説明

抗ウイルス剤及び抗ウイルス剤の製造方法

【課題】抗ウイルス効果が高いと共に、生体に対して安全に使用できる抗ウイルス剤、並びにこのような抗ウイルス剤を製造する方法を提供する。
【解決手段】抗ウイルス剤は、モミの葉の抽出物を含み、特にモミの葉の抽出物の乳化されたものを含む。抽出物は、ボルニルアセテートと、カンフェンと、ピネンと、リモネンとを含む。抗ウイルス剤の製造方法は、モミの葉から水蒸気蒸留によって抽出物を抽出する抽出工程と、抽出工程によって抽出された抽出物を乳化する乳化工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗ウイルス剤及び抗ウイルス剤の製造方法に関する。詳しくは、天然素材を用いた抗ウイルス剤及び抗ウイルス剤の製造方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは、他の生物の細胞を利用して、自己を複製させることができる微小な構造体であり、タンパク質の殻とその内部に詰め込まれた核酸からなる。
また、ウイルスのうち例えばインフルエンザウイルスは、人に感染して、伝染病であるインフルエンザを起こすウイルスである。
【0003】
また、ウイルスの感染の過程で宿主細胞から遊離し、また吸着されるように粒子が露出する過程がある。そのような局面に対して塩素系消毒剤やヨード剤などが使用されるが、それら既存の薬剤は環境保全、生体への安全性、刺激性、金属腐食、異臭、持続性などの問題を抱えており、実際には適用に限界がある。
【0004】
そこで、天然素材を用いた抗ウイルス剤が求められていた。
例えば特許文献1には、茶ポリフェノールを有効成分とするインフルエンザイウイルス感染予防剤が記載されている。
また、特許文献2には、茶サポニンを有効成分とする抗インフルエンザウイルス剤が記載されている。
さらに、特許文献3には、茶葉から抽出したタンニン物質と単糖もしくは多糖との結合体を有効成分として含有する植物ウイルス阻害剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−101623号公報
【特許文献1】特開平11−193242号公報
【特許文献1】特開平6−199619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、植物由来の天然素材のうち抗ウイルス活性を有するとして知られているものは、茶由来の天然素材に限られ、より広い範囲の病原性ウイルスに対抗するには、他の植物種から抗ウイルス剤を探索することが望まれていた。
【0007】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、抗ウイルス効果が高いと共に、生体に対して安全に使用できる抗ウイルス剤、並びにこのような抗ウイルス剤を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、モミの葉から抽出された成分が、抗ウイルス剤の薬効成分として有効であることを見出して本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の抗ウイルス剤は、モミの葉の抽出物を含む。
【0009】
また、本発明の抗ウイルス剤は、モミの葉の抽出物の乳化されたものを含む。
【0010】
ここで、抽出物が乳化されているので、例えば簡易型スプレーによって抗ウイルス剤を散布することができる。
【0011】
また、本発明の抗ウイルス剤において、抽出物は、ボルニルアセテートと、カンフェンと、ピネンと、リモネンとを含むことが好ましい。
また、本発明の抗ウイルス剤において、抽出物の全量基準で、ボルニルアセテートと、カンフェンと、ピネンと、リモネンとの合計量が90質量%以上であることが好ましい。
また、本発明の抗ウイルス剤において、抽出物は、抽出物の全量基準で、30質量%以上のボルニルアセテートを含むことが好ましい。
【0012】
また、上記の目的を達成するために、本発明の抗ウイルス剤の製造方法は、モミの葉から水蒸気蒸留によって抽出物を抽出する抽出工程と、該抽出工程によって抽出された抽出物を乳化する乳化工程とを有する。
【0013】
ここで、水蒸気蒸留によって抽出を行なうことによって、充分にモミの抽出物を抽出することができる。
また、抽出物を乳化することによって、乳化液状の抗ウイルス剤を得ることができ、例えば簡易型スプレーによって抗ウイルス剤を散布することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る抗ウイルス剤は、抗ウイルス効果が高いと共に、生体に対して安全に使用できる。
