説明

抗生物質ペプチド

本発明は、以下の一般式を有するペプチド又はペプチド誘導体に関する:
Sub1−X1−D2−K3−P4−P5−Y6−L7−P8−R9−P10−X2−P12−P13−R14−X3−I16−P17/Y17−N18−N19−X4−Sub2、但し、X1は非極性かつ疎水性の基又は正に帯電した基であり、D2はアスパラギン又はグルタミンであり、K3、X2及びX4は正に帯電した基であり、X3は正に帯電した基、プロリン又はプロリン誘導体であり;L7及びI16は非極性かつ疎水性の基であり、Y6及びY17はチロシンであり、R9及びR14はアルギニンであり、N18及びN19はアスパラギン又はグルタミンであり、P4、P5、P8、P10、P12、P13及びP17はプロリン、ヒドロキシプロリン又はその誘導体であり、場合によりD2、P4、P5、P8、P10、P12、P13、P17及びY17から選択される1又は2の基が任意の基で置換されており、及び/又はP13及びP14が交換されており、Sub1は遊離又は修飾されたN末端であり、及びSub2は遊離又は修飾されたC末端である。本発明は、さらに、医学における、抗生物質としての、消毒剤又は清浄剤における、保存剤としての又は包装材における、医薬研究における、又はスクリーニング法における、ペプチド及びペプチド誘導体の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に薬剤に用いるための抗生物質ペプチド及びペプチド誘導体に関する。
【0002】
本発明は、さらに、たとえば、細菌又は真菌のような微生物を破壊するための組成物及び方法、並びに微生物感染を治療する方法に関する。本発明は、さらに、活性物質をスクリーニングする方法を含む。
【背景技術】
【0003】
抗生物質による治療法の著しい進歩にもかかわらず、細菌及び真菌の重篤な感染の発生は深刻化する問題となっている。米国では、毎年、4000万人を超える人が病院に収容され、これらの患者のうち200万人を超える者が病院内で感染している。抗生物質耐性の細菌がこれらの症例の50〜60%に関与する(トーマス・エー(Tomasz A.)、複数の抗生物質耐性の病原性細菌−ロックフェラー大学のワークショップにおける報告(Multiple-Antibiotic-Resistant Pathogenic Bacteria -A Report on the Rockefeller-University Workshop)、ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン(New England Journal of Medicine)、330: 1247-51, 1994)。これらの院内感染疾患は米国では60,000〜70,000の死亡及びドイツでは10,000までの死亡をもたらすと推定されている(ウェンツェル・アール・ピー(Wenzel R P.)、院内感染の血液感染症の死亡率−新しい人口動態統計の必要性(The Mortality of Hospital-Acquired Blood-Stream Infections - Need for A New Vital Statistic.)、インターナショナル・ジャーナル・オブ・エピデミオロジー(International Journal of Epidemiology) 17: 225-7, 1988)。1970年代では耐性のグラム陰性細菌が主要な問題であったが、この10年間、幾つかの抗生物質に耐性であるグラム陽性細菌が関与する症例が増えている(モエラーリング・アール・シー(Moellering R C.)、グラム陽性好気性感染による耐性の出現:我々はこれからどこへ向かうのか?序論:グラム陽性球菌における抗菌剤耐性の問題(Emerging resistance with gram-positive aerobic infections: Where do we go from here? Introduction: Problems with antimicrobial resistance in gram-positive cocci.)、クリニカル・インフェクシャス・ディジーズ(Clinical Infectious Diseases) 26: 1177-8, 1998)。耐性株の現在の急速な進展には、グラム陽性及びグラム陰性の双方の病原体が関与する(ハンド・ダブリュ・エル(Hand W L.)、抗生剤耐性における現在の挑戦(Current challenges in antibiotic resistance.)、アドールセント・メディスン(Adolescent Medicine) 11: 427-38, 2000)。耐性は先ず、単一の突然変異が臨床的に重要なレベルに達するのに十分であった種、たとえば、黄色ブドウ球菌(スタフィロコッカス・アウレウス;Staphylococcus aureus)及び緑膿菌(シュードモナス・アエルギノーザ; Pseudomonas aeruginosa)において発生し、次に、複数の突然変異を必要とする種、大腸菌(E. coli)及び淋菌(ナイセリア・ゴノレア; Neisseria gonorrhoeae)に生じた。このことは主として、フルオロキノロン抗生物質の頻繁な使用による(フーパー・ディー・シー(Hooper D C.)、フルオロキノロン耐性の新たなメカニズム(Emerging mechanisms of fluoroquinolone antibiotics)、エマージング・インフェクシャス・ディジーズ(Emerging Infectious Diseases) 7: 337-41, 2001)。グラム陰性細菌における耐性の発生の別の重要な原因は、大腸菌(エシェリシア・コーライ;Escherichia coli)及びクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)における広範囲にわたるラクタマーゼである(ジョーンズ・アール・エヌ(Jones R N.)、院内感染の病原体の間での耐性パターン−過去数年にわたる傾向(Resistance patterns among nnosocomial pathogens-Trends over the past few years.)、チェスト(Chest) 119: 397S-404S, 2001)。軟性下疳の原因菌であるヘモフィルス・デュクレイ(Haemophilus ducreyi)の臨床的に関わりのある株のほぼ半分は、この細菌をアモキシシリン、アンピシリン及び幾つかのそのほかのβ−ラクタムに対して耐性にする遺伝子を持っている(プラチャヤシチカル・ブイ(Prachayasittikul V)、ラワング・アール(Lawung R)、及びブロウ・エル(Bulow L.)、ヘモフィルス・デュクレイ(Haemophilus ducreyi)におけるエピソームの特性及び可動性β−ラクタマーゼ・プラスミド(Episome profiles and mobilizable beta-lactamase plasmid in Haemophilus ducreyi.)、ザ・サウスイースト・アジアン・ジャーナル・オブ・トロピカル・メディスン・アンド・パブリック・ヘルス(Southeast Asian J Trop Med Public Health) 31: 80-4, 2000)。同様に、サルモネラ・エンテリカ血清型チフィムリウム(Salmonella enterica serovar typhimurium)のテトラサイクリンに対する耐性は1948年のゼロパーセントから1998年には98%に上昇した(チューバー・エム(Teuber M.)、食物が媒介する病原体による抗生物質耐性の蔓延(Spread of antibiotic resistance with food-borne pathogens.)、セルラー・アンド・モレキュラー・ライフ・サイエンス(Cellular and Molecular Life Sciences) 56: 755-63, 1999)。
【0004】
このことは、新しい抗生物質のさらなる検索の必要性を説明している。誘導可能な抗細菌ペプチドは、現代の生化学、免疫学及び活性物質の研究が一体となる研究の分野を代表する。13個から100個を超えるアミノ酸の大きさにわたるペプチド抗生物質が、植物、動物及び微生物から単離されている(ボマン・エイチ・ジー(Boman H G.)、ペプチド抗生物質及び先天性免疫におけるその役割(Peptide Antibiotics and Their Role in Innate Immunity.)、アニュアル・レビュー・オブ・イミュノロジー(Annual Review of Immunology) 13: 61-92, 1995)。単一の動物は、およそ6〜10個のペプチド抗生物質を有し、各ペプチドは完全に異なった活性スペクトルを示すことが多い(バラ・ディー(Barra D)、シマコ・エム(Simmaco M)、及びボマン・エイチ・ジー(Boman H G.)、遺伝子がコードするペプチド抗生物質及び先天性免疫。微小動物は防衛費を有するか?(Gene-encoded peptide antibiotics and innate immunity. Do 'animalcules' have defense budgets?) フェブス・レターズ(Febs Letters) 430: 130-4, 1998)。よく研究されているデフェンシン、セクロピン及びマゲイニンを含む圧倒的な数の抗細菌ペプチドは、「溶解性/イオン性」("lytic/ionic")のメカニズムによって作用することが知られている。細菌の細胞質膜に対する透過性の効果はこれら「溶解性」ペプチドの作用の共通するメカニズムとして議論されている(ラドトケ・エス(Ludtke S)、ヒー・ケー(He K)、及びフアング・エイチ(Huang H.)、マゲイニン2によって生じる膜の薄化(Membrane thinning caused by magainin 2.)、バイオケミストリー(Biochemistry) 34: 16764-9, 1995; ウィムレイ・ダブリュ・シー(Wimley W C)、セルステッド・エム・イー(Selsted M E)、及びホワイト・エス・エイチ(White S H.)、ヒトのデフェンシンと脂質二重層との間の相互作用−多量体の孔の形成の証拠(Interactions Between Human Defensins and Lipid Bilayers - Evidence for Formation of Multimeric Pores.)、プロテイン・サイエンス(Protein Science) 3: 1362-73, 1994;シャイ・ワイ(Shai Y.)、膜貫通のポリペプチド間の分子認識(Molecular Recognition Between Membrane-Spanning Polypeptides.)、トレンズ・イン・バイオケミカル・サイエンシズ(Trends in Biochemical Sciences) 20: 460-4, 1995)。脂質二重層に親水性のイオン(プロトン)チャンネルを形成するカチオン性の両親媒性構造が、この活性の基礎である。プロトンの流出のために、多数の基礎的な生命過程に必要である膜電位が妨害され、その結果、細胞が殺傷される。これらのペプチドによる膜の妨害は、キラル分子の認識に左右されるので、一般的な両親媒性構造又は基本正味電荷(basic net charge)を取除かないアミノ酸の交換は、機能的に認容される(ウェイド・ディー(Wade D)ら、すべてのDアミノ酸を含有するチャンネル形成性の抗生物質ペプチド(All-D Amino Acid-Containing Channel-Forming Antibiotic Peptides)、米国化学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America) 87: 4761-5, 1990;ステイナー・エイチ(Steiner H)、アンドリュー・ディー(Andreu D)、及びメリフィールド・アール・ビー(Merrifield R B.)、セクロピンとセクロピン類似体の結合及び作用−昆虫由来の抗細菌ペプチド(Binding and Action of Cecropin and Cecropin Analogs - Antibacterial Peptides from Insects.)、バイオキミカ・エト・バイオフィジカ・アクタ(Biochimica et Biophysica Acta) 939: 260-6, 1988)。高い濃度にてこれらの溶解性ペプチドは哺乳類の膜に対して毒性作用を有することが多く、それは、予定される医薬品としての適合性を制限している。α−螺旋状の抗菌ペプチドの配列にプロリンを挿入すると、プロリン残基の数の関数として大腸菌の細胞質膜を透過性にするペプチドの能力が低下する。これを調べると、少なくとも一部のグラム陰性病原体に関する、最も活性が高い、天然の抗細菌ペプチドの一部が、プロリン−リッチ・ペプチドのファミリーに属することは驚くべきことである(オトボス・エル(Otvos L)ら、改善されたプロテアーゼ耐性を有する昆虫のペプチドは細菌感染に対してマウスを保護する(Insect peptides with improved protease-resistance protect mice against bacterial infection.)。プロテイン・サイエンス(Protein Science) 9: 742-9, 2000)。
【0005】
上述の副作用は、哺乳類の類似体との交差反応を示すことなく、細菌のタンパク質又はそのほかの細胞内若しくは細胞外の成分を特異的に認識する、抗菌ペプチド(AMP)によって克服される。この事は、元々昆虫から単離されたアピダエシン、ドロソシン及びピロコリシンを含むプロリン−リッチの抗菌ペプチドに当てはまると思われる。大きさ及び生化学的な特性における膨大な変異と共に、構造−活性(structure-activity)及び立体配置−活性(conformation-activity)の関係が抗細菌ペプチド研究の焦点であることは驚くべきことではない。生物学的な強さに関する天然の抗細菌ペプチドのレパートリーを完全に検討することは一般的な生化学的疑問にとってだけでなく、医薬業界についての一定の関心にとっても重要である。ペプチドに基づいた抗生物質による試験管内試験の問題にかかわらず、一部の天然の、カチオン性の抗細菌ペプチドは臨床試験フェーズにすでに到達している(ボマン・エイチ・ジー(Boman H G.)、ペプチド抗生物質及び先天性免疫におけるその役割(Peptide Antibiotics and Their Role in Innate Immunity.)。アニュアル・レビュー・オブ・イミュノロジー(Annual Review of Immunology) 13: 61-92, 1995)。これらペプチドの一部は早期の臨床試験相において局所(topical)(局所;local)剤としての活性を示したが、他方は、全身性療法において活性があった。たとえば、髄膜炎菌血症の非経口治療に使用されるカチオン性タンパク質、rBPI21は、臨床試験の第3相を完了している(ボマン・エイチ・ジー(Boman H G.)、ペプチド抗生物質及び先天性免疫におけるその役割(Peptide Antibiotics and Their Role in Innate Immunity.)。アニュアル・レビュー・オブ・イミュノロジー(Annual Review of Immunology) 13: 61-92, 1995)。
【0006】
プロリン−リッチ・ペプチドのファミリー(例えば、アピダエシン、ドロソシン及びピロコリシン)は、膜の透過化だけでなく、1以上の標的タンパク質に立体特異的に結合することによって細菌を殺傷する。これらの可能性がある相互作用のパートナー、従来の熱ショックタンパク質であるDnaKは十分に検討されているが(クラゴル・ジー(Kragol G)ら、プロリン−リッチ・ペプチド、ピロコリシンの抗細菌活性についての決定的な残基の同定(Identification of crucial residues for the antibacterial activity of the proline-rich peptide, pyrrohocoricin.)。、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(European Journal of Biochemistry) 269: 4226-37, 2002;クラゴル・ジー(Kragol G)ら、抗細菌ペプチド、ピロコリシンはDnaKのATPアーゼ作用を阻害し、シャペロン介助のタンパク質の折り畳みを妨害する(The antibacterial peptide pyrrhocoricin inhibits the ATPase actions of DnaK and prevents chaperone-assisted protein folding.)。バイオケミストリー(Biochemistry) 40: 3016-26, 2001)、プロリン−リッチ・ペプチドによって阻害され、正しいタンパク質の折り畳みがおそらく妨害され、最終的に細胞死をもたらす。さらに、プロリン−リッチ・ペプチドは、メリチン又はグラミシジンのような定義された二次構造を有するAMPとは全く対照的に、真核生物の細胞に溶血性の効果も毒性の効果も試験管内では有さないと思われる。抗菌活性と共に、哺乳類血清(25%)における安定性は、新しいペプチドを基にした抗生物質の開発に主として決定的な影響を有する。たとえば、ドロソシンは1時間以内に分解されるが、ピロコリシンはプロテアーゼに対してはるかにさらに安定であり、半減期は120分である。
【0007】
シュナイダー(Schneider)及びドーン(Dorn)(シュナイダー・エム(Schneider M)及びドーン・エー(Dorn A.) カメムシであるオンコペルタス・ファシアタス(昆虫綱:半翅目)における2種類のシュードモナス種の差次的感染性と免疫応答(Differential infectivity of two pseudomonas species and the immune response in the milkweed bug, Oncopeltus fasciatus (Insecta: Hemiptera).)。ジャーナル・オブ・インバーテブレート・パソロジー(Journal of Invertebrate Pathology) 78: 135-40, 2001)による生物実験では、ナガカメムシ科(Lygaeidae family)のカメムシであるオンコペルタス・ファシアタス(Oncopeltus fasciatus)の若齢幼虫と蛹に2つの異なったグラム陰性シュードモナス菌種(Pseudomonas species)を感染させ、その免疫応答を解析した。ヒトの病原体である緑膿菌(シュードモナス・アエルギノーザ;Pseudomonas aeruginosa)によるオンコペルタス・ファシアタス(O. fasciatus)の若齢幼虫の感染は、48時間後、全個体の死亡を生じたが、病原性の低いシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)で感染させた個体は少なくとも96時間生き残った。次いでカメムシの若齢幼虫に先ずシュードモナス・プチダ(P. Putida)を感染させ、24時間後、シュードモナス・アエルギノーザ(P. aeruginosa)を感染させると、二重感染させた個体の最初の24時間の生存率は有意に73%に上昇した。侵入してきた微生物に対する先天性の免疫系の範囲内で昆虫が自己防御する、抗細菌ペプチドの合成の考えられる誘導を次いで検討した。4種のペプチド(オンコペルタス抗細菌ペプチド1〜4)を分子量15、8、5又は2kDaで同定し、抗細菌作用に関与するように保持した。エドマン(Edman)法による配列分析により、ペプチド1(15kDa)について長さ34のアミノ酸の部分配列に加えて、プロリン−リッチ2kDaのペプチド4の不完全配列が見出された。11位及び19位から開始するC末端配列におけるアミノ酸は決定的に同定することはできなかった。正確な分子量は不明である。
【0008】
抗生物質ペプチドの現在知られている配列の選択を表1に示す:
【0009】
【表1】

【0010】
[1]キャスティールズ・ピー(Casteels P)、アンプ・シー(Ampe C)、ヤコブス・エフ(Jacobs F)、バエック・エム(Vaeck M)、及びテンプスト・ピー(Tempst P.)、アピダエシン−ミツバチ由来の抗細菌ペプチド(Apidaecins - Antibacterial Peptides from Honeybees.)。エンボ・ジャーナル(Embo Journal)、8:2387−91,1989
[2]ブレット・ピー(Bulet P)ら、ショウジョウバエの新規誘導抗細菌ペプチドは、O−グリコシル化置換を有する(A Novel Inducible Antibacterial Peptide of Drosophila Carries an O-Glycosylated Substitution.)。ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry),268:14893−7,1993
[3]マッキントッシュ・ジェー・エー(Mackintosh J A)ら、2つの誘導O−グリコシル化プロリン−リッチ抗細菌ペプチドの、アリであるミルメシア・グローサ(Myrmecia gulosa)からの単離(Isolation from an ant Myrmecia gulosa of two inducible O-glycosylated proline-rich antibacterial peptides.)。ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)、273:6139−41,1998
[4]コシアンシック・エス(Cociancich S)ら、半翅目の昆虫、吸汁性の虫、ピロコリス・アプテルスに由来する新規誘導抗細菌ペプチド(Novel Inducible Antibacterial Peptides from A Hemipteran Insect, the Sap-Sucking Bug Pyrrhocoris-Apterus.)。バイオケミカル・ジャーナル(Biochemical Journal)、300:567−75,1994
[5]チャーニッシュ・エス(Chernysh S)、コシアンシック・エス(Cociancich S)、ブリアンド・ジェー・ピー(Briand J P)、ヘトル・シー(Hetru C)、及びブレット・ピー(Bulet P)、半翅目の昆虫パロメナ・プラシナ(Palomena prasina)の誘導抗細菌ペプチド:プロリン−リッチ・ペプチドの独特のファミリー及び新規昆虫デフェンシンの同定(The inducible antibacterial peptides of the hemipteran insect Palomena prasina: Identification of a unique family of proline-rich peptides and of a novel insect defensin.)。ジャーナル・オブ・インセクト・フィシオロジー(Journal of Insect Physiology)、42:81−9,1996
[6]シュナイダー・エム及びドーン・エー(Schneider M & Dorn A.)、カメムシであるオンコペルタス・ファシアタス(昆虫綱:半翅目)における2種類のシュードモナス種の差次的感染性と免疫応答(Differential infectivity of two pseudomonas species and the immune response in the milkweed bug, Oncopeltus fasciatus (Insecta: Hemiptera).)。ジャーナル・オブ・インバーテブレート・パソロジー(Journal of Invertebrate Pathology) 78: 135-40, 2001
【0011】
新しい抗細菌及び抗真菌化合物、新しい抗細菌及び抗真菌医薬組成物、及びその使用方法、並びに新しい医薬抗生物質を検出するための活性物質をスクリーニングするために用いることができる化合物に対する要求が依然として存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明によって解決されるべき課題は、高い安定性を有する新規抗生物質ペプチドを提供すること、グラム陽性細菌に対するAMPの作用スペクトルを拡大することにより最新の広いスペクトルの抗生物質を利用可能にすること、及び真核生物の細胞にペプチドを導入することにより隠れた細菌と対抗することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、以下の一般式を有する、本発明に係るペプチド及びペプチド誘導体によって解決される:
Sub1−X1−D2−K3−P4−P5−Y6−L7−P8−R9−P10−X2−P12−P13−R14−X3−I16−P17/Y17−N18−N19−X4−Sub2(式1)
但し、X1は、非極性かつ疎水性の側鎖を有する残基、又は正の正味電荷若しくは生理的条件下において正に帯電する側鎖を有する残基であり;
2は、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基であり;
3は、正の正味電荷又は生理的条件下において正に帯電する側鎖を有する残基、好ましくはリジン又はアルギニンであり;
2及びX4は、互いに独立して、正の正味電荷又は生理的条件下において正に帯電する側鎖を有する残基から選択され;
3は、正の正味電荷又は生理的条件下において正に帯電する側鎖を有する残基又はプロリン又はプロリン誘導体であり;
7及びI16は、互いに独立して、非極性かつ疎水性の側鎖を有する残基、好ましくはロイシン、イソロイシン及びバリンから選択され;
6及びY17は、いずれの場合にもチロシンであり、R9及びR14は、いずれの場合にもアルギニンであり、N18はアスパラギン又はグルタミンであり、N19は、アスパラギン又はグルタミンであるか、或いは存在せず、P4、P5、P8、P10、P12、P13及びP17は、互いに独立して、プロリン及びプロリン誘導体、又はヒドロキシプロリン及びヒドロキシプロリン誘導体から選択され、
任意にP13及びP14は交換され、及び/又は任意にD2、P4、P5、P8、P10、P12、P13、P17及びY17から選択される1又は2の残基は任意の残基で置換され;
Sub1は、アミノ酸X1の遊離N末端又は修飾されたN末端アミノ基であり;
Sub2は、C末端アミノ酸の遊離C末端カルボキシル基(−COOH)又は修飾されたC末端カルボキシル基である。
【0014】
特に好ましい実施態様では、I16は、ロイシン、イソロイシン、tert−ブチルグリシン及びバリンを含む群から選択される。
【0015】
一実施態様では、P17が存在する場合、N19は存在しない。
【0016】
一般式1〜3の1つを有するペプチド及びペプチド誘導体が好ましい:
Sub1−X1−D2−K3−P4−P5−Y6−L7−P8−R9−P10−X2−P12−P13−R14−X3−I16−Y17−N18−X4−Sub2(式2)

