説明

抗不安薬または抗うつ薬のスクリーニング方法

【課題】抗不安薬または抗うつ薬をスクリーニングする方法、および不安またはうつの研究用モデルマウスを提供すること。
【解決手段】(i)成長ホルモンをマウスの海馬に連続投与する工程、
(ii)当該マウスに被験化合物を投与する工程、および、
(iii)当該マウスの脳実質における、Arc、Nr4a1、FosおよびNpas4からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子のmRNAの発現量を定量する工程、
を含む、抗不安薬または抗うつ薬をスクリーニングする方法、および、成長ホルモンをマウスの海馬に連続投与して得られる、不安またはうつの研究用モデルマウスを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗不安薬または抗うつ薬をスクリーニングする方法に関する。さらに本発明は、不安またはうつの研究用モデルマウスに関する。
【背景技術】
【0002】
てんかんは、脳における様々な病理過程によって引き起こされる複雑な症状である。てんかん患者は神経回路上の神経細胞の伝播性の発作波によって誘導される発作を経験し、発作は神経細胞膜の興奮についての閾値が興奮を阻止するための膜の内因性安定化能力を超えて低下した場合に起こる[非特許文献1]。20を超える認可された抗てんかん薬が今までに開発されているが、てんかん患者の3分の1以上が薬物治療に対して難治性である。
【0003】
扁桃体、海馬、および周囲の皮質に病巣を有する側頭葉てんかん (TLE) 患者 [非特許文献2]は、特に高頻度で抗てんかん治療に対する薬物抵抗性を示す。薬物抵抗性を解決するために、発作の発生に関与する分子機構を解明することが最重要事項の1つである。実際、示差的遺伝子発現プロファイリングが、長期発作の後、てんかん発生の最中の様々な時点で調べられている[非特許文献3〜9]。
【0004】
本発明者らは、TLEモデルである扁桃体キンドリングマウスを用いて新規な発作-応答遺伝子をスクリーニングしたところ、成長ホルモン (GH)の発現がてんかん発生の際に神経回路に沿って著しく上昇していることを見いだした[非特許文献10]。さらに、本発明者らは、ホルモン投与がキンドリング-刺激によって生じる後発射のための閾値の低下を引き起こし得、その結果、ホルモンがキンドリングの進行を亢進することを見いだした [非特許文献10]。
【0005】
てんかん患者は、小児および成人の両方について、精神医学的合併症、例えば、不安、うつ、精神障害、および学習障害の高い危険性を示す [非特許文献11〜13]。疫学調査も合併症は抗てんかん薬-薬物相互作用によって悪化し [非特許文献14]、薬物への応答の欠如によって影響されるという報告を示している [非特許文献15]。
【0006】
これら障害のなかで、うつおよび不安はもっとも一般的であり、患者において高い発症率を示し[非特許文献16〜18]、特に TLE患者においてはそうである[非特許文献19]。これらの臨床研究により、合併症の可能性のある病因を決定するためのモデル動物を確立するために、TLEのキンドリング動物モデル [非特許文献20〜24] および欠神てんかんの遺伝的モデル[非特許文献25]において発作と精神医学的合併症との相関関係が調べられた。
【0007】
これらの発作を伴うモデルは認知、情動欠陥を示し、ヒトてんかんにおいて観察される症状と類似している。これら報告のほとんどは、一般的な行動試験としてオープンフィールド試験を用いており、それによるとてんかん動物においてより高レベルの恐怖または不安が観察された。
【0008】
一方、GHは、小児から青年期への成長過程において役割を果たすだけでなく、成人における身体組成の維持にも役立っている。さらに、GHは、骨、脂質、グルコース、およびタンパク質の代謝に関与している。臨床研究において、いくつかの報告が、GHが脳におけるいくつかの心理的挙動に影響を与えることを示しており、例えば、GHが欠損すると睡眠障害、認知機能障害、および活気および不安を含む気分障害を患うことが示されている[非特許文献26〜29]。
【0009】
さらに、ラットを用いた実験では、GHが低酸素虚血性傷害後の神経細胞死を阻止し[非特許文献30]、加齢性学習障害を減弱し[非特許文献31]、初代培養神経細胞の増殖を進行させることが示されている[非特許文献32]。
【0010】
しかし、動物における不安レベルに対するGHの効果を調べた研究は今までに存在しない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
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【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、新規な抗不安薬または抗うつ薬をスクリーニングする方法、および、不安またはうつの研究用モデルマウスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記背景に鑑み、本発明者らは、マウスの活動量および不安を含む気分挙動に対する海馬への外来性 GH の効果を調べ、てんかん動物において観察されたものと比較した。
【0014】
具体的には、本発明者らは、ヒト 組換え GHの海馬への投与がArc およびNr4a1 mRNAの発現上昇をもたらし、不安惹起作用を示す自己グルーミングおよび排便を増加させたことを見いだした。本発明者らはさらに、ヒト 組換え GH 受容体アンタゴニストである、ペグビソマント(pegvisomant)の海馬への投与がNpas4 mRNAの発現低下をもたらし、活動量低下を誘発することを見いだした。また、本発明者らは、脳におけるGHの発現変動が、GH シグナル伝達を介して発現する1群の分子、すなわちArc、Nr4a1、およびNpas4により情動状態を制御しうることを見いだした。なお、てんかんモデルであるキンドリングマウスにおいて発現上昇している遺伝子であるFos遺伝子の発現は、GHまたはペグビソマントの投与によって、有意に変化しなかった。これは、Arc、Nr4a1およびNpas4が、GHのシグナル伝達の下流に存在するのに対し、FosはGHシグナル伝達の下流にあるのではないことを反映している。
【0015】
これらの知見に基づき、本発明者らは、抗不安薬または抗うつ薬をスクリーニングする方法に係る発明および不安またはうつの研究用モデルマウスに係る発明を完成させた。
【0016】
即ち、本発明は、第1の態様において、
(i)成長ホルモンをマウスの海馬に連続投与する工程、
(ii)当該マウスに被験化合物を投与する工程、および、
(iii)当該マウスの脳実質における、Arc、Nr4a1、FosおよびNpas4からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子のmRNAの発現量を定量する工程、
を含む、抗不安薬または抗うつ薬をスクリーニングする方法を提供する。
好ましくは、第1の態様において、mRNAの発現量の定量は、定量的RT-PCRまたはDNAチップにより行われる。また好ましくは、第1の態様において、脳実質は、海馬および側・後頭葉大脳皮質、前脳大脳皮質、ならびに視床からなる群から選択される少なくとも1つの部位の実質である。
【0017】
さらに、本発明は、第2の態様において、
(i)成長ホルモンをマウスの海馬に連続投与する工程、
(ii)当該マウスに被験化合物を投与する工程、および、
(iii)当該マウスの不安またはうつを示す行動を観察する工程、
を含む、抗不安薬または抗うつ薬をスクリーニングする方法を提供する。
上記第1および第2の態様において、てんかんを伴わない不安またはうつ、および、てんかんの合併症である不安またはうつを治療するための抗不安薬または抗うつ薬の両方をスクリーニングすることが出来る。
【0018】
