説明

抗歯周病性口腔用組成物及び飲食品

【課題】口腔関連疾患において特に歯周病疾患の予防改善のために、マトリックスプロテアーゼの阻害及び/または産生阻害に優れた物質であって、渋味や苦味の強いエピガロカテキン−3−O−ガレートに代わる、風味がよく、かつ人体に対して安全性が極めて高く、低濃度の口腔用組成物の提供。
【解決手段】紅茶抽出物又はラッカーゼ処理緑茶エキスに含まれるエピテアフラガリン、エピテアフラガリン−3−O−ガレート或はテアフラビン−3−O−ガレートを有効成分とする組成物に、MMP阻害、およびMMPの産生阻害効果を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピテアフラガリン、エピテアフラガリン 3−O−ガレート、及び/またはテアフラビン 3−O−ガレートを含有する抗歯周病性口腔用組成物及び飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔の二大疾患である齲蝕(虫歯)と歯周病はともに病原性細菌により引き起こされる感染性疾患であり、性別や年齢に関わらず最も罹患率の高い疾患の一つである。
【0003】
さて歯周病は歯周病原性プラーク細菌の増加、細菌の組織内侵入及び感染に対する宿主応答がその原因となっている。特にプロフィロモナス・ジンジバリス(以下、P.gingivalisという)は、歯周病の中で最も多いとされる成人性歯周病の病原菌と有力視されている細菌であり、歯周病患者の歯周ポケット底部から高い頻度で分離される。このP.gingivalisはペプチドを増殖源とするために、コラゲナーゼなどのタンパク質分解酵素を産生する。
【0004】
この菌は血液平板上で黒色のコロニーを形成する非運動性のグラム陰性桿菌であり、マトリックスメタロプロテアーゼ(以下、MMPという)の一種であるコラゲナーゼ等のタンパク質分解酵素や、ホスホリパーゼA、アルカリホスファターゼ、酸ホスファターゼ等を産生することが知られている。なかでもコラゲナーゼは歯周組織のコラーゲンを分解する作用を有するため、歯肉の組織破壊を導く直接的な因子といわれている。
【0005】
初期の歯周病は、プラーク細菌由来の抗原に対する初期の免疫応答、即ち、走化性因子やTNF−α、IL−1、IL−6といった炎症性サイトカインの産生により惹起される。これらTNF−α、IL−1などのサイトカインはMMPの一種であるコラゲナーゼ(MMP−1)やストロムライシン−1(MMP−3)の合成を誘導する。
【0006】
P.gingivalis及びヒト組織由来のMMP−1やMMP−3はコラーゲン、ゼラチンおよびプロテオグリカンなどの細胞外マトリックス成分で構成される歯周組織を分解する活性を有するため、歯周病の進行を促進させる因子である。そのため歯周病を有効に予防し、また治療するためには、歯周ポケット内のP.gingivalisの生育を抑え、歯肉組織からのコラーゲン分解を抑制するとともにP.gingivalisの増殖因子となるコラゲナーゼ活性を抑制したり産生を阻害したりすることが歯周病予防となり得る。
【0007】
こうした疾病の改善・予防あるいは健康増進に有用な生物や植物が、世界各地で探索されている。しかし生物の乱獲は資源保護、生物多様性条約の観点から好ましいものではなく、また植物についても産地や栽培履歴等のトレーサビリティーが不十分で安全性を担保できない原料を用いた健康食品が市場に出回り、深刻な副作用や社会的混乱を引き起こしている。
【0008】
こうした中、茶の有するカテキンが注目されている。茶(Camellia sinensis)はツバキ科(Theaceae)に属する多年生の木本性常緑樹で、最も長い歴史を持つ飲料原料であり、2005年には日本では100,000トン、世界では3,201,000トン生産されていることから、原料に茶を用いることは安心・信頼できるものがある。
【0009】
既に緑茶には種々の機能性が明らかにされており、歯周病予防に期待されるコラゲナーゼ阻害効果(非特許文献1参照)も報告されている。その生理活性の中心は茶カテキンの一種であるエピガロカテキン 3−O−ガレートである場合が多い(非特許文献2参照)。
【0010】
