説明

抗炎症剤

【課題】天然物に由来し、安全性の高い抗炎症剤及びこれを含有する化粧品並びに医薬部外品を提供すること。
【解決手段】式(1)
【化1】


(式中、Rは、=CH-(CH212-CH3又は=CH-(CH2)4-CH=CH-(CH2)8-CH3又は=CH-(CH2)16-CH3を示す)で表されるブタノライド誘導体を有効成分として含有する抗炎症剤。該抗炎症剤において、炎症は皮膚炎症でもよく、また、皮膚炎症はアトピー性皮膚炎又は火傷性皮膚炎でもよい。該抗炎症剤を含有する化粧品又は医薬部外品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗炎症剤及びこれを含有する化粧品、医薬部外品に関し、詳細には、ブタノライド誘導体を有効成分として含有する抗炎症剤及びこれを含有する化粧品、医薬部外品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活環境の変化、ストレスの増大等に起因し、アトピー性皮膚炎 、化学物質過敏症、花粉症等の炎症性疾患の罹患者数が増大傾向にあり、社会問題化している。特にアトピー性皮膚炎は、小児のみならず成人の発症例も多く、罹患者数の増加が大きな問題となっている。従来、皮膚炎症性疾患の薬物による治療は、主に外用剤が用いられ、ステロイド系の薬剤が多用されている。しかし、ステロイド系の薬剤は、治療効果が高いものの、皮膚萎縮、毛細血管拡張、感染症の憎悪等、副作用が強く、使用方法が難しいという問題がある。また、比較的症状が軽い場合はブフェキサマク等の非ステロイド系の薬剤が用いられるが、接触皮膚炎や浮腫等の過敏症の副作用の報告もある。
【0003】
従来、有用な抗炎症剤を提供すべく、種々の提案があり、例えば、ニトロイミダゾール誘導体を主成分とする抗炎症剤(特許文献1参照)、イヌカラマツ抽出物を含有する皮膚外用剤(特許文献2参照)等があるが、ブタノライド誘導体を有効成分とする抗炎症剤の提案はない。他方、クスノキ科に属するタブノキの樹皮等の抽出物を有効成分とする外皮用止痒剤あるいは抗菌剤の提案があるが(特許文献3、特許文献4参照)、タブノキの樹皮等に含まれる有用な成分についての提案はない。
【0004】
【特許文献1】特開2001−163782号公報
【特許文献2】特開2000−226323号公報
【特許文献3】特開2003−81851号公報
【特許文献4】特開2003−95835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の事情に基づきなされたもので、タブノキの樹皮等に含まれ、天然物由来で安全性の高い抗炎症剤及びこれを含有する化粧品並びに医薬部外品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、式(1)
【0007】
【化2】

