説明

抗肝炎剤

【課題】本発明は、抗肝線維症や抗肝硬変などの肝炎を予防または治療するための抗肝炎剤であって、安全で恒常的な服用も可能であり得るもの、および当該抗肝炎剤を含む健康食品を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る抗肝炎剤は、活性成分としてキサントン誘導体を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全で恒常的な服用も可能であり得る抗肝炎剤、および当該抗肝炎剤を含む健康食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
肝炎は、肝細胞の損傷を伴う炎症をいい、通常、ろ過性病毒、アルコール、薬物などにより引き起こされる。よく見られる肝炎は病毒により起きる病毒性肝炎で、病毒種類によってA型からD型に分類される。
【0003】
病毒が人体に進入して肝細胞に様々な程度の損傷を与える疾患は急性肝炎と称される。急性肝炎は、通常、1ヶ月から2ヶ月ほどで治癒するが、完全に治癒しないまま症状が6ヵ月以上続いた場合には慢性肝炎に変わる。慢性肝炎には、肝線維症や肝硬変などが含まれる。
【0004】
肝線維症とは、肝臓の繊維性結締組織の異常増生のことをいい、肝臓組織の修復時、肝細胞死亡(necrosis)と肝臓再生の間のバランスに異常が生じ、コラーゲンなどの細胞外基質が過度に沈積する結果だと考えられている。肝細胞を死亡させる原因としては、例えば、病毒やアルコールなどの外在要因や、例えば、自体免疫異常などの内在要因がある。肝細胞の疾病と死亡の際には、クッパー細胞(Kupffer’s cell)や内皮細胞などが活性化され、TNF−α、TNF−β、PDGFなどのサイトカインが放出される。これらのサイトカインは、さらに肝星細胞(hepatic stellate cells)を活性化し、細胞生長とコラーゲンの合成が生じて、肝線維症になると考えられる。
【0005】
肝線維症は、慢性的な一種の持続性病理変化であり、肝硬変の初期に見出される。肝線維症の初期段階は一定の可逆性を示し、病因となる刺激の停止後、増生したコラーゲン繊維は徐々に再吸収されて、肝臓構造部分が正常に回復する。しかし、病因となる要素が存在し続ける場合、肝臓結締組織が肝線維化し、肝臓の正常構造が破壊されてやがては肝硬変に至る。よって、肝線維症の治療上、早期発見と早期治療は非常に高い復元効果をもたらす。また、肝線維症の発生や発展を抑制または制御できる場合、同様に、肝硬変を予防や治療することが可能である。
【0006】
特許文献1には、活性成分としてヒスチジンおよび/またはシステインを含む臓器肝線維症の抑制剤を開示している。当該抑制剤におけるシステインとヒスチジンの比率は1:0.1〜10である。
【0007】
また、特許文献2には肝線維症の治療方法が記載されている。当該方法は、哺乳類動物に有効成分であるzvegf−3拮抗薬を投与するステップを含む。かかるzvegf−3拮抗薬には、zvegf−3二次元タンパク質へ特異的に連接する単株抗体である抗−zvegf−3抗体や、zvegf−3変異体ポリペプチドと結合する受容体などが含まれる。
【0008】
さらに特許文献3は、肝線維症と肝硬変を治療または予防する医薬組成物を開示している。当該医薬組成物は、重量比で5:1〜1:5の5−(2−ピラジニル)−4−メチル−1,2−ジチオール−3−チオン(oltipraz)とジメチル−4,4’−ジメトキシ−5,6,5’,6’−ジメチレンジオキシビフェニル−2,2’−ジカルボキシレート(DDB)を主要成分とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7,094,797号明細書
【特許文献2】米国特許第7,054,437号明細書
【特許文献3】米国特許第7,078,045号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、抗肝線維症や抗肝硬変などの肝炎を予防または治療するための抗肝炎剤であって、安全で恒常的な服用も可能であり得るもの、および当該抗肝炎剤を含む健康食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、様々な天然植物から抽出し、肝炎の予防および治療効果を有する化合物を探索した。その結果、食品としても用いられるマンゴスチン(mangosteen)の果実などに含まれるキサントン誘導体が優れた抗肝炎作用を有することを見出して、本発明を完成した。
【0012】
本発明に係る抗肝炎剤は、活性成分としてキサントン誘導体を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の抗肝炎剤としては、上記キサントン誘導体が、下記式(I)で表されるmangostin誘導体であるものが好ましい。
【0014】
【化1】