Sub1−X1−D2−K3−P4−P5−Y6−L7−P8−R9−P10−X2−P12−P13−R14−X3−I16−Y17−N18−N19−X4−Sub2(式3)

Sub1−X1−D2−K3−P4−P5−Y6−L7−P8−R9−P10−X2−P12−P13−R14−X3−I16−P17−N18−X4−Sub2(式4)
【0017】
1は、非極性かつ疎水性の側鎖を有する残基、又は正の正味電荷若しくは生理的条件下において正に帯電する側鎖を有する残基であり;
2は、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基であり;
3は、正の正味電荷又は生理的条件下において正に帯電する側鎖を有する残基、好ましくはリジン又はアルギニンであり;
2及びX4は、互いに独立して、正の正味電荷又は生理的条件下において正に帯電する側鎖を有する残基から選択され;
3は、正の正味電荷若しくは生理的条件下において正に帯電する側鎖を有する残基又はプロリン又はプロリン誘導体であり;
7及びI16は、互いに独立して、非極性かつ疎水性の側鎖を有する残基、好ましくは、ロイシン、イソロイシン及びバリンから選択される。
【0018】
特に好ましい実施態様では、I16は、ロイシン、イソロイシン、tert−ブチルグリシン及びバリンを含む群から選択される。
【0019】
6及びY17は、いずれの場合にもチロシンであり、R9及びR14は、いずれの場合にもアルギニンであり、N18及びN19は、いずれの場合にもアスパラギン又はグルタミンであり、P4、P5、P8、P10、P12、P13及びP17は、互いに独立して、プロリン及びプロリン誘導体、又はヒドロキシプロリン及びヒドロキシプロリン誘導体から選択される。
【0020】
任意に、D2、P4、P5、P8、P10、P12、P13、P17及びY17から選択される1又は2の残基は、任意のアミノ酸残基、好ましくは中性残基、特に好ましくは、中性の極性残基で置換される。
【0021】
さらに、P13及びP14は任意に交換される。
【0022】
正の正味電荷又は生理的条件下で正に荷電する側鎖を有する残基は、アルギニン、リジン、δ−ヒドロキシリジン、ホモアルギニン、2,4−ジアミノ酪酸、β−ホモアルギニン、D−アルギニン、アルギナル(アルギニンの−COOHが−CHOで置換されている)、2−アミノ−3−グアニジノプロピオン酸、ニトロアルギニン(好ましくは、N(G)−ニトロアルギニン)、ニトロソアルギニン(好ましくは、N(G)−ニトロソアルギニン)、メチルアルギニン(好ましくは、N−メチル−アルギニン)、ε−N−メチルリジン、アロ−ヒドロキシリジン、2,3−ジアミノプロピオン酸、2,2’−ジアミノピメリン酸、オルニチン、sym−ジメチルアルギニン、asym−ジメチルアルギニン、2,6−ジアミノヘキシン酸、p−アミノ安息香酸及び3−アミノチロシン、並びにそれほど好ましくもないが、ヒスチジン、1−メチルヒスチジン、及び3−メチルヒスチジンを含む群から好ましくは選択される。X1、X2及びX3は好ましくは、互いに独立して、このリストから選択される。
【0023】
プロリン誘導体と言う用語は、好ましくは官能基の構造的修飾によってプロリンから得られる、プロリンに由来するアミノ酸残基を表す。好ましいプロリン誘導体は、β−シクロヘキシルアラニン、3,4−シス−メタノプロリン、3,4−デヒドロプロリン、ホモプロリン、又は擬似プロリン(pseudoproline)を含む群から選択される。ヒドロキシプロリンと言う用語は、とりわけ、シス−4−ヒドロキシプロリン、トランス−4−ヒドロキシプロリン、シス−3−ヒドロキシプロリン、及びトランス−3−ヒドロキシプロリンを含む。ヒドロキシプロリン誘導体と言う用語は、相応して、好ましくは官能基の構造的修飾によってヒドロキシプロリンから得られる、ヒドロキシプロリンに由来するアミノ酸残基を表す。好ましいヒドロキシプロリン誘導体は、ヒドロキシ−β−シクロヘキシルアラニン、及びヒドロキシル基で置換された前述のプロリン誘導体から選択される。
【0024】
中性残基は、生理的条件下において帯電しない側鎖を有する残基である。
【0025】
極性残基は好ましくは、側鎖に少なくとも1つの極性基を有する。これらは好ましくは、ヒドロキシル基、スルフヒドリル基、アミン基、アミド基又はエステル基、或いは水素結合を形成できるそのほかの基を含む群から選択される。
【0026】
好ましい中性の極性残基は、アスパラギン、システイン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、シトルリン、N−メチルセリン、ホモセリン、アロ−トレオニン、及び3,5−ジニトロチロシン及びβ−ホモセリンを含む群から選択される。
【0027】
好ましい実施態様では、P5は、β−シクロヘキシルアラニン、3,4−シス−メタノプロリン、3,4−デヒドロプロリン、ホモプロリン、又は擬似プロリン(pseudoproline)、シス−4−ヒドロキシプロリン、シス−3−ヒドロキシプロリン、トランス−3−ヒドロキシプロリン、アスパラギン、システイン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、シトルリン、N−メチルセリン、ホモセリン、アロ−トレオニン及び3,5−ジニトロチロシン及びβ−ホモセリンを含む群から選択される。
【0028】
非極性かつ疎水性の側鎖を有する残基は、好ましくは0を超える、特に好ましくは3を超えるハイドロパシー指標(hydropathy indexZ)を有する、生理的条件下において帯電しない残基である。好ましい非極性かつ疎水性の側鎖は、1〜10、好ましくは2〜6の炭素原子を有するアルキル、アルキレン、アルコキシ、アルケノキシ、アルキルスルファニル及びアルケニルスルファニルの残基、又は5〜12の炭素原子を有するアリール残基を含む群から選択される。好ましい非極性かつ疎水性の側鎖を有する残基は、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、アラニン、フェニルアラニン、N−メチルロイシン、tert−ブチルグリシン、シクロヘキシルアラニン、β−アラニン、1−アミノシクロヘキシルカルボン酸、N−メチルイソロイシン、ノルロイシン、ノルバリン及びN−メチルバリンから選択される。
【0029】
「生理的条件」は、pH6〜8のpH、30℃〜40℃の温度、好ましくは37℃の温度、7.4のpH及び300mosmol/kgの浸透圧を意味する。
【0030】
本発明に係るペプチド又はペプチド誘導体は、好ましくは少なくとも19のアミノ酸残基、好ましくは50までのアミノ酸残基を含有する。
【0031】
Sub1は、アミノ酸X1の遊離N末端又は修飾されたN末端アミノ基である。Sub2は、C末端アミノ酸の遊離C末端カルボキシル基(−COOH)又は修飾されたC末端カルボキシル基である。「修飾されたN末端アミノ基」及び「修飾されたC末端カルボキシル基」は、アミノ基又はカルボキシル基が改変されている(たとえば、還元される又は置換されている)ことを意味する。
【0032】
従って、Sub1は、一般式NR12を有する、アミノ酸X1の遊離N末端又はN末端アミノ基の修飾(アミノ酸X1のN末端アミノ基をSub1で置換する)を表す。Sub1=NR12であり、式中、R1及びR2は、互いに独立であって、好ましくは水素から、又は以下の基から選択される:
(i)直鎖、分枝鎖、環状又は複素環のアルキル基、たとえば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル又はシクロヘキシル;
(ii)直鎖、分枝鎖、環状又は複素環のアルカノイル基、たとえば、アセチル、又はメタノイル(ホルミル)、プロピオニル、n−ブチリル、イソブチリル、ペンタノイル、ヘキサノイル又はシクロヘキサノイル;
(iii)リポーター基、好ましくは蛍光色素(たとえば、フルオレセイン、アレクサ488(Alexa488))又はビオチン;
(iv)たとえば、グアニジン、エチレングリコールオリゴマー、2,4−ジアミノ酪酸、2,3−ジアミノプロピオン酸、2,2’−ジアミノピメリン酸、デスモシニー(desmosinee)又はイソデスモシニー(isodesmosinees)に基づく、COR3(以下を参照)と共に、環状ペプチドを得るためのN末端とC末端との間のリンカー;
(v)たとえば、チオール含有ペプチドに結合させるためのヨード−、ブロモ−若しくはクロロ−アルカン酸(たとえば、ヨード酢酸)又はマレイミド、或いはキャリアタンパク質として第2のペプチド若しくはペプチド誘導体(たとえば、活性エステル、アルデヒド又はチオエステルとして)を結合させるための別の反応性基(たとえば、アミノ基、チオール基)に基づく、特定の化学反応又は酵素反応によって、さらなるペプチド又はペプチド誘導体(Y1)を結合させるためのリンカー;
(vi)別のペプチド又はペプチド誘導体Y1が結合した(v)に記載のリンカー。
【0033】
N末端の修飾の例は、アセチル化された、ホルミル化された、又はグアニル化されたN末端である。
【0034】
好ましくは、Sub1を介して別のペプチド又はペプチド誘導体Y1が結合している。Y1は好ましくは、生体ポリマー(たとえば、ペプチド)であり、式1〜4のいずれか1つに係る抗菌ペプチドを細菌に導入し、従って該細菌に対する抗菌ペプチドの活性を高める、及び/又はそれを哺乳類細胞に導入し、従って哺乳類細胞の中に隠れる細菌を処理することを可能にする、生体高分子(例えば、ペプチド)である。Y1はSub1を介して、永続的に(たとえば、Sub1=NH2についてのペプチド結合若しくはアミジン結合、又はSub1=SHについてのチオエーテル、ヨードアセテート又はマレイミド)、又は特定の条件下で開裂可能である化合物(たとえば、ジスルフィド結合又は酸に不安定なリンカー)によって、ペプチドのX1に結合される。Y1について好ましい配列は、細胞貫通ペプチド(cell-penetrating peptide; CPP)であり、たとえば、ペネトラチン、Tatペプチド、モデル両親媒性ペプチド(model amphipathic peptides)及びトタンスポータン(transportans)である(ランゲル・ユー(Langel, U.)、細胞貫通性ペプチドのハンドブック(in Handbook of Cell-Penetrating Peptides)。5-28 (シーアールシー−テイラー・アンド・フランシス・グループ(CRC - Taylor & Francis Group), 2006)。
【0035】
リンカーとは、2つの物質を結合させるために用いられる分子又は分子の基を意味し;好ましいリンカーは、好ましくは10〜20の炭素原子を有する架橋分子(たとえば、ポリエチレングリコール)によって連結される、2つの反応性基(たとえば、ヨードアセテート、マレイミド、イミド−又はNHs−エステル又はヒドラジド)を含有する。
【0036】
Sub2は、C末端アミノ酸の遊離C末端カルボキシル基(−COOH)、又は好ましくは一般式COR3(R3は最後のアミノ酸のヒドロキシル基を置換する)、X5−COR3、X6COR3若しくはX56−COR3を有する、修飾されたC末端カルボキシル基である。
【0037】
COR3は好ましくは以下の基から選択される:
(i)カルボキシル(R3は遊離ヒドロキシル基である)、エステル(R3はアルコキシ基である)、アミド(R3はアミンである)又はイミド;
(ii)Sub1と共にN末端とC末端とを架橋して環状ペプチドを形成するリンカー;
(iii)R3が、Pro、Ile、Leu、Arg及びGlnを含む群から選択される追加のアミノ酸残基であるか、或いはR3が好ましくは2〜6のアミノ酸を有するペプチドであって、そのうちの少なくとも1つのアミノ酸がPro、Ile、Leu、Arg又はGlnを含む群から選択される上記ペプチドであり、但し、後者が、カルボキシル(R3は遊離ヒドロキシル基である)、エステル(R3は、たとえば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール又はブタノールのようなアルコールである)、アミド(R3はアミドである)、又はイミド(R3は、たとえば、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン又はシクロヘキシルアミンのようなアルキルアミン又はジアルキルアミンである)を有する群からのメンバーによって置換されている、COR3
(iv)R3が、二量体又はオリゴマーの構造を形成する追加の分枝アミノ酸、たとえば、リジン、ヒドロキシリジン、オルニチン、2,4−ジアミノ酪酸、2,3−ジアミノプロピオン酸、2,2’−ジアミノピメリン酸、デスモシニー(desmosinee)、イソデスモシニー(isodesmosinee)、又はこれらの分枝アミノ酸の組み合わせである、COR3
(v)たとえば、チオール含有ペプチドに結合させるためのヨード−、ブロモ−若しくはクロロ−アルカン酸(たとえば、ヨード酢酸)又はマレイミド、或いはキャリアタンパク質として第2のペプチド若しくはペプチド誘導体(たとえば、活性エステル、アルデヒド又はチオエステルとして)を結合させるための別の反応性基(たとえば、アミノ基、チオール基)に基づく、特定の化学反応又は酵素反応によって、さらなるペプチド又はペプチド誘導体(Y1)を結合させるためのリンカー;
(vi)別のペプチド又はペプチド誘導体Y1が結合した(v)に記載のリンカー。
【0038】
このように、エステル(R3=アルコキシ)、アミド(R3=アミン、たとえば、−NH2)若しくはイミド(R2=アルキルアミン、たとえば、−NHC37)、又はPro、Ile、Arg及びValを含む群から選択されたさらなるアミノ酸により伸長されているペプチド、或いはエステル、アミド又はイミドとしてC末端上で今一度修飾されているものなどのC末端ペプチド誘導体を得ることができる。さらに、ペプチドのN末端又はC末端の修飾によってペプチド誘導体を形成することができる。これらの改変は、たとえば、追加のアルキル基若しくはアルカノイル基(直鎖、分枝、環状又は複素環状のいずれか)又は追加のグアニジノ基又は追加の高分子又はリポーター残基であることができ、それは、永続的に、又は特定の条件下で開裂可能である化合物(たとえば、ジスルフィド結合又は酸に不安定なリンカー)によって結合される。
【0039】
C末端の修飾は好ましくは、チオエステル合成及びそれに続く1級アミンによる置換によって生じる。
【0040】
本発明に係るペプチド又はペプチド誘導体を形成する天然アミノ酸、非天然アミノ酸又はアミノ酸誘導体(たとえば、イミノ酸)はすべて、L型又はD型構造sのいずれかであることができる。しかしながら、特に特定されない限り、配列における構成ブロックは好ましくはL型構造である。
【0041】
5及びX6は任意で追加の残基である。X5及びX6が存在しない場合、前述の配列における最後のアルギニン(Arg)は、遊離C末端カルボキシル基を有するか、又はSub2に連結されている。
【0042】
5及びX6の少なくとも一方の残基が存在する場合、ペプチドは、たとえば、以下の一般式の1つを有する。
1−Sub1−X1−D−K−P−P−Y−L−P−R−P−X2−P−P−R−X3−I−Y−N−X4−X5−X6−COR3(式5)

1−Sub1−X1−D−K−P−P−Y−L−P−R−P−X2−P−P−R−X3−I−Y−N−X4−X5−COR3(式6)