また本発明は、第3の態様において、成長ホルモンをマウスの海馬に連続投与して得られる、不安またはうつの研究用モデルマウスを提供する。該モデルマウスによって、てんかんを伴わない不安またはうつ、および、てんかんに併発する不安またはうつの両方を研究することが出来る。
【発明の効果】
【0019】
本発明による新規なスクリーニング方法により、新規な抗不安薬または抗うつ薬が創出されうる。また、本発明による新規なマウスモデルは、不安またはうつの研究に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図 1は、実験計画の概観を示す。薬物の微量注入(1stI から6ndI)を受けたマウスを、30 分間飼育ケージに入れ、10:00amから 13:00pmの間オープンフィールド試験 (薄いグレーの長方形)の箱に移し、その後マウスを飼育ケージに戻した。飼育ケージ内での活動量記録を8:00pmに開始し、1st 微量注入の前および各微量注入の翌日に24時間 (濃いグレーの長方形) 続けた。1st 微量注入の前に試験を標準化するために、マウスについて1st 微量注入の前に48時間(中程度のグレーの横長の長方形) 活動量記録を行い、-3および-8日目に2回オープンフィールドに順応させた。海馬への1回目の微量注入の24時間後(グレーの矢印: 1stS)および1日おきに6回の微量注入の3時間後 (2ndS)に海馬および扁桃体を含む大脳皮質の尾側部分を切り出し、トータル RNAを調製した。
【図2】図 2は、キンドリング-発作およびrGH-微量注入の、 Arc (A)、Fos (B)、Nr4a1 (C)、およびNpas4 (D)の発現レベルに対する効果を示す。キンドリング-発作の後および、それぞれ540 pmolのrhGHまたはペグビソマント (peg.: GHRのアンタゴニスト)の6回の微量注入(1回あたり1 μl)の後に、海馬および扁桃体を含む尾側皮質からトータル RNAを単離し、 qRT-PCRを実施例に記載の通りに行った。qRT-PCRの棒グラフ(平均 + S.E.M.)は、GAPDH mRNA に対するArc、Fos、Nr4a1、およびNpas4 mRNAの比を示し、偽手術 (n=5)、ステージ3 (n=4)、および完全-キンドリング (n=5) マウスの間で一元配置分散分析 (Fisher’s PLSD検定)を用いて検定した:Arcにおいて、 F(2,11)=8.77、*5p<0.01、(キンドリング / ステージ3 (キンドリングとステージ3との間)、*5p<0.01; キンドリング / 偽手術、*4p<0.005); Fos において、F(2,11)=12.81、*4p<0.005、(キンドリング / ステージ3、*4p<0.005; キンドリング / 偽手術、*4p<0.005);Nr4a1において、F(2,11)=5.34、*6p<0.05 (キンドリング / ステージ3、*6p<0.05; キンドリング / 偽手術、*6p<0.05)、Npas4において、F(2,11)=30.34、*1p<0.0001 (キンドリング / ステージ3、*1p<0.0001; キンドリング / 偽手術、*1p<0.0001)。qRT-PCRの棒グラフはまた、rhGH (n=4)、ペグビソマント (n=4)、およびバッファー (n=4) 投与群の間の大脳皮質の尾側部分におけるこれらの転写産物の比も示し、一元配置分散分析 (Fisher’s PLSD検定) を用いて検定した:Arc において、F(2,9)=13.14、*4p<0.005、(rGH / バッファー、*6p<0.05; rGH / ペグビソマント、*3p<0.001);Fosにおいて、 F(2,9)=1.80、p=0.22 ;Nr4a1において、 F(2,9)=22.82、*2p<0.0005 (rGH / バッファー、*2p<0.0005; rGH / ペグビソマント、*2p<0.0005); Npas4において、F(2,9)=4.28、*6p<0.05 (ペグビソマント / バッファー、*6p<0.05)。
【図3】図 3は、薬物の自発的活動量に対する効果を示す。棒グラフ (平均 + S.E.M.) は、各マウスにおける1st 微量注入の前の48時間の平均(横軸における0日目)に対する、24時間にわたる1 分間あたりの活動回数の平均の相対比を示す(A)。明期における平均(B)、および暗期における平均(C)。横軸は、 薬物の1回目の注入の後の日数を示す。バッファー (n=9)、rGH (n=8)、オクトレオチド (n=8)、およびペグビソマント (n=8)の注入前48時間の1 分間あたりの活動回数の平均 + S.E.M.は、18.5 + 1.2、14.4 + 1.2、21.0 + 1.0、および19.7 + 1.3(A); 11.0 + 1.5、7.8 + 0.7、17.0 + 1.1、および13.2 + 1.4 ( B); 26.0 + 1.3、20.9 + 1.8、25.1 + 1.4、および26.1 + 1.6 (C)であった。1 共変動および4 薬物-群を用いる一因子共分散分析を薬物の効果についてこれらパラメーターを分析するために行った: F(3,193)=10.241、*3p<0.001 (A); F(3,193)=10.316、*3p<0.001 (B); F(3.193)=9.561、*3p<0.001 (C)。共分散分析における有意性は多重比較のためのBonferroni/Dann検定に従った: *3p<0.001 (ペグビソマント / バッファー)、*3p<0.001 (rGH / オクトレオチド)、*3p<0.001 (rGH / ペグビソマント) (A); *5p<0.01 (オクトレオチド / バッファー)、*6p<0.05 (ペグビソマント / バッファー)、*3p<0.001 (rGH / オクトレオチド)、*3p<0.001 (rGH / ペグビソマント) (B); *5p<0.01 (ペグビソマント / バッファー)、*3p<0.001 (rGH / ペグビソマント)、*5p<0.01 (オクトレオチド / ペグビソマント) (C)。薬物の回帰直線の間の並行性における有意性を判定した: *3p<0.001 (A); *5p<0.01 (B); *3p<0.001(C)。薬物-群の中での日の違いによる差は一元配置分散分析にて分析した: F(5,48)=2.02、p=0.09 (バッファー); F(5,42)=2.95、*6p<0.05 (rGH); F(5,42)=2.87、*6p<0.05 (オクトレオチド); F(5,42)=7.26、*1p<0.0001 (p ペグビソマント)(A)、F(5,48)=1.07、p=0.39 (バッファー); F(5,42)=4.27、*4p<0.005 (rGH); F(5,42)=3.78、*5p<0.01 (オクトレオチド); F(5,42)=3.28、*6p<0.05 (ペグビソマント) (B)、F(5,48)=2.01、p=0.09 (バッファー); F(5,42)=0.60、p=0.70 (rGH); F(5,42)=1.38、p=0.25 (オクトレオチド); F(5,42)=8.92、*1p<0.0001 (ペグビソマント) (C)。グラフ中、棒の上の星印はFisher’s PLSDによる0日目と比較しての有意な変化を示し、星印の後の数字は (*1 〜 *6)それぞれp<0.05、0.01、0.005、0.001、0.0005、および0.0001を示す。
【図4】図 4は、オープンフィールド試験における薬物の効果を示す。棒グラフ (平均 + S.E.M.) は、マウスがオープンフィールドに入った後10分間のグルーミングの持続時間における-3日目に対する相対比を示す。横軸は 図1に記載の日数を示す。1 共変動および3 薬物-群を用いる一因子共分散分析(rhGHにおいてn=8;ペグビソマントにおいてn=8;バッファーにおいてn=9)を薬物の効果についてのこれらのパラメーターの分析のために行った: F(2,165)=11.32、*3p<0.001。共分散分析における有意性は多重比較のための Bonferroni/Dann検定に従った: *3p<0.001 (rGH / バッファー); *3p<0.001 (rGH / ペグビソマント)。薬物の回帰直線の間での非並行性に差は無かった。