[式中、R1とR2は同一であっても異なっていてもよく、それぞれHかC1-6アルキル基を示す]
【0015】
本発明においてC1-6アルキル基とは、炭素数が1以上、6以下の直鎖状、分枝鎖状または環状の一価炭化水素基をいう。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、シクロプロピル基、n−ヘキシレン基、シクロヘキシル基を挙げることができ、C1-4アルキル基が好ましく、C1-2アルキル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0016】
上記mangostin誘導体としては、α−mangostin、β−mangostin、γ−mangostin、またはそれらの組み合わせを挙げることができる。
【0017】
本発明に係る抗肝炎剤で予防または治療すべき肝炎としては、急性肝炎および慢性肝炎を挙げることができる。より具体的には、急性肝炎として病毒性肝炎、アルコール性肝炎および薬物性肝炎を挙げることができ、また、慢性肝炎として肝線維症および肝硬変を挙げることができる。
【0018】
本発明に係る健康食品は、本発明に係る上記抗肝炎剤を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る抗肝炎剤の活性成分であるキサントン誘導体は、食品としても用いられるマンゴスチン(mangosteen)の果実などに含まれるものであるため安全であり、毎日の服用も可能である。また、本発明に係る抗肝炎剤は、肝線維症や肝硬変などの肝炎の予防効果と治療効果に極めて優れるものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、四塩化炭素で肝線維症を誘発した動物モデルに対して各被検薬投与した後における血清中のAST値を示すグラフである。
【図2】図2は、四塩化炭素で肝線維症を誘発した動物モデルに対して各被検薬投与した後における血清中のALT値を示すグラフである。
【図3】図3は、四塩化炭素で肝線維症を誘発した動物モデルに対して各被検薬投与した後における血清中のAST値とALT値の比率(AST/ALT)を示すグラフである。
【図4】図4は、四塩化炭素で肝線維症を誘発した動物モデルに対して各被検薬投与した後における肝線維症の程度(スコア)を示すグラフである。
【図5】図5は、チオアセトアミドで急性肝炎を誘発した動物モデルに対して、水のみ、またはmangostinを投与した後における血清中のAST値を示すグラフである。
【図6】図6は、チオアセトアミドで急性肝炎を誘発した動物モデルに対して、水のみ、またはmangostinを投与した後における血清中のALT値を示すグラフである。
【図7】図7は、チオアセトアミドで急性肝炎を誘発した動物モデルに対して、水のみ、またはmangostinを投与した後における血清中のAST値とALT値の比率(AST/ALT)を示すグラフである。
【図8】図8は、チオアセトアミドで急性肝炎を誘発した動物モデルに対して、水のみ、またはmangostinを投与した後における血清中のAST増加倍数を示すグラフである。
【図9】図9は、チオアセトアミドで急性肝炎を誘発した動物モデルに対して、水のみ、またはmangostinを投与した後における血清中のALT増加倍数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る抗肝炎剤の活性成分であるキサントン誘導体は、下記構造を有するキサントン(C1382)を主構造とする化合物であり、2以上の水酸基またはアルコキシ基を有するポリフェノール化合物である。
【0022】
【化2】

【0023】
本発明に係るキサントン誘導体は、塩類やエステルなどであってもよい。かかる塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などのアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩などを挙げることができる。エステルとしては、例えば、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、イソ酪酸エステルなどを挙げることができる。
【0024】
上記キサントン誘導体としては、例えば、下記式(I)で表されるmangostin誘導体を挙げることができる。
【0025】
【化3】