(式中、Rは、=CH-(CH212-CH3又は=CH-(CH2)4-CH=CH-(CH2)8-CH3又は=CH-(CH2)16-CH3を示す)で表されるブタノライド誘導体を有効成分として含有することを特徴とする抗炎症剤を要旨とする。該抗炎症剤において、炎症が皮膚炎症であり、また皮膚炎症がアトピー性皮膚炎あるいは火傷性皮膚炎でもよい。
【0008】
上記の抗炎症剤を含有する化粧品又は医薬部外品を要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の抗炎症剤は、天然物に由来し、安全性が高く、皮膚炎症、特にアトピー性皮膚炎や火傷性皮膚炎に有用である。また、本発明の化粧品又は医薬部外品は、上記の効果に加え、ブタノライド誘導体を有効成分とする抗炎症剤の広汎な利用を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の抗炎症剤は、式(1)で表されるブタノライド誘導体を有効成分として含有する。該ブタノライド誘導体は、特に、タブノキ(Machilus thunbergii)の抽出物に含まれる。タブノキは、クスノキ科の植物で、本州中南部、四国、九州、沖縄、韓国、中国等比較的温暖な地方の海岸沿いに多い常緑高木で、入手が容易である。また、既述のように、タブノキの抽出物は、外皮用止痒剤や抗菌剤として利用されており、安全性が高く、これに含有される成分も安全性が高いものと思われる。
【0011】
タブノキの抽出物は、タブノキを抽出溶媒で抽出することにより得ることができる。抽出溶媒は、式(1)で表されるブタノライド誘導体を抽出成分として含ませることができる限り、特に限定はないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、プロピレングリコール、アセトン、ヘキサン、エチルエーテル、酢酸エチル、クロロホルム等の有機溶媒、水、有機溶媒の2種以上の混合溶媒、水と有機溶媒の混合溶媒等を用いることができる。抽出は、通常、室温で行うことができるが、加温下で行うこともできる。タブノキは、式(1)で表されるブタノライド誘導体が抽出成分として含まれる限り、樹皮、葉、茎、根、根皮等いずれの部位をも用い得るが、樹皮を用いることが好ましい。また、タブ粉という名称で線香の原料として販売されるタブノキの樹皮、葉の粉末を用いることもできる。更に、式(1)で表されるブタノライド誘導体を抽出成分として含む限り、同属植物を用いることもできる。
【0012】
式(1)で表されるブタノライド誘導体は、タブノキの抽出物から分離、精製することにより得ることができる。分離、精製は、薄層クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー、HPLC等の各種のクロマトグラフィー、樹脂、膜、晶析等の公知の分離、精製の技術を用いて行うことができる。
【0013】
また、式(1)で表されるブタノライド誘導体は、有機合成により得ることもできる。
【0014】
式(1)で表されるブタノライド誘導体は母体骨格に結合する置換基Rが=CH-(CH212-CH3、である場合、式(2)に示される2-テトラデシリデン-3-ヒドロキシ-4-メチレンブタノライド 2-tetradecylidene-3-hydroxy-4-methylenebutanolideである。また、置換基Rが=CH-(CH2)4-CH=CH-(CH2)8-CH3である場合、式(3)で示される2-(6-エン-ヘキサデシリデン)-3-ヒドロキシ-4-メチレンブタノライド 2-(6-ene-hexadecylidene)-3-hydroxy-4-methylenebutanolideである。更に、置換基Rが=CH-(CH2)16-CH3である場合、式(4)で示される2-オクタデシリデン-3-ヒドロキシ-4-メチレンブタノライド 2-octadecylidene-3-hydroxy-4-methylenebutanolideである。なお、以下の式中の番号は、後記のNMRの測定における位置番号を示す。
【0015】
【化3】

【0016】
【化4】

【0017】
【化5】

【0018】
式(1)で表されるブタノライド誘導体は、医薬として薬剤に用いることができるが、化粧品、あるいは医薬部外品として用いることもできる。使用する際の形態は特に限定されないが、外用剤として用いることが好ましい。外用剤としては、特に限定がないが、クリーム、軟膏、ローション、溶液、エアゾル、湿布剤、貼付剤等として使用できる。また、製剤に当たって、薬学的に許容される担体や着色料、香料、防腐剤等を添加できる。
【0019】
化粧品は、石けん、シャンプー、リンス、洗顔クリーム、ローション等のスキンケア用品を例示できる。
【0020】
医薬部外品は、薬用クリーム、入浴剤、薬用石けん、きず消毒保護剤等を例示できる。
【0021】
本発明の抗炎症剤は、外用の場合、使用者の年齢、性別、症状等を考慮して適宜増減できるが、ブタノライド誘導体として例えば、1回当たり0.01〜100mg、好ましくは0.1〜10mgが用いられる。また、本発明の化粧品、医薬部外品は、1回当たりブタノライド誘導体として、例えば0.001〜50mg、好ましくは0.01〜10mgを添加して用いることができる。
【実施例】
【0022】
次いで、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0023】
〔実施例1〕(ブタノライド誘導体の単離、精製)
近藤緑化株式会社から提供を受けたタブノキ樹皮木粉(2mmに粉砕)800gを、ソックスレー抽出器を用いてメタノール約12L(液比15)で約4時間抽出を行った。得られた抽出物をエバポレーターにて溶媒を留去した。予め三角フラスコに酢酸エチルを入れ、マグネティックスターラーで撹拌しながら、濃縮した前記のメタノール抽出物を滴下し、酢酸エチルによる抽出を行った。その後、遠心分離(3500rpm、10min)を行い、酢酸エチル可溶部である上清を得た。酢酸エチル可溶部中の溶媒を留去し、抽出物を得た。
【0024】
長さ58 cm、直径7.5 cmのオープンカラムに、約1 kgのシリカゲルを充填し、上記で得られた抽出物をシリカゲルクロマトグラフィーに供して分画した。溶離液は、酢酸エチル:ヘキサン=1:1(1L)、続いて3:1(500ml)、4:1(500ml)、5:1(600ml)、1:0(1L)を用いて溶出させ、その後メタノールで溶出した。流速 5 ml /minで15 ml / tube分取して245画分(tube 1〜161)を得た。これらを薄層クロマトグラフィー(TLC)(酢酸エチル:ヘキサン=1:3で展開)に供し、表1に示す10画分(Fr.1〜10)にまとめた。
【0025】
【表1】

