶データ
結晶形状:板状;結晶色:黄色;結晶サイズ:0.50×0.45×0.03mm;実験式:C2128S;式量:480.53;晶系:単斜;空間群:P21/c;格子定数:a=22.578(4)A α=90°;b=13.175(2)A β=94.746(15)°;c=7.4843(13)A γ=90°;容積:2218.7(7)A;格子精密化パラメータ:反射1873;角度範囲2.38<θ<21.30;
Zは4;
密度(計算値)1.439g/cm;放射線はMoK\aを使用した;波長0.71073A;線吸収係数0.198mm−1;温度173(2)°K
【0066】
データ収集の詳細
回折計STOE IPDS2;スキャン方法は回転法;測定反射数12038;独立した反射数2889;観測した反射数1060;認定基準>2σ(I);R(int)=0.2485;データ収集のためのθ範囲1.79から22.50°;指数範囲24<=h<=24、−14<=k<=14、−8<=l<=8;F(000)1016
【0067】
精密化の詳細
精密化法 Fのフルマトリックス最小二乗法;最終Rインデックス[I>2σ(I)]R1=0.1022、wR2=0.2222;Rインデックス(全データ)R1=0.2264、wR2=0.2816;R1[=SUM(||Fo|−|Fc||)/SUM|Fo|];wR^2{=[SUM(w(Fo^2−Fc^2)^2)/SUM(wFo^4)]^1/2};H位置決定および精密化法 構成;使用反射数2889;L.S.拘束数4;精密化パラメータ数298;Fの適合度0.892;S{=[SUM w(Fo^2−Fc^2)^2]/(n−p)^1/2} n=反射数;p=使用パラメータ;計算値 w=1/[\s^2^(Fo^2^)+(0.1225P)^2^];式中P=(Fo^2^+2Fc^2^)/3;最大Δ/σ0.000;最大電子密度0.374e.A−3;最小電子密度−0.538e.A−3
【0068】
使用したコンピュータプログラム
データ収集プログラムSTOE X−AREA;格子精密化プログラムSTOE X−AREA;データ換算プログラムSTOE X−RED;構造決定プログラムSHELXS−97(Sheldrick、1990);構造精密化プログラムSHELXL−97(Sheldrick、1997)
【0069】
(ii)ビス−リン酸二水素塩一水和物(分子式{[C2128](HPO(HO)})
ビス−リン酸二水素塩の再結晶化のために、6種の異なる溶媒(エタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、および2−プロパノール)を評価した。高温において、メタノールにおける塩の溶解度が一番高いことを示したので、これを選択した。20mgのモノ硫酸塩を40℃の温メタノールに溶解し、次に室温までゆっくり冷却すると黄色結晶が生成した。黄色結晶を、グラファイト−モノクロメータを備えたStoe Mark II−Imaging Plate Diffractometer System(Stoe&Cie、2002)上にマウントした。
【0070】
データの収集は、Mo−Kα照射(λ=0.71073Å)を用いて、−100℃で実施した。135mmの画像プレート距離、φ=0°、および<ω<180°で、1露光当たり10分で180露光を取得し、結晶はωについて1°ずつ振動した。解像度はDmin−Dmax0.82−24.00Åであった。
【0071】
ビス−リン酸二水素塩は、中心対称性の単斜格子、空間群C2/cに結晶化した。この化合物は、2個のHPOアニオンおよび強く無秩序化した1個の水分子と共にジカチオンとして結晶化した。無秩序は、2つのアニオンのうちの1つに見られ、原子O9、O10、O11、O9a、O10aおよびO11a(占有率0.5)に部分的に占有した。水素原子は、HPOアニオンには見られなかったが計算には含まれる。無秩序化し、且つ部分占有した水分子を等方的に精密化した。水素原子は水分子に見られなかったが、計算には含まれる。
【0072】
この化合物の構造は、プログラムSHELXS−97(Sheldrick,G.M.,Acta Cryst.(2008)A64,112−122)を利用して、直接法により解き、また、SHELXH−97を用いて、Fのフルマトリックス最小二乗法(Spek,A.L.J.Appl.Cryst.(2003)36,7−13)により精密化した。N−H水素原子は、差フーリエマップから導き、次に、ライディング原子として取り扱い、一方、残りの水素原子は計算位置に直接含め、且つSHELXL−97のデフォルトパラメータを用いてライディング原子として取り扱った。非水素原子は全て異方的に精密化した。吸収の修正は適用しなかった。結晶は、そのサイズ(0.45×0.40×0.05mm)に関連した微弱に回折したのみであった。結晶は、非常に薄い板状として得られた。構造は、結合距離および角度について許容標準不確かさを利用して精密化した。