【図5】図 5は、Arc (A)、Fos (B)、Nr4a1 (C)、およびNpas4 (D)の発現レベルに対する1回の微量注入の24時間後の薬物の効果を示す。薬物の1回の微量注入の 24時間後に尾側皮質からそれぞれのトータル RNA を単離し (各薬物につき4匹のマウス)、qRT-PCRを実施例に記載のようにして行った。qRT-PCRの棒グラフ (平均 + S.E.M.)は、大脳皮質の尾側部分におけるGAPDH mRNA に対するArc、Fos、Nr4a1、および Npas4 mRNA の比を示し、Mann-Whitney U-検定を用いた: Arc においてp=0.25; Fos においてp<0.05; Nr4a1においてp=0.25; Npas4において p=0.56。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書および特許請求の範囲において用いる略語を以下に示す。
Arc: 活性‐調節細胞骨格関連タンパク質(activity regulated cytoskeletal-associated protein)、
Fos: FBJ 骨肉腫癌遺伝子、
GAPDH: グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素、
GH: 成長ホルモン、
GHR: 成長ホルモン受容体、
Npas4: 神経PASドメインタンパク質(NXFとも称される)、
Nr4a1: 核内受容体サブファミリー 4、グループA、メンバー 1、
qRT-PCR: mRNAの定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応に基づく分析、
rhGH: ヒト組換えGH、
TLE: 側頭葉てんかん。
【0022】
本発明の第1の態様は、
(i)成長ホルモンをマウスの海馬に連続投与する工程、
(ii)当該マウスに被験化合物を投与する工程、および、
(iii)当該マウスの脳実質における、Arc、Nr4a1、FosおよびNpas4からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子のmRNAの発現量を定量する工程、
を含む、抗不安薬または抗うつ薬をスクリーニングする方法を提供する。
【0023】
好ましくは、第1の態様において、mRNAの発現量の定量は、定量的RT-PCRまたはDNAチップにより行われる。また好ましくは、第1の態様において、脳実質は、海馬および側・後頭葉大脳皮質、前脳大脳皮質、ならびに視床からなる群から選択される少なくとも1つの部位の実質である。本発明においてスクリーニングされる抗不安薬または抗うつ薬は、てんかんを伴わない不安またはうつを治療するためのもの、あるいは、てんかんの合併症である不安またはうつを治療するためのものである。
【0024】
本発明の第1の態様に使用するマウスは、例えば、正常マウスまたはキンドリングマウスである。
正常マウスは、特に限定されないが、実験動物用のマウスであり得、例えば、市販されているddYマウス、C57Bl/6マウス、およびICRマウスを含む。
キンドリングマウスは、特定の脳内部位において、痙攣を起こす閾値以下の電気刺激を繰り返し与えることにより、最初は脳波上の発作(発作後放電)が生じ、次第に行動上での発作が見られるようになり、最終的に強直性間代性発作を誘発するマウスである。キンドリングマウスは、当業者に周知の方法(Kato K, Masa T, Tawara Y, Kobayashi K, Oka T, Okabe A, Shiosaka S. Kato K, Masa T, Tawara Y, Kobayashi K, Oka T, Okabe A, Shiosaka S.: Dendritic aberrations in the hippocampal granular layer and the amygdalohippocampal area following kindled-seizures. : Brain Res. 2001 May 18;901(1-2):281-95.)で作成され得る。好ましくは、刺激電極を扁桃体基底外側核に設置して作成され得る。
【0025】
本発明の第1の態様の工程(i)においては、正常マウスまたはキンドリングマウスの海馬に、成長ホルモンを連続投与する。連続投与の回数は、好ましくは2〜10回、より好ましくは6〜10回、もっとも好ましくは、6〜7回である。連続投与のスケジュールは当業者が適宜設定することができる。好ましくは、連続投与は、例えば、隔日または毎日投与することでなされ得る。好ましくは、連続投与は、隔日に6回投与することでなされる。海馬内投与は、当業者に周知の方法で、カニューレ等を使用して実施され得る。
【0026】
本発明の第1の態様において、工程(ii)、即ち、被験化合物を投与する工程は、工程(i)の前、最中、後のいずれでもよく、特に限定されない。
【0027】
本発明者らは、成長ホルモンを6回連続して海馬に投与することにより、Arc、およびNr4a1遺伝子のmRNAの発現が亢進し、FosおよびNpas4遺伝子のmRNAの発現が有意には変わらないこと、成長ホルモン受容体アンタゴニストであるペグビソマントを海馬に投与すると、Npas4遺伝子のmRNAの発現が低下し、Arc、FosおよびNr4a1遺伝子の発現が有意には変わらないことを見出した。
また、本発明者らは、成長ホルモンをマウスに6回連続して海馬に投与することにより、マウスの不安レベルが上昇し、ペグミソマントまたはオクトレオチドをマウスに6回連続して海馬に投与することにより、不安惹起作用無しに、活動量を低下させることを見いだした。過剰な活動量はてんかんを有する動物のいくらかにおいて観察される精神医学的合併症の1つである。
【0028】
よって、Arc、Nr4a1、FosおよびNpas4遺伝子のmRNAの発現を測定することで、マウスにおける情動障害である不安またはうつが抑制されるか否かを検討することができる。
例えば、成長ホルモンを6回隔日に連続海馬内投与したマウスに被験化合物を投与し、Fos およびNpas4遺伝子のmRNAの発現量が実質的に不変かつ、ArcおよびNr4a1遺伝子のmRNAの発現量が不変ないし低下すれば、当該被験化合物は、抗不安薬または抗うつ薬としてのポテンシャルを有する化合物として選択できる。また、成長ホルモン受容体アンタゴニストを6回隔日に連続海馬内投与したマウスに被験化合物を投与し、Npas4遺伝子のmRNAの発現量が実質的に不変ないし上昇し、かつ、Arc、Nr4a1およびFos遺伝子のmRNAの発現量が実質的に不変である場合、当該被験化合物は、抗不安薬または抗うつ薬としてのポテンシャルを有する化合物として選択できる。
なお、ここで、「実質的に不変」とは統計的に有意差の無いことを意味する。
またここで、Arc、Nr4a1およびNpas4遺伝子が、GHシグナル伝達の下流にあるのに対し、Fos遺伝子は、GHシグナル伝達の下流にないため、成長ホルモンまたは成長ホルモン受容体アンタゴニストを6回隔日に連続海馬内投与したマウスへの被験化合物の投与により、Fos遺伝子のmRNAの発現量が実質的に不変である化合物が、抗不安薬または抗うつ薬としてのポテンシャルを有する化合物としてスクリーニングされる。
【0029】
本発明の第2の態様は、
(i)成長ホルモンをマウスの海馬に連続投与する工程、
(ii)当該マウスに被験化合物を投与する工程、および、
(iii)当該マウスの不安またはうつを示す行動を観察する工程、
を含む、抗不安薬または抗うつ薬をスクリーニングする方法を提供する。
【0030】