【0026】
次いで、長さ50 cm、直径5 cmのカラムに、約500 gのシリカゲルを充填し、上記で得られたFr. 2 約3 gをシリカゲルクロマトグラフィーに供して分画した。溶離液は、酢酸エチル:ヘキサン=1:5(1L)、続いて1:3(500 ml)、1:2(500 ml)、1:1(500 ml)、1:0(500 ml)を用いて溶出させ、その後メタノールで溶出した。15 ml / tubeを分取して488画分を得た。
【0027】
上記で得られた488画分を10本おきに逆相HPLCに供した。この操作により、強いピークが認められた140〜200画分をまとめ、Fr. Aとした。
【0028】
上記の逆相HPLCで得られたクロマトグラムにより、Fr.Aの内、RTが20、22、35の3つのピークの化合物を分取し、単離、精製した。得られた各化合物をそれぞれEA-A、EA-B、EA-Cとした。
【0029】
EA-A、EA-B、EA-Cについて、それぞれNMR及びFAB-MSに供した。1H-NMR(CDCl3、500MHz)及び13C-NMR(CDCl3、125MHz)の解析結果は図1〜図3に示した。また、FAB-MSの結果は、図4〜図6に示した。
【0030】
上記の解析結果より、EA-Aは分子量308で式(2)の化合物、EA-Bは分子量334で式(3)の化合物、EA-Cは分子量364で式(4)の化合物であると同定された。
【0031】
〔実施例2〕(ブタノライド誘導体の抗炎症作用の検討)
コンフルエントに達した細胞 (ヒト単球系白血病細胞由来THP-1細胞、培養液10ml)の入った10cm ディッシュ (関東化学株式会社 CSPD 90-15)で、ピペッティングを繰り返し、細胞懸濁液を50ml遠心チューブに移し、激しく20回ピペッティングを行い更に懸濁した。
遠心分離機 (TOMY、LC-100)を用い、1000rpm、1分間遠心分離した。10% FBS含有RPMI 1640培地を吸引除去し、予め37℃に温めておいた新しい10% FBS含有RPMI 1640培地を加え、やさしくピペッティングを行い懸濁した。この中の200μlを、滅菌したマイクロチューブにとり、10μlのトリパンブルーを混合した後、その10μlを取り、改良ノイバウェル型血球計算盤を用いて細胞数を求め、3×105cells/mlの細胞懸濁液を調製した。該細胞懸濁液と10% FBS含有RPMI 1640培地を50mlの遠心チューブで混合し、10cmディッシュに10ml加え、37℃、5% CO2のCO2インキュベーターにて培養した。
【0032】
抗炎症作用の検討は、実施例1で得られたメタノール抽出物、酢酸エチル可溶部、酢酸エチル不溶部、酢酸エチル可溶部をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供して得られた既述の10画分の内のFr.1〜9(Fr.1〜3、Fr.4〜6、Fr.7〜9)及びEA-A、EA-B、EA-Cについて行った。それぞれの検体は、終濃度が10μg/mlとなるように調製した。また、ポジテイブコントロールのLPS(リポ多糖)は、100ng/mlに調製した。
【0033】
ELISA法による測定のため、24ウエルプレート(IWAKI 1820-024、浮遊培養用マイクロプレート)に上記のTHP-1細胞の培養液を1mlずつ加え、37℃、5% CO2のCO2インキュベーターにて培養した。継代培養2日後、各ウェルに各検体50μlとLPS50μlを添加し、更に37℃、5% CO2のCO2インキュベーターにて培養した。検体の添加から24時間後、すなわちTHP-1細胞の継代培養3日後の各ウェルから培養液1mlをマイクロチューブにとり遠心した後、培養上清を回収し検体とした。
【0034】
上記で得られた培養上清の検体をHuman Tumor Necrosis Factor-α(以下、「hTNF-α」という) ELISA Kit(コスモバイオ株式会社、KHC3011)を用い、ELISA法によるhTNF-α量の測定を行った。各試薬は、添付のマニュアルに従い調製し、各試薬及び検体を反応させ、マイクロプレートリーダーにて450nmにおける吸光度を以下のように測定した。
【0035】
hTNF-α抗体が固定された96ウエルコートプレートに、それぞれの検体を添加した。スタンダード用のウエルには50μlインキュベーションバッファー、検体用のウエルには50μlスタンダードバッファーを添加した。その後、100μlスタンダードバッファー(コントロール)及び検体をそれぞれ添加し、プレートカバーをして室温で2時間反応させた。2時間後、反応液を捨て、洗浄バッファーで4回洗浄した。100μlビオチン標識抗hTNF-α抗体を添加し、プレートカバーをして室温で1時間反応させた。1時間後、反応液を捨て、洗浄バッファーで4回洗浄した。100μlストレプトアビジンペルオキシダーゼを添加し、プレートカバーをして室温で30分間反応させた。30分後、反応液を捨て、洗浄バッファーで4回洗浄した。100μlの発色剤を添加し、室温、暗所で30分間反応させた。反応後、100μlストップバッファーを添加し、マイクロプレートリーダーを用いて450nmにおける吸光度を測定した。結果は、表2及び図7に示した。
【0036】
【表2】