食品や飲料でエピガロカテキン 3−O−ガレートの作用を得るには、高濃度のカテキンを使用する必要があるが、高濃度のカテキンを用いるとカテキン自体の“苦味”と“渋味”が強く、お茶本来の風味を損なってしまう。そこで“苦味”と“渋味”をマスキングするために、シクロデキストリンを併用する方法が開示されている(特許文献1参照)。しかし、β-シクロデキストリンには毒性があることが、世界食品添加物合同専門会議(JECFA)の安全性評価で確認されたことから、EU諸国では使用量が規制され、“苦味”“渋味”を緩和するための十分なマスキング処理を施せなくなってきている。
【0011】
このことから歯周病を予防改善するための、風味がよく、マスキング処理が不要である茶由来重合カテキンが期待されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−254511号公報(第7頁、表1)
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Journal of periodontology、American Academy of Periodontology、1993年、64巻、p.634、Figure 7
【非特許文献2】Vitamins and Hormones、Academic Press、2001年、62巻、p.1−94
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
口腔関連疾患のうち、特に歯周病疾患の予防改善に効果のある組成物であって、渋味や苦味の問題がない、風味がよく、かつ人体に対して安全性が高い口腔用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ラッカーゼ処理した緑茶エキスあるいは紅茶抽出物に含まれるエピテアフラガリン及びエピテアフラガリン 3−O−ガレート(以下、エピテアフラガリン類という)、テアフラビン 3−O−ガレートに、歯周病疾患の原因因子であるMMPの阻害作用、およびMMPの産生阻害作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち本願の第1の発明は、茶由来重合カテキンを含有するMMP−1活性阻害組成物及び/又はMMP−3活性阻害組成物である。
第2の発明は、茶由来重合カテキンを含有するMMP−1産生阻害組成物及び/又はMMP−3産生阻害組成物である。
第3の発明は、前記記載の茶由来重合カテキンが、エピテアフラガリン、エピテアフラガリン 3−O−ガレート、テアフラビン 3−O−ガレートから選ばれる1種または2種以上からなる組成物である。
第4の発明は、前記記載の茶由来重合カテキンが、没食子酸存在下でラッカーゼ処理することにより得られる組成物である。
第5の発明は、前記記載の茶由来重合カテキンが、紅茶抽出物中に含まれる組成物である。
第6の発明は、前記記載の組成物を含有する歯周病改善及び/又は歯周病予防に用いる抗歯周病性口腔用組成物である。
第7の発明は、前記記載の組成物を含有する歯周病改善及び/又は歯周病予防に用いる抗歯周病性口腔用飲食品、含嗽剤又は口腔洗浄剤である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、MMP−1及びMMP−3活性阻害、およびMMP−1及びMMP−3の産生阻害効果を有する組成物を見出したことから、歯周病疾患に対する高い予防効果を得られる口腔用組成物を提供できた。
【0018】
更に、本発明で得られたエピテアフラガリン類、テアフラビン 3−O−ガレートにより、味をマスキングするための添加物が不要となり、安全性が高く“苦味”“渋味”のない剤を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】茶由来重合カテキンによるヒト正常歯肉繊維芽細胞に対する細胞毒性
【図2】茶由来重合カテキンによるヒト正常歯肉繊維芽細胞におけるMMP−1産生抑制効果
【図3】茶由来重合カテキンによるヒト正常歯肉繊維芽細胞におけるMMP−3産生抑制効果
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
エピテアフラガリン類、すなわちエピテアフラガリンとエピテアフラガリン 3−O−ガレート、そしてテアフラビン 3−O−ガレートは下記化学式で表される。