1−Sub1−X1−D−K−P−P−Y−L−P−R−P−X2−P−P−R−X3−I−Y−N−X4−X6−COR3(式7)
【0043】
5は、プロリン、プロリン誘導体又は極性側鎖を持つ中性の残基(たとえば、アスパラギン、グルタミン)から選択される。好ましい残基X5は、プロリン、シス−4−ヒドロキシプロリン、トランス−4−ヒドロキシプロリン、シス−3−ヒドロキシプロリン、トランス−3−ヒドロキシプロリン、β−シクロヘキシルアラニン、3,4−シス−メタノプロリン、3,4−デヒドロプロリン、ホモプロリン、擬似プロリン(pseudoproline)、並びにアスパラギン、グルタミン、シトルリン、N−メチルセリン、N−メチルグリシン、ジヒドロキシフェニルアラニン、N−エチルアスパラギン、N−エチルグリシン、ホモセリン、ペニシルアミン、テトラヒドロピラニルグリシン、アロ−トレオニン、及び3,5−ジニトロチロシンを含む群から選択される。
【0044】
6は、プロリン、プロリン誘導体、極性残基(たとえば、セリン)又は疎水性残基から選択される。好ましい残基X6は、プロリン、シス−4−ヒドロキシプロリン、トランス−4−ヒドロキシプロリン、シス−3−ヒドロキシプロリン、トランス−3−ヒドロキシプロリン、β−シクロヘキシルアラニン、3,4−シス−メタノプロリン、3,4−デヒドロプロリン、ホモプロリン、又は擬似プロリン(pseudoproline)、セリン、トレオニン、δ−ヒドロキシリジン、シトルリン、ホモセリン、又はアロ−トレオニン、並びにフェニルアラニン、N−メチルロイシン、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、tert−ブチルグリシン、シクロヘキシルアラニン、アラニン、β−アラニン、1−アミノシクロヘキシルカルボン酸、N−メチルイソロイシン、ノルロイシン、ノルバリン、N−メチルバリンを含む群から選択され、或いはそれは、好ましくはプロリン、イソロイシン又は上述の残基の1つから選択される、好ましくは1〜3の残基を有する短いペプチドである。
【0045】
或いはX6は、幾つかのペプチド単位を含有する分枝リンカーである。これは、たとえば、リジン、ヒドロキシリジン、オルニチン、2,4−ジアミノ酪酸、2,3−ジアミノプロピオン酸、2,2’−ジアミノピメリン酸、デスモシニー(desmosinee)、イソデスモシニー(isodesmosinne)などの幾つかのアミノ基を含有するアミノ酸の残基によって形成される。
【0046】
C末端アミノ酸は、たとえば、式1〜4におけるX4、式6におけるX5、又は式5及び7におけるX6である。
【0047】
本発明に係るペプチド及びペプチド誘導体は、プロリン−リッチ抗菌ペプチド「オンコペルタス(Oncopeltus)の抗細菌ペプチド4」の以前不完全に決定された配列に比べて、向上した抗細菌活性、より広い作用スペクトル及びより高いプロテアーゼ耐性を示す。
【0048】
本発明に係るペプチド及びペプチド誘導体の好ましい例は、配列番号5〜9、14〜26、29、30、32、33、36、38、40、41、44〜46、49、50、53〜59、61〜85、93、94、101、102、107〜112(実施例1の表2を参照)に記載の配列から選択される。
【0049】
配列VDKPPYLPRPRPPRRIYNR−NH2(配列番号18)を有する特に好ましいペプチドを、以下、オンコシンと呼ぶ。本発明に係るそのほかのペプチド及びペプチド誘導体は、以下、オンコシン誘導体と呼ぶ。
【0050】
抗細菌活性又は抗真菌活性を高め、そのほかの細菌又は真菌対する活性スペクトルを拡げ、かつ安定性を向上させるように修飾された本発明に係るペプチド及び/又は多量体ペプチド構築物は、高い抗菌及び/又は抗真菌の有効性と哺乳類血清における良好な代謝安定性とを特徴とする。
【0051】
11位(X2)、15位(X3)及び19位(X4)における適切な修飾は、以下に議論される通り、かつ実施例に示されるように、種々の細菌に対して天然のオンコペルタス(Oncopeltus)4の配列の抗細菌活性を向上させる。
【0052】
さらに、残基Sub1-X1、X3及びX4は、タンパク質分解に対してN末端及びC末端のペプチド配列をさらに安定化することが可能であり、従って血清における半減期を増加させることができる。
【0053】
本発明に係る配列は、正に帯電した残基X2(11位)を有する。
【0054】
本発明に係る好ましい例は、正に帯電した残基X3(15位)を有する配列であって、たとえば、配列番号18、29、32、33、46、50、54〜59、62、65〜74、78、79、82、107、109、111及び112に記載の配列から選択される配列であり、又は残基X3(15位)としてのヒドロキシプロリンを有する配列であって、たとえば、配列番号25及び63に記載の配列から選択される配列である。
【0055】
本発明に係る配列は、正に帯電した残基X4(19位)を有する。
【0056】
さらに、C末端のカルボキシル基は好ましくは修飾されている。驚くべきことに、これは、血清におけるペプチドの高い半減期をもたらす。
【0057】
N末端及びC末端の修飾は、例えばSub1を介したY1の、例えば(場合により多量体ペプチド又はタンパク質を創出する)他のアミノ酸配列、又はキャリア若しくは標識の機能を有する他の生体分子などの他の基に対するペプチドの結合を可能にする。特定の実施態様では、キャリア分子は、哺乳類細胞において細菌感染と闘うために、或いは抗菌ペプチドがそれ自体では侵入することができない細菌(たとえば、グラム陽性細菌)に抗細菌ペプチド及びペプチド誘導体を輸送するために、シャトルとして機能する。前記細胞貫通性ペプチド(cell-penetrating peptides;CPP)の例は、たとえば、ペネトラチン(penetratins)、Tatペプチド、モデル両親媒性ペプチド(model amphipathic peptides)及びトタンスポータン(transportans)である。さらに、感染の部位は、結合した構造(標的分子)によって認識され得るので、その結果、抗生物質は、細菌と闘うために(細菌)細胞の近傍にもたらされる。これらの標的分子は、たとえば、グラム陰性細菌の外側を形成するリポ多糖類(LPS)分子に結合することが知られている分子である。このアプリケーションのための既知の化合物は、たとえば、アンカーペプチドであり、たとえば、ラクトバチラス(Lactobacillus)のAcmAモチーフ又はリポ多糖類に対する抗体である。この最後に言及した変異体が、固有の抗生物質効果を有し、従って本発明に係るペプチドの活性を高めるために用いることができるので、好ましい。
【0058】
N−末端アミノ酸、すなわちSub1−X1が、生理的条件下、すなわちヒトの生体内において正に帯電する残基を有すれば有利である。
【0059】
N末端の安定化を達成する例は、たとえば、オルニチン又はリジン(Sub1−X1=アシル−Orn又はアシル−Lys)などの正に帯電したアミノ酸のα−アミノ基のアシル化(Sub1=アシル−NH−)、たとえば、アセチル化(Sub1=アセチル−NH−)である。このアシル化(好ましくはアセチル化)は、アミノ酸の側鎖における正の電荷を完全なままにする。
【0060】
本発明のさらに好ましい例は、X2、X3及びX4(11位、15位及び19位)において正に帯電した残基を有する配列であって、たとえば、配列番号18、22、58、62、63、65〜74、78、79、82及び83に記載の配列から選択される配列である。
【0061】
本発明のさらに好ましい例は、プロリンの代わりにヒドロキシプロリンを有する配列であって、たとえば、配列番号21、22及び24に記載の配列から選択される配列である。
【0062】
特に好ましい例は、11位、15位及び19位(X2、X3及びX4)において正に帯電したアミノ酸(たとえば、オルニチン、アルギニン又はリジン)を有し、かつ修飾されたC末端を有するペプチドであり、特に、配列番号18、63、71、72、74に記載のペプチドである。
【0063】
特に好ましいペプチドは、15位(残基X3)においてオルニチン、11位及び19位(残基X2及びX4)においてアルギニンを含有し、かつ配列番号71に係るプロピルアミドとしてのC末端(残基Sub2)を含有する。
【0064】
別の特に好ましいペプチドは、15位及び19位(残基X3及びX4)においてオルニチン、11位(残基X2)においてアルギニン、及びアミドとしてのC末端(残基Sub2)を含有する。この種の好ましいペプチドは配列番号72に記載の配列を有する。
【0065】
別の特に好ましいペプチドは、11位(残基X2)においてアルギニン、15位(残基X3)においてトランス−4−ヒドロキシプロリン、及び19位(残基X4)においてオルニチン、並びにアミドとしてのC末端(残基Sub2)を含有する。この種の好ましいペプチドは配列番号63に記載の配列を有する。
【0066】
別の特に好ましいペプチドは、15位及び19位(残基X3及びX4)においてオルニチン、11位(残基X2)においてアルギニン、18位においてアスパラギンの代わりにグルタミンを含有し、かつアミドとしてのC末端(残基Sub2)を含有する。この種の好ましいペプチドは配列番号74に記載の配列を有する。
【0067】
本発明に係るC末端のアミド(Sub=−NH2)への改変は、驚くべきことに大腸菌(E. coli)及びミクロコッカス・ルテウス(M. luteus)に対する抗生物質作用を有意に高めることが実施例から理解することができる。C末端にアミドを有する好ましい配列は、配列番号18、22、50、54〜57、61〜63、65〜70、72〜79及び82である。
【0068】
C末端の分解を抑える修飾、たとえば、配列番号58及び71に記載のC末端(Sub2)におけるイソプロピルアミド並びに8位及び/又は13位におけるトランス−4−ヒドロキシプロリンも好ましい。実験結果は、6位及び7位のアミノ酸も明らかに抗生物質作用に非常に重要であることを示している。従って、これら6位及び/7位における個々のアミノ酸のアラニンによる置換は、オンコシンの抗生物質活性に比べて有効性を破壊する。
【0069】
本発明の最も好ましい例は、以下の利点を提供するペプチドである:
(i)哺乳類血清における増加した半減期及び
(ii)1以上の細菌株、特にヒトの病原体又は真菌又はそのほかの微生物の感染に対する高い抗菌活性及び
(iii)ペプチドが赤血球を含むヒトの細胞に対して毒性がないこと。
【0070】
抗菌ペプチドは、哺乳類細胞及び血液細胞に有毒作用を有することなく特定の細胞内の細菌の標的分子を阻害するために、細胞膜を通過し、かつ細胞質に侵入しなければならないので、抗菌ペプチドの作用は非常に複雑である。別の重要な点は、ペプチダーゼ又はプロテアーゼによる分解に対するペプチド又はペプチド誘導体の安定性である。従って、理想的なペプチドは、高い抗菌活性を有し(低いMIC値)、細胞毒性を有さず、溶血活性を有さず、かつ血中で数時間の半減期を有する。天然のオンコペルタス(Oncopeltus)4−配列と比べて、本発明に係るペプチド誘導体は、20倍を超える高い抗菌活性を示す。C末端は好ましくは、修飾され(アミド、アルキルアミド、エステル)、14位以降のC末端領域は、たとえば、非タンパク新生アミノ酸による15位及び/又は19位(X3及びX4)の置換によって改変される。N末端では、良好な活性を達成するのに正の電荷が好まれる。天然のオンコペルタス(Oncopeltus)4−配列の1位(X1)におけるバリンは、好ましくは遊離であり、又はアルギニン、リジン若しくはオルニチンのようなアセチル化塩基性残基で置換されている。驚くべきことにタンパク質の高い安定性をもたらすオルニチンが特に好ましい。同様の理由で、オンコペルタス(Oncopeltus)4−配列の15位及び19位が好ましくは置換され、それは驚くべきことにペプチドの高い安定性をもたらす。例は、トランス−4−ヒドロキシプロリン(X3)及びオルニチン(X4)についての15位及び19位(X3及びX4)の置換又は双方ともオルニチンへの置換であり、それは予想外にも、25%血清における半減期を、10倍を越えて、すなわち、30分未満から6時間を超えるまで増やす。遊離の酸からプロピルアミドへのC末端の転換も血清での安定性に増大をもたらす。
【0071】
好ましくは、細胞貫通性ペプチドの配列が、本発明に係るペプチド及びペプチド誘導体に結合される。この結合は好ましくは、リンカー、たとえば、アセチル基又はアルキル基を介して行われる。結合は好ましくは、本発明に係るペプチド及びペプチド誘導体のN末端で行われる。好ましくは、このために、プロリン−リッチ・ペプチド又はペプチド誘導体は、N末端にて、ヨードアセテートで誘導体化され、細胞貫通性ペプチド配列は、システイン残基によってC末端にて伸ばされる。次いでこのシステイン残基のチオール基がアセチル基とのチオエーテル架橋を形成する。
【0072】
細胞貫通性ペプチド(cell-penetrating peptide;CPP)は、相対的に短いポリカチオン性又は疎水性のペプチドであり、その結合によって原核細胞及び真核細胞について細胞膜を通過することが可能になる。CPPは、異なった配列及び長さを有することができる。しかしながら、ほとんどの場合、それらは、およそ10〜40のアミノ酸の配列を含有し、正に帯電したアミノ酸(たとえば、Arg、Lys)が豊富である。これらの短い配列は、細胞膜の通過に関与し、「タンパク質形質導入ドメイン(protein transduction domain;PTD)」と呼ばれる。
【0073】
好ましい細胞貫通性ペプチドは、ペネトラチン、Tatペプチド、モデル両親媒性ペプチド、トタンスポータン(ゼラチンに由来する)、SynB(プロテグリンに由来する)及びシス−γ−アミノ−1−プロリン含有ペプチドから選択される。
【0074】
本発明に従って使用される細胞貫通性ペプチドの配列は、好ましくは8〜20のアミノ酸残基の長さであり、残基の30%〜90%は生理的条件下において正に帯電する側鎖を有する。残りの残基は好ましくは中性である。好ましい細胞貫通性ペプチドの配列は、以下から選択される:
RQIKIWFQNRRMKWKK−OH(配列番号105)(ペネトラチン)、
KLALKLALKALKAALKLA−NH2(配列番号124)(モデル両親媒性ペプチド)、
RKKRRQRRR(配列番号125)(Tatペプチド)。
【0075】
さらに好ましい細胞貫通性ペプチド配列は、文献(ランゲル・ユー(Langel, U.)、細胞貫通性ペプチドのハンドブック(in Handbook of Cell-Penetrating Peptides)。5-28 (シーアールシー−テイラー・アンド・フランシス・グループ(CRC - Taylor & Francis Group), 2006), (プジャルズ・エス(Pujals S)、ギラルト・イー(Giralt E.)プロリン−リッチ両親媒性細胞貫通ペプチド(Proline-rich, amphipathic cell-penetrating peptides)。 アドバンスト・ドラッグ・デリバリー・レビュー(Adv Drug Deliv Rev.)60(4-5): 473-84, 2008)及び(ファレラ−シンフレウ・ジェー(Farrera-Sinfreu J)、ギラルト・イー(Giralt E)、ロヨ・エム(Royo M)、アルベリシオ・エフ(Albericio F.)細胞貫通性プロリン−リッチ・ペプチド模倣体(Cell-penetrating proline-rich peptidomimetics.)。メソッズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Methods Mol Biol.) 386: 241-67, 2007)に提供されており、この関係によりこれらは本明細書において援用される。
【0076】
前記ペプチド誘導体の好ましい例では、AMPは、チオエーテル結合の形成と共に、ヨードアセチル(Sub1)を介してペネトラチン−システイン(Y1)によって1位(X1)の前においてN末端で伸長された。この種の好ましい例は好ましくは、配列番号101及び102に記載の配列から選択される。
【0077】
たとえば、ペネトラチンなどの細胞貫通ペプチド配列の結合を介して、驚くべきことに、グラム陰性及びグラム陽性細菌に対する活性が高められ、作用スペクトルがほかのグラム陽性及びグラム陰性の細菌まで拡大され、さらに、細胞毒性もなく哺乳類細胞に抗菌ペプチドが導入されるので、これらの細胞の中で隠された細菌、真菌又はウイルスに到達することもできる。
【0078】
ペネトラチンは、ショウジョウバエ(ドロソフィラ・メラノガスター;Drosophila melanogaster)のアンテナペディアのホモドメイン(転写因子のDNA結合領域)の部分配列R43〜K58に相当する。ペネトラチンの配列(好ましくは、RQIKIWFQNRRMKWKK−OH;配列番号105)はカチオン性アミノ酸が豊富であり、その点で、多数のAMPの配列に類似する。
【0079】
本発明では、細菌及び哺乳類の細胞双方にAMPを導入するのに細胞貫通性ペプチド配列を利用する。ペネトラチンに結合して、AMPは、そこで感染を治療するために真核細胞に輸送される。さらに、AMPと細胞内標的分子の相互作用によって毒性効果を検討することができる。
【0080】
チオエーテル架橋を介した、本発明に係る抗菌ペプチドとのペネトラチンの結合は本発明の一部を形成する。
【0081】
このために、ペネトラチンのC末端をシステインによって伸長させ、ヨード酢酸でN末端を標識した抗菌ペプチドに結合させた。
【0082】
オンコシン及びその誘導体と同様に、本発明によれば、そのほかの抗菌ペプチド、好ましくは、プロリン−リッチ・ペプチド又はペプチド誘導体、たとえば、アピダエシン(apidaecin)、ドロソシン(drosocin)、フォルマエシン1(formaecin 1)、ピロコリシン(pyrrhocoricin)及びメタルニコウィン1(metalnikowin 1)もまた細胞貫通性ペプチド配列、たとえば、ペネトラチンによって対応するように修飾することができる。
【0083】
好ましいアピダエシン誘導体は、PTC/EP2008/059512(2008年7月21日出願)に言及されており、この関係でこの文献は本明細書において援用される。
【0084】
前記ペプチド誘導体の好ましい例は、配列番号95〜100及び106に記載の配列から選択される。
【0085】
本明細書において言う「ペプチド」という表現は、ペプチド結合によって連結されるアミノ酸の配列を表し、ここで、アミノ酸は好ましくは、20種類の天然に存在するペプチドを形成するアミノ酸から選択され、アミノ酸はL型構造又はD型構造であることができ、イソロイシンとスレオニンの場合、D−アロ構造(2つのキラル中心のうち1つのみの反転)であることもできる。
【0086】
本発明の説明において用いられる、ペプチド誘導体(又はペプチド模倣体)と言う表現は、上記のN末端又はC末端においてY1、Sub1及びSub2によって修飾されたペプチドのみを含むのではない。加えて、それは、化学基による1以上のアミノ酸残基の置換及び/又は修飾によって改変されたペプチドであって、前記化学基は、天然のタンパク質を形成するアミノ酸残基とは異なり、たとえば、非タンパク新生性のα−アミノ酸、β−アミノ酸、又は改変された主鎖を有するペプチドである、上記ペプチドを含む。「改変された主鎖」という用語は、少なくとも1つのペプチド結合が化学的に修飾されている、すなわち、生理的条件下で開裂可能ではない結合で置換されており、かつエンドプロテアーゼによって切断できないことを意味する。
【0087】
好ましくは、非開裂性の結合は、修飾されたペプチド結合であり、たとえば、還元されたペプチド結合、アルキル化アミド結合、又はチオアミド結合である。還元されたアミド結合は、カルボニル基(C=O)がヒドロキシル基(HCOH)又はメチレン基(CH2)に還元されているペプチド結合である。アルキル化アミド結合は、窒素原子(N−α)又は炭素原子(C−α)のいずれかでアルキル化されたペプチド結合である。アルキル残基は好ましくは1〜3の炭素原子を有する。例はN−メチル化である。
【0088】
さらに、「改変された主鎖」と言う用語は、先行するアミノ酸残基のCOOH基及び次のアミノ酸残基のNH2基の双方と共有結合を形成するのに好適であり、かつ、それ故にペプチド主鎖構造、たとえば、糖アミノ酸−ジペプチド同配体、アザペプチド、6−ホモポリマー、γ−ペプチド、Y−ラクタム類似体、オリゴ(フェニレン・エチレン)、ビニログスルホンペプチド、ポリ−N−置換グリシン又はオリゴカルバメートを必ずしも保持しないそのほかの基を含む。
【0089】
主鎖の修飾は、14位〜19位、R−X3−I16−Y17−N18−X4に存在する。従って好ましくは、X3−I16(たとえば、Arg−Ile)、N18−X4(たとえば、Asn−Arg)、X4−NH2(たとえば、Arg−NH2)、X6−X7(たとえば、Arg−Leu又はArg−Ile)の間の結合の少なくとも1つが修飾される。これらの結合は好ましくは、還元されたアミド結合、アルキル化アミド結合又はチオアミド結合から選択される。
【0090】
本発明に係るペプチド及びペプチド誘導体は、直鎖であることができ、すなわち、配列の最初と最後のアミノ酸とが遊離のNH2基とCOOH基とを有し、或いはSub1及びSub2で修飾されている配列であることができる。或いは、ペプチドは環状であることができ、すなわち、最初と最後のアミノ酸がペプチド結合又はリンカーを介して連結されている。
【0091】
上述の新規の抗生物質として活性のある化合物を製造する方法も本発明の一部を形成する。
【0092】
本発明のペプチド又はペプチド誘導体は、合成で、又は適用可能な場合従来の方法によって組換えで製造することができる。本発明を実施する具体的な例は、実験セクションにおいて以下で詳細に開示される。好ましくは、本発明のペプチド又はペプチド誘導体は、たとえば、メリフィールド(Merrifield)(メリフィールド・アール・ビー(Merrifield R B.) 固相ペプチド合成1:テトラペプチドの合成(Solid-phase peptide synthesis. 1. Synthesis of a Tetrapeptide)。、ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサイアティ(Journal of the American Chemical Society) 85: 2149-&, 1963)によって記載されたような既知の合成法によって従来のように製造される。
【0093】
或いは、本発明に記載されるペプチドは、上記のペプチドの1つをコードする核酸配列を含有するDNA断片をクローニングし、たとえば微生物又は宿主細胞で発現させる、組換え技術によって製造される。コードする核酸配列は合成で(ステマー・ダブリュ・ピー・シー(Stemmer W P C)、クラメリ・エー(Crameri A)、ハ・ケー・ディー(Ha K D)、ブレナン・ティー・エム(Brennan T M)及びハイネカー・エイチ・エル(Heyneker H L.) 多数のオリゴデオキシリボヌクレオチドからの遺伝子及びプラスミド全体の単一工程の組立(Single-Step Assembly of a Gene and Entire Plasmid from Large Number of Oligodeoxyribonucleotides) ジーン(Gene) 164: 49-53, 1995)製造することができ、又は既存の核酸配列(たとえば、野生型オンコペルタス(Oncopeltus)4をコードする配列)の部位特異的突然変異によって得ることができる。従って、コーディング配列は、既知の技法によるポリメラーゼ鎖反応において相応して作製されるプライマーを用いてsRNA(又はDNA)によって増幅することができる。たとえば、アガロースゲル電気泳動による精製の後、PCR産物は、ベクターに連結され、最終的に相当する組換えプラスミドによって宿主細胞が形質転換される。種々の宿主細胞、たとえば、大腸菌(E. coli)、バチラス(Bacillus)、ラクトバチラス(Lactobacillus)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、哺乳類細胞(たとえば、CHO(チャイニーズハムスターの卵巣)、又はCOS−1細胞)、酵母細胞(たとえば、サッカロマイセス(Saccharomyces)、シゾフィラム(Schizophyllum))、昆虫細胞又はウイルスの発現系(たとえば、バキュロウイルス系)について組換え技法が知られている。さらに形質転換、培養、増幅、スクリーニング、生成物の製造及び精製に好適な宿主細胞及び方法は、当業者によって文献から選択され得る(ゲシング・エム・ジェー(Gething M J)及びサムブルック・ジェー(Sambrook J.) RNA遺伝子のクローニングしたDNAコピーからのインフルエンザ凝集素の細胞表面での発現(Cell-Surface Expression of Influenza Hemagglutinin from a Cloned Dna Copy of the Rna Gene)。ネイチャー(Nature) 293: 620-5, 1981)。従来の組換え製造の後、本発明のペプチドは、従来の細胞溶解法によって宿主細胞から、又は従来の方法、たとえば、液体クロマトグラフィ、特にアフィニティクロマトグラフィによって細胞培地から単離することができる。抗菌ペプチドは個々のペプチドとして又はオリゴマーとして発現させることができる。オリゴマーは、N末端又はC末端を介して連結されている幾つかのペプチド配列を含有することができ、或いは組換えペプチド又はタンパク質の構築物のより簡易な精製を可能にするN末端若しくはC末端のタグを含有することができる。配列をさらに修飾し、かつそれ故に所望の非天然ペプチド配列を得るために、分子生物学の従来の技法及び部位特異的突然変異誘発を使用することができる。これらの組換え技法はすべて当業者に既知であり、アピダエシン(マエノ・エム・タグチ・エス及びモモセ・エイチ(Maeno M, Taguchi S, & Momose H.) ストレプトマイセスの分泌発現系を用いた抗細菌ペプチド、アピダエシンの製造(Production of Antibacterial Peptide Apidaecin Using the Secretory Expression System of Streptomyces.)。バイオサイエンス・バイオテクノロジー・アンド・バイオケミストリー(Bioscience Biotechnology and Biochemistry) 57: 1206-7, 1993)、ペリネリン(ゾウ・キュー・エフ、ルオ・エックス・ジー、イェ・エル及びジィ・ティー(Zhou Q F, Luo X G, Ye L, & Xi T.)融合発現による大腸菌における新規抗菌ペプチド、ペリネリンの高レベルの産生(High-level production of a novel antimicrobial peptide perinerin in Echerichia coli by fusion expression.)。カレント・マイクロバイオロジー(Current Microbiology) 54: 366-70, 2007)、及びデフェンシン(シ・エル・ジー、リウ・エックス・シー、ル・ワイ・ワイ、ワング・ジー・ワイ、及びリ・ダブリュ・エム(Si L G, Liu X C, Lu Y Y, Wang G Y, & Li W M.)大腸菌における活性のあるヒトβ−デフェンシン−3の可溶性発現及び宿主細胞の増殖に対するその効果(Soluble expression of active human beta-defensin-3 in Escherichia coli and its effects on the growth of host cells.)。チャイニーズ・メディカル・ジャーナル(Chinese Medical Journal) 120: 708-13, 2007)を含む多数の抗菌ペプチドにすでに適用されている。