【0073】
ビス−リン酸二水素塩のX線結晶データ
結晶データ
結晶形状:板状;結晶色:黄色;結晶サイズ:0.45×0.40×0.05mm;実験式:C213412P;式量:596.46;晶系:単斜;空間群:C2/c;格子定数:a=54.964(14)A α=90°;b=12.692(2)A β=91.931(18)°;c=7.8918(15)A γ=90°;容積:5502(2)A;格子精密化パラメータ:反射4485;角度範囲
1.48<θ<21.98;
Zは8である;
密度(計算値)1.440g/cm;放射線はMoK\aを使用した;波長0.71073A;線吸収係数0.226mm−1;温度173(2)K
【0074】
データ収集の詳細
回折計STOE IPDS2;スキャン方法は回転法;測定反射数19426;独立した反射数3608;観測した反射数1416;認定基準>2σ(I);R(int)=0.2505;データ収集のためのθ範囲1.48から22.50°;インデックス範囲−58<=h<=58、−13<=k<=13、−8<=l<=8;F(000)2512
【0075】
精密化の詳細
精密化法 Fのフルマトリックス最小二乗法;最終Rインデックス[I>2σ(I)]R1=0.0995、wR2=0.2330;Rインデックス(全データ)R1=0.2114、wR2=0.2823;R1[=SUM(||Fo|−|Fc||)/SUM|Fo|];wR^2{=[SUM(w(Fo^2−Fc^2)^2)/SUM(wFo^4)]^1/2};H位置決定および精密化法 構成;使用反射数3608;L.S.拘束数7;精密化パラメータ数342;Fの適合度0.928;S{=[SUM w(Fo^2−Fc^2)^2]/(n−p)^1/2} n=反射数;p=使用パラメータ;計算値 w=1/[\s^2^(Fo^2^)+(0.1225P)^2^];式中P=(Fo^2^+2Fc^2^)/3;最大Δ/σ0.000;最大電子密度0.610e.A−3;最小電子密度−0.417e.A−3
【0076】
使用したコンピュータプログラム
データ収集プログラムSTOE X−AREA;格子精密化プログラムSTOE X−AREA;データ換算プログラムSTOE X−RED;構造決定プログラムSHELXS−97(Sheldrick、1990);構造精密化プログラムSHELXL−97(Sheldrick、1997)
【0077】
(例5):塩の特性決定法およびパラメータ
本発明の塩は、以下の方法およびパラメータを用いて特性決定を行った。
【0078】
ラマン測定のパラメータ
分光計:Bruker社RFS100/Sラマン分光計
励起レーザー出力:400mW
解像度:2cm−1
スキャン数:128
捕捉範囲:3300〜0cm−1
アパーチャー(Aperture):5.0mm
バイアルのタイプ:RPD96ウェルプレートフォーマットガラスバイアルまたはFEPライニング付きRPD96ウェルプレートフォーマットガラスバイアル
試料位置:最良のシグナル強度となるよう最適化した。
スペクトル前処理:ベースラインを直線に補正、規格化
【0079】
NIR測定のパラメータ
分光計:Brucker社Vector22近赤外線分光計
解像度:2cm−1
スキャン数:64
捕捉範囲:833〜2500nm
アパーチャー:5.0mm
バイアルのタイプ:RPD96ウェルプレートフォーマットガラスバイアル
スペクトル前処理:ベースラインを直線に補正
【0080】
CCD写真取得
カメラ:Sony社XCD−C710CR
対物レンズ:Navitar Precision Eye(Body tube art.no.1−61449取り付け具付き 1.33×(art.no.1−41448)および0.5×(art.no.;1−60110)
【0081】
X線粉末回折
分光計:Stoe Stadip回折計
検出器/形状:位置敏感型検出器/デバイ−シェラー(Debye−Scherrer)形状
X線源:CuKα;測定モード:0.5mmキャピラリーに透過
【0082】
元素分析
元素組成を決定するために、以下の方法を用いた。
C、H、N:熱分解、および燃焼排ガス流の定量測定(Instrument Leco−900)
Cl:Schoeniger法による分解後、イオンクロマトグラフィーによる決定
S:熱分解、およびIR検出器(Instrument LECO−CHN−932)を用いた燃焼排ガス流の定量測定
P:マイクロ波による分解後、光度測定
【0083】
DSC分析
DSC分析は、Mettler Toledo社の示差走査熱量測定器で、5℃/分の加熱速度で実施した。