【0021】
【化1】




【化2】


【化3】

【0022】
そこで、本願発明者が先に見出した製造方法で、エピガロカテキン及び/またはエピガロカテキン 3−O−ガレートに、没食子酸の存在下、ポリフェノールオキシダーゼを作用させて、エピテアフラガリン類に変換して製造する。(特開2007−319140参
照)
【0023】
上記方法の原料となるエピガロカテキン 3−O−ガレートは、茶抽出物に含まれることから、エピガロカテキン及び/またはエピガロカテキン 3−O−ガレートを含有する茶抽出物に没食子酸を添加し、ポリフェノールオキシダーゼを作用させて、エピテアフラガリン類を含有する混合物を製造することができる。茶抽出物としては、一例として緑茶抽出物、ウーロン茶抽出物、または紅茶抽出物を挙げることができる。
【0024】
(緑茶抽出物)
緑茶は、ツバキ属(Camellia)植物の葉の抽出物であり、主にCamellia sinensis、Camellia assamicaの新芽を原料として、それを乾燥させたものである。緑茶抽出物としては、例えば、SD緑茶エキスパウダーNo.16714(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)、サンフェノンBG(太陽化学株式会社)などを挙げることができる。また、抽出法としては、原料を熱水、含水アルコール、グリセリン水溶液、酢酸エチル等にて抽出し、精製・濃縮し、噴霧乾燥または凍結乾燥する方法がある。
【0025】
(ウーロン茶抽出物)
ウーロン茶は、緑茶抽出物と同様の茶葉を一定時間発酵させ、その後加熱して発酵を停止したものである(半発酵茶)。ウーロン茶抽出物としては、例えば、FDウーロン茶エキスパウダーNo.16297(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)などを挙げることができる。また、抽出法としては、原料を熱水、含水アルコール、グリセリン水溶液、酢酸エチル等にて抽出し、精製・濃縮し、噴霧乾燥または凍結乾燥する方法がある。
【0026】
(紅茶抽出物)
紅茶は、緑茶抽出物と同様の茶葉を強発酵させ、その後加熱して発酵を停止したものである(強発酵茶)。紅茶抽出物としては、例えば、SD紅茶エキスパウダーNo.16691(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)などを挙げることができる。また、抽出法としては、原料を熱水、含水アルコール、グリセリン水溶液、酢酸エチル等にて抽出し、精製・濃縮し、噴霧乾燥または凍結乾燥する方法がある。
【0027】
茶抽出物の一例を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
まず、茶抽出物に含まれるエピガロカテキン及びエピガロカテキン 3−O−ガレートの総量に対して、没食子酸の添加をモル比で1〜10とする。好ましくはモル比2〜5とするのが適当である。
【0030】
ポリフェノールオキシダーゼは、エピガロカテキンをエピテアフラガリンに変換することができ、かつ、エピガロカテキン 3−O−ガレートをエピテアフラガリン 3−O−ガレートに変換することができる酵素であれば、特に制限はない。
【0031】
ポリフェノールオキシダーゼは遊離の酵素または固定化酵素であることができる。ポリフェノールオキシダーゼは遊離の酵素である場合、ポリフェノールオキシダーゼは没食子酸を添加した茶抽出物に所定量添加し、以下の所定時間、所定温度で変換反応を行う。ポリフェノールオキシダーゼの所定量とは、例えば、茶抽出物を0.5〜15(w/v)%を含む溶液1mLに対して10〜200Uの範囲である。
【0032】
茶抽出物にどの程度のエピガロカテキン及び/またはエピガロカテキンガレートが含有されているかは、茶抽出物により異なる。例えば、SD緑茶エキスパウダーでは、エピガロカテキンが約10(w/w)%、エピガロカテキン 3−O−ガレートが約13(w/w)%ほど含まれている。従って、例えば茶抽出物を1%含む溶液は、エピガロカテキンが約1mg/mL、エピガロカテキン 3−O−ガレートが約1.3mg/mLになる。
【0033】