【0094】
天然に生じないアミノ酸を遺伝子技法によってペプチドに導入することも可能である。このことは、ノレン(Noren)ら及びエルマン(Ellman)らによって詳細に記載された(ノレン・シー・ジェー、アンソニーカヒル・エス・ジェー、グリフィス・エム・シー、及びシャルツ・ピー・ジー(Noren C J, Anthonycahill S J, Griffith M C, & Schultz P G.)非天然アミノ酸のタンパク質への部位特異的取り込みについての一般的方法(General Method for Site-Specific Incorporation of Unnatural Amino-Acids Into Proteins)。サイエンス(Science) 244: 182-8, 1989; エルマン・ジェー、メンデル・ディー、アンソニーカヒル・エス、ノレン・シー・ジェー、及びシャルツ・ピー・ジー(Ellman J, Mendel D, Anthonycahill S, Noren C J, & Schultz P G.)非天然アミノ酸のタンパク質への部位特異的導入のための生合成法(Biosynthetic Method for Introducing Unnatural Amino-Acids Site-Specifically Into Proteins.)。メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology) 202: 301-36, 1991)。
【0095】
次に、宿主細胞の培養物又は試験管内翻訳系からペプチドを単離することができる。これは、従来技術で既知であるタンパク質の精製と単離の通常の技法で達成することができる。そのような技法は、たとえば、免疫吸着又はアフィニティクロマトグラフィを含むことができる。迅速な結合と精製を可能にするタグ(たとえば、ヒスチジンタグ)によって、合成中にペプチドを提供することも可能である。その後、酵素によってタグを分離して活性のあるペプチド配列を得ることができる。
【0096】
ペプチド自体がコード又は発現され得ないが、コード可能で発現可能なペプチドによく類似しているならば、方法を先ず、類似のペプチドに適用することができ、その後1以上の工程にて化学的に又は酵素を用いて所望のペプチド又はペプチド模倣体にそれを変換することができる。ここで記載されるペプチドを製造するこれらの方法のもう少し包括的な説明は、文献(アンダーソン・ダブリュ・エフ(Anderson W F.)ヒトの遺伝子治療(Human gene therapy.)。ネイチャー(Nature) 392: 25-30, 1998; 医薬バイオテクノロジー(Pharmaceutical Biotechnology)(クロメリン・ディー・ジェー・エー及びシンデラー・アール・ディー(Crommelin D J A & Sindelar R D)編) pp. 8-20, 53-70, 123-152, 167-180) ハーウッド・アカデミック・パブリッシャー(Harwood Academic Publishers), 1997; タンパク質合成:方法及びプロトコール(Protein Synthesis:Methods and Protocols) (マーティン・アール(Martin R)編) 1-144, ハマナ・プレス(Humana Press), 1998; アミノ酸とペプチド合成(Amino Acid and Peptide Synthesis)(ジョーンズ・ジェー(Jones J)編) 1-89, オックスフォード・ユニバーシティ・プレス(Oxford University Press), 1997; 固相ペプチド合成(Solid-Phase Peptide Synthesis)(フィールズ・ジー・ビー(Fields G B)編) 1-780, アカデミック・プレス(Academic Press), 1997)に記載されている。
【0097】
本発明に係るペプチド及びペプチド誘導体は、個々に、併用で、多量体として又は分枝多量体として使用することができる。本発明に係るペプチドの理に適った併用は、本発明に係るペプチドが、連続して一緒に又はスペーサーを介して、たとえばペプチド二量体又はペプチド三量体など(多量体)の形態で、個々のペプチドが一緒につなぎ合わされて結合しているコンカテマーを含む。この多量体は、式1〜4のいずれかに記載の同一の配列又は異なった配列を有するペプチド又はペプチド誘導体から構成され得る。
【0098】
個々のペプチド又はペプチド誘導体は、生体適合性タンパク質、たとえば、ヒト清アルブミン、ヒト化抗体、リポソーム、ミセル、合成ポリマー、ナノ粒子、及びファージに結合させることができる。或いは、本発明に係るペプチド又はペプチド誘導体が個々に組み合わせられる多量体は、3以上のペプチドが一の中心に結合したデンドリマー又はクラスターの形態で製造することができる。
【0099】
一実施態様では、上記式1〜4のいずれかに記載の幾つかのペプチド又はペプチド誘導体は、多量体の構築物又は配置として製造することができる。従って、たとえば、2以上のペプチドを一緒に連結する又はそれらをキャリアに結合するために、任意に、アミノ酸(たとえば、Gly−Ser−)又はアミノ酸若しくは他の化合物に基づいた他のスペーサーをN末端又はC末端に連結することができる。この配置では、キャリアタンパク質に結合させた上記合成ペプチドの1以上の形態が想定される。或いは、配置は、任意にキャリアタンパク質に結合される、それぞれが複数の抗原ペプチドとして発現される、幾つかのペプチドを含有する。別の変異体では、選択されたペプチドが連続して連結され、組換えのタンパク質又はポリペプチドとして発現される。一実施態様では、幾つかのペプチドを、その間にスペーサーとしてアミノ酸有するか或いは有さずに、連続して連結し、さらに大きな組換えタンパク質を得る。或いは、組換えタンパク質はキャリアタンパク質に融合することができる。
【0100】
別の実施態様では、多量体の構築物は、一のペプチドが任意のアミノ酸を介して他のペプチドに結合されている、上記で定義されたペプチドの少なくとも2つ(式1〜4のいずれかの同一又は異なったペプチドであり得る)を含有する。これらペプチドのさらなるアミノ酸に任意の数のさらなるペプチドを連結することができる。少なくとも2つのペプチドを含有する多量体配置の別の実施態様では、第2の又はさらなるペプチドが、基本構造のほかのペプチドの分枝構造に結合される。或いは、各さらなるペプチドは、Sub1基又はSub2基を介して配置の別のペプチドに共有結合される。
【0101】
多量体の構築物又は少なくとも2つのペプチドを有する配置の別の実施態様では、少なくとも1以上のペプチドがキャリアに連結される。別の実施態様では、言及されるペプチドの1以上が、キャリアタンパク質に融合されている合成ペプチドである。さらに、直鎖ポリペプチドに順次隣接する配列を有するか又は有さずに上述のペプチドの幾つかを組み合わせる代替がある。ペプチド又はポリペプチドのいずれかが同一のキャリアに結合され、又は異なったペプチドが個々にペプチドとして、1又は異なった免疫学的に不活性のキャリアタンパク質に結合される。
【0102】
好適なキャリアは、安定性、投与若しくは製造を改善し、又はペプチドの活性スペクトルを改変するか若しくは改善する。キャリアの例は、ヒトアルブミン、ポリエチレングリコール、又は他の生体ポリマー、又はそのほかの天然に存在する若しくは非天然に存在するポリマーである。一実施態様では、キャリアの主成分は好ましくは、ペプチドの安定性を高めるタンパク質又は他の分子である。当業者は、キャリアとペプチドの好適な結合単位を容易に選択することができる。
【0103】
別の実施態様では、ペプチドは、多重抗原ペプチド(multiple antigenic peptide;MAP)の形態で配置され、たとえば、タム(Tam)ら(タム・ジェー・ピー、モラ・エー・エル、及びラオ・シー(Tam J P, Mora A L, & Rao C.)粘膜免疫への新規アプローチとしての脂質化(Lipidation as a novel approach to mucosal immunization.)。ワクチン抗原に対する免疫応答の調節(Modulation of the Immune Response to Vaccine Antigens) 92: 109-16, 1998)によって記載された「MAP」の概念によってそれを構築することができる。この系はリジン残基の中央単位を使用し、本発明に係る同一ペプチドの幾つかのコピーがその上で合成される(たとえば、ポスネット・ディー・エヌ、マクグラス・エイチ、及びタム・ジェー・ピー(Posnett D N, Mcgrath H, & Tam J P.) 抗ペプチド抗体を産生する新規の方法−T細胞抗原受容体β鎖に対する部位特異的抗体の産生(Novel Method for Producing Anti-Peptide Antibodies - Production of Site-Specific Antibodies to the T-Cell Antigen Receptor Beta-Chain.)。ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry) 263: 1719-25, 1988を参照のこと)。各MAPは、本発明に係る1以上のペプチドの幾つかのコピーを含有する。MAPの一実施態様は少なくとも3つ、好ましくは4つ以上のペプチドを含有する。当業者は、上記式で特定されるペプチドに係るどんな数の多量体化合物も容易に製造することができる。そのような多量体の配置及び構築物はすべて本発明の一部を形成する。
【0104】
多量体の形態でのさらなる組合せは、粒子の表面において製造することができ、この場合、ペプチド又はペプチド模倣体はその表面に提示される。そして、粒子は、ペプチド又はペプチド模倣体のキャリアとして機能することができ、検出可能なマーカーとして同時に作用することができる。多量体は、たとえば、ペプチド又はペプチド模倣体の鎖のN末端のN末端ビオチン化及びそれに続くストレプトアビジンとの複合体化によって得ることができる。ストレプトアビジンは、高親和性で、4つのビオチン分子又は複合体と結合することができるので、この方法によって非常に安定な四量体ペプチド複合体を得ることができる。多量体は、本発明に係る同一の又は異なったペプチド又はペプチド模倣体から製造することができる。好ましくは、本発明に係る多量体は、2以上のペプチド又はペプチド模倣体を含有し、この場合、各成分は、生物致死性活性(標的認識、抗菌活性、精製)に寄与する。
【0105】
本発明の別の目的は、医学又は製薬学における、たとえば、抗生物質による治療のための、又は抗菌(特に細菌致死)活性を有する組成物における、本発明に係るペプチド又はペプチド誘導体の使用である。
【0106】
本発明はまた、微生物、細菌又は真菌の感染の治療に用いるための本発明に係るペプチド、ペプチド誘導体及び/又は多量体も含む。
【0107】
本発明はさらに、他の活性医薬成分の存在とは無関係に、本発明に係る1以上のペプチド若しくはペプチド誘導体、又は多量体構築物を含有する医薬組成物に関する。
【0108】
医薬として及び/又は抗生物質として用いることができる有効物質の製造のための、本発明に係るペプチドの使用も本発明の一部である。
【0109】
ペプチドは、医薬品において個々に使用することもできる。或いは、免疫応答を誘導すること無しに、薬物動態又は生体利用効率を高めるために、上記1以上のペプチドを別の化合物に融合又は抱合させることができる。任意の数の個々のペプチド又は多量体構築物を一緒に混合して単一組成物を製造することができる。
【0110】
本発明に係る医薬組成物は、治療的有効量の、本発明の1以上のペプチド又はペプチド誘導体を含有する。いったん構成されると、本発明に係る医薬組成物を直接対象に投与し、微生物(特に細菌)の感染を治療することができる。このために、治療的有効な量の、本発明に係る組成物が、治療されるべき対象に投与される。
【0111】
本発明に係る組成物は、細菌又は真菌に感染したヒトを含む哺乳類の感染を治療することが意図される。
【0112】
本発明に係る少なくとも1つの、又は代わりに幾つかのペプチド又は多量体構築物を薬理学的に許容可能なビヒクル又はそのほかの成分と混合して、抗菌(特に抗細菌又は真菌殺傷)作用を有する組成物を形成することができる。そのような組成物の使用のために、選択されたペプチドが好ましくは、上述のように合成で又は組換えで製造される。
【0113】
この組成物の直接的な投与は、組織へ、局所的に(皮膚の表面上で)又は幾つかのそのほかの投与経路、たとえば、経口、非経口、皮下、舌下、病変内、腹腔内、静脈内、筋肉内、肺又は間質の経路によって行われる。
【0114】
医薬組成物はさらに適切かつ薬学上許容可能なビヒクル、充填剤又は溶媒を含有することができ、カプセル、錠剤、トローチ、被覆錠剤、丸薬、ドロップ、座薬、粉剤、スプレー、ワクチン、軟膏、ペースト、クリーム、吸入剤、貼付剤、エアゾル、などの形態を有することができる。薬学上許容可能な賦形剤には、特定の投与量について最も好適であり、同時に、ペプチド、ペプチド模倣体(ペプチド誘導体)、ペプチド複合体又はペプチド模倣体複合体と混合可能であるものに応じて、溶媒、希釈剤、又はたとえば、分散助剤や懸濁助剤のような液体結合剤、界面活性剤、等張有効物質、増粘剤、又は乳化剤、保存剤、内包剤、固体結合剤又は流動促進剤をが含まれる。
【0115】
従って、医薬組成物は好ましくは、薬学上許容可能なビヒクルを含有する。用語「薬学上許容可能なビヒクル」はまた、たとえば、抗体又はポリペプチド、遺伝子又はそのほかの治療剤などの、治療組成物の投与のためのビヒクルも含む。この用語は、処方が投与されている個体にとって危険である抗体の産生をそれ自体誘発せず、かつ不合理な毒性を有さない任意の医薬ビヒクルを指す。好適な「薬学上許容可能なビヒクル」は、大きな、ゆっくり分解する高分子、たとえば、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリマーアミノ酸、アミノ酸コポリマー、及び不活化されたウイルス構成物であることができる。前記ビヒクルは当業者によく知られている。
【0116】
ペプチドの塩又は機能的に同等の化合物は、既知の方法で製造することができ、それは、通常、ペプチド、ペプチド模倣体、ペプチド複合体又はペプチド模倣体複合体が、薬学上許容可能な酸と混合されて酸塩を形成するか、又は薬学上許容可能な塩基と混合されて塩基性塩を形成することを意味する。酸又は塩基が薬学上許容可能かどうかは、適用と処方を知る当業者によって容易に立証することができる。たとえば、生体外適用に許容可能である酸及び塩基のすべてを治療用処方に移すことができるとは限らない。特定の適用によって、薬学上許容可能な酸は、有機の性質及び無機の性質の双方であることができ、たとえば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、グリコール酸、シュウ酸、ピルビン酸、コハク酸、マレイン酸、マロン酸、桂皮酸、硫酸、塩酸、臭化水素酸、硝酸、過塩素酸、リン酸、及びチオシアン酸であることができ、それらは、ペプチド及び機能的に同等の化合物の遊離のアミノ基と共にアンモニウム塩を形成する。ペプチド及び機能的に同等の化合物の遊離のカルボキシル基と共にカルボン酸塩を形成する薬学上許容可能な塩基は、エチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、及びそのほかのモノ−、ジ−及びトリアルキルアミン並びにアリールアミンを含む。さらに薬学上許容可能な溶媒が含まれる。
【0117】
薬学上許容可能な塩、たとえば、無機酸の塩、たとえば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩などを使用することができるが;有機酸の塩、たとえば、酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩なども使用することができる。薬学上許容可能な成分の詳細な議論は、レミングトンの製薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)(マック・パブ・コ(Mack Pub. Co.),エヌ・ジェー(N.J.), 1991)に提供されている。
【0118】
治療組成物における薬学上許容可能なビヒクルは、たとえば、水、塩水、グリセロール及びエタノールなどの液体を含有することができる。たとえば、湿潤剤又は乳化剤などの他の賦形剤も添加することもでき;pH緩衝物質及び類似の化合物が前記剤に存在することができる。通常、治療組成物は、液体形態でも、又は注射用の懸濁液としても調整され、さらに、注射の前にキャリア液体に溶解又は懸濁するための固形形態もまた想定される。「薬学上許容可能なビヒクル」の定義にはリポソームも含められる。
【0119】
治療処置のために、上述のペプチド、ペプチド誘導体、ペプチド複合体又はペプチド誘導体複合体を製造し、これを必要とする対象に投与することができる。ペプチド、ペプチド誘導体、ペプチド複合体又はペプチド誘導体複合体は、適切な形態において、好ましくは投与形態に適合させ、かつ所望の治療に適切な用量で存在する医薬組成物として、対象/患者に投与することができる。
【0120】
本発明の医薬組成物は、たとえば、従来の抗生物質(たとえば、バンコマイシン、ストレプトマイシン、テトラサイクリン、ペニシリン)などの他の活性化合物、又は他の抗菌活性化合物、たとえば真菌殺傷剤(たとえば、イトラコナゾール又はミコナゾール)を含有することができる。感染に伴う症状、たとえば、発熱(サリチル酸)又は発赤を緩和するそのほかの化合物も添加することができる。
【0121】
感染の治療のための又は生物学的戦いにおける治療上の使用と並行して、消毒剤及び/又は清浄剤(たとえば、細菌殺傷性組成物)において本発明に係るペプチド又はペプチド誘導体を使用することがさらに可能であり、表面及び/又は物体を殺菌する及び/又は清浄化するためにそれらを使用することができる。適用の別の分野は、包装であり、この場合、ペプチドは包装材に結合されるか、若しくはそれに組み入れられ、又は微生物によって容易に分解され得るそのほかの物質のための保存剤として結合される。本発明に係るペプチド又はペプチド誘導体は、接触の際、又は摂取しても毒性作用を有さないので、特に食品の包装に好適である。
【0122】
本発明の別の目的は、有効で治療上活性のある量の、本発明に係る薬学上活性のある組成物を投与することを含む、微生物(特に、細菌又は真菌)に感染している哺乳類を治療するための方法である。
【0123】
本発明との関連で、細菌感染又は真菌感染は、とりわけ、尿生殖路の感染、血液の感染(「血流感染」)、敗血症、気道感染、腹膜炎、創傷感染、消化器の感染及び髄膜炎を含む群から選択することができる。
【0124】
本明細書で用いられる用語「治療上有効な量」は、細菌の増殖及びコロニー形成を減らす若しくは完全に防ぐことができる、又は測定可能な治療上の若しくは予防上の成功を達成することができる、治療剤、すなわち、本発明に係るペプチド、ペプチド模倣体、ペプチド複合体又はペプチド模倣体複合体の量を示す。効果は、たとえば、細菌活性を調べることによって、又は細菌感染の程度及び度合いのそのほかの好適な評価方法によって、培養物の生検について決定することができる。対象についての正確な有効量は、その体重及び健康状態、疾患と治療剤の種類と程度、又は治療のために選択された幾つかの治療剤の併用に左右される。特に、本発明に係る組成物は、細菌感染及び/又は生物学的若しくは身体的な随伴作用(たとえば、発熱)を軽減又は防止するために使用することができる。内科医によって初回量を確立する方法は従来技術から知られる。確立された用量は安全で且つ奏功でなければならない。
【0125】
抗細菌的に有効な用量に必要とされる、本発明に係るタンパク質、ペプチド又は核酸の量は、感染の原因となる病原体、感染の重症度、及び患者の年齢、体重、性別、一般的な身体状態などを考慮に入れて確立することができる。顕著な副作用なしで抗細菌及び抗真菌として有効であるのに必要な有効成分の量は、使用される医薬処方及び、たとえば、抗生物質、抗真菌剤などのようなそのほかの成分の存在に左右される。本発明に係る適用の面積については、有効な用量は、治療される個体における0.01μg/kg〜50mg/kgの間、好ましくは0.5μg/kg〜10mg/kgの間のペプチド、ペプチド模倣体、ペプチド複合体又はペプチド模倣体複合体であることができる。
【0126】
本発明に係るペプチド、ペプチド模倣体、ペプチド複合体又はペプチド模倣体複合体の初回量は、繰り返し投与によって任意でモニターすることができる。投与の回数は、上記で特定された因子に依存し、好ましくは、約3日〜最大1週間の治療期間にわたって1日当たり1〜6回である。
【0127】
別の代わりの組成物では、本発明に係るペプチド、ペプチド模倣体、ペプチド複合体又はペプチド模倣体複合体又は混合物は、対象の体内に導入されているマトリクスからの制御された放出又は連続放出によって投与される。
【0128】
一実施態様では、本発明に係る化合物が皮膚を介して投与される。この投与方法は、非侵襲性であり、患者に優しく、同時に、経口投与に比べて、特に化合物が消化器系の環境で安定でない場合、又は大きすぎて腸管から効率的に吸収されない場合、化合物の高い生体利用効率を明らかにもたらす。皮膚を介した吸収は、たとえば、鼻、頬、舌下、歯肉又は膣において可能である。相当する投与形態は既知の技法によって得ることができ;それらは、鼻内ドロップ、鼻内スプレー、インプラント、フィルム、貼付剤、ジェル、軟膏又は錠剤に加工することができる。好ましくは、皮膚を介した吸収については、医薬ビヒクルは、皮膚に付着し、それによって吸収による取り込みを高めるように、吸収表面との投与形態の接触時間を延ばす1以上の成分を含有する。
【0129】
別の実施態様では、化合物は、肺の経路、たとえば、吸入剤、噴霧剤、エアゾルスプレー、又は乾燥粉末吸入剤によって規定された量で投与される。適切な製剤は、既知の方法及び技法によって調製することができる。場合によっては、経皮送達又は直腸送達、並びに眼における適用が好適な場合もある。
【0130】
本発明に係る物質にとって進歩した薬剤送達又はターゲティング法によってさらに効率的に投与されることが有利であってもよい。従って、消化管が回避されるべきであれば、投与形態は生体利用効率を高める任意の物質又は混合物を含有することができる。このことは、たとえば、酵素阻害剤又は抗酸化剤によって分解を低減することによって達成することができる。化合物の生体利用効率が吸収に対する障壁、一般に粘膜の透過性を高めることによって達成されるのであればさらに良好である。浸透を促進する物質は種々の方法で作用することができ;一部は粘膜の流動性を高めるが、ほかは粘膜細胞間の間隙を拡大する。
【0131】
さらに、そのほかは、粘膜における粘液の粘度を低減する。好ましい吸収促進剤には、コール酸誘導体、リン脂質、エタノール、脂肪酸、オレイン酸、脂肪酸誘導体、EDTA、カルボマー、ポリカルボフィル及びキトサンなどの両親媒性の物質が含まれる。
【0132】
本発明に係るペプチド、ペプチドの誘導体、複合体又は多量体を使用することができる適応症は、グラム陽性及びグラム陰性最近の双方による細菌感染であり、たとえば、エシェリシア・コーライ(大腸菌)(Escherichia coli)、エンテロベクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)、エルウィニア・アミロボーラ(Erwinia amylovora)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、モルガネラ・モルガニイ(Morganella morganii)、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、サルモネラ・チフィ(Salmonella typhi)、シゲラ・ディセンテリアエ(Shigella dysenteriae)、エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)、アシネトバクター・カルコアセチカス(Acinetobacter calcoaceticus)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、アグロバクテリウム‐ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)、フランシセラ・ツラレンシス(Francisella tularensis)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、シュードモナス・シリンゲ(Pseudomonas syringae)、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)、ヘモフィルス・インフルエンゼ(Haemophilus influenzae)、ステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)、シュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)又はプロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)による細菌感染である。