本発明の第2の態様において、スクリーニングされる抗不安薬または抗うつ薬は、てんかんを伴わない不安またはうつを治療するためのもの、あるいは、てんかんの合併症である不安またはうつを治療するためのものである。
【0031】
即ち、本発明の第1および第2の態様によると、てんかんの合併症であるか否かにかかわりなく、不安またはうつを治療する抗不安薬または抗うつ薬をスクリーニングすることが可能である。
【0032】
本発明の第2の態様に使用するマウスは、第1の態様と同様であり、例えば、正常マウスまたはキンドリングマウスである。
【0033】
本発明の第2の態様の工程(i)においては、第1の態様と同様に、正常マウスまたはキンドリングマウスの海馬に、成長ホルモンを連続投与する。連続投与の回数は、好ましくは2〜10回、より好ましくは6〜10回、もっとも好ましくは、6〜7回である。連続投与のスケジュールは当業者が適宜設定することができる。好ましくは、連続投与は、例えば、隔日または毎日投与することでなされ得る。好ましくは、連続投与は、隔日に6回投与することでなされる。海馬内投与は、当業者に周知の方法で、カニューレ等を使用して実施され得る。
【0034】
本発明の第2の態様においても第1の態様と同様に、工程(ii)、即ち、被験化合物を投与する工程は、工程(i)の前、最中、後のいずれでもよく、特に限定されない。
【0035】
本発明者らは、成長ホルモンをマウスに連続して海馬に投与することにより、マウスの不安レベルが上昇し、ペグミソマントまたはオクトレオチドをマウスに連続して海馬に投与することにより、不安惹起作用無しに、活動量を低下させることを見いだした。過剰な活動量はてんかんを有する動物のいくらかにおいて観察される精神医学的合併症の1つである。
【0036】
よって、成長ホルモンをマウスに連続して海馬に投与したマウスの行動と比較して、本発明の第2の態様の工程(iii)において、さらに被験化合物を投与した当該マウスの不安またはうつを示す行動を観察することによって、マウスにおける情動障害である不安またはうつが抑制されるか否かを検討することができる。
【0037】
例えば、成長ホルモンを6回隔日に連続海馬内投与したマウスに被験化合物を投与し、マウスの情動障害、好ましくは不安またはうつを示す行動が低下すれば、当該被験化合物は、抗不安薬または抗うつ薬としてのポテンシャルを有する化合物として選択できる。
【0038】
マウスの情動障害、好ましくは、不安またはうつを示す行動を観察する方法は、特に限定されないが、例えば、実施例に記載のように、飼育ケージ内での自発的活動量を観察する方法、オープンフィールド試験を用いて、マウスの活動量、立ち上がり、グルーミングおよび排便を調べる方法が挙げられる。例えば、不安レベルの上昇は、グルーミング時間の上昇や排便回数の上昇によって示される。なお、オープンフィールド試験においては、活動量は歩行運動により評価される。
【0039】
本発明の第1および第2の態様において、マウスに被験化合物を投与する方法は、特に限定されない。例えば、経口投与、混餌投与、皮下投与、腹腔内投与、または静脈内投与により、被験化合物を投与することができる。また、化合物の投与スケジュールも特に限定されず、当業者が適宜設定できる。例えば、被験化合物の投与は、1回でも、数回でもよく、成長ホルモンの海馬内投与の前、最中、後のいずれに投与してもよい。
【0040】
本発明の第1の態様において、mRNAの発現量は、種々の方法で定量することができる。例えば、脳実質のサンプルより、周知の方法を用いて全RNAを抽出し、定量的なRT-PCRを行うことにより実施できる。
【0041】
定量的なRT-PCRは、当業者に周知の方法で行うことができ、例えば、トータルRNAを鋳型に逆転写酵素によりcDNAを合成し、そして、合成したcDNA、標的の遺伝子に特異的な一組のプライマー、TaqポリメラーゼなどのDNAポリメラーゼ、さらに、発現量を定量するためのSYBR Green等のDNAインターカレーターとして機能できる色素またはTaqMan(登録商標)プローブの存在下でPCR反応を行うことにより実施できる。
【0042】
脳実質のサンプルは特に限定されるものではなく、海馬および側・後頭葉大脳皮質、前脳大脳皮質、並びに視床からなる群から、少なくとも1つ選択される部位の実質であり得、好ましくは、海馬および側・後頭葉大脳皮質である。
トータルRNAの抽出は、脳実質などのサンプルから、例えば、QIAGEN社より市販されているキット(RNeasy Lipid Tissue Mini Kit (Cat. No. 74804))を用いて実施することができる。
【0043】
定量的なRT-PCRは、例えば、サーマルサイクラー等の装置を用いて、トータルRNAを鋳型に、逆転写酵素と、プライマー(増幅の対象とする遺伝子に特異的なプライマー、ランダムプライマーまたはオリゴdTプライマー)によりcDNAを合成する段階、合成されたcDNAを鋳型に、定量的なPCRを行う段階を含んで実施される。
cDNAの合成は、当業者に周知の方法によりなされるが、例えば、リアルタイムRT-PCR用の逆転写反応キット(PrimeScript RT reagent Kit (Perfect Real Time)、タカラバイオ)を用いることができる。
【0044】
定量的なPCRとしては、インターカレーター法、TaqMan(登録商標)プローブ法、サイクリングプローブ法を利用することができ、それぞれ、当業者に周知の方法によりなされる。ここで、TaqMan(登録商標)プローブとは、両末端に色素団(例えば、5’末端 = Reporter, 3’末端 = Quencher)を結合した20〜30 merの長さのオリゴヌクレオチドで、標的とするDNAに相補的な配列を特異的に認識するように設計することができる。
TaqMan(登録商標)プローブ法については、例えば、市販のTaqMan(登録商標) Gene Expression Assays(Applied Biosystems Inc.)を利用し、TaqMan(登録商標)プローブ(プライマー及びPCR反応条件等も含む)を設計することができる。
【0045】
インターカレーター法についても、例えば、Power SYBR(登録商標) Green PCR Master Mix(Applied Biosystems Inc.)、SYBR(登録商標) Green Realtime PCR Master Mix(東洋紡)等の市販のキットを用い、添付のプロトコールを参考にして、定量的PCRを実施することができる。
【0046】
定量的なPCRに用いるプライマーは、合成したcDNA上に存在し、増幅の対象とする遺伝子に特異的な一組のプライマーとすることができる。PCRのプライマーは、増幅のサイズ(例えば、80〜150bpが好ましい)、プライマーのサイズ(例えば、17〜25塩基とする)、GC含量(例えば、40〜60%とする)、3’末端の配列(例えば、3’末端の塩基をなるべくGまたはCとする、3’末端の近傍のGC含量が多すぎるプライマーは避ける)、配列の偏り(例えば、配列のリピートがないようにする)、配列の相補性(例えば、プライマー内部やプライマー間で3base以上相補しないようにする)、Tm値(例えば、上流プライマー、下流プライマーのTm値を揃える。なお、Tm値=2(A+T)+4(G+C))、特異性(例えば、BLAST検索でプライマーの特異性を確認する)等を考慮して、設計でき、また、OLIGO Primer Analysis Software(タカラバイオ)、Primer3(フリーウェア)等の当業者に周知のプライマー設計ソフトウェアを使用して設計することができる。また、タカラバイオ、Applied Biosystems Inc.等にPCRプライマーの設計を依頼することもできる。
【0047】