変換反応についての所定時間とは、例えば10分〜15時間、所定温度とは20〜60℃の範囲である。ポリフェノールオキシダーゼによる変換反応後に、茶抽出物を加熱して酵素を失活させることをさらに含む。加熱条件は、70〜90℃で2〜10分とすることが適当である。
【0034】
上記製造方法により得られるエピテアフラガリン類またはエピテアフラガリン類含有混合物は、そのまま飲食品に加えて、本発明の飲食品とすることができる。本発明の飲食品は、具体的には茶飲料であり、例えば、緑茶飲料、緑茶風飲料、ウーロン茶飲料、ウーロン茶風飲料、紅茶飲料、または紅茶風飲料を挙げることができる。本発明の飲料は、エピテアフラガリン類を0.0001〜0.5質量%含有するものであることができる。
【0035】
また、上記製造方法により得られるエピテアフラガリン類またはエピテアフラガリン類含有混合物は、そのまま飲食品に添加して利用することもできるが、没食子酸存在下で茶抽出物をポリフェノールオキシダーゼで処理した液を、抽出・精製または濃縮を行い、噴霧乾燥または凍結乾燥し、整粒によりエキス粉末を調製することもできる。こうした濃縮溶液またはエキス粉末を各種形態の食品およびヘルスケア製品の原料として供することもできる。
【0036】
濃縮溶液またはエキス粉末を適用できる食品としては、例えば、ガム、菓子、キャンディー、サプリメント等を挙げることができる。一方ヘルスケア製品としては、口腔洗浄液、歯磨きペースト等を挙げることができる。
【実施例】
【0037】
実施例として、エピテアフラガリン類、テアフラビン 3−O−ガレート、ラッカーゼ処理緑茶エキス、口腔用飲食品及び含嗽剤の調製をした。
【0038】
(実施例1)エピテアフラガリン
エピガロカテキン2gを水150mLに加えて攪拌した(氷冷)。フェリシアン化カリウム5g、 炭酸水素ナトリウム 3g/水30ml、ピロガロール1.4g/水30mLを
滴加した。反応液を酢酸エチル抽出(100mL×3)し、減圧下、溶媒留去し、カラムクロマト精製(ポリアミド C−200 10g(カラム径2cm)、水/エタノール混液で展開)によりエピテアフラガリン溶出画分を集め、水/メタノ−ルで再結晶し、黄橙色結晶260mgを得た。
【0039】
(実施例2)エピテアフラガリン3−O−ガレート
エピガロカテキン3−O−ガレート4gを水300mLに加えて攪拌した(氷冷)。フェリシアン化カリウム10g、炭酸水素ナトリウム6g/水60mL、ピロガロール2.8g/水60mLを滴加した。反応液を酢酸エチル抽出(100mL×3)し、減圧下、溶媒留去し、カラムクロマト精製(ポリアミド C−200 50g(カラム径3cm)、水/エタノール混液で溶出)、エピテアフラガリン 3−O−ガレート溶出画分を集め、水/メタノ−ルで再結晶し橙色結晶840mgを得た。
【0040】
(実施例3)テアフラビン3−O−ガレート
エピガロカテキン 3−O−ガレート1g、 エピカテキン0.4gをとり、pH5.0リン酸水素二ナトリウム-クエン酸緩衝液50mL、アセトン5mLを加えて溶かした。西洋わさび由来ペルオキシダーゼ(東洋紡、113U/mg)5mgを添加し、3%過酸化水素水5mLを滴下した。
反応液に水を加えて希釈(10倍)し、ポリアミド C−200 30gカラムに添加し、水/エタノールで溶出。エタノール/水(3:2)で溶出する画分を集め、減圧乾固し、赤色粉末120mgを得た。
【0041】
(比較例1)エピガロカテキン 3−O−ガレート
太陽化学株式会社製 サンフェノンEGCgを用いた。
【0042】
(比較例2)トラネキサム酸
東京化成工業株式会社製 トラネキサム酸を用いた。
【0043】
(比較例3)インドメタシン
和光純薬工業株式会社製 インドメタシンを用いた。
【0044】
(比較例4)デキサメタゾン
Sigma社製 デキサメタゾンを用いた。
【0045】
(試験例1)MMP−1及び3に対する活性阻害効果
(1)試験方法
試験には、MMP−1 Fluorimetric Drug Discovery Kit(BIOMOL社製、AK−405)、およびMMP−3 Fluorimetric Drug Discovery Kit(BIOMOL社製、AK−401)を用い、当該キットに添付された文書に従い、測定及び解析を行った。いずれの酵素もヒト由来の組み換え酵素である。
【0046】