【0133】
本発明はまた、生化学、バイオテクノロジー、医学若しくは薬学の研究における、又は特に潜在的な抗細菌作用若しくは抗真菌作用を有する物質を同定するためのスクリーニングにおける、本発明に係るペプチド、ペプチド誘導体又は多量体の使用に関する。
【0134】
従って、本発明はまた、以下を含む、抗細菌作用又は抗真菌作用を有する化合物を同定する方法にも関する:
(i)以下を用いて競合アッセイを実施すること:
(a)本発明に係るペプチド、ペプチド誘導体又は多量体に感受性がある微生物、
(b)本発明に係るペプチド、ペプチド誘導体又は多量体、
(c)(b)及び(c)に(a)を接触させることによって試験すべき少なくとも1つの化合物;及び
(ii)微生物から本発明に係るペプチド、ペプチド誘導体又は多量体を競合的に置き換える試験化合物を選択すること。
【0135】
このスクリーニング法は、病原体の未知の受容体との結合について本発明に係るペプチド又は多量体構築物と競合することができる試験化合物を同定する。このように、ハイ・スループットスクリーニングにおいてペプチドと同一部位に特異的に結合する小分子を効果的に同定することができる。試験化合物は、おそらく、元のペプチド配列と同じ作用機序を有するので、本発明に係るペプチド又はペプチド誘導体によって撲滅される多重耐性微生物に対しても活性がある。
【0136】
スクリーニング法は既知の方法によって実施されるが、少なくとも1つの本発明に係るペプチド、ペプチド誘導体又は多量体を使用する。好ましくは、このために、本発明に係るペプチド、ペプチド誘導体又は多量体には、蛍光性、放射性、又はそのほかの検出可能なマーカーが具備される。標識されたペプチド、ペプチド誘導体又は多量体の微生物への結合挙動は、試験物質の存在下及び非存在下において比較される。
【0137】
好ましくは、本発明に係るペプチド又は多量体構築物との結合に競合する試験化合物が次いで同定され、それらの抗細菌作用又は抗真菌作用について試験される。
【0138】
一実施態様では、二量体(BIFC;bimolecular fluorescence complementation:二分子蛍光補完)の形成後の競合アッセイにおいて蛍光を測定する。この方法によって細胞内のタンパク質相互作用の直接的な視覚化が可能になり、それは、大腸菌(E. coli)における天然の及び人工的な標的分子を伴ったc−Ab1チロシンキナーゼのSH3ドメインの例について明らかにされた(モレル・エム、エスパルガロ・エー、アビレス・エフ・エックス、及びベンチュラ・エス(Morell M, Espargaro A, Aviles F X, & Ventura S.) 二分子蛍光補完による一時的なタンパク質−タンパク質相互作用の検出:Ab1−SH3の場合(Detection of transient protein-protein interactions by bimolecular fluorescence complementation: The Ab1-SH3 case.)。プロテオミクス(Proteomics) 7: 1023-36, 2007)。この試験系は、十分に感度が高いので大腸菌における低レベルの発現のタンパク質の相互作用でも検出することができる。それは、SH3がパートナーに結合した後、黄色蛍光タンパク質(YFP)の2つの断片の付加体形成に基づく。これら2つのタンパク質は互いに結合すると直ちに、YFPの2つの断片が複合体を形成するが、その複合体の構造は天然タンパク質と極めて類似するものである。個々の断片は蛍光を発しないので、これは、YFP複合体の観察される蛍光から知ることができる。本発明において記載されるペプチド及びペプチド誘導体との結合部位で競合する化合物を検索するのに類似の構築物を設計することもできる。ハイ・スループットスクリーニングは、当業者によって386ウェル・マイクロタイタープレートに容易に移すことができる。
【0139】
別の実施態様では、病原体の未知の受容体からペプチドを競合的に置き換える試験化合物の能力を測定するために、適切な競合アッセイにおいてペプチドが用いられる。所望であれば、選択されたペプチドに結合することが分かっている微生物(たとえば、細菌、ウイルス、又は真菌)、たとえば、大腸菌(E. coli)又は肺炎桿菌(クレブシエラ・ニューモニエ;K. pneumoniae)の株は、(選択されるアッセイによって)たとえばELISA方式において適切な表面に直接又は間接的に固定化することができる。固定化のための相応する表面は周知である。たとえば、不活性粒子(「ビーズ」)を使用することができる。しかしながら、リガンドもまた96ウェル・マイクロタイタープレートに結合することができる。次いで、選択した量の試験化合物と本発明に係るペプチドを固定化させた微生物と接触させ、微生物への結合についてペプチドと競合する化合物を選択する。細菌又は真菌における受容体結合についてペプチドと競合するこれら試験化合物が同定された場合、それらのさらなる抗細菌作用又は抗真菌作用についてそれらを調査することができる。これについての好適な方法は実施例において以下に説明されている。
【0140】
別の側面では、本発明は、その配列が本発明にかかるペプチド又は多量体をコードする、単離された核酸分子を提供する。本発明に係る抗細菌又は抗真菌のペプチド又は多量体構築物をコードする核酸は、宿主細胞においてその発現を制御する調節配列と動作可能に連結される。本発明の別の目的は、上述の核酸分子で形質移入又は形質転換された宿主細胞である。
【0141】
以下の実施例によって、本発明をそれに限定することなく、本発明を以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】寒天拡散アッセイにおける大腸菌(E. coli)BL21 AIに対するオンコシン類似体(Ala−スキャン)の抗菌活性を示す。斜交平行棒は部分阻害を示す。
【図2】寒天拡散アッセイにおけるミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)ATCC 10240に対するオンコシン類似体(アラニン−スキャン)の抗菌活性を示す。
【図3】5,6−カルボキシフルオレセイン標識オンコシン(CF−オンコシン、配列番号94)及びペネトラチン−オンコシン(CF−ペネトラチン−オンコシン、配列番号102)と共にインキュベートした後のHeLa細胞及びSH−SY5Y細胞の蛍光顕微鏡写真を示す。上の列:位相差、下の列:蛍光(517nmでの放射)。A,B:CF−オンコシンとインキュベートしたSH−SY5Y;C,D:CF−ペネトラチン−オンコシンとインキュベートしたSH−SY5Y;E,F:CF−オンコシンとインキュベートしたHeLa;G、H:CF−ペネトラチン−オンコシンとインキュベートしたHeLa。棒は20μmに相当する。
【図4】大腸菌(E. coli)BL21 AIの共焦点レーザー走査顕微鏡写真を示す。ペプチド濃度は30μmol/L;TAMRA濃度は180μmol/L;上の列:位相差、下の列:蛍光。A、B:CF−オンコシンと20分間インキュベート;C、D:CF−オンコシンと50分間インキュベート;E、F:CF−ペネトラチン−オンコシンと50分間インキュベート;G、H:CF−ペネトラチンホモダイマーと90分間インキュベート。棒は5μmに相当する。
【図5】ミクロコッカス・ルテウス(M. luteus)10240の共焦点レーザー走査顕微鏡写真を示す。ペプチド濃度は30μmol/L;TAMRA濃度は180μmol/L。上の列:位相差、下の列:蛍光。A、B:CF−ピロコリシン;C、D:CF−ペネトラチン−ピロコリシン;E、F:CF−ドロソシン;G、H:CF−ペネトラチン−ドロソシン;I、J:CF−ペネトラチンホモダイマー。棒は5μmに相当する。
【図6】「細胞増殖キットI」("Cell Proliferation Kit I")を用いて測定したSH−SY5Y細胞(網目のカラム)及びHeLa細胞(黒色のカラム)に対する抗菌ペプチドの細胞傷害性試験の結果を示す。培地中の600μg/mLのオンコシン、オンコシンR15O R19O、ドロソシン及びアピダエシン1b(配列番号18、72、89及び87)との24時間のインキュベート後の試験。陽性対照は、12%のDMSO及び100μg/mLのメリチン。陰性対照12%PBSに対して正規化。
【図7】「細胞増殖キットI」("Cell Proliferation Kit I")を用いて測定したHeLa細胞に対するペネトラチン構築物の細胞傷害性試験の結果を示す。培地中の50〜400μg/mLのペネトラチン−ドロソシン(配列番号96)、ペネトラチン−アピダエシン1b(配列番号94)、ペネトラチン−ピロコリシン(配列番号98)、ペネトラチン−オンコシン(配列番号100)、ペネトラチンホモダイマー(配列番号102)、ペネトラチン(配列番号105)との24時間のインキュベート後の試験。陰性対照は12%PBSであり、陽性対照は12%DMSOである。
【図8】「細胞増殖キットI」("Cell Proliferation Kit I")を用いて測定したSH−SY5Y細胞に対するペネトラチン構築物の細胞傷害性試験の結果を示す。培地中の50〜400μg/mLのペネトラチン−ドロソシン(配列番号96)、ペネトラチン−アピダエシン1b(配列番号94)、ペネトラチン−ピロコリシン(配列番号98)、ペネトラチン−オンコシン(配列番号100)、ペネトラチンホモダイマー(配列番号102)、ペネトラチン(配列番号105)、ペネトラチン−tau(配列番号106)との24時間のインキュベート後の試験。12%PBSを陰性対照として用い、12%DMSOを陽性対照として用いた。
【図9】ペプチド、すんわちオンコシン、ドロソシン、及びアピダエシン1b(配列番号18、89及び87)についての溶血試験の結果を示す。ペプチドの希釈系列は4.7〜600μg/mL。陽性対照:メリチン及びトリトンX−100(登録商標)、陰性対照:PBS。
【図10】「細胞増殖キットI」("Cell Proliferation Kit I")を用いて測定したHeLa細胞に対する抗菌ペプチドについての細胞傷害性試験の結果を示す。培地中600μg/mLのオンコシン及びオンコシン誘導体(配列番号18、63、72、107〜110)、並びに比較例のアピダエシン1b及びドロソシン(配列番号87及び89)との24時間のインキュベート後の試験。陽性対照は12%DMSO及び100μg/mLのメリチンである。陰性対照12%PBSに対して正規化した。図は3つ組での2つの独立した試験の平均値を示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0143】
実施例1.ペプチド合成
ペプチド合成のための化学薬品はすべて、特に言及しない限り、最高純度でフルカ・ケミー社(Fluka Chemie GmbH)(スイス、ブッシュ(Buchs))から入手した。
【0144】
Fmoc/tBuストラテジー(フィールズ・ジー・ビー及びノーブル・アール・エル(Fields G B & Noble R L.) 9−フルオレニルメトキシカルボニルアミノ酸を利用した固相ペプチド合成(Solid-Phase Peptide Synthesis Utilizing 9-Fluorenylmethoxycarbonyl Amino-acids.)。インターナショナル・ジャーナル・オブ・ペプチド・アンド・プロテイン・リサーチ(International Journal of Peptide and Protein Research) 35: 161-214, 1990)を用いて、Syro2000多重ペプチド合成ロボット(ドイツ、ウィッテンのマルチシンテック社(MultiSynTech GmbH))において、従来の固相ペプチド合成によって、ペプチド及びペプチド誘導体すべてを合成した。標準的なFmocアミノ酸はすべて、マルチシンテック社(MultiSynTech GmbH)(ドイツ、ウィッテン)、又はオルペゲン製薬会社(Orpegen Pharma GmbH)(ドイツ、ハイデルベルグ)から入手した。2−アミノ−3−グアニジノプロピオン酸(Agp;アイリス・バイオテック社(Iris Biotech GmbH)、ドイツ、マルクトレドヴィッツ;Marktredwitz)、β−ホモアルギニン(βHar、フルカ・ケミー社(Fluka Chemie GmbH)、スイス、ブッシュ(Buchs))、ホモアルギニン(Har)、N−メチルアルギニン(N−Me−Arg)及びニトロアルギニン(Arg(NO2),バケム社(Bachem AG)、スイス、ブベンドルフ(Bubendorf))は特別なアルギニン類似体として用いた。トランス−4−ヒドロキシプロリン(t-4-Hyp)及び2,3−ジアミノプロピオン酸(Dap)は、ノババイオケム(Novabiochem)(メルクバイオサイエンス社、ドイツ、ダルムシュタット(Darmstadt))から入手した。
【0145】
ペプチドは、ワング樹脂(Wang resin)(1.23mmol/g)において酸として、又はマルチシンテック社(MultiSynTech GmbH)(ドイツ、ウィッテン)からのリンク−アミド 4−メチルベンジルヒドリルアミン(Rink-amide 4-methylbenzylhydrylamine)(MBHA)樹脂(0.67mmol/g)において酸アミドとして合成した。1級アミンによる後者の官能化については、ペプチドチオエステルとしてペプチドを誘導体化し、このために、最初のアミノ酸を4−スルフアミノ−ブチリル−アミノメチル樹脂(SAB AM、1.1mmol/g;ノババイオケム(Novabiochem)、メルクバイオサイエンス社、ドイツ、ダルムシュタット)に結合させた。
【0146】
ワング樹脂(Wang resin)上で、第1のC末端アミノ酸(5当量(eq))をジクロロメタン(DCM;オランダ、バルケンサワード(Valkenswaard)のバイオソルブ・ビー・ブイ(Biosolve BV))において、5eqの2,6−ジクロロベンゾイルクロリド及び8.25eqのピリジンと結合させた(シエバー・ピー(Sieber P.)9−フルオレニルメトキシカルボニル−アミノ酸の4−アルコキシベンジルアルコール樹脂へのアンカリングのための改善された方法(An Improved Method for Anchoring of 9-Fluorenylmethyoxycarbonyl-Amino Acids to 4-Alkoxybenzyl Alcohol Resins.)。テトラヘドロン・レターズ(Tetrahedron Letters) 28: 6147-50, 1987)。C末端アミノ酸(5eq)によるSAB AM樹脂の官能化は、DCM中で、5eqの(ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ)−トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(PyBOP、ノババイオケム(Novabiochem)、メルクバイオサイエンス社、ドイツ、ダルムシュタット)及び10eqのN−エチルジイソプロピルアミン(DIPEA)による活性化によって−20℃にて行った(バックス・ビー・ジェー及びエルマン・ジェー・エー(Backes B J & Ellman J A.) 固相合成のためのアルカンスルホンアミドのセーフティ・キャッチ・リンカー(An Alkanesulfonamide Safety-Catch Linker for Solid-Phase Synthesis.)。ザ・ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(The Journal of Organic Chemistry) 64: 2322-30, 1999)。
【0147】
先にロードされたワング(Wang)及びSAB AMの樹脂上における自動合成で記載されたように、各場合、ジメチルホルムアミド(DMF:バイオソルブ・ビー・ブイ(Biosolve BV)、バルケンサワード(Valkenswaard)、オランダ)における、8eqのN,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)による、0.5mol/Lの1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)に溶解した8eqのアミノ酸の活性化によって、第1のアミノ酸をリンク−アミド樹脂(Rink-amide resin)に結合させた。
【0148】
使用した側鎖保護基は、Cys、Asn、His、及びGlnについてはトリフェニルメチル(トリチル)、Tyr、Ser及びThrについてはtert−ブチルエーテル(tBu)、Asp及びGluについてはtert−ブチルエステル(OtBu),Argについてはω−N−2,2,4,6,7−ペンタメチルジヒドロベンゾフラン−5−スルホニル(pbf)、βHar及びHarについてはω−N−2,2,5,7,8−ペンタメチルクロマン−6−スルホニル(Pmc)、Lys、Orn及びAgpについてはtert−ブチロキシ−カルボニル(Boc)、又はN−Me−Argについてはω−N−4−メトキシ−2,3,6−トリメチルフェニル−スルホニル(Mtr)であった。一時的なFmoc保護基は、DMF中40%のピペリジン(v/v)(バイオソルブ・ビー・ブイ(Biosolve BV)、バルケンサワード(Valkenswaard)、オランダ)で5分間、再び、DMF中20%新鮮ピペリジンで10分間によって切断した。
【0149】
8eqの酢酸、蟻酸、又はヨード酢酸を0.5mol/LのHOBT/DMFに溶解し、DMF中で8eqのDICによってそれらを活性化することによってペプチド又はペプチド誘導体のN末端をアセチル化、ホルミル化又はヨードアセチル化した。ガウセポール(Gausepohl)ら(ガウセポール・エイチ、ピエルス・エイチ、及びフランク・アール・ダブリュ(Gausepohl, H., Pieles, H., & Frank, R.W.) ペプチド:化学、構造及び生物学(in Peptides: chemistry, structure and biology)(スミス・ジェー・エー及びリビエール・ジェー・イー編(eds. Smith, J.A. & Rivier, J.E.)) 523 (エスコム、ライデン(ESCOM, Leiden), 1992))に従って、それぞれDMF中の10eqの2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルアミニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU,ドイツ、ウィッテンのマルチシンテック社(MultiSynTech GmbH))とDIPEAによってペプチド又はペプチド誘導体のN末端をグアニジン化した。DMF中で5eqのHBTUと10eqのDIPEAを用いて、蛍光色素5,6−カルボキシフルオレセインによってN末端を修飾した。
【0150】
カイザー試験(Kaiser test)によってN末端修飾の完全性を検証した。このために、95℃にて比率(1:1:2)でのエタノール(ドイツ、カールスルーエ(Karlsruhe)のカール・ロス社+Co. KG(Carl Roth GmbH + Co. KG))中の0.28mol/Lのニンヒドリン(ドイツ、シールズ(Seelze)のリエデル・デ・ハエン(Riedel de Haen)と、ピリジン中0.2mmol/Lのシアン化カリウムと、エタノール中76%のフェノールと共に少量の樹脂をインキュベートした。遊離1級アミノ基を示す青着色が出現した場合、カップリングを繰り返した。
【0151】
ペプチド又はペプチド誘導体の合成の完了時、DMF及びDCMで樹脂を慎重に洗浄し、真空下で乾燥させた。87.5%のトリフルオロ酢酸(TFA)において水とm−クレゾールとチオアニソールとエタンジチオール(5:5:5:2.5)の混合物によって室温にて4時間、樹脂に結合したペプチドを切断し、同時に側鎖を脱保護した。冷ジエチルエーテルによってペプチド及びペプチド誘導体を沈殿させ、3000*gにて遠心分離した。ペレットを冷エーテルで2回洗浄し、乾燥させ、0.1%TFA水溶液に溶解した(UV分光法)。試料を−20℃で保存した。
【0152】
SAB AM樹脂上でのペプチドの切断に先立って、Fmoc基の切断後、DMF中20eqのジ−tert−ブチルジカーボネート(BoC2O、スイス、ブッシュ(Buchs)のフルカ・ケミー社(Fluka Chemie GmbH)と10eqのDIPEAによってN末端を保護した。アルキル化によってスルファミルリンカーを活性化するために、洗浄した樹脂にDMF中100eqのヨードアセト二トリルと20eqのDIPEAを加えた(テルヤ・ケー、マーフィ・エー・シー、バーリン・ティー、アペラ・イー、及びマズール・エス・ジェー(Teruya K, Murphy A C, Burlin T, Appella E, & Mazur S J.) p53C末端断片のFmocに基づく化学合成と超コイルDNAへの選択的結合及びそのリン酸化誘導体とアセチル化誘導体(Fmoc-based chemical synthesis and selective binding to supercoiled DNA of the p53 C-terminal segment and its phosphorylated and acetyleated derivatives.)。ジャーナル・オブ・ペプチド・サイエンス(Journal of Peptide Science) 10: 479-93, 2004)。ペプチドの切断については、DMF中50eqのプロピルアミン(10%v/v)を樹脂に加えた。DMFを除いた後、原料ペプチドを87.5%のTFA中の水とm−クレゾールとチオアニソールとエタンジチオール(5:5:5:2.5)の溶液に溶解し、側鎖保護基とN末端Boc保護基すべてを分離した。冷ジエチルエーテルによってペプチドを沈殿させ、3000×gにて遠心分離した。沈殿物を冷エーテルで2回洗浄し、乾燥させ、0.1%TFA水溶液に溶解した(UV分光法)。試料を−20℃で保存した。
【0153】
ジュピター(Jupiter)C18 5μm 300Å、250×10mm又はジュピター(Jupiter) C18 15μm 300Å、250×21mmのカラム(米国、トランス(Torrance)のフェノメネックス社(Phenomenex Inc.))を伴うアクタ(Akta)HPLCシステム(ドイツ、フライブルク(Freiburg)のアマシャムバイオサイエンス社)のRP−HPLCによって、切断されたペプチド及びペプチド誘導体を精製した。
【0154】
各場合に使用した溶媒は、0.1%TFA水溶液(溶離液A)と0.1%TFAを含む60%アセトニトリル水溶液(バイオソルブ・ビー・ブイ(Biosolve BV)、バルケンサワード(Valkenswaard)、オランダ)(溶離液B)であった。典型的な線形勾配は、5%の溶離液Bで開始し、溶出は10mL/分(250×21mmのカラム)又は5mL/分(250×10mmのカラム)の流速にて1分間当たり1%のBの増加により行った。検出は、220、230及び240μmで行った。ジュピター(Jupiter)C18 5μm、300Å、150×4.6mmのカラム(米国、トランス(Torrance)のフェノメネックス社(Phenomenex Inc.))を伴う同一のHPLCシステムで、精製されたペプチドを解析した。5〜95%のBの直線勾配にて1mL/分の流速で30分間それを溶出し、220nmで検出した。加えて、マトリクス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI−TOF−MS、4700プロテオミック・アナライザー、アプライド・バイオシステムズ社(Applied Biosystems GmbH)、ドイツ、ダルムシュタット(Darmstadt))によって純度を判定した。このために、マトリクス(0.1%TFA水溶液中50%アセト二トリルでの5.3mg/mL)として0.5μLのα−シアノヒドロキシ桂皮酸(ドイツ、ブレーメン(Bremen)のブルッカー・ダルトニック社(Bruker Daltonik GmbH)と共に0.5μLのペプチド溶液を共結晶化した。
【0155】
窒素の下、4℃にて脱気したリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)にて精製ペネトラチン−Cysモノマーを4eqの精製したヨードアセチル化AMPと共にインキュベートすることによってペネトラチン誘導体のチオエーテル結合を実施した。RP−HPLCによって反応をモニターし、ペネトラチン−Cysモノマーの完全な反応の後、ペネトラチン構築物が精製された。並行して、(ペネトラチン−Cys)2ダイマーを得た。
【0156】
プロリン−リッチ抗菌ペプチド「オンコペルタス(Oncopeltus)抗菌ペプチド4」の不完全に決定された配列から出発して、C末端アミノ酸N181920によってペプチド4の第一の誘導体(表2)を最初に合成し、カルボキシル機能は変えなかった。11位での修飾の中で、カチオン性アミノ酸Lys及びArgは驚くべき良好な特性を示した。誘導体は、低いマイクロモル範囲で大腸菌(E. coli)及びミクロコッカス・ルテウス(M. luteus)に対して抗菌活性を示した。C末端のさらなる誘導体化については、Arg11で誘導体化された配列を選択し、AsnとArgの異なった配置を有する誘導体を合成した。AsnによってC末端で短縮された誘導体(配列番号18)は、驚くべき高い活性を示した。C末端酸アミドとして、さらに、それは驚くべき高い血清安定性を達成した。配列VDKPPYLPRPRPPRRIYNR−NH2(配列番号18)を有するペプチドを以後オンコシンと呼ぶが、主として血清安定性だけでなく抗菌活性に関してもさらに改善した。
【0157】
【表2】