本発明に係る抗ウイルス剤の製造方法は、抗ウイルス効果が高いと共に、生体に対して安全に使用できる抗ウイルス剤を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の抗ウイルス剤を製造する工程の一例を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の抗ウイルス剤は、モミの葉の抽出物を含む。また、本発明の抗ウイルス剤は、モミの葉の抽出物の乳化されたものを含む。
【0017】
また、モミは、ロシア極東地方に広く分布している常緑針葉樹である。針葉をいっぱい付けた房枝からは、いわゆるモミ精油が抽出できる。その房枝は約2〜2.5%の精油を含んでいるが、精油含有量は蒸留時間、モミの育った環境、樹齢などによって異なる。この精油含有量は松の5倍、カラマツの9倍にあたる。
なお、モミ精油(モミの葉の抽出物)は、モミの木の下打ちした枝葉や、伐採したモミの木の枝葉から水蒸気蒸留によって得られるので、モミ精油を抽出することで、森林の荒廃を招くことにはならない。すなわち、資源の有効利用につながり、ひいては森林労働者の収入アップにもなる。
【0018】
また、モミ精油には、揮発成分が多く、このためソフトで、早くかつ効果的に人間の器官に作用する。また、モミ精油の成分には、35〜45種類の生体活性物質が含まれている。クロマトグラフ法などで分析すると、100種類以上の活性物質が検出されているが、まだ特定できていない成分もある。特定された成分をいくつか挙げてみると、ボルニルアセテート、α−ピネン、カンフェン、β−ピネン、リモネン、ミルセンなどが挙げられる。また、モミ精油の全量基準で、ボルニルアセテートと、カンフェンと、ピネンと、リモネンとの合計量は90質量%以上であることが好ましい。
また、ボルニルアセテートを含んでいる植物は、モミとトドマツのみであるが、ボルニルアセテートを多く含有する植物はモミのみである。
【0019】
また、モミ精油は、モミ精油の全量基準で、30質量%以上のボルニルアセテートを含有することが好ましい。
【0020】
また、モミ精油は、モミ精油の全量基準で、10質量%以上のカンフェンを含有することが好ましい。
また、モミ精油は、モミ精油の全量基準で、25質量%以上のα−ピネンを含有することが好ましい。
また、モミ精油は、モミ精油の全量基準で、15質量%以上のβ−ピネンを含有することが好ましい。
また、モミ精油は、モミ精油の全量基準で、5質量%以上のリモネンを含有することが好ましい。
【0021】
図1は、本発明の抗ウイルス剤を製造する工程の一例を説明する概略図である。
枝打ちした新鮮なシベリア産のモミの葉を採取して、モミの葉を水蒸気蒸留装置に投入する(ステップS1)。
そして、水蒸気を発生させ、モミの葉を蒸して水蒸気蒸留を行なう(ステップS2)。
次に、水蒸気によって抽出された蒸気分を冷却して液体を容器に集め、容器内の上層部に溜まったモミ精油(モミの葉の抽出物)を得る(ステップS3)。
さらに、得られたモミ精油を乳化装置において乳化し、モミ精油の乳化液を得る(ステップS4)。
【0022】
[インフルエンザウイルス不活化試験]
シベリア産のモミの葉を水蒸気蒸留して抽出されたモミ精油105mlと、精製水3000mlを撹拌タンクに投入し、さらにこれらを乳化装置において乳化し、得られたモミ精油の乳化液を検体とした。
次に、得られた検体1mlにインフルエンザウイルスのウイルス浮遊液0.1mlを添加して混合し、作用液を得た。そして、室温で作用させ、開始から1時間後、および開始から24時間後に、細胞維持培地を用いて作用液を10000倍に希釈して、作用液のウイルス感染価を測定した。作用温度は室温であった。また、比較対照として、精製水についても同様にウイルス浮遊液を添加混合し、室温で作用させ、作用開始時、開始から1時間後、および開始から24時間後に、作用液のウイルス感染価を測定した。
また、精製水の作用開始直後のウイルス感染価を、作用液の作用開始時のウイルス感染価とした。結果を表1に示す。
なお、予め予備試験を行ない、ウイルス感染価の測定方法について検討したところ、細胞維持培地で作用液を10000倍に希釈することにより、検体の影響を受けずにウイルス感染価を測定できることを確認した。
【0023】
また、ウイルス感染価は次のようにして測定した。