96ウェルマイクロプレートの各ウェルに、アッセイ用緩衝液(78μL)、MMP−1(15.3U/ウェル)またはMMP−3(2.0U/ウェル)及び試料(1μL/ウェル)を加え、プレートミキサーで撹拌後、37℃で30分間インキュベーションした。
なお、コントロール及びブランクにはDMSO1μLを添加した。インキュベーション後、各ウェルに、基質(1μL)を加え、プレートミキサーで撹拌後、5分おきに60分後まで、励起波長320nmで蛍光波長400nmの蛍光強度を測定した。
各濃度について、得られた蛍光強度をプロットし、近似直線の傾きを算出し、次式により、コントロールの傾きを100%としたときの各濃度における値について求め、MMP酵素活性を50%阻害する試料化合物濃度、即ちIC50(μM)を算出した。
【0047】
試料溶液の傾き/コントロールの傾き×100=(%コントロール)
【0048】
(2)結果
ヒト由来MMP−1及び3に対して、エピテアフラガリン、エピテアフラガリン 3−O−ガレート、およびテアフラビン 3−O−ガレートは、いずれもエピガロカテキン 3−O−ガレートよりも明らかに低濃度でMMP酵素活性を阻害し、強い阻害活性物質であることを示した。また、これらの阻害活性は、歯周病予防効果が期待されているトラネキサム酸よりも強力であった(表2)。
【0049】
【表2】

【0050】
(試験例2)ヒト正常歯肉繊維芽細胞に対する細胞毒性
ヒト正常歯肉繊維芽細胞の増殖能を指標にして、実施例で得られた各試料の細胞毒性を評価した。
【0051】
(1)試験方法
(細胞及び培養方法)
ヒト正常歯肉繊維芽細胞(39歳、男性、継代数19)を、大日本住友製薬株式会社より購入し、10%非働化ウシ胎児血清(FBS)、100U/mLペニシリン、0.1mg/mLストレプトマイシン含有するDMEM培地(高グルコース培地)中にて、継代、維持した。試験には、継代数22の細胞を用いた。
【0052】
(細胞増殖能の測定)
細胞増殖は、WST−1 Cell Counting Kit(和光純薬工業)を用いて評価した。5%FBSを含むDMEM培地で細胞を1×10個/mLの細胞密度に調製し、96ウェルプレート(コーニング)の各ウェル当たり1×104個を播種した。細胞がプレートに接着後、検体を各濃度になるように添加し、インキュベーター内(37℃、5%CO)で48時間培養した。コントロールにはDMSOを同様にして添加した(濃度0.1%)。培養終了後、各ウェルの培地を、WST−1を10%含む10%FBS−DMEM培地に交換し、さらに1時間培養した後、波長450nmにおける吸光度を測定し
て増殖能の指標とした。
【0053】
(2)試験結果
エピガロカテキン 3−O−ガレートは、比較的高濃度において濃度に依存した細胞毒性を示した。エピテアフラガリン、エピテアフラガリン 3−O−ガレート、およびテアフラビン 3−O−ガレートも、高濃度においては若干の毒性を示したが、エピガロカテキン 3−O−ガレートに比較して、明らかに低毒性であった(図1)。

【0054】
(試験例3)ヒト正常歯肉繊維芽細胞におけるMMP産生対する抑制効果
P.gingivalis由来のリポポリサッカライドや炎症性サイトカインIL−1の刺激により、歯肉繊維芽細胞よりMMPが産生される。参考例1で得られた試料存在下でIL−1に刺激によるヒト繊維芽細胞からのMMPの産生量を測定した。
【0055】
(1)試験方法
(細胞及び培養方法)
ヒト正常歯肉繊維芽細胞(39歳、男性、継代数19)を、大日本住友製薬株式会社より購入し、10%非働化ウシ胎児血清(FBS)、100U/mLペニシリン、0.1mg/mLストレプトマイシン含有するDMEM培地(高グルコース培地)中にて、継代、維持した。試験には、継代数21の細胞を用いた。
【0056】
(培養上清の調製及びマトリクスメタロプロテアーゼ生成量の測定)
5%FBS含有DMEM培地で細胞を7×104個/mLの細胞密度に調製し、24ウェルプレート(IWAKI)の各ウェルあたり3.5×104個播種した。37℃、5%CO存在下のインキュベーター内で2日間培養し、FBS不含DMEM培地に交換して16時間培養後、IL−1β(1ng/mL)及び被検液(3ないし10μM)を含む培地に交換して、37℃、5%CO存在下のインキュベーター内で24時間処置した。処置後、各ウェルの培地を回収して遠心分離(10,000rpm、10min、4℃)後、上清中の各MMPの濃度を市販のELISAキット(R&Dシステムズ)により測定した。