[式中、R1とR2は同一であっても異なっていてもよく、それぞれH(水素原子)かC1-6アルキル基を示す]
【0026】
上記化合物(I)中、R1がメチル基であり且つR2がHの場合、α−マンゴスチンを示し;R1とR2がいずれもメチル基の場合、β−マンゴスチンを示し、;R1とR2がいずれもHの時、γ−マンゴスチンを示す。
【0027】
上記のようなmangostin誘導体は、従来、乳がんの予防と治療(Moongkarndi P.ら,Antiproliferation,antioxidation and induction of apoptosis by Garcinia mangostana (mangosteen) on SKBR3 human breast cancer cell line,J.Ethnopharmacol.,2004,90(1),pp.161-6)、抗アレルギー薬物(Nakatani K.ら,Inhibitions of histamine release and prostaglandin E2 synthesis by mangosteen,a Thai medicinal plant,Bio Pharm Bull,2002,(9),pp.1137-41)、および筋肉に相関する疾病(国際公開第2007/128465号パンフレット)などの領域で研究応用され、また、日常生活の栄養補助剤(国際公開第2006/060578号パンフレット)や化粧品(国際公開第2007/002666号パンフレット)などとしても開発されている。
【0028】
現在、自然界には250種類を超えるキサントン誘導体が存在しているといわれている。一般的な果実や野菜にもキサントン誘導体が含まれていることがあるが、8種類を超えるキサントン誘導体を含むものはない。一方、マンゴスチン(mangosteen;学名:Garcinia Mangostana L.)の果実からは、40種類を超えるキサントン誘導体が見出されている。
【0029】
近年、マンゴスチン(mangosteen)の果皮抽出物を、アトピー性皮膚炎の予防と治療に用いる研究(中華民国特許申請公開案第201000113号)や、マンゴスチン(mangosteen)の果実や植株抽出物を保健組成物とし、健康を改善する(米国特許出願公開第2009/0062378号明細書)レポートがある。
【0030】
松本健司博士等も、マンゴスチン(mangosteen)の果皮中から、α−マンゴスチン(mangostin)、β−マンゴスチン、γ−マンゴスチンおよびメチル−β−マンゴスチンを単離することを研究すると共に、この化合物の細胞周期の各階段に対する抑制作用を研究し、この化合物は、抗細胞増殖効果と抗腫瘤効果(Matsumoto K.ら,Xanthones induce cell-cycle arrest and apoptosis in human colon cancer DLD-1 cells,Bioorg.Med.Chem.,2005,13,pp.6064-6069)を有することを示した。
【0031】
本発明の活性成分であるキサントン誘導体は、マンゴスチン(mangosteen)の果実、特に果皮など、キサントン誘導体を含む植物体などから抽出することができる。これら植物体は、乾燥物や粉砕物などであってもよく、そのまま用いてもよい。
【0032】
抽出に用いられる溶媒は、適宜選択すればよいが、有機溶媒を用いることが好ましい。かかる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、2−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノールなどのC1-12アルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類を挙げることができる。有機溶媒の中では、水混和性有機溶媒を用いることが好ましい。本発明の一実施例では、有機溶媒水溶液、特にエタノール水溶液を使用して抽出する。有機溶媒水溶液、特にエタノール水溶液の濃度は、通常、10〜90%とすることができ、20〜80%が好ましく、50〜75%がより好ましい。
【0033】
抽出温度や抽出時間は適宜調整することができ、具体的には予備実験などで活性が高いキサントン誘導体が効率良く抽出できる条件を決定すればよい。例えば、マンゴスチン(mangosteen)の乾燥物からエタノール水溶液を用いて抽出する場合、抽出温度は約80〜85℃とすることが好ましい。
【0034】
原料としてマンゴスチン(mangosteen)の乾燥物を用いる場合には、まず、等重量の熱水で処理することにより、マンゴスチン中に含まれる着色、粘性、吸湿等の原因となる不純物質を除去することが好ましい。かかる熱水の温度としては約90℃以上とすることができ、95℃〜100℃が好ましい。次いで、熱水処理したマンゴスチンを乾燥した後、上記溶媒を用いて抽出し、抽出溶液から粗結晶を得る。抽出は数回繰り返してもよい。
【0035】