本発明の第1の態様におけるスクリーニング方法で使用できる、マウスのArc、Nr4a1、Npas4およびGAPDH遺伝子の増幅に用いられるプライマーとしては、例えば、以下のプライマーを挙げることができる:ArcのmRNA発現量の定量に用いられるプライマー(Forwardプライマー: 5’-GCC GCC AAA CCC AAT GT-3’ (配列番号1)、Reverseプライマー: 5’- GCT CTC GCT CCA CCT GCT T-3’(配列番号2))、Nr4a1のmRNA発現量の定量に用いられるプライマー(Forwardプライマー: 5’-CCC CGA GCC AGA CTT ATG AA-3’ (配列番号5)、Reverseプライマー: 5’-TGG GAG GAC TGA AGG AGA AGA A-3’ (配列番号6))、Npas4のmRNA発現量の定量に用いられるプライマー(Forwardプライマー: 5’-TTC CAT TTC AAT CTG TAT TCA CTC GTA-3’ (配列番号7)、Reverseプライマー: 5’-TTG GTG GGG GAA AGG CA-3’(配列番号8))、GAPDHのmRNA発現量の定量に用いられるプライマー(Forwardプライマー: 5’-GGA GCG AGA CCC CAC TAA CA-3’(配列番号9)、Reverseプライマー: 5’-GGC GGA GAT GAT GAC CCT TT-3’(配列番号10))。
【0048】
定量的なPCRの反応条件は、特に限定はされず、当業者が適宜設定できる。TaqMan(登録商標)法であれば、TaqMan(登録商標) Gene Expression Assays(Applied Biosystems Inc.)に添付されているプロトコールを参考にすることができる。また、インターカレーター法であれば、Power SYBR(登録商標) Green PCR Master Mix(Applied Biosystems Inc.)、SYBR(登録商標) Green Realtime PCR Master Mix(東洋紡)等のキットに添付のプロトコールを参考にすることができる。
【0049】
定量的なPCRにより増幅されたDNAを定量する方法、装置は特に限定されず、当業者に周知の方法、装置が利用される。例えば、DNAの増幅と共に発生する蛍光を検出する装置を用いて、増幅されたDNAを定量することができる。定量的なPCRにより増幅されたDNAを定量に、例えば、Applied Biosystems 7300 リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems Inc.)を使用することができる。
【0050】
なお、内部標準として、ハウスキーピング遺伝子(例えば、GAPDH)について、定量の対象である標的遺伝子と同時に定量的なRT-PCRを行い、ハウスキーピング遺伝子(例えば、GAPDH)発現量に比較した標的遺伝子の発現量を評価することが好ましい。これにより、サンプル量など実験操作に起因するバイアスがノーマライズ(正規化)され得る。
【0051】
また、mRNAの発現量はDNAチップアレイを用いて定量することができる。用いるDNAチップは、特に限定はされず、標的とする遺伝子(Arc、Nr4a1、FosおよびNpas4遺伝子を含む遺伝子)に特異的で且つ相補的なオリゴヌクレオチド(プローブ)が結合していればよく、タカラバイオ、Affymetrix社等から入手可能である。定量方法についても、特に限定はされず、当業者に周知の方法、例えば、タカラバイオ、Affymetrix社等から入手したDNAチップに添付された方法により定量とすることができる。
【0052】
本発明の第1の態様のスクリーニング方法は、脳実質における、Arc、Nr4a1、FosおよびNpas4からなる群から少なくとも1つ選択される遺伝子のmRNAの発現量を定量する工程を含むが、mRNAの発現量を定量する遺伝子は、Arc、Nr4a1、FosおよびNpas4の4遺伝子の任意の組合せであり得る。つまり、本発明に係るスクリーニング方法は、脳実質における、当該4遺伝子の任意の1つ、任意の2つ、3つまたは4つのmRNAの発現量を定量する工程を含む。好ましくは、本発明に係るスクリーニング方法は、脳実質における、Arc、Nr4a1、FosおよびNpas4の4遺伝子のmRNAの発現量を定量する工程を含む。
【0053】
本発明の第一の態様では、例えば、成長ホルモンを6回隔日に連続海馬内投与したマウスに被験化合物を投与し、Fos およびNpas4遺伝子のmRNAの発現量が実質的に不変かつ、ArcおよびNr4a1遺伝子のmRNAの発現量が不変ないし低下すれば、当該被験化合物は、抗不安薬または抗うつ薬としてのポテンシャルを有する化合物として選択できる。また、成長ホルモン受容体アンタゴニストを6回隔日に連続海馬内投与したマウスに被験化合物を投与し、Npas4遺伝子のmRNAの発現量が実質的に不変ないし上昇し、かつ、Arc、Nr4a1およびFos遺伝子のmRNAの発現量が実質的に不変である場合、当該被験化合物は、抗不安薬または抗うつ薬としてのポテンシャルを有する化合物として選択できる。
なお、ここで、「実質的に不変」とは統計的に有意差の無いことを意味する。
当該被験化合物が好ましい場合、正常マウスに投与したときに、Arc、Nr4a1、FosおよびNpasからなる群から少なくとも1つ選択される遺伝子のmRNAの発現量は、当該被験化合物により影響されない。
【0054】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、脳実質とは、海馬および側・後頭葉大脳皮質、前脳大脳皮質、並びに視床からなる群から選択される少なくとも1つ部位の実質であり得る。
【0055】
本発明はさらに、第3の態様において、成長ホルモンをマウスの海馬に連続投与して得られる、不安またはうつの研究用モデルマウスを提供する。ここで、不安またはうつは、好ましくは、てんかんに併発するものである。
【0056】
本発明の第3の態様に使用するマウスは、第1および第2の態様と同様であり、例えば、正常マウスまたはキンドリングマウスである。
【0057】
本発明の第3の態様においては、第1および第2の態様と同様に、正常マウスまたはキンドリングマウスの海馬に、成長ホルモンを連続投与する。連続投与の回数は、好ましくは2〜10回、より好ましくは6〜10回、もっとも好ましくは、6〜7回である。連続投与のスケジュールは当業者が適宜設定することができる。好ましくは、連続投与は、例えば、隔日または毎日投与することでなされ得る。好ましくは、連続投与は、隔日に6回投与することでなされる。海馬内投与は、当業者に周知の方法で、カニューレ等を使用して実施され得る。
【0058】
かかるマウスモデルは、動物における不安またはうつに対する被験化合物または治療方法の効果を調べる研究に有用である。
【実施例】
【0059】
1.実験材料および方法
1.1. 対象および外科手術手技
マウス (8 週齡、雄; Slc:ddY、日本SLC)を輸送ストレスから回復させるために1週間飼育した。すべての手順は、大阪府立大学動物実験計画指針に準拠し実施した。2匹のマウスを、182 mm (幅) x 260 mm (奥行き) x 128 mm (高さ)の蓋のないプラスチックケージで飼育した。これらのケージの上部をステンレス製ワイヤーグリッドの蓋で覆った。ケージの床にはおがくずを敷き詰め、これは毎週交換した。マウスを、温度 (22 ℃ + 5℃)および照明 (12/12h 明期/暗期、午前8:00から明期)の制御された条件下で飼育した。餌および水は自由に与えた。
【0060】