【0057】
(2)試験結果
IL−1βにより誘導されるMMP−1の産生に対して、いずれの化合物も濃度に依存した阻害効果を示し、エピガロカテキン 3−O−ガレート、エピテアフラガリン、およびエピテアフラガリン 3−O−ガレートは、細胞毒性を全く示さない10μMにおいてほぼコントロールレベルにまで抑制し、テアフラビン 3−O−ガレート(10μM)はコントロールレベル以下にまで抑制した。また、これらの阻害効果は、一般的な抗炎症剤であるインドメタシンよりも強力であった(図2)。
【0058】
一方、MMP−3の産生に対しては、エピテアフラガリン 3−O−ガレートおよびテアフラビン 3−O−ガレートに、エピガロカテキン 3−O−ガレートよりも強い抑制効果が認められた。さらに、テアフラビン 3−O−ガレート(10μM)の抑制効果は、ステロイド剤であるデキサメタゾン(10μM)よりも強力であった(図3)。
【0059】
(実施例4)ラッカーゼ処理緑茶エキス
緑茶エキス(カメリアエキス40R(太陽化学))1g及び没食子酸一水和物(純正化学)0.48gを取り、水100mLに溶解した。ラッカーゼダイワY120(天野エンザイム、108,000U/g)0.0093〜0.093gを添加し、反応温度45〜50℃で、1〜2hr反応した。反応後、反応液を加熱処理して放冷し凍結乾燥し、得られた乾燥粉末をラッカーゼ処理緑茶エキスとした。当該エキス中には、エピテアフラガリンが0.1〜0.4%(w/w)、エピテアフラガリン3−O−ガレートが0.2〜1.5%(
w/w)含まれていた。
【0060】
(実施例5)口腔用飲食品
下記組成の各成分を混合し、打錠機を用いて、口腔用飲食品(口腔用清涼剤)1錠あたり250mg)を製した。
ラッカーゼ処理緑茶エキス 20%
紅茶抽出物 10%
結晶セルロース 56%
ショ糖脂肪酸エステル 4%
微粒二酸化ケイ素 2%
精製寒天 8%
【0061】
(実施例6)含嗽剤又は口腔洗浄剤
下記組成を撹拌混合し、含嗽剤を得た。
塩酸クロルヘキシジン 0.05%
ラウリル硫酸ナトリウム 5.0%
メチルパラベン 0.1%
ラッカーゼ処理緑茶エキス 1.0%
香料 0.2%
精製水 適量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶由来重合カテキンを含有するマトリックスメタロプロテアーゼ1活性阻害組成物及び/又はマトリックスメタロプロテアーゼ3活性阻害組成物。
【請求項2】
茶由来重合カテキンを含有するマトリックスメタロプロテアーゼ1産生阻害組成物及び/又はマトリックスメタロプロテアーゼ3産生阻害組成物。
【請求項3】
請求項1〜2記載の茶由来重合カテキンが、エピテアフラガリン、エピテアフラガリン 3−O−ガレート、テアフラビン 3−O−ガレートから選ばれる1種又は2種以上からなる請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
請求項1〜2記載の茶由来重合カテキンが、没食子酸存在下でラッカーゼ処理をした緑茶抽出物より得られる請求項1〜3記載の組成物。
【請求項5】
請求項1〜2記載の茶由来重合カテキンが、紅茶抽出物中に含まれる請求項1〜4記載の組成物。
【請求項6】
請求項1〜5記載の組成物を含有する歯周病改善及び/又は歯周病予防に用いる抗歯周病性口腔用組成物。
【請求項7】
請求項1〜5記載の組成物を含有する歯周病改善及び/又は歯周病予防に用いる抗歯周病性口腔用飲食品、含嗽剤又は口腔洗浄剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−219484(P2009−219484A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34751(P2009−34751)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(306018343)クラシエ製薬株式会社 (32)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【Fターム(参考)】