得られた抽出溶液から、キサントン誘導体を精製すればよい。精製手段は特に限定されないが、例えば、シリカゲルクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などのクロマトグラフィー、再結晶を挙げることができる。
【0036】
本発明に係る抗肝炎剤は、肝炎に対して優れた予防効果と治療効果を示す。
【0037】
本発明における肝炎は、病毒や、アルコールなどの薬物などにより生じる肝細胞損傷を意味し、急性肝炎と慢性肝炎が含まれる。急性肝炎は、病毒性肝炎(例えば、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎、E型肝炎)、アルコール性肝炎および薬物性肝炎を含み、慢性肝炎は、肝線維症と肝硬変を含むが、これらに限定されない。本発明における肝炎、急性肝炎および慢性肝炎は、全ての医学上の定義に符合する肝炎、急性肝炎および慢性肝炎の疾病を含む。
【0038】
本発明に係る抗肝炎剤は、上記キサントン誘導体以外の成分を含むものであってもよい。かかる添加成分は、医薬上または食品上許容可能なものであることが好ましく、例えば、医薬または食品で許容される賦形剤および添加剤を挙げることができる。より具体的には、例えば、澱粉、コーンスターチ、ゼラチン、アラビアゴム、食用色素、香料、調味剤、防腐剤などを挙げることができる。
【0039】
本発明に係る抗肝炎剤の投与量は、適宜調整すればよい。例えば、患者の年齢、体重、健康状態、疾病の種類、疾病の進行、患部などに基づき、医療スタッフが、本発明に係る技術分野における共通知識に基づいて決定することができる。より具体的には、現在、キサントン誘導体の投与量について、毒性や応用制限を示す報告はないが、本発明では、例えば、投予対象の体重1キロ毎に10mg〜1000mgで投与することができ、好ましくは50mg〜150mg、より好ましくは約100mgとすることができる。但し、これらに限定されない。
【0040】
本発明に係る抗肝炎剤は、単独で投与しても、その他の薬剤と一緒に投与してもよく、投与療程は、医師や医療関係者などにより、薬学上の通常方法により実施される。
【0041】
投与経路は、内服、皮膚投与、腹腔内投与、靜脈内投与、経鼻投与または眼部投与などで、好ましくは、内服方式である。
【0042】
本発明に係る抗肝炎剤は、特に肝炎の発症を予防する健康食品としても利用可能である。設定されるグループに対し、適当な活性成分含量を調整し、好ましくは毎日内服できる含量に調整する。パッケージは、使用量、特定グループ(例えば、妊婦、腎病患者)の使用基準と条件、その他の食品や医薬品との同時内服の注意事項などを表示して、購買者が、医師や薬剤師等の指示や指導がなくても、安心して各自で内服することができるようにすることが好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0044】
なお、抗肝炎効果の評価において、本発明では、公知の肝炎動物モデルや肝線維症動物モデルを採用し、血清中のアラニン・アミノトランスフェラーゼ(ALT)含量、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)含量、およびAST/ALTの比率を測定して評価すると共に、実験動物の肝臓に対して切片観察を実行し、肝線維症等級により評価する。
【0045】
ASTは、アスパラギン酸塩のアミノ基をα−ケトグルタル酸に転移する酵素で、主に肝臓の実質細胞(parenchymal cell)、部分的に心臓、腎臓、肌肉などの組織に存在し、これも肝機能を検出する指標の一つである。肝臓が損傷を受けた場合、ASTは血液中に放出され、血液中のAST値が高くなる。
【0046】
ALTは、アラニンのアミノ基をα−ケトグルタル酸に転移する酵素で、主に、肝臓、少数は心臓、肌肉などの組織に存在し、肝機能検出の指標の一つである。肝臓が損傷を受けた場合、ALTは血液中に放出され、血液中のALT値が高くなる。
【0047】
肝臓疾病中、血液中のALT値の上昇値はAST値の上昇値より高い。よって、AST/ALT比率について、AST/ALT<1の場合は肝臓が炎症状態にあることを示し、AST/ALTが1に接近する時、肝臓は既に肝炎や肝硬変などの症状があることを示す。
【0048】
しかし、血清中のALT値、AST値も、その他の臓器(例えば、心臓)の受損により高くなる。よって、本発明は、Boigketら,1997;Ruwartら,1989に記載されているMetavir scoreに基づき、実験動物の肝臓切片を肝線維症程度に基づいてF0からF4の五等級、即ち、「F0:肝線維症が観察されない」、から、「F4:肝硬変現象がある」まで分け、本発明の抗肝炎剤が具備する抗肝炎の効果を確認した。
【0049】
実施例1 四塩化炭素誘発性慢性肝線維症モデル動物実験
(1) 投与
8週齢の雄性SDラット(BioLASCO社)24匹を任意に8匹ずつ3群に分けた。また、四塩化炭素を24容量%の割合でオリーブオイルへ溶解した。1週間ごとに2回、各ラットへ1.67mL/kgの当該溶液(四塩化炭素換算で0.4mL/kg)を腹腔内注射することにより、慢性肝線維症を誘発した。また、毎日、栄養チューブを用い、以下の試験物質を投与した。なお、シリマリン(silymarin)はマリアアザミ由来の抽出物であり、肝機能の向上効果が期待されている公知化合物である。実験期間は計8週とした。