【0084】
溶解度測定
約10mgの酸付加塩を、脱イオン水を用いて、25℃で24時間平衡化した。懸濁液をろ過し、遊離塩基の含量をHPLCによって測定し、また、飽和溶液のpHを測定した。
【0085】
HPLC分析
酸付加塩の試験溶液は、アセトニトリル:エタノール=1:1中に、10.0mgの塩を溶解することにより調製し、1.0mg/mLの濃度に希釈した。
クロマトグラフ: TSP−
検出器 Spectra−Physics SP877 XR
層厚:8mm
検出波長:230nm(UV検出)
出力電圧:1V
カラム: Nucleosil C18
粒子サイズ:5μm
カラム長:250mm
カラム内径:4.0mm
カラム温度: 室温
試料量: 参照溶液/試験溶液10μl
流速: 1.0ml/分
【表7】


評価:面積%の計算値
【0086】
ビス−リン酸二水素塩のHPLCアッセイデータの例
クロマトグラフ条件
装置: UV検出器を備えたHPLCシステム
カラム: Waters社Symmetry、C8、5μm、150mm×3.9mm
カラム温度: 25℃
検出器波長: 265nm
流速: 1.0mL/分
注入量: 10μL
移動相: 0.1M KHPO(pH3.0):メタノール(45:55)
分析時間: 30分
希釈液: 移動相
ニードル洗浄: メタノール(100%)
これらの条件では、ビス−リン酸二水素塩の保持時間は、約9から11分である。
例示的なHPLCクロマトグラムを、以下のピーク結果を有する図9に示す。
【表8】

【0087】
安定性
約30mgの塩を96ウェルガラスバイアル中で、4週間、以下の条件下で保存した。
・25℃/乾燥
・25℃/相対安定性75%
・40℃/乾燥
・40℃/相対安定性75%
試験試料の保存中、事前選択した時点において、NIRおよびラマンスペクトルを得た(非侵襲的)。ラマンおよびNIRスペクトルデータ群は、試験物質の吸湿性(NIR)、形態的変化(NIRおよびラマン)および化学変化に関して解析した。試験物質のHPLC分析は、保存期間終了時に実施した。
【0088】
本明細書および以下に続く特許請求の範囲を通して、文脈上異なる解釈を要する場合を除き、「を含む(comprise)」の語、ならびに「を含む(comprises)」および「を含んでいる(comprising)」などの変形は、明示した整数もしくは工程または整数もしくは工程の一群を含むことを意味するが、その他のいかなる整数もしくは工程または整数もしくは工程の一群を除外することを意味するものではないと理解される。
【0089】
本明細書における、任意の先行技術文献(もしくはそれから導かれる情報)、または任意の既知の事項への参照箇所は、該先行技術文献(もしくはそれから導かれる情報)または既知の事項が、本明細書が関連する技術分野(field of endeavour)における技術常識の一部を形成するということの認識または承認あるいはいかなる形態での示唆をも意図するものではない。また、意図するものと解釈するべきでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物:6−{2−[1−(6−メチル−3−ピリダジニル)−4−ピペリジニル]エトキシ}−3−エトキシ−1,2−ベンズイソキサゾールビス−リン酸二水素塩(1:2)。
【請求項2】
2θピークが、3.3°、6.7°、12.8°、13.3°、14.1°、19.2°、20.0°、21.1°および22.4°のX線粉末回折パターンを有する、請求項1に記載の化合物:6−{2−[1−(6−メチル−3−ピリダジニル)−4−ピペリジニル]エトキシ}−3−エトキシ−1,2−ベンズイソキサゾールビス−リン酸二水素塩(1:2)。
【請求項3】
化合物:6−{2−[1−(6−メチル−3−ピリダジニル)−4−ピペリジニル]エトキシ}−3−エトキシ−1,2−ベンズイソキサゾール硫酸塩(1:1)。
【請求項4】
2θピークが、3.3°、6.7°、13.2°、15.5°、15.9°、18.9°および22.9°のX線粉末回折パターンを有する、請求項3に記載の化合物、6−{2−[1−(6−メチル−3−ピリダジニル)−4−ピペリジニル]エトキシ}−3−エトキシ−1,2−ベンズイソキサゾール硫酸塩(1:1)。
【請求項5】
本質的に結晶である、請求項1から4までのいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
生理的に許容される溶媒和物または水和物の形態である、請求項1から5までのいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか一項に記載の化合物から本質的になる混合物。