すなわち、細胞増殖培地を用い、使用細胞を組織培養用マイクロプレート(96穴)内で単層培養した後、細胞増殖培地を除き細胞維持培地を0.1mlずつ加えた。次に、作用液の希釈液0.1mlを4穴ずつに接種し、37℃±1℃の炭酸ガスインキュベーター(CO濃度:5%)内で4〜7日間培養した。培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態変化(細胞変性効果)の有無を観察し、Reed−Muench法により50%組織培養感染量(TCID50)を算出して、作用液1ml当たりのウイルス感染価、および精製水1ml当たりのウイルス感染価に換算した。
【0024】
また、ウイルス浮遊液は次のようにして調製した。
すなわち、細胞増殖培地を用い、細胞を組織培養用フラスコ内に単層培養した。
単層培養後にフラスコ内から細胞増殖培地を除き、試験ウイルスを接種した。次に、試験ウイルスに細胞維持培地を加えて37℃±1℃の炭酸ガスインキュベーター(CO濃度:5%)内で1〜5日間培養した。
培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態を観察し、細胞に形態変化(細胞変性効果)が起こっていることを確認した。そして、培養液を遠心分離(3000r/min、10分間)し、得られた上澄み液をウイルス浮遊液とした。
【0025】
また、試験に用いたウイルスは、インフルエンザウイルスA型(H1N1)である。
また、試験に用いた細胞は、MDCK(NBL−2)細胞 ATCC CCL−34株(大日本製薬株式会社製)である。
また、試験に用いた細胞増殖培地は、イーグルMEM培地「ニッスイ」(1)(日水製薬株式会社製)に牛胎仔血清を10%加えたものである。
また、試験に用いた細胞維持培地は、以下の組成の培地である。
イーグルMEM培地「ニッスイ」(1) 1000 ml
10%NaHCO 14 ml
L−グルタミン(30g/l) 9.8 ml
100×MEM用ビタミン液 30 ml
10%アルブミン 20 ml
0.25%トリプシン 20 ml
【0026】
【表1】

【0027】
表1において、「logTCID50/ml」とは、1ml当たりのTCID50の対数値である。
表1から判るように、検体にインフルエンザウイルス浮遊液を添加して1時間後に、TCID50は7.7から6.7に減少しており、細胞への感染性が10%減少した。さらに24時間後には、TCID50は4.5以下となり、細胞への感染性が検出されなかった。すなわち、「インフルエンザイウイルスが不活化された」と判断された。
【0028】
以上のように、モミの葉から水蒸気蒸留によって抽出された抽出物(モミ精油)の乳化液は、インフルエンザウイルス浮遊液が添加されて1時間後には細胞への感染性が10%減少し、24時間後には細胞への感染性が検出されないという高い抗ウイルス効果を有し、天然素材であるモミの葉から抽出された抽出物なので、生体に対しても安全に使用できる。
【0029】
また、モミの葉の抽出物の乳化液は液状であるので、簡易型スプレー等で散布することができ、非常に簡便に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モミの葉の抽出物を含む
抗ウイルス剤。
【請求項2】
モミの葉の抽出物の乳化されたものを含む
抗ウイルス剤。
【請求項3】
前記抽出物は、
ボルニルアセテートと、
カンフェンと、
ピネンと、
リモネンとを含む
請求項1または請求項2に記載の抗ウイルス剤。
【請求項4】
前記抽出物の全量基準で、ボルニルアセテートと、カンフェンと、ピネンと、リモネンとの合計量が90質量%以上である
請求項3に記載の抗ウイルス剤。
【請求項5】
前記抽出物は、抽出物の全量基準で、30質量%以上のボルニルアセテートを含む
請求項4に記載の抗ウイルス剤。
【請求項6】
モミの葉から水蒸気蒸留によって抽出物を抽出する抽出工程と、
該抽出工程によって抽出された抽出物を乳化する乳化工程とを有する
抗ウイルス剤の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−84503(P2011−84503A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237639(P2009−237639)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(308014422)株式会社ゼックフィールド (4)
【出願人】(509272872)株式会社リード・ウィル (1)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】