溶剤対照群:オリーブオイルを10mL/kg
シリマリン投与群:20mg/mLのシリマリン−オリーブオイル溶液を10mL/kg
mangostin投与群:10mg/mLのmangosteen抽出物−オリーブオイル溶液を10mL/kg
なお、上記mangosteen抽出物は、α−mangostinを85%、β−mangostinを10%含むものであった。
【0050】
別途、8週齢の雄性SDラット(BioLASCO社)3匹に対して上記処理を施さず、空白対照群とした。
【0051】
(2) 血液分析
上記各ラットから、四塩化炭素を腹腔内注射する前(WO)、および第2,4,6,8週目に、尾部から約0.3mLの血液を採取した。得られた血液サンプルを室温下で1時間静置した後、凝結させた。次いで、遠心機を使って25℃、6000rpm/分で10分間遠心し、血清を得た。乾燥血液生化学分析装置(KODAK EKTACHEM DT60II)を用い、肝障害の指標となるAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)とALT(アラニン・アミノトランスフェラーゼ)の血清中濃度(単位:U/L)を測定した。ASTの測定結果を表1と図1に、ALTの測定結果を表2と図2に示す。また、ASTとALTの比率(AST/ALT)を算出し、表3と図3に示す。結果は、平均値(mean)±標準差(Standard error;S.E.)で表示する。また、t−testで検定し、溶剤対照群と各群との間に有意な差異があるか否か比較した。p値が0.05より小さい場合、溶剤対照群と各群との間は、統計上、有意な差異があることを示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
(3) 組織包埋切片の作成とコラーゲン染色(Sirius&Fast green染色法)
上記の動物試験終了時、全てのラットを屠殺し、肝臓左葉を約1センチの立方体の組織ブロック状に切り取り、10%の中性ホルマリン中に入れて組織形態と構造を固定した。続いて、異なる濃度のエタノール(30、50、70、95、99.5%)とキシレンにより脱水と透明化を行った。次いで、熱した石ロウ溶液でキシレンを置換した後、組織を石ロウ溶液と共に包埋した。完成した石ロウ標本は、切片機を利用して厚さ5μmの石ロウ切片とした。得られた切片を清潔なスライド上に粘着し、37℃で乾燥した。
【0056】
上記肝臓組織切片をキシレンに3分間浸漬することにより脱ロウした。かかる操作を3回繰り返した。次いで、順に100%、100%、90%、70%および50%のエタノールで、各3分間、復水を行った。続いて、TBST緩衝液(50mM Tris.HCl、150mM NaClおよび0.1%Tween20,pH7.4)に3分間浸漬した後、0.1%のSirius redと0.1%のFast greenを使って1時間染色した。その後、脱水工程を行った。次いで、順に、50%、70%、90%、100%および100%のアルコール中に10秒間ずつ浸漬した後、キシレンを使った透明化を3回行った。最後に、搭載媒体でシールした。
【0057】
染色された肝臓組織切片を、顕微鏡(Olympus DT70−BX51)により、肝線維症の程度評価と写真記録を行った。肝線維症程度評価は、Metavir score(Boigket al.,1997;Ruwart et al.,1989)に基づいて、以下の5段階レベルに評価した。
F0:肝線維症が観察されない
F1:門脈肝線維症(portal liver fibrosis)が観察される
F2:少量の線維隔膜(septa)が観察される
F3:多くの線維隔膜が観察される
F4:肝硬変が観察される
結果を表4と図4に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
実施例2 チオアセトアミド誘発性急性肝炎モデル動物実験
8週齢の雄性SDラット(BioLASCO社)12匹を任意に6匹ずつ2群に分けた。対照群には逆浸透圧水(RO水)を10mL/kg、mangostin投与群には実施例1と同様のmangostinを100mg/kg与えた。別途、チオアセトアミド(以下、「TAA」と略記する)を生理食塩水に溶解した。各投与から1時間後、チオアセトアミド溶液をTAA換算で300mg/kgを腹腔内注射した。
【0060】
TAA注射直前(0時間)、およびTAA注射から24時間後と48時間後に、約0.5ml採血した。得られた血液サンプルを室温下で1時間静置した後、凝結させた。次いで、遠心機を使って25℃、6000rpm/分で10分間遠心し、血清を得た。上記実施例1と同様にして、ASTとALTの血清中濃度を測定した。ASTの測定結果を表5と図5に、ALTの測定結果を表6と図6に示す。また、ASTとALTの比率(AST/ALT)を算出し、表7と図7に示す。さらに、血清中におけるASTとALTの増加倍数を算出し、それぞれ表8と図8および表9と図9に示す。
【0061】
【表5】