すべての外科手術手技は、以前に記載されているように [Kato et al., J Neurochem. 110:509-519 (2009)]、イソフルラン (大日本住友製薬株式会社; メディカル・エージェント)による麻酔下で行った。側頭葉てんかんのモデルとして、扁桃体キンドリングマウスを以前に記載されているようにして([Kato et al., Brain Res. 901:281-295 (2001), Kato et al., J Neurochem. 110:509-519 (2009)])作成した。簡単に説明すると、単極陰極電極と陽極電極とを扁桃体基底外側部の右側と硬膜下腔の左側とにそれぞれ挿入した。手術の10日後、無拘束の意識のあるマウスに二相方形波 [480 μA、60 Hz、200 μs 持続時間、2 秒間]を1日1度約 20回与えた結果、キンドリング-発作が達成された。薬物の脳への微量注入のために、ガイド用カニューレ (ID=0.4 mm、OD=0.5mm、株式会社エイコム)を備えた微量注入カニューレ (ID=0.2 mm、株式会社エイコム) を以前に記載されているように (Kato et al.、2009)海馬の左側に挿入した (A -2.0、L 1.5、V 2.5 mm)。1μlの、ジェノトロピン (90 pmol/μl、組換えヒト成長ホルモン、191 アミノ酸、ファイザー株式会社)、ペグビソマント (90 pmol/μl、成長ホルモン受容体アンタゴニスト、組換えタンパク質、12 mg/ml ファイザー株式会社)、オクトレオチド (90 pmol/μl、成長ホルモン抑制ホルモン類似体、ノバルティスファーマ株式会社)、および バッファー (40 mg/ml D-マンニトール、2 mg/ml グリシン、および 0.02 mM リン酸ナトリウム、pH 6.85) を無拘束の意識のあるマウスの海馬に、それぞれ流速0.5 μl /分にて微量注射器ポンプ (kdScientific社製、KDS 200 シリーズ)を用いて注入し、1日おきに 6 回薬物を投与した。サンプルを1回の微量注入の24時間後および1日おきの6回の微量注入の3時間後に調製した。
【0061】
1.2. RNA 単離および定量的 RT-PCR
マウスを断頭した後、大脳皮質の尾側部分[海馬、扁桃体、および側頭葉を含む] (ブレグマ 4.0 ~ -0.9 mm)、視床、および大脳皮質の頂端側部分(ブレグマ -0.9 ~ -5.2 mm)を、偽手術(sham-operated) マウス(4匹の独立の動物)、中間ステージ 3のマウス (4匹の独立の動物)、および完全キンドリングマウス(5匹の独立の動物) から以前に記載されているように [Kato et al., J Neurochem. 110:509-519 (2009)]切開して取り出した。qRT-PCRのために、トータル RNA をRNeasy lipid tissue mini (株式会社キアゲン)により製造業者の指示に従って脳の各部分から調製した。トータル RNA (1 μg)をまず、M-MLV 逆転写酵素 (ReverTra Ace、東洋紡績株式会社)を用いて以前に記載されているように逆転写した。Arc、Fos、Nr4a1、およびNpas4 mRNAの定量的 PCRを、SYBR Green (Power SYBR Green PCR Master Mix、Applied Biosystems)を用いて、7300 Real-Time PCR systemにて以下のスケジュールで行った: 1サイクル、50 サイクルおよび1 サイクルの3工程増幅: 95℃ 10 分間 (1 サイクル)、95℃ 15 秒間 および60℃ (Npas4についてのみ65℃) 1 分間 (50 サイクル)、および95℃15 秒間、60℃1 分間、95℃15 秒間、および60℃ (Npas4についてのみ65℃) 1 分間 (1 サイクル)。PCRに用いたプライマー対は以下の通りであった:
(Arc、118 bp、NM018790における262-379bp)
5’-GCC GCC AAA CCC AAT GT-3’(配列番号1)/
5’- GCT CTC GCT CCA CCT GCT T-3’(配列番号2)、
(Fos、309 bp、NM010234における1536-1844bp)
5’-TTC CTA GTG ACA CCT GAG AGC TG-3’(配列番号3)/
5’-GAA CAT TGA CGC TGA AGG ACT AC-3’(配列番号4)、
(Nr4a1、105 bp、NM010444における602-706bp)
5’-CCC CGA GCC AGA CTT ATG AA-3’(配列番号5) /
5’-TGG GAG GAC TGA AGG AGA AGA A-3’(配列番号6)、
(Npas4、161 bp、NM153553における2772-2932bp)
5’-TTC CAT TTC AAT CTG TAT TCA CTC GTA-3’(配列番号7) /
5’-TTG GTG GGG GAA AGG CA-3’(配列番号8)、および、
(GAPDH、136 bp、NM008084における278-413bp)
5’-GGA GCG AGA CCC CAC TAA CA-3’(配列番号9)/
5’-GGC GGA GAT GAT GAC CCT TT-3’(配列番号10)。
【0062】
標的およびGAPDHの相対的標準曲線を、偽手術マウスの大脳皮質の頂端側部分の規定のロットから得られた規定量のcDNAを用いて作製した。標的およびGAPDHの量はこれら曲線に基づいて定量し、値は、SDS ソフトウェアバージョン 1.4 (Applied Biosystems)を用いて各領域におけるGAPDH mRNAに対する標的 mRNAの比として記載した。
【0063】
1.3. 飼育ケージ内での活動量
182 mm (幅) x 260 mm (奥行き) x 128 mm (高さ) の蓋のないケージ中の個々のマウスの活動量を記録チャンバーの床の上30 cmに配置したパッシブ赤外線センサー (バイオテックス有限会社) により検出し、活動量を毎分多機能ボード (KPCI-1801HC)に送った。
【0064】
1.4. オープンフィールド試験
オープンフィールド試験では、活動量は歩行運動により評価した。
オープンフィールド装置は、AUTOMEX II (L50.8 cm x D34 cm x H9 cm; Columbus Instruments、Columbus、OH)上にアクリル壁(30 cm)を備えた白マス床 (L44 cm x D25 cm)から構成されたものである。床を黒いストリップにより12 マス (L11 cm x D8.5 cm)に分割し、周辺領域および中央領域を形成させた。周辺領域は、2面の壁を有する4 マスと1面の壁を有する6 マスからなり、中央領域は中央の2マスからなる。フィールドを閉鎖マス空間 (L92 cm x D58 cm x H108 cm)で覆い、150 から200 lux にて照明し、ビデオカメラ (VDR-M70K-S、パナソニック株式会社) を床の100 cm上に設置し、そのなかのマウスがマス空間の外側を見ることができないようにした。
【0065】
マウスを1匹ずつオープンフィールドの右側の角に入れ、その活性を 10 分間記録した。試験期間中、マウスは装置内で静かに放置した。試験後、マウスを飼育ケージに戻した。各試験の間に、活動領域は70% エタノール溶液で洗浄し、完全に乾燥させた。オープンフィールド活性は以下のパラメーターにしたがって手作業でスコア付けした: 総活動量、マウスの頭部が10 分間入った領域の総数;中央領域に入るまでの潜伏時間、試験開始からマウスの頭部と後肢の両方が中央領域に入るまでの時間;立ち上がり回数;グルーミング時間の総持続時間;および糞の数。
【0066】
1.5. 統計分析
一因子共分散分析(single factor ANCOVA)および一元配置分散分析(対応なし)(one-way Factory ANOVA)による統計検定をExcelおよびKyPlot 5.0の組合せと、ExcelおよびStatview-J 5.0の組合せをそれぞれ用いて行った。図2、3、および4におけるグラフ中の棒の上の星印の数(*1〜*6) は、Fisher’s PLSDおよびBonferroni/Dann 検定による多重比較からの結果としてのそれぞれp<0.05、0.01、0.005、0.001、0.0005、および0.0001である。
【0067】
2.結果