【請求項8】
請求項1から6までのいずれか一項に記載の化合物を、1種または複数の医薬として許容される担体と一緒に含む医薬組成物。
【請求項9】
さらにグルコースを含む、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
経口送達用に製剤化されている、請求項8または請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
鼻腔内送達用に製剤化されている、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項12】
請求項1から6までのいずれか一項に記載の化合物、または請求項8から11までのいずれか一項に記載の医薬組成物を、処置を必要とする患者に投与するステップを含む、ピコルナウイルス感染症を処置する方法。
【請求項13】
請求項1から6までのいずれか一項に記載の化合物、または請求項8から11までのいずれか一項に記載の医薬組成物を、予防を必要とする患者に投与するステップを含む、ピコルナウイルス感染症を予防する方法。
【請求項14】
ピコルナウイルス感染症が、ヒトライノウイルス(HRV)、ポリオウイルス、コクサッキーウイルスおよびエコーウイルスを含むエンテロウイルス、ヘパトウイルス、カーディオウイルス、アフトウイルスならびにA型肝炎から選択される、請求項12または請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ピコルナウイルス感染症が、ヒトライノウイルス(HRV)である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ピコルナウイルス感染症を処置するための医薬の製造における、請求項1から6までのいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項17】
ピコルナウイルス感染症を予防するための医薬の製造における、請求項1から6までのいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項18】
ピコルナウイルス感染症が、ヒトライノウイルス(HRV)、ポリオウイルス、コクサッキーウイルスおよびエコーウイルスを含むエンテロウイルス、ヘパトウイルス、カーディオウイルス、アフトウイルスならびにA型肝炎から選択される、請求項16または請求項17に記載の使用。
【請求項19】
ピコルナウイルス感染症が、ヒトライノウイルス(HRV)である、請求項16または請求項17に記載の使用。
【請求項20】
6−{2−[1−(6−メチル−3−ピリダジニル)−4−ピペリジニル]エトキシ}−3−エトキシ−1,2−ベンズイソキサゾールを、約2モル当量のリン酸と接触させるステップを含む、請求項1または請求項2に記載の化合物の生成方法。
【請求項21】
6−{2−[1−(6−メチル−3−ピリダジニル)−4−ピペリジニル]エトキシ}−3−エトキシ−1,2−ベンズイソキサゾールを、約1モル当量の硫酸と接触させるステップを含む、請求項3または請求項4に記載の化合物の生成方法。

【図1】
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【図7(a)】
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【図7(b)】
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【図8(a)】
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【図8(b)】
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【図8(c)】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−520991(P2011−520991A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510782(P2011−510782)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【国際出願番号】PCT/AU2009/000663
【国際公開番号】WO2009/143571
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(501488000)バイオウタ サイエンティフィック マネジメント プロプライエタリー リミテッド (8)
【Fターム(参考)】