【0062】
【表6】

【0063】
【表7】

【0064】
【表8】

【0065】
【表9】

【0066】
結果の考察
表1、表2、図1および図2で示されるように、mangostin投与群の第6週時の血清AST値とALT値は、共に顕著に低下した。反対に、シリマリン投与群の第4週時の血清AST値とALT値は明らかに増加した。
【0067】
また、表3および図3で示されるように、シリマリン投与組の第4週時のAST/ALT比率は明らかに低下し、mangostin投与組の第4週時と6週時のAST/ALT比率は有意に増加した。
【0068】
さらに、表4および図4で示される肝線維症程度に基づくと、mangostinは、慢性肝疾患である肝線維症を顕著に減少させる肝臓保護効果を有することが実証された。
【0069】
次に、表5〜6、表8〜9、図5、図6、図8および図9で示されるように、mangostinを投与した急性肝炎モデルラットの血清中のAST値とALT値は何れも低下の傾向が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分としてキサントン誘導体を含むことを特徴とする抗肝炎剤。
【請求項2】
キサントン誘導体が、下記式(I)で表されるmangostin誘導体である請求項1に記載の抗肝炎剤。
【化1】

[式中、R1とR2は同一であっても異なっていてもよく、それぞれHかC1-6アルキル基を示す]
【請求項3】
mangostin誘導体がα−mangostin、β−mangostin、γ−mangostin、またはそれらの組み合わせである請求項2に記載の抗肝炎剤。
【請求項4】
肝炎が急性肝炎または慢性肝炎である請求項1〜3のいずれかに記載の抗肝炎剤。
【請求項5】
急性肝炎が病毒性肝炎、アルコール性肝炎または薬物性肝炎である請求項4に記載の抗肝炎剤。
【請求項6】
慢性肝炎が肝線維症である請求項4に記載の抗肝炎剤。
【請求項7】
慢性肝炎が肝硬変である請求項4に記載の抗肝炎剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の抗肝炎剤を含むことを特徴とする健康食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−131789(P2012−131789A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−273827(P2011−273827)
【出願日】平成23年12月14日(2011.12.14)
【出願人】(390023582)財団法人工業技術研究院 (524)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】195 Chung Hsing Rd.,Sec.4,Chutung,Hsin−Chu,Taiwan R.O.C
【Fターム(参考)】