*比較例
【0158】
【表3】





【0159】
アミノ酸残基については一文字表記を用いたが、アミノ酸鎖におけるOはオルニチンを表し;
プロピルは、C末端上のプロピルアミドを表し(Sub2=OR3=NHC37);Ac=アセチル基、for=ホルミル基、guan=グアニジノ基、及びCF=5,6−カルボキシフルオレセイン、修飾されたN末端の例(N末端アミノ酸の修飾されたα−アミノ基、Sub1=アセチル−NH、ホルミル−NH、グアニジノ、又は5,6−カルボキシフルオレセイン)、
βHar:β−ホモアルギニン、アルギニンに対するβ−アミノ酸同族体(ホモログ)、
Agp:2−アミノ−3−グアニジノプロピオン酸、Har:ホモアルギニン、及びArg(NO2):ニトロアルギニンはアルギニンの同族体(ホモログ)である、
N−Me−Arg:N−メチル−アルギニン−ペプチド結合上でメチル化されたアルギニン、
4tHyp:トランス−4−ヒドロキシプロリン、
Tle:tert−ブチルグリシン
Dap(Ac):側鎖にアセチル化されたアミノ官能基を有する2,3−ジアミノプロピオン酸、
(CH2CO):システインのSH基に対するアセチルリンカー、
f:α−アミノカプロン酸
小文字は対応するD−アミノ酸を示す、
比較例は*で印を付ける。
【0160】
実施例2:安定性
25%マウス血清における血清安定性
マウス血清及び25%マウス血清(オーストリア、パスチング(Pasching)のピーエーエー・ラボラトリーズ社(PAA Laboratories GmbH))において、ホフマンら(Hoffmann)(ホフマン・アール、バスコ・エム、及びオトボス・エル(Hoffmann R, Vasko M, & Otvos L.)ホスホペプチドの血清安定性(Serum stability of phosphopeptides)。アナリティカ・ケミカ・アクタ(Analytica Chimica Acta) 352: 319-25, 1997)に従って二重判定として血清安定性試験を行った。このために、ペプチド及びペプチド模倣体を水に溶解し、マウス血清を加え、ペプチド濃度を75μg/mLに調整した。連続して振盪しながら混合物を37℃でインキュベートした。0、30、60、120、240、及び360分後、各場合でアリコートを取り出し、15%トリクロロ酢酸(ドイツ、カールスルーエ(Karlsruhe)のカール・ロス社(Carl Roth GmbH & Co.))水溶液と混合した。氷上でさらに10分間インキュベートした後、沈殿した血清タンパク質を遠心した(ドイツ、ハンブルグのエッペンドルフ、ミニスピン、13400rpm、5分間)。上清を取り出し、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(フルカ・ケミー社(Fluka Chemie GmbH)、スイス、ブッシュ(Buchs))によって中和し、分析まで−20℃で保存した。
【0161】
イオン対合剤としての0.1%のトリフルオロ酢酸(TFA、UV等級、フルカ・ケミー社(Fluka Chemie GmbH)、スイス、ブッシュ(Buchs))の存在下で線形のアセトニトリル勾配(オランダ、バルケンサワード(Valkenswaard)のバイオソルブ・ビー・ブイ(Biosolve BV))を伴ったRP−HPLCによって上清を分析した。マトリクス(0.1%TFA水溶液中50%アセト二トリルでの5.3mg/mL)としてのα−シアノヒドロキシ桂皮酸(ドイツ、ブレーメン(Bremen)のブルッカー・ダルトニック社(Bruker Daltonik GmbH))と共に分画を共結晶化し、陽イオン反射モードで直列質量分光計(MALDI−TOF/TOF−MS、4700プロテオミクス・アナライザー;ドアプライド・バイオシステムズ社(Applied Biosystems GmbH)、ドイツ、ダルムシュタット(Darmstadt))によって解析した。次いで個々の時点で、完全なペプチド、その分解産物又は代謝体の比率を同定し、定量することができた。使用した対照(コントロール)は、25%マウス血清の水溶液であり、同一時間間隔で並行して分析した。
【0162】
表4は、25%マウス血清におけるオンコシン(配列番号18)及び選択されたオンコシン誘導体の半減期を示す。リストにある配列番号14及び19を有するオンコペルタス(Oncopeltus)4誘導体は最低の安定性を有し、半減期は30分未満である。ここで、19位のアルギニン(残基X4)を先ず切断する。分解産物VDKPPYLPRPRPPRRIYN−OH(配列番号28)の安定性はそのとき、120分まで上昇したが、この断片は、非常に低い抗菌活性(大腸菌(E. coli)で64μg/mL)しか有さなかった。オンコシンにおけるC末端(Sub2)のアミド化では、大腸菌(E. coli)及びミクロコッカス・ルテウス(M. luteus)に対する活性(それぞれ4及び8μg/mL)に加えて、安定性もペプチド誘導体にとって驚くべき高い値である60分に増大する。プロピルアミドによるアミド化(配列番号58)を介して、オンコシンの半減期はさらに120分に延びた。
【0163】
【表4】

*比較例
【0164】
非タンパク新生性アミノ酸オルニチン(配列番号61)についての19位(残基X4)の置換は安定性を120分の半減期に増大させた。Arg15のオルニチンへの置換は、このオンコシン誘導体(配列番号50)の安定性を90分の半減期に増大させた。15位(残基X3)においてプロリン(配列番号60)又はβ−ホモアルギニン(配列番号62)を有する誘導体は、120又は150分後まで半分に分解されなかった。4−トランス−ヒドロキシプロリン(配列番号24)における13位でのプロリンの置換は、オンコシンの安定性に何ら否定的な効果を有さなかった。
【0165】
15位及び19位(残基X3及びX4)においてこれら修飾を組合せることによって、360分を超える半減期が判定された、非常に安定な誘導体を合成することが可能であった。大腸菌(E. coli)に対する4又は8mg/mLのMIC値を持つOrn19及びHyp15又はOrn15を有する、好ましい例となる配列番号63及び72の活性はオンコシンに匹敵する。Orn15とプロピルアミド化C末端との組合せ(配列番号71)は、本発明の非常に好ましい別の例を表す。
【0166】
100%マウス血清における血清安定性
【表5】

【0167】
15位及び19位においてアルギニン残基をオルニチン又はトランス−4−ヒドロキシプロリン(配列番号63及び72)に置換することによって、25%マウス血清の水溶液における半減期は6時間を超えて増やすことができた(上記参照)。100%マウス血清におけるインキュベートの後、R15O及びR19Oの置換では、175分の半減期がこれらの配列について判定された。R15Hyp及びR19O(配列番号63)を置換することによって、使用したペプチドの60%が480分後依然として検出された。R13Hyp、R15Hyp、R19O及びI16Tleを有するオンコシンの別の誘導体(配列番号110)は、480分後、ペプチドの元々の量の60%又は70%を依然として含有していた。大腸菌(E. coli)に対する双方の誘導体の活性は4μg/mLと2μg/mLで非常に良好だった。
【0168】
細菌のプロテアーゼに対する安定性
細菌溶解物の調製
細菌溶解物については、500mLの栄養ブロス(nutrient broth)(カールスルーエ(Karlsruhe)のカール・ロス社+Co. KG(Carl Roth GmbH + Co. KG))に大腸菌(E. coli)BL21A1を植菌し、37℃にて一晩インキュベートした。JLA−10.500ローター付きのベックマン・アバンティ(商標)J−20−XP遠心機(Beckman AvantiTM J-20-XP centrifuge)(米国、フラートン(Fullerton)のベックマン・コールター(Beckman Coulter))において5000rpm、4℃で25分間、2×250mLの細菌懸濁液を遠心した。ペレットをそれぞれ30mLのPBS(pH7.4)に懸濁し、ベックマン・アレグラ(商標)2IR遠心機(Beckman AllegraTM 2IR centrifuge)(米国、フラートン(Fullerton)のベックマン・コールター(Beckman Coulter))で再び遠心した。ペレットをそれぞれ10mLのPBSに懸濁し、氷上で2×5分(750W;振幅40%;2秒オン/3秒オフ)、超音波(ビブラ−セル(商標)マイクロチップ(Vibra-cellTM microtip、フィッシャー・バイオブロック・サイエンティフィック(Fisher Bioblock Scientific)イルカーチ(Illkirch)、フランス)で粉砕した。細菌溶解物を合わせ、1mLのアリコートを15400rpmにて4℃で20分間遠心した(ベックマン・アレグラ(商標) (Beckman AllegraTM))。上清を取り出し、−20℃で保存した。細菌溶解物中のタンパク質含量は、ブラッドフォード(Bradford)によるタンパク質測定によって決定した。
【0169】
ブラッドフォード(Bradford)によるタンパク質測定[エム・エム・ブラッドフォード(M.M. Bradford); (1976): アナリティッシュ・バイオケミー(Analytische Biochemie), 72, 248-254]
標準系列のためのストック溶液として2mg/mLのBSAのPBS溶液を調製した。これをPBSで希釈して10〜100μg/mL BSAの6種の標準溶液を得た。分析する試料からPBSの希釈系列を調製した。各場合、50μLの試料又は標準溶液をピペットでポリスチレン製のマイクロプレートに入れた。ブラッドフォード(Bradford)試薬については、0.01%のクマシーブリリアントブルーG250を5%エタノールに溶解し、8.5%のo−リン酸を加え、2回蒸留した水で満たした。次いで混合物を60℃で1時間インキュベートし、室温でさらに12時間静置し、次いで濾過した。200μLのブラッドフォード(Bradford)試薬を各ウエルに加え、暗所で15分間インキュベートした。ブランク値(50μLのPBS+200μLのブラッドフォード(Bradford)試薬)に対して595nmで吸収を測定した。
【0170】
細菌溶解物における安定性の測定
タンパク質含量が1.5mg/mL又は0.5mg/mLの細菌溶解物における0.15μg/mLのペプチドの溶液を37℃でインキュベートした。0、30、60、120、240、又は360分後に、それぞれから200μLを取り出し、15%トリクロロ酢酸50μLでタンパク質を沈殿させた。次いで、4℃にて10分間それをインキュベートし、その後ミニスピン卓上遠心機で13000rpmにて5分間遠心した。上清から210μLを取り、1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液で中和した。完全なペプチド及び分解産物をHPLCで解析した。0.1%トリクロロ酢酸(TFA)を伴った3%アセトニトリル水溶液60μLを溶液に加え、250μLの混合物を注入した。クロマト分画の後、MALDI−TOF−MSによって構成成分を同定した。
【0171】
【表6】

【0172】
細菌プロテアーゼに対する安定性を検討するために、大腸菌(E. coli)BL21 A1の一晩の培養物から溶解物を調製し、ペプチドをその中でインキュベートした。ブラッドフォード(Bradford)タンパク質測定法を用いて、タンパク質の濃度を0.5又は1.5mg/mLに調整した。
【0173】
天然のオンコシン(配列番号18)については、タンパク質総濃度0.5mg/mLの溶解物において60分の半減期が判定された。R15O及びR19Oを置換することによって(配列番号72)、半減期は115分に倍加した。次の工程では、プロリンエンドペプチダーゼの切断部位の13位におけるプロリンをトランス−4−ヒドロキシプロリンに置換し(配列番号107)、その安定性は215分にさらに増大した。P13Hyp、R15hyp及びR19Oを組合せることによって240分を超える半減期が達成された。
【0174】
15O及びR19Oを有する別の誘導体では、16位のイソロイシンをtert−ブチルグリシンに置換し(配列番号109)、その安定性は240分を超えて増大した。P13Hyp、R15hyp、R19O及びI16Tleの組合せを有する誘導体(配列番号110)も、0.5mg/mLのタンパク質濃度の溶解物で240分を超える半減期を達成した。驚くべきことに、オンコシン誘導体は大腸菌(E. coli)に対する抗細菌活性に陽性の効果を有し、配列番号108及び110のMIC値を2μg/mLに低下させた。
【0175】
実施例3:抗細菌試験
阻害ゾーン試験(寒天拡散アッセイ)
精製したペプチド及びペプチド誘導体を水で最終濃度500μg/mLに希釈した。試験微生物を、対数増殖相での培養物から、およそ3×105細胞/mLの濃度で1%トリプシンの大豆ブロス(Soy broth)及び1.2%アガロース(フルカ・ケミー社(Fluka Chemie GmbH)、スイス、ブッシュ(Buchs))のプレートに塗布した。3cmの間隔で、各場合において、10μLのペプチド水溶液(500μg/mL)又は対照としての10μLの水及び抗生物質水溶液を一滴ずつ加えた。37℃にて20時間インキュベートした後、阻害ゾーンの直径(IZD)を測定した。試験はすべて好気性条件で行った。
【0176】
オンコシン配列のアラニン・スキャン用いて、アラニンへの置換が大腸菌(E. coli)BL21 A1(図1)及びミクロコッカス・ルテウス(M. luteus)10240(図2)に対する抗菌活性の顕著な低下をもたらす、様々な残基を同定した。
【0177】
図1及び図2では、オンコシンの配列VDKPPYLPRPRPPRRIYNR(配列番号18)がX軸にプロットされている。各アミノ酸は、この位置で置換されたアラニンを有する対応するペプチドを表す。たとえば、欄VaIIは、ペプチドADKPPYLPRPRPPRRIYNR−NH2(配列番号29)を表し、IZDの値はY軸上に割り振られている。阻害ゾーンの直径が大きければ大きいほど、ペプチドの活性は高い。
【0178】
大腸菌(E. coli)BL21 A1に対する寒天拡散アッセイでは(図1)、位置Lys3、Tyr6−Arg9及びArg11でのアラニンの置換は、オンコシン(IZD1.7cm)に比べて活性を顕著に低下させた。これらの誘導体(配列番号31、34〜37及び39)は寒天プレート上での大腸菌(E. coli)の増殖を部分的にしか阻害せず、1.0〜1.2cmの直径で阻害ゾーンを超えて増殖することもあった。ペプチドAla15は、増殖なしで最小の阻害ゾーンを有した(1.3cm、配列番号43)。ほかの位置はすべて活性を低下させることなく変更することができ、活性の増大、スペクトルの拡大、安定化及び生体内の良好な分布を達成することができる。プロテアーゼに対して安定なアミノ酸が組み込まれ、抗菌活性を失うことなく血清安定性が高められる場合、陽性の効果はここでは主としてN末端Val1とC末端Arg19で達成された。
【0179】
グラム陽性細菌ミクロコッカス・ルテウス(M. luteus)に対する寒天拡散アッセイ(図2)は、アラニン置換の結果、抗菌活性には陽性の効果と陰性の効果があることを示した。活性に重要な位置は、配列全体にわたって分布しており;ここでは、ペプチドは、オンコシン(1.8cm)に比べて最小限に小さな阻害ゾーンで増殖を完全に阻害する。主として、Lys又はArgの置換、すなわちペプチドにおける正の帯電の喪失は抗菌活性を低下させる。活性の最大の増大は、0.7cmにてIle16とAsn18の置換(配列番号44、46)によって達成された。これらの位置での変化は、各場合、Orn15とOrn19を持ち、16位でLeuの置換(配列番号73)又は18位でGlnの置換(配列番号74)がある実施例で見出される。配列番号74は、これら3つの置換によってオンコシンに相当する活性を達成するが、Gln18はオルニチン置換の小さな陰性効果を代償する。
【0180】
増殖阻害アッセイ
抗菌ペプチド及びペプチド誘導体の最小阻害濃度(minimum inhibitory concentration;MIC)を微量希釈アッセイで決定した。これらは、無菌の平底96ウェル・マイクロタイタープレート(ポリスチレン製、グレイナー・バイオ-ワン社(Greiner Bio-One GmbH)、フリッケンハウゼン(Frickenhausen)、ドイツ)におけるペプチドの連続希釈とウエル当たり100μLの総容積を使用した。ペプチド又はペプチド模倣体の水溶液を1%TSB水溶液で希釈して256μg/mLの最終濃度を得た。50μLのペプチド又はペプチド模倣体の溶液を各系列の最初のウエルにピペットで入れ、撹拌した。この溶液から50μLを第2のウエルに移し、撹拌し、再び50μLを次のウエルに移し、以下同様にした。最初のウエルでの256μg/mLから始まって12番目のウエルにおける125ng/mLまでの倍々希釈系列を得る。たとえば、大腸菌(E. coli)BL21 A1のような細菌を栄養ブロス(nutrient broth)(ドイツ、カールスルーエ(Karlsruhe)のカール・ロス社+Co. KG(Carl Roth GmbH + Co. KG))において37℃で一晩培養した。5×106個の細菌/mLの1%TSB懸濁液50μLをマイクロタイタープレートの各ウエルに加えたので、128μg/mL(ウエル1)〜62.5ng/mL(ウエル12)の最終濃度のペプチド又はペプチド模倣体を各系列で確立した。プレートを37℃にて20時間インキュベートし、次いでTECANマイクロタイタープレート分光光度計(テカン・トレーディング社(Tecan Trading AG)、スイス、マンネドルフ(Mannedorf))によって595nmにて吸収を測定した。ペプチド及びペプチド模倣体すべてのMIC値は3つ組(triplicate)で決定した。無菌水を陰性対照として使用した。MIC値は、37℃にて20時間のインキュベート時間の後細菌の増殖が認められない最低のペプチド濃度を表す。
大腸菌(Escherichia coli)BL21 A1及びミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)ATCC 10240に対するペプチド及びペプチド模倣体のMIC値は表7に示されている。
【0181】
【表7】