本発明者らは、外来性 GHとしてヒト 組換え GHおよびペグビソマント(ポリエチレングリコールで修飾されたGHRのアンタゴニスト)の、キンドリング-刺激を与えていないマウスの海馬への投与の前、最中および後の発作-応答遺伝子の発現変動および不安/活動量を調べた(図1)。
【0068】
2.1. 発現変動
4種の最初期遺伝子; Arc、Fos、Nr4a1、およびNpas4の発現が、てんかん発作の症状の発現後に上昇したことが報告されている[Akiyama et al., Brain Res. 1189:236-46. 12-1967 (2008), Flood et al., Eur J Neurosci. 20:1819-2621(2004), Morgan et al., Science. 237:192-19749(1987)]。本実施例では、これらmRNAのqRT-PCRを、キンドリング-発作の後および薬物-投与の後のマウスのトータル RNA を用いて行った。まず、本発明者らはキンドリング-発作の後にこれらすべての転写産物のレベルが上昇することを確認した。平均すると、Arcにおいては2.4- (図2A)、Fosにおいては4.3- (図2B)、Nr4a1においては2.1- (図2C)、Npas4においては6.6- (図2D)倍、それぞれ偽手術マウスにおけるレベルと比較してキンドリング-発作の後の皮質領の海馬および尾側部分において高かった。したがって、本発明者らは次に、キンドリング-刺激を与えていないマウスの海馬へのrhGH/アンタゴニストの投与の、これらの転写産物のレベルに対する効果を調べた。
【0069】
薬物の1回の投与の後の海馬および皮質領の尾側部分において、rhGH、ペグビソマント、またはバッファー群の間でそれぞれArc (図5A)、Nr4a1 (図5C)、またはNpas4 (図5D)の発現に差はなかった。しかし、rhGHの6回の投与の後の海馬および皮質領の尾側部分において、バッファー投与群およびGHR アンタゴニスト (ペグビソマント)群におけるレベルと比較してそれぞれ、Arc mRNA は2.0- および4.3-倍(図2A) そして Nr4a1 mRNA は2.8- および3.0-倍 (図2C)上昇していた(図4A)。一方、Npas4 mRNAは、バッファーおよびrhGH投与群における レベルと比較してアンタゴニストの6 回投与によって4.3-および3.6-倍低下していたが(図4D)、6回投与の後のrhGHおよびバッファー群の間に差は無かった (図2D)。したがって、ArcおよびNr4a1 mRNAの発現は、GH シグナル伝達軸による調節を受けるが、一方、Npas4 mRNAの発現はGH 受容体を介するシグナル伝達によって調節されるが、GHの量には依存しないことが示唆された。一方、rhGH、アンタゴニスト、およびバッファーの6回投与によってFos mRNA の差は無く(図4B)、rhGHの1回の投与は、バッファー投与群のレベルと比較して1.6-倍のmRNAの低下をもたらした (図5B)。Fos mRNAの発現はおもにGH-GHR軸以外の別のシグナル伝達経路によって調節されているようであることが示唆された。
【0070】
2.2. 挙動分析: 自発的活動量
本実施例において、挙動はrhGH およびペグビソマントの投与の前、最中および後の飼育ケージ内での自発的活動量によって評価される情動活性化によって観察した。自発的歩行活動量は24時間の周期的リズムの効果を受けた。次いで、GHの分泌を低下させる成長ホルモン抑制ホルモンは 睡眠に強く影響を与えるので、本発明者らは、成長ホルモン抑制ホルモン 類似体であるオクトレオチド [Lamberts et al., Clin Endocrinol. (Oxf) 27:11-2340(1987)]の、この活性に対する効果を観察し、この活性に対するオクトレオチドの効果とGHおよびGHR アンタゴニストの効果を比較した。
【0071】
ペグビソマントおよびオクトレオチドの投与は自発的活動の24-時間の回数を低減させたが、rhGHの投与によってはこの活性に差はみられなかった(図3A)。詳細に説明すると、ペグビソマントは投与の回数の増加にしたがって徐々にこの活性を低下させるように機能したが、オクトレオチドの投与による低下は投与回数に依存しなかった。さらに、ペグビソマントの投与による低下は明期および暗期の両方において観察されたが、オクトレオチドの投与による低下は明期においてのみ観察され (図3B およびC)、オクトレオチドによって低下する活動量は周期的であることが示された。この結果はおそらく、成長ホルモン抑制ホルモンがラットおよびヒトにおいて睡眠を妨げることを示す報告と一致する[Steiger, J Psychiatr Res. 41:537-52(2007)]。一方、ペグビソマントによって引き起こされる自発的活動量の変化は、概日リズムを示さなかった。
【0072】
2.3. 挙動分析: オープンフィールド試験
別の情動活性化を、キンドリング-刺激を与えていないマウスの海馬への外来性 GH およびアンタゴニストの投与の前、最中および後の、オープンフィールドでのマウスの活動量、立ち上がり、グルーミング、および排便によって調べた。結果を表1に要約し、これは生データから構成される平均 + S.E.Mを示す。第一に、投与は、バッファー-群と比較して、rhGH-群の総活動量 (入った床単位数) (表1 第1行)、潜伏時間 (第1の床から頭および肢が離れるまでの時間) (表1 第4行)、または立ち上がり (後肢でマウスが立つ回数) (表1 第7行)に差をもたらさなかった。これらの結果は、自発的活動量の結果に加えてrhGHが活動量に影響を与えないことを示す。一方、rhGHの投与はグルーミング (体および頭の上に口または肢が位置する) の持続時間の有意な上昇をもたらし、この上昇は第1日から第11日まで続き、投与の回数に依存しなかった (図4 および表1 第10行)。てんかん動物は自己グルーミングを示すことが報告されている [Midzyanovskaya et al., Epilepsy Behav. 6:543-551(2005)]。したがって、本実施例でのrhGHの投与は、てんかん動物における自己グルーミングを模倣することが示唆された。さらに、一因子共分散分析では排便(糞便物質の数)に関して群間での差が示されなかったが、一元配置分散分析では、rhGHの投与の後第11日に排便の上昇を示した。したがって、rhGHの投与による不安レベルの上昇は、グルーミング時間の上昇によって大幅に、そして排便の上昇によって穏やかに評価された。
【0073】
一因子共分散分析は、ペグビソマントの投与が、総活動量 (表1 第2行) ならびに自発的活動量を低下させたことを示し、一元配置分散分析は、それは注入の回数の進行にしたがって徐々に低下することを示した。一因子共分散分析は、潜伏時間 または立ち上がりにおける3群の間の差を示さなかったが (表1、第5および8行)、一元配置分散分析は、注入回数の進行にしたがって徐々に立ち上がり回数(表1、第8行)が低下することを示した。さらに、1日の間の群間の差に関する一元配置分散分析は、ペグビソマントの投与後の潜伏時間の延長が、バッファーの投与後のレベルよりも上昇したことを示した(表1、第5行)。これら結果から、ペグビソマントの投与は、不安惹起作用なしに活動量を低下させることが示唆された。
【0074】
表1. オープンフィールド活性試験
【表1】


rGH (n=8)、ペグビソマント (n=8)、およびバッファー (n=9)の微量注入の際のマウスを用いたオープンフィールド試験における活性および排便
横切ったマスの数(総活動量)として表した活性パラメーター (平均 + S.E.M.)、周辺領域への潜伏時間(秒)、立ち上がり回数、グルーミングの持続時間(秒)、および糞の数として表した排便を10分間測定した。
# 1 共変動および3 群による一因子共分散分析を薬物の効果についてこれらパラメーターを分析するために行った。
$共分散分析における有意性は多重比較のためのBonferroni/Dann検定に従った。