【0037】
表2及び図7から明らかなように、EA-A、EA-B、EA-Cはいずれも炎症性サイトカインのhTNF-αを有意に抑制した(有意差検定P<0.05)。特に、EA-Bが最も高い活性を示した。
なお、有意差検定は、Student t-testにより行った。以上より、式(1)で表されるブタノライド誘導体は、抗炎症活性を有することが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】EA-AのNMRスペクトルである。
【図2】EA-BのNMRスペクトルである。
【図3】EA-CのNMRスペクトルである。
【図4】EA-AのFAB-MSスペクトルである。
【図5】EA-BのFAB-MSスペクトルである。
【図6】EA-CのFAB-MSスペクトルである。
【図7】ブタノライド誘導体などのhTNF-αの抑制効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

(式中、Rは、=CH-(CH212-CH3又は=CH-(CH2)4-CH=CH-(CH2)8-CH3又は=CH-(CH2)16-CH3を示す)で表されるブタノライド誘導体を有効成分として含有することを特徴とする抗炎症剤。
【請求項2】
炎症が皮膚炎症であることを特徴とする請求項1に記載の抗炎症剤。
【請求項3】
皮膚炎症がアトピー性皮膚炎であることを特徴とする請求項2に記載の抗炎症剤。
【請求項4】
皮膚炎症が火傷性皮膚炎であることを特徴とする請求項2に記載の抗炎症剤。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の抗炎症剤を含有する化粧品。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の抗炎症剤を含有する医薬部外品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−150347(P2008−150347A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−342502(P2006−342502)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年7月20日 日本木材学会発行の「第56回日本木材学会大会 研究発表要旨集」に発表
【出願人】(500075151)近藤緑化株式会社 (3)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【Fターム(参考)】