【0182】
Propyl(プロピル)は、C末端上のプロピルアミドを表し(Sub2=OR3=NHC37);Ac=アセチル基、for=ホルミル基、guan=グアニジノ基及びCF=5,6−カルボキシフルオレセインは修飾されたN末端の例である(N末端アミノ酸の修飾されたα−アミノ基、Sub1=アセチル−NH、ホルミル−NH、グアニジノ、又は5,6−カルボキシフルオレセイン)、
βHar:β−ホモアルギニン、アルギニンに対するβ−アミノ酸同族体(homolog)、
Agp:2−アミノ−3−グアニジノプロピオン酸、Har:ホモアルギニン、及びArg(NO2):ニトロアルギニンはアルギニンの同族体(homolog)である、
N−Me−Arg:N−メチル−アルギニン−ペプチド結合上でメチル化されたアルギニン、
4tHyp:トランス−4−ヒドロキシプロリン、
Tle:tert−ブチルグリシン
Dap(Ac):側鎖においてアセチル化されたアミノ官能基を有する2,3−ジアミノプロピオン酸、
(CH2CO):システインのSH基に対するアセチルリンカー
f:α−アミノカプロン酸
小文字は対応するD−アミノ酸を示す。
【0183】
配列番号2は、天然のオンコペルタス(Oncopeltus)4の配列に相当する。配列番号1は、天然のオンコペルタス(Oncopeltus)4の配列のN末端が短縮された誘導体である。配列番号1、2、3、4、10〜13、17、28、31、34、35、39及び48を有する配列は比較例であり、これら及びそのほかは表7では*で印が付けられている。配列番号8〜9、80、81及び85を有する配列は、本発明のあまり好ましくない例である。表7に示されるそのほかの配列は本発明に係る好ましいペプチド又はペプチド誘導体である。最も好ましい例は、配列番号18、22、24、26、29、58、62、63、65〜71、74、79、82及び107〜112である。
【0184】
当初の配列(配列番号2)におけるPro11(残基X2)をカチオン性アミノ酸Lys及びArg(配列番号8及び14)に置換することによって、驚くべきことに、大腸菌(E. coli)BL21 A1及びミクロコッカス・ルテウス(M. luteus)10240に対する高い活性が達成された。プロリン−リッチAMP(配列番号4)におけるこの位置で頻繁に生じるHis(配列番号5)及びThrの置換は陽性の効果を有さなかった。11位でのArgによる誘導体は、8μg/mL(大腸菌;E. coli)で今のところ最低のMICを有するので、C末端で改変された。C末端のアミド化は、1つの希釈工程によってミクロコッカス・ルテウス(M. luteus)に対する活性を否定的に変更したにすぎなかった。最後の位置又は最後から2番目の位置においてArgがないので正の荷電を欠くペプチド誘導体(配列番号27、28、47、51)は、主にミクロコッカス・ルテウス(M. luteus)に対する活性を8〜16倍喪失し、好ましい例には含まれない。
【0185】
19位(残基X4)においてArgを、かつ20位においてAsnを有する配列番号16は配列番号14と同じくらい活性がある。意外にも、C末端(Sub2)のアミド化は、活性に陰性の影響を有さない(配列番号15)。C末端(Sub2)のアミド化は、高い活性をもたらしさえする(配列番号19と配列番号18を比較)。C末端のアミド化はさらに、安定性に対して有意に陽性の効果を有する。従って、アミド化されたペプチド誘導体は、遊離の酸機能を有する、対応するペプチドよりも30分まで長い半減期を有する(実施例2)。ペプチド誘導体、配列番号18は、大腸菌(E. coli)又はミクロコッカス・ルテウス(M. luteus)に対してそれぞれ4又は8μg/mLで最低のMIC値を有し、25%マウス血清水溶液で60分間の半減期を有し、オンコシンとして指名された(表4)。
【0186】
血清安定性試験では、オンコシンは15位(残基X3)及び19位(残基X4)においてC末端で切断され、ペプチドVDKPPYLPRPRPPR−OH(配列番号126に相当する)及びVDPPYLPRPRPPRRIYN−OH(配列番号28に相当する)が主な分解残物として同定された。64μg/mLのMICを有し、Arg19によって短縮された誘導体は、大腸菌(E. coli)に対して非常に低い抗菌活性を依然として有するにすぎなかった。19位(残基X4)においてアルギニン又はそのほかのカチオン性アミノ酸を有する誘導体は、驚くべきことに、高い安定性を示した。しかしながら、大腸菌(E. coli)に対して16μg/mLのMICを有し、19位でHisを有する誘導体(残基X4;配列番号53)は、オンコシンより4倍低い活性を有した。好ましい例は、そのMICがオンコシンの値に相当し、従って意外にもペプチドの活性に負の効果を有さない、19位(残基X4)におけるAgp、Arg(NO2)、N−Me−Arg及びHarによる置換(配列番号54〜57)、置換されたペプチド誘導体である。好ましい、一番安価な例は、配列番号50におけるArg19のオルニチンへの置換である。この誘導体は、ほとんど同じ活性でオンコシン(60分)よりもはるかに安定である。C末端の安定化についての別の好ましい例は、プロピルアミド(配列番号58)のようなカルボキシル官能基(Sub2)のアミド化であった。抗菌活性は維持され、半減期も120分を超える。
【0187】
19位(残基X4)で安定化された誘導体では、さらなる例において15位(残基X3)がアルギニン誘導体又はそのほかのカチオン性アミノ酸で置換された。好ましい例は、Agp、Arg(NO2)、N−Me−Arg、Har及びOrnの様々な組合せを伴った配列番号65〜70である。最も費用効率が高い好ましい例は、15位と19位(残基X3及びX4)においてオルニチンを有し、360分を超える半減期を有し、かつオンコシン(大腸菌(E. coli)で8μg/mLのMIC)に匹敵する活性を有する配列番号72である。配列番号74は、Orn15及びOrn16に加えて18位のグルタミンのアスパラギンへの置換を有し、その結果、やや高い活性を生じた(大腸菌(E. coli)で4μg/mLのMIC)。配列番号71における15位(残基X3)でのOrnとプロピルアミンを有するC末端(Sub2)のアミド化との組合せは、驚くべき高い活性(大腸菌(E. coli)で4μg/mL)と非常に高い血清安定性(>360分)とを持つ別の非常に好ましい例である。19位(残基X4)におけるOrnと組合せて好ましい配列番号63にてヒドロキシプロリンによる15位(残基X3)での非カチオン性の置換を行った。この誘導体も高い活性(大腸菌(E. coli)で4μg/mL、ミクロコッカス・ルテウス(M. luteus)で8μg/mL)及び優れた安定性(>360分)を有する。オンコシンの4、8又は13位(配列番号21〜24)におけるプロリンのヒドロキシプロリンによる置換は、MIC値に影響を何ら有さず、15位(残基X3)での第2の不安定な切断部位のプロテアーゼ耐性を低下させない。ヒドロキシプロリンによるこの置換は、MIC値に対する影響も血清安定性に対する影響も有さないが、意外にも、この置換は細胞毒性と溶血性を低下させる。
【0188】
オンコシンにおけるN末端の修飾の好ましい例は、オンコシンに対する同様の活性を有し、1位(残基X1)でOrnの置換を有する配列番号82である。N末端アミノ官能基のアセチル化、メタノイル化(ホルミル化)又はグアニジン化(Sub1;配列番号80、81、83、84、85)は、活性をたとえば、128μg/mL又は32(大腸菌(E. coli)又はミクロコッカス・ルテウス(M. luteus);配列番号81)に低下させた。
【0189】
抗菌ペプチドのN末端のアミノ官能基にチオエーテル架橋を介してペネトラチンを結合させた。この修飾は、今までミクロコッカス・ルテウス(M. luteus)に対してほとんど活性がなかったペプチドの活性スペクトルを拡大することができ、この細菌を含めることができた。ピロコリシン(配列番号91)についてのMIC値は、ペネトラチン−ピロコリシン(配列番号98)についての128μg/mLから4μg/mLに最大級に低下したが、これは活性における32倍の増大と同等である。ペネトラチン−アジダエシン(8μg/mL、配列番号94)もまた、未修飾のアピダエシン1b(64μg/mL、配列番号87)よりも8倍活性が高い。8μg/mLのMIC値を有するオンコシン(配列番号18)については、活性にて4μg/mLへの2倍の増大がペネトラチン−オンコシン(配列番号100)で認められた。ドロソシン(0.5μg/mL、配列番号89)の高い活性は、ペネトラチン−ドロソシン構築物(1μg/mL、配列番号96)において維持された。
【0190】
13位及び15位でのプロリンのトランス−4−ヒドロキシプロリンへの置換及びArg19のオルニチンへの置換(配列番号108)は驚くべきことに、2μg/mLで、天然のオンコシン配列(4μg/mL、配列番号18)に比べて、大腸菌(E. coli)に対する活性の増大をもたらす一方で、安定性は高いままである。16位のイソロイシンをtert−ブチルグリシン置換すると(配列番号110)、大腸菌(E. coli)に対する2μg/mLのMIC値は維持される。それは、ここで関心が持たれる主な高い安定性である。
【0191】
配列番号107を有するペプチドの活性は、オンコシン(配列番号18)と同様の、ミクロコッカス・ルテウス(M. luteus)に対する抗生物質作用を示す。配列番号113〜118の配列は比較例である。D−アミノ酸で合成された誘導体(配列番号115及び116)は、大腸菌(E. coli)には活性を示さず、ミクロコッカス・ルテウス(M. luteus)に対して軽い活性(64又は128μg/mL)を示すにすぎない。
【0192】
天然の順序でD−アミノ酸を有するD−ペプチドすべて(配列番号115及び116)及びレトロ−インバース合成ペプチド(retro-inverse synthesized peptides)(配列番号117及び118)は大腸菌(E. coli)に対してわずかな活性(64〜256μg/mL)を示すにすぎない。しかしながら、D−アミノ酸で合成されたペプチド(配列番号115〜118)はすべて依然として16〜32μg/mLのMIC値を有し、ミクロコッカス・ルテウス(M. luteus)に対して相対的に良好な活性を示し、それは、5つの正の正味電荷を有するL−ペプチドの領域に位置する。ミクロコッカス・ルテウス(M. luteus)に対する正味電荷に依存した活性及びD−ペプチドのMIC値は、このグラム陽性細菌における標的タンパク質に非特異的な作用機序を示しているものと考えられる。
【0193】
【表8】

【0194】
表8に示すペプチドは、たとえば、エシェリシア・コーライ(E. coli) DSM 10233、クレブシエラ・ニューモニエ(K. pneumoniae)DSM 681及びシュードモナス・アエルギノーザ(P. aeruginosa)DSM 3227のような病原性細菌に対するMICについて検討された。15位で4−トランス−ヒドロキシプロリンを有する誘導体(配列番号63、108、113及び114)はすべて、1〜4μg/mLのMIC値を有し、驚くべきことにオンコシン(配列番号18)よりも16倍まで高い、大腸菌(E. coli)DSM10233に対する活性を有する。
【0195】
表10は、多重耐性細菌株に対する一部のペプチド及びペプチド誘導体のMIC値を提供する。試験はこの場合、1%TSBと同等であるミュエラー-ヒントン(Mueller-Hinton)培地(1/4濃縮)で行った。調べた耐性細菌株の一部を表9に示し、調べたペプチドを表11に示す。
【0196】
【表9】

【0197】
【表10】

n.d.:未測定
*比較のためのアピダエシン1b(配列番号87)及びドロソシン(配列番号89)
【0198】
【表11】

【0199】
好ましい例、配列番号18、22及び24は、驚くべきことに、3つの異なったグラム陰性の多重耐性細菌種、すなわち大腸菌(E. coli)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)及びサルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)に対して少なくとも高い又はさらに高い活性を示した。オンコシンは、β−ラクタマーゼを過剰産生する大腸菌(E. coli)D31に対して2μg/mL、フルオロキノロン耐性のクレブシエラ・ニューモニエ(K. pneumoniae)012-3132に対して4μg/mL、及び多重耐性サルモネラ・チフィムリウム(S. typhimurium)ATCC 700408細菌に対して0.25μg/mLのMIC値を有した。1つの例外(配列番号15)と共に、試験したアミド化ペプチドはすべて大腸菌(E. coli)及びクレブシエラ・ニューモニエ(K. pneumoniae)の株に対して良好なMIC値を示した。オンコシン(配列番号18)を導く、配列番号2からのAsn19の欠失は、驚くべきことにペプチドの活性をさらに高めた。C末端のアミド化は、大腸菌(E. coli)及びクレブシエラ・ニューモニエ(K. pneumoniae)に対する活性を高めるだけでなく、さらにオンコプレタス(Oncopeltus)4又はオンコシン誘導体の安定性も高める。
【0200】
シュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)及びプロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)と共に、さらなるグラム陰性細菌を試験し、好ましい例、配列番号18及び24の活性を決定した。オンコシン(配列番号18)は、シュードモナス・アエルギノーザ(P. aeruginosa)39324(MIC:4μg/mL)に対して及びプロテウス・ミラビリス(P. mirabilis)とプロテウス・ブルガリス(P. vulgaris)に対して(128μg/mL)活性があった。オンコシンはまた、グラム陽性スタフィロコッカス・サプロフィチカス(Staphylococcus saprophyticus)15305細菌に対して16μg/mLで活性があった。従って、本発明に係るペプチドは、驚くべき広い作用スペクトルを示す。
【0201】
【表12】

【0202】
オンコシンの誘導体は、大腸菌(E. coli)DSM 10233、クレブシエラ・ニューモニエ(K. pneumoniae)DSM 681及びシュードモナス・アエルギノーザ(P. aeruginosa)DSM 3227のような病原性細菌に対して非常に良好な活性を示す。15位における4−トランス−ヒドロキシプロリンによる置換(配列番号63及び108)は、大腸菌(E. coli)DSM 10233に対して1〜4μg/mLの間で驚くべき高いMIC値をもたらし、これらは、オンコシン(配列番号18)より16倍高い。これらの誘導体がまた、クレブシエラ・ニューモニエ(K. pneumoniae)DSM 681及びシュードモナス・アエルギノーザ(P. aeruginosa)DSM 3227に対して高い活性を示し、本発明に係るペプチドの広い作用スペクトルを説明している。
【0203】
実施例4:蛍光顕微鏡
HeLa細胞及びSH−SY5Y細胞を96ウェル・マイクロタイタープレート(グレイナー・バイオ-ワン社(Greiner Bio-One GmbH)、フリッケンハウゼン(Frickenhausen)、ドイツ)に入れ、一晩インキュベートした。翌日、5,6−カルボキシフルオレセイン標識ペプチド又はペネトラチン構築物を新鮮培地に溶解し(40μmol/L)、細胞をその中で2時間インキュベートした。細胞をPBSで2回洗浄し、蛍光顕微鏡によってPBS中で調べた。
蛍光顕微鏡のパラメータ
顕微鏡:レイカ(Leica)DMI6000B(レイカ・マイクロシステムズ社(Leica Mikrosystems GmbH)、ヴェッツラー(Wetzlar)、ドイツ)
光源:金属ハロゲンランプ付きのレイカ(Leica)EL6000
対物:エヌ・プラン・エル(N PLAN L)20x0.40corr
ソフトウエア:レイカ・アプリケーション・スイート(Leica Application Suite) 2.1.8.;アドビ・フォトショップ(Adobe Photoshop) CS
【0204】
図3の蛍光顕微鏡写真は、40μmol/Lの5,6−カルボキシフルオレセイン標識オンコシン(配列番号94)と共にインキュベートした後、HeLa細胞又はSH−SY5Y細胞では蛍光を検出できないことを示す(図3B及びF)。さらに、5,6−カルボキシフルオレセイン標識アピダエシン1b、ピロコリシン及びドロソシン(配列番号88、90及び92)について、蛍光が検出されず、つまり抗菌性プロリン−リッチ・ペプチドの内部移行は検出することができなかった。対照的に、5,6−カルボキシフルオレセイン標識ペネトラチン−オンコシン(配列番号102)と共に双方の細胞株をインキュベートした後、細胞内部での強い蛍光が顕微鏡写真で認められ(図3D及びE)、構築物全体の内部移行の証拠を提供している。
【0205】
アピダエシン1b、ピロコリシン及びドロソシンを伴ったペネトラチン構築物(配列番号96、98及び100)も双方の細胞に内部移行し、明確な蛍光を示す。
【0206】
実施例5:共焦点レーザー走査顕微鏡
細菌
一晩培養した細菌懸濁液を150×106個の細胞/mLに希釈し、5,6−カルボキシフルオレセイン標識ペプチド及びペネトラチン構築物を加えた(30μmol/Lの最終濃度)。細菌外の分子の蛍光を消光させるために、60eqの5,6−カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA;メルク、ドイツ、ダルムシュタット(Darmstadt))を加えた。レイカ・マイクロシステムズ社(Leica Microsystems GmbH)(ヴェッツラー(Wetzlar)、ドイツ)からのTCS SP5共焦点レーザー走査顕微鏡によって、細菌における標識ペプチドの内部移行の結果生じた蛍光を直ちに調べた。
【0207】
5,6−カルボキシフルオレセイン標識オンコシンとの20分間のインキュベートの後、ペプチドは細菌の膜に蓄積した(図4B)。細胞の外に残る、5,6−カルボキシフルオレセインとTAMRAとの間の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を介した消光効果がそのために失われ、蛍光シグナルを検出することができる。さらに30分後、ペプチドは細胞の内部に蓄積した(図4D)。5,6−カルボキシフルオレセイン標識アピダエシン1b、ピロコリシン及びドロソシンの配列(配列番号96、98及び100)も大腸菌(E. coli)に内部移行し、明確な蛍光を生じる。対照的に、標識したペネトラチン構築物はさらにゆっくりと細胞の内部に達し、匹敵するインキュベート時間ではるかに弱い蛍光を生じる(図4F)。この所見は決定された最小阻害濃度と相関する。従って、オンコシンのペネトラチン構築物(配列番号100)は、32μg/mLでオンコシン(4μg/mL、配列番号18)よりも8倍高いMIC値を有し、大腸菌(E. coli)に対してかなり低い活性を有した(表7)。90分後でさえ、ペネトラチンのホモダイマーの侵入は蛍光顕微鏡により検出できなかった(図4H)。このことは、ペネトラチン構築物では、代表的なプロリン−リッチ・ペプチド配列はペネトラチンを貨物として細菌細胞に輸送することを示している。
【0208】
対照的に、5,6−カルボキシフルオレセイン標識ペネトラチンのホモダイマーは、グラム陽性のミクロコッカス・ルテウス(M. luteus)の細胞に侵入し、1時間のインキュベートの後、そこで明確な蛍光シグナルを生じる(図5J)。標識されたピロコリシンは同じインキュベート時間の後、ミクロコッカス・ルテウス(M. luteus)で検出することはできない(図5B)。標識したペネトラチン−ピロコリシンにおけるトランスポータとしてのペネトラチンと共に、誘導体はミクロコッカス・ルテウス(M. luteus)に蓄積し、強い蛍光シグナルを生じる(図D)。MIC値は、ピロコリシンの128μg/mLからペネトラチン−ピロコリシンの4μg/mLに低下し、それは、活性における32倍の増大に相当する(表7)。並行して、ペネトラチン−アピダエシン誘導体(8μg/mL)についてアピダエシン1bの活性(64μg/mL)に対する8倍の増大が測定された。
【0209】
HeLa細胞及びSH−SY5Y細胞
マトテク社(MatTek Corporation)(米国、マサチューセッツ州、アシュランド)のガラス底の培養皿にて細胞を培養し、5,6−カルボキシフルオレセイン標識ペネトラチン構築物(SH−SY5Yには10μmol/L、HeLaには7μmol/L)と共に2時間又は24時間インキュベートした。培地を取り除き、PBSで2回洗浄し、新鮮培地を加えた。細胞核を染色するために、色素ヘキスト(Hoechst)33342(フルカ・ケミー社(Fluka Chemie GmbH)、ブッシュ(Buchs)、スイス)を加え、さらに15分間インキュベートした。TCS SP5共焦点レーザー走査顕微鏡によって直ちに蛍光を分析した。画像はすべて逐次走査方式で記録し、画像の群をレイカ・アプリケーション・スイート・アドバンスト・フローレセンス1.7.1ソフトウェア(Leica Application Suite Advanced Fluorescence 1.7.1)(レイカ・マイクロシステムズ;Leica Microsystems)及びアドビ・フォトショップCS(Adobe Photoshop CS)(アドビ・システムズ社(Adobe Systems GmbH)、ミュンヘン、ドイツ)によって解析した。
【0210】
結果は、5,6−カルボキシフルオレセイン−ペネトラチンによってN末端で延長された抗菌ペプチドは2時間以内に細胞に浸透することを示している。逆に、ペネトラチンの配列なしで5,6−カルボキシフルオレセインで標識されただけの抗菌ペプチドは、細胞で検出することができず、すなわち、これらのペプチドは、外部細胞膜を介して試験された細胞株に浸透することはできない。細胞内部への輸送はペネトラチンの配列を介してのみ行われる。色素ヘキスト(Hoechst)33342による細胞核の染色及び色素ミトトラッカーレッドCMXRos(MitoTracker Red CMXRos)によるミトコンドリアの染色は、これらの区画におけるペプチドの局在を除外した。かなり長いインキュベート時間(24時間)の後、5,6−カルボキシフルオレセインによってもたらされた蛍光は細胞核の近傍に濃縮された。ゴルジ体を染色することによって部分的な共局在を検出することができた。
【0211】
実施例6:細胞傷害性
HeLa細胞及びSH−SY5Y細胞によるMTTアッセイ
ロッシュ・ダイアグノスティックス社(Roche Diagnostics GmbH)(ドイツ、マンハイム)の「細胞増殖キットI」("Cell Proliferation Kit I")によってペプチド、ペプチド模倣体及びペネトラチン構築物の細胞傷害性を測定した。この方法は、代謝的に活性のある細胞の細胞性オキシドレダクターゼによる黄色のメチルチアゾリルジフェニルテトラゾリウム・ブロミド(MTT)の還元に基づく(ビスティカ・ディー・ティー(Vistica D T)ら、 細胞生存率のためのテトラゾリウムに基づくアッセイ-ホルマザン産生に影響する選択されたパラメータの重要な調査(Tetrazolium-Based Assays for Cellular Viability - A Critical Examination of Selected Parameters Affecting Formazan Production.)、キャンサー・リサーチ(Cancer Research) 51: 2515-20, 1991;スラター・ティー・エフ、サウヤー・ビー、及びストラウリ・ユー(Slater T F, Sawyer B, & Strauli U.) コハク酸−テトラゾリウム還元酵素系に関する研究:3.4つの異なったテトラゾリウム塩のカップリングの点(Succinate-Tetrazolium Reductase Systems. 3. Points of Coupling of 4 Different Tetrazolium Salts.)。バイオケミカ・エト・バイオフィジカ・アクタ(Biochimica et Biophysica Acta) 11: 383-&, 1963; ベリッジ・エム・ブイ及びタン・エー・エス(Berridge M V & Tan A S.)、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム・ブロミド(MTT)の細胞性還元の特性評価−MTT還元における細胞内局在、基質依存性、及びミトコンドリア電子輸送の関与(Characterization of the Cellular Reduction of 3-(4,5-Dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide (Mtt) - Subcellular Localization, Substrate Dependence, and Involvement of Mitochondrial Electron Transport in Mtt Reduction.)。 アーカイブ・オブ・バイオケミストリー・アンド・バイオフィジックス(Archives of Biochemistry and Biophysics) 303: 474-82, 1993)。水不溶性の紫色のホルマザン生成物の形成は、生存細胞の数に比例し、細胞溶解後、光度計で検出することができる。
【0212】
5%CO2及び95%湿度のもと、37℃で、フィルター栓付きの細胞培養ビン(25cm2)又は96ウェル・マイクロタイタープレート(グレイナー・バイオ-ワン社(Greiner Bio-One GmbH)、フリッケンハウゼン(Frickenhausen)、ドイツ))において細胞培養を行った。培地及び添加剤はすべてピーエーエー・ラボラトリーズ (PAA Laboratories)(オーストリア、パスチング(Pasching))から入手した。各場合、5%ウシ胎児血清を含むMEM/グルタミン培地(HeLa)又は15%ウシ胎児血清を含むDMEM/HAM’sF−12培地(SH−SY5Y)に、1%の非必須アミノ酸と1%のペニシリン/ストレプトマイシンを加えた。
【0213】
HeLa細胞又はSH−SY5Y細胞を2×104個の細胞/ウエルの濃度で無菌の96ウェル・マイクロタイタープレートに入れ、一晩インキュベートした。無菌のPBSで細胞を1回洗浄し、100μLの新鮮培地に溶解したペプチドを加えた。培地中12%のPBS又は12%のDMSOをそれぞれ陰性対照又は陽性対照として役立てた。インキュベート(24時間)の後、10μLのMTT試薬を0.5mgの最終濃度になるように加え、37℃にてさらに4時間インキュベートした。0.01mol/Lの塩酸中の10%ドデシル硫酸ナトリウム溶液によって、細胞と結晶性ホルマザンを溶解し、16時間後、パラディグム(商標)マイクロプレート・リーダー(ParadigmTM Microplate Reader)(ベックマン・コールター社(Beckman Coulter GmbH)、ワルズ(Wals)、オーストリア)によって590nmと650nmにて吸収を測定した。
【0214】
驚くべき結果は、600μg/mLで試験した抗菌プロリン−リッチ・ペプチドはどれもSH−SY5Y細胞又はHeLa細胞に毒性効果を有さないことを示している(図6)。実験は、3つ組測定として独立して3回行い、代謝的に活性のある細胞の比率を培地中12%のPBSの陰性対照に対して正規化した。結果は、1時間のインキュベート時間後これらの細胞の内部にこれらペプチドの蛍光標識誘導体が検出できなかった事実(実施例5を参照)によって裏付けられている。従って、外部細胞膜における細胞外標的分子又は受容体との相互作用もSH−SY5Y細胞及びHeLa細胞について除外することができた。
【0215】
3つ組測定として希釈系列50〜400μg/mLの3回の独立した実験でペネトラチン構築物の細胞傷害性試験を行った。ペネトラチン・モノマー(配列番号105)と、対照として役立つペネトラチン−tau配列は、400μg/mLの最高濃度までHeLa細胞に対して毒性作用を示さなかった(図6)。抗菌ペプチドを伴ったペネトラチン構築物では、100〜400μg/mLの間で無視できるほど小さな毒性効果が認められた。ペネトラチン・ホモダイマー(配列番号103)は400μg/mLでほぼ100%毒性であったが、ペネトラチン−ドロソシン及びペネトラチン−オンコシン(配列番号97及び101)はわずかな毒性を示した。SH−SY5Y細胞による検討では、ペネトラチン・モノマーとペネトラチン−tau構築物は400μg/mLで増殖する細胞の比率を70%に低下させた。ペネトラチン−AMPの構築物はすべて驚くべきことに好ましい濃度で毒性作用を示さなかった。
【0216】
溶血試験
ペプチド及びペプチド誘導体の細胞傷害性を調べる別の可能なものは溶血試験である。ヒト赤血球(ライゲ・ティー・エス及びハンセン・ピー・アール(Ryge T S & Hansen P R.) 位置走査コンビナトリアルライブラリから同定された強力な抗菌リジン−ペプトイドハイブリッド(Potent antibacterial lysine-peptoid hybrids identified from a positional scanning combinatorial library.)。バイオオーガニック・アンド・メディスナル・ケミストリー(Bioorganic & Medicinal Chemistry) 14: 4444-51, 2006)において溶血活性を調べるが、それはライプツィヒ(Leipzig)大学病院(ドイツ)が塩化ナトリウム−アデニン−グルコース−マンニトール緩衝液(4℃で保存)でのヒト赤血球濃縮物を利用可能とした。1000gにて赤血球を遠心し、10倍容量の冷したリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)で3回洗浄した。赤血球をPBS中最終濃度1%に希釈した。96ウェル・ポリプロピレン製マイクロタイタープレート(グレイナー・バイオワン社(Greiner Bio-One GmbH)の各V字型ウエルに100μLの赤血球懸濁液をピペットで入れた。次いで、PBSに溶解したペプチド100μLを各位置に加え、7つの希釈工程で600μg/mL〜4.7μg/mLの希釈系列を得た。マイクロタイタープレートを37度で1時間インキュベートし、次いで1000×gにて遠心した。上清から100μLを取り、96ウェル平底ポリスチレン製マイクロタイタープレート(レイナー・バイオワン社(Greiner Bio-One GmbH)に移し、サンライズ・マイクロタイタープレートリーダー(Sunrise microtiter plate reader)(テカン・トレーディング社(Tecan Trading AG)、マンネドルフ(Mannedorf)、スイス)にて405nmで吸収を測定し、ヘム基の放出を評価した。PBS又は0.1%トリトンX−100(登録商標)((p−tert−オクチルフェノキシ)ポリエトキシエタノール;スイス、ブッシュ(Buchs)のフルカ・ケミー社(Fluka Chemie GmbH))及びメリチン(ドイツ、タウフカーチェン(Taufkirchen)のシグマ-アルドリッチ-ラボルケミカリエン(SIGMA-Aldrich-Laborchemikalien))を陰性対照又は陽性対照として用いた。溶血試験はすべて2つ組判定として独立して2回行い、溶血の程度は以下の方程式から判定した(パーク・ワイ(Park Y)ら Leu−Lys−リッチ抗菌ペプチド:活性とメカニズム(A Leu-Lys-rich antimicrobial peptide activity and mechanism.)。バイオキミカ・エト・バイオフィジカ・アクタ-プロテインズ・アンド・プロテオミクス(Biochimica et Biophysica Acta-Proteins and Proteomics) 1645: 172-82, 2003)。
(Eヘ゜フ゜チト゛−EPBS)/(Eトリトン−EPBS)×100%
E=405nmにおける吸光度(extinction)
【0217】
分析した抗菌プロリン−リッチ・ペプチドはいずれも600μg/mLの濃度まで溶血活性は示さなかった(表12)。このことは、測定されるMIC値より100倍高い濃度であってもヒト赤血球の溶解は認められなかった。ペプチドすべての溶血率は、トリトンX−100(登録商標)に比べて約1%にすぎず、それはこの試験の誤差限界内である。非イオン性界面活性剤、トリトンX−100(登録商標)は、1時間以内にこの試験設定で赤血球細胞を完全に破砕するので陽性対照として用いた。ミツバチ毒であるメリチンは、α−螺旋状ペプチドとして、生体膜に強い溶解作用を有し、5μg/mLの濃度でさえも原核細胞及び真核細胞の膜を破砕する。この細胞試験は、ペプチド及びペプチド誘導体が、ヒト赤血球に対して副作用を有することなく血中で高い濃度で使用できることを示している。
【0218】
【表13】