\薬物の回帰直線の間の並行性における有意性を決定した。
ρ薬物-群内での日による差を一元配置分散分析で分析した(第1日からの変化、Fisher’s PLSD): ρ1F(5,42)=2.49、*6p<0.05 、ペグビソマントにおける総活動量(第1日と第11日の間で*5p<0.01); ρ2F(5,42)=5.50、*3p<0.001、 ペグビソマントにおける立ち上がり(第1日および第7日の間で*6p<0.05; 第1日および第9日の間で *4p<0.005; 第1日と第11日の間で*2p<0.0005)。
γ日内の薬物の間での差を一元配置分散分析により分析した(Fisher’s PLSDにより各日におけるバッファーからの変化): γ1F(2,21)=6.59、p<0.01、第1日におけるグルーミング (rGH とバッファーとの間でδ5p<0.01); γ2F(2,22)=3.69、p<0.05、第5日における潜伏時間 (ペグビソマントとバッファーとの間でδ6p<0.05)、γ3F(2,22)=7.63、p<0.005 、第11日における立ち上がり(ペグビソマントとバッファーとの間でδ4p<0.005); F(2、22)=4.81、p<0.05、第11日における糞の数 (rGHとバッファーとの間でδ6p<0.05)。
【0075】
3.考察
本実施例により、外来性 GHが、キンドリング-発作の後に発現上昇するいくつかの最初期遺伝子、即ち、ArcおよびNR4A1の発現を直接的に上昇させ、TLEの獲得の後にもっともよく観察される精神医学的合併症の1つである不安のより高いレベルを直接的に誘導することが示された[Ekinci et al., Epilepsy Behav. 14:8-18(2009), Ettinger et al., J Epilepsy 11:105-109 (1998), Gastens et al., Epilepsia. 49:1759-1776 (2008), Midzyanovskaya et al., Epilepsy Behav. 6:543-551(2005), Mortazavi et al., Epilepsy Behav. 7:629-38(2005), Mueller et al., Exp Neurol. 219:284-297(2009), Vazquez et al., Epilepsy Behav. 4:S20-S25(2003), Zhang et al., Neurotoxicology. 29:406-412 (2008)]。本発明者らはまた、GHRの外来性 アンタゴニストが、キンドリング-発作の後に発現上昇する最初期遺伝子である Npas4の発現を直接的に低下させ、直接的に活動量を低下させることを示した。過剰な活動量はてんかんを有する動物のいくらかにおいて観察される精神医学的合併症の1つである[Gastens et al., Epilepsia. 49:1759-1776(2008), Midzyanovskaya et al., Epilepsy Behav. 6:543-551 (2005), Mueller et al., Exp Neurol. 219:284-297(2009), Zhang et al., Neurotoxicology. 29:406-412(2008)]。
【0076】
本実施例では、不安、探索、および活動量の測定のために、飼育ケージ内での自発的活動量および、オープンフィールド試験を用いた活動量、立ち上がり、グルーミング、および排便を測定した。自発的活動量は、ストレスのない条件下で飼育ケージ内で24時間、および明期および暗期の各期間についての活動量を測定した。この活性はまた、周期的概日リズムの効果を示した。一方、オープンフィールドでは相反する動機がみられた。即ち、ストレスの多い環境から逃避する動機と、それを探索する動機である。
【0077】
本発明者らは、GHの情動行動に対する効果を観察するために、不安および活動量を測定する試験を選択した。
第一に、外来性 GHは、自己グルーミングの大幅な増加および排便の穏やかな増加などの不安惹起作用を誘発した(図4および表1)。
一方、外来性 GHR アンタゴニストを投与されたマウスは、飼育ケージ内での自発的活動量(図3)およびオープンフィールド試験 (表1)の両方で活動量低下を示した。
【0078】
結論すると、海馬における外来性 GHは、ArcおよびNr4a1 発現誘導と共役して不安惹起作用を誘発した。行動上および分子的誘導はキンドリング-発作の後の現象と類似していた。さらに、海馬における外来性 GHR アンタゴニストは Npas4 発現の阻害と共役して活動量低下を誘発し、キンドリング-発作後に誘導される現象の抑制を示した。したがって、キンドリング-発作後に誘発される不安および過剰活動量は、GH-GHR シグナル伝達の下流で別々に調節されている可能性がある。別の側面において、Arc、Nr4a1、およびNpas4を含むGH-GH 受容体 シグナル伝達は、脳における情動行動、不安およびうつの出現に直接的に影響を及ぼしていることが示唆された。それゆえ、海馬におけるGH-GHR シグナル伝達経路の下流に存在するArc およびNr4a1またはNpas4の知見は、不安およびうつにおける治療的介入に道を開くであろう。一方、Fosは、GH-GHR軸以外のシグナル伝達経路によって調節されることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)成長ホルモンをマウスの海馬に連続投与する工程、
(ii)当該マウスに被験化合物を投与する工程、および、
(iii)当該マウスの脳実質における、Arc、Nr4a1、FosおよびNpas4からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子のmRNAの発現量を定量する工程、
を含む、抗不安薬または抗うつ薬をスクリーニングする方法。
【請求項2】
抗不安薬または抗うつ薬が、てんかんを伴わない不安またはうつを治療するためのものである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
抗不安薬または抗うつ薬が、てんかんの合併症である不安またはうつを治療するためのものである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
mRNAの発現量の定量を、定量的RT-PCRまたはDNAチップにより行う、請求項1−3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
脳実質が、海馬および側・後頭葉大脳皮質、前脳大脳皮質、ならびに視床からなる群から選択される少なくとも1つの部位の実質である、請求項1−4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
(i)成長ホルモンをマウスの海馬に連続投与する工程、
(ii)当該マウスに被験化合物を投与する工程、および、
(iii)当該マウスの不安またはうつを示す行動を観察する工程、
を含む、抗不安薬または抗うつ薬をスクリーニングする方法。
【請求項7】
成長ホルモンをマウスの海馬に連続投与して得られる、不安またはうつの研究用モデルマウス。
【請求項8】
不安またはうつが、てんかんを伴わないものである請求項7に記載のモデルマウス。
【請求項9】
不安またはうつが、てんかんに併発するものである、請求項7に記載のモデルマウス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−78381(P2011−78381A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235309(P2009−235309)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】