【0219】
図の説明:
図1は、寒天拡散アッセイにおける大腸菌(E. coli)BL21 AIに対するオンコシン類似体(Ala−スキャン)の抗菌活性を示す。斜交平行棒は部分阻害を示す。
図2は、寒天拡散アッセイにおけるミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)ATCC 10240に対するオンコシン類似体(アラニン−スキャン)の抗菌活性を示す。
図3は、5,6−カルボキシフルオレセイン標識オンコシン(CF−オンコシン、配列番号94)及びペネトラチン−オンコシン(CF−ペネトラチン−オンコシン、配列番号102)と共にインキュベートした後のHeLa細胞及びSH−SY5Y細胞の蛍光顕微鏡写真を示す。上の列:位相差、下の列:蛍光(517nmでの放射)。A,B:CF−オンコシンとインキュベートしたSH−SY5Y;C,D:CF−ペネトラチン−オンコシンとインキュベートしたSH−SY5Y;E,F:CF−オンコシンとインキュベートしたHeLa;G、H:CF−ペネトラチン−オンコシンとインキュベートしたHeLa。棒は20μmに相当する。
図4は、大腸菌(E. coli)BL21 AIの共焦点レーザー走査顕微鏡写真を示す。ペプチド濃度は30μmol/L;TAMRA濃度は180μmol/L;上の列:位相差、下の列:蛍光。A、B:CF−オンコシンと20分間インキュベート;C、D:CF−オンコシンと50分間インキュベート;E、F:CF−ペネトラチン−オンコシンと50分間インキュベート;G、H:CF−ペネトラチンホモダイマーと90分間インキュベート。棒は5μmに相当する。
図5は、ミクロコッカス・ルテウス(M. luteus)10240の共焦点レーザー走査顕微鏡写真を示す。ペプチド濃度は30μmol/L;TAMRA濃度は180μmol/L。上の列:位相差、下の列:蛍光。A、B:CF−ピロコリシン;C、D:CF−ペネトラチン−ピロコリシン;E、F:CF−ドロソシン;G、H:CF−ペネトラチン−ドロソシン;I、J:CF−ペネトラチンホモダイマー。棒は5μmに相当する。
図6は、「細胞増殖キットI」("Cell Proliferation Kit I")を用いて測定したSH−SY5Y細胞(網目のカラム)及びHeLa細胞(黒色のカラム)に対する抗菌ペプチドの細胞傷害性試験の結果を示す。培地中の600μg/mLのオンコシン、オンコシンR15O R19O、ドロソシン及びアピダエシン1b(配列番号18、72、89及び87)との24時間のインキュベート後の試験。陽性対照は、12%のDMSO及び100μg/mLのメリチン。陰性対照12%PBSに対して正規化。
図7は、「細胞増殖キットI」("Cell Proliferation Kit I")を用いて測定したHeLa細胞に対するペネトラチン構築物の細胞傷害性試験の結果を示す。培地中の50〜400μg/mLのペネトラチン−ドロソシン(配列番号96)、ペネトラチン−アピダエシン1b(配列番号94)、ペネトラチン−ピロコリシン(配列番号98)、ペネトラチン−オンコシン(配列番号100)、ペネトラチンホモダイマー(配列番号102)、ペネトラチン(配列番号105)との24時間のインキュベート後の試験。陰性対照は12%PBSであり、陽性対照は12%DMSOである。
図8は、「細胞増殖キットI」("Cell Proliferation Kit I")を用いて測定したSH−SY5Y細胞に対するペネトラチン構築物の細胞傷害性試験の結果を示す。培地中の50〜400μg/mLのペネトラチン−ドロソシン(配列番号96)、ペネトラチン−アピダエシン1b(配列番号94)、ペネトラチン−ピロコリシン(配列番号98)、ペネトラチン−オンコシン(配列番号100)、ペネトラチンホモダイマー(配列番号102)、ペネトラチン(配列番号105)、ペネトラチン−tau(配列番号106)との24時間のインキュベート後の試験。12%PBSを陰性対照として用い、12%DMSOを陽性対照として用いた。
図9は、ペプチド、すんわちオンコシン、ドロソシン、及びアピダエシン1b(配列番号18、89及び87)についての溶血試験の結果を示す。ペプチドの希釈系列は4.7〜600μg/mL。陽性対照:メリチン及びトリトンX−100(登録商標)、陰性対照:PBS。
図10は、「細胞増殖キットI」("Cell Proliferation Kit I")を用いて測定したHeLa細胞に対する抗菌ペプチドについての細胞傷害性試験の結果を示す。培地中600μg/mLのオンコシン及びオンコシン誘導体(配列番号18、63、72、107〜110)、並びに比較例のアピダエシン1b及びドロソシン(配列番号87及び89)との24時間のインキュベート後の試験。陽性対照は12%DMSO及び100μg/mLのメリチンである。陰性対照12%PBSに対して正規化した。図は3つ組での2つの独立した試験の平均値を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の配列を含有するペプチド又はペプチド誘導体:
Sub1−X1−D2−K3−P4−P5−Y6−L7−P8−R9−P10−X2−P12−P13−R14−X3−I16−P17/Y17−N18−N19−X4−Sub2
但し、X1は、非極性かつ疎水性の側鎖を有する残基、又は正の正味電荷若しくは生理的条件下において正に帯電する側鎖を有する残基であり;
2は、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基であり;
3は、正の正味電荷又は生理的条件下において正に帯電する側鎖を有する残基、好ましくはリジン又はアルギニンであり;
2及びX4は、互いに独立して、正の正味電荷又は生理的条件下において正に帯電する側鎖を有する残基から選択され;
3は、正の正味電荷又は生理的条件下において正に帯電する側鎖を有する残基又はプロリン又はプロリン誘導体であり;
7は、非極性かつ疎水性の側鎖を有する残基、好ましくはロイシン、イソロイシン及びバリンから選択され;
I16は、非極性かつ疎水性の側鎖を有する残基、好ましくはロイシン、イソロイシン、tert-ブチルグリシン及びバリンから選択され;
6及びY17は、いずれの場合にもチロシンであり、R9及びR14は、いずれの場合にもアルギニンであり、N18はアスパラギン又はグルタミンであり、N19は、アスパラギン又はグルタミンであるか、或いは存在せず、P4、P5、P8、P10、P12、P13及びP17は、互いに独立して、プロリン及びプロリン誘導体、又はヒドロキシプロリン及びヒドロキシプロリン誘導体から選択され;
Sub1は、アミノ酸X1の遊離N末端又は修飾されたN末端アミノ基であり;
Sub2は、C末端アミノ酸の遊離C末端カルボキシル基(−COOH)又は修飾されたC末端カルボキシル基である。
【請求項2】
13及びP14が交換されており、及び/又はD2、P4、P5、P8、P10、P12、P13、P17及びY17から選択される1又は2の残基が任意の残基で置換されている、請求項1に記載のペプチド又はペプチド誘導体。
【請求項3】
N末端が、直接又はリンカーを介して別のペプチドに連結されている、請求項1又は2に記載のペプチド又はペプチド誘導体。
【請求項4】
Sub2において少なくとも1つの追加の残基X5及び/又はX6を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチド又はペプチド誘導体であって、X5がプロリン、プロリン誘導体、及び正の正味電荷を有するか又は生理的条件下で正に帯電する側鎖を有する構成ブロックから選択され、かつX6がプロリン、プロリン誘導体、極性構成ブロック又は疎水性構成ブロックから選択される、上記ペプチド又はペプチド誘導体。
【請求項5】
残基X1が、アルギニン、リジン、δ−ヒドロキシリジン、ホモアルギニン、2,4−ジアミノ酪酸、β−ホモアルギニン、D−アルギニン、アルギナル、2−アミノ−3−グアニジノプロピオン酸、ニトロアルギニン、N−メチルアルギニン、ε−N−メチルリジン、アロ−ヒドロキシリジン、2,3−ジアミノプロピオン酸、2,2’−ジアミノピメリン酸、オルニチン、sym−ジメチルアルギニン、asym−ジメチルアルギニン、2,6−ジアミノヘキシン酸、p−アミノ安息香酸、3−アミノチロシン,バリン、イソロイシン、ロイシン、及びメチオニン、アラニン、フェニルアラニン、N−メチルロイシン、tert−ブチルグリシン、シクロヘキシルアラニン、β−アラニン、1−アミノシクロヘキシルカルボン酸、N−メチルイソロイシン、ノルロイシン、ノルバリン及びN−メチルバリンから選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のペプチド又はペプチド誘導体。
【請求項6】
残基X2及び/又は残基X4が、互いに独立して、アルギニン、リジン、δ−ヒドロキシリジン、ホモアルギニン、β−ホモアルギニン、D−アルギニン、アルギナル、2,4−ジアミノ酪酸、2−アミノ−3−グアニジノプロピオン酸、ニトロアルギニン、ニトロソアルギニン、N−メチル−アルギニン、ε−N−メチルリジン、アロ−ヒドロキシリジン、2,3−ジアミノプロピオン酸、2,2’−ジアミノピメリン酸、オルニチン、sym−ジメチルアルギニン、asym−ジメチルアルギニン、2,6−ジアミノヘキシン酸、p−アミノ安息香酸,及び3−アミノチロシンから選択されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のペプチド又はペプチド誘導体。
【請求項7】
残基X3が、アルギニン、リジン、δ−ヒドロキシリジン、ホモアルギニン、β−ホモアルギニン、D−アルギニン、アルギナル、2,4−ジアミノ酪酸、β−ホモアルギニン、2−アミノ−3−グアニジノプロピオン酸、ニトロアルギニン、ニトロソアルギニン、N−メチル−アルギニン、ε−N−メチルリジン、アロ−ヒドロキシリジン、2,3−ジアミノプロピオン酸、2,2’−ジアミノピメリン酸、オルニチン、sym−ジメチルアルギニン、asym−ジメチルアルギニン、2,6−ジアミノヘキシン酸、p−アミノ安息香酸,3−アミノチロシン、プロリン、シス−4−ヒドロキシプロリン、トランス−4−ヒドロキシプロリン、シス−3−ヒドロキシプロリン、トランス−3−ヒドロキシプロリン、β−シクロヘキシルアラニン、3,4−シス−メタノプロリン、3,4−デヒドロプロリン、ホモプロリン及び擬似プロリンから選択されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のペプチド又はペプチド誘導体。
【請求項8】
配列番号5〜9、14〜26、29、30、32、33、36、38、40、41、44〜46、49、50、53〜59、61〜85、93、94、101、102及び107〜112を含む配列から成る群から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載のペプチド又はペプチド誘導体。
【請求項9】
抗細菌ペプチド及び細胞貫通性ペプチドを含有するペプチド又はペプチド誘導体。
【請求項10】
前記抗細菌ペプチドが、アピダエシン、ドロソシン、フォルマエシン1、ピロコリシン及びメタルニコウィン1を含む群から選択される、請求項9に記載のペプチド又はペプチド誘導体。
【請求項11】
前記抗細菌ペプチドが、請求項1〜8のいずれか1項に記載のペプチド又はペプチド誘導体を含む、請求項9に記載のペプチド又はペプチド誘導体。
【請求項12】
前記細胞貫通性ペプチドが、ペネトラチン、Tatペプチド、モデル両親媒性ペプチド、トランスポータン、SynB及びシス−γ−アミノ−1−プロリン含有ペプチドを含む群から選択される、請求項9〜11のいずれか1項に記載のペプチド又はペプチド誘導体。
【請求項13】
配列番号95〜102及び106を含む群から選択される請求項1〜12のいずれか1項に記載のペプチド又はペプチド誘導体。
【請求項14】
ペプチド主鎖のペプチド結合の少なくとも1つが化学的に修飾されていることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載のペプチド又はペプチド誘導体。
【請求項15】
6−X7の間の結合が、生理的条件下で切断することができない化学結合であることを特徴とする、請求項14に記載のペプチド又はペプチド誘導体。
【請求項16】
化学的に修飾された結合が、還元アミド結合、アルキル化アミド結合又はチオアミド結合から選択されることを特徴とする、請求項14又は15に記載のペプチド又はペプチド誘導体。
【請求項17】
タンパク質に連結されているか、又はポリマーに結合されているか、又はキャリアに結合されている、請求項1〜16のいずれか1項に記載のペプチド又はペプチド誘導体。
【請求項18】
少なくとも2つのペプチド又はペプチド誘導体が共に連結されている多量体であって、該ペプチド又はペプチド誘導体の少なくとも一つが、請求項1〜17のいずれか1項に記載のペプチド又はペプチド誘導体であることを特徴とする、上記多量体。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の少なくとも一つのペプチド、ペプチド誘導体又は多量体を含有することを特徴とする、医薬組成物。
【請求項20】
請求項1〜18のいずれか1項に記載のペプチド、ペプチド誘導体又は多量体を製造する方法であって、ペプチド又はペプチド誘導体又は多量体が化学合成又は組換え法によって製造されることを特徴とする、上記方法。
【請求項21】
医薬品の製造のための、請求項1〜18のいずれか1項に記載のペプチド、ペプチド誘導体又は多量体の使用。
【請求項22】
消毒剤及び/又は清浄剤としての、保存剤としての、及び/又は包装材における、請求項1〜18のいずれか1項に記載のペプチド、ペプチド誘導体又は多量体の使用。
【請求項23】
微生物、細菌又は真菌の感染の治療に用いるための請求項1〜18のいずれか1項に記載のペプチド、ペプチド誘導体及び/又は多量体。
【請求項24】
微生物、細菌又は真菌による汚染を取り除くための請求項1〜18のいずれか1項に記載のペプチド、ペプチド誘導体及び/又は多量体の使用。
【請求項25】
医薬研究又はスクリーニング法における請求項1〜18のいずれか1項に記載のペプチド、ペプチド誘導体又は多量体の使用。
【請求項26】
以下の工程を含む、抗細菌作用又は抗真菌作用を有する物質を同定するための方法:
(i)以下を用いて競合アッセイを実施すること:
(a)請求項1〜18のいずれか1項に記載のペプチド、ペプチド誘導体又は多量体に感受性がある微生物、
(b)請求項1〜18のいずれか1項に記載のペプチド、ペプチド誘導体又は多量体、及び
(c)(b)及び(c)に(a)を接触させることによって試験すべき少なくとも1つの物質;及び
(ii)微生物上におけるペプチド、ペプチド誘導体又は多量体の結合を競合的に置き換える試験物質を選択すること。
【請求項27】
微生物が、エシェリシア・コーライ (Escherichia coli)、エンテロベクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)、エルウィニア・アミロボーラ(Erwinia amylovora)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、モルガネラ・モルガニイ(Morganella morganii)、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、サルモネラ・チフィ(Salmonella typhi)、シゲラ・ディセンテリアエ(Shigella dysenteriae)、エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)、アシネトバクター・カルコアセチカス(Acinetobacter calcoaceticus)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)、フランシセラ・ツラレンシス(Francisella tularensis)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、シュードモナス・シリンゲ(Pseudomonas syringae)、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)、シュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、ステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)及びヘモフィルス・インフルエンゼ(Haemophilus influenzae)を含む属の群から選択される種である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
請求項1〜18のいずれか1項に記載のペプチド又は多量体をコードする核酸。
【請求項29】
請求項28に記載の1以上の核酸を含む宿主細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−516142(P2012−516142A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546854(P2011−546854)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051072
【国際公開番号】WO2010/086401
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(510021074)アーエムペー テラポイティクス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト (2)
【Fターム(参考)】